説明

マルチピッチねじとマルチピッチナットとの組み合わせ及びマルチピッチナットの製造方法。

【課題】ステップ的に確実に緩み止めができるねじとナットを提供する。また、快適な高速送りが実現でき、かつ、駆動源からのトルクが絶たれた時も、ステップ的にセルフロック機能が働く送りねじ装置を提供する。
【解決手段】マルチピッチねじ10のねじ山12に平坦部12aと斜部12bを交互に設ける。これに螺合するマルチピッチナットのねじ山にも平坦部と斜部を設ける。マルチピッチナットのねじ山は連続したものではなく断続的なものであっても良い。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ねじとナットに関し、一つには部材を締着するねじとナットとしてそれ自体が緩み止めの機能を有するねじとナットに関し、二つには回転運動を直線運動に変換する送りねじ装置であって、セルフロック機能を持つものに関する。
【0002】
【従来の技術】
ねじとナットは機械の基本的な要素であり、従来より種々の提案がなされてきている。その一つは、ねじの緩み止めに関するものである。たとえば、実開昭58−99513号公報(特許文献1)には、雌雄いずれかのねじ山を波形にしたものが提案されている。ねじを螺合したとき波形の突出した部分が弾性変形し、軸方向に強く押圧するので、振動等によるねじの緩みを防ぐというものである。また、特開平6−330928号公報(特許文献2)には、ねじ山が1ピッチ毎に交互に大きいピッチと小さいピッチとになっているねじが提案されている。標準ピッチのナットと螺合することにより、ねじ山のフランクに強く押圧され変形する部分が生じ、それにより、ねじの緩みを防ぐというものである。
【0003】
また、本件発明の発明者の一人である、藤井 洋、は図19に示す、ステップロックボルトを発表している。ボルトのねじ山のフランクに微細なステップ部分と傾斜部分を設け、ボルトのねじ込みに伴う、これらねじ山あるいは相手の部材の塑性変形により、ボルトの緩み止めを達成しようとするものである。これらは後述する非特許文献1乃至3に記載されている。
【0004】
その二つは、送りねじ装置に関するものである。たとえば、実用新案登録第2577786号公報(特許文献3)には、ねじをウォーム減速機付きモータで回転させ、ナット部材を送る自動車パワーシートが開示されている。モータを駆動しないときのロックは、送りねじ自体のセルフロックあるいはウォーム減速機のセルフロックで実現される。また、特許開平5−288253号公報(特許文献4)には、従来の送りねじ装置が3つのカテゴリーに分けて解りやすく解説してある。その第1のグループは、三角ねじ、台形ねじ等のねじ軸とナットとの摺動回転により回転運動を直線運動に変換するものである。その第2のグループは、ボールねじのようにねじ溝に鋼球を多数介在させて動力を伝達するものである。その第3のグループは、リードの大きいねじ軸のねじ山の両方のフランクにローラーを押し当て、そのローラーを支持する部材をナットのように使用するものである。
【0005】
【特許文献1】 実開昭58−99513号公報 登録請求の範囲、第3図。
【特許文献2】 特開平6−330928号公報 特許請求の範囲、図1。
【特許文献3】 実用新案登録第2577786号公報 請求項1の、おいて書き、図1。
【特許文献4】 特開平5−288253号公報 段落番号0002〜段落番号0004、段落番号0014、図1。
【非特許文献1】 Journal of Materials Processing Technology Vol,56, p321-332, "Evaluation of Anti-loosening Nuts for Screw Fasteners" H,Fujii et al. 1996.
【非特許文献2】 日本機械学会論文集、C編、62巻(597号)、p1963−1968、「極端にゆるみにくいねじ締結体の開発」、藤井 洋、他、1996年。
【非特許文献3】 日本機械学会論文集、C編、62巻(596号)、p1527−1532、「ねじ締結体のゆるみ機構の解析とゆるみ試験法の開発」、藤井 洋、他、1996年。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来のねじとナットは、双方の相対的回転が連続的なものであることを前提としている。その一の、部材を締着するねじとナットの緩み止めに関して言えば、ねじの相対的回転位置が1回転360°のどの回転位置にあっても締着でき、かつ、緩み止めができることを前提としている。これは、機能としては好ましいことではあるが、そのために緩み止めのための構造に過酷な負担を強いることになる。このため、ねじを締め付けたときのねじ山の変形部が弾性変形で終わらず塑性変形してしまう場合もある。このことは、一旦、ねじを締め付けてしまうと、再度の締め付け緩み止めができないことを意味する。ここで発想を転換して、締め付ける部材によっては、また、ねじのリードによっては、ねじの相対的回転位置が1回転の連続的ないかなる回転位置でも締め付け緩み止めができなくても、たとえば、20°毎のステップ的な回転位置で締め付け緩み止めができれば充分である部材へのねじナットの用途もあり得る。
【0007】
そこで本発明の第1の目的は、不連続的にしかロックは掛からないものの、部材に過大な応力を掛けることなく、確実に緩み止めができるねじとナットを提供することである。
【0008】
その二の、送りねじ装置に関して言えば、回転運動を直線運動に変換するにあたって、従来の装置は、暗黙の内にその連続性とリニアリティを要求してきた。従来の発明はこれを前提として、さらなる精度を求めたり高速性を求めるものであった。ここで発想を転換して、送りねじ装置の用途によっては、連続性やリニアリティを要求されないものがある。たとえば、自動車のパワーシートにおいてシート位置やシート高さを調整するのに一般的には1mm以下のピッチでの調整は要求されない。また、駆動モータの回転角に対する直線移動のリニアリティも差程要求されない。にもかかわらず、送りねじ装置に連続性とリニアリティを備えたものを使用しているため、送りねじ装置に本来以上の過剰な機能を要求してしまうことになる。
【0009】
たとえば、特許文献3の自動車パワーシート装置では、特許文献4の言う第1のグループに含まれる送りねじ装置を使用している。自動車のパワーシート装置ではシート位置の調整をした後にモータの電源を切り、その位置を保持することが求められる。このため、特許文献3の自動車パワーシート装置では、その図1に示すねじ(9)にリードの小さいねじを用い、ナット(5)との間でセルフロックが掛かるようにしている。このため、モータ(7)に通電していない時でもナット(5)がシートからの荷重で動いてしまうことがない。しかしながら、ねじ(9)のリードが小さいと言うことは、シートを快適に高速で移動させるにためには、ねじ(9)を高速で回転させなければならず、モータ(7)やギヤボックス(8)に掛かる負担が大きくなり、高価なものになってしまう。また、仮に高価なものが許されたとしても、ねじ(9)とナット(5)が摺接する構造では、摩擦のため、ねじ(9)を余り高速で回転させるのは別の不都合が発生する。
【0010】
また、特許文献4の言う第2あるいは第3のグループに含まれるボールねじやローラーねじを用いれば、ねじとナットとの摩擦の問題は解決でき、ねじのリードも大きくとることができ、快適な高速送りが実現できる。しかしながら、これらのねじは摩擦が非常に小さいという利点の裏返しとして、回転運動と直線運動との変換が両方向に働く。つまり、セルフロックはできない。送りモータにサーボモータを使用する工作機械等の送りねじ装置ならともかく、自動車パワーシート装置では、使用しないときはモータの電源を切るようにしているので、何らかのロック機構が必要になる。このため、高価なものになりやすいばかりではなく、ロック機構とボールねじとの間に歯車等の機械機構が介在すると、その間のバックラッシュや歪み等のロストモーションにより座席の座り心地が悪くなる恐れがある。
【0011】
そこで本発明の第2の目的は、快適な高速送りがモータやギヤボックスに負担を掛けることなく実現でき、かつ、駆動源からのトルクが絶たれた時も、連続的ではないものの、セルフロック機能が働く送りねじ装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明のうち第1の実施態様の発明は、ねじのねじ山が、つるまき線に沿って1回転する間にリード角の緩い区間とリード角の急な区間とが交代して、交互に連続するように形成されていることを特徴とするマルチピッチねじ、である。
このように形成すると、ねじ全体の実効的リードはリード角の緩い区間とリード角の急な区間との平均値となる。そして、ねじの緩みに対する対抗力は、軸方向の力によるリード角の緩い区間での相手の部材との摩擦力が支配的になるから、大きな実効的リードを持ちながら、リード角の緩い区間の摩擦力により強い緩み止め作用を奏する。
【0013】
ここで、第2の実施態様の発明のように、前記リード角の緩い区間のリード角が、ゼロ(平坦)であることを特徴とするマルチピッチねじ、とすることができる。
このように形成すると、リード角がゼロの区間では軸方向の力がそのまま摩擦力に変化し、ねじを回そうとする分力が全く働かないから、リード角のゼロの区間の摩擦力がより強くなり、より強い緩み止め作用を奏する。
【0014】
ここで、第3の実施態様の発明のように、前記リード角の急な区間のリード角が、セルフロック角度より急勾配であることを特徴とするマルチピッチねじ、とすることができる。
このように形成すると、ねじの緩み止め作用をリード角の緩い区間で担保しつつ、平均の実効的なリードを大きくとることができる。したがって、僅かな回転でねじを締めたり、螺合するナットを進めたりすることができる。
【0015】
ここで、第4の実施態様の発明のように、前記ねじが、多条ねじであることを特徴とするマルチピッチねじ、とすることができる。
このように形成すると、平均のリードが大きいねじであっても、ねじのピッチを小さくすることができ、条数の分だけねじの緩みに抗する摩擦力を大きくすることができ、それだけ、ねじの緩み止め作用が強くなる。また、平均リードの大きいねじを転造により作成しようとすると、材料の流れに無理が生じ歩留まりが落ちるが、多条ねじであればピッチが小さいので材料の流れに無理が生ぜず、加工が容易になるという効果を奏する。
【0016】
理解を容易にするため、第5乃至第8の実施態様の発明の説明をする前に、ナットの発明である第9乃至第16の実施態様の発明について説明する。ねじとナットは相補的な関係にあり、ねじのねじ山とナットのねじ山は全く等価なものとして相互に変換し得る。つまり、ねじのねじ山として有効な作用効果を及ぼすものは、ナットのねじ山に適用しても同様の作用効果を奏するはずである。第9〜第12の実施態様の発明はそれぞれ上記第1乃至第4の実施態様の発明に対応している。
【0017】
ここで、第9の実施態様の発明は、雌ねじのねじ山が、つるまき線に沿って1回転する間にリード角の緩い区間とリード角の急な区間とが交代して、交互に連続するように形成されていることを特徴とするマルチピッチナット、である。
このように形成すると、ナット全体の実効的リードはリード角の緩い区間とリード角の急な区間との平均値となる。そして、ナットの緩みに対する対抗力は、軸方向の力によるリード角の緩い区間での相手の部材との摩擦力が支配的になるから、大きな実効的リードを持ちながら、リード角の緩い区間の摩擦力により強い緩み止め作用を奏する。
【0018】
ここで、第10の実施態様の発明のように、前記リード角の緩い区間のリード角が、ゼロ(平坦)であることを特徴とするマルチピッチナット、とすることができる。
このように形成すると、リード角がゼロの区間では軸方向の力がそのまま摩擦力に変化し、ナットを回そうとする分力が全く働かないから、リード角のゼロの区間の摩擦力がより強くなり、より強い緩み止め作用を奏する。
【0019】
ここで、第11の実施態様の発明のように、前記リード角の急な区間のリード角が、セルフロック角度より急勾配であることを特徴とするマルチピッチナット、とすることができる。
このように形成すると、ねじの緩み止め作用をリード角の緩い区間で担保しつつ、平均の実効的なリードを大きくとることができる。したがって、僅かな回転でナットを締めたり、螺合するねじを進めたりすることができる。
【0020】
ここで、第12の実施態様の発明のように、前記雌ねじが、多条ねじであることを特徴とするマルチピッチナット、とすることができる。
このように形成すると、平均のリードが大きいねじであっても、ねじのピッチを小さくすることができ、条数の分だけねじの緩みに抗する摩擦力を大きくすることができ、それだけ、ねじの緩み止め作用が強くなる。
【0021】
ところで、第1乃至第4の実施態様のいずれかのねじと、対応する第9乃至第12の実施態様のいずれかのナットを螺合しようとした場合、普通のねじとナットのようにねじのねじ山の幅とナットのねじ溝の幅が等しければ、換言すれば、フランクの両面が相手側のフランクの両面に常に摺接する状態であれば、ねじ山が塑性変形しない限りねじとナットは螺合することができない。したがって、これらのねじとナットでは、ねじ山の幅に比べてねじ溝の幅が広い、換言すれば、各フランクのうち圧力側フランクのみが摺接し、遊び側フランクは完全に他方のフランクから離れていることを前提としている。遊び側のフランク同士に遊びがあったとしても、螺合する途中でねじとナットの間に遊びが生ずるが、締め付けた際には圧力側フランク同士が圧力を持って密着し締結には問題を生じない。螺合途中でのがたが気になるようであれば、ばね等の付勢手段により圧力側フランク同士が常時密着するように付勢しておけばよい。
【0022】
また、上記のねじとナットの組み合わせの場合、両者で他のものを締着して安定な状態となる相対的回転位置は、1回転360°すべての連続的な位置ではなく、ねじのリード角の緩い区間のフランクと、ナットのリード角の緩い区間のフランクが密着できる回転位置のみである。この点が普通のねじナットと大きく異なる特異な点である。リード角の緩い区間のフランク同士の密着により締結されるという、この点に着目すれば、ねじまたはナットのいずれか一方のねじ山は、リード角の緩い区間だけ存在すれば充分であるという結論にたどり着く。リード角の急な区間は他方のねじ山を案内する機能しか持たないからである。そこで、ねじ山の一部を欠いたマルチピッチナットが第13乃至第16の実施態様の発明として提示される。
【0023】
そこで、第13の実施態様の発明のように、前記雌ねじのねじ山が、つるまき線に沿って1回転する間の一部の区間にしか存在せずねじ山の欠損区間を有することを特徴とするマルチピッチナット、とすることができる。
このように形成すると、マルチピッチナットの製作が容易になる。欠損区間部分から工具を出し入れすることができるからである。また、欠損区間部分があるということは、雌ねじのねじ山が一部分しか存在しないと言うことであり、その一部分のにのみ精密なねじ山加工を施せばよいのであるから製作が容易になるという効果を奏する。
【0024】
ここで、第14の実施態様の発明のように、前記雌ねじのねじ山が、ねじの軸線を中心とする回転対称の位置にのみあることを特徴とするマルチピッチナット、とすることができる。
このように形成すると、ねじに掛かるねじ山からの力が対称の取れた状態で掛かり、ねじに掛かる力が偏らないという効果を奏する。たとえば、ねじ山が1つだけでその周長も短いものであれば、必然的に偏った力となりねじやナットを傾かせるような力が働くことになる。これは望ましいことではない。したがって、ねじ山が対称な位置にあれば作用する力も対称の取れたものになる。
また、この発明は、多条ねじ、多条ナットを想定している。たとえば、2条ねじに適用した場合、互いに180°離れた位置にナットのねじ山が存在すれば、ナットのそれぞれのねじ山がねじの異なった条のねじ山のフランクに当接することになり、力のバランスが取り易い。3条ねじであれば、互いに120°離れた位置にナットのねじ山が存在すれば、ナットのそれぞれのねじ山がねじの異なった条のねじ山のフランクに当接することになり、力のバランスが取り易い。
【0025】
ここで、第15の実施態様の発明のように、前記雌ねじのねじ山が、前記リード角がゼロ(平坦)である区間のみからなり、雌ねじのねじ山のフランクが雄ねじのねじ山のリード角がゼロの区間の圧力側フランクに面接触しているとき、雌ねじのねじ山の一端が雄ねじの遊び側フランクの位相のずれた位置(回転角の異なった位置)に線接触するように形成されていることを特徴とするマルチピッチナット、とすることができる。
この実施態様は、図8の(D)、(E)、及び図16を参照すると理解し易いだろう。雌ねじのねじ山が断続的に存在する場合、ねじ山のフランクが圧力側と遊び側との両方に同位相で接触したら、ステップ状のねじは回転することができず螺合することができない。このため、雌ねじのねじ山の幅は雄ねじのねじ溝の幅より小さく作られる。この幅の細い雌ねじのねじ山を位相の遅れる方に延伸させてやれば、雌ねじのねじ山の遊びフランク側の端部が、雄ねじの位相の遅れた位置の遊び側フランクに線接触する。つまり、遊び側フランク同士が線接触ではあるが当接し、雌ねじのねじ山を案内する本来の遊び側フランクの機能を発揮するであろう。
【0026】
したがって、このように形成すると、雌ねじのねじ山の幅が雄ねじのねじ溝の幅より狭くても、また、ステップ状のねじにもかかわらずナットをばね等で付勢しなくても、雌ねじの遊び側フランクの一端が雄ねじの遊び側フランクに摺接し案内するので、雄ねじと雌ねじが、ガタなく螺合することができるという効果を奏する。
【0027】
ここで、第16の実施態様の発明のように、前記雌ねじのねじ山が、前記リード角がゼロ(平坦)である区間とリード角が急な区間とを連続した形状を有し、雌ねじのねじ山のフランクと雄ねじのねじ山のフランクとが接触する位相が、雄ねじの圧力側フランクと遊び側フランクとでは位相のずれた位置(回転角の異なった位置)でそれぞれ面接触するように形成されていることを特徴とするマルチピッチナット、とすることができる。
この実施態様は、図8(A)、(B)、(C)、及び図18を参照すると理解しやすい。ここでは、雌ねじのねじ山の端面が矩形ではなく、リード角が急な区間に対応した斜面を位相のずれた部分(位相の進んだ部分と位相の遅れた部分のいずれか、あるいは、両者)に有している。
【0028】
このように形成すると、雌ねじのねじ山のリード角が急な区間に対応した斜面が、位相の遅れた部分であれば雄ねじの遊び側フランクに摺接し、位相の進んだ部分であれば雄ねじの圧力側フランクに摺接し、ナットを案内する。このため、ステップ状のねじにもかかわらずナットをばね等で付勢しなくても、雄ねじと雌ねじが、ガタなく螺合することができるという効果を奏する。さらに、面接触であるので耐久性が高いという効果を奏する。
【0029】
さて、ねじのねじ山とナットのねじ山は相補性を有し、互いにその機能を交換しても差し支えない。ところで、今までの説明でナットのねじ山を断続的なものとする態様を第13乃至第16の実施態様として説明したが、ナットのねじ山を連続的なものとし、ねじのねじ山を断続的なものとすることも理論的には可能である。そこで、第13乃至第16の実施態様に対応するものとして、第5乃至第8の実施態様を提供する。
【0030】
ここで、第5の実施態様の発明のように、前記ねじのねじ山が、つるまき線に沿って1回転する間の一部の区間にしか存在せずねじ山の欠損区間を有することを特徴とするマルチピッチねじ、とすることができる。
【0031】
ここで、第6の実施態様の発明のように、前記ねじのねじ山が、ねじの軸線を中心とする回転対称の位置にのみあることを特徴とするマルチピッチねじ、とすることができる。
【0032】
ここで、第7の実施態様の発明のように、前記ねじのねじ山が、前記リード角がゼロ(平坦)である区間のみからなり、ねじのねじ山のフランクが雌ねじのねじ山のリード角がゼロの区間の圧力側フランクに面接触しているとき、ねじのねじ山の一端が雌ねじの遊び側フランクの位相のずれた位置(回転角の異なった位置)に線接触するように形成されていることを特徴とするマルチピッチねじ、とすることができる。
【0033】
ここで、第8の実施態様の発明のように、前記ねじのねじ山が、前記リード角がゼロ(平坦)である区間とリード角が急な区間とを連続した形状を有し、ねじのねじ山のフランクと雌ねじのねじ山のフランクとが接触する位相が、雌ねじの圧力側フランクと遊び側フランクとでは位相のずれた位置(回転角の異なった位置)でそれぞれ面接触するように形成されていることを特徴とするマルチピッチねじ、とすることができる。
【0034】
ところで、以上説明してきたマルチピッチねじとマルチピッチナットとを螺合させると、送りねじ装置を構成することができる。送りねじ装置を構成するためには、マルチピッチねじのねじ山とマルチピッチナットのねじ山の両者が連続的であるか、少なくとも一方のねじ山が連続的でなければならない。そこで、マルチピッチねじが連続したねじ山を有し、マルチピッチナットが連続的なねじ山を持つものとマルチピッチナットが断続的なねじ山を持つものを第17の実施態様の発明とし、マルチピッチねじが断続的なねじ山を有し、マルチピッチナットが連続的なねじ山を持つものを第18の実施態様の発明とすることにした。実用的に重要なのは、第17の実施態様の発明のうち、マルチピッチねじが連続したねじ山を有しマルチピッチナットが断続的なねじ山を有するものであると考えている。
【0035】
ここで、第17の実施態様の発明のように、第1乃至第4の実施態様の発明のいずれかに記載されたマルチピッチねじと、第9乃至第16の実施態様の発明のいずれかに記載されたマルチピッチナットとを、組み合わせたことを特徴とする送りねじ装置、とすることができる。
このように形成すると、連続したねじ山を持つマルチピッチねじと、連続的あるいは断続的なねじ山を有するマルチピッチナットが螺合することができ、送りねじ装置を構成することができる。そして、リード角の急な区間の存在により平均的なリードを大きく取り、高速で快適な送りを可能としながら、リード角の緩い区間の当接により断続的ながらセルフロックを可能としている。したがって、自動車のパワーシートの送りねじ装置として特に好適である。
なかでも、第15または第16の実施態様の発明のマルチピッチナットと組み合わせた送りねじ装置は、ナットのねじ山の遊び側フランクが線接触あるいは面接触によりねじの遊び側フランクに絶えず摺接しナットを案内するから、バネ等の付加的な付勢手段を用いなくても、ガタなくスムーズに送ることができるという効果を奏する。
【0036】
ここで、第18の実施態様の発明のように、第5乃至第8の実施態様の発明のいずれかに記載されたマルチピッチねじと、第9乃至第12の実施態様の発明のいずれかに記載されたマルチピッチナットとを、組み合わせたことを特徴とする送りねじ装置と、することができる。第17の実施態様の発明に対してねじとナットを入れ替えた形のねじ送り装置である。
【0037】
さて、ここで、断続的なねじ山を有する雌ねじを構成するマルチピッチナットの製造方法の一つを提案する。すなわち、第19の実施態様の発明のように、雌ねじのねじ溝に相当する穴が明けられ、その穴の周縁から穴の中心に向かって突出した雌ねじのねじ山の一部に相当するねじ山突出部を有する要素板材を形成する要素工程と、その要素板材を積層して一体に固着する積層工程と、を備えることを特徴とするナットを製作するマルチピッチナット製造方法、である。
【0038】
このようにすると、ねじ下穴の明けられたナットブランクから穴の複雑な切削加工をすることなく、ナットを製造することができる。たとえば、最初に、図15に示すような、穴の周縁から穴の中心に向かって突出した雌ねじのねじ山の一部に相当するねじ山突出部を有する要素板材を形成する。図15に示すような要素板材は、ナットブランクの穴の加工ではなく、基本的に板材の加工であるからプレス加工により容易に作成することができる。次に、要素板材を図10に示すようなスペーサーを介して積層し、一体に固着する。固着する手段としては、普通のボルトナットで締着する、溶接する、接着剤で接着する等が考えられる。このように積層することにより、積層しただけの多段の雌ねじのねじ山を持つマルチピッチナットを製造できる。
【0039】
この製造方法によれば、基本的に板材の加工で要素板材が製造できプレス加工等で製造できるものであり、グルービングのような複雑な切削加工を必要としないので、安価に大量にマルチピッチナットを提供できるという優れた効果を奏する。
【0040】
【発明の実施の形態】
本発明の第1の実施の形態について図面を参照し説明する。
図1は、第1の実施の形態のマルチピッチねじ10を示す斜視図である。円柱形状の軸部11に、つるまき線に沿ってねじ山12が形成されている。ねじ山12は台形ねじで、そのフランクには部分的にリード角がゼロすなわち平坦な区間12aとリード角が急な区間12bとが交互に連続する。以後、平坦な区間12aを平坦部12aと、急な区間12bを斜部12bと呼ぶこととする。進み側フランクと同様に、追い側フランクにも平坦部12cと斜部12dが存在する。平坦部12aと斜部12bはつるまき線の一回転を16等分し、1/16回転毎に、すなわち、22.5°毎に平坦部12aと斜部12bが交代する。したがって、ねじの平均的なリード角は斜部12bの傾斜の半分ということになる。
【0041】
図から明らかなように、ねじ山12の幅に比べてねじ溝の幅が異常に大きい形状とされている。これは後述する平坦部と斜部が交代して連続するねじ山を有するナットが螺合できるようにするためである。たとえば、軸部11の径はφ13.7mm、ねじ山12の幅は4mm、ねじ山12の高さは3mm、ねじ溝の幅は12mm、ねじ10の平均的なリードは16mmに形成する。このようなマルチピッチねじ10は転造により容易に製作することができる。
【0042】
図2は、図1に示したマルチピッチねじ10に螺合するマルチピッチナット20を示す斜視図である。マルチピッチナット20は四角ナットであり中央にねじ穴21が明けられている。ねじ穴21にはねじ溝が彫られ雌ねじのねじ山22が形成されている。
【0043】
図3は、図2に示したマルチピッチナット20のねじ山22のみを概念的に抽出して示す正面図である。ねじ山22は台形ねじで、そのフランクには部分的にリード角がゼロすなわち平坦な区間22aとリード角が急な区間22bとが交互に連続する。以後、平坦な区間22aを平坦部22aと、急な区間22bを斜部22bと呼ぶこととする。進み側フランクと同様に、追い側フランクにも平坦部22cと斜部22dが存在する。平坦部22aと斜部22bはつるまき線の一回転を16等分し、1/16回転毎に、すなわち、22.5°毎に平坦部22aと斜部22bが交代する。したがって、雌ねじの平均的なリード角は斜部22bの傾斜の半分ということになる。このリードやピッチは図1に示すマルチピッチねじ10のそれと合わせてある。マルチピッチねじ10とマルチピッチナット20の螺合を可能とするためである。
【0044】
雌ねじの平坦部22a、22c、斜部22b、22dはマルチピッチねじ10のねじ山12の平坦部12a、12c、斜部12b、12dに対応した形状、寸法になっている。ナット20のねじ山22の抽象的な外径(具体的にはねじ溝の内径)はφ20.3mm、ねじ山22の高さは3mmである。ねじ山22の幅は9.4mm、ねじ溝の幅は6.6mmである。ナット20の厚さ(図では高さ)は38.6mmである。ねじ溝の幅(6.6mm)は雄ねじ10のねじ山12の幅(4mm)より大きく設定してある。これは平坦部を有するマルチピッチねじ10とマルチピッチナット20との螺合を可能とするためである。このようなマルチピッチナット20は、下穴を開けたナットブランクに数値制御によるグルービング切削加工を施すことにより作成できる。また、ナットブランクを軸方向に半割にし、半割にしたナットブランクにプレス加工等の加工を施してねじ山22を形成し、その後両者を接合することにして製作しても良い。
【0045】
図4は、図1に示したマルチピッチねじ10に図2に示したマルチピッチナット20を螺合させた状態を示す正面図である。マルチピッチねじ10は図面左側に頭があると想定する。螺合の状態を明確に示すため、マルチピッチナット20は図3に示すねじ山22のみの概念的な抽出物として描いている。図4(A)は、マルチピッチねじ10のねじ山12とマルチピッチナット20のねじ山22とが単に螺合しただけで互いに力を及ぼし合っていない状態を示している。この状態ではマルチピッチねじ10のねじ山12のフランクとマルチピッチナット20のねじ山22のフランクの間に進み側フランク追い側フランク共に間隙を有している。
【0046】
図4(B)は、マルチピッチナット20に図示しないバネ手段により矢印F1方向に付勢力を与えた場合を示している。この場合、マルチピッチナット20のねじ山22の圧力側フランクがマルチピッチねじ10のねじ山12の圧力側フランクに密着し、両ねじ山12、22の遊び側フランクの間には、図示の間隙Lが、発生する。この状態で、マルチピッチナット20に軸方向矢印F1の方向に強い力が作用したとする。この場合、圧力側フランクの斜部同士の当接によりマルチピッチねじ10を回転させようとする分力が発生する。しかし、圧力側フランクの平坦部同士の当接により平坦部にF=μN(μは摩擦係数、Nは軸方向の力)の力Nに比例した摩擦力Fが発生する。摩擦力Fはマルチピッチねじ10を回転させようとする斜部からの分力より絶えず強い。したがって、軸方向矢印F1の方向に強い力が作用したとしてもマルチピッチねじ10が回転させられることはなく、その位置を保つ。すなわち、セルフロックが働く。
【0047】
この状態から、マルチピッチねじ10を僅かに左回転させると、図4(C)の状態になる。この状態では、マルチピッチねじ10及びマルチピッチナット20のねじ山12、22の圧力側フランクのうち斜部が当接から離脱する。しかし、平坦部が当接したままであるので、マルチピッチナット20はその軸方向位置を保持したまま動かない。さらに、マルチピッチねじ10を左回転させると、図4(D)の状態に至る。この状態では、各ねじ山12、22の圧力側フランクのうち平坦部から斜部に切り替わる稜縁で線接触している。不安定な状態ではあるが、この回転位置までマルチピッチナット20は動かない。さらに、マルチピッチねじ10を左回転させると、図4(E)の状態に至る。この状態では、各ねじ山12、22の圧力側フランクのうち斜部同士が当接し平坦部は離脱する。そして、マルチピッチねじ10の回転に従いマルチピッチナット20が軸方向に送られる。なお、この状態では、フランクの斜部の傾斜が急であるためセルフロックは効かない。
【0048】
さらに、マルチピッチねじ10を左回転させると、図4(B)の状態に戻る。もっとも、各ねじ山12、22の圧力側フランクのうち当接する平坦部と斜部は一つずれ、マルチピッチナット20は斜部を挟んで隣接する平坦部の軸方向距離だけ軸方向右に移動したことになる。つまり、マルチピッチねじ10の回転にしたがってマルチピッチナット20が連続的に送られるのではなく、図4(E)の回転位置にあるときだけステップ的に送られる。換言すれば、マルチピッチねじ10の回転にしたがって、マルチピッチナット20は、送られたり停止したりを断続的に繰り返すことになる。なお、マルチピッチねじ10の回転が停止すると、駆動系の反力やマルチピッチナット20を軸方向に付勢するバネの付勢力によって、マルチピッチナット20に掛かる力が安定する図4(B)か図4(C)の平坦部が互いに当接する状態で停止する。そして、この状態ではセルフロックが働く。
【0049】
上記の説明では、図面との関係を見やすくするためマルチピッチねじ10を左回転させマルチピッチナット20を右方向に送る場合について説明したが、マルチピッチねじ10を右回転させマルチピッチナット20を図面左方向に送る場合、締着具であれば締め付ける方向への回転の場合も同様である。右回転の場合は、図4(B)⇒図4(E)⇒図4(D)⇒図4(C)⇒図4(B)の順番で状態が変化する。また、前記の例ではマルチピッチねじ10を回転してマルチピッチナット20を送るものとして説明したが、マルチピッチナット20を回転させるものとしても同様なことが言えることは明らかである。
【0050】
上述の説明では、マルチピッチねじ10の回転にしたがってマルチピッチナット20がステップ的に送られると言ったが、送りねじ装置として使用する場合にはそれが問題とならないケースも多い。たとえば、自動車の座席のパワーシートに適用する場合を想定すると、マルチピッチねじ10は5回転/秒程度の速い回転数で回転駆動される。フランクの平坦部と斜部は1回転を16分割して構成されているから、1秒間に8×5=40回の頻度で送られることになり、実質的には、各ねじ山12、22の斜部と平坦部の平均のリードで滑らかに送られることになる。
【0051】
以上述べた実施の形態では、マルチピッチねじ10とマルチピッチナット20からなる送りねじ装置について説明したが、第2の実施の形態として、マルチピッチねじ10とマルチピッチナット20からなる締着具を想定してみることができる。この場合、締着される物の弾性変形による反力により、マルチピッチナット20には図4(B)矢印F1に示す方向の強い力が掛かる。このため、フランクの斜部と斜部のみが当接する図4(E)や図4(D)の状態では安定に存在し得ず、図4(B)や図4(C)のフランクの平坦部が強く圧接する状態でのみ安定な状態となり得る。この状態ではフランクの平坦部同士の強い圧接により強い耐回転摩擦力が発生し、振動等による緩みのこない、確実な信頼性の高い締め付けが行えるマルチピッチねじとマルチピッチナットを提供することができる。マルチピッチねじ10とマルチピッチナット20を、送りねじ装置ではなく締着具として使用する場合には、マルチピッチねじ10の平均的なリードを16mmに設定するのはリードが大きすぎる。普通ねじのように平均的なリードを2mm程度に設定すれば、2/8mm毎にフランクの平坦部同士が圧接する状態が現れ、実用上締め付け具として差し支えの無いものが提供できる。
【0052】
また、このように平均的なリードを小さくしたマルチピッチねじ10及びマルチピッチナット20は、調整ねじとしての用途もある。平均的なリードの小さいマルチピッチねじ10及びマルチピッチナット20を用い、マルチピッチナット20を機器に固着してマルチピッチねじ10を螺合させるようにすればよい。たとえば、机、テーブル、冷蔵庫等の水平を取るための調整ねじとして用いれば、簡単に調整でき、かつ、狂いのこない調整ねじとして使用できる。
【0053】
以上述べた実施の形態では、マルチピッチナット20の雌ねじのねじ山22はつるまき線に沿った連続的なものであった。このため、平坦部12a,22aと斜部12b、22bとからなる相互のねじ山12、22を螺合させるため、図4(A)に示すようにマルチピッチねじ10のねじ山12とマルチピッチナットのねじ山22との間に隙間(遊び)を設ける必要があった。ところで、マルチピッチナット20に着目してみると、送りねじ装置として使用してセルフロックの効く回転位置での作用と、締着具として使用して締着が効く、すなわち、セルフロックの効く回転位置での作用とを考えれば、図3に示す、マルチピッチナット20のねじ山22の平坦部22aのみが働いており、斜部22bは何の働きもしていないことに気付く。斜部22bはマルチピッチねじ10を回転させているときの案内としてのみ働いているに過ぎない。
【0054】
つまり、マルチピッチナット20のねじ山22として本当に必要なのは平坦部22aだけだという結論に到達する。そこで発想を転換して、マルチピッチナットのねじ山として平坦部のみ残した不連続なものとしても良いはずである。つまり、雌ねじのねじ山が、つるまき線に沿って1回転する間の一部の区間にしか存在せずねじ山の欠損区間を有するもので良い。さらに、ねじ山としての強度が許せば、つるまき線の一回転を16分割した8個の平坦部のすべてが存在しなくても、そのいくつかが残存していればよいことになる。そして、ねじ山の残存部分は、ねじの軸線を中心とする回転対称の位置にのみあることがマルチピッチナットに掛かる力の均衡の面から望ましい。
【0055】
図5は、そのような第2のマルチピッチナット30を示す斜視図である。図5(A)は斜視図、図5(B)は透視して示す斜視図である。第2のマルチピッチナット30は四角ナットであり中央にねじ穴31が明けられている。ねじ穴31の中には5つのねじ山突起32が形成されている。このねじ山突起32は図3に示す雌ねじのねじ山の平坦部22a、22cの一部のみを残したような形になっている。ねじ山突起32は図面左側に3個、右側に2個形成され、左右のねじ山突起32はねじの軸線を中心として互いに180°離れた回転対称な位置に形成されている。各ねじ山32の軸方向位置は1ピッチずつずれている。このようなマルチピッチナット30は、ねじ穴31の下穴にリング状の溝を切削し、その後、内周面を適宜の幅で軸線に沿って切削することにより製作することができる。
【0056】
図6は、この第2のマルチピッチナット30に螺合する異形送りねじ40を示す正面図である。この異形送りねじ40は自動車のパワーシートに用いられるものである。異形送りねじ40は1条ねじのマルチピッチねじで、ねじ山42リードは16mm、ストロークは約200mmである。異形送りねじ40の外径(ねじ山42の外径)はφ20mm、有効径はφ18mm、軸部41の径はφ13.7mmである。
【0057】
図7は、異形送りねじ40のねじ山42の形状及びリードを360°展開して示す展開図である。異形送りねじ40は台形ねじであり、その谷径はφ13.7mm、有効径はφ18.0mm、外径はφ20.0mmである。ねじ山42のピッチ(リード)は16mmである。ねじ山42は円周を16等分し、ねじ山42のリード角がゼロすなわち平坦な区間42a(以下、平坦部42aという)と30°近い急角度な傾斜をなす区間42b(以下、斜部42bという)が交互に来るようにされている。したがって、ねじ山42は1つのピッチを8ステップで通過することになる。
【0058】
図8は、異形送りねじ40と種々のマルチピッチナットとの螺合の状態を示す正面図である。マルチピッチナットはいずれも雌ねじのねじ山が一部の区間にしか存在せずねじ山の欠損区間を有するマルチピッチナットである。各マルチピッチナットはその全体を図示せず、図2に対する図3のように、断続的なねじ山突起部分のみを抽出して描いている。
【0059】
図8(D)は、前述した図5に示した第2のマルチピッチナット30と図6に示した異形送りねじ40との螺合を示している。第2のマルチピッチナット30のねじ山突起32は、その進み側フランクの平坦部32aが異形送りねじ40のねじ山42の平坦部42aより長く、図面で下方に延び、異形送りねじ40の平坦部42aと斜部42bとを併せた長さとされている。つまり、円周の2/16の長さを有する。そして、ねじ山突起32の厚さも厚くされ、進み側フランクの平坦部32aがねじ山42の平坦部42aに摺接している時に追い側フランクの平坦部32cが一つ位相のずれたねじ山42の平坦部42cに接する厚さとされている。ねじ山突起32はこのような矩形とされている。このため、ねじ山突起32の一方の平坦部32aが異形送りねじ40の進み側の平坦部42aにその一部が摺接している回転位置では、ねじ山突起32の他方の平坦部32cの一部が異形送りねじ40の追い側の平坦部42cに摺接する。つまり、第2のマルチピッチナット30が軸方向には停止する回転位置では、面接触で第2のマルチピッチナット30が案内される。
【0060】
ねじ山突起32が異形送りねじ40のねじ山42の斜部42bにさしかかると、ねじ山突起32の平坦部32a、32cの縁、つまり、稜縁がねじ山42の斜部42b、42dに摺接する。つまり、第2のマルチピッチナット30が軸方向に送られる回転位置では、ねじ山突起32の稜縁が斜部42b、42dに線接触して第2のマルチピッチナット30が案内される。したがって、この実施の形態では、線接触を含みながらも異形送りねじ40のねじ山42のフランクとの間に間隙を作ることなく、つまりガタなく、マルチピッチナット30を送ることができる。これは、図4で説明した第1の実施の形態に比べて優れた利点である。
【0061】
図8(E)は、第3のマルチピッチナット50と異形送りねじ40との螺合の状態を示す正面図である。ここでは、マルチピッチナット50のねじ山突起52がつるまき線に沿って90°毎に9個配置されている。個々のねじ山突起52の形状は前述の第2のマルチピッチナット30のねじ山突起32と同じである。したがって、作動は前述の図8(D)で述べたものと同じである。ねじ山突起52の平坦部52a、52cがそれぞれねじ山42の平坦部42a、42cに摺接する。この実施の形態はねじ山突起52の数が多いのでそれだけマルチピッチナット50の強度、耐久性が向上するという利点がある。
【0062】
図8(C)は、第4のマルチピッチナット60と異形送りねじ40との螺合の状態を示す正面図である。ここでは、マルチピッチナット60のねじ山突起62の長さが円周の4/16回転の長さまで伸ばされている。ねじ山突起62は全部で5個ある。各ねじ山突起62は、進み側フランク、追い側フランク共に、3/16回転の長さの平坦部62a、62cと1/16回転の長さの斜部62b、62dを有している。斜部62b、62dは勿論異形送りねじ40の斜部42b、42dに対応したリード角のものである。このような形状にすると、ねじ山突起62の一方の平坦部62aが異形送りねじ40の進み側の平坦部42aにその一部が摺接している回転位置では、ねじ山突起62の他方の平坦部62cの一部が異形送りねじ40の追い側の平坦部42cに摺接する。つまり、第4のマルチピッチナット60が軸方向には停止する回転位置では、面接触で第4のマルチピッチナット60が案内される。
【0063】
ねじ山突起62が異形送りねじ40のねじ山42の斜部42bにさしかかると、ねじ山突起62の斜部62b、62dがねじ山42の斜部42b、42dに摺接する。つまり、第4のマルチピッチナット60が軸方向に送られる回転位置では、ねじ山突起62の斜部62b、62dが異形送りねじ40の斜部42b、42dに面接触して第4のマルチピッチナット60が案内される。僅かに、平坦部62a、62c、42a、42c同士の接触から斜部62b、62d、42b、42d同士の接触に移行する瞬間に線接触が発生する。図8(C)に示す位置である。したがって、この実施の形態では、異形送りねじ40のねじ山42のフランクとの間に間隙を作ることなく、つまりガタなく、マルチピッチナット60を送ることができると共に、瞬間的な回転位置を除いてそのほとんどの回転位置でマルチピッチナット60のねじ山突起62と異形送りねじ40のねじ山42が面接触するので、機械的強度、耐久性に優れているという利点がある。
【0064】
図8(B)は、第5のマルチピッチナット70と異形送りねじ40との螺合の状態を示す正面図である。ここでは、マルチピッチナット70のねじ山突起72の長さが円周の6/16回転の長さまで伸ばされている。ねじ山突起72は全部で5個ある。向こう側の2つのねじ山突起72の端部が一部顔を覗かせている。各ねじ山突起72は、進み側フランク、追い側フランク共に、4/16回転の長さの平坦部72a、72cと2/16回転の長さの斜部72b、72dを有している。斜部72b、72dは勿論異形送りねじ40の斜部42b、42dに対応したリード角のものである。このような形状にすると、一つ一つのねじ山突起72の体積が大きくなるので、機械的強度、耐久性に優れているという利点がある。
【0065】
図8(A)は、第6のマルチピッチナット80と異形送りねじ40との螺合の状態を示す正面図である。ここでは、マルチピッチナット80のねじ山突起82が、異形送りねじ40のねじ山42との摺接に必要な部分のみ残し、残余の部分を削り取った形状をしている。ねじ山突起82は全部で5個ある。各ねじ山突起82は、進み側フランクでは1/16回転の長さの平坦部82aとそれに1位相だけ進んだ1/16回転の長さの斜部82bを有している。追い側フランクでは進み側フランクの平坦部82aから1位相遅れた1/16回転の長さの平坦部82cと、さらに1位相遅れた1/16回転の長さの斜部82dを有している。したがって、ねじ山突起82は菱形をなしている。斜部82b、82dは勿論異形送りねじ40の斜部42b、42dに対応したリード角のものである。このような形状にすると、異形送りねじ40のねじ山42がガタなく面接触することのできるねじ山突起82が最小の容積で実現できる。したがって、ねじ山突起82の周辺に大きな空間が取れ、工作がし易いという利点がある。
【0066】
図9は、図8(C)に示した第4のマルチピッチナット60の要素板材65を示す斜視図である。要素板材65は、所定の板厚の正方形の板材の中央にねじ穴61に相当する穴が明けられ、そのねじ穴61の周縁の一部に1個のねじ山突起62が形成されている。ねじ山突起62には3/16回転の長さの平坦部62aと1/16回転の長さの斜部62bが形成されている。要素板材65の辺部には2つの孔66が形成されている。このような要素板材65は板材をプレス加工することにより容易に精度良く製作できる。
【0067】
図10は、マルチピッチナットの要素であるスペーサー67を示す斜視図である。スペーサー67は所定の板厚の正方形の板材の中央にねじ穴61に相当する穴68が明けられ、辺部には2つの孔69が形成されている。このようなスペーサー67は板材をプレス加工することにより容易に精度良く製作できる。そして、前記の要素板材65を5枚とスペーサー67を4枚取りそろえ、要素板材65の位置を180°ずつ反転させながらスペーサー67を間に挟んで積層し、2つの孔66、69にボルトを挿通しナットで固定することにより第4のマルチピッチナット60が完成する。ボルトナットで締着した後、溶接により固着しても良い。また、2つの孔66、69に位置決めピンを嵌挿し要素板材65、スペーサー67の位置を決めてから各要素板材65、スペーサー67を固着するようにしても良い。
【0068】
図11は、異形送りねじ40のねじ山42と前記のように製作した第4のマルチピッチナット60のねじ山突起62との螺合の様子を展開して示す展開図である。異形送りねじ40のねじ山42のピッチは16mmである。ねじ山42のフランクは台形ねじであるので有効径のところで1回転を展開している。ねじ山42の進み側フランクでは平坦部42aと斜部42bが交代しながら連続する。同様に、追い側フランクでも平坦部42cと斜部42dが交代しながら連続する。これら、ねじ山42の平坦部42a、42c、斜部42b、42dに摺接するように、ねじ山突起62の平坦部62a、62c、斜部62b、62dが面接触で摺接し、ねじ山突起62が案内される。
【0069】
図12は、2条ねじのマルチピッチねじ90を示す斜視図である。異形2条ねじ90は、軸部91とその軸部91の回りにつるまき状に形成された第1のねじ山92と第2のねじ山93を有する。第1のねじ山92と第2のねじ山93は位相を180°異にする。第1のねじ山92の進み側フランクには平坦部92aと斜部92bが交代して連続し、遅れ側フランクにも平坦部92cと斜部92dが交代して連続する。第2のねじ山93の進み側フランクには平坦部93aと斜部93bが交代して連続し、遅れ側フランクにも平坦部93cと斜部93dが交代して連続する。第1のねじ山92の平坦部92a、92c、斜部92b、92dは、それぞれ、第2のねじ山93の平坦部93a、93c、斜部93b、93dと同じ角度位置に来るように形成される。
【0070】
図13は、この異形2条ねじを送りねじに適用した異形2条送りねじ100を示す正面図である。この異形2条送りねじ100は自動車のパワーシートに用いられるものである。異形2条送りねじ100は2条のねじ山102、103を有する異形2条ねじである。各ねじ山102、103リードは16mm、ピッチは8mm、ストロークは約200mmである。異形2条送りねじ100の外径(ねじ山102、103の外径)はφ20mm、有効径はφ18mm、軸部101の径はφ13.7mmである。
【0071】
図14は、異形2条送りねじ100の2条のねじ山102、103の形状及びリードを360°展開して示す展開図である。異形2条送りねじ100は台形ねじであり、その谷径はφ13.7mm、有効径はφ18.0mm、外径はφ20.0mmである。2条のねじ山102、103のリードは16mmであり、ねじ山102、103のピッチは8mmである。2条のねじ山は位相が180°ずれている。第1のねじ山102は円周を16等分し、第1のねじ山102のリード角がゼロすなわち平坦な区間102a(以下、平坦部102aという)と30°近い急角度な傾斜をなす区間102b(以下、斜部102bという)が交互に来るようにされている。同様に、第2のねじ山103も円周を16等分し、第1のねじ山103のリード角がゼロすなわち平坦な区間103a(以下、平坦部103aという)と30°近い急角度な傾斜をなす区間103b(以下、斜部103bという)が交互に来るようにされている。そして、第1のねじ山の平坦部102a、斜部102bは、それぞれ、第2のねじ山の平坦部103a、斜部103bと同じ角度位置に来るようにされている。各ねじ山102、103は1つのリードを8ステップで通過することになる。
【0072】
図15は、このような異形2条送りねじ100に螺合する異形2条ナット要素板材110を示す斜視図である。異形2条ナット要素板材110は、所定の板厚の正方形の板材の中央にねじ穴111に相当する穴が明けられ、そのねじ穴111の周縁の180°対向する位置に2つのねじ山突起112、113が形成されている。2つのねじ山突起112,113はそれぞれ、2/16回転の長さを有し、台形のフランクからなる平坦部112a,113aが形成されている。異形2条ナット要素板材110の辺部には2つの孔115が形成されている。このような異形2条ナット要素板材110は板材をプレス加工することにより容易に精度良く製作できる。このような異形2条ナット要素板材110を図10に示したスペーサー67と組み合わせ、複数枚積層して異形2条ナットとしても良く、また、異形2条ナット要素板材110単体で異形2条ナットとしても良い。2つの孔115は積層する際の位置決めピンの孔として、あるいは、締着ボルトの挿通孔として用いられる。
【0073】
図16は、上記の異形2条ナット要素板材110からなる異形2条ナットと、異形2条送りねじ100との螺合の様子を展開して示す展開図である。異形2条送りねじ100のねじ山102、103のピッチは8mm、リードは16mmである。各ねじ山102、103のフランクは台形ねじであるので有効径のところで1回転を展開している。2条ねじであるので第1のねじ山102と第2のねじ山103とが図面高さ方向で交互に現れる。第1のねじ山102の進み側フランクでは平坦部102aと斜部102bが交代しながら連続し、追い側フランクでも平坦部102cと斜部102dが交代しながら連続する。同様に、第2のねじ山103の進み側フランクでは平坦部103aと斜部103bが交代しながら連続し、追い側フランクでも平坦部103cと斜部103dが交代しながら連続する。
【0074】
異形2条ナット要素板材110の2つのねじ山突起112、113が、図面上で同じ高さで180°位相のずれた位置に配置される。2つのねじ山突起112、113は長さが2/16回転の矩形をしている。そして、第1のねじ山突起112は、進み側の平坦部112aが第2のねじ山103の進み側の平坦部103aに面接触し、追い側の平坦部112cが第1のねじ山102の追い側の平坦部102cに面接触して案内される。斜部102d、103bにおいては、第1のねじ山突起112の平坦部112a、112cの端縁の稜縁がそれぞれ斜部102d、103bに線接触して案内される。第2のねじ山突起113も同様に、進み側の平坦部113aが第1のねじ山102の進み側の平坦部102aに面接触し、追い側の平坦部113cが第2のねじ山103の追い側の平坦部103cに面接触して案内される。斜部102b、103dにおいては、第2のねじ山突起113の平坦部113a、113cの端縁の稜縁がそれぞれ斜部102b、103dに線接触して案内される。
【0075】
したがって、本実施の形態はガタなく異形2条ナット要素板材110が案内されるという利点がある。さらに、同じ高さで180°位置のずれた対称の位置にある2つのねじ山突起112、113で異形2条送りねじ100からの力を受けるので、バランスが良いという利点がある。
【0076】
図17は、第2の異形2条ナット要素板材120を示す斜視図である。第2の異形2条ナット要素板材120は、所定の板厚の正方形の板材の中央にねじ穴121に相当する穴が明けられ、そのねじ穴121の周縁の180°対向する位置に2つのねじ山突起122、123が形成されている。2つのねじ山突起122,123はそれぞれ、4/16回転の長さを有し、台形のフランクからなる平坦部122a,123aと斜部122b、123bが形成されている。この斜視図からは見えないが、裏側にも平坦部122c、123cと斜部122d、123dが形成されている。第2の異形2条ナット要素板材120の辺部には2つの孔125が形成されている。このような第2の異形2条ナット要素板材120は板材をプレス加工することにより容易に精度良く製作できる。このような異形2条ナット要素板材120を図10に示したスペーサー67と組み合わせ、複数枚積層して異形2条ナットとしても良く、また、異形2条ナット要素板材120単体で異形2条ナットとしても良い。2つの孔125は積層する際の位置決めピンの孔として、あるいは、締着ボルトの挿通孔として用いられる。
【0077】
図18は、上記第2の異形2条ナット要素板材120からなる異形2条ナットと、異形2条送りねじ100との螺合の様子を展開して示す展開図である。異形2条送りねじ100については前に図16で説明したのと同じであるから、同じ符号を附して説明を省略する。第2の異形2条ナット要素板材120の2つのねじ山突起122、123が、図面上で同じ高さで180°位相のずれた位置に配置される。2つのねじ山突起122、123は長さが4/16回転の略平行四辺形をしている。そして、第1のねじ山突起122は、進み側の平坦部122aが第2のねじ山103の進み側の平坦部103aに面接触し、追い側の平坦部122cが第1のねじ山102の追い側の平坦部102cに面接触して案内される。さらに、第1のねじ山突起122の位相遅れの斜部122bは第2のねじ山103の斜部103bに案内され、第1のねじ山突起122の位相進みの斜部122dは第1のねじ山102の斜部102dに案内され、斜部においても面接触で案内される。
【0078】
同様に、第2のねじ山突起123は、進み側の平坦部123aが第1のねじ山102の進み側の平坦部102aに面接触し、追い側の平坦部123cが第2のねじ山103の追い側の平坦部103cに面接触して案内される。さらに、第2のねじ山突起123の位相遅れの斜部123bは第1のねじ山102の斜部102bに案内され、第2のねじ山突起123の位相進みの斜部123dは第2のねじ山103の斜部103dに案内され、斜部においても面接触で案内される。
【0079】
したがって、本実施の形態は、ガタなく第2の異形2条ナット要素板材120が案内されるという利点、さらに、同じ高さで180°位置のずれた対称の位置にある2つのねじ山突起122、123で異形2条送りねじ100からの力を受けるので、バランスが良いという利点、に加えて、第2の異形2条ナット要素板材120のねじ山突起122、123が面接触で異形2条送りねじ100のねじ山102、103に案内されるので、機械的強度が強いと共に摩耗にも強いという利点がある。
【0080】
以上述べた実施の形態では、平坦部の区間をリード角がゼロである平坦な区間として説明したが、この区間のリード角をゼロとはせず、セルフロック角より緩やかな勾配を持つ区間としても同様の作用効果を奏することは明らかである。また、送りねじ装置として説明したが、締め付け具として使用しても、ステップ的に強力な緩み止め作用を奏することは明らかである。
【0081】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明は、不連続的にしかロックは掛からないものの、部材に過大な応力を掛けることなく、ステップ的に確実に緩み止めができるねじとナットを提供することができるという優れた効果がある。また、快適な高速送りがモータやギヤボックスに負担を掛けることなく実現でき、かつ、駆動源からのトルクが絶たれた時も、連続的ではないものの、ステップ的にセルフロック機能が働く送りねじ装置を提供することができるという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施の形態のマルチピッチねじを示す斜視図である。
【図2】図1に示したマルチピッチねじに螺合するマルチピッチナットを示す斜視図である。
【図3】図2に示したマルチピッチナットのねじ山のみを概念的に抽出して示す正面図である。
【図4】図1に示したマルチピッチねじに図2に示したマルチピッチナットを螺合させた状態を示す正面図である。
【図5】第2のマルチピッチナットを示す斜視図である。
【図6】第2のマルチピッチナットに螺合する異形送りねじを示す正面図である。
【図7】異形送りねじのねじ山の形状及びリードを360°展開して示す展開図である。
【図8】異形送りねじと種々のマルチピッチナットとの螺合の状態を示す正面図である。
【図9】第4のマルチピッチナットの要素板材を示す斜視図である。
【図10】マルチピッチナットの要素であるスペーサーを示す斜視図である。
【図11】異形送りねじのねじ山と第4のマルチピッチナットのねじ山突起との螺合の様子を展開して示す展開図である。
【図12】2条ねじのマルチピッチねじを示す斜視図である。
【図13】異形2条ねじを送りねじに適用した異形2条送りねじを示す正面図である。
【図14】異形2条送りねじの2条のねじ山の形状及びリードを360°展開して示す展開図である。
【図15】異形2条送りねじに螺合する異形2条ナット要素板材を示す斜視図である。
【図16】異形2条ナット要素板材からなる異形2条ナットと、異形2条送りねじとの螺合の様子を展開して示す展開図である。
【図17】第2の異形2条ナット要素板材を示す斜視図である。
【図18】第2の異形2条ナット要素板材からなる異形2条ナットと、異形2条送りねじとの螺合の様子を展開して示す展開図である。
【図19】従来技術であるステップロックボルトを示す正面図である。
【符号の説明】
10 マルチピッチねじ
12 ねじ山
12a 平坦部
12b 斜部
12c 平坦部
12d 斜部
20 マルチピッチナット
21 ねじ穴
22 ねじ山
22a 平坦部
22b 斜部
22c 平坦部
22d 斜部
30 第2のマルチピッチナット
40 異形送りねじ
50 第3のマルチピッチナット
60 第4のマルチピッチナット
65 要素板材
67 スペーサー
70 第5のマルチピッチナット
80 第6のマルチピッチナット
90 異形2条ねじ
100 異形2条送りねじ
110 異形2条ナット要素板材
120 第2の異形2条ナット要素板材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじのねじ山が、つるまき線に沿って1回転する間にリード角の緩い区間とリード角の急な区間とが交代して、交互に連続するように形成されていることを特徴とするマルチピッチねじ。
【請求項2】
前記リード角の緩い区間のリード角が、ゼロ(平坦)であることを特徴とする請求項1記載のマルチピッチねじ。
【請求項3】
前記リード角の急な区間のリード角が、セルフロック角度より急勾配であることを特徴とする請求項1記載のマルチピッチねじ。
【請求項4】
前記ねじが、多条ねじであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のマルチピッチねじ。
【請求項5】
前記ねじのねじ山が、つるまき線に沿って1回転する間の一部の区間にしか存在せずねじ山の欠損区間を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のマルチピッチねじ。
【請求項6】
前記ねじのねじ山が、ねじの軸線を中心とする回転対称の位置にのみあることを特徴とする請求項5記載のマルチピッチねじ。
【請求項7】
前記ねじのねじ山が、前記リード角がゼロ(平坦)である区間のみからなり、ねじのねじ山のフランクが雌ねじのねじ山のリード角がゼロの区間の圧力側フランクに面接触しているとき、ねじのねじ山の一端が雌ねじの遊び側フランクの位相のずれた位置(回転角の異なった位置)に線接触するように形成されていることを特徴とする請求項5または6に記載のマルチピッチねじ。
【請求項8】
前記ねじのねじ山が、前記リード角がゼロ(平坦)である区間とリード角が急な区間とを連続した形状を有し、ねじのねじ山のフランクと雌ねじのねじ山のフランクとが接触する位相が、雌ねじの圧力側フランクと遊び側フランクとでは位相のずれた位置(回転角の異なった位置)でそれぞれ面接触するように形成されていることを特徴とする請求項5または6に記載のマルチピッチねじ。
【請求項9】
雌ねじのねじ山が、つるまき線に沿って1回転する間にリード角の緩い区間とリード角の急な区間とが交代して、交互に連続するように形成されていることを特徴とするマルチピッチナット。
【請求項10】
前記リード角の緩い区間のリード角が、ゼロ(平坦)であることを特徴とする請求項9記載のマルチピッチナット。
【請求項11】
前記リード角の急な区間のリード角が、セルフロック角度より急勾配であることを特徴とする請求項9記載のマルチピッチナット。
【請求項12】
前記雌ねじが、多条ねじであることを特徴とする請求項9乃至11のいずれかに記載のマルチピッチナット。
【請求項13】
前記雌ねじのねじ山が、つるまき線に沿って1回転する間の一部の区間にしか存在せずねじ山の欠損区間を有することを特徴とする請求項9乃至12のいずれかに記載のマルチピッチナット。
【請求項14】
前記雌ねじのねじ山が、ねじの軸線を中心とする回転対称の位置にのみあることを特徴とする請求項13記載のマルチピッチナット。
【請求項15】
前記雌ねじのねじ山が、前記リード角がゼロ(平坦)である区間のみからなり、雌ねじのねじ山のフランクが雄ねじのねじ山のリード角がゼロの区間の圧力側フランクに面接触しているとき、雌ねじのねじ山の一端が雄ねじの遊び側フランクの位相のずれた位置(回転角の異なった位置)に線接触するように形成されていることを特徴とする請求項13または14に記載のマルチピッチナット。
【請求項16】
前記雌ねじのねじ山が、前記リード角がゼロ(平坦)である区間とリード角が急な区間とを連続した形状を有し、雌ねじのねじ山のフランクと雄ねじのねじ山のフランクとが接触する位相が、雄ねじの圧力側フランクと遊び側フランクとでは位相のずれた位置(回転角の異なった位置)でそれぞれ面接触するように形成されていることを特徴とする請求項13または14に記載のマルチピッチナット。
【請求項17】
請求項1乃至4のいずれかに記載されたマルチピッチねじと、請求項9乃至16のいずれかに記載されたマルチピッチナットとを、組み合わせたことを特徴とする送りねじ装置。
【請求項18】
請求項5乃至8のいずれかに記載されたマルチピッチねじと、請求項9乃至12のいずれかに記載されたマルチピッチナットとを、組み合わせたことを特徴とする送りねじ装置。
【請求項19】
雌ねじのねじ溝に相当する穴が明けられ、その穴の周縁から穴の中心に向かって突出した雌ねじのねじ山の一部に相当するねじ山突出部を有する要素板材を形成する要素工程と、
その要素板材を積層して一体に固着する積層工程と、
を備えることを特徴とする請求項13乃至16のいずれかに記載のナットを製作するマルチピッチナット製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2007−16797(P2007−16797A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−346891(P2002−346891)
【出願日】平成14年11月29日(2002.11.29)
【出願人】(000143639)株式会社今仙電機製作所 (258)
【出願人】(598091860)財団法人名古屋産業科学研究所 (23)
【Fターム(参考)】