説明

ミクロフィブリル化植物繊維及びその製造方法、並びにそれを用いた成形材料、及び樹脂成形材料の製造方法

【課題】ビーズミルを用いて植物繊維を効率よく微細化することにより、例えば射出成形後において弾性率の異方性が小さい樹脂成形材料に用いられるミクロフィブリル化植物繊維の製造方法、及び該製造方法により得られる樹脂成形材料を提供し、また、該製造方法により得られるミクロフィブリル化植物繊維と樹脂とを混合することによって得られる弾性率の異方性が小さい成形材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】(1)植物繊維及び水を含む懸濁液を調製する工程、及び(2)工程(1)により得られる懸濁液、及びビーズをビーズミルに入れ、解繊する工程を含む、ミクロフィブリル化植物繊維の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミクロフィブリル化植物繊維の製造方法、及び該製造方法によって得られるミクロフィブリル化植物繊維、並びに該ミクロフィブリル化植物繊維を含む成形材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂の強度等の物性を向上させるため、充填剤を用いて樹脂を強化することが知られており、この中でもガラス繊維は優れた機械的物性を示すことから幅広い分野で使用されている。しかし、ガラス繊維は機械的物性に優れる半面、比重が高いため、得られた成形材料が重くなることや、廃棄時に多量の残渣が生じるといった問題がある。一方、木材や草本等から得られるセルロース繊維をミクロフィブリル化して、繊維径がナノオーダーにまで微細化されたミクロフィブリル化植物繊維(ナノファイバー)は、軽くて高強度であることが知られている。
【0003】
近年、このミクロフィブリル化植物繊維や微細セルロース繊維を効率的に製造する方法や得られたミクロフィブリル化植物繊維を用いて、軽量かつ高強度な樹脂成形材料を得る試みがなされている(例えば、特許文献1〜6)。
【0004】
例えば、特許文献1にはホモジナイザー(高圧ホモジナイザー等)を用いて特定の繊維長を有するセルロース繊維をミクロフィブリル化して、繊維径が小さくても繊維長が長く、保水性等に優れた微小繊維状セルロースが得られることが開示されている。
【0005】
特許文献2の実施例では、直径が10mm、又は20mmのジルコニアボールを用いたボールミルにより、セルロース繊維を微細繊維状とする技術が記載されている。得られた微細繊維状セルロースは後工程で、加水分解により高収率で糖を製造できるという効果を奏するものであるが、粒子径の大きいボールをセルロース繊維の粉砕媒体として用いた場合、ボール間の空隙が大きいために解繊中に繊維が容易にボール間の空隙をすり抜けてしまい、ミクロフィブリル化する際に多大な時間を要する。また、粉砕に用いるボールが大きいと繊維と衝突した際の衝突エネルギーが大きいために、セルロースの結晶の破壊が起こりやすく、糖化効率の面では非常に効果が高いものの複合材料を製造した場合複合材料の強度が落ちるという問題があった。
【0006】
上記特許文献1〜2の様に、従来の機械的処理でミクロフィブリル化植物繊維を得る場合、植物繊維の全てをミクロフィブリル化するためには多量のエネルギーを要するのみならず、その過程で繊維の切断等も生じる。そのため、ミクロフィブリル化植物繊維が本来もつ性能を十分には引き出せていなかった。
【0007】
一方、機械処理に化学処理を組み合わせることで、過度にせん断力をかけないことにより切断等のダメージを抑えつつナノファイバー化する試みや、植物繊維に含まれるリグニンの疎水性を生かして高強度な樹脂複合材料を得る試みも行われている。
【0008】
例えば、特許文献3では天然セルロース原料に2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)のようなオキシル化合物を、共酸化剤とともに反応させセルロースのC6位の一級水酸基の一部をアルデヒド、及びアルデヒドを経由してカルボキシル基にまで酸化させることで静電反発により比較的軽度な機械的処理により数平均繊維径が150nm以下の微細セルロース繊維が得られることが開示されている。しかし、得られた微細セルロース繊維は非常に親水性が高い為、疎水性の高い樹脂との複合化には不向きである。
【0009】
特許文献4ではセルロースの水酸基の一部に無水マレイン酸や、無水コハク酸等の多塩基酸無水物をハーフエステル化してカルボキシル基を導入した後、高圧ホモジナイザー処理、ニーダー、多軸押出し機等による微細繊維化処理によりナノ繊維を得る方法、及びそのナノ繊維と樹脂からなる複合材料について開示されている。しかしながら、具体的にビーズミルで微細繊維化処理すること並びに酸ハロゲン化物によるエステル化又はアルキル、又はアルケニル無水コハク酸を用いてハーフエステル化することについては記載がない。また、明細書中で、多塩基酸無水物はセルロースに負電荷を導入することで解繊時の静電反発と解繊後の再凝集を防ぐと説明されているものの、生成したカルボキシル基を中和するとの記載はないことから、解繊の際は中和等の処理がなされていないと思われる。未中和のカルボキシル基のままだと静電反発効果が小さいばかりか、高せん断力をかけた際に酸加水分解によるセルロース繊維の切断が起こりやすいとの問題がある。また、高圧ホモジナイザーやニーダー等で完全にナノ解繊する為には、繰り返し処理(マルチパス)する必要があり生産性の観点から好ましくない。
【0010】
特許文献5においては、酵素処理、又は薬品処理により前処理した繊維状セルロースを粉砕媒体であるビーズやボールを用いた振動ミル粉砕機によって、水保水力の高い微細繊維状セルロースを製造する方法が記載されており、実際に使用される粉砕媒体としては、ガラスビーズを用いている。このような粉砕に用いられるガラスビーズは、ジルコニアやアルミナ等を用いたビーズと比べて硬度が低く、材質として脆いため、セルロースを解繊する際に、ガラスビーズ自体が容易に破砕、摩耗していくという問題があった。
【0011】
特許文献6では、ミクロフィブリル化の好ましい手段としてリグニン含有のパルプを石臼式磨砕機(グラインダー)や二軸押出し機によるグラインダーによって解繊処理を施す旨提案しているが、グラインダーでのせん断による発熱が著しく、処理量を下げなければせん断熱によるセルロースの結晶破壊を容易におこすため、生産性において問題があった。また、高リグニン含有のパルプを複合材料として用いた場合、疎水性であるポリプロピレン等の樹脂中に分散するためにはリグニンのみでは十分な疎水性が付与されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−231438号公報
【特許文献2】特開2008−274247号公報
【特許文献3】特開2008−1728号公報
【特許文献4】特開2009−293167号公報
【特許文献5】特開平6−10288号公報
【特許文献6】特開2009−19200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、ビーズミルを用いて植物繊維を効率よく微細化することにより、例えば射出成形後においても弾性率の異方性が小さい成形材料を得ることのできる樹脂成形材料用として用いられるミクロフィブリル化植物繊維の製造方法、及び該製造方法により得られる樹脂成形材料を提供することを目的とする。また、該製造方法により得られるミクロフィブリル化植物繊維と樹脂とを混合することによって得られる弾性率の異方性が小さい成形材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の通り、木材パルプ等の植物繊維からミクロフィブリル化植物繊維を製造するにあたり、出発原料や解繊方法を工夫してナノファイバー化を促進したり、原料繊維に化学処理を施して保水性を高めたりすることが知られている。しかしながら、ミクロフィブリル化植物繊維ほどに高度に微細化した繊維の場合、解繊方法や化学処理の方法によって、繊維の分散性や表面の損傷程度等が異なり、これらがミクロフィブリル化植物繊維のシートや樹脂複合体とした時の強度等の物性に大きな違いを与える。
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、植物繊維の解繊方法としてビーズミルを用いた場合において、得られるミクロフィブリル化植物繊維の比表面積が飛躍的に向上し、樹脂との混合によって得られる樹脂成形材料の強度、弾性率が向上すると共に、射出成形物を作製した場合その強度・弾性率の異方性の小さくなることを見出した。
【0016】
本発明はこのような知見に基づき、さらに鋭意検討を重ねて完成した発明である。すなわち、本発明は下記項1〜11に示すミクロフィブリル化植物繊維、その製造方法、及び該ミクロフィブリル化植物繊維を含む樹脂成形材料を提供する。
【0017】
項1.ミクロフィブリル化植物繊維の製造方法において、
(1)植物繊維及び水を含む懸濁液を調製する工程、及び
(2)工程(1)により得られる懸濁液、及びビーズをビーズミルに入れ、解繊する工程を有することを特徴とするミクロフィブリル化植物繊維の製造方法。
【0018】
項2.項1に記載の植物繊維が、疎水化変性植物繊維であるミクロフィブリル化植物繊維の製造方法。
【0019】
項3.疎水化変性植物繊維が、(A)酸ハロゲン化物によるエステル化反応、又は
(B)アルキル、若しくはアルケニル無水コハク酸でハーフエステル化した後に、生成したカルボキシル基の一部、若しくは全てを中和する反応により得られるものである項2に記載のミクロフィブリル化植物繊維の製造方法。
【0020】
項4.ビーズがアルミナ、ジルコニア又はシリカ系セラミックビーズであり、かつその粒径が、0.1〜2mmである項1〜3のいずれかに記載のミクロフィブリル化植物繊維の製造方法。
【0021】
項5.項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られるミクロフィブリル化植物繊維。
【0022】
項6.比表面積が70〜200m/gである項5に記載のミクロフィブリル化植物繊維。
【0023】
項7.項5又は6に記載のミクロフィブリル化植物繊維と樹脂を含む樹脂成形材料。
【0024】
項8.樹脂が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂である項7に記載の樹脂成形材料。
【0025】
項9.項5又は6に記載のミクロフィブリル化植物繊維と樹脂とを複合化する工程を含む樹脂成形材料の製造方法。
【0026】
項10.ミクロフィブリル化植物繊維がシート状であって、熱硬化性樹脂を含む溶液中に含浸させる工程を含む項9に記載の樹脂成形材料の製造方法。
【0027】
項11.項7又は8に記載の樹脂成形材料を硬化してなる成形物。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、ビーズミルによって植物繊維を効率よく微細化することができ、比表面積の非常に大きいミクロフィブリル化植物繊維を製造することができる。そのため、例えば、射出成形後においても弾性率の異方性が小さい成形材料用として用いられるミクロフィブリル化植物繊維が得られる。また、該植物繊維を疎水変性した場合、樹脂との密着性がさらに優れ、かつ比表面積が大きいことからミクロフィブリル化植物繊維間のネットワーク強度も優れたものとなる。そのため、該ミクロフィブリル化植物繊維と樹脂を混合した場合に、弾性率及び強度において優れた成形材料が得られるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1において得られたミクロフィブリル化植物繊維の顕微鏡写真(100倍)である。
【図2】実施例2において得られたミクロフィブリル化植物繊維の顕微鏡写真(100倍)である。
【図3】実施例3において得られたミクロフィブリル化植物繊維の顕微鏡写真(100倍)である。
【図4】実施例4において得られたミクロフィブリル化植物繊維の顕微鏡写真(100倍)である。
【図5】実施例5において得られたミクロフィブリル化植物繊維の顕微鏡写真(100倍)である。
【図6】比較例1において得られたミクロフィブリル化植物繊維の顕微鏡写真(100倍)である。
【図7】比較例2において得られたミクロフィブリル化植物繊維の顕微鏡写真(100倍)である。
【図8】比較例3において得られたミクロフィブリル化植物繊維の顕微鏡写真(100倍)である。
【図9】比較例6のミクロフィブリル化前のオクタノイル変性された植物繊維の顕微鏡写真(100倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本願発明のミクロフィブリル化植物繊維、及びその製造方法、並びに樹脂成形材料及びその製造方法について、詳述する。
【0031】
本発明のミクロフィブリル化植物繊維は、植物繊維を、ビーズミルを用いて解繊することによって得られることを特徴とするものである。
【0032】
本発明のミクロフィブリル化植物繊維としては、以下の工程(1)及び(2)を含む工程を備えた方法により製造することができる。
【0033】
工程(1):植物繊維及び水を含む懸濁液を調製する工程。
【0034】
工程(2):工程(1)により得られる懸濁液、及びビーズをビーズミルに入れ、解繊する工程。
【0035】
工程(1)において、懸濁液中に含まれる植物繊維の固形分濃度としては、0.3〜2重量%程度が好ましく、0.5〜1.8重量%程度がより好ましく、0.7〜1.5重量%程度がさらに好ましい。懸濁液中に含まれる植物繊維の含有割合が、0.3重量%未満であると、生産性が低下する上にビーズ同士の衝突によるビーズの摩耗が起こるため好ましくない。一方、植物繊維の固形分濃度が、2重量%を超えると、粘度上昇による作業効率の低下、ビーズミルベッセル内での詰まり等が生じる傾向がある。
【0036】
工程(1)において懸濁液を調製する際に用いられる分散媒としては、水を必須成分とするが、その他の任意成分を含む混合分散媒としてもよい。任意成分として含まれる水以外の分散媒としては、具体的にはメタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール等の炭素数1〜4のアルコール等が挙げられる。
【0037】
工程(1)において、原料となる植物繊維を含有する材料(植物繊維含有材料)としては、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、綿、ビート、農産物残廃物、布といった天然植物繊維原料から得られるパルプ、マーセル化を施したセルロース繊維、レーヨンやセロファン等の再生セルロース繊維等が挙げられる。特に、パルプが好ましい原材料として挙げられる。
【0038】
前記パルプとしては、植物原料を化学的、若しくは機械的に、又は両者を併用してパルプ化することで得られるケミカルパルプ(クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP))、セミケミカルパルプ(SCP)、セミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、及びこれらの植物繊維を主成分とする脱墨古紙パルプ、段ボール古紙パルプ、雑誌古紙パルプが好ましいものとして挙げられる。これらの原材料は、必要に応じ、脱リグニン、又は漂白を行い、当該植物繊維中のリグニン量を調整することができる。
【0039】
これらのパルプの中でも、繊維の強度が強い針葉樹由来の各種クラフトパルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(以下、NUKPということがある)、針葉樹酸素晒し未漂白クラフトパルプ(以下、NOKPということがある)、針葉樹漂白クラフトパルプ(以下、NBKPということがある))が特に好ましい。
【0040】
原料となる植物繊維は主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンから構成される。植物繊維含有材料中のリグニン含有量は、通常0〜40重量%程度、好ましくは0〜10重量%程度である。リグニン含有量の測定は、Klason法により測定することができる。
【0041】
また、原料となる植物繊維としては、植物繊維を構成するセルロース繊維のグルコース単位の水酸基を一部変性した変性植物繊維を用いてもよい。変性植物繊維としては、(i)疎水化剤によって変性された疎水化変性植物繊維、(ii)アニオン化剤によって変性されたアニオン変性植物繊維、又は(iii)カチオン化剤によって変性されたカチオン変性植物繊維等が挙げられるが、樹脂との親和性を上げるという観点から疎水化変性植物繊維が好ましい。
【0042】
(i)疎水化変性植物繊維
植物繊維を疎水化変性する疎水化変性反応としては、公知の方法により行うことができるが、酸ハロゲン化物によるエステル化、又は「アルキル、又はアルケニル無水コハク酸」によるハーフエステル化後に、生成したカルボン酸の一部、又は全部を金属水酸化物等のアルカリで中和することが好ましい。
【0043】
前記「酸ハロゲン化物」としては、炭素数4〜18の酸クロライド、具体的には、ブチリルクロライド、ヘキサノイルクロライド、オクタノイルクロライド、デカノイルクロライド、ドデカノイルクロライド、ステアロイルクロライド、オレオイルクロライド等のアルキル基又はアルケニル基を有する酸クロライド、ベンジルクロライド等の芳香環を有する酸クロライドが例示され、これらは1種類、又は2種類以上を併用して用いることができる。
【0044】
前記「アルキル、又はアルケニル無水コハク酸」としては、炭素数4〜20のオレフィン由来の骨格と無水マレイン酸骨格を持つ化合物が例示される。具体的にはオクチル無水コハク酸、ドデシル無水コハク酸、ヘキサデシル無水コハク酸、オクタデシル無水コハク酸等のアルキル無水コハク酸、ペンテニル無水コハク酸、ヘキセニル無水コハク酸、オクテニル無水コハク酸、デセニル無水コハク酸、ウンデセニル無水コハク酸、ドデセニル無水コハク酸、トリデセニル無水コハク酸、ヘキサデセニルコハク酸無水物、オクタデセニルコハク酸無水物等のアルケニルコハク酸無水物が例示されこれらは1種類、又は2種類以上を併用して用いることができる。例えば炭素数16のオレフィン骨格を持つアルケニル無水コハク酸を「ASA-C16」と表記することがある。
【0045】
1)酸ハロゲン化物を用いた反応
酸ハロゲン化物の使用量は、植物繊維含有材料100重量部に対して0.1〜200重量部程度が好ましく、0.5〜150重量部程度がより好ましく、1〜100重量部がさらに好ましい。
【0046】
植物繊維を含有する材料と酸ハロゲン化物とを作用(反応)させる温度は、−20〜150℃程度が好ましく、好ましくは−10〜130℃程度がより好ましく、0〜100℃程度がさらに好ましい。また、植物繊維を含有する材料と前記疎水化剤とを作用(反応)させる時間は、酸ハロゲン化物の種類にもよるが反応が完了したかどうかは赤外スペクトルによりエステルのC=O伸縮振動のピークを追尾することで確認できる。なお、前記疎水化反応を行う圧力については、特に制限がなく、大気圧下で行えばよい。
【0047】
反応溶媒の使用量としては、植物繊維含有材料100重量部に対して、0.1〜1000重量部程度が好ましく、1〜500重量部程度がより好ましく、10〜100重量部程度がさらに好ましい。
【0048】
酸ハロゲン化物を用いた反応の結果ハロゲンが生成するため、これを中和する塩基が必要となる。使用する塩基は、通常、アルカリ金属水酸化物、特に水酸化ナトリウムである。使用する塩基の量は、酸ハロゲン化物に対しモル比で塩基/酸ハロゲン化物=1.0〜1.5である。
【0049】
酸ハロゲン化物を用いた反応では、必要に応じて触媒を用いてもよく、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、4−ピロリジノピリジン等が用いられるが、4−ジメチルアミノピリジンが好ましい。
【0050】
使用する触媒の量は、セルロースのグルコース単位1モルに対し0.01〜10000モルが好ましく、0.02〜5000モルが好ましく、0.02〜3000モルが特に好ましい。触媒の量が1モル以上の場合は触媒が溶媒の役割も果たしているが、この量がグルコースに対し10000モルをこえる場合、触媒としての観点から有効に役割を果たしていない。また0.01モル未満の場合は反応に多大な時間を要する。
【0051】
疎水化反応は水中で行うことができるが、非水系溶媒中で行ってもよい。非水系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、THF、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のエーテル類、及びこれらのメチル、ジメチル、エチル、ジエチル化物、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド化溶媒、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン等の非極性溶媒、又はこれらの混合溶媒である。また、これらから選ばれた2種以上の混合溶媒を使用してもよい。
【0052】
2)「アルキル、又はアルケニル無水コハク酸」によるハーフエステル化と中和反応
「アルキル、又はアルケニル無水コハク酸」の使用量は、セルロースを含有する植物繊維100重量部に対して、0.1〜1000重量部程度が好ましく、0.5〜500重量部程度がより好ましく、1〜500重量部がさらに好ましい。
【0053】
セルロースを含有する植物繊維と「アルキル、又はアルケニル無水コハク酸」とを作用(反応)させる温度は、100〜200℃程度が好ましく、好ましくは100〜180℃程度がより好ましく、100〜150℃程度がさらに好ましい。また、植物繊維を含有する材料と前記「アルキル、又はアルケニル無水コハク酸」とを作用(反応)させる時間は、その種類にもよるが反応が完了したかどうかは赤外スペクトルによりエステルのC=O伸縮振動のピークを追尾することで確認できる。なお、前記疎水化反応を行う圧力については、特に制限がなく、大気圧下で行えばよい。
【0054】
セルロースを含有する植物繊維と「アルキル、又はアルケニル無水コハク酸」との反応は無水条件で行えば特に制限はないが、例えば、1)セルロースを含有する植物繊維を乾燥させた後に有機溶媒に分散させ、「アルキル、又はアルケニル無水コハク酸」を加え、加熱攪拌により反応させる方法、2)含水の植物繊維を有機溶媒に分散させた後にろ過し、溶媒をある程度除いた後、ろ過残を再度有機溶媒に分散させることを繰り返すことにより水を除く、いわゆる溶媒置換法で分散させた後に「アルキル、又はアルケニル無水コハク酸」を加え、加熱攪拌により反応させる方法、3)含水の植物繊維に液状の疎水基を含む環状酸無水物を加え、攪拌しながら加熱し脱水させ液状の「アルキル、又はアルケニル無水コハク酸」中にセルロースを含有する植物繊維を分散させつつ、植物繊維と疎水基を含む環状酸無水物との反応を進行させる方法等が例示される。この中でも、3)の方法が、反応濃度が高く、反応が効率的であるだけでなく、反応後に溶媒を除去する必要がないので好ましい。
【0055】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、THF、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のエーテル類、及びこれらのメチル、ジメチル、エチル、ジエチル化物、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド化溶媒、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン等の非極性溶媒、又はこれらの混合溶媒である。また、これらから選ばれた2種以上の混合溶媒を使用してもよい。
【0056】
前記反応では必要に応じて触媒を用いてもよく、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、4−ピロリジノピリジン等が用いられるが4−ジメチルアミノピリジンが好ましい。使用する触媒の量はセルロースのグルコース単位1モルに対し0.01〜10000モルが好ましく、0.02〜5000モルが好ましく、0.02〜3000モルが特に好ましい。触媒の量が1モル以上の場合は触媒が溶媒の役割も果たしているが、この量がグルコースに対し10000モルをこえる場合、触媒としての観点から有効に役割を果たしていない。
【0057】
前記1)〜3)の反応の反応装置としては加熱・攪拌出来れば特に制限はないが、例えば、攪拌羽を装備したフラスコ、攪拌子を持つビーカー、ニーダー、二軸押出し機、ラボプラストミル、ビーズミル、ボールミル等が挙げられる。前記反応は基本的に固液反応であるので、反応効率を上げるためには攪拌効率高い攪拌装置が好ましく、具体的にはニーダー、二軸押出し機、ラボプラストミル、ビーズミル、ボールミル等が例示される。
【0058】
反応後は洗浄しなくても良いし、未反応の疎水基を含む環状酸無水物を除くために前記有機溶媒で洗浄操作をしても良い。また、反応により生成したカルボキシル基の一部、又は全部を中和することが好ましい。中和に用いるアルカリとしては中和出来れば特に制限はないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が例示される。
【0059】
なお、カルボン酸を中和しないでビーズミル等により強力な機械的せん断力をかけると植物繊維に含まれるセルロース等の加水分解を誘発し、得られたミクロフィブリル化植物繊維の切断が起こってしまうため、好ましくない。
【0060】
工程(1)により得られる植物繊維と水を含む懸濁液は、工程(2)によって、ビーズミルにビーズとともに入れ、解繊する。
【0061】
ビーズミルに入れるビーズとしては、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ、シリカ系セラミックスビーズ等が挙げられ、シリカ系セラミックスビーズとしては、ジルコニア・シリカ系セラミックスビーズ等が挙げられるが、これらの中で、解繊時にビーズが破損しない程度に硬く、また植物繊維を解繊するために十分な硬度を備えているという点から、ジルコニアビーズ、ジルコニア・シリカ系セラミックビーズが好ましい。
【0062】
ビーズの粒径としては、0.1〜3mm程度が好ましく、0.3〜2mm程度がより好ましく、0.5〜1mm程度がさらに好ましい。ビーズの粒径が、0.1mm未満であると、解繊する繊維の繊維長が短くなり、複合材料としたときの補強効果が小さくなる傾向がある。一方、ビーズの粒径が、2mmを超えると、ビーズ間の空隙に繊維が入り込み、解繊効率が低下する傾向がある。
【0063】
ビーズの使用量としては、ビーズミルに入れる懸濁液100重量部に対して、30〜95重量部程度が好ましく、40〜90重量部程度がより好ましく、50〜85重量部程度がさらに好ましい。ビーズの使用量が30重量部未満であると、効率良く解繊できない傾向がある。一方、ビーズの使用量が95重量部を超えると、ビーズ同士の衝突により摩耗が激しくなるとともに著しく発熱する傾向がある。
【0064】
ビーズミルによる植物繊維の解繊における解繊温度としては、0〜80℃程度が好ましく、0〜70℃程度がより好ましく、0〜60℃程度がさらに好ましい。解繊温度が0℃未満であると、溶液が凍結する場合があり、さらに冷却に必要とする電力エネルギーを多く必要とするため好ましくない。
【0065】
ビーズミルによる植物繊維の解繊時間としては、バッチ式ビーズミルで行う場合5分〜3時間程度が好ましく、10分〜2時間30分程度が好ましく、15分〜2時間程度が好ましい。解繊時間が5分未満であると十分に植物繊維が解繊されない。一方解繊時間が3時間を超えるとセルロースの結晶が破壊され、樹脂複合材料の強度が低下するため好ましくない。
【0066】
植物繊維の解繊を連続式ビーズミルで行う場合は、処理溶液の滞留時間を規定する。ここで滞留時間は以下の式により算出される。
【0067】
滞留時間= { ( ビーズミル空間容量) / ( 処理流量) } × パス回数
ここで、ビーズミル空間容量は、ビーズミルの容積から充填したビーズの体積を引いた値である。パス回数は、処理溶液がビーズミルを通過する回数であり、処理溶液の流量を測定することにより、1 パス当たりの滞留時間が求まる。処理溶液を、複数回、ビーズミルを通過させる場合は、パス回数を積算して滞留時間を算出する。
【0068】
植物解繊の滞留時間としては30秒〜20分程度が好ましく45秒〜15分程度がより好ましく、1分〜10分程度がさらに好ましい。滞留時間が30秒未満であると十分に繊維が解繊されない。一方滞留時間が20分を超えるとセルロースの結晶が破壊され、樹脂複合材料の強度が低下するため好ましくない。
【0069】
また、工程(2)の植物繊維をビーズミルによって解繊した後に、さらに別の機械的粉砕、及び/又は摩砕を行ってもよい。機械的粉砕、及び/又は摩砕する方法としては、一軸又は多軸押出し機(以下、単に「押出し機」ということがある)を用いた方法、グラインダーを用いた方法、ホモジナイザーを用いた方法、超音波を用いた方法、水中対向衝突等の公知の方法により行うことができる。
【0070】
また、植物繊維を工程(2)による解繊に供する前にリファイナーにより、軽度な予備解繊に供しても良い。リファイナーによる予備解繊を行うことにより、前記ビーズミルによる解繊にかかる負荷を低減することができ、生産効率の点からも好ましい。
【0071】
上記のような製造方法によって得られるミクロフィブリル化植物繊維は、比表面積が大きく、また、機械的処理にさらされながらもセルロースの結晶構造を保っているため、樹脂成形材料用として有用となる。また、得られるミクロフィブリル化植物繊維は顕微鏡観察によって、粗大繊維が少なく、かつ繊維長が短いことが確認できる。このため、射出成形してミクロフィブリル含有樹脂成形体を製造した場合、繊維が一方向に配列しづらく、弾性率の異方性が小さくなるため構造部材として有用である。
【0072】
ミクロフィブリル化植物繊維における比表面積としては、70〜200m/g程度が好ましく、75〜200m/g程度がより好ましく、80〜170m/g程度がさらに好ましい。比表面積が70m/g未満であると、植物繊維のナノ化の効果が十分に見られない。一方、比表面積が200m/gを超えるまで繊維を解繊していくとセルロースの結晶が破壊される傾向がある。本発明のミクロフィブリル化植物繊維は、繊維径の平均値が極めて細かい。
【0073】
一般的に、植物の細胞壁の中では、幅4nm程のセルロースミクロフィブリル(シングルセルロースナノファイバー)が最小単位として存在する。これが、植物の基本骨格物質(基本エレメント)である。そして、このセルロースミクロフィブリルが集まって、植物の骨格を形成している。本発明において、ミクロフィブリル化植物繊維とは、植物繊維を含む材料(例えば、木材パルプ等)をその繊維をナノサイズレベルまで解きほぐしたものである。
【0074】
本発明のミクロフィブリル化植物繊維の繊維径は、平均値が通常4〜200nm程度、好ましくは4〜150nm程度、特に好ましくは4〜100nm程度である。なお、本発明のミクロフィブリル化植物繊維の繊維径の平均値は、電子顕微鏡の視野内のミクロフィブリル化植物繊維少なくとも50本以上について測定した時の平均値である。
【0075】
また、本発明は、前記ミクロフィブリル化植物繊維、及び樹脂を含む樹脂成形材料にも関する。
【0076】
樹脂の種類としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0077】
熱可塑性樹脂としては、オレフィン樹脂、無水マレイン酸、アクリル酸等で変性された変性オレフィン樹脂等が挙げられ、具体的には、ポリプロピレン樹脂;無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ナイロン樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で使用してもよく、また、2種以上の混合樹脂として用いてもよい。
【0078】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂等が使用できる。樹脂は、一種単独又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましくは、フェノール樹脂;エポキシ樹脂;不飽和ポリエステル樹脂である。
【0079】
ミクロフィブリル化植物繊維と樹脂とを複合化(混合)する方法は特に限定されず、通常のミクロフィブリル化植物繊維を樹脂と複合化する方法を採用できる。例えば、熱可塑性樹脂とミクロフィブリル化植物繊維を複合化する場合は、二軸押出し機、ラボプラストミル、ブレンダー等が例示される。
【0080】
また、熱硬化性樹脂とミクロフィブリル化植物繊維を複合化(混合)する場合は、例えば、ミクロフィブリル化植物繊維より構成されるシート又は成形体に樹脂モノマー液を十分に含浸させて、熱、UV照射、重合開始剤等によって重合する方法、ミクロフィブリル化植物繊維にポリマー樹脂溶液又は樹脂粉末分散液を十分に含浸させて乾燥する方法、ミクロフィブリル化植物繊維を樹脂モノマー液中に十分に分散させて熱、UV照射、重合開始剤等によって重合する方法、ミクロフィブリル化植物繊維をポリマー樹脂溶液又は樹脂粉末分散液に十分に分散させて乾燥する方法等が挙げられる。
【0081】
ミクロフィブリル化植物繊維をシート状とする場合における成形方法としては、特に限定されないが、例えば、前記工程(1)及び(2)によって得られた、ミクロフィブリル化植物繊維と水の混合液(スラリー)を吸引ろ過し、フィルター上にシート状になったミクロフィブリル化植物繊維を乾燥、加熱圧縮等することによって、ミクロフィブリル化植物繊維をシートに成形することができる。
【0082】
熱可塑性樹脂成形材料における樹脂の含有量としては、ミクロフィブリル化植物繊維100重量部に対して、10000〜5重量部程度が好ましく、5000〜10重量部程度がより好ましく、3000〜20重量部程度がさらに好ましい。樹脂の含有量が5重量部未満であると、熱可塑性樹脂成形材料の場合、成形が難しくなる一方、樹脂の含有量が10000重量部を超えると、植物繊維による補強効果が発現しづらくなる傾向がある。
【0083】
熱硬化性樹脂成形材料における樹脂含有量としては、樹脂成形材料100重量部とした場合、樹脂を80重量部〜5重量部、好ましくは樹脂を80重量部〜50重量部が好ましい。ミクロフィブリル化植物繊維含有量が多いと成形材料を硬化させて得た成形体の耐水性が悪化するので、成形材料中の樹脂率は50重量以上とすることが好ましい。
【0084】
複合化にあたっては、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等の相溶化剤;界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;着色剤;可塑剤;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤の添加剤を配合してもよい。
【0085】
<成形物>
本発明のミクロフィブリル化植物繊維及び樹脂を含む成形材料は、通常の樹脂組成物の成形方法と同様な方法、例えば金型成形、射出成形、押出し成形、中空成形、発泡成形等を採用することができる。特に射出成形後においても弾性率の異方性が小さいため、強度の高い樹脂成形物を得ることができる。成形の条件は樹脂の成形条件を必要に応じて適宜調整して適用すればよい。
【0086】
本発明の樹脂成形材料は、高い機械強度を有しているので、例えば、従来ミクロフィブリル化植物繊維の成形物、ミクロフィブリル化植物繊維含有樹脂成形物が使用されていた分野に加え、より高い機械強度(引っ張り強度等)が要求される分野にも使用できる。例えば、自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機器の内装材、外装材、構造材等;パソコン、テレビ、電話、時計等の電化製品等の筺体、構造材、内部部品等;携帯電話等の移動通信機器等の筺体、構造材、内部部品等;携帯音楽再生機器、映像再生機器、印刷機器、複写機器、スポーツ用品等の筺体、構造材、内部部品等;建築材;文具等の事務機器等として有効に使用することができる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0088】
実施例1
針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)(リファイナー処理済み、王子製紙(株)製、固形分25%)を600g、水19.94kg添加し、水懸濁液を調製した(パルプスラリー濃度0.75重量%の水懸濁液)。得られたスラリーをビーズミル(NVM−2、アイメックス(株)製)で以下の条件下で機械的解繊処理を行った。
[解繊条件]
ビーズ:ジルコニアビーズ(直径:1mm)
ベッセル容量: 2リットル
ビーズ充填量: 1216ml(4621g)
回転数: 2000rpm
ベッセル温度: 20℃
滞留時間: 1分
得られたミクロフィブリル化植物繊維をブタノール溶液で3回洗浄した後、窒素ガス吸着法により、比表面積を求めた。その結果、比表面積は133.41m/gであった。得られたミクロフィブリル化植物繊維の100倍の写真を図1に示す。
【0089】
実施例2
<オクタノイル化処理された植物繊維の調製>
針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP、濃度50%)を300g、オクタノイルクロライド(関東化学(株)製)75g、水酸化ナトリウム20%水溶液111.12g、及び4−ジメチルアミノピリジン(関東化学(株)製)11.3gをミキサーにて混合し、二軸押出機(テクノベル製:スクリュー直径:15mm)に投入し、薬品とパルプの混合を行った。回転数は400/分、解繊速度は150g/時、バレル温度は30℃に調節して行った。得られた混合物を洗浄ろ過してグルコース単位の一部がオクタノイル化された植物繊維が得られた。置換度を測定した結果、0.15であった。
【0090】
なお、オクタノイル基の置換度は、オクタノイル基とセルロースのエステル結合をアルカリ分解した後、消費したアルカリを塩酸で逆滴定することによりNBKPに導入されたオクタノイル基のモル数を測定し、次式により算出して求めた。ここでいう置換度とは、無水グルコース単位1モル当たりの置換基のモル数の平均値を表している。
{使用したオクタノイル化NBKPの量}/(162.14+126×X)=A/X
式中、Xは置換度を表し、Aは、オクタノイル基のモル数を表し、126はオクタノイル基の分子量を表す。
【0091】
<オクタノイル化処理されたミクロフィブリル化植物繊維の調製>
前記<疎水化処理された植物繊維の調製>で得られたオクタノイル化された植物繊維を用いた以外は、実施例1と同様の方法によって、オクタノイル変性ミクロフィブリル化植物繊維を得た。
【0092】
得られたオクタノイル変性ミクロフィブリル化植物繊維について、実施例1と同様の方法により、比表面積を求めた。その結果、比表面積は102.21m/gであった。得られたミクロフィブリル化植物繊維の100倍の写真を図2に示す。
【0093】
実施例3
<ヘキサノイル化処理された植物繊維の調製>
針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP、濃度50%)を400g、ヘキサノイルクロライド(関東化学(株)製)83.04g、水酸化ナトリウム20%水溶液135.74g、及び4−ジメチルアミノピリジン(関東化学(株)製)15gをミキサーにて混合し、二軸押出し機(テクノベル製:スクリュー直径:15mm)に投入し、薬品とパルプの混合を行った。回転数は400/分、解繊速度は160g/時、バレル温度は30℃に調節して行った。得られた混合物を洗浄ろ過してグルコース単位の一部がヘキサノイル化された植物繊維が得られた。置換度を測定した結果、0.08であった。
【0094】
なお、ヘキサノイル基の置換度はオクタノイル基で置換した場合と同様にセルロースのエステル結合をアルカリ分解した後、消費したアルカリを塩酸で逆滴定することによりNBKPに導入されたヘキサノイル基のモル数を測定し、次式により算出して求めた。ここでいう置換度とは、無水グルコース単位1モル当たりの置換基のモル数の平均値を表している。
{使用したヘキサノイル化NBKPの量}/(162.14+98×X)=A/X
式中、Xは置換度を表し、Aはヘキサノイル基のモル数を表し、98はヘキサノイル基の分子量を表す。
【0095】
<ヘキサノイル化処理されたミクロフィブリル化植物繊維の調製>
前記<ヘキサノイル化処理された植物繊維の調製>で得られたヘキサノイル化された植物繊維を用いた以外は、実施例1と同様の方法によって、ヘキサノイル変性ミクロフィブリル化植物繊維を得た。得られたヘキサノイル変性ミクロフィブリル化植物繊維について、実施例1と同様の方法により、比表面積を求めた。その結果、比表面積は103.07m/gであった。得られたミクロフィブリル化植物繊維の100倍の写真を図3に示す。
【0096】
実施例4
<ASA−C8化処理されたミクロフィブリル化植物繊維の調製>
針葉樹漂白パルプ(NBKP)(リファイナー処理済み、王子製紙(株)製、固形分20%)500gにアルケニル無水コハク酸(ASA−C8タイプ、星光PMC(株)製「T−NS136」)を130g、ジメチルアミノピリジン7.54g加え、卓上型ミキサー(商品名:KM-800,(株)愛工舎製作所製)で5分間攪拌した。次いで、混合物を二軸押出し機(テクノベル製:スクリュー直径:15mm、回転数200rpm)で105℃で1パス、120℃で2パスさせた。
【0097】
反応物を500mlのアセトンに分散させた後、吸引ろ過した。ろ過残を1リットルのアセトンに再度分散させた後に吸引濾過した。これをさらに2回繰り返し洗浄を行った後、ろ過残を蒸留水1リットルに分散させ重曹でpH7.8とした後、吸引ろ過した。さらにろ過残を蒸留水1000mlに分散させ吸引ろ過した。このようにしてASA−C8化NBKPを調整した(濃度25.9%)。
【0098】
反応率は、アルカリ処理により1分子あたりカルボキシル基が2つ出来ることを考慮して置換度を算出したこと以外は、オクタノイル化率を求めた方法と同様に逆滴定法で得た滴定値より算出したところ、置換度は0.19であった。
【0099】
得られたASA−C8化植物繊維を実施例1と同様にビーズミル処理を行った。得られたASA−C8化ミクロフィブリル化植物繊維の比表面積を実施例1と同様の方法で測定した。その結果、比表面積は88.0m/gであった。得られたミクロフィブリル化植物繊維の100倍の写真を図4に示す。
【0100】
実施例5
<ASA−C16化処理されたミクロフィブリル化植物繊維の調製>
針葉樹漂白パルプ(NBKP)(リファイナー処理済み、王子製紙(株)製、固形分20%)35gにC16タイプのアルケニル無水コハク酸(ASA−C16タイプ、星光PMC(株)製「T−NS135」)を14g、ジメチルアミノピリジンを0.5gの混合物をラボプラストミル(東洋精機製)に投入し、120℃で1時間混合した。混合後、実施例4と同様にアセトン洗浄等の後処理を行い、ASA−C16化処理された植物繊維を得た。実施例4と同様に逆滴定法で得た滴定値よりしてASA−C16化処理された植物繊維の置換度を算出した。その結果、置換度は0.12であった。
【0101】
このASA−C16化処理された植物繊維を水で2重量%となるように希釈した後、スラリーをバッチ式ビーズミル(6TSG−08、アイメックス(株)製)で処理してASA−C16化処理されたミクロフィブリル化植物繊維を調製した。
【0102】
[解繊条件]
ビーズ:ジルコニアビーズ(直径:1mm)
ベッセル容量: 800ml
ビーズ充填量: 300ml(1140g)
回転数: 2000rpm
ベッセル温度: 20℃
処理時間: 60分
得られたASA−C16化ミクロフィブリル化植物繊維の比表面積を実施例1と同様の方法で測定した。その結果、比表面積は93.2m/gであった。得られたミクロフィブリル化植物繊維の100倍の写真を図5に示す。
【0103】
比較例1
高圧ホモジェナイザーによって処理されたミクロフィブリル化植物繊維(ダイセル化学工業(株)製:商品名「セリッシュKY100G」)について、実施例1と同様の方法により、比表面積を求めた。その結果、比表面積は72.972m/gであった。得られたミクロフィブリル化植物繊維の100倍の写真を図6に示す。
【0104】
比較例2
針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)のスラリー(パルプスラリー濃度2重量%の水懸濁液)をシングルディスクリファイナー(熊谷理機工業(株)製)に通液させ、カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)値が100mL以下になるまで、繰返しリファイナー処理により解繊を行った。
【0105】
得られたリファイナー処理したNBKPについて、実施例1と同様の方法により、比表面積を求めた。その結果、比表面積は65.91m/gであった。
得られたミクロフィブリル化植物繊維の100倍の写真を図7に示す。
【0106】
比較例3
針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)のスラリー(パルプスラリー濃度2重量%の水懸濁液)をシングルディスクリファイナー(熊谷理機工業(株)製)に通液させ、カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)値が100mL以下になるまで、繰返しリファイナー処理を行った。次に、得られたスラリーを遠心脱水機((株)コクサン製)を用いて2000rpm、15分の条件で脱液し、パルプ濃度を25重量%にまで濃縮した。得られた含水パルプを二軸押出し機(テクノベル社製のKZW)に投入し、解繊処理を行った。二軸押出し機による解繊条件は以下の通りである。
【0107】
[解繊条件]
スクリュー直径: 15mm
スクリュー回転数: 2000rpm(スクリュー周速:94.2m/分)
解繊時間: 150gのNBKPを500g/hr〜600g/hrの処理条件で解繊
原料を投入してからミクロフィブリル化植物繊維が得られるまでの時間:15分間
L/D: 45
解繊処理に供した回数: 4回(4パス)
せき止め構造: 0個。
【0108】
得られたミクロフィブリル化植物繊維について実施例1と同様の方法により、比表面積を求めた。その結果、比表面積は66.1m/gであった。得られたミクロフィブリル化植物繊維の100倍の写真を図8に示す。
【0109】
考察(実施例1〜5、及び比較例1〜3)
実施例1〜5のビーズミルにより解繊したミクロフィブリル化植物繊維は、高圧ホモジェナイザーによって処理されたミクロフィブリル化植物繊維(比較例1)、及びリファイナー処理したNBKP(比較例2)と比較して、比表面積が飛躍的に向上することがわかる。また図1〜図5のミクロフィブリル化植物繊維は粗大繊維がなく、また繊維が短いのに対し、図6〜図8のセルロース繊維は、繊維長の長い粗大繊維が多く観察される。このことから、ビーズミルにより解繊したミクロフィブリル化植物繊維は、高比表面積で繊維径が細く、かつ粗大繊維がない繊維であり、樹脂成形材料用に用いられるミクロフィブリル化植物繊維として有用であるということがいえる。
【0110】
<PPコンパウンドの調製>
実施例6
実施例1で得られたビーズミルによって解繊されたミクロフィブリル化植物繊維スラリーをろ過して固形分が25%となるように濃縮した。
【0111】
次いで上記ろ過物に1級アミノ基を有する高分子化合物(星光PMC(株)製:商品名TND106)、ポリプロピレン(PP,日本ポリプロ(株)製:商品名「MAA4AHB」)、マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP,東洋化成工業(株)製:商品名「トーヨータックH1000P」、マレイン酸含有量:4質量%、メルトフローレート:100g/10分(190℃、2.16kg))を添加してミキサーにて10分間攪拌した(各々の成分の固形分比(質量比)は次の通りである。ミクロフィブリル化植物繊維: PP:MAPP:TND106=20:45:20:15)。
【0112】
得られた混合物を上記のテクノベル製二軸押出し機、(スクリュー直径:15mm)で溶融・混練(回転数200/分、処理速度200g/時、温度160−180℃である)した後、ペレタイザー(テクノベル製)を用いてペレット化した。さらに得られたペレットを射出成型機(NPX7-1F、日精樹脂(株)製)に投入し平板型の成型物を得た。成形温度は200℃とした。射出成形金型にゲートから溶融樹脂が流れる方向(MD方向)、流れる方向に垂直な方向(TD方向)にそれぞれ厚さ1.2mm、幅7mm、長さ40mmのサンプルを切り出し変形速度5mm/分で曲げ弾性率及び曲げ強度を測定した(ロードセル5kN)。測定機として万能材料試験機インストロン3365型(インストロンジャパンカンパニイリミテッド社製)を用いた。得られた樹脂複合体中のMD方向、TD方向のサンプルの曲げ弾性率及び曲げ強度、並びに曲げ弾性率及び曲げ強度のMD/TD比(異方性)を表1に示す。
【0113】
実施例7
実施例6と同様にして、実施例2で製造したオクタノイル変性ミクロフィブリル化植物繊維を用いて、平板型のPPコンパウンド成形物を得た。(PPコンパウンド中の成分の固形分比(質量比)は次の通りである。オクタノイル変性ミクロフィブリル化植物繊維: PP:MAPP:TND106=20:60:8:6)。得られた成形物から実施例6と同様にMD方向、TD方向にサンプルを切り出し、曲げ弾性率及び曲げ強度を測定した。得られた樹脂複合体中のMD方向、TD方向のサンプルの曲げ弾性率及び曲げ強度、並びに曲げ弾性率及び曲げ強度のMD/TD比(異方性)を表1に示す。
【0114】
実施例8
実施例6と同様にして、実施例3で製造したヘキサノイル変性ミクロフィブリル化植物繊維を用いて、平板型のPPコンパウンド成形物を得た。(PPコンパウンド中の成分の固形分比(質量比)は次の通りである。ヘキサノイル変性ミクロフィブリル化植物繊維: PP:MAPP:TND106=20:60:8:6)。得られた成形物から実施例6と同様にMD方向、TD方向にサンプルを切り出し、曲げ弾性率及び曲げ強度を測定した。得られた樹脂複合体中のMD方向、TD方向のサンプルの曲げ弾性率及び曲げ強度、並びに曲げ弾性率及び曲げ強度のMD/TD比(異方性)を表1に示す。
【0115】
比較例4
実施例6と同様にして、比較例1のミクロフィブリル化植物繊維を用いて、平板型のPPコンパウンド成形物を得た。(PPコンパウンド中の成分の固形分比(質量比)は次の通りである。オクタノイル変性ミクロフィブリル化植物繊維:PP:MAPP:TND106=20:70.6:5.4:4)。得られた成形物から実施例6と同様にMD方向、TD方向にサンプルを切り出し、曲げ弾性率及び曲げ強度を測定した。得られた樹脂複合体中のMD方向、TD方向のサンプルの曲げ弾性率及び曲げ強度、並びに曲げ弾性率及び曲げ強度のMD/TD比(異方性)を表1に示す。
【0116】
比較例5
実施例6と同様にして、比較例2のミクロフィブリル化植物繊維を用いて、平板型のPPコンパウンド成形物を得た。(PPコンパウンド中の成分の固形分比(質量比)は次の通りである。オクタノイル変性ミクロフィブリル化植物繊維: PP:MAPP:TND106=20:70.6:5.4:4)。得られた成形物から実施例6と同様にMD方向、TD方向にサンプルを切り出し、曲げ弾性率及び曲げ強度を測定した。得られた樹脂複合体中のMD方向、TD方向のサンプルの曲げ弾性率及び曲げ強度、並びに曲げ弾性率及び曲げ強度のMD/TD比(異方性)を表1に示す。
【0117】
比較例6
実施例6と同様にして、実施例2で用いたビーズミルによるミクロフィブリル化前のオクタノイル変性された植物繊維を用いて、平板型のPPコンパウンド成形物を得た。ミクロフィブリル化前のオクタノイル変性された植物繊維の100倍の写真を図9に示す。
【0118】
PPコンパウンド中の成分の固形分比(質量比)は次の通りである。オクタノイル変性ミクロフィブリル化植物繊維:PP:MAPP:TND106=20:70.6:8:6。得られた成形物から実施例6と同様にMD方向、TD方向にサンプルを切り出し、曲げ弾性率及び曲げ強度を測定した。得られた樹脂複合体中のMD方向、TD方向のサンプルの曲げ弾性率及び曲げ強度、並びに曲げ弾性率及び曲げ強度のMD/TD比(異方性)を表1に示す。
【0119】
比較例7
セルロース繊維を40%配合したPPコンパウンド(ダイセルポリマー(株)製:商品名:PG084)を用いて、平板型のPPコンパウンド成形物を得た。得られた成形物から実施例6と同様にMD方向、TD方向にサンプルを切り出し、曲げ弾性率及び曲げ強度を測定した。得られた樹脂複合体中のMD方向、TD方向のサンプルの曲げ弾性率及び曲げ強度、並びに曲げ弾性率及び曲げ強度のMD/TD比(異方性)を表1に示す。
【0120】
【表1】

【0121】
<考察>(実施例6〜8、比較例4〜7)
表1から明らかなように、実施例6〜8では弾性率の異方性が比較例4〜7に比べて低く、成形材料として優れている事がわかる。
【0122】
<ミクロフィブリル化植物繊維と不飽和ポリエステル樹脂を含む成形材料、及びその成形体>
実施例9
実施例1で得られたミクロフィブリル化植物繊維スラリーをろ過してミクロフィブリル化植物繊維のウェットウェブを得た。このウェットウェブをエタノール浴に1時間浸漬させた後、110℃、圧力0.003MPaで10分間加熱圧縮し、ミクロフィブリル化植物繊維の嵩高シートを得た。なお、ろ過条件は、ろ過面積:約200cm、減圧度:−30kPa、ろ紙:アドバンテック東洋(株)製の5Aとした。
【0123】
前記の得られたミクロフィブリル化植物繊維の嵩高シートを幅30mm×長さ40mmにカットして105℃で1時間乾燥させ、重量を測定した。さらに、不飽和ポリエステル樹脂(ディーエイチ・マテリアル(株)製「サンドマーFG283」)100重量部にベンゾイルパーオキサイド(日油(株)製「ナイパーFF」)1重量部を加えた樹脂液に該シートを浸漬させた。浸漬は減圧下(真空度0.01MPa、時間30分)で行い、不飽和ポリエステル樹脂含浸シートを得た。次に、該不飽和ポリエステル樹脂含浸シートを、成形物の厚さが約1mmとなるようそれぞれ同じものを数枚重ねた。余分な樹脂をはき出した後、金型に入れ、加熱プレス(温度:90℃、時間:30分)を行って、ミクロフィブリル化植物繊維の不飽和ポリエステル複合体の成形物を得た。なお、得られた成形物の重量を測定し、前記シートの乾燥重量との差から樹脂含有率(重量%)を算出した。
【0124】
前記成形物の長さ、幅をノギス((株)ミツトヨ製)で正確に測定した。厚さを数か所マイクロメーター((株)ミツトヨ製)で測定し、成形物の体積を計算した。別途成形物の重量を測定した。得られた重量、体積より密度を算出した。
【0125】
前記成形物から厚さ1.2mm、幅7mm、長さ40mmのサンプルを製造し、変形速度5mm/分で曲げ弾性率及び曲げ強度を測定した(ロードセル5kN)。測定機として万能材料試験機インストロン3365型(インストロンジャパンカンパニイリミテッド製)を用いた。得られた樹脂成形物中の樹脂含有割合、曲げ弾性率及び曲げ強度を表2に示す。
【0126】
実施例10〜13、及び比較例8
実施例2〜5、又は比較例3で得られたミクロフィブリル化植物繊維を用いた以外は実施例9と同様にしてミクロフィブリル化植物繊維の不飽和ポリエステル複合体の成形物を得た。この成形物から実施例9と同様にして樹脂含有率(重量%)を算出すると共に、曲げ強度測定を行った。得られた樹脂成形物中の樹脂含有割合、曲げ弾性率及び曲げ強度を表2に示す。
【0127】
比較例9
ビーズミルによる解繊処理を行わず、実施例2で作製したビーズミル処理前のオクタノイル化植物繊維を用いた以外は実施例9と同様にして植物繊維の不飽和ポリエステル複合体の成形物を得た。この成形物から実施例9と同様にして樹脂含有率(重量%)を算出すると共に、曲げ強度測定を行った。得られた樹脂成形物中の樹脂含有割合、曲げ弾性率及び曲げ強度を表2に示す。
【0128】
比較例10
不飽和ポリエステル樹脂(ディーエイチ・マテリアル(株)製「サンドマーFG283」)100重量部にベンゾイルパーオキサイド(日油(株)製「ナイパーFF」)1重量部を加えた樹脂液を成形物の厚さが約1mmとなるよう金型に入れ、加熱プレス(温度:90℃、時間:30分)を行って不飽和ポリエステル樹脂成形物を得た。
この成形物から実施例9と同様にして曲げ強度測定を行った。得られた樹脂成形物中の樹脂含有割合、曲げ弾性率及び曲げ強度を表2に示す。
【0129】
【表2】

【0130】
<考察>(実施例9〜13、比較例8〜10)
実施例9〜13と比較例10との比較で明らかなように、ミクロフィブリル化植物繊維と不飽和ポリエステル複合体の成形物は、不飽和ポリエステル樹脂から得られた成形物と比較し、ミクロフィブリル化植物繊維による補強効果により成形物の大幅に曲げ強度、弾性率が向上している。
【0131】
また、実施例9〜13で用いられるビーズミル処理にて得られたミクロフィブリル化植物繊維(実施例1〜5で製造)の比表面積は、比較例8で用いられる二軸押出し機で処理して得られたミクロフィブリル化植物繊維(比較例3で製造)よりも大きく、よりナノ解繊化が進んでいるため、より樹脂成形物の補強性が高く、結果として高い曲げ強度、弾性率を示している。
【0132】
更に、実施例2〜実施例5で製造したミクロフィブリル化植物繊維は疎水変性されており、耐水性を重要視する用途においては実施例9や比較例8よりも好ましいものと思われる。また、実施例10と比較例9の比較から明らかな様に、疎水化処理による界面補強とビーズミル解繊によるナノ解繊の両方を組み合わせることがことにより優れた強度を示すことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0133】
従来繊維強化複合材料に用いられていたガラスファイバーやカーボンファイバーと比較して、本発明によるミクロフィブリル化植物繊維はリサイクル可能で環境適応型材料であり、なおかつ高強度で強度異方性の小さい材料を提供することが可能である。 この為、本発明の樹脂成形材料は、従来ミクロフィブリル化植物繊維の成形物、ミクロフィブリル化植物繊維含有樹脂成形物が使用されていた分野に加え、より高い機械強度(引っ張り強度等)が要求される分野にも幅広く使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロフィブリル化植物繊維の製造方法において、
(1)植物繊維及び水を含む懸濁液を調製する工程、及び
(2)工程(1)により得られる懸濁液、及びビーズをビーズミルに入れ、解繊する工程を有することを特徴とするミクロフィブリル化植物繊維の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の植物繊維が、疎水化変性植物繊維であるミクロフィブリル化植物繊維の製造方法。
【請求項3】
疎水化変性植物繊維が、(A)酸ハロゲン化物によるエステル化反応、又は
(B)アルキル、若しくはアルケニル無水コハク酸でハーフエステル化した後に、生成したカルボキシル基の一部、若しくは全てを中和する反応により得られるものである請求項2に記載のミクロフィブリル化植物繊維の製造方法。
【請求項4】
ビーズがアルミナ、ジルコニア又はシリカ系セラミックビーズであり、かつその粒径が、0.1〜2mmである請求項1〜3のいずれかに記載のミクロフィブリル化植物繊維の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られるミクロフィブリル化植物繊維。
【請求項6】
比表面積が70〜200m/gである請求項5に記載のミクロフィブリル化植物繊維。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のミクロフィブリル化植物繊維と樹脂を含む樹脂成形材料。
【請求項8】
樹脂が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂である請求項7に記載の樹脂成形材料。
【請求項9】
請求項5又は6に記載のミクロフィブリル化植物繊維と樹脂とを複合化する工程を含む樹脂成形材料の製造方法。
【請求項10】
ミクロフィブリル化植物繊維がシート状であって、熱硬化性樹脂を含む溶液中に含浸させる工程を含む請求項9に記載の樹脂成形材料の製造方法。
【請求項11】
請求項7又は8に記載の樹脂成形材料を硬化してなる成形物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−213754(P2011−213754A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80235(P2010−80235)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】