説明

ミシン

【課題】本縫い目の目飛ばし機構を持つミシンを提供する。
【解決手段】針棒機構2と、釜機構5と、本縫い目の目飛ばし機構6とを備える。針棒機構2は、上下運動する針棒7と、この針棒の下端に保持される本縫い針10とを備える。釜機構5は外釜49と内釜48とを備え、本縫い針10の上下運動と同期して本縫い目を形成するように構成している。本縫い目の目飛ばし機構6は、釜機構5を本縫い針10に近接させる位置と、該本縫い針から離す位置とにわたって移動可能に設け、本縫い針10から離す位置で目飛ばしを可能にしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本縫い目の意図的な目飛ばしを可能にした工業用のミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、ジーパンやスラックスなどの縫製は、効率良く生産するために、次のような工程を経て行われる。すなわち、図25に示すように、断面略U字形状に折り曲げた長尺の腰帯生地片200の開口部に、身頃生地片201の端部を挿入し、この各身頃生地片201・・・と腰帯生地片200の内側202との重合部分と、各身頃生地片201・・・の存在しない腰帯生地片200の外側203とを、所定距離Aだけ環縫いし、その後所定距離Bだけ環縫いさせない目飛ばし部分(非縫合部分)204,205を作り、再び所定距離Aだけ環縫いさせて行く、所謂間欠的な縫製で連続的に環縫いする。そして、この環縫いされた生地片200,201・・・から1着分のスラックス等の生地片を取出すべく前記腰帯生地片200の所定位置C,Cを切断し、この切断された腰帯生地片200の切断端面200aを図26に示すように矢印D方向に折り込み、この折り込んだ端部を図27に示すように縫着206して端面処理を行う。このような工程を経ると、スラックス等の身頃生地片201と腰帯生地片200が迅速に且つ多量に環縫いできるため、最終的にジーパンやスラックス等の生産効率を著しく高めることができる。意図的に目飛ばし部分を作る上記のような間欠的な環縫い手段としては、例えば、特許文献1に公知である。
【0003】
このように身頃生地片201・・・と腰帯生地片200とを間欠的に環縫いすると、腰帯生地片200の切断端面200aを端面処理するうえで極めて便利である。すなわち、この身頃生地片201・・・と腰帯生地片200を目飛ばし部分を作ることなく一連に環縫いさせる場合には、縫着後に腰帯生地片200の切断端面200a付近の縫い目を、切断端面200aの折り込み代分だけ解かなければならないが、身頃生地片201・・・と腰帯生地片200とを間欠的に環縫いした場合は環縫い後に腰帯生地片200の切断端面200a付近の縫い目を解かなくて済むことから、それだけ縫製作業能率を大幅に向上できる。
【0004】
ところで、上記腰帯生地片200の内側202と外側203は共に環縫い方式である。
しかしながら、腰帯生地片200の内外共に環縫いされるものでは、たとえば、新しいジーパン等に古着の風合いを出すために古着加工(ウォッシュ、ブラッシング)を施すとき、腰帯生地片200の環縫いされた外側203は伸縮しやすいため当該箇所がだれたり、よれたりして縫製品質が低下し、また美しいウエストラインが出なくなるという不具合が生じる。
【0005】
この対策として、腰帯生地片200の外側203の縫着は伸縮性の少ない本縫いが要求される。腰帯生地片200の外側203を本縫いしておくと、新しいジーパン等にウォッシュ等の古着加工を施すときも腰帯生地片200の外側203の縫着箇所が伸縮することがなく、だれやよれの発生を防止することができる。本縫いのみを可能にするミシンは、例えば、特許文献2、3等に公知である。
【0006】
他方、腰帯生地片200の外側203を本縫いする場合においても、本縫い後に腰帯生地片200の切断端面200a付近の縫い目を解かなくて済み、生産効率を高められるように意図的に目飛ばし部分を作る間欠的な本縫いが望まれる。
しかしながら、従来、そのような本縫いの目飛ばし機構を持つミシンは存在しないため、意図的に目飛ばしを作る間欠的な本縫いを実現することができなかった。
【0007】
【特許文献1】特公平2−47238号公報
【特許文献2】特開平9−135984号公報
【特許文献3】特開平7−246296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、意図的に目飛ばしを作る間欠的な本縫いを実現することのできるミシンを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のミシンは、請求項1に記載のように、発明の内容の理解を助けるために図1〜図24に付した符号を参照して説明すると、針棒機構(2)と、釜機構(5)とを備え、
前記針棒機構(2)は、上下運動する針棒(7)と、この針棒の下端に保持される本縫い針(10)とを備えており、前記釜機構(5)は、釜軸(61)回りに回転可能に支持された外釜(49)と、この外釜に対して相対的に回転可能に該外釜内に支持され、かつその外周部に内釜止め(50)を備えた内釜(48)と、この内釜の前記内釜止めに当接して内釜(48)が外釜(49)と共に回転することを一定範囲内で規制する内釜回り止めプレート(55)とを備えて、前記本縫い針(10)の上下運動との連携により本縫い目を形成するように構成しているミシンにおいて、本縫い目の目飛ばし機構(6)を備え、この目飛ばし機構は、前記釜機構(5)を前記本縫い針(10)に近接させる位置と、前記本縫い針(10)から離す位置とにわたって移動可能に設け、本縫い針(10)から離す位置で目飛ばしを可能にしていることに特徴を有するものである。
このような構成によれば、例えば腰帯生地片の外側に対し、釜機構と本縫い目の目飛ばし機構とで意図的に目飛ばしを作る間欠的な本縫いを可能にする。
【0010】
請求項1記載のミシンは、請求項2に記載のように、前記釜機構(5)は、釜土台(53)に組み込まれ、この釜土台ごと前記本縫い針に近接させる位置と、前記本縫い針から離す位置とにわたって移動可能に設けることができる。これによれば、釜機構を簡単かつ確実に移動させることができる。この場合において、請求項3に記載のように、釜機構(5)は、前記釜土台(53)ごとエアシリンダー(70)で移動可能に設けることにより、釜機構の移動機構をより簡単に構成することができる。
【0011】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のミシンは、請求項4に記載のように、前記釜軸(61)にはヘリカルギア(62)を固着し、このヘリカルギアを下軸(20)に固着したヘリカルギア(63)に噛み合せて下軸(20)の回転を下軸(2)に直交した釜軸(61)に伝動するように構成することができる。これによれば、ヘリカルギアは軸に対して歯が傾けて切ってあるから、目飛ばし時に釜機構を本縫い針から離した時もかみ合い状態を保つことができ、再度釜機構を本縫い針に接近させた時に下軸との伝動が問題なく行われる。
【0012】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のミシンは、請求項5に記載のように、前記本縫い針(10)と該本縫い針に接近させる前記釜機構(5)との間の隙間を微調整する微調整機構(75)を備えることができる。これによれば、本縫い針と釜機構との間の隙間を正確に出すことができる。
【0013】
請求項5記載のミシンは、請求項6に記載のように、前記微調整機構(75)は、前記エアシリンダー(70)を保持するシリンダーホルダー(72)と、前記釜土台(53)とを一体的に結合し、前記シリンダーホルダー(72)に設けた雌ネジ(82)に螺合させた調節ネジ(81)を回転操作することで該シリンダーホルダーを釜土台ごと移動可能に構成することができる。これによれば、調節ネジを回転させることによって本縫い針と釜機構間の隙間を正確に且つ簡単に出すことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のミシンによれば、例えば腰帯生地片の外側に対し意図的に目飛ばしを作る間欠的な本縫いを可能にするため、このように縫製された新しいジーパン等にウォッシュ等の古着加工を施すときも腰帯生地片の外側の縫着箇所がだれたり、よれたりするのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の好適な実施形態を図面に基づき説明する。
【0016】
図1は本発明の一実施例に係るミシンのミシンベッド部を、ミシンアーム部を取り除いた状態で示す斜視図を、図2は図1から差板16を取り除いた状態で示すミシンベッド部の斜視図を、図3は図1のミシンベッド部の平面図を、図4は図1のミシンベッド部の正面図を、図5は図3におけるA―A線断面図、図6は図3におけるC―C線断面図、図7は図3におけるD−D線断面図、図8は図3におけるE−E線断面図をそれぞれ示している。これらの各図において、図示例のミシンは、意図的に目飛ばし部分を作る間欠的な環縫いと本縫いとを同時に行えるようにしたものである。そのために、このミシンはミシンベッド部1に、針棒機構2、針棒機構2との連携により環縫い目を形成するルーパー機構3、環縫い目の目飛ばし機構4、針棒機構2との連携により本縫い目を形成する釜機構5、および本縫い目の目飛ばし機構6を備える。
【0017】
図1、図4、図5に示すように、針棒機構2は、図外のミシンアーム部内の上軸の回転を受けて上下運動する針棒7と、この針棒7の下端に固定された針株8に並べて保持される環縫い針9および本縫い針10を備える。環縫い針9および本縫い針10の下方に対応する針板土台83には環縫い針板11と本縫い針板12とを一体化した針板を取付けている。環縫い針板11の下部には環縫い送り歯(図示せず)を、本縫い針板12の下部には本縫い送り歯(図示せず)をそれぞれ備える。
【0018】
ルーパー機構3それ自体は公知のものであって、図5、図8、図18に示すように、ルーパー15とスプレッダー17とを備える。ルーパー15は、ルーパー軸18の左端側に嵌挿されたルーパー台19の上面に左右方向に複数本並べて固定されている。ルーパー軸18は、図5に示すように、ミシンモータ(図示せず)により一方向回転する下軸20、この下軸20の左端側に装着したルーパークランク21、このルーパークランク21に一端が連結されているルーパー駆動ロッド22を含むルーパー駆動機構により軸線方向(図1に示す生地送り方向Fと直交する左右方向)に往復運動可能に且つ軸線回りに前後方向に揺動する。これによりルーパー15は、環縫い針9の上下運動と同期して針糸に下糸が係合し得るように楕円運動して環縫い目を形成し、二重環縫いを可能にする。
【0019】
図16に示すように、スプレッダー17は糸引掛け用爪17aを有し、スプレッダー駆動機構により生地送り方向Fと直交する左右方向(図16中の矢印G方向)に往復運動可能なスプレッダー軸23の左端部に取付けられる。スプレッダー駆動機構は、図9に示すように、前記下軸20の中間部に装着したクランク(エキセン)24、スプレッダー駆動軸25、スプレッダーレバー26、スプレッダーバー27、スプレッダー軸23を備え、下軸20の回転に伴ってスプレッダー軸23を生地送り方向Fと直交する左右方向(図16中の矢印G方向)に往復運動させる。図9、図16に示すように、スプレッダー軸23の左端部にはエアシリンダー28をボルト29等で固定し、このエアシリンダー28に可動スプレッダー取付台30を取り付け、この可動スプレッダー取付台30にスプレッダー補助台31をボルト32等で固定し、そのスプレッダー補助台31に、スプレッダー17を止めネジ33等で固定している。かくしてスプレッダー17は、スプレッダー軸23の左右方向の往復運動に伴ってルーパー15の下糸を糸引掛け用爪17aに引っ掛けて針糸に寄せる。
【0020】
環縫い目の目飛ばし機構4は、上記スプレッダー17を、生地送り方向Fとほぼ同じ後方向へ進んで糸寄せを行う糸寄せ位置(図18参照)と、この糸寄せ位置から反生地送り方向へ退く後退位置(図19参照)とにわたって上記エアシリンダー28で前後方向に進退移動可能に設け、前記後退位置で目飛ばしを可能にしている。
すなわち、上記エアシリンダー28には、図20に示すように、シリンダー部34と案内孔35とを左右に平行に並べて設けている。シリンダー部34には複動式のピストン36が前後方向に往復動可能に挿入され、シリンダー部34内の前方開放端側はロッドカバー37、ロッドプレート38及びパッキン39等で塞がれ、それらロッドカバー37、ロッドプレート38にピストンロッド40が貫通される。案内孔35には案内棒41がシリンダーブッシュ42を介して挿入される。
【0021】
一方、上記可動スプレッダー取付台30は、図16に示すように、左右方向に延びる基板部30aと、この基板部30aの左端から後方へ延びる腕部14bとを有する平面視においてL形状に形成されて、腕部30bに上記スプレッダー補助台31が固定される。図16、図20に示すように、この可動スプレッダー取付台30の基板部30aにはねじ孔43と挿通孔44とを左右に並べて設けており、そのねじ孔43に上記ピストンロッド40の前端のねじ部40aが螺合されてナット45で締付け固定され、挿通孔44に上記案内棒41の前端部がボルト46などで固定される。
しかして、ピストン36はこれの両側に交互に空気を吸い込んで前後方向に往復動し、後方向への往動によりスプレッダー17が生地送り方向Fとほぼ同じ後方向(矢印H方向)へ進んで糸寄せを行う糸寄せ位置に移動し(図16、図20(a)参照)、前方向への復動によりスプレッダー17が反生地送り方向、すなわち前方向(矢印I方向)へ退く後退位置に移動する(図17、図20(b)参照)。
【0022】
したがって、いま、ピストン36を往動させてスプレッダー17を糸寄せ位置に移動させた状態下でスプレッダー軸23を左右方向に往復駆動させると、スプレッダー17が左右方向に往復駆動してルーパー15の下糸47(図18参照)を引っ掛けて針糸(図示せず)に寄せるため環縫いが行われる(例えば、図25の腰帯生地片200の内側202の環縫い目参照)。ピストン36を復動させると、スプレッダー17が反生地送り方向、すなわち矢印Iで示す前方向へ退く後退位置に移動するため、スプレッダー17はルーパー15の下糸を引っ掛けることができないため、生地片は送り方向Fへ進むだけで環縫いは行われず、目飛ばしが行われることになる(例えば、図25の腰帯生地片200の内側202の環縫い目の目飛ばし部分204参照)。なお、複動式のピストン36の往復動の制御は、生地片の終端縁(図25中、201b)と始端縁(図25中、201a)を検出するセンサー(図示せず)の検出信号に基づく制御装置(図示せず)によって自動制御される。
【0023】
このようにスプレッダー17はルーパー15の動き方向と同じ前後方向に進退動可能に設けているので、ルーパー15に干渉することなく意図する目飛ばしが確実に行える。またスプレッダー17の糸引掛用爪17aを図18に示すごとくルーパー15の最外周軌道Jより下側に位置するようルーパー15にできる限り近づけても該ルーパー15に干渉することがないため、ルーパー15の下糸47を確実に引っ掛けて糸寄せを行うことができ、意図しない目飛びの発生を防止できて常に適正な環縫いが行える。また、ルーパー15の動き方向と同じ前後方向に動かすスプレッダー17によれば、複数本の環縫い針9・・・で針9,9間のピッチが小さい場合でも問題なく使える。複動式のピストン36を用いてスプレッダー17を前後方向に進退動させるので、ミシンの高速運転に対応できる。
【0024】
上記実施例ではスプレッダー17をエアシリンダー28のピストン36で直線的に前後動させるが、これに代えて、スプレッダー17を、ロータリシリンダーを用いて円弧動で前後動させることもできる。
【0025】
次に、上記針棒機構2との連携により本縫い目を形成する釜機構5、および本縫い目の目飛ばし機構6について説明する。
釜機構5それ自体は水平全回転式の釜からなる公知のものであって、図5、図7、図9〜図15、図21に示すように、内釜48と外釜49を備える。内釜48には、図21に示すように、内釜止め50、オープナ当り51、ボビン支え52が設けられている。内釜止め50は、図23(b)に示すように、内釜48の回転を防止する為に内釜上縁より外側水平方向に設けられた突起であり、これは、図14、図23(b)に示すように、本縫い針板12とは分離したうえで釜機構5が一体的に組み込まれた釜土台53の一側面(左側面)に垂直状にボルト54で固定された内釜回り止めプレート55の切欠56に嵌合される。切欠56は、図23(b)に示すように、内釜回り止めプレート55に設けられた前進ストッパー57aと後退ストッパー57b間の空隙として構成されており、その切欠56の幅は内釜止め50の幅よりも大きく設定されている。したがって、内釜48の回転は、内釜止め50が一対の前進ストッパー57aと後退ストッパー57bに当接する僅かな一定範囲内に制限されるようになっている。オープナ当り51は、後述するオープナが対向する突起である。ボビン支え52は内釜48内にボビン58を装着するための支軸である。このボビン支え52の上端部にはボビン押え59が設けられている。
【0026】
上記切欠56、及び前進ストッパー57aと後退ストッパー57bは、従来の一般の釜機構においては本縫い針板の裏面側に一体に形成されるが、本釜機構5では、後述するように意図する目飛ばしを可能にすべく釜機構5を釜土台53ごと移動させるため、上述のように本縫い針板12とは分離し、釜土台53の一側面に垂直に取付けた内釜回り止めプレート55に形成している。
【0027】
一方、外釜49には、図21、図23(b)に示すように、剣先60、および釜軸61が設けられている。剣先60は、本縫い針10によって導かれる上糸を捕捉して内釜48の外周に周回させてループを形成させ、下糸との間で本縫い目を構成するための爪である。図7、図23(c)に示すように、下軸20に直交する釜軸61はこれの下部に径小のヘリカルギア62を固着し、このヘリカルギア62に下軸20の左端に固着した径大のヘリカルギア63を噛み合せて下軸20の回転を外釜49に伝動し、これと同時に、釜軸61はこれの上部に一体に形成した偏心カム64を介して後述するオープナを駆動する。
【0028】
釜機構5には、内釜48及び外釜49のほかに、必要に応じて公知のオープナ機構が付加される。そのオープナ機構は、図21、図23に示すように、オープナ65、オープナレバー66及びオープナリンク67からなる。そのオープナリンク67は、釜軸61の偏心カム64とオープナレバー66とを連動可能に連結するリンクである。なお、釜機構5は、そのほかに、図7、図15、図21に示すように、釜軸61を釜土台53内で支持する釜軸受97、釜軸上プレート98、ベアリング99、および図14に示すように釜土台53の一側面(左側面)にボルト101で取付けられる釜土台カバー100などを備える。
【0029】
このように構成された釜機構5は、図1〜図4のようにミシンベッド部1にルーパー機構3と並べて装着される。
【0030】
次に、釜機構5の動作について図23を参照して説明する。
【0031】
図23において、ミシンが駆動されると、外釜49は下軸20の回転をヘリカルギア63,62を介して受動される釜軸61の回りを時計回り(矢印K方向)に全回転し、オープナ65は、オープナレバー軸受68を支点に矢印MN方向に揺動運動する。このオープナ65の揺動運動により、本縫い針10に挿通された上糸は内釜止め50と前進ストッパー57aとの間の間隙を容易に通過することができ、内釜48の外周を回りきることができる。
【0032】
すなわち、外釜49の剣先60が矢印K方向に回転することに伴って、その剣先60が本縫い針10によって導かれる上糸を捕捉して内釜48の外周に周回させてループを形成させる。内釜48の外周を進む上糸のループは該上糸が前進ストッパー57aから離れ、切欠56に入り込もうとする位置から矢印K方向へと順次移動していく。前記上糸が前進ストッパー57aから離れ、切欠56に入り込もうとしている時点で、オープナ65は矢印N方向に最大変位する。このため、内釜48の内釜止め50と前進ストッパー57aの間に空隙が作られ、前記上糸は内釜止め50と前進ストッパー57aとの間の空隙を通り抜ける。
【0033】
その後、オープナ65は矢印M方向に最大変位することに伴って、内釜止め50と後退ストッパー57bとの間に空隙を生じ、この空隙をループになった上糸は通過して剣先60から抜け出る。こうして内釜止め50と後退ストッパー57b間の空隙を通り抜けた上糸はボビン58から繰出される下糸と絡み合い本縫い目が形成される。例えば、図25の腰帯生地片200の外側203に本縫い目が形成される。なお、上糸が剣先60から抜け出た後、外釜49は1回空転して、2回転目に再び剣先60によって上糸を捕捉し、一連の動作を繰り返す。
なお、上記説明でも明らかなように、オープナ65は、上糸の抜けを良くするために設けられているが、必ずしも必要とするものではない。
【0034】
次に、本発明の特徴である本縫い目の目飛ばし機構6について図5、図6、図10、図13〜図15、図22〜図24を参照にして説明する。
この目飛ばし機構6は、釜機構5を針棒機構2の本縫い針10に近接させる位置(図23参照)と、本縫い針10から離す位置(図24参照)とにわたって移動可能に設け、本縫い針10から離す位置で目飛ばしを可能にしている。釜機構5は、図10、図13、図15に示すように、釜土台53に組み込まれ、この釜土台53ごとエアシリンダー70で移動可能に設けられる。釜機構5を本縫い針10から離すタイミングは、前記環縫い目の目飛ばし機構4のスプレッダー17を糸寄せ位置から退かせるのと同期して行なわれる。
【0035】
釜土台53はエアシリンダー70により位置決めされる。すなわち、図10、図21、図22に示すように、エアシリンダー70は、エアシリンダー70をボルト71の締め付けでもって保持するシリンダー保持部72aとネジ受部72bとを左右に所定間隔をおいて相対向状に備える形のシリンダーホルダー72を用い、そのシリンダー保持部72aとネジ受部72b間に設けた長孔73にボルト74を本締めすることでミシンベッド部1上に固定されるが、この固定に先立って、先ず、本縫い針10と該本縫い針10に接近させる釜機構5の剣先60との間の隙間を微調整機構75により微調整し、微調整後にシリンダーホルダー72をボルト74で本締めすることでエアシリンダー70をミシンベッド部1上に固定する。図6、図14、図21に示すように、エアシリンダー70のピストンロッド76の突出端部は釜土台53の他側面(右側面)にネジ77で固定されたプレート78にボルト79、ナット80等で結合される。
【0036】
上記微調整機構75は、エアシリンダー70を保持するシリンダーホルダー72と、釜土台53とを一体的に結合し、シリンダーホルダー72に調節ネジ81を螺合させ、この調節ネジ81を回転操作することで該シリンダーホルダー72を釜土台53ごと移動可能に構成する。すなわち、微調整機構75は、図22に示すように、調節ネジ81と、シリンダーホルダー72のネジ受け部72bに設けた雌ネジ82、およびネジ受部72bと対向するように針板土台83上にボルト84で固定されるブラケット85とを備える。そして、図10に示すように、調節ネジ81はシリンダーホルダー72の雌ネジ82に螺合させるとともに、調節ネジ81の先端部をブラケット85に遊転可能に結合する。しかるときは調節ネジ81を回転させることによりシリンダーホルダー72をエアシリンダー70ごと左右方向に移動させて位置決めすることができる。この位置決め後、シリンダーホルダー72をミシンベッド部1にボルト74で本締め固定する。
【0037】
図7に示すように、釜土台53は針板土台83の下面にリニアガイド86を介して直線移動可能に宙吊り状態に取付けられる。図7、図21、図22に示すように、リニアガイド86は針板土台83の下面にネジ87,87で固定される溝形部材86aと、この溝形部材86aの下面の溝86bにボール状あるいはニードル状の転動部材86d(図7参照)を介してスライド自在に嵌合装着され、釜土台53の上面にボルト89で固定される角棒部材86cとからなる。
【0038】
かくして、エアシリンダー70のピストンロッド76が前進(突出)することにより釜機構5が釜土台53ごと本縫い針10に近接される位置にまで移動し(図23参照)、この状態で上記のように本縫いし、所定距離だけの本縫いを終えるとピストンロッド76が後退することで釜機構5が釜土台53ごと本縫い針10から所定距離だけ離される位置にまで移動し(図24参照)、これにより本縫い目の目飛ばし部分が形成される。その目飛ばし部分は、例えば、図25の腰帯生地片200の外側の飛ばし部分205に相当する部分に形成される。なお、エアシリンダー70の制御は、上記の環縫い目の目飛ばし機構4における複動式ピストン36の往復動制御の場合と同様に、生地片の終端縁(図25中、201b)と始端縁(図25中、201a)を検出するセンサー(図示せず)の検出信号に基づく制御装置(図示せず)によって、複動式ピストン36の制御と同時に自動制御される。
【0039】
本縫い目の目飛ばし機構6において釜機構5を本縫い針10から離すタイミングとしては、上糸を剣先60に引掛けているときに釜機構5を本縫い針10から離すと糸切れが発生するので、上糸が剣先60から外れたときから次工程で再度剣先60に引掛けられるまでの間に、釜機構5を本縫い針10から離すようにする。これにより糸切れを防止することができる。
【0040】
以上のように構成したミシンによれば、たとえば、ジーパンやスラックスなどの縫製に際し、図25を参照にして説明すると、腰帯生地片200の外側203に対し釜機構5と本縫い目の目飛ばし機構6とで目飛ばしを作る間欠的な本縫いを、腰帯生地片200の内側202に対しルーパー機構3と環縫い目の目飛ばし機構4とで目飛ばしを作る間欠的な環縫いをそれぞれ同時に可能にする。したがって、ウォッシュ等の古着加工を施すときも腰帯生地片200の外側203における縫着箇所のだれやよれの無いジーパン等を能率よく縫製することができる。
【0041】
なお、上記実施例のミシンは環縫いと本縫いのコンビネーションからなるが、本発明は本縫い専用のミシンにも同様に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施例に係るミシンのミシンベッド部を、ミシンアーム部を取り除いた状態で示す斜視図である。
【図2】図1から差板16を取り除いた状態で示すミシンベッド部の斜視図である。
【図3】図1のミシンベッド部の平面図である。
【図4】図1のミシンベッド部の正面図である。
【図5】図3におけるA―A線断面図である。
【図6】図3におけるC―C線断面図である。
【図7】図3におけるD−D線断面図である。
【図8】図3におけるE−E線断面図である。
【図9】図1からミシンフレームを取り除いた状態で示す全体の斜視図である。
【図10】図1からミシンフレームを取り除いた状態で釜機構、本縫い目の目飛ばし機構を示す平面図である。
【図11】図1からミシンフレームを取り除いた状態で釜機構、本縫い目の目飛ばし機構を示す正面図である。
【図12】図10における側面図である。
【図13】図10におけるF―F線断面図である。
【図14】図10におけるG−G線断面図である。
【図15】図10におけるH−H線断面図である。
【図16】スプレッダーを糸寄せ位置に移動させた状態で示す斜視図である。
【図17】スプレッダーを後退位置に移動させた状態で示す斜視図である。
【図18】スプレッダーを糸寄せ位置に移動させた状態で示す側面図である。
【図19】スプレッダーを後退位置に移動させた状態で示す側面図である。
【図20】スプレッダーのエアシリンダーの断面図であり、(a)はスプレッダーを糸寄せ位置に移動させた状態で示し、(b)はスプレッダーを後退位置に移動させた状態で示している。
【図21】釜機構の分解斜視図である。
【図22】釜機構の微調整機構の分解斜視図である。
【図23】釜機構の作動図であり、(a)は釜機構を本縫い針に近接させた状態を示す正面図、(b)は釜機構を本縫い針に近接させた状態を示す平面図、(c)は釜機構を本縫い針に近接させた状態を一部破断状態で示す平面図である。
【図24】釜機構を本縫い針から離した状態を示す正面図である。
【図25】生地片に対して縫着及び目飛ばしする場合を示す概略図である。
【図26】腰帯生地片を切断した部分を拡大して示す概略図である。
【図27】腰帯生地片の切断した端部を内部に折り込んで該端部を縫着した状態を示す部分概略図である。
【符号の説明】
【0043】
1 ミシンベッド部
2 針棒機構
5 釜機構
6 本縫い目の目飛ばし機構
7 針棒
10 本縫い針
20 下軸
48 内釜
49 外釜
50 内釜止め
53 釜土台
55 内釜回り止めプレート
61 釜軸
62,63 ヘリカルギア
70 エアシリンダー
72 シリンダーホルダー
75 微調整機構
81 調節ネジ
82 雌ネジ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
針棒機構と、釜機構とを備え、前記針棒機構は、上下運動する針棒と、この針棒の下端に保持される本縫い針とを備えており、前記釜機構は、釜軸回りに回転可能に支持された外釜と、この外釜に対して相対的に回転可能に該外釜内に支持され、かつその外周部に内釜止めを備えた内釜と、この内釜の前記内釜止めに当接して内釜が外釜と共に回転することを一定範囲内で規制する内釜回り止めプレートとを備えて、前記本縫い針の上下運動との連携により本縫い目を形成するように構成しているミシンにおいて、
本縫い目の目飛ばし機構を備えており、この目飛ばし機構は、前記釜機構を前記本縫い針に近接させる位置と、前記本縫い針から離す位置とにわたって移動可能に設け、前記本縫い針から離す位置で目飛ばしを可能にしていることを特徴とする、ミシン。
【請求項2】
前記釜機構は、釜土台に組み込まれ、この釜土台ごと前記本縫い針に近接させる位置と、前記本縫い針から離す位置とにわたって移動可能に設けられている、請求項1記載のミシン。
【請求項3】
前記釜機構は、前記釜土台ごとエアシリンダーで移動可能に設けている、請求項2記載のミシン。
【請求項4】
前記釜軸にはヘリカルギアを固着し、このヘリカルギアを下軸に固着したヘリカルギアに噛み合せて下軸の回転を該下軸に直交した釜軸に伝動するように構成している、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のミシン。
【請求項5】
前記本縫い針と該本縫い針に接近させる前記釜機構との間の隙間を微調整する微調整機構を備えている、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のミシン。
【請求項6】
前記微調整機構は、前記エアシリンダーを保持するシリンダーホルダーと、前記釜土台とを一体的に結合し、前記シリンダーホルダーに設けた雌ネジに螺合させた調節ネジを回転操作することで該シリンダーホルダーを釜土台ごと移動可能に構成してある、請求項5記載のミシン。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2007−296253(P2007−296253A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128821(P2006−128821)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(391005123)株式会社森本製作所 (26)
【Fターム(参考)】