ミシン
【課題】 縫製開始時に間欠押えを針板と同じ位置に設定してから1針目の縫製を行う場合において、糸巻き処理時に間欠押えが針板に衝突するのを防止し、間欠押えと針板との衝突により発生する騒音を防止することができるミシンを提供する。
【解決手段】 糸巻き処理を実行すると、先ず、RAM64に記憶されたデフォルト値を読み出して間欠押え6をデフォルト値(針板2aの上面から5mm上方)で示す位置に上昇させる(S30)。次に、ミシンモータ72を起動させて糸巻機構50による糸巻き処理を実行する。糸巻き処理を実行すると、起動ペダル70のOFF待ち状態となる。作業者が起動ペダル70をOFFにした場合(S32;Yes)、ミシンモータ72の駆動を停止させてから(S33)、間欠押え6を予め設定した位置に下降させた後(S34)、S3に戻る。
【解決手段】 糸巻き処理を実行すると、先ず、RAM64に記憶されたデフォルト値を読み出して間欠押え6をデフォルト値(針板2aの上面から5mm上方)で示す位置に上昇させる(S30)。次に、ミシンモータ72を起動させて糸巻機構50による糸巻き処理を実行する。糸巻き処理を実行すると、起動ペダル70のOFF待ち状態となる。作業者が起動ペダル70をOFFにした場合(S32;Yes)、ミシンモータ72の駆動を停止させてから(S33)、間欠押え6を予め設定した位置に下降させた後(S34)、S3に戻る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンに関し、特に縫針が上昇する際に加工布の浮き上がりを防止する間欠押えと、間欠押えの位置を変更可能な間欠押え位置変更機構と、主軸の回転に連動して下糸をボビンに巻回させる糸巻機構とを備えたものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加工布に縫目を形成する場合に、縫針が上昇する際に加工布の浮き上がりを防止できるように、間欠押えを針棒の上下動と同期させて上下動させる間欠押え駆動装置を装備したミシンが普及している。
【0003】
特許文献1に記載のミシンには、縫製中に間欠押えの上下動により加工布を押圧可能な使用位置と、使用位置よりも上方の待機位置とに亙って間欠押えの設定位置を切替える切替機構(間欠押え位置変更機構に相当)を設けてある。間欠押えの位置を自在に設定することができるので、加工布の布厚に応じた適切な位置に設定することができる。
それ故、このミシンでは、縫製開始時に間欠押えの下限位置を針板の上面と同じ位置に設定して、加工布と間欠押えとで上糸を挟み込むことで縫い始めの糸抜けを防止し、上下糸が絡んだ後は、間欠押えの位置をやや上方に移動させて適切な押圧をするという使い方が可能である。
【0004】
糸抜けの防止についてもう少し詳細に説明する。
上糸を下糸に絡ませた縫目を形成するには、上糸がボビンを一回りする必要がある。ミシンでは、天秤が上糸を緩めるとともに釜が上糸を引き込んで一回りさせ、その後釜が引き込んだ分の上糸を天秤が引き上げて縫目を形成している。
しかしながら、縫い始めにおいては縫針の目孔を通過した上糸端部はどこにも拘束されていないので、釜が上糸を引き込む動作を行う際に、釜は前記上糸端部も引き込んでしまい、上糸が前記目孔から抜けるという問題があった。
【0005】
その問題を解決する目的で、間欠押えの下限位置を針板の上面と同じ位置に設定していた。間欠押えの上下動は針棒と同期しているので、加工布の厚みも考慮すれば、縫針が加工布に刺さっている期間、すなわち釜が上糸を引き込む動作をしている期間中、間欠押えと加工布との間に前記上糸端部が挟まれて、該上糸端部が縫針の目孔から抜けることが防止できる。
【0006】
さらに、特許文献2に開示してあるように、ミシン主軸の回転に連動して下糸をボビンに巻回させる糸巻機構を装備したミシンも普及している。糸巻機構を装備したミシンでは、操作パネルの糸巻きキーを押しながら起動ペダルを踏むことで、XYテーブルを移動させずにミシン主軸だけを回転させて糸巻き処理を行う。
【特許文献1】特開2008−43360号公報
【特許文献2】特開平7−275549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
工業用など生産性を重視するミシンでは、作業者の縫製開始操作で直ちに縫製を開始するように、縫製開始時の状態で各機構が待機するように設計している。それ故、縫製開始時に間欠押えの下限位置を針板の上面と同じ位置に設定してから1針目の縫製を行う場合、間欠押えは下限位置が針板の上面に接する位置で待機することになる。このときに作業者が糸巻き操作を行うと、糸巻き処理は縫製時の動作と関連なくミシン主軸だけが回転するので、ミシン主軸の回転に連動して針板上面に接する位置のままで間欠押えが上下動する。それ故、糸巻き処理の間、間欠押えが針板と衝突し続けるので騒音が発生するという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、縫製開始時に間欠押えを針板の上面と同じ位置に設定してから1針目の縫製を行う場合において、糸巻き処理時に間欠押えが針板に衝突するのを防止し、間欠押えと針板との衝突により発生する騒音を防止することができるミシンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1のミシンは、針棒の上下動に連動して上下動し且つ針板上の加工布を上方から押える間欠押えと、該間欠押えの上下動位置を変更可能な間欠押え位置変更機構と、ミシン主軸の回転に連動して下糸をボビンに巻回す糸巻機構とを備えたミシンにおいて、前記糸巻機構によって前記下糸を前記ボビンに巻回す下糸巻きを指示する指示手段と、前記指示手段によって前記下糸巻きの指示を検出する検出手段と、前記検出手段が前記指示手段による前記下糸巻きの指示を検出した場合、前記間欠押えが上下動しても前記針板に接触しない位置に前記間欠押えの上下動位置を変更するように前記間欠押え位置変更機構を制御した後、前記ミシン主軸を回転駆動する下糸巻き制御手段とを備えたことを特徴としている。
【0010】
このミシンでは、検出手段が指示手段による下糸巻きの指示を検出した場合、下糸巻き制御手段が、間欠押えが上下動しても針板に接触しない位置に間欠押えの上下動位置を変更するように間欠押え位置変更機構を制御する。次に、下糸巻き制御手段がミシン主軸を回転駆動し糸巻き処理を開始する。糸巻き処理時にミシン主軸の回転に連動して間欠押えが上下動するが、間欠押えが上下動しても針板に接触しない位置にあるので、間欠押えが針板に衝突しない。
【0011】
請求項2のミシンは、請求項1の発明において、前記糸巻機構による前記下糸巻きの中止を指示する中止指示手段と、前記中止指示手段によって前記下糸巻きの中止の指示を検出する中止検出手段とを更に備え、前記下糸巻き制御手段は、前記中止検出手段が前記下糸巻きの中止の指示を検出した場合、前記ミシン主軸の回転駆動を停止した後、前記間欠押えの上下動位置を予め設定した位置に変更するように前記間欠押え位置変更機構を制御することを特徴としている。
【0012】
請求項3のミシンは、請求項1又は2の発明において、前記間欠押えの前記上下動位置を入力する間欠押え位置入力手段を設けたことを特徴としている。
【0013】
請求項4のミシンは、請求項1〜3の何れかの発明において、前記上下動位置は、前記間欠押えが上下動する上下動範囲の下限位置で設定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、検出手段が指示手段による下糸巻きの指示を検出した場合、間欠押えが上下動しても針板に接触しない位置に間欠押えの上下動位置を変更するように間欠押え位置変更機構を制御した後、ミシン主軸を回転駆動する下糸巻き制御手段を備えたので、糸巻き処理時にミシン主軸の回転に連動して間欠押えが上下動しても、間欠押えが針板に衝突しない。それ故、縫製開始時に間欠押えを針板の上面と同じ位置に設定してから1針目の縫製を行う場合に糸巻き処理を実行しても、間欠押えと針板との衝突により発生する騒音を防止することができる。この場合、間欠押えの上下動位置を自動で変更することができるので、ミシンの使い勝手が良くなる。
【0015】
請求項2の発明によれば、下糸巻き制御手段は、中止検出手段が下糸巻きの中止の指示を検出した場合、ミシン主軸の回転駆動を停止した後、間欠押えの上下動位置を予め設定した位置に変更するように間欠押え位置変更機構を制御するので、糸巻き処理を行った後に1針目の縫製を行う場合に、加工布と間欠押えとで上糸を挟み込むことで縫い始めの糸抜けを防止することができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、間欠押えの上下動位置を入力する間欠押え位置入力手段を設けたので、間欠押え位置入力手段で入力した間欠押えの上下動位置に基づいて間欠押えの上下動位置を変更することができる。それ故、縫製データ中に間欠押えデータを含んでいない場合にも、1針目の縫製時に間欠押えを針板の上面と同じ位置に自動で変更することができる。
【0017】
請求項4の発明によれば、上下動位置は、間欠押えが上下動する上下動範囲の下限位置で設定するので、糸巻き処理時に間欠押えが上下動しても針板に接触しない位置に間欠押えを容易且つ確実に変更することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施する為の最良の形態について説明する。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施例について図面に基づいて説明する。
図1に示すように、ミシン1は、ベッド部2と、このベッド部2の後端部(図1において左上が後方とする。)に立設された脚柱部3と、この脚柱部3の上端から前方に延びるアーム部4を備えている。アーム部4の内部には、主軸5が前後方向に配設してある。ミシンモータ72(図10参照)は、主軸5を回転駆動する。図1,図2に示すように、アーム部4の前端部には、押え棒7及び針棒8(図1では省略してある)を設けてある。アーム部4の下方に突出する針棒8の下端には、縫針9が着脱可能に装着してある。アーム部4の下方に突出する押え棒7の下端には、筒形の布押え部6aを有する間欠押え6が装着してある。間欠押え6は、針棒8の上下動に連動して上下動し且つ加工布Wを上方から押える。
【0020】
図1〜図6を参照して間欠押え上下駆動装置10について説明する。間欠押え上下駆動装置10は、揺動機構11、間欠押え上下動機構12及び間欠押え位置変更機構13を備えている。揺動機構11は、主軸5の回転駆動力を受けて第1レバー24を揺動させる。間欠押え上下動機構12は、第1レバー24の先端の出力端部分に連結して間欠押え6を上下動させる。間欠押え位置変更機構13は、間欠押え上下動機構12による間欠押え6が上下動する範囲の位置(上下動位置)を変更する。
【0021】
図6に示すように揺動機構11は、偏心カム20、アーム付き環状部材21、回動軸22、レバー部材23を備えている。偏心カム20は、主軸5の前端部近傍に取付けてある。アーム付き環状部材21は、偏心カム20に外嵌した環状部21bと、環状部21bの外周から突出するアーム部21aとを有する。
【0022】
回転軸22は、アーム付き環状部材21よりも前側で且つ高い位置に主軸5と平行に前後方向に向けて機枠F(図1参照)に回動可能に支持してある。回動軸22の後端部はレバー部材23の上端部が固着してある。回動軸22の前端部は、第1レバー24の上端部が固着してある。
【0023】
図6に示すように、レバー部材23には、偏心カム20の中心(これは、主軸5の軸心と一致している)の周りに、半径Rの円弧形状をなす所定幅の円弧穴23aが形成してある。円弧穴23aには、アーム付き環状部材21から左方に突出するアーム部21aの左端に固定した摺動ピン25が回動可能に連結してある。アーム部21aの連結位置は、円弧穴23aの長さ範囲内で、摺動ピン25の位置を変えることで任意の位置に切換え可能となっている。
【0024】
縫製作業を開始すると、主軸5が所定の回転方向(正面から見て時計回り)に回転駆動し、主軸5の回転駆動に基づいて偏心カム20が回転駆動する。偏心カム20の回転に基づいてアーム付き環状部材21が、偏心カム20の偏心分だけ左右方向に往復移動する。
それ故、アーム部21aに摺動ピン25を介して連結したレバー部材23が回動軸22を中心として揺動する(図6の矢印参照)。レバー部材23の揺動が、回動軸22に連結した第1レバー24に伝わり、第1レバー24も揺動する(図7参照)。レバー部材23及び第1レバー24の揺動角度は、レバー部材23に設けた円弧穴23a内で摺動ピン25を移動させることで調節可能となっている。
【0025】
間欠押え上下動機構12について説明する。図3,図4,図7に示すように、間欠押え上下動機構12は、第1リンク30、第2リンク31及び第3リンク32を備えている。第1リンク30は、横向きに配設してある。第1リンク30の左端部は、第1レバー24の下部に連結してある。
【0026】
第2リンク31は、縦リンク部31aと横リンク部31bとからなり且つ正面視にてL字形に一体形成してある。縦リンク部31aの上端部は第1リンク30の右端部に回動自在に連結してある。横リンク部31bの左端部は、上下向きの連結リンク33の上端部に連結してある。この連結リンク33の下端部に押え棒抱き34を介して押え棒7が固着してある。押え棒抱き34は、押え棒7の上下方向の途中部に固定してある。押え棒7の下端部に間欠押え6が着脱可能に固定してある。
【0027】
図3に示すように、縫針9は押え部6aの中央部を通過して上下動する。それ故、図2に示すように、縫針9の目孔から延びる上糸15も押え部6aの内部を通る。
【0028】
第3リンク32は、第2リンク31の横リンク部31bの前部に重ねて配置してある。第3リンク32の右端部は、第2リンク31の縦リンク部31aと横リンク部31bの連結部分に連結してある。第3リンク32の左端部の支持軸32aは、機枠Fに設けた支持部(図示略)に支持してある。
【0029】
図5に示すように、第3リンク32は、第2リンク31の後側にバネ受け部32aを有する。バネ受け部32aは、押え棒7に外装した圧縮コイルバネ35のバネ力に基づいて常に下向きに付勢してある。水平方向に対する第3リンク32の傾き角度は、後述する間欠押え位置変更機構13の動作に基づいて変更することができる。
【0030】
第1,第2,第3リンク30〜32は、針棒8が、例えば最上位置から僅かに下がった縫製停止位置のときに、平行リンクとなる。このとき、図7,図8に示すように、第1レバー24と第1リンク30の連結点をP1、第1リンク30と第2リンク31の連結点をP2、第2リンク31と第3リンク32の連結点をP3、第3リンク32と機枠Fとの連結点をP4とすると、辺P1−P2と辺P4−P3とが平行となり、且つ辺P2−P3と辺P1−P4とが平行となる。
【0031】
ミシンモータ72が回転すると、主軸5が回転駆動する。主軸5が回転駆動すると、前述したように第1レバー24が揺動し、第1レバー24の揺動が第1リンク30を介して第2リンク31に伝わる。図7の矢印に示すように、第2リンク31は、第3リンク32との連結点P3を回動中心として揺動するので、第2リンク31の横リンク部31bの左端部が上下動する。横リンク部31bの左端部に連結リンク33及び押え棒抱き34を介して連結した押え棒7及び間欠押え6が上下動する。それ故、間欠押え6は、針棒8の上下動に連動して所定の上下動範囲で上下動する。すなわち、第1リンク30は主軸5の回転駆動を第1レバー24の揺動に変換して第2リンク31に伝達する。第2リンク31は第1リンク30が変換した揺動を間欠押え6に伝達して、間欠押え6を上下動させている。
【0032】
間欠押え6の上下動位置を変更する間欠押え位置変更機構13について説明する。図1に示すように、脚柱部3内に、駆動系を収納した駆動部ケース40が設けてある。図3に示すように、駆動部ケース40は、カム体42を固着したカム軸41を回転可能に支持する。間欠押え用パルスモータ43(図1参照)は、駆動部ケース40の外側に取付けている。間欠押え用パルスモータ43は、ギヤ機構(図示省略)を介してカム軸41を回転駆動する。
【0033】
間欠押え用パルスモータ43は、駆動パルス数に応じて回転位置を高精度に変更することができる。カム体42のカム面は、間欠押え用パルスモータ43を駆動する駆動パルス数に比例して、間欠押え6が高くなるように設定してある。
【0034】
駆動部ケース40の内部には、カム軸41の上方にある支持軸44を介して側面視にて略L字状の揺動レバー45を支持してある。揺動レバー45の下端部は、カム体42に外側から当接する従動輪46を回転可能に支持している。揺動レバー45の上端部は、前後方向に延びる連結ロッド47の後端部を連結している。図1に示すように、連結ロッド47は、アーム部4の内部において前方に延びている。機枠Fに回動可能に支持した支持レバー48の後端部は、連結ロッド47の前端部と連結している。図5に示すように、前方に延びる支持レバー48の前端部48aが、第3リンク32のバネ受け部32aに下側から当接して支持している。
【0035】
間欠押え用パルスモータ43の駆動に基づいてカム軸41及びカム体42を所定角度だけ正回転駆動(図3において時計回り)させた場合、連結ロッド47は後方に移動し、支持レバー48が時計回り(図5において)に回動する。それ故、支持レバー48の前端部48aは上昇し、圧縮コイルバネ35のバネ力に対抗して第3リンク32が上方に持ち上がる。図7は第3リンク32を上方に持ち上げた状態を示し、右下降姿勢(図8に示す)から、右上昇姿勢(図7に示す)に切換わる。図7に示す状態のとき、回動中心である連結点P3が上昇するので、間欠押え6の位置が高くなる。
【0036】
図7の実線で示す間欠押え6の位置を上限位置、二点鎖線で示す間欠押え6の位置を下限位置とする矢印で示した上下動範囲で、間欠押え6が針棒8の上下動に連動して上下動する。該上下動範囲の位置は、前記間欠押え位置変更機構13で変更することができる。
【0037】
間欠押え用パルスモータ43の駆動に基づいてカム軸41及びカム体42を所定角度だけ逆回転駆動させた場合、連結ロッド47は前方に移動し、支持レバー48が反時計回り(図5において)に回動する。支持レバー48の前端部48aは下降し、圧縮コイルバネ35のバネ力に基づいて第3リンク32を下方に押し下げる。
【0038】
図8は第3リンク32を下方に押し下げて、右下降姿勢に切換えた状態を示す。このとき、回動中心である連結点P3が下降するので、間欠押え6を押し下げて、間欠押え6の位置が低くなる。前述したように間欠押え位置変更機構13は、間欠押え6の下限位置を針板の上面と同じ位置に設定することができる。
【0039】
前述したように、間欠押え6の位置を図7で示す位置とすると、間欠押え6は、縫針9の上下動に同期して針板2a上面に当接しない位置で上下動する。間欠押え用パルスモータ43の回転量を調節することに基づいて、間欠押え6の上下動範囲の位置(上下動位置)を、針板2aの上面から任意の位置に設定することができる。本実施例においては、上下動範囲の下限位置を針板2aの上面から上方の0〜10mmの任意の位置に設定できる。糸巻き処理開始時に間欠押え6が上下動しても針板2aに接触しない位置として、間欠押え6の上下動範囲の下限位置を針板2aの上面から上方5mmの位置とする。
【0040】
次に、糸巻機構50について説明する。
図9に示すように、アーム部4の上部には下糸51をボビン52に巻回する糸巻機構50が設けてある。プーリ5aは、主軸5に設けてある。糸巻機構50では、先端がアーム部4の機枠Fから突出して、ボビン52を装着可能な糸巻軸53が糸巻車54と一体に形成してある。前後方向(図9において左右方向)に変位可能な糸巻軸受55は、糸巻軸53を支持している。糸巻軸受55は、糸巻車54がプーリ5aに当接する回転位置と糸巻車54がプーリ5aに当接しない退避位置との間を移動可能である。尚、糸巻車54はプーリ5aに当接してプーリ5aの回転を糸巻軸53に伝達するものである。糸巻車54の周縁はゴム輪54aで被覆してある。
【0041】
糸巻軸53におけるアーム部4の機枠Fより突出した部分の近傍には、ボビン押え57が設けてある。ボビン押え57は、アーム4の機枠Fに回動自在に挿通したボビン押え軸56に調節ねじ56aによって固定してある。調節ねじ56aはボビン押え57のボビン押え軸56への取り付け位置を調節するものである。ボビン押え57は、ボビン52に巻回した下糸51に当接する。ボビン押え57は、ボビン52の糸巻量に応じてボビン押え軸56を中心に回動する。
【0042】
ボビン押え57にはボビン52の鍔部52aを遊嵌する穴部57aを設けることで、ボビン押え57の操作部を幅広くしている。糸巻軸受55は、リンク機構58を介してボビン押え軸56と接続してある。糸巻軸受55は、ボビン押え57を操作することで回転位置と退避位置との間で移動する。
【0043】
作業者は、糸巻軸53にボビン52を装着した後、ボビン押え47を操作して糸巻軸受55をプーリ5aに当接する回転位置に移動させる。その後、糸巻きキー67(図10参照)をONした状態で起動ペダル70(図10参照)をONすることで糸巻き処理を実行する。ミシンモータ72の駆動に基づいて主軸5がプーリ5aと共に回転し、プーリ5aの回転に伴って糸巻軸55とボビン52が回転する。それ故、下糸51をボビン52に巻回すことができる。起動ペダル70をOFFした場合、ミシンモータ72の駆動が停止し糸巻き処理を終了する。
【0044】
次に、ミシン1の制御系の電気的構成について説明する。
図10に示すように、制御装置60は、CPU62とROM63とRAM64とを含むマイクロコンピュータと、マイクロコンピュータにデータバスなどを介して接続した入力インターフェース61及び出力インターフェース65等を有する。
【0045】
入力インターフェース61には、糸巻きキー67を有する操作パネル66と、プログラマ68と、作業者による足踏み操作により間欠押え6の位置設定指令を出力する押えペダル69と、作業者による足踏み操作により縫製開始指令を出力する起動ペダル70等が接続してある。出力インターフェース65には、ミシンモータ72と、XY送り用パルスモータ74と、間欠押え用パルスモータ43が夫々駆動回路71,73,75を介して接続してある。
【0046】
操作パネル66は、間欠押え6の下限位置を指示するデータや、糸巻き処理開始時に設定する間欠押え6の位置を指示するデフォルト値等を入力可能に構成してある。糸巻きキー67は、作業者の押圧操作により糸巻き指令を出力するものである。起動ペダル70は、糸巻き処理を実行中に作業者の足踏み操作により糸巻き中止指令を出力する。尚、操作パネル66が間欠押え位置入力手段に相当し、糸巻きキー67が指示手段に相当し、起動ペダル70が中止指示手段に相当する。
【0047】
プログラマ68は、加工布Wに縫目を形成するための縫製データを作成する装置である。プログラマ68が備えるテンキーや機能キーを操作することで、所望の模様の縫製データを作成できる。プログラマ68で作成した縫製データについてはRAM64が記憶する。尚、縫製データについては、予めROM63又はメモリーカード等の外部記憶装置に記憶していてもよく、この場合、ROM63等から読み出した縫製データをRAM64に記憶してから縫製処理を実行する。
【0048】
ROM63には、各種の駆動機構の駆動制御と各種模様を選択する模様選択制御と各種の表示制御とを含む縫製制御の制御プログラムと、間欠押え位置制御の制御プログラム(図12参照)と、間欠押え下降処理の制御プログラム(図13参照)と、糸巻き処理の制御プログラム(図14参照)と、縫製処理の制御プログラム(図15参照)等を予め格納してある。
【0049】
RAM64は、操作パネル66を介して入力した間欠押え6の下限位置を指示するデータと、操作パネル66を介して入力したデフォルト値を記憶する。図11に示すように、RAM64は、プログラマ68で作成した加工布に縫目を形成するための針落ち点を指示する複数のステッチデータと、間欠押え6の下限位置を指示する間欠押えデータとを含む縫製データを記憶する。尚、RAM64がデフォルト値記憶手段と縫製データ記憶手段に相当する。
【0050】
次に、加工布に縫目を形成するための縫製データについて説明する。
図11に示すように、縫製データは、読み出す順序を示すデータ順位と、縫製データの種類と各種設定と指示値等からなるデータ内容とで構成してある。本実施例において縫製データは、データ順位0から12の合計13個のデータからなる。縫製データは、ステッチデータと、間欠押えデータと、エンドデータとを含んでいる。
【0051】
ステッチデータは、X方向(図1において前後方向)とY方向(図1において左右方向)とからなる相対的な座標により指示するものである。間欠押えデータは、間欠押え6の下限位置を設定するものである。エンドデータは、縫製処理の終了を指示するものである。尚、縫製データとして、一時停止データ、糸の色を示す糸色データ、針棒8の上下動の速度を指示する縫製速度データ等、縫製に必要な各種パラメータを指示するデータを含むようにしてもよい。
【0052】
次に、図11の縫製データと、図12〜図15のフローチャートに基づいて制御装置60が実行する間欠押え位置制御について説明する。尚、図中Si(i=1,2・・・)は各ステップを示す。
先ず、作業者がミシン1の電源をONし縫製データを選択すると、XY送り用パルスモータ74を駆動し縫製開始位置に針位置を移動させる(S1)。縫製データを順に読み出すためのデータ順位カウンタNを0に設定する(S2)。次に、作業者が押えペダル69をONにした場合(S3;Yes)、間欠押え6が待機位置にあるか否かを判定する。待機位置とは、作業者が針板2a上に加工布を配置するのに支障がない間欠押え6の位置であり、縫製時の高さよりも高い位置である。
【0053】
間欠押え6が待機位置にある場合(S4;Yes)、間欠押え下降処理を実行する(S6)。
間欠押え下降処理を実行した場合、データ順位カウンタNの値をチェック用カウンタMにコピーする(S20)。チェック用カウンタMが示すデータ内容が間欠押えデータの場合(S21;Yes)、間欠押え用パルスモータ43を駆動し間欠押えデータが示す位置に間欠押え6を下降させた後(S25)、S7へ移行する。ここで、データ順位カウンタNおよびチェック用カウンタMは0であるので、図11の縫製データにおいては間欠押え6の位置が0に変更される。尚、この位置は下限位置を表し、位置が0とは間欠押え6が針板2aの上面と同じ位置(当接する)である。
【0054】
縫製データ中に1針目の間欠押え6の位置が指示されていない場合は、チェック用カウンタMが示すデータ順位がステッチデータであると判断し(S21;No,S22;Yes)、作業者が操作パネル66を介して予め設定しておいた下限位置に間欠押え6を下降させた後(S24)、S7へ移行する。例えば、糸色データや縫製速度データなど、チェック用カウンタMが示すデータ順位のデータ内容が間欠押えデータでもステッチデータでもない場合は(S21;No,S22;No)、チェック用カウンタMを1だけインクリメントした後(S23)、S21に戻る。
既に間欠押え6が下降していて待機位置にない場合は(S4;No)、間欠押え6を待機位置に上昇させた後(S5)、S7へ移行する。
【0055】
S7においては押えペダル69のOFF待ち状態となり、作業者が押えペダル69をOFFにした場合は(S7;Yes,S3;No)、次に起動ペダル70がONしたか否かを判定する(S8)。作業者が起動ペダル70をONにし、且つ糸巻きキー67もONした場合(S8;Yes,S9;Yes)、糸巻き処理を実行する(S10)。
【0056】
糸巻き処理を実行すると、先ず、RAM64に記憶したデフォルト値を読み出して間欠押え6をデフォルト値で示す位置に上昇させる(S30)。本実施例においてデフォルト値は5となっており、間欠押え6は針板2aの上面から5mm上方の位置となる。次に、ミシンモータ72を起動させて糸巻機構50による糸巻き処理を実行する。糸巻き処理を実行すると、起動ペダル70のOFF待ち状態となる。作業者が起動ペダル70をOFFにした場合(S32;Yes)、ミシンモータ72の駆動を停止させてから(S33)、S24,S25の場合と同様に、間欠押え6を予め設定した位置に下降させて(S34)、S3に戻る。
【0057】
次に、作業者が起動ペダル70をONにした場合において(S8;Yes)、糸巻きキー67がOFFされていた場合は(S9;No)、縫製処理を実行する(S11)。縫製処理を実行すると、先ずミシンモータ72を起動させた後(S40)、データ順位Nのデータを読み込む(S41)。データ順位Nがステッチデータか否かを判定し、ステッチデータである場合において(S42;Yes)、送り開始タイミングになったとき(S43;Yes)、XY送り用パルスモータ74を駆動し縫製を行う(S44)。次に、データ順位Nを1だけインクリメントした後(S47)、S41に戻る。
【0058】
データ順位Nが間欠押えデータである場合は(S42;No,S45;Yes)、間欠押えデータに基づいて間欠押え6の位置を変更する(S46)。次に、データ順位Nを1だけインクリメントした後(S47)、S41に戻る。図11においてデータ順位0の動作を行っているときは、S6において間欠押え下降処理を実行しているので、間欠押えデータに基づいて間欠押え6は針板2aと当接している。それ故、間欠押え6はその位置を維持する。図11においてデータ順位2の動作を行っているときは、間欠押えデータに基づいて間欠押え6を針板2aから3mm上方の位置に変更する。
【0059】
S45においてデータ順位Nが間欠押えデータでない場合、つまり、データ順位12の動作を行っている場合、つまり、エンドデータである場合は(S45;No)、ミシンモータ72の駆動を停止させる(S48)。次に、間欠押え6を待機位置に上昇させた後(S12)、S1に戻る。尚、図12に示すフローチャートのS9の処理を実行するCPU62が検出手段に相当する。図14に示すフローチャートのS30〜S34の処理を実行するCPU62が下糸巻き制御手段に相当する。図14に示すフローチャートのS32の処理を実行するCPU62が中止検出手段に相当する。
【0060】
次に、以上説明したミシン1の作用、効果について説明する。
糸巻きキー67による糸巻きの指示を検出した場合、間欠押え6が上下動しても針板2aに接触しない位置に間欠押え6の上下動位置を変更するように間欠押え位置変更機構13を制御した後、主軸5を回転駆動するので、糸巻き処理時に主軸5の回転に連動して間欠押え6が上下動しても、間欠押え6が針板2aに衝突しない。それ故、縫製開始時に間欠押え6を針板2aの上面と同じ位置に設定してから1針目の縫製を行う場合に糸巻き処理を実行しても、間欠押え6と針板2aとの衝突により発生する騒音を防止することができる。この場合、間欠押え6の上下動位置を自動で変更することができるので、ミシン1の使い勝手が良くなる。
【0061】
糸巻きの中止の指示を検出した場合、主軸5の回転駆動を停止した後、間欠押え6の上下動位置を予め設定しておいた針板2aの上面と同じ位置に変更するように間欠押え位置変更機構13を制御するので、糸巻き処理を行った後に1針目の縫製を行う場合に、加工布Wと間欠押え6とで上糸15を挟み込むことで縫い始めの糸抜けを防止することができる。
【0062】
間欠押え6の上下動位置を入力する操作パネル66を設けたので、操作パネル66で入力した間欠押え6の上下動位置に基づいて間欠押え6の上下動位置を変更することができる。それ故、縫製データ中に間欠押えデータを含んでいない場合にも、1針目の縫製時に間欠押え6を針板2aの上面と同じ位置に自動で変更することができる。上下動位置は、間欠押え6が上下動する上下動範囲の下限位置で設定するので、糸巻き処理時に間欠押え6が上下動しても針板2aに接触しない位置に間欠押え6を容易且つ確実に変更することができる。
【0063】
次に、前記実施例を部分的に変更した変更例について説明する。
1]間欠押え位置制御を、ほぼ長方形の平面形状の外押えを上下動させる外押え機構を備えたミシンに適用することも可能である。この場合、図13において間欠押え下降処理を実行したときは、先ず加工布Wを押圧する位置に外押えを下降させた後、S20以降の処理を順に行う。また、S5においては間欠押え6と外押えを待機位置に上昇させる。
2]本実施例においては、間欠押え6の上下動位置として上下動範囲の下限位置で規定しているが、上限位置で規定してもよい。また、上下動範囲の中央の位置で規定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施例に係るミシンの斜視図である。
【図2】縫製待機時におけるミシンの正面図である。
【図3】間欠押え上下動駆動装置の斜視図である。
【図4】間欠押え上下動駆動装置の要部の斜視図である。
【図5】間欠押え上下動駆動装置の右側面図である。
【図6】揺動機構の正面図である。
【図7】間欠押えが上位置にあるときの間欠押え上下動機構の正面図である。
【図8】間欠押えが下位置にあるときの間欠押え上下動機構の正面図である。
【図9】糸巻機構の側面図である。
【図10】ミシンの制御系を示すブロック図である。
【図11】縫製データを説明する為の説明図である。
【図12】間欠押え位置制御プログラムのフローチャートである。
【図13】間欠押え下降処理の制御プログラムのフローチャートである。
【図14】糸巻き処理の制御プログラムのフローチャートである。
【図15】縫製処理の制御プログラムのフローチャートである。
【符号の説明】
【0065】
1 ミシン
5 主軸
6 間欠押え
8 針棒
13 間欠押え位置変更機構
50 糸巻機構
51 下糸
52 ボビン
62 CPU
64 RAM
66 操作パネル
67 糸巻きキー
70 起動ペダル
W 加工布
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンに関し、特に縫針が上昇する際に加工布の浮き上がりを防止する間欠押えと、間欠押えの位置を変更可能な間欠押え位置変更機構と、主軸の回転に連動して下糸をボビンに巻回させる糸巻機構とを備えたものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加工布に縫目を形成する場合に、縫針が上昇する際に加工布の浮き上がりを防止できるように、間欠押えを針棒の上下動と同期させて上下動させる間欠押え駆動装置を装備したミシンが普及している。
【0003】
特許文献1に記載のミシンには、縫製中に間欠押えの上下動により加工布を押圧可能な使用位置と、使用位置よりも上方の待機位置とに亙って間欠押えの設定位置を切替える切替機構(間欠押え位置変更機構に相当)を設けてある。間欠押えの位置を自在に設定することができるので、加工布の布厚に応じた適切な位置に設定することができる。
それ故、このミシンでは、縫製開始時に間欠押えの下限位置を針板の上面と同じ位置に設定して、加工布と間欠押えとで上糸を挟み込むことで縫い始めの糸抜けを防止し、上下糸が絡んだ後は、間欠押えの位置をやや上方に移動させて適切な押圧をするという使い方が可能である。
【0004】
糸抜けの防止についてもう少し詳細に説明する。
上糸を下糸に絡ませた縫目を形成するには、上糸がボビンを一回りする必要がある。ミシンでは、天秤が上糸を緩めるとともに釜が上糸を引き込んで一回りさせ、その後釜が引き込んだ分の上糸を天秤が引き上げて縫目を形成している。
しかしながら、縫い始めにおいては縫針の目孔を通過した上糸端部はどこにも拘束されていないので、釜が上糸を引き込む動作を行う際に、釜は前記上糸端部も引き込んでしまい、上糸が前記目孔から抜けるという問題があった。
【0005】
その問題を解決する目的で、間欠押えの下限位置を針板の上面と同じ位置に設定していた。間欠押えの上下動は針棒と同期しているので、加工布の厚みも考慮すれば、縫針が加工布に刺さっている期間、すなわち釜が上糸を引き込む動作をしている期間中、間欠押えと加工布との間に前記上糸端部が挟まれて、該上糸端部が縫針の目孔から抜けることが防止できる。
【0006】
さらに、特許文献2に開示してあるように、ミシン主軸の回転に連動して下糸をボビンに巻回させる糸巻機構を装備したミシンも普及している。糸巻機構を装備したミシンでは、操作パネルの糸巻きキーを押しながら起動ペダルを踏むことで、XYテーブルを移動させずにミシン主軸だけを回転させて糸巻き処理を行う。
【特許文献1】特開2008−43360号公報
【特許文献2】特開平7−275549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
工業用など生産性を重視するミシンでは、作業者の縫製開始操作で直ちに縫製を開始するように、縫製開始時の状態で各機構が待機するように設計している。それ故、縫製開始時に間欠押えの下限位置を針板の上面と同じ位置に設定してから1針目の縫製を行う場合、間欠押えは下限位置が針板の上面に接する位置で待機することになる。このときに作業者が糸巻き操作を行うと、糸巻き処理は縫製時の動作と関連なくミシン主軸だけが回転するので、ミシン主軸の回転に連動して針板上面に接する位置のままで間欠押えが上下動する。それ故、糸巻き処理の間、間欠押えが針板と衝突し続けるので騒音が発生するという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、縫製開始時に間欠押えを針板の上面と同じ位置に設定してから1針目の縫製を行う場合において、糸巻き処理時に間欠押えが針板に衝突するのを防止し、間欠押えと針板との衝突により発生する騒音を防止することができるミシンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1のミシンは、針棒の上下動に連動して上下動し且つ針板上の加工布を上方から押える間欠押えと、該間欠押えの上下動位置を変更可能な間欠押え位置変更機構と、ミシン主軸の回転に連動して下糸をボビンに巻回す糸巻機構とを備えたミシンにおいて、前記糸巻機構によって前記下糸を前記ボビンに巻回す下糸巻きを指示する指示手段と、前記指示手段によって前記下糸巻きの指示を検出する検出手段と、前記検出手段が前記指示手段による前記下糸巻きの指示を検出した場合、前記間欠押えが上下動しても前記針板に接触しない位置に前記間欠押えの上下動位置を変更するように前記間欠押え位置変更機構を制御した後、前記ミシン主軸を回転駆動する下糸巻き制御手段とを備えたことを特徴としている。
【0010】
このミシンでは、検出手段が指示手段による下糸巻きの指示を検出した場合、下糸巻き制御手段が、間欠押えが上下動しても針板に接触しない位置に間欠押えの上下動位置を変更するように間欠押え位置変更機構を制御する。次に、下糸巻き制御手段がミシン主軸を回転駆動し糸巻き処理を開始する。糸巻き処理時にミシン主軸の回転に連動して間欠押えが上下動するが、間欠押えが上下動しても針板に接触しない位置にあるので、間欠押えが針板に衝突しない。
【0011】
請求項2のミシンは、請求項1の発明において、前記糸巻機構による前記下糸巻きの中止を指示する中止指示手段と、前記中止指示手段によって前記下糸巻きの中止の指示を検出する中止検出手段とを更に備え、前記下糸巻き制御手段は、前記中止検出手段が前記下糸巻きの中止の指示を検出した場合、前記ミシン主軸の回転駆動を停止した後、前記間欠押えの上下動位置を予め設定した位置に変更するように前記間欠押え位置変更機構を制御することを特徴としている。
【0012】
請求項3のミシンは、請求項1又は2の発明において、前記間欠押えの前記上下動位置を入力する間欠押え位置入力手段を設けたことを特徴としている。
【0013】
請求項4のミシンは、請求項1〜3の何れかの発明において、前記上下動位置は、前記間欠押えが上下動する上下動範囲の下限位置で設定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、検出手段が指示手段による下糸巻きの指示を検出した場合、間欠押えが上下動しても針板に接触しない位置に間欠押えの上下動位置を変更するように間欠押え位置変更機構を制御した後、ミシン主軸を回転駆動する下糸巻き制御手段を備えたので、糸巻き処理時にミシン主軸の回転に連動して間欠押えが上下動しても、間欠押えが針板に衝突しない。それ故、縫製開始時に間欠押えを針板の上面と同じ位置に設定してから1針目の縫製を行う場合に糸巻き処理を実行しても、間欠押えと針板との衝突により発生する騒音を防止することができる。この場合、間欠押えの上下動位置を自動で変更することができるので、ミシンの使い勝手が良くなる。
【0015】
請求項2の発明によれば、下糸巻き制御手段は、中止検出手段が下糸巻きの中止の指示を検出した場合、ミシン主軸の回転駆動を停止した後、間欠押えの上下動位置を予め設定した位置に変更するように間欠押え位置変更機構を制御するので、糸巻き処理を行った後に1針目の縫製を行う場合に、加工布と間欠押えとで上糸を挟み込むことで縫い始めの糸抜けを防止することができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、間欠押えの上下動位置を入力する間欠押え位置入力手段を設けたので、間欠押え位置入力手段で入力した間欠押えの上下動位置に基づいて間欠押えの上下動位置を変更することができる。それ故、縫製データ中に間欠押えデータを含んでいない場合にも、1針目の縫製時に間欠押えを針板の上面と同じ位置に自動で変更することができる。
【0017】
請求項4の発明によれば、上下動位置は、間欠押えが上下動する上下動範囲の下限位置で設定するので、糸巻き処理時に間欠押えが上下動しても針板に接触しない位置に間欠押えを容易且つ確実に変更することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施する為の最良の形態について説明する。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施例について図面に基づいて説明する。
図1に示すように、ミシン1は、ベッド部2と、このベッド部2の後端部(図1において左上が後方とする。)に立設された脚柱部3と、この脚柱部3の上端から前方に延びるアーム部4を備えている。アーム部4の内部には、主軸5が前後方向に配設してある。ミシンモータ72(図10参照)は、主軸5を回転駆動する。図1,図2に示すように、アーム部4の前端部には、押え棒7及び針棒8(図1では省略してある)を設けてある。アーム部4の下方に突出する針棒8の下端には、縫針9が着脱可能に装着してある。アーム部4の下方に突出する押え棒7の下端には、筒形の布押え部6aを有する間欠押え6が装着してある。間欠押え6は、針棒8の上下動に連動して上下動し且つ加工布Wを上方から押える。
【0020】
図1〜図6を参照して間欠押え上下駆動装置10について説明する。間欠押え上下駆動装置10は、揺動機構11、間欠押え上下動機構12及び間欠押え位置変更機構13を備えている。揺動機構11は、主軸5の回転駆動力を受けて第1レバー24を揺動させる。間欠押え上下動機構12は、第1レバー24の先端の出力端部分に連結して間欠押え6を上下動させる。間欠押え位置変更機構13は、間欠押え上下動機構12による間欠押え6が上下動する範囲の位置(上下動位置)を変更する。
【0021】
図6に示すように揺動機構11は、偏心カム20、アーム付き環状部材21、回動軸22、レバー部材23を備えている。偏心カム20は、主軸5の前端部近傍に取付けてある。アーム付き環状部材21は、偏心カム20に外嵌した環状部21bと、環状部21bの外周から突出するアーム部21aとを有する。
【0022】
回転軸22は、アーム付き環状部材21よりも前側で且つ高い位置に主軸5と平行に前後方向に向けて機枠F(図1参照)に回動可能に支持してある。回動軸22の後端部はレバー部材23の上端部が固着してある。回動軸22の前端部は、第1レバー24の上端部が固着してある。
【0023】
図6に示すように、レバー部材23には、偏心カム20の中心(これは、主軸5の軸心と一致している)の周りに、半径Rの円弧形状をなす所定幅の円弧穴23aが形成してある。円弧穴23aには、アーム付き環状部材21から左方に突出するアーム部21aの左端に固定した摺動ピン25が回動可能に連結してある。アーム部21aの連結位置は、円弧穴23aの長さ範囲内で、摺動ピン25の位置を変えることで任意の位置に切換え可能となっている。
【0024】
縫製作業を開始すると、主軸5が所定の回転方向(正面から見て時計回り)に回転駆動し、主軸5の回転駆動に基づいて偏心カム20が回転駆動する。偏心カム20の回転に基づいてアーム付き環状部材21が、偏心カム20の偏心分だけ左右方向に往復移動する。
それ故、アーム部21aに摺動ピン25を介して連結したレバー部材23が回動軸22を中心として揺動する(図6の矢印参照)。レバー部材23の揺動が、回動軸22に連結した第1レバー24に伝わり、第1レバー24も揺動する(図7参照)。レバー部材23及び第1レバー24の揺動角度は、レバー部材23に設けた円弧穴23a内で摺動ピン25を移動させることで調節可能となっている。
【0025】
間欠押え上下動機構12について説明する。図3,図4,図7に示すように、間欠押え上下動機構12は、第1リンク30、第2リンク31及び第3リンク32を備えている。第1リンク30は、横向きに配設してある。第1リンク30の左端部は、第1レバー24の下部に連結してある。
【0026】
第2リンク31は、縦リンク部31aと横リンク部31bとからなり且つ正面視にてL字形に一体形成してある。縦リンク部31aの上端部は第1リンク30の右端部に回動自在に連結してある。横リンク部31bの左端部は、上下向きの連結リンク33の上端部に連結してある。この連結リンク33の下端部に押え棒抱き34を介して押え棒7が固着してある。押え棒抱き34は、押え棒7の上下方向の途中部に固定してある。押え棒7の下端部に間欠押え6が着脱可能に固定してある。
【0027】
図3に示すように、縫針9は押え部6aの中央部を通過して上下動する。それ故、図2に示すように、縫針9の目孔から延びる上糸15も押え部6aの内部を通る。
【0028】
第3リンク32は、第2リンク31の横リンク部31bの前部に重ねて配置してある。第3リンク32の右端部は、第2リンク31の縦リンク部31aと横リンク部31bの連結部分に連結してある。第3リンク32の左端部の支持軸32aは、機枠Fに設けた支持部(図示略)に支持してある。
【0029】
図5に示すように、第3リンク32は、第2リンク31の後側にバネ受け部32aを有する。バネ受け部32aは、押え棒7に外装した圧縮コイルバネ35のバネ力に基づいて常に下向きに付勢してある。水平方向に対する第3リンク32の傾き角度は、後述する間欠押え位置変更機構13の動作に基づいて変更することができる。
【0030】
第1,第2,第3リンク30〜32は、針棒8が、例えば最上位置から僅かに下がった縫製停止位置のときに、平行リンクとなる。このとき、図7,図8に示すように、第1レバー24と第1リンク30の連結点をP1、第1リンク30と第2リンク31の連結点をP2、第2リンク31と第3リンク32の連結点をP3、第3リンク32と機枠Fとの連結点をP4とすると、辺P1−P2と辺P4−P3とが平行となり、且つ辺P2−P3と辺P1−P4とが平行となる。
【0031】
ミシンモータ72が回転すると、主軸5が回転駆動する。主軸5が回転駆動すると、前述したように第1レバー24が揺動し、第1レバー24の揺動が第1リンク30を介して第2リンク31に伝わる。図7の矢印に示すように、第2リンク31は、第3リンク32との連結点P3を回動中心として揺動するので、第2リンク31の横リンク部31bの左端部が上下動する。横リンク部31bの左端部に連結リンク33及び押え棒抱き34を介して連結した押え棒7及び間欠押え6が上下動する。それ故、間欠押え6は、針棒8の上下動に連動して所定の上下動範囲で上下動する。すなわち、第1リンク30は主軸5の回転駆動を第1レバー24の揺動に変換して第2リンク31に伝達する。第2リンク31は第1リンク30が変換した揺動を間欠押え6に伝達して、間欠押え6を上下動させている。
【0032】
間欠押え6の上下動位置を変更する間欠押え位置変更機構13について説明する。図1に示すように、脚柱部3内に、駆動系を収納した駆動部ケース40が設けてある。図3に示すように、駆動部ケース40は、カム体42を固着したカム軸41を回転可能に支持する。間欠押え用パルスモータ43(図1参照)は、駆動部ケース40の外側に取付けている。間欠押え用パルスモータ43は、ギヤ機構(図示省略)を介してカム軸41を回転駆動する。
【0033】
間欠押え用パルスモータ43は、駆動パルス数に応じて回転位置を高精度に変更することができる。カム体42のカム面は、間欠押え用パルスモータ43を駆動する駆動パルス数に比例して、間欠押え6が高くなるように設定してある。
【0034】
駆動部ケース40の内部には、カム軸41の上方にある支持軸44を介して側面視にて略L字状の揺動レバー45を支持してある。揺動レバー45の下端部は、カム体42に外側から当接する従動輪46を回転可能に支持している。揺動レバー45の上端部は、前後方向に延びる連結ロッド47の後端部を連結している。図1に示すように、連結ロッド47は、アーム部4の内部において前方に延びている。機枠Fに回動可能に支持した支持レバー48の後端部は、連結ロッド47の前端部と連結している。図5に示すように、前方に延びる支持レバー48の前端部48aが、第3リンク32のバネ受け部32aに下側から当接して支持している。
【0035】
間欠押え用パルスモータ43の駆動に基づいてカム軸41及びカム体42を所定角度だけ正回転駆動(図3において時計回り)させた場合、連結ロッド47は後方に移動し、支持レバー48が時計回り(図5において)に回動する。それ故、支持レバー48の前端部48aは上昇し、圧縮コイルバネ35のバネ力に対抗して第3リンク32が上方に持ち上がる。図7は第3リンク32を上方に持ち上げた状態を示し、右下降姿勢(図8に示す)から、右上昇姿勢(図7に示す)に切換わる。図7に示す状態のとき、回動中心である連結点P3が上昇するので、間欠押え6の位置が高くなる。
【0036】
図7の実線で示す間欠押え6の位置を上限位置、二点鎖線で示す間欠押え6の位置を下限位置とする矢印で示した上下動範囲で、間欠押え6が針棒8の上下動に連動して上下動する。該上下動範囲の位置は、前記間欠押え位置変更機構13で変更することができる。
【0037】
間欠押え用パルスモータ43の駆動に基づいてカム軸41及びカム体42を所定角度だけ逆回転駆動させた場合、連結ロッド47は前方に移動し、支持レバー48が反時計回り(図5において)に回動する。支持レバー48の前端部48aは下降し、圧縮コイルバネ35のバネ力に基づいて第3リンク32を下方に押し下げる。
【0038】
図8は第3リンク32を下方に押し下げて、右下降姿勢に切換えた状態を示す。このとき、回動中心である連結点P3が下降するので、間欠押え6を押し下げて、間欠押え6の位置が低くなる。前述したように間欠押え位置変更機構13は、間欠押え6の下限位置を針板の上面と同じ位置に設定することができる。
【0039】
前述したように、間欠押え6の位置を図7で示す位置とすると、間欠押え6は、縫針9の上下動に同期して針板2a上面に当接しない位置で上下動する。間欠押え用パルスモータ43の回転量を調節することに基づいて、間欠押え6の上下動範囲の位置(上下動位置)を、針板2aの上面から任意の位置に設定することができる。本実施例においては、上下動範囲の下限位置を針板2aの上面から上方の0〜10mmの任意の位置に設定できる。糸巻き処理開始時に間欠押え6が上下動しても針板2aに接触しない位置として、間欠押え6の上下動範囲の下限位置を針板2aの上面から上方5mmの位置とする。
【0040】
次に、糸巻機構50について説明する。
図9に示すように、アーム部4の上部には下糸51をボビン52に巻回する糸巻機構50が設けてある。プーリ5aは、主軸5に設けてある。糸巻機構50では、先端がアーム部4の機枠Fから突出して、ボビン52を装着可能な糸巻軸53が糸巻車54と一体に形成してある。前後方向(図9において左右方向)に変位可能な糸巻軸受55は、糸巻軸53を支持している。糸巻軸受55は、糸巻車54がプーリ5aに当接する回転位置と糸巻車54がプーリ5aに当接しない退避位置との間を移動可能である。尚、糸巻車54はプーリ5aに当接してプーリ5aの回転を糸巻軸53に伝達するものである。糸巻車54の周縁はゴム輪54aで被覆してある。
【0041】
糸巻軸53におけるアーム部4の機枠Fより突出した部分の近傍には、ボビン押え57が設けてある。ボビン押え57は、アーム4の機枠Fに回動自在に挿通したボビン押え軸56に調節ねじ56aによって固定してある。調節ねじ56aはボビン押え57のボビン押え軸56への取り付け位置を調節するものである。ボビン押え57は、ボビン52に巻回した下糸51に当接する。ボビン押え57は、ボビン52の糸巻量に応じてボビン押え軸56を中心に回動する。
【0042】
ボビン押え57にはボビン52の鍔部52aを遊嵌する穴部57aを設けることで、ボビン押え57の操作部を幅広くしている。糸巻軸受55は、リンク機構58を介してボビン押え軸56と接続してある。糸巻軸受55は、ボビン押え57を操作することで回転位置と退避位置との間で移動する。
【0043】
作業者は、糸巻軸53にボビン52を装着した後、ボビン押え47を操作して糸巻軸受55をプーリ5aに当接する回転位置に移動させる。その後、糸巻きキー67(図10参照)をONした状態で起動ペダル70(図10参照)をONすることで糸巻き処理を実行する。ミシンモータ72の駆動に基づいて主軸5がプーリ5aと共に回転し、プーリ5aの回転に伴って糸巻軸55とボビン52が回転する。それ故、下糸51をボビン52に巻回すことができる。起動ペダル70をOFFした場合、ミシンモータ72の駆動が停止し糸巻き処理を終了する。
【0044】
次に、ミシン1の制御系の電気的構成について説明する。
図10に示すように、制御装置60は、CPU62とROM63とRAM64とを含むマイクロコンピュータと、マイクロコンピュータにデータバスなどを介して接続した入力インターフェース61及び出力インターフェース65等を有する。
【0045】
入力インターフェース61には、糸巻きキー67を有する操作パネル66と、プログラマ68と、作業者による足踏み操作により間欠押え6の位置設定指令を出力する押えペダル69と、作業者による足踏み操作により縫製開始指令を出力する起動ペダル70等が接続してある。出力インターフェース65には、ミシンモータ72と、XY送り用パルスモータ74と、間欠押え用パルスモータ43が夫々駆動回路71,73,75を介して接続してある。
【0046】
操作パネル66は、間欠押え6の下限位置を指示するデータや、糸巻き処理開始時に設定する間欠押え6の位置を指示するデフォルト値等を入力可能に構成してある。糸巻きキー67は、作業者の押圧操作により糸巻き指令を出力するものである。起動ペダル70は、糸巻き処理を実行中に作業者の足踏み操作により糸巻き中止指令を出力する。尚、操作パネル66が間欠押え位置入力手段に相当し、糸巻きキー67が指示手段に相当し、起動ペダル70が中止指示手段に相当する。
【0047】
プログラマ68は、加工布Wに縫目を形成するための縫製データを作成する装置である。プログラマ68が備えるテンキーや機能キーを操作することで、所望の模様の縫製データを作成できる。プログラマ68で作成した縫製データについてはRAM64が記憶する。尚、縫製データについては、予めROM63又はメモリーカード等の外部記憶装置に記憶していてもよく、この場合、ROM63等から読み出した縫製データをRAM64に記憶してから縫製処理を実行する。
【0048】
ROM63には、各種の駆動機構の駆動制御と各種模様を選択する模様選択制御と各種の表示制御とを含む縫製制御の制御プログラムと、間欠押え位置制御の制御プログラム(図12参照)と、間欠押え下降処理の制御プログラム(図13参照)と、糸巻き処理の制御プログラム(図14参照)と、縫製処理の制御プログラム(図15参照)等を予め格納してある。
【0049】
RAM64は、操作パネル66を介して入力した間欠押え6の下限位置を指示するデータと、操作パネル66を介して入力したデフォルト値を記憶する。図11に示すように、RAM64は、プログラマ68で作成した加工布に縫目を形成するための針落ち点を指示する複数のステッチデータと、間欠押え6の下限位置を指示する間欠押えデータとを含む縫製データを記憶する。尚、RAM64がデフォルト値記憶手段と縫製データ記憶手段に相当する。
【0050】
次に、加工布に縫目を形成するための縫製データについて説明する。
図11に示すように、縫製データは、読み出す順序を示すデータ順位と、縫製データの種類と各種設定と指示値等からなるデータ内容とで構成してある。本実施例において縫製データは、データ順位0から12の合計13個のデータからなる。縫製データは、ステッチデータと、間欠押えデータと、エンドデータとを含んでいる。
【0051】
ステッチデータは、X方向(図1において前後方向)とY方向(図1において左右方向)とからなる相対的な座標により指示するものである。間欠押えデータは、間欠押え6の下限位置を設定するものである。エンドデータは、縫製処理の終了を指示するものである。尚、縫製データとして、一時停止データ、糸の色を示す糸色データ、針棒8の上下動の速度を指示する縫製速度データ等、縫製に必要な各種パラメータを指示するデータを含むようにしてもよい。
【0052】
次に、図11の縫製データと、図12〜図15のフローチャートに基づいて制御装置60が実行する間欠押え位置制御について説明する。尚、図中Si(i=1,2・・・)は各ステップを示す。
先ず、作業者がミシン1の電源をONし縫製データを選択すると、XY送り用パルスモータ74を駆動し縫製開始位置に針位置を移動させる(S1)。縫製データを順に読み出すためのデータ順位カウンタNを0に設定する(S2)。次に、作業者が押えペダル69をONにした場合(S3;Yes)、間欠押え6が待機位置にあるか否かを判定する。待機位置とは、作業者が針板2a上に加工布を配置するのに支障がない間欠押え6の位置であり、縫製時の高さよりも高い位置である。
【0053】
間欠押え6が待機位置にある場合(S4;Yes)、間欠押え下降処理を実行する(S6)。
間欠押え下降処理を実行した場合、データ順位カウンタNの値をチェック用カウンタMにコピーする(S20)。チェック用カウンタMが示すデータ内容が間欠押えデータの場合(S21;Yes)、間欠押え用パルスモータ43を駆動し間欠押えデータが示す位置に間欠押え6を下降させた後(S25)、S7へ移行する。ここで、データ順位カウンタNおよびチェック用カウンタMは0であるので、図11の縫製データにおいては間欠押え6の位置が0に変更される。尚、この位置は下限位置を表し、位置が0とは間欠押え6が針板2aの上面と同じ位置(当接する)である。
【0054】
縫製データ中に1針目の間欠押え6の位置が指示されていない場合は、チェック用カウンタMが示すデータ順位がステッチデータであると判断し(S21;No,S22;Yes)、作業者が操作パネル66を介して予め設定しておいた下限位置に間欠押え6を下降させた後(S24)、S7へ移行する。例えば、糸色データや縫製速度データなど、チェック用カウンタMが示すデータ順位のデータ内容が間欠押えデータでもステッチデータでもない場合は(S21;No,S22;No)、チェック用カウンタMを1だけインクリメントした後(S23)、S21に戻る。
既に間欠押え6が下降していて待機位置にない場合は(S4;No)、間欠押え6を待機位置に上昇させた後(S5)、S7へ移行する。
【0055】
S7においては押えペダル69のOFF待ち状態となり、作業者が押えペダル69をOFFにした場合は(S7;Yes,S3;No)、次に起動ペダル70がONしたか否かを判定する(S8)。作業者が起動ペダル70をONにし、且つ糸巻きキー67もONした場合(S8;Yes,S9;Yes)、糸巻き処理を実行する(S10)。
【0056】
糸巻き処理を実行すると、先ず、RAM64に記憶したデフォルト値を読み出して間欠押え6をデフォルト値で示す位置に上昇させる(S30)。本実施例においてデフォルト値は5となっており、間欠押え6は針板2aの上面から5mm上方の位置となる。次に、ミシンモータ72を起動させて糸巻機構50による糸巻き処理を実行する。糸巻き処理を実行すると、起動ペダル70のOFF待ち状態となる。作業者が起動ペダル70をOFFにした場合(S32;Yes)、ミシンモータ72の駆動を停止させてから(S33)、S24,S25の場合と同様に、間欠押え6を予め設定した位置に下降させて(S34)、S3に戻る。
【0057】
次に、作業者が起動ペダル70をONにした場合において(S8;Yes)、糸巻きキー67がOFFされていた場合は(S9;No)、縫製処理を実行する(S11)。縫製処理を実行すると、先ずミシンモータ72を起動させた後(S40)、データ順位Nのデータを読み込む(S41)。データ順位Nがステッチデータか否かを判定し、ステッチデータである場合において(S42;Yes)、送り開始タイミングになったとき(S43;Yes)、XY送り用パルスモータ74を駆動し縫製を行う(S44)。次に、データ順位Nを1だけインクリメントした後(S47)、S41に戻る。
【0058】
データ順位Nが間欠押えデータである場合は(S42;No,S45;Yes)、間欠押えデータに基づいて間欠押え6の位置を変更する(S46)。次に、データ順位Nを1だけインクリメントした後(S47)、S41に戻る。図11においてデータ順位0の動作を行っているときは、S6において間欠押え下降処理を実行しているので、間欠押えデータに基づいて間欠押え6は針板2aと当接している。それ故、間欠押え6はその位置を維持する。図11においてデータ順位2の動作を行っているときは、間欠押えデータに基づいて間欠押え6を針板2aから3mm上方の位置に変更する。
【0059】
S45においてデータ順位Nが間欠押えデータでない場合、つまり、データ順位12の動作を行っている場合、つまり、エンドデータである場合は(S45;No)、ミシンモータ72の駆動を停止させる(S48)。次に、間欠押え6を待機位置に上昇させた後(S12)、S1に戻る。尚、図12に示すフローチャートのS9の処理を実行するCPU62が検出手段に相当する。図14に示すフローチャートのS30〜S34の処理を実行するCPU62が下糸巻き制御手段に相当する。図14に示すフローチャートのS32の処理を実行するCPU62が中止検出手段に相当する。
【0060】
次に、以上説明したミシン1の作用、効果について説明する。
糸巻きキー67による糸巻きの指示を検出した場合、間欠押え6が上下動しても針板2aに接触しない位置に間欠押え6の上下動位置を変更するように間欠押え位置変更機構13を制御した後、主軸5を回転駆動するので、糸巻き処理時に主軸5の回転に連動して間欠押え6が上下動しても、間欠押え6が針板2aに衝突しない。それ故、縫製開始時に間欠押え6を針板2aの上面と同じ位置に設定してから1針目の縫製を行う場合に糸巻き処理を実行しても、間欠押え6と針板2aとの衝突により発生する騒音を防止することができる。この場合、間欠押え6の上下動位置を自動で変更することができるので、ミシン1の使い勝手が良くなる。
【0061】
糸巻きの中止の指示を検出した場合、主軸5の回転駆動を停止した後、間欠押え6の上下動位置を予め設定しておいた針板2aの上面と同じ位置に変更するように間欠押え位置変更機構13を制御するので、糸巻き処理を行った後に1針目の縫製を行う場合に、加工布Wと間欠押え6とで上糸15を挟み込むことで縫い始めの糸抜けを防止することができる。
【0062】
間欠押え6の上下動位置を入力する操作パネル66を設けたので、操作パネル66で入力した間欠押え6の上下動位置に基づいて間欠押え6の上下動位置を変更することができる。それ故、縫製データ中に間欠押えデータを含んでいない場合にも、1針目の縫製時に間欠押え6を針板2aの上面と同じ位置に自動で変更することができる。上下動位置は、間欠押え6が上下動する上下動範囲の下限位置で設定するので、糸巻き処理時に間欠押え6が上下動しても針板2aに接触しない位置に間欠押え6を容易且つ確実に変更することができる。
【0063】
次に、前記実施例を部分的に変更した変更例について説明する。
1]間欠押え位置制御を、ほぼ長方形の平面形状の外押えを上下動させる外押え機構を備えたミシンに適用することも可能である。この場合、図13において間欠押え下降処理を実行したときは、先ず加工布Wを押圧する位置に外押えを下降させた後、S20以降の処理を順に行う。また、S5においては間欠押え6と外押えを待機位置に上昇させる。
2]本実施例においては、間欠押え6の上下動位置として上下動範囲の下限位置で規定しているが、上限位置で規定してもよい。また、上下動範囲の中央の位置で規定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施例に係るミシンの斜視図である。
【図2】縫製待機時におけるミシンの正面図である。
【図3】間欠押え上下動駆動装置の斜視図である。
【図4】間欠押え上下動駆動装置の要部の斜視図である。
【図5】間欠押え上下動駆動装置の右側面図である。
【図6】揺動機構の正面図である。
【図7】間欠押えが上位置にあるときの間欠押え上下動機構の正面図である。
【図8】間欠押えが下位置にあるときの間欠押え上下動機構の正面図である。
【図9】糸巻機構の側面図である。
【図10】ミシンの制御系を示すブロック図である。
【図11】縫製データを説明する為の説明図である。
【図12】間欠押え位置制御プログラムのフローチャートである。
【図13】間欠押え下降処理の制御プログラムのフローチャートである。
【図14】糸巻き処理の制御プログラムのフローチャートである。
【図15】縫製処理の制御プログラムのフローチャートである。
【符号の説明】
【0065】
1 ミシン
5 主軸
6 間欠押え
8 針棒
13 間欠押え位置変更機構
50 糸巻機構
51 下糸
52 ボビン
62 CPU
64 RAM
66 操作パネル
67 糸巻きキー
70 起動ペダル
W 加工布
【特許請求の範囲】
【請求項1】
針棒の上下動に連動して上下動し且つ針板上の加工布を上方から押える間欠押えと、該間欠押えの上下動位置を変更可能な間欠押え位置変更機構と、ミシン主軸の回転に連動して下糸をボビンに巻回す糸巻機構とを備えたミシンにおいて、
前記糸巻機構によって前記下糸を前記ボビンに巻回す下糸巻きを指示する指示手段と、
前記指示手段によって前記下糸巻きの指示を検出する検出手段と、
前記検出手段が前記指示手段による前記下糸巻きの指示を検出した場合、前記間欠押えが上下動しても前記針板に接触しない位置に前記間欠押えの上下動位置を変更するように前記間欠押え位置変更機構を制御した後、前記ミシン主軸を回転駆動する下糸巻き制御手段とを備えたことを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記糸巻機構による前記下糸巻きの中止を指示する中止指示手段と、
前記中止指示手段によって前記下糸巻きの中止の指示を検出する中止検出手段とを更に備え、
前記下糸巻き制御手段は、前記中止検出手段が前記下糸巻きの中止の指示を検出した場合、前記ミシン主軸の回転駆動を停止した後、前記間欠押えの上下動位置を予め設定した位置に変更するように前記間欠押え位置変更機構を制御することを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記間欠押えの前記上下動位置を入力する間欠押え位置入力手段を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載のミシン。
【請求項4】
前記上下動位置は、前記間欠押えが上下動する上下動範囲の下限位置で設定することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のミシン。
【請求項1】
針棒の上下動に連動して上下動し且つ針板上の加工布を上方から押える間欠押えと、該間欠押えの上下動位置を変更可能な間欠押え位置変更機構と、ミシン主軸の回転に連動して下糸をボビンに巻回す糸巻機構とを備えたミシンにおいて、
前記糸巻機構によって前記下糸を前記ボビンに巻回す下糸巻きを指示する指示手段と、
前記指示手段によって前記下糸巻きの指示を検出する検出手段と、
前記検出手段が前記指示手段による前記下糸巻きの指示を検出した場合、前記間欠押えが上下動しても前記針板に接触しない位置に前記間欠押えの上下動位置を変更するように前記間欠押え位置変更機構を制御した後、前記ミシン主軸を回転駆動する下糸巻き制御手段とを備えたことを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記糸巻機構による前記下糸巻きの中止を指示する中止指示手段と、
前記中止指示手段によって前記下糸巻きの中止の指示を検出する中止検出手段とを更に備え、
前記下糸巻き制御手段は、前記中止検出手段が前記下糸巻きの中止の指示を検出した場合、前記ミシン主軸の回転駆動を停止した後、前記間欠押えの上下動位置を予め設定した位置に変更するように前記間欠押え位置変更機構を制御することを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記間欠押えの前記上下動位置を入力する間欠押え位置入力手段を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載のミシン。
【請求項4】
前記上下動位置は、前記間欠押えが上下動する上下動範囲の下限位置で設定することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のミシン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−142536(P2010−142536A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325046(P2008−325046)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
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