説明

ミシン

【課題】縫い開始位置に残る上糸端部を残さず除去する。
【解決手段】縫い針11を保持する針棒12と、針棒を上下動させる針上下動機構と、縫い目形成後に上糸を切断する糸切り装置と、糸切り装置の切断により縫い針側に残った上糸端部U1を保持するクランプ機構30と、クランプ機構に保持された上糸端部を被縫製物Cの第一針目の針落ち位置で切除する上糸処理装置40とを備え、上糸処理装置は、上糸端部を被縫製物から切除する上糸処理メス44と、上糸処理メスを保持すると共に当該上糸処理メスを被縫製物の上面に対向させるメス駆動手段46とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縫い開始位置に残る上糸の処理を行うミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
縫い開始時に縫い針の目穴に挿入されて垂れ下がった上糸の先端部はその長さが短いと、第一針目で目穴から抜けてしまい、縫製不良を生じてしまう。従って、縫い針の目穴に挿入されて垂れ下がった上糸がある程度の長さを確保する必要があった。
しかし、縫い針の目穴から垂れ下がった上糸先端部はフリーであるため、第一針目で布の下側に糸端やループが飛び出してしまうことがあり、そのような状態で再び同じ位置を通過する縫いを行った場合に、下側に飛び出した上糸先端部が新たに通過する縫い目にからみつき、いわゆる鳥の巣を形成するという問題があった。
【0003】
そこで、従来のミシンは、布の上方において縫い針から垂れ下がった上糸の先端部を保持するクランプ装置を設け、上糸の先端部をフリーな状態にしないことで上糸端部が布の下側に飛び出さないようにして鳥の巣の発生を防止している(例えば、特許文献1参照)。
この従来のミシンのクランプ装置は、縫製終了時に針板の下側で上糸の切断が行われてから、先端部が鈎状に形成された糸捕捉部材を縫い針の上下動経路に交差するように前進移動させて縫い針から垂下した上糸を捕捉し、後退移動させることで糸捕捉部材に摺接する捕捉板との間に上糸端部を挟んで挟持する構造となっている。
これにより、次回の縫製時には、上糸の先端部を保持したまま縫いを開始させることが可能となり、鳥の巣の発生を防止することが可能となっている。
【0004】
また、かかる従来のミシンでは、クランプされた上糸の先端部が布の上側に飛び出したままの状態となるので、布の上側の面が人目に触れる縫製物の場合には、飛び出した上糸の端部を切除する作業が必須となる。このため、かかる煩雑な糸除去作業を解消するために、布押さえに形成された針落ちが行われる溝の布送り方向下流側となる深部に固定メスを内蔵し、布送りが進行して上糸端部が固定メス位置に到達すると、自動的に切除させるように構成されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−13375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のミシンは、固定メスが布押さえの底面から離れて固定保持される構造のため、固定位置より生地側に固定メスを接近させることができず、少なくともその分だけ上糸残りが生じてしまうという問題があった。
また、布押さえは、当該布押さえを支持するミシンアーム部から垂下された押さえ棒に対して揺動可能に支持されており、揺動による傾きによって上糸残りがより増加するという問題も生じていた。
また、布押さえにより固定メスを保持する構造のため、例えば、同様の布押さえを使用しないタイプのミシン、例えば、布保持枠により布保持を行ってX−Y移動を行うようなミシンには適用できないという問題もあった。
さらに、上記従来のミシンは、クランプ機構が縫い針よりも布送り方向下流側に設けられているため、上糸端部をクランプした状態で第一針目の針落ち位置が切断位置に到達するまでの間に弛みを生じ、切断不良を生じたり、弛み分の糸残りを生じてしまうおそれがあった。
【0007】
本発明は、上糸端部をより効果的に除去することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、縫い針を保持する針棒と、針棒を上下動させる針上下動機構と、縫い目形成後に上糸を切断する糸切り装置と、前記糸切り装置の切断により縫い針側に残った上糸端部を保持するクランプ機構と、前記クランプ機構に保持された上糸端部を被縫製物の第一針目の針落ち位置で切除する上糸処理装置とを備えるミシンにおいて、前記上糸処理装置は、前記上糸端部を被縫製物から切除する上糸処理メスと、前記上糸処理メスを保持すると共に当該上糸処理メスを上方から前記被縫製物の上面に直接対向する位置まで下降させるメス駆動手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記上糸処理装置による上糸端部の切除の際に前記クランプ機構を上昇させるクランプ可動手段を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記メス駆動手段は、バネ圧を用いて前記上糸処理メスを前記被縫製物に対して当接させることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記上糸処理メスは、その刃先を前記上糸端部に相対的な移動により押し当てることで切除を行うことを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記被縫製物を保持する保持枠と、前記保持枠を介して前記被縫製物を平面に沿って任意に移動させる移動機構と、前記移動機構の動作制御により予め定められた被縫製物の任意の位置に針落ちを行う縫製制御部とを備えることを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項4記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記被縫製物を保持する保持枠と、前記保持枠を介して前記被縫製物を平面に沿って任意に移動させる移動機構と、前記移動機構の動作制御により予め定められた被縫製物の任意の位置に針落ちを行う縫製制御部とを備え、前記移動機構による被縫製物の移動動作によって、前記上糸処理メスの刃先に前記上糸端部を押し当てて切除を行うことを特徴とする。
【0014】
請求項7記載の発明は、請求項1から6のいずれか一項に記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記上糸処理装置により切除された上糸端部を吸引により捕集する捕集手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明は、クランプ機構を備えるために、被縫製物の下側で鳥の巣の発生を防止することが可能となると共に、クランプ機構に保持された上糸端部を被縫製物の第一針目の針落ち位置で切除する上糸処理装置を備えるため、クランプ機構により被縫製物から出たままとなる上糸端部を切除することが可能となる。
さらに、上糸処理装置は、メス駆動手段により上糸処理メスが支持されると共に被縫製物の上面に直接対向する位置まで下降させることができるため、上糸処理メスと被縫製物との間に布押さえのような介在するものが存在しない状態で上糸処理メスを被縫製物に十分に接近させた状態で上糸端部を切除することができ、切除後に被縫製物に残る上糸端部の残り長さをより効果的に短くすることが可能となる。また、上糸処理メスはメスの移動を行うメス駆動手段に支持されているため、布押さえに内蔵されている場合のように布押さえの底面から離れて配置されている分の糸残りを生じることがなく、また、布押さえの揺動構造により糸残りが長くなるという不都合も回避することが可能である。なお、上糸処理メスは下降時に被縫製物に接しても良いし、近接状態としても良い。
また、上糸処理メスはメス駆動手段に保持されるので、布押さえに内蔵されることを必須とする従来技術と異なり、布押さえを必須とする形式のミシンに限らず種々のミシンについて、切除後の上糸端部の残り長さをより効果的に短くする効果を得ることが可能となる。
なお、上糸処理メスは、被縫製物の移動により上糸端部が刃先に当たって切除が行われる受動的なものでも良いし、メスが切断動作を行う能動的なもの、例えば、メスを構成する二つの刃先で挟んで切除を行う挟み形式やバリカン形式のものでも良い。また、鋭利な刃先で切断を行うものに限らず、熱により切除を行う加熱式のメスを利用しても良い。
【0016】
請求項2記載の発明は、クランプ可動手段によりクランプ機構を上昇させて上糸端部の切除を行うことができるため、クランプ機構から被縫製物の間での上糸の弛みを解消して張った状態で切除を行うことができ、切除不良を回避すると共に上糸端部の残り長さをより短くすることが可能となる。
【0017】
請求項3記載の発明は、バネ圧を用いて上糸処理メスを被縫製物に当接させるので、直接アクチュエータなどを用いて上糸処理メスを被縫製物に当接させる場合に比べて被縫製物の厚さの違いに対して柔軟に対応することができ、当接圧が高すぎて被縫製物を傷つけるなどの不良事態を回避することが可能となる。
【0018】
請求項4記載の発明は、上糸処理メスが刃先を上糸に押し当てて切除を行うものであるため、構造の簡易化を実現し、生産性の向上を図ることが可能となる。
なお、「相対的な移動により押し当てる」とは、被縫製物が移動することにより上糸処理メスの刃先に当たって切除される構成としても良いし、上糸処理メスが上糸に向かって移動して切除を行う構成としても良いことを示すものである。また、前者の場合には、送り歯による直線的な被縫製物の送り動作を利用しても良いし、平面内の任意の移動を実現するX−Y移動による被縫製物の移動動作を利用しても良い。
【0019】
請求項5記載の発明は、上糸端部の切除のために、上糸処理メスを被縫製物の第一針目の針落ち位置まで移動させるか、被縫製物の第一針目の針落ち位置を上糸処理メスまで移動させるか、いずれかの手段が必要となるが、その役割を任意の位置に針落ちを行うための移動機構により実行させるため、専用の移動手段を不要とし、部品点数の低減、装置の簡略化を図ることができ、生産性の向上を図ることが可能となる。
【0020】
請求項6記載の発明は、請求項5と同様の効果を具備すると共に、任意の位置に針落ちを行うための移動機構を用いて上糸処理メスの刃先に上糸端部を押し当てて切除を行うことができ、上糸処理メス側に切除作業に要する動作を付与するための構成を不要とし、部品点数の低減、装置の簡略化を図ることができ、生産性の向上を図ることが可能となる。
【0021】
請求項7記載の発明は、切除された上糸端部を吸引捕集する捕集手段を有するので、被縫製物に対する糸くずの付着を防止することが可能となる。またこれに伴い、付着糸くずの除去作業を不要とし、作業負担の軽減を図ることが可能となる。また、吸引方式なので、糸切除時に発生する塵芥も除去され、ミシンや被縫製物の汚れを防止することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】発明の実施形態たるミシンの全体を示す正面図である。
【図2】図2(A)はミシンの縫製対象物であるカーテンの斜視図、図2(B)はミシンが縫製を行うカーテンのヒダ部の拡大斜視図である。
【図3】図3(A)は下板の平面図、図3(B)は第一及び第二の布保持枠の平面図、図3(C)は布保持枠と下板にヒダ部が保持された状態における図3(B)のW−W線の位置での断面図である。
【図4】クランプ機構及び上糸処理装置の正面図である。
【図5】クランプ機構及び上糸処理装置の背面図である。
【図6】クランプ部材の周辺の斜視図である。
【図7】クランプ部材の周辺を水平な視線で見た図である。
【図8】図8(A)は上糸処理メス及びクランプ部材の先端部の配置を示す平面図、図8(B)は上糸処理メスの先端部の拡大斜視図である。
【図9】残糸処理装置の正面図である。
【図10】残糸処理装置の背面図である。
【図11】残糸処理装置の平面図である。
【図12】残糸処理装置の底面図である。
【図13】残糸処理メスの配置を示すための針板周辺の斜視図である。
【図14】残糸処理メスのY軸回りの角度調節を示す説明図である。
【図15】残糸処理メスのX軸回りの角度調節を示す説明図である。
【図16】ミシンの制御系を示すブロック図である。
【図17】ミシンの縫製動作を示すフローチャートである。
【図18】上糸処理装置及びクランプ装置の動作説明図であって、図18(A)〜(G)の順番で動作が進行するものである。
【図19】残糸処理装置の動作説明図であって、図19(A)〜(C)の順番で動作が進行するものである。
【図20】布保持枠に替えて押さえバネを備える他のミシンの例を示す斜視図である。
【図21】上糸処理装置の他の例を示す動作説明図であり、図21(A)〜(C)の順番で動作が進行するものである。
【図22】上糸処理装置にメス高さ調節手段を設けた例を示す正面図である。
【図23】残糸処理装置にメス高さ調節手段を設けた例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(発明の実施形態の全体構成)
本発明に係るミシン10の実施形態について説明する。
図1はミシン10の全体を示す正面図、図2(A)はミシン10の縫製対象物であるカーテンの斜視図、図2(B)はミシン10が縫製を行うカーテンのヒダ部Hの拡大斜視図である。
ミシン10は水平面における任意の位置に順番に針落ちを行うことを可能とするいわゆる電子サイクル縫いミシンであり、特に上記カーテンCのヒダ部Hの縫製を行うことに好適な構成を具備することによりヒダ取り機として機能するものである。
なお、以下の説明では、水平である所定の方向をX軸方向(図1における左右方向)、水平であってX軸方向に直交する方向をY軸方向、鉛直上下方向をZ軸方向として説明を行うものとする。
【0024】
(カーテン)
被縫製物であるカーテンは、図2に示すように、その上縁部に沿って均一間隔で複数のヒダ部Hが形成されている。このヒダ部Hは、カーテンの生地Cの上端部を上下方向を折り目として6枚重ね(厳密にはカーテンCは予めその上縁部が折り返されて芯生地を収容する袋部が形成されているので12枚重ねとなる)で蛇腹状に折り畳み、6枚重ねの部分をばらけないように束ねる第一の縫い目L1と6枚重ねの部分をその根元で絞るように縫い合わせる第二の縫い目L2とが施されている。上記第二の縫い目L2はカーテンCの上端部から前述した袋部の全幅に及ぶ長さで形成され、第一の縫い目L1は6枚重ねの部分の膨らみを抑えるための最小限の目数が形成されている。
上記ミシン10は、これら第一及び第二の縫い目L1,L2の縫い目パターンを形成するために予め作成された縫製データを記憶しており、これに従って自動的に縫製を行うことを可能としている。
【0025】
(ミシンの概略構成)
ミシン10は、主に、縫い針11を保持する針棒12を上下動させる針上下動機構(図示略)と、針落ちが行われる針穴が形成された針板13と、針板13と一体的に形成された針板補助板14と、針落ち位置において縫い針11から上糸を捕捉して下糸を絡める釜機構(図示略)と、ミシン10の主要な構成を内蔵又は外部に保持するミシンフレーム20と、縫い目形成後に上糸Uを切断する糸切り装置(図示略)と、糸切り装置の切断により縫い針側に残った上糸端部U1を保持するクランプ機構30と、クランプ機構30に保持された上糸端部U1を各縫い目L1,L2の第一針目の針落ち位置で切除する上糸処理装置40と、糸切り装置による生地側の切断後の残り糸を生地Cから除去する残糸処理装置60と、生地Cを保持してX−Y平面の任意の位置に移動位置決めを行う移動機構としての布移動機構80と、上記各構成の動作制御を行う縫製制御部としての制御装置90とにより構成されている。
また、ミシン一般が備える上糸張力の調節を行う糸調子器、上糸引き上げを行う天秤機構等については周知のものであるため詳細な説明は省略するものとする。
【0026】
(ミシンフレーム)
ミシンフレーム20は、Y軸方向に沿って延在するベッド部21と、ベッド部21の一端部から立設された縦胴部22と、縦胴部22の上端部からベッド部21と同方向に延出されたアーム部23とか構成される。
針板13はベッド部21の先端側の上部においてその上面が水平となるように取り付けられている。また、針板補助板14は、その上面が針板13の上面と面一となるように針板13と一体的に連設されている。つまり、針板補助板14の上面も水平となっており、後述する生地Cを保持する布保持枠81,82の下板83が、針板13及び針板補助板14の上面を摺接しながら任意に位置決めされて縫製が行われるようになっている。
つまり、上記針板13及び針板補助板14は「縫製時の被縫製物の下側に位置する載置部」として機能するものである。
【0027】
(針上下動機構及び釜機構)
針上下動機構は、駆動源となるミシンモータ15(図16参照)と、ミシンモータ15により回転駆動が行われる上軸と、上軸の回転動力を上下動に変換して針棒12に付与するクランク機構とから主に構成されている。
また、縫い針11には中押さえ17が併設されている。この中押さえ17は、布保持枠81,82に保持された生地Cに縫い針11が針落ちを行うと針上昇時に生地Cが縫い針11によって上方に引っ張られて生地のバタつきを生じるので、これを防止するために設けられている。即ち、中押さえ17は、縫い針11が遊挿される円筒部を有し、縫い針11と同期しつつ縫い針11よりも低位置でより小さなストロークで上下動を行うことで、生地Cのバタつきを抑えている。
【0028】
釜機構は、縦胴部内に配設されたタイミングベルトを介して上軸から二倍速の回転動作が伝達される下軸と、下軸によりY軸回りの回転が付与される外釜と、外釜の内側でボビンを保持する内釜とから構成されている。外釜は、剣先により縫い針11から上糸を捕捉すると共に回転によりループ状に引き出して内釜をくぐらせることで、ボビンから繰り出される下糸Dを上糸Uに絡める機能を有し、天秤が上糸Uを引き上げることにより上糸が緊縛されて縫い目を形成するようになっている。
【0029】
(糸切り装置)
糸切り装置は、針板13の針穴の真下において縫い針11の上下動経路を直交方向に通過するように水平面に沿って往復回動を行う動メスと、動メスの待機位置側で刃先を動メス側に向けて固定支持された固定メスと、伝達機構を介して動メスに往復回動動作を付与する糸切りソレノイド16(図16参照)とを備えている。
上記糸切り装置は、最終針の縫い針が上昇して上停止位置(天秤が上糸を引き上げ切ってしまう前)にある時に糸切りを実行する。かかるタイミングでは、釜が剣先により上糸を捕捉してループが形成された状態にあり、針穴付近では、釜から生地に至る1本の下糸Dと縫い針から釜及び釜から生地に至る二本の上糸Uとが存在している。動メスは、かかる状態で往復回動を開始してその往路で縫い針側の上糸Uのみを選り分け、復路で生地側の上糸Uと下糸Dのみを細くして固定メスまで運び、これらを相互のメスで挟むようにして切断を行う。
【0030】
(布移動機構)
布移動機構80は、生地Cを上方から保持する第一及び第二の布保持枠81,82と、生地Cを載置する下板83と、第一及び第二の布保持枠81,82及び下板83を保持する布送り台84と、布送り台84を介して生地CをX軸方向における任意の位置に移動させるX軸モータ85(図16参照)と、布送り台84を介して生地をY軸方向における任意の位置に移動させるY軸モータ86(図16参照)とを備えている。
【0031】
図3(A)は下板83の平面図、図3(B)は第一及び第二の布保持枠81,82の平面図、図3(C)は布保持枠81,82と下板83にヒダ部Hが保持された状態における図3(B)のW−W線の位置での断面図である。
下板83は、布送り台84の下部に固定装備されている。この下板83は、長方形状の一枚の平板からなり、カーテンのヒダ部Hの縫製に特化した構造となっている。即ち、下板83は、その上面が窪んだ凹部83aと、上下に貫通して切り欠かれた開口部とが形成されている。
凹部83aはX軸方向に沿った長手の略矩形状に形成されており、ヒダ部Hは、6枚重ねの部分が凹部83a内となるように下板83に載置される。このように凹部83aがあることで、第二の縫い目L2の形成後にその縫い目がヒダ部Hの厚さ方向に対して傾いて形成されることを防止し、ヒダ部Hを左右にバランス取れた形状に形成することを可能としている。
開口部は、X軸方向に沿ってスリット状に切り欠かれた部位83bとその中間位置からY軸方向に沿って幾分幅広く矩形状に切り欠かれた部位83cとからなり、スリット部位83bは第二の縫い目L2の形成のため、また、矩形部位83cは第一の縫い目L1の形成のためのものである。
なお、スリット部位83bは幾分長めに、矩形部位83cは幾分幅広めに形成され、実寸が異なる各種のヒダ部の縫いに対応可能となっている。
なお、後述する残糸処理の際には、残糸処理メス66,67が下方から生地Cの下面に当接して残糸の切除を行うが、その際に、下板83に上述の開口部が形成されているため、下板83が妨げとならずに各メス66,67を生地Cに密着させることができ、残糸をより短く切除することが可能となっている。
【0032】
第一及び第二の布保持枠81,82は、下板83に対して上方から重ね合わされることで生地Cを上下に挟んで挟持する。
これら布保持枠81,82は布送り台84によりそれぞれ個別に上下動可能に支持されており、その上下動は個々に用意された押さえ上げエアシリンダにより行われる。
第一の布保持枠81は、下板83の開口部の矩形部位83cに対応する位置にほぼ同じ寸法で上下に貫通した切り欠き部81aが形成されており、第一の縫い目L1の周辺を避けてヒダ部Hの6枚重ねの部分を上方から押圧保持可能としている。
第二の布保持枠82は、第一の布保持枠81を迂回する迂回部82aと、迂回部82aの先端部からX軸方向に沿って一直線に延出された押さえ部82bとから構成される。第一の布保持枠81と押さえ部82bとの間にはスリット状の空間ができるよう設定されており、その空間に第二の縫い目L2が形成されるようになっている。
なお、このように、布保持枠を二分割したのは、ヒダ部Hが第二の縫い目K2を挟んで片側は厚さが大きく、逆側は厚さが薄いことに起因する。即ち、仮に一体をなす布保持枠では厚さが薄い部分の保持圧が十分に得られなくなるためである。つまり、このように布保持枠を二分割することで、生地Cを適切に保持し、縫い目を適切に形成し、縫い品質の向上を図っている。
【0033】
布送り台84は、ベッド部21によりX軸方向及びY軸方向に自在に移動可能に支持されており、X軸モータ85及びY軸モータ86を駆動源として図示しない動作伝達機構を介してX−Y平面の任意の位置に移動可能となっている。これにより、各布保持枠81,82を介して生地Cの任意の位置への針落ちを実現している。
【0034】
(クランプ機構)
図4はクランプ機構30及び上糸処理装置40の正面図、図5は背面図である。
クランプ機構30は、上糸処理装置40のベースフレーム41に支持されており、このベースフレーム41はアーム部23の先端部の側面に固定装備されている。
クランプ機構30は、縫い針11から垂下された切断後の上糸端部U1を針上下動経路における針板13よりも上側で捕捉するクランプ部材31と、クランプ部材31の下面に摺接して捕捉された上糸端部U1をクランプ部材31と共に挟持する挟持板32と、クランプ部材31の前後の往復動作を付与するクランプ用エアシリンダ33と、これらを保持する下側ブロック34と、下側ブロック34に連動する上側ブロック35と、上側ブロック35に昇降動作を付与する昇降用エアシリンダ36と、下側ブロック34と上側ブロック35とを連結するレール状のスライド部材37と、ベースフレーム41の背面側に固定装備されてスライド部材37を上下動可能に保持するスライドガイド38とを備えている。
【0035】
図6はクランプ部材31の周辺の斜視図、図7はクランプ部材31の周辺を水平な視線で見た図である。
クランプ部材31は、全体形状が長尺の板状であって、その平板面はおおむね水平に向けられている。そして、クランプ部材31の先端部は鈎状に形成され、後端部はクランプ用エアシリンダ33のプランジャ33aに連結されている。そして、クランプ部材31の先端部は、縫い針11の上下動経路に向けられており、クランプ用エアシリンダ33の駆動によりクランプ部材31は縫い針の上下動経路に交差して進退動作を行うようになっている。これにより、クランプ部材31は、その後退移動時に、上方に退避した縫い針11から垂下した上糸端部U1を先端鈎状部で捕捉してたぐり寄せることを可能としている。
【0036】
挟持板32は、図7に示すように、その上面にクランプ部材31の進退動作方向に沿った溝部が形成されており、当該溝部の内側にクランプ部材31を格納する。一方、クランプ部材31の先端部は幾分下方に湾曲形成されており、挟持板32の溝部の上面がクランプ部材31の先端部の下面と摺接する構造となっている。これにより、クランプ部材31の先端鈎状部が後退移動時にたぐり寄せた上糸端部U1を、クランプ部材31と挟持板32とにより挟持することを可能としている。
【0037】
下側ブロック34は、挟持板32及びクランプ用エアシリンダ33を保持すると共に、スライド部材37及びスライドガイド38を介してベースフレーム41に対して上下動可能に支持されている。そして、その下限位置は、上停止位置にある縫い針11の下端部と針板13との間をクランプ部材31が侵入可能な高さとなるように調整されている。
【0038】
昇降用エアシリンダ36は、プランジャ36aが上方に向けられ且つその動作方向がZ軸方向に沿うようにベースフレーム41に固定装備されている。
上側ブロック35は、調節ネジ35aを介して昇降用エアシリンダ36のプランジャ36aに連結されている。昇降用エアシリンダ36は、上糸端部U1のクランプ時にクランプ部材31を上方に押し上げることで生地Cからクランプ部材31までの間の上糸端部U1に張力を付与し、その後の切除作業を好適に行うためのものである。従って、昇降用エアシリンダ36によるクランプ部材31の上限位置は上糸端部U1に付与する張力を決定するための重要要素であり、クランプ部材31の上限位置が高すぎれば上糸端部U1はクランプ部材31からすっぽ抜けを生じ、低すぎれば上糸端部U1は弛みを生じて切除することができなくなる。従って、調節ネジ35aにより昇降用エアシリンダ36のプランジャ36aに対する上側ブロック35の相対的な上下位置を調節可能とし、クランプ部材31の上限位置の調節を可能としている。
上述のように、上下ブロック34,35、昇降用エアシリンダ36,スライド部材37及びスライドガイド38は、「クランプ可動手段」として機能するものである。
【0039】
また、上側ブロック35は、クランプ部材31に隣接して、切除後の上糸端部U1を回収する捕集手段としての吸引ノズル39を保持している。かかる吸引ノズル39は、吸引を行う先端部が、後退位置にあるクランプ部材31の先端部の近傍で当該クランプ部材31側に向けられて配設されており、クランプされている上糸端部の切除が行われてから次の上糸端部をクランプするためにクランプ部材31が前進移動する際にクランプ状態が解除されて吸引ノズル39に吸い込まれるようになっている。
かかる吸引ノズル39は、その後端部がチューブを介して図示しないエジェクターに接続されており、エジェクターから生じる負圧により吸引を行っている。また、このエジェクターの排気口には捕集ネットが取り付けられており、切除後の上糸端部は全て捕集ネットに集められるようになっている。
【0040】
(上糸処理装置)
上糸処理装置40は、前述したベースフレーム41と、図示しないスライドガイドを介してベースフレーム41に対して昇降可能に支持されたレール状のスライド部材42と、スライド部材42の下端部に連結されて昇降可能とされたメス保持体43と、メス保持体43に保持された上糸処理メス44と、メス保持体43を下方に押圧する押圧バネ45と、押圧バネ45に抗してメス保持体43を上昇させるメス駆動手段としてのメス駆動エアシリンダ46とを備えている。
【0041】
メス保持体43は、スライド部材42を介してベースフレーム41に対して斜めに昇降可能に支持されている。即ち、スライド部材42は、メス保持体43が下降するにつれて縫い針11側に接近する方向に傾斜して設けられている。
【0042】
図8(A)は上糸処理メス44及びクランプ部材31の先端部の配置を示す平面図、図8(B)は上糸処理メス44の先端部の拡大斜視図である。
上糸処理メス44は、メス保持体43の縫い針11寄りの端部にスライド部材42と同じ傾斜角度で下方に延出されている。そして、上糸処理メス44の下端部は水平になるように屈曲形成されると共に水平部の端縁部に切断を行う刃先44aが形成されている。上糸処理メス44は、その刃先44aが縫い針11側を向いて配設されている。
従って、上糸処理メス44が生地Cに当接するまで下降した状態において、上糸処理メス44に向かって縫いを行うことにより、上糸端部U1が刃先44aに当接し、その当接圧によって切断が行われる。
なお、このように、縫い形成時の生地Cの送り動作を利用して上糸端部U1の切除を行う場合には、周囲の他の構成との干渉を生じない範囲で、縫い針11と下降時の上糸処理メス44の刃先44aとの距離Kが極力接近していることが望ましい。
【0043】
また、図8(A)に示すように、上糸処理メス44の下降位置は縫い針11に対してX軸方向に沿った同一線上に並ぶように設定されている。これにより、縫いがX軸方向に沿って行われる場合であって生地Cが上糸処理メス44に向かって送られる場合には、縫製の途中の過程で第一針目の針落ち位置からクランプ部材31に渡る上糸端部U1が上糸処理メス44の刃先44aに当接させることができ、上糸端部U1を上糸処理メス44の下降位置に移動させるための制御を別個で行う必要を解消することができる
また、上糸処理メス44とクランプ部材31とは、図8(A)に示すように、縫い針11に対しておおむね同じ方向に配置されているが、上糸処理メス44とクランプ部材31とは、いずれも上下移動を行うように構成されているため、クランプされた上糸端部U1と上糸処理メス44との干渉が生じないように、縫い針11からの方向がそれぞれ若干ずらして配置されている。
【0044】
メス保持体43は押圧バネ45により常時下方に付勢されている。その一方で、メス駆動エアシリンダ46は、そのプランジャ46aがメス保持体43に対して上昇動作のみ付与することができるように連結されている。即ち、メス駆動エアシリンダ46のプランジャ46aはメス保持体43に設けられた連結用孔部43aに遊挿され、プランジャ46aの先端部に設けられたストッパ46bが連結用孔部43aよりも大きく形成されている。これにより、メス駆動エアシリンダ46のプランジャ46aが下方に移動してもメス保持体43にはプランジャ46aからは下方動作は付与されず、押圧バネ45に従って下方に移動される。一方、メス駆動エアシリンダ46のプランジャ46aが上方に引き上げられた時にはストッパ46bが連結用孔部43aに引っかかりを生じてメス保持体43を上方に引き上げることが可能となっている。
このような構造により、上糸処理メス44の下降時には、その刃先44aは押圧バネ45の押圧力をもって生地Cに当接することとなり、メス駆動エアシリンダ46が下方への押圧力を直接付与する場合に比べて過剰に上糸処理メス44を生地Cに圧接させることを回避できると共に、種々の生地Cの厚さの違いに柔軟に対応してメス44を当接させることが可能である。
【0045】
(残糸処理装置)
図9は残糸処理装置60の正面図、図10は背面図、図11は平面図、図12は底面図であり、図13は残糸処理メスの配置を示すための針板13周辺の斜視図である。
残糸処理装置60は、針板補助板14の下面にネジ止めにより固定装備された第一枠体61と、当該第一枠体61に対してスライドガイド61aを介して上下動可能に支持された第二枠体62と、第二枠体62に対してネジ止めにより保持された第三枠体63と、第三枠体63に対してネジ止めにより保持された第四枠体64と、第四枠体64の底部に固定された底板65と、第四枠体64の上面にZ軸回りに回動可能に支持された残糸処理メスを構成する第一と第二のメス66,67と、第一メス66の支軸68と、第二メス67の支軸69と、各支軸68,69に設けられて互いに逆回りに連動回転させる連動歯車70,71と、第二メス67の支軸69の下端部に固定装備され、回動動作が入力される入力腕72と、底板65に支持されると共に入力腕72に回動動作を入力する切除用エアシリンダ73と、第一枠体61に固定されると共に各メス66,67の昇降動作の駆動源となるメス昇降手段としてのメス昇降用エアシリンダ74と、メス昇降用エアシリンダ74のプランジャ74aの上下動を第二枠体62に伝達する伝達バネ75と、連結板76によりメス昇降用エアシリンダ74のプランジャ74aに連結された伝達バネ75の支柱77と、第二枠体62側に設けられたバネ受け78と、吸引を行う先端部が上方を向いた状態で各メス66,67の真下に近接して配置された吸引ノズル79とを備えている。
【0046】
第一と第二のメス66,67は、互いの刃先が対向した状態で刃面同士を摺接させるいわゆる鋏構造のメスであり、第二のメス67が第一のメス66の上側に配設されている。
各支軸68,69は、各々に固定装備された伝達歯車の噛み合いにより互いに逆方向に同じ回動角度で同時に回動可能となっている。そして、これにより、各支軸68,69の上端部に固定された各メス66,67が互いの刃先を開閉するように回動し、残糸の切除を可能としている。
また、第一のメス66の支軸68にはメス66を上方に押圧する押圧バネ68aが装備されており、これにより第一メス66を第二メス67に密接させることができ、切断をより確実に行うことを可能としている。
【0047】
第二のメス67の支軸69は底板65を貫通して下側に突出しており、その下端部には入力腕72が抱き締めにより固定されている。そして、この入力腕72の回動端部には切除用エアシリンダ73のプランジャ73aが連結されており、当該切除用エアシリンダ73の駆動により各支軸68,69を介してメス67,68による切除動作が行われるようになっている。
【0048】
メス昇降用エアシリンダ74は、そのプランジャ74aが下方に向けられて第一の枠体61に固定装備されている。そして、プランジャ74aには連結板76が固定装備されており、かかる連結板76の上面には上方に向けられた支柱77が固定支持されている。コイル状の伝達バネ75は支柱77が挿入された状態で連結板76とバネ受け78との間に介在し、バネ受け78には支柱77が挿入される貫通穴が形成されている。これにより、メス昇降用エアシリンダ74の駆動によりそのプランジャ74aが上方に移動した場合、支柱77も連結板76によりプランジャ74aと共に上方に移動するが、支柱77からバネ受け78に直接に上方移動動作は伝達されず、伝達バネ75を介して伝達されることとなる。
メス昇降用エアシリンダ74の上昇駆動により、各メス66,67は布保持枠81,82に保持された生地Cの下面に当接することとなるが、伝達バネ75を介して上昇動作が伝達されるので、過剰な押圧力での当接を抑止することが可能である。
【0049】
また、各メス66,67は、上述のようにメス昇降用エアシリンダ74の駆動により上昇して生地Cの下面に当接して残糸切除を行うため、針板補助板14には、上下に貫通した開口部14aが形成されており、当該開口部14aから出没可能となっている。
また、図13に示すように開口部14a及び各メス66,67は、縫い針11に対してX軸方向に沿って並ぶ配置としているがこれらを他の方角に配置しても良い。
但し、残糸の切除は、縫いの最終針の針落ち及び糸切りが行われてから実行されるので、縫い針11から開口部14a及び各メス66,67までの距離は、切除作業時間の迅速化の観点からは他の構成との干渉を回避可能な範囲で近ければ近いほど良い。
【0050】
また、図14に示すように、第三の枠体63は、第二の枠体62に形成された上下に並んだ二つのX軸方向に沿った長穴62a、62aを介してネジ止めされている。これにより、ネジを緩めることで、第二の枠体62に対して第三の枠体63をY軸回りの回動による傾斜角度調節を行うことを可能としている。
また、図15に示すように、第四の枠体64は、第三の枠体63に形成された上下に並んだ二つのY軸方向に沿った長穴63a、63aを介してネジ止めされている。これにより、ネジを緩めることで、第三の枠体63に対して第四の枠体64をX軸回りの回動による傾斜角度調節を行うことを可能としている。
これらの構造により、各メス66,67はX軸回りとY軸回りの回動角度について角度調節を行うことを可能としている。これにより、残糸の処理を行うメス67の刃先に傾斜面67aを設けている場合、当該傾斜面67がより水平となるように角度当接を行うことにより相互のメス66,67の切断位置をメスの厚さ分より生地C側に近づけることが可能となり、残糸除去後の残り糸をより短くすることが可能となる(例えば図14の例)。
また、カーテンのヒダ部Hの第二の縫い目L2のように、ヒダ部Hの厚さにより生地Cが傾斜している部位に縫いを施した場合の残糸除去を行う場合には、生地Cに生じる傾斜角度に合わせるように各メス66,67を傾斜させることにより、メス66,67の上面を生地Cにより密接させることができ、残糸除去後の残り糸をより短くすることが可能となる(例えば図15の例)。
【0051】
また、第四の枠体64は、各メス66,67の下面に近接対向するようにノズル先端部を上方に向けた状態で、切除前の残糸を引き寄せると共に切除後の残糸を吸引する吸引手段としての吸引ノズル79を保持している。かかる吸引ノズル79は、吸引を行う先端部が、各メス66,67が開いた状態で先端部が上方に臨むように設けられているため、切除前の残糸が生地Cの下面に沿って寝ているような場合でも、吸引により下方に起こし、切除をより確実に行うことを可能とする。
また、吸引ノズル79も前述した吸引ノズル39と同様に、その後端部がチューブを介して図示しないエジェクターに接続されており、当該エジェクターの排気口に設けられた捕集ネットに切除後の残糸が集められるようになっている。
【0052】
(ミシンの制御系)
図16はミシン10の制御系を示すブロック図である。
ミシン10は前述した制御装置90を備え、この制御装置90には、ミシンモータ15及びそのエンコーダ15a、生地の移動を行うX軸モータ85及びY軸モータ86、各布保持枠81,82の昇降を行う押さえ上げエアシリンダを制御する電磁弁87,クランプ部材31の進退動作を行うクランプ用エアシリンダ33を制御する電磁弁33b、クランプ部材31の昇降動作を行う昇降用エアシリンダ36を制御する電磁弁36b、上糸処理メス44の昇降を行うメス駆動エアシリンダ46を制御する電磁弁46c、残糸処理メス66,67の切除動作を行う切除用エアシリンダ73を制御する電磁弁73b、残糸処理メス66,67の昇降動作を行うメス昇降用エアシリンダ74を制御する電磁弁74b、吸引ノズル39の吸引のONOFFを切り替える電磁弁39a、吸引ノズル79の吸引のONOFFを切り替える電磁弁79aが接続されており、これらの動作制御を行うことを可能としている。
制御装置90は、上述した各種のアクチュエータのドライバ及びインターフェイスを備えると共に、縫製制御を行うための各種の設定が記録された縫製データ及び各種の制御を実行するためのプログラムが記憶されたメモリ、これらのプログラムを実行するための演算処理装置を内蔵している。
また、制御装置90には、各種の設定や縫製開始の指示等を入力するための操作盤91,各種の設定データ及び報知を行う表示パネル92が併設されている。
【0053】
ここで、制御装置90の縫製データについて説明する。縫製データは、一連の縫製を行うために必要な設定データを含んだ各種の動作の実行コマンドが実行の順番で記憶されたデータである。具体的には、縫製データには、毎針の針落ち位置を示すX、Yの移動量データ、上述した各アクチュエータの実行又は停止コマンドが記憶されており、制御装置90の演算処理装置は、これを順番に読み込むと共に、各コマンドごとに予め決められたタイミングで順次実行してゆく。かかる実行のタイミングは、ミシンモータ15に設けられたエンコーダ15aから上軸角度を求め、各コマンドごとに定められた上軸角度となったときに実行するものである。
【0054】
(ミシンの動作制御)
次に、ミシン10の制御装置90が縫製時に実際に行う動作制御を図17乃至図19に基づいて説明する。図17は動作制御のフローチャート、図18は上糸処理装置40及びクランプ装置30の動作説明図、図19は残糸処理装置60の動作説明図である。
まず、縫製動作の開始の前提として、布保持枠81,82は上昇しており、クランプ部材31は下降した状態にあり、且つ、前回の縫製における糸切断時にクランプした上糸端部U1がそのままクランプされた状態にあるものとする。また、図18及び図19では布保持枠81,82及び下板83の図示は省略している。
【0055】
下板83の上面に生地Cをセットし、操作パネル91から縫い開始を入力すると、制御装置90は、電磁弁87により押さえ上げエアシリンダを制御して各布保持枠81,82を下降させて生地の保持を行う(ステップS1)。
そして、制御装置90は縫製を開始する(ステップS2)。即ち、ミシンモータ15の駆動を開始すると共に、縫製データを読み込み、設定された第一針目の針落ち位置となるようにX軸モータ85及びY軸モータ86を駆動させる。
【0056】
そして、運針が進み、生地Cの第一針目の針落ち位置が上糸処理メス44の下降位置へ到達する一つ手前の針数に到達すると(ステップS3:図18(A))、制御装置90は、電磁弁46cによりメス駆動エアシリンダ46を制御して上糸処理メス44を下降させて生地Cの上面に当接させる(ステップS4:図18(B))。また、これとほぼ同時に、制御装置90は、電磁弁36bにより昇降用エアシリンダ36を制御してクランプ部材31を上昇させてクランプしている上糸端部U1を張った状態とする(ステップS5:図18(C))。
【0057】
さらに、縫いが継続されると、次の針落ち位置に生地が進められ、これにより上糸端部U1の生地C側の根元が上糸処理メス44の刃先44aに当接し、切除される(図18(D))。このとき、クランプ部材31は切除後の上糸端部をクランプした状態を後述する次のクランプ時まで保持する。
そして、縫いが進んで、生地Cの第一針目の針落ち位置が上糸処理メス44の下降位置を通過すると、制御装置90は、電磁弁46cによりメス駆動エアシリンダ46を制御して上糸処理メス44を上昇させると共に(ステップS6)、電磁弁36bにより昇降用エアシリンダ36を制御してクランプ部材31を下降させる(ステップS7)。
【0058】
その後、縫いが進められて最終針に到達すると(ステップS8)、針落ち後、所定の上停止位置でミシンモータ15の駆動が停止され、糸切りソレノイド16が駆動されて針板13の下側で上糸及び下糸の切断が行われる(ステップS9:図18(E))。
そして、制御装置90は、電磁弁39aにより吸引ノズル39の吸引を開始させると共に(ステップS10)、電磁弁33bによりクランプ用エアシリンダ33を制御してクランプ部材の前進及び後退動作を実行して、縫い針11から下がった新たな上糸端部U1をクランプする(ステップS11)。
【0059】
次に、制御装置90はX軸モータ85及びY軸モータ86を制御して生地Cの最終針位置を残糸処理位置(針板補助板14の開口部14aの位置)に位置決めする(ステップS12:図19(A))。
なお、図19(A)に示すように、最終針の針落ち後であって天秤による上糸の引き上げが完了する前に糸切りが実行されると、最終針の針落ち位置では縫い目が形成されないことから、下糸Dは最終針の針落ち位置では保持されず、一つ手前の針落ち位置から残糸が垂れ下がることとなる。従って、予め最終針のピッチを通常よりも小さくなるように設定しておくと、上糸Uの残糸と下糸Dの残糸とがより近接し、より良好な切除を行うことが可能となる。
【0060】
そして、制御装置90は、電磁弁74bによりメス昇降用エアシリンダ74を制御し、残糸処理メス66,67を上昇させて生地Cの下面に当接させる(ステップS13:図19(B))。これとほぼ同時に、制御装置90は、電磁弁79aを制御して吸引ノズル79による吸引を開始させる(ステップS14)。これにより、生地Cの下面側の残糸が残糸処理メス66,67側に引き寄せられる。なお、吸引の開始はメス66,67の上昇より先に開始しても良い。
そして、制御装置90は、電磁弁73bにより切除用エアシリンダ73を制御し、残糸処理メス66,67を互いに閉じるように回動させて残糸の切除を実行する(ステップS15:図19(C))。このとき、切除された残糸は吸引ノズル79に吸い込まれ、捕集される。
そして、各メス66,67は下降され、布保持枠81,82は所定の待機位置に戻され、押さえ上げ用エアシリンダが制御されて布保持枠81,82が上昇し、生地Cは解放されて、縫いが終了となる(ステップS16)。
【0061】
なお、縫製の対象がカーテンのヒダ部Hの縫製の場合には、二つの縫い目L1,L2を形成する必要がある。そのような場合には、第一の縫い目L1を形成してステップS15の残糸切除を行った後に、布保持枠81,82を解放せず、ステップS2に戻って第二の縫い目L2の形成に移行しても良い。
また、ステップS1〜S11間での処理により第一の縫い目L1を形成したら、残糸処理を行わず、ステップS2〜S11を再度行うことで第二の縫い目L2を形成し、その後、第一の縫い目L1の残糸処理と第二の縫い目L2の残糸処理をまとめて行っても良い。
【0062】
(発明の実施形態の効果)
ミシン10は、クランプ機構30を備えることで生地Cの下面での鳥の巣の発生を防止すると共に、上糸処理装置40により生地Cの上面に出された上糸端部U1を効果的に除去することが可能である。特に、上糸処理装置40は、上糸処理メス44を生地Cの上面に当接させるため、上糸端部の残り長さをより効果的に短くすることが可能となる。
また、ミシン10ではクランプ部材31を上昇させて上糸端部U1に張りを与えた状態で切除するので、より良好な上糸端部除去が可能である。
さらに、ミシン10は、クランプ機構30に吸引ノズル39を装備しているので、生地Cへの糸くずや塵芥の付着を防止することが可能となる。
【0063】
また、ミシン10は、残糸処理装置60により、残糸処理メス66,67を生地Cに最も接近させた状態で残糸を切除することができ、効果的に残糸の残り長さを短くすることが可能となる。
また、残糸処理メスである二つのメス66,67を針板補助板14の開口部14a内に配設したので、針板補助板14の上面に沿って生地Cの移動が行われる場合であっても残糸の発生する生地Cの下面に対してメス66,67を簡単にアプローチさせることが可能である。
また、残糸処理装置60にも吸引ノズル79を設けたので、生地Cに対する残糸の糸くずや塵芥の付着を防止することが可能となる。
【0064】
(その他)
なお、上糸処理メス44としては、上記ミシン10では生地C側の移動を利用する受動的なものを用いたが、挟み形式やバリカン形式のものにより切除の際に能動的に切除動作を行うメスを採用しても良い。
【0065】
また、上記ミシン10では、生地Cを布保持枠81,82で保持して任意に移動可能な布移動機構80を備えるものにクランプ機構30,上糸処理装置40及び残糸処理装置60を適用した例を示したが、これに限定されるものではない。
例えば、一般的なミシンに多用される不動の布押さえ足と、送り歯との協働により布を直線的に一定方向に送るミシンにクランプ機構30,上糸処理装置40及び残糸処理装置60を適用しても良い。
但し、その場合、残糸処理装置60の各メス66、67が布送りのすぐ近くに配置することができれば良いが、離れている場合には、こしの弱いの生地の場合には、各メス66,67が切除時に下方から当接した場合、生地Cを支えるものがないことから浮き上がりを生じて切除が良好に行えない場合も考えられる。従って、そのようなこしのない生地Cを対象とする場合には、図20に示すような、メス66,67の上昇により生地Cが浮き上がらないように上から押さえる押さえバネ99を残糸処理位置に設けても良い。
【0066】
また、上記ミシン10はカーテンのヒダ部Hを縫製対象とするミシンを例示し、傾斜部が多いヒダ部の縫製に好適な例示を行ったが、縫製対象物としてカーテンの生地に限定するものではなく、上糸端部の除去や切断後の残糸処理を必要とする種々の被縫製物を縫製の対象としても良い。
【0067】
また、前述した上糸処理装置40は、斜め下方に上糸処理メス44を下降させる構造としたが、スライド部材42とメス駆動エアシリンダ46とを垂直方向に向けて装備し、メス保持体43に上糸処理メス44を前後移動させる前後移動手段としての前後移動エアシリンダ110を加えても良い(図21)。これにより、上糸処理メス44の下降位置が縫い針11から離れていても、上糸処理メス44を前進させることで縫い針11に近い位置で上糸端部を切除することが可能となる。
【0068】
また、上記の例示では、上糸処理メス44及び残糸処理メス67がいずれも生地Cに当接させる例を示したが、接近しつつも離れた位置で切除を行う構成としても良い。
例えば、図22に示す例のように、上糸処理メス44については、第一の布保持枠81や第二の布保持枠82の押さえ部82bの上面に当接する高さ調節が可能なネジ式のストッパ103とこれを締結する締結ナット101,102とから構成されるメス高さ調節手段100をメス保持体43の取り付け部43bに設け、下降時のメス高さを調節可能とし、生地Cに近接しつつも接触しないように調節可能としても良い。
同様に、図23に示すように、残糸処理メス66,67については、針板補助板14の下面に当接する高さ調節が可能なネジ式のストッパ123とこれを締結する締結ナット121,122とから構成されるメス高さ調節手段120をメスを保持する第四枠体64の取り付け部64aに設け、上降時のメス高さを調節可能とし、生地Cに近接しつつも接触しないように調節可能としても良い。
【符号の説明】
【0069】
10 ミシン
11 縫い針
12 針棒
13 針板(載置部)
14 針板補助板(載置部)
14a 開口部
30 クランプ機構
34 下側ブロック(クランプ可動手段)
35 上側ブロック(クランプ可動手段)
36 昇降用エアシリンダ(クランプ可動手段)
37 スライド部材(クランプ可動手段)
38 スライドガイド(クランプ可動手段)
39 吸引ノズル(捕集手段)
40 上糸処理装置
44 上糸処理メス
45 押圧バネ
46 メス駆動エアシリンダ(メス駆動手段)
60 残糸処理装置
66 第一のメス(残糸処理メス)
67 第二のメス(残糸処理メス)
74 メス昇降用エアシリンダ(メス昇降手段)
75 伝達バネ
79 吸引ノズル(吸引手段)
80 布移動機構(移動機構)
81 第一の布保持枠(保持枠)
82 第二の布保持枠(保持枠)
C 生地(被縫製物)
D 下糸
U 上糸
U1 上糸端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縫い針を保持する針棒と、
針棒を上下動させる針上下動機構と、
縫い目形成後に上糸を切断する糸切り装置と、
前記糸切り装置の切断により縫い針側に残った上糸端部を保持するクランプ機構と、
前記クランプ機構に保持された上糸端部を被縫製物の第一針目の針落ち位置で切除する上糸処理装置とを備えるミシンにおいて、
前記上糸処理装置は、前記上糸端部を被縫製物から切除する上糸処理メスと、前記上糸処理メスを保持すると共に当該上糸処理メスを上方から前記被縫製物の上面に直接対向する位置まで下降させるメス駆動手段とを備えることを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記上糸処理装置による上糸端部の切除の際に前記クランプ機構を上昇させるクランプ可動手段を備えることを特徴とする請求項1記載のミシン。
【請求項3】
前記メス駆動手段は、バネ圧を用いて前記上糸処理メスを前記被縫製物に対して当接させることを特徴とする請求項1又は2記載のミシン。
【請求項4】
前記上糸処理メスは、その刃先を前記上糸端部に相対的な移動により押し当てることで切除を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のミシン。
【請求項5】
前記被縫製物を保持する保持枠と、
前記保持枠を介して前記被縫製物を平面に沿って任意に移動させる移動機構と、
前記移動機構の動作制御により予め定められた被縫製物の任意の位置に針落ちを行う縫製制御部とを備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のミシン。
【請求項6】
前記被縫製物を保持する保持枠と、
前記保持枠を介して前記被縫製物を平面に沿って任意に移動させる移動機構と、
前記移動機構の動作制御により予め定められた被縫製物の任意の位置に針落ちを行う縫製制御部とを備え、
前記移動機構による被縫製物の移動動作によって、前記上糸処理メスの刃先に前記上糸端部を押し当てて切除を行うことを特徴とする請求項4記載のミシン。
【請求項7】
前記上糸処理装置により切除された上糸端部を吸引により捕集する捕集手段を備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−125386(P2011−125386A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283870(P2009−283870)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 平成21年11月11日〜13日 社団法人 日本インテリアファブリックス協会主催の「インテリアトレンドショー第28回JAPANTEX2009」に出品
【出願人】(000213149)中日本ジューキ株式会社 (8)
【Fターム(参考)】