説明

ミリ波レーダ装置

【課題】 アンテナから送信されるサイドローブを低減し、ロードクラッタの発生を防止し、メインローブとなる電波のみを効率的に対象物に送信し、対象物との相対距離等を精度の良い検出することができるミリ波レーダ装置を提供する。
【解決手段】 電波を送受信するアンテナ10と、該アンテナ10を覆うレドーム31と、該レドーム31の表面31bに配置された電波吸収体51と、を備えミリ波レーダ装置1であって、電波吸収体51は、前記アンテナ10から送信されたサイドローブsbとなる反射電波を低減させるような構成となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体としての車両に搭載され、前方を走行する移動体を含めた障害物の方位、相対距離、相対速度等を検出する車載用のミリ波レーダ装置に係り、特に、レーダから送信されるサイドローブを低減することができるミリ波レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ミリ波の電波を利用した車載用のレーダ装置は、超音波又はレーザを利用した車載用のレーダ装置と比較して、雨、霧、雪などの気象条件や、埃、騒音等の外乱に対して影響を受けにくいため、車両の衝突防止や追従走行などに最適なレーダ装置として注目されている。
【0003】
例えば、このようなミリ波レーダ装置の一例として、図6に示すような車載用のミリ波レーダ装置70が挙げられる。このようなミリ波レーダ装置70は、移動体である車両71の前面に設置され、ミリ波レーダ装置70内に配置されたアンテナ(図示せず)から、前方のターゲット車両72に向かってメインローブmbとなる送信電波と、この送信電波がターゲット車両72で反射した反射電波とを信号処理し、これらの周波数差、位相差、時間差などを分析することにより、ターゲット車両72との相対速度と距離を求めることができるものである。
【0004】
このミリ波レーダ装置70は、図7に示すような、電波を送信するアンテナ10を有しており、この送信アンテナ10は接地導電体15の表面に誘電体基板19を積層させたものであり、該誘電体基板19の表面(アンテナ表面10a)には、複数のパッチ素子17と、パッチ素子17に接続されたマイクロストリップ給電線路16と、該給電線路16に接続された給電点18とが、配置されている。そして、ミリ波レーダ装置70の制御回路(図示せず)からの給電信号が、給電点18に送られると、給電線路16を介して各パッチ素子17から電波が送信されるような構造になっている。また、このミリ波レーダ装置70は、送信アンテナと同様の構造の受信アンテナ(図示せず)も有しており、この受信アンテナは、受信電波をパッチ素子で受信し、給電線路から給電点を介して、制御回路に送信されるようになっている。
【0005】
そして、このミリ波レーダ装置70は、車両71が停止している時はノイズが小さく、良好な検知性能を持つが、車両71が走行時、例えば、図6に示すように、矢印74の方向に移動速度Vrで走行しているとすると、路面73に角度θで入射されるサイドローブsbからの反射電波が、次式の相対速度Vsを持つため、路面からの反射電波によるクラッタ(以下、ロードクラッタ)がノイズとして受信される。
【0006】
【数1】

【0007】
この結果、ターゲット相対速度と受信信号強度との関係は、図8に示すように、車両71が停止している場合には、受信信号強度は、ミリ波レーダ装置70の電子回路部から発生するノイズレベルNsのみの影響しか受けないが、車両71が走行している場合には、ロードクラッタによるノイズaが急激に上昇するため、ターゲット車両72からの受信信号bの信号強度Stは、メインローブmbによるターゲット車両72からの信号がノイズに埋もれてしまい、このノイズに車両71が停止している場合に比べ、SN比(St−Ns)が小さくなる。そして、このSN比の低下に伴い、ミリ波レーダ装置70の検出距離の精度が低下したり、誤検出を引起したりする虞があった。
【0008】
このような問題を鑑みて、路面からの反射電波によるロードクラッタの防止対策として、電波を受信するアンテナと該アンテナの前方に配置されたレドームとを備えた電波受信装置において、前記レドームは、前記アンテナの正面に対する所定の角度の範囲の外から入射される電波を吸収すべく、レドームの内壁に電波吸収体を配置した電波受信装置が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−091839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、前記の如くレドームの内壁に電波吸収体を設置した場合であっても、アンテナの給電線路や給電点からの不要な電波の放射が大きく、この不要な電波の放射によりアンテナの受信特性を悪化させる虞があった。そして、たとえ電波吸収体を設けたとしても、アンテナから放射(送信)される不要電波の入射する角度によっては、電波吸収効果が十分に得られないことがあった。
【0010】
特に、路面に垂直に入射するサイドローブによる小相対速度におけるノイズレベルは、路面との距離が近いため、他の相対速度に比べて検出すべき信号の精度は大幅に悪化する。このことから、ミリ波レーダ装置の車両等への搭載位置が制限を受けることがあった。この他にも、小相対速度での感度が重要となるACC(自動追従)レーダに応用する場合には、路面に垂直に入射するサイドローブの影響を大きく受ける虞がある。
【0011】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、装置の搭載位置が制限されることなく、電波の送信の時点において、不要な放射電波を遮断してサイドローブの低減を図り、必要なメインローブとなる電波のみを送信することにより、レーダの検出の性能を向上させることができるミリ波レーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成すべく、本発明に係るミリ波レーダ装置は、電波を送受信するアンテナと、該アンテナを覆うレドームと、該レドームの表面に配置された電波吸収体と、を備えたミリ波レーダ装置であって、前記電波吸収体は、前記アンテナから送信されてサイドローブとなる反射電波を低減させるような構成となっていることを特徴としている。
【0013】
本発明の如きミリ波レーダ装置は、電波吸収体により吸収しきれなかった不要な電波を、電波吸収体の前記構成により低減させるので、ノイズの原因となるサイドローブを低減し、メインローブとなる電波を対象物に送信し、その電波のみを受信することができるので、優れた検出性能を得ることができる。
【0014】
また好ましくは、本発明に係るミリ波レーダ装置は、前記電波吸収体が、前記電波のうち、前記電波吸収体の表面を反射する第一電波と、前記電波吸収体を通過し前記レドームの表面を反射する第二電波とが、打ち消し合うような構成であることを特徴としている。
【0015】
本発明の如きミリ波レーダ装置は、前記構成にすることにより、電波吸収体で吸収しきれなかった不要電波を打ち消し、サイドローブを低減することができ、ノイズの少ない優れた検知性能が得ることができる。
【0016】
さらに好ましくは、本発明に係るミリ波レーダ装置は、前記電波吸収体が、Lを前記第一電波と第二電波との経路差、nを0以上の整数、及び、λを前記電波の波長としたときに、L=(n+1/2)λの関係を満たす厚さを有する構成であることを特徴としている。本発明の如きミリ波レーダ装置は、このような関係を満たすよう電波吸収体の膜厚を設定するのみで、電波吸収体で吸収しきけれなかった不要電波を低減し、電波の検出精度を向上することができるので、安価に不要電波の放出を防止することができる。
【0017】
また、別の態様としては、本発明に係るミリ波レーダ装置は、前記レドームの表面と、前記電波吸収体の表面とが、前記アンテナから送信された電波の送信方向に対して、垂直となるように形成されており、前記電波吸収体は、Lを前記第一電波と第二電波との経路差、nを0以上の整数、及び、λを前記電波の波長としたときに、(1/2)L=(n+1/4)λの関係を満たす厚さを有する。本発明の如きミリ波レーダ装置は、このような関係を満たすように電波吸収体の膜厚を設定すれば、電波吸収体で吸収しきけれなかった不要電波を低減し、電波の検出精度を向上することができる。
【0018】
さらに、別の態様としては、本発明に係るミリ波レーダ装置は、前記電波吸収体が、前記アンテナから送信された電波が指向性なく反射するように、表面に凹凸を設けた構成であることを特徴としている。本発明の如きミリ波レーダ装置は、アンテナから送信された電波が指向性なく反射するので、不要電波によるサイドローブが生成され難くなり、レーダの検知性能を向上させることができる。
【0019】
さらに、別の態様としては、本発明に係るミリ波レーダ装置は、電波を送受信するアンテナと、該アンテナを覆うレドームと、を備えたミリ波レーダ装置であって、前記レドームは、周期的に多数の突起を形成した周期構造体をその表面に配置し、該周期構造体は、アンテナから送信されてサイドローブとなる反射電波を低減させるような構成となっていることを特徴とする。このような、周期構造体を設けることにより、周期構造体に入射される電波と周期構造体から反射される電波とを打ち消すことができ、サイドローブを低減することができる。
【0020】
さらに、前記周期構造体は、Pを突起周期、nを0以上の整数、及び、λを前記電波の波長としたときに、2P=(n+1/2)λの関係を満たすように構成されていることを特徴としている。本発明の如きミリ波レーダ装置の突起周期Pは、不要電波の波長λに合わせた周期となっているので、周期構造体の突起に入射された電波と、該突起の隣の突起の反射する反射電波が、効率よく干渉し、打ち消し合うので、サイドローブを低減することができる。
【0021】
さらに、別の態様としては、本発明に係るミリ波レーダ装置は、電波を送受信するアンテナと、該アンテナを覆うレドームと、を備えたミリ波レーダ装置であって、前記レドームは、該レドームの壁面に、前記アンテナから送信されてサイドローブとなる反射電波を吸収する電波吸収アンテナを備えることを特徴としている。本発明の如きミリ波レーダ装置は、電波吸収アンテナで、サイドローブとなる不要電波を吸収するので、サイドローブを低減することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るミリ波レーダ装置によれば、電波の送信の時点において、アンテナの給電線路等から送信されてサイドローブとなる不要電波を低減することにより、ロードクラッタの発生を防止でき、このクラッタの発生を防止することにより、クラッタノイズを抑制し、メインローブとなる電波のみを効率的に対象物に送信することができるので、精度の良い検出を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面に基づき本発明であるミリ波レーダ装置のいくつかの実施形態について説明する。尚、以下に示すいくつかの実施形態において、このミリ波レーダ装置を構成するアンテナは、先に示した図7のアンテナと同じ構成であるので、同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0024】
図1は、本発明に係るミリ波レーダ装置の第一実施形態の要部構成を示す断面図である。図1に示すように、ミリ波レーダ装置1は、アンテナ10、レーダ本体20、レドーム31、電波吸収体51、及び制御回路(図示せず)を主に備えている。
【0025】
レーダ本体20は、アンテナ10及び制御回路を配置しており、アンテナ10は、制御回路からの信号により電波を目標物に送信し、該送信電波が目標物に反射する電波を受信することが可能なように、アンテナ面10aをレーダ本体20の外側に向けて、レーダ本体20の凸状架台20aに配置されている。さらに、アンテナ面10a側には、アンテナ10を覆うべく、肉厚が均一な筐体状のレドーム31が設けられている。この筐体状のレドーム31は、一端が開口しており、この開口31dから外縁方向に、鍔部31cが形成されている。そして、レドーム31をレーダ本体20に組み付ける際には、レドーム31の開口31d近傍の内壁が、レーダ本体20の凸状架台20aの周囲に係合すると共に、その鍔部31cがレーダ本体20に着座し、レドーム31が固定される。この組み付け状態において、レドーム31とアンテナ10により内部空間31aが形成されることになり、さらに、この内部空間31aを形成するレドーム31の内側表面31b(具体的にはアンテナ面10aに隣接したレドーム31の胴部内壁)には、電波吸収体51が配置されている。
【0026】
このように電波吸収体51を配置することにより、図6に示すように、アンテナ10から送信された電波が、電波吸収体51が配置されていないレドーム31の電波通過端部31eを通過して、目標物(例えば前方車両)にメインローブmbとして到達し、このメインローブmbとなる電波の反射波を、アンテナ10は、受信することができる。
【0027】
また、レドーム31と電波吸収体51とは、アンテナ10から送信されてサイドローブとなる反射電波を低減させるような構成となっており、具体的には、図1において、
原点0:アンテナ面10aから下方向に伸ばした線とレドーム31の内壁との交点、
Y方向:原点0からアンテナ中心10bへの方向、
X方向:アンテナ面10aに対して垂直な方向、
距離D:原点0からアンテナ中心10bまでの距離、
角度θ:アンテナから放射した電波(入射電波)とアンテナ面10aとのなす角、
電波吸収体51の厚さy:原点からX方向にx移動した点におけるY方向の電波吸収体51の厚さ、
距離A:電波(第二電波)7が、電波吸収体51を通過してから、レドーム31の表面で反射するまでの距離、
距離B:電波7が、レドームの表面で反射してから、電波吸収体51を通過するまでの距離、
距離C:電波7が電波吸収体51に入射する点から、電波(第一電波)6の経路に垂線を下ろした交点から、電波6が電波吸収体51に入射するまでの距離、
波長λ:電波6、7の波長、とすると、
電波7と電波6の反射電波を重ねあわせた合成電波8が打ち消されるための条件は、電波6と電波7とを重ね合わせたときに、これらの電波6,7が半波長ずれていることが必要である。前記のことからすれば電波6と電波7との経路差Lは、
【0028】
【数2】

を満たさなければならない。ここで、cosθは、
【0029】
【数3】

と表すことができ、数2と数3から、距離xにおける電波吸収体51の厚さyの関係を導くと、
【0030】
【数4】

となり、この関係を満たす厚みyとなるような電波吸収体51の構成であることが必要である。
【0031】
このように、レドーム31と電波吸収体51は、サイドローブとなる電波のうち、電波吸収体51の表面に入射され反射する電波6(第一電波)と、電波吸収体51を通過し前記レドームの表面を反射する電波7(第二電波)とが、打ち消し合う(反射した合成電波8が消滅する)ような構成にすることにより、電波吸収体51で吸収できなかったサイドローブとなる反射電波(不要電波)を低減し、メインローブとなる電波を対象物に送信し、その電波のみを受信することができるので、ミリ波レーダ装置1は、ノイズの少ない優れた検出性能を得ることができる。nは0以上の整数であればよいため、吸収体の厚さを、スペース上の又はコスト的な制約に合わせて、柔軟に設定することができる。さらに、レドーム31の構造を大幅に変更しなくてもよいので、装置のコストアップを最小限に抑えることができる。
【0032】
図2は、本発明に係るミリ波レーダ装置の第二実施形態の要部構成を示す断面図である。第二実施形態は、第一実施形態に比べて、レドームおよび電波吸収体の構造が異なるが、他の構成は、第一実施形態と同じであるので、同一の符号を付して説明は省略する。
【0033】
図2に示すように、第二実施形態に係るミリ波レーダ装置2は、第一実施形態と同じように、電波吸収体52が、アンテナ10から送信されてサイドローブとなる反射電波を低減させるような構造となっており、その構成は、電波吸収体52の表面を反射する第一電波と、電波吸収体52を通過しレドーム32の表面を反射する第二電波とが、打ち消し合うような構成である。
【0034】
具体的には、レドーム32の内側の表面と、電波吸収体52の表面とは、アンテナ10から送信された電波の送信方向に対して、垂直となるように形成されており、本実施形態の場合は、レドーム32の円弧状の内側表面に一定厚みの電波吸収体52が配置(被覆)されている。そして、この表面の円弧の中心とはアンテナ面の中心10bとは一致しており、この結果、レドーム32及び電波吸収体52のどの表面においても、アンテナ面10aから放射するサイドローブとなる電波が垂直に入射するようになる。
【0035】
また、このレドーム32の表面に被覆された電波吸収体52の膜厚は、サイドローブとなる電波のうち、電波吸収体の表面を反射する第一電波と、電波吸収体を通過しレドーム32の表面を反射する第二電波とが、打ち消し合うような膜厚に設定されている。このように電波を打ち消し合うような電波吸収体52の厚さyは、第一電波と第二電波の経路差L、電波の波長λを用いて表すと
【0036】
【数5】

であり、このような厚さに電波吸収体52を設定することで、第一電波と第二電波の反射電波は、打ち消され、電波吸収体52で吸収しきれなかった不要電波の放射を更に低減することができ、ミリ波レーダ装置2の電波の検出精度を向上させることができる。
【0037】
図3は、本発明に係るミリ波レーダ装置の第三実施形態の要部構成を示す断面図である。第三実施形態は、第一実施形態に比べて、電波吸収体の構造が異なり、他の同じ構成は、第一実施形態と同一の符号を付して説明は省略する。
【0038】
図3に示すように、電波吸収体53は、アンテナ10から送信されてサイドローブとなる反射電波を低減させるような構造となっており、電波吸収体53は、アンテナ10から送信された電波が指向性なく反射するように、曲面の凹凸が設けられている。このような凹凸の曲面を有した電波吸収体53を設けることにより、アンテナ面10aから角度θを持った電波が放射され、電波吸収体に入射された場合には、入射箇所により厚さが変わる(図3に示す入射電波6の場合はE、入射電波7の場合はF)ため、入射電波と反射電波の光路差が(n+1/2)λ(n:0以上の整数、λ:波長)となり電波を打消し合う箇所は少なくなるが、この反射電波は、指向性なく反射することになるので、電波吸収体53で電波を吸収するばかりでなく、吸収できなかったサイドローブとなる反射電波が低減され、ミリ波レーダ装置3の検知性能を向上させることができる。
【0039】
図4は、本発明に係るミリ波レーダ装置の第四実施形態の要部構成を示す図である。第四実施形態は、第一実施形態に比べて、電波吸収体の代わりに周期構造体を設けた点が異なるが、他の同じ構成は、第一実施形態と同じであるので同一の符号を付して説明は省略する。
【0040】
図4に示すように、本実施形態のミリ波レーダ装置4は、図1において電波吸収体を配置した箇所に、周期構造体54を配置している。このレドーム31に周期構造体54は、その表面に、周期的に四角柱状の多数の突起54a,54b,54c,54d・・・を形成しており、アンテナ10から送信されてサイドローブとなる反射電波を低減させるような構成となっている。具体的には、多数の突起54a,54b,54c,54d・・・のうち隣接する突起(例えば図示の突起54aと突起54b,突起54bと突起54c,・・・)は、同じ間隔を空けて形成されている。この突起の間隔をG、突起の幅をWとしたときに、多数の突起54a,54b,54c,54d・・・により形成される周期Pは、突起間隔Gと突起幅Wとの和で表すことができ、不要電波を低減させるためには、周期Pは、次式の数6に示すように消滅すべき電波の波長λに合わせ決定される必要がある。
【0041】
【数6】

【0042】
このような周期Pとなるように多数の突起54a,54b,54c,54d・・・が配列された周期構造体54を設けることにより、図4に示すように、例えば、周期構造体54の突起54aに入射された電波9aと、その隣の周期構造体54の突起54bから反射する反射電波9bが、干渉して打ち消し合うので、サイドローブを低減することができる。
【0043】
図5は、本発明に係るミリ波レーダ装置の第五実施形態の要部構成を示す断面図である。第五実施形態は、第一実施形態に比べて、電波吸収体の変わりに電波を吸収するアンテナを設けたことが異なるが、他の同じ構成は、第一実施形態と同じであるので同一の符号を付して説明は省略する。
【0044】
図5に示すように、第五実施形態に係るミリ波レーダ装置は、図1において電波吸収体を配置した箇所に、サイドローブとなる不要電波を吸収可能な電波吸収アンテナ55を配置している。この電波吸収アンテナ55は、アンテナ10とは別に設けられたものであり、この電波吸収アンテナ55のパッチ55aのインピーダンスは、吸収効率を高めるために、空気中と同様のインピーダンスを持つように構成されている。また、電波吸収アンテナ55には、さらに、終端抵抗55dが取り付けられており、この終端抵抗55dにより、パッチ55aに吸収された不要電波が、パッチ55aから給電線路55bを伝達して、給電点55cに達し、終端抵抗55dを通して熱エネルギーに変換される。このように不要となるサイドローブとなる電波を電波吸収アンテナ55で、効率的に吸収することが可能となり、レドーム31の内壁面に不要な電波が反射して、サイドローブが形成されることはない。
【0045】
以上、本発明に係るミリ波レーダ装置のいくつかの実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0046】
例えば、第一実施形態及び第二実施形態では、光の干渉の原理を利用して、入射電波と反射電波を打ち消すようにしたが、このような原理を利用するものであるならば、レドーム及び電波吸収体の構造は、特に限定されるものではない。
【0047】
また、第四実施形態の周期構造体は、第一実施形態の電波吸収体の位置に配置され、第五実施形態の電波吸収アンテナは、第一実施形態の電波吸収体の位置に配置したが、この周期構造体及び電波吸収アンテナは、第二実施形態の電波吸収体の位置に配置してもよく、レドームの外面にこれらを配置して、レドームを通過した電波を消滅させるようにしてもよい。
【0048】
また、第一実施形態から第四実施形態では、アンテナは、レーダ本体の凸状架台に配置されていたが、このような架台は必ずしも必要ではなく、アンテナを覆うようにレドームを配置することが可能であるならば、レーダ本体の形状は、特に制限されるものではない。さらに、レーダ本体とレドームとの固定方法も、ねじ止め、接着等であってもよく、その固定方法も特に、制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第一実施形態に係るミリ波レーダ装置の要部構成を示す断面図。
【図2】本発明の第二実施形態に係るミリ波レーダ装置の要部構成を示す端面図。
【図3】本発明の第三実施形態に係るミリ波レーダ装置の要部構成を示す断面図。
【図4】本発明の第四実施形態に係るミリ波レーダ装置の要部構成を示す断面図。
【図5】本発明の第五実施形態に係るミリ波レーダ装置の要部構成を示す断面図。
【図6】従来のミリ波レーダ装置を車載に搭載したときの送信電波を説明するための図。
【図7】従来のアンテナの構造を説明するための説明図。
【図8】従来のミリ波レーダ装置の電波の受信強度を説明するための図。
【符号の説明】
【0050】
1〜5…ミリ波レーダ装置、6…(第一)電波、7…(第二)電波、8…反射した合成電波、9a…入射電波、9b…反射電波、10…アンテナ、10a…アンテナ面、10b…アンテナ中心、15…接地導電体、16…マイクロストリップ給電線路(給電線路)、17…パッチ素子、18…給電点、19…誘電体基板、20…レーダ本体、20a…凸状架台、31…レドーム、31a…内部空間、31b…内側表面、31c…鍔部、31d…開口、31e…電波通過端部、32…レドーム、51〜53…電波吸収体、54…周期構造体、54a…突起、55…電波吸収アンテナ、55a…パッチ、55b…給電線路、55c…給電点、55d…終端抵抗、70…ミリ波レーダ装置(従来装置)、71…車両(移動体)、72…ターゲット車両、73…路面、mb…メインローブ、sb…サイドローブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を送受信するアンテナと、該アンテナを覆うレドームと、該レドームの表面に配置された電波吸収体と、を備えたミリ波レーダ装置であって、
前記電波吸収体は、前記アンテナから送信されてサイドローブとなる反射電波を低減させるような構成となっていることを特徴とするミリ波レーダ装置。
【請求項2】
前記電波吸収体は、前記電波のうち、前記電波吸収体の表面を反射する第一電波と、前記電波吸収体を通過し前記レドームの表面を反射する第二電波とが、打ち消し合うような構成であることを特徴とする請求項1に記載のミリ波レーダ装置。
【請求項3】
前記電波吸収体は、Lを前記第一電波と第二電波との経路差、nを0以上の整数、及び、λを前記電波の波長としたときに、
L=(n+1/2)λ
の関係を満たす厚さを有する構成であることを特徴とする請求項2に記載のミリ波レーダ装置。
【請求項4】
前記レドームの表面と、前記電波吸収体の表面とは、前記アンテナから送信された前記電波の送信方向に対して、垂直となるように形成されており、
前記電波吸収体は、Lを前記第一電波と第二電波との経路差、nを0以上の整数、及び、λを前記電波の波長としたときに、
(1/2)L=(n+1/4)λ
の関係を満たす厚さを有することを特徴とする請求項2に記載のミリ波レーダ装置。
【請求項5】
前記電波吸収体は、表面に、前記アンテナから送信された電波が指向性なく反射するような凹凸を設けた構成であることを特徴とする請求項1に記載のミリ波レーダ装置。
【請求項6】
電波を送受信するアンテナと、該アンテナを覆うレドームと、を備えたミリ波レーダ装置であって、
前記レドームは、周期的に多数の突起を形成した周期構造体をその表面に配置し、該周期構造体は、アンテナから送信されてサイドローブとなる反射電波を低減させるような構成となっていることを特徴とするミリ波レーダ装置。
【請求項7】
前記周期構造体は、Pを突起の周期、nを0以上の整数、及び、λを前記電波の波長としたときに、
2P=(n+1/2)λ
の関係を満たすような構成であることを特徴とする請求項6に記載のミリ波レーダ装置。
【請求項8】
電波を送受信するアンテナと、該アンテナを覆うレドームと、を備えたミリ波レーダ装置であって、
前記レドームは、該レドームの壁面に、前記アンテナから送信されてサイドローブとなる電波を吸収する電波吸収アンテナを備えることを特徴とするミリ波レーダ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−57483(P2007−57483A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−246101(P2005−246101)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】