説明

ミンチ及びそれを用いた食品

【課題】 サメ肉の鮮度低下と臭気の発生を抑制し、食材としての用途拡大に寄与すること。
【解決手段】 サメ肉の臭気を抑制するために、豆乳に乳酸菌を作用させて得られる乳酸菌生成エキスと食塩を含む水溶液に浸漬することにより前処理を施し、ミンチとして、それをシュウマイ、ギョウザ、ハンバーグなどの食品に用いる。また、サメなどの軟骨を圧力鍋で加熱することにより柔らかくして加え、栄養価を向上することができる。さらに、メカジキ代表とする青魚の眼球周囲肉、その他を具に用いることにより、臭気の抑制、風味の向上が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚肉、特にサメ肉を用いたミンチと、それを調理した食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
魚肉や獣肉から得られるミンチを調理した、様々な食品が販売されている。例えば、一般的なシュウマイは、具として豚肉、タマネギ、白菜などを含み、豚肉はミンチにして、野菜類は細かく刻んで用いられる。シュウマイを作る際には、これらの具に、片栗粉の他に、塩、胡椒、生姜などの調味料を加えて練り合わせ、小麦粉の皮で包むという手順を踏むことになる。そして、具には消費者の嗜好に合わせて、エビやカニの剥き身をほぐしたものが用いられることもある。
【0003】
一方で、限られた水産資源の有効利用という観点から、これまで食用に向いていないとされてきた魚、例えばソーダカツオやブナザケを用いた食品が検討されている。このような検討は、焦眉の急である食糧自給率の向上や、近い将来起こることが懸念されている世界的な食料危機への対処だけでなく、食生活の多様性を増し、生活を豊かにするためにも、今後継続的に行うべき事項である。
【0004】
このような観点からサメを見ると、その鰭は中華料理の高級食材として珍重され、古くから我が国の重要な輸出品の一つとなっている。しかしながら、その他の部位の肉については、一部が特許文献1や特許文献2に見られるように、蒲鉾や珍味に用いられているが、食用として必ずしも十分に活用されていないのが現状である。
【0005】
しかも、サメの肉は低脂肪、高タンパクで、老化に繋がる活性酸素の作用抑制に効果があるドコサヘキサエン酸などの高級不飽和脂肪酸を豊富に含むことが知られている。一例として、宮城県の気仙沼港で年間3000〜5000トンの安定した水揚げがあるモウカザメについての成分分析結果を、牛肉(サーロイン)、豚肉(ロース)、鶏肉(もも皮なし)と比較して表1に示す。なお、表1に示した数値は、それぞれの肉100gに含まれる分量である。
【0006】
【表1】

【0007】
つまり、表1に示されているように、モウカザメの肉は健康食品として、極めて優れていて、もっと利用されるべき食材である。
【0008】
また、サメは、軟骨魚類という脊椎動物の中でも比較的原始的な分類群に属し、その骨格の大部分が軟骨で形成されている。軟骨にはコラーゲンやコンドロイチンが豊富に含まれるため、サメの軟骨をサプリメントとして利用した例がある。コラーゲンを経口摂取した場合の作用として、関節痛の緩和、毛髪の育成、爪の状態改善、指の血流量増加、胃潰瘍の予防、血圧下降などが報告されている他、コラーゲンを含有する化粧品の、皮膚に対する保湿作用は明らかである。
【0009】
しかしながら、軟骨は前記の他に、鶏の軟骨が串焼きとして供される他は、必ずしも食品として十分に活用されていないのが現状である。従って、サメの軟骨、延いては他の動物の軟骨の、食品としての用途拡大を図ることは、資源の有効活用や利用者の健康増進に少なからず寄与すると考えられる。
【0010】
【特許文献1】 特開平09−084558号公報
【特許文献2】 特開2004−154113号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
サメ肉が食用に活用されていない理由として、サメ肉には尿素が含まれていて、鮮度低下が早く、しかも尿素が細菌によりアンモニアに分解され、独特の強い臭気を発することがある。また、軟骨が食用に活用されていない理由として、その硬さに由来する咀嚼の困難性がある。従って本発明の課題は、サメ肉の鮮度低下と臭気の発生を抑制し、軟骨の咀嚼の困難性を解決し、食材としての用途拡大に寄与することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記サメ肉の臭気を抑制し得る食材、添加剤や処理剤及びその使用方法、軟骨の性状改善を検討した結果なされたものである。
【0013】
即ち、本発明は、サメ肉を含むことを特徴とするミンチである。
【0014】
また、本発明は、軟骨を含むことを特徴とする前記のミンチである。
【0015】
また、本発明は、前記サメ肉が、豆乳に乳酸菌を作用させて得られる乳酸菌生成エキスと食塩を含む水溶液に浸漬することにより前処理を施してなることを特徴とする、前記のミンチである。
【0016】
また、本発明は、前記軟骨が、110〜130℃の温度範囲で予め熱処理が施されていることを特徴とする、前記のミンチである。
【0017】
また、本発明は、青魚の眼球周囲肉を含むことを特徴とする、前記のミンチである。
【0018】
また本発明は、前記のミンチを含むことを特徴とする、シュウマイ、ギョウザ、ハンバーグ、肉ダンゴ、ツクネ、フライ、メンチカツ、フリッター、ナゲットから選ばれる食品である。
【発明の効果】
【0019】
本発明者は、前記のように、サメ肉の臭気抑制を目的として、種々の食材、添加剤、処理剤を検討した結果、最も効果が大きいのは、豆乳を乳酸発酵させて得られる乳酸菌生成エキスであること見出した。ここで用いる乳酸菌生成エキスは、16種類の乳酸菌、酵母を、豆乳を培地に用いて培養し、その分泌物と菌細胞の有効物質を抽出精製したものである。
【0020】
この乳酸菌生成エキスには、食品の細胞を活性化させ、新鮮な状態を維持する作用や雑菌の増殖を抑える作用がある。このため、魚介類の鮮度を維持し、臭気、特にサメ肉特有の臭気を押さえる作用が顕著であり、サメ肉を食材として活用するために非常に有用な処理剤である。
【0021】
その使用方法は、水で3000〜5000倍に希釈して、臭気を発する食材を浸漬するというものである。水で希釈する際には、適宜食塩を添加すると臭気を抑える効果が増加する。
【0022】
また、本発明においては、軟骨を柔らかくして食感を向上する手段を講じる必要があるが、ここでは、様々な処理方法を検討した結果、圧力鍋を用いて110〜130℃の温度範囲で熱処理するのが効果的であることが見出された。また、本発明では、ミンチに混合するので、軟骨は、粉砕して粒径が1cm程度以下の粒状とするのが望ましい。
【0023】
その他に、青魚の眼球周囲肉も、本発明のミンチに用いるサメ肉の臭気抑制や風味、食感の改善を検討する途次で、有効性が見出されたものである。ここで用いた青魚はメカジキであるが、その眼球周囲肉にはドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)などの高級不飽和脂肪酸が豊富に含まれ、これらの成分が還元剤として作用し、サメ肉の酸化劣化を抑制するとともに、油としての滑らかさが食感の改善に有効に作用したものと解される。なお、ここではメカジキを検討に用いたが、メカジキの他にサバなどの青魚の眼球周囲肉も同様に使用できる。
【0024】
なお、本発明においては、茶粉末、シソ茶粉末、ヒュウガトウキ粉末などをミンチに練り込んで使用することも可能である。これらの食材は、いわゆる薬膳の素材として健康増進に有用と言われているが、独特の芳香を有するものもあり、サメ肉の臭気抑制にも効果を発現する。これらの中で特にヒュウガトウキは、日本山人参とも称され、葉の部分に殆どの薬効成分が含まれる他、根の部分にも薬効成分が含まれ、古くから血行促進や肝臓機能向上に効果があるとされていて、葉は乾燥しても鮮やかな緑色を呈し、生命力の強さを示すと言われている。
【0025】
また、近年の技術開発により、野菜や果物を、それらの風味をかなりの程度で維持した状態で乾燥し、粉末とすることが可能となっている。現在市販されている乾燥粉末としては、ほうれん草、にんじん、かぼちゃ、ごぼう、れんこん、むらさき芋、こまつ菜、発芽玄米、だいこん葉、とうもろこし、ゆずなどが挙げられ、これらの中には、独特の香りを発するものがあり、粉末を適宜ミンチに練り込むことにより、サメ肉の臭気を抑えることができる。
【0026】
しかも、これらの粉末をミンチに練り込むことにより、ミンチが加えられた粉末と同じ色を呈することになるので、食品の美観や風味、延いては食卓の美観を向上させ、食欲や健康を増進させるとともに、食事の雰囲気を盛り上げ、食事の楽しみを増す要因となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
【0028】
次に、本発明の実施の形態について、具体例に基づき説明する。本発明のミンチにおいては基本的にサメ肉を用いるが、エビ肉、タマネギ、などの魚介類、肉類、野菜類や、調味料も適宜用いることができる。また、このミンチを例えばシュウマイに用いる場合は、グリーンピースやフカヒレをトッピングに用いることもできる。
【0029】
また、前記の茶粉末、シソ茶粉末、ヒュウガトウキ粉末、ほうれん草粉末、にんじん粉末、かぼちゃ粉末、ごぼう粉末、れんこん粉末、むらさき芋粉末、こまつ菜粉末、発芽玄米粉末、だいこん葉粉末、とうもろこし粉末、ゆず粉末は、ミンチやそれを用いた食品に、薬効や色を付与するために用いるので、喫食する側の嗜好に合わせて添加する。ただし、前記食材の粉末を加えて着色する際に、例えば紫色系と黄色系、緑色系と赤色系のように、補色の関係になる色を有する粉末を混合すると、色の3要素のうちの彩度が低下するので好ましくない。
【0030】
サメ肉については、その臭気抑制のために乳酸菌生成エキスの水溶液に浸漬するのが必須である。しかし、エビなどの魚介類、肉類、野菜類も、臭気を抑える必要があれば、適宜乳酸菌生成エキスの水溶液に浸漬してから調理に供してもよい。
【0031】
次に具体的な調理例を示し、本発明についてさらに詳しく説明する。まず、前処理液として、食塩と乳酸菌生成エキスを含む水溶液を調製する。ここでは水4リットルに対して食塩を80g、乳酸菌生成エキスを4cc加えて攪拌し、前処理液を得た。
【0032】
この前処理液にサイコロ状に切ったモウカザメの肉を2kg入れ、さらにメカジキの眼球周囲肉を400g入れ、5〜10分間浸漬して前処理を行った。なお、ここで用いたモウカザメの肉、メカジキの眼球周囲肉は、通常の流通形態である冷凍品である。
【0033】
次に、甘エビ2kgに同様に前処理を施した。甘エビはモウカザメより臭気が少ないので、ここで用いた前処理液は、水2リットルに対して食塩を40g、乳酸菌生成エキスを0.7cc加えて調製したもので、乳酸菌生成エキス濃度がモウカザメに用いたよりも低いものである。次にタマネギを粗切りにして水に10〜20分間浸漬した後、水切りを行った。この際、水に乳酸菌生成エキスを加えても良い。
【0034】
別途に調味料等として、エビだし(エビの殻の乾燥粉末)約10g、醤油8〜10cc、粉末状植物性タンパク質粉末(日本食研株式会社製;サンラバー10)140g、酒少々、食塩24g、片栗粉大さじ6〜7杯準備しておく。なお、醤油の代替として魚醤を用いても良い。ここでは、三陸沖で漁獲され、ツノナシオキアミやアミエビとも称されるイサダを用いた魚醤を用いた。
【0035】
そして、モウカザメの軟骨を、加熱したときの圧力が1.8気圧、つまり水が沸騰する温度が約120℃になるように調整した圧力鍋に入れ、15分間煮込んで蒸らした後、常温まで放冷した。熱処理を施した軟骨を粒径が1cm以下になるように粉砕し軟骨粉を得た。
【0036】
前処理を終えたモウカザメの肉、メカジキの眼球周囲肉は、粉々になるまで切り、甘エビの肉は形が残る程度に2〜3cmの大きさに切り、これらを十分混ぜ合わせた後に、別途に準備した調味料等と軟骨粉160gを加え、十分に混ぜ合わせた。ここでは、さらに具を緑色に着色するために、60メッシュの篩を通過する粒度の、ほうれん草の乾燥粉末を約300g加えて混ぜ合わせ、緑色を呈するミンチを得た。
【0037】
このように調製したミンチを20g秤量し、別途に準備したシュウマイの皮で包み、蒸し器を用いて約10分間蒸し、シュウマイを得た。
【0038】
試みに、モウカザメの肉に、乳酸菌生成エキスを含む前処理液による前処理を施さないで、前記と同様にして調理したシュウマイは、モウカザメの肉に起因すると考えられる特有の臭気を発し、必ずしも喫食に適したものではなかった。また定量的な数値を示せないが、メカジキの眼球周囲肉を用いなかった場合も、モウカザメの肉に起因する臭気が感じられたが、乳酸菌生成エキスを含む前処理液を用いなかった場合よりは、臭気は弱いものであった。
【0039】
ここでは、ミンチをシュウマイに応用した例について説明したが、同様にギョウザに応用できる他、前記の粉末状植物性タンパク質粉末は“つなぎ”の機能を有するので、前記のミンチはそのまま適当な形に成形して用いることができる。例えば、ハンバーグや肉ダンゴに用いる、ツクネにして串焼きの素材とする、小麦粉やパン粉などを衣にして、フライ、メンチカツ、フリッター、ナゲットにする、などの応用が可能である。
【0040】
以上に説明したように本発明によれば、サメ肉特有の臭気を発しない、サメ肉を含むミンチとそれを応用した食品を提供することが可能となり、健康食品として極めて優れた、サメ肉の用途拡大に寄与するところには、極めて大きいものがある。
【0041】
また、本発明は前記の実施の形態に限定されるものではなく、例えばミンチに加える材料として、シイタケや白菜を加えたり、調味料として生姜やゴマ油を加えたりすることも可能である。さらに前記の実施の形態においては、ほうれん草粉末や茶粉末を加えて緑色に着色した例を示したが、赤色系に着色したい場合は、人参の乾燥粉末が適用可能であり、紫色系に着色したい場合は、むらさき芋粉末などが適用可能である。つまり、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正があっても、本発明に含まれることは勿論である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サメ肉を含むことを特徴とするミンチ。
【請求項2】
軟骨を含むことを特徴とする請求項1に記載のミンチ。
【請求項3】
前記サメ肉は、豆乳に乳酸菌を作用させて得られる乳酸菌生成エキスと食塩を含む水溶液に浸漬することにより前処理を施してなることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のミンチ。
【請求項4】
前記軟骨は、110〜130℃の温度範囲で予め熱処理が施されてなることを特徴とする、請求項1ないし請求項3に記載のミンチ。
【請求項5】
青魚の眼球周囲肉を含むことを特徴とする、請求項1ないし請求項4に記載のミンチ。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のミンチを含むことを特徴とする、シュウマイ、ギョウザ、ハンバーグ、肉ダンゴ、ツクネ、フライ、メンチカツ、フリッター、ナゲットから選ばれる食品。

【公開番号】特開2009−297009(P2009−297009A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180723(P2008−180723)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(508208650)
【Fターム(参考)】