説明

メタクリル酸の製造方法

【課題】最終的なメタクリル酸の収量を高めることができる製造方法を提供する。
【解決手段】メタクロレインを液相中で分子状酸素により酸化しメタクリル酸を製造する方法であって、(a)貴金属含有触媒存在下、水の沸点より低い沸点のケトン類を含む含水ケトン溶媒中でメタクロレインからメタクリル酸及びメタクリル酸無水物を製造する工程、(b)その工程で得られた反応液から貴金属含有触媒を分離して分離液(1)を得る工程、(c)分離液(1)から未反応メタクロレインおよびケトンを分離して分離液(2)を得る工程、(d)分離液(2)中のメタクリル酸無水物を加水分解してメタクリル酸とする工程、を有するメタクリル酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル酸の製造方法、詳しくは、メタクロレインを含水ケトン溶媒から構成される液相中で酸化してメタクリル酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクロレインを、含水溶媒下に分子状酸素で接触酸化することにより、メタクリル酸を得る方法が一般に知られている。
【0003】
特許文献1では、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で液相中で酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法およびメタクリル酸無水物の分解方法が記載されている。
【0004】
特許文献2では反応溶媒としてカルボン酸とケトンと水とからなる3種類以上の混合溶媒を用いてメタクロレインを固体触媒存在下で液相中において分子状酸素を用いて酸化させることにより、メタクリル酸の生産性を高くすることができると記載されている。
【0005】
特許文献3では、α,β−不飽和カルボン酸、α,β−不飽和カルボン酸無水物、水を共存させた条件で30℃以上に加熱を行うことで、α,β−不飽和カルボン酸の製造工程中でα,β−不飽和カルボン酸無水物を加水分解し、α,β−不飽和カルボン酸を高収率で製造できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2006/085540号公報
【特許文献2】特開2005−220069号公報
【特許文献3】特開2007−277200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、ケトン類を溶媒として用いた場合、目的生成物であるメタクリル酸以外にも無水メタクリル酸が高選択的に生成することがわかった。
【0008】
特許文献1および特許文献3には無水メタクリル酸の加水分解の記述がされているが、本特許のようにケトン類を用いたときに高選択的に生成することは書かれていない。また、酢酸のように高沸の溶媒を用いた場合のプロセスの記述はあるが、本特許のような低沸の溶媒に関しては考慮されておらず、本発明におけるような低沸ケトン類を溶媒で用いた場合において、特許文献1および特許文献3のような工程ではメタクリル酸を高収率で製造することができない。また、特許文献3では、α,β−不飽和カルボン酸無水物1モルに対してα,β−不飽和カルボン酸を2モル以上含有する必要があると記載されているが、本発明のように低沸ケトン溶媒を用いたメタクロレインの酸化反応ではメタクリル酸無水物の選択率が高いため、特許文献3のような工程では、メタクリル酸無水物を完全に分解することができず最終的なメタクリル酸の収率が低くなってしまう。
【0009】
特許文献2ではケトンとカルボン酸と水の混合溶媒での最適範囲が示されているが、ケトンと水の2種類の溶媒での最適範囲は示されていない。さらに、特許文献2のようにカルボン酸を含有する溶媒を用いた場合は、貴金属触媒の流出が考えられる上、溶媒をリサイクルして再利用するには分離コストの高い水を分離する工程が必要になるため、経済的に不利となってしまう。
【0010】
以上の点を留意し本発明において検討した結果、ケトン類と水を含有する混合溶媒を用いることで無水メタクリル酸の選択性を向上させ、生成した無水メタクリル酸を貴金属含有触媒分離後に加水分解することで、最終的なメタクリル酸の収率を向上させることを見出した。さらに溶媒に水より沸点の低いケトン類を使用することで製造工程を簡略化することができ、経済的に著しく向上することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、メタクロレインを液相中で分子状酸素により酸化しメタクリル酸を製造する方法であって、(a)貴金属含有触媒存在下、水の沸点より低い沸点のケトン類を含む含水ケトン溶媒中でメタクロレインからメタクリル酸及びメタクリル酸無水物を製造する工程、(b)その工程で得られた反応液から貴金属含有触媒を分離して分離液(1)を得る工程、(c)分離液(1)から未反応メタクロレインおよびケトンを分離して分離液(2)を得る工程、(d)分離液(2)中のメタクリル酸無水物を加水分解してメタクリル酸とする工程、を有するメタクリル酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、メタクロレインから高選択的にメタクリル酸およびメタクリル酸無水物を生成し、生成したメタクリル酸無水物を加水分解してメタクリル酸とすることで最終的なメタクリル酸の収量を高めることができる。また、水と比較して沸点の低いケトンを溶媒として使用することで、分離工程を簡略化することが可能となり、経済的に著しく向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態を実施可能な、メタクロレインを原料としてメタクリル酸を製造する装置の構成を示す系統図である。
【図2】本発明の一実施形態を実施可能な、メタクロレインを原料としてメタクリル酸を製造する装置において、アセトンを混合溶媒として使用した場合における装置の構成を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<メタクロレイン反応工程>
まず、本発明は、メタクロレインを含水ケトン溶媒中で酸化して、メタクリル酸及びメタクリル酸無水物を製造する工程(a)を有する。
【0015】
原料のメタクロレインには、不純物として飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒド等の微量の不純物を含むことができる。
【0016】
液相酸化反応に用いる反応溶媒は、水と任意に混和し反応速度を効果的に向上させることが出来る溶媒である必要があることから、ケトン類が使用できる。ケトン類としては、溶媒分離の都合上、水より沸点の低いケトン類を用いる。例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどが好ましい。特に水への溶解性、反応性向上の面からアセトンであることがより好ましい。ケトン類は市販品を用いることができる。溶媒のケトン類には微量の不純物を含むことができる。カルボン酸に関しては貴金属含有触媒溶出や無水物加水分解等を促進するため、多量に含まれることはあまり好ましくないが、不純物として微量含まれていてもよい。
【0017】
含水ケトン溶媒中の水の量は、活性向上のためにも一定割合以上含有することが好ましい。含水ケトン溶媒100質量%中、10質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましい。水の含有割合が一定値を超えると原料メタクロレインを供給した際に混合溶媒が2相系となってしまうが、このとき有機相側はメタクロレインの濃度が高くなるため重合が生じやすくなる。そのため水の含有割合は2相分離が起こらない一定割合以下にすることが好ましく、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。混合溶媒は、均一であることが望ましい。
【0018】
本発明において、液相酸化反応を行う反応液中のメタクロレインの量は、反応器内に存在する反応溶媒100質量%中0.1質量%以上混合していることが好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0019】
本発明において、液相酸化反応に際し、以下の方法により調製された貴金属含有触媒を使用することが好適であるが、市販品を使用しても構わない。
【0020】
貴金属含有触媒は、貴金属化合物を溶媒に溶解し、還元剤を用いて還元することで調製できる。この還元により目的とする貴金属含有触媒が析出する。貴金属を担体に担持させた担持触媒とすることもできるが、非担持触媒でも構わない。還元は気相で行うこともできるが、液相で行うことが好ましい。
【0021】
本発明で用いる貴金属含有触媒に含まれる貴金属とは、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、金、銀、レニウム、オスミウムを指す。中でもパラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、金が好ましく、パラジウムが特に好ましい。貴金属含有触媒の製造に使用する貴金属化合物は特に限定されないが、例えば、貴金属の、塩化物、酸化物、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、テトラアンミン錯体、アセチルアセトナト錯体等が好ましく、貴金属の、塩化物、酸化物、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩がより好ましく、貴金属の、塩化物、酢酸塩、硝酸塩が特に好ましい。
【0022】
通常、液相酸化反応は、分子状酸素を含有するガスを用いて実施される。分子状酸素を含有するガスとしては、空気がその酸素濃度及び経済性から好ましいが、より高い酸素濃度で製造する場合など、必要であれば、純酸素、または、純酸素と、空気、窒素、二酸化炭素、水蒸気等との混合ガスを用いることもできる。分子状酸素の量は、メタクロレイン1モルに対して、0.1モル以上が好ましく、0.3モル以上がより好ましく、0.5モル以上がさらに好ましい。また、30モル以下が好ましく、25モル以下がより好ましく、20モル以下がさらに好ましい。
【0023】
分子状酸素を含有するガスは、ガス分散器を用い液相中に微細な泡状で供給するのが好ましい。ガス分散器としては、例えば、多孔板、ノズル、多孔質板などが挙げられる。分子状酸素を含有するガスの空塔速度としては、0.2cm/s以上が好ましく、0.5cm/s以上がより好ましい。また、30cm/s以下が好ましく、25cm/s以下がより好ましい。
【0024】
液相酸化反応を行う温度および圧力は、用いる反応溶媒および原料によって適宜選択される。反応温度は、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましい。また、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。反応圧力は、反応液が反応温度において液化する圧力以上の圧力であることが好ましく、具体的には、0.05MPa以上が好ましく、0.1MPa以上がより好ましい。反応圧力は高いほうが酸化反応が速やかに進行するため、高い値に設定することが好ましいが、経済的な観点から、10MPa以下が好ましく、8MPa以下がより好ましい。
【0025】
なお、液相酸化反応時における高温による原料や生成物の重合を防止するために、重合防止剤を使用することが好ましい。この際に使用できる重合防止剤としては、例えば、ハイドロキノン、p−メトキシフェノール等のフェノール系化合物、N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン等のアミン系化合物、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、あるいは4−[H−(OCHCH−O]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(ただしn=1〜18)等のN−オキシル系化合物等が挙げられる。重合防止剤の使用量は、液相酸化反応において原料や生成物の重合を防止するのに必要な量とすることができる。
【0026】
液相酸化反応は、回分式、連続式いずれの方法おいても実施することができるが、工業的には連続式の方が好ましく用いられる。連続式の場合、気液固反応が実施できれば制約はないが、例えば、充填塔型反応器、気泡塔型反応器、撹拌槽型反応器、スプレー塔型反応器、段塔型反応器等が用いられる。貴金属含有触媒を反応液中に懸濁させて液相酸化反応をする場合には、この中でも気泡塔型反応器、撹拌槽型反応器が好ましく用いられる。反応器は必要に応じて、2段以上の多段直列に配置し、反応液が各槽を順次流通するようにして液相酸化反応を実施することもできる。反応液の反応器内における滞留時間は、貴金属含有触媒の量、反応温度、圧力等により適宜選択できるが、通常0.1hr以上、好ましくは0.2hr以上であり、通常10hr以下、好ましくは8hr以下である。
液相酸化反応において、反応器内の液相部を通過した分子状酸素を含有するガス(以下未反応酸素ガスと呼ぶ)は、気相部において爆鳴気を形成する恐れがあるため、気相部、場合によっては液相部に窒素、二酸化炭素、水蒸気等の不活性ガスを供給し爆鳴気形成を回避することが好ましい。未反応酸素ガスまたは未反応酸素ガスを前記不活性ガスで希釈したガスには低濃度の原料や反応溶媒が存在しているため、大気汚染防止またはコストの観点から、通常、原料や反応溶媒を回収後、インシネエーター等で処理してから大気中に放散される。この回収法としては、吸収法、吸着法などを挙げることができる。
以上のような液相酸化反応により、メタクリル酸を得ることができるが、本発明者らの検討により、ケトン溶媒を用いることで酸無水物が高選択的に副生することが明らかになった。副生する酸無水物は、目的生成物であるメタクリル酸のカルボキシル基二個から水一分子が脱離した化合物である。すなわち、上記のような液相酸化反応により、メタクリル酸及びメタクリル酸無水物を含有する反応液が得られる。
【0027】
そこで本発明は、反応液から貴金属含有触媒を分離する工程(工程(b))、未反応メタクロレンおよびケトンを分離する工程(工程(c))、メタクリル酸無水物を酸触媒等を用いて加水分解する工程(工程(d))を有する。以上の工程(b)〜(d)を有することで、副生成物であるメタクリル酸無水物を効率よくメタクリル酸にすることができ、全体としてメタクリル酸の収率が向上する。
【0028】
<貴金属含有触媒の分離工程>
本発明は、貴金属含有触媒によるメタクリル酸の副反応進行を防ぐため、無水メタクリル酸の加水分解工程より先に貴金属含有触媒分離工程(b)を有する。貴金属含有触媒は再び反応器に戻して再利用することが好ましい。
【0029】
反応液からの貴金属含有触媒の分離は、減圧、常圧、加圧いずれの圧力においても実施することができる。
【0030】
貴金属含有触媒の粒径が大きい場合及び比重が大きい場合は、上記分離として重力による沈降分離を実施できるが、貴金属含有触媒の粒径が小さい場合及び比重が小さい場合は、重力の代わりに遠心力を利用した遠心分離、重力、加圧または減圧を利用してろ材と称する隔壁によってろ過ケーキとろ液とに分離するろ過を用いることが好ましい。
【0031】
遠心分離の際、遠心沈降機として、例えば、円筒型遠心分離機、固体排出式分離機、垂直型デカンター、垂直型多段デカンター、自動回分式水平型デカンター、水平型デカンター連続排出式、セントリフュージを、遠心ろ過機として、例えば、回分式遠心ろ過機、自動回分式遠心ろ過機、自動排出型遠心脱水機、スクリュー排出型遠心脱水機、振動排出型遠心脱水機、押出板型遠心脱水機、押出板型多段式遠心脱水機、スクリュー排出型(横型)遠心脱水機等を用いることができる。
【0032】
ろ過の際、加圧ろ過器としては、例えば、加圧ヌッチェ、板枠型圧ろ器、凹板型圧ろ器、Eimco−Burwell圧ろ器、可逆圧ろ器、Kelly型ろ過器、Sweetland型ろ過器、Vallez型ろ過器、水平板型加圧ろ過器、垂直円筒型加圧葉状ろ過器、連続式クロスフロー型ろ過器、連続式回転円筒型加圧ろ過器、連続式二重円筒型加圧ろ過器、連続式ドラムベルト型加圧ろ過器、連続式ロータリーフィルタープレス、連続式加圧葉状ろ過器などが、真空ろ過器としては、真空ヌッチェ、真空葉状ろ過器、連続式多室円筒型真空ろ過器、連続式単室円筒型真空ろ過器、連続式垂直円板型真空ろ過器、連続式水平型真空ろ過器などが用いられ、連続的にスラリー状の触媒を分離する場合には、クロスフロー型ろ過器が好ましく用いられる。
【0033】
直列多段槽型反応器を使用する場合、各槽の出口に触媒分離器を配置して、貴金属含有触媒と反応液の分離を行い、貴金属含有触媒は元の槽に返送し、貴金属含有触媒が分離された分離液(1)は次の槽に送液する。
【0034】
<メタクロレインおよびケトンの分離工程>
次に、本発明は、得られた分離液(1)から原料であるメタクロレインと溶媒成分であるケトンを分離して分離液(2)を得る工程(c)を有する。溶媒に使用したケトンがアセトンの場合、アセトンはメタクロレインよりも低沸点なので溶媒成分のアセトンと未反応メタクロレインを同時に反応液から分離することができる。この分離には、慣用の蒸留操作、抽出操作、膜分離操作等により行うことができる。蒸留操作による分離を例に挙げて説明すると、例えば、連続式の多段蒸留塔による分離が好ましく用いられる。上記連続式の多段蒸留塔としては、リボイラーとコンデンサーを含めた段数が3段以上、より好ましくは4段以上、さらに好ましくは5段以上の蒸留塔が好ましい。このような蒸留塔としては、例えば、蒸気とガスを十字流で接触させる形式の泡鐘トレイ、多孔板トレイ、バブルトレイ、ジェットトレイなど、蒸気とガスを向流で接触させる形式のターボグリッドトレイ、リップルトレイ、デュアルフロートレイ、キッテルトレイなど、それ以外の方法で気液を接触させる形式のバッフルトレイ、ディスクドーナツトレイなどの棚段塔、また、例えば、ラシヒリング、ポールリング、インターロックサドル、ディクソンパッキング、マクマホンパッキング等の不規則充填材及びスルーザーパッキングに代表される規則充填材が充填された充填塔等、一般に用いられている蒸留塔を使用することができる。上記の段数とは、棚段塔、充填塔ともに理論段数を示す。塔底温度は重合防止の観点から、150℃以下、好ましくは120℃以下、より好ましくは90℃以下で操作することが好ましい。操作圧力は、塔底の好ましい温度の範囲内において、常圧、加圧、減圧の圧力から選ばれる。また、必要に応じて塔頂液の一部を蒸留塔に還流することができ、還流比は0.05以上、好ましくは0.1以上であり、20以下、好ましくは15以下である。塔内の重合を防止するため、前記重合防止剤を使用することが好ましい。必要に応じて分子状酸素のエアーバブリングを併用することも可能である。塔頂液は反応器にリサイクルされ、再び反応に利用することが好ましい。この場合、水、メタクリル酸、メタクリル酸無水物の少量が塔頂液に含まれていても差し支えない。
【0035】
ケトン類の沸点がメタクロレインの沸点より高い場合は未反応メタクロレインの分離を先に実施する。この分離には、慣用の蒸留操作、抽出操作、膜分離操作等により行うことができる。蒸留操作による分離を例に挙げて説明すると、例えば、連続式の多段蒸留塔による分離が好ましく用いられる。塔頂より得られるメタクロレインには、溶媒であるケトン類を含有していてもよい。メタクロレインを含む塔頂液は反応器にリサイクルされ、再び反応に利用することが好ましい。この場合、メタクリル酸、メタクリル酸無水物の少量が塔頂液に含まれていても差し支えない。
【0036】
引き続いて、得られた塔底液から溶媒であるケトン類を分離する工程を行う。この分離には、前述のメタクロレインの分離と同様に、慣用の蒸留操作、抽出操作、膜分離操作等により行うことができる。蒸留操作による分離を例に挙げて説明すると、例えば、連続式の多段蒸留塔による分離が好ましく用いられる。ここで、分離したケトン類は、回収し再び反応に利用することが好ましい。この場合、メタクリル酸、メタクリル酸無水物の少量が塔頂液に含まれていても差し支えない。また、前記メタクロレインの分離工程とケトン類の分離工程を一つの蒸留操作で同時に行っても差し支えない。この場合、塔頂液からはケトン類とメタクロレインが得られる。
【0037】
本発明において、上記方法により分離液(1)から原料メタクロレインと溶媒ケトン類を分離して分離液(2)とすることができるが、分離精度を高めるために上記工程の途中にフラッシュドラムまたは蒸留塔を適宜追加しても構わない。
【0038】
<メタクリル酸無水物の加水分解工程>
引き続き、本発明はメタクリル酸無水物を加水分解してメタクリル酸とする工程(d)を有する。このとき溶媒成分の水が幾分か含有している状態であるが、適宜水を追加しても構わない。追加する水は特に制限されないが、例えば蒸留水、脱イオン水、飲料水等が使用できる。
【0039】
メタクリル酸無水物を水と接触させる際、その反応速度を高めるために酸触媒を共存させることが好ましい。このような酸触媒として、例えば、陽イオン交換樹脂;ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸類;塩酸、硝酸、硫酸、りん酸などの鉱酸類;ヘテロポリ酸、ヘテロポリ酸塩などのヘテロポリ酸類が好ましい。
【0040】
陽イオン交換樹脂以外の酸触媒を用いる場合の使用量は、メタクリル酸無水物1モルに対し0.005モル以上が好ましく、0.01モル以上がより好ましく、5モル以下が好ましく、2モル以下がより好ましい。酸触媒として陽イオン交換樹脂を用いる場合の使用量は、メタクリル酸無水物酸無水物1モルに対し、陽イオン交換樹脂の交換容量で、0.005当量以上が好ましく、0.01当量以上がより好ましく、5当量以下が好ましく、2当量以下がより好ましい。
【0041】
また、上記酸触媒の代わりに塩基を共存させることもできる。塩基としては、例えばアルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩や水酸化物等の無機塩基、脂肪族や芳香族の有機塩基、およびアルカリ土類金属の脂肪酸塩等が使用できる。その具体例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、ピリジン、アニリン、酢酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム等が挙げられる。
【0042】
塩基の使用量は、メタクリル酸無水物1モルに対し、0.005モル以上が好ましく、0.01モル以上がより好ましく、5モル以下が好ましく、2モル以下がより好ましい。
【0043】
酸無水物とアルコールおよび水を接触させる方法としては、回分式、半回分式、連続式いずれの方法も採用することができる。生産性の観点から連続流通式が好適であり、このような反応器として、例えば、管型反応器、撹拌槽型反応器、充填塔型反応器などが挙げられる。陽イオン交換樹脂を酸触媒として用いる場合は、触媒をカラムに充填した連続流通式反応器が好ましく用いられる。
【0044】
反応時間または滞留時間は、0.1hr以上が好ましく、0.2hr以上がより好ましく、8hr以下が好ましく、6hr以下がより好ましい。反応温度は、10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、120℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、60℃以下がさらに好ましい。反応圧力は、減圧、大気圧、加圧いずれの圧力でも実施することが可能であるが、500mmHg(66.7kPa;いずれも絶対圧)以上が好ましく、650mmHg(86.6kPa;いずれも絶対圧)以上がより好ましく、0.5MPa以下が好ましく、0.2MPa以下がより好ましい。
【0045】
上述のような工程(a)〜(d)を有することにより、メタクロレインからメタクリル酸、メタクリル酸無水物を高選択的に製造し、さらにメタクリル酸無水物を加水分解することで最終的なメタクリル酸の収率を高めることを可能とする。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を下記実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
実施例、比較例において、メタクロレイン(MAL)の転化率、メタクリル酸(MAA)の選択率、メタクリル酸無水物(ANH)の選択率及び生産性は以下のように定義される。
(MALの転化率)[%]=(消費したMALのモル数)/(供給したMALのモル数)×100
(MAAの選択率)[%]=(生成したMAAのモル数)/(消費したMALのモル数)×100
(ANHの選択率)[%]=(生成したANHのモル数×2)/(消費したMALのモル数)×100
(MAAの生産性)[g−MAA/g−Pd/hr]=(生成したMAAの質量)/(Pd触媒の質量)/(反応時間)
(ANHの生産性)[g−ANH/g−Pd/hr]=(生成したANHの質量)/(Pd触媒の質量)/(反応時間)
また、圧力は全てゲージ圧表記である。
【0048】
[実施例1]
<メタクロレインの液相酸化反応>
200ml加圧反応器に、アセトン56.5g、水9.5gからなる含水アセトン溶媒を供給し、さらに、メタクロレイン15.6g、p−メトキシフェノール0.015gおよびパラジウム(Pd)を0.2g含む触媒2.4gを充填した。この反応液を攪拌しながら加圧反応器内の温度が90℃まで昇温した後、空気ガスを加圧反応器内圧力が3.30MPaまで導入した。ここを反応開始時刻とする。その後、加圧反応器内圧力が約0.1MPa減少するごとに酸素を0.1MPa追加した。反応開始から30分経過したら反応器を急冷した。
【0049】
反応器内温度が室温まで冷却した後反応液を取り出し、フィルターを使用して反応液から貴金属含有触媒を分離した後ガスクロマトグラフィーで分析した。反応ガスはガスパックに採取し、反応液同様にガスクロマトグラフィーで分析した。その結果を表1に示す。表中のMAAはメタクリル酸、ANHはメタクリル酸無水物を示す。
【0050】
反応後の液には未反応のメタクロレイン及びメタクリル酸無水物が多く混在している。この液からアセトンとメタクロレインを分離し、メタクリル酸無水物の加水分解を行うことでメタクリル酸を得ることが出来る。
【0051】
[実施例2]
反応に使用する混合溶媒をアセトン48.9g、水16.7gとした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
[実施例3]
反応に使用する混合溶媒をアセトン39.6g、水25.8gとした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0052】
[比較例1]
反応に使用する溶媒を水75.2g、原料メタクロレイン量を5.3gとした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
[比較例2]
反応に使用する溶媒をアセトン66.7gとした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表中の略号
MAL:メタクロレイン
MAA:メタクリル酸
ANH:メタクリル酸無水物
Pd:パラジウム
【符号の説明】
【0055】
101 液相酸化反応器
102 固液分離器
103 メタクロレイン分離塔
104 溶媒分離塔
105 加水分解反応器
106 メタクロレイン・アセトン分離塔
1 原料・溶媒導入ライン
2 不活性ガス導入ライン
3 分子状酸素供給ライン
4 排ガスライン
5 触媒循環ライン
6 反応液取出しライン
7 触媒分離後の分離液(1)ライン
8 メタクロレイン循環ライン
9 メタクロレイン分離後の液ライン
10 溶媒循環ライン
11 溶媒分離後の分離液(2)ライン
12 酸触媒・水供給ライン
13 酸無水物分解後ライン
14 メタクロレイン・アセトン循環ライン
15 メタクロレイン・アセトン分離後の分離液(2)ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクロレインを液相中で分子状酸素により酸化しメタクリル酸を製造する方法であって、(a)貴金属含有触媒存在下、水の沸点より低い沸点のケトン類を含む含水ケトン溶媒中でメタクロレインからメタクリル酸及びメタクリル酸無水物を製造する工程、(b)その工程で得られた反応液から貴金属含有触媒を分離して分離液(1)を得る工程、(c)分離液(1)から未反応メタクロレインおよびケトンを分離して分離液(2)を得る工程、(d)分離液(2)中のメタクリル酸無水物を加水分解してメタクリル酸とする工程、を有するメタクリル酸の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のケトンがアセトンであり、その含水アセトン溶媒中の水濃度が10質量%〜50質量%である請求項1記載のメタクリル酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−158557(P2012−158557A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19921(P2011−19921)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】