説明

メタルハライドランプ及びメタルハライドランプ点灯装置

【課題】 ランプの点灯状態を、比較的高い電力と比較的低い電力の間で間欠的に点灯とし、その結果、ランプ温度にばらつきが発生した場合でも、使用寿命が長いメタルハライドランプを提供すること。
【解決手段】 石英ガラスからなる発光管の内部に、一対の電極が対向配置され、水銀、希ガス、鉄、タリウム及びビスマスが封入され、更に少なくとも沃素を含むハロゲンが封入されてなるメタルハライドランプにおいて、鉄、タリウム及びビスマスが、鉄とタリウムの原子量比Fe/Tlが15〜25の範囲、鉄とビスマスの原子量比Fe/Biが2〜4の範囲、ビスマスとタリウムの原子量比Bi/Tlが5〜10の範囲で封入されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタルハライドランプおよびメタルハライドランプ点灯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイパネルの製造工程においてガラス基板を貼り合わせる際、ガラス基板とガラス基板の間に塗布されたシール剤を硬化するための紫外線光源としてメタルハライドランプが好適に利用されている。かかる製造工程においては、棒状のメタルハライドランプとその背面に配置された反射ミラーとを備えた点灯装置が使用される。
【0003】
図6にこの装置を示す。ランプハウス60内にメタルハライドランプ61が配置される。メタルハライドランプ61の上方には反射ミラー62が配置されており、ランプからの放射光は下方に設置されたワークWに照射する。ワークWは上述したようにガラス基板63とガラス基板64の間にシール剤65が塗布されたものである。
このような用途においてはシール剤65の特性に由来して波長300〜400nm域の紫外線照射が要求されており、上記波長帯において良好な光放射が得られる鉄を発光管内部に封入したメタルハライドランプ61が好適に使用されている。
【0004】
このメタルハライドランプにおいては発光管の内壁に鉄が付着して薄膜を形成し、徐々に管の透過率が低下して所定の発光特性が得られなくなるといった現象を生じることが知られており、その対策として鉄と共にタリウムやビスマスなどの金属を同時に封入することにより、鉄と発光管(すなわち石英ガラス)との反応を抑制するという技術が採用される。このようなメタルハライドランプによれば、所望領域の波長帯の光を長い使用寿命で放射することができる。
【0005】
特許文献1に鉄を封入したメタルハライドランプは開示されている。この文献に記載されたメタルハライドランプでは、水銀と、希ガスと、鉄と、ハロゲンとともにタリウム、ビスマスが封入されており、発光管内壁1cmあたりの負荷は25W/cmを超えて58W/cm以下で点灯されるメタルハライドランプであって、前記封入物のうち、ビスマスのタリウムに対するグラム原子数比Bi/Tlが1/8〜5/1となっている。また、更に上記封入物うち、タリウムとビスマスのグラム原子数の和は、発光管内容積1cmあたり2×10−8〜2.5×10−7となっている。また、鉄、タリウム及びビスマスの総原子量に対するハロゲンの総原子量は1.0〜1.4である。
【0006】
以下に、より具体的に特許文献1に記載のメタルハライドランプの仕様の一例を挙げる。
メタルハライドランプは、定格消費電力7kW、発光管の内径が22mm、電極間距離250mmであり、封入物は、金属水銀260mg、沃化水銀9.1mg、鉄1.3mg、沃化タリウム1.2mg、沃化ビスマス2.9mg、キセノンガス2.13×10Pa(160torr)となっている。つまりこのメタルハライドランプにおいては、ビスマスのタリウムに対するグラム原子数比Bi/Tlは1.33であり、鉄とタリウムの原子量比Fe/Tlは6.4、鉄とビスマスの原子量比Fe/Biは4.7となっている。なお、発光管内壁1cmあたりの負荷は41W/cmであり、発光管内容積1cmあたりのタリウムとビスマスのグラム原子数の和は、8.5×10−8である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−275234号公報
【特許文献2】特開2006−035436号公報
【特許文献3】特開2009−05964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近時、上述した液晶ディスプレイパネルの製造工程では、製造時にかかる電力量を低く抑えることを目的として、メタルハライドランプの入力電力をワーク照射時と非照射時との間で切り替え、被照射時の電力を低くするようにして行っている。例えば、1つのワークを処理するため、ワークに対して数十秒間、比較的高い電力でランプを点灯し、その後照射が終了したワークを移動して次のワークが搬送されてくるまでの間、数十秒間は光の照射を遮断して比較的低い電力に切り替えて点灯する。
なお、ここでいう「比較的高い電力」とは定格消費電力の約80%以上であり、「比較的低い電力」とは定格消費電力に対して約50%以下となるような電力である。
このような、いわば擬似的な間欠点灯を行うことで、メタルハライドランプを省電力で駆動することと同時に、ランプのON/OFFして切り替えるよりもランプの始動性を速やかに行い、多数のワークを連続的に処理することを実現している。
【0009】
また更に、上記メタルハライドランプにおいては、ランプの点灯時間の経過に伴う照度の低下を補う目的で、上記した比較的高い電力の数値を徐々に高くし、ワーク面における照度を一定化することを実現している。このため、ランプの寿命末期近くになると入力電力がいっそう高くなり、ランプとしては過酷な点灯状態を余儀なくされる。
【0010】
このような点灯方法を採用した結果、従来の点灯方法のランプに比較してメタルハライドランプの照度低下はいっそう顕著になり、ランプの使用寿命が半減するほど短くなる。
発明者らはこのような短寿命化が発生する点について検討した。
【0011】
ランプが早期に照度低下が起こるという問題は以下のモードで発生する。
まず、ランプの寿命特性は、上述した点灯方法に加えて冷却条件もまたかかわっており、冷却条件が不安定であると寿命に大きなばらつきが生じる。具体的にはワークに光を照射する光照射装置においては、低電力時において搬送中のワークに対する光を遮断するため反射ミラーを兼ねるシャッタ機構によって光を遮光する手段が採用される。例えば、図5のようにランプ10の周囲にミラーを兼ねるシャッタ12を備えており(a)照射時、(b)被照射時のように、開閉動作が行われる。
一方で、ランプ温度の一定化を図る目的で、電力値を切り替えると同時に冷却用のブロア(不図示)の回転数を変えることで調整しようとするが、ブロアはランプの上部にあり、シャッタが閉じられることでランプの全長に亘る温度調整が極めて難しい状況になる。特にこの種の装置では、多数のランプを多数並べて配置して面照射を実現しており、ランプ配置(中央と縁部)やシャッタの開閉動作及びその他の要因によってランプに温度ムラが生じやすい。このような温度ムラによって、ランプ温度が適正範囲から外れるとランプに動作異常が引き起こされるようになる。
【0012】
具体的には、過冷却の場合はハロゲン化物である沃化物の蒸気圧が低下してランプの動作異常が引き起こされ、過熱の場合はハロゲン化物である沃化物と石英ガラスとの反応が生じ易くなって沃化物が消失する。
このような状況は、液晶パネルが大型化に伴ってランプの発光長(電極間距離)が長く、発光管の全長もまた長くなってきていることからも、ランプの温度制御の困難性が増す原因となっており深刻である。
【0013】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ランプの点灯状態を比較的高い電力と比較的低い電力の間で間欠的に点灯とし、その結果、ランプ温度にばらつきが発生した場合でも使用寿命が長いメタルハライドランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、メタルハライドランプを矩形波電圧、電流を供給する電源を用いて点灯することで、メタルハライドランプの長さ方向における軸方向の発光分布状態を均一化できることを見出し、更には、封入物の量を従来(特許文献1)のものから更に最適化することができるという可能性を含んでいると考え、冷却条件の不均一性に左右されない、従来のメタルハライドランプとは異なる封入物の最適範囲について検証することを試みた。
【0015】
この結果、本発明者らは、ビスマス(Bi)が、ランプに温度変化が生じた場合にも、アークの状態を変化させ難くする物質であるということを見出した。Biはメタルハライドランプの温度条件が変わった場合でも、Feと発光管との反応を抑えることができる。つまり、Feに対するBi添加量を増大させることで、Feと石英の反応を抑制し、照度維持率を延ばすことができるようになる。一方で、Biは過剰に入れ過ぎると電極の荒れや発光効率の低下を招くようになるので、このような副作用が顕在化しない適正な領域を選ぶ必要がある。
【0016】
更に、好適な条件としては、鉄、タリウム及びビスマスの総原子量(ΣM)に対するハロゲンの総原子量(ΣX)、つまりΣX/ΣMを、1.6〜2.0の範囲とする。このように、封入量を多くすることで、ランプの過熱状態が発生した場合に消失する沃化物があったとしても、適正なハロゲンサイクルを長期間に亘って維持し、ランプの状寿命化を実現することができる。
【0017】
以上の知見により、本発明においては、下記構成を具備したメタルハライドランプ及びメタルハライドランプ点灯装置とする。
(1)第1の発明に係るメタルハライドランプは、石英ガラスからなる発光管の内部に、一対の電極が対向配置され、水銀、希ガス、鉄、タリウム及びビスマスが封入され、更に少なくとも沃素を含むハロゲンが封入されてなるメタルハライドランプにおいて、
鉄とタリウムの原子量比Fe/Tlが15〜25の範囲、
鉄とビスマスの原子量比Fe/Biが2〜4の範囲、
ビスマスとタリウムの原子量比Bi/Tlが5〜10の範囲であることを特徴とする。
【0018】
(2)第2の発明に係るメタルハライドランプは、上記第1のメタルハライドランプにおいて、
ハロゲンの総原子量(ΣX)と、鉄、タリウム及びビスマスの総原子量(ΣM)の比、ΣX/ΣMが1.6〜2.0の範囲であることを特徴とする。
【0019】
(3)また本願発明に係るメタルハライドランプ点灯装置においては、
上記第1の発明又は第2の発明に係るメタルハライドランプと、このメタルハライドランプに対して電力を供給する給電装置とを具備してなるメタルハライドランプ点灯装置であって、
前記給電装置は、定常電力点灯モードと、前記定常電力点灯モードよりも低い電力で電流を供給する省電力点灯モードとを備えるものであり、前記メタルハライドランプに矩形波電流供給するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
(1)
上記本願第1の発明にかかるメタルハライドランプによれば、Tl及びBiの金属を、Feによる発光管の黒化現象を抑制する金属として、Biを主体とするような割合に切り替えることで、メタルハライドランプの温度が過冷却状態・過熱状態のどちらに対しても耐性を維持することができ、Feの損失を抑制して照度を高い状態に維持することができるようになる。
(2)
また、本願第2の発明にかかるメタルハライドランプによれば、金属に対するハロゲンの封入量割合大きいので、ランプの過熱状態が発生した場合に消失する沃化物があったとしても、適正なハロゲンサイクルを長期間に亘って維持することができてランプの状寿命化を実現することができる。
(3)
また、本願第3の発明にかかるメタルハライドランプ点灯装置によれば、矩形波電流、電圧を供給することにより、従来のメタルハライドランプと比較して、ハロゲンにおける、鉄、タリウム及びビスマスの総和に対する封入量を高くすることで温度変化による不具合を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本願に係るメタルハライドランプを示す管軸方向断面図である。
【図2】メタルハライドランプの点灯装置を説明する回路図である。
【図3】実験の結果を示す表である。
【図4】実験の結果を示す表である。
【図5】液晶パネル製造に係る光照射装置のシャッタ開閉状態を説明する図である。
【図6】液晶ディスプレイパネルの製造工程に使用されるメタルハライドランプ点灯装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基いて説明する。
図1は、この発明にかかるメタルハライドランプの基本的な構成を示す管軸方向で切断した断面図である。同図に示すように、メタルハライドランプ(以下、ランプともいう)10は、石英ガラスからなる発光管1内の両端に、タングステンからなる一対の電極2が互いに管軸方向に対向するように配置され、発光管1の両端のシール部1aに封止されたモリブデンよりなる金属箔3を介して、電極2と外部リード4とが電気的に接続されている。このランプの発光管内壁1cmあたりの負荷は35〜125W/cm(80〜280W/cm)である。発光管の全長は約600〜800mmであり、電極間距離は約550〜750mmとされる。
【0023】
このメタルハライドランプには、発光管の内部に金属水銀、沃化水銀、鉄、沃化タリウム、沃化ビスマス、及び、希ガスとしてキセノンガスが封入される。なお、前記した沃化物に加え、臭化水銀、沃化鉄を同時に封入してもよい。
【0024】
鉄は主要な発光である波長300〜400nmの範囲の紫外光を得るために封入される必須の発光物質である。
タリウムは同領域において発光を得ると共に、鉄と同時に封入されることで、発光管を構成する石英ガラスと鉄とが反応することを抑制し、もって発光管の黒化を抑制するという役割を担う。
ビスマスもまた鉄と同時に封入されることで鉄と発光管の反応を抑え、タリウムと同様に発光管の黒化を抑制する。特にビスマスはメタルハライドランプの点灯状態に応じ、高入力と低入力を所定の時間で切り替えて点灯し、かつ、冷却条件が一定化しないような状況、言い換えれば過熱と過冷却が交互に繰り返されて使用されるような過酷な状態の下においてアークの状態を安定化させて放電空間内部を鉄と発光管とが反応しにくい状態に維持する。
【0025】
特に、鉄(Fe)とタリウム(Tl)の原子量比、Fe/Tlを15〜25の範囲とし、鉄(Fe)とビスマス(Bi)の原子量比、Fe/Biを2〜4の範囲とする。そして、ビスマス(Bi)とタリウム(Tl)の原子量比、すなわちBi/Tlを5〜10として、鉄に対するビスマスの封入割合を従来のメタルハライドランプに比較して増大させることで、ビスマスのアーク安定化を図っている。一方で、Biは過剰に入れ過ぎると電極の荒れや発光効率の低下を招くようになるので、Fe/Biを4以下、Bi/Tlを10以下とすることにより、このような副作用が顕在化しないようにしている。
【0026】
また、発光管内部に封入されるハロゲンとしては、少なくとも沃素が封入され、好ましくは沃素と共に臭素が封入される。沃素(又は沃素と臭素)の総ハロゲン原子量(ΣX)は、鉄、タリウム及びビスマスの原子量を合わせた総原子量(ΣM)と比較したとき、ΣX/ΣMが1.6〜2.0の範囲であることが好ましい。
このようなハロゲンの総量を備えることで金属に対するハロゲンの封入量が比較的大きいものとなり、ランプの過熱状態が発生した場合に消失する沃化物があったとしても適正なハロゲンサイクルを長期間に亘って維持することができるので、メタルハライドランプの長寿命化を実現することができる。
【0027】
図2は本発明に係るメタルハライドランプの点灯装置の一例を示す回路ブロック図である。
同図において、交流電源21はその出力側が昇圧整流回路22に接続されている。昇圧整流回路22は例えば入力側が交流電源21に接続された昇圧トランスT1、整流ダイオードD1、平滑コンデンサC1により構成される整流回路であり、交流電流を直流電圧に変換して出力する。
その後、この直流電圧は、コイルL3、スイッチング素子S1、整流ダイオードD2、平滑コンデンサC2により構成された昇圧チョッパ回路で昇圧され、極性反転回路23に平滑化された直流電流を出力する。
昇圧チョッパ回路のスイッチング素子S1(例えばIGBT,FET)には、制御回路24が接続されており、このスイッチング素子S1のスイッチングの周波数及びON/OFF期間を変化させることにより、所望の電圧を供給することができる。
これにより、投入電力の切り替えが可能となり、制御回路24からの信号により、メタルハライドランプ10の駆動状態を、ワークに対する照射モードと、ワーク搬送時の待機モードの2つのモードに切り替え可能としている。
【0028】
昇圧整流回路22の出力側に接続された極性反転回路23は、例えばブリッジ回路からなるインバータ回路でからなり、ブリッジ状に接続された、IGBT,FETなどのスイッチング素子Q1〜Q4から構成されている。極性反転回路23のスイッチング素子Q1〜Q4のON/OFF制御は、制御回路25に含まれるドライバ回路によって駆動される。
極性反転は、スイッチング素子Q1及びQ4の駆動信号である極性反転回路駆動信号Xと、スイッチング素子Q2及びQ3の駆動信号である極性反転回路駆動信号Yが交互にON/OFFを繰り返す動作により、矩形波交流電圧がメタルハライドランプ10に供給される。
【0029】
ランプの始動動作は、ランプに直列に接続されたスターターコイルL2に、スターター回路26からパルス電圧が印加されて、ランプに封入されたガスを絶縁破壊することによって行われる。
【0030】
ここで、先に示した図5を参照してメタルハライドランプ点灯装置の点灯状況を説明すると、図5(a)照射時、(b)被照射時のように、ミラーは開閉動作が行われる。図5(a)の照射モードにおいて、例えば定格電力の80%以上の電力が供給されて点灯され、この状態が約1分間継続すると、ランプの投入電力が切り替えられて、定格消費電力の40〜60%程度に下げられる。同時に、図5(b)に示すようにミラーが閉じ、搬送されてくるワークが所定位置に設置されるまでこの状態が保持される。ミラーが閉じた状態は例えば30〜50秒間である。
このように、ミラーの開閉に伴う冷却状態の変化、ランプの投入電力の増減が同時に起こり、メタルハライドランプは、アークが安定化しにくい状況が形成されるが、発光管内部に封入したタリウム及びビスマスの作用により鉄と発光管との反応が抑制され、ランプの長寿命化が図られる。
【0031】
以下、本発明の実施例を説明する。
[実施例]
図1の構成に基いて、鉄とタリウムの原子量比Fe/Tl、鉄とビスマスの原子量比Fe/Bi、Bi/Tlの原子量比を異ならせて封入したメタルハライドランプを多数製作した。以下にランプの仕様を記載する。
発光管:石英ガラス、全長730mm(ベース間距離)、外径φ26.1mm、内径22.5mm、発光長(電極間距離)600mm、ランプ入力17000W(280(W/cm)×60(cm))
電極:タングステン
封入物質:水銀(Hg)、鉄(Fe)、沃素(I)、タリウム(Tl)、ビスマス(Bi)を所定の割合で封入した。水銀(Hg)の封入量は0.54〜0.80mg/cmであり、鉄(Fe)の封入量は0.02mg/cmであった。
なお本実施例においてはFe/Tlが15〜25の範囲、Fe/Biが2〜4の範囲となるよう調整し、Bi/Tl比が異なる種々のランプを作製した。封入物および封入量としては、沃化タリウム(TlI)を0.001〜0.009mg/cmの範囲とし、沃化ビスマス(BiI)を0.001〜0.11mg/cmの範囲とした。
【0032】
[比較例]
また比較例として発光管及び電極の仕様については上記実施例と同様とし、封入物の封入割合のみを下記従来技術の割合に変更した比較例に係るメタルハライドランプを作製した。
封入組成は、水銀(Hg)が130mg、鉄(Fe)が5.5mg、沃化水銀(HgI)が23mg、臭化水銀(HgBr)が1mg、沃化タリウム(TlI)が2mg、沃化ビスマス(BiI)が1mg、キセノンガス(Xe)が50mmHgであった。
【0033】
上記実施例に係るメタルハライドランプを、先に説明したスイッチング電源を用い、矩形波電流として電力を供給し、定格消費電力に対してA.高電力時が100%、B.低電力時が28%という比で、A.55秒−B.35秒に電力値を切り替える間欠点灯によりランプを点灯した。
その後、1時間毎点灯(エージング)後のランプの発光効率と電極の磨耗状態を検証した。また1000h点灯後の照度維持率を検証した。この結果をまとめて図3(表1)に掲載する。
【0034】
[発光効率]
発光効率は比較例に係るメタルハライドランプを同じ点灯方法で点灯し寿命試験を行ったときの発光効率を基準とし、発光効率が同程度のものは○、効率が著しく低下したものは×とした。効率がアップした場合は特に◎とした。
[電極の損耗状態]
電極の損耗状態は下記の基準に基いて目視評価したものである。
○は損耗がなし又はわずかであって発光管への電極物質飛散による付着がほとんどないもの、×は損耗が大きく発光管への電極物質の飛散による付着がひどく発生したものである。
[照度維持率]
照度維持率の評価においては下記の基準により記号を付した。
初期照度に対して90%以上の照度を維持している場合は◎、初期照度に対して70%以上の照度を維持している場合は○、初期照度に対して70%未満の場合は×とした。
【0035】
上記結果から明らかなように、Bi/Tl比が5〜10のメタルハライドランプによれば、上記各項目に関して全て良好に機能することが確認できた。
【0036】
更に、Bi/Tl比が5〜10のメタルハライドランプの中で、ハロゲンの総原子量(ΣX)と、鉄、タリウム及びビスマスの総原子量(ΣM)のと比、ΣX/ΣMで標準化して、発光管への付着物の状態、電極表面の損耗状態、寿命特性の3つ観点から評価を行った。発光管の付着物の状態はランプ点灯後1000h経過後の付着物の状態であり、◎はほとんどない、○はわずかに確認されたものの使用に差し支えのない程度、×は付着物が多く照度に影響が生じたもの、である。また電極の損耗状態は、○は損耗がなし又はわずかであって発光管への電極物質飛散による付着がほとんどないもの、×は損耗が大きく発光管への電極物質の飛散による付着がひどく発生したものである。ランプ寿命特性は、照度維持率が70%となる時点をランプ寿命として、これが1500h以上であったものを◎、1000h以上であったものを○、1000h未満を×とした。
図4の表2にこの結果を示す。
この結果からから明らかなように、ハロゲンの総原子量(ΣX)と、鉄、タリウム及びビスマスの総原子量(ΣM)の比ΣX/ΣMが1.6〜2.0の範囲であるメタルハライドランプによれば、発光管のよごれ、電極の損耗状態及び寿命特性の全ての項目において良好な結果を示すことが判明した。
【符号の説明】
【0037】
10 メタルハライドランプ
1 発光管
1a 封止部
2 電極
3 金属箔
4 外部リード棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラスからなる発光管の内部に、一対の電極が対向配置され、水銀、希ガス、鉄、タリウム及びビスマスが封入され、更に少なくとも沃素を含むハロゲンが封入されてなるメタルハライドランプにおいて、
鉄、タリウム及びビスマスが、
鉄とタリウムの原子量比Fe/Tlが15〜25の範囲、
鉄とビスマスの原子量比Fe/Biが2〜4の範囲、
ビスマスとタリウムの原子量比Bi/Tlが5〜10の範囲であることを特徴とするメタルハライドランプ。
【請求項2】
ハロゲンの総原子量(ΣX)と、鉄、タリウム及びビスマスの総原子量(ΣM)の比ΣX/ΣMが1.6〜2.0の範囲であることを特徴とする請求項1記載のメタルハライドランプ。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のメタルハライドランプと、
このメタルハライドランプに対して電力を供給する給電装置とを具備してなるメタルハライドランプ点灯装置であって、
前記給電装置は、定常電力点灯モードと、前記定常電力点灯モードよりも低い電力で電流を供給する省電力点灯モードとを備えるものであり、
前記メタルハライドランプに矩形波電流供給するものであることを特徴とするメタルハライドランプ点灯装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−124095(P2012−124095A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275554(P2010−275554)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】