説明

メタンガス回収方法及びエネルギー変換システム

【課題】バイオガス中の二酸化炭素を除去することにより、メタンガスを高濃度で回収する方法、及び、この方法を用いたエネルギー変換システムを提供することを目的とする。
【解決手段】密閉可能な醗酵槽1に、有機性廃棄物に由来する有機性原料液Mを充填する原料液充填工程と、充填された有機性原料液Mを醗酵槽1を密閉した状態で嫌気性条件下で醗酵させ、醗酵により生成する、メタンガスと二酸化炭素とを含有するバイオガスの圧力により醗酵槽1内を加圧しながら醗酵を継続させる醗酵工程と、醗酵槽1内の液の液性を中和するためにアルカリ性物質を添加する工程と、醗酵槽1内の気層からガスを回収するガス回収工程とを備えるメタンガス回収方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品工場等から排出される産業廃棄物、畜産廃棄物、生ゴミ,下水汚泥等の有機性廃棄物を醗酵させることにより生成されるメタンガスを高濃度で回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、おから等の食品廃棄物、おが屑等の産業廃棄物、家畜の排泄物や藁屑等の畜産廃棄物、排水処理汚泥等の有機系廃棄物を醗酵させることにより発生するメタンガスを熱エネルギーや電気エネルギーの燃料源とする処理システムが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
具体的には、醗酵槽中に有機系廃棄物に由来する原料液を供給し、該醗酵槽中で有機系廃棄物に由来する液をメタン生成菌等により、嫌気性条件下で醗酵処理することによりメタンガス及び二酸化炭素を主成分とするバイオガスを得る。このようなバイオガスは、通常、メタンガス:二酸化炭素=60:40のように、比較的高い割合で二酸化炭素を含有する。
【0004】
バイオガスに含まれる二酸化炭素はカロリーゼロであるために、このようなバイオガスを熱エネルギーや電気エネルギーに変換する装置に供給した場合、実質的にエネルギー源として用いられるのはメタンガスのみであり、前述した例においては、60%のメタンガスのみがエネルギー源として作用し、残りの40%の二酸化炭素はエネルギー源にはなりえず、通常、大気中に放出される。
【0005】
ところで、近年においては、地球の温暖化現象を抑制すべく、様々な技術開発が進められている。具体的には、二酸化炭素を排出しない代替エネルギー源の開発や、大気中の二酸化炭素を地中深くに閉じ込めるような技術が活発に検討されている。
【非特許文献1】神鋼環境ソリューション技報 2007年度 Vol.4 No.2 第2頁〜第6頁(2008年2月1日発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の有機系廃棄物を醗酵させることにより得られるバイオガスにおいては、二酸化炭素の含有率が比較的高いために、供給されるガスの容積に対してエネルギー効率が低かった。そのために、都市ガスのような高いエネルギー効率が得られていなかった。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑み、バイオガス中の二酸化炭素を除去することにより、メタンガスを高濃度で回収する方法、及び、この方法を用いたエネルギー変換システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のメタンガス回収方法は、密閉可能な醗酵槽に、有機性原料液を充填する原料液充填工程と、充填された前記有機性原料液を前記醗酵槽を密閉した状態で嫌気性条件下で醗酵させ、醗酵により生成する、メタンガスと二酸化炭素とを含有するバイオガスの圧力により醗酵槽内を加圧しながら醗酵を継続させる醗酵工程と、前記醗酵槽内の液の液性を中和するためにアルカリ性物質を添加する工程と、前記醗酵槽内の気層からガスを回収するガス回収工程と、を備えることを特徴とする。このような方法によれば、密閉された醗酵槽中で、醗酵によって生じるバイオガスの圧力により、水に溶けやすい二酸化炭素が水中に溶け込み、水に溶けにくいメタンガスは醗酵槽内の表層の気層に高い濃度で存在することになる。従って、気層中のガスは、メタンガス濃度の高いカロリーの高いガスになる。また、水酸化カルシウム等の中和剤を添加することにより、水中に溶け込んだ二酸化炭素が炭酸カルシウム等として析出させることにより、醗酵残渣とともに回収することもできる。これにより、二酸化炭素を固定化することもできる。なお、本方法においては、発生するガスの圧力を用いて醗酵槽の内圧を自己昇圧できる。
【0009】
前記アルカリ性物質がアルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種、特には、水酸化カルシウムであることが好ましい。このようなアルカリ性物質を二酸化炭素が溶解した液層に添加することにより、二酸化炭素により酸性側に傾いた液層の液性を中性域に維持、調整することができるとともに、炭酸塩として二酸化炭素を固定化して析出させることにより、原料液中の二酸化炭素を固定化することができる。
【0010】
また、上記メタンガス回収方法においては、前記醗酵槽に、前記醗酵により生じる醗酵残渣を排出する醗酵残渣排出ライン及び固液分離手段が、該醗酵槽側から順に直列に接続されており、前記醗酵残渣を前記醗酵残渣排出ラインを通じて前記固液分離手段に供給する際に、加圧状態の前記醗酵槽の内圧と前記醗酵残渣が供給排出される固液分離手段との間の圧力差を用いて、ポンプを使用すること無しに前記醗酵残渣を固液分離手段に供給することが好ましい。醗酵槽において生じる醗酵残渣には通常、固形分と液体成分とが含まれ、固液分離することにより液体成分は液肥等として用いられうる。固液分離する手段として、醗酵槽内の内圧と醗酵残渣が供給される固液分離手段との圧力差を用いることにより、醗酵残渣を圧搾したり、または、圧力差により生じる気流により濾液を吹き飛ばしたりすることができるために、新たなエネルギー供給を必要とせずに固液分離が実現できる。
【0011】
また、本発明のエネルギー変換システムは、前記何れかのメタンガス回収方法により回収されたガスを脱硫処理した後、電気エネルギー及び熱エネルギーを得るためのエネルギー変換装置に導入することを特徴とする。このような、エネルギー変換システムとしてはガスエンジンやマイクロガスタービンが挙げられる。このようなシステムによれば、上記メタンガス回収方法により回収された、メタンガス濃度が高いガスを用いるために、従来の二酸化炭素を多く含有するバイオガスに比べて高いエネルギー変換効率で電気エネルギー及び熱エネルギーを得ることができる。また、都市ガスに近いガスカロリーを有するため、直接的な燃料用途としても使用できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、余分なエネルギーを消費することなく、醗酵時に発生するバイオガスの圧力により、二酸化炭素を液層に溶解させてメタンガス濃度の高いバイオガスを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0014】
本実施形態のメタンガス回収方法は、図1に示すような、メタンガス回収システムにより実施される。図1のメタンガス回収システムは、密閉した状態で有機性廃棄物またはその処理物を含有する有機性原料液(以下、単に原料液とも呼ぶ)Mを醗酵させてメタンガスと二酸化炭素を含有するバイオガスを生成させるための醗酵槽1と、高圧ポンプの一例としてピストンポンプPPを用いて、原料液貯留タンクMTから醗酵槽1に原料液Mを供給するための原料液供給ライン2と、醗酵槽1内の液層Lの液性を中和するためにアルカリタンクATからアルカリ性物質を添加するためのアルカリ性物質供給ライン3と、醗酵槽1内の上部に形成される気層Gからガスを回収するためのガス回収ライン4と、醗酵処理により消化されて得られる醗酵残渣を取り出すための醗酵残渣排出ライン5とを備える。
【0015】
醗酵槽1は、密閉した状態で原料液Mをメタン醗酵処理するための容器であり、密閉可能な耐圧容器からなる。また、醗酵槽1には、容器内の内圧を調整するために開閉可能な圧力制御装置Rを備えた圧調整弁V1、及び内圧が所定圧を超えた場合に大気開放するための安全弁V2等の圧力調整手段が設けられている。さらに、醗酵槽1には、必要に応じて、醗酵を促進するために熱を供給するための温度制御手段Tが備えられる。温度制御手段Tとしては、後段のガスエンジン等から発生した熱により加熱された温水(又は蒸気)による加温手段が好ましく用いられる。この場合、温水配管を醗酵槽内に導入し醗酵槽内で間接的に熱交換する方法や、醗酵槽内の被処理物を醗酵槽外に取り出し槽外で前記温水と間接的に熱交換する方法、更には前記温水(又は蒸気)を直接醗酵槽内に吹き込む方法が利用できる。さらに、醗酵槽1には、原料液Mを撹拌するための撹拌羽1Aが備えられ、撹拌羽1Aは撹拌羽を回転駆動させるために接続されたモータ1Bにより回転駆動される。
【0016】
ガス回収ライン4は醗酵槽1の上部に形成される気層Gからガスを回収するための配管であり、醗酵槽1の上部から圧力調整手段V1を介して脱硫装置Sに接続されている。そして、ガス回収ライン4から回収されたガスは、脱硫装置Sで脱硫処理された後、直列に接続されたガスを貯蔵するためのガス貯留タンクGTに貯蔵される。
【0017】
醗酵残渣排出ライン5は、醗酵により生じた醗酵残渣を排出するための配管であり、抜き出しバルブV3を介して醗酵残渣中の固形分と濾液とを分離するための脱水機12に接続されている。
【0018】
本実施形態のメタンガス回収方法においては、はじめに、醗酵槽1に有機性廃棄物に由来する原料液Mをほぼ満杯に供給する原料液充填工程が行われる。原料液Mは、原料液供給タンクから原料液供給ライン2を通じて、ピストンポンプ等の加圧式のポンプPPにより順次醗酵槽1がほぼ満杯になるように送られる。さらに、原料液供給の途中で種菌であるメタン生成菌、又はメタン生成菌を含有する醗酵残渣が添加される。ピストンポンプを利用することでメタン醗酵槽内の圧力が高く、また原料液中の固形分濃度が高い場合でも、閉塞などを引き起こすことなく好適に原料液を供給することができる。
【0019】
有機性原料液Mは、食品工場等から排出される産業廃棄物、畜産廃棄物、生ゴミ,下水汚泥等の有機性廃棄物またはそれらを予備処理して得られるものであって、醗酵槽1内において容易に撹拌されるように、水によってある程度希釈されたものであることが好ましい。なお、メタン醗酵処理においては、加水せずに有機性廃棄物をそのまま原料として用いる乾式処理と、水などの液体を加えることにより固形分濃度を調整してスラリーの状態の原料を用いる湿式処理とに分けられる。乾式処理においては、固形分濃度20〜40質量%、湿式処理においては0.1〜15質量%の範囲の原料が用いられる。本実施形態においては、機械的構造の容易さから固形分濃度0.1〜15質量%の湿式処理、更には処理効率の観点から、固形分濃度4〜12質量%の湿式処理を用いることが好ましい。
【0020】
有機性廃棄物に含まれる高分子有機物の醗酵過程においては、はじめに、細菌(酸生成菌)の代謝等により高分子有機物はプロピオン酸、酪酸、及び酢酸等の低分子の有機酸にまで分解され(酸醗酵)、その後、メタン生成菌によりメタンと二酸化炭素が生成される(メタン醗酵)。酸醗酵とメタン醗酵とは、それぞれ異なる細菌種が関与する反応であるために、予め、別工程として酸醗酵のみを行った後、酸醗酵処理された処理液を有機性原料液Mとして醗酵槽1に供給してもよい。この場合においては、予め、有機性廃棄物中の炭水化物、タンパク質、脂肪等の高分子有機物を所定の酸生成菌等により、低分子のアルコールや有機酸のような低分子化合物にまで代謝処理させた処理液が原料液Mとして用いられる。また、酸醗酵はメタン醗酵槽内でも進行するために、酸醗酵とメタン醗酵とを一工程で醗酵槽1内のみで行ってもよい。
【0021】
このような原料液Mは醗酵槽1にほぼ満杯、具体的には、例えば、醗酵槽1の容積の9割以上を満たす程度に充填される。そして充填後、密閉状態で、所定の時間をかけて、醗酵槽1内に保持されたメタン生成菌により、嫌気性条件下で醗酵処理される。この醗酵の結果、メタンガスと二酸化炭素を含有するバイオガスが生成する。
【0022】
メタン醗酵の条件としては、メタン生成菌の種類によって50〜60℃程度の温度で醗酵を進行させる高温醗酵と、30〜40℃程度の温度で醗酵を進行させる中温醗酵とに分けられるが、本発明においては、いずれの条件においても特に限定なく実施しうる。
【0023】
そして、原料液Mをほぼ満杯に充填した後、醗酵槽1を密閉し、必要に応じて醗酵槽内の温度条件を管理しながら醗酵を継続させることにより、醗酵槽1内に、メタンガスと二酸化炭素を含有するバイオガスが発生し、醗酵槽1内が加圧状態になる。この際、醗酵効率を高めるために、撹拌羽1Aにより充填された原料液Mを撹拌することが好ましい。そして、加圧状態を維持しながら所定の時間、醗酵を継続させることにより、発生したガスの成分のうち、水に溶解しやすい二酸化炭素が醗酵槽1内の液層の水に溶解する。一方、メタンガスは水に難溶であるために、二酸化炭素に比べると水に溶解しにくいために、醗酵槽1中の液面に表出し、液面上方の気層G中に高濃度で含有されることになる。
【0024】
なお、原料液Mの供給及び醗酵残渣の排出方法としては、醗酵槽1で処理しうる量の原料液Mを一度に供給して所定の時間を掛けて醗酵を完了させた後、全てのガス及び醗酵残渣を排出及び回収した後、さらに、次の工程で処理するための原料液Mを供給して醗酵処理するという工程を繰り返すバッチ処理方式や、醗酵槽1の上部から一定時間毎に順次新しく処理される原料液Mを供給しながら、供給された原料液Mの量と略同量の醗酵残渣を醗酵槽の下部から、供給量と対応するように順次排出するような連続処理方式等、何れの方法を用いてもよいが、処理工程の簡便さの点からは連続処理方式が好ましく用いられうる。
【0025】
連続処理方式においては、はじめに醗酵槽1がほぼ満杯になる程度に原料液Mを充填した後、醗酵槽1を密閉して所定の時間醗酵させる。そして、所定の時間醗酵させた後、醗酵残渣排出ライン5の抜き出しバルブV3を開放して一部の醗酵残渣を排出した後、排出された醗酵残渣とほぼ同量の原料液Mを原料液供給ライン2を供給する。更に具体的には、例えば、20日間で醗酵が完了する場合において、醗酵槽の液相容積が20mである場合、はじめに、醗酵槽の容積がほぼ満杯になるように原料液Mを充填した後、所定の時間(例えば、20日間)放置する。そしてその後、一日1mの醗酵残渣を底部の醗酵残渣排出ライン5から排出するとともに、一日1mの原料液Mを原料液供給ライン2から供給する。この工程を連続して繰り返すことにより、新たに供給されたフレッシュな原料液Mは、実質的に20日間醗酵槽1内に滞留することになるために、醗酵が充分に進行する。なお、原料液Mの供給及び醗酵残渣排出の際には、醗酵槽内の内圧は多少低下することがあるが、排出される醗酵残渣及び供給される原料液Mはいずれも液体状であるために、気体に比べて比容積が小さいために内圧が大きく変化することはない。また、内圧が一時的に低下したとしても、ポンプにより供給される原料液と生成するガスとにより加圧状態は短時間で回復する。
【0026】
密閉された醗酵槽1内の内圧としては0.13MPa以上、2MPa未満、さらには0.2MPa以上、1MPa未満であることが好ましい。内圧が低すぎる場合には二酸化炭素が液層中に充分に溶解しないために本発明の効果を充分に発揮しえなくなるおそれがある。一方、内圧が高すぎる場合には高圧になるに伴い高圧設備の管理が必要になり、メンテナンスが煩雑になるおそれがある。なお、内圧が1MPa未満(例えば0.9MPa)であっても充分に二酸化炭素を溶解除去できるため、都市ガスに近いメタン濃度のガスを得ることができる。
【0027】
一方、密閉された醗酵槽1におけるガスの発生により、醗酵槽1内は加圧状態になる。そして、加圧状態においては、ガス中の易水溶成分である二酸化炭素が液層L中に溶解する。このとき、液層L中の二酸化炭素の溶解量が多くなるにつれて、液層の酸性度が高まり、そのpHが低下する。メタン醗酵においては、pHが低くなりすぎた場合には、メタン生成菌の活性が低下するおそれがある。このようなメタン生成菌の活性の低下を抑制するために、液層のpHを調整する必要がある。液層のpHとしては、6.4〜7.2の範囲であることがメタン生成菌の活性を維持することができる点から好ましい。本実施形態の方法においては、醗酵槽内で醗酵を継続させるために、液層の液性を中和して上記のような中性域のpHを維持するためにアルカリ金属,アルカリ土類金属の水酸化物等のアルカリ性物質を添加する。また、このようにアルカリ性物質を添加することにより、液層中に溶解した二酸化炭素を塩として析出させて固定化することもできる。なお、アルカリ性物質の添加は、内圧を加圧状態に維持した密閉状態で行うことが、より多くの二酸化炭素を固定化することができる点から好ましい。
【0028】
アルカリ性物質の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物や、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられる。これらの中では、水酸化カルシウムがメタン醗酵の活性を阻害しにくい点から好ましい。
【0029】
ここで、一例として、水酸化カルシウムを用いた場合の中和反応について説明する。
【0030】
液層に二酸化炭素が溶解した場合、HO+CO→HCOのようにHCO(炭酸)を生成する。そして、中和剤として水酸化カルシウムを添加した場合には、
CO+Ca(OH)→CaCO↓+2HOのように、炭酸カルシウムを析出して、液層中の二酸化炭素が固定化される。
【0031】
なお、下水汚泥等のメタン醗酵により発生するガス中の二酸化炭素はカーボンニュートラルであり、温暖化ガスの排出抑制効果があるが、本実施形態においてはメタン醗酵により発生した二酸化炭素を固定化することができるので、より積極的に温暖化ガスを低減することができる。
【0032】
アルカリ性物質の添加量は、pHを適切に調整しうる量であれば特に限定されないが、金属塩の濃度が高くなりすぎた場合にはメタン生成菌等の細菌類が、細胞膜の浸透圧の影響により、醗酵槽1内で生育しにくくなるおそれがある。この点から、液層Lの塩類濃度としては、40000ppm以下、さらには、4000ppm以下程度に維持するように調整することが好ましい。
【0033】
そして、醗酵槽1で醗酵されて得られた醗酵残渣は、醗酵残渣排出ライン5から排出される。醗酵残渣排出ライン5は、抜き出しバルブV3を介して醗酵残渣中の固形分と濾液とを分離するための脱水機12に接続されている。脱水機12としては、例えば、デカンタ型遠心脱水機や直胴型遠心脱水機やスクリュープレス型脱水機等が用いられうるが、本発明においては、特に、駆動力を必要としないメッシュスクリーンのみからなる分離手段を備えた図2に示すような単純な固液分離手段を用いることも可能である。固液分離する手段として、一般的には、スクリューを回転させて遠心脱水するようなデカンタ型の脱水機を用いる方法や、先端部にメッシュスクリーンを備え、そのメッシュスクリーンに向けて被処理物をスクリューで圧搾するスクリュープレス型の脱水機を用いる方法が知られているが、これらの方法によれば、ポンプを利用することなく醗酵槽内の圧力を利用して脱水機へ醗酵残渣を供給することができる。これに対して、図2に示すように、抜き出しバルブV3を開放したときに、醗酵槽1内の圧力により醗酵残渣が押し出されるときの力により、メッシュスクリーン12Aにより固形分を分離するような固液分離手段を用いることにより、新たなエネルギー供給を必要とせずに内圧のエネルギーのみを用いて固液分離を実現できる。この場合、固液分離手段にはメッシュスクリーンにて分離された固形分をメッシュスクリーンから除去するための図示しない除去機構(例えばスクレイパーによる掻き取り機構やメッシュスクリーン外側から内側に向けて気体を噴出して剥離させる剥離機構)を設けることが好ましい。
【0034】
また、メッシュスクリーンの代わりに濾布を利用しても良い。この場合、固形分を除去する際には濾布を裏返す機構を設けることによって固形分を剥離できる。
【0035】
脱水機12により分離された固形分中には、醗酵残渣の固形分と二酸化炭素を固定化した、炭酸カルシウムのような析出した炭酸塩が含まれる。本実施形態においては、環境中の二酸化炭素を固定化して減量することができる。一方、分離された濾液は液肥等として用いられ、あるいは排水処理にて放流される。
【0036】
そして、醗酵過程において発生した気層G中のガスはガス回収ライン4を介して回収され、ガス貯留タンクGTに貯蔵される。上述のように液層により二酸化炭素が溶解回収されているために、気層G中のガスはメタンガス濃度が高いものであり、例えば、メタンガス濃度70%以上、更に好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上のガスが回収される。なお、原料液Mの成分にもよるが、メタン醗酵により発生するガスには、通常、硫化水素が含有される。この硫化水素は、ガス回収ライン4とガス貯留タンクとの途中に接続された脱硫装置Sにより除去される。
【0037】
そして、ガス貯留タンクGTに貯留されたガスは、都市ガス又はプロパンガスと同様に燃料として用いられたり、図1に示すようにガスエンジンEに接続して電気エネルギーに変換して電気エネルギーを取り出したりすることもできる。なお、本実施形態の方法によれば、貯留されるガス中のメタンガス濃度が従来のバイオガスに比べて高いために、単位カロリーあたりのガスの容積を小さくすることができる。従って、ガス貯留タンク等の設備の小型化が実現できる。
【0038】
ガスエンジンEから電気エネルギーを取り出す方法によれば、さらに、発電時の廃熱から熱エネルギーを取り出して、醗酵槽の加温の他、所定の設備の冷暖房等に用いることにより、エネルギーを余すことなく利用できるコジェネレーションシステムとして用いられる点から更に好ましい。
【0039】
ガスエンジンEは、メタンガスを燃焼させて電気エネルギーを得るための発電機と、廃熱を回収するための熱交換器にて構成される。発電機によって生成された電力は、メタン醗酵処理システムを運転する動力として用いられたり、隣接する諸設備の電力として供給され、余剰分は電力会社に売電される。
【0040】
以上説明した本実施形態のメタンガス回収方法によれば、上述のようにメタン醗酵過程において発生するガスとして、高いメタンガス濃度のガスが外部から過剰なエネルギーを供給することなく自己エネルギーにより回収することができる。また本実施形態のエネルギー変換システムによれば、上記メタンガス回収方法により回収されたメタンガス濃度が高いガスを用いるために、従来の二酸化炭素を多く含有するバイオガスに比べて高いエネルギー変換効率でエネルギーを利用することができる。従って、このようなメタンガス回収方法及びエネルギー変換システムを、食品工場や、廃棄物処理施設等に組み込むことにより、本来焼却処理されていたような有機性廃棄物を原料として施設内のエネルギーをより多く補うことができる。
【0041】
なお、本実施形態においてはメタン醗酵後の発酵残渣を固液分離した後の濾液を液肥として利用するものについて説明したが、これに限定されず、硝化脱窒処理などの排水処理工程を経た後、放流しても良い。また固液分離後の固形分中のカルシウム分を有効利用したい場合、固形肥料として利用しても良い。
【0042】
さらに醗酵残渣の一部(固液分離後の濾液、もしくは排水処理後の処理水でも良い)を原料の水分量調整のためにメタン醗酵槽や酸醗酵槽、原料液貯留タンク等に返送しても良い。醗酵残渣や濾液、排水処理後の処理水を返送することで、水分調整のために新たに系内に供給する水の量を低減することができる。
【0043】
なお、本実施形態においては生成したバイオガスを脱硫処理して、脱硫処理後のバイオガスを発電利用する形態となっているが、これに限定されず、バイオガス中のメタンガス濃度を更に高めるための精製装置を後段に設けても良い。このような精製装置としては例えば、加圧下でバイオガス中の二酸化炭素を吸収液中に吸収させる精製装置を利用することができる。このような場合でもメタン醗酵槽から生成するバイオガス中の二酸化炭素濃度が従来に比べ低いため、精製装置を小型化することができる。
【0044】
また、本実施形態においては高圧ポンプとしてピストンポンプを用いたが、これに限定されず遠心ポンプや渦巻きポンプ、一軸偏心ネジポンプなどの高圧ポンプを利用することもできる。特に固形分濃度が非常に低い場合(例えば0.1〜4質量%)、遠心ポンプや渦巻きポンプを利用することができる。一方、固形分濃度が高い場合(例えば4質量%以上)、ポンプ内で原料が閉塞するおそれがあるためピストンポンプや一軸偏心ネジポンプなどの高粘度対応型のポンプを利用することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は本実施形態のメタンガス回収システムを説明する模式構成図である。
【図2】本実施形態の固液分離装置を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0046】
1 醗酵槽
1A 撹拌羽
1B モータ
2 原料液供給ライン
3 アルカリ性物質供給ライン
4 ガス回収ライン
5 醗酵残渣排出ライン
12 脱水機
12A スクリーンメッシュ
AT アルカリタンク
E ガスエンジン
G 気層
GT ガス貯留タンク
L 液層
M 原料液
MT 原料液貯留タンク
PP ピストンポンプ
V1 圧調整弁
V2 安全弁
V3 抜き出しバルブ
R 圧力制御装置
S 脱硫装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉可能な醗酵槽に、有機性原料液を充填する原料液充填工程と、
充填された前記有機性原料液を前記醗酵槽を密閉した状態で嫌気性条件下で醗酵させ、醗酵により生成する、メタンガスと二酸化炭素とを含有するバイオガスの圧力により醗酵槽内を加圧しながら醗酵を継続させる醗酵工程と、
前記醗酵槽内の液の液性を中和するためにアルカリ性物質を添加する工程と、
前記醗酵槽内の気層からガスを回収するガス回収工程と、を備えることを特徴とするメタンガス回収方法。
【請求項2】
前記アルカリ性物質がアルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のメタンガス回収方法。
【請求項3】
前記アルカリ性物質が水酸化カルシウムである請求項1に記載のメタンガス回収方法。
【請求項4】
前記醗酵槽には、前記醗酵により生じる醗酵残渣を排出する醗酵残渣排出ライン及び固液分離手段が、該醗酵槽側から順に直列に接続されており、
前記醗酵残渣を前記醗酵残渣排出ラインを通じて前記固液分離手段に供給する際に、加圧状態の前記醗酵槽の内圧と前記醗酵残渣が供給される固液分離手段との間の圧力差を用いて、ポンプを使用すること無しに前記醗酵残渣を前記固液分離手段に供給する請求項1〜3の何れか1項に記載のメタンガス回収方法。
【請求項5】
前記固液分離手段が前記醗酵槽の内圧と前記醗酵残渣が排出される大気圧環境との圧力差を用いて醗酵残渣中の固形分と濾液とを分離するものである請求項4に記載のメタンガス回収方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載されたメタンガス回収方法により回収されたガスを脱硫処理した後、電気エネルギー及び熱エネルギーを得るためのエネルギー変換装置に導入することを特徴とするエネルギー変換システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−82518(P2010−82518A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252381(P2008−252381)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】