メチルビニルエーテル−無水マレイン酸コポリマーを基材とするナノ粒子を含んでなる免疫応答刺激組成物
本発明は、メチルビニルエーテル・無水マレイン酸コポリマーを基材とするナノ粒子を含んでなる、患者の免疫応答を刺激するための組成物に関する。上記ナノ粒子は、アレルゲンまたは抗原、および/または免疫刺激薬であって、上記ナノ粒子の内部に含まれておりおよび/またはその表面を少なくとも部分的に被覆しているもの、および所望により架橋剤をも含むことができる。免疫応答刺激組成物は、免疫療法およびワクチンにおけるアジュバントとして有用である。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、所望によりアレルゲンまたは抗原および/または免疫刺激薬を含むメチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマーを基材とするナノ粒子の、免疫療法およびワクチンにおけるアジュバントとしての用途に関する。本発明はまた、上記ナノ粒子を含んでなる免疫応答刺激組成物に関する。
【0002】
背景技術
周知のように、患者に防御免疫応答を誘導することができる免疫原性の高い抗原がある一方、上記防御的応答を誘導しないかまたは極めて弱い免疫応答を誘導する他の抗原がある。一般に、免疫原性の弱い抗原対する宿主の免疫応答は、アジュバントの共同投与によって刺激することができる。
【0003】
アジュバント
アジュバントは、これと混合する抗原に対する免疫応答を増加させる任意の物質である。アジュバントは、主としてi) 生物活性生成物が様々な時間放出されるワクチン投与部位における抗原またはアレルゲンデポジットの形成、ii) 抗原またはアレルゲンの、抗原提示細胞への送達、およびiii) インターロイキン分泌の誘導の3種類の機構によって作用する。
【0004】
アジュバントの幾つかの古典的例としては、アルミニウム塩(Alhydrogel)とカテコールアミン(Th2応答を増大)、およびグラム陰性菌のリポ多糖類とある種のCpG配列(Th1応答を増大)がある。一方、微小粒子(物質を被覆するポリマー性の球状粒子)またはリポソーム(様々な数の二分子リン脂質およびコレステロールフィルムで被覆された水性中心キャビティーを有する球状小胞)のような、ある種の非生物学的ベクターもアジュバントとして作用することができることが、多くの研究から明らかにされている[Eldridge et al, Infect Immun, 59 (1991) 2978-2986; O'Hagan et al, Vaccine, 18 (2000) 1793-1801; Murillo et al, Vaccine, 30 (2001) 4099-4106]。
【0005】
アジュバントとしての使用について考えることができるもう一つの種類の非生物学的ベクターは、ナノ粒子とも呼ばれるサイズが1μm未満の固形粒子コロイド系であって、これはマトリックスナノ球体と小胞性ナノカプセルとに再分される[Orecchioni and Irache, 「局所投与用の医薬形態(Formes pharmaceutiques pour application locale)」, Lavoisier Tech and Doc., Paris, (1996)441 457]。ナノカプセルは、ポリマー膜または壁によって囲まれている内部キャビティーによって形成される小胞系である。ナノ球体は、三次元ポリマー網状組織によって形成されるマトリックス形態である。いずれの場合にも、生物活性物質の分子を、(ナノ球体中で)高分子構造に溶解させ、トラップしまたは結合させ、または(ナノカプセル中で)ポリマー膜によってカプセル化することができ、またこれはナノ粒子に吸着させることもできる。
【0006】
生体におけるナノ粒子の分布は、一般に、生物学的媒質との相互作用を決定するその物理化学的特性(主として、サイズおよび表面特性)によって変化する。従って、それらは、抗原および/またはアレルゲンを投与するための免疫療法またはワクチンアジュバントとして特に興味深い医薬形態である。
【0007】
一般に、非生物学的起源のこれらのベクターによって提供される最も重要な潜在能力は、下記の通りであり[Couvreur & Puisieux. Adv. Drug Del. Rev., 10 (1993) 141-162]、(i) それらは、投与部位および作用部位における化学的、酵素的または免疫学的不活性化からカプセル化した物質を保護し、(ii)生物活性分子の到達困難な位置への輸送および細胞におけるその透過を向上させ、(iii)生体における薬剤滞留時間を長くし、その放出を制御し、(iv)細胞および/または分子ターゲットにおいて、選択的、効果的に、かつ通常の濃度によってカプセルした物質の作用特異性を増加させ、(v)医薬生成物の製造、輸送および保管中の、組込んだ物質の安定性を増加させる。
【0008】
予防接種におけるアジュバントの使用
エマルション、微粒子、ISCOMS、またはリポソームの形態での粒状アジュバントの使用は、幾つかの研究グループによって以前に評価されている[総説: Singh et al., Int J Parasitology 33 (2003) 469-478]。
【0009】
「抗原提示細胞」による抗原捕捉は、これらの抗原がポリマー粒子と会合しまたはそれらの内部に包含されているときには、増加する。生物分解性および生物適合性ポリエステルが、多年にわたり制御抗原放出系としてヒトおよび動物で用いられてきた[Okada et al, J Pharm Sci, 12 (1995) 1-99; Putney et al, Nat Biotechnol, 16 (1998) 153-157]。アルミニウムアジュバントとは異なり、微粒子は、マウスで細胞性および細胞傷害性免疫応答を誘発するのに有効である[Nixon et al, Vaccine 14 (1996) 1523-1530; Maloy et al, Immunology 81 (1994) 661-667; Moore et al, Vaccine 13 (1995) 1741-1749]。マウスでの微粒子による経口免疫化は、カプセル化した抗原と比較して粘膜および全身レベルで強力な免疫応答を誘発する[Chalacombe et al, Immunology 176 (1992) 164-168; Eldridge et al, J Control Rel 11 (1990) 205-214; O'Hagan et al, Novel Delivery Systems for Oral Vaccines (1994) 175-205]。この能力は、粘膜に会合したリンパ系組織の特殊化細胞によるインターナリゼーションの結果である[O'Hagan, J Anat, 189 (1996) 477-482]。様々な粒状系による粘膜免疫化は、Bordetella pertussis [Chaill et al, Vaccine 13 (1995) 455-462; Jones et al, Vaccine 15 (1997) 814-817; Shahin et al, Infect Immun, 63 (1995) 1195-1200; Conway et al, Vaccine 19 (2001) 1940-1950]、Chlamidia trachomatis [Whitturn-Hudson et al, Nat Med 2 (1996) 1116-1121]、Salmonella Typhimurium [Allaoui-Attarki et al, Infect Immun 65 (1997) 853-857]、およびBrucella [Murillo et al, Vaccine, 19 (2001) 4099-4106]のような様々な病原体に対するその有効性を明らかにしている。
【0010】
免疫療法におけるアジュバントの使用
アレルギー疾患は、アレルゲンと呼ばれる本来害のない高分子に対する有害な免疫応答(過敏反応)によって引き起こされる顕現性病状である。この過敏症は、主として先進国における世界人口の約30%を冒している。これは、アレルギー性鼻炎、外因性喘息、食物アレルギー、および薬物や昆虫に対するアレルギーのような疾患の原因である[Settipane et al, Allergy Proc, 15 (1994) 21-25]。
【0011】
スペインでは、4-17歳の人口のこの種の疾患の有病率は13.3%であり、その内6.4%は気管支喘息であり、スペインにおける喘息による死亡率は人口100.000に対して1.5人である。
【0012】
アレルギー性疾患の原因の機構的理論は、アレルギー性疾患は、Tヘルパー細胞であるTh1およびTh2を活性化した後に生じうる2種類の基本的種類の応答のバランスが変化することによって起こることを示している。細胞外媒質に存在するサイトカインは未成熟なT細胞(Th0)の分化に決定的に影響し、インターロイキン12(IL-12)、インターフェロンγ(IFN-γ)、インターロイキン18(IL-18)、およびインターフェロンα(IFN-α)がTh1への分化を誘発し、これは主として多量のIFN-γ、および余り多くはないがインターロイキン2 (IL-2)およびインターフェロンβ(IFN-β)の産生を特徴とする。この種の応答において次に起こるB細胞の刺激により、IgG2a、IgG2b、およびIgG3を産生する。一方、Th0細胞がインターロイキン4(IL-4)およびプロスタグランジンE2(PGE2)が支配的である環境にあるときには、Th2への分化が誘発され、多量のIL4、インターロイキン5(IL-5)およびインターロイキン13(IL-13)の合成および誘発工程に直接関与しているバイオタイプであるIgG1およびIgEの合成が特徴とされる [Hannah et al, Ann Rev Immunol, 21 (2003) 579-628]。
【0013】
アレルギー疾患におけるアレルギー特異的な応答の型であるTh2が支配的であることの重要性は、多数の研究によって確かめられている[Romagnani, Ann Rev Immunol, 12 (1994) 227; Bousquet et al, Allergy, 53 (1998) 1-42; Majori et al, Clin Exp Allergy, 30 (2000) 341-347]。動物モデルおよびヒトのいずれでも、表現型Th2を有する細胞はアレルギー性ペプチドを直接認識することができる唯一の細胞であり、B細胞によるIgEの産生、マスト細胞の活性化、および好酸球の産生、成熟および活性化に関与していることが明らかにされている[Cohn et al, Pharinacology and Therapeutics, 88 (2000)187-196]。
【0014】
従って、Th1細胞と比較してTh2が機能上支配的であると、アレルギー応答を生じ、一方、Th2と比較してTh1が機能上支配的であると、アレルギー応答が阻害される[Martin et al, Alergol Immunol Clin, 17 (2002) 104-110]。
【0015】
他の研究は、Th1が支配的であることによるTh2応答の阻害により、自己免疫疾患が進展する可能性があるので、調節T細胞(Tr)およびIL-10、およびT細胞増殖因子β(TGF-β)の個体数を増加することによってTh1/Th2の免疫調節を高めることが一層正しいものとなることを記載している。これにより、IgG4およびIgA抗体(炎症応答メディエーターではない)が合成され、B細胞によるIgE産生が抑制される[Akdis et al, Immunology, 103 (2001) 131-136; Akdis et al, J Clin Invest, 102 (1998) 98-106; Blaser et al, Int Arch Allergy Immunol, 117 (1998) 1-10]。最近の研究では、Th2細胞の不活性化におけるIL-10の重要性が再確認されており(Grunig et al, J Exp Med, 185 (1997) 1089-1099; Adachi et al, Int Arch Allergy Immunol, 118 (1999) 391-394]、IL-10のイン・ビボ投与はアレルギー動物に有益な結果を有することも見出されている[Zuany-Amorim et al, J Clin Invest, 95 (1995) 2644-2651; Stampfli et al, Am J Respir Cell Mol Biol, 21 (1999) 586-596; Hall et al, Vaccine, 21 (2003) 549-561]。これにより、IL-10はアレルギー患者に特徴的なTh2細胞過剰反応性に重要な調節の役割を演じていると考えることができる。
【0016】
IL-10は、炎症性疾患(クローン病、慢性関節リウマチ、乾癬など)、ある種のウイルス感染症(C型肝炎、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)によって誘発される感染症など)の中和、または臓器移植の副作用の抑制に重要な生理病理学的関連を有する可能性がある。従って、IL-10の直接適用、あるいはIL-10の産生を刺激するアジュバントの使用により、これらの疾患の治療に極めて大きな影響を与えることができる[Asadullah et al, Pharmacol Rev, 55, (2003) 241-269]。これは、慢性関節リウマチのような自己免疫疾患の可能な治療法として現在研究が行われている[Feldman et al, Annu Rev Immunol (1 996) 397-440; Katsikis et al, J Exp Med (1994) 1517-1527; Chomarat et al, J Immunol (1995) 1432-1439]。従って、サイトカインの抗炎症および調節作用により、これはTh1(自己免疫疾患)およびTh2(アレルギー)の過剰応答のいずれにおいても本質的なものとなっている。
【0017】
アレルギー性疾患の治療は、本質的に(i) アレルゲンとのあらゆる接触の回避、(ii) 抗ヒスタミン薬の使用、および(iii) 免疫療法による3種類の異なる方法で処理することができる。最初の2つの方法は場合によっては応用することができないことを考慮すれば、免疫療法が最も適当な制御方法であろう。
【0018】
アレルゲンに対する特異的免疫療法は、これらアレルゲンに対する自然暴露と関連したアレルギー症状および炎症反応に対する防御を提供する目的でIgE性健康障害のある患者へのアレルゲンの反復投与として定義されている[Jutel, M., J Immunol, 154 (1995) 4178-4194]。
【0019】
この代替治療法は、Th2応答に対してTh1応答の機能的優位を高め、アレルギーの総合的症状を抑制することを目的としている。このTh1への調整は、細菌性の細胞内寄生生物(BrucellaおよびSalmonellaなど)に対する予防接種による制御のような他の方法においても応用可能である。
【0020】
ナノ粒子のような様々な非生物学的ベクターを免疫療法またはワクチンにおいてアジュバントとして用いて抗原および/またはアレルゲンを投与することは報告されているが、現在存在しているものに代わるアジュバントを提供して免疫療法用のワクチンおよび組成物の製造の可能性の蓄積量を増加させることが、なお求められている。好都合なことには、上記アジュバントは、アレルゲンおよび抗原を極めて高用量で用いる必要がなく経口投与によって免疫化または免疫療法に用いるのに有用でなければならない。周知のように、治療または予防目的での経口投与は、潜在的利点はあるが、臨床的に有益な効果を得るのに必要な免疫原またはアレルゲン性の活性成分の用量は免疫原の効能喪失により極めて高いので、幾つかの障害に直面しなければならない。従って、一般にアレルゲンまたは抗原は消化管(pH条件および加水分解酵素の存在)中では安定性が小さいため、用量は常に通常皮下に用いるより遙かに高く(200倍まで)しなければならない[Taudorf et al, J Allergy Clin Immunol (1987) 153-161; Creticos et al, J Allergy Clin Immunol (1990) 165]。さらに、消化管粘膜は、これらの高分子の吸収に対する幾分不透過性のバリヤーとして作用する。
【0021】
意外なことには、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマーを基材としたナノ粒子であって、所望によりアレルゲンまたは抗原、および/または免疫刺激薬を含むものは、患者に投与したときに免疫応答を刺激しまたは高める能力を有し、それらを免疫療法およびワクチンに使用することができることを見出した。上記ナノ粒子は経口投与において安定であり、良好な生体接着特性を有し、従って当該技術分野の状態において語られるような高用量のアレルゲンまたは抗原の使用を必要とすることなしに経口経路などの様々な投与経路により免疫化または免疫療法に用いることができる。さらに、上記ナノ粒子は毒性が低く、生物分解性であり、産生が容易である。
【0022】
メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマーナノ粒子
本出願人による特許出願WO 02/069938号明細書には、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸(PVM/MA)コポリマーナノ粒子、それらを得る方法、およびそれらの薬剤キャリヤーとしての使用が開示されている。上記コポリマーPVM/MAは、構造的には、異なる溶解度特性を有する2種類の区別される官能基である疎水性エステル基と無水性基からなっている。カルボキシル基はイオン化するとポリマーを溶解しやすくなるので、可溶化剤であり、かつエステル基はポリマーへの水の浸透を遅らせるので疎水性である[Heller et al, J Appl Polym Sci, 22 (1978) 1991-2009]。合成PVM/MAコポリマーは、極めて様々な用途を有する。Gantrez(登録商標)ANは、増粘剤および凝集剤、歯科用接着剤、経口錠剤の賦形剤、経皮パッチの賦形剤などとして広く用いられている。一方、薬剤の制御放出[Heller et al, J Appl Polym Sci, 22 (1978) 1991-2009]を目的とするおよびマトリックス形態での眼における薬剤の局所放出[Finne et al, J Pharm Sci, 80 (1991) 670-673; Finne et al, Int J Pharm, 78 (1992) 237-241]を目的とするこれらのコポリマーの使用が開示されている。
【0023】
PVM/MAを基材とするナノ粒子は生体接着特性を有するので[Arbos et al, Int J Pharm, (2002) 129-136]、経口投与するときには、生体の総てのリンパ球の20%を含むパイアー斑と相互作用を行い、水溶液で投与した抗原および/またはアレルゲンと比較して増幅した免疫応答を誘発することがある。
【0024】
PVM/MAを基材とするナノ粒子は、(i) 高分子構造またはマトリックス内部の溶液またはエントラッピング(entrapping)、(ii) 薬剤とコポリマーの無水物基との共有結合、および(iii) 弱い結合の介在による吸着工程によって生物活性物質を保持することができるコロイド系である。PVM/MAコポリマーの環状無水物基による過激な反応性は、分子、薬剤または他の物質をトラップするその能力にも寄与している。特許出願WO 02/069938号明細書には、上記PVM/MAコポリマーナノ粒子の薬剤、特に5-フルオロウリジン、ガンシクロビールおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドISIS 2922のキャリヤーとしての使用が開示されている。
【発明の概要】
【0025】
本発明の目的は、免疫療法およびワクチンであって、経口投与したときに安定であり、粘膜との相互作用に良好な、場合によってはアレルゲンまたは抗原、および/または免疫刺激薬を運び、かつ上記生成物を抑制的に放出することができ、従って経口など様々な投与経路による免疫化または免疫療法に有用な生体接着特性を有する免疫応答刺激組成物を提供することである。
【0026】
意外なことには、所望によりアレルゲンまたは抗原、および/または免疫刺激薬を含むメチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマーを基材とするナノ粒子は、患者に投与したときに免疫応答を刺激しまたは高める能力を有し、免疫療法およびワクチンにおいて使用することができることを見出した。特に、上記ナノ粒子は酸性が容易であり、良好な生体接着特性を有し、毒性が低く、生物分解性である(pH 6-9および25℃-40℃の温度の生理溶液に暴露されると、所望な用途、この場合にはイン・ビボ治療に許容可能な時間で溶解または分解する)ことを見出した。
【0027】
従って、一態様では、本発明は、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマーを基材とするナノ粒子を含んでなる免疫応答刺激組成物に関する。上記ナノ粒子は、さらにアレルゲンまたは抗原、および/または免疫刺激薬を含むことがあり、これらは上記ナノ粒子内部に含まれていることがあり、および/または上記ナノ粒子の表面を少なくとも部分的に被覆していることがある。所望により、上記代謝経路は、架橋剤を含むこともある。上記組成物は、所望により凍結乾燥形態をしていることがある。
【0028】
他の態様によれば、本発明は、上記免疫応答刺激組成物を含んでなるワクチンまたは免疫療法組成物に関する。特定の態様では、上記免疫療法ワクチンまたは組成物は経口投与に適当な処方物であり、もう一つの特定の態様では、上記免疫療法ワクチンまたは組成物は非経口投与に適当な処方物である。
【0029】
他の態様によれば、本発明は、ワクチンまたは免疫療法組成物の製造における上記免疫応答刺激組成物の使用に関する。
【0030】
他の態様によれば、本発明は、免疫応答Th1の選択的刺激のための医薬組成物の製造における、免疫応答Th2の選択的刺激のための医薬組成物の製造における、または免疫応答Th1およびTh2をバランスよく刺激するための医薬組成物の製造における、上記免疫応答刺激組成物の使用に関する。
【0031】
他の態様によれば、本発明は、上記PVM/MAを基材とするナノ粒子とアレルゲンまたは抗原、および/または免疫刺激薬を含んでなる免疫応答刺激組成物の製造方法であって、上記アレルゲンまたは抗原、および/または免疫刺激薬を上記PVM/MAコポリマーを含んでなる有機溶液に添加した後、含水アルコール溶液で脱溶媒和し、あるいは上記アレルゲンまたは上記抗原および/または上記免疫刺激薬を上記PVM/MAナノ粒子と共にインキュベーションすることを含んでなる方法に関する。上記方法は、追加の有機溶媒除去および/または精製工程、並びに架橋剤を用いることによって得られるナノ粒子を安定化する工程を含んでなることもある。上記方法は、所望により追加の凍結乾燥段階を含んでなることがある。
【発明の具体的説明】
【0032】
意外なことには、場合によってはアレルゲンまたは抗原、および/または免疫刺激薬を含むメチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマーを基材としたナノ粒子は、患者に投与したときに免疫応答を刺激しまたは高める能力を有し、免疫療法およびワクチンにおいて使用することができることを見出した。
【0033】
本明細書で用いられる「患者」という用語は、免疫系を有する任意の動物、好ましくは哺乳類、さらに好ましくは、ヒトを包含する。
【0034】
一態様によれば、本発明は、メチルビニルエーテル・無水マレイン酸のコポリマーナノ粒子を含んでなる免疫応答刺激組成物(以後、本発明の組成物)に関する。上記ナノ粒子は、さらにアレルゲンまたは抗原、および/または免疫刺激薬を含むことがあり、これらは上記ナノ粒子内部に含まれていることがあり、および/または上記ナノ粒子の表面を少なくとも部分的に被覆していることがある。所望により、上記代謝経路は、架橋剤を含むこともある。
【0035】
本明細書の説明で用いられているように、「ナノ粒子」という用語は、サイズが1.0μm未満であり、好ましくは10-900ナノメートル(nm)の次数の固形粒子型コロイド系を表すのに用いられ、マトリックスマトリックス球体および小胞性ナノカプセルを包含する。特定の態様では、上記ナノ粒子の平均サイズは400nm以下である。
【0036】
本発明の組成物に存在するナノ粒子は、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマーであって、ポリ(メチルビニルエーテル-コ-無水マレイン酸)、またはPVM/MAとも呼ばれるものを含んでなる。上記PVM/MAコポリマーは、通常の方法、例えば、アセチレンと無水マレイン酸の重合によって得ることができる既知生成物であり、または市販されている。この意味において、International Specialty Products (ISP)社は、Gantrez(登録商標)ANで市販されている様々な分子量を有するPVM/MAコポリマーを製造している。一般に、本発明を実施するには、上記PVM/MAコポリマーの分子量が、極めて広範囲内で変動することがあり、好ましくは100-2,400kDa、さらに好ましくは200-2,000kDaである。本発明の一変化態様では、分子量が180-250kDaのPVM/MAコポリマーが好ましい。
【0037】
上記PVM/MAコポリマーの使用は、その毒性が低く(DL50=8-9g/kg経口)かつ生体適合性に優れているため医薬技術に広く用いられていることを考慮すれば、極めて有利である。さらに、それは入手が容易であり且つその官能基により他の親水性物質と反応させることができ、重大な毒性を有する通常の有機試薬(グルタルアルデヒドおよびカルボジイミド誘導体)に頼る必要がない[Arbos et al, J Controlled Rel., 83 (2002) 321-330]。PVM/MAコポリマーは水性媒質に不溶性であるが、その中にある無水物基が加水分解して、カルボキシル基を生じる。溶解は遅く、溶液を生じる条件によって変化する。PVM/MAにおける官能基を利用できるため、水性媒質中でインキュベーションするだけで、ヒドロキシルまたはアミンのような親核性基を有する分子の共有結合を生じる。上記PVM/MAナノ粒子は生体接着特性も有するので[Arbos et al, Int J Pharm, (2002) 129-136]、経口投与するときには、それらは生体のリンパ球の20%を含むパイアー斑と相互作用し、水性溶液で投与された抗原および/またはアレルゲンと比較して増幅した免疫応答を引き起こすことができる。
【0038】
特定の態様によれば、本発明の組成物は、抗原またはアレルゲン、および免疫刺激薬を欠いているPVM/MAを基材とするナノ粒子を含んでなる。上記ナノ粒子は、本明細書の説明では「中空」ナノ粒子と呼ばれており、特許出願WO 02/069938号明細書に開示されているような方法によって容易に得ることができ、上記特許出願明細書の内容は、その開示の一部として本明細書に引用されている。実例として、上記ナノ粒子は、PVM/MAコポリマーのアセトン溶液を含水アルコール相で脱溶媒和することによって容易に調製される。形成されたナノ粒子は、安定な水性懸濁液のままにすることができ、またはそれらを凍結乾燥することができる。所望により、架橋剤を加えることができる。PVM/MAコポリマーの無水物基と反応することができる1個以上の官能基を含む実質的に任意の架橋剤を用いることができ、好都合には、ポリアミンまたは炭水化物、例えば、アミノ酸、タンパク質、-オース、-オシドなど、例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン、水溶性タンパク質、ポリ-L-リシン、ポリ-L-アルギニンなど、好ましくは1,3-ジアミノプロパンを用いることができる。
【0039】
上記ナノ粒子は、それぞれ抗原またはアレルゲンを含むワクチンまたは免疫療法用の組成物(免疫療法組成物)と共に投与する際の予防接種または免疫療法におけるアジュバントとして作用し、ワクチンまたは免疫療法組成物および中空ナノ粒子の投与後に免疫応答刺激効果を生じることがある。図12は、中空ナノ粒子がかなりの量のIFN-γの分泌を誘発する方法を示している。ワクチンまたは免疫療法組成物、およびナノ粒子の複合投与は、同時にまたは逐次的に様々な時間に任意の次数で行うことができ、すなわち最初にワクチンまたは免疫療法組成物を投与した後にナノ粒子を投与することができ、またはその逆の順序で投与することもできる。あるいは、上記ワクチンまたは免疫療法組成物と上記ナノ粒子を同時に投与することもできる。ワクチンまたは免疫療法組成物とナノ粒子を、同一組成物または異なる組成物で投与することもできる。投与される中空ナノ粒子の用量は、広汎な範囲内で変化させることができ、例えば、約0.01-約10mg/kg体重、好ましくは、0.1-2mg/kg体重とすることができる。
【0040】
他の特定の態様によれば、本発明の組成物は、アレルゲンまたは抗原および/または免疫刺激薬を装填したPVM/MAを基材とするナノ粒子を含んでなる。
【0041】
本発明の一変化態様では、本発明の組成物は、アレルゲンまたは抗原を装填したPVM/MAを基材とするナノ粒子を含んでなり、上記PVM/MAを基材とするナノ粒子はアレルゲンまたは抗原を含んでなる。
【0042】
本明細書の説明で用いられるように、「アレルゲン」という用語は、患者が感受性であり且つ免疫反応を引き起こす物質、例えば、アレルゲン性花粉抽出物、アレルゲン性昆虫抽出物、アレルゲン性食物または食品抽出物、患者に感受性反応を誘発させる唾液、昆虫の鋏、針に含まれる成分、患者に甘受製版を誘発させる植物に含まれる成分などを表す。従って、草の花粉(Lolium perenne、Poa pratense、Phleum pratense、Cynodon dactylon、Festuca pratensis、Dacty1is glomerata、Secale cereale、Hordeum vulgare、Avena sativa、Triticum sativa)、他の草の抽出物(例えば、Artemisia vulgaris、Chenopodium album、Plantago lanceolata、Taraxacum vulgare、Parietaria judaica、Salsola kali、Urtica dioica)、または樹木の花粉(例えば、Olea europea、Platanus sp.、Cupressus sp.)などの花粉タンパク質抽出物を用いることができる。コナダニ抽出物(例えば、Dermatophagoides pteronyssinus、Dermatophagoides farinae、Acarus siro、Blomia tropicalis、Eurog1yphus maynei、G1yciphagus domesticus、Lepidoglyphus destructor、Tyrophagus putrescentiae)などの昆虫タンパク質抽出物を用いることもできる。他のアレルゲン抽出物は、真菌および動物上皮(Alternaria alternata、Cladosporium herbarum、イヌの上皮、ネコの上皮、ウマの上皮、羽毛混合物、Penicillium notatumなど)、並びに食物成分から得ることができる。実質的に任意のアレルゲンを本発明の組成物のアレルゲン装填ナノ粒子の調製に用いることができるが、特定の態様では、上記アレルゲンは、実験的アレルゲンモデルとして広く用いられているタンパク質である卵白アルブミン(OVA)である。
【0043】
本明細書の説明で用いられるように、「抗原」という用語は、高等生物、または微生物、例えば、細菌、ウイルス、寄生生物、原生動物、真菌など1個以上の抗原決定基、例えば、上記生物の構造成分、毒素、例えば、外毒素などを含むものから得られる天然または組換え免疫原生成物を表す。事実上任意の抗原を本発明の組成物の抗原装填ナノ粒子の調製に用いることができるが、特定の態様では、上記抗原Salmonella enteritidisのHE抽出物である。
【0044】
知られているように、Salinonella enteritidisは、食中毒に極めて頻繁に検出されるヒト胃腸炎の起因病原体である(食中毒症例の60%において、この病原体を単離することができた)。鳥肉および鳥肉副生成物はSalmonellaの主要な保有宿主およびヒトのSalmonella enteritidis感染症の最も重要な供給源として認められている。この感染症は、汚染された食物または水を摂取することによって伝染する人獣共通伝染病であり、現在世界的に流行している。サルモネラ症を制御する目的で、ヒトの人口に対する利益は明らかであるので、世界保険機関(WHO)と欧州連合とは家禽のSalmonella enteritidisによる感染症の監視および根絶についての指針を制定している。抗生物質、競合的排除、鳥類およびワクチンの遺伝学的選択、並びに家禽飼育場の衛生状態の改善が、家禽のSalmonella制御に用いられている。これらの対策から、最も実用的な方法は、適用するのに最も簡単且つ費用が最も少なくて済む方法であることから予防接種であることが広く受け容れられている。弱毒化した生ワクチンおよび死(菌)ワクチンが現在用いられているが、いずれも家禽飼育場(ニワトリおよび他の種の家禽)ではむしろ効果的でない[Zhang-Barber et al, Vaccine, 17 (1999) 2538-2545]。それらの有効性がほとんどないのに加えて、生ワクチンの大きな不利益は免疫抑制動物に先在するそれらの毒性、並びにそれらが侵襲性状態に反転可能性があることである。さらに、それらは非経口投与しなければならず、またそれらは伝統的な血清学的診断試験を妨害する。不活性化した細菌(細菌ワクチン)は残留毒性の危険性がないが、それらは細胞性免疫応答を誘発しない。強いアジュバントの投与が必要であり、また複数の追加抗原投与量が必要とされる。代替法は、Salmonella enteritidisによって引き起こされる感染症に対して適当な免疫応答を刺激することができる亜細胞性ワクチンの使用である。これらのワクチンについて、実験レベルでは細菌ワクチンと同様に高度の防護が記載されているが、許容可能な程度の防護を選るには複数の追加抗原投与量を必要とする[Powell, Pharm Res, 13 (1996)
1777-1785]。一方、それらを経口投与すると、それらは消化管中で変性や分解を起こすので[Langer et al, Adv Drug Deliv Rev, 28 (1997) 97-119]、この種のワクチンは非経口投与しなければならず、その後に起こるロジスティックおよび経済的障害があることをこれは暗示している。Salmonella enteritidis抗原は、これらの欠点を解決するために上記PVM/MAナノ粒子にカプセル化することができる。
【0045】
本発明の組成物のこの変化態様に含まれるアレルゲンまたは抗原は、上記ナノ粒子の表面を少なくとも部分的に被覆し、および/または上記ナノ粒子内部に含まれていることがある。特定の態様によれば、上記アレルゲンまたは抗原は、上記ナノ粒子の表面を総てまたは一部被覆している。この態様は、患者におけるTh2応答を選択的に刺激するのに有用である。他の特定の態様によれば、上記アレルゲンまたは抗原は上記PVM/MAナノ粒子の内部にカプセル化される。この態様は、バランスよくTh1およびTh2応答を刺激し、またはTh1応答を優位とするのに有用である。
【0046】
アレルゲンまたは抗原を装填したPVM/MAナノ粒子は、特許出願WO 02/069938号明細書に開示されているのと同様な方法によって容易に得ることができる。実例として、アレルゲンまたは抗原を装填した上記ナノ粒子は、PVM/MAコポリマーの極性有機溶媒のような有機溶媒、例えばアセトンの溶液を、液相、例えばエタノールと水によって形成される液相のような含水アルコール相で脱溶媒和することによって容易に調製することができる。形成したナノ粒子は、水性懸濁液のままにすることができ、またはそれらを凍結乾燥することができる。アレルゲンまたは抗原を加える時期によって、アレルゲンまたは抗原の様々な配置を有する様々な処方物が得られる(実施例1および6においてNP I、NP II、NP III、NP IV、およびNP HE 3934として同定された処方物を参照されたい)。実例として、アレルゲンまたは抗原でナノ粒子表面の全部または一部を被覆することが所望な場合には、有機溶媒を蒸発させた後に上記アレルゲンまたは上記抗原をインキュベーションする。同様に、アレルゲンまたは抗原を上記ナノ粒子の内部にカプセル化することが所望な場合には、上記アレルゲンまたは上記抗原をインキュベーションし、そのアレルゲンまたは抗原を溶媒、好ましくはPVM/MAコポリマー溶液が見出されるまたは好ましくは極性有機溶媒のような上記溶媒と相溶性である溶媒のような上記溶媒、またはポリマー溶液の溶媒、例えばアセトンと相溶性の溶媒に分散した後、PVM/MAコポリマー溶液を脱溶媒和するのに用いた上記液相を加える。所望により、架橋剤を場合によっては中空ナノ粒子に関して上記した通りに加えることができる。
【0047】
さらに具体的には、もう一つの態様では、本発明は、アレルゲンまたは抗原を装填したPVM/MAコポリマーナノ粒子を含んでなる本発明の組成物の製造方法であって、上記PVM/MAコポリマーナノ粒子がアレルゲンまたは抗原を含んでなり、
a) 有機溶媒に溶解したPVM/MAコポリマーの有機溶液を含水アルコール溶液で脱溶媒和し、
b) 有機溶媒を除去してナノ粒子を得、
c)上記アレルゲンまたは上記抗原を上記PVM/MAコポリマー有機溶液に加えた後、上記PVM/MAコポリマー有機溶液を脱溶媒和し、あるいは上記アレルゲンまたは上記抗原を工程b)で得た上記ナノ粒子と共にインキュベーションすること
を含んでなる、上記方法に関する。
【0048】
PVM/MAコポリマーを溶解する有機溶媒は、上記コポリマーが可溶性である任意の溶媒、典型的にはケトンのような極性溶媒、例えばアセトンであることができる。上記脱溶媒和を行うのに用いる液相は、アルコールと水、例えば、エタノールと水、例えば、アルコールと製薬級水(精製水または注射用水、特許出願明細書に準じる)を含んでなる任意の含水アルコール溶液であることができる。好都合なことには、コポリマー溶液:含水アルコール溶液比は1:1〜1:10であり、好ましくは1:4である。次に、有機溶媒を任意の通常の方法によって、例えば減圧留去によって除去し、ナノ粒子は、安定な水性乳状懸濁液の出現下で媒質中に直ちに形成される。
【0049】
アレルゲンまたは抗原をPVM/MAコポリマー有機溶液に加えた後、上記PVM/MAコポリマー有機溶液を脱溶媒和することによって、アレルゲンまたは抗原が上記ナノ粒子の内部に含まれているナノ粒子を得ることができる。好都合なことには、上記アレルゲンまたは抗原は、PVM/MAコポリマー有機溶液と同じまたは極性有機溶媒、例えば、アセトンのような上記溶媒と相溶性の有機溶媒に加え、溶解しまたは分散させる。あるいは、上記アレルゲンまたは上記抗原を工程b)で得たナノ粒子と共にインキュベーションすることによって、アレルゲンまたは抗原が上記ナノ粒子外部表面の総てまたは一部を被覆しているナノ粒子を得ることができる。特定の態様では、アレルゲンまたは抗原とナノ粒子とのインキュベーションは、水性媒質中で行う。
【0050】
所望により、中空ナノ粒子に関して上記した通りに、架橋剤を場合によっては加えてナノ粒子の安定性を改良することができる。
【0051】
アレルゲンまたは抗原を装填した得られたナノ粒子は、通常の手段によって、例えば、遠心分離、超遠心分離、接線濾過、または真空の使用を包含する蒸発によって精製することができる。
【0052】
最後に、所望により、アレルゲンまたは抗原を装填したナノ粒子を、長期保管および貯蔵の目的で凍結乾燥することができる。標準的凍結防止剤を、好ましくは総組成物重量に対して0.1-10重量%の濃度で用いて、凍結乾燥を促進することができる。
【0053】
アレルゲンまたは抗原を装填したナノ粒子は予防接種または免疫療法におけるアジュバントとして作用し、実施例3-6に示されるように、それらを患者に投与した後に免疫応答刺激効果を生じることができる。
【0054】
投与を行うアレルゲンまたは抗原を装填したナノ粒子の用量は、広範囲内で変動することができ、例えば、約0.01〜約10mg/kg体重であり、好ましくは0.1〜2mg/kg体重であることができる。
【0055】
本発明のもう一つの変化態様では、本発明の組成物は免疫刺激薬を装填したPVM/MAを基材とするナノ粒子であって、免疫刺激薬を含んでなる上記PVM/MAを基材とするナノ粒子を含んでなる。
【0056】
本明細書の説明で用いられるように、「免疫刺激薬」または「免疫調節薬」という用語は、特異的または非特異的に免疫応答を高めることができる生成物、例えば、アレルゲンまたは抗原に対して免疫系の応答を刺激する天然アジュバントとして作用するタンパク質またはペプチド、細菌性リポ多糖類、グラム陽性菌の細胞壁の成分(例えば、ムラミルジペプチド(MDP))、DNA CpG配列、植物抽出物、主としてサポニン植物抽出物などを表す。実質的に任意の免疫刺激薬を本発明の組成物の免疫刺激薬を装填したナノ粒子に用いることができるが、特定の態様では、上記免疫刺激薬はBrucella ovisの生のリポ多糖類である。
【0057】
上記免疫刺激薬は、少なくとも部分的に上記ナノ粒子の表面を被覆しおよび/または上記ナノ粒子の内部に含まれていることがある。特定の態様では、上記免疫刺激薬は上記PVM/MAナノ粒子の表面の総てまたは一部を被覆しているが、もう一つの特定の態様では、上記免疫刺激薬は上記PVM/MAナノ粒子の内部にカプセル化されている。
【0058】
免疫刺激薬を装填したPVM/MAナノ粒子は、アレルゲンまたは抗原を装填したPVM/MAナノ粒子の調製に関して上記したのと同様の方法によって、上記アレルゲンまたは抗原を免疫刺激薬に置き換えることによって容易に得ることができる。従って、免疫刺激薬を加える時期によって、様々な配置を有する様々な処方物が得られる(実施例1または4を参照されたい)。実例として、免疫刺激薬でナノ粒子の表面を総てまたは一部を被覆することが所望なときには、上記免疫刺激薬をインキュベーションする前に有機溶媒を蒸発させる。同様に、免疫刺激薬を上記ナノ粒子の内部にカプセル化することが所望なときには、溶媒、好都合にはPVM/MAコポリマー溶液が見出されるまたは上記溶媒、好ましくは極性有機溶媒と相溶性である溶媒、またはポリマー溶液の溶媒と相溶性の溶媒、例えば、アセトンに分散または溶解させた上記免疫刺激薬をインキュベーションした後、使用した上記液相を加えて、PVM/MAコポリマー溶液を脱溶媒和する。所望により、中空ナノ粒子に関して上記した通りに、架橋剤を場合によっては加えることができる。
【0059】
所望により、中空ナノ粒子に関して上記した通りに、架橋剤を場合によっては加えて、ナノ粒子の安定性を改良することができる。
【0060】
免疫刺激薬を装填したナノ粒子は、アレルゲンまたは抗原を装填したナノ粒子に関して上記した通りに、通常の手段によって精製することができる。所望により、免疫刺激薬を装填したナノ粒子を好ましくは標準的凍結防止剤を総組成物重量に対して0.1-10重量%の濃度で用いて凍結乾燥することもできる。
【0061】
免疫刺激薬を装填したナノ粒子は、予防接種または免疫療法のアジュバントとして作用し、それらを患者に投与した後に免疫応答刺激効果を生じることができる。
【0062】
投与を行う免疫刺激薬を装填したナノ粒子の用量は、広範囲内で変動することができ、例えば、約0.01〜約10mg/kg体重であり、好ましくは0.1〜2mg/kg体重であることができる。
【0063】
本発明のもう一つの変化態様では、本発明の組成物は、アレルゲンまたは抗原および免疫刺激薬を装填したPVM/MAナノ粒子を含んでなり、上記PVM/MAナノ粒子はアレルゲンまたは抗原および免疫刺激薬を含んでなる。
【0064】
本発明の組成物のこの変化態様に含まれるアレルゲンまたは抗原、並びに刺激薬は、少なくとも部分的には上記ナノ粒子の表面を被覆しおよび/または上記ナノ粒子の内部に含まれることがある。
【0065】
特定の態様では、上記アレルゲンまたは抗原は、上記ナノ粒子の表面の総てまたは一部を被覆し、一方、免疫刺激薬は上記ナノ粒子の内部に含まれており、この特定の態様により、患者におけるTh2応答を選択的に刺激することができることを見出した。
【0066】
他の特定の態様によれば、上記アレルゲンまたは抗原は上記PVM/MAナノ粒子の内部にカプセル化されており、一方、上記刺激薬は上記ナノ粒子の表面を少なくとも部分的に被覆する。この態様は、バランスよくTh1およびTh2応答を刺激し、またはTh1応答を優位とするのに特に興味深いものである。
【0067】
他の特定の態様によれば、アレルゲンまたは抗原および免疫刺激薬は、いずれも上記PVM/MAナノ粒子の内部にカプセル化されている。
【0068】
アレルゲンまたは抗原と免疫刺激薬を含むPVM/MAナノ粒子は、上記と同様の方法によって容易に得ることができる。アレルゲンまたは抗原および免疫刺激薬を加える時期によっては、上記生成物の様々な配置を有する様々な処方物が得られる。実例として、免疫刺激薬でナノ粒子の表面を総てまたは一部を被覆することが所望なときには、上記免疫刺激薬をインキュベーションする前に有機溶媒を蒸発させる。同様に、免疫刺激薬を上記ナノ粒子の内部にカプセル化することが所望なときには、溶媒、好都合にはPVM/MAコポリマー溶液が見出されるまたは上記溶媒、好ましくは極性有機溶媒と相溶性である溶媒、またはポリマー溶液の溶媒と相溶性の溶媒、例えば、アセトンに分散または溶解させた上記免疫刺激薬をインキュベーションした後、使用した上記液相を加えて、PVM/MAコポリマー溶液を脱溶媒和する。同様に、アレルゲンまたは抗原でナノ粒子表面の総てまたは一部を被覆することが所望なときには、上記アレルゲンまたは上記抗原をインキュベーションする前に有機溶媒を蒸発させる。同様に、アレルゲンまたは抗原を上記ナノ粒子内部にカプセル化することが所望なときには、溶媒、好都合にはPVM/MAコポリマー溶液が見出されるまたは上記溶媒、好ましくは極性有機溶媒と相溶性である溶媒、またはポリマー溶液の溶媒と相溶性の溶媒、例えば、アセトンに分散または溶解させた上記アレルゲンまたは抗原をインキュベーションした後、使用した上記液相を加えて、PVM/MAコポリマー溶液を脱溶媒和する。同様に、アレルゲンまたは抗原および免疫刺激薬を上記ナノ粒子の内部にカプセル化することが所望なときには、上記アレルゲンまたは上記抗原をインキュベーションし、所望により溶媒、好都合にはPVM/MAコポリマー溶液が見出されるまたは上記溶媒、好ましくは極性有機溶媒と相溶性である溶媒、またはポリマー溶液の溶媒と相溶性の溶媒、例えば、アセトンに分散または溶解させた上記免疫刺激薬をインキュベーションした後、使用した上記液相を加えて、PVM/MAコポリマー溶液を脱溶媒和する。いずれの場合にも、所望により、中空ナノ粒子に関して上記した通りに、架橋剤を場合によって得られたナノ粒子に加えてその安定性を改良することができる。
【0069】
さらに具体的には、他の態様によれば、本発明は、アレルゲンまたは抗原と免疫刺激薬とを装填したPVM/MAコポリマーナノ粒子を含んでなる本発明の組成物の製造方法であって、
a) 有機溶媒に溶解したPVM/MAコポリマーの有機溶液を含水アルコール溶液(hydroalcoholic solution)で脱溶媒和し、
b) 有機溶媒を除去してナノ粒子を得、かつ
c)上記アレルゲンまたは上記抗原、および/または上記免疫刺激薬を上記PVM/MAコポリマー有機溶液に加えた後、PVM/MAコポリマー有機溶液を脱溶媒和し、あるいは上記アレルゲンまたは上記抗原、または免疫刺激薬を工程b)で得られた上記ナノ粒子と共にインキュベーションすること
を含んでなる、方法に関する。
【0070】
工程a)およびb)は、アレルゲンまたは抗原を装填したPVM/MAコポリマーナノ粒子を含んでなる本発明の組成物の製造方法に関する上記記載と同様の方法で行う。工程c)は、上記工程に関する上記記載と同様の方法で、免疫刺激薬を上記PVM/MAコポリマーの有機溶液に加える対応する変更を行った後、上記PVM/MAコポリマー有機溶液を所望によりアレルゲンまたは抗原と共に脱溶媒和し、あるいは上記免疫刺激薬を場合によっては上記の方法に準じて上記アレルゲンまたは抗原で部分的に被覆した工程b)で得られた上記ナノ粒子と共にインキュベーションして行う。
【0071】
所望により、架橋剤を場合によっては加えて、得られたナノ粒子の安定性を向上させることができる。アレルゲンまたは抗原および免疫刺激薬を装填した得られたナノ粒子は、通常の手段によって、例えば、遠心分離、超遠心分離、接線濾過、または真空の使用を包含する蒸発によって精製することができる。
【0072】
最後に、所望により、アレルゲンまたは抗原を装填したナノ粒子を凍結乾燥して、長期保管および貯蔵することができる。標準的凍結防止剤を、好ましくは総組成物重量に対して0.1〜10重量%の濃度で用いて、凍結乾燥を促進することができる。
【0073】
アレルゲンまたは抗原および免疫刺激薬を装填したナノ粒子は、予防接種または免疫療法においてアジュバントとして作用し、実施例3-6に示されるように、患者に投与した後に免疫応答刺激効果を生じることができる。
【0074】
投与を行うアレルゲンまたは抗原および免疫刺激薬を装填したナノ粒子の用量は、広範囲内で変動することができ、例えば、約0.01〜約10mg/kg体重であり、好ましくは0.1〜2mg/kg体重であることができる。
【0075】
所望により、本発明の組成物を、凍結乾燥形態または経口または非経口投与に適する投与形態にすることができる。凍結乾燥は、通常の方法によって、場合によっては通常の凍結防止剤、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロース、グリセロール、ラクトース、ソルビトール、ポリビニルピロリドンなどの存在下において好ましくは総組成物重量に対して0.1-10重量%の濃度で行う。経口または非経口投与に適する様々な投与形態を製造するために、所望な投与医薬形態に適する許容可能な賦形剤およびキャリヤーを用いる。これらのキャリヤーおよび賦形剤に関する情報並びに本発明の組成物の経口または非経口投与に適する上記投与形態に関する情報は、植物抽出物製剤調製法の専門書(Galenic pharmacy treatises)に見出すことができる。
【0076】
上記のように、本発明の組成物は、患者に投与した後に免疫応答を刺激しまたは高める効果を生じるので、ワクチンまたは免疫療法においてアジュバントとして用いることができる。実際に、本発明の組成物は、2つの免疫応答経路(Th1またはTh2)の一方または両方の経路を同時且つバランスのとれたやり方で選択的に刺激する能力を有するので、刺激を行う応答に準じてワクチンまたは免疫療法処方物に用いることができる。実例として、抗原が生じる生物の病原性(細胞内または細胞外、依存性毒素、依存性鞭毛など)の機構によっては、Th1応答( 細胞内、Brucella、Salmonellaなどの場合)またはTh2応答(細胞外、Staphylococcus、Escherichia coli、腸毒素産生菌などの場合)の刺激が一般にワクチン処方物に必要とされる。同様に、例えば、2種類の応答の存在により、免疫療法処方物にはトレランスの誘発、すなわちバランスのとれたやり方でのTh1およびTh2応答の誘発が必要とされる。一般に、選択的なTh2応答を刺激するため、これらの処方物はアレルゲンまたは抗原で完全にまたは部分的に被覆したPVM/MAナノ粒子を含み、一方、Th1およびTh2応答をバランスのとれたやり方で刺激するためあるいはTh1応答が支配的であるようにするため、処方物は抗原またはアレルゲンがカプセル化されるPVM/MAナノ粒子を含み、上記ナノ粒子は好都合には架橋剤を包含する。上記の場合のいずれにおいても、ナノ粒子は所望により免疫刺激薬を包含することができる。
【0077】
従って、他の態様によれば、本発明は、治療上有効量の免疫応答刺激組成物(本発明の組成物)を薬学上許容可能なキャリヤーまたは賦形剤と共に含んでなるワクチンまたは免疫療法組成物に関する。上記ワクチンまたは免疫療法組成物は、任意の経路、例えば、経口、非経口、経直腸などによって投与を行う任意の医薬投与形態とすることができる。特定の態様では、上記ワクチンまたは免疫療法組成物は経口投与医薬形態であり、一方、他の特定の態様によれば、上記ワクチンまたは免疫療法組成物は非経口投与医薬形態、例えば、筋肉内(i.m.)、皮下(s.c.)、静脈内(i.v.)、腹腔内(i.p.)、皮内(i.d.)などである。一般的な医薬の様々な投与形態およびそれらの製造方法の総説は、「植物抽出物製剤調製法の専門書(Tratado de Farmacia Galenica)」C. Faulii Trillo著、第1版、1993、Luzan 5, S.A. de Edicionesに見出すことができる。
【0078】
上記免疫療法ワクチンに含まれる本発明の組成物、または本発明によって提供される組成物は、PVM/MAナノ粒子を含んでなる。上記ナノ粒子は、さらにアレルゲンまたは抗原および/または免疫刺激薬を含むことがあり、これらは上記ナノ粒子の内部に含まれおよび/または上記ナノ粒子の表面を少なくとも部分的に被覆していることがある。同様に、上記ナノ粒子は、所望により架橋剤を含むことがある。
【0079】
特定の態様によれば、本発明によって提供される上記ワクチンまたは免疫療法組成物に含まれる本発明の組成物は、所望により架橋剤を組込んでいる中空PVM/MAナノ粒子を含んでなる。この場合には、本発明の組成物は、それぞれ抗原またはアレルゲンを含むワクチンまたは免疫療法組成物と共に投与され、上記ワクチンまたは免疫療法組成物および中空ナノ粒子の投与後に免疫応答刺激効果を生じる。上記ワクチンまたは免疫療法組成物および中空ナノ粒子の複合投与は、同時にまたは逐次的に様々な時間に任意の次数で行うことができ、すなわち最初にワクチンまたは免疫療法組成物を投与した後に中空ナノ粒子を投与することができ、またはその逆の順序で投与することもできる。あるいは、上記ワクチンまたは免疫療法組成物と上記中空ナノ粒子を同時に投与することもできる。この場合には、ワクチンまたは免疫療法組成物と中空ナノ粒子を、同一組成物または異なる組成物で投与することもできる。
【0080】
他の特定の態様によれば、上記免疫療法ワクチンに含まれる本発明の組成物、または本発明によって提供される組成物は、PVM/MAナノ粒子を含んでなり、上記PVM/MAナノ粒子は、さらにアレルゲンまたは抗原、および所望により架橋剤を含んでなる。
【0081】
他の特定の態様によれば、上記免疫療法ワクチンに含まれる本発明の組成物、または本発明によって提供される組成物は、PVM/MAナノ粒子を含んでなり、上記PVM/MAナノ粒子は、さらに免疫応答刺激薬、および所望により架橋剤を含んでなる。
【0082】
他の特定の態様によれば、上記免疫療法ワクチンに含まれる本発明の組成物、または本発明によって提供される組成物は、PVM/MAナノ粒子を含んでなり、上記PVM/MAナノ粒子は、所望により、さらにアレルゲンまたは抗原、および免疫刺激薬、および架橋剤を含んでなる。
【0083】
本発明によって提供される免疫療法ワクチンまたは組成物は、本発明の組成物を治療上有効量、すなわち免疫応答を高めまたは刺激するのに適する量で含んでなる。従って、本発明によって提供されるワクチンまたは免疫療法組成物に含まれる本発明の組成物の量は、特に、ナノ粒子の種類(中空またはアレルゲンまたは抗原および/または免疫刺激薬を装填した)などの要因によって広範囲に変動することがある。しかしながら、特定の態様によれば、本発明は、
成分 総重量に対する重量%
PVM/MAナノ粒子 84〜99.998%
架橋剤 0.001〜1%
アレルゲンまたは抗原 0.001〜15%
を含んでなるワクチンまたは免疫療法組成物を提供する。
【0084】
上記免疫療法ワクチンまたは組成物は、所望により凍結防止剤を凍結乾燥工程の際にナノ粒子を保護するのに十分な量で含むことがある。
【0085】
特定の態様によれば、上記アレルゲンは、アレルゲン性花粉抽出物、アレルゲン性昆虫抽出物、またはアレルゲン性食品抽出物を含んでなる。
【0086】
他の特定の態様によれば、上記抗原は、生体由来の免疫原性抽出物、例えば、Salmonella sppの膜抽出物を含んでなる。
【0087】
上記のように、本発明による組成物は、これを患者に投与した後に免疫応答刺激または増強効果を生じる能力を有しているので、ワクチンまたは免疫療法でのアジュバントとして用いることができ、さらに具体的には、2種類の免疫応答経路(Th1またはTh2)の一方をまたは両経路をも同時にかつバランスのとれたやり方で選択的に刺激する能力を有する。
【0088】
従って、他の態様によれば、本発明は、ワクチンまたは免疫療法組成物の製造における本発明の組成物の使用に関する。
【0089】
他の態様によれば、本発明は、Th1免疫応答の選択的または支配的刺激または増強を目的とする医薬組成物の製造における本発明の組成物の使用に関する。
【0090】
他の態様によれば、本発明は、Th2免疫応答の選択的または支配的刺激または増強を目的とする医薬組成物の製造における本発明の組成物の使用に関する。
【0091】
他の態様によれば、本発明は、Th1およびTh2免疫応答のバランスのとれた刺激増強を目的とする医薬組成物の製造における本発明の組成物の使用に関する。
【0092】
予防接種および免疫療法を目的とする本発明による組成物の使用は、
生体の通常条件で生物分解性であり且つ製薬および医学的実施において許容されるポリマーおよび材料から製造される医薬形態を使用しており、
ナノ粒子を基材とする免疫療法および予防接種製剤を投与し、カプセル化したアレルゲンまたは抗原を早すぎる不活性化から保護し、
ナノ粒子を基材とする免疫療法および予防接種製剤を製造することにより、経時的徐放性を示し、制御放出が起こる期間は投与部位に属する微小環境条件によって変化し、
特性(無害、生物分解性、無毒性)を考慮すれば、ナノ粒子を基材とするナノ粒子状アジュバントの投与により、免疫療法および予防接種の目的で様々な投与経路によりヒトおよび動物での使用が可能になり、
消化管における生体接着の可能性を考慮すれば、ナノ粒子を基材とするナノ粒子状アジュバントの投与により、経口投与を可能な投与経路とすること
を含んでなるので、幾つかの利点を有する。
【0093】
下記の実施例により本発明を説明するが、これらに限定されない。
【実施例】
【0094】
下記の実施例は、場合によってはアレルゲンまたは抗原および/または免疫刺激薬を含む様々な種類のPVM/MAを基材とするナノ粒子の製造を記載しており、それらは、免疫療法または予防接種においてアジュバントとして作用する上記ナノ粒子の能力を明らかにしている。
【0095】
一般的ナノ粒子製造方法
一般的PVM/MAナノ粒子の製造方法は、上記コポリマーをアセトンに溶解した後、エタノールを加えることを含んでなる。同様な容積の水を生成する溶液に加えて、ナノ粒子は乳状懸濁液の出現下にて途中で直ちに形成される。次いで、有機溶媒(エタノールおよびアセトン)を減圧留去すると、粒子は安定な水性懸濁液中に残る[Arbos et al, J Control Rel, 83 (2002) 321-330]。アレルゲンまたは抗原、および適用可能ならば、免疫刺激薬を加える時期によって、様々なそれらの配置を有する様々な処方物が得られる(実施例1、5および6参照)。一例としては、下記のものが挙げられる。
【0096】
A. ナノ粒子内部にカプセル化されているアレルゲンまたは抗原を含む処方物(処方物NP IおよびNP VI)を得るため、カプセル化を行うアレルゲンまたは抗原とインキュベーションを行う前に、有機溶媒を蒸発させる。
【0097】
B. ナノ粒子の外部表面を全部または部分的に被覆しているアレルゲンまたは抗原を含む処方物(処方物NP II、NP III、NP IV、NP V、NP VII、OVASAL、およびNP HE)を得るため、エタノールおよび水を加える前にアレルゲンまたは抗原をアセトン中でインキュベーションして分散させる。
【0098】
次の工程は、架橋剤(この場合には、1,3-ジアミノプロパン)を処方物NP III、NP V、NP VII、OVASAL、NP HE(それらの総てにおいて5μg/mgポリマー)およびNP IV(10μg/mgポリマー)に加えることからなっている。
【0099】
処方物NP-V、NP-VIおよびNP-VIIは、Brucella ovisの生のリポ多糖類(R-LPS)からなる免疫刺激薬を含む。簡単に説明すれば、これを組込むためには、処方物NP Vの場合には、上記免疫刺激薬とのインキュベーションを有機溶媒を蒸発させた後に行い、一方、処方物NP VIおよびNP VIIの場合には、R-LPSをインキュベーションした後にエタノールと水を加える(実施例12、13および14参照)。
【0100】
ナノ粒子の精製は、超遠心分離によって行う。最後に、精製したナノ粒子を、長期保管および貯蔵の目的で凍結乾燥する。
【0101】
ナノ粒子の特性決定
ナノ粒子のサイズおよびζ電位をZetamaster(Malvem Instruments/Optilas、スペイン)で測定した。
【0102】
カプセル化タンパク質含量(活性成分)は、マイクロビシンコニン酸(microbicinchoninic acid)タンパク質分析法(Micro BCA、Pierce、米国)によって測定した。
【0103】
ナノ粒子に吸着したまたはカプセル化したBrucella ovisの生のリポ多糖類(R-LPS)は、チオバルビツール酸法によってその専用マーカーの一つであるKDO (3-デオキシ-D-マンノ-オクト-2-ウロソン酸)を測定することによって間接定量した[Warren, J Biol Chem, 243 (1959) 1971-1975]。
【0104】
抗-OVA、サイトカインおよびIL-10抗体の測定
血清抗-OVAを、抗-IgG1および抗-IgG2a接合体(Sigma-Aldrich Chemie、ドイツ)を用いるELISAによって分析した。簡単に説明すれば、この分析を行うために、96穴プレート(EB、Thermo Labsystems、ヴァンター、フィンランド)を用い、ウェル当たり卵白アルブミン1μgを4℃で15時間固定した後、ELISAウォッシャー(Thermo Labsystems、ヴァンター、フィンランド)で1分間ずつ5回の洗浄を行い、血清を1:40から出発して連続希釈で加え、それらを37℃で4時間インキュベーションした後、1分間ずつ5回の洗浄を行った後、接合体をペルオキシダーゼと共に2時間インキュベーションし、1分間ずつさらに5回洗浄し、基質[ABTS(2,2'-アジノ-ビス(3-エチルベンゼン-チアゾリン-6-スルホン酸)(Sigma-Aldrich Chemie、ドイツ)]を加え、室温にて30分間インキュベーションした後、プレートリーダー(iEMS Reader MF、Labsystems、ヴァンター、フィンランド)で読み取りを行った。
【0105】
サイトカイン(IFN-γ, IL-4)を、以前に免疫化したマウスの脾臓細胞の再刺激によって生じる上清中でELISAキット(Biosource、米国)によって分析した。
【0106】
IL-10を、800 x gで10分間予め遠心分離した血液からの血清中でELISAキット(Biosource、米国)によって分析した。
【0107】
ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)
試料のタンパク質プロフィールを、125mM Tris-HCl(pH 6.8)中37.5:1アクリルアミド:ビスアクリルアミドを15%の濃度およびゲル中0.1% SDSで、SDS-PAGE によって測定した[Laemmli, Nature, 227 (1970) 680-685]。用いた電極緩衝液は、 30 mM Tris-HCl(pH 8.3)、192 mMグリシンおよび0.1% SDSを含んでいた。試料を、62.5mM Tris-HCl(pH 6.8)、10%グリセロール、2% SDS、5%β-メルカプトエタノール、および0.002%ブロモフェノールブルー中で、100℃にて10分間処理した。電気泳動は、8 x 7cmゲル中で15mA/ゲルの一定強度で行った。ゲルをクーマシーブルーで染色した[King, Anal Biochem, 71 (1976) 223-230]。この目的のため、それらを3%トリクロロ酢酸/水中で1時間インキュベーションして固定した。染色は、50%メタノールと10%酢酸中0.25%クーマシーブルー溶液で1時間行い、試料が目に見えるようになるまで50%メタノールおよび20%酢酸で退色させた。試料成分の見かけの分子量は、ミオシン(220kDa)、ホスホリラーゼb(97kDa)、ウシ血清アルブミン(66kDa)、卵白アルブミン(45kDa)、カルボニックアンヒドラーゼ(30kDa)、トリプシンインヒビター(20.1kDa)、およびリゾチーム(14.3kDa)を含む標準的分子量マーカー(Rainbow、Amersham Pharmacia Biotech、ウプサラ、スウェーデン)とそれらの電気泳動移動度を比較して測定した。
【0108】
免疫ブロッティング
免疫ブロッティングは、以前に報告したプロトコールに準じて行った[Towbin & Staehelin, Proc Natl Acad Sci USA, 76 (1979) 4350-4354]。簡単に説明すれば、試料をSDS-PAGEに付した後、ゲルを0.45μmの細孔径のニトロセルロース膜(Schleicher & Schuell、ダッセル、ドイツ)に移した。移し替えは、25 mM Tris-HCl (pH 8.3)、192 mM グリシンおよび10%メタノールの移動緩衝液中で、Trans-Blot(登録商標)SD、Semy-Dry移動セルシステム(Bio-Rad、リッチモンド、米国)によって、200mA、5Vで30分間半乾燥法を用いて行った。
【0109】
実施例1
免疫療法
卵白アルブミンメチルビニルエーテル-無水マレイン酸(PVM/MA)コポリマーを基材とするナノ粒子の調製および特性決定
タンパク質は、実験的アレルゲンモデルとして現在広く用いられている点から卵白アルブミン(OVA)を選択した。
【0110】
卵白アルブミンは、卵白のタンパク質含量の50%を上回る。これは385アミノ酸を有するモノマー性ホスホ糖タンパク質であり、分子量は43-45kDaである[Johnsen and Elsayed, Mol Immunol, 27 (1990) 821]。卵白アルブミンは、極めて大きなアレルゲン容量を有し、IgEによって伝達されるI型過敏症を直ちに引き起こす。
【0111】
下記の方法は、免疫療法に用いることができるナノ粒子型のコロイド状投薬形態について当てはまる。
【0112】
1.1 中空ナノ粒子(NP)の調製
メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマー(PVM/MA)[Gantrez(登録商標)AN 119] 100mgを、アセトン5mlに溶解する。その後、エタノール10mlおよび脱イオン水10mlを、磁気攪拌しながらこの相に加える。生成する混合物を、5分間ホモジナイズする。次に、ナノ粒子懸濁液を、いずれの有機溶媒も除去されるまで減圧留去し、最終容積を水で10mlに調整した。
【0113】
溶液を、超遠心分離(27,000 x g、20分間)によって精製した。上清を除き、残渣を水または5%スクロース水溶液に再懸濁する。最後に、生成するナノ粒子懸濁液を凍結乾燥して、その特性総てを無傷で保持する。
【0114】
得られた中空ナノ粒子(NP)の平均サイズは200nm未満であり、真の表面電荷は-45.1 mVである(表l参照)。
【0115】
1.2 卵白アルブミンで被覆したナノ粒子(NP I)の調製
メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマー(PVM/MA)[Gantrez(登録商標)AN 119]を、アセトン5mlに溶解させる。その後、エタノール10mlおよび脱イオン水10mlを、磁気攪拌下にこの相に加える。生成する混合物を、5分間ホモジナイズする。次に、ナノ粒子懸濁液を、いずれの有機溶媒も除去されるまで減圧留去し、最終容積を水で5mlに調整した。この溶液を、タンパク質10mgを含む卵白アルブミンの水溶液5mlと共に室温にて1時間インキュベーションする。
【0116】
混合物を超遠心分離(27,000 x g、20分間)によって精製する。上清を除去し、残渣を水または5%スクロース水溶液に再懸濁する。最後に、ナノ粒子懸濁液を凍結乾燥して、その特性総てを無傷で保持する。
【0117】
得られたナノ粒子(NP I)の平均サイズは300nm未満であり、真の表面電荷は-61.3mVであり、卵白アルブミン含量は54.7μg/mgポリマーである(表l参照)。
【0118】
1.3 カプセル化した卵白アルブミンを有するナノ粒子(NP II、NP IIIおよびNP IV)の調製
メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマー(PVM/MA)[Gantrez(登録商標)AN 119]100mgを、アセトン4mlに溶解させ、一方、卵白アルブミン5mgを超音波処理(Microson(商品名))または超音波槽で1分間冷却することによってアセトン1mlに分散させる。卵白アルブミン分散液をポリマー懸濁液に加え、室温で30分間攪拌する。その後、エタノール10mlと脱イオン水10mlを、磁気攪拌しながらこの相に加える。生成する混合物を5分間ホモジナイズする。次いで、ナノ粒子懸濁液を、いずれの有機溶媒も除去されるまで減圧下にて蒸発させ、最終容積を水で10mlに調整する。得られたナノ粒子は、OVAをカプセル化した(NP II)。処方物NP IIIおよびNP IVの場合には、架橋剤1% 1,3-ジアミノプロパン溶液をそれぞれ0.05mlおよび0.1m1加える。
【0119】
混合物を超遠心分離(27,000 x g、20分間)によって精製する。上清を除去し、残渣残渣を水または5%スクロース水溶液に再懸濁する。最後に、生成するナノ粒子懸濁液を凍結乾燥し、その特性総てを無傷で保持する。
【0120】
得られたナノ粒子の平均サイズは300nm未満であり、真の表面電荷はNP-IIの場合には-41.4mVであり、NP-IIIでは-50.8mVであり、NP-IVでは-57.5mVであり、卵白アルブミン含量は約30μg/mgポリマーである(表l参照)。
【0121】
1.4 卵白アルブミンおよびBrucella ovisリポ多糖類を用いるナノ粒子の調製(NP V、NP VIおよびNP VII)
1.4.1 Brucella ovisの生のリポ多糖類複合体の抽出および特性決定
用いた抽出物は、Brucella ovisの生のリポ多糖類(R-LPS)である。R-LPSは、以前に報告した方法によって得た(Galanos et al, Eur. J. Biochem. (1969), 245-249)。細菌Brucella ovisを培養した後、これらを密封容器中で4℃にて一晩攪拌しながら無水エタノールに再懸濁する。次いで、菌体を遠心分離し(6,000 x g、20分間、4℃)、密封容器中4℃で12時間攪拌しながらアセトンに再懸濁する。その後、菌体を遠心分離によって集め(6,000 x g、20分間、4℃)、それらをエチルエーテルに再懸濁し、磁気攪拌しながら3-4時間室温に保持する。次に、それらを再度遠心分離し(6,000 x g、20分間、4℃)、蒸発乾固する。抽出に移るために、菌体をそれぞれ8:5:2の比の石油エーテル-クロロホルム-フェノールと混合して、ホモジナイズする。混合物を遠心分離し(8,000 x g、15分間、室温)、上清を集める。ペレットを、同一条件下でさらに2回再抽出する。総ての上清をプールし、石油エーテルとクロロホルムをロータリーエバポレーター他で蒸発させる。フェノール性残渣を水で沈澱させ、遠心分離する(8,000 x g、30分間、室温)。次に、これをフェノールでさらに2回およびエチルエーテルでさらに2回洗浄する。最後の遠心分離の後、残留エチルエーテルを真空留去し、ペレットを脱イオン水に再懸濁し、透析を行う。最後に、透析バッグの内容物を遠心分離し(100,000 x g、6時間、4℃)ペレットを脱イオン水に再懸濁し、これを凍結乾燥する。
【0122】
R-LPSの量は、チオバルビツール酸法によってその専用マーカーの一つであるKDOを測定することによって間接定量する。
【0123】
1.4.2 表面にカプセル化卵白アルブミンとBrucella ovisのR-LPSを有するナノ粒子(NP V)
メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマー[Gantrez(登録商標)AN 119]100mgをアセトン4mlに溶解し、一方、卵白アルブミン5mgを超音波処理(Microson(商品名))または超音波槽で1分間冷却することによってアセトン1mlに分散させる。卵白アルブミン分散液をコポリマー懸濁液に加え、室温で30分間攪拌する。その後、エタノール10mlと脱イオン水10mlを、磁気攪拌しながらこの相に加える。生成する混合物を5分間ホモジナイズする。次いで、ナノ粒子懸濁液を、いずれの有機溶媒も除去されるまで減圧下にて蒸発させ、最終容積を水で9mlに調整する。この溶液を、Brucella ovis R-LPS 1mgを含む水性分散液(予め1分間超音波処理したもの)1mlと共に室温にてインキュベーションする。
【0124】
混合物を超遠心分離(27,000 x g、20分間)によって精製する。上清を除去し、残渣を水または5%スクロース水溶液に再懸濁する。最後に、生成するナノ粒子懸濁液を凍結乾燥し、その特性総てを無傷で保持する。
【0125】
得られたナノ粒子(NP V)の平均サイズは300nm未満であり、真の表面電荷はNP-IIの場合には-46.1mVであり、卵白アルブミン含量は64.1μg/mgポリマーであり、R-LPSは15.2μg/mgポリマーである(表l参照)。
【0126】
1.4.3 表面にカプセル化Brucella ovisのR-LPSと卵白アルブミンを有するナノ粒子(NP VI)
メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマー[Gantrez(登録商標)AN 119] 100mgをアセトン4mlに溶解し、一方、Brucella ovisのR-LPS 1mgを超音波処理(Microson(商品名))または超音波槽で1分間冷却することによってアセトン1mlに分散させる。R-LPS分散液をコポリマー懸濁液に加え、室温で30分間攪拌する。その後、エタノール10mlと脱イオン水10mlを、磁気攪拌しながらこの相に加える。生成する混合物を5分間ホモジナイズする。次いで、ナノ粒子懸濁液を、いずれの有機溶媒も除去されるまで減圧下にて蒸発させ、最終容積を水で5mlに調整する。この溶液を、卵白アルブミン5mgを含む水性分散液5mlと共に室温にてインキュベーションする。
【0127】
混合物を超遠心分離(27,000 x g、20分間)によって精製する。上清を除去し、残渣を水または5%スクロース水溶液に再懸濁する。最後に、生成するナノ粒子懸濁液を凍結乾燥し、その特性総てを無傷で保持する。
【0128】
得られたナノ粒子(NP V)の平均サイズは300nm未満であり、真の表面電荷はNP-IIの場合には-56.9mVであり、卵白アルブミン含量は68.5μg/mgポリマーであり、R-LPSは12.1μg/mgポリマーである(表l参照)。
【0129】
1.4.4 カプセル化卵白アルブミンとBrucella ovisのR-LPSを有するナノ粒子(NP VII)
メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマー[Gantrez(登録商標)AN 119] 100mgをアセトン3mlに溶解し、一方、卵白アルブミン5mgを超音波処理(Microson(商品名))または超音波槽で1分間冷却することによってアセトン1mlに分散させ、Brucella ovisのR-LPSを、これもまた冷却化での超音波処理によってアセトン1mlに分散させる。卵白アルブミン分散液をR-LPS分散液に加え、この混合物をコポリマー懸濁液に加え、室温で30分間攪拌する。その後、エタノール10mlと脱イオン水10mlを、磁気攪拌しながらこの相に加える。生成する混合物を5分間ホモジナイズする。次いで、ナノ粒子懸濁液を、いずれの有機溶媒も除去されるまで減圧下にて蒸発させ、最終容積を水で10mlに調整する。
【0130】
混合物を超遠心分離(27,000 x g、20分間)によって精製する。上清を除去し、残渣を水または5%スクロース水溶液に再懸濁する。最後に、生成するナノ粒子懸濁液を凍結乾燥し、その特性総てを無傷で保持する。
【0131】
得られたナノ粒子(NP V)の平均サイズは300nm未満であり、真の表面電荷はNP-IIの場合には-46.1mVであり、卵白アルブミン含量は54.7μg/mgポリマーであり、R-LPSは13.8μg/mgポリマーである(表l参照)。
【0132】
1.5 ナノ粒子の特性決定
様々な処方物の物理化学的特性を、表1に示す。
【0133】
収集した結果によれば、ナノ粒子を卵白アルブミンで被覆したときには(NP IおよびNP VI)、サイズが増加し、ζ電位は負の値が大きくなるのに対して、卵白アルブミンがほとんどナノ粒子の内部にあるときには(NP II、NP III、NP IV、NP V、およびNP VII)、ζ電位と同様にサイズは、中空ナノ粒子(NP)と比較すると変動しないことが観察された。
【0134】
一方、ナノ粒子のサイズは添加した架橋剤の量の増加と共に増加し、卵白アルブミンの量は若干減少することが観察された。
【0135】
ナノ粒子の表面にR-LPSが含まれていると、カプセル化卵白アルブミンの量が増加するが(NP V対NP II)、R-LPSがほとんどナノ粒子の内部にあるときには、吸着した卵白アルブミンの量は変動しない(NP VI対NP I)。
【0136】
【表1】
ナノ粒子の生産収率は、約70%であった。
【0137】
実施例2
ナノ粒子から卵白アルブミン放出のイン・ビトロ試験
イン・ビトロでの卵白アルブミン放出を評価するため、ナノ粒子を「エッペンドルフ」試験管中で約8mg/mlの濃度のPBS(リン酸緩衝食塩水、pH 7.4)1ml中でインキュベーションした。試験管はオーブン中で回転させながら37℃でインキュベーションし、所定の時間間隔で試料を26,500 x gで20分間遠心分離し、上清を後で分析を行うために集めた。放出卵白アルブミンは、上清中でビシンコニン酸法によって測定した。
【0138】
得られた卵白アルブミン放出曲線を、図1に示しており、処方物NP Iでは、卵白アルブミンが、同様の放出プロフィールを示す処方物NP II、NP III、およびNP IVより速やかに放出されることが観察されている。これは、処方物NP Iでは、卵白アルブミンがナノ粒子の外側に吸着しているので、その初期放出(噴出)が、卵白アルブミンの一部がカプセル化されている他の処方物(NP II、IIIおよびIV)の初期放出より遙かに顕著であるからである。一方、NP II、NP III、およびNP IVについての放出プロフィールでは、架橋剤の量が増加するにつれて、放出される卵白アルブミンの割合は若干減少することを観察することができる。
【0139】
実施例3
BALB/cマウスにおける卵白アルブミンによる免疫化後の抗OVA抗体の定量
65匹のBALB/cを免疫化し、投与計画に従って13群に分割した。
【0140】
用いたコントロールは、遊離の卵白アルブミン溶液(OVA)(10μg皮内、および25μg経口)、中空ナノ粒子(NP)(皮内および経口)、およびアルヒドロゲルに吸着した卵白アルブミン(OVA-Alum)(10μg皮内)の高IgG1力価を特徴とするTh2応答誘発ポジティブコントロールであった[Faquim-Mauro et al, Int Immunol, 12 (2000) 1733-1740]。
【0141】
残りの群には、皮内(10μg OVA)または経口(25μg OVA)を接種し、様々な投与治療は、
a) 卵白アルブミン(OVA)溶液、皮内
b) 卵白アルブミン(OVA)溶液、経口
c) アルヒドロゲルに吸着した卵白アルブミン(OVA-Alum)、皮内
d) 中空ナノ粒子(NP)、皮内
e) 中空ナノ粒子(NP)、経口
f) 卵白アルブミンを被覆したナノ粒子(NP I)、皮内
g) 卵白アルブミンを被覆したナノ粒子(NP I)、経口
h) カプセル化卵白アルブミンを有するナノ粒子(NP II)、皮内
i) カプセル化卵白アルブミンを有するナノ粒子(NP II)、経口
j) カプセル化卵白アルブミンを有する1,3-ジアミノプロパンで架橋したナノ粒子(NP IIIおよびNP IV)、皮内
k) カプセル化卵白アルブミンを有する1,3-ジアミノプロパンで架橋したナノ粒子(NP IIIおよびNP IV)、経口
である。
【0142】
免疫化後7、14、28および35日目に連続血液抽出を行った。それぞれの群についての血清をプールし、後で分析するために-80℃で凍結させた。
【0143】
抗-OVA抗体(IgG1およびIgG2a)のレベルを様々な血清でELISAによって測定し、図2および3に示されるデーターを得た。ナノ粒子を被覆しているまたはその中にカプセル化されている卵白アルブミンを含むナノ粒子(NP I、NP II、NP III、およびNP IV)は、溶液中の卵白アルブミンと比較して免疫応答を増加することが観察された。投与後14日目に、上記ナノ粒子処方物は、タイプによってマウス血清中のIgG1力価を3または6対数単位まで増加させることができる。一方、OVA-Alumを投与したマウスは、全実験期間中血清IgG2a抗体は見られず、NP IIIを投与したマウスでは、免疫化後の35日目には5120の力価に到達した。
【0144】
このことは、一般に、上記NP処方物(NP I、NP II、NP III、およびNP IV)がTh1およびTh2のいずれにも特徴的な抗体力価を増幅することができるが、特に、処方物NP IIIが最も免疫原性であることを示している。
【0145】
一方、NP III群のマウスの力価をNP IV群のものと比較すると、それらは同様なIgG1曲線を有するが、NP IIIについてのIgG2a力価はNP IVの場合より若干大きいので、最適架橋があることを観察することができる(実施例2、最終段落)。
【0146】
経口投与マウスで得られた結果に関しては、定量可能なレベルのIgG1およびIgG2a抗体を誘発する処方物はNP IIIのみであることが観察された(図3)。
【0147】
これらの実験条件下で、処方物NP IIIが最も有効であることを実証した後、NP IIIの投与量を変更して同様な検討を行った。この場合には、下記の処方物を動物に(経口)投与した:
a) 中空ナノ粒子(NP)
b) カプセル化卵白アルブミンを有する1,3-ジアミノプロパンで架橋したナノ粒子を有するカプセル化卵白アルブミン25μg(NP III-25)
c) カプセル化卵白アルブミンを有する1,3-ジアミノプロパンで架橋したナノ粒子を有するカプセル化卵白アルブミン50μg(NP III-50)
【0148】
この場合には、得られた結果(図4)は、血清中の抗OVA IgG2aは、投与量が50μgのときにはかなり大きいことを示している。
【0149】
実施例4
Brucella ovisのリポ多糖類を有する卵白アルブミンナノ粒子の投与後の抗-OVA抗体およびインターロイキン10 (IL-10)産生の定量
40匹のBALB/cマウスを免役し、投与形態に従って8群に分割した。いずれの群にも、治療は皮内投与した(卵白アルブミン1 0μg)。この場合に、様々な治療は、
a) 卵白アルブミン(OVA)溶液
b) アルヒドロゲルに吸着した卵白アルブミン(OVA-Alum)
c) 中空ナノ粒子(NP)
d) 卵白アルブミンを被覆したナノ粒子(NP I)
e) カプセル化卵白アルブミンを有する1,3-ジアミノプロパンで架橋したナノ粒子(NP III)
f) カプセル化卵白アルブミンを有する1,3-ジアミノプロパンで架橋し且つBrucella ovisのR-LPSで被覆したナノ粒子(NP V)
g) カプセル化Brucella ovisのR-LPSを有し且つ卵白アルブミンで被覆したナノ粒子(NP VI)
h) 卵白アルブミンとカプセル化Brucella ovisのR-LPSを有する1,3-ジアミノプロパンで架橋したナノ粒子(NP VII)
である。
【0150】
アルヒドロゲルに吸着した卵白アルブミンを皮内投与した群(OVA-Alum)を、実験のポジティブコントロールとして採用した。
【0151】
免疫化後の7、14、28、35、42、および49日目に、連続血液抽出を行った。試料を処理し(実施例3参照)、結果を得て、図5および6に含める。
【0152】
IgG1応答(図5): NP III、NP VおよびNP VIIは、コントロール処方物(OVA-Alum)より遙かに速やかにかつ一層強く高IgG1u誘発した。投与後の49日目にだけ、ナノ粒子を基材とする処方物およびコントロール(OVA-Alum)が同様のレベルを示す。最後に、ナノ粒子表面のR-LPSは、IgG1レベルの誘発に効果を有するとは思われない。
【0153】
一方、NP Iはまた、IgG1抗体産生を誘発するための強力な可能性を示す。さらに、上記の場合と同様に、この現象はコントロール処方物でよりも速やかであり且つ一層強い。R-LPSがOVAを被覆したナノ粒子内部で会合しているときには、NP Iおよびコントロール処方物と比較して血清IgG1力価がかなり減少することが観察されている。
【0154】
IgG2a: 図6はマウスの血清IgG2a力価を示す。この場合には、コントロール処方物(OVA、NP、OVA-Alum)のいずれも、抗体力価を誘発しない。しかしながら、カプセル化OVAは、主としてR-LPSがナノ粒子の外側に吸着されているときに(処方物NP V)高IgG2a力価を提供することができた。一方、NP Iは、血清IgG2a力価で測定されるTh1応答を誘発するためのNP VIより遙かに有効であると思われた。
【0155】
IL-10: 図7は血清IL-10レベルを示し、これはELISAキット(Biosource、カマリロ、米国)によって測定した。この場合には、コントロールは、いずれも血清IL-10の分泌を誘発することはできなかった。しかしながら、いずれのナノ粒子処方物も多かれ少なかれこのサイトカインの分泌を誘発した。NP表面に吸着した卵白アルブミンを有する処方物(NP I)は、残りの処方物より速やかにIL-10ピークを誘発することができた。しかしながら、LPSの会合(NP VI)は、サイトカイン分泌をかなり遅らせた(14日間)。一方、 NP IIIは、時間が1週間だけ遅れるが、血清IL-10を誘発する最も有効な処方物であり、NP 1より2倍高いレベルを生じることが示された。カプセル化ナノ粒子OVA (NP VおよびNP VII)におけるR-LPSの会合により、投与の2週間後に最大値を有するさらに不連続なIL-10レベルを誘発できた。この有意なIL-10レベルを誘発する処方物の可能性は、このサイトカインの調節力によりTh1/Th2バランスにおける不均衡を特徴とする疾患の可能な治療法としてのそれらの使用を示唆している[Zuany-Amorim et al, J Clin Invest, 95 (1995) 2644-2651; Stampfli et al, Am J Respir Cell Mol Biol, 21(1999) 586-596; Hall et al, Vaccine, 21 (2003) 549-561]。
【0156】
実施例5
Salmonella enteritidis ChE抽出物を有するナノ粒子の調製、特性決定および投与
5.1 Salmonella enteritidis ChE抽出物の抽出
細菌抽出物ChE (カオトロピック抽出物)は、Altman et al.によって以前に報告されたプロトコールに従って得た(Altman et al., Biochem J. (1982) 505-513)。定常期のSalmonella enteritidis接種物を、BHI(ブレイン・ハート・インフュージョン、Diko Lab.、デトロイト、米国)400mlを含むフラスコ中で、37℃で48時間攪拌なしでインキュベーションした。次いで、菌体を遠心分離し(7,000 x g、30分間)、PBS(リン酸緩衝食塩水、10mM、pH 7.4)で洗浄した。細菌抽出物が、菌体ペレットを3M KSCN/PBS中で磁気攪拌を用いて処理し(1時間、室温)、遠心分離(35,000 x g、30分間)の後に、得られた。ChE抽出物を含む上清を集めて、最初にPBSに対して、次いで脱イオン水に対して透析した。これを最後に凍結乾燥して、後で使用するまで4℃で保存した。
【0157】
5.2 卵白アルブミンとSalmionella enteritidisを有するナノ粒子(OVASAL)の調製
メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマー[Gantrez(登録商標)AN 119] 100mgをアセトン3mlに溶解し、一方、卵白アルブミン5mgとChE抽出物5mgをアセトン2mlに超音波処理(Microson(商品名))によって1分間冷却しながら分散させる。卵白アルブミンとChE分散液をポリマー懸濁液に加え、これを室温で30分間攪拌する。エタノール10mlと脱イオン水10mlをこの相に磁気攪拌下にて加える。生成する混合物を、5分間ホモジナイズする。次いで、ナノ粒子懸濁液を減圧にて蒸発させていずれの有機溶媒をも除去し、最終容積を水で10mlに調整した。次に、それらを、1% 1,3-ジアミノプロパン溶液0.1mlと共にインキュベーションする。
【0158】
混合物を、超遠心分離(27,000 x g、20分間)によって精製する。上清を除去し、残渣を5%スクロース水溶液に再懸濁する。最後に、生成するナノ粒子懸濁液を凍結乾燥する。
【0159】
5.3 BALB/cマウスにおいてOVASALで免疫化後の抗-OVA抗体産生の定量
15匹のマウスを卵白アルブミン10μgを用いて皮内免疫化し、それらを、投与する治療物に従って3種類の群に分割した。
a) 卵白アルブミン溶液(OVA)
b) アルヒドロゲルに吸着した卵白アルブミン (OVA-Alum)
c) 卵白アルブミンナノ粒子およびSalmonella enteritidis ChE(OVASAL)
【0160】
様々な処方物を投与した後、血液を眼窩後血管叢(retroorbital plexus)から7、14、28、35、42および49日目に採取し、試料を実施例3に示されている方法で処理した。得られた結果を、図8に示す。意外なことには、OVASALはIgG1力価をかなり増加させたが、IgG2a力価は極めて低いレベルのままであった。このことは、この処方物がTh2応答のみを高めることができ、これはまた、コントロール処方物(OVA-Alum)についてより遙かに速やかに且つ一層強いものであったことを示している。これらの結果から、ワクチンにおけるアジュバントとして有望な応用が考えられ、高レベルのまたは微生物によって分泌される毒素に対する抗体を得ることは興味深いことである。これはまた、急性期において過度に高いTh1応答を有することを特徴とするある種の自己免疫疾患にも応用することができる。
【0161】
実施例6
Salmonella enteritidis HE抽出物を有する生物分解性ナノ粒子(NP HE 3934)の調製および特性決定
6.1 Salmonella enteritidis HE抗原複合体3934の抽出および特性決定
用いる抗原は、食塩水媒質中で熱を加えることにより抗原複合体を放出するという事実によりHE(熱食塩水抽出物)と呼ばれるS. enteritidisの表面抽出物である。このHEは、リン脂質、表面タンパク質、および滑らかなリポ多糖類(S-LPS)を含む。HE抽出物は、以前に報告されている方法によって得た[Gamazo et al., Infect. Immun. (1 989) 1419-1426]。トリプチカーゼ大豆ブロス(TSB)を含むフラスコで細菌Salinonella enteritidis 3934を培養した後、細菌を7,000 x gで30分間遠心分離し、食塩水溶液で2回洗浄した。生細胞を食塩水溶液に再懸濁し(10g湿細胞/100ml)、蒸気流中で100℃で15分間加熱する。遠心分離(12,000 x g、10分間)の後、上清を脱イオン水を数回交換しながら5日間透析する。透析した材料を60,000 x gで4時間超遠心分離し、ペレット(HE)を脱イオン水に再懸濁し、凍結乾燥し、室温で保管する。
【0162】
特性決定は、タンパク質およびリポ多糖類の割合の決定を包含する。タンパク質の量の測定は、ラウリー法によって行った。Salmonella enteritidis抗原抽出物3934は、約31%のタンパク質を含む。LPSの量は、その専用マーカーの一つであるKDOをチオバルビツール酸法によって間接的に測定する。S-LPS 65%を表すKDO 0.86%が、この方法によって得られた。
【0163】
6.2 Salmonella enteritidis HE 抽出物3934を有するナノ粒子(NP HE 3934)の産生および物理化学的特性決定
最初に、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマー100mgをアセトン5mlに溶解させ、アセトン1mlに再懸濁した抗原抽出物HE (4mg)をこの溶液に加え、磁気攪拌によって混合する。この溶液を、室温で15分間インキュベーションさせる。次に、エタノール10mlおよび最後に同容積の水を、この相に加えた。生成する混合物を5分間ホモジナイズする。次に、ナノ粒子懸濁液を減圧下に蒸発させ、いずれの有機溶媒も除去し、最終容積を水で10mlに調整した。
【0164】
懸濁液を超遠心分離によって精製する(35,000 x g、10分間)。上清を除去し、残渣を5%スクロース水溶液(w/v)に再懸濁する。最後に、生成するナノ粒子懸濁液を凍結乾燥し、その特性総てを無傷で保持する。
【0165】
凍結乾燥前にナノ粒子懸濁液から生じる処方は、
メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマー(Gantrez(登録商標)AN-119)
1.0%(w/v)
抗原抽出物 0.4%(w/v)
スクロース 5.0%(w/v)
水f.i. q.s. 10ml
[f.i.: 注射用; q.s.: 適量]
【0166】
凍結乾燥工程の前に、ナノ粒子のサイズおよび表面電荷を測定する。得られたナノ粒子の平均サイズは200nm未満であり、負の真の表面電荷は-20.1 ± 3.2mVである。生産工程収率は、凍結乾燥工程後のその重量を測定することによって得た。コポリマー100mgから出発して、工程の終わりにナノ粒子に変換された量を測定し、これを初期コポリマー質量に対する百分率として表した。
【0167】
抽出物は、ビシンコニン酸法によって定量し、検出した。その目的のため、架橋剤を加える前に、ナノ粒子懸濁液の一部(1ml)を採取する。ナノ粒子を0.1N NaOHを加えることによって開裂し、この方法の実証前に、この混合物をタンパク質についてのビシンコニン酸比色法によって分析する。実証は、0.1N NaOH中で開裂した中空ナノ粒子に溶解した抽出物を用いて行った。ビシンコニン酸溶液と5%硫酸銅を100:2の比率で試料に加え、混合物を37℃に半時間保持した後、562nmで分光光度法によって測定する。
【0168】
抽出物の荷重は、ナノ粒子1mg当たりの抽出物のμg量として表され、カプセル化有効性は、カプセル化抽出物の総量を初期量と関連させることによって決定される。
【0169】
表2は、ナノ粒子中に抗原抽出物荷重(μg抽出物/mgナノ粒子)とカプセル化有効性(%)を示す。
【0170】
【表2】
【0171】
図9は、S. enteritidis HEタンパク質標準物を表しており、様々な成分、すなわちポーリン(約36kDa)、OmpA(34kDa)、および線毛SEF14(14kDa)およびSEF21(21kDa)を識別することができる。ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)および免疫ブロッティングによって、カプセル化抽出物はその構造の完全性および抗原性を保存することが確認された。図10において、カプセル化前後の抽出物の抗原性プロフィールを観察することができる。
【0172】
実施例7
マウスにおいて腹腔内投与したNP HE 3934ワクチンによって提供される保護の検討
BALB/cマウスの9週齢群で、各群が10匹の動物からなるものを用いた。予防接種は、 実施例6に記載のナノ粒子ワクチン製剤(NP HE 3934)を30μg抽出物/動物の比率で用い、コントロールとしてi) 同量の対応する中空ナノ粒子、ii) 30μg/動物の遊離のカプセル化されていないHE抽出物、iii) 200μlの市販ワクチンSalenvac(登録商標)(Intervet UK Limited、ウォルトン、英国)、iv)食塩水溶液をも包含して行った。
【0173】
予防接種の10日後、S. enteritidis 3934株の致死用量102 CFUを腹腔内接種し、この接種後にサルモネラ症によって死亡した動物を計数した。保護実験の結果は、ナノ粒子を基材としたワクチン製剤(NP HE 3934)は、市販ワクチンSalenvac(登録商標)並びに自由に投与されるHE抗原抽出物(HE Se 3934)と極めて類似した方法で皮下投与したS. enteritidisから保護したことを示している。
【0174】
これらの結果は、ナノ粒子におけるHE抽出物のカプセル化はマウスにおける保護レベルを増加しないことを示す。一方、マウスを中空ナノ粒子で免疫化すると、非特異的免疫応答を誘発し、3週間の保護を提供する。しかしながら、遊離およびカプセル化形態でのHE抗原の投与経路は腹腔内であったことを指摘しなければならない。初期の研究は、非カプセル化抗原の経口または経鼻投与では、それらが抗原提示細胞との相互作用部位に到達する前に分解を引き起こすことが示唆されている。
【0175】
さらに、予防接種の10日後に、ナノ粒子によって提供される免疫についての検討を実験的感染の時期に行い、マウスの脾臓細胞によりIFN-γおよびIL-4の産生レベル(それぞれ、Th1およびTh2型の免疫応答に典型的)を定量した(図12)。血中IgG2aおよびIgG1抗体産生(それぞれ、Th1およびTh2)も、測定した(図13)。
【0176】
研究に用いたマウスでの遊離およびカプセル化HE抽出物によって誘発されるTh1/Th2免疫バランスを検討するため、免役した動物の脾臓細胞によって産生されるIFN-γおよびIL-4レベルを測定した(図12)。パネルAは、誘発されたIFN-γレベルを示し、ナノ粒子(NP HE 3934)で免役したマウスにおける上記産生の増加を示している。対照的に、パネルBは、遊離HE抽出物(HE 3934)で免役したマウスおよびNP HE 3934ナノ粒子で免役したマウスでは、有意なIL-4産生の増加はないことの理由を示している。得られた結果を考慮すれば、ナノ粒子におけるHE抽出物のカプセル化は、Th2と比較して、IFN-γ産生における増加によって表されるTh1型応答の増加に有利であることを断言することができる。
【0177】
免役したマウスでのS. enteritidis 3934 HE抽出物に特異的な抗体の産生を、間接ELISA法によって検討した(図13)。非免疫マウスまたは中空ナノ粒子で免役したマウス(中空NP)は、S. enteritidis 3934 HEに対してIgG2aまたはIgG1抗体を産生しなかった。検出されたIgG2aレベルは、ELISAによって分析した総てのマウス血清におけるIgG1のレベルより大きかった。しかしながら、遊離のHE抽出物(HE 3934)で免役したマウスによって示される応答と比較してカプセル化HE抽出物(NP HE 3934)で免役したマウスにおける血清学的応答の増加は観察されなかった。
【0178】
IgG2aはTh1免疫応答における主要な抗体アイソタイプであり、一方、IgG1はTh2免疫応答についてこの同じ機能を有し、これによりIFN-γおよびIL-4放出分析で得られた結果が確かめられ、S. enteritidis HE抽出物を有するナノ粒子の腹腔内投与により支配的なTh1型免疫応答を誘発することを示している。この投与は、遊離抗原を投与するときに観察されたのと同様なサルモネラ症に対してある程度の保護を提供する。しかしながら、上記のように、これらの非カプセル化抗原の粘膜を介する適用では、動物の消化管中でそれらの通過時に起こる酸および酵素分解によりこの実験で観察されるこれらの保護レベルが得られない。
【図面の簡単な説明】
【0179】
【図1】処方物NP-I、NP-II、NP-III、およびNP-IVからの卵白アルブミンの経時的(日数)放出(%)を表すグラフである。
【図2】Balb/cマウスを卵白アルブミン(OVA)不含溶液、アルヒドロゲルに吸着した卵白アルブミン(OVA-Alum)、および中空ナノ粒子(NP)、NP-I、NP-II、NP-III、およびNP-IVで皮内免疫した後の特異的抗卵白アルブミン抗体(IgG1、IgG2a)の経時的水準を表すグラフである。
【図3】Balb/cマウスを卵白アルブミン(OVA)不含溶液、および中空ナノ粒子(NP)、NP-I、NP-II、NP-III、およびNP-IVで経口免役した後の特異的抗卵白アルブミン抗体(IgG1、IgG2a)の経時的水準を表すグラフである。
【図4】Balb/cマウスを様々な卵白アルブミンのカプセル化用量(NPIII25およびNP-III50)、および中空ナノ粒子(NP)で経口免役した後の特異的抗卵白アルブミン抗体(IgG1、IgG2a)の経時的水準を表すグラフである。
【図5】Balb/cマウスを卵白アルブミン(OVA)溶液、アルヒドロゲルに吸着した卵白アルブミン(OVA-Alum)、および中空ナノ粒子(NP)、NP-I、NP-II、NP-III、NP-V、NP-VI、およびNP-VIIで皮内免疫した後の特異的抗卵白アルブミン抗体(IgG1)の経時的水準を表すグラフである。
【図6】Balb/cマウスを卵白アルブミン(OVA)不含溶液、アルヒドロゲルに吸着した卵白アルブミン(OVA-Alum)、および中空ナノ粒子(NP)、NP-I、NP-III、NP-V、NP-VI、およびNP-VIIで皮内免疫した後の特異的抗卵白アルブミン抗体(IgG2a)の経時的水準を表すグラフである。
【図7】Balb/cマウスを卵白アルブミン(OVA)不含溶液、アルヒドロゲルに吸着した卵白アルブミン(OVA-Alum)、および中空ナノ粒子(NP)、NP-I、NP-III、NP-V、NP-VI、およびNP-VIIで皮内免疫した後の経時的IL-10の血清中濃度を表すグラフである。
【図8】Balb/cマウスをアルヒドロゲルに吸着した卵白アルブミン(OVA-Alum)、OVASAL、および卵白アルブミン(OVA)溶液で皮内免疫した後の特異的抗卵白アルブミン抗体(IgG1、IgG2a)の経時的水準を表すグラフである。
【図9】タンパク質(10μg抽出物/ウェル)についてのドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)およびクーマシーブルー染色によるHE抽出物の分離結果である。
【図10】感染したニワトリ由来の血清の混合物を用いるカプセル化の前(A)および後(B)のHE抽出物の免疫ブロッティング分析の結果である。
【図11】S. enteritidis 3934の102個のコロニー形成単位(UFC)の致死用量を用いるBalb/cマウスの腹腔内保護実験の結果を示すグラフである。
【図12】HE抽出物で再刺激したBalb/cマウス脾臓細胞によるIFN-γ(A)およびIL-4 (B)の放出を表す棒グラフである。
【図13】HE抽出物と比較して、IgG1およびIgG2a抗体を用いるBalb/cマウス血清についての間接ELISAの結果を表す棒グラフである。
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、所望によりアレルゲンまたは抗原および/または免疫刺激薬を含むメチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマーを基材とするナノ粒子の、免疫療法およびワクチンにおけるアジュバントとしての用途に関する。本発明はまた、上記ナノ粒子を含んでなる免疫応答刺激組成物に関する。
【0002】
背景技術
周知のように、患者に防御免疫応答を誘導することができる免疫原性の高い抗原がある一方、上記防御的応答を誘導しないかまたは極めて弱い免疫応答を誘導する他の抗原がある。一般に、免疫原性の弱い抗原対する宿主の免疫応答は、アジュバントの共同投与によって刺激することができる。
【0003】
アジュバント
アジュバントは、これと混合する抗原に対する免疫応答を増加させる任意の物質である。アジュバントは、主としてi) 生物活性生成物が様々な時間放出されるワクチン投与部位における抗原またはアレルゲンデポジットの形成、ii) 抗原またはアレルゲンの、抗原提示細胞への送達、およびiii) インターロイキン分泌の誘導の3種類の機構によって作用する。
【0004】
アジュバントの幾つかの古典的例としては、アルミニウム塩(Alhydrogel)とカテコールアミン(Th2応答を増大)、およびグラム陰性菌のリポ多糖類とある種のCpG配列(Th1応答を増大)がある。一方、微小粒子(物質を被覆するポリマー性の球状粒子)またはリポソーム(様々な数の二分子リン脂質およびコレステロールフィルムで被覆された水性中心キャビティーを有する球状小胞)のような、ある種の非生物学的ベクターもアジュバントとして作用することができることが、多くの研究から明らかにされている[Eldridge et al, Infect Immun, 59 (1991) 2978-2986; O'Hagan et al, Vaccine, 18 (2000) 1793-1801; Murillo et al, Vaccine, 30 (2001) 4099-4106]。
【0005】
アジュバントとしての使用について考えることができるもう一つの種類の非生物学的ベクターは、ナノ粒子とも呼ばれるサイズが1μm未満の固形粒子コロイド系であって、これはマトリックスナノ球体と小胞性ナノカプセルとに再分される[Orecchioni and Irache, 「局所投与用の医薬形態(Formes pharmaceutiques pour application locale)」, Lavoisier Tech and Doc., Paris, (1996)441 457]。ナノカプセルは、ポリマー膜または壁によって囲まれている内部キャビティーによって形成される小胞系である。ナノ球体は、三次元ポリマー網状組織によって形成されるマトリックス形態である。いずれの場合にも、生物活性物質の分子を、(ナノ球体中で)高分子構造に溶解させ、トラップしまたは結合させ、または(ナノカプセル中で)ポリマー膜によってカプセル化することができ、またこれはナノ粒子に吸着させることもできる。
【0006】
生体におけるナノ粒子の分布は、一般に、生物学的媒質との相互作用を決定するその物理化学的特性(主として、サイズおよび表面特性)によって変化する。従って、それらは、抗原および/またはアレルゲンを投与するための免疫療法またはワクチンアジュバントとして特に興味深い医薬形態である。
【0007】
一般に、非生物学的起源のこれらのベクターによって提供される最も重要な潜在能力は、下記の通りであり[Couvreur & Puisieux. Adv. Drug Del. Rev., 10 (1993) 141-162]、(i) それらは、投与部位および作用部位における化学的、酵素的または免疫学的不活性化からカプセル化した物質を保護し、(ii)生物活性分子の到達困難な位置への輸送および細胞におけるその透過を向上させ、(iii)生体における薬剤滞留時間を長くし、その放出を制御し、(iv)細胞および/または分子ターゲットにおいて、選択的、効果的に、かつ通常の濃度によってカプセルした物質の作用特異性を増加させ、(v)医薬生成物の製造、輸送および保管中の、組込んだ物質の安定性を増加させる。
【0008】
予防接種におけるアジュバントの使用
エマルション、微粒子、ISCOMS、またはリポソームの形態での粒状アジュバントの使用は、幾つかの研究グループによって以前に評価されている[総説: Singh et al., Int J Parasitology 33 (2003) 469-478]。
【0009】
「抗原提示細胞」による抗原捕捉は、これらの抗原がポリマー粒子と会合しまたはそれらの内部に包含されているときには、増加する。生物分解性および生物適合性ポリエステルが、多年にわたり制御抗原放出系としてヒトおよび動物で用いられてきた[Okada et al, J Pharm Sci, 12 (1995) 1-99; Putney et al, Nat Biotechnol, 16 (1998) 153-157]。アルミニウムアジュバントとは異なり、微粒子は、マウスで細胞性および細胞傷害性免疫応答を誘発するのに有効である[Nixon et al, Vaccine 14 (1996) 1523-1530; Maloy et al, Immunology 81 (1994) 661-667; Moore et al, Vaccine 13 (1995) 1741-1749]。マウスでの微粒子による経口免疫化は、カプセル化した抗原と比較して粘膜および全身レベルで強力な免疫応答を誘発する[Chalacombe et al, Immunology 176 (1992) 164-168; Eldridge et al, J Control Rel 11 (1990) 205-214; O'Hagan et al, Novel Delivery Systems for Oral Vaccines (1994) 175-205]。この能力は、粘膜に会合したリンパ系組織の特殊化細胞によるインターナリゼーションの結果である[O'Hagan, J Anat, 189 (1996) 477-482]。様々な粒状系による粘膜免疫化は、Bordetella pertussis [Chaill et al, Vaccine 13 (1995) 455-462; Jones et al, Vaccine 15 (1997) 814-817; Shahin et al, Infect Immun, 63 (1995) 1195-1200; Conway et al, Vaccine 19 (2001) 1940-1950]、Chlamidia trachomatis [Whitturn-Hudson et al, Nat Med 2 (1996) 1116-1121]、Salmonella Typhimurium [Allaoui-Attarki et al, Infect Immun 65 (1997) 853-857]、およびBrucella [Murillo et al, Vaccine, 19 (2001) 4099-4106]のような様々な病原体に対するその有効性を明らかにしている。
【0010】
免疫療法におけるアジュバントの使用
アレルギー疾患は、アレルゲンと呼ばれる本来害のない高分子に対する有害な免疫応答(過敏反応)によって引き起こされる顕現性病状である。この過敏症は、主として先進国における世界人口の約30%を冒している。これは、アレルギー性鼻炎、外因性喘息、食物アレルギー、および薬物や昆虫に対するアレルギーのような疾患の原因である[Settipane et al, Allergy Proc, 15 (1994) 21-25]。
【0011】
スペインでは、4-17歳の人口のこの種の疾患の有病率は13.3%であり、その内6.4%は気管支喘息であり、スペインにおける喘息による死亡率は人口100.000に対して1.5人である。
【0012】
アレルギー性疾患の原因の機構的理論は、アレルギー性疾患は、Tヘルパー細胞であるTh1およびTh2を活性化した後に生じうる2種類の基本的種類の応答のバランスが変化することによって起こることを示している。細胞外媒質に存在するサイトカインは未成熟なT細胞(Th0)の分化に決定的に影響し、インターロイキン12(IL-12)、インターフェロンγ(IFN-γ)、インターロイキン18(IL-18)、およびインターフェロンα(IFN-α)がTh1への分化を誘発し、これは主として多量のIFN-γ、および余り多くはないがインターロイキン2 (IL-2)およびインターフェロンβ(IFN-β)の産生を特徴とする。この種の応答において次に起こるB細胞の刺激により、IgG2a、IgG2b、およびIgG3を産生する。一方、Th0細胞がインターロイキン4(IL-4)およびプロスタグランジンE2(PGE2)が支配的である環境にあるときには、Th2への分化が誘発され、多量のIL4、インターロイキン5(IL-5)およびインターロイキン13(IL-13)の合成および誘発工程に直接関与しているバイオタイプであるIgG1およびIgEの合成が特徴とされる [Hannah et al, Ann Rev Immunol, 21 (2003) 579-628]。
【0013】
アレルギー疾患におけるアレルギー特異的な応答の型であるTh2が支配的であることの重要性は、多数の研究によって確かめられている[Romagnani, Ann Rev Immunol, 12 (1994) 227; Bousquet et al, Allergy, 53 (1998) 1-42; Majori et al, Clin Exp Allergy, 30 (2000) 341-347]。動物モデルおよびヒトのいずれでも、表現型Th2を有する細胞はアレルギー性ペプチドを直接認識することができる唯一の細胞であり、B細胞によるIgEの産生、マスト細胞の活性化、および好酸球の産生、成熟および活性化に関与していることが明らかにされている[Cohn et al, Pharinacology and Therapeutics, 88 (2000)187-196]。
【0014】
従って、Th1細胞と比較してTh2が機能上支配的であると、アレルギー応答を生じ、一方、Th2と比較してTh1が機能上支配的であると、アレルギー応答が阻害される[Martin et al, Alergol Immunol Clin, 17 (2002) 104-110]。
【0015】
他の研究は、Th1が支配的であることによるTh2応答の阻害により、自己免疫疾患が進展する可能性があるので、調節T細胞(Tr)およびIL-10、およびT細胞増殖因子β(TGF-β)の個体数を増加することによってTh1/Th2の免疫調節を高めることが一層正しいものとなることを記載している。これにより、IgG4およびIgA抗体(炎症応答メディエーターではない)が合成され、B細胞によるIgE産生が抑制される[Akdis et al, Immunology, 103 (2001) 131-136; Akdis et al, J Clin Invest, 102 (1998) 98-106; Blaser et al, Int Arch Allergy Immunol, 117 (1998) 1-10]。最近の研究では、Th2細胞の不活性化におけるIL-10の重要性が再確認されており(Grunig et al, J Exp Med, 185 (1997) 1089-1099; Adachi et al, Int Arch Allergy Immunol, 118 (1999) 391-394]、IL-10のイン・ビボ投与はアレルギー動物に有益な結果を有することも見出されている[Zuany-Amorim et al, J Clin Invest, 95 (1995) 2644-2651; Stampfli et al, Am J Respir Cell Mol Biol, 21 (1999) 586-596; Hall et al, Vaccine, 21 (2003) 549-561]。これにより、IL-10はアレルギー患者に特徴的なTh2細胞過剰反応性に重要な調節の役割を演じていると考えることができる。
【0016】
IL-10は、炎症性疾患(クローン病、慢性関節リウマチ、乾癬など)、ある種のウイルス感染症(C型肝炎、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)によって誘発される感染症など)の中和、または臓器移植の副作用の抑制に重要な生理病理学的関連を有する可能性がある。従って、IL-10の直接適用、あるいはIL-10の産生を刺激するアジュバントの使用により、これらの疾患の治療に極めて大きな影響を与えることができる[Asadullah et al, Pharmacol Rev, 55, (2003) 241-269]。これは、慢性関節リウマチのような自己免疫疾患の可能な治療法として現在研究が行われている[Feldman et al, Annu Rev Immunol (1 996) 397-440; Katsikis et al, J Exp Med (1994) 1517-1527; Chomarat et al, J Immunol (1995) 1432-1439]。従って、サイトカインの抗炎症および調節作用により、これはTh1(自己免疫疾患)およびTh2(アレルギー)の過剰応答のいずれにおいても本質的なものとなっている。
【0017】
アレルギー性疾患の治療は、本質的に(i) アレルゲンとのあらゆる接触の回避、(ii) 抗ヒスタミン薬の使用、および(iii) 免疫療法による3種類の異なる方法で処理することができる。最初の2つの方法は場合によっては応用することができないことを考慮すれば、免疫療法が最も適当な制御方法であろう。
【0018】
アレルゲンに対する特異的免疫療法は、これらアレルゲンに対する自然暴露と関連したアレルギー症状および炎症反応に対する防御を提供する目的でIgE性健康障害のある患者へのアレルゲンの反復投与として定義されている[Jutel, M., J Immunol, 154 (1995) 4178-4194]。
【0019】
この代替治療法は、Th2応答に対してTh1応答の機能的優位を高め、アレルギーの総合的症状を抑制することを目的としている。このTh1への調整は、細菌性の細胞内寄生生物(BrucellaおよびSalmonellaなど)に対する予防接種による制御のような他の方法においても応用可能である。
【0020】
ナノ粒子のような様々な非生物学的ベクターを免疫療法またはワクチンにおいてアジュバントとして用いて抗原および/またはアレルゲンを投与することは報告されているが、現在存在しているものに代わるアジュバントを提供して免疫療法用のワクチンおよび組成物の製造の可能性の蓄積量を増加させることが、なお求められている。好都合なことには、上記アジュバントは、アレルゲンおよび抗原を極めて高用量で用いる必要がなく経口投与によって免疫化または免疫療法に用いるのに有用でなければならない。周知のように、治療または予防目的での経口投与は、潜在的利点はあるが、臨床的に有益な効果を得るのに必要な免疫原またはアレルゲン性の活性成分の用量は免疫原の効能喪失により極めて高いので、幾つかの障害に直面しなければならない。従って、一般にアレルゲンまたは抗原は消化管(pH条件および加水分解酵素の存在)中では安定性が小さいため、用量は常に通常皮下に用いるより遙かに高く(200倍まで)しなければならない[Taudorf et al, J Allergy Clin Immunol (1987) 153-161; Creticos et al, J Allergy Clin Immunol (1990) 165]。さらに、消化管粘膜は、これらの高分子の吸収に対する幾分不透過性のバリヤーとして作用する。
【0021】
意外なことには、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマーを基材としたナノ粒子であって、所望によりアレルゲンまたは抗原、および/または免疫刺激薬を含むものは、患者に投与したときに免疫応答を刺激しまたは高める能力を有し、それらを免疫療法およびワクチンに使用することができることを見出した。上記ナノ粒子は経口投与において安定であり、良好な生体接着特性を有し、従って当該技術分野の状態において語られるような高用量のアレルゲンまたは抗原の使用を必要とすることなしに経口経路などの様々な投与経路により免疫化または免疫療法に用いることができる。さらに、上記ナノ粒子は毒性が低く、生物分解性であり、産生が容易である。
【0022】
メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマーナノ粒子
本出願人による特許出願WO 02/069938号明細書には、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸(PVM/MA)コポリマーナノ粒子、それらを得る方法、およびそれらの薬剤キャリヤーとしての使用が開示されている。上記コポリマーPVM/MAは、構造的には、異なる溶解度特性を有する2種類の区別される官能基である疎水性エステル基と無水性基からなっている。カルボキシル基はイオン化するとポリマーを溶解しやすくなるので、可溶化剤であり、かつエステル基はポリマーへの水の浸透を遅らせるので疎水性である[Heller et al, J Appl Polym Sci, 22 (1978) 1991-2009]。合成PVM/MAコポリマーは、極めて様々な用途を有する。Gantrez(登録商標)ANは、増粘剤および凝集剤、歯科用接着剤、経口錠剤の賦形剤、経皮パッチの賦形剤などとして広く用いられている。一方、薬剤の制御放出[Heller et al, J Appl Polym Sci, 22 (1978) 1991-2009]を目的とするおよびマトリックス形態での眼における薬剤の局所放出[Finne et al, J Pharm Sci, 80 (1991) 670-673; Finne et al, Int J Pharm, 78 (1992) 237-241]を目的とするこれらのコポリマーの使用が開示されている。
【0023】
PVM/MAを基材とするナノ粒子は生体接着特性を有するので[Arbos et al, Int J Pharm, (2002) 129-136]、経口投与するときには、生体の総てのリンパ球の20%を含むパイアー斑と相互作用を行い、水溶液で投与した抗原および/またはアレルゲンと比較して増幅した免疫応答を誘発することがある。
【0024】
PVM/MAを基材とするナノ粒子は、(i) 高分子構造またはマトリックス内部の溶液またはエントラッピング(entrapping)、(ii) 薬剤とコポリマーの無水物基との共有結合、および(iii) 弱い結合の介在による吸着工程によって生物活性物質を保持することができるコロイド系である。PVM/MAコポリマーの環状無水物基による過激な反応性は、分子、薬剤または他の物質をトラップするその能力にも寄与している。特許出願WO 02/069938号明細書には、上記PVM/MAコポリマーナノ粒子の薬剤、特に5-フルオロウリジン、ガンシクロビールおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドISIS 2922のキャリヤーとしての使用が開示されている。
【発明の概要】
【0025】
本発明の目的は、免疫療法およびワクチンであって、経口投与したときに安定であり、粘膜との相互作用に良好な、場合によってはアレルゲンまたは抗原、および/または免疫刺激薬を運び、かつ上記生成物を抑制的に放出することができ、従って経口など様々な投与経路による免疫化または免疫療法に有用な生体接着特性を有する免疫応答刺激組成物を提供することである。
【0026】
意外なことには、所望によりアレルゲンまたは抗原、および/または免疫刺激薬を含むメチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマーを基材とするナノ粒子は、患者に投与したときに免疫応答を刺激しまたは高める能力を有し、免疫療法およびワクチンにおいて使用することができることを見出した。特に、上記ナノ粒子は酸性が容易であり、良好な生体接着特性を有し、毒性が低く、生物分解性である(pH 6-9および25℃-40℃の温度の生理溶液に暴露されると、所望な用途、この場合にはイン・ビボ治療に許容可能な時間で溶解または分解する)ことを見出した。
【0027】
従って、一態様では、本発明は、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマーを基材とするナノ粒子を含んでなる免疫応答刺激組成物に関する。上記ナノ粒子は、さらにアレルゲンまたは抗原、および/または免疫刺激薬を含むことがあり、これらは上記ナノ粒子内部に含まれていることがあり、および/または上記ナノ粒子の表面を少なくとも部分的に被覆していることがある。所望により、上記代謝経路は、架橋剤を含むこともある。上記組成物は、所望により凍結乾燥形態をしていることがある。
【0028】
他の態様によれば、本発明は、上記免疫応答刺激組成物を含んでなるワクチンまたは免疫療法組成物に関する。特定の態様では、上記免疫療法ワクチンまたは組成物は経口投与に適当な処方物であり、もう一つの特定の態様では、上記免疫療法ワクチンまたは組成物は非経口投与に適当な処方物である。
【0029】
他の態様によれば、本発明は、ワクチンまたは免疫療法組成物の製造における上記免疫応答刺激組成物の使用に関する。
【0030】
他の態様によれば、本発明は、免疫応答Th1の選択的刺激のための医薬組成物の製造における、免疫応答Th2の選択的刺激のための医薬組成物の製造における、または免疫応答Th1およびTh2をバランスよく刺激するための医薬組成物の製造における、上記免疫応答刺激組成物の使用に関する。
【0031】
他の態様によれば、本発明は、上記PVM/MAを基材とするナノ粒子とアレルゲンまたは抗原、および/または免疫刺激薬を含んでなる免疫応答刺激組成物の製造方法であって、上記アレルゲンまたは抗原、および/または免疫刺激薬を上記PVM/MAコポリマーを含んでなる有機溶液に添加した後、含水アルコール溶液で脱溶媒和し、あるいは上記アレルゲンまたは上記抗原および/または上記免疫刺激薬を上記PVM/MAナノ粒子と共にインキュベーションすることを含んでなる方法に関する。上記方法は、追加の有機溶媒除去および/または精製工程、並びに架橋剤を用いることによって得られるナノ粒子を安定化する工程を含んでなることもある。上記方法は、所望により追加の凍結乾燥段階を含んでなることがある。
【発明の具体的説明】
【0032】
意外なことには、場合によってはアレルゲンまたは抗原、および/または免疫刺激薬を含むメチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマーを基材としたナノ粒子は、患者に投与したときに免疫応答を刺激しまたは高める能力を有し、免疫療法およびワクチンにおいて使用することができることを見出した。
【0033】
本明細書で用いられる「患者」という用語は、免疫系を有する任意の動物、好ましくは哺乳類、さらに好ましくは、ヒトを包含する。
【0034】
一態様によれば、本発明は、メチルビニルエーテル・無水マレイン酸のコポリマーナノ粒子を含んでなる免疫応答刺激組成物(以後、本発明の組成物)に関する。上記ナノ粒子は、さらにアレルゲンまたは抗原、および/または免疫刺激薬を含むことがあり、これらは上記ナノ粒子内部に含まれていることがあり、および/または上記ナノ粒子の表面を少なくとも部分的に被覆していることがある。所望により、上記代謝経路は、架橋剤を含むこともある。
【0035】
本明細書の説明で用いられているように、「ナノ粒子」という用語は、サイズが1.0μm未満であり、好ましくは10-900ナノメートル(nm)の次数の固形粒子型コロイド系を表すのに用いられ、マトリックスマトリックス球体および小胞性ナノカプセルを包含する。特定の態様では、上記ナノ粒子の平均サイズは400nm以下である。
【0036】
本発明の組成物に存在するナノ粒子は、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマーであって、ポリ(メチルビニルエーテル-コ-無水マレイン酸)、またはPVM/MAとも呼ばれるものを含んでなる。上記PVM/MAコポリマーは、通常の方法、例えば、アセチレンと無水マレイン酸の重合によって得ることができる既知生成物であり、または市販されている。この意味において、International Specialty Products (ISP)社は、Gantrez(登録商標)ANで市販されている様々な分子量を有するPVM/MAコポリマーを製造している。一般に、本発明を実施するには、上記PVM/MAコポリマーの分子量が、極めて広範囲内で変動することがあり、好ましくは100-2,400kDa、さらに好ましくは200-2,000kDaである。本発明の一変化態様では、分子量が180-250kDaのPVM/MAコポリマーが好ましい。
【0037】
上記PVM/MAコポリマーの使用は、その毒性が低く(DL50=8-9g/kg経口)かつ生体適合性に優れているため医薬技術に広く用いられていることを考慮すれば、極めて有利である。さらに、それは入手が容易であり且つその官能基により他の親水性物質と反応させることができ、重大な毒性を有する通常の有機試薬(グルタルアルデヒドおよびカルボジイミド誘導体)に頼る必要がない[Arbos et al, J Controlled Rel., 83 (2002) 321-330]。PVM/MAコポリマーは水性媒質に不溶性であるが、その中にある無水物基が加水分解して、カルボキシル基を生じる。溶解は遅く、溶液を生じる条件によって変化する。PVM/MAにおける官能基を利用できるため、水性媒質中でインキュベーションするだけで、ヒドロキシルまたはアミンのような親核性基を有する分子の共有結合を生じる。上記PVM/MAナノ粒子は生体接着特性も有するので[Arbos et al, Int J Pharm, (2002) 129-136]、経口投与するときには、それらは生体のリンパ球の20%を含むパイアー斑と相互作用し、水性溶液で投与された抗原および/またはアレルゲンと比較して増幅した免疫応答を引き起こすことができる。
【0038】
特定の態様によれば、本発明の組成物は、抗原またはアレルゲン、および免疫刺激薬を欠いているPVM/MAを基材とするナノ粒子を含んでなる。上記ナノ粒子は、本明細書の説明では「中空」ナノ粒子と呼ばれており、特許出願WO 02/069938号明細書に開示されているような方法によって容易に得ることができ、上記特許出願明細書の内容は、その開示の一部として本明細書に引用されている。実例として、上記ナノ粒子は、PVM/MAコポリマーのアセトン溶液を含水アルコール相で脱溶媒和することによって容易に調製される。形成されたナノ粒子は、安定な水性懸濁液のままにすることができ、またはそれらを凍結乾燥することができる。所望により、架橋剤を加えることができる。PVM/MAコポリマーの無水物基と反応することができる1個以上の官能基を含む実質的に任意の架橋剤を用いることができ、好都合には、ポリアミンまたは炭水化物、例えば、アミノ酸、タンパク質、-オース、-オシドなど、例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン、水溶性タンパク質、ポリ-L-リシン、ポリ-L-アルギニンなど、好ましくは1,3-ジアミノプロパンを用いることができる。
【0039】
上記ナノ粒子は、それぞれ抗原またはアレルゲンを含むワクチンまたは免疫療法用の組成物(免疫療法組成物)と共に投与する際の予防接種または免疫療法におけるアジュバントとして作用し、ワクチンまたは免疫療法組成物および中空ナノ粒子の投与後に免疫応答刺激効果を生じることがある。図12は、中空ナノ粒子がかなりの量のIFN-γの分泌を誘発する方法を示している。ワクチンまたは免疫療法組成物、およびナノ粒子の複合投与は、同時にまたは逐次的に様々な時間に任意の次数で行うことができ、すなわち最初にワクチンまたは免疫療法組成物を投与した後にナノ粒子を投与することができ、またはその逆の順序で投与することもできる。あるいは、上記ワクチンまたは免疫療法組成物と上記ナノ粒子を同時に投与することもできる。ワクチンまたは免疫療法組成物とナノ粒子を、同一組成物または異なる組成物で投与することもできる。投与される中空ナノ粒子の用量は、広汎な範囲内で変化させることができ、例えば、約0.01-約10mg/kg体重、好ましくは、0.1-2mg/kg体重とすることができる。
【0040】
他の特定の態様によれば、本発明の組成物は、アレルゲンまたは抗原および/または免疫刺激薬を装填したPVM/MAを基材とするナノ粒子を含んでなる。
【0041】
本発明の一変化態様では、本発明の組成物は、アレルゲンまたは抗原を装填したPVM/MAを基材とするナノ粒子を含んでなり、上記PVM/MAを基材とするナノ粒子はアレルゲンまたは抗原を含んでなる。
【0042】
本明細書の説明で用いられるように、「アレルゲン」という用語は、患者が感受性であり且つ免疫反応を引き起こす物質、例えば、アレルゲン性花粉抽出物、アレルゲン性昆虫抽出物、アレルゲン性食物または食品抽出物、患者に感受性反応を誘発させる唾液、昆虫の鋏、針に含まれる成分、患者に甘受製版を誘発させる植物に含まれる成分などを表す。従って、草の花粉(Lolium perenne、Poa pratense、Phleum pratense、Cynodon dactylon、Festuca pratensis、Dacty1is glomerata、Secale cereale、Hordeum vulgare、Avena sativa、Triticum sativa)、他の草の抽出物(例えば、Artemisia vulgaris、Chenopodium album、Plantago lanceolata、Taraxacum vulgare、Parietaria judaica、Salsola kali、Urtica dioica)、または樹木の花粉(例えば、Olea europea、Platanus sp.、Cupressus sp.)などの花粉タンパク質抽出物を用いることができる。コナダニ抽出物(例えば、Dermatophagoides pteronyssinus、Dermatophagoides farinae、Acarus siro、Blomia tropicalis、Eurog1yphus maynei、G1yciphagus domesticus、Lepidoglyphus destructor、Tyrophagus putrescentiae)などの昆虫タンパク質抽出物を用いることもできる。他のアレルゲン抽出物は、真菌および動物上皮(Alternaria alternata、Cladosporium herbarum、イヌの上皮、ネコの上皮、ウマの上皮、羽毛混合物、Penicillium notatumなど)、並びに食物成分から得ることができる。実質的に任意のアレルゲンを本発明の組成物のアレルゲン装填ナノ粒子の調製に用いることができるが、特定の態様では、上記アレルゲンは、実験的アレルゲンモデルとして広く用いられているタンパク質である卵白アルブミン(OVA)である。
【0043】
本明細書の説明で用いられるように、「抗原」という用語は、高等生物、または微生物、例えば、細菌、ウイルス、寄生生物、原生動物、真菌など1個以上の抗原決定基、例えば、上記生物の構造成分、毒素、例えば、外毒素などを含むものから得られる天然または組換え免疫原生成物を表す。事実上任意の抗原を本発明の組成物の抗原装填ナノ粒子の調製に用いることができるが、特定の態様では、上記抗原Salmonella enteritidisのHE抽出物である。
【0044】
知られているように、Salinonella enteritidisは、食中毒に極めて頻繁に検出されるヒト胃腸炎の起因病原体である(食中毒症例の60%において、この病原体を単離することができた)。鳥肉および鳥肉副生成物はSalmonellaの主要な保有宿主およびヒトのSalmonella enteritidis感染症の最も重要な供給源として認められている。この感染症は、汚染された食物または水を摂取することによって伝染する人獣共通伝染病であり、現在世界的に流行している。サルモネラ症を制御する目的で、ヒトの人口に対する利益は明らかであるので、世界保険機関(WHO)と欧州連合とは家禽のSalmonella enteritidisによる感染症の監視および根絶についての指針を制定している。抗生物質、競合的排除、鳥類およびワクチンの遺伝学的選択、並びに家禽飼育場の衛生状態の改善が、家禽のSalmonella制御に用いられている。これらの対策から、最も実用的な方法は、適用するのに最も簡単且つ費用が最も少なくて済む方法であることから予防接種であることが広く受け容れられている。弱毒化した生ワクチンおよび死(菌)ワクチンが現在用いられているが、いずれも家禽飼育場(ニワトリおよび他の種の家禽)ではむしろ効果的でない[Zhang-Barber et al, Vaccine, 17 (1999) 2538-2545]。それらの有効性がほとんどないのに加えて、生ワクチンの大きな不利益は免疫抑制動物に先在するそれらの毒性、並びにそれらが侵襲性状態に反転可能性があることである。さらに、それらは非経口投与しなければならず、またそれらは伝統的な血清学的診断試験を妨害する。不活性化した細菌(細菌ワクチン)は残留毒性の危険性がないが、それらは細胞性免疫応答を誘発しない。強いアジュバントの投与が必要であり、また複数の追加抗原投与量が必要とされる。代替法は、Salmonella enteritidisによって引き起こされる感染症に対して適当な免疫応答を刺激することができる亜細胞性ワクチンの使用である。これらのワクチンについて、実験レベルでは細菌ワクチンと同様に高度の防護が記載されているが、許容可能な程度の防護を選るには複数の追加抗原投与量を必要とする[Powell, Pharm Res, 13 (1996)
1777-1785]。一方、それらを経口投与すると、それらは消化管中で変性や分解を起こすので[Langer et al, Adv Drug Deliv Rev, 28 (1997) 97-119]、この種のワクチンは非経口投与しなければならず、その後に起こるロジスティックおよび経済的障害があることをこれは暗示している。Salmonella enteritidis抗原は、これらの欠点を解決するために上記PVM/MAナノ粒子にカプセル化することができる。
【0045】
本発明の組成物のこの変化態様に含まれるアレルゲンまたは抗原は、上記ナノ粒子の表面を少なくとも部分的に被覆し、および/または上記ナノ粒子内部に含まれていることがある。特定の態様によれば、上記アレルゲンまたは抗原は、上記ナノ粒子の表面を総てまたは一部被覆している。この態様は、患者におけるTh2応答を選択的に刺激するのに有用である。他の特定の態様によれば、上記アレルゲンまたは抗原は上記PVM/MAナノ粒子の内部にカプセル化される。この態様は、バランスよくTh1およびTh2応答を刺激し、またはTh1応答を優位とするのに有用である。
【0046】
アレルゲンまたは抗原を装填したPVM/MAナノ粒子は、特許出願WO 02/069938号明細書に開示されているのと同様な方法によって容易に得ることができる。実例として、アレルゲンまたは抗原を装填した上記ナノ粒子は、PVM/MAコポリマーの極性有機溶媒のような有機溶媒、例えばアセトンの溶液を、液相、例えばエタノールと水によって形成される液相のような含水アルコール相で脱溶媒和することによって容易に調製することができる。形成したナノ粒子は、水性懸濁液のままにすることができ、またはそれらを凍結乾燥することができる。アレルゲンまたは抗原を加える時期によって、アレルゲンまたは抗原の様々な配置を有する様々な処方物が得られる(実施例1および6においてNP I、NP II、NP III、NP IV、およびNP HE 3934として同定された処方物を参照されたい)。実例として、アレルゲンまたは抗原でナノ粒子表面の全部または一部を被覆することが所望な場合には、有機溶媒を蒸発させた後に上記アレルゲンまたは上記抗原をインキュベーションする。同様に、アレルゲンまたは抗原を上記ナノ粒子の内部にカプセル化することが所望な場合には、上記アレルゲンまたは上記抗原をインキュベーションし、そのアレルゲンまたは抗原を溶媒、好ましくはPVM/MAコポリマー溶液が見出されるまたは好ましくは極性有機溶媒のような上記溶媒と相溶性である溶媒のような上記溶媒、またはポリマー溶液の溶媒、例えばアセトンと相溶性の溶媒に分散した後、PVM/MAコポリマー溶液を脱溶媒和するのに用いた上記液相を加える。所望により、架橋剤を場合によっては中空ナノ粒子に関して上記した通りに加えることができる。
【0047】
さらに具体的には、もう一つの態様では、本発明は、アレルゲンまたは抗原を装填したPVM/MAコポリマーナノ粒子を含んでなる本発明の組成物の製造方法であって、上記PVM/MAコポリマーナノ粒子がアレルゲンまたは抗原を含んでなり、
a) 有機溶媒に溶解したPVM/MAコポリマーの有機溶液を含水アルコール溶液で脱溶媒和し、
b) 有機溶媒を除去してナノ粒子を得、
c)上記アレルゲンまたは上記抗原を上記PVM/MAコポリマー有機溶液に加えた後、上記PVM/MAコポリマー有機溶液を脱溶媒和し、あるいは上記アレルゲンまたは上記抗原を工程b)で得た上記ナノ粒子と共にインキュベーションすること
を含んでなる、上記方法に関する。
【0048】
PVM/MAコポリマーを溶解する有機溶媒は、上記コポリマーが可溶性である任意の溶媒、典型的にはケトンのような極性溶媒、例えばアセトンであることができる。上記脱溶媒和を行うのに用いる液相は、アルコールと水、例えば、エタノールと水、例えば、アルコールと製薬級水(精製水または注射用水、特許出願明細書に準じる)を含んでなる任意の含水アルコール溶液であることができる。好都合なことには、コポリマー溶液:含水アルコール溶液比は1:1〜1:10であり、好ましくは1:4である。次に、有機溶媒を任意の通常の方法によって、例えば減圧留去によって除去し、ナノ粒子は、安定な水性乳状懸濁液の出現下で媒質中に直ちに形成される。
【0049】
アレルゲンまたは抗原をPVM/MAコポリマー有機溶液に加えた後、上記PVM/MAコポリマー有機溶液を脱溶媒和することによって、アレルゲンまたは抗原が上記ナノ粒子の内部に含まれているナノ粒子を得ることができる。好都合なことには、上記アレルゲンまたは抗原は、PVM/MAコポリマー有機溶液と同じまたは極性有機溶媒、例えば、アセトンのような上記溶媒と相溶性の有機溶媒に加え、溶解しまたは分散させる。あるいは、上記アレルゲンまたは上記抗原を工程b)で得たナノ粒子と共にインキュベーションすることによって、アレルゲンまたは抗原が上記ナノ粒子外部表面の総てまたは一部を被覆しているナノ粒子を得ることができる。特定の態様では、アレルゲンまたは抗原とナノ粒子とのインキュベーションは、水性媒質中で行う。
【0050】
所望により、中空ナノ粒子に関して上記した通りに、架橋剤を場合によっては加えてナノ粒子の安定性を改良することができる。
【0051】
アレルゲンまたは抗原を装填した得られたナノ粒子は、通常の手段によって、例えば、遠心分離、超遠心分離、接線濾過、または真空の使用を包含する蒸発によって精製することができる。
【0052】
最後に、所望により、アレルゲンまたは抗原を装填したナノ粒子を、長期保管および貯蔵の目的で凍結乾燥することができる。標準的凍結防止剤を、好ましくは総組成物重量に対して0.1-10重量%の濃度で用いて、凍結乾燥を促進することができる。
【0053】
アレルゲンまたは抗原を装填したナノ粒子は予防接種または免疫療法におけるアジュバントとして作用し、実施例3-6に示されるように、それらを患者に投与した後に免疫応答刺激効果を生じることができる。
【0054】
投与を行うアレルゲンまたは抗原を装填したナノ粒子の用量は、広範囲内で変動することができ、例えば、約0.01〜約10mg/kg体重であり、好ましくは0.1〜2mg/kg体重であることができる。
【0055】
本発明のもう一つの変化態様では、本発明の組成物は免疫刺激薬を装填したPVM/MAを基材とするナノ粒子であって、免疫刺激薬を含んでなる上記PVM/MAを基材とするナノ粒子を含んでなる。
【0056】
本明細書の説明で用いられるように、「免疫刺激薬」または「免疫調節薬」という用語は、特異的または非特異的に免疫応答を高めることができる生成物、例えば、アレルゲンまたは抗原に対して免疫系の応答を刺激する天然アジュバントとして作用するタンパク質またはペプチド、細菌性リポ多糖類、グラム陽性菌の細胞壁の成分(例えば、ムラミルジペプチド(MDP))、DNA CpG配列、植物抽出物、主としてサポニン植物抽出物などを表す。実質的に任意の免疫刺激薬を本発明の組成物の免疫刺激薬を装填したナノ粒子に用いることができるが、特定の態様では、上記免疫刺激薬はBrucella ovisの生のリポ多糖類である。
【0057】
上記免疫刺激薬は、少なくとも部分的に上記ナノ粒子の表面を被覆しおよび/または上記ナノ粒子の内部に含まれていることがある。特定の態様では、上記免疫刺激薬は上記PVM/MAナノ粒子の表面の総てまたは一部を被覆しているが、もう一つの特定の態様では、上記免疫刺激薬は上記PVM/MAナノ粒子の内部にカプセル化されている。
【0058】
免疫刺激薬を装填したPVM/MAナノ粒子は、アレルゲンまたは抗原を装填したPVM/MAナノ粒子の調製に関して上記したのと同様の方法によって、上記アレルゲンまたは抗原を免疫刺激薬に置き換えることによって容易に得ることができる。従って、免疫刺激薬を加える時期によって、様々な配置を有する様々な処方物が得られる(実施例1または4を参照されたい)。実例として、免疫刺激薬でナノ粒子の表面を総てまたは一部を被覆することが所望なときには、上記免疫刺激薬をインキュベーションする前に有機溶媒を蒸発させる。同様に、免疫刺激薬を上記ナノ粒子の内部にカプセル化することが所望なときには、溶媒、好都合にはPVM/MAコポリマー溶液が見出されるまたは上記溶媒、好ましくは極性有機溶媒と相溶性である溶媒、またはポリマー溶液の溶媒と相溶性の溶媒、例えば、アセトンに分散または溶解させた上記免疫刺激薬をインキュベーションした後、使用した上記液相を加えて、PVM/MAコポリマー溶液を脱溶媒和する。所望により、中空ナノ粒子に関して上記した通りに、架橋剤を場合によっては加えることができる。
【0059】
所望により、中空ナノ粒子に関して上記した通りに、架橋剤を場合によっては加えて、ナノ粒子の安定性を改良することができる。
【0060】
免疫刺激薬を装填したナノ粒子は、アレルゲンまたは抗原を装填したナノ粒子に関して上記した通りに、通常の手段によって精製することができる。所望により、免疫刺激薬を装填したナノ粒子を好ましくは標準的凍結防止剤を総組成物重量に対して0.1-10重量%の濃度で用いて凍結乾燥することもできる。
【0061】
免疫刺激薬を装填したナノ粒子は、予防接種または免疫療法のアジュバントとして作用し、それらを患者に投与した後に免疫応答刺激効果を生じることができる。
【0062】
投与を行う免疫刺激薬を装填したナノ粒子の用量は、広範囲内で変動することができ、例えば、約0.01〜約10mg/kg体重であり、好ましくは0.1〜2mg/kg体重であることができる。
【0063】
本発明のもう一つの変化態様では、本発明の組成物は、アレルゲンまたは抗原および免疫刺激薬を装填したPVM/MAナノ粒子を含んでなり、上記PVM/MAナノ粒子はアレルゲンまたは抗原および免疫刺激薬を含んでなる。
【0064】
本発明の組成物のこの変化態様に含まれるアレルゲンまたは抗原、並びに刺激薬は、少なくとも部分的には上記ナノ粒子の表面を被覆しおよび/または上記ナノ粒子の内部に含まれることがある。
【0065】
特定の態様では、上記アレルゲンまたは抗原は、上記ナノ粒子の表面の総てまたは一部を被覆し、一方、免疫刺激薬は上記ナノ粒子の内部に含まれており、この特定の態様により、患者におけるTh2応答を選択的に刺激することができることを見出した。
【0066】
他の特定の態様によれば、上記アレルゲンまたは抗原は上記PVM/MAナノ粒子の内部にカプセル化されており、一方、上記刺激薬は上記ナノ粒子の表面を少なくとも部分的に被覆する。この態様は、バランスよくTh1およびTh2応答を刺激し、またはTh1応答を優位とするのに特に興味深いものである。
【0067】
他の特定の態様によれば、アレルゲンまたは抗原および免疫刺激薬は、いずれも上記PVM/MAナノ粒子の内部にカプセル化されている。
【0068】
アレルゲンまたは抗原と免疫刺激薬を含むPVM/MAナノ粒子は、上記と同様の方法によって容易に得ることができる。アレルゲンまたは抗原および免疫刺激薬を加える時期によっては、上記生成物の様々な配置を有する様々な処方物が得られる。実例として、免疫刺激薬でナノ粒子の表面を総てまたは一部を被覆することが所望なときには、上記免疫刺激薬をインキュベーションする前に有機溶媒を蒸発させる。同様に、免疫刺激薬を上記ナノ粒子の内部にカプセル化することが所望なときには、溶媒、好都合にはPVM/MAコポリマー溶液が見出されるまたは上記溶媒、好ましくは極性有機溶媒と相溶性である溶媒、またはポリマー溶液の溶媒と相溶性の溶媒、例えば、アセトンに分散または溶解させた上記免疫刺激薬をインキュベーションした後、使用した上記液相を加えて、PVM/MAコポリマー溶液を脱溶媒和する。同様に、アレルゲンまたは抗原でナノ粒子表面の総てまたは一部を被覆することが所望なときには、上記アレルゲンまたは上記抗原をインキュベーションする前に有機溶媒を蒸発させる。同様に、アレルゲンまたは抗原を上記ナノ粒子内部にカプセル化することが所望なときには、溶媒、好都合にはPVM/MAコポリマー溶液が見出されるまたは上記溶媒、好ましくは極性有機溶媒と相溶性である溶媒、またはポリマー溶液の溶媒と相溶性の溶媒、例えば、アセトンに分散または溶解させた上記アレルゲンまたは抗原をインキュベーションした後、使用した上記液相を加えて、PVM/MAコポリマー溶液を脱溶媒和する。同様に、アレルゲンまたは抗原および免疫刺激薬を上記ナノ粒子の内部にカプセル化することが所望なときには、上記アレルゲンまたは上記抗原をインキュベーションし、所望により溶媒、好都合にはPVM/MAコポリマー溶液が見出されるまたは上記溶媒、好ましくは極性有機溶媒と相溶性である溶媒、またはポリマー溶液の溶媒と相溶性の溶媒、例えば、アセトンに分散または溶解させた上記免疫刺激薬をインキュベーションした後、使用した上記液相を加えて、PVM/MAコポリマー溶液を脱溶媒和する。いずれの場合にも、所望により、中空ナノ粒子に関して上記した通りに、架橋剤を場合によって得られたナノ粒子に加えてその安定性を改良することができる。
【0069】
さらに具体的には、他の態様によれば、本発明は、アレルゲンまたは抗原と免疫刺激薬とを装填したPVM/MAコポリマーナノ粒子を含んでなる本発明の組成物の製造方法であって、
a) 有機溶媒に溶解したPVM/MAコポリマーの有機溶液を含水アルコール溶液(hydroalcoholic solution)で脱溶媒和し、
b) 有機溶媒を除去してナノ粒子を得、かつ
c)上記アレルゲンまたは上記抗原、および/または上記免疫刺激薬を上記PVM/MAコポリマー有機溶液に加えた後、PVM/MAコポリマー有機溶液を脱溶媒和し、あるいは上記アレルゲンまたは上記抗原、または免疫刺激薬を工程b)で得られた上記ナノ粒子と共にインキュベーションすること
を含んでなる、方法に関する。
【0070】
工程a)およびb)は、アレルゲンまたは抗原を装填したPVM/MAコポリマーナノ粒子を含んでなる本発明の組成物の製造方法に関する上記記載と同様の方法で行う。工程c)は、上記工程に関する上記記載と同様の方法で、免疫刺激薬を上記PVM/MAコポリマーの有機溶液に加える対応する変更を行った後、上記PVM/MAコポリマー有機溶液を所望によりアレルゲンまたは抗原と共に脱溶媒和し、あるいは上記免疫刺激薬を場合によっては上記の方法に準じて上記アレルゲンまたは抗原で部分的に被覆した工程b)で得られた上記ナノ粒子と共にインキュベーションして行う。
【0071】
所望により、架橋剤を場合によっては加えて、得られたナノ粒子の安定性を向上させることができる。アレルゲンまたは抗原および免疫刺激薬を装填した得られたナノ粒子は、通常の手段によって、例えば、遠心分離、超遠心分離、接線濾過、または真空の使用を包含する蒸発によって精製することができる。
【0072】
最後に、所望により、アレルゲンまたは抗原を装填したナノ粒子を凍結乾燥して、長期保管および貯蔵することができる。標準的凍結防止剤を、好ましくは総組成物重量に対して0.1〜10重量%の濃度で用いて、凍結乾燥を促進することができる。
【0073】
アレルゲンまたは抗原および免疫刺激薬を装填したナノ粒子は、予防接種または免疫療法においてアジュバントとして作用し、実施例3-6に示されるように、患者に投与した後に免疫応答刺激効果を生じることができる。
【0074】
投与を行うアレルゲンまたは抗原および免疫刺激薬を装填したナノ粒子の用量は、広範囲内で変動することができ、例えば、約0.01〜約10mg/kg体重であり、好ましくは0.1〜2mg/kg体重であることができる。
【0075】
所望により、本発明の組成物を、凍結乾燥形態または経口または非経口投与に適する投与形態にすることができる。凍結乾燥は、通常の方法によって、場合によっては通常の凍結防止剤、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロース、グリセロール、ラクトース、ソルビトール、ポリビニルピロリドンなどの存在下において好ましくは総組成物重量に対して0.1-10重量%の濃度で行う。経口または非経口投与に適する様々な投与形態を製造するために、所望な投与医薬形態に適する許容可能な賦形剤およびキャリヤーを用いる。これらのキャリヤーおよび賦形剤に関する情報並びに本発明の組成物の経口または非経口投与に適する上記投与形態に関する情報は、植物抽出物製剤調製法の専門書(Galenic pharmacy treatises)に見出すことができる。
【0076】
上記のように、本発明の組成物は、患者に投与した後に免疫応答を刺激しまたは高める効果を生じるので、ワクチンまたは免疫療法においてアジュバントとして用いることができる。実際に、本発明の組成物は、2つの免疫応答経路(Th1またはTh2)の一方または両方の経路を同時且つバランスのとれたやり方で選択的に刺激する能力を有するので、刺激を行う応答に準じてワクチンまたは免疫療法処方物に用いることができる。実例として、抗原が生じる生物の病原性(細胞内または細胞外、依存性毒素、依存性鞭毛など)の機構によっては、Th1応答( 細胞内、Brucella、Salmonellaなどの場合)またはTh2応答(細胞外、Staphylococcus、Escherichia coli、腸毒素産生菌などの場合)の刺激が一般にワクチン処方物に必要とされる。同様に、例えば、2種類の応答の存在により、免疫療法処方物にはトレランスの誘発、すなわちバランスのとれたやり方でのTh1およびTh2応答の誘発が必要とされる。一般に、選択的なTh2応答を刺激するため、これらの処方物はアレルゲンまたは抗原で完全にまたは部分的に被覆したPVM/MAナノ粒子を含み、一方、Th1およびTh2応答をバランスのとれたやり方で刺激するためあるいはTh1応答が支配的であるようにするため、処方物は抗原またはアレルゲンがカプセル化されるPVM/MAナノ粒子を含み、上記ナノ粒子は好都合には架橋剤を包含する。上記の場合のいずれにおいても、ナノ粒子は所望により免疫刺激薬を包含することができる。
【0077】
従って、他の態様によれば、本発明は、治療上有効量の免疫応答刺激組成物(本発明の組成物)を薬学上許容可能なキャリヤーまたは賦形剤と共に含んでなるワクチンまたは免疫療法組成物に関する。上記ワクチンまたは免疫療法組成物は、任意の経路、例えば、経口、非経口、経直腸などによって投与を行う任意の医薬投与形態とすることができる。特定の態様では、上記ワクチンまたは免疫療法組成物は経口投与医薬形態であり、一方、他の特定の態様によれば、上記ワクチンまたは免疫療法組成物は非経口投与医薬形態、例えば、筋肉内(i.m.)、皮下(s.c.)、静脈内(i.v.)、腹腔内(i.p.)、皮内(i.d.)などである。一般的な医薬の様々な投与形態およびそれらの製造方法の総説は、「植物抽出物製剤調製法の専門書(Tratado de Farmacia Galenica)」C. Faulii Trillo著、第1版、1993、Luzan 5, S.A. de Edicionesに見出すことができる。
【0078】
上記免疫療法ワクチンに含まれる本発明の組成物、または本発明によって提供される組成物は、PVM/MAナノ粒子を含んでなる。上記ナノ粒子は、さらにアレルゲンまたは抗原および/または免疫刺激薬を含むことがあり、これらは上記ナノ粒子の内部に含まれおよび/または上記ナノ粒子の表面を少なくとも部分的に被覆していることがある。同様に、上記ナノ粒子は、所望により架橋剤を含むことがある。
【0079】
特定の態様によれば、本発明によって提供される上記ワクチンまたは免疫療法組成物に含まれる本発明の組成物は、所望により架橋剤を組込んでいる中空PVM/MAナノ粒子を含んでなる。この場合には、本発明の組成物は、それぞれ抗原またはアレルゲンを含むワクチンまたは免疫療法組成物と共に投与され、上記ワクチンまたは免疫療法組成物および中空ナノ粒子の投与後に免疫応答刺激効果を生じる。上記ワクチンまたは免疫療法組成物および中空ナノ粒子の複合投与は、同時にまたは逐次的に様々な時間に任意の次数で行うことができ、すなわち最初にワクチンまたは免疫療法組成物を投与した後に中空ナノ粒子を投与することができ、またはその逆の順序で投与することもできる。あるいは、上記ワクチンまたは免疫療法組成物と上記中空ナノ粒子を同時に投与することもできる。この場合には、ワクチンまたは免疫療法組成物と中空ナノ粒子を、同一組成物または異なる組成物で投与することもできる。
【0080】
他の特定の態様によれば、上記免疫療法ワクチンに含まれる本発明の組成物、または本発明によって提供される組成物は、PVM/MAナノ粒子を含んでなり、上記PVM/MAナノ粒子は、さらにアレルゲンまたは抗原、および所望により架橋剤を含んでなる。
【0081】
他の特定の態様によれば、上記免疫療法ワクチンに含まれる本発明の組成物、または本発明によって提供される組成物は、PVM/MAナノ粒子を含んでなり、上記PVM/MAナノ粒子は、さらに免疫応答刺激薬、および所望により架橋剤を含んでなる。
【0082】
他の特定の態様によれば、上記免疫療法ワクチンに含まれる本発明の組成物、または本発明によって提供される組成物は、PVM/MAナノ粒子を含んでなり、上記PVM/MAナノ粒子は、所望により、さらにアレルゲンまたは抗原、および免疫刺激薬、および架橋剤を含んでなる。
【0083】
本発明によって提供される免疫療法ワクチンまたは組成物は、本発明の組成物を治療上有効量、すなわち免疫応答を高めまたは刺激するのに適する量で含んでなる。従って、本発明によって提供されるワクチンまたは免疫療法組成物に含まれる本発明の組成物の量は、特に、ナノ粒子の種類(中空またはアレルゲンまたは抗原および/または免疫刺激薬を装填した)などの要因によって広範囲に変動することがある。しかしながら、特定の態様によれば、本発明は、
成分 総重量に対する重量%
PVM/MAナノ粒子 84〜99.998%
架橋剤 0.001〜1%
アレルゲンまたは抗原 0.001〜15%
を含んでなるワクチンまたは免疫療法組成物を提供する。
【0084】
上記免疫療法ワクチンまたは組成物は、所望により凍結防止剤を凍結乾燥工程の際にナノ粒子を保護するのに十分な量で含むことがある。
【0085】
特定の態様によれば、上記アレルゲンは、アレルゲン性花粉抽出物、アレルゲン性昆虫抽出物、またはアレルゲン性食品抽出物を含んでなる。
【0086】
他の特定の態様によれば、上記抗原は、生体由来の免疫原性抽出物、例えば、Salmonella sppの膜抽出物を含んでなる。
【0087】
上記のように、本発明による組成物は、これを患者に投与した後に免疫応答刺激または増強効果を生じる能力を有しているので、ワクチンまたは免疫療法でのアジュバントとして用いることができ、さらに具体的には、2種類の免疫応答経路(Th1またはTh2)の一方をまたは両経路をも同時にかつバランスのとれたやり方で選択的に刺激する能力を有する。
【0088】
従って、他の態様によれば、本発明は、ワクチンまたは免疫療法組成物の製造における本発明の組成物の使用に関する。
【0089】
他の態様によれば、本発明は、Th1免疫応答の選択的または支配的刺激または増強を目的とする医薬組成物の製造における本発明の組成物の使用に関する。
【0090】
他の態様によれば、本発明は、Th2免疫応答の選択的または支配的刺激または増強を目的とする医薬組成物の製造における本発明の組成物の使用に関する。
【0091】
他の態様によれば、本発明は、Th1およびTh2免疫応答のバランスのとれた刺激増強を目的とする医薬組成物の製造における本発明の組成物の使用に関する。
【0092】
予防接種および免疫療法を目的とする本発明による組成物の使用は、
生体の通常条件で生物分解性であり且つ製薬および医学的実施において許容されるポリマーおよび材料から製造される医薬形態を使用しており、
ナノ粒子を基材とする免疫療法および予防接種製剤を投与し、カプセル化したアレルゲンまたは抗原を早すぎる不活性化から保護し、
ナノ粒子を基材とする免疫療法および予防接種製剤を製造することにより、経時的徐放性を示し、制御放出が起こる期間は投与部位に属する微小環境条件によって変化し、
特性(無害、生物分解性、無毒性)を考慮すれば、ナノ粒子を基材とするナノ粒子状アジュバントの投与により、免疫療法および予防接種の目的で様々な投与経路によりヒトおよび動物での使用が可能になり、
消化管における生体接着の可能性を考慮すれば、ナノ粒子を基材とするナノ粒子状アジュバントの投与により、経口投与を可能な投与経路とすること
を含んでなるので、幾つかの利点を有する。
【0093】
下記の実施例により本発明を説明するが、これらに限定されない。
【実施例】
【0094】
下記の実施例は、場合によってはアレルゲンまたは抗原および/または免疫刺激薬を含む様々な種類のPVM/MAを基材とするナノ粒子の製造を記載しており、それらは、免疫療法または予防接種においてアジュバントとして作用する上記ナノ粒子の能力を明らかにしている。
【0095】
一般的ナノ粒子製造方法
一般的PVM/MAナノ粒子の製造方法は、上記コポリマーをアセトンに溶解した後、エタノールを加えることを含んでなる。同様な容積の水を生成する溶液に加えて、ナノ粒子は乳状懸濁液の出現下にて途中で直ちに形成される。次いで、有機溶媒(エタノールおよびアセトン)を減圧留去すると、粒子は安定な水性懸濁液中に残る[Arbos et al, J Control Rel, 83 (2002) 321-330]。アレルゲンまたは抗原、および適用可能ならば、免疫刺激薬を加える時期によって、様々なそれらの配置を有する様々な処方物が得られる(実施例1、5および6参照)。一例としては、下記のものが挙げられる。
【0096】
A. ナノ粒子内部にカプセル化されているアレルゲンまたは抗原を含む処方物(処方物NP IおよびNP VI)を得るため、カプセル化を行うアレルゲンまたは抗原とインキュベーションを行う前に、有機溶媒を蒸発させる。
【0097】
B. ナノ粒子の外部表面を全部または部分的に被覆しているアレルゲンまたは抗原を含む処方物(処方物NP II、NP III、NP IV、NP V、NP VII、OVASAL、およびNP HE)を得るため、エタノールおよび水を加える前にアレルゲンまたは抗原をアセトン中でインキュベーションして分散させる。
【0098】
次の工程は、架橋剤(この場合には、1,3-ジアミノプロパン)を処方物NP III、NP V、NP VII、OVASAL、NP HE(それらの総てにおいて5μg/mgポリマー)およびNP IV(10μg/mgポリマー)に加えることからなっている。
【0099】
処方物NP-V、NP-VIおよびNP-VIIは、Brucella ovisの生のリポ多糖類(R-LPS)からなる免疫刺激薬を含む。簡単に説明すれば、これを組込むためには、処方物NP Vの場合には、上記免疫刺激薬とのインキュベーションを有機溶媒を蒸発させた後に行い、一方、処方物NP VIおよびNP VIIの場合には、R-LPSをインキュベーションした後にエタノールと水を加える(実施例12、13および14参照)。
【0100】
ナノ粒子の精製は、超遠心分離によって行う。最後に、精製したナノ粒子を、長期保管および貯蔵の目的で凍結乾燥する。
【0101】
ナノ粒子の特性決定
ナノ粒子のサイズおよびζ電位をZetamaster(Malvem Instruments/Optilas、スペイン)で測定した。
【0102】
カプセル化タンパク質含量(活性成分)は、マイクロビシンコニン酸(microbicinchoninic acid)タンパク質分析法(Micro BCA、Pierce、米国)によって測定した。
【0103】
ナノ粒子に吸着したまたはカプセル化したBrucella ovisの生のリポ多糖類(R-LPS)は、チオバルビツール酸法によってその専用マーカーの一つであるKDO (3-デオキシ-D-マンノ-オクト-2-ウロソン酸)を測定することによって間接定量した[Warren, J Biol Chem, 243 (1959) 1971-1975]。
【0104】
抗-OVA、サイトカインおよびIL-10抗体の測定
血清抗-OVAを、抗-IgG1および抗-IgG2a接合体(Sigma-Aldrich Chemie、ドイツ)を用いるELISAによって分析した。簡単に説明すれば、この分析を行うために、96穴プレート(EB、Thermo Labsystems、ヴァンター、フィンランド)を用い、ウェル当たり卵白アルブミン1μgを4℃で15時間固定した後、ELISAウォッシャー(Thermo Labsystems、ヴァンター、フィンランド)で1分間ずつ5回の洗浄を行い、血清を1:40から出発して連続希釈で加え、それらを37℃で4時間インキュベーションした後、1分間ずつ5回の洗浄を行った後、接合体をペルオキシダーゼと共に2時間インキュベーションし、1分間ずつさらに5回洗浄し、基質[ABTS(2,2'-アジノ-ビス(3-エチルベンゼン-チアゾリン-6-スルホン酸)(Sigma-Aldrich Chemie、ドイツ)]を加え、室温にて30分間インキュベーションした後、プレートリーダー(iEMS Reader MF、Labsystems、ヴァンター、フィンランド)で読み取りを行った。
【0105】
サイトカイン(IFN-γ, IL-4)を、以前に免疫化したマウスの脾臓細胞の再刺激によって生じる上清中でELISAキット(Biosource、米国)によって分析した。
【0106】
IL-10を、800 x gで10分間予め遠心分離した血液からの血清中でELISAキット(Biosource、米国)によって分析した。
【0107】
ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)
試料のタンパク質プロフィールを、125mM Tris-HCl(pH 6.8)中37.5:1アクリルアミド:ビスアクリルアミドを15%の濃度およびゲル中0.1% SDSで、SDS-PAGE によって測定した[Laemmli, Nature, 227 (1970) 680-685]。用いた電極緩衝液は、 30 mM Tris-HCl(pH 8.3)、192 mMグリシンおよび0.1% SDSを含んでいた。試料を、62.5mM Tris-HCl(pH 6.8)、10%グリセロール、2% SDS、5%β-メルカプトエタノール、および0.002%ブロモフェノールブルー中で、100℃にて10分間処理した。電気泳動は、8 x 7cmゲル中で15mA/ゲルの一定強度で行った。ゲルをクーマシーブルーで染色した[King, Anal Biochem, 71 (1976) 223-230]。この目的のため、それらを3%トリクロロ酢酸/水中で1時間インキュベーションして固定した。染色は、50%メタノールと10%酢酸中0.25%クーマシーブルー溶液で1時間行い、試料が目に見えるようになるまで50%メタノールおよび20%酢酸で退色させた。試料成分の見かけの分子量は、ミオシン(220kDa)、ホスホリラーゼb(97kDa)、ウシ血清アルブミン(66kDa)、卵白アルブミン(45kDa)、カルボニックアンヒドラーゼ(30kDa)、トリプシンインヒビター(20.1kDa)、およびリゾチーム(14.3kDa)を含む標準的分子量マーカー(Rainbow、Amersham Pharmacia Biotech、ウプサラ、スウェーデン)とそれらの電気泳動移動度を比較して測定した。
【0108】
免疫ブロッティング
免疫ブロッティングは、以前に報告したプロトコールに準じて行った[Towbin & Staehelin, Proc Natl Acad Sci USA, 76 (1979) 4350-4354]。簡単に説明すれば、試料をSDS-PAGEに付した後、ゲルを0.45μmの細孔径のニトロセルロース膜(Schleicher & Schuell、ダッセル、ドイツ)に移した。移し替えは、25 mM Tris-HCl (pH 8.3)、192 mM グリシンおよび10%メタノールの移動緩衝液中で、Trans-Blot(登録商標)SD、Semy-Dry移動セルシステム(Bio-Rad、リッチモンド、米国)によって、200mA、5Vで30分間半乾燥法を用いて行った。
【0109】
実施例1
免疫療法
卵白アルブミンメチルビニルエーテル-無水マレイン酸(PVM/MA)コポリマーを基材とするナノ粒子の調製および特性決定
タンパク質は、実験的アレルゲンモデルとして現在広く用いられている点から卵白アルブミン(OVA)を選択した。
【0110】
卵白アルブミンは、卵白のタンパク質含量の50%を上回る。これは385アミノ酸を有するモノマー性ホスホ糖タンパク質であり、分子量は43-45kDaである[Johnsen and Elsayed, Mol Immunol, 27 (1990) 821]。卵白アルブミンは、極めて大きなアレルゲン容量を有し、IgEによって伝達されるI型過敏症を直ちに引き起こす。
【0111】
下記の方法は、免疫療法に用いることができるナノ粒子型のコロイド状投薬形態について当てはまる。
【0112】
1.1 中空ナノ粒子(NP)の調製
メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマー(PVM/MA)[Gantrez(登録商標)AN 119] 100mgを、アセトン5mlに溶解する。その後、エタノール10mlおよび脱イオン水10mlを、磁気攪拌しながらこの相に加える。生成する混合物を、5分間ホモジナイズする。次に、ナノ粒子懸濁液を、いずれの有機溶媒も除去されるまで減圧留去し、最終容積を水で10mlに調整した。
【0113】
溶液を、超遠心分離(27,000 x g、20分間)によって精製した。上清を除き、残渣を水または5%スクロース水溶液に再懸濁する。最後に、生成するナノ粒子懸濁液を凍結乾燥して、その特性総てを無傷で保持する。
【0114】
得られた中空ナノ粒子(NP)の平均サイズは200nm未満であり、真の表面電荷は-45.1 mVである(表l参照)。
【0115】
1.2 卵白アルブミンで被覆したナノ粒子(NP I)の調製
メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマー(PVM/MA)[Gantrez(登録商標)AN 119]を、アセトン5mlに溶解させる。その後、エタノール10mlおよび脱イオン水10mlを、磁気攪拌下にこの相に加える。生成する混合物を、5分間ホモジナイズする。次に、ナノ粒子懸濁液を、いずれの有機溶媒も除去されるまで減圧留去し、最終容積を水で5mlに調整した。この溶液を、タンパク質10mgを含む卵白アルブミンの水溶液5mlと共に室温にて1時間インキュベーションする。
【0116】
混合物を超遠心分離(27,000 x g、20分間)によって精製する。上清を除去し、残渣を水または5%スクロース水溶液に再懸濁する。最後に、ナノ粒子懸濁液を凍結乾燥して、その特性総てを無傷で保持する。
【0117】
得られたナノ粒子(NP I)の平均サイズは300nm未満であり、真の表面電荷は-61.3mVであり、卵白アルブミン含量は54.7μg/mgポリマーである(表l参照)。
【0118】
1.3 カプセル化した卵白アルブミンを有するナノ粒子(NP II、NP IIIおよびNP IV)の調製
メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマー(PVM/MA)[Gantrez(登録商標)AN 119]100mgを、アセトン4mlに溶解させ、一方、卵白アルブミン5mgを超音波処理(Microson(商品名))または超音波槽で1分間冷却することによってアセトン1mlに分散させる。卵白アルブミン分散液をポリマー懸濁液に加え、室温で30分間攪拌する。その後、エタノール10mlと脱イオン水10mlを、磁気攪拌しながらこの相に加える。生成する混合物を5分間ホモジナイズする。次いで、ナノ粒子懸濁液を、いずれの有機溶媒も除去されるまで減圧下にて蒸発させ、最終容積を水で10mlに調整する。得られたナノ粒子は、OVAをカプセル化した(NP II)。処方物NP IIIおよびNP IVの場合には、架橋剤1% 1,3-ジアミノプロパン溶液をそれぞれ0.05mlおよび0.1m1加える。
【0119】
混合物を超遠心分離(27,000 x g、20分間)によって精製する。上清を除去し、残渣残渣を水または5%スクロース水溶液に再懸濁する。最後に、生成するナノ粒子懸濁液を凍結乾燥し、その特性総てを無傷で保持する。
【0120】
得られたナノ粒子の平均サイズは300nm未満であり、真の表面電荷はNP-IIの場合には-41.4mVであり、NP-IIIでは-50.8mVであり、NP-IVでは-57.5mVであり、卵白アルブミン含量は約30μg/mgポリマーである(表l参照)。
【0121】
1.4 卵白アルブミンおよびBrucella ovisリポ多糖類を用いるナノ粒子の調製(NP V、NP VIおよびNP VII)
1.4.1 Brucella ovisの生のリポ多糖類複合体の抽出および特性決定
用いた抽出物は、Brucella ovisの生のリポ多糖類(R-LPS)である。R-LPSは、以前に報告した方法によって得た(Galanos et al, Eur. J. Biochem. (1969), 245-249)。細菌Brucella ovisを培養した後、これらを密封容器中で4℃にて一晩攪拌しながら無水エタノールに再懸濁する。次いで、菌体を遠心分離し(6,000 x g、20分間、4℃)、密封容器中4℃で12時間攪拌しながらアセトンに再懸濁する。その後、菌体を遠心分離によって集め(6,000 x g、20分間、4℃)、それらをエチルエーテルに再懸濁し、磁気攪拌しながら3-4時間室温に保持する。次に、それらを再度遠心分離し(6,000 x g、20分間、4℃)、蒸発乾固する。抽出に移るために、菌体をそれぞれ8:5:2の比の石油エーテル-クロロホルム-フェノールと混合して、ホモジナイズする。混合物を遠心分離し(8,000 x g、15分間、室温)、上清を集める。ペレットを、同一条件下でさらに2回再抽出する。総ての上清をプールし、石油エーテルとクロロホルムをロータリーエバポレーター他で蒸発させる。フェノール性残渣を水で沈澱させ、遠心分離する(8,000 x g、30分間、室温)。次に、これをフェノールでさらに2回およびエチルエーテルでさらに2回洗浄する。最後の遠心分離の後、残留エチルエーテルを真空留去し、ペレットを脱イオン水に再懸濁し、透析を行う。最後に、透析バッグの内容物を遠心分離し(100,000 x g、6時間、4℃)ペレットを脱イオン水に再懸濁し、これを凍結乾燥する。
【0122】
R-LPSの量は、チオバルビツール酸法によってその専用マーカーの一つであるKDOを測定することによって間接定量する。
【0123】
1.4.2 表面にカプセル化卵白アルブミンとBrucella ovisのR-LPSを有するナノ粒子(NP V)
メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマー[Gantrez(登録商標)AN 119]100mgをアセトン4mlに溶解し、一方、卵白アルブミン5mgを超音波処理(Microson(商品名))または超音波槽で1分間冷却することによってアセトン1mlに分散させる。卵白アルブミン分散液をコポリマー懸濁液に加え、室温で30分間攪拌する。その後、エタノール10mlと脱イオン水10mlを、磁気攪拌しながらこの相に加える。生成する混合物を5分間ホモジナイズする。次いで、ナノ粒子懸濁液を、いずれの有機溶媒も除去されるまで減圧下にて蒸発させ、最終容積を水で9mlに調整する。この溶液を、Brucella ovis R-LPS 1mgを含む水性分散液(予め1分間超音波処理したもの)1mlと共に室温にてインキュベーションする。
【0124】
混合物を超遠心分離(27,000 x g、20分間)によって精製する。上清を除去し、残渣を水または5%スクロース水溶液に再懸濁する。最後に、生成するナノ粒子懸濁液を凍結乾燥し、その特性総てを無傷で保持する。
【0125】
得られたナノ粒子(NP V)の平均サイズは300nm未満であり、真の表面電荷はNP-IIの場合には-46.1mVであり、卵白アルブミン含量は64.1μg/mgポリマーであり、R-LPSは15.2μg/mgポリマーである(表l参照)。
【0126】
1.4.3 表面にカプセル化Brucella ovisのR-LPSと卵白アルブミンを有するナノ粒子(NP VI)
メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマー[Gantrez(登録商標)AN 119] 100mgをアセトン4mlに溶解し、一方、Brucella ovisのR-LPS 1mgを超音波処理(Microson(商品名))または超音波槽で1分間冷却することによってアセトン1mlに分散させる。R-LPS分散液をコポリマー懸濁液に加え、室温で30分間攪拌する。その後、エタノール10mlと脱イオン水10mlを、磁気攪拌しながらこの相に加える。生成する混合物を5分間ホモジナイズする。次いで、ナノ粒子懸濁液を、いずれの有機溶媒も除去されるまで減圧下にて蒸発させ、最終容積を水で5mlに調整する。この溶液を、卵白アルブミン5mgを含む水性分散液5mlと共に室温にてインキュベーションする。
【0127】
混合物を超遠心分離(27,000 x g、20分間)によって精製する。上清を除去し、残渣を水または5%スクロース水溶液に再懸濁する。最後に、生成するナノ粒子懸濁液を凍結乾燥し、その特性総てを無傷で保持する。
【0128】
得られたナノ粒子(NP V)の平均サイズは300nm未満であり、真の表面電荷はNP-IIの場合には-56.9mVであり、卵白アルブミン含量は68.5μg/mgポリマーであり、R-LPSは12.1μg/mgポリマーである(表l参照)。
【0129】
1.4.4 カプセル化卵白アルブミンとBrucella ovisのR-LPSを有するナノ粒子(NP VII)
メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマー[Gantrez(登録商標)AN 119] 100mgをアセトン3mlに溶解し、一方、卵白アルブミン5mgを超音波処理(Microson(商品名))または超音波槽で1分間冷却することによってアセトン1mlに分散させ、Brucella ovisのR-LPSを、これもまた冷却化での超音波処理によってアセトン1mlに分散させる。卵白アルブミン分散液をR-LPS分散液に加え、この混合物をコポリマー懸濁液に加え、室温で30分間攪拌する。その後、エタノール10mlと脱イオン水10mlを、磁気攪拌しながらこの相に加える。生成する混合物を5分間ホモジナイズする。次いで、ナノ粒子懸濁液を、いずれの有機溶媒も除去されるまで減圧下にて蒸発させ、最終容積を水で10mlに調整する。
【0130】
混合物を超遠心分離(27,000 x g、20分間)によって精製する。上清を除去し、残渣を水または5%スクロース水溶液に再懸濁する。最後に、生成するナノ粒子懸濁液を凍結乾燥し、その特性総てを無傷で保持する。
【0131】
得られたナノ粒子(NP V)の平均サイズは300nm未満であり、真の表面電荷はNP-IIの場合には-46.1mVであり、卵白アルブミン含量は54.7μg/mgポリマーであり、R-LPSは13.8μg/mgポリマーである(表l参照)。
【0132】
1.5 ナノ粒子の特性決定
様々な処方物の物理化学的特性を、表1に示す。
【0133】
収集した結果によれば、ナノ粒子を卵白アルブミンで被覆したときには(NP IおよびNP VI)、サイズが増加し、ζ電位は負の値が大きくなるのに対して、卵白アルブミンがほとんどナノ粒子の内部にあるときには(NP II、NP III、NP IV、NP V、およびNP VII)、ζ電位と同様にサイズは、中空ナノ粒子(NP)と比較すると変動しないことが観察された。
【0134】
一方、ナノ粒子のサイズは添加した架橋剤の量の増加と共に増加し、卵白アルブミンの量は若干減少することが観察された。
【0135】
ナノ粒子の表面にR-LPSが含まれていると、カプセル化卵白アルブミンの量が増加するが(NP V対NP II)、R-LPSがほとんどナノ粒子の内部にあるときには、吸着した卵白アルブミンの量は変動しない(NP VI対NP I)。
【0136】
【表1】
ナノ粒子の生産収率は、約70%であった。
【0137】
実施例2
ナノ粒子から卵白アルブミン放出のイン・ビトロ試験
イン・ビトロでの卵白アルブミン放出を評価するため、ナノ粒子を「エッペンドルフ」試験管中で約8mg/mlの濃度のPBS(リン酸緩衝食塩水、pH 7.4)1ml中でインキュベーションした。試験管はオーブン中で回転させながら37℃でインキュベーションし、所定の時間間隔で試料を26,500 x gで20分間遠心分離し、上清を後で分析を行うために集めた。放出卵白アルブミンは、上清中でビシンコニン酸法によって測定した。
【0138】
得られた卵白アルブミン放出曲線を、図1に示しており、処方物NP Iでは、卵白アルブミンが、同様の放出プロフィールを示す処方物NP II、NP III、およびNP IVより速やかに放出されることが観察されている。これは、処方物NP Iでは、卵白アルブミンがナノ粒子の外側に吸着しているので、その初期放出(噴出)が、卵白アルブミンの一部がカプセル化されている他の処方物(NP II、IIIおよびIV)の初期放出より遙かに顕著であるからである。一方、NP II、NP III、およびNP IVについての放出プロフィールでは、架橋剤の量が増加するにつれて、放出される卵白アルブミンの割合は若干減少することを観察することができる。
【0139】
実施例3
BALB/cマウスにおける卵白アルブミンによる免疫化後の抗OVA抗体の定量
65匹のBALB/cを免疫化し、投与計画に従って13群に分割した。
【0140】
用いたコントロールは、遊離の卵白アルブミン溶液(OVA)(10μg皮内、および25μg経口)、中空ナノ粒子(NP)(皮内および経口)、およびアルヒドロゲルに吸着した卵白アルブミン(OVA-Alum)(10μg皮内)の高IgG1力価を特徴とするTh2応答誘発ポジティブコントロールであった[Faquim-Mauro et al, Int Immunol, 12 (2000) 1733-1740]。
【0141】
残りの群には、皮内(10μg OVA)または経口(25μg OVA)を接種し、様々な投与治療は、
a) 卵白アルブミン(OVA)溶液、皮内
b) 卵白アルブミン(OVA)溶液、経口
c) アルヒドロゲルに吸着した卵白アルブミン(OVA-Alum)、皮内
d) 中空ナノ粒子(NP)、皮内
e) 中空ナノ粒子(NP)、経口
f) 卵白アルブミンを被覆したナノ粒子(NP I)、皮内
g) 卵白アルブミンを被覆したナノ粒子(NP I)、経口
h) カプセル化卵白アルブミンを有するナノ粒子(NP II)、皮内
i) カプセル化卵白アルブミンを有するナノ粒子(NP II)、経口
j) カプセル化卵白アルブミンを有する1,3-ジアミノプロパンで架橋したナノ粒子(NP IIIおよびNP IV)、皮内
k) カプセル化卵白アルブミンを有する1,3-ジアミノプロパンで架橋したナノ粒子(NP IIIおよびNP IV)、経口
である。
【0142】
免疫化後7、14、28および35日目に連続血液抽出を行った。それぞれの群についての血清をプールし、後で分析するために-80℃で凍結させた。
【0143】
抗-OVA抗体(IgG1およびIgG2a)のレベルを様々な血清でELISAによって測定し、図2および3に示されるデーターを得た。ナノ粒子を被覆しているまたはその中にカプセル化されている卵白アルブミンを含むナノ粒子(NP I、NP II、NP III、およびNP IV)は、溶液中の卵白アルブミンと比較して免疫応答を増加することが観察された。投与後14日目に、上記ナノ粒子処方物は、タイプによってマウス血清中のIgG1力価を3または6対数単位まで増加させることができる。一方、OVA-Alumを投与したマウスは、全実験期間中血清IgG2a抗体は見られず、NP IIIを投与したマウスでは、免疫化後の35日目には5120の力価に到達した。
【0144】
このことは、一般に、上記NP処方物(NP I、NP II、NP III、およびNP IV)がTh1およびTh2のいずれにも特徴的な抗体力価を増幅することができるが、特に、処方物NP IIIが最も免疫原性であることを示している。
【0145】
一方、NP III群のマウスの力価をNP IV群のものと比較すると、それらは同様なIgG1曲線を有するが、NP IIIについてのIgG2a力価はNP IVの場合より若干大きいので、最適架橋があることを観察することができる(実施例2、最終段落)。
【0146】
経口投与マウスで得られた結果に関しては、定量可能なレベルのIgG1およびIgG2a抗体を誘発する処方物はNP IIIのみであることが観察された(図3)。
【0147】
これらの実験条件下で、処方物NP IIIが最も有効であることを実証した後、NP IIIの投与量を変更して同様な検討を行った。この場合には、下記の処方物を動物に(経口)投与した:
a) 中空ナノ粒子(NP)
b) カプセル化卵白アルブミンを有する1,3-ジアミノプロパンで架橋したナノ粒子を有するカプセル化卵白アルブミン25μg(NP III-25)
c) カプセル化卵白アルブミンを有する1,3-ジアミノプロパンで架橋したナノ粒子を有するカプセル化卵白アルブミン50μg(NP III-50)
【0148】
この場合には、得られた結果(図4)は、血清中の抗OVA IgG2aは、投与量が50μgのときにはかなり大きいことを示している。
【0149】
実施例4
Brucella ovisのリポ多糖類を有する卵白アルブミンナノ粒子の投与後の抗-OVA抗体およびインターロイキン10 (IL-10)産生の定量
40匹のBALB/cマウスを免役し、投与形態に従って8群に分割した。いずれの群にも、治療は皮内投与した(卵白アルブミン1 0μg)。この場合に、様々な治療は、
a) 卵白アルブミン(OVA)溶液
b) アルヒドロゲルに吸着した卵白アルブミン(OVA-Alum)
c) 中空ナノ粒子(NP)
d) 卵白アルブミンを被覆したナノ粒子(NP I)
e) カプセル化卵白アルブミンを有する1,3-ジアミノプロパンで架橋したナノ粒子(NP III)
f) カプセル化卵白アルブミンを有する1,3-ジアミノプロパンで架橋し且つBrucella ovisのR-LPSで被覆したナノ粒子(NP V)
g) カプセル化Brucella ovisのR-LPSを有し且つ卵白アルブミンで被覆したナノ粒子(NP VI)
h) 卵白アルブミンとカプセル化Brucella ovisのR-LPSを有する1,3-ジアミノプロパンで架橋したナノ粒子(NP VII)
である。
【0150】
アルヒドロゲルに吸着した卵白アルブミンを皮内投与した群(OVA-Alum)を、実験のポジティブコントロールとして採用した。
【0151】
免疫化後の7、14、28、35、42、および49日目に、連続血液抽出を行った。試料を処理し(実施例3参照)、結果を得て、図5および6に含める。
【0152】
IgG1応答(図5): NP III、NP VおよびNP VIIは、コントロール処方物(OVA-Alum)より遙かに速やかにかつ一層強く高IgG1u誘発した。投与後の49日目にだけ、ナノ粒子を基材とする処方物およびコントロール(OVA-Alum)が同様のレベルを示す。最後に、ナノ粒子表面のR-LPSは、IgG1レベルの誘発に効果を有するとは思われない。
【0153】
一方、NP Iはまた、IgG1抗体産生を誘発するための強力な可能性を示す。さらに、上記の場合と同様に、この現象はコントロール処方物でよりも速やかであり且つ一層強い。R-LPSがOVAを被覆したナノ粒子内部で会合しているときには、NP Iおよびコントロール処方物と比較して血清IgG1力価がかなり減少することが観察されている。
【0154】
IgG2a: 図6はマウスの血清IgG2a力価を示す。この場合には、コントロール処方物(OVA、NP、OVA-Alum)のいずれも、抗体力価を誘発しない。しかしながら、カプセル化OVAは、主としてR-LPSがナノ粒子の外側に吸着されているときに(処方物NP V)高IgG2a力価を提供することができた。一方、NP Iは、血清IgG2a力価で測定されるTh1応答を誘発するためのNP VIより遙かに有効であると思われた。
【0155】
IL-10: 図7は血清IL-10レベルを示し、これはELISAキット(Biosource、カマリロ、米国)によって測定した。この場合には、コントロールは、いずれも血清IL-10の分泌を誘発することはできなかった。しかしながら、いずれのナノ粒子処方物も多かれ少なかれこのサイトカインの分泌を誘発した。NP表面に吸着した卵白アルブミンを有する処方物(NP I)は、残りの処方物より速やかにIL-10ピークを誘発することができた。しかしながら、LPSの会合(NP VI)は、サイトカイン分泌をかなり遅らせた(14日間)。一方、 NP IIIは、時間が1週間だけ遅れるが、血清IL-10を誘発する最も有効な処方物であり、NP 1より2倍高いレベルを生じることが示された。カプセル化ナノ粒子OVA (NP VおよびNP VII)におけるR-LPSの会合により、投与の2週間後に最大値を有するさらに不連続なIL-10レベルを誘発できた。この有意なIL-10レベルを誘発する処方物の可能性は、このサイトカインの調節力によりTh1/Th2バランスにおける不均衡を特徴とする疾患の可能な治療法としてのそれらの使用を示唆している[Zuany-Amorim et al, J Clin Invest, 95 (1995) 2644-2651; Stampfli et al, Am J Respir Cell Mol Biol, 21(1999) 586-596; Hall et al, Vaccine, 21 (2003) 549-561]。
【0156】
実施例5
Salmonella enteritidis ChE抽出物を有するナノ粒子の調製、特性決定および投与
5.1 Salmonella enteritidis ChE抽出物の抽出
細菌抽出物ChE (カオトロピック抽出物)は、Altman et al.によって以前に報告されたプロトコールに従って得た(Altman et al., Biochem J. (1982) 505-513)。定常期のSalmonella enteritidis接種物を、BHI(ブレイン・ハート・インフュージョン、Diko Lab.、デトロイト、米国)400mlを含むフラスコ中で、37℃で48時間攪拌なしでインキュベーションした。次いで、菌体を遠心分離し(7,000 x g、30分間)、PBS(リン酸緩衝食塩水、10mM、pH 7.4)で洗浄した。細菌抽出物が、菌体ペレットを3M KSCN/PBS中で磁気攪拌を用いて処理し(1時間、室温)、遠心分離(35,000 x g、30分間)の後に、得られた。ChE抽出物を含む上清を集めて、最初にPBSに対して、次いで脱イオン水に対して透析した。これを最後に凍結乾燥して、後で使用するまで4℃で保存した。
【0157】
5.2 卵白アルブミンとSalmionella enteritidisを有するナノ粒子(OVASAL)の調製
メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマー[Gantrez(登録商標)AN 119] 100mgをアセトン3mlに溶解し、一方、卵白アルブミン5mgとChE抽出物5mgをアセトン2mlに超音波処理(Microson(商品名))によって1分間冷却しながら分散させる。卵白アルブミンとChE分散液をポリマー懸濁液に加え、これを室温で30分間攪拌する。エタノール10mlと脱イオン水10mlをこの相に磁気攪拌下にて加える。生成する混合物を、5分間ホモジナイズする。次いで、ナノ粒子懸濁液を減圧にて蒸発させていずれの有機溶媒をも除去し、最終容積を水で10mlに調整した。次に、それらを、1% 1,3-ジアミノプロパン溶液0.1mlと共にインキュベーションする。
【0158】
混合物を、超遠心分離(27,000 x g、20分間)によって精製する。上清を除去し、残渣を5%スクロース水溶液に再懸濁する。最後に、生成するナノ粒子懸濁液を凍結乾燥する。
【0159】
5.3 BALB/cマウスにおいてOVASALで免疫化後の抗-OVA抗体産生の定量
15匹のマウスを卵白アルブミン10μgを用いて皮内免疫化し、それらを、投与する治療物に従って3種類の群に分割した。
a) 卵白アルブミン溶液(OVA)
b) アルヒドロゲルに吸着した卵白アルブミン (OVA-Alum)
c) 卵白アルブミンナノ粒子およびSalmonella enteritidis ChE(OVASAL)
【0160】
様々な処方物を投与した後、血液を眼窩後血管叢(retroorbital plexus)から7、14、28、35、42および49日目に採取し、試料を実施例3に示されている方法で処理した。得られた結果を、図8に示す。意外なことには、OVASALはIgG1力価をかなり増加させたが、IgG2a力価は極めて低いレベルのままであった。このことは、この処方物がTh2応答のみを高めることができ、これはまた、コントロール処方物(OVA-Alum)についてより遙かに速やかに且つ一層強いものであったことを示している。これらの結果から、ワクチンにおけるアジュバントとして有望な応用が考えられ、高レベルのまたは微生物によって分泌される毒素に対する抗体を得ることは興味深いことである。これはまた、急性期において過度に高いTh1応答を有することを特徴とするある種の自己免疫疾患にも応用することができる。
【0161】
実施例6
Salmonella enteritidis HE抽出物を有する生物分解性ナノ粒子(NP HE 3934)の調製および特性決定
6.1 Salmonella enteritidis HE抗原複合体3934の抽出および特性決定
用いる抗原は、食塩水媒質中で熱を加えることにより抗原複合体を放出するという事実によりHE(熱食塩水抽出物)と呼ばれるS. enteritidisの表面抽出物である。このHEは、リン脂質、表面タンパク質、および滑らかなリポ多糖類(S-LPS)を含む。HE抽出物は、以前に報告されている方法によって得た[Gamazo et al., Infect. Immun. (1 989) 1419-1426]。トリプチカーゼ大豆ブロス(TSB)を含むフラスコで細菌Salinonella enteritidis 3934を培養した後、細菌を7,000 x gで30分間遠心分離し、食塩水溶液で2回洗浄した。生細胞を食塩水溶液に再懸濁し(10g湿細胞/100ml)、蒸気流中で100℃で15分間加熱する。遠心分離(12,000 x g、10分間)の後、上清を脱イオン水を数回交換しながら5日間透析する。透析した材料を60,000 x gで4時間超遠心分離し、ペレット(HE)を脱イオン水に再懸濁し、凍結乾燥し、室温で保管する。
【0162】
特性決定は、タンパク質およびリポ多糖類の割合の決定を包含する。タンパク質の量の測定は、ラウリー法によって行った。Salmonella enteritidis抗原抽出物3934は、約31%のタンパク質を含む。LPSの量は、その専用マーカーの一つであるKDOをチオバルビツール酸法によって間接的に測定する。S-LPS 65%を表すKDO 0.86%が、この方法によって得られた。
【0163】
6.2 Salmonella enteritidis HE 抽出物3934を有するナノ粒子(NP HE 3934)の産生および物理化学的特性決定
最初に、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマー100mgをアセトン5mlに溶解させ、アセトン1mlに再懸濁した抗原抽出物HE (4mg)をこの溶液に加え、磁気攪拌によって混合する。この溶液を、室温で15分間インキュベーションさせる。次に、エタノール10mlおよび最後に同容積の水を、この相に加えた。生成する混合物を5分間ホモジナイズする。次に、ナノ粒子懸濁液を減圧下に蒸発させ、いずれの有機溶媒も除去し、最終容積を水で10mlに調整した。
【0164】
懸濁液を超遠心分離によって精製する(35,000 x g、10分間)。上清を除去し、残渣を5%スクロース水溶液(w/v)に再懸濁する。最後に、生成するナノ粒子懸濁液を凍結乾燥し、その特性総てを無傷で保持する。
【0165】
凍結乾燥前にナノ粒子懸濁液から生じる処方は、
メチルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマー(Gantrez(登録商標)AN-119)
1.0%(w/v)
抗原抽出物 0.4%(w/v)
スクロース 5.0%(w/v)
水f.i. q.s. 10ml
[f.i.: 注射用; q.s.: 適量]
【0166】
凍結乾燥工程の前に、ナノ粒子のサイズおよび表面電荷を測定する。得られたナノ粒子の平均サイズは200nm未満であり、負の真の表面電荷は-20.1 ± 3.2mVである。生産工程収率は、凍結乾燥工程後のその重量を測定することによって得た。コポリマー100mgから出発して、工程の終わりにナノ粒子に変換された量を測定し、これを初期コポリマー質量に対する百分率として表した。
【0167】
抽出物は、ビシンコニン酸法によって定量し、検出した。その目的のため、架橋剤を加える前に、ナノ粒子懸濁液の一部(1ml)を採取する。ナノ粒子を0.1N NaOHを加えることによって開裂し、この方法の実証前に、この混合物をタンパク質についてのビシンコニン酸比色法によって分析する。実証は、0.1N NaOH中で開裂した中空ナノ粒子に溶解した抽出物を用いて行った。ビシンコニン酸溶液と5%硫酸銅を100:2の比率で試料に加え、混合物を37℃に半時間保持した後、562nmで分光光度法によって測定する。
【0168】
抽出物の荷重は、ナノ粒子1mg当たりの抽出物のμg量として表され、カプセル化有効性は、カプセル化抽出物の総量を初期量と関連させることによって決定される。
【0169】
表2は、ナノ粒子中に抗原抽出物荷重(μg抽出物/mgナノ粒子)とカプセル化有効性(%)を示す。
【0170】
【表2】
【0171】
図9は、S. enteritidis HEタンパク質標準物を表しており、様々な成分、すなわちポーリン(約36kDa)、OmpA(34kDa)、および線毛SEF14(14kDa)およびSEF21(21kDa)を識別することができる。ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)および免疫ブロッティングによって、カプセル化抽出物はその構造の完全性および抗原性を保存することが確認された。図10において、カプセル化前後の抽出物の抗原性プロフィールを観察することができる。
【0172】
実施例7
マウスにおいて腹腔内投与したNP HE 3934ワクチンによって提供される保護の検討
BALB/cマウスの9週齢群で、各群が10匹の動物からなるものを用いた。予防接種は、 実施例6に記載のナノ粒子ワクチン製剤(NP HE 3934)を30μg抽出物/動物の比率で用い、コントロールとしてi) 同量の対応する中空ナノ粒子、ii) 30μg/動物の遊離のカプセル化されていないHE抽出物、iii) 200μlの市販ワクチンSalenvac(登録商標)(Intervet UK Limited、ウォルトン、英国)、iv)食塩水溶液をも包含して行った。
【0173】
予防接種の10日後、S. enteritidis 3934株の致死用量102 CFUを腹腔内接種し、この接種後にサルモネラ症によって死亡した動物を計数した。保護実験の結果は、ナノ粒子を基材としたワクチン製剤(NP HE 3934)は、市販ワクチンSalenvac(登録商標)並びに自由に投与されるHE抗原抽出物(HE Se 3934)と極めて類似した方法で皮下投与したS. enteritidisから保護したことを示している。
【0174】
これらの結果は、ナノ粒子におけるHE抽出物のカプセル化はマウスにおける保護レベルを増加しないことを示す。一方、マウスを中空ナノ粒子で免疫化すると、非特異的免疫応答を誘発し、3週間の保護を提供する。しかしながら、遊離およびカプセル化形態でのHE抗原の投与経路は腹腔内であったことを指摘しなければならない。初期の研究は、非カプセル化抗原の経口または経鼻投与では、それらが抗原提示細胞との相互作用部位に到達する前に分解を引き起こすことが示唆されている。
【0175】
さらに、予防接種の10日後に、ナノ粒子によって提供される免疫についての検討を実験的感染の時期に行い、マウスの脾臓細胞によりIFN-γおよびIL-4の産生レベル(それぞれ、Th1およびTh2型の免疫応答に典型的)を定量した(図12)。血中IgG2aおよびIgG1抗体産生(それぞれ、Th1およびTh2)も、測定した(図13)。
【0176】
研究に用いたマウスでの遊離およびカプセル化HE抽出物によって誘発されるTh1/Th2免疫バランスを検討するため、免役した動物の脾臓細胞によって産生されるIFN-γおよびIL-4レベルを測定した(図12)。パネルAは、誘発されたIFN-γレベルを示し、ナノ粒子(NP HE 3934)で免役したマウスにおける上記産生の増加を示している。対照的に、パネルBは、遊離HE抽出物(HE 3934)で免役したマウスおよびNP HE 3934ナノ粒子で免役したマウスでは、有意なIL-4産生の増加はないことの理由を示している。得られた結果を考慮すれば、ナノ粒子におけるHE抽出物のカプセル化は、Th2と比較して、IFN-γ産生における増加によって表されるTh1型応答の増加に有利であることを断言することができる。
【0177】
免役したマウスでのS. enteritidis 3934 HE抽出物に特異的な抗体の産生を、間接ELISA法によって検討した(図13)。非免疫マウスまたは中空ナノ粒子で免役したマウス(中空NP)は、S. enteritidis 3934 HEに対してIgG2aまたはIgG1抗体を産生しなかった。検出されたIgG2aレベルは、ELISAによって分析した総てのマウス血清におけるIgG1のレベルより大きかった。しかしながら、遊離のHE抽出物(HE 3934)で免役したマウスによって示される応答と比較してカプセル化HE抽出物(NP HE 3934)で免役したマウスにおける血清学的応答の増加は観察されなかった。
【0178】
IgG2aはTh1免疫応答における主要な抗体アイソタイプであり、一方、IgG1はTh2免疫応答についてこの同じ機能を有し、これによりIFN-γおよびIL-4放出分析で得られた結果が確かめられ、S. enteritidis HE抽出物を有するナノ粒子の腹腔内投与により支配的なTh1型免疫応答を誘発することを示している。この投与は、遊離抗原を投与するときに観察されたのと同様なサルモネラ症に対してある程度の保護を提供する。しかしながら、上記のように、これらの非カプセル化抗原の粘膜を介する適用では、動物の消化管中でそれらの通過時に起こる酸および酵素分解によりこの実験で観察されるこれらの保護レベルが得られない。
【図面の簡単な説明】
【0179】
【図1】処方物NP-I、NP-II、NP-III、およびNP-IVからの卵白アルブミンの経時的(日数)放出(%)を表すグラフである。
【図2】Balb/cマウスを卵白アルブミン(OVA)不含溶液、アルヒドロゲルに吸着した卵白アルブミン(OVA-Alum)、および中空ナノ粒子(NP)、NP-I、NP-II、NP-III、およびNP-IVで皮内免疫した後の特異的抗卵白アルブミン抗体(IgG1、IgG2a)の経時的水準を表すグラフである。
【図3】Balb/cマウスを卵白アルブミン(OVA)不含溶液、および中空ナノ粒子(NP)、NP-I、NP-II、NP-III、およびNP-IVで経口免役した後の特異的抗卵白アルブミン抗体(IgG1、IgG2a)の経時的水準を表すグラフである。
【図4】Balb/cマウスを様々な卵白アルブミンのカプセル化用量(NPIII25およびNP-III50)、および中空ナノ粒子(NP)で経口免役した後の特異的抗卵白アルブミン抗体(IgG1、IgG2a)の経時的水準を表すグラフである。
【図5】Balb/cマウスを卵白アルブミン(OVA)溶液、アルヒドロゲルに吸着した卵白アルブミン(OVA-Alum)、および中空ナノ粒子(NP)、NP-I、NP-II、NP-III、NP-V、NP-VI、およびNP-VIIで皮内免疫した後の特異的抗卵白アルブミン抗体(IgG1)の経時的水準を表すグラフである。
【図6】Balb/cマウスを卵白アルブミン(OVA)不含溶液、アルヒドロゲルに吸着した卵白アルブミン(OVA-Alum)、および中空ナノ粒子(NP)、NP-I、NP-III、NP-V、NP-VI、およびNP-VIIで皮内免疫した後の特異的抗卵白アルブミン抗体(IgG2a)の経時的水準を表すグラフである。
【図7】Balb/cマウスを卵白アルブミン(OVA)不含溶液、アルヒドロゲルに吸着した卵白アルブミン(OVA-Alum)、および中空ナノ粒子(NP)、NP-I、NP-III、NP-V、NP-VI、およびNP-VIIで皮内免疫した後の経時的IL-10の血清中濃度を表すグラフである。
【図8】Balb/cマウスをアルヒドロゲルに吸着した卵白アルブミン(OVA-Alum)、OVASAL、および卵白アルブミン(OVA)溶液で皮内免疫した後の特異的抗卵白アルブミン抗体(IgG1、IgG2a)の経時的水準を表すグラフである。
【図9】タンパク質(10μg抽出物/ウェル)についてのドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)およびクーマシーブルー染色によるHE抽出物の分離結果である。
【図10】感染したニワトリ由来の血清の混合物を用いるカプセル化の前(A)および後(B)のHE抽出物の免疫ブロッティング分析の結果である。
【図11】S. enteritidis 3934の102個のコロニー形成単位(UFC)の致死用量を用いるBalb/cマウスの腹腔内保護実験の結果を示すグラフである。
【図12】HE抽出物で再刺激したBalb/cマウス脾臓細胞によるIFN-γ(A)およびIL-4 (B)の放出を表す棒グラフである。
【図13】HE抽出物と比較して、IgG1およびIgG2a抗体を用いるBalb/cマウス血清についての間接ELISAの結果を表す棒グラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルビニルエーテル・無水マレイン酸(PVM/MA)コポリマーを基材とするナノ粒子を含んでなる、免疫応答刺激組成物。
【請求項2】
前記PVM/MAを基材とするナノ粒子がアレルゲンまたは抗原をさらに含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アレルゲンまたは抗原が前記ナノ粒子の表面を少なくとも部分的に被覆し、および/または前記ナノ粒子の内部に含まれている、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記PVM/MAを基材とするナノ粒子が免疫刺激薬をさらに含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記免疫刺激薬が、前記ナノ粒子の表面を少なくとも部分的に被覆し、および/または前記ナノ粒子の内部に含まれている、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
PVM/MAを基材とする前記ナノ粒子が、アレルゲンまたは抗原、および免疫刺激薬をさらに含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記アレルゲンまたは抗原、および免疫刺激薬が、前記ナノ粒子の表面を少なくとも部分的に被覆し、および/または前記ナノ粒子の内部に含まれている、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記ナノ粒子が架橋剤をさらに含んでなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記架橋剤がポリアミンまたは炭水化物を含んでなる、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記架橋剤が1,3-ジアミノプロパンである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記ナノ粒子の平均サイズが1.0μm以下であり、好ましくは10-900nmであり、より好ましくは400nm以下である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記PVM/MAコポリマーの分子量が100〜2,400kDaであり、好ましくは200〜2,000kDaであり、より好ましくは180〜250kDaである、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
凍結乾燥形態の、先行する請求項のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
経口または非経口投与のための適当な投与形態の、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の免疫応答刺激組成物の治療上有効量を、薬学上許容可能なキャリヤーまたは賦形剤と共に含んでなる、ワクチンまたは免疫療法組成物。
【請求項16】
凍結乾燥形態または経口または非経口投与のための適当な投与形態の、請求項15に記載のワクチンまたは免疫療法組成物。
【請求項17】
前記免疫応答刺激組成物が、PVM/MAを基材とする中空ナノ粒子と、所望により架橋剤とを、抗原またはアレルゲンを含んでなるワクチンまたは免疫療法組成物と組み合わせて含んでなる、請求項15に記載のワクチンまたは免疫療法組成物。
【請求項18】
前記免疫応答刺激組成物が、アレルゲンまたは抗原をさらに含んでなるPVM/MAを基材とするナノ粒子と、所望により架橋剤とを含んでなる、請求項15に記載のワクチンまたは免疫療法組成物。
【請求項19】
前記免疫応答刺激組成物が、免疫刺激薬をさらに含んでなるPVM/MAを基材とするナノ粒子と、所望により架橋剤とを含んでなる、請求項15に記載のワクチンまたは免疫療法組成物。
【請求項20】
前記免疫応答刺激組成物が、アレルゲンまたは抗原と免疫刺激薬とをさらに含んでなるPVM/MAを基材とするナノ粒子、および所望により架橋剤を含んでなる、請求項15に記載のワクチンまたは免疫療法組成物。
【請求項21】
成分 総重量に対する重量%
PVM/MAナノ粒子 84〜99.998%
架橋剤 0.001〜1%
アレルゲンまたは抗原 0.001〜15%
を含んでなる、請求項15に記載のワクチンまたは免疫療法組成物。
【請求項22】
凍結防止剤をさらに含んでなる、請求項21に記載のワクチンまたは免疫療法組成物。
【請求項23】
前記アレルゲンが、アレルゲン性花粉抽出物、アレルゲン性昆虫抽出物、アレルゲン性真菌抽出物、アレルゲン性動物上皮抽出物、またはアレルゲン性食品抽出物を含んでなる、請求項21または22に記載のワクチンまたは免疫療法組成物。
【請求項24】
前記抗原が生体由来の免疫原性抽出物を含んでなる、請求項21または22に記載のワクチンまたは免疫療法組成物。
【請求項25】
ワクチンまたは免疫療法組成物の製造のための、請求項1〜14のいずれか一項に記載の応答刺激組成物の使用。
【請求項26】
Th1免疫応答の選択的刺激のための医薬組成物の製造、またはTh2免疫応答の選択的刺激のための医薬組成物の製造、またはTh1およびTh2免疫応答をバランスよく刺激するための医薬組成物の製造のための、請求項1〜14のいずれか一項に記載の応答刺激組成物の使用。
【請求項27】
アレルゲンまたは抗原を含んでなるPVM/MAを基材とするナノ粒子の製造方法であって、前記アレルゲンまたは抗原が前記ナノ粒子の表面を少なくとも部分的に被覆し、および/または前記ナノ粒子の内部に含まれており、
a) 有機溶媒に溶解したPVM/MAコポリマーの有機溶液を含水アルコール溶液(hydroalcoholic solution)で脱溶媒和し、
b) 有機溶媒を除去してナノ粒子を得、かつ
c)前記PVM/MAコポリマー有機溶液を脱溶媒和する前に、前記アレルゲンまたは前記抗原を前記PVM/MAコポリマー有機溶液に加えるか、あるいは前記アレルゲンまたは前記抗原を工程b)で得られた前記ナノ粒子と共にインキュベーションすること
を含んでなる、方法。
【請求項28】
工程a)から生じる生成物を免疫刺激薬と共にインキュベーションするか、あるいは工程b)から生じるナノ粒子を免疫刺激薬と共にインキュベーションすることをさらに含んでなる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
PVM/MAコポリマーを溶解している前記有機溶媒がアセトンであり、前記含水アルコール溶液がエタノールおよび水を含んでなり、前記コポリマー溶液:前記含水アルコール溶液の比が1:1〜1:10である、請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
前記コポリマー溶液:前記含水アルコール溶液の比が1:4である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
形成したナノ粒子を架橋剤と共にインキュベーションすることをさらに含んでなる、請求項27または28に記載の方法。
【請求項32】
形成したナノ粒子を精製することをさらに含んでなる、請求項27または28に記載の方法。
【請求項33】
所望により凍結防止剤の存在下で、凍結乾燥することをさらに含んでなる、請求項27または28に記載の方法。
【請求項1】
メチルビニルエーテル・無水マレイン酸(PVM/MA)コポリマーを基材とするナノ粒子を含んでなる、免疫応答刺激組成物。
【請求項2】
前記PVM/MAを基材とするナノ粒子がアレルゲンまたは抗原をさらに含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アレルゲンまたは抗原が前記ナノ粒子の表面を少なくとも部分的に被覆し、および/または前記ナノ粒子の内部に含まれている、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記PVM/MAを基材とするナノ粒子が免疫刺激薬をさらに含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記免疫刺激薬が、前記ナノ粒子の表面を少なくとも部分的に被覆し、および/または前記ナノ粒子の内部に含まれている、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
PVM/MAを基材とする前記ナノ粒子が、アレルゲンまたは抗原、および免疫刺激薬をさらに含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記アレルゲンまたは抗原、および免疫刺激薬が、前記ナノ粒子の表面を少なくとも部分的に被覆し、および/または前記ナノ粒子の内部に含まれている、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記ナノ粒子が架橋剤をさらに含んでなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記架橋剤がポリアミンまたは炭水化物を含んでなる、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記架橋剤が1,3-ジアミノプロパンである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記ナノ粒子の平均サイズが1.0μm以下であり、好ましくは10-900nmであり、より好ましくは400nm以下である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記PVM/MAコポリマーの分子量が100〜2,400kDaであり、好ましくは200〜2,000kDaであり、より好ましくは180〜250kDaである、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
凍結乾燥形態の、先行する請求項のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
経口または非経口投与のための適当な投与形態の、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の免疫応答刺激組成物の治療上有効量を、薬学上許容可能なキャリヤーまたは賦形剤と共に含んでなる、ワクチンまたは免疫療法組成物。
【請求項16】
凍結乾燥形態または経口または非経口投与のための適当な投与形態の、請求項15に記載のワクチンまたは免疫療法組成物。
【請求項17】
前記免疫応答刺激組成物が、PVM/MAを基材とする中空ナノ粒子と、所望により架橋剤とを、抗原またはアレルゲンを含んでなるワクチンまたは免疫療法組成物と組み合わせて含んでなる、請求項15に記載のワクチンまたは免疫療法組成物。
【請求項18】
前記免疫応答刺激組成物が、アレルゲンまたは抗原をさらに含んでなるPVM/MAを基材とするナノ粒子と、所望により架橋剤とを含んでなる、請求項15に記載のワクチンまたは免疫療法組成物。
【請求項19】
前記免疫応答刺激組成物が、免疫刺激薬をさらに含んでなるPVM/MAを基材とするナノ粒子と、所望により架橋剤とを含んでなる、請求項15に記載のワクチンまたは免疫療法組成物。
【請求項20】
前記免疫応答刺激組成物が、アレルゲンまたは抗原と免疫刺激薬とをさらに含んでなるPVM/MAを基材とするナノ粒子、および所望により架橋剤を含んでなる、請求項15に記載のワクチンまたは免疫療法組成物。
【請求項21】
成分 総重量に対する重量%
PVM/MAナノ粒子 84〜99.998%
架橋剤 0.001〜1%
アレルゲンまたは抗原 0.001〜15%
を含んでなる、請求項15に記載のワクチンまたは免疫療法組成物。
【請求項22】
凍結防止剤をさらに含んでなる、請求項21に記載のワクチンまたは免疫療法組成物。
【請求項23】
前記アレルゲンが、アレルゲン性花粉抽出物、アレルゲン性昆虫抽出物、アレルゲン性真菌抽出物、アレルゲン性動物上皮抽出物、またはアレルゲン性食品抽出物を含んでなる、請求項21または22に記載のワクチンまたは免疫療法組成物。
【請求項24】
前記抗原が生体由来の免疫原性抽出物を含んでなる、請求項21または22に記載のワクチンまたは免疫療法組成物。
【請求項25】
ワクチンまたは免疫療法組成物の製造のための、請求項1〜14のいずれか一項に記載の応答刺激組成物の使用。
【請求項26】
Th1免疫応答の選択的刺激のための医薬組成物の製造、またはTh2免疫応答の選択的刺激のための医薬組成物の製造、またはTh1およびTh2免疫応答をバランスよく刺激するための医薬組成物の製造のための、請求項1〜14のいずれか一項に記載の応答刺激組成物の使用。
【請求項27】
アレルゲンまたは抗原を含んでなるPVM/MAを基材とするナノ粒子の製造方法であって、前記アレルゲンまたは抗原が前記ナノ粒子の表面を少なくとも部分的に被覆し、および/または前記ナノ粒子の内部に含まれており、
a) 有機溶媒に溶解したPVM/MAコポリマーの有機溶液を含水アルコール溶液(hydroalcoholic solution)で脱溶媒和し、
b) 有機溶媒を除去してナノ粒子を得、かつ
c)前記PVM/MAコポリマー有機溶液を脱溶媒和する前に、前記アレルゲンまたは前記抗原を前記PVM/MAコポリマー有機溶液に加えるか、あるいは前記アレルゲンまたは前記抗原を工程b)で得られた前記ナノ粒子と共にインキュベーションすること
を含んでなる、方法。
【請求項28】
工程a)から生じる生成物を免疫刺激薬と共にインキュベーションするか、あるいは工程b)から生じるナノ粒子を免疫刺激薬と共にインキュベーションすることをさらに含んでなる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
PVM/MAコポリマーを溶解している前記有機溶媒がアセトンであり、前記含水アルコール溶液がエタノールおよび水を含んでなり、前記コポリマー溶液:前記含水アルコール溶液の比が1:1〜1:10である、請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
前記コポリマー溶液:前記含水アルコール溶液の比が1:4である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
形成したナノ粒子を架橋剤と共にインキュベーションすることをさらに含んでなる、請求項27または28に記載の方法。
【請求項32】
形成したナノ粒子を精製することをさらに含んでなる、請求項27または28に記載の方法。
【請求項33】
所望により凍結防止剤の存在下で、凍結乾燥することをさらに含んでなる、請求項27または28に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2007−534728(P2007−534728A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−510053(P2007−510053)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【国際出願番号】PCT/ES2005/000225
【国際公開番号】WO2005/105056
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(500522965)インスティトゥト シエンティフィコ イ テクノロジコ デ ナバッラ,ソシエダ アノニマ (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【国際出願番号】PCT/ES2005/000225
【国際公開番号】WO2005/105056
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(500522965)インスティトゥト シエンティフィコ イ テクノロジコ デ ナバッラ,ソシエダ アノニマ (4)
【Fターム(参考)】
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