説明

メッキ装置およびメッキ方法

【課題】陽極管理の容易化によるコストダウンと、メッキ液の循環性改善による高速処理化を図る。
【解決手段】外周面に陽極21を露出させた固定ドラム20と、固定ドラムの外周に配置され、長手方向に送り移動されるワークWが巻き付けられる回転ドラムと、回転ドラムの下側に形成され、回転ドラムの周方向に連続し且つ回転ドラムの外周から内周に貫通するように設けられた環状開口35と、固定ドラムの内部を通り、ワークが巻き付けられる回転路ドラムの前記所定巻付角度範囲の角度位置52aに対応する固定ドラム外周上の位置に開口したメッキ液供給通路22と、回転ドラム外周に巻き付けられたワークと環状開口の周壁と固定ドラムの外周とで囲まれるトンネル状空間52を流路とし、該流路にメッキ液を供給するメッキ装置およびメッキ方法を発明した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状または線状のワーク(被メッキ材)の面上に連続的に金属をメッキするためのメッキ装置およびメッキ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
帯状または線状のワークの面上に連続的に金属をメッキするためのメッキ装置の従来例として、特許文献1または特許文献2に記載のメッキ装置が提案されている。以下、図面を参照しながら、これら従来の技術に係るメッキ装置およびメッキ方法について簡単に説明する。
【0003】
図3は特許文献1に記載されたメッキ装置の例を示している。
このメッキ装置は、一定の間隔をおいて同軸的に配置した、横方向を軸として回転自在且つ軸方向に移動自在の2個のドラム101A、101Bと、該ドラム101A、101Bの上方よりワーク100を両ドラム外周面に縁部が重なるように連続的に供給してドラム上方に導出するワークガイド102、103と、前記ドラム101A、101Bとワーク100により形成した半円筒状空間にメッキ液を供給する供給口104及び同排出口105と、を有し、ワーク100を連続的に供給しながらメッキ液を給排して、ワーク100に所望幅のメッキを長手方向に連続して施すようにしたものである。ここでは、ドラム101A、101Bが陽極とされ、ドラム101A、102Bの外周のワーク100と接する部分にゴム等の弾性被覆材106が巻かれている。
【0004】
図4は特許文献2に記載された従来のメッキ装置の一例を示している。
このメッキ装置は、陽極特性を有する回転自在なドラム121の外周に弾性絶縁体122を固着し、その弾性絶縁体122に周方向に沿った条溝123を設けることでドラム121の外周を露出させ、弾性絶縁体122の上からドラム121の外周に巻き付けたワーク100を送り移動させると共に、始点123aから矢印Aのように条溝123にメッキ液を供給して終点123bから矢印Bのようにメッキ液を排出しながら、ドラム121とワーク100の間に電圧を印加することにより、メッキ処理を行うものである。
【0005】
【特許文献1】特公昭46−6322号公報
【特許文献2】特開昭51−16238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した従来のメッキ装置およびメッキ方法では、陽極として利用するドラム101A、101B、121の外周に直接ワーク100を巻き付けて、ドラム101A、101B、121自体をワーク100と共に回転するように構成しているので、メッキ品種ごとの陽極の管理が難しく、コスト高になりやすかった。
【0007】
また、メッキ液の循環性についてみると、図3の例では、ドラム101A、101Bの内部に形成される半円筒状空間にメッキ液を供給するので、メッキ面での流速が遅くなったり、メッキ面近傍での撹拌が不十分になったりし、高速処理が難しかった。また、図4の例では、始点123aから終点123bに向けて条溝123にメッキ液を流すので、終点123b付近でメッキやけを起こしやすく、そのため高速処理が難しかった。
【0008】
本発明は、上記事情を考慮し、陽極管理の容易化によるコストダウンと、メッキ液の循環性改善による高速処理化を実現し得るメッキ装置およびメッキ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するための第1の手段は、
外周面に対電極を露出させた固定ドラムと、該固定ドラムの外周に所定の間隙を介して回転自在に配置され、長手方向に送り移動される帯状または線状のワークが外周に所定の巻付角度範囲で巻き付けられる回転筒と、該回転筒の周面の前記ワークが巻き付けられる幅方向の位置の下側に形成され、前記回転筒の周方向に連続し且つ回転筒の外周から内周に貫通するように設けられた環状開口と、前記ワークが巻き付けられる回転筒の前記所定の巻付角度範囲の角度位置に対応する前記固定ドラムの外周上の位置に開口したメッキ液供給通路と、前記回転筒の外周に巻き付けられたワークと前記回転筒に形成された環状開口の周壁と前記固定ドラムの外周とで囲まれる、固定ドラムの外周に沿ったトンネル状空間を流路とし、該流路に前記液供給通路からメッキ液を供給して、前記ワークと回転筒が離間する前記トンネル状空間の両端部よりメッキ液を排出するメッキ液供給系と、を具備することを特徴とするメッキ装置である。
【0010】
第2の手段は、
前記回転筒が、前記環状開口の幅を変更できるように、可動または交換可能に設けられていることを特徴とする第1の手段に記載のメッキ装置である。
【0011】
第3の手段は、
前記回転筒の外周に、溝底面に前記ワークが密着して巻き付けられる環状溝が形成されており、その環状溝の溝底面に該溝底面の幅より小さくした前記環状開口が形成されていることを特徴とする第1または第2の手段に記載のメッキ装置である。
【0012】
第4の手段は、
前記環状溝の溝底面にメッキ領域を規定するマスクが配置されており、そのマスクの上に前記ワークが巻き付け可能とされていることを特徴とする第3の手段に記載のメッキ装置である。
【0013】
第5の手段は、
前記固定ドラム及び回転筒の中心に鉛直方向を向いた固定軸が貫通配備されており、その固定軸に、前記固定ドラムが回り止め状態で支持されると共に、前記回転筒が略水平面内で回転自在に支持されていることを特徴とする第1〜第4の手段のいずれかに記載のメッキ装置である。
【0014】
第6の手段は、
前記回転筒が、前記固定軸に回転自在に支持された上部端面板及び下部端面板の外周端間に着脱可能に取り付けられ、上部・下部端面板及び回転筒で囲まれる空間に前記固定ドラムが収容されており、前記下部端面板に、前記トンネル状空間の両端部から排出された使用済みメッキ液を下方に排出する排出孔が設けられていることを特徴とする第5の手段に記載のメッキ装置である。
【0015】
第7の手段は、
前記固定ドラムは、前記所定巻付角度範囲に対応した角度範囲だけが大径に形成され、残りの角度範囲がそれよりも小径に形成されることで、その小径に形成された部分の外周側に円弧形のスペースが確保されており、その円弧形のスペースが、前記トンネル状空間の両端部から排出された使用済みメッキ液を前記排出孔から排出するための排出経路とされていることを特徴とする第6の手段に記載のメッキ装置である。
【0016】
第8の手段は、
メッキ装置に、長手方向へ移動する帯状または線状の被処理物を当接させながら、前記被処理物に所定のメッキを施すメッキ方法であって、
前記メッキ装置の前記被処理物が当接する部分に、前記被処理物より狭幅で連続する溝を設け、前記メッキ装置と前記被処理物と前記溝とで構成されるトンネル状空間に、前記メッキ装置側から所定のメッキ液を供給し、
前記メッキ液の一部は、前記トンネル状空間を前記被処理物の移動方向に流し、
前記メッキ液の他の部分は、前記トンネル状空間を前記被処理物の移動方向と反対方向に流しながら、前記メッキ装置と前記被処理物との間で通電し、前記被処理物の前記メッキ液と接触する部分に所定のメッキを施すことを特徴とするメッキ方法である。
【0017】
第9の手段は、
外周面に対電極を露出させた固定ドラムの外周に所定の間隙を介して回転自在に配置され環状開口の周壁を有する回転筒の外周へ、長手方向に送り移動される帯状または線状のワークを所定の巻付角度範囲で巻き付け、
前記回転筒の外周に巻き付けられたワークと前記回転筒に形成された環状開口の周壁と前記固定ドラムの外周とで囲まれる固定ドラムの外周に沿ったトンネル状空間に、前記所定の巻付角度範囲の角度位置に対応する前記固定ドラムの外周上の位置に開口したメッキ液供給通路からメッキ液を供給して、前記ワークと回転筒が離間する前記トンネル状空間の両端部よりメッキ液を排出しながら前記対電極と前記ワークとの間で通電し、前記ワークに所定のメッキを施すことを特徴とするメッキ方法である。
【0018】
第10の手段は、
前記所定のメッキが金メッキであることを特徴とする第8または第9の手段に記載のメッキ方法である。
【発明の効果】
【0019】
第1の手段によれば、外周面に対電極を露出させたドラムを固定とし、その外周にドラムとは別に新たな回転筒を配置して、その回転筒の外周にワークを巻き付けるようにし、回転筒に形成した環状開口を通して、ワークと対電極をメッキ液を介して対向させるようにしたので、対電極の管理が容易にできるようになる。つまり、メッキ品種が変わった場合などには、ドラム側には何も変更を加える必要はなく、回転筒側にだけ変更を加えればよくなり、対電極としてのドラムの管理の手間がかからなくなる。従って、コストダウンが可能になる。また、ワークと環状開口の周壁とドラムの外周とで囲まれるトンネル状空間にメッキ液を供給するので、十分な攪拌効果を発揮できる速い流速でメッキ液をメッキ面に対して平行に流すことができる。また、トンネル状空間の長さ方向の中間部においてメッキ液を供給し、トンネル状空間の両端部からメッキ液を排出するので、供給点から排出点までの距離を短くすることができ、メッキやけを防止することができ、その結果、高速処理が可能となる。
【0020】
第2の手段によれば、例えばメッキ幅を変える場合、回転筒を動かしたり交換したりして環状開口の幅を変更するだけでよいため、対電極(ドラム)を動かしたり変更したりするのと違って、対応が楽にできる。
【0021】
第3の手段によれば、回転筒の外周に環状溝を形成し、その環状溝の溝底面にワークを密着させるようにしたので、環状開口を通してのワークと対電極の距離の短縮が図れ、メッキ効率を上げることができる。また、その環状溝にワークを巻き付けるので、回転筒の周面幅方向におけるワークの巻き付け位置の位置決めができる。
【0022】
第4の手段によれば、環状溝の溝底面にマスクを配置し、マスクの上にワークを巻き付けるようにしたので、マスクを交換するだけで、メッキ仕様の変更が可能になる。
【0023】
第5の手段によれば、固定ドラム及び回転筒の中心に鉛直方向を向いた固定軸を貫通配備し、その固定軸により固定ドラム及び回転筒を支持したので、簡略で安定した構造を実現できる。
【0024】
第6の手段によれば、回転筒を上部端面板と下部端面板の外周端間に着脱可能に取り付けたので、回転筒の交換が容易であると共に、高い剛性で回転筒を支持することができる。また、また、固定ドラムは、上部・下部端面板と回転筒で囲まれる空間に収容したので、コンパクトな構造を実現できると共に、対電極を保護することができる。また、使用済みメッキ液は下部端面板の排出孔から下方へ落下させるので、無用な飛散も防げる。
【0025】
第7の手段によれば、固定ドラムに小径部分を設け、その小径部分の外周側にできる円弧形のスペースを使用済みメッキ液の排出経路として利用するので、使用済みメッキ液の排出性をよくすることができる。
【0026】
第8の手段によれば、メッキ装置と被処理物と溝とで構成されるトンネル状空間に、メッキ装置側から所定のメッキ液を供給し、メッキ液の一部はトンネル状空間を被処理物の移動方向に流し、メッキ液の他の部分はトンネル状空間を前記被処理物の移動方向と反対方向に流すので、使用済みメッキ液の排出性をよくすることができ、メッキの高速処理が可能となり生産性を向上させることができる。
【0027】
第9の手段によれば、ワークに、メッキやけを起こすことなく、60A/dm2以上の電流密度で通電することができるので、メッキの高速処理が可能となり生産性を向上させることができる。
【0028】
第10の手段によれば、第8または第9の手段にて説明したメッキの高速処理による生産性の向上は、当該メッキが金メッキであるときに顕著である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は実施形態のメッキ装置の原理構成を示す簡略図であり、(a)は上から見た断面図、(b)は(a)のIb−Ib矢視断面図である。この図を用いて、まず実施形態のメッキ装置の概略構成について述べる。
【0030】
図1において、Wは被メッキ部材としてのワークである。このワークWは帯板状のもので、その長さ方向(矢印C方向)に送り移動される。このメッキ装置は、メッキ槽の底壁より鉛直方向に立設された固定軸10と、固定軸10の外周に回り止め固定された固定ドラム20と、固定軸10の外周に略水平面内で回転自在に支持された回転ドラム30とを有する。固定ドラム20の外周面には、白金等よりなる対電極(当該メッキが金属メッキの場合は陽極となるので、以下、陽極21と記載する。)が露出状態で取り付けられている。
【0031】
回転ドラム30は、外周円筒部(回転筒)31と、上部端面板32と、下部端面板33とを有する中空回転体であり、その内部空間に固定ドラム20が収容され、外周円筒部31の内周が固定ドラム20の外周に微小間隙を介して対面している。この外周円筒部31の外周に、略水平面内で長手方向に送り移動されるワークWが所定巻付角度範囲(例えば、略半周に相当する180°前後)で巻き付けられる。従って、回転ドラム30は、ワークWの送り方向に沿って回転する。
【0032】
上部端面板32と下部端面板33の外周端間に取り付けられた外周円筒部31は、互いに別ピースとして作製された、上部端面板32に取り付けられた上側円筒体31Aと、下部端面板33に取り付けられた下側円筒体31Bとからなり、上側円筒体31Aと下側円筒体31Bの対向端縁間に所定の間隔Tが確保されることで、両端縁間に、外周円筒体31の周方向に連続し且つ外周円筒体31の外周から内周に貫通する環状開口35が設けられている。
【0033】
また、外周円筒体31の外周には、溝底面にワークWが密着して巻き付けられる環状溝34が形成され、その環状溝34の溝底面に、溝底面の幅より小さくして前記環状開口35が形成されている。従って、外周円筒部31の周面のワークWが巻き付けられる幅方向の位置の下側に環状開口35が位置している。また、環状溝34の溝底面には、メッキ領域を規定するためのマスク36が配設されており、このマスク36の上にワークWが巻き付け可能となっている。
【0034】
また、固定ドラム20の内部にはメッキ液供給通路22が形成されている。このメッキ液供給通路22は、固定軸10の内部通路11を介して送られてくるメッキ液をワークWに向けて送り出すものであり、その開口端22aが、ワークWが巻き付けられる回転ドラム30の所定巻付角度範囲の略中間の角度位置に対応する、固定ドラム20の外周上の位置に配置されている。
尤も、上述した固定ドラム20の内部に形成されるメッキ液供給通路22の位置は、回転ドラム30の所定巻付角度範囲の略中間の角度位置に限定される訳ではなく、メッキ液の粘度等の液体特性およびワークWの送り移動速度により、最適な角度位置を求めることとしても良い。この場合、後述するトンネル状空間52の両端部52b、52cから排出された使用済みメッキ液の量が、ほぼ等量となる位置とすればよい。当該構成は、例えば、ワークWが固定ドラム20と接する位置および離脱する位置を調整することで、容易に達成することができる。
また、メッキ液供給通路22は、前記メッキ液の液体特性に応じ、複数本設けることも可能である。
【0035】
メッキ液は、外周円筒部31に巻き付けられたワークWと、環状開口35の周壁と、固定ドラム20の外周とで囲まれる、固定ドラム20の外周に沿った矩形断面のトンネル状空間52を、メッキ処理のための流路として供給される。即ち、固定軸10の内部通路11を通ってきたメッキ液は、固定ドラム20のメッキ液供給通路22の開口端22aから、前記トンネル状空間52の長さ方向の中央部52aに供給されて、ワークWと外部円筒体31が離間するトンネル状空間52の両端部52b、52cより外へ排出される。ここでは、図示しないメッキ液供給ポンプと、固定軸10の内部通路11と、固定ドラム20内のメッキ液供給通路22と、トンネル状空間52等により、メッキ液供給系50が構成されている。
【0036】
また、下部端面板33には、トンネル状空間52の両端部52b、52cから排出された使用済みメッキ液を下方に排出する排出孔39が多数形成されている。なお、この固定ドラム20は、所定巻付角度範囲に対応した角度範囲だけが大径に形成され、残りの角度範囲がそれよりも小径に形成されることで、その小径に形成された部分の外周側に円弧形のスペース28が確保されており、この円弧形のスペース28が、トンネル状空間52の両端部52b、52cから排出された使用済みメッキ液を排出孔39から排出するための排出経路として利用されている。
尚、本発明の異なる実施の形態として、1個の外周円筒体31の外周にワークWを巻き付のではなく複数の外周円筒体に接する構成としても良い。さらに、円筒形の外周円筒体の代わりに、当該メッキ装置の平面部に設けられた溝と、当該溝に当接して移動するワークWとでトンネル状空間を形成することとしても良い。いずれの場合であっても、トンネル状空間にメッキ液を供給し、使用済みメッキ液は当該トンネル状空間の両端部から排出すればよい。
【0037】
次に図2を用いて、前記メッキ装置のより具体的な構成について説明する。
図2はメッキ装置の縦断面図であり、図中の符号で図1と同じものは、多少形状が違う場合もあるが、同じ部材を示している。
【0038】
図2において、10は導電材料製の固定軸、20は絶縁材料製の固定ドラム、30は絶縁材料製の回転ドラム、60はメッキ槽の底部壁を示している。固定軸10は、絶縁フランジ61を介してメッキ槽の底部壁60に立設されている。固定軸10には、絶縁フランジ61の下側にネジ嵌合した導電リング62を介して導線63が電気接続されている。
【0039】
固定軸10には、内部通路11として、軸下端面から縦孔11aが穿設され、縦孔11aの上部に外周面に連通する複数の横孔11bが設けられている。固定ドラム20は、前記横孔11bを覆う位置で、固定軸11の外周に嵌合されている。
【0040】
固定ドラム20の本体は、ワークWの巻付角度範囲に対応する片側の半円部分が大径とされ、残りの半円部分がそれより小径とされており、大径部分の外周に陽極21が多数のネジで固定されている。そして、固定軸10を介して導線63と陽極21とは電気的に導通している。
【0041】
前述したメッキ液供給通路22は、固定ドラム20の本体の半径方向に沿って形成されており、その開口端22aだけが、固定ドラム20の本体の外周に配した陽極21の孔または隙間から外に露出している。固定ドラム20の本体には、固定軸10の横孔11bから流入するメッキ液を受ける内周面の環状溝23aが設けられている。
【0042】
回転ドラム30は、軸受41、42を介して固定軸10の外周に回転自在に支持されている。そして、上部端面板32の外周端に、外部円筒部31を構成する上側円筒体31Aが着脱自在にネジ固定され、下部端面板33の外周端に、外部円筒部31を構成する下側円筒体31Bが着脱自在にネジ固定されている。環状溝34や環状開口35等の構成は、図1に示したものと同様である。
【0043】
その他の構成については、図1の原理構成のところで説明したものと同様であるので、説明は省略する。
【0044】
次に、図1、2を参照しながら、メッキ方法および作用を説明する。
ワークWに対しメッキ処理を行う場合は、回転ドラム30の外周円筒部31の環状溝34に、送り出し準備を整えたワークWを巻き付ける。その状態で、固定軸10を介して陽極21に通電し、陽極21とワークWとの間に電圧を印加しながら、メッキ液供給系50によりメッキ液を供給し、ワークWを送り移動する。そうすると、ワークWを巻き付けた部分にトンネル状空間52が形成され、その部分にメッキ液が供給され、ワークWのメッキ面と平行にメッキ液が流れて、ワークWがメッキされる。
【0045】
この場合、メッキ液は、トンネル状空間52の長さ方向の中間部52aから供給されて、トンネル状空間52の両端部52b、52cから排出される。そして、使用済みのメッキ液は、固定ドラム20の小径部分の外周側にできる円弧形のスペース28を経由して排出孔39からメッキ槽内の底部に排出される。
【0046】
このメッキ装置の場合、外周面に陽極21を配した固定ドラム20の外周に、新たな回転ドラム30を配置して、その回転ドラム30の外周にワークWを巻き付けるようにし、回転ドラム30の外周円筒部31に形成した環状開口35を通して、ワークWと陽極21をメッキ液を介して対向させるようにしているので、陽極21の管理が容易にできるようになる。
【0047】
つまり、メッキ品種が変わった場合などには、陽極21を取り付けた固定ドラム20側には何も変更を加える必要はなく、回転ドラム30側だけを変更すればよくなる。このため、陽極21側の固定ドラム20の管理の手間がかからなくなり、結果的にコストダウンが可能になる。
【0048】
また、ワークWと環状開口35の周壁と固定ドラム20の外周とで囲まれるトンネル状空間52にメッキ液を供給するので、十分な攪拌効果を発揮できる速い流速でメッキ液をメッキ面に対して平行に流すことができる。また、トンネル状空間52の長さ方向の中間部52aにおいてメッキ液を供給し、トンネル状空間52の両端部52b、52cからメッキ液を排出するので、供給点52aから排出点52b、52cまでの距離を短くすることができ、メッキやけを防止することができる。その結果、高速処理が可能となる。
【0049】
また、例えばメッキ仕様を変える場合には、マスク36を交換することで対応できるし、特に例えば大きくメッキ幅を変える場合には、上側円筒体31Aまたは下側円筒体31Bの少なくともいずれかを交換したりして環状開口35の幅を変更するだけで対応できる。このため、陽極21側の固定ドラム20を動かしたり変更したりする必要がない。
【0050】
また、回転ドラム30の外周円筒体31に環状溝34を形成し、その環状溝34の溝底面にワークWを密着させるようにしているので、環状開口35を通してのワークWと陽極21の距離の短縮を図ることができ、メッキ効率を上げることができる。また、環状溝34にワークWを巻き付けるので、回転ドラム30の周面幅方向におけるワークWの巻き付け位置の位置決めもできる。
【0051】
また、このメッキ装置は、固定ドラム20及び回転ドラム30の中心に鉛直方向を向いた固定軸10を貫通配備し、その固定軸10の外周に固定ドラム20及び回転ドラム30を取り付けているので、簡略で安定した構造を実現することができる。
【0052】
また、上側円筒体31Aと下側円筒体31Bを上部端面板32と下部端面板33の外周端にそれぞれ着脱可能に取り付けているので、剛性を維持しながら、上側円筒体31Aと下側円筒体31Bを容易に交換することができる。また、固定ドラム20を回転ドラム30内に収容しているので、コンパクトな構造を実現できると共に、固定ドラム20に取り付けた陽極21を保護することができる。また、回転ドラム30の下面の排出孔39から使用済みメッキ液を下方へ落下させるので、メッキ液の無用な飛散も防げる。
【0053】
また、固定ドラム20に小径部分を設け、その小径部分の外周側にできる円弧形のスペース28を使用済みメッキ液の排出経路として利用するので、使用済みメッキ液の排出性をよくすることができる。
【0054】
以上のことにより、メッキの限界電流密度を高くすることができる。例えば、従来のメッキ装置では20A/dmでメッキがこげてしまったものが、本発明に係るメッキ装置を用いることで60A/dm以上の電流密度でメッキを行うことが可能になり、更には、当該電流密度を100A/dmまで上げることが可能となった。
さらに、本発明に係るメッキ装置にてAuメッキを行った結果、メッキ速度は14μm/minであった。これは、従来のメッキ装置を用いた場合の1〜2μm/minに比べて大幅な改善であった。
【0055】
なお、上記実施形態では、環状開口35の幅を変更する際に、上側または下側円筒体31A、31Bの少なくとも一方を交換する場合について説明したが、上側または下側円筒体31A、31Bの少なくとも一方を環状開口35の幅を変更できる方向に可動に設けておいてもよい。
【0056】
また、このメッキ装置は、前記トンネル状空間の長さ方向の中間部においてメッキ液を供給しトンネル状空間の両端部からメッキ液を排出するので、前記固定ドラムの回転軸は、設置面に対して水平であっても垂直であっても良い。即ち、前記固定ドラムの回転軸は、このメッキ装置が設置される工程の必要に応じ、設置面に対し所望の角度をもって設置摺れば良い。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を用いて本発明の効果をより具体的に説明する。
(実施例1)
まず、幅50mm厚さ0.3mmの帯状銅板を準備し、公知の方法により電解脱脂、酸洗をおこなった後、スルファミン酸Ni(濃度405g/l)、ほう酸(濃度40g/l)液温50℃のスルファミン酸Niメッキ浴を用い、公知の方法により1μmのNiメッキを下地メッキとして成膜した。
得られたNiメッキを施した帯状銅板へ、本発明に係るメッキ装置を用いて0.1μmのAuメッキをおこなった。
このとき、本発明に係るメッキ装置として、固定ドラム径:φ400mm・回転ドラム径:φ410mmとして、流路となる環状溝の幅:10mm・環状溝の高さ:20mmを備えるドラム装置を準備した。そして当該ドラム装置のマスク開口幅:10mmおよびマスク厚み:3mmとし、Niメッキが施された帯状銅材へ、幅10mmの帯状にAuメッキ部を設けた。尚、陽極には白金板:高さ20mmを使用した。
Auメッキ液として、高純度化学製HS−10を用い、Au濃度を10g/l、20g/l、30g/lに調製した。
Auメッキ液の流速は、360m/min、170m/min、50m/minとした。
Auメッキ液の液温は、50℃、60℃とした。
メッキの際の電流密度は、10A/dm、60A/dm、100A/dmとした。
上述の条件にてAuメッキをおこなった際のAuメッキ速度を測定し、併せて外観を観察した。尚、このときAuメッキの膜厚測定にはX線膜厚計を用い、メッキ速度は(μm/min)に換算した。
当該測定結果を表1に記載する。
表1の結果から明らかなように、本発明に係るメッキ装置を用いた場合、上述したすべての条件において、外観良好でやけのないAuメッキを得ることができた。中でも、
Au濃度を30g/lに調製し、Auメッキ液の流速を360m/minとし、Auメッキ液の液温を60℃とし、メッキの際の電流密度を100A/dmとしたときは、20μm/minのメッキ速度を得ることができた。
【0058】
(比較例1)
メッキ装置として、図3に示す従来の技術に係る垂直流方式のメッキ装置と同様で、実施例1と同様のサイズのドラムを有し、当該ドラム内にメッキ液が滞留しない様、メッキ液排出口105の位置を調整したドラムを有するメッキ装置を準備し、その他の条件は実施例1と同様にして、Niメッキを施した帯状銅板へ0.1μmのAuメッキをおこなった。
当該測定結果に一部を表1に記載する。
表1の結果から明らかなように、比較例に係るメッキ装置を用いた場合、メッキ速度を3.8μm/minとすると外観にやけが発生し、メッキ速度を上げることができなかった。
【0059】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施形態に係るメッキ装置の原理構成を示す簡略図で、(a)は上から見た断面図、(b)は(a)のIb−Ib矢視断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るメッキ装置の構成を示す縦断面図である。
【図3】従来のメッキ装置の一例を示し、(a)は側面図、(b)は(a)のVb−Vb矢視断面図である。
【図4】従来のメッキ装置の別の一例を示し、(a)は側面図、(b)は(a)のVIb−VIb矢視断面図である。
【符号の説明】
【0061】
10 固定軸
11 内部通路
20 固定ドラム
21 陽極
22 メッキ液供給通路
22a 開口端
28 円弧形のスペース
30 回転ドラム
31 外周円筒部(回転筒)
31A 上側円筒体
31B 下側円筒体
32 上部端面板
33 下部端面板
34 環状溝
35 環状開口
36 マスク
39 排出孔
50 メッキ液供給系
52 トンネル状空間
52a 中間部
52b、52c 両端部
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に対電極を露出させた固定ドラムと、
該固定ドラムの外周に所定の間隙を介して回転自在に配置され、長手方向に送り移動される帯状または線状のワークが外周に所定の巻付角度範囲で巻き付けられる回転筒と、
該回転筒の周面の前記ワークが巻き付けられる幅方向の位置の下側に形成され、前記回転筒の周方向に連続し且つ回転筒の外周から内周に貫通するように設けられた環状開口と、
前記ワークが巻き付けられる回転筒の前記所定の巻付角度範囲の角度位置に対応する前記固定ドラムの外周上の位置に開口したメッキ液供給通路と、
前記回転筒の外周に巻き付けられたワークと前記回転筒に形成された環状開口の周壁と前記固定ドラムの外周とで囲まれる、固定ドラムの外周に沿ったトンネル状空間を流路とし、該流路に前記液供給通路からメッキ液を供給して、前記ワークと回転筒が離間する前記トンネル状空間の両端部よりメッキ液を排出するメッキ液供給系と、
を具備することを特徴とするメッキ装置。
【請求項2】
前記回転筒が、前記環状開口の幅を変更できるように、可動または交換可能に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のメッキ装置。
【請求項3】
前記回転筒の外周に、溝底面に前記ワークが密着して巻き付けられる環状溝が形成されており、その環状溝の溝底面に該溝底面の幅より小さくした前記環状開口が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のメッキ装置。
【請求項4】
前記環状溝の溝底面にメッキ領域を規定するマスクが配置されており、そのマスクの上に前記ワークが巻き付け可能とされていることを特徴とする請求項3に記載のメッキ装置。
【請求項5】
前記固定ドラム及び回転筒の中心に鉛直方向を向いた固定軸が貫通配備されており、その固定軸に、前記固定ドラムが回り止め状態で支持されると共に、前記回転筒が略水平面内で回転自在に支持されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のメッキ装置。
【請求項6】
前記回転筒が、前記固定軸に回転自在に支持された上部端面板及び下部端面板の外周端間に着脱可能に取り付けられ、上部・下部端面板及び回転筒で囲まれる空間に前記固定ドラムが収容されており、前記下部端面板に、前記トンネル状空間の両端部から排出された使用済みメッキ液を下方に排出する排出孔が設けられていることを特徴とする請求項5に記載のメッキ装置。
【請求項7】
前記固定ドラムは、前記所定巻付角度範囲に対応した角度範囲だけが大径に形成され、残りの角度範囲がそれよりも小径に形成されることで、その小径に形成された部分の外周側に円弧形のスペースが確保されており、その円弧形のスペースが、前記トンネル状空間の両端部から排出された使用済みメッキ液を前記排出孔から排出するための排出経路とされていることを特徴とする請求項6に記載のメッキ装置。
【請求項8】
メッキ装置に、長手方向へ移動する帯状または線状の被処理物を当接させながら、前記被処理物に所定のメッキを施すメッキ方法であって、
前記メッキ装置の前記被処理物が当接する部分に、前記被処理物より狭幅で連続する溝を設け、前記メッキ装置と前記被処理物と前記溝とで構成されるトンネル状空間に、前記メッキ装置側から所定のメッキ液を供給し、
前記メッキ液の一部は、前記トンネル状空間を前記被処理物の移動方向に流し、
前記メッキ液の他の部分は、前記トンネル状空間を前記被処理物の移動方向と反対方向に流しながら、前記メッキ装置と前記被処理物との間で通電し、前記被処理物の前記メッキ液と接触する部分に所定のメッキを施すことを特徴とするメッキ方法。
【請求項9】
外周面に対電極を露出させた固定ドラムの外周に所定の間隙を介して回転自在に配置され環状開口の周壁を有する回転筒の外周へ、長手方向に送り移動される帯状または線状のワークを所定の巻付角度範囲で巻き付け、
前記回転筒の外周に巻き付けられたワークと前記回転筒に形成された環状開口の周壁と前記固定ドラムの外周とで囲まれる固定ドラムの外周に沿ったトンネル状空間に、前記所定の巻付角度範囲の角度位置に対応する前記固定ドラムの外周上の位置に開口したメッキ液供給通路からメッキ液を供給して、前記ワークと回転筒が離間する前記トンネル状空間の両端部よりメッキ液を排出しながら前記対電極と前記ワークとの間で通電し、前記ワークに所定のメッキを施すことを特徴とするメッキ方法。
【請求項10】
前記所定のメッキが金メッキであることを特徴とする請求項8または9に記載のメッキ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−183085(P2006−183085A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−376955(P2004−376955)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000224798)同和鉱業株式会社 (550)
【Fターム(参考)】