説明

メラガトランの新規製造法

式I(式中、Rは、C1-6アルキル基またはベンジル基である)で示される化合物を加水分解して、式IIで示される中間体化合物を、実質的に塩を含有しない形で形成させること、次いで前記中間体化合物を還元することを含む、メラガトランを生体外で製造するための方法が提供されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロンビン阻害化合物であるメラガトランの新規製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
国際特許出願WO94/29336は、セリンプロテアーゼ(たとえば、トロンビンおよび/またはキニノゲナーゼ)の阻害薬として有用な一群の化合物を開示している。したがってトロンビン阻害化合物が抗凝固薬として、そしてキニノゲナーゼ阻害化合物が抗炎症薬として示されている。
【0003】
WO94/29336に具体的に開示されているトロンビン阻害化合物の1つがHO2C-CH2-(R)Cgl-(S)Aze-Pab-H(式中、Cglはシクロヘキシルグリシニルであり、Azeはアゼチジン-2-カルボキシルであり、Pabはパラ-アミジノベンジルアミノである)であり、メラガトランとしても知られている(WO94/29336の実施例1を参照)。
【0004】
国際特許出願WO97/23499は、特にメラガトランのプロドラッグを開示している。WO97/23499に記載のプロドラッグは、式RO2C-CH2-(R)Cgl-(S)Aze-Pab-OH〔式中、Rは、直鎖もしくは分岐鎖のC1-6アルキル(たとえば、C1-4アルキル、特にメチル、n-プロピル、イソプロピル、t-ブチル、およびとりわけエチル)又はベンジルであり、Pabにおけるアミジノ水素の1つがOH基で置き換わっており、Cgl、Aze、およびPabは前記にて定義したとおりである〕のプロドラッグを含む。式EtO2C-CH2-(R)Cgl-(S)Aze-Pab-OHのプロドラッグ(WO97/23499の実施例17を参照)(キシメラガトランとしても知られている)が現在、患者への経口投与用としてさかんに臨床開発されている。
【0005】
上記の個々の特許出願中にてメラガトランとキシメラガトランに関して記載されている合成経路は全く異なる。
WO97/23499に開示されている特定のアルキルエステル誘導体(キシメラガトランそのものを含む)から、コスト効率が良くて且つ簡便な方法で直接メラガトランを製造できる、ということを我々は見出した。
【発明の開示】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、

【0007】
【化1】

【0008】
で示されるメラガトランを生体外で製造するための方法が提供され、前記方法は、式I
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、Rは、直鎖もしくは分岐鎖のC1-6アルキル基またはベンジル基である)で示される化合物を加水分解して、式II
【0011】
【化3】

【0012】
で示される中間体化合物を、実質的に塩を含有しない形で形成させること、次いで前記中間体化合物を還元することを含む(この方法を、本明細書では“本発明の方法”と呼ぶ)。
置換基Rの好ましい例としては、C1-3アルキル基などのC1-4アルキル基(メチル、n-プロピル、イソプロピル、および特にエチル基など)、または置換されていてもよいベンジルのようなベンジル基等がある。ベンジル基上の適切な任意の置換基としては、ハロ(たとえば、クロロやブロモ)、C1-6(たとえばC1-4)アルキル(たとえばメチル)、およびC1-6(たとえばC1-4)アルコキシ(たとえばメトキシ)等がある。
【0013】
“実質的に塩を含有しない”とは、式IIの中間体化合物が形成され、したがって、本発明の加水分解工程の後で、そして還元工程の前に、>95%、たとえば>98%、好ましくは>99%、そして特に>99.9%の遊離酸の(および/または、ある両性イオンの)形態〔すなわち、式IIの化合物のそれぞれ5%以下、たとえば2%以下、好ましくは1%以下、そして特に0.1%以下が塩の形態をとっている(無機の対イオンまたは有機の対イオンと共に)〕で単離(たとえば沈殿によって)することができる、ということを意味している。
【0014】
式Iの化合物は、公知の方法(たとえば、国際特許出願WO97/23499に記載の方法)によって製造することができる。
加水分解工程は、塩基性条件下で行える場合もあるし、行えない場合もある(たとえば、加水分解は、酸性条件下で行うこともできる)。塩基加水分解は、アルカリ金属炭酸塩(たとえば、炭酸カリウムや炭酸ナトリウム)の存在下で行うこともできるし、あるいは好ましくはアルカリ金属水酸化物(たとえば、水酸化リチウムや水酸化カリウム、好ましくは水酸化ナトリウム)の存在下で行うこともできる。
【0015】
塩基は、式Iの化合物を適切な溶媒〔たとえば水混和性溶媒(たとえばC1-6アルキルアルコール(たとえば、イソプロパノール、メタノール、または特にエタノール)等の低級アルキルアルコール;エチレングリコール等のジオール;テトラヒドロフラン、ジオキサン、および/またはジメチルグリコレート等のエーテル;および/または水〕中に混合して得た溶液に固体形態で加えることができるが、水溶液〔たとえば1M〜3M(たとえば2M)の水溶液〕の形態で加えるのが好ましい。これらの溶媒の混合物も使用することができる。これとは別に、加水分解工程は、加水分解に対して不活性である有機溶媒(たとえばトルエン)と、上記した塩基の1種以上の水溶液とを含んだ二相系において行うこともできる。
【0016】
加水分解は、使用する溶媒の沸点に応じて0℃〜100℃の温度で行うことができる。しかしながら反応は、ほぼ室温またはそれ以上の温度(たとえば、約15℃〜約50℃またはその近傍温度)で行うのが好ましい。反応時間は、約15分〜約6時間(たとえば、約30分〜約4時間)の範囲である。当業者にとっては言うまでもないことであるが、反応時間は、特に反応混合物の温度および使用する溶媒に依存する。
【0017】
式IIの化合物は、加水分解工程を塩基性条件下で行う場合に、反応混合物を酸性化することを含む合成上の最終処理(preparative work-up)によって、実質的に塩を含有しない形態にて作製する(したがって単離する)ことができる。酸性化は、硫酸、リン酸、臭化水素酸、または好ましくは塩酸等の無機酸を加えることによって行うことができる。酸はそのまま加えることもできるが、水溶液の形態で供給するのが好ましい。得られる混合物のpH値は、弱酸性のpH(たとえば、pH4〜6、好ましくはpH4.5〜5.5、そして特にpH5又はその近傍)に調節するのが好ましい。
【0018】
合成上の最終処理を上記のような仕方で行うことによって、形成される塩(たとえば無機塩)が、中間体から分離する前に水性相に適切に溶解する、ということを我々は見出した。しかしながら、適切な溶媒中に溶解する形での中間体を得る目的で、加水分解工程を水非含有塩基(a water-free base)の存在下にて、そして引き続き最終処理を水非含有酸(a water-free acid)の存在下にて行うこともできる(この場合、形成される無機塩があれば、沈殿を起こすので、これを濾過により除去する)。
【0019】
式IIの中間体化合物を実質的に塩を含有しない形で形成させるのに使用される方法とは関係なく、式IIの中間体化合物は、必要に応じて、適切な方法によって〔たとえば、溶媒の蒸発除去によって(中間体が、適切な溶媒中に溶解する形で形成される場合)、あるいは沈殿と濾過によって(望ましくない塩を、分離する前に水性相中に溶解させる場合)〕単離することができる。
【0020】
本発明の方法の還元工程は、適切な触媒系の存在下にて水素化によって(すなわち水素添加分解反応)行うのが好ましい。触媒は、高価な遷移金属(たとえば、白金、ルテニウム、または特にパラジウム)であるのが好ましい。遷移金属は、そのまま粉末形態で使用することもできるし、その酸化物又は水酸化物として使用することもできるし、あるいは好ましくは活性炭粉末のような適切な担体上に担持させることもできる。一般には、活性炭担持パラジウムが使用される(たとえば5%Pd/C)。
【0021】
水素化は、適切な溶媒系の存在下で行うことができる。使用される溶媒系は、前の工程にしたがって形成される中間体化合物の溶解度を上げる目的で使用される。この点において、アルコール/水混合物中の水の量は、好ましくは20%(たとえば25%)〜45%の範囲であり、さらに好ましくは30%〜40量%(v/v)の範囲である。適切な溶媒系としては、低級アルキルアルコール(たとえば、イソプロパノール、メタノール、または特にエタノール等のC1-6アルキルアルコール)および/または水がある。好ましい溶媒系としては、上記低級アルキルアルコール(特にメタノール、およびとりわけエタノール)と水との適切な比率における混合物がある。たとえば、溶媒系がメタノールと水との混合物であるとき、適切な混合物は、メタノール:水(v/v)の比率が75:25〜65:33の範囲であり、さらに好ましくは72:28〜67:33の範囲(たとえば、70:30またはその近傍)であり;そして溶媒系がエタノールと水との混合物であるとき、適切な混合物は、エタノール:水(v/v)の比率が70:30〜60:40の範囲であり、さらに好ましくは65:35〜61:39の範囲(たとえば、62.5:37.5またはその近傍)である。
【0022】
水素化は、水素の正圧下〔たとえば、少なくとも2バール(たとえば、少なくとも3バール)の、好ましくは少なくとも4バールの水素圧〕で行うことができる。反応は、使用する溶媒系に応じた適切な温度で(たとえば高温で)行うことができる。溶媒系がメタノール/水混合物〔たとえば、メタノール対水が70:30(v/v)の比率の混合物〕であるとき、一般的な反応温度は55℃〜65℃の範囲である。溶媒系がエタノール/水混合物〔たとえば、エタノール対水が60:40〜65:35(v/v)の範囲の比率(たとえば62.5:37.5(v/v))の混合物〕であるとき、一般的な反応温度は65℃〜75℃の範囲であり、たとえば65℃〜72℃であり、たとえば68℃〜70℃またはその近傍温度である。一般的な反応時間は、12〜48時間の範囲であり、たとえば18〜36時間であり、たとえば20〜30時間(たとえば24時間)またはその近傍時間である。当業者には周知のことであるが、触媒の性質と量が、反応速度に、したがって反応時間に影響を及ぼす。
【0023】
還元工程に引き続いて行う合成上の最終処理は、公知の方法を使用して(たとえば、周囲温度に冷却し、濾過し、そしてたとえば後述するように溶媒を蒸発除去することによって)行うことができる。
【0024】
無機酸および/または追加のカルボン酸の非存在下で水素化を行うのが本発明のさらに好ましい実施態様である。驚くべきことに、本発明の方法の還元工程をこのような酸の非存在下で行うと、還元反応が効率的に進行し、この結果メラガトランが、反応中もしくは合成上の最終処理中に形成される塩を除去するために必ずしも精製を施す必要がない形で得られる、ということを我々は見出した。“無機酸/追加のカルボン酸の非存在”とは、反応混合物が、別個の及び/又は無関係の(すなわち外来性の)供給源に由来するこのような酸(式IIの反応化合物として本質的に存在するものには関わらない)を、3%未満(たとえば2%未満)、好ましくは1%未満、さらに好ましくは0.5%未満、そして特に0.1%(w/w)未満の量にて含む、ということを意味している。
【0025】
次いでメラガトランを単離することができ、そして必要に応じて、公知の方法によって〔たとえば、適切な溶媒系から再結晶し(たとえば、国際特許出願WO01/02426に記載のように)、次いでデカントし、濾過し、および/または遠心分離することによって〕精製することができる。結晶化は、種結晶を使用しても、使用しなくても行うことができる。
【0026】
本発明の方法によって形成されるメラガトランは、とりわけ国際特許出願WO94/29336およびWO97/23499に記載の疾病を含めて、トロンビンの阻害が要望されるか又は必要とされる疾病の治療および/または予防に対して使用することができる。
【0027】
本発明の方法は、メラガトランの全体的な合成に関し、先行技術において説明されている方法によって製造する場合と比べてより高い収率で、より速やかに、より効率的に、より高い純度で、より簡便に、および/またはより低いコストでメラガトランを製造することができる、という利点を有する。
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、この実施例によって本発明が限定されることはない。
【実施例】
【0029】
実施例1
メラガトラン一水和物の合成
(a) HO2C-CH2-(R)Cgl-(S)Aze-Pab-OH
キシメラガトラン(WO97/23499の実施例17を参照;10g;21.11ミリモル;1当量)をエタノール(100ml)中に溶解し、2MのNaOH溶液(12.7ml;25.34ミリモル;1.2当量)を加えた。本混合物を20〜25℃にて4時間攪拌した。反応完了後、反応混合物を2MのHCl溶液(12.7ml;25.34ミリモル;1.2当量)でpH5に酸性化してから、さらに40mlの水を加えた。沈殿した白色固体を濾過によって採取した。乾燥後、副題(サブタイトル)の化合物がオフホワイト色の固体として得られた。収率は約90%(w/w)であった。
【0030】
(b) メラガトラン一水和物
HO2C-CH2-(R)Cgl-(S)Aze-Pab-OH(5g;11.2ミリモル;上記の工程(a)を参照)を、50mlのエタノール/水(62/38)および炭素担持パラジウム(5%Pd/C;0.75g;モイスト50%(w/w)水)と混合した。次いで、得られたスラリーを、激しく攪拌しながら24時間にわたって水素化(68℃にて4バールの水素圧力)した。室温に冷却した後、不活性雰囲気下で活性炭(0.5g)を加え、混合物を30分攪拌した。触媒と炭素を濾別し、濾液から溶媒を蒸発除去した。標題の化合物が白色固体として得られた(約4.9g)。
【0031】
粗製のメラガトラン一水和物は、国際特許出願WO01/02426に記載のように再結晶させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】

【化1】

で示されるメラガトランを生体外で製造するための方法であって、式I
【化2】

(式中、Rは、直鎖もしくは分岐鎖のC1-6アルキル基またはベンジル基である)で示される化合物を加水分解して、式II
【化3】

で示される中間体化合物を、実質的に塩を含有しない形で形成させること、次いで前記中間体化合物を還元すること、を含む前記製造法。
【請求項2】
Rが、直鎖もしくは分岐鎖のC1-4アルキル基またはベンジル基である、請求項1に記載の製造法。
【請求項3】
Rが、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、またはベンジルである、請求項1または請求項2に記載の製造法。
【請求項4】
Rがエチルである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造法。
【請求項5】
加水分解工程を塩基の存在下で行う、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造法。
【請求項6】
塩基がアルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属水酸化物である、請求項5に記載の製造法。
【請求項7】
塩基が、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、または水酸化ナトリウムである、請求項6に記載の製造法。
【請求項8】
塩基が水酸化ナトリウムである、請求項7に記載の製造法。
【請求項9】
加水分解工程を、低級アルキルアルコール、ジオール、エーテル、および/または水を溶媒として存在させて行う、請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造法。
【請求項10】
溶媒がC1-6アルキルアルコールと水との混合物である、請求項9に記載の製造法。
【請求項11】
アルコールがエタノールである、請求項10に記載の製造法。
【請求項12】
加水分解工程を約15℃〜約50℃の温度にて行う、請求項1〜11のいずれか一項に記載の製造法。
【請求項13】
加水分解工程の次に行われる合成上の最終処理が反応混合物を酸性化することを含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の製造法。
【請求項14】
加えられる酸が、硫酸、リン酸、臭化水素酸、または塩酸である、請求項13に記載の製造法。
【請求項15】
pHを弱酸性の値に調節する、請求項13または請求項14に記載の製造法。
【請求項16】
pH値がpH5またはその近傍である、請求項15に記載の製造法。
【請求項17】
還元工程を適切な触媒系の存在での水素化によって行う、請求項1〜16のいずれか一項に記載の製造法。
【請求項18】
触媒が貴金属である、請求項17に記載の製造法。
【請求項19】
金属が、白金、ルテニウム、またはパラジウムである、請求項18に記載の製造法。
【請求項20】
金属がパラジウムである、請求項19に記載の製造法。
【請求項21】
金属を担体に担持させる、請求項18〜20のいずれか一項に記載の製造法。
【請求項22】
担体が活性炭粉末である、請求項21に記載の製造法。
【請求項23】
水素化を、低級アルキルアルコール、水、またはこれらの混合物を含む溶媒系の存在下にて行う、請求項17〜22のいずれか一項に記載の製造法。
【請求項24】
アルコールがC1-6アルキルアルコールである、請求項23に記載の製造法。
【請求項25】
アルコールが、イソプロパノール、メタノール、またはエタノールである、請求項24に記載の製造法。
【請求項26】
溶媒系が、メタノールと水との混合物またはエタノールと水との混合物である、請求項23〜25のいずれか一項に記載の製造法。
【請求項27】
溶媒系が、メタノールと水との70:30(v/v)もしくはその近傍の比率における混合物、またはエタノールと水との62.5:37.5(v/v)もしくは近傍の比率における混合物である、請求項26に記載の製造法。
【請求項28】
水素化を高温にて行う、請求項17〜27のいずれか一項に記載の製造法。
【請求項29】
水素化を水素の正圧下にて行う、請求項28に記載の製造法。
【請求項30】
水素化を少なくとも4バールの水素圧力下で行う、請求項29に記載の製造法。
【請求項31】
無機酸または追加のカルボン酸を反応混合物の一部としては存在させないで水素化を行う、請求項17〜30のいずれか一項に記載の製造法。

【公表番号】特表2007−536197(P2007−536197A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517053(P2006−517053)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【国際出願番号】PCT/SE2004/001016
【国際公開番号】WO2004/113364
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(300022641)アストラゼネカ アクチボラグ (581)
【Fターム(参考)】