説明

モノリシック半導体レーザ装置

【課題】第1,第2レーザ発振部を同時に駆動させたときばかりでなく、第1,第2レーザ発振部のそれぞれを独立駆動させたときにも、第1,第2レーザ発振部の出力変動を低減できるモノリシック半導体レーザ装置を提供する。
【解決手段】
n型GaAs基板100上には、第1レーザ発振部101を形成すると共に、第1レーザ発振部101の側方に分離溝103を介して位置するように、第2レーザ発振部102を形成している。第1,第2リッジ部110A,110Bの幅方向の中心から、分離溝103の第1,第2リッジ部110A,110B側の側面までの距離α1,α2は、5μmを越えるように設定されている。これにより、第1,第2リッジ部110A,110Bの漏出光を減らすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモノリシック半導体レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体レーザ装置としては、例えば光ディスク等の光学記録媒体に対する記録再生を行う光学装置の光源、または、レーザビームプリンタの光源として用いられているものがある。この半導体レーザ装置の中には、高速記録再生または高速プリントをできるように、複数のレーザビームを用いて複数のドットを同時に書き込むマルチビーム型半導体レーザ装置がある。
【0003】
上記マルチビーム型半導体レーザ装置は、単数のレーザビームを出射する半導体レーザ素子を複数並べて形成することもできるが、このように形成する場合は、部品数が多く、また、組み立て精度の問題がある。このため、近年では、マルチビーム型モノリシック半導体レーザ装置が要求されている。
【0004】
以下、上記マルチビーム型モノリシック半導体レーザ装置の一例である2ビーム型モノリシック半導体レーザ装置について説明する。
【0005】
上記2ビーム型モノリシック半導体レーザ装置では、1つの半導体基板上に、第1,第2レーザ発振部を分離溝を介して隣り合うように形成している。この第1,第2レーザ発振部は、それぞれ、エアリッジ構造を有している。また、上記第1レーザ発振部のエアリッジ構造と、第2レーザ発振部のエアリッジ構造とは、互いに同一の半導体材料からなっている。また、上記第1,第2レーザ発振部上にp側電極を形成し、半導体基板下にn側電極を形成している。
【0006】
このような構成の2ビーム型モノリシック半導体レーザ装置は、p側電極とn側電極との間に所定の電圧が印加されることにより、第1,第2レーザ発振部の各活性層に電流が注入され、電子−正孔再結合による発光が各活性層で起こる。この各活性層において発生した光は、活性層の一方の端面と活性層の他方の端面との間を往復して増幅され、活性層の一方の端面から外部に出射されるようになっている。
【0007】
また、上記2ビーム型モノリシック半導体レーザ装置の分離溝は、第1レーザ発振部と第2レーザ発振部との電気的絶縁を図るためのもので、p側電極から半導体基板に至る深さまで形成されている。これにより、上記第1,第2レーザ発振部を個別に出力制御できるようになっている。
【0008】
上述したような分離溝は、特開平11−354888号公報(特許文献1)、特開平6−29618号公報(特許文献2)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−354888号公報
【特許文献2】特開平6−29618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記2ビーム型モノリシック半導体レーザ装置では、第1レーザ発振部の活性層が分離溝を介して第2レーザ発振部の活性層と対向する位置関係にある。このため、上記第1,第2レーザ発振部を同時に駆動させたり、第1,第2レーザ発振部のそれぞれを独立に駆動させたりしたときに、第1,第2レーザ発振部の一方の活性層から漏れ出た光が第1,第2レーザ発振部の他方の活性層へ入射してしまう。その結果、上記第1,第2レーザ発振部の他方の発振動作に悪影響が生じて、レーザ出力が変動するという問題があった。
【0011】
また、上記2ビーム型モノリシック半導体レーザ装置を小型化するため、分離溝の幅を狭くすると、レーザ出力の変動が大きくなってしまう。
【0012】
このようなレーザ出力の変動がレーザビームプリンタで起きた場合、「白スジ」と称される色ムラを発生させる場合がある。
【0013】
また、上記レーザ出力の変動は、特開平11−354888号公報および特開平6−29618号公報でも発生する。
【0014】
より詳しく説明すると、特開平11−354888号公報では、ポリイミド等の絶縁体で分離溝を埋めている一方、特開平6−29618号公報では、分離溝の側面および底面を窒化シリコン膜で覆っている。
【0015】
しかしながら、上記絶縁体および窒化シリコン膜は光透過性であるので、一方のレーザ発振部の活性層からの漏出光が他方のレーザ発振部の活性層に入射するのを規制できない。したがって、特開平11−354888号公報および特開平6−29618号公報でも、レーザ出力の変動が起きてしまう。
【0016】
そこで、本発明の課題は、レーザ出力の変動を低減できるモノリシック半導体レーザ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、本発明のモノリシック半導体レーザ装置は、
半導体基板と、
上記半導体基板上に形成され、第1リッジ部を有する第1レーザ発振部と、
上記半導体基板上に形成されて、上記第1レーザ発振部の側方に分離溝を介して位置し、第2リッジ部を有する第2レーザ発振部と、
上記第1リッジ部の側面を覆う第1誘電体膜と、
上記第1リッジ部上および上記第1誘電体膜上に形成された第1電極と、
上記第2リッジ部の側面を覆う第2誘電体膜と、
上記第2リッジ部上および上記第2誘電体膜上に形成された第2電極と
を備え、
上記第1リッジ部の幅方向の中心から、上記分離溝の上記第1リッジ部側の側面までの距離が5μmを越え、かつ、上記第2リッジ部の幅方向の中心から、上記分離溝の上記第2リッジ部側の側面までの距離が5μmを越えている
ことを特徴としている。
【0018】
上記構成によれば、上記第1リッジ部の幅方向の中心から、分離溝の第1リッジ部側の側面までの距離が5μmを越え、かつ、第2リッジ部の幅方向の中心から、分離溝の第2リッジ部側の側面までの距離が5μmを越えているので、第1,第2レーザ発振部の一方の漏出光が第1,第2レーザ発振部の他方に入射するのを防ぐことができる。したがって、上記第1,第2レーザ発振部の他方の発振動作に悪影響が生じないようにして、レーザ出力の変動を低減することができる。
【0019】
また、上記第1リッジ部の幅方向の中心から、分離溝の第1リッジ部側の側面までの距離が5μmを越え、かつ、第2リッジ部の幅方向の中心から、分離溝の第2リッジ部側の側面までの距離が5μmを越えているので、分離溝の幅を狭くしても、レーザ出力の変動を低減でき、その上、放射特性が悪くなるのも防ぐことができる。
【0020】
一実施形態のモノリシック半導体レーザ装置では、
上記第1誘電体膜の膜厚が0.05μm以下であり、かつ、上記第2誘電体膜の膜厚が0.05μm以下である。
【0021】
上記実施形態によれば、上記第1誘電体膜の膜厚が0.05μm以下であり、かつ、第2誘電体膜の膜厚が0.05μm以下であるので、第1,第2電極を光吸収部として機能させることができる。したがって、上記第1,第2リッジ部において横方向の光閉じ込め作用が働くため、第1,第2リッジ部内への光閉じ込めの温度依存性が弱くなる結果、レーザ出力の変動を効果的に防ぐことができる。
【0022】
一実施形態のモノリシック半導体レーザ装置では、
上記半導体基板上には、上記第1レーザ発振部および第2レーザ発振部とは別に少なくとも1つのレーザ発振部が形成されている。
【0023】
上記実施形態によれば、上記第1レーザ発振部および第2レーザ発振部とは別に、半導体基板上に少なくとも1つのレーザ発振部が形成されているので、光学記録媒体に対する記録再生や、被印刷体へのプリントを高速化することができる。
【0024】
一実施形態のモノリシック半導体レーザ装置では、
上記第1レーザ発振部が発振するレーザビームの波長は、上記第2レーザ発振部が発振するレーザビームの波長と異なる。
【0025】
上記実施形態によれば、上記第1レーザ発振部が発振するレーザビームの波長は、第2レーザ発振部が発振するレーザビームの波長と異なるので、例えば、CD(コンパクトディスク)/DVD(デジタル万能ディスク)兼用光ピックアップに使用できる。
【0026】
一実施形態のモノリシック半導体レーザ装置では、
上記分離溝の両側面は露出している。
【0027】
上記実施形態によれば、上記分離溝の両側面は露出しているので、例えば光透過膜や光透過膜といった他の膜で分離溝の両側面を覆わなくてもよく、製造コストを低減できる。
【0028】
一実施形態のモノリシック半導体レーザ装置では、
上記第1リッジ部の幅方向の中心から、上記分離溝の上記第1リッジ部側の側面までの距離が40μm以下であり、かつ、上記第2リッジ部の幅方向の中心から、上記分離溝の上記第2リッジ部側の側面までの距離が40μm以下である。
【0029】
上記実施形態によれば、上記第1リッジ部の幅方向の中心から、分離溝の第1リッジ部側の側面までの距離が40μm以下であり、かつ、第2リッジ部の幅方向の中心から、分離溝の第2リッジ部側の側面までの距離が40μm以下であるので、半導体基板上に第1,第2レーザ発振部を良好に形成することができる。
【0030】
一実施形態のモノリシック半導体レーザ装置では、
上記第1誘電体膜の膜厚が0.030μm以上であり、かつ、上記第2誘電体膜の膜厚が0.030μm以上である。
【0031】
上記実施形態によれば、上記第1誘電体膜の膜厚が0.030μm以上であり、かつ、第2誘電体膜の膜厚が0.030μm以上であるから、半導体基板上に第1,第2レーザ発振部を良好に形成することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明のモノリシック半導体レーザ装置によれば、上記第1リッジ部の幅方向の中心から、分離溝の第1リッジ部側の側面までの距離が5μmを越え、かつ、第2リッジ部の幅方向の中心から、分離溝の第2リッジ部側の側面までの距離が5μmを越えているので、第1,第2レーザ発振部の一方の漏出光が第1,第2レーザ発振部の他方に入射するのを防ぐことができる。したがって、上記第1,第2レーザ発振部の他方の発振動作に悪影響が生じないようにして、レーザ出力の変動を低減することができる。
【0033】
また、上記第1リッジ部の幅方向の中心から、分離溝の第1リッジ部側の側面までの距離が5μmを越え、かつ、第2リッジ部の幅方向の中心から、分離溝の第2リッジ部側の側面までの距離が5μmを越えているので、分離溝の幅を狭くしても、レーザ出力の変動を低減でき、その上、放射特性が悪くなるのも防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は本発明の一実施形態の2ビーム型モノリシック半導体レーザ装置の断面の模式図である。
【図2】図2は第1,第2誘電体膜の膜厚とリッジ幅との関係を示すグラフである。
【図3A】図3Aはα1,α2を5μmに設定したときの屈折率差の横方向の変化を示すグラフである。
【図3B】図3Bはα1,α2を13μmに設定したときの屈折率差の横方向の変化を示すグラフである。
【図4A】図4Aはリッジ中心からの位置と光強度の関係を示すグラフである。
【図4B】図4Bは図4Aの楕円内およびその周辺部の拡大図である。
【図5A】図5Aはα1,α2を5μmに設定したときの光出力と注入電流との関係を示すグラフである。
【図5B】図5Bはα1,α2を13μmに設定したときの光出力と注入電流との関係を示すグラフである。
【図6】図6はキンクレベルとリッジ幅−カット幅との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明のモノリシック半導体レーザ装置を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0036】
図1は、本発明の一実施形態の2ビーム型モノリシック半導体レーザ装置を振器長方向に垂直な面で切った断面を模式的に示す図である。
【0037】
上記2ビーム型モノリシック半導体レーザ装置は、半導体基板の一例としてのn型GaAs基板100と、エアリッジ構造を有する第1レーザ発振部101と、エアリッジ構造を有する第2レーザ発振部102とを備え、チップ幅方向(図1の左右方向)の長さが200μmとなっている。
【0038】
また、上記チップ幅方向において、第1レーザ発振部101と第2レーザ発振部102を、分離溝103によって、電気的に分離している。この分離溝103の形成は、ドライエッチングまたはウエットエッチングなどの一般的な方法で行っている。また、上記分離溝103は、幅βが4μmで、p型AlGaInP第1クラッド層107A,107B
からn型InGaPバッファ層104A,104Bよりも深くまで達している。このような分離溝103の形成により、第1,第2レーザ発振部101,102のそれぞれを独立して駆動制御ができるようになっている。勿論、上記第1,第2レーザ発振部101,102の同時駆動もできる。なお、上記チップ幅方向において第1レーザ発振部101と第2レーザ発振部102とが互いに電気的に絶縁できるのであれば、分離溝103の深さは本実施形態と異なるようにしてもよい。
【0039】
上記第1,第2レーザ発振部101,102は、n型GaAs基板100上に順次積層されたn型InGaPバッファ層104A,104B、n型AlGaInPクラッド層105A,105B、MQW(Multiple Quantum Well:多重量子井戸)活性層106A,106B、p型AlGaInP第1クラッド層107A,107B、p型AlGaInP第2クラッド層108A,108Bおよびp型GaAsキャップ層109A,109Bを有して、MQW活性層106A,106Bから780nm帯のレーザビームを出射できるようになっている。ここで、上記p型AlGaInP第2クラッド層108A,108Bおよびp型GaAsキャップ層109A,109Bは、共振器長方向(図1の紙面に垂直な方向)に延びる第1,第2リッジ部110A,110Bを構成している。
【0040】
上記MQW活性層106A,106Bは、図示しないが、アンドープAlGaAsバリア層、アンドープGaAsウェル層、アンドープAlGaAsバリア層、アンドープGaAsウェル層およびアンドープAlGaAsバリア層をこの順で積層して得ている。また、上記MQW活性層106A,106Bにおいて、共振器長方向に垂直な端面近傍の部分は、量子井戸構造が無秩序化された窓構造を有している。
【0041】
上記第1,第2リッジ部110A,110Bの下端の幅方向の中心から、分離溝103の第1,第2リッジ部110A,110B側の側面までの距離α1,α2は5μmを越えるように設定されている。好ましくは、上記距離α1,α2は7μm以上とする。より好ましくは、上記距離α1,α2は13μm以上とする。本実施形態では、上記距離α1,α2は、第1,第2リッジ部110A,110Bの上端の幅方向の中心から、分離溝103の第1,第2リッジ部110A,110B側の側面までの距離と一致している。
【0042】
また、上記2ビーム型モノリシック半導体レーザ装置では、第1,第2リッジ部110A,110Bの側面の大部分を、SiO(酸化シリコン)からなる第1,第2誘電体膜111A,111Bで覆っている。そして、上記第1,第2リッジ部110A,110B上および第1,第2誘電体膜111A,111B上にp側第1電極112A,p側第2電極112Bを形成して、第1,第2リッジ部110A,110Bにp側第1電極112A,p側第2電極112Bを電気的に接続している。このp側第1電極112A,p側第2電極112Bは、第1,第2誘電体膜111A,111Bおよび第1,第2リッジ部110A,110B上に形成されたTi層と、このTi層上に形成されたAu層とから成っている。
【0043】
上記第1,第2誘電体膜111A,111Bの膜厚は、水平方向の屈折率に影響し、リッジ外1次モード光損失との相関より0.045μmとしている。これにより、上記第1,第2誘電体膜111A,111Bに接触するTi層がリッジ導波路のロスとして働き、このロスによる横方向閉じ込め作用が働くため、第1,第2リッジ部110A,110B内への光閉じ込めの温度依存性が弱くなる結果、レーザ出力の変動を低減できるようになっている。ただし、上記第1,第2誘電体膜111A,111Bは、材料をSiO以外にすれば、上述の相関とは異なる相関が生じるので、設定すべき膜厚が異なる。
【0044】
また、図示しないが、上記2ビーム型モノリシック半導体レーザ装置には、共振器長方向に垂直な第1,第2端面があり、第1端面を反射率30%のコーティング膜で覆うと共に、第2端面を反射率65%のコーティング膜で覆っている。これらのコーティング膜は、目的の反射率を得るために一般的な材料(Al、Si、Ti、Ta、および、これらの酸化物または窒化物または酸窒化物)の中から適宜選択して形成している。なお、上記分離溝103は上記第1端面から上記第2端面まで延びている。
【0045】
また、上記n型GaAs基板100下にはn側電極113を形成している。このn側電極113は、AuGe層と、このAuGe層下に形成されたNi層と、このNi層下に形成されたTi層と、このTi層下に形成されたAu層とから成っている。
【0046】
図2は、上記第1,第2誘電体膜111A,111Bの膜厚とリッジ幅との関係を示すグラフである。このリッジ幅は屈折率差と高次モードの有無で定まる幅である。
【0047】
上記第1,第2誘電体膜111A,111Bの膜厚を0.05μm以下にすると、リッジ幅が大きくなっている。これは、上記第1,第2誘電体膜111A,111Bに接触するTi層がリッジ導波路のロスとして働いていることを示す。
【0048】
図3Aは、上記距離α1,α2を5μmに設定した場合の屈折率差の横方向(チップ幅方向)の変化を示すグラフである。また、図3Bは、上記距離α1,α2を13μmに設定した場合の屈折率差の横方向の変化を示すグラフである。なお、図3A,図3Bのグラフの横軸の0の位置は、2ビーム型モノリシック半導体レーザ装置の横方向のほぼ真ん中の位置に対応する。
【0049】
上記距離α1,α2を5μmに設定した場合、図3Aに示すように、ハッチング部で示すNFP(Near Field Pattern)の形状が崩れ、キンクが発生してしまう。これに対して、上記距離α1,α2を13μmに設定した場合、図3Bに示すように、ハッチング部で示すNFP(Near Field Pattern)の形状は崩れず、キンクの発生を防ぐことができる。
【0050】
図4Aは、上記第1,第2リッジ部110A,110Bの下端の幅方向の中心からの位置と光強度との関係を示すグラフである。また、図4Bは、図4Aの楕円で囲んだ部分およびその周辺部を拡大した図である。
【0051】
図4A,図4Bに示すように、上記第1,第2リッジ部110A,110Bの下端の幅方向の中心からの位置が5μmの箇所では、光強度が20(arb.)である。そして、上記箇所からさらに上記中心から離れていくと、光強度が急激に減少し、第1,第2リッジ部110A,110Bの下端の幅方向の中心からの位置が7μmの箇所では、光強度がおよそ20(arb.)となる。したがって、上記距離α1,α2を5μmを越えるように設定することにより、第1,第2レーザ発振部101,102から分離溝103に漏れ出る光をできるのである。
【0052】
図5Aは、上記距離α1,α2を5μmに設定した場合の光出力と注入電流との関係を示すグラフである。また、図5Bは、上記距離α1,α2を13μmに設定した場合の光出力と注入電流との関係を示すグラフである。
【0053】
上記距離α1,α2を5μmを設定した場合、横方向の光広がりが分離溝103外の屈折率変化に影響を受けて、図5Aに示すように、キンクが発生してしまう。一方、上記距離α1,α2を13μmを設定した場合、横方向の光広がりが分離溝103外の屈折率変化に影響を受けず、図5Aに示すように、キンクは発生せず、安定した光出力を得ることができる。このような効果は、上記距離α1,α2を5μmを越えるように設定すると得ることができる。
【0054】
以上から明らかなように、上記距離α1,α2を5μmを越えるように設定することによって、第1,第2レーザ発振部101,102の一方から分離溝103側へ漏れ出る光を低減できる。したがって、上記第1,第2レーザ発振部101,102の一方の漏出光が第1,第2レーザ発振部101,102の他方に入射するのを防いで、第1,第2レーザ発振部101,102の他方の発振動作に悪影響が生じないようにすることができる。したがって、上記第1,第2レーザ発振部101,102を同時に駆動させても、第1,第2レーザ発振部101,102をそれぞれ独立に駆動させても、レーザ出力の変動を低減できる。
【0055】
また、上記分離溝103の幅βを4μmを大きくしても、レーザ出力の変動を低減できる。
【0056】
また、上述したようなレーザ出力の変動の低減効果は、分離溝103を例えば光吸収層で埋めなくても得られている。したがって、上記光吸収層を設ける場合に比べて、製造工程が少なくなるので、2ビーム型モノリシック半導体レーザ装置を安価に製造することができる。
【0057】
また、図6に示すように、上記第1,第2誘電体膜111A,111Bの膜厚を0.045μmと設定した場合、第1,第2誘電体膜111A,111Bの膜厚を0.2μmと設定した場合よりも、キンクレベルを上げることができた。
【0058】
上記実施形態の第1,第2レーザ発振部101,102に換えて、第1,第2レーザ発振部101,102の材料とは異なる材料で形成した第1,第2レーザ発振部を用いてもよい。この場合、上記第1レーザ発振部の材料は、第2レーザ発振部の材料と同じにしてもよいし、第2レーザ発振部の材料と異なるようにしてもよい。このようにする場合で4も、第1,第2リッジ部の下端の幅方向の中心から、分離溝の第1,第2リッジ部側の側面までの距離を5μmを越えるように設定することにより、レーザ出力の変動を低減することができる。
【0059】
上記実施形態の第1,第2誘電体膜111A,111Bに換えて、例えばSiN(窒化シリコン)やAl(アルミナ)等からなる第1,第2誘電体膜を用いてもよい。この場合、上記第1誘電体膜の材料は、第2誘電体膜の材料と同じにしてもよいし、第2誘電体膜の材料と異なるようにしてもよい。
【0060】
上記実施形態の第1,第2誘電体膜111A,111Bに換えて、互いに材料が異なる複数の誘電体層で構成した第1,第2誘電体膜を用いてもよい。この場合、上記第1誘電体膜の層構成は、第2誘電体膜の層構成と同じにしてもよいし、第2誘電体膜の層構成と異なるようにしてもよい。
【0061】
上記実施形態のMQW活性層106A,106Bに換えて、窓構造を有さないMQW活性層を用いてもよい。
【0062】
本発明の具体的な実施形態およびその変形例について説明したが、本発明は上記実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、同一半導体基板上に、同一波長のレーザビームを出射する第1,第2レーザ発振部を設けると共に、上記半導体基板上に、上記波長と同一波長のレーザビームを出射する単数または複数のレーザ発振部を設けてもよい。また、同一半導体基板上に、互いに異なる波長のレーザビームを出射する第1,第2レーザ発振部を設けてもよい。また、同一半導体基板上に、互いに異なる波長のレーザビームを出射する3つ以上のレーザ発振部を設けてもよい。そして、これらのレーザ発振部間には分離溝を設けてもよい。また、上記レーザ発振部のリッジの側面の側面を覆う誘電体膜を0.05μm以下としてもよい。
【0063】
言うまでもなく、本発明の半導体積層構造は、MOCVD(有機金属気相成長)法やMBE(分子線エピタキシー)法といった半導体成長方法以外の、一般的に知られている方法で形成しても構わない。
【符号の説明】
【0064】
100…n型GaAs基板
101…第1レーザ発振部
102…第2レーザ発振部
103…分離溝
104A,104B…n型InGaPバッファ層
105A,105B…n型AlGaInPクラッド層
106A,106B…MQW活性層
107A,107B…p型AlGaInP第1クラッド層
108A,108B…p型AlGaInP第2クラッド層
109A,109B…p型GaAsキャップ層
110A…第1リッジ部
110B…第2リッジ部
111A…第1誘電体膜
111B…第2誘電体膜
112A…p側第1電極
112B…p側第2電極
113…n側電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
上記半導体基板上に形成され、第1リッジ部を有する第1レーザ発振部と、
上記半導体基板上に形成されて、上記第1レーザ発振部の側方に分離溝を介して位置し、第2リッジ部を有する第2レーザ発振部と、
上記第1リッジ部の側面を覆う第1誘電体膜と、
上記第1リッジ部上および上記第1誘電体膜上に形成された第1電極と、
上記第2リッジ部の側面を覆う第2誘電体膜と、
上記第2リッジ部上および上記第2誘電体膜上に形成された第2電極と
を備え、
上記第1リッジ部の幅方向の中心から、上記分離溝の上記第1リッジ部側の側面までの距離が5μmを越え、かつ、上記第2リッジ部の幅方向の中心から、上記分離溝の上記第2リッジ部側の側面までの距離が5μmを越えている
ことを特徴とするモノリシック半導体レーザ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモノリシック半導体レーザ装置において、
上記第1誘電体膜の膜厚が0.05μm以下であり、かつ、上記第2誘電体膜の膜厚が0.05μm以下である
ことを特徴とするモノリシック半導体レーザ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモノリシック半導体レーザ装置において、
上記半導体基板上には、上記第1レーザ発振部および第2レーザ発振部とは別に少なくとも1つのレーザ発振部が形成されている
ことを特徴とするモノリシック半導体レーザ装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一項に記載のモノリシック半導体レーザ装置において、
上記第1レーザ発振部が発振するレーザビームの波長は、上記第2レーザ発振部が発振するレーザビームの波長と異なる
ことを特徴とするモノリシック半導体レーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−256688(P2012−256688A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128397(P2011−128397)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】