説明

モルタル吹付け機及びコンクリート構造物の補修又は補強工法

【課題】作業者への負担を軽減し、且つ作業性が良いモルタル吹付け機を提供し、また、作業性が良いコンクリート構造物の補修又は補強工法を提供することを目的とする。
【解決手段】インペラ11により、ケーシング20の前側に設けられた投射口24から前方へモルタルを投射するモルタル吹付け機において、ケーシング20の左右両側に作業者が一方の手で把持するための第一取手部36と他方の手で把持する第二取手部40とを設け、インペラ11の回転軸が側方へ延びる側にある第一取手部36は、ケーシング20の後端を超えて後方へ延びるものとし、回転軸の先端部にこの先端部から後方へ延びる駆動軸57を方向変換伝動機構を介して接続し、駆動軸57を駆動するモータ35を第一取手部36に内蔵し、第二取手部40は、第二把持部40aの長さ方向の中央が側面視においてケーシング20の投影範囲内にあるものとしたことを特徴とするモルタル吹付け機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の補修・補強箇所等にモルタルを吹付けるためのモルタル吹付け機、及び、モルタル吹付け機を用いたコンクリート構造物の補修又は補強工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネルや高架橋等のコンクリート構造物からコンクリートが剥落する事故が起こると、剥落した箇所をモルタル等の補修・補強材で補修・補強する工事が行われている。この補修・補強工事の従来からの工法としては、左官ごてによりモルタルを塗りつける「左官仕上げ」や、圧縮空気によってモルタルを飛ばして塗りつける「圧縮空気による吹付け」等がある。
【0003】
しかし、左官仕上げは、作業者が左官ごてを用いて手作業で行うことから、トンネルの天井等のように補修・補強箇所が下を向いている場合には、作業者は上を向いて作業を行わなくてはならず作業能率が悪いという問題がある上に、重力の影響で補修・補強箇所に対するモルタルの付着力が低くなる問題もあった。
【0004】
また、圧縮空気による吹付けは、大量の圧縮空気を使用するため、大型のコンプレッサーが必要となる上に、微細なモルタルを含む粉塵が大量に発生することから、トンネル内等のように換気が悪いところでは、作業環境が悪くなる問題があった。また、ノズル先端での圧縮空気の調整には高度な技術が必要であり、その上、ミキサ、アジテータ付きホッパー、モルタルポンプ、コンプレッサ等、多くの機材を移動しながら補修・補強工事を行わなくてはならないため、繁雑となって作業能率が低い問題もあった。
【0005】
そこで、上記のような問題を有する左官仕上げ及び圧縮空気による吹付けに替わる工法として、高速回転するインペラの遠心力によりモルタルを投射して吹付けるモルタル吹付け機を用いた工法が特許文献1、2に記載されている。
【0006】
特許文献1に記載のモルタル吹付け機は、軸心を中心に高速回転するインペラと、該インペラを間隔を隔てて囲むケーシングと、該ケーシングに設けられインペラの回転中心に向けてモルタルを供給するモルタル供給パイプとを備えたモルタル吹付け機において、前記インペラは、回転軸の軸線方向に間隔を隔てた2枚のインペラリングと、その間に周方向に間隔を隔てて取り付けられた複数のブレードとからなり、前記ケーシングは、前記インペラで投射されたモルタルと直接接触しないように前記モルタル供給パイプに隣接して設けられた投射口を有する、ことを特徴とするものであった。
【0007】
特許文献2に記載のモルタル吹付け機は、軸心を中心に回転可能なインペラと、該インペラを内部に回転可能に支持しかつその外面を間隔を隔てて囲むケーシングと、該ケーシングに取り付けられインペラの回転中心に向けてモルタルを供給するためのモルタル供給パイプと、前記インペラを一端部に支持し軸心を中心に回転可能な回転軸と、ケーシングに取り付けられ前記回転軸を回転可能に支持する軸受と、前記回転軸の他端部に前記フレキシブルシャフトを着脱可能に取り付けるカップリングとを有する吹付け機本体と、該吹付け機本体と間隔を隔てて位置し前記インペラを回転駆動するための駆動モータと、前記インペラと駆動モータを連結し回転駆動力を伝達する可撓性を有する細長いフレキシブルシャフトとを備えた、ことを特徴とするものであった。
【0008】
特許文献1、2に記載の工法によれば、圧縮空気による吹付けのように粉塵が大量に発生することがないため、作業環境が悪くなることがなかった。その上、左官仕上げのように補修・補強箇所に対するモルタルの付着力が低くなることもなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3802816号公報
【特許文献2】特許第4296235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、特許文献1に記載のモルタル吹付け機90は、図10のbに示すように、インペラの駆動モータ91がケーシング92の真横(インペラの回転軸の軸心の延長線T上)にあることから、駆動モータ91を体から離れた位置で支持しなくてはならず、支持する作業者(特に手)への負担は大きく、長時間使用することは難しかった。
【0011】
特許文献2に記載のモルタル吹付け機は、インペラの駆動モータをモルタル吹付け機の本体部から分離したことで、モルタル吹付け機の本体部は多少軽量(駆動モータを支持するかわりに、フレキシブルシャフトやカップリングを支持する)にはなったものの、駆動モータを背負う等して移動させる必要があり、作業性が悪かった。
【0012】
そこで、本発明は、作業者への負担を軽減し、且つ作業性が良いモルタル吹付け機を提供し、また、作業性が良いコンクリート構造物の補修又は補強工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のモルタル吹付け機は、ケーシング内へモルタルを供給し、該ケーシング内で回転するインペラにより、該ケーシングの前側に設けられた投射口から前方へモルタルを投射するモルタル吹付け機において、前記ケーシングの左右両側に作業者が一方の手で把持するための第一取手部と他方の手で把持するための第二取手部とを設け、前記インペラの回転軸が側方へ延びる側にある第一取手部は、前記ケーシングの後端を超えて後方へ延びるものとし、前記回転軸の先端部に該先端部から後方へ延びる駆動軸を方向変換伝動機構を介して接続し、該駆動軸を駆動するモータを第一取手部に内蔵し、前記第二取手部は、把持される第二把持部の長さ方向の中央が側面視において前記ケーシングの投影範囲内にあるものとしたことを特徴とする。
【0014】
第一取手部を一方の手で把持することで、モータを体に近い位置で支持することができ、第二取手部を他方の手で把持することで、ケーシングに近い位置を支持することができ、作業者への負担を軽減することができる。
【0015】
第一取手部としては、特に限定はされないが、作業者が第一取手部を確りと把持でき且つ後端を体に当接してモルタル吹付け機を支持できることから、ケーシングの後端を超えてから10〜40cm後方へ延びるものであることが好ましい。また、第一取手部の把持される第一把持部の形状としては、特に限定はされないが、作業者が把持しやすいことから、直径が50〜60mmの円筒状であることが好ましい。また、後端を体に当接してモルタル吹付け機を支持するときの体への押圧を緩和して体への負担を軽減できることから、作業者に当接したときの押圧を緩和するための緩衝体を後端に備えることが好ましい。緩衝体の材質としては、特に限定はされないが、気泡緩衝材等が例示できる。
【0016】
第一取手部において、モータが内蔵される位置としては、特に限定はされないが、作業者への負担がより小さくなることから、モータの80質量%以上の大半の部分がケーシングの後端より後方になる位置であることが好ましく、より好ましくは、モータの90質量%以上の部分がケーシングの後端より後方になる位置である。
【0017】
第二取手部としては、特に限定はされないが、第二把持部がケーシングの側方へ延びるものや、ケーシングの側方で前後方向、上下方向又は斜め方向に延びるもの等が例示できる。第二把持部がケーシングの側方で前後方向、上下方向又は斜め方向に延びる場合の第二取手部の形状としては、特に限定はされないが、第二把持部が湾曲又は屈曲してケーシングの側方へ突出したアーチ形状や、ケーシングの側面に沿って延びる棒状の第二把持部と第二把持部の長さ方向の中間からケーシングへと延びる棒状の連結部とからなるT字形状等が例示できる。また、第二把持部が設けられる位置は、特に限定はされないが、回転軸の仮想延長線(回転軸の軸心を延長した仮想線)上の位置や、回転軸の仮想延長線より前方の位置や、回転軸の仮想延長線より後方の位置等が例示できる。側方へのケーシングの傾きを抑制できることから、第二取手部は、第二把持部がケーシングの側方へ回転軸の仮想延長線上を延びるものが好ましい。
【0018】
上に向けてモルタルを吹付けるときの支持がしやすくなり、作業者への負担が軽減されることから、モルタル吹付け機は、ケーシングの下方へと延びる第三取手部を備えることが好ましい。
【0019】
ケーシングの態様としては、特に限定はされないが、インペラの回転中心に向けてモルタルを供給するモルタル供給パイプが設けられている態様等が例示できる。また、モルタルを供給するためのケーシングの開口部は、特に限定はされないが、モルタルが詰りにくくなることから、ケーシングの周方向に長い長円状又は楕円状の開口であることが好ましい。
【0020】
モルタル供給パイプとしては、特に限定はされないが、モルタルを詰まることなく供給できることから、後端から長さ方向の中間部にかけて縮径し、中間部から前端までの間で鈍角に屈曲した管状であることが好ましい。
【0021】
方向変換伝動機構としては、特に限定はされないが、かさ歯車、自在継手等が例示できる。
【0022】
モータとしては、特に限定はされないが、電動モータ、エアモータ等が例示できる。
【0023】
インペラの態様としては、特に限定はされないが、幅方向のスポット性が向上することから、回転軸の軸線方向に間隔を隔てた二枚のインペラリングと、その間に周方向に間隔を隔てて取り付けられた複数のブレードとからなる態様が好ましい。
【0024】
上記課題を解決するために、本発明のコンクリート構造物の補修又は補強工法は、上記のモルタル吹付け機を用い、圧縮空気なしで補修又は補強を行う。
【0025】
上に向けてモルタルを吹付けるときの負担が軽減されることから、モルタル吹付け機の第一取手部の後端を体に当接させてモルタル吹付け機を作業者が支持することが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、作業者への負担を軽減し、且つ作業性が良いモルタル吹付け機を提供し、また、作業性が良いコンクリート構造物の補修又は補強工法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例1のモルタル吹付け機の斜視図である。
【図2】同モルタル吹付け機の平面図である。
【図3】同モルタル吹付け機の側面図である。
【図4】同モルタル吹付け機の内部構造の平面図である。
【図5】同モルタル吹付け機のインペラの一部を分解した斜視図である。
【図6】同モルタル吹付け機のケーシングのケースホルダーを外したときの側面図である。
【図7】同モルタル吹付け機の供給ブッシュの平面図及び側面図である。
【図8】同モルタル吹付け機のモルタル供給パイプの側面図である。
【図9】同モルタル吹付け機の使用状態を示す斜視図である。
【図10】同モルタル吹付け機と特許文献1のモルタル吹付け機の支持状態の模式図である。
【図11】本発明の実施例2のモルタル吹付け機の側面図である。
【図12】第二取手部の第二把持部の取り付け位置を変更した本発明のモルタル吹付け機の平面図及び側面図である。
【図13】第二取手部をアーチ形状のものに変更した本発明のモルタル吹付け機の平面図及び側面図である。
【図14】第二取手部をT字形状のものに変更した本発明のモルタル吹付け機の平面図及び側面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0028】
本発明の実施例1のモルタル吹付け機10について、図1〜図10を用いて説明する。
【0029】
モルタル吹付け機10は、回転軸12を中心に回転するインペラ11と、インペラ11を間隔を隔てて囲み回転軸12を回転可能に支持するケーシング20と、ケーシング20に設けられインペラ11の回転中心に向けてモルタルを供給するモルタル供給パイプ30と、インペラ11を回転駆動する電動モータ35を内蔵し、ケーシング20の右側に設けられ、ケーシング20の右側面に取着し、ケーシング20の後端を超えて後方へ延びる第一取手部36と、ケーシング20の左側に設けられ、ケーシング20の左側面に取着し、第二把持部40aがケーシング20の左側方へ回転軸12の仮想延長線R上を延びる第二取手部40とを備えている。なお、第一取手部と第二取手部とは、ケーシング20に対する位置が左右反転していてもよい。即ち、第一取手部をケーシング20の左側に設け、第二取手部をケーシング20の右側に設けていてもよい。
【0030】
インペラ11は、ボルト13aにより回転軸12に固着された略車輪状のロータ13と、回転軸12の軸線方向に間隔を隔てた二枚のインペラリング14と、二枚のインペラリング14の間に設けられ、インペラリング14の周方向に間隔を隔てて取り付けられた二つのブレード15とからなっている。二枚のインペラリング14は、それぞれ中央部が開口した略円板状をしており、互いに平行に設けられている。ロータ13は、その外輪16の両側方に二枚のインペラリング14をボルト14aによって螺着している。また、外輪16の周方向の等間隔となる二箇所の位置には切欠部17が形成され、それぞれの切欠部17には、ブレード押え18によってブレード15が取着されている。ブレード15は、インペラ11の回転時にモルタルを押す打撃面19を備えている。打撃面19は、スポット性を高めると共にモルタルだれを防止するために、インペラ11の径方向と直交する断面がU字状となる面形状をしている。このU字状の打撃面19の開口角度は、約60°である。なお、U字状の打撃面の代りにV字状の打撃面であっても同様の効果を得ることができる。
【0031】
ケーシング20は、インペラ11の回転を阻害しないよう、間隔を隔ててインペラ11を周方向に囲むケース21と、ケース21の左側方に取着したケースカバー22と、ケース21の右側方に取着したケースホルダ23とを備え、前後方向の長さMが約16cmである。なお、ケーシング20には、後述するステー42を取着するための突起42dが含まれない。そのため、ケーシング20の前後方向の長さMは、図3、図6の二点鎖線間の長さである。また、使用時に作業者が肩に掛けて支持するためのストラップ60が設けられている。
【0032】
ケース21は、前側の一部(上端から略中央までの周方向の約4分の1)が切欠された略円筒状をしており、この切欠されたところがモルタルを投射するための投射口24となっている。また、切欠された上端にはモルタル供給パイプ30を取着するための取付部25が形成されている。取付部25には、ケーシング20内にモルタルを供給するための略円筒状の供給ブッシュ26が貫設されている。供給ブッシュ26は、モルタルを詰まらせないでケーシング20内へ供給するため、内周がケーシング20の周方向に長い長円状をしている。また、騒音を効果的に低減するよう、供給ブッシュ26の一端に設けられたモルタル吐出口27は、二枚のインペラリング14の外縁より内側に抱き込まれている。
【0033】
ケースカバー22は、中央が外側へと膨らんだ略円盤状をしており、略中央には、第二取手部40を取着するための突起部29が形成されている。
【0034】
ケースホルダ23は、略円盤状の側板部28と、側板部28の略中央に設けられ、第一取手部36を取着するための締結部50とを備えている。
【0035】
締結部50は、内包しているベアリング51により回転軸12を回転可能に支持するベアリングホルダ52と、第一取手部36を取着するための駆動部ケース53とを備えている。ベアリング51は、C形穴用止め輪54によりベアリングホルダ52の所定位置に止められている。また、側板部28とベアリングホルダ52との間には、シールパッキン55が設けられている。
【0036】
回転軸12は、ベアリング51に回転可能に支持され、ロータ13が固着されたジョイントロッド34と、ジョイントロッド34と軸線が同じになるようにして、スペーサーナット58によりジョイントロッド34に固着された連結軸56とを備えている。
【0037】
モルタル供給パイプ30は、取付部25に固着するための固定フランジ32が前端に形成され、後端から長さ方向の中間部にかけて段階的に縮径し、長さ方向の中間部から前端までの間で鈍角(約135°)に屈曲した管である。具体的な内径は、後端から27.6mm、21.4mm、15.9mmへと三段階で縮径し、中間部より前方は、17.5mmである。後端に着脱可能に取着されたフレキシブルパイプ31を通して送られてきたモルタルをインペラ11の回転中心に向けて供給するため、供給ブッシュ26と連通するようにして、固定フランジ32を取付部25に固着している。
【0038】
第二取手部40は、ケースカバー22の突起部29に取着されている。また、第二取手部40は、前後方向に延びるアーム41を備え、アーム41の長さ方向の両端は、突起42dに取着されたステー42を介してケース21に固定されている。
【0039】
第一取手部36は、駆動部ケース53に取着し、方向変換伝動機構である一対のかさ歯車37、38を内設しているギヤケース39と、ギヤケース39から後方へと略水平に延び、直径が約56mmの略円筒状の第一把持部36aと、第一把持部36aの後端に設けられ、気泡緩衝材からなる緩衝体33とを備えている。また、第一取手部36は、ケーシング20の後端20bを超えて後方へと延び、ケーシング20の後端20bからのその長さLは約19cmである。ここで、ケーシングの後端とは、ケーシングの本来機能以外の機能を有する突起(例えば、本実施例におけるステー42を取着するための突起42d)を除いたケーシングの後端をいう。すなわち、図3の二点鎖線で示したところがケーシング20の後端20bである。第一把持部36aの内部には電動モータ35が設けられている。電動モータ35は、約90質量%の部分がケーシング20の後端20bより後方になるよう位置している。一対のかさ歯車37、38は互いに係合して連動するようになっている。一方のかさ歯車38には、回転軸12の連結軸56が連結され、他方のかさ歯車37には、電動モータ35の駆動軸57が連結されている。駆動軸57は、回転軸12の先端部から後方へと、即ち、かさ歯車37から電動モータ35まで、第一取手部36の長さ方向に沿って延びている。駆動軸57と回転軸12とは互いに直交するものの、一対のかさ歯車37、38を介在させていることから、電動モータ35の駆動により駆動軸57が回転すると、回転軸12が回転して、インペラ11がケーシング20内で回転する。なお。使用時において、第一取手部36の前部は、カバー59によって覆われている。このカバー59は使用時になくてもよい。
【0040】
次に、モルタル吹付け機10を用いたコンクリート構造物の補修又は補強工法について、説明する。
【0041】
この補修・補強に用いられるモルタルは、モルタルミキサで混練されたものを、モルタルポンプから、フレキシブルパイプ31を通してモルタル吹付け機10へと送られたものである。
【0042】
そして、作業者は、図9、図10のaに示すように、ストラップ60を左肩に斜に掛け、右手で第一取手部36の第一把持部36aを、左手で第二取手部40の第二把持部40aをそれぞれ把持し、第一取手部36の後端の緩衝体33を体に当接させてモルタル吹付け機10を支持している。電動モータ35により回転駆動されたインペラ11によって、投射口24から投射されたモルタルを補修・補強箇所へと吹付けて補修又は補強を行う。インペラ11は、回転数が約3000〜7000rpmの高速回転で使用される。
【0043】
本実施例のモルタル吹付け機10によれば、次の(a)〜(n)の効果が得られた。
(a)インペラ11の高速回転によるブレード15の打撃により、モルタル供給パイプ30から供給されるモルタルを圧縮空気を用いずに投射するので、粉塵の発生がなく、モルタルの付着性能を高め、複数の機材を移動しながら施工する必要がなく、小型・軽量化でき、必要動力が小さくなり、運転が容易となり、作業能率を高めることができた。
(b)インペラ11を間隔を隔ててケーシング20で囲み、ケーシング20に、インペラ11で投射されたモルタルと直接接触しないようにモルタル供給パイプ30に隣接して設けられた投射口24を有するので、粘性が高く、粘着力が強い補修・補強用モルタルに適用することができ、配管内の詰りを防ぎ、モルタルだれを防ぐことができた。
【0044】
(c)二枚のインペラリング14を有し、その間にモルタルが供給され高速回転するブレード15で打撃するので、幅方向のスポット性を高めることができ、且つ騒音の発生が少なく、粉塵の低減と共に環境を改善することができた。
【0045】
(d)電動モータ35を第一取手部36の内部に設けたので、電動モータを背負う等して別に移動する必要がなく、作業性が良くなった。
(e)ケーシング20の両側を支持することで、モルタルを補修・補強箇所へ確実に吹付けることができた。
(f)約90質量%の部分がケーシング20の後端20bより後方になるように設けられた電動モータ35を内蔵した第一取手部36を右手で把持することで、電動モータ35を体に近い位置で支持し、第二取手部40を左手で把持することで、ケーシング20の側方のケーシング20に近い位置を支持するので作業者への負担を軽減することができた。
(g)回転軸12と駆動軸57とが直交しているので、電動モータ35を駆動方向と反対の方向に回転させようと反力が小さくなり、電動モータ35を把持している右手への負担が小さくなった。
【0046】
(h)第二取手部40の第二把持部40aがケーシング20の側方へ回転軸12の仮想延長線R上を延びているので、側方へのケーシングの傾きを抑制でき、モルタルを補修・補強箇所へ確実に吹付けることができた。
(i)第一取手部36がケーシング20の後端を超えてから約19cm後方へ延びるので、作業者が確りと第一取手部36を把持でき、モルタル吹付け機10を支持することができた。
(j)第一取手部36の後端を体に当接してモルタル吹付け機10を支持することで、両手への負担を軽減することができた。
(k)第一取手部36は後端に緩衝体33を備えているので、モルタル吹付け機10を支持しているときの体への押圧を緩和することができた。
(l)ストラップ60を肩に掛けてモルタル吹付け機10を支持することで、両手への負担を軽減することができた。
【0047】
(m)供給ブッシュ26の内周をケーシング20の周方向に長い長円状にしたので、モルタルを詰まることなく供給することができた。
(n)モルタル供給パイプ30を後端から長さ方向の中間部にかけて段階的に縮径し、長さ方向の中間部から前端までの間で鈍角(約135°)に屈曲したので、フレキシブルパイプ31が邪魔にならず、且つモルタルを詰まることなく供給することができた。
【実施例2】
【0048】
本発明の実施例2のモルタル吹付け機70について、図11を用いて説明する。
【0049】
モルタル吹付け機70は、アーム41からケーシング20の下方へと延びる第三取手部71を備えている点が実施例1のモルタル吹付け機10と異なり、それ以外の点はモルタル吹付け機10と同じである。なお、図10において、モルタル吹付け機10と同じ部材には、同じ符号を付している。
【0050】
第三取手部71は、第二取手部40の第二把持部40aより前方にあり、アーム41の下面に取着されている。
【0051】
次に、モルタル吹付け機70を用いたコンクリート構造物の補修又は補強工法について、説明する。
【0052】
モルタル吹付け機70は、通常はモルタル吹付け機10と同じように支持してモルタルの吹付けを行うが、上に向けてモルタルを吹付けるときには、第二取手部40の替わりに第三取手部71を左手が把持することでモルタル吹付け機70を支持してモルタルの吹付けを行う。
【0053】
本実施例のモルタル吹付け機70によれば、モルタル吹付け機10で得られる効果に加え、次の(o)の効果が得られた。
(o)上に向けてモルタルを吹付けるときに左手で第三取手部71を把持して支持することで、トンネルの天井等のように下を向いている補修・補強箇所へモルタルを吹付けるときの負担を軽減することができた。
【0054】
本発明のコンクリート構造物の補修又は補強工法によれば、従来の「左官仕上げ」、「圧縮空気による吹付け」、および「コンクリート吹付機」と比較して、粉塵の発生を低減し、モルタルの付着性能を高め、作業員が手持ちで移動しながら施工することができ、運転が容易であり、作業能率を高めることができ、粘性が高く、粘着力が強い補修・補強用モルタルに適用することができ、配管内の詰りを防ぎ、モルタルだれを防止できると共に、スポット性を高めることができ、騒音の発生が少なく、粉塵の低減と共に作業環境を改善することができた。その上、電動モータを背負う等して別に移動する必要がなく、作業性が良くなると共に、モルタル吹付け機10を支持している両手への負担が軽減され、モルタルの吹付け作業をより長時間行うことができた。
【0055】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。例えば、第二取手部40を、図12に示すように、第二把持部40aを回転軸12の仮想延長線Rより前方の投射口24の近傍に設けたり、図13に示すように、第二把持部40aが弓なりに湾曲し前端と後端とがアーム41に取着されたアーチ形状のものに変更したり、図14に示すように、棒状の第二把持部40aが前後方向にアーム41と略平行に延び、第二把持部40aの長さ方向の略中央から棒状の連結部40bがアーム41の略中央へと延びたT字形状のものに変更したりする。
【符号の説明】
【0056】
10 モルタル吹付け機
11 インペラ
12 回転軸
14 インペラリング
15 ブレード
20 ケーシング
20b 後端
24 投射口
26 供給ブッシュ
30 モルタル供給パイプ
33 緩衝体
35 電動モータ
36 第一取手部
36a 第一把持部
37 かさ歯車
38 かさ歯車
40 第二取手部
40a 第二把持部
40b 連結部
57 駆動軸
70 モルタル吹付け機
71 第三取手部
R 仮想延長線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング(20)内へモルタルを供給し、該ケーシング(20)内で回転するインペラ(11)により、該ケーシング(20)の前側に設けられた投射口(24)から前方へモルタルを投射するモルタル吹付け機(10、70)において、
前記ケーシング(20)の左右両側に作業者が一方の手で把持するための第一取手部(36)と他方の手で把持するための第二取手部(40)とを設け、
前記インペラ(11)の回転軸(12)が側方へ延びる側にある第一取手部(36)は、前記ケーシング(20)の後端(20b)を超えて後方へ延びるものとし、前記回転軸(12)の先端部に該先端部から後方へ延びる駆動軸(57)を方向変換伝動機構(37、38)を介して接続し、該駆動軸(57)を駆動するモータ(35)を前記第一取手部(36)に内蔵し、
前記第二取手部(40)は、把持される第二把持部(40a)の長さ方向の中央が側面視において前記ケーシング(20)の投影範囲内にあるものとしたことを特徴とするモルタル吹付け機。
【請求項2】
前記第一取手部(36)は、前記ケーシング(20)の後端(20b)を超えてから10〜40cm後方へ延びるものとした請求項1記載のモルタル吹付け機。
【請求項3】
前記第一取手部(36)の把持される第一把持部(36a)の形状は、直径が50〜60mmの円筒状である請求項1又は2記載のモルタル吹付け機。
【請求項4】
前記第一取手部(36)は、作業者に当接したときの押圧を緩和するための緩衝体(33)を後端に備えている請求項1〜3のいずれか一項に記載のモルタル吹付け機。
【請求項5】
前記第二取手部(40)は、前記第二把持部(40a)が前記ケーシング(20)の側方へ前記回転軸(12)の仮想延長線(R)上を延びるものとした請求項1〜4のいずれか一項に記載のモルタル吹付け機。
【請求項6】
前記第二取手部(40)は、前記第二把持部(40a)が湾曲又は屈曲して前記ケーシング(20)の側方へ突出したアーチ形状のものとした請求項1〜4のいずれか一項に記載のモルタル吹付け機。
【請求項7】
前記第二取手部(40)は、前記ケーシング(20)の側面に沿って延びる棒状の前記第二把持部(40a)と前記第二把持部(40a)の長さ方向の中間から前記ケーシング(20)へと延びる棒状の連結部(40b)とからなるT字形状のものとした請求項1〜4のいずれか一項に記載のモルタル吹付け機。
【請求項8】
前記モルタル吹付け機(70)は、前記ケーシング(20)の下方へと延びる第三取手部(71)を備えている請求項1〜7のいずれか一項に記載のモルタル吹付け機。
【請求項9】
前記ケーシング(20)には、前記インペラ(11)の回転中心に向けてモルタルを供給するモルタル供給パイプ(30)が設けられ、
前記モルタル供給パイプ(30)は、後端から長さ方向の中間部にかけて縮径し、前記中間部から前端までの間で鈍角に屈曲した管状のものである請求項1〜8のいずれか一項に記載のモルタル吹付け機。
【請求項10】
モルタルを供給するための前記ケーシング(20)の開口部(26)は、前記ケーシング(20)の周方向に長い長円状又は楕円状の開口である請求項1〜9のいずれか一項に記載のモルタル吹付け機。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のモルタル吹付け機(10、70)を用い、圧縮空気なしで補修又は補強を行うコンクリート構造物の補修又は補強工法。
【請求項12】
前記モルタル吹付け機(10、70)の第一取手部(36)の後端を体に当接させて該モルタル吹付け機(10、70)を作業者が支持する請求項11記載のコンクリート構造物の補修又は補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−167422(P2012−167422A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26462(P2011−26462)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(596027357)徳倉建設株式会社 (6)
【出願人】(592068130)リブコンエンジニアリング株式会社 (11)
【Fターム(参考)】