説明

モータ、送風ファンおよび送風ファンの製造方法

【課題】ブラシレスDCモータの回路基板に実装されたマイコンICの内蔵メモリに記憶データを書き込んだ後に変更することを可能にする。
【解決手段】回路基板110には、そのPWM制御のフィードバック制御を行うための制御プログラムやその他の制御に必要なデータが記憶されたメモリを内蔵したマイコンIC12が備えられている。回路基板110は、ベース部80と対向する側の面にマイコンIC12を含むモータ制御部を備えている。回路基板110の電機子10側の面には、マイコンIC12に内蔵したメモリに記憶されたデータを変更するための書き換え端子部150が形成されている。外部書き換え装置の制御ケーブルのプローブ160をハウジング2の一端側(回路基板110に対して電機子10側)から軸線方向に挿入し、マイコンIC12の内蔵メモリの記憶データが書き換えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メモリの記憶データに基づいて駆動時の回転を制御する回転制御部と、この回転制御部の制御に基づいて回転駆動電流を供給する駆動回路部とを備えたブラシレスDCモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスDCモータは、OA機器、家電機器、車載機器等の幅広い用途に用いられている。これらブラシレスDCモータには、搭載される機器の目的に応じて高精度の制御を必要とされるものがある。
【0003】
そのようなブラシレスDCモータのモータ制御部には、マイクロコンピュータ(以下、マイコンという)を備えたICが搭載されているものがある。このモータ制御部は、モータの回転状態や周囲温度などの情報、或いはモータが搭載される機器からの情報に基づいて、そのマイコンICに内蔵されているメモリの制御プログラムを動作させて、ステータへの回転駆動電流を供給することにより、マイコンICを搭載しないアナログ回路による制御方式に比べて、複雑な制御を実現することができる(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0004】
そのモータ制御部のマイコンICに内蔵されたメモリは、コストなどの都合により読み出し専用の不揮発性メモリ(ROM)が使用されている。このROMを内蔵したマイコンICは、フィードバック制御プログラム等の制御プログラムやその他の制御に必要なデータが予め書き込まれた状態で所定の回路基板に実装され、このマイコンICが実装された回路基板はブラシレスDCモータの所定部に取り付けられる。
【0005】
このようなブラシレスDCモータは、同じ回路構成であってもそのメモリに記憶された記憶データを変更するだけで多様な回転状態を設定できる利点がある。
【0006】
【特許文献1】特開2004−120980号公報
【0007】
【特許文献2】特開2002−58280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、マイコンに内蔵されるROMには、一度だけ書き込みができるROM(ワンタイムROM)と、何度でも書き込み変更ができるROM(フラッシュメモリ)の2種類がある。安価なワンタイムROMを内蔵したマイコンICの場合、急な設計変更が発生すると、ROMに書き込まれた内容を変更できないため、新規のマイコンICと取り替えると共に、変更前のマイコンICは廃棄するか、もしくは別機種で再利用するまで保管することとなり、余分なコストが発生する。更に、既にマイコンICが回路基板に実装済みである場合や、その回路基板がモータへ取り付け済みである場合において、そのワンタイムROMを内蔵したマイコンICを交換する必要性が発生することがある。前述したような場合においては、マイコンICを交換するための工数が多大になり、組立の作業効率が大幅に低下する。上述のROMの記憶データの変更は、モータ制御部の設計ではしばしば発生する作業である。そのため、ワンタイムROMを内蔵したマイコンICは、それ自体は安価ではあるものの、記憶データの変更作業などが原因の一つとなって、結果的に従来のマイコン制御によって動作するブラシレスDCモータは高価となったり、製品化に時間を要したりといった問題を抱えていた。
【0009】
よって、マイコンICを搭載するブラシレスDCモータにおいては、モータ組立途中もしくはモータ組立後に記憶データの変更作業を容易に行うことができる必要がある。しかし、ブラシレスDCモータにおける、回路基板が配置される場所は、モータ内部である場合が多く、外部から回路基板へのアクセスは困難である場合が多い。ブラシレスDCモータは一般的に、回転体であるロータ部を取り外すことによって、回路基板の一部が露出することが多い。このため、ブラシレスDCモータにおいて、回路基板のロータ側(つまり、電機子側)からのアクセスが可能である場合が多い。
【0010】
以上より、本発明の目的は、メモリに記憶データを書き込んだ後にその記憶データを変更する必要が生じた際に、その記憶データの変更作業をモータ組立後に行うことが可能なブラシレスDCモータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するために、本発明のブラシレスDCモータは、書き換え可能な不揮発性のメモリの記憶データに基づいて駆動時の回転を制御する回転制御部と、この回転制御部の制御に基づいて回転駆動電流を供給する駆動回路部とを備えており、当該モータの回転停止時のいつでもその記憶データを書き換えができる構成であって、外部書き込み装置がそのメモリに接続できるように書き換え端子がモータの外部から接続可能にして構成されているところに特徴がある。
【0012】
より詳細には、本発明の請求項1に記載のモータは、電動式のモータであって、略円筒状周壁部を有するロータホルダと、該ロータホルダの周壁部内周面に固定される環状のロータマグネットと、前記ロータホルダを回転軸を中心として回転自在に保持する軸受部と、該軸受部を支持する軸受ハウジングと、該軸受ハウジングもしくはこれのベース部に支持され、前記ロータマグネットとの間でトルクを発生する電機子と、前記ベース部側に配置され、前記電機子と電気的に接続される回路基板と、を備えており、該回路基板は、書き換え可能な不揮発性のメモリと該メモリの記憶データに基づいて駆動時の回転を制御する回転制御部と該制御部の制御に基づき前記モータに回転駆動電流を供給する駆動回路部とを備え、前記モータの電源停止時に、外部書き込み装置に接続された書き換え制御ケーブルを前記回路基板の前記書き換え可能メモリに接続するための書き換え端子が、前記回路基板上に設けられ、且つ該書き換え端子は前記回路基板に対して前記電機子側から接続可能に配置されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項2に記載のモータは、請求項1に記載のモータであって、前記回路基板と前記ベース部とは軸方向に対向しており、前記回路基板の前記ベース部側の面は前記ベース部によってほぼ覆われていることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項3に記載のモータは、請求項1または2に記載のモータであって、前記回路基板と前記ベース部との間隙に絶縁材料が配置されており、前記回路基板の前記ベース部側の面が前記絶縁材料によってほぼ覆われていることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項4に記載の送風ファンは、請求項1乃至3のいずれかに記載のモータを搭載する送風ファンであって、前記ロータホルダの周壁部外側面に固定されるハブと、前記ハブに形成され、回転することで空気流を発生する複数の羽根と、を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項5に記載の送風ファンは、請求項4に記載の送風ファンであって、前記送風ファンは、前記羽根の外側から取り囲むハウジングを備えていることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項6に記載の送風ファンは、請求項4または5に記載の送風ファンであって、前記回路基板は、前記ハブから半径方向外方に突出する突出部を備え、前記書き換え端子は、該突出部に設けられていることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項7に記載の送風ファンの製造方法は、請求項4乃至6のいずれかに記載の送風ファンの製造方法であって、前記ベース部に前記回路基板と前記電機子とが取り付けられている状態において、前記回路基板に形成される書き換え端子に対して前記電機子側から、外部書き込み装置に接続された書き込み端子を電気的に接触させ、外部書き込み装置によって出力された信号が前記回路基板上に備えられた前記メモリに伝達されることで前記メモリに前記記憶データを書き込む工程、を有することを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項8に記載の送風ファンの製造方法は、請求項4乃至6のいずれかに記載の送風ファンの製造方法であって、a)前記回路基板と前記電機子とを電気的に接続する工程と、b)前記ベース部に前記回路基板を含む前記電機子を固定する工程と、c)前記回路基板に形成される書き換え端子に対して前記電機子側から、外部書き込み装置に接続された書き込み端子を電気的に接触させ、外部書き込み装置によって出力された信号が前記回路基板上に備えられた前記メモリに伝達されることで前記メモリに前記記憶データを書き込む工程と、を有することを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項9に記載の送風ファンの製造方法は、請求項4乃至6のいずれかに記載の送風ファンの製造方法であって、a)前記回路基板と前記電機子とを電気的に接続する工程と、b)前記ベース部に前記回路基板を含む前記電機子を固定する工程と、c)前記ロータホルダを含む回転体を前記回転軸を中心に回転自在に保持する工程と、d)前記回転体の回転動作を検査する工程と、e)前記検査において異常と認められた前記送風ファンの前記回転体を取り外す工程と、f)前記回路基板に形成される書き換え端子に対して前記電機子側から、外部書き込み装置に接続された書き込み端子を電気的に接触させ、外部書き込み装置によって出力された信号が前記回路基板上に備えられた前記メモリに伝達されることで前記メモリに前記記憶データを書き込む工程と、を有することを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項10に記載の送風ファンの製造方法は、請求項4乃至6のいずれかに記載の送風ファンの製造方法であって、前記回転体が回転可能に取り付けられた前記送風ファンにおいて、a)前記送風ファンの前記回転体を取り外す工程と、b)前記回路基板に形成される書き換え端子に対して前記電機子側から、外部書き込み装置に接続された書き込み端子を電気的に接触させ、外部書き込み装置によって出力された信号が前記回路基板上に備えられた前記メモリに伝達されることで前記メモリに前記記憶データを書き込む工程と、c)前記回転体を前記回転軸を中心に回転自在に保持する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明のブラシレスDCモータは、当該モータの電源停止時のいつでも、外部書き込み装置によって書き換え可能な不揮発性のメモリに接続できるように構成されている。よって、組立後のブラシレスDCモータに対して外部からメモリに記憶されているデータを変更することができる。
【0023】
特に、本発明においては、回路基板の電機子側の面にメモリへのアクセスを可能にした書き換え端子が形成されている。このため、ブラシレスDCモータに対して外部から回路基板にアクセスできない場合に、ロータ部を取り外すことによって、回路基板上に形成された書き換え端子に対して書き込み端子を電気的に接触させ、記憶データを変更することが可能である。これにより、製品完成後の仕様変更が容易に行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明を実施するための形態を、図1乃至13を参照しながら説明する。本実施形態では、ブラシレスDCモータがパソコンの内部を冷却するための軸流ファンとして用いられる場合を例示する。なお、以下の説明において軸線方向とは回転軸の長手方向を示し、半径方向とは回転中心を通る軸線に対して直角な方向を示す。
【0025】
図1は、軸流ファンの斜視図である。図2は、図1に示す軸流ファンの断面図である。図3は、回転体が取り付けられていない状態の軸流ファンの平面図である。図4は、書き換え可能メモリの記憶データを書き換えるための外部書き込み装置に接続されたプローブ(書き換え制御ケーブルの先端部)を示す斜視図である。図5乃至10は、図1の軸流ファンの一部を変更した変形例を示す図である。
【0026】
図1の軸流ファン1は、インペラ(送風手段)4を備えたインペラ4付きのモータ(ブラシレスDCモータ)と、このインペラ4の周囲を取り囲むと共にこのモータを支持するハウジング2とを備えている。ハウジング2は、そのインペラ4を外方から取り囲む円筒体3と、この円筒体3の両開口端の外側に形成された上下のフランジ30、35と、その円筒体3の一方の開口端の内部にそのインペラ4付きモータを支持するための円板状のベース部(モータ支持部)80と、その円筒体3の内側にそのベース部80を支持するために放射状に延在する複数の支持アーム(連結部)9とを備え、合成樹脂によって一体成形されている。円筒体3とベース部80との間に形成された空隙は、そのインペラ4の回転によって円筒体3の他方の開口端から吸い込まれた空気流が通る空気流路を構成し、ここを通ってハウジング2の外部へ排出される。ベース部80は、インペラ4側に突出する外周壁を備えるため、内側に窪んだ円形凹部を有している。
【0027】
インペラ4は、図2に示すように、インペラ4付きモータのモータ本体5を嵌入すると共にこのモータの回転側に取り付けられるカップ状のモータケース6と、このモータケース6の外周部に設けられた複数枚の羽根体7とからなる。モータ本体5は、ベース部80の中央に円筒状の軸受ハウジングが設けられ、この軸受ハウジングの内部に一対の軸受が固定され、外部に電機子10が固定されている。その一対の軸受は、内輪がインペラ4の中央に設けられたシャフト5Aに固定され、インペラ4を回転自在に支持する。モータケース6の内側には、ヨークを介して駆動用マグネットが固定され、電機子10に対向している。電機子10は、珪素鋼板を積層してなるステータコアの所定部に、コイルがインシュレータを介して巻設されている。なお、このインペラ4付きモータでは、軸受ハウジングとベース部80とが静止体を構成し、ヨークとシャフト5Aが回転体を構成する。
【0028】
モータ本体5のモータ制御部は、何度でも書き換えが可能な不揮発性のメモリ(フラッシュメモリ)と、このメモリの記憶データに基づいて駆動時の回転を制御する回転制御部と、この回転制御部の制御に基づき電機子10へ回転駆動電流を供給する駆動回路部とを備え、マイコンを用いてPWM(パルス幅変調)制御のフィードバック制御をするように構成されている。そのために、回路基板110には、そのPWM制御のフィードバック制御を行うための制御プログラムやその他の制御に必要なデータが記憶されたメモリを内蔵したマイコンIC12を備えている。
【0029】
この回路基板110は、図2に示されているように、電機子10のインシュレータに設けられた複数の接続ピンに半田付けされて電機子10に固定されている。また、その接続ピンにはコイルが絡げられて、この接続ピンを介してコイルと回路基板110とが電気的に接続されている。
【0030】
回路基板110のベース部80側の面の外周近傍に外部電源や外部制御回路と接続される複数の端子131によって構成される外部接続端子部13が設けられている。この外部接続端子部13には、外部電源や外部制御回路に接続されるケーブルMが半田付けされている。図1に示すように、ベース部80における外部接続端子部13に対向する部分には、軸線方向且つモータ外部に向けて開口するケーブル引き出し開口部14が形成されている。各端子131に接続されたケーブルMは、支持アーム9に沿ってハウジング2の外部へ引き出される。
【0031】
この回路基板110は、図3に示すように、ベース部80に収容されている。回路基板110は、ベース部80と対向する側の面にはマイコンIC12を含むモータ制御部を備えている。回路基板110の電機子10側の面には、マイコンIC12に内蔵したメモリに記憶されたデータを変更するための書き換え端子部150が形成されている。
【0032】
この書き換え端子部150は、例えば5個の端子155からなり、半田が表面実装されてなるランドによって形成され、所定の配線パターン(図略)を介してその内蔵メモリにつながっている。この書き換え端子部150は、外部書き換え装置の書き換え部から引き出される制御ケーブルが接続されることにより、その内蔵メモリの記憶データを書き換えることができる。なお、この実施形態では、制御ケーブルを書き換え端子部150に容易に接触させるために、制御ケーブルの先端にプローブ160が設けられている。
【0033】
この軸流ファン1のシャフト5Aは、Cリングのようなワイヤリングをシャフト先端部の環状溝に嵌め込むことによって抜け止めが構成されている。ワイヤリングを取り外すことで、シャフト5Aの抜け止めの構成は解除される。よって、軸流ファン1は、シャフト5A、ヨーク、駆動用マグネット、インペラ4で構成されるインペラアッシー40(回転体)を容易に取り外すことが可能である。また、取り付ける際も、シャフト5Aを軸受部に挿入し、ワイヤリングを嵌め込むことによって抜け止めが容易に構成される。
【0034】
この軸流ファン1において、メモリの記憶データを書き換える際には、電源を停止状態にして、且つ図3及び図11に示されているようにインペラアッシー40が取り付けられていない状態にて、外部書き換え装置の制御ケーブルのプローブ160をハウジング2の一端側(回路基板110に対して電機子10側)から軸線方向に挿入し、そのプローブ160の先端を書き換え端子部150に接触させる。この状態で、その外部書き換え装置を作動させることにより、マイコンIC12の内蔵メモリの記憶データを書き換えることができる。この書き換え作業が完了した後は、そのメモリの記憶データの漏洩や改ざんを防止するために、そのままではメモリにアクセスできないようにプロテクトされている。
【0035】
本実施形態の回路基板110を軸方向から見た場合、回路基板110は、ベース部80にほぼ全体が覆われている。よって、インペラアッシー40を組み込んだ状態において、回路基板110がモータ外部側に向けてほぼ露出していないため、ベース部80側からプローブ160先端を回路基板110に接触させることができない。もしくは、ベース部80の一部にプローブ160を挿入可能な切欠もしくは貫通孔が形成されていないため、ベース部80側からプローブ160先端を回路基板110に接触させることができない。よって、記憶データの書き換え作業は、インペラアッシー40が組み込まれていない状態で行われる。
【0036】
上述のとおり、記憶データの書き換え作業は、インペラアッシー40が組み込まれていない状態でハウジング2の一端側からプローブ160を軸線方向に挿入することで行われる。軸流ファン1を電機子10側から軸線方向に見たときに、軸線方向の投影範囲に電機子10が突出していないため、書き換え端子部150の視認性が良好な構成となっている。そのため、作業者がプローブ160を書き込み端子部150に接触させる際に作業がし易い。また、プローブ160を自動機にて作動させる場合においても、プローブ160を軸線方向に直線的に移動させることができるため、自動機の駆動機構を単純なものとすることができる。
【0037】
制御ケーブルのプローブ160は、書き換え端子部150に軸線方向に接触させる構成であるため、プローブ160が書き換え端子部150に接触する際に、回路基板110が支えとなりプローブ160を確実に書き換え端子部150に接触させることができる。プローブ160を書き換え端子部150に接触させたときの押圧力によって、プローブ160の各端子161が折れ曲がる恐れがある場合は、その各端子161が弾性を有するように構成しても良い。例えば、図5に示すように書き換え端子部150に弾性のある端子152を設ける方法がある。
【0038】
このように、この実施形態の軸流ファン1では、マイコンIC12の内蔵メモリに所定の記憶データが書き込まれた後であってもその記憶データを変更可能である。また、その内蔵メモリはフラッシュメモリであるため、記憶データの変更は何度でも行える。従来の軸流ファンにおいては、軸流ファン1が組み立てられた後に記憶データを書き換えする必要が生じた場合、回路基板110を取り外す必要があった。回路基板110を取り外す作業は、回路基板110状のマイコンIC12等を含む回路部品に損傷を来たさないように慎重に行う必要がある。よって、回路基板110の取り外しには多大な工数が発生する。回路基板110の取り付け構造次第では、組立後の軸流ファン1を廃棄せざるを得ない。よって、本発明においては、マイコンICの内蔵メモリに所定の記憶データを書き込んだ後に設計変更などによってその記憶データの変更を迫られたとしても、マイコンIC12や回路基板110などの部材廃棄、或いはそれら部材の交換作業などを伴うことなく迅速にデータを変更することができる。
【0039】
本実施形態の利点は、次に示す比較例と比較することにより明らかにすることができる。その比較例として、マイコンICに一度しか書き込めないメモリ(ワンタイムROM)を内蔵した構成では、上述のように記憶データの変更を行う場合に、新規のマイコンICを用意すると共に、その変更前のマイコンICを取り外したり、或いは回路基板毎、取り外したりするなどの余分な工程が追加される。場合によっては、軸流ファン1を廃棄することもある。さらに、その新規のマイコンICを回路基板に実装し直す工程も追加されてしまう。取り外した変更前のマイコンICは廃棄するか、再利用するまで保管するなどの対応が必要となる。その結果、この比較例では、そのような要請に対して大幅なコストアップを伴うと共に組み立てに余分な時間が掛かり、組立の作業効率が著しく低下する。
【0040】
上述する記憶データの書き換え方法は、軸流ファン1の組み立て後に、限定されず、組立途中にも適用可能である。ハウジング2へ回路基板110を組み込む前は、回路基板110に対して各方向からアクセス可能であり、書き込み及び書き換え作業は容易に行える。しかし、ハウジング2に回路基板110を組み込んだ後においては、回路基板110へのプローブ160をアクセスする方向が制限される。よって、回路基板110へのプローブ160をアクセスする方向の制限は、軸流ファン1の完成に依らずハウジング2(ベース部80)に回路基板110が組み込まれた状態において生じる。よって、インペラアッシー40が組み込まれる前においても、本発明は適用可能である。
【0041】
例えば、軸流ファン1の製品出荷直前にマイコンIC12に記憶されたデータの変更が必要になった場合、図12に示されるような工程を経てデータが変更される。まず、インペラアッシー40が取り外される。シャフト5A先端付近に固定されているCリングを取り外すことで、シャフト5Aが軸方向に移動可能となり、容易にインペラアッシー40が取り外される。インペラアッシー40を取り外すことによって、回路基板110上に形成された書き込み端子部150が露出される。書き込み端子部150にプローブ160を電気的接触させることによって記憶データの変更が行われる。この後、インペラアッシー40が取り付けられる。次にインペラアッシー40の回転確認が行われる。回転確認は主に電気的検査であり、インペラアッシー40回転時のモータに流れる電流の波形、回転速度等の確認検査である。回転確認により変更された記憶データが正しいことが確認され、軸流ファン1が出荷される。回転確認により変更された記憶データの書き込みエラーが生じた場合には、再度インペラアッシー40を取り外し、記憶データの再書き込みが行われる。
【0042】
次に、図13に示されるような、軸流ファン1の一般的な製造工程(記憶データ書き換え作業を中心に)に関して説明する。マイコンIC12は前工程にて、メモリに回転制御するためのデータが記憶される。マイコンIC12へのデータ書き込みは、回路基板110に実装された状態で行われる。よって、所定のデータが記憶されたマイコンIC12は回路基板110に実装された状態で軸流ファン1の生産工程に投入される。回路基板110は、電機子10に巻回されるコイルの端末と電気的に接続される。次に、電気的に接続された回路基板110と電機子10とが、ハウジング2のベース部80に組み込まれる。この際にベース部80の中央部に一体形成される軸受ハウジングの外周面に電機子10が接着剤にて固定される。よって、接着剤硬化後は、電機子10及び回路基板110をハウジング2から容易に取り外すことはできない。
【0043】
次に、軸受ハウジング内に一対の玉軸受が固定される。次にインペラアッシー40の一部であるシャフト5Aが玉軸受に回転自在に保持される。この状態で回路基板110に電力を供給することでインペラアッシー40は回転可能な状態にまで組み立てられている。そこで、回路基板110に対して電力を供給し、インペラアッシー40の回転状態を確認する。ここで確認するのは主に、インペラアッシー40の回転速度、モータ内に流れている電流の波形、制御信号を送った際のインペラアッシー40の回転速度等である。これらには、一定の基準が設けられており、規定範囲外の値を示した場合には、回転状態に異常があると判断される。異常としては、マイコンIC12へのデータ書き込みエラー、マイコンIC12への異なったデータの書き込み、マイコンIC12自体の損傷、マイコンIC12以外の回路部品の損傷等が上げられる。回転異常があると認められた場合には、インペラアッシー40を取り外し、再度記憶データの書き換えが行われ、同様に同じ工程を経て、回転状態が正常になるまで同様の作業が繰り返される。
【0044】
本発明は、特に回路基板110に対してプローブ160をベース部80側からアクセスできない場合に適用される。例えば、上述したとおり、回路基板110を軸方向から見た場合、回路基板110は、ベース部80にほぼ全体が覆われている場合等があげられる。その他としては、図14に示されているように回路基板110とベース部80との間に電気的絶縁材料200を介在させる場合がある。ハウジング2が導電性を有する材料(例えば、アルミダイカスト製品)で形成されている場合、回路基板110とベース部80との間の電気的導通を防止するために、電気的絶縁材料200が配置される。この場合には、ベース部80側から回路基板110にプローブ160をアクセスさせようとした際に、電気的絶縁材料200が配置されているため、電気的絶縁材料200が障害物となり回路基板110にアクセスすることができない。
【0045】
軸流ファン1は、高温・高湿のような過酷な環境下で使用される場合がある。このような場合には、図15に示されているように回路基板110のマイコンIC12を含む回路部品が形成されている面に防湿処理を施す必要がある。防湿処理に使用される防湿剤201は、主成分をポリオレフィン、アクリル、ポリウレタン、シリコン等の材料で形成される絶縁材料が用いられる。防湿剤201は、回路基板110のベース部80側の面(つまりマイコンIC12を含む回路部品が実装されている面)を覆うように塗布される。本実施形態においては、回路基板110のマイコンIC12を含む回路部品が実装される面がベース部80と対向するように構成されている。よって、ベース部80側から回路基板110に対してプローブ160を近づけた際に、回路基板110の表面には防湿剤201が塗布されているため、回路基板110へのアクセスができない。
【0046】
次に、この実施形態の変形例について説明する。
【0047】
回路基板110にプローブ160を接触させる際に、書き換え端子部150とプローブ160との位置決めが重要である。書き換え端子部150とプローブ160との位置決め精度が悪い場合には、書き換えエラーが発生する虞がある。このような書き換えエラーの発生を抑制するために次のような方法がある。例えば、図6に示すように、プローブ160の先端と書き換え端子部150のそれぞれにコネクタc1、c2を設け、両コネクタc1、c2を連結する構成があげられる。また、図7に示すように書き換え端子部にピン端子c3を実装し、このピン端子c3にプローブ160のコネクタc1を連結する構成があげられる。その他としては、図8に示すように回路基板110を貫通させたスルーホールc4の内周面に導通部を設け、このスルーホールc4にプローブ160のコネクタc1’を差し込む構成があげられる。その他としては、図9に示すように回路基板110に位置決め用の切欠きc5を設け、この切欠きc5にプローブ160の矩形部162に設けた位置決め用凸部163を契合させる構成等をあげられる。書き換え端子部150とプローブ160との位置決め方法は、上述の方法には限定されず、適宜変更可能である。
【0048】
また、マイコンIC12等の電子部品の冷却を図るため、回路基板110に代えて図10に示すようなベース部80の外周縁から半径方向外方にはみ出る突出部156をもつ回路基板115を使用する場合に、このはみ出し部156に書き換え端子部150の各端子155を設けてもよい。この突出部156は、ハウジング2の円筒体3内を流れる空気流の一部を回路基板115の中央付近へ送り込むことによって種々の電子部品を冷却するのに使用したり、この突出部156に温度センサーを実装したりすることができる。この構成において、マイコンIC12のメモリの記憶データを書き換える際には、図1に示した構成に比べて、書き換え端子部150の周辺に障害物がさらに少なくなるため、一層視認性が良好となり、作業者が作業し易くなる利点がある。
【0049】
回路基板110、115の材質は、金属や紙フェノール、ガラスエポキシ樹脂等の硬質の材料からなるリジッド基板や可撓性を有するフレキシブル基板など種々の材質および構成のプリント基板であってもよい。
【0050】
ところで、当該軸流ファン1は、モータ制御部のマイコンIC12に書き換え可能メモリを内蔵する点において、特開2004−120980号公報に記載の送風ファンと類似する。しかしながら、当該軸流ファン1での記憶データの書き換えは、制御に必要な予め記憶された制御プログラム自体の記憶データを、電源を停止させて行うことを対象とするものでる。よって、上記のように、メモリに所定の記憶データが書き込まれた後であってもその記憶データを変更することができる。このことにより、メモリに所定の記憶データを書き込んだ後に設計変更などによってその記憶データの変更を迫られたとしても、マイコンIC12や回路基板110などの部材廃棄、或いはそれら部材の交換作業などを伴うことなく迅速にデータを変更できるといった特有の効果を奏する。これに対して、特開2004−120980号公報に記載の送風ファンの書き換えは、回転中の送風ファンの運転状況に係る回転調整用の数値パラメータ情報を対象とするものであり、制御プログラムが書き込まれているROMではなく、マイコンが動作中に一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)の内容を変更するものであり、電源オン時に行うことを前提とした構成である点において、両者はその構成及び作用効果が全く異なる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1の実施形態の軸流ファンの斜視図である。
【図2】図1の軸流ファンの断面図である。
【図3】図1の軸流ファンのインペラアッシー40を取り外した状態の平面図である。
【図4】図1の軸流ファンに使用する外部書き込み装置のプローブの一部を示す斜視図である。
【図5】図1の軸流ファンの一部を変更した変形例の一つを示す断面図である。
【図6】図1の軸流ファンの一部を変更した変形例の一つを示す断面図である。
【図7】図1の軸流ファンの一部を変更した変形例の一つを示す断面図である。
【図8】図1の軸流ファンの一部を変更した変形例の一つを示す断面図である。
【図9】図1の軸流ファンの一部を変更した変形例の一つを示す分解図である。
【図10】図1の軸流ファンの一部を変更した変形例の一つを示す斜視図である。
【図11】図1の軸流ファンのインペラアッシー40を取り外した状態の断面図である。
【図12】本発明における軸流ファンの製造フローを示す図である。
【図13】本発明における軸流ファンの製造フローを示す図である。
【図14】図1の軸流ファンの一部を変更した変形例の一つを示す斜視図である。
【図15】図1の軸流ファンの一部を変更した変形例の一つを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0052】
1 軸流ファン
2 筐体
30、35 フランジ
3 円筒体
4 インペラ
5 モータ本体
5a 回転軸
6 モータケース
80 ベース部
9 支持アーム
10 ステータ
110、115 回路基板
12 マイコンIC
13 外部接続端子部
131、155、155’ 端子
M ケーブル
150 書き換え端子部
160 プローブ
161 端子
c1、c2、c1’、c6 コネクタ
c3 ピン端子
c4 スルーホール
c5 切欠き
162 矩形部
163 位置決め用凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動式のモータであって、
略円筒状周壁部を有するロータホルダと、
該ロータホルダの周壁部内周面に固定される環状のロータマグネットと、
前記ロータホルダを回転軸を中心として回転自在に保持する軸受部と、
該軸受部を支持する軸受ハウジングと、
該軸受ハウジングもしくはこれのベース部に支持され、前記ロータマグネットとの間でトルクを発生する電機子と、
前記ベース部側に配置され、前記電機子と電気的に接続される回路基板と、を備えており、
該回路基板は、書き換え可能な不揮発性のメモリと該メモリの記憶データに基づいて駆動時の回転を制御する回転制御部と該制御部の制御に基づき前記モータに回転駆動電流を供給する駆動回路部とを備え、
前記モータの電源停止時に、外部書き込み装置に接続された書き換え制御ケーブルを前記回路基板の前記書き換え可能メモリに接続するための書き換え端子が、前記回路基板上に設けられ、且つ該書き換え端子は前記回路基板に対して前記電機子側から接続可能に配置されていることを特徴とするモータ。
【請求項2】
前記回路基板と前記ベース部とは軸方向に対向しており、前記回路基板の前記ベース部側の面は前記ベース部によってほぼ覆われていることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
前記回路基板と前記ベース部との間隙に絶縁材料が配置されており、前記回路基板の前記ベース部側の面が前記絶縁材料によってほぼ覆われていることを特徴とする請求項1または2に記載のモータ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のモータを搭載する送風ファンであって、
前記ロータホルダの周壁部外側面に固定されるハブと、
前記ハブに形成され、回転することで空気流を発生する複数の羽根と、を備えることを特徴とする送風ファン。
【請求項5】
前記送風ファンは、前記羽根の外側から取り囲むハウジングを備えていることを特徴とする請求項4に記載の送風ファン。
【請求項6】
前記回路基板は、前記ハブから半径方向外方に突出する突出部を備え、
前記書き換え端子は、該突出部に設けられていることを特徴とする請求項4または5に記載の送風ファン。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれかに記載の送風ファンの製造方法であって、
前記ベース部に前記回路基板と前記電機子とが取り付けられている状態において、
前記回路基板に形成される書き換え端子に対して前記電機子側から、外部書き込み装置に接続された書き込み端子を電気的に接触させ、外部書き込み装置によって出力された信号が前記回路基板上に備えられた前記メモリに伝達されることで前記メモリに前記記憶データを書き込む工程、を有することを特徴とする送風ファンの製造方法。
【請求項8】
請求項4乃至6のいずれかに記載の送風ファンの製造方法であって、
a)前記回路基板と前記電機子とを電気的に接続する工程と、
b)前記ベース部に前記回路基板を含む前記電機子を固定する工程と、
c)前記回路基板に形成される書き換え端子に対して前記電機子側から、外部書き込み装置に接続された書き込み端子を電気的に接触させ、外部書き込み装置によって出力された信号が前記回路基板上に備えられた前記メモリに伝達されることで前記メモリに前記記憶データを書き込む工程と、を有することを特徴とする送風ファンの製造方法。
【請求項9】
請求項4乃至6のいずれかに記載の送風ファンの製造方法であって、
a)前記回路基板と前記電機子とを電気的に接続する工程と、
b)前記ベース部に前記回路基板を含む前記電機子を固定する工程と、
c)前記ロータホルダを含む回転体を前記回転軸を中心に回転自在に保持する工程と、
d)前記回転体の回転動作を検査する工程と、
e)前記検査において異常と認められた前記送風ファンの前記回転体を取り外す工程と、
f)前記回路基板に形成される書き換え端子に対して前記電機子側から、外部書き込み装置に接続された書き込み端子を電気的に接触させ、外部書き込み装置によって出力された信号が前記回路基板上に備えられた前記メモリに伝達されることで前記メモリに前記記憶データを書き込む工程と、
を有することを特徴とする送風ファンの製造方法。
【請求項10】
請求項4乃至6のいずれかに記載の送風ファンの製造方法であって、
前記回転体が回転可能に取り付けられた前記送風ファンにおいて、
a)前記送風ファンの前記回転体を取り外す工程と、
b)前記回路基板に形成される書き換え端子に対して前記電機子側から、外部書き込み装置に接続された書き込み端子を電気的に接触させ、外部書き込み装置によって出力された信号が前記回路基板上に備えられた前記メモリに伝達されることで前記メモリに前記記憶データを書き込む工程と、
c)前記回転体を前記回転軸を中心に回転自在に保持する工程と、を有することを特徴とする送風ファンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−72794(P2008−72794A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−247045(P2006−247045)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(000232302)日本電産株式会社 (697)
【Fターム(参考)】