説明

モータ制御装置およびモータ制御システム

【課題】正弦波に近い、高調波成分の少ない復元電流波形を得る。
【解決手段】目標値及び電流復元部23が復元した復元電流を用いて、二軸電流指令値を演算する二軸電流指令値演算部2211と、二軸電流指令値を用いて、三相交流モータ4に印加電圧を指令する三相電圧指令値を演算する電圧指令値演算部222と、三相電圧指令値と単相三角波とを比較してPWM信号を生成し、電力変換器3をPWM制御するPWM信号生成部223と、二軸電流指令値を二軸−三相変換する二軸−三相変換部2212とを有し、A/D変換部21が出力する測定電流値と電流指令値との偏差を演算する偏差演算部231と、偏差の大きさが規定幅データよりも大きいときに、電流指令値を復元電流の値として設定し、偏差の大きさが設定値以下のときに、測定電流値を復元電流の値として設定する設定部232とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換器の直列側電流を検出することにより、モータ相電流を再現するモータ制御装置およびモータ制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、直流電力を複数のスイッチング素子によって三相電力に変換するインバータ(電力変換器)を介して、三相交流モータの回転速度を制御するモータ制御装置がある。
【0003】
このモータ制御装置は、目標値と三相交流モータに流れるモータ相電流を復元した復元モータ電流とに基づいて、三相交流モータに印加する印加電圧を指令する三相の電圧指令値を生成する。そして、モータ制御装置は、三相の電圧指令値と一定周期で連続する三角波のキャリア信号とを比較することにより、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)信号を取得(生成)し、このPWM信号を制御信号としてインバータの複数のスイッチング素子に入力することにより、三相交流モータをPWM制御する。
【0004】
また、三相交流モータの制御には、ロータの回転位置を検出する位置センサが必要であるが、三相交流モータの小型化が要求されているため、センサレス制御が求められている。このセンサレス制御の延長線上で、モータ制御装置は、モータ相電流を検出する電流センサ(たとえば、電流変換トランス(CT:Current Transformer)やホール素子等)の数を低減し、コストダウンを図ることが好ましい。たとえば、これらの電流センサを使用せずセンサレスの形態でモータ制御を行う技術も開示されている(例えば、非特許文献1参照)。以下、この電流センサを不要にしたモータ制御をセンサレス制御という。
【0005】
非特許文献1に開示されている技術は、1つのシャント抵抗を用いた電流センサレス形態の電流復元方法である。電流復元方法として、インバータと直流電力を供給する直流電源との間を結ぶ直流バスに流れる直流バス電流から、電圧指令値とキャリア信号とを比較して得たPWMスイッチングパターンに基づいて、特定の相に流れるモータ相電流を特定することにより、三相のモータ電流を復元する。
【0006】
そして、電流検出のタイミングは、三角波1周期の区間内で、PWMパターンで1相のみON時とPWMパターンで2相ON時の各々1回電流検出し、複数の周期で電流検出を行い、その複数の検出電流値とPWMスイッチングパターンに基づいて、電気角360°のモータ電流を復元している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】金丸就吾、野口季彦、川上学、佐野浩一「インバータの直流バス電流を用いた三相交流電流の復元法とモータドライブへの適用」電気学会研究会電力技術・電力系統技術・半導体電力変換合同研究会資料、2009年3月2日、pp.37−42(資料番号PE−09−27、PSE−09−35、SPC−09−69)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、1つのシャント抵抗(以後、1シャント抵抗と称する。)を用いて電流を取得する電流取得法では、サンプリング電流の電流取得のタイミングが三角波1周期に対して、PWMスイッチングパターン1区間に制限され、この1区間で1回の電流サンプリングでは、ノイズを受けやすい。
【0009】
そこで、PWMスイッチングパターン1区間で複数回のサンプリングおよび平均化処理によって、ノイズの影響を低減させることも考えられる。
【0010】
しかしながら、複数回のサンプリングを連続で取得する場合の処理時間は、取得回数が多いほど増加し、電流サンプリング以外の処理に影響を及ぼす可能性がある。また、複数取得は取得タイミングの異差による信号波形の時間変化により、取得データの異差も生じてしまう可能性がある。
【0011】
ベクトル制御においては、1キャリア周期が制御周期となるため、1キャリア周期は短ければ短いほど離散誤差が小さくなり、正確な制御が可能となるが、実際の制御では、電流の取得、ベクトル制御演算、PWM出力設定を行う等の処理時間を考慮する必要がある。
【0012】
特に、1シャント抵抗を用いた電流センサレスでは、ベクトル制御を1キャリア周期毎に実行し、そのベクトル制御で算出されたPWM設定(電流の取得のためのPWM設定)を1キャリア周期の中の半周期毎に実行する。そして、ベクトル制御の処理時間としては1キャリアの半周期で処理を完了させる必要がある。
【0013】
以上のように、複数回の電流取得を行う場合は、決められた時間内に収まるような回数としなければならず、特に、1シャント抵抗を用いた電流センサレス電流取得法では、電流取得するための時間が短いために、複数取得による処理時間の増加の影響は大きく、1キャリア周期内で一連のベクトル制御処理が終了しない可能性もある。
【0014】
また、1シャント抵抗を用いた電流センサレス電流取得法では、1つのシャント抵抗とPWMスイッチングパターンから電流を取得する。そして、サンプリング電流の電流取得のタイミングは、三角波1周期内で、PWMパターンで1相のみON時とPWMパターンで2相ON時の各々1回に制限される。したがって、これら取得するサンプリング電流がノイズ等によるイレギュラ値を含んでいる場合には、復元された復元電流は、高調波成分を多く含む歪んだ電流波形となってしまう。
【0015】
本発明は、前記課題を解決するために、1つのシャント抵抗とPWMスイッチングパターンから電流を取得する電流取得法を用いて、正弦波に近い、高調波成分の少ない復元電流波形を得ることが可能なモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1のモータ制御装置は、直流電力を交流電力に変換する電力変換器の直流側電流を検出するA/D変換部と、前記電力変換器を介して三相交流モータの回転速度をベクトル制御するベクトル制御部と、前記直流側電流の値を用いて前記三相交流モータに流れるモータ相電流(iu、iv、iw)を復元する電流復元部とを備え、前記ベクトル制御部は、目標値(目標回転速度)および前記電流復元部が復元した復元電流を用いて、励磁軸(d軸)およびこれに直交するトルク軸(q軸)に分解した二軸電流指令値(Id*、Iq*)を演算する二軸電流指令値演算部と、前記二軸電流指令値を用いて、前記三相交流モータに印加する印加電圧を指令する三相電圧指令値(Vu*、Vv*、Vw*)を演算する電圧指令値演算部と、前記三相電圧指令値と単相三角波とを比較してPWM信号(Up、Vp、Wp)を生成し、前記電力変換器をPWM制御するPWM信号生成部と、前記二軸電流指令値を二軸−三相変換する二軸−三相変換部とを有し、前記電流復元部は、前記A/D変換部が出力する出力値(測定電流値)と前記二軸−三相変換部が変換した三相電流指令値(Iu*、Iv*、Iw*)との偏差を演算する偏差演算部と、前記偏差の大きさが設定値(規定幅データ)よりも大きいときに、前記電流指令値を前記復元電流の値として設定し、前記偏差の大きさが前記設定値以下のときに、前記出力値(測定電流値)を前記復元電流の値として設定する設定部とを備えていることを特徴とする。なお、( )内の記号、文字は、例示である。
【0017】
また、前記目的を達成するために、本発明の請求項2のモータ制御装置は、直流電力を交流電力に変換する電力変換器の直流側電流を検出するA/D変換部と、前記電力変換器を介して三相交流モータの回転速度をベクトル制御するベクトル制御部と、前記直流側電流の値を用いて前記三相交流モータに流れるモータ相電流(iu、iv、iw)を復元する電流復元部とを備え、前記ベクトル制御部は、目標値(目標回転速度)および前記電流復元部が復元した復元電流を用いて、前記モータ相電流の電流指令値(Iu*、Iv*、Iw*)を演算する電流指令値演算部と、前記電流指令値を用いて、前記三相交流モータに印加する印加電圧を指令する電圧指令値(Vu*、Vv*、Vw*)を演算する電圧指令値演算部と、前記電圧指令値と単相三角波とを比較してPWM信号(Up、Vp、Wp)を生成し、前記電力変換器をPWM制御するPWM信号生成部とを有し、前記電流復元部は、前記A/D変換部が出力する出力値(測定電流値)と前記電流指令値との偏差を演算する偏差演算部と、前記偏差の大きさが設定値(規定幅データ)よりも大きいときに、前記電流指令値を前記復元電流の値として設定し、前記偏差の大きさが前記設定値以下のときに、前記出力値(測定電流値)を前記復元電流の値として設定する設定部とを備えていることを特徴とする。なお、( )内の記号、文字は、例示である。
【0018】
本発明のモータ制御装置によれば、A/D変換部の出力値がノイズの影響を受けて、イレギュラな値となっても、平均化処理をすることなく、設定値以内の誤差でモータ電流を復元することができる。
【0019】
前記単相三角波の周期をPWMスイッチパターンに基づいて6分割し、予め規定されたスイッチングパターン(図3)に同期させてA/D変換部にモータ相電流を検出させることもできる。これによれば、三相交流モータを制御する制御用CPUや、A/D変換部の速度が遅く、電流検出に時間がかかり、単相三角波の周期内でモータ相電流を1回検出しか検出できなくても、動作可能である。なお、3相の電流の和はゼロであるので、2相の電流を検出すれば、他の1相の電流は求められる。
【0020】
そして、前記目的を達成するために、本発明のモータ制御システムは、三相交流モータと、直流電力を交流電力に変換する電力変換器と、前記三相交流モータを、前記電力変換器を介してPWM制御するモータ制御装置と、を備えるモータ制御システムであって、前記モータ制御装置は、前記電力変換器の直流側電流を検出するA/D変換部と、前記三相交流モータの回転速度をベクトル制御するベクトル制御部と、前記直流側電流の値を用いて前記三相交流モータに流れるモータ相電流(iu、iv、iw)を復元する電流復元部とを備え、前記ベクトル制御部は、目標値(目標回転速度)および前記電流復元部が復元した復元電流を用いて、励磁軸(d軸)およびこれに直交するトルク軸(q軸)に分解した二軸電流指令値(Id*、Iq*)を演算する二軸電流指令値演算部と、前記二軸電流指令値を用いて、前記三相交流モータに印加する印加電圧を指令する三相電圧指令値(Vu*、Vv*、Vw*)を演算する電圧指令値演算部と、前記三相電圧指令値と単相三角波とを比較してPWM信号(Up、Vp、Wp)を生成し、前記電力変換器をPWM制御するPWM信号生成部と、前記二軸電流指令値を二軸−三相変換する二軸−三相変換部とを有し、前記電流復元部は、前記A/D変換部が出力する出力値(測定電流値)と前記二軸−三相変換部が変換した三相電流指令値(Iu*、Iv*、Iw*)との偏差を演算する偏差演算部と、前記偏差の大きさが設定値(規定幅データ)よりも大きいときに、前記電流指令値を前記復元電流の値として設定し、前記偏差の大きさが前記設定値以下のときに、前記出力値(測定電流値)を前記復元電流の値として設定する設定部とを備えていることを特徴とする。なお、( )内の記号、文字は、例示である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、正弦波に近い、高調波成分の少ない復元電流波形を得ることが可能なモータ制御装置およびモータ制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置の構成図である。
【図2】1シャント抵抗を用いた電流取得法を説明するための各部における出力波形を示す図であり、(a)は、PWM波形、(b)は、シャント抵抗両端電圧、そして、(c)は、モータ電流波形である。
【図3】PWMスイッチングパターンと検出電流の関係を示す表である。
【図4】1回のサンプリングデータの取得タイミング電圧の時間変化を示す図である。
【図5】第1の実施形態に係る1シャント抵抗を用いた電流センサレス電流取得法による電流取得時のデータ処理を説明するための図である。
【図6】第1の実施形態に係る1シャント抵抗を用いた電流センサレス電流取得法におけるデータ処理のフローを説明するためのフローチャートである。
【図7】第1の実施形態の測定例(その1)として、(a)電流波形比較(測定電流値と電流指令値)、(b)測定電流値と電流指令値との偏差を示す図である。
【図8】第1の実施形態の測定例(その2)として、(a)ノイズによる実際の停止時波形、(b)(a)図の破線領域の拡大図である。
【図9】第1の実施形態の測定例(その3)として、(a)測定電流値波形(イレギュラ値を有する)、(b)電流指令値波形を示す図である。
【図10】第1の実施形態の測定例(その3)として、電流指令値により補正された復元電流波形を示す。
【図11】本発明の第2の実施形態のモータ制御装置の構成図である。
【図12】比較例1 従来の1シャント抵抗を用いた電流センサレス電流取得法による電流取得時のデータ処理を説明するための図である。
【図13】比較例1 従来の1シャント抵抗を用いた電流センサレス電流取得法におけるデータ処理のフローを説明するためのフローチャートである。
【図14】比較例2 従来の電流センサ付き電流取得法を用いたモータ制御装置の構成図である。
【図15】比較例2 従来の電流センサ付き電流取得法によるデータ処理のフローを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態のモータ制御装置を、図面を参照して説明する。なお、各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。また、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0024】
(第1の実施形態)
<モータ制御装置2aの構成>
以下、図1を参照して、第1の実施形態に係るモータ制御装置の構成を説明する。図1は、第1の実施形態のモータ制御装置2aの構成図である。図1に示すように、本実施形態に係るモータ制御装置2aは、電力変換器3および三相交流モータ(三相同期電動機)4とともに、モータ制御システム1aを構成している。モータ制御装置2aは、電力変換器3を介して三相交流モータ4の回転を制御している。電力変換器3は、直流電源Eが接続されており、直流電源Eから供給される直流電力を三相交流電力に変換して、三相交流モータ4を駆動する。
【0025】
モータ制御装置2aは、A/D変換部21とベクトル制御部22と電流復元部23とを備えて構成される。A/D変換部21は、電力変換器3に直流電力を供給する直流電源Eに接続されたシャント抵抗rに流れる電力変換器3の直流側電流を検出する。ベクトル制御部22は、電力変換器3を介して三相交流モータ4の回転速度をベクトル制御する。そして、電流復元部23は、電力変換器3の直流側電流の値を用いて、三相交流モータ4に流れるモータ相電流(iu、iv、iw)を復元するものである。
【0026】
ベクトル制御部22は、電流指令値演算部221と電圧指令値演算部222とPWM信号生成部223と単相三角波発生部224とを備えて構成される。
電流指令値演算部221は、二軸電流指令値演算部2211と二軸−三相変換部2212と三相−二軸変換部2213とを備えて構成される。電流指令値演算部221には、目標値(目標回転速度)Tおよび電流復元部23からの復元された三相の復元電流IREが入力される。目標値(目標回転速度)Tは、二軸電流指令値演算部2211に入力され、三相の復元電流IREは、三相−二軸変換部2213に入力される。そして、三相−二軸変換部2213に入力された三相の復元電流IREは、励磁軸(d軸)およびこれに直交するトルク軸(q軸)の二軸の電流に変換され、二軸電流指令値演算部2211および電圧指令値演算部222に入力電流Id、Iqとして出力される。二軸電流指令値演算部2211は、入力された目標値(目標回転速度)Tおよび二軸の入力電流Id、Iqを二軸電流指令値Id*、Iq*に演算して、二軸−三相変換部2212および電圧指令値演算部222に出力する。二軸−三相変換部2212は、二軸電流指令値演算部2211から入力された二軸電流指令値Id*、Iq*を三相電流指令値Iu*、Iv*、Iw*に変換して、電流復元部23に出力する。
【0027】
電圧指令値演算部222は、電流指令値演算部221からの二軸電流指令値Id*、Iq*と入力電流Id、Iqとを用いて、三相交流モータ4に印加する印加電圧を指令する電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を演算し、PWM信号発生部223に出力する。そして、PWM信号生成部223は、電圧指令値演算部222からの電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*と単相三角波発生部224からの単相三角波とを比較してPWM信号Up、Vp、Wpを生成し、電力変換器3に出力して電力変換器3をPWM制御する。
【0028】
電流復元部23は、偏差演算部231と設定部232とA/D変換制御部233とを備えて構成される。
偏差演算部231は、A/D変換部21から出力された測定電流値(出力値)Ioと電流指令値演算部221の二軸−三相変換部2212で変換された三相電流指令値I*(Iu*、Iv*、Iw*)とが入力され、測定電流値(出力値)Ioと三相指令電流値I*との偏差IDを演算し設定部232に出力する。
【0029】
設定部232は、いわゆる、コンパレータとスイッチとの機能を有している。設定部232は、偏差演算部231からの偏差IDの大きさ(|ID|)が設定された規定幅データ(設定値)ISの大きさ(|IS|)よりも大きいときは、スイッチが「a」に切り替わり、電流指令値演算部221から指令された電流指令値I*を電流指令値演算部221に復元電流IREの値として出力する。一方、設定部232は、偏差演算部231からの偏差IDの大きさ(|ID|)が設定された規定幅データ(設定値)ISの大きさ(|IS|)以下のときは、スイッチが「b」に切り替わり、A/D変換部21からの測定電流値(出力値)Ioを、電流指令値演算部221に復元電流IREの値として出力する。さらに、A/D変換制御部233は、電力変換器3の三相交流モータ4のU相、V相、およびW相におけるDuty 100%のときの無通電状態および通電状態を表すPWMスイッチングパターン(図3参照)を用いて、単相三角波発生部224が発生する単相三角波の周期に同期させてA/D変換部21を制御する。
【0030】
<モータ制御装置の動作>
以下、本実施形態のモータ制御装置2aの動作につき説明する。なお、モータ制御装置2aにおける各部の構成および関連動作については、前記<モータ制御装置の構成>の項において既に説明したので省略する。ここでは、図2乃至図6を参照して、本実施形態のモータ制御装置2aの特徴である電流指令値I*および測定電流値(出力値)Ioを取得して復元電流IREの値を出力する電流復元部23の動作について主に説明する。
【0031】
なお、モータ制御装置2aは、A/D変換器内蔵のワンチップCPUにより構成され、図示せぬタイマによって計測された時間に基づいて動作する。また、モータ制御装置2の一連の動作は、図示せぬ記憶部に読み出し自在に予め格納されたプログラムによって規定されている。以下、これらの点については、情報処理では常套手段であるので、その詳細な説明を省略する。
【0032】
図2(a)乃至図2(c)は、1シャント抵抗を用いた電流取得法を説明するための各部における出力波形を示す図である。なお、図2(a)乃至図2(c)において、横軸の時間軸は、同様の時間単位で示してある。図2(a)は、PWM信号生成部223から電力変換器3に出力されるPWM波形Up、Vp、Wpを示す。横軸は時間であり、本実施形態では、1キャリア周期200μsとした2周期分の時間を示している。なお、1キャリア周期200μsの値は、単相三角波発生部224からの単相三角波の周期の200μsとしてある。
【0033】
図2(b)は、シャント抵抗両端電圧波形であり、このタイミング(1)および(2)によって取得されるシャント抵抗rに流れる直流電流値と後記する図3のPWMスイッチングパターンによって特定されたモータ相電流の検出電流、この場合は、iuおよび−iwがA/D変換部21を介してモータ電流の各相の測定電流値(出力値)Ioとして検出され、電流復元部23の偏差演算部231および設定部232に入力される。
【0034】
図2(c)は、モータ電流波形であり、各モータ相電流(iu、iv、iw)のそれぞれ電気角360°を有した相電流のうちの、ここでは、キャリア周期2周期分のモータ電流波形と図2(b)のタイミング(1)および(2)で取得される検出電流iuおよび−iwを取得部(1)および(2)として示してある。
【0035】
図3は、PWMスイッチングパターンと検出電流の関係を示す表である。図3では、図2(a)および図2(b)を参照して説明したタイミング(1)および(2)で取得される検出電流iuおよび−iwとそれ以外の検出電流をPWMスイッチングパターンに対応させて図示してある。
【0036】
図3は、PWMスイッチングパターンと特定の電流相との関係の説明図である。図3は、三相交流モータ4のU相、V相、およびW相におけるDuty 100%のときの無通電状態および通電状態を表すPWMスイッチングパターンと、各PWMスイッチングパターンによって定まる特定の電流相(特定電流相と称する)との関係を示している。図3では、PWMスイッチングパターンは、無通電状態を「OFF」とし、通電状態を「ON」として、各相の状態をA〜Hの8通りのPWMスイッチングパターンとして示している。
【0037】
図3は、PWMスイッチングパターンA〜Hの特定電流相が以下のようになることを示している。すなわち、パターンAとして、U相、V相、およびW相がそれぞれ「OFF、OFF、OFF」となる場合に、特定電流相が特定できず検出電流は「なし」状態となる。また、パターンBとして、U相、V相およびW相がそれぞれ「ON、OFF、OFF」となる場合に、特定電流相が「U相」となり、検出電流はiuとなる。また、パターンCとして、U相、V相およびW相がそれぞれ「OFF、ON、OFF」となる場合に、特定電流相が「V相」となり、検出電流はivとなる。また、パターンDとして、U相、V相およびW相がそれぞれ「ON、ON、OFF」となる場合に、特定電流相が「W相」となり、検出電流は−iwとなる。また、パターンEとして、U相、V相およびW相がそれぞれ「OFF、OFF、ON」となる場合に、特定電流相が「W相」となり、検出電流はiwとなる。また、パターンFとして、U相、V相およびW相がそれぞれ「ON、OFF、ON」となる場合に、特定電流相が「V相」となり、検出電流は−ivとなる。また、パターンGとして、U相、V相およびW相がそれぞれ「OFF、ON、ON」となる場合に、特定電流相が「U相」となり、検出電流は−iuとなる。また、パターンHとして、U相、V相、およびW相がそれぞれ「ON、ON、ON」となる場合に、特定電流相が特定できず検出電流は「なし」状態となる。
【0038】
そして、本実施形態においては、電流復元部23のA/D変換制御部233は、このPWMスイッチングパターンに対応した電力変換器3のスイッチングパターン、すなわち、図3における検出電流「なし」の2つのパターンを除いた6つのスイッチングパターンに同期させて、A/D変換部21を制御する。したがって、単相三角波の周期200μs中におけるPWMスイッチパターンの内、前記の図3における6つのスイッチングパターンが検出電流の取得部として規定される。
【0039】
さらに、A/D変換制御部233は、単相三角波周期200μs中におけるPWMスイッチパターンの内、隣接した2つの期間、すなわち、図2の取得部(1)および(2)において、ここでは、U相およびW相の二相の検出電流を、1キャリア周期内に各1回検出し取得させる。
【0040】
次いで、図4を参照して、A/D変換部21における1回の検出電流のサンプリングデータの取得タイミング電圧の時間変化を説明する。図4において、縦軸はタイミング電圧であり、横軸は時間(μs)である。
a)領域は、A/D変換部21への入力直前のフィルタ回路等による充電時間およびセットアップ時間(約6μs)であり、b)領域は、1データのA/D変換部21での電流検出時間を含むA/D変換時間(2.6μs)であり、c)領域は、A/D変換部21中でのレジスタ等の設定処理時間(約1μs)であることから、a)〜c)領域のトータル時間がデータ取得時間としての必要最低時間として、約10μsと見積もられる。
【0041】
<1シャント抵抗を用いた電流センサレス電流取得法による電流取得時のデータ処理>
本実施形態の1シャント抵抗を用いた電流取得法では、前記したように、A/D変換部21における電流取得は1回測定に制限される。
そして、モータ制御は、電流指令値演算部221において、実際のモータ電流値がマイコン内部で算出する電流指令値I*となるように制御する。したがって、三相交流モータ4が正常に制御されて動作していれば、常識的な制御偏差値を含む値として、基本的に、「(電流指令値)≒(モータ電流正常値)」と考えて良い。
以下、電流指令値I*を(□)、モータ電流正常値(以下、正常値と記す。)を(○)および、測定電流値(出力値)Ioを(白抜き三角)と付記して説明する。
【0042】
本実施形態の電流復元部23では、電流指令値演算部221からの電流指令値I*を判定基準値として用い、A/D変換部21でのA/D変換によって得られた取得データの精査を設定部232において行い、偏差ID=|測定電流値(出力値)Io−電流指令値I*|を規定幅データ(設定値)ISと比較することで、異常値を含まない適切な復元電流の値IREとして採用しベクトル制御を行う。
なお、規定幅データ(設定値)ISの値は、設定部232のバラツキやAD変換誤差によるバラツキ等を考慮して決定される。
【0043】
本実施形態の電流復元部23における1シャント抵抗を用いた電流センサレス電流取得法による電流取得時のデータ処理について、図5(a)乃至図5(c)を参照して説明する。
図5(a)に示すように、データ取得を4つの時点(n−2、n−1、n、n+1:nは自然数)でそれぞれ1回行ったときのn時点目のデータ取得において、設定部232で、正常値(○)の測定電流値(出力値)Ioのデータ取得が行われたとき(偏差ID=0)は、取得した測定電流値(出力値)Ioを正常値(○)として、モータ電流の復元電流IREの値として使用する。この場合は、前記したように、正常値(○)と電流指令値I*とが等しいとみなす。
【0044】
また、図5(b)に示すように、同様にn時点目のデータ取得において、測定電流値(出力値)Io(白抜き三角)が正常値(○)に近いとみなされる測定電流値(出力値)Io(白抜き三角)のデータ取得が行われ、偏差ID=|測定電流値(出力値)Io(白抜き三角)−電流指令値I*(□)|≦規定幅データ(設定値)ISであるときは、取得した測定電流値(出力値)Io(白抜き三角)を真値(正常値(○))とみなし、モータ電流の復元電流の値IREの値として使用する。
このような測定電流値(出力値)Ioが発生する要因は、軽微なノイズの発生、電流取得処理のバラツキ等が挙げられる。
【0045】
一方、図5(c)に示すように、同様にn時点目のデータ取得において、測定電流値(出力値)Io(白抜き三角)が正常値(○)から大きく異なる(イレギュラ)とみなされる測定電流値(出力値)Io(白抜き三角)のデータ取得が行われ、偏差ID=|測定電流値(出力値)Io(白抜き三角)−電流指令値I*(□)|>規定幅データ(設定値)ISであるときは、取得した測定電流値(出力値)Io(白抜き三角)を異常値とみなし破棄し、電流指令値I*(□)をモータ電流の復元電流IREの値として使用する。
このような測定電流値(出力値)Ioが発生する要因は、大きなノイズの発生が挙げられる。
【0046】
<1シャント抵抗を用いた電流センサレス電流取得法におけるデータ処理フローチャート>
本実施形態の電流復元部23における1シャント抵抗を用いた電流センサレス電流取得法におけるデータ処理について、図6のフローチャートを参照して説明する。
【0047】
まず、A/D変換部21において、A/D変換による電流取得(1回)を行い、測定電流値(出力値)Ioを得る(ステップS11)。
【0048】
そして、偏差演算部231において、測定電流値(出力値)Ioと電流指令値I*との偏差IDを得る(ステップS12)。
【0049】
ついで、設定部232において、偏差IDが規定幅データ(設定値)IS以下であるか(偏差ID≦規定幅データ(設定値)IS)否かを判別する(ステップS13)。そして、偏差IDが規定幅データ(設定値)IS以下である場合には(ステップS13でYes)、ステップS14の処理に進む。一方、偏差IDが規定幅データ(設定値)ISを超える場合には(ステップS13でNo)、ステップS15の処理に進む。
【0050】
ステップS14では、偏差IDが規定幅データ(設定値)IS以下である場合であり、設定部232において、測定電流値(出力値)Ioを真値(正常値)とみなし、モータ電流の復元電流IREの値とする。そして、ベクトル制御処理(ステップS16)へ進む。
【0051】
一方、ステップS15では、偏差IDが規定幅データ(設定値)ISを超える場合であり、設定部232において、測定電流値(出力値)Ioをイレギュラ値(異常値)とみなし破棄し、指令電流値I*をモータ電流の復元電流IREの値とする。そして、ベクトル制御処理(ステップS16)へ進む。
【0052】
ベクトル制御処理(ステップS16)では、ベクトル制御部22において、モータ電流の復元電流IREの値を使用してモータ制御を行い、単相三角波の1周期の電流取得処理が終了する。そして、つぎの2周期目以降の電流取得処理が繰り返される。
【0053】
本発明の実施形態の測定例として、図7乃至図10を参照して説明する。
【0054】
図7は、通常動作時における測定電流値(出力値)と電流指令値とを示した図である。前記実施形態において、図5(b)を参照して説明した電流取得の場合に相当する測定例である。図7(a)は、ロータのU相における各電流波形を示し、回転速度は40rps、測定電流値(出力値)の取得間隔は、200μsである。測定電流値(出力値)(○)および電流指令値(白抜き三角)が電流取得時ごとにプロットされている。横軸は時間(ms)、縦軸は電流値(A)である。
【0055】
通常動作時においても測定電流値(出力値)は、ステータの集中巻構造に起因する電流脈動の発現が観測される。これらの電流脈動の大きさは、ステータの巻線の巻数、巻線に流れる電流、ロータの回転速度等により変化する。
【0056】
図7(b)は、図7(a)における、測定電流値(出力値)と電流指令値との差、すなわち、本実施形態の偏差演算部231において演算された偏差をプロットした図である。この場合は、偏差≦規定幅データ(設定値)となっている。したがって、測定電流値(出力値)が正常値とみなされ、モータ電流の復元電流として使用されることになる。なお、図7(b)において、横軸は図7(a)と同スケールの時間(ms)、縦軸は電流値(A)である。
【0057】
ここで、設定部232において、規定幅データ(設定値)ISを設定する場合は、以下の三つの要点を考慮して設定される。
先ず、第1の要点は、ステータ構造に起因する測定電流値(出力値)Ioの最大電流脈動の最大値に基づいて設定され、この電流脈動の最大値にA/D変換部21の測定誤差を加えた値を考慮して設定される。
第2の要点は、三相交流モータ4の回転速度の加速(増加)又は減速(減少)によって発生する電流偏差の変動成分に基づいて設定され、この変動成分にA/D変換部21の測定誤差を加えた値を考慮して設定される。
そして、第3の要点として、負荷の変動によって発生する電流偏差の変動成分に基づいて設定され、この変動成分にA/D変換部21の測定誤差を加えた値を考慮して設定される。
ここで、A/D変換部21の測定誤差としては、量子化誤差として±0.5LSB程度の誤差、フルスケール誤差として±5LSB程度の誤差、オフセット誤差として±5LSB程度の誤差、そして、非線形性誤差として±5LSB程度の誤差が挙げられる。
なお、LSBは、最下位ビット(Least Signification Bit)を意味する。
【0058】
つぎに、図8は、後記する比較例1の図12(c)を参照して説明する電流取得の場合に相当する測定例である。図8(a)は、全体波形であり、横軸は、時間(500μs/div)、縦軸は、電圧(1V/div)である。波形情報として、ロータのU相、V相、W相のPWM信号、過電流検知信号、および、シャント抵抗両端電圧が示されている。図8(a)の中央部の時刻において、ノイズが取得されたために、その後モータ制御が制御異常(制御破綻)状態となり、異常停止状態となってしまった場合を示している。
【0059】
そして、図8(a)の電流取得時における太点線領域の拡大図を図8(b)に示す。横軸は、時間(20μs/div)、縦軸は、図8(a)と同様に電圧(1V/div)である。図8(b)の中央部の電流取得時の10μsの時間において、各波形情報にノイズが重畳されており、特に、シャント抵抗両端電圧に大きなノイズが取得されていることが確認される。
【0060】
つぎに、図9および図10を参照して、図8を参照して説明した様な、明らかにイレギュラ値(異常値)を有する測定電流値(出力値)を取得した場合、すなわち、図5(c)を参照して説明した電流取得の場合の実施形態に相当する測定例を説明する。
【0061】
図9(a)は、ロータのU相における測定電流値(出力値)の波形を示し、回転速度は80rpsであり、測定電流値(出力値)の取得間隔は、200μsである。この測定電流波形は、正常値とみなされる測定電流値(出力値)(○)とイレギュラ(異常値)とみなされる測定電流値(出力値)(白抜き三角)とを含んでいる。そして、図9(b)は、図9(a)の測定電流値(出力値)に対応した電流指令値(○、●)が電流取得時ごとにプロットされている。横軸は時間(ms)、縦軸は電流値(A)である。なお、図9(b)における電流指令値(●)は、図9(a)のイレギュラ(異常値)とみなされる測定電流値(出力値)(白抜き三角)に対応した電流指令値を示している。この測定電流値(出力値)(白抜き三角)は、実施形態の図5(c)に示すように、偏差>規定幅データ(設定値)の場合に相当する。
【0062】
本実施例では、イレギュラ(異常値)とみなされる図9(a)の測定電流値(出力値)(白抜き三角)を破棄し、図9(b)の電流指令値(●)を適用することで、図10に示す測定電流値(出力値)(○)と電流指令値(□)とから補正されたモータ電流の復元電流として使用することが可能となる。なお、図10における補正後測定電流値(出力値)(□)は、本実施形態の設定部232において、破棄された測定電流値(出力値)(白抜き三角)に対応して適用された電流指令値を示す。
【0063】
したがって、本実施形態のモータ制御装置によれば、A/D変換部の出力値がノイズの影響を受けて、イレギュラな値となっても、平均化処理をすることなく、設定値以内の誤差でモータ電流を復元することができる。
【0064】
(第2の実施形態)
つぎに、図11を参照して本発明の第2の実施形態のモータ制御装置2bを有するモータ制御システム1bについて説明する。
【0065】
図11は、本実施形態のモータ制御装置2bを説明するための構成図である。この実施形態の構成は、図1を参照して説明した本発明の第1の実施形態のモータ制御装置2aの構成とほぼ同一であるので、第1の実施形態のモータ制御装置2aとの相違点についてのみ説明する。
【0066】
本実施形態のモータ制御装置2bにおいて、電流指令値演算部221と電圧指令値演算部222とPWM信号生成部223とを備えたベクトル制御部22は、第1の実施形態のモータ制御装置2aにおけるベクトル制御部22の様な励磁軸(d軸)およびこれに直交するトルク軸(q軸)の二軸電流の形態を用いず、三相電流の形態の電流指令値Iu*、Iv*、Iw*および入力電流Iu、Iv、Iwを、そのまま用いたベクトル制御部22の構成となっている。
【0067】
したがって、図11に示すように、電流指令値演算部221には、目標値(目標回転速度)Tおよび電流復元部23からの復元された三相の復元電流IREが入力される。そして、電流指令値演算部221で演算された三相の電流指令値Iu*、Iv*、Iw*は、電圧指令値演算部222に出力されるとともに、電流復元部23に電流指令値I*(Iu*、Iv*、Iw*)として出力される。
また、三相の復元電流IREは、電圧指令値演算部222にも、三相の入力電流Iu、Iv、Iwとして出力される。
【0068】
電圧指令値演算部222は、電流指令値演算部221からの電流指令値Iu*、Iv*、Iw*と入力電流Iu、Iv、Iwとを用いて、三相交流モータ4に印加する印加電圧を指令する電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を演算し、PWM信号発生部223に出力する。そして、PWM信号生成部223は、電圧指令値演算部222からの電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*と単相三角波発生部224からの単相三角波とを比較してPWM信号Up、Vp、Wpを生成し、電力変換器3に出力して電力変換器3をPWM制御する。
【0069】
以下、電流復元部23の構成および動作は、第1の実施形態のモータ制御装置2aと同様であるので説明を省略する。
【0070】
<比較例1 従来の1シャント抵抗を用いた電流センサレス電流取得法による電流取得時のデータ処理>
これに対し、従来の1シャント抵抗を用いた電流センサレス電流取得法では、電流取得は1回測定となるため、何らかの理由で電流ラインや電流取得回路にノイズが乗るような異常状態となった場合には、その異常値の電流取得が行われてしまうことになる。
【0071】
したがって、電流取得処理として取得データの精査等を何も行わない従来の1シャント電流センサレス電流取得法では、本実施形態のモータ制御装置2aの偏差演算部231および設定部232の機能を備えていないために、以下のような電流取得処理が行われる。図12(a)乃至図12(c)を参照して説明する。
【0072】
図12(a)に示すように、データ取得を4つの時点(n−2、n−1、n、n+1:nは自然数)でそれぞれ1回行ったときのn時点目のデータ取得において、正常値(○)の測定電流値(出力値)(白抜き三角)のデータ取得が行われたときは、取得した測定電流値(出力値)(白抜き三角)を、モータ電流の復元電流として使用する。この場合、正常値(○)と測定電流値(出力値)(白抜き三角)とが等しいとみなす。そして、この場合には、モータ制御には、特に問題は発生しない。
【0073】
また、図12(b)に示すように、同様にn時点目のデータ取得において、測定電流値(出力値)(白抜き三角)が正常値(○)に近い測定電流値(出力値)出力値(白抜き三角)のデータ取得が行われたときは、取得した測定電流値(出力値)(白抜き三角)は制御的に問題ないと想定され、モータ電流の復元電流として使用する。この場合には、制御破綻に至る可能性はない。
このような測定電流値(出力値)が発生する要因は、軽微なノイズの発生、電流取得処理のバラツキ等が挙げられる。
【0074】
一方、図12(c)に示すように、同様にn回目のデータ取得において、測定電流値(出力値)(白抜き三角)が正常値(○)と大きく異なる(イレギュラな)測定電流値(出力値)(白抜き三角)のデータ取得が行われたときは、制御的に正常電流値に復帰させようとして過剰な電流制御が行われてしまい、結果的に過剰な電流検知によるモータの異常停止となることが想定される。したがって、この場合には、図8を参照して説明した測定例のように、制御破綻に至る可能性はきわめて高い。
このような測定電流値(出力値)が発生する要因は、大きなノイズの発生が挙げられる。
【0075】
<比較例1 従来の1シャント抵抗を用いた電流センサレス電流取得法におけるデータ処理フローチャート>
従来の1シャント抵抗を用いた電流センサレス電流取得法におけるデータ処理について、図13のフローチャートを参照して説明する。
【0076】
A/D変換による電流取得(1回)を行い、測定電流値(出力値)を得る(ステップS21)。なお、この処理は、実施形態のステップS11と同様の処理となる。
【0077】
測定電流値(出力値)をそのまま(異常値の有無にかかわらず)、モータ電流の復元電流値とする(ステップS22)。そして、ベクトル制御処理(ステップS23)へ進む。
【0078】
ベクトル制御処理(ステップS23)では、モータ電流の復元電流値を使用してモータ制御を行い、電流取得処理を終了する。
【0079】
<比較例2 従来の電流センサ付き電流取得法によるモータ制御装置>
図14乃至図15を参照して、従来の電流センサ付き電流取得法によるモータ制御装置の構成図およびデータ処理のフローを説明する。
【0080】
図14は、従来の電流センサ付き電流取得法によるモータ制御装置の構成を示す図である。
この電流センサ付きモータ制御システムは、三相交流モータと、直流電源である電源(DC)と、この電源(DC)と直列接続されたシャント抵抗とを有する電力変換器と、この電力変換器を介して三相交流モータの回転速度をベクトル制御するベクトル制御部(モータ制御装置)と、電力変換器と三相交流モータとの間に接続された三相交流モータに流れるモータ相電流の少なくとも二相のモータ相電流を検知する電流センサ、たとえば、電流変換トランス(CT:Current Transformer)やホール素子等、とを備えて構成される。
【0081】
そして、この電流センサ付きモータ制御システムの動作を説明する。まず、ベクトル制御部(モータ制御装置)は、PWMゲート信号を電力変換器に入力し、電力変換器は、三相交流モータへのモータ相電流を出力することで、三相交流モータの回転制御を行う。そして、電力変換器は、シャント抵抗からの過電流検出用の相電流信号を入力して、過電流検知信号をベクトル制御部に出力する。一方、電流センサは、ベクトル制御用およびA/D変換データとしての相電流信号をベクトル制御部に出力する。
【0082】
図15を参照して、従来のセンサ付き電流取得法によるモータ制御装置のデータ処理フローを説明する。
先ず、データ処理が開始されると、電流センサは、A/D変換による電流取得を行う(ステップS31)。このとき電流取得回数は、複数回、例えば4回行う。そして、過電流信号を基にイレギュラ値の取得電流値の判別を行い、イレギュラ値の取得電流値を除去する(ステップS32)。次いで、イレギュラ値を除いた残りの取得電流値での平均化処理を行う(ステップS33)。そして、平均化処理を行った取得電流値を復元電流値とする(ステップS34)。復元電流値を用いてベクトル制御処理(ステップS35)を行い、電流取得処理を終了する。
【0083】
この電流センサ付き電流取得法によれば、独立に設けた電流センサによって複数回の電流取得による平均化処理を行い、取得電流値の真偽の判別を行うことができる利点がある反面、前記した電流センサレス電流取得法と比較して電流取得のための処理時間が長くなるという欠点がある。そして、電流センサとして、電流変換トランス(CT:Current Transformer)やホール素子等を用いているため、コストアップとなる欠点を有する。
【0084】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、PWMスイッチングパターンを用いて、シャント抵抗に流れる電流を測定し、この測定電流値と電流指令値との偏差の大きさが設定値(規定幅データ)よりも大きいか否かにより、電流指令値および測定電流値の何れかを復元電流の値として設定している。これにより、ノイズの影響が低減された正弦波に近い、高調波成分の少ない復元電流波形を得ることが可能なモータ制御装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0085】
1a、1b モータ制御システム
2a、2b モータ制御装置
3 電力変換器
4 三相交流モータ
21 A/D変換部
22 ベクトル制御部
23 電流復元部
221 電流指令値演算部
2211 二軸電流指令値演算部
2212 二軸−三相変換部
2213 三相−二軸変換部
222 電圧指令値演算部
223 PWM信号生成部
224 単相三角波発生部
231 偏差演算部
232 設定部
233 A/D変換制御部
T 目標値(目標回転速度)
*、Iu*、Iv*、Iw*、Id*、Iq* 電流指令値
Vu*、Vv*、Vw* 電圧指令値
Up、Vp、Wp PWM信号
iu、iv、iw モータ電流
Id、Iq、Iu、Iv、Iw、入力電流
RE 復元電流
Io 測定電流値(出力値)
D 偏差
S 規定幅データ(設定値)
E 直流電源
r シャント抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を交流電力に変換する電力変換器の直流側電流を検出するA/D変換部と、
前記電力変換器を介して三相交流モータの回転速度をベクトル制御するベクトル制御部と、
前記直流側電流の値を用いて前記三相交流モータに流れるモータ相電流を復元する電流復元部とを備え、
前記ベクトル制御部は、
目標値および前記電流復元部が復元した復元電流を用いて、励磁軸およびこれに直交するトルク軸に分解した二軸電流指令値を演算する二軸電流指令値演算部と、
前記二軸電流指令値を用いて、前記三相交流モータに印加する印加電圧を指令する三相電圧指令値を演算する電圧指令値演算部と、
前記三相電圧指令値と単相三角波とを比較してPWM信号を生成し、前記電力変換器をPWM制御するPWM信号生成部と、
前記二軸電流指令値を二軸−三相変換する二軸−三相変換部とを有し、
前記電流復元部は、
前記A/D変換部が出力する出力値と前記二軸−三相変換部が変換した三相電流指令値との偏差を演算する偏差演算部と、
前記偏差の大きさが設定値よりも大きいときに、前記電流指令値を前記復元電流の値として設定し、前記偏差の大きさが前記設定値以下のときに、前記出力値を前記復元電流の値として設定する設定部とを備えている
ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
直流電力を交流電力に変換する電力変換器の直流側電流を検出するA/D変換部と、
前記電力変換器を介して三相交流モータの回転速度をベクトル制御するベクトル制御部と、
前記直流側電流の値を用いて前記三相交流モータに流れるモータ相電流を復元する電流復元部とを備え、
前記ベクトル制御部は、
目標値および前記電流復元部が復元した復元電流を用いて、前記モータ相電流の電流指令値を演算する電流指令値演算部と、
前記電流指令値を用いて、前記三相交流モータに印加する印加電圧を指令する電圧指令値を演算する電圧指令値演算部と、
前記電圧指令値と単相三角波とを比較してPWM信号を生成し、前記電力変換器をPWM制御するPWM信号生成部とを有し、
前記電流復元部は、
前記A/D変換部が出力する出力値と前記電流指令値との偏差を演算する偏差演算部と、
前記偏差の大きさが設定値よりも大きいときに、前記電流指令値を前記復元電流の値として設定し、前記偏差の大きさが前記設定値以下のときに、前記出力値を前記復元電流の値として設定する設定部とを備えている
ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
前記単相三角波の周期を6分割したPWMスイッチングパターンに同期させて前記A/D変換部に出力させるA/D変換制御部をさらに備え、
前記A/D変換制御部は、前記A/D変換部に前記6分割された期間の内、隣接する2つの期間を用いて、二相の電流値を各1回検出させる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記設定値は、ステータ構造に起因する最大電流脈動の最大値に基づいて設定されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記設定値は、前記最大値に前記A/D変換部の測定誤差を加えた値に設定されることを特徴とする請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記設定値は、前記三相交流モータの回転速度の加速又は減速によって発生する電流偏差の変動成分に基づいて設定されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記設定値は、前記電流偏差の変動成分に前記A/D変換部の測定誤差を加えた値に設定されることを特徴とする請求項6に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記設定値は、負荷の変動によって発生する電流偏差の変動成分に基づいて設定されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
前記設定値は、前記電流偏差の変動成分に前記A/D変換部の測定誤差を加えた値に設定されることを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項10】
三相交流モータと、直流電力を交流電力に変換する電力変換器と、前記三相交流モータを、前記電力変換器を介してPWM制御するモータ制御装置と、を備えるモータ制御システムであって、
前記モータ制御装置は、
前記電力変換器の直流側電流を検出するA/D変換部と、
前記三相交流モータの回転速度をベクトル制御するベクトル制御部と、
前記直流側電流の値を用いて前記三相交流モータに流れるモータ相電流を復元する電流復元部とを備え、
前記ベクトル制御部は、
目標値および前記電流復元部が復元した復元電流を用いて、励磁軸およびこれに直交するトルク軸に分解した二軸電流指令値を演算する二軸電流指令値演算部と、
前記二軸電流指令値を用いて、前記三相交流モータに印加する印加電圧を指令する三相電圧指令値を演算する電圧指令値演算部と、
前記三相電圧指令値と単相三角波とを比較してPWM信号を生成し、前記電力変換器をPWM制御するPWM信号生成部と、
前記二軸電流指令値を二軸−三相変換する二軸−三相変換部とを有し、
前記電流復元部は、
前記A/D変換部が出力する出力値と前記二軸−三相変換部が変換した三相電流指令値との偏差を演算する偏差演算部と、
前記偏差の大きさが設定値よりも大きいときに、前記電流指令値を前記復元電流の値として設定し、前記偏差の大きさが前記設定値以下のときに、前記出力値を前記復元電流の値として設定する設定部とを備えている
ことを特徴とするモータ制御システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2012−105440(P2012−105440A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251175(P2010−251175)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000000538)株式会社コロナ (753)
【Fターム(参考)】