説明

モータ制御装置

【課題】加速・減速や負荷トルク変動を含む広い動作領域で、磁束指令に対する磁束の追従遅れを補正し、所定のトルクを出力させ、加速性能および制御性能の向上が図れるモータ制御装置を得ること。
【解決手段】外部から入力される磁束指令Φcomと磁束推定部8が推定した推定磁束ΦSとの偏差が小さくなるようにする励磁電流指令を生成する磁束制御器13を備え、誘導モータ1をベクトル制御により駆動制御するモータ制御装置において、磁束指令Φcomに基づいて磁束遅れ補正指令Φhcomを生成する磁束遅れ補償器16aを設け、磁束遅れ補正指令Φhcomは、減算器20において磁束指令Φcomに代えて磁束推定部8が推定した推定磁束ΦSとの偏差を取るのに用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導モータをベクトル制御により駆動するモータ制御装置に関し、特に、工作機械の主軸や車両等で用いられる誘導モータを駆動するモータ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
誘導モータは、固定子に1次電流を流して回転磁界を発生させ、回転磁界による磁束を回転子が横切るとき、回転子に電圧が誘起されて2次電流が流れ、この2次電流と磁束との相互作用によりトルクを発生させるものである。一般に、工作機械の主軸や車両等で用いられる誘導モータの駆動制御では、固定子に流す1次電流を、磁束を制御するための励磁電流と、2次電流(すなわち、トルク電流)とに分け、それぞれを個別に制御するベクトル制御が用いられている。なお、回転子に発生するトルクは、励磁電流によって発生する磁束とトルク電流との積に比例する。
【0003】
一般に、誘導モータのベクトル制御では、トルク電流を一定にし、磁束を変化させることにより誘導モータのトルクを制御している。より具体的には、巻線抵抗やインダクタンス等の誘導モータの電気的定数や、動力源となる電源電圧によって決まる上限電圧に達するまでの回転速度(基底回転速度)までは、定トルク駆動領域として磁束を一定に保ち、トルク一定の駆動が行われる(定トルク駆動制御)。一方、上限電圧に達する回転速度に到達すると、上昇させる回転速度に反比例して磁束を低減させる。これによって、トルクも低減し、出力一定の駆動が行われる(定出力駆動制御)。
【0004】
上記のように、一般的なベクトル制御により制御される誘導モータでは、定トルク駆動制御と定出力駆動制御とが併用される。このため、誘導モータでは、モータの起動時や、定トルク駆動制御から定出力駆動制御への切り替え時等において、磁束指令値に実際の磁束をすばやく追従させることが要求される。その一方で、磁束は、励磁電流の増減によって制御されるが、発生する磁束は、励磁電流に対し、モータの電気的定数から決まる時定数を持って立ち上がる。その結果、実際の制御では、磁束指令に対し、磁束の追従が遅れる。磁束の追従遅れが発生すると、所定のトルクへの到達時間も遅れ、モータの加速時間が長くなるという問題や、制御性能を上げられないといった問題も生ずる。
【0005】
このような問題に対し、例えば特許文献1には、磁束指令と推定磁束との偏差に係数を乗算し、磁束指令相当の励磁電流指令を乗算して磁束指令に対する推定磁束の遅れを補正する技術が開示されている。
【0006】
また,非特許文献1には、励磁電流制御系(励磁電流指令と励磁電流との偏差が小さくなるように、内部に励磁電流制御器を備え、励磁電流指令に対し、励磁電流を追従させる制御系)をマイナーループとし、磁束制御系(磁束指令と推定磁束との偏差が小さくなるように、内部に磁束制御器を備え、磁束指令に対し、推定磁束を追従させる制御系)をメジャーループとしたカスケード制御を構成し、磁束指令に対し、磁束の追従を速くする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−306798号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】“ACサーボシステムの理論と設計の実際”(総合電子出版社第5版、111頁〜112頁、図5.14)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載された技術は、非励磁状態から励磁状態に切り換えるようなステップ的な磁束指令の変化に対する磁束の立ち上がり時間の短縮には有効であるが、誘導モータを定出力駆動領域で駆動する際の磁束指令の変化に対しては考慮がなされておらず、定出力駆動領域での磁束指令に対し、磁束の追従ができないか、もしくは磁束の追従が遅れるという問題があった。
【0010】
また、非特許文献1に記載された技術は、前述のように、磁束指令と推定磁束との偏差が小さくなるように磁束指令に対し、推定磁束を追従させる磁束制御系を構成している。そのため、磁束指令に対する磁束の追従の速さは、磁束制御系の応答性(以降「応答帯域」という)に依存する。しかし、磁束制御系のマイナーループに配置される励磁電流制御系は、電流検出部の電流検出遅れや、dq−UVWの座標変換およびUV−dqの座標変換での変換遅れ、変換誤差、誘導モータの巻線抵抗やインダクタンスといった電気的定数のバラツキや誤差等の様々な要因から、応答帯域を広げることが難しい場合がある。このような場合、磁束制御系の応答帯域を広げると、制御安定性を損なうため、磁束制御系の応答帯域を広げることが難しい。前述のように磁束制御系の応答帯域を広げることができない場合、磁束指令に対し、磁束の追従が遅くなる。
【0011】
また、前述のような励磁電流制御系の各要因の影響が少なく、磁束制御系の応答帯域を広げることができたとしても、誘導モータに電力供給を行うインバータ回路には、許容最大電流の制約があり、許容最大電流値の制約と整合を図るべく、磁束の増減を行う励磁電流を制限する必要がある。その場合、磁束制御系の応答帯域を広げると、磁束指令に対し推定磁束がオーバーシュートし、磁束指令に到達する時間が遅くなるという問題が起こる。そのため、磁束制御系は、磁束指令に対し、推定磁束がオーバーシュートしない応答帯域に設定するため、上記と同様に、磁束指令に対し、磁束の追従が遅くなる。
【0012】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、誘導モータの加速・減速や負荷トルク変動を含む広い動作領域で、磁束指令に対する磁束の追従遅れを補正し、所定のトルクを出力させることが可能なモータ制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し目的を達成するために、本発明は、誘導モータに流れる1次電流を検出する電流検出手段と、前記1次電流からトルク電流成分及び励磁電流成分を変換生成する座標変換手段と、前記励磁電流成分から前記誘導モータの磁束を推定する磁束推定手段と、前記誘導モータを駆動する過程で外部から入力される磁束指令と前記磁束推定手段が推定した磁束との偏差が小さくなるようにする励磁電流指令を生成する磁束制御手段と、前記磁束制御手段が出力する励磁電流指令のうち制限値以内の励磁電流指令を制御に必要な励磁電流指令として出力する励磁電流制限手段とを備え、前記三相誘導モータをベクトル制御により駆動制御するモータ制御装置において、前記磁束指令に基づいて磁束遅れ補正指令を生成する磁束遅れ補償手段を備え、前記磁束遅れ補正指令は、前記磁束指令に代えて前記磁束推定手段が推定した磁束との偏差を取るのに用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、誘導モータの定トルク駆動領域から定出力駆動領域に至る広い動作領域において、磁束遅れ補償手段が磁束指令に基づいて生成する磁束遅れ補正指令により、磁束指令に対する推定した磁束の遅れを補正することができる。これによって、定トルク駆動領域では、すばやく所定のトルクを出力させるとともに、定出力駆動領域では、すみやかに回転速度を上昇させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1によるモータ制御装置の要部構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、図1に示す磁束制御器および励磁電流制限器を内部に含む磁束制御系の挙動を説明する図である。
【図3】図3は、図1に示す磁束遅れ補償器の構成例を示すブロック図である。
【図4】図4は、制御対象となるモータの特性を示す図である。
【図5】図5は、図3に示す磁束遅れ補償器を設けた場合と設けない場合とでのモータの制御特性を比較して説明する図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態2によるモータ制御装置の要部構成を示すブロック図である。
【図7】図7は、図6に示す磁束遅れ補償器の構成例を示すブロック図である。
【図8】図8は、図7に示す磁束遅れ補償器を設けた場合と設けない場合とでのモータの制御特性を比較して説明する図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態3として、図6に示す磁束遅れ補償器の他の構成例を示すブロック図である。
【図10】図10は、図9に示すフィードフォワード補償器の構成例を示すブロック図である。
【図11】図11は、図9に示す磁束遅れ補償器を設けた場合と図7に示す磁束遅れ補償器を設けた場合とでのモータの制御特性を比較して説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明にかかるモータ制御装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0017】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施例1によるモータ制御装置の要部構成を示すブロック図である。図1において、制御対象である誘導モータ(以降、単に「モータ」と記す)1は、工作機械の主軸や車両等で用いられるモータである。モータ1には、速度検出器2が取り付けられている。インバータ回路3は、複数のスイッチング素子を備えている。キャパシタ4は、モータ1の動力源となる直流電力を蓄積している。インバータ回路3とモータ1とを接続する電源ケーブルには、電流検出部5が配置されている。
【0018】
インバータ回路3は、ベース信号生成器12からスイッチング素子のオン/オフ信号が入力されると、複数のスイッチング素子のスイッチング動作により、キャパシタ4に蓄積された直流電力を用いて、任意の周波数と電圧の交流電力に変換し、モータ1に供給する。そのとき、モータ1には1次電流が流れ、モータ1は回転駆動される。
【0019】
このときのモータ1の回転速度ωmFBが速度検出器2にて検出され、また、このときのモータ1に流れる1次電流(図1では、例えば、UVの2相の1次電流Iu,Ivを示す)が電流検出部5にて検出される。
【0020】
速度検出器2にて検出された回転速度ωmFBは、減算器21のマイナス入力端(−)および加算器19の一方の加算入力端(+)に入力される。減算器21のプラス入力端(+)には、外部から回転速度指令ωmcomが入力される。減算器21の出力(速度偏差)は、速度制御器14に入力される。速度制御器14は、減算器21が出力する速度偏差が小さくなるようにするトルク電流指令を生成しトルク電流制限器22に出力する。トルク電流制限器22は、出力上限と出力下限とからなる2つの制限値を有し、速度制御器14が生成したトルク電流指令が増加する場合は出力上限値(設定された最大値)以下のトルク電流指令を、速度制御器14が生成したトルク電流指令が減少する場合は出力下限値(設定された最小値)以上のトルク電流指令をそれぞれ制御に必要なトルク電流指令iqcomとして出力する。トルク電流指令iqcomは、減算器18のプラス入力端(+)に入力される。
【0021】
また、電流検出部5にて検出された1次電流Iu,Ivは座標変換器6に入力される。座標変換器6は、積分器15の出力である回転位置推定値θ1に基づいたUV−dq座標変換を実施し、入力された1次電流Iu,Ivから励磁電流idFB、トルク電流iqFBを変換生成する。
【0022】
座標変換器6にて変換された励磁電流idFBは、磁束推定部8と減算器17のマイナス入力端(−)とにそれぞれ入力される。減算器17のプラス入力端(+)には、励磁電流制限器23の出力(励磁電流指令idcom)が入力される。減算器17の出力(励磁電流偏差)は、励磁電流制御器10に入力される。励磁電流制御器10は、減算器17が出力する励磁電流偏差が小さくなるようにする励磁電圧指令Vdcomを生成し、座標変換器7へ出力する。
【0023】
磁束推定部8は、座標変換器6において変換された励磁電流idFBから磁束Φを推定する。磁束推定部8が推定した磁束Φ(磁束推定ΦS)は、すべり速度算出部9の一方の入力となり、また、減算器20のマイナス入力端(−)に入力されている。
【0024】
減算器20のプラス入力端(+)には、磁束遅れ補償器16aが外部入力の磁束指令Φcomから生成した磁束遅れ補正指令Φhcomが入力される。減算器20の出力(磁束偏差)は、磁束制御器13に入力される。磁束制御器13は、減算器20が出力する磁束偏差が小さくなるようにする励磁電流指令を生成し励磁電流制限器23に出力する。励磁電流制限器23は、出力上限と出力下限とからなる2つの制限値を有し、磁束制御器13が生成した励磁電流指令が増加する場合は出力上限値(設定された最大値)以下の励磁電流指令を、磁束制御器13が生成した励磁電流指令が減少する場合は出力下限値(設定された最小値)以上の励磁電流指令をそれぞれ制御に必要な励磁電流指令idcomとして出力する。励磁電流指令idcomは、前記したように減算器17のプラス入力端(+)に入力される。
【0025】
また、座標変換器6にて変換されたトルク電流iqFBは、すべり速度算出部9の他方の入力端と減算器18のマイナス入力端(−)とにそれぞれ入力される。すべり速度算出部9の出力(すべり速度ωS)は、加算器19の他方の加算入力端に入力されている。
【0026】
加算器19の出力ω1(ω1=ωmFB+ωS)は、積分器15にて積算されて回転位置推定値θ1となり、座標変換器6,7に制御信号として入力される。座標変換器6は、前記したように積分器15の出力である回転位置推定値θ1に基づきUV−dq座標変換を実施する。また、座標変換器7は、後述するように、積分器15の出力である回転位置推定値θ1に基づきdq−UVW座標変換を実施する。
【0027】
減算器18のプラス入力端(+)には、トルク電流制限器22の出力(トルク電流指令iqcom)が入力される。減算器18の出力(トルク電流偏差)は、トルク電流制御器11に入力される。トルク電流制御器11は、減算器18が出力するトルク電流偏差が小さくなるようにするトルク電圧指令Vqcomを生成し座標変換器7に出力する。
【0028】
座標変換器7は、積分器15の出力である回転位置推定値θ1に基づいたdq−UVW座標変換を実施し、入力された励磁電圧指令Vdcomおよびトルク電圧指令VqcomをU相電圧指令Vu、V相電圧指令Vv、W相電圧指令Vwへ変換する。
【0029】
ベース信号生成部12は、座標変換器7が変換出力するU相電圧指令Vu、V相電圧指令Vv、W相電圧指令Vwに基づき、インバータ回路3の各スイッチング素子のオン/オフ信号を生成しインバータ回路3に対し出力する。これによって、モータ1に対し交流電力が供給され、モータ1が回転駆動される。
【0030】
以上のように、外部入力の回転速度指令ωmcomと検出された回転速度ωmFBとの速度偏差が小さくなるように、回転速度指令ωmcomに回転速度ωmFBを追従させる速度制御系は、トルク電流制御器11を内部に含むトルク電流制御系をマイナーループ(より内側に入るフィードバックループ)とし、且つ、速度制御器14を内部に含む速度制御系(狭義の意味の速度制御系、以下必要に応じ「狭義の速度制御系」という)をメジャーループ(より外側に入るフィードバックループ)とし、これら狭義の速度制御系およびトルク電流制御系をこの順にカスケード制御で構成されている。
【0031】
また、外部入力の磁束指令Φcomから磁束遅れ補償器16aにて生成された磁束遅れ補正指令Φhcomと推定磁束ΦSとの磁束偏差が小さくなるように、磁束遅れ補正指令Φhcomに推定磁束ΦSを追従させる磁束制御系は、励磁電流制御器10を内部に含む励磁電流制御系をマイナーループとし、且つ、磁束制御器13を内部に含む磁束制御系(狭義の意味の磁束制御系、以下必要に応じ「狭義の磁束制御系」という)をメジャーループとし、これら狭義の磁束制御系および励磁電流制御系をこの順にカスケード制御で構成されている。以下、要部について、具体的に説明する。
【0032】
まず、励磁電流idFBから推定磁束ΦSを推定算出する機能を備えた磁束推定部8の伝達関数Gid_Φ(s)は、モータ1の回転子の2次抵抗Rr、モータ1の回転子の自己インダクタンスLr、モータ1の巻線間の相互インダクタンスM、ラプラス演算子sとを用いて、式(1)で表すことができる。
Gid_Φ(s)=M/(1+s・(Lr/Rr)) …(1)
【0033】
次に、磁束制御器13について説明する。磁束制御器13は、磁束制御系の応答帯域を決定する部分である。磁束制御器13が例えばPI制御系を構成している場合における磁束制御器13の伝達関数GΦ(s)は、比例ゲインKΦ、積分ゲインKΦiを用いて、式(2)で表すことができる。
GΦ(s)=KΦ+KΦi/s …(2)
【0034】
ここで、PI制御系における比例ゲインKΦ、積分ゲインKΦiに用いられている定数は、モータ1のインダクタンスや巻線抵抗に依存する固定値部分と、いわゆるゲインに依存する可変値部分とで構成されるので、その可変値部分を本明細書では、磁束制御器13の応答帯域定数wcと称しており、この応答帯域定数wcも用いて、比例ゲインKΦは式(3)のように設定され、また、積分ゲインKΦiは式(4)のように設定されている。
KΦ=wc・Lr/(Rr・M) …(3)
KΦi=wc/M …(4)
【0035】
式(2)、式(3)、式(4)より、磁束制御器13では、応答帯域定数wcの設定値を増減することにより、比例ゲインKΦと積分ゲインKΦiの増減を行うことができる。つまり、応答帯域定数wcを大きくすると、比例ゲインKΦと積分ゲインKΦiが大きくなり、磁束制御系の応答帯域を広くすることができる。このように、磁束制御器13の応答帯域定数wcは、磁束制御系の応答帯域の大小を決める定数である。
【0036】
磁束制御系の応答帯域と励磁電流制限器23との関係について説明する。前述したように、磁束制御系は、励磁電流制御系をマイナーループとし、狭義の磁束制御系をメジャーループとしたカスケード制御を構成しており、一般的にマイナーループである励磁電流制御系の応答帯域を広げることができれば、磁束制御器13の応答帯域定数wcを大きくすることができ、磁束制御系の応答帯域を広げることができる。
【0037】
一方、励磁電流制限器23は、前述のように磁束制御器13の出力値を制限する機能を備え、励磁電流制限器23の出力値を励磁電流指令idcomとしている。これは、モータ1に電力供給を行うインバータ回路3の許容最大電流値の制約から設けられたものである。
【0038】
図2は、図1に示す磁束制御器13および励磁電流制限器23を内部に含む磁束制御系の挙動を説明する図であり、図2(a1)(a2)は応答帯域を広げた場合の動作特性を示し、図2(b1)(b2)は応答帯域を広げない場合の動作特性を示している。
【0039】
図2(a1)(a2)について説明する。磁束制御器13の応答帯域定数wcを大きくし、磁束制御系の応答帯域を広げた場合、図2(a1)に示すように、励磁電流指令idcomがクランプされている。これは、磁束制御器13の出力値が励磁電流制限器23の出力上限値よりも大きい値になり、励磁電流制限器23により、励磁電流指令idcomが制限されていることを示している。このような場合、図2(a2)に示すように、磁束指令Φcomに対し、磁束Φがオーバーシュートし、磁束Φが磁束指令Φcomに到達する時間が遅くなるという問題が起こる。
【0040】
図2(b1)(b2)について説明する。磁束制御器13の応答帯域定数wcを大きくせず、磁束制御系の応答帯域を広げない場合、図2(b1)に示すように、励磁電流指令idcomはクランプされていない。これは、磁束制御器13の出力値が励磁電流制限器23の出力上限値よりも小さく、励磁電流制限器23の出力下限値よりも大きい値のため、磁束制御器13の出力値がそのまま励磁電流指令idcomとして使用されていることを示している。このような場合、図2(b2)に示すように、磁束指令Φcomに対し、磁束Φはオーバーシュートしないが、図2(a2)と同様に磁束指令Φcomに対し磁束Φの追従が遅くなる。
【0041】
以上から、マイナーループである励磁電流制御系の応答帯域を広げることができたとしても、磁束制御系の内部に励磁電流制限器23を含む場合、磁束制御系の応答帯域を広げると、磁束指令Φcomに対し磁束Φがオーバーシュートする。そのため、磁束制御系の応答帯域を広げることが難しく、磁束指令Φcomに対し磁束Φの追従を速くすることが難しい。
【0042】
そこで、本実施の形態1では、図1に示すように、磁束遅れ補償器16aを設け、磁束制御器13の応答帯域定数wcを大きくせず、それによって生ずる磁束指令Φcomに対する磁束Φの追従遅れを、磁束遅れ補償器16aにより補正するようにした。
【0043】
前述のように励磁電流制限器23は、入力される磁束制御器13の出力に対し、出力する励磁電流指令idcomを制限する機能を備えている。出力上限値をidmax、出力下限値をidminとすると、励磁電流制限器23から出力される励磁電流指令idcomは、式(5)のように表すことができる。
idmin≦idcom≦idmax …(5)
【0044】
次に、磁束遅れ補償器16aについて説明する。図3は、図1に示す磁束遅れ補償器の構成例を示すブロック図である。磁束遅れ補償器16aは、例えば図3に示すように、加算器25と、フィルタ26,27と、乗算器28と、出力制限手段である制限器29とを備えて構成される。
【0045】
フィルタ26,27は、それぞれFIRフィルタやIIRフィルタ等様々なフィルタで構成することが可能である。乗算器28で用いるゲインは、正の実数をとるものとする。制限器29は、入力された信号に対し、出力を制限する機能を備えている。例えば、入力された信号が増加する場合は、出力上限値に設定された最大値以下の値を出力し、入力された信号が減少する場合は、出力下限値に設定された最小値以上の値を出力する。
【0046】
外部からの磁束指令Φcomは、フィルタ26,27にこの順に入力され、それぞれでフィルタリングされた後、乗算器28にてゲイン倍される。そして、磁束指令値Φcomと、乗算器28の出力とを加算器25に入力して加算し、制限器29にて加算器25が出力する加算磁束指令Φ1comのうち制限値以内の磁束指令を取り出し、それを磁束遅れ補償器16aが出力する磁束遅れ補正指令Φhcomとする。
【0047】
以上のように構成される磁束遅れ補償器16aの動作について説明する。
フィルタ26の伝達関数を磁束推定部8の伝達関数Gid_Φ(s)の逆数「1/Gid_Φ(s))」とし、フィルタ27の伝達関数を磁束制御器13の伝達関数GΦ(s)の逆数「1/GΦ(s)」とし、乗算器28のゲインを値1と設定すると、フィルタ26から乗算器28までの伝達関数Go1(s)は、次の式(6)で表される。
Go1(s)
=1/Gid_Φ(s)×1/GΦ(s)×1
=(1+s・(Lr/Rr))/M×s/(KΦ・s+KΦi)×1
=(1+s・(Lr/Rr))/M×s/(wc・Lr/(Rr・M)・s+wc/M)
=s/wc …(6)
【0048】
加算器25が出力する加算磁束指令Φ1comは、磁束指令Φcomと乗算器28の出力とを加算したものであり、次の式(7)で表される。
Φ1com=(1+Go1(s))・Φcom
=(1+s/wc)・Φcom…(7)
【0049】
前述のように、制限器29は、入力される加算磁束指令Φ1comに基づいて、磁束遅れ補正指令Φhcomを出力する。制限器29の出力上限値をΦhmax、出力下限値をΦhminとすると、磁束遅れ補正指令Φhcomは式(8)で表すことができる。
Φhmin≦Φhcom≦Φhmax …(8)
【0050】
制限器29の出力上限値Φhmaxを磁束指令Φcomとすると、制限器29が出力する磁束遅れ補正指令Φhcomは次の式(9)または式(10)で示される。
Φ1com<Φcom:Φhcom=Φ1com …(9)
Φ1com≧Φcom:Φhcom=Φcom …(10)
【0051】
すなわち、加算器25が出力する加算磁束指令Φ1comが磁束指令Φcomに対し、
Φ1com<Φcom
の関係にある場合は、制限器29が出力する磁束遅れ補正指令Φhcomは、加算器25が出力する加算磁束指令Φ1comと同じ値である(式(9))。または、加算器25が出力する加算磁束指令Φ1comが磁束指令Φcomに対し、
Φ1com≧Φcom
の関係にある場合は、制限器29が出力する磁束遅れ補正指令Φhcomは、外部入力の磁束指令Φcomと同じ値である(式(10))。
【0052】
また、制限器29の出力下限値Φhminを磁束下限値Φmin(例えば、モータ1を駆動させるのに最低限必要な磁束)とすると、制限器29が出力する磁束遅れ補正指令Φhcomは次の式(11)または式(12)で示される。
Φ1com>Φmin:Φhcom=Φ1com …(11)
Φ1com≦Φmin:Φhcom=Φcommin …(12)
【0053】
すなわち、加算器25が出力する加算磁束指令Φ1comが磁束下限値Φminに対して、
Φ1com>Φmin
に関係にある場合は、制限器29が出力する磁束遅れ補正指令Φhcomは、加算器25が出力する加算磁束指令Φ1comと同じ値である((式11))。または、加算器25が出力する加算磁束指令Φ1comが磁束下限値Φminに対し、
Φ1com≦Φmin
の関係にある場合は、制限器29が出力する磁束遅れ補正指令Φhcomは、磁束下限値Φminとなる((式12))。
【0054】
以上より、式(9)、式(10)、式(11)、式(12)から、式(8)は、次式(13)に置き換えることができる。
Φmin≦Φhcom≦Φcom …(13)
【0055】
この方法によれば、制限器29は、非励磁状態から励磁状態に切り替えるようステップ的に磁束指令Φcomが増加する場合や、負荷がステップ的に増加し、磁束指令Φcomが増加方向にステップ的に変化する場合でも、磁束遅れ補正指令Φhcomが、磁束指令Φcomを越えないように制限することができる。また、負荷がステップ的に減少し、磁束指令Φcomが減少方向にステップ的に変化する場合でも、磁束遅れ補正指令Φhcomが、磁束下限値Φminを下回らないように制限することができる。
【0056】
磁束遅れ補正指令Φhcomは、磁束制御系の応答帯域によって発生する追従遅れ分を磁束指令Φcomに加算された指令である。磁束指令Φcomが増加する際に、過渡的な変化が大きい場合、磁束遅れ補正指令Φhcomは、磁束指令Φcomよりも大きな値になり、磁束指令Φcomに対し磁束Φがオーバーシュートする可能性がある。そこで、加算器25の出力である加算磁束指令Φ1comを制限器29に入力することで、磁束遅れ補正指令Φhcomが過大な値になることを防ぎ、磁束指令Φcomに対し磁束Φがオーバーシュートしないようにしている。
【0057】
なお、フィルタ26の伝達特性は、磁束推定部8の伝達関数の逆数が示す伝達特性であるとして説明し、フィルタ27の伝達特性は、磁束制御器13の伝達関数の逆数が示す伝達特性であるとして説明したが、それぞれの伝達関数の逆数を近似した伝達特性であってもよい。
【0058】
次に、図4と図5を参照して、磁束遅れ補償器16aを設けたことによる効果について説明する。図4は、制御対象となるモータの特性を示す図である。図5は、図3に示す磁束遅れ補償器を設けた場合と設けない場合とでのモータの制御特性を比較して説明する図である。
【0059】
まず、磁束遅れ補償器16aを付加したことによる効果を確認するため、図4を参照して、制御対象となるモータ1の特性について説明する。図4(a)では、横軸を回転速度とし、縦軸を出力とした回転速度ー出力特性が示されている。また、図4(b)では、横軸を回転速度とし、縦軸をトルクとした回転速度ートルク特性が示されている。図4(c)では、横軸を回転速度とし、縦軸を磁束とした回転速度ー磁束特性が示されている。図4(d)では、横軸を回転速度とし、縦軸をトルク電流とした回転速度ートルク電流特性が示されている。
【0060】
図4(a)(b)に示すように、誘導モータであるモータ1のベクトル制御では、巻線抵抗やインダクタンス等の誘導モータの電気的定数や、動力源となるキャパシタ4の電圧によって決まる上限電圧に達するまでの回転速度(基底回転速度)ωbまでは、定トルク駆動領域40であり、磁束を一定に保ち、トルク一定の駆動が行われる。そして、上限電圧に達する回転速度ωbに到達すると、以降定出力駆動領域41となり、上昇させる回転速度に反比例して磁束を低減させる。これによって、トルクも低減し、出力一定の駆動が行われる。
【0061】
モータ1の特性としては、モータの上限電圧によって決まるモータ基底回転速度ωbの他に、モータ最高回転速度ωmax、モータ最大トルクTmax、モータ最大出力Pout、負荷イナーシャJmなどがある。
【0062】
また、モータ1の運転条件は、以下の通りとする。モータ1は、駆動前は非励磁状態であり、磁束は0である。モータ1は駆動時に非励磁状態から励磁状態となるため、磁束指令Φcomがほぼステップ状に変化する。そして、摩擦負荷等の負荷トルクは0とする。この状態でモータ1を回転速度0からモータ最高回転速度ωmaxまで加速運転する。
【0063】
さて、図5(a)では、横軸を時間とし、縦軸を回転速度ωとし、図4(a)に示した定トルク駆動領域40において、磁束遅れ補償器16aを設けた「磁束遅れ補償器あり」の場合における回転速度の立ち上がり特性42と、磁束遅れ補償器16aを設けない「磁束遅れ補償器なし」の場合における回転速度の立ち上がり特性43とが示されている。図5(a)に示すように、磁束遅れ補償器16aを設けることにより、モータ駆動開始時の定トルク駆動領域において追従が速くなるので、回転速度が速やかに上昇し、加速特性が向上することが解る。
【0064】
図5(b)では、横軸を時間とし、縦軸を磁束Φとし、図4(b)に示した定出力駆動領域41において、磁束遅れ補償器16aを設けない場合における磁束(つまり磁束指令Φcom)の減少変化特性44と、磁束遅れ補償器16aを設けた場合における磁束(つまり磁束遅れ補正指令Φhcom)の減少変化特性45とが示されている。
【0065】
磁束遅れ補償器16aは、磁束指令Φcomに対し、磁束制御器13のゲインを大きくすることができず、磁束制御系の応答帯域を広くできない場合、磁束Φの追従が遅れることを考慮して、予めフィルタ26,27、乗算器28によって遅れ分を補正して磁束指令Φcomに加算し、制限器29を介して、磁束遅れ補正指令Φhcomを生成している。このように、予め磁束Φの追従が遅れることを考慮して遅れ分を補正しているため、図5(b)に示すように、磁束遅れ補正指令Φhcomは、磁束指令Φcomが過渡的に大きく変化する際に、磁束指令Φcomよりも大きく変化する特性を示すことになる。
【0066】
図5(c)では、磁束遅れ補償器16aを設けない場合における推定した磁束Φの追従性を確認するため、横軸を時間、縦軸を磁束とし、磁束指令Φcomの変化特性46と、磁束Φの変化特性47とが示されている。図5(c)に示すように、磁束遅れ補償器16aを設けない場合は、定出力駆動領域において推定される磁束Φは、磁束指令Φcomに対し遅れている。
【0067】
図5(d)では、磁束遅れ補償器16aを設けた場合における推定した磁束Φの追従性を確認するため、横軸を時間、縦軸を磁束とし、磁束指令Φcomの変化特性48と、磁束Φの変化特性49とが示されている。図5(d)に示すように、磁束遅れ補償器16aを設けた場合は、定出力駆動領域において推定される磁束Φは、磁束指令Φcomに対し遅れることなく追従している。
【0068】
図5から、磁束遅れ補償器16aを設けることにより、定トルク駆動領域40、定出力駆動領域41ともに磁束指令Φcomに対する推定された磁束Φの遅れが補正されていることが分かる。定トルク駆動領域40では、所定のトルクにすみやかに到達し、定出力駆動領域41では、磁束指令Φcomの通りに磁束Φを低減できているので、回転速度の上昇がすみやかに行われている。そのため、モータ最高回転速度ωmaxまでの加速時間が短縮されていることが分かる。
【0069】
また、本実施の形態1によるモータ制御装置を適用した工作機械における一定速度での加工時に、負荷変動によるトルク変動があった場合でも、磁束遅れ補償器16aの作用により、磁束指令の変化に磁束を速やかに追従させ得るので、工作機械の主軸として、制御性能の向上にも寄与するという効果を奏する。
【0070】
磁束遅れ補償器16aを設けた場合における効果としては、その他、制限器29の定数を変更して、非励磁状態から励磁状態に切り替わる際の、磁束の立ち上がりを速くすることも可能である。例えば、制限器29の出力上限値を磁束指令Φcomよりも大きな値に設定し、磁束遅れ補正指令Φhcomを磁束指令Φcomよりも大きな値を出力できるようにすれば、磁束指令Φcomに対し磁束Φの追従は速くなり、磁束の立ち上がりも速くすることができる。
【0071】
なお、図1では、磁束遅れ補償器16aが生成した磁束遅れ補正指令Φhcomを減算器20の加算入力端(+)に入力させる場合を示してあるが、これに限定されるものではない。すなわち、図1において、減算器20の加算入力端(+)には従前の通りに外部入力の磁束指令Φcomを入力させ、磁束遅れ補償器16aを構成するフィルタ26,27および乗算器28の構成や定数を下記のように変更して生成した磁束遅れ補正指令Φhcomを、磁束制御器13の出力に加算しそれを励磁電流制限器23に入力させる。この構成によっても、同様に磁束の遅れを補正することができる。
【0072】
磁束遅れ補償器16aは、磁束指令Φcomの過渡的な変化に対する磁束Φの遅れを補正することが目的であるから、充分な時間が経過した定常時での補正はゼロである必要がある。しかし、図1に示した構成では、定常時に余分な補正が行われる。
【0073】
そこで、磁束遅れ補償器16aを、磁束指令Φcomの過渡的な変化時では、或る補正量を示す磁束遅れ補正指令Φhcomを生成し、定常時においては補正量ゼロを示す磁束遅れ補正指令Φhcomを生成するように構成する。これは、磁束遅れ補償器16aを構成するフィルタ26,27、乗算器28の構成や定数を変更すれば実現できる。よって、上記のように、磁束遅れ補償器16aが生成した磁束遅れ補正指令Φhcomを磁束制御器13の出力に加算しそれを励磁電流制限器23に入力させる構成とすることができる。
【0074】
実施の形態2.
図6は、本発明の実施の形態2によるモータ制御装置の要部構成を示すブロック図である。なお、図6では、図1(実施の形態1)に示した構成要素と同一または同等である構成要素には同一の符号が付されている。ここでは、本実施の形態2に関わる部分を中心に説明する。
【0075】
図6において、本実施の形態2によるモータ制御装置では、図1(実施の形態1)に示した構成において、磁束遅れ補償器16aに代えて磁束遅れ補償器16bが設けられ、また、加算器24が磁束制御器13と励磁電流制限器23との間に設けられている。
【0076】
磁束遅れ補償器16bは、例えば図7に示す構成により、外部入力の磁束指令Φcomから、モデル励磁電流指令idmcomとモデル磁束指令Φmcomとを生成する。
【0077】
磁束遅れ補償器16bの一方の出力であるモデル励磁電流指令idmcomは、加算器24の一方の加算入力端(+)に入力される。加算器24の他方の加算入力は磁束制御器13の出力であり、加算器24の出力が励磁電流制限器23に入力される。これによってモデル励磁電流指令idmcomが、励磁電流制限器23が制限出力する励磁電流指令idcomに反映される。すなわち、モデル励磁電流指令idmcomは、請求項3における第2の磁束遅れ補正指令に対応している。
【0078】
また、磁束遅れ補償器16bの他方の出力であるモデル磁束指令Φmcomは、減算器20のプラス入力端(+)に、図1に示した磁束遅れ補正指令Φhcomに代えて入力されている。したがって、減算器20の出力(磁束制御器13の入力)は、モデル磁束指令Φmcomと推定した磁束Φとの偏差(磁束偏差)である。したがって、モデル磁束指令Φmcomは、請求項3における第1の磁束遅れ補正指令に対応している。
【0079】
次に、図7は、図6に示す磁束遅れ補償器の構成例を示すブロック図である。磁束遅れ補償器16bは、例えば図7に示すように、減算器30、モータ1の理想モデル(巻線抵抗やインダクタンス等のモータ定数に誤差やバラツキがないものとみなすことができる)によって構成されるモデル磁束制御器31、モデル磁束推定部32により、フィードバック制御系を構成している(以降「モデル磁束制御系」という)。なお、モデル磁束制御系では、マイナーループである励磁電流制御系は、応答帯域が十分に広く、励磁電流制御系の伝達関数を1とみなすことができるものとする。
【0080】
減算器30のプラス入力端(+)には、磁束指令Φcomが入力され、減算器30のマイナス入力端(−)には、モデル磁束推定部32が出力するモデル磁束指令ΦmcomがFB(フィードバック信号)として入力される。モデル磁束制御器31は、減算器30の出力(磁束偏差)から、磁束遅れ補償器16bの一方の出力であるモデル励磁電流指令idmcomを求める。モデル磁束推定部32は、モデル磁束制御器31が出力するモデル励磁電流指令idmcomから、磁束遅れ補償器16bの他方の出力であるモデル磁束指令Φmcomを求める。以下、具体的に説明する。
【0081】
モデル磁束推定部32の特性を、磁束推定部8と同様の特性とするために、モデル磁束推定部32の伝達関数Gmid_Φ(s)は、式(14)で与えられるとする。
Gmid_Φ(s)=M/(1+s・(Lr/Rr)) …(14)
【0082】
モデル磁束制御器31は、モデル磁束制御系の応答帯域を決定する部分であり、磁束制御器13と同様にPI制御にて構成されている。モデル磁束制御器31の伝達関数GmΦ(s)は、モデル比例ゲインKmΦと、モデル積分ゲインをKmΦiとを用いて、式(15)のように示される。
GmΦ(s)=KmΦ+KmΦi/s …(15)
【0083】
ここで、PI制御におけるモデル比例ゲインKmΦ、モデル積分KmΦiに用いられる定数は、磁束制御器13の比例ゲインKΦ、積分ゲインKΦiと同様に、モータ1のインダクタンスや巻線抵抗に依存する固定値部分と、ゲインに依存する可変値部分とで構成されるので、その可変部分を本明細書では、モデル磁束制御器31の応答帯域定数wmcと称しており、この応答帯域定数wmcも用いて、モデル比例ゲインKmΦは式(16)のように設定され、モデル積分ゲインKmΦiは式(17)のように設定される。
KmΦ=wmc・Lr/(Rr・M) …(16)
KmΦi=wmc/M …(17)
【0084】
なお、モデル磁束制御器31の応答帯域定数wmcは、磁束制御器13の応答帯域定数wcに対し、例えば式(18)に示すように設定されている。
wmc=2×wc …(18)
【0085】
次に、図8を参照して、磁束遅れ補償器16bを設けたことによる効果について説明する。なお、図8は、図7に示す磁束遅れ補償器を設けた場合と設けない場合とでのモータの制御特性を比較して説明する図である。なお、制御対象となるモータ1についての運転条件は、実施の形態1にて説明した通りとする。
【0086】
図8(a)では、横軸を時間とし、縦軸を回転速度とし、図4に示した定トルク駆動領域40において、磁束遅れ補償器16bを設けた「磁束遅れ補償器あり」の場合における回転速度の立ち上がり特性50と、磁束遅れ補償器16bを設けない「磁束遅れ補償器なし」の場合における回転速度の立ち上がり特性51とが示されている。図5(a)と同様に、加速特性がよくなることが示されている。
【0087】
図8(b)では、磁束遅れ補償器16bを設けない場合における磁束Φの追従性を確認するため、横軸を時間、縦軸を磁束とし、磁束指令Φcomの変化特性52と、磁束Φの変化特性53とが示されている。図8(b)に示すように、磁束遅れ補償器16bを設けない場合は、磁束指令Φcomに対する磁束Φの追従は遅くなっている。
【0088】
図8(c)は、磁束遅れ補償器16bを設けた場合における磁束Φの追従性を確認するため、横軸を時間、縦軸を磁束とし、磁束指令Φcomの変化特性54と、磁束Φの変化特性55とが示されている。図8(c)に示すように、磁束遅れ補償器16bを設けた場合は、磁束指令Φcomに対する磁束Φの追従が速くなっている。その結果、図8(a)に示すように、定トルク駆動領域では、加速が速くなり、また、定出力駆動領域においても、回転速度の上昇がすみやかに行われている。
【0089】
図8から、磁束遅れ補償器16bを設けることにより、図4に示した定トルク駆動領域40、定出力駆動領域41ともに磁束指令Φcomに対する推定された磁束Φの遅れが補正されていることが解る。これは、磁束遅れ補償器16bの構成要素であるモデル磁束制御器31のモデル応答帯域定数wmcを、式(18)に示すように、大きくすることができたためであり、その結果、最大回転速度ωmaxまでの加速特性も向上していることが分かる。
【0090】
前記したように、磁束制御系は、磁束制御器13を内部に含む狭義の磁束制御系をメジャーループとし、励磁電流制御系をマイナーループとしたカスケード制御で構成されている。マイナーループである励磁電流制御系の電流検出遅れや座標変換の遅れ、変換誤差等の影響が大きい場合、磁束制御系の制御安定性を損なうため、磁束制御器13の応答帯域定数wcを大きくすることができず、磁束制御系の応答帯域を広げることができない場合がある。この場合、磁束指令に対する磁束の追従が遅れるという問題があった。
【0091】
この問題に対し、本実施の形態2によれば、磁束遅れ補償器16b内のモデル磁束制御器31の応答帯域定数wmcを磁束制御器13の応答帯域定数wcよりも大きな値に設定してあるので、磁束制御系の制御安定性は磁束制御器13にて確保し、磁束指令に対する磁束の追従性は、磁束遅れ補償器16b内のモデル磁束制御器31にて向上させることができる。
【0092】
実施の形態3.
図9は、本発明の実施の形態3として、図6に示す磁束遅れ補償器の他の構成例を示すブロック図である。図10は、図9に示すフィードフォワード補償器の構成例を示すブロック図である。図9に示す磁束遅れ補償器16cは、図6に示す磁束遅れ補償器16bに代えて用いるものであるから、磁束遅れ補償器16cが適用されるモータ制御装置は図6に示すようになっている。
【0093】
図9に示すように、磁束遅れ補償器16cは、図6に示す磁束遅れ補償器16bにおいて、フィードフォワード補償器33が、外部入力の磁束指令Φcomが減算器30のプラス入力端(+)に入力する経路に介挿されている。
【0094】
したがって、減算器30は、フィードフォワード補償器33が出力する磁束フィードフォワード指令Φfcomと、モデル磁束推定部32が出力するモデル磁束指令Φmcomとの偏差(磁束偏差)をモデル磁束制御器31に出力することになる。
【0095】
磁束遅れ補償器16cの出力は、磁束遅れ補償器16bと同じに、モデル励磁電流指令idmcomとモデル磁束指令Φmcomとの2つである。それらは、磁束遅れ補償器16bの出力と同じに、加算器24および減算器20に入力されるが、フィードフォワード補償器33が設けられているので、その出力内容は、磁束遅れ補償器16bとは異なったものになっている。
【0096】
次に、フィードフォワード補償器33について説明する。フィードフォワード補償器33は、例えば図10に示すように、フィルタ34,35、乗算器36、加算器37および制限器38を備えて構成される。なお、フィルタ34,35はFIRフィルタやIIRフィルタ様々なフィルタで構成することが可能である。また、乗算器36で用いるゲインは正の実数をとるものとする。制限器38は、実施の形態1で説明した制限器29と同様の機能を備え、入力された信号に対し、出力を制限する機能を備えている。例えば、入力された信号が増加する場合は、出力上限値に設定された最大値以下の値を出力し、入力された信号が減少する場合は、出力下限値に設定された最小値以上の値を出力する。
【0097】
図10において、外部入力の磁束指令Φcomは、フィルタ34,35にこの順に入力され、それぞれでフィルタリングされた後、乗算器36にてゲイン倍される。そして、磁束指令Φcomと乗算器36の出力とを加算器37に入力して加算し、制限器38にて加算器37が出力する加算磁束指令Φ2comのうち制限値以内の磁束指令を取り出し、それをフィードフォワード補償器33が出力する磁束フィードフォワード指令Φfcomとする。
【0098】
以上のように構成される磁束遅れ補償器16aの動作について説明する。
フィルタ34の伝達関数をモデル磁束推定部32の伝達関数Gmid_Φ(s)の逆数「1/Gmid_Φ(s)」とし、フィルタ35の伝達関数をモデル磁束制御器31の伝達関数GmΦ(s)の逆数「1/GmΦ(s)」とし、乗算器36のゲインを値1とすると、フィルタ34から乗算器36までの伝達関数Go2(s)は式(19)で表される。
Go2(s)
=1/Gmid_Φ(s)×1/GmΦ(s)×1
=(1+s・(Lr/Rr))/M×s/(KΦ・s+KΦi)×1
=(1+s・(Lr/Rr))/M×s/(wmc・Lr/(Rr・M)・s+wmc/M)
=s/wmc …(19)
【0099】
加算器37が出力する加算磁束指令Φ2comは、磁束指令値Φcomと乗算器36の出力とを加算したものであり、式(20)で表される。
Φ2com=(1+Go2(s))・Φcom
=(1+s/wmc)・Φcom …(20)
【0100】
前述のように、制限器38は、入力される加算磁束指令Φ2comに基づいて、磁束フィードフォワード指令Φfcomを出力する。出力上限値をΦfmax、出力下限値をΦfminとすると、磁束フィードフォワード指令Φfcomは式(21)で表すことができる。
Φfmin≦Φfcom≦Φfmax …(21)
【0101】
制限器38の出力上限値Φfmaxを磁束指令Φcomとすると、制限器38が出力する磁束フィードフォワード指令Φhcomは、次の式(22)または式(23)で示される。
Φ2com<Φcom:Φfcom=Φ2com …(22)
Φ2com≧Φcom:Φfcom=Φcom …(23)
【0102】
すなわち、加算器37が出力する加算磁束指令Φ2comが磁束指令Φcomに対し、
Φ2com<Φcom
の関係にある場合は、制限器38が出力する磁束フィードフォワード指令Φfcomは、加算器37が出力する加算磁束指令Φ2comと同じ値である(式(22))。また、加算器37が出力する加算磁束指令Φ2comが磁束指令Φcomに対し、
Φ2com≧Φcom
の関係にある場合は、制限器38が出力する磁束フィードフォワード指令Φfcomは、外部入力の磁束指令Φcomと同じ値である(式(23))。
【0103】
また、制限器38の出力最小値Φhminを磁束下限値Φminとすると、制限器37が出力する磁束フィードフォワード指令Φfcomは次の式(24)または式(25)で示される。
Φ2com>Φmin:Φfcom=Φ2com …(24)
Φ2com≦Φmin:Φfcom=Φcom …(25)
【0104】
すなわち、加算器37が出力する加算磁束指令Φ2comが磁束下限値Φcomminに対し、
Φ2com>Φmin
の関係にある場合は、制限器38が出力する磁束フィードフォワード指令Φhcomは、加算器37が出力する加算磁束指令Φ2comと同じ値である(式(24))。または、加算器37が出力する加算磁束指令Φ2comが磁束下限値Φminに対し、
Φ2com≦Φmin
の関係にある場合は、制限器38が出力する磁束フィードフォワード指令Φfcomは、磁束下限値Φminとなる(式(25))。
【0105】
以上より、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)から、式(21)は次の式(26)に置き換えることができる。
Φmin≦Φfcom≦Φcom …(26)
【0106】
この方法によれば、制限器38は、非励磁状態から励磁状態に切り替えるようステップ的に磁束指令Φcomが増加する場合や、負荷がステップ的に増加し、磁束指令Φcomが増加方向にステップ的に変化するでも、磁束フィードフォワード指令Φfcomが、磁束指令Φcomを越えないように制限することができる。また、負荷がステップ的に減少し、磁束指令Φが減少方向にステップ的に変化する場合でも、磁束フィードフォワード指令Φfcomが、磁束下限値Φminを下回らないように制限することができる。
【0107】
磁束フィードフォワード指令Φfcomは、モデル磁束制御器31の応答帯域定数wmcによって決定される磁束遅れ補償器16c内部に構成されるモデル磁束制御系の応答帯域によって発生する追従遅れ分を磁束指令Φcomに加算された指令である。磁束指令Φcomが増加する際に、過渡的な変化が大きい場合、磁束フィードフォワード指令Φfcomは、磁束指令Φcomよりも大きな値になり、磁束指令Φcomに対し磁束Φがオーバーシュートする可能性がある。そこで、加算器37の出力である加算磁束指令Φ2comを制限器38に入力することで、磁束フィードフォワード指令Φfcomが過大な値になることを防ぎ、磁束指令Φcomに対し磁束Φがオーバーシュートしないようにしている。
【0108】
なお、フィルタ34は、モデル磁束推定部32の伝達関数の逆数が示す伝達特性であるとして説明し、フィルタ35の伝達特性は、モデル磁束制御器31の伝達関数の逆数が示す伝達特性であるとして説明したが、それぞれの伝達関数の逆数を近似した伝達特性であってもよい。
【0109】
次に、図11を参照して、磁束遅れ補償器16cを設けたことによる効果について説明する。なお、図11は、図9に示す磁束遅れ補償器を設けた場合と図7に示す磁束遅れ補償器を設けた場合とでのモータの制御特性を比較して説明する図である。なお、制御対象となるモータ1についての運転条件は、実施の形態1にて説明した通りとする。
【0110】
図11(a)では、横軸を時間とし、縦軸を回転速度とし、図3に示した定トルク駆動領域40において、フィードフォワード補償器ありの場合(つまり、磁束遅れ補償器16cを設けた場合)における回転速度の立ち上がり特性56と、フィードフォワード補償器無しの場合(つまり、磁束遅れ補償器16bを設けた場合)における回転速度の立ち上がり特性57とが示されている。
【0111】
図11(b)では、フィードフォワード補償器無しの場合(つまり、磁束遅れ補償器16bを設けた場合における磁束Φの追従の速さを確認するため、横軸を時間、縦軸を磁束とし、磁束指令Φcomの変化特性58と、磁束Φの変化特性59とが示されている。
【0112】
図11(c)は、フィードフォワード補償器ありの場合(つまり、磁束遅れ補償器16cを設けた場合)における磁束Φの追従の速さを確認するため、横軸を時間、縦軸を磁束とし、磁束指令Φcomの変化特性60と、磁束Φの変化特性61とが示されている。
【0113】
図11から、磁束遅れ補償器16bにフィードフォワード補償器33を付加した磁束遅れ補償器16cを設けることにより、(イ)磁束指令Φcomに対する磁束Φの立ち上がりが速やかに行われていること、(ロ)図3に示した定出力駆動領域41においても、磁束指令Φcomに対し、磁束Φが追従しているため、回転速度の上昇がすみやかに行われており、加速特性が向上していること、が理解できる。
【0114】
要するに、図8と図11との比較から、磁束指令Φcomに対する磁束Φの追従性は、磁束遅れ補償器16bを設けた実施の形態2(図8)よりも、磁束遅れ補償器16cを設けた実施の形態3(図11)の方が、向上していることが解る。
【0115】
以上のように、実施の形態1〜3によれば、磁束指令に対する磁束の遅れを補正できるので、磁束の追従性が向上し、加速・減速や負荷トルク変動を含む広い動作領域において所定のトルクを出力させることができる。その結果、モータの加速性能および制御性能の向上を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
以上のように、本発明にかかるモータ制御装置は、加速・減速や負荷トルク変動を含む広い動作領域で、磁束指令に対する磁束の追従遅れを補正し、誘導モータに所定のトルクを出力させ得るので、誘導モータの加速性能および制御性能の向上が図れるモータ制御装置として有用であり、特に、工作機械の主軸や車両等で用いられる誘導モータを駆動するモータ制御装置に適している。
【符号の説明】
【0117】
1 モータ(誘導モータ)
2 速度検出器
3 インバータ回路
4 キャパシタ
5 電流検出部
6 座標変換器(UV−dq)
7 座標変換器(dq−UVW)
8 磁束推定部
9 すべり速度算出部
10 励磁電流制御器
11 トルク電流制御器
12 ベース信号生成部
13 磁束制御器
14 速度制御器
15 積分器
16a,16b,16c 磁束遅れ補償器
17,18,20,21,30 減算器
19,24,25,37 加算器
22 トルク電流制限器
23 励磁電流制限器
26,27,34,35 フィルタ
28,36 乗算器
29,38 制限器
31 モデル磁束制御器
32 モデル磁束推定部
33 フィードフォワード補償器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導モータに流れる1次電流を検出する電流検出手段と、前記1次電流からトルク電流成分及び励磁電流成分を変換生成する座標変換手段と、前記励磁電流成分から前記誘導モータの磁束を推定する磁束推定手段と、前記誘導モータを駆動する過程で外部から入力される磁束指令と前記磁束推定手段が推定した磁束との偏差が小さくなるようにする励磁電流指令を生成する磁束制御手段と、前記磁束制御手段が出力する励磁電流指令のうち制限値以内の励磁電流指令を制御に必要な励磁電流指令として出力する励磁電流制限手段とを備え、前記誘導モータをベクトル制御により駆動制御するモータ制御装置において、
前記磁束指令に基づいて磁束遅れ補正指令を生成する磁束遅れ補償手段を備え、前記磁束遅れ補正指令は、前記磁束指令に代えて前記磁束推定手段が推定した磁束との偏差を取るのに用いられる
ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
誘導モータに流れる1次電流を検出する電流検出手段と、前記1次電流からトルク電流成分及び励磁電流成分を変換生成する座標変換手段と、前記励磁電流成分から前記誘導モータの磁束を推定する磁束推定手段と、前記誘導モータを駆動する過程で外部から入力される磁束指令と前記磁束推定手段が推定した磁束との偏差が小さくなるようにする励磁電流指令を生成する磁束制御手段と、前記磁束制御手段が出力する励磁電流指令のうち制限値以内の励磁電流指令を制御に必要な励磁電流指令として出力する励磁電流制限手段とを備え、前記誘導モータをベクトル制御により駆動制御するモータ制御装置において、
前記磁束指令に基づいて磁束遅れ補正指令を生成する磁束遅れ補償手段を備え、前記磁束遅れ補正指令は、前記磁束制御手段の出力に加算されて前記励磁電流制限手段に入力される
ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
誘導モータに流れる1次電流を検出する電流検出手段と、前記1次電流からトルク電流成分及び励磁電流成分とを変換生成する座標変換手段と、前記励磁電流成分から前記誘導モータの磁束を推定する磁束推定手段と、前記誘導モータを駆動する過程で外部から入力される磁束指令と前記磁束推定手段が推定した磁束との偏差が小さくなるようにする励磁電流指令を生成する磁束制御手段と、前記磁束制御手段が出力する励磁電流指令のうち制限値以内の励磁電流指令を制御に必要な励磁電流指令として出力する励磁電流制限手段とを備え、前記誘導モータをベクトル制御により駆動制御するモータ制御装置において、
前記磁束指令に基づいて第1及び第2の磁束遅れ補正指令をそれぞれ生成する磁束遅れ補償手段を備え、前記第1及び第2の磁束遅れ補正指令のうち、第1の磁束遅れ補正指令は前記磁束指令に代えて前記磁束推定手段が推定した磁束との偏差を取るのに用いられ、第2の磁束遅れ補正指令は前記磁束制御手段の出力に加算されて前記励磁電流制限手段に入力される
ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
前記磁束遅れ補償手段は、
前記磁束推定手段の伝達関数の逆数の伝達特性または前記磁束推定手段の伝達関数の逆数を近似した伝達特性を有し前記磁束指令が入力される第1のフィルタと、
前記磁束制御手段の伝達関数の逆数の伝達特性または前記磁束制御手段の伝達関数の逆数を近似した伝達特性を有し前記第1のフィルタの出力が入力される第2のフィルタと、
前記第2のフィルタの出力に所定ゲインを乗算する乗算器と、
前記乗算器の出力と前記磁束指令とを加算する加算器と、
前記加算器の出力のうち制限値以下を前記磁束遅れ補正指令として出力する出力制限手段と
を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記出力制限手段は、
入力された信号に対し、出力を設定された最大値以下に制限する出力上限手段および出力を設定された最小値以上に制限する出力下限手段を備え、前記磁束指令が入力された場合、前記出力制限手段の出力である前記磁束遅れ補正指令は、前記出力上限手段に設定された最大値および前記出力下限手段に設定された最小値以内に制限し出力される
ことを特徴とする請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記磁束遅れ補償手段は、
前記誘導モータの理想モデルによって構成され、前記磁束指令と推定されたモデル磁束指令との偏差に基づきモデル励磁電流指令を生成するモデル磁束制御手段と、
前記誘導モータの理想モデルによって構成され、前記モデル励磁電流指令に基づき前記モデル磁束指令を推定するモデル磁束推定手段と
を備え、
前記モデル磁束指令が前記第1の磁束遅れ補正指令となり、前記モデル励磁電流指令が前記第2の磁束遅れ補正指令となる
ことを特徴とする請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記磁束遅れ補償手段は、
前記磁束指令に基づき磁束フィードフォワード指令を演算生成するフィードフォワード補償手段と、
磁束制御系の理想モデルによって構成され、前記磁束フィードフォワード指令とモデル磁束指令との偏差に基づきモデル励磁電流指令を生成するモデル磁束制御手段と、
前記誘導モータの理想モデルによって構成され、前記モデル励磁電流指令に基づき前記モデル磁束指令を推定するモデル磁束推定手段と
を備え、
前記モデル磁束指令が前記第1の磁束遅れ補正指令となり、前記モデル励磁電流指令が前記第2の磁束遅れ補正指令となる
ことを特徴とする請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記モデル磁束制御手段は、
制御系の応答性を決定する応答帯域定数が、前記磁束制御手段の応答帯域定数よりも大きな値に設定されている
ことを特徴とする請求項6または7に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
前記フィードフォワード補償手段は、
前記モデル磁束推定手段の伝達関数の逆数の伝達特性または前記モデル磁束推定手段の伝達関数の逆数を近似した伝達特性を有し前記磁束指令が入力される第1のフィルタと、
前記モデル磁束制御手段の伝達関数の逆数の伝達特性または前記モデル磁束制御手段の伝達関数の逆数を近似した伝達特性を有し前記第1のフィルタの出力が入力される第2のフィルタと、
前記第2のフィルタの出力に所定ゲインを乗算する乗算器と、
前記乗算器の出力と前記磁束指令とを加算する加算器と、
前記加算器の出力のうち制限値以下を前記磁束フィードフォワード指令として出力する出力制限手段と
を備えていることを特徴とする請求項7に記載のモータ制御装置。
【請求項10】
出力制限手段は、
入力された信号に対し、出力を設定された最大値以下に制限する出力上限手段および出力を設定された最小値以上に制限する出力下限手段を備え、前記磁束指令が入力された場合、前記出力制限手段の出力である前記磁束フィードフォワード指令は、前記出力上限手段に設定された最大値および前記出力下限手段に設定された最小値以内に制限し出力される
ことを特徴とする請求項9に記載のモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−66342(P2013−66342A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204643(P2011−204643)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】