説明

モータ制御装置

【課題】大きなリプルを有する直流電源でモータをインバータ制御した場合、モータの回転が不安定となり、振動や騒音の増大や、最悪の場合、脱調や過電流停止を引き起こす。
【解決手段】モータ制御装置は、交流電源を直流出力電圧(Vdc)に変換して出力するコンバータ(3)と、直流出力電圧を交流電流に変換してモータ(1)を駆動するインバータ(2)と、モータの回転数指令を設定する回転数設定部(12)と、回転数指令に基づきインバータ(2)を制御するPWM信号生成部(15)と、加速禁止直流電圧(d)を設定する加速禁止直流電圧設定部(16)と、加速禁止直流電圧(d)および直流出力電圧(Vdc)に基づき、モータの加速制御信号(e)を生成する加速判定部(17)とを有し、加速制御信号(e)に基づき、回転数指令の変更を禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関し、特に、モータの加速制御機能を備えたモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数相のコイルを備えた同期モータを駆動する場合、適切なタイミングで、モータ電流を流すこと、およびコイル端子に電圧を印加することの、いわゆる通電タイミングの最適化が重要となっている。この通電タイミングの基準を検出する方法として、逆起電力電圧を検出する方法や、ゼロクロス電流位相を検出する方法等、種々の方法が存在する。
【0003】
逆起電力電圧を検出してモータへの通電タイミングを制御する方法として、モータロータ位置センサを用いずにモータを制御・駆動する、いわゆるセンサレス駆動が知られている。センサレス駆動では、モータの回転によりモータコイルに発生する逆起電圧をコイル端子から検出し、モータへの通電タイミングを制御する。
【0004】
また、本願出願人は、特開2001−112287号公報(特許文献1)にて、ゼロクロス時における電圧位相を検出する方法よりも精度の高い位相制御方法を開示している。即ち、2箇所のモータ駆動電圧位相期間ごとにサンプリングした各電流サンプリングデータを積算してモータ電流信号面積とし、この両モータ電流信号面積比を交流電圧/電流の位相差情報として検出する方式である。
【0005】
図6を参照して、一般的なモータ制御装置の構成を説明する。
モータ制御装置は、コンバータ130、インバータ150、電流センサ180、およびコントローラ110で構成される。コンバータ130は、交流電源160から交流電圧が入力され、ダイオード全波整流回路120および平滑コンデンサ140で、リップルを改善した直流出力電圧に変換する。インバータ150は、コントローラ110で制御される3相のインバータ回路で、直流出力電圧をU相/V相/W相の3相の交流電流に変換し、同期モータ100を駆動する。電流センサ180は、同期モータ100のU相に流れるモータ相電流を検出する。コイル170は、コンバータ130の力率改善を目的に配置されている。
【0006】
特開2002−51589号公報(特許文献2)には、上記コイル170を用いずに、インバータの母線間に、従来の平滑コンデンサの1/100程度の小容量を接続する構成が開示されている。この構成により、交流電源の2倍の周波数を有するリプルを直流出力電圧に発生させ、入力電流波形の改善と高力率化を実現する方式を提案するものである。
【0007】
図7を参照して、特許文献1が開示するモータ制御装置で同期モータの回転数を増加させた場合の、モータ電流の変化について説明する。図7(a)に示すとおり、コンバータ回路は、その直流出力電圧のリプルを改善できる程度に、十分大きな容量の平滑コンデンサを備えているとする。コンバータ回路に印加される交流電源の実効電圧値は200V、周波数は50Hzとし、4極同期モータは、回転数2000rpmで回転しているものとする。なお、図7は、各波形の時間的変化を概念的に示すものであり、従って、横軸および縦軸は任意スケールである。
【0008】
図7(b)に示すとおり、2000rpmで回転している同期モータの回転数を、時刻t1以降、増加(加速)させる。図7(c)に示すとおり、t1以降の加速期間中は、検出対象のU相のモータ電流振幅に見られるように、同期モータは安定した電流供給を受け、その結果一定のトルクで加速が行われる。つまり、振動や騒音の発生を抑制した同期モータの加速が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−112287号公報
【特許文献2】特開2002−51589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図8を参照して、特許文献2の構成を有するコンバータへ、実効電圧値200V、周波数50Hzの交流電源を印加し、そのコンバータの直流出力電圧で、2000rpmで回転している4極同期モータを加速させた場合の課題を説明する。なお、図8は、各波形の時間的変化を概念的に示すものであり、横軸および縦軸は任意スケールである。
【0011】
図8(a)は、コンバータの直流出力電圧の波形を示す。平滑コンデンサの容量が小さいため、直流出力電圧は、交流電源の2倍の周波数で変動するリプルを有する。リプルの周期は、交流電源の周波数50Hzの2倍の周波数、つまり、10msとなる。図8(b)に示すとおり、時刻t1で、2000rpmで回転している同期モータの回転数を増加(加速)させると、図8(c)に示すとおり、時刻t1以降、直流出力電圧のリプル成分のためモータ相電流振幅は不安定となる。この結果、同期モータの回転が不安定となり、振動や騒音の増大や、最悪の場合、脱調や過電流停止を引き起こすという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、交流電源を直流出力電圧に変換して出力するコンバータと、直流出力電圧を複数相の交流電流に変換して出力し、複数相のコイルを備えたモータを駆動するインバータと、直流出力電圧を検出する直流電圧センサと、モータの所定の相に流れるモータ相電流を検出する電流センサと、モータの回転数指令を設定する回転数設定部と、回転数指令に基づき、インバータを制御するPWM信号を生成するPWM信号生成部と、加速禁止直流電圧を設定する加速禁止直流電圧設定部と、加速禁止直流電圧および直流出力電圧に基づき、モータの加速制御信号を生成する加速判定部と、加速制御信号に基づき、回転数指令の変更が禁止される、モータ制御装置である。
【0013】
本発明のモータ制御装置において、直流出力電圧が加速禁止直流電圧以下となる加速禁止期間中は、回転数指令の変更が禁止されることが望ましい。
【0014】
本発明のモータ駆動装置において、モータの目標回転数を設定する目標回転数設定部を更に備え、回転数指令は、モータの回転数が目標回転数に達するまで変更されることが望ましい。
【0015】
本発明のモータ制御装置において、モータ相電流に基づき、モータ相電流振幅を検出するモータ相電流振幅検出部と、モータ相電流振幅目標値を設定するモータ相電流振幅目標値設定部と、モータ相電流振幅およびモータ相電流振幅目標値に基づき、加速禁止直流電圧を更新する加速禁止直流電圧更新部を更に備えることが望ましい。
【0016】
本発明のモータ駆動装置において、加速禁止直流電圧更新部は、加速禁止期間に加速禁止直流電圧を更新することが望ましい。
【0017】
本発明のモータ制御装置において、正弦波データを格納する正弦波データテーブルと、回転数指令および正弦波データに基づき、電圧指令値を生成する正弦波データ作成部と、電圧指令値とモータ相電流との位相差に基づき、PWMデューティー基準値を生成する位相差制御部を更に備え、PWM信号生成部は、電圧指令値に基づきPWM信号を生成することが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、大きなリプルを有する直流電源でモータをインバータ制御した場合でも、安定したモータの加速制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係るモータ制御装置のブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るモータ制御装置により、モータ回転数を制御するタイミングを説明する波形図である。
【図3】本発明の実施の形態の変形例に係るモータ制御装置のブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態の変形例に係るモータ制御装置により、モータ回転数を制御するタイミングを説明する波形図である。
【図5】本発明の実施の形態の変形例に係るモータ制御装置が備える、加速禁止直流電圧更新部における処理フロー図である。
【図6】一般的なモータ制御装置のブロック図である。
【図7】特許文献1が開示するモータ制御装置で同期モータの回転数を増加させた場合の、モータ相電流振幅の変化を示す図である。
【図8】特許文献2が開示する制御装置で同期モータの回転数を増加させた場合の、モータ相電流振幅の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。実施の形態の説明において、個数、量などに言及する場合、特に記載ある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。実施の形態の図面において、同一の参照符号や参照番号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。また、実施の形態の説明において、同一の参照符号等を付した部分等に対しては、重複する説明は繰り返さない場合がある。
【0021】
<実施の形態>
図1を参照して、本発明の実施の形態に係るモータ制御装置のブロック図を説明する。
【0022】
モータ制御装置は、入力に印加された交流電源4を直流出力電圧Vdcに変換して出力するコンバータ3、直流出力電圧Vdcを3相(U相/V相/W相)交流電流に変換して出力するインバータ2、直流出力電圧Vdcを検出して出力する直流電圧センサ21、同期モータ1のU相のモータ相電流aを検出して出力する電流センサ5、モータ相電流aを所定量増幅し、オフセット加算したモータ電流信号bを出力するモータ電流検出アンプ部6、PWM信号Pを生成して出力するコントローラ7、およびPWM信号Pに基づき、インバータ2における3相交流電流の生成を制御するベースドライバ19で構成される。
【0023】
コンバータ3は、複数のダイオードからなる全波整流回路20、および平滑コンデンサ40で構成される。平滑コンデンサ40は、コンバータ3の母線間(接地配線と直流出力電圧Vdcを有する電源配線間)に接続され、本実施の形態では、その容量値が100μF以下のものを用いる。具体的には、コンバータ3の負荷側と接続されるインバータ2において、同期モータ1の回生エネルギーによる半導体素子(3相の縦積みスイッチングトランジスタ)の耐圧破壊を防止する観点から、容量値を10μF〜20μF程度にすることが望ましい。
【0024】
電流センサ5は、本実施の形態では、3相のモータ相電流のうちU相のモータ相電流を検出して出力している。電流センサ5の具体的な例として、コイルとホール素子で構成された、所謂、電流センサや、カレントトランス等がある。直流電圧センサ21は、全波整流回路20の出力電圧(コンバータ3の直流出力電圧Vdc)を検出して出力する。
【0025】
コントローラ7の構成について説明する。コントローラ7を構成する機能ブロックのうち、位相差検出部8、目標位相差情報格納部9、加算部10、PI演算部11(以上を、位相差制御部30、とする。)、正弦波データテーブル13、正弦波データ作成部14、PWM信号生成部15、および回転数設定部12の構成や機能は、特許文献1にて本願出願人が開示している。これら各機能ブロックの概要を以下に説明する。
【0026】
位相差検出部8は、2箇所のモータ駆動電圧位相期間毎にサンプリングした各電流サンプリングデータを積算してモータ電流信号面積とし、両モータ電流信号の面積比を位相差情報として出力する。目標位相差情報は、目標位相差情報格納部9に格納される。目標位相差情報と位相差情報との誤差データは加算部10により積算される。PI演算部11は、算出された誤差データに対して比例誤差データおよび積分誤差データを算出してデューティ基準値を出力する。
【0027】
回転数設定部12は、同期モータ1の回転数指令を設定し、正弦波データテーブル13は、所定のデータ個数で構成される正弦波データを含む。正弦波データ作成部14は、回転数指令と正弦波データに基づき、モータコイルU相/V相/W相の各電圧指令値を生成するとともに、U相の正弦波データからU相のモータ駆動電圧位相情報cを出力する。
【0028】
PWM信号生成部15は、正弦波データ作成部14が出力する各相の電圧指令値およびPI演算部11が出力するデューティ基準値に基づき、各相毎のPWM(Pulse Width Modulation)信号Pをベースドライバ19へ出力する。なお、モータ起動時は、各相へ強制的に通電して回転磁界を与える強制励磁を行い、通常駆動時は上記方法で回転数の制御を行う。
【0029】
次に、コントローラ7を構成する機能ブロックのうち、同期モータ1の加速制御を行う機能ブロックについて説明する。
【0030】
目標回転数設定部18は、回転数設定部12が出力する回転数指令に基づく回転速度で回転している同期モータ1に対し、その到達目標である目標回転数を設定する。回転数設定部12は、その目標回転数と同期モータ1の回転数とを比較して目標回転数となるようにその回転数を設定し、同期モータ1を徐々に加速または減速させる。加速禁止直流電圧設定部16は、同期モータ1を加速制御するに際し、その可否判断の基準となる加速禁止直流電圧dを設定する。
【0031】
加速判定部17は、加速禁止直流電圧dと直流出力電圧Vdcとの比較結果に基づき、加速禁止/許可信号eを出力して、回転数設定部12を制御する。直流出力電圧Vdcが加速禁止直流電圧d以下となる期間に亘り、加速判定部17は、回転数設定部12に対して加速禁止を指示する。直流出力電圧Vdcが加速禁止直流電圧dより大きい期間に亘り、加速判定部17は、回転数設定部12に対して加速許可を指示する。
【0032】
図2を参照して、本発明の実施の形態に係るモータ制御装置の動作を説明する。なお、図2は、各波形の時間的変化を概念的に示すものであり、横軸および縦軸は任意スケールである。
【0033】
図2(a)に、コンバータ3が出力する直流出力電圧Vdcの波形を示す。本発明の実施の形態では、コンバータ3が備える平滑コンデンサ40の容量は十分小さいため、全波整流回路20が生成する直流出力電圧Vdcには、大きなリプルが発生している。周波数50Hzの交流電源4がコンバータ3に入力されている場合、リプルは、10msの周期で、期間Ta、Tb、Tc、およびそれ以降も発生することになる。
【0034】
加速禁止直流電圧設定部16には、所定の値を有する加速禁止直流電圧dが設定される。この値は、加速中のモータ相電流振幅の変動が低減し、モータを安定して駆動できる値を予め実験して決定される。直流電圧センサ21で検出される直流出力電圧Vdcは、加速禁止直流電圧dと、時刻t11〜時刻t16の各時刻において等しくなるとする。
【0035】
図2(b)に、同期モータ1のモータ回転数の時刻変化を示す。加速開始時の時刻t11におけるモータ回転数はR1(2000rpm)であるとする。時刻t11〜時刻t12の期間(厳密に言えば、時刻t11と時刻t12とを除いた期間。)、直流出力電圧Vdcは加速禁止直流電圧dより大きくなっている。従って、加速判定部17は、回転数設定部12へ加速許可を指示する加速禁止/許可信号eを出力する。その信号を受けた回転数設定部12は、加速開始時の時刻t11における回転数R1を増加させる回転数指令を正弦波データ作成部14へ出力する。
【0036】
図2(b)では、モータ回転数を連続的に増加させているが、実際は、コントローラ7による制御周期により、回転数は離散的に設定される。例えば、制御周期を1ms、加速度を100rpm/s(1rpm/10ms)とすると、モータ回転数は、コントローラ7の制御周期1ms毎に0.1rpmの割合で加速される。
【0037】
時刻t12〜時刻t13の期間(加速禁止期間Th11)、直流出力電圧Vdcは加速禁止直流電圧d以下となるため、加速判定部17は、回転数設定部12へ加速禁止を指示する加速禁止/許可信号eを出力する。回転数設定部12は、時刻t12における回転数指令を維持し、同期モータ1の加速を禁止する。同様に、時刻t14〜時刻t15の期間(加速禁止期間Th12)も、加速判定部17により同期モータ1の加速が禁止される。
【0038】
時刻t13以降も同様に、加速判定部17は、直流出力電圧Vdcと加速禁止直流電圧dとの比較結果に基づき、回転数設定部12の制御を行う。この回転数設定部12によるモータ回転数の制御は、回転数設定部12が設定するモータ回転数と目標回転数設定部18が設定する目標回転数とが等しくなるまで行われる。
【0039】
図2(c)に、同期モータ1のU相のモータ相電流振幅を示す。加速期間中は加速トルクが必要になるため、モータ相電流振幅は増加している。一方、同期モータ1への印加電圧が不足する加速禁止期間中は、モータ回転数の加速を禁止しているため、モータ相電流振幅の増加や振動の増加が抑制されている。
【0040】
本発明の実施の形態に係るモータ駆動装置によれば、コンバータ3の直流出力電圧Vdcに大きなリプルが発生している条件においても、安定したモータ加速が実現できる。その結果、モータ加速時の振動や騒音を低減し、効率の悪化も低減できる。また、同期モータ1の出力を精度良く制御可能となる。
【0041】
<実施の形態の変形例>
図3を参照して、本発明の実施の形態の変形例に係るモータ制御装置のブロック図を説明する。
【0042】
図3の変形例に係るモータ制御装置は、図1のモータ制御装置に、モータ相電流振幅検出部22、加速禁止直流電圧更新部25、およびモータ相電流振幅目標値設定部24を追加した構成となっている。図3と図1で共通するブロック図の説明は、省略する。
【0043】
モータ相電流振幅検出部22は、モータ電流検出アンプ部6が出力するモータ電流信号bから360°毎に最大値を検出し、U相のモータ相電流振幅Iとして出力する。
【0044】
モータ相電流振幅目標値設定部24には、モータ相電流振幅目標値Iが設定される。このモータ相電流振幅設定値Iは、インバータ2の電流容量以下で同期モータ1が脱調することなく安定して駆動出来る値を、予め実験により決定する。
【0045】
加速禁止直流電圧更新部25は、加速禁止直流電圧設定部16に設定される加速禁止直流電圧dを、モータ相電流振幅目標値Iおよびモータ相電流振幅Iに基づき、直流出力電圧Vdcのリプル周期毎に更新し、加速禁止直流電圧設定部16へ出力する。
【0046】
図4を参照して、本発明の実施の形態の変形例に係るモータ制御装置の動作を説明する。なお、図4は、各波形の時間的変化を概念的に示すものであり、横軸および縦軸は任意スケールである。
【0047】
図4(a)に、コンバータ3が出力する直流出力電圧Vdcの波形を示す。本変形例も図2(a)と同様に、コンバータ3が備える平滑コンデンサ40の容量は十分小さいため、全波整流回路20が生成する直流出力電圧Vdcには、大きなリプルが発生している。周波数50Hzの交流電源4がコンバータ3に入力されている場合、リプルは、10msの周期で、期間Ta、Tb、Tc、およびそれ以降も発生することになる。
【0048】
加速禁止直流電圧設定部16には、期間Taに亘り、加速禁止直流電圧d1が設定される。直流電圧センサ21で検出される直流出力電圧Vdcは、加速禁止直流電圧d1と、時刻t21およびt22において等しくなるとする。
【0049】
図4(b)に、同期モータ1のモータ回転数の時刻変化を示す。加速開始時の時刻t21におけるモータ回転数はR1(2000rpm)であるとする。時刻t21〜t22の期間(厳密に言えば、時刻t21と時刻t22とを除いた期間。)、直流出力電圧Vdcは加速禁止直流電圧d1より大きくなっている。従って、加速判定部17は、回転数設定部12へ、加速許可を指示する加速禁止/許可信号eを出力する。その信号を受けた回転数設定部12は、加速開始時の時刻t21における回転数R1を増加させる回転数指令を正弦波データ作成部14へ出力する。
【0050】
時刻t22から、後述する時刻t23の期間に亘り、直流出力電圧Vdcは加速禁止直流電圧d1またはd2以下となるため、加速判定部17は、回転数設定部12へ加速禁止を指示する加速禁止/許可信号eを出力する。回転数設定部12は、時刻t22における回転数指令を維持し、同期モータ1の加速を禁止する。
【0051】
図4(b)では、モータ回転数を連続的に増加させているが、実際は、コントローラ7による制御周期により、回転数は離散的に設定される。例えば、制御周期を1ms、加速度を100rpm/s(1rpm/10ms)とすると、モータ回転数は、コントローラ7の制御周期1ms毎に0.1rpmの割合で加速される。
【0052】
図4(c)に、同期モータのU相のモータ相電流振幅を示す。加速期間中は加速トルクが必要となるため、モータ相電流振幅Iは、加速開始の時刻t21以前の値、更には、モータ相電流振幅目標値Iより大きくなる。モータ相電流振幅目標値Iおよび期間Taにおけるモータ相電流振幅Iに基づき、加速禁止直流電圧更新部25は、次の期間Tbにおける加速禁止直流電圧d2を更新する。
【0053】
図5および図4を参照して、加速禁止直流電圧更新部25における加速禁止直流電圧dの更新処理フローを説明する。
【0054】
図5は、加速禁止直流電圧更新部25による更新処理フローを示す。時刻t22に加速禁止期間Th21が始まると、モータ相電流振幅Iとモータ相電流振幅目標値Iとの大小比較を行う(ステップS1)。I>Iの場合(Y)は、その大小関係と差の絶対値に基づき加速禁止直流電圧d1に対する差分Δdを計算し(ステップS3)、期間Taにおける加速禁止直流電圧d1(d(old))に差分Δdを加算して、期間Tbにおける加速禁止直流電圧d2(=d1+Δd)を計算する(ステップS41)。
【0055】
ステップS1で、I>Iに該当しない(N)場合は、I<Iの判定を行う(ステップS2)。その条件に該当する(Y)場合は、その大小関係と差の絶対値に基づき加速禁止直流電圧d1に対する差分Δdを計算し(ステップS3)、期間Taにおける加速禁止直流電圧d1(d(old))から差分Δdを減算して、期間Tbにおける加速禁止直流電圧d2(=d1−Δd)を計算する(ステップS42)。なお、差分Δdの計算は、PI制御による演算が望ましい。
【0056】
ステップS2で、I<Iに該当しない(N)場合(I=I)は、差分Δdを計算せずに、期間Taにおける加速禁止直流電圧d1(d(old))を、期間Tbにおける加速禁止直流電圧d2とする。加速禁止直流電圧更新部25から出力される期間Tbにおける加速禁止直流電圧d2は、加速禁止直流電圧設定部16に設定される。この一連の更新処理フローは、図4(c)において、直流出力電圧Vdcが加速禁止直流電圧d1以下となる時刻t22に開始され、リプルが発生する期間Taから期間Tbに切り替わるまでに完了する。
【0057】
図4(a)に戻り、期間Tbにおける加速判定部17による同期モータ1の加速制御の動作を説明する。
【0058】
加速禁止直流電圧設定部16には、期間Tbの開始時刻までに、更新された加速禁止直流電圧d2が設定される。期間Taにおいて、I>Iであったため、d2はd1に差分Δd1を加算した値となる。期間Taにおいて直流出力電圧Vdcが加速禁止直流電圧d1以下となる時刻t22から、期間Tbにおいて直流出力電圧Vdcが加速禁止直流電圧d2以下である時刻t23までの期間(加速禁止期間Th21)に亘り、加速判定部17は、回転数設定部12へ加速禁止を指示する加速禁止/許可信号eを出力する。
【0059】
図4(c)の期間Taでは、モータ相電流振幅Iがモータ相電流振幅目標値Iを超えたため、期間Tbでは、加速禁止直流電圧d2を加速禁止直流電圧d1よりも大きく設定している。これにより、加速中のモータ相電流振幅Iは、モータ相電流振幅目標値I以下となっている。
【0060】
期間Tbでは、モータ相電流振幅Iがモータ相電流振幅目標値Iを下回ったため、期間Tcでは、加速禁止直流電圧d3を加速禁止直流電圧d2(期間Tb)よりも小さく設定している。これにより、期間Tcにおける加速中のモータ相電流振幅Iは、期間Tbにおけるモータ相電流振幅Iよりも、モータ相電流振幅目標値Iに近づくように制御される。上述の通り、加速禁止直流電圧の差分ΔdをPI制御演算することにより、加速中のモータ相電流振幅を、速やかにモータ相電流目標値Iに近づけることが可能となる。
【0061】
本発明の実施形態の変形例に係るモータ駆動装置によれば、コンバータ3の直流出力電圧Vdcに大きなリプルが発生する条件においても、モータの安定した加速が実現できる。その結果、加速中のモータが発生する振動や騒音を低減しつつ、すばやく目標回転数に到達可能となる。さらに、モータの出力を精度良く制御可能となる。
【0062】
また、本発明の実施形態およびその変形例に係るモータ駆動装置において、モータ相電流振幅の検出は、複数相のモータ相電流のうちU相に対して行っている。しかしながら、1相だけでなく、複数相のモータ相電流を検出することにより、モータの加速制御をより高精度に行うことが可能となる。また、コントローラ7を構成する各機能ブロックは、コントローラ内のプログラムで処理するように構成したが、特にその構成にこだわることなく、ハードウェアで同様の処理を行ってもよい。
【0063】
正弦波データの作成は、正弦波データテーブル13によらず、演算により作成してもよい。モータの駆動波形を正弦波とすることにより、滑らかなモータ電流の供給が可能となり、モータの振動や騒音が低減される。しかしながら、駆動波形を正弦波に限定せずに、モータロータの磁束に合わせたモータ電流が得られるような駆動波形を通電することにより、より効率的なモータ駆動が可能となる。
【0064】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0065】
1,100 同期モータ、2,150 インバータ、3,130 コンバータ、4,160 交流電源、5,180 電流センサ、6 モータ電流検出アンプ部、7,110 コントローラ、8 位相差検出部、9 目標位相差情報格納部、10 加算部、11 PI演算部、12 回転数設定部、13 正弦波データテーブル、14 正弦波データ作成部、15 PWM信号生成部、16 加速禁止直流電圧設定部、17 加速判定部、18 目標回転数設定部、19 ベースドライバ、20,120 全波整流回路、21 電流電圧センサ、22 モータ相電流振幅検出部、24 モータ相電流振幅目標値設定部、25 加速禁止直流電圧更新部、30 位相制御部、40,140 平滑コンデンサ、170 コイル、a モータ相電流、b モータ電流信号、c U相のモータ駆動電圧位相情報、d 加速禁止直流電圧、e 加速禁止/許可信号、P PWM信号、Vdc 直流出力電圧、I モータ相電流振幅、I モータ相電流振幅目標値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源を直流出力電圧に変換して出力するコンバータと、
前記直流出力電圧を複数相の交流電流に変換して出力し、前記複数相のコイルを備えたモータを駆動するインバータと、
前記直流出力電圧を検出する直流電圧センサと、
前記モータの所定の相に流れるモータ相電流を検出する電流センサと、
前記モータの回転数指令を設定する回転数設定部と、
前記回転数指令に基づき、前記インバータを制御するPWM信号を生成するPWM信号生成部と、
加速禁止直流電圧を設定する加速禁止直流電圧設定部と、
前記加速禁止直流電圧および前記直流出力電圧に基づき、前記モータの加速制御信号を生成する加速判定部と、
前記加速制御信号に基づき、前記回転数指令の変更が禁止される、モータ制御装置。
【請求項2】
前記直流出力電圧が前記加速禁止直流電圧以下となる加速禁止期間中は、前記回転数指令の変更が禁止される、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記モータの目標回転数を設定する目標回転数設定部を更に備え、
前記回転数指令は、前記モータの回転数が前記目標回転数に達するまで変更される、請求項1または請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記モータ相電流に基づき、モータ相電流振幅を検出するモータ相電流振幅検出部と、
モータ相電流振幅目標値を設定するモータ相電流振幅目標値設定部と、
前記モータ相電流振幅および前記モータ相電流振幅目標値に基づき、前記加速禁止直流電圧を更新する加速禁止直流電圧更新部を更に備える、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記加速禁止直流電圧更新部は、前記加速禁止期間に前記加速禁止直流電圧を更新する、請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
正弦波データを格納する正弦波データテーブルと、
前記回転数指令および前記正弦波データに基づき、電圧指令値を生成する正弦波データ作成部と、
前記電圧指令値と前記モータ相電流との位相差に基づき、PWMデューティー基準値を生成する位相差制御部、を更に備え、
前記PWM信号生成部は、前記電圧指令値に基づき前記PWM信号を生成する、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−74783(P2013−74783A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214742(P2011−214742)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】