説明

モータ用絶縁シート

【課題】 狭小な箇所に介装しやすく、且つクラックが生じ難いモータ用絶縁シートを提供することにある。
【解決手段】 3層以上の積層構造を有するモータ用絶縁シートであって、
一面側の表面層と、他面側の表面層と、これらの表面層の間に設けられる中間層とが備えられ、該中間層が、ポリエステルフィルムで構成されたポリエステル樹脂層であり、前記表面層のうち少なくとも一層が、ポリウレタン樹脂を含有するポリウレタン樹脂層であり、該ポリウレタン樹脂層が、ポリウレタン樹脂を含有する塗料が前記ポリエステル樹脂層に塗布されることにより形成された層であり、且つ前記ポリエステル樹脂層よりも低弾性率であることを特徴とするモータ用絶縁シートを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ用絶縁シートに関し、特には、回転電機のコアと巻線コイルとの間、又は巻線コイルどうしの間の絶縁等に好適に用い得るモータ用絶縁シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータやジェネレーターなどの回転電機などにおいてコアに巻き掛けられた状態で装着される巻線コイルとコアとの間、あるいは、相の異なる電流が流される巻線コイルどうしの間には、モータ用絶縁シート(以下、「絶縁シート」ともいう。)が介装されて絶縁信頼性を向上させることが行われている。
【0003】
ところで、絶縁シートは、通常、金属製の部材などの硬質な部材と接する状態で用いられるとともに狭小な箇所に介装された状態で用いられており、鋭角に折り曲げられた状態で用いられることが多いことから、特にこの折り曲げ部においてクラックが生じる虞を有している。このようなクラックが生じてしまうと、本来期待される絶縁性が発揮されなくなることから、絶縁シートは、クラックが生じ難いことが求められている。
また、絶縁シートは、狭小な箇所にも介装しやすいことが求められており、そのため、表面のすべり性を高めたり、厚みを小さくしたりすることが試みられている。
【0004】
例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)の両面に、繊維が用いられて形成された紙状シートを積層して作製された絶縁シートが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
斯かる絶縁シートは、PETフィルムにより高い絶縁性を有する。また、PETフィルム自体は、熱によって加水分解されることにより熱劣化し、モータの振動等によりクラックが生じてしまう虞があるが、斯かる絶縁シートは、PETフィルムの両面に前記紙状シートが積層されているため、該紙状シートにPETフィルムが保護されて熱劣化し難くなり、その結果クラックが生じ難いものとなる。さらに、表面部分が紙状シートで形成されているため、斯かる絶縁シートは、表面のすべり性が高く、狭小な箇所にも介装しやすいものとなっている。
【0006】
しかるに、斯かる絶縁シートは、厚みが大きいため、より狭小な箇所では介装し難い場合もある。
【0007】
斯かる観点から、PETフィルムの片面にのみ紙状シートが積層された絶縁シート(例えば、特許文献1)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−315398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、斯かる絶縁シートは、紙状シートが積層された面と反対側の面にPETフィルムが露出された状態となるため、PETフィルムが十分に保護されず、熱劣化によってクラックが生じてしまう虞がある。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑み、狭小な箇所に介装しやすく、且つクラックが生じ難いモータ用絶縁シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、3層以上の積層構造を有するモータ用絶縁シートであって、
一面側の表面層と、他面側の表面層と、これらの表面層の間に設けられる中間層とが備えられ、該中間層が、ポリエステルフィルムで構成されたポリエステル樹脂層であり、前記表面層のうち少なくとも一層が、ポリウレタン樹脂を含有するポリウレタン樹脂層であり、該ポリウレタン樹脂層が、ポリウレタン樹脂を含有する塗料が前記ポリエステル樹脂層に塗布されることにより形成された層であり、且つ前記ポリエステル樹脂層よりも低弾性率であることを特徴とするモータ用絶縁シートにある。
【0012】
斯かるモータ用絶縁シートによれば、前記中間層たるポリエステル樹脂層が、表面層の間に設けられていることにより、前記ポリエステル樹脂層が熱劣化してクラックが生じるのを抑制することができる。また、前記表面層のうち少なくとも一層が、前記ポリウレタン樹脂層であり、ポリウレタン樹脂を含有する塗料が前記ポリエステル樹脂層に塗布されることにより形成された層であることにより、斯かるモータ用絶縁シートは、厚みを小さくすることができ、狭小な箇所に介装しやすいものとなる。さらに、同じような塗料で形成される場合であっても、エポキシ樹脂のような高弾性率の樹脂が用いられたのでは、熱劣化時にわずかな応力によってもクラックを発生させてポリエステル樹脂層までをも共割れさせてしまう虞を有するが、本発明においては、前記ポリウレタン樹脂層が前記ポリエステル樹脂層よりも低弾性率であることにより、熱劣化後に応力が加えられてもクラックが生じるのを抑制することができる。
従って、斯かるモータ用絶縁シートは、狭小な箇所に介装しやすく、且つクラックが生じ難いものとなる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、狭小な箇所に介装しやすく、且つクラックが生じ難いモータ用絶縁シートを提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】一実施形態に係る絶縁シートの概略断面図。
【図2】実施例及び比較例の絶縁シートの熱への曝露時間に対する引張強度保持率を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の絶縁シート1は、4層の積層構造を有するモータ用絶縁シートである。
また、本実施形態の絶縁シート1は、ポリウレタン樹脂を含有するポリウレタン樹脂層たる一面側の表面層3と、繊維が用いられて形成された紙状シートたる他面側の表面層4とを備えてなる。なお、本明細書中における"紙状シート"との用語は、狭義の"紙"を意図するものではなく、いわゆる"不織布"などと呼ばれるものまでをも含む広義の意味で用いている。
さらに、本実施形態の絶縁シート1は、これらの表面層の間に、ポリエステルフィルムで構成されたポリエステル樹脂層たる中間層2を備えてなる。
また、本実施形態の絶縁シート1は、接着剤が含有された接着剤層5を備え、該接着剤層5を介して前記他面側の表面層4が前記中間層2に積層されている。
即ち、本実施形態の絶縁シート1は、3層以上の積層構造を有するモータ用絶縁シートであって、一面側の表面層3と、他面側の表面層4と、これらの表面層の間に設けられる中間層2とが備えられてなる。
【0017】
前記ポリエステル樹脂層2のポリエステルフィルムに含有されるポリエステル樹脂としては、例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂等が挙げられる。
該ポリエステルフィルムは、含有される樹脂成分に占める前記ポリエステル樹脂が、好ましくは29〜62質量%、より好ましくは56〜76質量%である。
【0018】
前記ポリエステル樹脂層2の厚みは、好ましくは16〜250μm、より好ましくは50〜125μmである。
【0019】
前記ポリウレタン樹脂層3は、ポリウレタン樹脂を含有する塗料が前記ポリエステル樹脂層2に塗布されることにより形成された層である。
また、該ポリウレタン樹脂層3は、前記ポリエステル樹脂層よりも低弾性率である。
なお、弾性率は、JIS K7161における"引張弾性率"の測定方法に準じて求めることができ、具体的には、幅15mm×長さ250mmの試料を作製し、チャック間180mmとなるように引っ張り試験機にセットして200mm/minの引張速度で引張り試験を実施し、得られる「引張応力−ひずみ曲線」の初めの直線部分を用いて、以下のようにして算出することができる。
弾性率 = Δσ/Δε
(ただし、「Δσ」は、「直線上の2点間の元の平均断面積による応力の差」であり、「Δε」は、「同じ2点間のひずみの差」である。ここで、Δεは、1%である。)
【0020】
前記ポリウレタン樹脂としては、脂肪族ポリウレタン樹脂及び芳香族ポリウレタン樹脂が挙げられる。前記脂肪族ポリウレタン樹脂としては、脂肪族ジイソシアネートと脂肪族ジオールとから製造されるもの等が挙げられる。前記芳香族ポリウレタン樹脂としては、芳香族ジイソシアネートと脂肪族ジオール若しくは芳香族ジオールとから製造されるもの、脂肪族ジイソシアネートと芳香族ジオールとから製造されるもの等が挙げられる。
【0021】
前記ポリウレタン樹脂層3の形成に用いられる塗料は、好ましくは少なくとも無機フィラー及びスリップ剤の何れかが含有されてなる。前記塗料に少なくとも無機フィラー及びスリップ剤の何れかが含有されてなることにより、本実施形態の絶縁シート1は、すべり性が優れたものとなり、狭小な箇所により一層介装しやすいものとなるという利点を有する。
【0022】
前記無機フィラーとしては、窒化ホウ素粒子、窒化アルミニウム粒子、窒化ケイ素粒子、窒化ガリウム粒子、酸化アルミニウム粒子、炭化ケイ素粒子、二酸化ケイ素粒子、ダイヤモンド粒子、含水珪酸マグネシウム粒子等が挙げられ、なかでも、含水珪酸マグネシウム粒子が好ましい。
該無機フィラーの粒径は、好ましくは、10nm〜100μmである。
前記塗料には、含有される樹脂成分100質量部に対して、前記無機フィラーが、好ましくは5〜60質量部、より好ましくは10〜30質量部含有されている。
【0023】
前記スリップ剤としては、ステアリン酸ブチル等の脂肪酸エステル類;エチレンビスステアリン酸アミド、オレイン酸アミド等の脂肪酸アミド類;ステアリン酸カルシウム、オレイン酸アルミニウム等の金属石けん類;パラフィンワックス等の高分子量炭化水素類;ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス等のポリオレフィンワックス類;ジメチルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、フルオロシリコーンオイル等のシリコーン類等が挙げられ、なかでも、脂肪酸アミドが好ましい。
前記塗料には、含有される樹脂成分100質量部に対して、前記スリップ剤が、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.5〜3質量部含有されている。
【0024】
前記ポリウレタン樹脂層3は、含有される樹脂成分に占める前記ポリウレタン樹脂が、好ましくは60〜95質量%、より好ましくは80〜95質量%である。
前記ポリウレタン樹脂層3の厚みは、好ましくは3〜30μm、より好ましくは5〜15μmである。
前記ポリウレタン樹脂層3の弾性率は、好ましくは20MPa以下、より好ましくは5〜15MPaである。該弾性率が20MPa以下であることにより、前記ポリウレタン樹脂層が低弾性となり、絶縁シート1にクラックがより一層生じ難くなるという利点を有する。
前記ポリウレタン樹脂層3の動摩擦係数は、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.1〜0.25である。なお、動摩擦係数は、JIS K 7125に従い、相手材料としてはステンレス鋼(SUS)を用いて測定した値を意味する。また、前記ポリウレタン樹脂層3の静摩擦係数は、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.1〜0.25である。なお、静摩擦係数は、JIS K 7125に従い、相手材料としてはステンレス鋼(SUS)を用いて測定した値を意味する。
【0025】
前記他面側の表面層(紙状シート)4の形成に用いられる繊維としては、芳香族ポリアミド繊維、ポリエーテルスルフィド繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、アリレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維などの有機繊維や、ガラス繊維、ロックウール、アスベスト、ボロン繊維、アルミナ繊維、カーボン繊維などの無機繊維が挙げられる。また、絹、木綿などの天然繊維や、セルロースなどの半合成繊維なども挙げられる。
なお、紙状シート4は、これらの繊維の内の1種類のみが用いられたものであっても良く、これらの内の複数種類のものが混抄されたものであってもよい。
なかでも、全芳香族ポリアミド樹脂繊維を主たる材料とした、いわゆる、"アラミド紙"などと呼ばれる紙状シートは、すべり性にも優れており好適である。
【0026】
このアラミド紙としては、フェニレンジアミンとフタル酸との縮合重合物のごとく、アミド基以外がベンゼン環で構成された樹脂材料からなる繊維(全芳香族ポリアミド繊維)を主たる構成材として形成されたシート状物を用いることができる。
このアラミド紙としては、厚みが、50〜250μmのものが絶縁シート1に高い機械的特性を付与することができるとともに折り曲げ加工された際の保形性に優れることなどから紙状シート4として好適に用いられうる。
【0027】
前記接着剤層5の形成に用いられる接着剤としては、ポリウレタン樹脂、エポキシエステル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等を主成分とするものが挙げられる。
該接着剤層5の形成にポリウレタン樹脂を用いる場合には、前記ポリウレタン樹脂層3の形成に用いるポリウレタン樹脂と同じものを用いてもよく、異なるものを用いてもよい。前記ポリウレタン樹脂層3の形成に用いるポリウレタン樹脂は、該接着剤層5の形成に用いるポリウレタン樹脂よりも、分子量が高いものが好ましく、また、結晶性が高いものが好ましい。
接着剤の塗布量としては、10〜20g/m2 が好ましい。塗布量が10g/m2 以上であることにより、十分な接合強度が得られるという利点がある。また、塗布量が20g/m2 以下であることにより、接着剤層を薄くすることができ、絶縁シートを狭小な箇所により介装しやすいものとすることができるという利点がある。
前記接着剤層5の厚みは、好ましくは5〜30μm、より好ましくは7〜15μmである。
【0028】
尚、本実施形態の絶縁シートは、上記構成に限定されず、適宜設計変更可能である。
【0029】
即ち、本実施形態の絶縁シートは、一面側の表面層のみがポリウレタン樹脂層3であるが、本発明の絶縁シートは、前記表面層の二層とも、ポリウレタン樹脂を含有する塗料が前記ポリエステル樹脂層に塗布されることにより形成されたポリウレタン樹脂層であってもよい。
【実施例】
【0030】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。
【0031】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(「PETフィルム」ともいう。)の片面に、ウレタン接着剤(ポリウレタン樹脂を有する接着剤)を介して、ポリフェニレンスルフィド繊維が用いられたシートを紙状シートとして貼り、ウレタン接着剤の溶剤を乾燥により揮発させて、ポリエステル樹脂層2、接着剤層5(15μm)、及び表面層4からなる3層構造のシートを得た。そして、該シートのPETフィルムのもう一方の面に、ポリウレタン樹脂及びスリップ剤としての脂肪酸アミドを含有する塗料(スリップ剤の含有量は、樹脂成分100質量部に対して1質量部である。)を塗布し、該塗料の溶剤を乾燥により揮発させて、ポリウレタン樹脂層3、ポリエステル樹脂層2(10μm)、接着剤層5、及び紙状シート4からなる4層構造の実施例1の絶縁シートを得た。
【0032】
(比較例1)
ポリウレタン樹脂を含有する塗料の代わりにエポキシ樹脂を含有する塗料を用いて、ポリウレタン樹脂層3の代わりにエポキシ樹脂層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、4層構造の比較例1の絶縁シートを得た。
【0033】
(比較例2)
ポリウレタン樹脂を含有する塗料を塗布しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、3層構造の比較例2の絶縁シート(PETのもう一方の面はPET剥き出し)を得た。
【0034】
(比較例3)
PETフィルムの片面に、ウレタン接着剤を介して、紙状シートとしての芳香族ポリアミド繊維を用いたシート「Dupont社製、商標名:ノーメックス」を貼り、ウレタン接着剤の溶剤を乾燥により揮発させて、ポリエステル樹脂層、接着剤層(15μm)、及び紙状シートからなる3層構造のシートを得た。そして、該シートのPETフィルムのもう一方の面に、ウレタン接着剤を介して、紙状シートとしての芳香族ポリアミド繊維を用いたシート「Dupont社製、商標名:ノーメックス」を貼り、ウレタン接着剤の溶剤を乾燥により揮発させて、紙状シート、接着剤層(15μm)、ポリエステル樹脂層、接着剤層(15μm)、及び紙状シートからなる5層構造の比較例3の絶縁シートを得た。
【0035】
<熱への曝露方法>
実施例1及び比較例1〜3の絶縁シートをそれぞれ試料サイズ15mm×250mmに切断して試料を得た。そして、該試料をSUS板にはりつけ、230℃に予め上げた乾燥機へ投入し、0時間、24時間、100時間、340時間熱に曝露した引張試験試料を得て、下記引張試験に供した。
【0036】
<引張強度保持率の測定・算出方法(引張試験)>
230℃下で所定時間熱に曝露させた引張試験試料をチャック間180mm、引張速度200mm/minで引張り、最大荷重を引張強度として読み取り、初期に対する残率(「保持率」、「強度保持率」或いは「引張強度保持率」ともいう。)を算出した。その結果を表1に示す。また、取り出し時間(「230℃耐熱試験時間」ともいう。)毎の保持率をプロットした図を図2に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
<摩擦係数の測定方法>
実施例1の絶縁シートのポリウレタン樹脂層3、比較例1の絶縁シートのエポキシ樹脂層、及び比較例3の絶縁シートの紙状シートの静摩擦係数及び動摩擦係数をJIS K 7125に準じて測定した。具体的には、東洋精機製の摩擦試験機TR−2、及びSUS製のスレッド(SUS板)200gを用い、試験速度100mm/minの条件下でSUSに対する静摩擦係数及び動摩擦係数を測定した。また、SUS製のスレッドの代わりにコイル線を用いて、コイル線に対する静摩擦係数及び動摩擦係数も測定した。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
<弾性率の測定方法>
熱への曝露前、及び熱への曝露後(230℃、100時間)の実施例1の絶縁シートのポリウレタン樹脂層の弾性率(引張弾性率)、JIS K7161における"引張弾性率"の測定方法に準じて求めた。具体的には、幅15mm×長さ250mmの試料を作製し、チャック間180mmとなるように引っ張り試験機にセットして200mm/minの引張速度で引張り試験を実施し、得られる「引張応力−ひずみ曲線」の初めの直線部分を用いて、以下のようにして算出した。
弾性率 = Δσ/Δε
(ただし、「Δσ」は、「直線上の2点間の元の平均断面積による応力の差」であり、「Δε」は、「同じ2点間のひずみの差」である。ここで、Δεは、1%である。)
また、熱への曝露前、及び熱への曝露後(230℃、100時間)の実施例1の絶縁シートのポリウレタン樹脂層の引張強さは、JIS K7161における"引張強さ"の測定方法に準じて求めた。
さらに、実施例1の絶縁シートのポリウレタン樹脂層と同様に、実施例1のポリエステル樹脂層、紙状シート、及び接着剤層、並びに比較例1のエポキシ樹脂層の弾性率(引張弾性率)に対しても弾性率(引張弾性率)並びに引張強さを測定した。結果を表3、4に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
表1、図2に示すように、本発明の範囲内である実施例1の絶縁シートは、ポリウレタン樹脂層の代わりにエポキシ樹脂層が積層された比較例1、ポリウレタン樹脂層がなくポリエチレン樹脂層の片面側が露出されている比較例2に比して、230℃の熱に曝露されたことによる引張強度保持率の低下が小さいことが確認された。また、ポリウレタン樹脂層の代わりに、紙状シートが接着剤を介してポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムに積層された比較例3と、230℃の熱に曝露されたことによる引張強度保持率の低下は同程度であることが確認された。
また、表2に示すように、実施例1の絶縁シートのポリウレタン樹脂層の静摩擦係数及び動摩擦係数は、比較例3の絶縁シートの紙状シートの静摩擦係数及び動摩擦係数よりも低いことが確認された。
さらに、表3に示すように、熱への曝露前の実施例1の絶縁シートのポリウレタン樹脂層の弾性率は11MPa、実施例1の絶縁シートのポリエステル樹脂層の弾性率は、4050MPa、比較例1の絶縁シートのエポキシ樹脂層の弾性率は、31MPaであることが確認された。
【符号の説明】
【0044】
1:絶縁シート、2:中間層(ポリエステル樹脂層)、3:一面側の表面層(ポリウレタン樹脂層)、4:他面側の表面層(紙状シート)、5:接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3層以上の積層構造を有するモータ用絶縁シートであって、
一面側の表面層と、他面側の表面層と、これらの表面層の間に設けられる中間層とが備えられ、該中間層が、ポリエステルフィルムで構成されたポリエステル樹脂層であり、前記表面層のうち少なくとも一層が、ポリウレタン樹脂を含有するポリウレタン樹脂層であり、該ポリウレタン樹脂層が、ポリウレタン樹脂を含有する塗料が前記ポリエステル樹脂層に塗布されることにより形成された層であり、前記ポリエステル樹脂層よりも低弾性率であることを特徴とするモータ用絶縁シート。
【請求項2】
前記表面層の一層が、ポリウレタン樹脂層であり、他の表面層が、繊維が用いられて形成された紙状シートで構成された紙状シート層であり、該紙状シート層が、接着剤により形成された接着剤層を介して前記ポリエステル樹脂層に積層されている請求項1記載のモータ用絶縁シート。
【請求項3】
前記ポリウレタン樹脂層の弾性率が20MPa以下である請求項1又は2記載のモータ用絶縁シート。
【請求項4】
前記塗料には、少なくとも無機フィラー及びスリップ剤の何れかが含有されている請求項1〜3の何れか1項に記載のモータ用絶縁シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−182910(P2012−182910A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44314(P2011−44314)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000190611)日東シンコー株式会社 (104)
【Fターム(参考)】