説明

モールドおよびその製造方法

【課題】高い精度で安定したパターン形成が可能であり、取扱い性にも優れたモールドと、その製造方法を提供する。
【解決手段】モールド1の一方の面をパターン形成用の凹凸構造領域2を有するパターン形成面1Aとし、他方の面をベース面1Bとし、少なくともパターン形成面1Aおよびベース面1Bにポリジメチルシロキサン層を備えたものとし、パターン形成面1Aに位置するポリジメチルシロキサン層3を、低分子量シロキサンを[−Si(CH32O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサンからなるもの、ベース面1Bに位置するポリジメチルシロキサン層4を、上記の低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサンからなるものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物に所望のパターン(線、模様等の図形)を形成するためのモールドとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、マスター版にポリジメチルシロキサン等の流動性のある材料を流し込み、そのまま硬化させることで微細な立体構造を有するモールドを作製し、このモールドを使用してマイクロコンタクトプリント法やインプリント法により、樹脂材料等の被加工物にマイクロ〜ナノオーダーの微細なパターンを形成するパターン形成方法が知られている(特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−353436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のようなモールドの作製では、マスター版から剥離したモールドが非常に柔らかいため、検査工程等の後工程における取扱いが難しいという問題があった。
この取扱い性の問題は、マスター版にポリジメチルシロキサン等の材料を流し込んだ後、材料に支持基板を押圧した状態で硬化させ、この支持基板上にモールドを形成することで解決できる。しかし、ポリジメチルシロキサン等の材料の硬化段階で支持基板との固着が生じ、モールドと支持基板との剥離が困難になるという問題があった。
また、従来のポリジメチルシロキサン等の材料を用いたモールドは、ガラス基板、石英基板、シリコン基板等のケイ素含有基板に当接保持してパターン形成を行う場合、あるいは、これらのケイ素含有基板上に載置して長時間保管する場合、ケイ素含有基板との固着を生じ、取扱い性、安定性に欠けるという問題もあった。
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたものであり、高い精度で安定したパターン形成が可能であり、取扱い性にも優れたモールドと、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的を達成するために、本発明のモールドは、一方の面がパターン形成用の凹凸構造領域を有するパターン形成面であり、他方の面がベース面であり、少なくとも前記パターン形成面および前記ベース面にポリジメチルシロキサン層を備え、前記パターン形成面に位置するポリジメチルシロキサン層は、低分子量シロキサンを[−Si(CH32O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサンからなり、前記ベース面に位置するポリジメチルシロキサン層は、前記低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサンからなるような構成とした。
本発明の他の態様として、前記ベース面に位置するポリジメチルシロキサン層の厚みは、0.005〜5mmの範囲であるような構成とした。
本発明の他の態様として、前記パターン形成面に位置するポリジメチルシロキサン層における水の接触角は、100°以上であるような構成とした。
【0006】
本発明のモールドの製造方法は、低分子量シロキサンを[−Si(CH32O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサンを支持基板上に塗布して、モールドのベース面を構成するためのポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成する工程と、該ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜上に、前記低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサンを供給し、該高含有率ポリジメチルシロキサンにマスター版を押し付けることにより、ベース面を構成するための前記ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜と該マスター版との間に、モールドのパターン形成面を構成するためのポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成する工程と、ベース面を構成するためのポリジメチルシロキサン層用の塗布膜およびパターン形成面を構成するためのポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を硬化させてモールドとし、該モールドのパターン形成面と前記マスター版とを離型する工程と、前記モールドのベース面と前記支持基板とを離型する工程と、を有するような構成とした。
【発明の効果】
【0007】
本発明のモールドは、パターン形成面に位置するポリジメチルシロキサン層が高含有率ポリジメチルシロキサンからなるので、マイクロコンタクトプリント法やインプリント法によるパターン形成に使用する樹脂材料等との離型性に優れ、高精度のパターン形成を安定して行うことが可能であり、また、ベース面に位置するポリジメチルシロキサン層が低含有率ポリジメチルシロキサンからなるので、ガラス基板、石英基板、シリコン基板等のケイ素含有基板に対する反応性が低く、これらの基板上にベース面を当接させてモールドを載置、保管しても固着発生が防止され、また、ケイ素含有基板にベース面を当接させた状態でモールドを保持してパターン形成を行う場合であっても、固着発生が防止され、取扱い性、安定性に優れている。
本発明のモールドの製造方法では、支持基板とマスター版との間でポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を硬化させてモールドとし、このモールドのパターン形成面側からマスター版を離型して、支持基板上にモールドを保持した状態とするので、モールド自体は非常に柔らかいものであっても、検査工程等の後工程における取扱いが容易であり、また、支持基板と接触しているモールドのベース面が低含有率ポリジメチルシロキサンからなるので、支持基板が不要となった後の工程においてモールドと支持基板との離型が容易であり、本発明のモールドを確実に製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のモールドの一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明のモールドの製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【図3】本発明のモールドを用いたインプリント法の一例を説明するための図面である。
【図4】本発明のモールドを用いたマイクロコンタクトプリント法の一例を説明するための図面である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
[モールド]
図1は、本発明のモールドの一実施形態を示す断面図である。図1において、本発明のモールド1は、一方の面がパターン形成用の凹凸構造領域2を有するパターン形成面1Aであり、他方の面がベース面1Bであり、少なくともパターン形成面1Aおよびベース面1Bにポリジメチルシロキサン層を備えるものであり、図示例では、パターン形成面1A側に位置するポリジメチルシロキサン層3と、ベース面1B側に位置するポリジメチルシロキサン層4との2層構造となっている。
【0010】
本発明は、低分子量シロキサンを[−Si(CH32O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造とし、このような低分子量のシロキサンが、高分子量のシロキサンよりも、ケイ素含有基材に対する反応性が大きいこと、および、低分子量のシロキサンの含有量によって、インプリント法やマイクロコンタクトプリント法によるパターン形成に使用する樹脂材料に対する離型性と、ケイ素含有基材に対する反応性を制御可能なことに着目したものである。そして、本発明では、パターン形成面1Aに位置するポリジメチルシロキサン層3は、上記の低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上、好ましくは5000〜30000ppmの範囲である高含有率ポリジメチルシロキサンからなっている。また、ベース面1Bに位置するポリジメチルシロキサン層4は、上記の低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下、好ましくは0〜500ppmの範囲である低含有率ポリジメチルシロキサンからなっている。尚、本発明における低分子量シロキサンの含有量は、アセトンで抽出した後、ガスクロマトグラフィーを用いて検出する方法により測定する。低分子量シロキサン、および、この低分子量シロキサンの含有量については、以下の本発明の説明においても同様である。
【0011】
モールド1のパターン形成面1Aに位置するポリジメチルシロキサン層3の低分子量シロキサンの含有量が2000ppm未満であると、パターン形成面1Aにおける水の接触角が100°未満となり、パターン形成に使用する樹脂材料に対する離型性が不十分となり、安定したパターン形成が難しくなるおそれがあり好ましくない。一方、モールド1のベース面1Bに位置するポリジメチルシロキサン層4の低分子量シロキサンの含有量が1000ppmを超えると、モールド1の製造工程、あるいは、モールド1の加工工程、保管状態において、ポリジメチルシロキサン層4(ベース面1B)が、当接する基板、例えば、ガラス基板、石英基板、シリコン基板等のケイ素を含有する基板との固着を生じるおそれがあり好ましくない。
尚、本発明では、水の接触角は、温度25℃、湿度30%、大気圧下でマイクロシリンジから対象物のパターンの存在しない部分(凹凸構造領域外)に水を滴下して30秒後に接触角測定器(協和界面科学(株)製 CA−Z型)を用いて測定した値とする。
【0012】
本発明のモールド1の厚みt1は、凹凸構造の形状、取り扱い適性等を考慮して設定することができ、例えば、0.5〜10mm、好ましくは0.7〜10mm程度の範囲で適宜設定することができる。モールド1の厚みt1が0.5mm未満であると、原料のポリジメチルシロキサンの粘度が高いので、製造工程で厚みが不均一となったり、製造のための支持基板からの剥離時に破断が生じ易く、製造が難しくなる。一方、モールド1の厚みt1が10mmを超えると、インプリント法やマイクロコンタクトプリント法によるパターン形成における精度低下を生じることがあり好ましくない。
また、モールド1のベース面1Bに位置するポリジメチルシロキサン層4の厚みt2は、0.005〜5mm、好ましくは0.05〜1mmの範囲とすることができる。ポリジメチルシロキサン層4の厚みt2が0.005mm未満であると、ポリジメチルシロキサン層4の一部に欠陥が生じ、モールド1のベース面1Bの全面を低含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層4で被覆できないおそれがある。一方、ポリジメチルシロキサン層4の厚みt2が5mmを超えると、ポリジメチルシロキサン層4により奏される効果の更なる向上が期待できないとともに、モールド1の製造コストが増大するので好ましくない。
【0013】
モールド1のパターン形成面1Aに位置するポリジメチルシロキサン層3の厚みは、モールド1の厚みt1、ベース面1Bに位置するポリジメチルシロキサン層4の厚みt2を上記の範囲で設定することにより決まるものであり、特に制限はない。また、上記の2層構造のモールド1は例示であり、本発明では、パターン形成面1Aに高含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層3が存在し、ベース面1Bに低含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層4が存在すればよく、したがって、ポリジメチルシロキサン層3とポリジメチルシロキサン層4との間には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、高含有率ポリジメチルシロキサンや低含有率ポリジメチルシロキサンとは異なる材料が存在するものであってもよい。なお、本明細書では説明の便宜上、ポリジメチルシロキサン層3とポリジメチルシロキサン層4とをそれぞれ「層」と区別しているが、本発明は図示の態様に限定して解釈されるものではない。本発明の一実施形態に係るモールドはポリジメチルシロキサン層3とポリジメチルシロキサン層4の境界が曖昧であり、「層」と認識することが困難な態様も包含する。
【0014】
このような本発明のモールド1は、パターン形成面1Aに位置するポリジメチルシロキサン層3が高含有率ポリジメチルシロキサンからなるので、マイクロコンタクトプリント法やインプリント法によるパターン形成に使用する樹脂材料等との離型性に優れ、高精度のパターン形成を安定して行うことが可能である。また、ベース面1Bに位置するポリジメチルシロキサン層4が低含有率ポリジメチルシロキサンからなるので、ガラス基板、石英基板、シリコン基板等のケイ素含有基板に対する反応性が低く、これらの基板上にベース面を当接させてモールドを載置、保管しても固着発生が防止され、また、ケイ素含有基板にベース面を当接させた状態でモールドを保持してパターン形成を行う場合であっても、固着発生が防止され、取扱い性、安定性に優れている。
上述の実施形態は例示であり、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0015】
[モールドの製造方法]
図2は、本発明のモールドの製造方法の一実施形態を示す工程図であり、図1に示されるモールド1を例としたものである。
図2において、まず、低含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層4を形成するための原料を支持基板11上に塗布して、塗布膜14を形成する(図2(A))。使用する原料は、低分子量シロキサンを[−Si(CH32O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、この低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下、好ましくは0〜500ppmの範囲にあるポリジメチルシロキサンである。支持基板11は、ガラス基板、石英基板、シリコン基板、金属基板等の剛性がある基板を使用することができ、塗布膜14を形成する面は、塗布膜14の厚みの均一性、後工程における積層体2との離型を考慮して、例えば、表面平均粗さRaが0.1μm以下の平坦面であることが好ましい。尚、表面平均粗さRaの測定は、AFM(原子間力顕微鏡)を使用して行うものとする。
【0016】
支持基板11上への塗布膜14の形成は、例えば、スピン塗布方法等により行うことができ、塗布膜14の厚みは、後工程で硬化して形成されるポリジメチルシロキサン層4の厚みが0.005〜5mm、好ましくは0.05〜1mmの範囲となるように適宜設定することができる。後工程で硬化して形成されるポリジメチルシロキサン層4の厚みが0.005mm未満となるような塗布膜14の厚みであると、形成されるポリジメチルシロキサン層4の一部に欠陥が生じ、後工程におけるモールド1と支持基板11との離型が困難になったり、モールド1の破断等が生じるおそれがある。一方、ポリジメチルシロキサン層4の厚みが5mmを超えるような塗布膜14の厚みであると、ポリジメチルシロキサン層4により奏される効果の更なる向上が期待できないとともに、モールド1の製造コストが増大するので好ましくない。
【0017】
次に、低含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層用の塗布膜14上に、高含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層3を形成するための原料13′を供給し(図2(B))、この原料13′にマスター版12を押し付けることにより、マスター版12と塗布膜14との間に高含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層用の塗布膜13を形成する(図2(C))。ここで使用する原料13′は、低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上、好ましくは5000〜30000ppmの範囲にあるポリジメチルシロキサンである。塗布膜14上へ原料13′の供給は、例えば、ディスペンサを使用して液滴として供給することができるが、これに限定されるものではない。塗布膜13の厚みは、形成されるモールド1の厚みが0.5〜10mm、好ましくは0.7〜10mmの範囲となるように適宜設定することができる。モールド1の厚みが0.5mm未満となるような塗布膜13の厚みであると、原料13′の粘度が高いので、塗布膜13の厚みが不均一となったり、支持基板11からのモールド1の剥離時に破断が生じ易く、製造が難しくなる。一方、モールド1の厚みが10mmを超えるような塗布膜13の厚みであると、例えば、インプリント法やマイクロコンタクトプリント法によるパターン形成における精度低下を生じることがあり好ましくない。
マスター版12は、ガラス、石英、シリコン、金属等の無機材料からなるものを使用することができ、また、樹脂材料からなるものであってもよい。
【0018】
次いで、高含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層用の塗布膜13および低含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層用の塗布膜14を硬化させ(図2(D))、その後、硬化物(モールド1)のポリジメチルシロキサン層3(パターン形成面1A)とマスター版12とを離型する(図2(E))。
次いで、モールド1のポリジメチルシロキサン層4(ベース面1B)と支持基板11とを離型する(図2(F))。これにより、本発明のモールド1が得られる。
【0019】
このような本発明のモールドの製造方法では、支持基板11とマスター版12との間でポリジメチルシロキサン層用の塗布膜13,14を硬化させてモールド1とし、このモールド1のパターン形成面1A側からマスター版12を離型して、支持基板11上にモールド1を保持した状態とするので、モールド1自体は非常に柔らかいものであっても、検査工程等の後工程における取扱いが容易である。また、支持基板11と接触しているモールド1のポリジメチルシロキサン層4(ベース面1B)が低含有率ポリジメチルシロキサンからなるので、支持基板11が不要となった後の工程においてモールド1と支持基板11との離型が容易であり、本発明のモールド1を確実に製造することが可能である。
上述の実施形態は例示であり、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、モールド1が、ポリジメチルシロキサン層3とポリジメチルシロキサン層4との間に、高含有率ポリジメチルシロキサンや低含有率ポリジメチルシロキサンとは異なる樹脂材料を備える場合、低含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層用の塗布膜14上に、所望の他の樹脂材料を供給して塗布膜を形成し、この塗布膜上に高含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層3を形成するための原料13′を供給してもよい。
【0020】
[モールドを用いたインプリント法]
次に、本発明のモールドを用いたインプリント法について、上述のモールド1を使用した例を、図3を参照しながら説明する。
モールド保持部材5によって吸引保持等の手段により保持されたモールド1のパターン形成面1Aと、このパターン形成面1Aの凹凸構造が転写される転写基板21とを対向するように配置する(図3(A))。転写基板21は、インプリントで一般的に用いられる基板を用いることができ、例えば、石英やソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス等のガラス、シリコンやガリウム砒素、窒化ガリウム等の半導体、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂基板、金属基板、あるいは、これらの材料の任意の組み合わせからなる複合材料基板であってよい。また、半導体やディスプレイ等に用いられる微細配線や、フォトニック結晶構造、光導波路、ホログラフィのような光学的構造等の所望のパターン構造物が形成された基板であってもよい。
【0021】
次に、モールド1または転写基板21に紫外線硬化性のインプリント用樹脂31′を供給した後、モールド1と転写基板21を近接させてパターン形成面1Aに存在する凹凸構造の微細な凹部内にインプリント用樹脂31′を充填する(図3(B))。
次いで、モールド1側又は転写基板21側から紫外線を照射してインプリント用樹脂31′を硬化させて樹脂層31を形成する(図3(C))。そして、硬化した樹脂層31とモールド1を引き離す(図)3(D)。以上により、モールド1が有する凹凸構造が反転した凹凸構造を有する樹脂層31が転写基板21に転写されパターン形成を行うことができる。
このようなインプリントにおいて、本発明のモールド1は、パターン形成面1Aが離型性に優れるため、硬化した樹脂層31との離型が容易であり、良好なパターン形成を行うことが可能となる。また、本発明のモールド1は、ベース面1Bが低含有率ポリジメチルシロキサンからなるので、モールド1を保持するモールド保持部材5がケイ素含有材料からなるものであっても、固着発生が防止され、所定回数のインプリントが終了した後、モールド1とモールド保持部材5との離間が容易であり、取扱い性に優れている。
尚、上記のインプリント法の例では、紫外線硬化性の樹脂を使用しているが、これに限定されるものではなく、熱硬化性の樹脂、溶融成形タイプの樹脂等を使用してもよく、また、樹脂以外の成形材料を使用することもできる。
【0022】
[モールドを用いたマイクロコンタクトプリント法]
次に、本発明のモールドを用いたマイクロコンタクトプリント法について、上述のモールド1を使用した例を、図4を参照しながら説明する。
まず、モールド保持部材5によって吸引保持等の手段により保持されたモールド1のパターン形成面1Aにある微細な凸部上にインク材料41を載置する(図4(A))。インク材料41として、例えば樹脂中に導電材料が分散された導電性材料を用いれば、電子デバイスの配線等のパターニングを行うことできる。また、インク材料41として、コラーゲン等の細胞接着性材料もしくはポリエチレングリコール等の細胞接着阻害性材料を用いれば、細胞パターン培養ツールにおける細胞接着領域や細胞接着阻害領域等のパターニングを行うことができる。
次に、モールド1のパターン形成面1Aと対向するように転写基板51を配置し、モールド1と転写基板51を近接させてインク材料41を転写基板51に当接させる(図4(B))。転写基板51はマイクロコンタクトプリントで一般的に用いられる基板を用いることができ、フレキシブル基板であってもよいし、リジッド基板であってもよい。
その後、モールド1と転写基板51を離間させると、インク材料41は転写基板51側に写し取られ、転写基板51上にインク材料41のパターンが形成される。
【0023】
このようなマイクロコンタクトプリントにおいて、本発明のモールド1は、パターン形成面1Aが離型性に優れるため、インク材料41との離型が容易であり、良好なパターン形成を行うことが可能となる。また、本発明のモールド1は、ベース面1Bが低含有率ポリジメチルシロキサンからなるので、モールド1を保持するモールド保持部材5がケイ素含有材料からなるものであっても、固着発生が防止され、所定回数のマイクロコンタクトプリントが終了した後、モールド1とモールド保持部材5との離間が容易であり、取扱い性に優れている。
【実施例】
【0024】
次に、実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
[実施例1]
支持基板として、厚み0.625mm、直径150mmのシリコン基板を準備した。この支持基板の表面平均粗さRaは0.001μmであった。尚、表面平均粗さRaの測定は、AFM(セイコーインスツル(株)製 L-Trace II)を使用して行った。
低含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層を形成するための原料Aに重合開始剤を混合した後、上記の支持基板上にスピンコート法で塗布して塗布膜Aを形成した。この原料Aは、低分子量シロキサンを[−Si(CH32O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときの低分子量シロキサンの含有量が1000ppmのポリジメチルシロキサンであった。また、塗布膜Aの厚みは、硬化して形成される低含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層の厚みが0.1mmとなるように設定した。
【0025】
次に、高含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層を形成するための原料Bに重合開始剤を混合した後、上記の塗布膜A上にディスペンサを使用して滴下(20g)した。この原料Bは、低分子量シロキサンの含有量が2000ppmのポリジメチルシロキサンであった。
次いで、供給した原料Bに、マスター版を押し付けることにより、マスター版と塗布膜Aとの間に、高含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層用の塗布膜Bを形成した。その後、塗布膜Aおよび塗布膜Bに対して硬化処理(150℃、30分間)を施して硬化物とし、この硬化物(モールド)とマスター版を離型し、その後、硬化物(モールド)と支持基板とを離型して、モールド(厚み1.5mm)を単独状態で得た。このモールドは、その凹凸構造領域に、高さ100nm、ライン/スペースが50nm/50nmの凹凸構造のパターンを備えるものであった。
【0026】
[実施例2]
高含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層を形成するための原料Bとして、低分子量シロキサンの含有量が7000ppmのポリジメチルシロキサンを使用した他は、実施例1と同様にして、モールドを作製した。
【0027】
[実施例3]
低含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層を形成するための原料Aとして、低分子量シロキサンの含有量が200ppmのポリジメチルシロキサンを使用した他は、実施例1と同様にして、モールドを作製した。
【0028】
[比較例1]
低含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層を形成するための原料Aとして、低分子量シロキサンの含有量が200ppmのポリジメチルシロキサンを使用し、高含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層を形成するための原料Bとして、低分子量シロキサンの含有量が1000ppmのポリジメチルシロキサンを使用した他は、実施例1と同様にして、モールドを作製した。
【0029】
[比較例2]
低含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層を形成するための原料Aとして、低分子量シロキサンの含有量が1500ppmのポリジメチルシロキサンを使用した他は、実施例1と同様にして、モールドを作製した。
【0030】
[比較例3]
低含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層を形成するための原料Aとして、低分子量シロキサンの含有量が1300ppmのポリジメチルシロキサンを使用し、高含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層を形成するための原料Bとして、低分子量シロキサンの含有量が1700ppmのポリジメチルシロキサンを使用した他は、実施例1と同様にして、モールドを作製した。
【0031】
[評 価]
(離型性)
上述のモールドの作製における支持基板からのモールドの離型を観察し、下記の基準で離型性を評価し、結果を下記の表1に示した。
(評価基準)
○ : 固着による支持基板へのモールドの残りなし
× : 固着による支持基板へのモールドの残りあり
【0032】
(安定性)
上述のように作製したモールドを、低含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層側(ベース面)が当接するようにシリコン基板上に載置して120日間維持し、その後、シリコン基板に対するモールドの固着発生の有無を観察し、結果を下記の表1に示した。
【0033】
(撥水性)
上述のように作製したモールドの高含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層側(パターン形成面)における水の接触角を測定し、結果を下記の表1に示した。尚、水の接触角は、温度25℃、湿度30%、大気圧下でマイクロシリンジからモールドに水を滴下して30秒後に接触角測定器(協和界面科学(株)製 CA−Z型)を用いて測定した。
【0034】
(インプリント適性)
上述のように作製したモールドを使用して、以下のようにパターン形成を行った。すなわち、厚み0.8mmのシリコン基板(水の接触角22°)上に、光硬化性樹脂(東洋合成工業(株)製 PAK−01)を滴下し、この光硬化性樹脂にモールドを押し当て、この状態でインプリント装置の照明光学系から平行光(ピーク波長が365nmの紫外線)をモールド側から照射して光硬化性樹脂を硬化させた。その後、硬化した樹脂層からモールドを引き離してインプリント転写を完了した。
このようにして形成されたパターンについて、欠陥率を下記のように測定し、インプリント適性を評価して、その結果を下記の表1に示した。
(欠陥率の測定)
形成されたパターン領域内を光学顕微鏡で5箇所観察し、一つの観察箇所(1.0mm×1.0mm)内で、樹脂層の剥がれや、パターン欠損が確認できた面積の割合を測定した。したがって、この欠陥率が大きい程、欠陥が多いことを意味し、本発明では、欠陥率が0.1未満を実用レベルとして、インプリント適性が良好と判定する。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
インプリント法、マイクロコンタクトプリント法によるパターン形成を行う種々の装置、部品、機器の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1…モールド
1A…パターン形成面
1B…ベース面
2…凹凸構造領域
3…高含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層
4…低含有率ポリジメチルシロキサンからなるポリジメチルシロキサン層
11…支持基板
12…マスター版
13,14…塗布膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面がパターン形成用の凹凸構造領域を有するパターン形成面であり、他方の面がベース面であり、少なくとも前記パターン形成面および前記ベース面にポリジメチルシロキサン層を備え、
前記パターン形成面に位置するポリジメチルシロキサン層は、低分子量シロキサンを[−Si(CH32O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサンからなり、前記ベース面に位置するポリジメチルシロキサン層は、前記低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサンからなることを特徴とするモールド。
【請求項2】
前記ベース面に位置するポリジメチルシロキサン層の厚みは、0.005〜5mmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載のモールド。
【請求項3】
前記パターン形成面に位置するポリジメチルシロキサン層における水の接触角は、100°以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモールド。
【請求項4】
低分子量シロキサンを[−Si(CH32O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサンを支持基板上に塗布して、モールドのベース面を構成するためのポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成する工程と、
該ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜上に、前記低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサンを供給し、該高含有率ポリジメチルシロキサンにマスター版を押し付けることにより、ベース面を構成するための前記ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜と該マスター版との間に、モールドのパターン形成面を構成するためのポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成する工程と、
ベース面を構成するためのポリジメチルシロキサン層用の塗布膜およびパターン形成面を構成するためのポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を硬化させてモールドとし、該モールドのパターン形成面と前記マスター版とを離型する工程と、
前記モールドのベース面と前記支持基板とを離型する工程と、を有することを特徴とするモールドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−183642(P2012−183642A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46130(P2011−46130)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】