説明

ラクトバチルス・ブレビス菌の培養方法

【課題】ラクトバチルス・ブレビス菌の効率的な培養方法、及び、食品、健康食品、栄養補助食品、栄養機能食品、特定保健用食品、医薬品、医薬部外品、飼料、ペットフード等の分野において利用できるラクトバチルス・ブレビス乾燥菌体粉末の製造方法を提案。
【解決手段】HLBが3以上15未満の多価アルコールオレイン酸エステルを含有する培地を用いてラクトバチルス・ブレビス菌を培養することにより、菌量が高まる。また、得られた菌体に、保護剤及び/又は賦形剤を加えて乾燥する、ラクトバチルス・ブレビス乾燥菌体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトバチルス・ブレビス菌の培養方法、および該培養方法によって得られるラクトバチルス・ブレビス乾燥菌体粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
ラクトバチルス・ブレビス菌は、有用な乳酸菌として注目されているもののひとつであり、優れた生理作用を有することが知られている。例えば、IgE抗体産生抑制剤及びIgE抗体産生抑制効果(特許文献1、非特許文献1)が知られている。更に特定のラクトバチルス・ブレビス菌に関しては、免疫機能助長剤(特許文献2)、NK活性の上昇効果(非特許文献2)や、アトピー性皮膚炎改善効果(非特許文献3)が知られている。この様に有用な生理作用を有するラクトバチルス・ブレビス菌を摂取することは、健康増進を目的とする上では極めて重要である。
【0003】
ところが、ラクトバチルス・ブレビス菌の培養に関しては、発酵物中の生菌数を高めることが難しいことが知られている。例えば、通常の乳単独を原料とした発酵を行った場合、菌の増殖は48時間で5倍程度に留まり発酵を十分に行うことが出来ないといわれている。
【0004】
一方、乳酸菌の培養に適するとされるMRS(DE MAN,ROGOSA,SHARPE)培地には、微量のポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンオレイン酸エステル,HLB=15.0)が配合されている。ポリソルベート類は、ソルビタン脂肪酸エステルにエチレンオキシドが約20分子縮合した界面活性剤であるが、この様なエチレンオキシド系界面活性剤の使用は、溶血性、粘膜刺激、粘膜欠損等の問題や、特有の嫌な味を有することから食品への利用が躊躇される場合がある。
【0005】
また、乳由来の原料を用いた乳酸菌の培養時に、乳酸菌の胃酸耐性を付与することを目的としてオレイン酸類を添加する方法が開示されている(特許文献3)。さらに、低脂肪乳の低オレイン酸量を補完する目的でオレイン酸を添加した低脂肪ヨーグルトの製造法が開示されているが、該方法では一定量を超えるオレイン酸類の添加は、逆に菌の増殖速度低下を招くとも記載されている(特許文献4)。
【0006】
ラクトバチルス・ブレビス菌などの乳酸菌をサプリメントとして効果的に摂取する為には、生理活性に必要な生菌濃度を有する固形物とすることが好ましいが、その際、乾燥などの加工時における菌体の死滅を防止しなければならない。例えば、生菌の効果的な乾燥方法として凍結乾燥法が知られており、ラクトバチルス・ブレビス菌以外の乳酸菌に関する安定化剤についての開示もされている(特許文献5〜7)。しかしながら、乳酸菌により凍結時の死滅原因が異なるため、安定化剤の組成は異なるものであり、ラクトバチルス・ブレビス菌に適した安定化剤については不明である。
【特許文献1】特開平9−2959
【特許文献2】特許第2051579号
【特許文献3】特公平6−61220
【特許文献4】特許第3650711号
【特許文献5】特公昭53−8793
【特許文献6】特開昭61−265085
【特許文献7】特許第3504365号
【非特許文献1】Int. J. Food Microbiol.、121(1)、1−10(2008)
【非特許文献2】生物工学会誌、85巻、第7号、321−324(2007)
【非特許文献3】Biol. Pharm. Bull.、31(5)、884−889(2008)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ラクトバチルス・ブレビス菌の培養時の菌量を高めることを目的とし、更には培養液を乾燥して得られる、ラクトバチルス・ブレビス菌を生菌として高含有する固形物の製造を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記実情に鑑み、本発明者らは鋭意研究を行った結果、特定のHLBを有する多価アルコールのオレイン酸エステルを含有する培地を用いて、ラクトバチルス・ブレビス菌を培養することで、培養時の菌量が高まること、更には該培養方法で得られた菌体に保護剤及び/又は賦形剤を加えて乾燥させることにより、生菌を高含有する固形物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち本発明は以下の通りである。
[1] HLBが3以上15未満の多価アルコールオレイン酸エステルを含有する培地で培養することを特徴とする、ラクトバチルス・ブレビス菌の培養方法。
[2] 多価アルコールオレイン酸エステルが、グリセリン、ポリグリセリン、ショ糖、ソルビタン、ソルビトールおよびプロピレングリコールからなる群より選択してなる1種以上の多価アルコールのオレイン酸エステルである[1]記載の培養方法。
[3] 多価アルコールオレイン酸エステルが、グリセリン及び/又はポリグリセリンのオレイン酸エステルである[1]または[2]記載の培養方法。
[4] 培地中の多価アルコールオレイン酸エステルの含有量が0.01〜1.0重量%である、[1]〜[3]いずれか記載の培養方法。
[5] 培養後の生菌数が1×10cfu/ml以上となる[1]〜[4]いずれか記載の培養方法。
[6] ラクトバチルス・ブレビス菌が、L.brevis kaneka−01(NITE P?558)株である[1]〜[5]いずれかの培養方法。
[7] [1]〜[6]いずれかの培養方法で得られる菌体に、保護剤及び/又は賦形剤を加えて乾燥することを特徴とする、ラクトバチルス・ブレビス乾燥菌体の製造方法。
[8] 保護剤が、アミノ酸、有機酸および糖類からなる群より選択してなる1種以上である、[7]記載の製造方法。
[9] 賦形剤が、澱粉、デキストリン、ゼラチンおよびアラビアガムからなる群より選択してなる1種以上である、[7]または[8]記載の製造方法。
[10] [7]〜[8]いずれか記載の製造方法によって得られるラクトバチルス・ブレビス乾燥菌体粉末。
[11] [10]記載の粉末を含有してなる食品、健康食品、栄養補助食品、栄養機能食品、特定保健用食品、医薬品、医薬部外品、飼料、ペットフード。
[12] [10]記載の粉末を加工してなる、錠剤、散剤、チュアブル錠、丸剤、ハードカプセル剤、ソフトカプセル剤。
[13] [1]〜[6]いずれか記載の培養方法で得られる菌体、または、[10]記載の粉末を含有する、抗アレルギー剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の培養方法は、ラクトバチルス・ブレビス菌の菌体量を高めることができる培養方法である。本発明の培養方法によって得られた菌体を乾燥することで、ラクトバチルス・ブレビス菌の生菌を高含有する粉末を得ることができる。本発明の培養方法によって得られたラクトバチルス・ブレビス菌体、またはその乾燥菌体粉末は、食品、健康食品、栄養補助食品、栄養機能食品、特定保健用食品、医薬品、医薬部外品、飼料、ペットフード等に利用でき、また抗アレルギー作用を示すことから抗アレルギー剤にも利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0012】
本発明の培養方法では、ラクトバチルス・ブレビス菌を、HLBが3以上15未満の多価アルコールオレイン酸エステルを含有する培地で培養することを特徴とする。
【0013】
本発明の培養方法の対象となるラクトバチルス・ブレビス菌は特に限定されず、分類上ラクトバチルス・ブレビスに属する乳酸菌のいずれにも適用できるが、好ましくは、ラクトバチルス・ブレビスFERM BP−4693株、または、L.brevis kaneka−01(NITE P−558)株などのLactobacillus brevis subsp. coagulans株である。L.brevis kaneka−01(NITE P−558)株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(郵便番号292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に2008年4月11日付、受託番号NITE P−558で寄託されているラクトバチルス・ブレビス菌である。これらラクトバチルス・ブレビス菌は、上記カルチャーセンター等より入手できるほか、市販のものなど一般に流通しているものを利用してもよいし、漬物などの食品から得ることも可能である。
【0014】
本発明の培養方法で用いられる多価アルコールオレイン酸エステルは、分子内に2個以上の水酸基を有する多価アルコールオレイン酸エステルであれば特に限定されず、例えば、グリセリン、ポリグリセリン、ショ糖、ソルビタン、ソルビトール、プロピレングリコール等の多価アルコールのオレイン酸エステルが好ましく、グリセリンまたはポリグリセリンのオレイン酸エステルがより好ましい。中でも、グリセリンの平均重合度が2〜10のポリグリセリンのオレイン酸エステルが最も好適である。
【0015】
但し、本発明においてはこの様な多価アルコールオレイン酸エステルのうち、HLB値が3以上15未満の多価アルコールオレイン酸エステルを使用する必要があり、好ましくはHLB値が7以上14未満の多価アルコールオレイン酸エステルを使用する。HLB値が3以下の場合は培地への混合性が悪いことから効果が得られにくく、また、HLBが15以上の場合にもラクトバチルス・ブレビス菌の菌量を効果的に高めることができない。本発明においては、多価アルコールオレイン酸エステルのHLB値が3以上であれば、オレイン酸のエステル化度は特に限定されず、モノエステル、ジエステル、トリエステル、或いはそれ以上であってもよいが、最も好ましくはモノエステルであり、当然ながらそれらの混合物であっても良い。そのような好ましい多価アルコールオレイン酸エステルの具体例として、例えば、ジグリセリンモノオレイン酸エステル、トリグリセリンモノオレイン酸エステル、テトラグリセリンモノオレイン酸エステル、ペンタグリセリンモノオレイン酸エステル、ヘキサグリセリンモノオレイン酸エステル、ヘプタグリセリンモノオレイン酸エステル、オクタグリセリンモノオレイン酸エステル、ノナグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステルが好ましい。
【0016】
本発明において、これらの多価アルコールオレイン酸エステルは1種又は2種以上組み合わせて使用することが出来る。また、HLB値が3以上15未満の多価アルコールオレイン酸エステルと、HLB値が3未満または15以上の多価アルコールオレイン酸エステルを組み合わせて使用してもよい。本発明における培地中の多価アルコールオレイン酸エステルの含有量は特に限定されないが0.01〜1.0重量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.01〜0.5重量%、更に好ましくは0.05〜0.2重量%である。添加量が0.01重量%未満では、十分にラクトバチルス・ブレビス菌の菌量を高めることが出来ないことがあり、1.0重量%を超えて添加しても菌量を高める効果は変わらない。
【0017】
本発明で使用するラクトバチルス・ブレビス菌を培養する際の多価アルコールオレイン酸エステル以外の培地成分としては、特に制限されない。用いる炭素源としては、例えば、グルコース、シュークロース、フラクトース、マンノース、マンニトール、キシロース、ガラクトース、ソルビトール、デキストリン等の糖類、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸等の有機酸、グリセリン、糖蜜等が挙げられる。
【0018】
窒素源としては、特に制限されないが、例えば、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、大麦エキス、プロエキス、大豆粉、コーン・スティープ・リカー、カゼイン、大豆粉、大豆分離タンパク質、グルテン等の天然有機窒素およびこれらの発酵生成物や酵素分解物、硝酸ナトリウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸のアンモニウム塩、フマル酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム等の有機酸のアンモニウム塩、尿素、アミノ酸類等が挙げられる。
【0019】
添加する有機塩や無機塩としては、例えば、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、鉄、マンガン、コバルト、亜鉛等の塩化物、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩及びリン酸塩を挙げることができる。具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、塩化コバルト、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、酢酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸水素一カリウム、リン酸水素二カリウム等が挙げられる。
【0020】
その他の微量要素として、各種ビタミン、たとえばチアミン、ニコチン酸、ビオチン、パントテン酸等を用いることができる。
【0021】
また、莢膜生産性を有するラクトバチルス・ブレビス菌を培養する場合には、培地由来の着色成分による着色を避ける為、予め脱色操作等により着色成分を除いた培地成分を用いることが好ましい。
【0022】
本発明の培養方法においては、上記HLBが3以上15未満の多価アルコールのオレイン酸エステルを含有する培地を用いる以外は培養条件としては特に限定されず、ラクトバチルスの培養において通常行われる条件を採用することができる。例えば、培養時の温度は20℃〜40℃の範囲であれば良く、特に25℃〜37℃が好ましい。また、培地のpHは、本菌株の増殖が良好である範囲に調製することが好ましく、通常pH3〜pH8、特に、pH4〜7の範囲で調整するのが好ましい。
【0023】
培地には、寒天等の固化成分を添加し固体培地として、本菌株を培養することもできるが、菌体の生産性の観点から液体培地で培養するのが好ましい。その際は、静置培養を行う事もできるが、適宜、撹拌し、培地成分が菌体による消費により局在しないようにすることが好ましい。この場合、過度の撹拌により菌体が凝集し、生育が抑制される場合がある為、弱撹拌が好ましい。また、撹拌により、培地中の溶存酸素が増加しない様にするため、培養槽内の気相部を窒素等の不活性ガスで置換しておくのも好ましい。
また、必要に応じ、上記炭素源、窒素源、有機塩、無機塩、微量元素を培養の途中で少しずつ添加する流加培養を行うこともできる。また、当然の事ながら、これらの培地成分を培養途中で添加しながら、生成した菌体を連続的に取得する連続培養を実施し得る。
培養時間は菌の増殖度の違いにより、一律ではないが、普通、12時間〜72時間、好ましくは、20時間〜48時間である。
【0024】
本発明の培養方法においては、有用な乳酸菌を効率よく生産し、さらにはその後の加工工程において生菌濃度の高い乾燥菌体を得るという目的から、培養終了時の生菌数としては、1×10cfu/ml以上であることが好ましく、更に好ましくは1×10cfu/ml以上、最も好ましくは1×10cfu/ml以上である。培養後の生菌数が1×10cfu/ml未満では、それを加工して得られる乾燥菌体中の生菌濃度が低く、十分な摂取効果を期待できる乾燥菌体を得るためには膨大な培養液を必要とする。
【0025】
本発明においては、本発明の培養方法により得られた菌体に、保護剤及び/又は賦形剤を加えて公知の方法により乾燥させることで、ラクトバチルス・ブレビス乾燥菌体を製造することができる。この場合、培養後の培養液を直接乾燥して粉末化しても良く、菌体を分離・洗浄した後にそれを乾燥して粉末化しても良い。乾燥方法は特に限定されないが、噴霧乾燥、凍結乾燥等の方法が例示され、乾燥工程でのラクトバチルス・ブレビス菌の生存率を高めるためには凍結乾燥が好ましい。本発明においては、乾燥時に、各種保護剤を添加することで乾燥時の生存率を更に高めることが可能である。この様な保護剤としては、例えば、アミノ酸、有機酸、糖類等、ビタミン、無機塩などが好ましい。具体的には、アミノ酸としては、グルタミン酸ナトリウム、ヒスチジン、アルギニン、アラニン、システイン等が、有機酸としては、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、コハク酸等が、糖類としては、ショ糖、トレハロース、グルコース、マルトース等が、ビタミンとしては、ビタミンCやそのエステル体が、無機塩としては、硫酸マグネシウムなどが挙げられる。上記保護剤は、単独で用いることも可能であるが、これら複数を組み合わせて用いることが好ましく、アミノ酸、有機酸、糖類を各々1種類以上組み合わせることが更に好ましい。また、これらを複数含む天然物、例えば脱脂粉乳等でも可能である。
【0026】
更には、乾燥時に賦形剤を添加することで得られる乾燥菌体の粉体特性を向上させることも可能である。この様な賦形剤としては特に限定ざれず、例えば、澱粉、デキストリン、ゼラチン等が挙げられる。また、上記賦形剤と保護剤は併用してもよいし、どちらかのみを使用してもよい。
【0027】
上記本発明の製造方法によって得られるラクトバチルス・ブレビス乾燥菌体粉末は、そのまま、或いは加工して食品、健康食品、栄養補助食品、栄養機能食品、特定保健用食品、医薬品、医薬部外品、飼料、ペットフード等に使用できる。また、その加工形態としては、錠剤、散剤、チュアブル錠、丸剤、ハードカプセル剤、ソフトカプセル剤等が挙げられるが、特に錠剤、チュアブル錠、ハードカプセル剤が好ましい。
【0028】
また、本発明の培養方法によって得られるラクトバチルス・ブレビス菌体、およびその乾燥菌体粉末は、優れた抗アレルギー作用を有することから、抗アレルギー剤の有効成分として用いることができる。ラクトバチルス・ブレビス菌体は、食経験が豊富であり副作用がなく安全性が高い。したがって、ラクトバチルス・ブレビス菌体、またはその乾燥菌体粉末を含有する抗アレルギー剤は、アトピー性皮膚炎、花粉症、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、蕁麻疹などのアレルギー疾患症状や、アレルギー反応に由来する炎症を、改善、抑制、予防するための医薬品として用いられるだけでなく、特定保健用食品、健康食品などの飲食品として日常的に用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限を受けるものではない。
【0030】
(実施例1)
たん白加水分解物(播州調味料製;プロエキスA−12P)1.0重量%、肉エキス(理研ビタミン製;肉エキスA−25)1.0重量%、酵母エキス(アサヒフードアンドヘルスケア製;ミーストパウダーN)0.5重量%、含水ブドウ糖(サンエイ糖化製;TDH)2.0重量%、リン酸水素2カリウム(太平化学産業製)0.2重量%、無水酢酸ナトリウム(日本合成化学工業製)0.5重量%、クエン酸(扶桑化学工業製)0.2重量%、硫酸マグネシウム(赤穂化成製)0.2重量%を含有する培地を用い、30℃で24時間、L.brevis kaneka−01(NITE P−558)株を培養し、種培養液を得た。次に、得られた種培養液0.5mLを、たん白加水分解物(播州調味料製;プロエキスA−12P)1.0重量%、肉エキス(理研ビタミン製;肉エキスA−25)1.0重量%、酵母エキス(アサヒフードアンドヘルスケア製;ミーストパウダーN)0.5重量%、含水ブドウ糖(サンエイ糖化製;TDH)2.0重量%、デカグリセリンモノオレイン酸エステル(阪本薬品工業製;SYグリスターMO−7S,HLB=12.9)0.1重量%、リン酸水素2カリウム(太平化学産業製)0.2重量%、無水酢酸ナトリウム(日本合成化学工業製)0.5重量%、クエン酸(扶桑化学工業製)0.2重量%、硫酸マグネシウム(赤穂化成製)0.2重量%を含有する培地50mLに接種し、30℃で24時間、ラクトバチルス・ブレビスNITE P−558株の静置培養を行った。静置培養では、100mL容の三角フラスコを用いた。静置培養終了時の生菌数は、4.5×10cfu/ml培養液、菌体重量は0.27mg/ml培養液であった。
【0031】
(実施例2)
デカグリセリンモノオレイン酸エステルの代わりにデカグリセリンモノオレイン酸エステル(理研ビタミン製;ポエムJ−0381V,HLB=12.0)を同濃度用いる以外は、実施例1と同様の培地組成及び培養条件で培養を行った。培養終了時の生菌数は、5.5×10cfu/ml培養液、菌体重量は0.26mg/ml培養液であった。
【0032】
(実施例3)
デカグリセリンモノオレイン酸エステルの代わりにジグリセリンモノオレイン酸エステル(理研ビタミン製;ポエムDO−100V,HLB=8.0)を同濃度用いる以外は、実施例1と同様の培地組成及び培養条件で培養を行った。培養終了時の生菌数は、5.0×10cfu/ml培養液、菌体重量は0.23mg/ml培養液であった。
【0033】
(比較例1)
デカグリセリンモノオレイン酸エステルの代わりにポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル(MP Biomedicals,Inc.製;TWEEN80,HLB=15.0)を同濃度用いる以外は、実施例1と同様の培地組成及び培養条件で培養を行った。培養終了時の生菌数は、4.3×10cfu/ml培養液、菌体重量は0.18mg/ml培養液であった。
【0034】
上記、実施例1〜3および比較例1の結果から、培地中に添加される多価アルコールオレイン酸エステルのHLBが培養後の生菌数等に影響を与えること、特に多価アルコールオレイン酸エステルとしてHLBが15未満のポリグリセリンモノオレイン酸エステル使用した場合に、生菌数、菌体重量とも向上することがわかる。
【0035】
(実施例4)
発酵エキス(大麦発酵研究所製;バーレックス60)3.8重量%、肉エキス(理研ビタミン製;肉エキスA−25)0.5重量%、ブドウ糖(サンエイ糖化製)2.0重量%、デカグリセリンモノオレイン酸エステル(阪本薬品工業製;SYグリスターMO−7S,HLB=12.9)0.1重量%、リン酸水素2カリウム(太平化学産業製)0.2重量%、無水酢酸ナトリウム(日本合成化学工業製)0.5重量%、クエン酸(扶桑化学工業製)0.2重量%、硫酸マグネシウム(赤穂化成製)0.2重量%を含有する培地を用い、30℃で48時間、L.brevis kaneka−01(NITE P−558)株の撹拌培養を行った。撹拌培養は3000ml容撹拌槽を用い、上記の培地1600mlに、実施例1と同じ種培養液を32ml(2%)植菌して、撹拌速度100rpmで行った。培養終了時の生菌数は、4.3×10cfu/ml培養液であった。
【0036】
(実施例5)
実施例4で得られた培養液100mlを、遠心分離して50倍に濃縮した後、デキストリン(松谷化学社製;パインデックス#1)400mg、ショ糖8mg、トレハロース4mg、グルタミン酸ナトリウム4mg、ヒスチジン4mg、リンゴ酸4mgを加えて凍結乾燥を行った。乾燥後の粉末中に含まれる生菌数は、2.6×1010cfu/g(生存率41.3%)であった。
【0037】
(実施例6)
実施例4で得られた培養液100mlを、遠心分離して50倍濃縮した後、デキストリン400mg、ショ糖4mg、グルタミン酸ナトリウム4mgを加えて凍結乾燥を行った。乾燥後の粉末中に含まれる生菌数は、1.6×1010cfu/g(生存率23.7%)であった。
【0038】
(実施例7)
実施例4で得られた培養液100mlを、遠心分離して50倍に濃縮した後、デキストリン400mg、ショ糖8mg、グルタミン酸ナトリウム4mg、リンゴ酸4mgを加えて凍結乾燥を行った。乾燥後の粉末中に含まれる生菌数は、2.1×1010cfu/g(生存率32.8%)であった。
【0039】
(実施例8)
実施例4で得られた培養液100mlを、遠心分離して50倍に濃縮した後、デキストリン400mg、ショ糖8mg、トレハロース4mg、グルタミン酸ナトリウム4mg、ヒスチジン4mgを加えて凍結乾燥を行った。乾燥後の粉末中に含まれる生菌数は、2.0×1010cfu/g(生存率31.0%)であった。
【0040】
(実施例9)
実施例4で得られた培養液100mlを、遠心分離して50倍に濃縮した後、デキストリン400mgを加えて凍結乾燥を行った。乾燥後の粉末中に含まれる生菌数は、1.1×1010 cfu/g(生存率17.2%)であった。
【0041】
(実施例10)
以下の方法で、本発明の培養方法で得られたラクトバチルス・ブレビス菌体の抗アレルギー活性を測定した。
【0042】
まず、実施例1、実施例3および実施例4の培養終了時の培養液を、それぞれ遠心分離し、回収した菌体を生理食塩水で2回洗浄後、凍結乾燥した。凍結乾燥した菌体を、5mg/mLとなるよう蒸留水に懸濁したのち、100℃で15分加熱殺菌し、これをサンプル懸濁原液とした。
【0043】
BALB/cマウス(雌、6週齢、日本チャールスリバー)に、オボアルブミン(シグマ製)と水酸化アルミニウムゲル(和光純薬製)混合した液を腹腔内投与した。この6日後に、同様の腹腔内投与を行った。こうしてBALB/cマウスの免疫のバランスを、Th2細胞が優位であるアレルギー状態になるようにした。2回目の腹腔内投与の7日後にマウスから脾臓を摘出し、T細胞、B細胞、マクロファージなどの免疫系の細胞よりなる脾細胞を調製した。
【0044】
調製した脾細胞は、10%ウシ血清、50μM2-メルカプトエタノール、2mML-グルタミン酸、50units/mLペニシリンGナトリウム、50μg/mL硫酸ストレプトマイシン、0.2mg/mLオボアルブミンを含むRPMI1640培地に懸濁し、2×10の6乗cells/mLとなるようにし、24ウェルの細胞培養プレートに1ウェルあたり1mLずつまきこんだ。
【0045】
細胞をまいたプレートのウェルに、上記実施例1、実施例3、実施例4の各サンプル懸濁原液を、菌体濃度が終濃度10μg/mLとなるよう、2μlずつ添加した。コントロールとしてはサンプル懸濁原液の代わりに蒸留水を2μl添加した群を設けた。サンプル添加後、7日間培養した後、培養上清を回収し、培養上清中に含まれるIL-4およびIL-12の濃度を、測定キット(R&D Systems社製)を用いて測定した。その結果を表1に示す。
【0046】

【表1】


表1から明らかなように、実施例1、実施例3、実施例4で得られたラクトバチルス・ブレビス菌体の添加により、Th2細胞が優位になっている状態のBALB/cマウスの脾細胞に対し、Th2細胞を活性化させるIL−4の産生が抑制され、かつ、Th1細胞を活性化させるIL-12の産生が促進されたことから、本発明の培養方法で得られたラクトバチルス・ブレビス菌体の抗アレルギー活性が確認できた。
【0047】

(実施例11)
実施例5で得られた粉末を8.3mg/mLとなるよう生理食塩水に懸濁し、BALB/cマウスに、1日1回(毎日午前9時に実施)、マウス用プラスチック製経口ゾンデを用い、1匹あたり0.25mL投与した。陰性対照群には生理食塩水0.25mLを投与した。投与は4週間行い、投与終了時に採血し、血清中のIgG1濃度、IgG2a濃度を測定キット(BETHYL社製)にて測定した。その結果を表2に示す。
【0048】

【表2】


表2から明らかなように、実施例5で得られたラクトバチルス・ブレビス菌体の投与により、Th2細胞が抑制され、かつ、Th1細胞が活性化されたことから、本発明の製造方法で得られるラクトバチルス・ブレビス乾燥菌体粉末の抗アレルギー活性が確認できた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLBが3以上15未満の多価アルコールオレイン酸エステルを含有する培地で培養することを特徴とする、ラクトバチルス・ブレビス菌の培養方法。
【請求項2】
多価アルコールオレイン酸エステルが、グリセリン、ポリグリセリン、ショ糖、ソルビタン、ソルビトールおよびプロピレングリコールからなる群より選択してなる1種以上の多価アルコールのオレイン酸エステルである請求項1記載の培養方法。
【請求項3】
多価アルコールオレイン酸エステルが、グリセリン及び/又はポリグリセリンのオレイン酸エステルである請求項1または2記載の培養方法。
【請求項4】
培地中の多価アルコールオレイン酸エステルの含有量が0.01〜1.0重量%である、請求項1〜3いずれか1項記載の培養方法。
【請求項5】
培養後の生菌数が1×10cfu/ml以上となる請求項1〜4いずれか1項記載の培養方法。
【請求項6】
ラクトバチルス・ブレビス菌が、L.brevis kaneka−01(NITE P?558)株である請求項1〜5いずれか1項の培養方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項記載の培養方法で得られる菌体に、保護剤及び/又は賦形剤を加えて乾燥することを特徴とする、ラクトバチルス・ブレビス乾燥菌体の製造方法。
【請求項8】
保護剤が、アミノ酸、有機酸および糖類からなる群より選択してなる1種以上である、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
賦形剤が、澱粉、デキストリン、ゼラチンおよびアラビアガムからなる群より選択してなる1種以上である、請求項7または8記載の製造方法。
【請求項10】
請求項7〜8いずれか1項記載の製造方法によって得られるラクトバチルス・ブレビス乾燥菌体粉末。
【請求項11】
請求項10記載の粉末を含有してなる食品、健康食品、栄養補助食品、栄養機能食品、特定保健用食品、医薬品、医薬部外品、飼料、ペットフード。
【請求項12】
請求項10記載の粉末を加工してなる、錠剤、散剤、チュアブル錠、丸剤、ハードカプセル剤、ソフトカプセル剤。
【請求項13】
請求項1〜6いずれか1項記載の培養方法で得られる菌体、または、請求項10記載の粉末を含有する抗アレルギー剤。

【公開番号】特開2010−4787(P2010−4787A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166691(P2008−166691)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】