説明

ラック軸

【課題】 ラック軸において、ラック歯とボールねじ部のそれぞれに適する材料を選択して採用でき、しかもラック歯を備える部分とボールねじ部を備える部分の同軸度を確保すること。
【解決手段】 ラック歯20Aとボールねじ部20Bを備えるラック軸20において、ラック軸本体21の一部にラック歯20Aが形成され、ラック軸本体21の他の部分に挿着されて固定された中空体22にボールねじ部20Bが形成されてなるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動パワーステアリング装置等に用いて好適なラック軸に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置に用いられるラック軸1として、図4に記載の如く、ラック軸本体にラック歯1Aを形成し、更にボールねじ部1Bを形成してなるものがある。運転者によって操舵されるステアリング軸により回転されるピニオンをラック歯1Aに噛合いさせてラック軸1を左右に直線移動させるとともに、電動モータにより回転されるナットをボールねじ部1Bに噛合いさせてラック軸1を左右に直線移動させて操舵アシストするものである。
【0003】
特許文献1では、ステアリング用ラック軸において、第1パイプ素材にラック歯を形成するとともに、第1パイプ素材と異なる第2パイプ素材にねじ部を形成し、第1パイプ素材と第2パイプ素材の一方の端部に設けた凸部と、他方の端部に設けた凹部を嵌合させてからかしめ又は溶接により接合するものを開示している。
【特許文献1】特許第3739450号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図4に示した従来技術では、ラック歯1Aとボールねじ部1Bを単一素材からなるラック軸1に形成しており、ラック歯1Aに要求される材料特性(例えば高靭性)とボールねじ部1Bに要求される他の材料特性(例えば高硬度)を一挙に満足することができない。
【0005】
特許文献1に記載のラック軸では、ラック歯を備えた部分(第1パイプ素材)とねじ部を備えた部分(第2パイプ素材)の同軸度の確保に困難がある。
【0006】
本発明の課題は、ラック軸において、ラック歯とボールねじ部のそれぞれに適する材料を選択して採用でき、しかもラック歯を備える部分とボールねじ部を備える部分の同軸度を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、ラック歯とボールねじ部を備えるラック軸において、ラック軸本体の一部にラック歯が形成され、ラック軸本体の他の部分に挿着されて固定された中空体にボールねじ部が形成されてなるようにしたものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の発明において更に、前記ラック歯が形成されるラック軸本体を高靭性材料からなるものにするとともに、ボールねじ部が形成される中空体を高硬度材料からなるようにしたものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において更に、前記ラック歯が形成されるラック軸本体をパイプ材からなるようにしたものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載のラック軸の製造方法であって、ラック軸本体の一部にラック歯を形成し、ラック軸本体の他の部分に中空体を挿着して固定し、ラック軸本体に固定された中空体にボールねじ部を形成するようにしたものである。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載のラック軸を用いた電動パワーステアリング装置であって、ステアリング軸により回転されるピニオンをラック歯に噛合いさせるとともに、電動モータにより回転されるナットをボールねじ部に噛合いさせてなるようにしたものである。
【発明の効果】
【0012】
(請求項1)
(a)ラック軸が、ラック歯が形成されるラック軸本体と、ボールねじ部が形成される中空体の組合せからなるものにされた。従って、ラック歯とボールねじ部のそれぞれに適する材料を選択して採用できる。
【0013】
(b)ラック軸において、ラック歯が形成されるラック軸本体に、ボールねじ部が形成される中空体を挿着して固定したから、両者の同軸度を容易に確保できる。中空体の外周の全長に渡りボールねじ部を転造等して形成することにより、不完全ねじ部を短縮でき、加工時間も短縮できる。
【0014】
(請求項2)
(c)前述(a)に関し、ラック軸本体を高靭性材料からなるものにしてラック歯に高靭性を付与し、かつ中空体を高硬度材料からなるものにしてボールねじ部に高硬度を付与できる。
【0015】
(請求項3)
(d)ラック軸において、ラック歯が形成されるラック軸本体をパイプ材からなるものにすることにより、ラック軸を軽量化できる。
【0016】
(請求項4)
(e)ラック軸の製造過程で、ラック軸本体に挿着して固定された中空体にボールねじ部を転造等により形成することにより、ラック軸本体の例えば両端部を転造機等の加工機による加工のために保持される部分とし、中空体自体を保持することなく、該中空体の全長を有効にねじ加工できる。
【0017】
(請求項5)
(f)電動パワーステアリング装置において、上述(a)〜(e)のラック軸を適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は電動パワーステアリング装置を示す模式図、図2は本発明のラック軸を示す模式図、図3は本発明の他のラック軸を示す模式図、図4は従来例のラック軸を示す模式図である。
【実施例】
【0019】
本発明のラック軸が適用される電動パワーステアリング装置10は、例えば図1に示す如く、ハウジング11を有し、ステアリングホイールが連結されるステアリング軸12にトーションバー13を介して不図示のピニオン軸を連結し、このピニオン軸のピニオン歯に噛合うラック歯20A(図2)を備えたラック軸20をハウジング11に左右動可能に支持している。ステアリング軸12とピニオン軸の間には、ステアリングホイールに加えられた操舵トルクを検出する操舵トルク検出器(不図示)を設けてある。
【0020】
電動パワーステアリング装置10は、ラック軸20の両端部をハウジング11の左右に突出し、それらの端部に連結したタイロッド14A、14Bを介して左右の車輪を操舵可能にする。
【0021】
電動パワーステアリング装置10は、ハウジング11の内部でラック軸20の周囲に電動モータ15を設けている。電動モータ15は、ハウジング11の内周に固定されるステータ15Aと、鉄芯にコイルが巻き回されたロータ15Bと、ロータ15Bの内周に一体化されたスリーブ15Cを有し、スリーブ15Cの両端部を軸受16A、16Bによりハウジング11に支持している。電動パワーステアリング装置10は、ラック軸20にボールねじ部20Bを設け、ボールねじ部20Bにスチールボール18を介して噛合うナット17を軸受19によりハウジング11に支持している。そして、電動モータ15のスリーブ15Cとナット17を同軸的に嵌合し、嵌合したスリーブ15Cの例えば内周とナット17の例えば外周の間にゴムダンパ等の緩衝部材を挟圧して設けている。
【0022】
従って、電動パワーステアリング装置10にあっては、操舵トルク検出器が所定値を超える操舵トルクを検出したときに電動モータ15を駆動し、電動モータ15のトルクがスリーブ15Cからナット17に伝えられ、ナット17の回転がボールねじ部20Bを介してラック軸20の直線移動に変換され、ラック軸20に連動する車輪に操舵アシスト力となって付与される。
【0023】
しかるに、ラック軸20は、上述の如くのラック歯20Aとボールねじ部20Bを備えるに際し、図2に示す如く、長尺のラック軸本体21の一部、本実施例では一端寄りの中間部Aにラック歯20Aが形成される。ラック軸本体21の他の部分、本実施例では軸方向の概ね中央に位置する中間部Bに挿着されて固定された中空体22にボールねじ部20Bが形成される。このとき、ラック軸本体21は高靭性材料(例えばS48C調質材)からなるものとされ、中空体22は高硬度材料(例えばS55C)からなるものとされる。
【0024】
従って、ラック軸20は以下の如くに製造される。
(1)ラック軸本体21を用意し、ラック軸本体21の一端側の中間部Aに切削加工(歯切り)(転造加工等でも可)によりラック歯20Aを形成する(図2(A))。尚、ラック軸本体21は高靭性材料の中実体からなるものとされ、ラック歯20Aが設けられない他端側に孔部を穿設して軽量化等を図ることができる。
【0025】
(2)ラック軸本体21の軸方向の概ね中央に位置する中間部Bに中空体22を挿着して固定する(図2(B))。中空体22はラック軸本体21に圧入又は一部かしめ又は溶接により固定される。中空体22はラック軸本体21にセレーション結合されても良い。
【0026】
(3)ラック軸本体21に固定された中空体22に転造加工(切削加工(ねじ切り)等でも可)によりボールねじ部20Bを形成する。
【0027】
ラック軸20にあっては、ラック軸本体21をパイプ材からなるものにしても良い(図3)。このとき、ラック軸本体21のラック歯20Aは、例えば特開2003-48039に記載の如くの歯形金型とマンドレルを用いるパイプラック成形装置により形成できる。
【0028】
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)ラック軸20が、ラック歯20Aが形成されるラック軸本体21と、ボールねじ部20Bが形成される中空体22の組合せからなるものにされた。従って、ラック歯20Aとボールねじ部20Bのそれぞれに適する材料を選択して採用できる。
【0029】
(b)ラック軸20において、ラック歯20Aが形成されるラック軸本体21に、ボールねじ部20Bが形成される中空体22を挿着して固定したから、両者の同軸度を容易に確保できる。中空体22の外周の全長に渡りボールねじ部20Bを転造等して形成することにより、不完全ねじ部を短縮でき、加工時間も短縮できる。
【0030】
(c)前述(a)に関し、ラック軸本体21を高靭性材料からなるものにしてラック歯20Aに高靭性を付与し、かつ中空体22を高硬度材料からなるものにしてボールねじ部20Bに高硬度を付与できる。
【0031】
(d)ラック軸20において、ラック歯20Aが形成されるラック軸本体21をパイプ材からなるものにすることにより、ラック軸20を軽量化できる。
【0032】
(e)ラック軸20の製造過程で、ラック軸本体21に挿着して固定された中空体22にボールねじ部20Bを転造等により形成することにより、ラック軸本体21の例えば両端部を転造機等の加工機による加工のために保持される部分とし、中空体22自体を保持することなく、該中空体22の全長を有効にねじ加工できる。
【0033】
(f)電動パワーステアリング装置10において、上述(a)〜(e)のラック軸20を適用できる。
【0034】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は電動パワーステアリング装置を示す模式図である。
【図2】図2は本発明のラック軸を示す模式図である。
【図3】図3は本発明の他のラック軸を示す模式図である。
【図4】図4は従来例のラック軸を示す模式図である。
【符号の説明】
【0036】
10 電動パワーステアリング装置
12 ステアリング軸
15 電動モータ
17 ナット
20 ラック軸
20A ラック歯
20B ボールねじ部
21 ラック軸本体
22 中空体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラック歯とボールねじ部を備えるラック軸において、
ラック軸本体の一部にラック歯が形成され、
ラック軸本体の他の部分に挿着されて固定された中空体にボールねじ部が形成されてなることを特徴とするラック軸。
【請求項2】
前記ラック歯が形成されるラック軸本体を高靭性材料からなるものにするとともに、ボールねじ部が形成される中空体を高硬度材料からなるものにする請求項1に記載のラック軸。
【請求項3】
前記ラック歯が形成されるラック軸本体をパイプ材からなるものにする請求項1又は2に記載のラック軸。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のラック軸の製造方法であって、
ラック軸本体の一部にラック歯を形成し、
ラック軸本体の他の部分に中空体を挿着して固定し、
ラック軸本体に固定された中空体にボールねじ部を形成するラック軸の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のラック軸を用いた電動パワーステアリング装置であって、
ステアリング軸により回転されるピニオンをラック歯に噛合いさせるとともに、電動モータにより回転されるナットをボールねじ部に噛合いさせてなる電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−273324(P2008−273324A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117491(P2007−117491)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】