ラマン散乱によりヌクレオチド信号を増加する方法
本明細書に開示の方法および装置は、増強ラマン分光法による核酸配列決定に関する。本発明のある態様において、ヌクレオチドは、核酸に組み込まれる前にラマン標識に共有結合する。他の態様においては、未標識核酸を使用する。核酸をエキソヌクレアーゼ処理すると、標識または未標識ヌクレオチドが放出され、ラマン分光法によって検出される。本発明の別の態様において、エキソヌクレアーゼ処理によって核酸から放出されるヌクレオチドはナノ粒子に共有結合で架橋し、表面増強ラマン分光法(SERS)、表面増強共鳴ラマン分光法(SERRS)、および/またはコヒーレント反ストークスラマン分光法(CARS)によって検出される。本発明の他の態様は核酸配列決定のための装置に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明の方法および装置は分子生物学およびゲノミクスの分野に関する。さらに特に、本発明の方法および装置は核酸配列決定法に関する。
【0002】
関連出願
本願は、2002年3月14日提出の米国特許出願10/099,287号の一部係属出願;および2001年9月24日提出の米国特許出願09/962,555号の一部係属出願である。
【背景技術】
【0003】
背景
遺伝情報は、染色内に組織化された非常に長い分子のデオキシリボ核酸(DNA)の形態で保存されている。ヒトゲノムは約30億塩基のDNA配列を含有する。このDNA配列情報は各個人の多数の特徴を決定する。多数の一般的な疾病は少なくとも一部はDNA配列の変異に基づいている。
【0004】
ヒトゲノムの配列全体の決定はこのような疾病の遺伝子的な基礎を同定するための基盤を提供している。しかし、各疾病に関連する遺伝子の変異を同定するためには多大な研究を実施しなければならない。それは、その疾病を促進するDNA配列の特定の変化を同定するためには、このような各疾病を示している個人または家族の染色体部分のDNA配列決定を必要とすると思われる。遺伝情報を処理する際の中間分子であるリボ核酸(RNA)も、種々の疾病の遺伝子的な基礎を同定するために配列決定することができる。
【0005】
サイズによって分離された蛍光標識核酸の検出に基づいた、既存の核酸配列決定方法は、配列決定することができる核酸の鎖長による制限がある。典型的には、500〜1,000塩基の核酸配列しか一度に決定することができない。これは、鎖長が数万または場合によっては数十万の塩基であることもある遺伝子と呼ばれるDNAの機能単位の鎖長よりはるかに短い。現在の方法を使用すると、完全な遺伝子配列の決定は、遺伝子の多数のコピーを作製し、オーバーラップするフラフメントに切断して配列決定し、その後オーバーラップするDNA配列を完全な遺伝子に集成するということが必要である。この方法は面倒で、費用がかかり、効率が悪く、時間がかかる。それはまた、典型的には、安全性および廃棄物の処理の問題を生ずる可能性がある蛍光または放射性標識の使用を必要とする。
【0006】
さらに最近では、DNAチップの特定の位置に取り付けられた、規定の配列の短いオリゴヌクレオチドへのハイブリダイゼーションを含む核酸配列決定方法が開発された。このような方法は、短い核酸配列を推測するか、または試料中の特定の核酸の存在を検出するために使用することができるが、長い核酸配列の同定には好適ではない。
【発明の開示】
【0007】
例示的な態様の説明
開示されている方法および装置は、核酸の迅速な自動配列決定に有用である。本発明の特定の態様において、本発明の方法および装置は、長さが1,000を超える、2,000を超える、5,000を超える、10,000を超える、20,000を超える、50,000を超える、100,000を超えるまたは場合によってはそれ以上の塩基の非常に長い核酸分子の配列を得るのに好適である。従来技術の方法を上回る利点には、1回の配列決定操作において長い核酸配列を読むことができること、配列データを得る速度が速いこと、配列決定費用が削減されることおよび配列データ範囲あたりに必要なオペレーター時間の効率が大きいことが挙げられる。
【0008】
本発明の種々の態様において、配列情報は、1つの核酸分子を使用して、1回の配列決定操作の進行中に得ることができる。本発明の他の態様において、核酸配列を確認するため、または完全な配列データを得るために、核酸分子の多数のコピーを平行してまたは逐次的に配列決定することができる。本発明の別の態様において、配列情報の正確さを確認するために核酸分子およびその相補鎖を配列決定することができる。種々の態様において、配列決定される核酸は表面に共有結合または非-共有結合によって結合することができる。特定の態様において、例えば、エキソヌクレアーゼ処理によってヌクレオチドを表面-結合核酸から放出することができる。放出されたヌクレオチドは、例えば、マイクロ流体システムを介してラマン検出器に輸送され、核酸、エキソヌクレアーゼおよび/またはシステムの他の成分からのバックグラウンドラマン信号を伴わないで放出されたヌクレオチドを検出することができる。
【0009】
本発明のある態様において、配列決定される核酸はDNAであるが、RNAまたは合成ヌクレオチドアナログを含む他の核酸も配列決定し得ることが企図される。以下の詳細な説明は、本発明の開示されている態様のさらに完全な理解を提供するために、数多くの具体的な詳細を含有する。しかし、本発明の態様はこれらの具体的な詳細がなくても実施することができることは当業者に明らかである。他の例において、当技術分野において公知である装置、方法、手法および個々の要素は本明細書において詳細には記載されていない。
【0010】
本発明の種々の態様において、未標識ヌクレオチドは、例えば、表面増強ラマン分光法(SERS)、表面増強共鳴ラマン分光法(SERRS)、コヒーレント反ストークスラマン分光法(CARS)、または他の公知のラマン検出技法によるラマン分光法によって検出することができる。別の態様において、ラマン信号を増強するためにヌクレオチドをラマン標識に共有結合することができる。いくつかの態様において、標準的な核酸重合技法を使用して、標識ヌクレオチドを新たに合成される核酸鎖に組み入れることができる。典型的には、特定の配列のプライマーまたは1つまたは複数のランダムプライマーを鋳型核酸にハイブリダイゼーションさせる。ポリメラーゼおよび標識ヌクレオチドを添加すると、ラマン標識ヌクレオチドがプライマーの3'末端に共有結合して、配列が鋳型と相補的な標識核酸鎖が形成される。標識鎖は、例えば、約95℃に加熱することによってまたは他の公知の方法によって未標識鋳型から分離することができる。2本の鎖は当技術分野において公知の技法によって互いから分離することができる。例えば、プライマーオリゴヌクレオチドにビオチン残基を共有結合により修飾し、アビジンまたはストレプトアビジンコーティング面に結合することによって得られたビオチン化核酸を分離することができる。
【0011】
本発明の別の態様において、標識または未標識1本鎖核酸分子を1種以上のエキソヌクレアーゼで消化することができる。開示されている方法はエキソヌクレアーゼ自体に限定されるのではなく、核酸の少なくとも一方の末端からヌクレオチドを逐次的に除去することができる任意の酵素または他の試薬を使用することができることを当業者は理解している。本発明のある態様において、標識または未標識ヌクレオチドは核酸の3'末端から逐次的に放出される。核酸から分離されると、ヌクレオチドはラマン検出装置によって検出される。逐次的に検出されるヌクレオチドの情報を使用して、核酸の配列を蓄積する。核酸の3'末端から放出されるヌクレオチドは、マイクロ流体チャネルを介して輸送され、ラマン検出装置を通過することができる。特定の態様において、検出装置は、標識または未標識ヌクレオチドを1分子レベルで検出することができる。ラマン検出装置によるヌクレオチドの検出順序は、ヌクレオチドが核酸の3'末端から放出される順序と同じである。従って、核酸の配列は、放出されるヌクレオチドが検出される順序によって決定されうる。相補鎖が配列である場合には、鋳型鎖は標準的なワトソン-クリックの水素結合による塩基対形成により配列が相補的である(すなわち、DNAまたはRNAのどちらが配列決定されるかに応じて、A-TおよびG-CまたはA-UおよびG-C)。
【0012】
ある別の態様において、標識分子を検出装置の上流の反応チャンバーまたは流動通路に添加することができる。標識分子は、ヌクレオチドが核酸分子から放出されると遊離のヌクレオチドに結合して、標識する。この放出後標識化は、核酸分子のヌクレオチドが溶液中に放出される前に標識される場合に遭遇する問題を回避する。核酸分子に組み込まれる各ヌクレオチドがエキソヌクレアーゼ処理の前に標識されると、かさ高いラマン標識分子の使用が立体障害となることがあり、効率を低下し、配列決定反応に必要な時間を延長することがある。
【0013】
本発明のある態様において、4つの種類のヌクレオチドの各々を識別可能なラマン標識に結合することができる。本発明の他の態様において、プリンヌクレオチド(シトシンおよび/またはチミンおよび/またはウラシル)だけを標識することができる。例示的な一態様において、標識ヌクレオチドはビオチン-標識デオキシシチジン-5'-チオホスフェート(ビオチン-dCTP)およびジゴキシゲニン-標識デオキシウリジン-5'-チオホスフェオート(ジゴキシゲニン-dUTP)を含んでもよい。別の態様において、ヌクレオチドを標識せず、未標識ヌクレオチドがラマン分光法によって同定される。
【0014】
本発明の特定の態様において、ラマン信号は、ナノ粒子にヌクレオチドを共有結合することによって増強されうる。ナノ粒子は以下に考察するように調製することができ、公知の方法を使用して反応性の高い基、例えば、エポキシド基を結合することによって活性化することができる。例えば、ナノ粒子に3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GOP)をコーティングすることができる。GOPは反応性の高い末端エポキシド基を有する。エポキシドなどの反応性の高い基の使用は、ナノ粒子とヌクレオチドの間の迅速な共有結合の形成を可能にする。いくつかの態様において、エキソヌクレアーゼ活性によってヌクレオチドを核酸から放出し、次いでナノ粒子と反応させて共有結合の形成を可能にすることができる。種々の方法を使用して、ナノ粒子-ヌクレオチド複合体の前に共有結合が形成されるのに十分な時間を取ることができる。例えば、放出されたヌクレオチドおよび活性化されたナノ粒子を含有する溶液をマイクロ流体によって比較的長い流動通路に沿って輸送し、ヌクレオチド-ナノ粒子複合体がラマン検出装置を通過する前に、共有結合の形成を生じさせるのに十分な時間を取ることができる。流速は、粘度の高い流体、例えば、グリセロール液を使用することによってさらに低下することができる。粘度の高い液をマイクロ流体する方法は当技術分野において公知である。
【0015】
または、ナノ粒子を最初に核酸の3'末端に結合させる循環プロセスを使用することができる。ナノ粒子および結合したヌクレオチドは、エキソヌクレアーゼ活性または化学処理によって核酸の3'末端から放出されうる。例えば、末端ヌクレオチドを核酸に結合するホスホジエステル結合は酸または塩基による処理によって切断することができる。結合しているナノ粒子の電子-求引性により末端のホスホジエステル結合は特に切断を受けやすくなり、1回に1つのヌクレオチドの除去を可能にすることができる。放出後、別のナノ粒子が核酸の3'末端と反応し、プロセスは周期的に反復される。または、3'エキソヌクレアーゼを使用して、ヌクレオチド-ナノ粒子複合体を放出することができる。ナノ粒子とエキソヌクレアーゼ活性による立体障害は、反応性基(例えば、エポキシド)をナノ粒子に結合するためのリンカーアームを使用することによって回避することができる。末端ヌクレオチドの放出の前にナノ粒子が結合すると、共有結合形成のための十分な時間を取ることができると思われる。本発明の他の別の態様において、エキソヌクレアーゼ活性の反応速度を調節して、ヌクレオチドの放出速度およびナノ粒子への共有結合速度を対等にし得る。例えば、核酸およびエキソヌクレアーゼを含有する反応チャンバーは、0℃〜室温の低温に制御された温度であってもよい。適当な温度が決定されたら、エキソヌクレアーゼ活性によって放出されるヌクレオチドは流体通路に流入し、室温〜100℃の高温で反応性ナノ粒子と混合される。高温はヌクレオチドとナノ粒子の反応速度を増加すると思われる。種々の態様において、温度は約0℃〜5℃、5℃〜10℃、10℃〜15℃の範囲である。エキソヌクレアーゼ活性を調節するために15℃〜20℃または20℃〜25℃を使用することができる。ある態様において、温度は約20℃〜25℃、25℃〜30℃、30℃〜35℃であってもよい。ナノ粒子とヌクレオチドの共有結合形成速度を調節するために、35℃〜40℃、40℃〜45℃、45℃〜50℃、50℃〜55℃、55℃〜60℃、60℃〜65℃、65℃〜70℃、70℃〜75℃、75℃〜80℃または80℃〜95℃を使用することができる。エキソヌクレアーゼ活性の速度およびヌクレオチド-ナノ粒子架橋速度を調節するために反応速度を温度の関数としてアッセイし、適当な温度範囲を選択することは当技術分野における通常の技術範囲内である。
【0016】
本発明のいくつかの態様において、ナノ粒子は銀または金であるが、表面増強ラマン信号を提供することが公知の他の種類のナノ粒子も企図される。ナノ粒子は1つのナノ粒子であっても、ナノ粒子の凝集体であっても、または1つのナノ粒子と凝集したナノ粒子のいくつかの混合物であってもよい。ある態様において、リンカー化合物は、ヌクレオチドをナノ粒子に結合するために使用することができる。リンカー化合物は、長さが1〜100ナノメーター(nm)、2〜90 nm、3〜80 nm、4〜70 nm、5〜60 nm、10〜50 nm、15〜40 nmまたは20〜30 nmであってもよい。ある態様において、リンカー化合物は、長さが1〜50、1〜5、2〜10、10〜20 nm、または約5 nmであってもよい。他の態様において、リンカー化合物を使用して2つ以上のナノ粒子を一体として結合することができる。
【0017】
ナノ粒子-ヌクレオチド複合体は、フロー-スルーセルを通過して、ラマン検出装置を使用してSERS、SERRSおよび/またはCARSによって検出される。本発明のいくつかの別の態様において、ヌクレオチドは未修飾であってもよいが、他の別の態様において、ヌクレオチドは1つまたは複数のラマン標識で修飾されてもよい。ある態様において、各種類のヌクレオチドを識別可能なラマン標識に結合することができる。他の態様において、ピリミジンだけを標識することができる。
【0018】
定義
本明細書において使用する「a」または「an」は1つまたは複数の品目を意味することができる。
【0019】
本明細書において使用する「機能的に接続している」は、2つ以上の装置の間に機能的な相互作用があることを意味する。例えば、ヌクレオチドなどの分析物がフロー-スルーセルを通過するとき、検出装置がそれらを検出することができるように配置されている場合には、検出装置はフロー-スルーセルに「機能的に接続している」。
【0020】
「核酸」は、DNA、RNA、それらの1本鎖、2本鎖または3本鎖および任意の化学的修飾を含む。核酸の実質的に任意の修飾が企図される。本明細書において使用する1本鎖核酸は、接頭辞「ss」によって示すことができ、2本鎖核酸は接頭辞「ds」によって示すことができ、3本鎖核酸は「ts」によって示すことができる。「核酸」は、長さ10、20、30、40、50、60、75、100、150、200、250、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、6000、7000、8000、9000、10,000、15,000、20,000、30,000、40,000、50,000、75,000、100,000、150,000、200,000、500,000、1,000,000、1,500,000、2,000,000、5,000,000または場合によってはそれ以上長い塩基から完全長の染色体DNA分子までのほとんど任意の長さであってもよい。
【0021】
「ヌクレオチド」は、プリンまたははピリミジン塩基(アデニン-「A」、シトシン-「C」、グアニン-「G」、チミン-「T」またはウラシル-「U」)を含む分子、またはデオキシリボース、リボースまたは糖ペントースの誘導体もしくはアナログなどの糖ペントースに共有結合している任意の化学的修飾または構造的アナログである。
【0022】
「ヌクレオチド」は、糖ペントースに共有結合している少なくとも1つのリン酸基をさらに含むヌクレオシドをいう。本発明のいくつかの態様において、ヌクレオチドはリボヌクレオシド一リン酸またはデオキシリボヌクレオシド一リン酸であるが、ヌクレオシド二リン酸または三リン酸が生成されて検出されてもよいことが予想される。本発明の他の態様において、ヌクレオシドは核酸分子から放出されうる。種々の置換または修飾は、ポリメラーゼ活性によって核酸に組み込まれ、エキソヌクレアーゼまたは等価な試薬によって放出されうる限り、ヌクレオチドの構造に加えられてもよいことが企図される。1種または複数種のヌクレオチドに結合している1つまたは複数の標識に関係する本発明の態様において、標識は、塩基、糖もしくはリン酸基またはそれらのアナログなどのヌクレオチドの任意の部分に結合してもよい。「ヌクレオチド」および「標識ヌクレオチド」という用語は、ヌクレオチド-ナノ粒子複合体およびヌクレオチド-標識複合体などの全ての非-天然ヌクレオチド複合体を含むが、それに限定されるわけではない。
【0023】
「ラマン標識」は、合成分子、染料、フィコエリトリンなどの天然の顔料、C60、バッキーボールおよびカーボンナノチューブなどの有機ナノ構造物、金もしくは銀ナノ粒子などの金属ナノ構造物または量子ドットなどのナノプリズムおよびナノ-スケール半導体を含むが、それに限定されるわけではない検出可能なラマン信号を生ずることができる任意の有機または無機分子、原子、錯体または構造であってもよい。ラマン標識の数多くの例を以下に開示する。このような例は限定するものではないこと、および「ラマン標識」はラマン分光法によって検出することができる当技術分野において公知の任意の有機または無機原子、分子、化合物または構造物を含むことを当業者は理解している。
【0024】
核酸
配列決定される核酸は当技術分野において公知の任意の技法によって調製することができる。本発明のある態様において、核酸は天然のDNAまたはRNA分子である。染色体、ミトコンドリア、および葉緑体DNA、ならびにリボソーム、トランスファー、ヘテロ核、およびメッセンジャーRNA(mRNA)を含むが、それらに限定されるわけではない実質的に任意の天然の核酸を開示されている方法によって調製され、検出することができる。種々の形態の核酸を調製し単離する方法は公知である。(例えば、Guide to Molecular Cloning Techniques、BergerおよびKimmel編、Academic Press、New York、NY、1987;Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Sambrook、FritschおよびManiatis編、Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harbor、NY、1989年を参照されたい)。引用した参照文献に開示されている方法は例示的にすぎず、当技術分野において公知の任意の形態を使用することができる。1本鎖DNA(ssDNA)を配列決定することが予定されている場合には、ssDNAは任意の公知の方法によって2本鎖DNA(dsDNA)から調製することができる。このような方法は、dsDNAを加熱する段階および鎖を分離させる段階を含んでも、または別の方法として、M13へのクローニングなどの公知の増幅もしくは複製方法によってdsDNAからssDNAを調製する段階を含んでもよい。このような任意の公知の方法を使用してssDNAまたはssRNAを調製することができる。上記に考察するように、公知の技法を使用するビオチン標識およびアビジンまたはストレプトアビジンへの結合によって、2本鎖DNAの2本の鎖の一方を分離することができる。
【0025】
本発明のある態様は天然の核酸の調製に関するが、エキソヌクレアーゼまたは等価な試薬の基質として作用することができる、実質的に任意の種類の核酸が配列決定され得る。例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR(商標))増幅などの種々の増幅技法によって調製される核酸が配列決定され得る。(米国特許第4,683,195号、同第4,683,202号および同第4,800,159号を参照されたい)。または、配列決定する核酸を、プラスミド、コスミド、BAC(細菌人工染色体)またはYAC(酵母人工染色体)などの標準的なベクターにクローニングしてもよい。(例えば、BergerおよびKimmel, 1987;Sambrook et al., 1989を参照されたい)。核酸挿入物は、例えば、適当な制限エンドヌクレアーゼで切断し、次にアガロースゲル電気泳動によってベクターDNAから単離することができる。核酸挿入物を単離する方法は周知である。
【0026】
一核酸分子の単離
本発明のある態様において、配列決定される核酸分子は一分子のssDNAまたはssRNAである。例えば、流体力学的集束(hydrodynamic focusing)、ミクロマニュプレーターカップリング、光トラッピングまたはこれらの方法および同様の方法の組み合わせのような一核酸分子の種々の選択および操作方法を使用することができる。(例えば、Goodwin et al., 1996, Acc. Chem. Res. 29: 607-619;米国特許第4,962,037号;同第5,405,747号;同第5,776,674号;同第6,136,543号;同第6,225,068号を参照されたい)。
【0027】
本発明のある態様において、マイクロ流体光学またはナノ流体光学を使用して核酸分子を選別し、単離することができる。流体力学を使用して、マイクロチャネル、マイクロキャピラリーまたはマイクロポアへの核酸の移動を操作することができる。本発明の一態様において、流体力学的な力を使用して、核酸分子を移動させてくし状構造物を通過させ、一核酸分子を分離することができる。核酸分子が分離されたら、流体力学的集束を使用して分子を反応チャンバー内に位置決めすることができる。熱または電気ポテンシャル、圧力または真空を使用しても、核酸の操作のための推進力を提供することができる。本発明の例示的な態様において、配列決定するための核酸の操作は、微細加工チャネルを組み込んだチャネルブロックデザインおよび一体型ゲル材料の使用を含んでもよい(米国特許第5,867,266号および同第6,214,246号)。
【0028】
本発明の別の態様において、核酸を含有する試料は、固定表面に結合する前に希釈されてもよい。本発明の例示的な態様において、固定表面は、磁気もしくは非-磁気ビーズまたは他の別個の構造単位の形態であってもよい。適当な希釈において、各ビーズは0または1つの核酸分子を結合する統計的確率を有する。結合している核酸分子が1つのビーズは、例えば、蛍光染料およびフローサイトメーターによる選別または磁気的選別を使用して同定することができる。ビーズおよび核酸の相対的サイズおよび均一性に応じて、磁気フィルターおよび質量分離を使用して、結合している核酸分子が1つを含むビーズを分離することが可能となりうる。本発明の他の態様において、1つのビーズまたは他の固定表面に結合している多数の核酸を配列決定することができる。
【0029】
本発明の別の態様において、コーティングしたファイバーチップを使用して、配列決定するための核酸1分子を生成することができる(例えば、米国特許第6,225,068号)。他の別の態様において、固定表面は1分子のアビジンまたは他の架橋剤を含有するように調製することができる。このような表面は、配列決定するビオチン化核酸分子を1分子結合すると思われる。この態様はアビジン-ビオチン結合システムに限定されるのではなく、任意の公知のカップリングシステムに適合することができる。
【0030】
本発明の他の別の態様において、光トラップを、配列決定するための核酸部分子1分子の操作に使用することができる。(例えば、米国特許第5,776,674号)。例示的な光トラッピングシステムはCell Robotics, Inc. (Albuquerque, NM)、S+L GmbH(Heidelberg, Germany)およびP. A. L. M. Gmbh(Wolfratshausen, Germany)から購入可能である。
【0031】
ラマン標識
本発明のある態様は、検出装置による測定を容易にするためにヌクレオチドに標識を結合することを含んでもよい。ラマン分光法に使用することができると思われる標識の非限定的な例には、TRIT(テトラメチルローダミンイソチオール)、NBD(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール)、テキサスレッド染料、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、クレシルバイオレット、クレシルブルーバイオレット、ブリリアントクレシルブルー、パラ-アミノ安息香酸、エリスロシン、ビオチン、ジゴキシゲニン、5-カルボキシ-4',5'-ジクロロ-2',7'-ジメトキシフルオレセイン、5-カルボキシ2',4',5',7'-テトラクロロフルオレセイン、5-カルボキシフルオレセイン、5-カルボキシローダミン、6-カルボキシローダミン、6-カルボキシテトラメチルアミノフタロシアニン、アゾメチン、シアニン、キサンチン、スクシニルフルオレセインおよびアミノアクリジンが挙げられる。これらおよび他のラマン標識は商業的供給源(例えば、Molecular Probes, Eugene, OR)から入手することができる。
【0032】
当技術分野において公知であるように、多環式芳香族化合物はラマン標識として機能することができる。本発明の特定の態様に有用となりうる他の標識には、シアニド、チオール、塩素、臭素、メチル、リンおよび硫黄が挙げられる。本発明のある態様において、カーボンナノチューブはラマン標識として有用となりうる。ラマン分光法における標識の使用は公知である(例えば、米国特許第5,306,403号および同第6,174,677号)。使用するラマン標識は識別可能なラマンスペクトルを形成するはずであり、異なる種類のヌクレオチドに特異的に結合または関連することができることを当業者は理解している。
【0033】
標識はヌクレオチドに直接結合してもまたは種々のリンカー化合物を介して結合されてもよい。開示されている方法に有用な架橋試薬およびリンカー化合物を以下にさらに記載する。または、ラマン標識に共有結合されているヌクレオチドが標準的な商業的供給源から入手可能である(例えば、Roche Molecular Biochemicals、Indianapolis、IN;Promega Corp.、Madison、WI;Ambion, Inc.、Austin、TX;Amersham Pharmacia Biotech、Piscataway、NJ)。ヌクレオチドなどの他の分子に共有結合により反応するように設計されている反応性基を含有するラマン標識は購入可能である(例えば、Molecular Probes、Eugene、OR)。標識ヌクレオチドを調製し、核酸にそれらを組み込む方法は公知である(例えば、米国特許第4,962,037号;同第5,405,747号;同第6,136,543号;同第6,210,896号)。
【0034】
ナノ粒子
本発明のある態様は、ヌクレオチドから得られるラマン信号を増強するためにナノ粒子を使用することを含む。本発明のいくつかの態様において、ナノ粒子は銀または金ナノ粒子であるが、表面増強ラマン分光法(SERS)信号を提供することができる任意のナノ粒子を使用することができる。本発明の別の態様において、ナノ粒子はナノプリズムであってもよい(Jin et al., Science 294: 1902-3, 2001)。本発明の種々の態様において、径1 nm〜2マイクロメートル(μm)のナノ粒子を使用することができる。本発明の別の態様において、径2 nm〜1μm、5 nm〜500 nm、5 nm〜200 nm、10 nm〜200 nm、20 nm〜100 nm、30 nm〜80 nm、40 nm〜70 nmまたは50〜60 nmのナノ粒子が企図されている。本発明のある態様において、10〜50 nm、50〜100 nmまたは約100 nmの平均径のナノ粒子が企図されている。ナノ粒子は形状がほぼ球形、棒状、とげ状、切子面状、またはとんがり状であってもよいが、任意の形状または不規則な形状のナノ粒子を使用することができる。ナノ粒子を製造する方法は公知である(例えば、米国特許第6,054,495号;同第6,127,120号;同第6,149,868号;Lee and Meisel, J. Phys. Chem. 86: 3391-3395, 1982;Jin et al., 2001)。ナノ粒子は商業的供給源(例えば、Nanoprobes Inc.、Yaphank、NY;Polysciences, Inc.、Warrington、PA)からも入手することができる。
【0035】
本発明のある態様において、ナノ粒子は1つのナノ粒子および/またはナノ粒子のランダム凝集物(コロイドナノ粒子)であってもよい。本発明の他の態様において、ナノ粒子は架橋されて、ダイマー、トリマー、テトラマーまたは他の凝集物などのナノ粒子の特定の凝集物を形成することができる。別のある態様は異なるサイズの凝集物の不均一な混合物を使用することができるが、別の他の態様は均質な集団のナノ粒子を使用することができる。ある態様において、選択した数のナノ粒子(ダイマー、トリマー等)を含有する凝集物を、スクロース溶液中での超遠心分離法などの公知の技法によって濃縮または精製することができる。本発明の種々の態様において、サイズが約100、200、300、400、500、600、700、800、900〜1000 nmまたはそれより大きいナノ粒子凝集物が企図されている。
【0036】
ナノ粒子を架橋する方法は公知である(例えば、Feldheim、「Assembly of metal nanoparticles arrays using molecular bridges」、The Electrochemical Society Interface、2001年秋、22〜25ページ)。例えば、末端チオールまたはスルフヒドリル基を有する二官能性リンカー化合物を使用して、金ナノ粒子を架橋することができる。金ナノ粒子と反応すると、リンカーは、リンカーの長さによって分離されるナノ粒子ダイマーを形成する。本発明の他の態様において、3、4、またはそれ以上のチオール基を有するリンカーを使用して、多数のナノ粒子に同時に結合することができる(Feldheim, 2001)。リンカー化合物に対して過剰量のナノ粒子を使用すると、多重架橋の形成およびナノ粒子の沈降が防止される。銀ナノ粒子の凝集物は、当技術分野において公知の標準的な合成方法によって形成することができる。
【0037】
本発明の別の態様において、ナノ粒子がリンカー化合物に結合する前に、種々の反応性基を含有するようにナノ粒子を修飾することができる。Nanoprobes, Inc.(Yaphank, NY)社製のNanogold(登録商標)ナノ粒子などの修飾ナノ粒子は購入可能である。ナノ粒子あたり1つまたは多数のマレイミド、アミンまたは他の基が結合されているNanogold(登録商標)ナノ粒子を入手することができる。Nanogold(登録商標)ナノ粒子はまた正または負に荷電した形態でも入手可能である。このような修飾ナノ粒子を種々の公知のリンカー化合物に結合して、ナノ粒子のダイマー、トリマーまたは他の凝集物を提供することができる。
【0038】
溶液中で沈降しないナノ粒子の小さい凝集物を形成する限り、使用されるリンカー化合物の種類は限定されない。本発明のいくつかの態様において、リンカー基はフェニルアセチレンポリマーを含んでもよい(Feldheim, 2001)。または、リンカー基は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルピロリドン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアクリルアミド、ポリエチレンまたは他の公知のポリマーを含んでもよい。有用なリンカー化合物はポリマーに限定されるのではなく、シラン、アルカン、シラン誘導体またはアルカン誘導体などの他の種類の分子も含んでもよい。
【0039】
本発明の種々の態様において、ナノ粒子はヌクレオチドに共有結合されうる。本発明の別の態様において、ヌクレオチドはナノ粒子に直接結合されても、またはナノ粒子に共有結合もしくは非-共有結合により結合されているリンカー化合物に結合されてもよい。本発明のこのような態様では、2つ以上のナノ粒子を一体として架橋するのではなく、リンカー化合物を使用して、ヌクレオチドをナノ粒子またはナノ粒子凝集物に結合することができる。本発明の特定の態様において、ナノ粒子にシラン誘導体をコーティングすることができる。標準的な方法を使用して、このような修飾シランをヌクレオチドに共有結合により結合することができる。以下に考察する表面に核酸を架橋するために公知の種々の方法を使用しても、ナノ粒子にヌクレオチドを結合することができる。ヌクレオチドを結合するために使用されるリンカー化合物は、約0.05、0.1、0.2、0.5、0.75、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、27、30、35、40、45、50、55、60、65、60、80、90から100 nmの範囲のほとんど任意の長さ、またはさらに長い長さであってもよいことが企図されている。本発明のある態様は種々の長さのリンカーを使用することができる。
【0040】
本発明の他の態様において、ヌクレオチドをナノ粒子の表面に吸着してもまたはナノ粒子に近接近させてもよい(約0.2〜1.0 nm)。ナノ粒子へのヌクレオチドの共有結合は、SERS、SERRSまたはCARSによる増強ラマン信号を形成するために必要ないことを当業者は理解している。
【0041】
本発明のいくつかの態様において、ヌクレオチドは、マイクロ流体チャネルを移動するときナノ粒子に結合してヌクレオチド-ナノ粒子複合体を形成することができる。本発明のある態様において、架橋反応が生じるために利用可能な時間の長さを制限することができる。このような態様は、エポキシド基、アジド基、アリールアジド基、トリアジン基またはジアゾ基などの反応速度が迅速な反応性の高い架橋基を使用することができる。本発明のある態様において、レーザーなどの強烈な光線に曝露することによって架橋基を光活性化することができる。例えば、ジアゾまたはアジド化合物の光活性化により、それぞれ、反応性の高いカルベンおよびニトレン部分が形成される。ある態様において、反応性基は、ナノ粒子を互いに架橋するのではなく、ナノ粒子をヌクレオチドに結合することだけを可能にするように選択することができる。ヌクレオチドに結合することができる反応性架橋基の選択および調製は当技術分野において公知である。本発明の別の態様において、ヌクレオチド自体が、例えば、金ナノ粒子に結合することができるスルフヒドリル基で共有結合により修飾されてもよい。
【0042】
本発明のある態様において、ナノ粒子は、マイクロ流体工学、ナノ流体工学、流体力学的集束または電気-浸透などの当技術分野において公知の任意の方法によってマイクロ流体チャネルに操作されうる。いくつかの態様において、荷電リンカー化合物または荷電ナノ粒子を使用すると、電気勾配の使用によるナノ粒子の相互作用を容易にすることができる。
【0043】
核酸の固定
本発明のある態様において、1つまたは複数の核酸分子を、機能化ガラス、シリコン、ケイ酸塩、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、銀または他の金属コーティング表面、石英、プラスチック、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PVP(ポリビニルピロリドン)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアクリルアミド、ラテックス、ナイロン、ニトロセルロース、ガラスビーズ、磁気ビーズ、核酸分子と共有結合を形成することができるニトレン、カルベンおよびケチル基などの光反応性種を含有するフォトポリマー(米国特許第5,405,766号および同第5,986,076号を参照されたい)、または表面に組み込まれているアミノ、カルボキシル、チオール、ヒドロキシルなどの官能基もしくはディールス-アルダー反応体を有することができる当技術分野において公知の他の任意の物質などの表面に結合することができる。
【0044】
本発明のいくつかの態様において、表面の官能基は、核酸分子およびエキソヌクレアーゼおよび/またはポリメラーゼ間の結合相互作用が立体障害を伴わないで生じうるように架橋化合物に共有結合により結合することができる。典型的な架橋基にはエチレングリコールオリゴマーおよびジアミンが挙げられる。結合は共有結合または非-共有結合によってもよい。表面に核酸分子を結合する種々の方法が当技術分野において公知であり、使用することができる。本発明のある態様において、核酸分子を適所に固定し、放出されるヌクレオチドを輸送して検出装置を通過させる流動通路および/またはマイクロ流体チャネルのマイクロ流体に沈める。非限定的な例において、マイクロ流体は、流動通路および/またはマイクロ流体チャネルを通過する溶媒の大規模な流動によって生じうる。
【0045】
本発明の別の態様において、大容量媒体はゆっくりとしか移動しないかまたは全く移動しないが、(負に荷電したヌクレオチドなどの)溶液内の荷電種が、外部から適用される電場に応答して流動通路および/またはマイクロ流体チャネルを移動する。
【0046】
核酸分子の固定は種々の公知の方法によって実施することができる。本発明の例示的な態様において、固定は表面にストレプトアビジンまたはアビジンをコーティングし、その後ビオチン化した核酸を結合することによって実施することができる(Holmstrom et al., Anal. Biochem. 209: 278-283, 1993)。固定はまた、シリコン、ガラスまたは他の表面にポリ-L-Lys(リジン)またはポリ-L-Lys, Phe(フェニルアラニン)をコーティングし、次に二官能性架橋試薬を使用してアミノ-またはスルフヒドリル-修飾核酸を共有結合することによっても実施することができる(Running et al., BioTechniques 8: 276:-277, 1990;Newton et al., Nucleic Acids Res. 21: 1155-62, 1993)。アミノシランを使用することによってアミン残基を表面にコーティングすることができる。
【0047】
固定は、化学的に修飾された表面に5'-リン酸化核酸を直接共有結合することによって実施することができる(Rasmussen et al., Anal. Biochem. 198: 138-142, 1991)。核酸と表面の間の共有結合は水溶性カルボジイミドとの縮合によって形成することができる。この方法は、主に、5'-リン酸塩を介する核酸の5'-結合を促進する。
【0048】
DNAは、通常、最初にガラス表面をシラン処理し、次いでカルボジイミドまたはグルタルアルデヒドで活性化することによってガラスに結合される。別の手法は、分子の3'または5'末端に組み込まれているアミノリンカーを介してDNAが結合される3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GOP)またはアミノプロピルトリメトキシシラン(APTS)などの試薬を使用することができる。DNAは、紫外線照射を使用して膜表面に直接結合することができる。核酸の固定技法の非限定的な他の例は米国特許第5,610,287号、同第5,776,674号および同第6,225,068号に開示されている。
【0049】
二官能性架橋試薬は、核酸分子を表面に結合するなどの本発明の種々の態様において有用となりうる。二官能性架橋試薬は、アミノ、グアニジノ、インドールまたはカルボキシル特定基のような官能基の特異性により分類することができる。分子を架橋する例示的な方法は米国特許第5,603,872号および同第5,401,511号に開示されている。架橋試薬には、グルタルアルデヒド(GAD)、二官能性オキシラン(OXR)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDE)および1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)などのカルボジイミドが挙げられる。
【0050】
核酸合成
ポリメラーゼ
本発明のある態様は、プライマー分子にDNAポリメラーゼなどの合成試薬を結合する段階およびプライマーの3'末端にラマン標識したヌクレオチドを付加する段階を含む。ポリメラーゼの非限定的な例には、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素およびRNA-依存性RNAポリメラーゼが挙げられる。「プルーフリーディング」活性ならびにプライマーおよびプロモーター配列の必要性の有無に関するこれらのポリメラーゼ間の差は当技術分野において公知である。RNAポリメラーゼがポリメラーゼとして使用される場合、配列決定される鋳型分子は2本鎖DNAであってもよい。ポリメラーゼの非限定的な例には、テルモトガ マリチマ(Thermatoga maritima)DNAポリメラーゼ、AmplitaqFS(商標)DNAポリメラーゼ、Taquenase(商標)DNAポリメラーゼ、ThermoSequenase(商標)、Taq DNAポリメラーゼ、Qbeta(商標)レプリカーゼ、T4 DNAポリメラーゼ、高度高熱菌 DNAポリメラーゼ、RNA-依存性RNAポリメラーゼおよびSP6 RNAポリメラーゼが挙げられる。
【0051】
Pwo DNAポリメラーゼ(Boehringer Mannheim Biochemicals, Indianapolis, IN);Bst ポリメラーゼ(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA);IsoTherm(商標)DNAポリメラーゼ(Epicentre Technologies, Madison, WI);モロニーマウス白血病ウイルス逆転写酵素、Pfu DNAポリメラーゼ、トリ骨髄芽球症逆転写酵素、テルムス フラブス(Thermus flavus)(Tfl) DNAポリメラーゼおよびテルモコッカス リトラリス(Thermococcus litoralis)(Tli) DNAポリメラーゼ(Promega Corp., Madison, WI);RAV2逆転写酵素、HIV-1逆転写酵素、T7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ、SP6 RNAポリメラーゼ、大腸菌(E. coli) RNAポリメラーゼ、テルムス アクアティカス(Thermus aquaticus) DNAポリメラーゼ、T7 DNAポリメラーゼ+/-3'→5'エキソヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼIのクレノー断片、テルムス 「ユビキトウス」(Thermus 「ubiquitous」)DNAポリメラーゼおよびDNAポリメラーゼI(Amersham Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ)を含む、数多くのポリメラーゼが購入可能である。標識ヌクレオチドの鋳型依存的重合を行うことができる当技術分野において公知の任意のポリメラーゼを使用することができる(例えば、Goodman and Tippin, Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 1(2): 101-9, 2000;米国特許第6,090,589号を参照されたい)。標識ヌクレオチドから核酸を合成するためにポリメラーゼを使用する方法は公知である(例えば、米国特許第4,962,037号;同第5,405,747号;同第6,136,543号;同第6,210,896号)。
【0052】
プライマー
一般に、プライマーは長さが10〜20塩基であるが、さらに長いプライマーも使用することができる。本発明のある態様において、プライマーは、配列が鋳型核酸分子の公知の部分に相補的であるように設計されている。例えば、公知の一定の染色体配列に隣接する配列変異を同定するためにプライマーが選択される場合、公知の核酸配列が公知の配列のベクターに挿入される場合、または未変性の核酸が部分的に配列決定されている場合には、公知のプライマー配列を使用することができる。任意の配列のプライマーの合成方法は公知である。本発明の他の態様は、公知のプライマー-結合部位が存在しない場合に核酸を配列決定する段階を含む。このような場合には、重合を開始するためにランダムヘキサマーまたはランダムオリゴマーなどのランダムプライマーを使用することが可能となりうる。
【0053】
核酸消化
本発明のある態様において、核酸を配列決定する方法は、核酸分子の遊離末端にエキソヌクレアーゼまたは等価な試薬を結合する段階およびヌクレオチドを1回に1つ除去する段階を含む。有用であると思われる核酸消化酵素の非限定的な例には、大腸菌 エキソヌクレアーゼI、III、V、またはVII、Bal 31エキソヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼ、S1ヌクレアーゼ、大腸菌 DNAポリメラーゼIホロ酵素またはクレノー断片、RecJ、エキソヌクレアーゼT、T4またはT7 DNAポリメラーゼ、Taqポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼT7遺伝子6、ヘビ毒ホスホジエステラーゼ、脾臓ホスホジエステラーゼ、サーモコッカスリトラリス(Thermococcus litoralis) DNAポリメラーゼ、パイロコッカス種 GB-D DNAポリメラーゼ、ラムダエキソヌクレアーゼ、黄色ブドウ球菌 ミクロコッカスヌクレアーゼ、DNase I、リボヌクレアーゼA、T1ミクロコッカスヌクレアーゼ、または当技術分野において公知の他のエキソヌクレアーゼが挙げられる。エキソヌクレアーゼは、New England Biolabs(Beverly, MA)、Amersham Pharmacia Biotech(Piscataway, NJ)、Promega(Madison, WI)、Sigma Chemicals(St. Louis, MO)またはBoehringer Mannheim(Indianapolis, IN)などの商業的供給源から入手可能である。
【0054】
エキソヌクレアーゼ活性を有する酵素は、核酸分子の5'末端、3'末端またはどちらかの末端からヌクレオチドを除去することができることを当業者は理解している。それらはRNA、DNA、またはRNAおよびDNAの両方に対する特異性を示し得る。それらの活性は1本鎖または2本鎖核酸の使用に依存しうる。それらは、塩濃度、温度、pHまたは2価陽イオンによって影響が異なることがある。エキソヌクレアーゼのこれらの特性および他の特性は当技術分野において公知である。本発明のある態様において、検出装置によるヌクレオチド分析の最適な速度に一致するように、エキソヌクレアーゼ活性の速度を操作することができる。反応チャンバー内の温度、圧力、pH、塩または2価陽イオン濃度の調節を含む、種々の方法が、エキソヌクレアーゼ活性の速度を調節するために公知である。
【0055】
ヌクレオシド一リン酸は、一般に、エキソヌクレアーゼ活性によって核酸から放出されるが、本発明の態様は遊離のヌクレオチドまたはヌクレオシドの任意の特定の形態の検出に限定されるのではなく、核酸から放出されうる任意のモノマーを含む。
【0056】
反応チャンバーおよび集積チップ
本発明のいくつかの態様は、水性環境に固定表面、核酸分子、エキソヌクレアーゼおよびヌクレオチドを含有するように設計されている反応チャンバーを含む装置に関する。本発明のいくつかの態様において、反応チャンバーは、例えば、ペルティエ素子を組み込むことによってまたは当技術分野において公知の他の方法によって温度制御することができる。低容積の液体の温度を制御する方法は公知である。(例えば、米国特許第5,038,853号、同第5,919,622号、同第6,054,263号および同第6,180,372号を参照されたい)。
【0057】
本発明のある態様において、反応チャンバーおよび廃棄ポート、核酸ロード用ポート、ナノ粒子容器、エキソヌクレアーゼ供給源または他の流体コンパートメントに接続を提供する関連する任意の流体チャネル、例えば、流動通路、マイクロ流体チャネルまたはチャネルは、コンピュータチップ製造および/またはマイクロキャピラリーチップ製造分野において公知のバッチ製造工程において製造される。本発明のいくつかの態様において、反応チャンバーおよび流動通路および/またはマイクロ流体チャネルなどの装置の他の要素は1つの一体型チップとして製造することができる。このようなチップは、フォトリトグラフィーおよびエッチングなどの当技術分野において公知の方法によって製造することができる。しかし、製造方法は限定されるものではなく、レーザー切断、射出成形、鋳造、分子線エピタキシャル、ディップ-ペンナノリトグラフィー、化学的蒸着(CVD)製造、電子ビームもしくは集束イオンビーム技術またはインプリンティング技法などの当技術分野において公知の他の方法を使用することができる。ナノエレクトロメカニカルシステムを製造する方法を本発明のある態様に使用することができる。(例えば、Craighead, Science 290: 1532-36, 2000を参照されたい)。マイクロ加工チップは、例えば、Caliper Technologies Inc.(Mountain View, CA)およびACLARA BioSciences Inc. (Mountain View, CA)から購入可能である。
【0058】
検出装置によるヌクレオチドの検出を容易にするために、物質を含む流動通路またはフロー-スルーセルは、検出装置に使用される励起および発光周波数の電磁放射線に対して透明であるように選択することができる。一般に、ラマン分光法に使用される波長において透明であるガラス、シリコンおよび他の任意の材料を使用することができる。本発明のいくつかの態様において、検出装置の反対側の流動通路またはフロー-スルーセルの表面は、検出装置に対して相対的に不透明である銀、金、白金、銅、アルミニウムまたは他の材料がコーティングされていてもよい。その位置では、不透明な材料は、例えば、SERSによるラマン信号を増強するが、検出装置の機能を妨害しないように利用可能である。または、流動通路またはフロー-スルーセルは、メッシュを含む銀、金、白金、銅、アルミニウムまたはラマン信号増強作用のある他の金属を含有してもよい。本発明の他の別の態様において、流動通路またはフローサイトメトリーは金属ナノ粒子を含有してもよい。
【0059】
流動通路およびマイクロ流体チャネル
本発明のある態様において、核酸から放出されるヌクレオチドは流動通路および/またはマイクロ流体チャネルへ移動され検出装置を通過する。ヌクレオチドを輸送するための技法の非限定的な例にはマイクロ流体技法が挙げられる。流動通路および/またはマイクロ流体チャネルはマイクロキャピラリー(例えば、ACLARA BioSciences Inc., Mountain View, CA社製)または液体集積回路(例えば、Caliper Technologies Inc., Mountain View, CA)を含んでもよい。マイクロチャネル流動通路は径約5〜200μm、約5、10、15、20、25、30、40、45、50、55、60、65、70、75、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190または200μmの径であってもよい。
【0060】
本発明のある態様において、検出されるヌクレオチドは、溶媒のまとまった流動によって流動通路および/またはマイクロ流体チャネルを移動する。本発明の他の態様において、マイクロキャピラリー電気泳動を使用して、ヌクレオチドを流動通路および/またはマイクロ流体チャネルに沿って輸送することができる。マイクロキャピラリー電気泳動は、一般に、特定の分離媒体が充填されていてもよい、細いキャピラリーまたはチャネルの使用を含む。負に荷電したヌクレオチドなど適当に荷電した分子種の電気泳動は、装置の反応チャンバー側が負および検出装置側が正に印加されている電場に応答して生じる。電気泳動は、マイクロキャピラリーに同時に添加される成分の混合物のサイズ分離に使用されることが多いが、核酸から逐次的に放出されるサイズがほぼ同じヌクレオチドを輸送するためにも使用することができる。プリンヌクレオチド(A、G)はピリミジンヌクレオチド(C、T、U)より大きく、移動が遅いと思われるので、流動通路および/またはマイクロ流体チャネルの長さおよび検出装置の対応する通過時間は、識別的な移動に核酸から放出されるヌクレオチドの順序の混同を生じないよう最小に維持することができる。または、流動通路および/またはマイクロ流体チャネルを通過するプリンおよびピリミジンヌクレオチドの移動速度がほぼ同じか、または同じになるように、マイクロキャピラリーに充填する媒体を選択することができる。マイクロキャピラリー電気泳動方法は、例えば、WoolleyおよびMathies (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 11348-352, 1994)によって開示されている。
【0061】
本発明のある態様において、流動通路および/またはマイクロ流体チャネルは、グリセロール溶液などの比較的粘度の高い水溶液を含有してもよい。このような粘度の高い溶液は、流動速度を遅くして、例えば、ヌクレオチドをナノ粒子に架橋するのに利用可能な反応時間を長くする働きをし得る。
【0062】
マイクロキャピラリー電気泳動装置を含むマイクロ流体装置のマイクロ加工は、例えば、Jacobsen et al.(Anal. Biochem, 209:278-283, 1994);Effenhauser et al. (Anal. Chem. 66: 2949-2953, 1994);Harrison et al. (Science 261: 895-897, 1993)および米国特許第5,904,824号に開示されている。これらの方法は、シリカ、シリコン、または他の結晶基板、またはチップへのミクロンスケールチャネルの標準的なフォトリトグラフィー、または集束イオンビーム技法、またはフォトリトグラフィーエッチングを使用して製造されるシリコンマスターを用いるマイクロ成形技法を含んでもよい。このような技法は開示されている方法および装置に使用するために容易に適合させることができる。本発明のいくつかの態様において、マイクロキャピラリーは、当技術分野において公知の技法を使用して、反応チャンバーを製造するために使用されるものと同じ材料から製造することができる。
【0063】
検出装置
本発明の種々の態様において、検出装置は、ラマン分光法によりヌクレオチドを検出し、定量するように設計されている。ラマン分光法によりマイクロモル濃度のヌクレオチドを検出する方法は当技術分野において公知である。(例えば、米国特許第5,306,403号;同第6,002,471号;同第6,174,677号を参照されたい)。1分子レベルでヌクレオチドを検出する例示的な方法は以下の実施例に開示されている。表面増強ラマン分光法(SERS)、表面増強共鳴ラマン分光法(SERRS)およびコヒーレント反ストークスラマン分光法(CARS)の変形物が開示されている。ラマン検出感度は、銀、金、白金、銅またはアルミニウム表面などの粗面金属表面に隣接する分子では106程度以上増強される。
【0064】
ラマン検出装置の非限定的な例は米国特許第6,002,471号に開示されている。励起ビームは、波長532 nmのNd:YAGダブル周波数レーザーまたは波長365 nmのTi:サファイアダブル周波数レーザーによって形成される。励起ビームは共焦点光学系および顕微鏡の対物レンズを通過して、流動通路および/またはフロー-スルーセルに集束される。ヌクレオチドからのラマン発光は顕微鏡の対物レンズおよび共焦点光学系によって回収されて、スペクトル分離のためのモノクロメーターに接続される。共焦点光学系は、バックグラウンド信号を低くするために、干渉フィルター、バリヤーフィルター、共焦点ピンホール、レンズおよびミラーの組み合わせを含む。標準的な全視野光学系ならびに共焦点光学系を使用することができる。ラマン発光信号は、信号の計数およびデジタル化のためにコンピュータにインターフェースで接続されている、アバランシェフォトダイオードを含むラマン検出装置によって検出される。
【0065】
単一光子計数モードで作動するガリウム-ヒ化物光電子増倍管(RCA Model C31034またはBurle Industries Model C3103402)を有するSpex Model 1403ダブル-グレーティング分光光度計を含む、ラマン検出装置の別の例は米国特許第5,306,403号に開示されている。励起源は、SpectraPhysics、Model 166社製の514.5 nmラインのアルゴン-イオンレーザーおよび647.1 nmラインのクリプトン-イオンレーザー(Innova 70、Coherent)を含む。
【0066】
別の励起源には、337 nmの窒素レーザー(Laser Science Inc.)および325 nmのヘリウム-カドミウムレーザー(Liconox)(米国特許第6,174,677号)、光発光ダイオード、Nd:YLFレーザーおよび/または種々のイオンレーザーおよび/または色素レーザーが挙げられる。励起ビームはバンドパスフィルター(Corion)を用いてスペクトル的に精製することができ、6×対物レンズ(Newport、Model L6X)を使用して流動通路および/またはフロー-スルーセルに集束することができる。ホログラフィックビームスプリッター(Kaiser Optical Systems, Inc., Model HB 647-26N18)を使用して、励起ビームと放射されるラマン信号の直角の幾何学を形成することによって、対物レンズを使用して、ヌクレオチドの励起およびラマン信号の回収の両方を実施することができる。ホログラフィックノッチフィルター(Kaiser Optical Systems, Inc.)を使用してレイリー散乱放射を少なくすることができる。別のラマン検出装置には、赤色-増強強化電荷結合素子(RE-ICCD)検出システム(Princeton Instruments)が装備されているISA HR-320分光器が挙げられる。フーリエ変換分光器(Michaelson干渉計に基づいている)、電荷注入素子、フォトダイオードアレイ、InGaAs検出装置、電子増倍形CCD、強化CCDおよび/またはフォトトランジスターアレイなどの他の種類の検出装置を使用することができる。
【0067】
通常のラマン散乱、共鳴ラマン散乱、表面増強ラマン散乱、表面増強共鳴ラマン散乱、コヒーレント反ストークスラマン分光法(CARS)、誘導ラマン散乱、逆ラマン分光法、誘導ラマン利得分光法、ハイパー-ラマン散乱、モレキュラーオプティカルレーザーエグザミナー(molecular optical laser examiner)(MOLE)またはラマンマイクロプローブまたはラマン顕微鏡または共焦点ラマンマイクロ分光法、三次元または走査型ラマン、ラマン飽和分光法、時間分解共鳴ラマン、ラマンデカップリング分光法またはUV-ラマン分光法を含むが、それに限定されるわけではない、任意の好適な形態または構成のラマン分光計または当技術分野において公知の関連の技法をヌクレオチドの検出に使用することができる。
【0068】
情報処理および制御システムおよびデータ解析
本発明のある態様において、核酸配列決定装置は情報処理システムを含み得る。開示されている方法および装置は、使用される種類の情報処理システムに限定されるわけではない。例示的な情報処理システムは、情報を通信するためのバスおよび情報を処理するためのプロセッサーを含むコンピュータを組み込むことができる。本発明の一態様において、プロセッサーは、Intel Corp. (Santa Clara, CA)社製のPentium(登録商標)IIファミリー、Pentium(登録商標)IIIファミリーおよびPentium(登録商標)4ファミリーのプロセッサーを含むが、それらに限定されるわけではないPentium(登録商標)ファミリーから選択される。本発明の代替的な態様において、プロセッサーはCeleron(登録商標)、Itanium(登録商標)、またはPentium Xeron(登録商標)プロセッサー(Intel Corp., Santa Clara, CA)であってもよい。本発明の種々の他の態様において、プロセッサーは、Intel(登録商標)IA-32またはIntel(登録商標)IA-64アーキテクチャなどのIntel(登録商標)アーキテクチャに基づいてもよい。または、他のプロセッサーを使用してもよい。情報処理および制御システムは、メモリー、ディスプレイ、キーボードおよび/または他の装置などの、当技術分野において公知の任意の周辺装置をさらに含み得る。
【0069】
本発明の特定の態様において、検出装置は情報処理システムに機能的に接続され得る。検出装置からのデータはプロセッサーによって処理され、データをメモリーに保存することができる。標準的なヌクレオチドの発光プロファイルのデータもメモリーに保存することができる。プロセッサーは、流動通路および/またはフロー-スルーセルのヌクレオチドの発光スペクトルを比較して、核酸分子から放出されるヌクレオチドの種類を同定することができる。メモリーは、核酸分子から放出されるヌクレオチドの配列も保存することができる。プロセッサーは検出装置からのデータを解析して、核酸の配列を決定することができる。情報処理システムはまた、バックグラウンド信号の差し引きおよび重複信号が検出される場合の「塩基-コール」決定などの標準的な手法を実施することもできる。
【0070】
開示されている方法はプログラムされたプロセッサーの制御下で実施することができるが、本発明の別の態様において、本発明の方法は、Field Programmable Gate Arrays(FPGA)、TTLロジックまたはApplication Specific Integrated Circuit(ASIC)などの任意のプログラム式またはハードコード式ロジックによって全てまたは部分的に実行することができる。さらに、開示されている方法はプログラム式汎用コンピュータ要素および/または特注ハードウェア要素の任意の組み合わせによって実施することができる。
【0071】
データ収集演算後、データは典型的にはデータ演算に報告される。解析演算を容易にするために、検出装置によって入手されるデータは、典型的には、上記に記載するものなどのデジタルコンピュータを使用して解析される。典型的には、コンピュータは、検出装置からのデータの受容および保存ならびに収集されたデータの解析および報告のために適当にプログラムされる。
【0072】
本発明のある態様において、特注設計されたソフトウェアパッケージを使用して、検出装置から入手されるデータを解析することができる。本発明の別の態様において、データ解析は、情報処理システムおよび入手可能な公開ソフトウェアパッケージを使用して実施することができる。DNA配列決定解析の入手可能なソフトウェアの非限定的な例には、PRISM(商標)DNA配列決定解析ソフトウェア(Applied Biosystems、Foster City、CA)、Sequencher(商標)パッケージ(Gene Codes、Ann Arbor、MI)およびウェブサイトwww.nbif.org/links/1.4.1.php においてNational Biotechnology Infomation Facilityから入手可能な種々のソフトウェアパッケージが挙げられる。
【0073】
実施例1:ヌクレオチドのラマン検出
方法と装置
非限定的な例において、ラマン検出装置の励起ビームは、近赤外波長(750〜950 nm)のチタン:サファイアレーザー(CoherentによるMira)または785 nmもしくは830 nmのガリウムアルミニウムヒ素ダイオードレーザー(Process InstrumentsによるPI-ECLシリーズ)によって発生させた。パルスレーザービームまたは連続ビームを使用した。励起ビームはダイクロイックミラー(Kaiser OpticalによるホログラフィックノッチフィルターまたはChromaもしくはOmega Opticalによる二色性干渉フィルター)によって反射され、回収されるビームと共線幾何学を形成することができる。反射したビームは顕微鏡対物(Nikon LUシリーズ)を通過し、標的分析物(ヌクレオチドまたはプリンもしくはピリミジン塩基)が位置するラマンアクティブな基板に集束した。
【0074】
分析物からのラマン散乱光線は同じ顕微鏡対物によって収集され、ダイクロイックミラーを通過してラマン検出器に達した。ラマン検出器は、集束レンズ、スペクトログラフおよびアレイ検出器を備えた。集束レンズは、スペクトログラフの入射スリットを介してラマン散乱光線を集束した。スペクトログラフ(Acton Research)は、波長によって光線を分散させるグレーティングを備えた。分散された光線はアレイ検出器 (RoperScientificによる背面照射型で、厚い空乏型のCCDカメラ) に画像を形成した。アレイ検出器は、データ転送および検出器機能の制御のためにコンピュータに接続されているコントローラ回路に接続した。
【0075】
表面増強ラマン分光法(SERS)では、ラマンアクティブ基板は、金属ナノ粒子または金属をコーティングしたナノ構造物からなった。LeeおよびMeisel(J. Phys. Chem., 86: 3391, 1982)の方法によってサイズが5〜200 nmの範囲の銀ナノ粒子を製造した。または、試料を顕微鏡対物の下方のアルミニウム基板に置いた。以下で考察の図面はアルミニウム基板上の固定試料内で収集した。検出される分子数は照射した試料の光学的な収集ボリュームによって決定された。
【0076】
SERSによって単一ヌクレオチドを検出する能力は、100 μmまたは200 μmのマイクロ流体チャネルを使用して確認することができる。本発明の種々の態様において、マイクロ流体チャネル(幅約5〜200μm)を介してヌクレオチドをラマンアクティブ基板に送達することができる。マイクロ流体チャネルは、Andersonら(「Fabrication of topologically complex three-dimensional microfluidic systems in PDMS by rapid prototyping」、Anal. Chem. 72: 3158-3164, 2000)に開示されている技法を使用して、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を成形することによって製造することができる。
【0077】
銀ナノ粒子の存在下においてSERSを実施する場合には、ヌクレオチド、プリンまたはピリミジン分析物をLiCl(最終濃度90μM)およびナノ粒子(最終濃度0.25 Mの銀原子)と混合した。室温の分析物溶液を使用してSERSデータを収集した。
【0078】
結果
上記に開示するシステムを使用して、ヌクレオシド一リン酸、プリン塩基およびピリミジン塩基をSERSによって分析した。表1は、関心対象の種々の分析物の現在の検出限界を示す。
【0079】
(表1)ヌクレオシド一リン酸、プリン、およびピリミジンのSERS検出
【0080】
条件はアデニンヌクレオチドのみに最適化した。LiCL(最終濃度90μM)は、アデニンヌクレオチドの最適なSERS検出を提供することが測定された。他のヌクレオチドの検出は、NaCl、KCl、RbClまたはCsClなどの他のアルカリ金属のハロゲン化物塩を使用することによって促進することができる。特許請求の範囲に記載されている方法は使用した電解質溶液に限定されず、MgCl、CaCl、NaF、KBr、LiI等などの他の種類の電解質溶液も有用となりうることが企図される。強いラマン信号を示さない電解質溶液はヌクレオチドのSERS検出ではわずかな干渉しか提供しないことを当業者は理解している。上記に開示されているラマン検出システムおよび方法は1分子のヌクレオチドおよびプリン塩基を検出し、同定することができたことを結果は実証している。これは、シングルヌクレオチドレベルにおける未標識ヌクレオチドのラマン検出の最初の報告である。
【0081】
実施例2:ヌクレオチド、プリンおよびピリミジンのラマン放射スペクトル
実施例1のプロトコールを、示した改良を加えて使用して関心対象の種々の分析物のラマン放射スペクトルを得た。図4は、表面増強が存在せず、ラマン標識を使用しない場合の4つのヌクレオシド一リン酸の各々の100 mM溶液のラマン放射スペクトルを示す。LiClは溶液に添加しなかった。100ミリ秒(msec)のデータ収集時間を使用した。低濃度のヌクレオチドは、収集時間を長くして検出することができる。励起は514 nmにおいて生じた。以下の図の各々は、785 nmの励起波長を使用した。図4に示すように、未増強ラマンスペクトルは、4つの未標識ヌクレオシド一リン酸の各々の特徴的な放射ピークを示した。
【0082】
図5は、LiClおよび銀ナノ粒子が存在する場合の1 nmのグアニン溶液のSERSスペクトルを示す。グアニンは、Nucleic Acid Chemistry、パート1、L. B. TownsendおよびR. S. Tipson(編)、Wiley-Interscience、New York、1978、に考察されているように、酸処理によってdGMPから得た。SERSスペクトルは、100ミリ秒のデータ収集時間を使用して得た。
【0083】
図6は、酸加水分解によってdCMPから得た10 nMのシトシン溶液のSERSスペクトルを示す。1秒の収集時間を使用してデータを収集した。
【0084】
図7は、dTMPの酸加水分解によって得た100 nMのチミン溶液のSERSスペクトルを示す。100ミリ秒の収集時間を使用してデータを収集した。
【0085】
図8は、dAMPの酸加水分解によって得た100 pMのアデニン溶液のSERSスペクトルを示す、データは1秒で収集した。
【0086】
図9は、dATP(下のトレース)およびフルオレセイン標識dATP(上のトレース)の500 nM溶液のSERSスペクトルを示す。dATP-フルオレセインは、Roche Applied Science(Indianapolis、IN)から購入した。図は、フルオレセイン標識によるSERS信号の強力な増加を示す。
【0087】
実施例3:ヌクレオチドおよび増幅産物のSERS検出
銀ナノ粒子形成
SERS検出に使用する銀ナノ粒子はLeeおよびMeisel(1982年)により製造した。18ミリグラムのAgNO3を100 mL(ミリリットル)の蒸留水に溶解し、加熱して煮沸した。10 mLの1%クエン酸ナトリウム溶液を10分かけてAgNO3溶液に滴加した。さらに1時間溶液を煮沸した。得られた銀コロイド溶液を冷却し、保存した。
【0088】
アデニンのSERS検出
ラマン検出システムは実施例1に開示するとおりとした。1 mLの銀コロイド溶液を2 mLの蒸留水で希釈した。希釈した銀コロイド溶液(160μL)(マイクロリットル)を、アルミニウムトレイ上で20μLの10 nM(ナノモル)アデニン溶液および40μLのLiCl(0.5モル)と混合した。LiClはアデニンのラマン増強剤として作用した。試料中のアデニンの最終濃度は、約100〜150フェムトリットルの検出容量において0.9 nMであり、推定60分子のアデニンを含有した。ラマン発光スペクトルは、785 nmの励起の励起源を使用して、収集時間100ミリ秒で収集した。図10に示すように、この手法は60分子のアデニンの検出を証明しており、強力な発光ピークが約833 nmおよび877 nmにおいて検出された。実施例1に考察するように、アデニンの1分子検出は開示されている方法および装置を使用して示された。
【0089】
ローリングサークル増幅
1ピコモル(pmol)のローリングサークル増幅(RCA)プライマーを0.1 pmolの環状1本鎖M13 DNA鋳型に添加した。混合物を1×T7ポリメラーゼ160緩衝液(20 mM(ミリモル)Tris-HCl、pH 7.5、10 mM MgCl2、1 mM ジチオスレイトール)、0.5 mM dNTPおよび2.5単位のT7 DNAポリメラーゼと共に37℃において2時間インキュベーションし、RCA産物を形成させた。DNAポリメラーゼを加えないで、同じ試薬を混合し、インキュベーションすることによって陰性対照を調製した。
【0090】
RCA産物のSERS検出
1μLのRCA産物および1μLの陰性対照試料をアルミニウムトレイに別個にスポットし、空気乾燥した。各スポットを5μLの1×PBS(リン酸緩衝生理食塩液)で洗浄した。洗浄を3回繰り返し、最後の洗浄後アルミニウムトレイを空気乾燥した。
【0091】
上記のように調製した1ミリリットルの銀コロイド溶液を2 mLの蒸留水で希釈した。希釈した銀コロイド溶液の8マイクロリットルを2μLの0.5 M LiClと混合し、アルミニウムトレイのRCA産物スポットに添加した。同じ溶液を陰性対照スポットに添加した。上記に開示するように、ラマン信号を収集した。図11に証明するように、RCA産物は、約833および877 nmの発光ピークでSERSによって検出可能であった。LiCl増強剤を用いるこのプロトコールの条件下において、アデニンの信号強度はグアニン、シトシンおよびチミンの信号強度より強い。陰性対照(示していない)は、増幅がない場合には信号が観察されなかったので、ラマン信号はRCA産物に特異的であることを示した。
【0092】
実施例4:核酸のエキソヌクレアーゼ消化
Sauer et al. (J. Biotech. 86: 181-201, 2001)によりエキソヌクレアーゼ処理を実施した。5'-ビオチン化オリゴヌクレオチドプライマーを使用して、5'末端がビオチンで標識されている1核酸分子を調製した。円錐形の3μmのシングル-モード光ファイバー(SMC-A0630B、Laser Components GmbH、Olching、Germany)を調製した。グラスファイバーをHFで化学的にエッチングして鋭い先端を形成する。3-メルカプトプロピルトリメトキシシランをコーティング後、先端をγ-マレインイミド酪酸N-ヒドロキシスクシンアミド(GMBS)で処理する。ファイバーの先端をストレプトアビジンで活性化して、ビオチン化DNAを結合させる。未結合のDNAを洗浄して除去する。
【0093】
1分子の結合DNAを含有する線維を、5μmのマイクロチャネルに取り付けられているPDMS反応チャンバーに挿入する。エキソヌクレアーゼIを反応チャンバーに添加して、ssDNAの切断を開始する。光トラッピングを使用することによって、エキソヌクレアーゼを反応チャンバーに限定する(例えば、Walker et al., FEBS Lett. 459: 39-42, 1999;Bennink et al., Cytometry 36: 200-208, 1999;Mehta et al., Science 283: 1689-95, 1999;Smith et al., Am. J. Phys. 67: 26-35, 1999)。光トラッピング装置はCell Robotics, Inc. (Albuquerque, NM)、S+L GmbH(Heidelberg, Germany)およびP. A. L. M. GmbH(Wolfratshausen, Germany)社製である。ヌクレオシド一リン酸は、エキソヌクレアーゼ消化によって放出され、実施例1に開示するように、マイクロ流体によって輸送させてラマン検出装置を通過する。90μM濃度のLiClを検出混合物に添加し、検出装置近くのマイクロ流体チャネルに、LeeおよびMeisel(1982年)により調製した銀ナノ粒子を充填する。銀ナノ粒子はラマン検出装置を通過して流動するとき検出されて、核酸配列決定を可能にする。
【0094】
実施例5:ラマン標識ヌクレオチドを使用する核酸配列決定
本発明のある態様は図1に例示されている。図1は、反応チャンバー11の固定表面14に結合され、分解反応において分解される個々の1本鎖核酸分子13を配列決定するための方法および装置10を例示する。本発明のこのような態様において、反応チャンバー11は、核酸分子13の未結合末端17から一度に1つのヌクレオチド16を逐次的に除去する1つまたは複数のエキソヌクレアーゼ15を含有する。
【0095】
ヌクレオチド16が放出されると、それらは流動通路12を移動して検出装置18を通過する。検出装置18は、励起ビーム20を放射するレーザーなどの励起源19を含む。励起ビーム20は、電子がより高いエネルギー状態に励起されるように放出されたヌクレオチド16と相互作用する。電子が低いエネルギー状態に戻ることによって生ずるラマン発光スペクトルを、スペクトロメーター、モノクロメーターまたはCCDカメラなどの電荷結合素子(CCD)などのラマンスペクトル検出装置21によって検出する。
【0096】
反応チャンバーおよび流動通路の調製
Blofloatガラスウェハー(Precision Glass & Optics、Santa Ana、CA)を濃HF(フッ化水素酸)中で短期間プレ-エッチングし、プラズマ励起化学的気相成長法(PECVD)システム(PEII-A、Technics West、のSan Jose、CA)でアモルファスシリコン犠牲層を蒸着する前に洗浄する。ウェハーをヘキサメチルジシラザン(HMDS)でプライミングし、フォトレジスト(Shipley 1818、Marlborough、MA)でスピン-コーティング、ソフト-ベーキングする。コンタクトマスクアライナー(Quintel Corp. San Jose、CA)を使用して、1つまたは複数のマスクデザインを有するフォトレジスト層を露出させ、露出されたフォトレジストをMicroposit現像液濃縮液(Shipley)と水の混合物を使用して除去した。現像したウェハーをハード-ベーキングし、露出したアモルファスシリコンを、PECVDリアクター内でCF4(四フッ化炭素)を使用して除去した。ウェハーを濃HFで化学的にエッチングして、反応チャンバー11および流動通路12を作製する。残りのフォトレジストを剥離し、アモルファスシリコンを除去する。これらの方法を使用して、約50〜100μmのマイクロチャネルを作製することができる。同様の径のチャネルは、マイクロチャネルの内側をコーティングして径を細くする、またはナノリトグラフィー、集束電子ビーム、集束イオンビームもしくは集束原子レーザー技法を使用するなどの公知の方法によって調製することができる。PDMSマイクロチャネルを作製する方法は上記に考察されている。
【0097】
ダイヤモンドドリルビット(Crystalite、Westerville、OH)を用いてアクセスホールをエッチングしたウェハーにあける。プログラム式真空炉において、エッチングし、穴をあけた2つの相補的なプレートを熱で接着することによって最終チップを調製する。反応チャンバー11および流動通路12を組み込んだチップを製造する別の例示的な方法は、米国特許第5,867,266号および同第6,214,246号に開示されている。本発明のある態様において、分子量カットオフ2,500のナイロンフィルターを反応チャンバー11と流動通路12の間に挿入して、エキソヌクレアーゼ15が反応チャンバー11から出ないようにする。
【0098】
Sambrook et al. (1989年)によりヒト染色体DNAを精製する。Bam H1による消化後、ゲノムDNA断片をpBluescript(登録商標)IIファージミドベクター(Stratagene, Inc.、La Jolla、CA)のマルチプルクローニングサイトに挿入して、大腸菌中で増殖させる。アンピシリン-含有アガロースプレートで平板培養後、単一コロニーを選択し、配列決定用に増殖する。ゲノムDNA挿入物の1本鎖DNAコピーをヘルパーファージの重感染によって取り出す。プロテイナーゼK:ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の溶液中で消化した後、DNAをフェノール抽出し、次いで酢酸ナトリウム(pH 6.5、約0.3 M)および0.8容量の2-プロパノールを添加して沈殿させる。DNAを含有するペレットをTris-EDTA緩衝液に再懸濁し、使用時まで-20℃で保存する。アガロースゲル電気泳動は精製DNAの単一のバンドを示す。
【0099】
ゲノムDNA挿入物の隣に配置されている公知のpBluescript(登録商標)配列に相補的なM13順方向プライマーをMidland Certified Reagent Company(Midland、TX)から購入する。オリゴヌクレオチドの5'末端に結合しているビオチン部分を含有するように、共有結合によりプライマー修飾する。(CH2)6スペーサーを介して、ビオチン基をプライマーの5'-リン酸塩に共有結合する。pBluescript(登録商標)ベクターから調製したssDNA鋳型分子にビオチン-標識プライマーをハイブリダイゼーションさせる。次いで、Dorre et al. (Bioimaging 5: 139-152, 1997)により、プライマー-鋳型複合体をストレプトアビジン-コーティングビーズ14に結合する。適当なDNA希釈倍率で、1つのプライマー-鋳型複合体を1つのビーズ14に結合する。1つのプライマー-鋳型複合体を含有するビーズ14を、配列決定装置10の反応チャンバー11に挿入する。
【0100】
プライマー-鋳型を修飾T7 DNAポリメラーゼ(United States Biochemical Corp.、Cleveland、OH)と共にインキュベーションする。反応混合物は、未標識デオキシアデノシン-5'-三リン酸(dATP)およびデオキシグアノシン-5'-三リン酸(dGTP)、ジゴキシゲニン-標識デオキシウリジン-5'-三リン酸(ジゴキシゲニン-dUTP)およびローダミン-標識デオキシシチジン-5'-三リン酸(ローダミン-dCTP)を含有する。37℃において2時間重合反応を進行させる。ジゴキシゲニンおよびローダミン標識核酸13の合成後、鋳型鎖を標識核酸13から分離し、鋳型鎖、DNAポリメラーゼおよび組み込まれていないヌクレオチドを洗浄して反応チャンバー11から除去する。
【0101】
エキソヌクレアーゼIII 15を反応チャンバー11に添加して、エキソヌクレアーゼ15活性を開始する。反応混合物はpH 8.0および37℃で維持する。ヌクレオチド16が核酸13の3'末端17から放出されると、それらはマイクロ流体によって流動通路12を輸送されて検出装置18を通過する。
【0102】
実施例6:ナノ粒子との共有結合を使用する核酸配列決定
本発明の別の例示的な態様を図2に開示する。ヌクレオチド130は、上記に考察するように、エキソヌクレアーゼ活性によって核酸から放出される。本発明のある態様において、ヌクレオチド130は未標識である。任意の器官、組織および/または細胞試料から直接精製されるか、または公知のクローニング方法によって入手される未標識核酸はエキソヌクレアーゼ処理を使用して配列決定することができる。放出されたヌクレオチド130はマイクロ流体チャネル110を移動する。
【0103】
放出されたヌクレオチド130を、LeeおよびMeisel (J. Phys. Chem. 86: 3391-3395, 1982)により調製した銀ナノ粒子と混合する。ナノ粒子はサイズ5〜200 nmである。ヌクレオチド130と接触させる前に、表面-修飾ナノ粒子140に、反応性リンカー化合物である3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GOP)などのシランをコーティングする。GOPは反応性の高い末端エポキシド基を含有する。シラン化したナノ粒子140をヌクレオチド130と混合し、ヌクレオチド130との共有結合による架橋を形成させる。ヌクレオチド-ナノ粒子複合体150はフロー-スルーセル170を通過し、ラマン検出装置180を使用してSERS、SERRSおよび/またはCARSによって同定される。ヌクレオチド130はナノ粒子140にかなり接近しているので、ラマン信号はかなり増強されて、フロー-スルーセル170を通過する1つのヌクレオチド130の検出を可能にする。
【0104】
実施例7:核酸配列決定装置
図3は本発明の別の例示的な態様を示す。DNA配列決定装置210は、流入チャネル230および流出チャネル240と流体内で連絡している反応チャンバー220を含む。流体の移動は、1つまたは複数の弁250を使用することによって制御することができる。マイクロ流体チャネル260も反応チャンバー220と流体内で連絡している。エキソヌクレアーゼ活性によって1つまたは複数の核酸から放出されるヌクレオチドは、マイクロ流体チャネル260を通過して反応チャンバー220を流出する。ヌクレオチドは、マイクロ流体チャネル260と流体内で連絡しているナノ粒子チャネル270を移動するナノ粒子と混合される。ヌクレオチドとナノ粒子の共有結合が結合チャネル280内で生じる。共有結合したヌクレオチド-ナノ粒子複合体はフロー-スルーセル290を通過して、ヌクレオチドがラマン検出装置300によって同定される。検出装置300はレーザー320およびラマン検出装置310を含む。レーザーは、フロー-スルーセル290内でヌクレオチドを励起する励起ビーム330を放射する。励起されたヌクレオチドは、ラマン信号を放射し、ラマン検出装置310によって検出される。
【0105】
本発明のある態様において、ナノ粒子はリサイクルチャンバー340で回収することができる。ナノ粒子は、例えば、酸溶液で化学的に処理し、洗浄して、結合ヌクレオチド、リンカー化合物、および任意の他の結合または吸着分子を除去することができる。ナノ粒子は、リサイクルチャネル360を介してナノ粒子容器370にリサイクルすることができる。本発明のいくつかの態様において、リサイクルチャネル360および/またはナノ粒子容器370内でGOPなどのリンカー化合物をナノ粒子にコーティングすることができる。廃液は、廃棄チャネル350を介してリサイクルチャンバー340から除去される。
【0106】
本明細書に開示され、主張されている全ての方法および装置は、本開示に鑑みて不用な実験を行わないで実施および実行することができる。主張されている主題の概念、精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載されている方法および装置に変更を適用することができることは当業者に明らかである。さらに具体的には、化学的および生理学的に関連のある特定の物質を本明細書に記載されている物質と交換することができるが、同じまたは同様の結果が得られるであろうことが明らかである。当業者に明らかなこのような同様の交換および改良は全て主張されている主題の精神、範囲および概念の範囲内であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
以下の図面は本願の一部を形成し、開示されている本発明の態様のある局面をさらに証明するために含まれている。本発明の態様は、これらの図面の1つまたは複数を、本明細書に提供する本発明の特定の態様の詳細な説明と合わせて参照することによってより良く理解することができる。
【図1】ラマン標識に共有結合されているヌクレオチド16を使用する例示的な装置10(実物大ではない)および核酸13配列決定方法を例示する。
【図2】放出されたヌクレオチド130が、表面増強ラマン分光法(SERS)180により検出される前に、ナノ粒子140に共有結合される例示的な装置100(実物大ではない)および核酸13配列決定方法を例示する。
【図3】核酸13配列決定のための別の例示的な装置210(実物大ではない)を例示する。
【図4】100ミリ秒のデータ収集時間を使用する、100 mM濃度の4つのデオキシヌクレオシド一リン酸(dNTP)全てのラマンスペクトルを示す。異なる種類のヌクレオチド各々の特徴的なラマン発光ピークを示している。データは表面増強またはヌクレオチドの標識を行わないで収集された。
【図5】Nucleic Acid Chemistry、Part 1、L. B. TownsendおよびR. S. Tipson(編)、Wiley-Interscience、New York、1978年により酸処理することによってdGMPから得られた1 nMグアニンのSERS検出を示す。
【図6】酸処理によってdCMPから得られた10 nMシトシンのSERS検出を示す。
【図7】酸処理によってdTMPから得られた100 nMチミンのSERS検出を示す。
【図8】酸処理によってdAMPから得られた100 pMアデニンのSERS検出を示す。
【図9】フルオレセインが共有結合しているデオキシアデノシン三リン酸(上のトレース)および未標識のdATP(下のトレース)の500 nM溶液のSERSスペクトルの比較を示す。dATP-フルオレセインはRoche Applied Science(Indianapolis、IN)から入手した。SERS信号の大きな増加がフルオレセイン標識dATPにおいて検出された。
【図10】アデニンの0.9 nM(ナノモル)溶液のSERS検出を示す。検出容量は100〜150フェムトリットルであり、推定60分子のアデニンを含有した。
【図11】1本鎖環状M13 DNA鋳型を使用するローリングサークル型増幅産物のSERS検出を示す。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明の方法および装置は分子生物学およびゲノミクスの分野に関する。さらに特に、本発明の方法および装置は核酸配列決定法に関する。
【0002】
関連出願
本願は、2002年3月14日提出の米国特許出願10/099,287号の一部係属出願;および2001年9月24日提出の米国特許出願09/962,555号の一部係属出願である。
【背景技術】
【0003】
背景
遺伝情報は、染色内に組織化された非常に長い分子のデオキシリボ核酸(DNA)の形態で保存されている。ヒトゲノムは約30億塩基のDNA配列を含有する。このDNA配列情報は各個人の多数の特徴を決定する。多数の一般的な疾病は少なくとも一部はDNA配列の変異に基づいている。
【0004】
ヒトゲノムの配列全体の決定はこのような疾病の遺伝子的な基礎を同定するための基盤を提供している。しかし、各疾病に関連する遺伝子の変異を同定するためには多大な研究を実施しなければならない。それは、その疾病を促進するDNA配列の特定の変化を同定するためには、このような各疾病を示している個人または家族の染色体部分のDNA配列決定を必要とすると思われる。遺伝情報を処理する際の中間分子であるリボ核酸(RNA)も、種々の疾病の遺伝子的な基礎を同定するために配列決定することができる。
【0005】
サイズによって分離された蛍光標識核酸の検出に基づいた、既存の核酸配列決定方法は、配列決定することができる核酸の鎖長による制限がある。典型的には、500〜1,000塩基の核酸配列しか一度に決定することができない。これは、鎖長が数万または場合によっては数十万の塩基であることもある遺伝子と呼ばれるDNAの機能単位の鎖長よりはるかに短い。現在の方法を使用すると、完全な遺伝子配列の決定は、遺伝子の多数のコピーを作製し、オーバーラップするフラフメントに切断して配列決定し、その後オーバーラップするDNA配列を完全な遺伝子に集成するということが必要である。この方法は面倒で、費用がかかり、効率が悪く、時間がかかる。それはまた、典型的には、安全性および廃棄物の処理の問題を生ずる可能性がある蛍光または放射性標識の使用を必要とする。
【0006】
さらに最近では、DNAチップの特定の位置に取り付けられた、規定の配列の短いオリゴヌクレオチドへのハイブリダイゼーションを含む核酸配列決定方法が開発された。このような方法は、短い核酸配列を推測するか、または試料中の特定の核酸の存在を検出するために使用することができるが、長い核酸配列の同定には好適ではない。
【発明の開示】
【0007】
例示的な態様の説明
開示されている方法および装置は、核酸の迅速な自動配列決定に有用である。本発明の特定の態様において、本発明の方法および装置は、長さが1,000を超える、2,000を超える、5,000を超える、10,000を超える、20,000を超える、50,000を超える、100,000を超えるまたは場合によってはそれ以上の塩基の非常に長い核酸分子の配列を得るのに好適である。従来技術の方法を上回る利点には、1回の配列決定操作において長い核酸配列を読むことができること、配列データを得る速度が速いこと、配列決定費用が削減されることおよび配列データ範囲あたりに必要なオペレーター時間の効率が大きいことが挙げられる。
【0008】
本発明の種々の態様において、配列情報は、1つの核酸分子を使用して、1回の配列決定操作の進行中に得ることができる。本発明の他の態様において、核酸配列を確認するため、または完全な配列データを得るために、核酸分子の多数のコピーを平行してまたは逐次的に配列決定することができる。本発明の別の態様において、配列情報の正確さを確認するために核酸分子およびその相補鎖を配列決定することができる。種々の態様において、配列決定される核酸は表面に共有結合または非-共有結合によって結合することができる。特定の態様において、例えば、エキソヌクレアーゼ処理によってヌクレオチドを表面-結合核酸から放出することができる。放出されたヌクレオチドは、例えば、マイクロ流体システムを介してラマン検出器に輸送され、核酸、エキソヌクレアーゼおよび/またはシステムの他の成分からのバックグラウンドラマン信号を伴わないで放出されたヌクレオチドを検出することができる。
【0009】
本発明のある態様において、配列決定される核酸はDNAであるが、RNAまたは合成ヌクレオチドアナログを含む他の核酸も配列決定し得ることが企図される。以下の詳細な説明は、本発明の開示されている態様のさらに完全な理解を提供するために、数多くの具体的な詳細を含有する。しかし、本発明の態様はこれらの具体的な詳細がなくても実施することができることは当業者に明らかである。他の例において、当技術分野において公知である装置、方法、手法および個々の要素は本明細書において詳細には記載されていない。
【0010】
本発明の種々の態様において、未標識ヌクレオチドは、例えば、表面増強ラマン分光法(SERS)、表面増強共鳴ラマン分光法(SERRS)、コヒーレント反ストークスラマン分光法(CARS)、または他の公知のラマン検出技法によるラマン分光法によって検出することができる。別の態様において、ラマン信号を増強するためにヌクレオチドをラマン標識に共有結合することができる。いくつかの態様において、標準的な核酸重合技法を使用して、標識ヌクレオチドを新たに合成される核酸鎖に組み入れることができる。典型的には、特定の配列のプライマーまたは1つまたは複数のランダムプライマーを鋳型核酸にハイブリダイゼーションさせる。ポリメラーゼおよび標識ヌクレオチドを添加すると、ラマン標識ヌクレオチドがプライマーの3'末端に共有結合して、配列が鋳型と相補的な標識核酸鎖が形成される。標識鎖は、例えば、約95℃に加熱することによってまたは他の公知の方法によって未標識鋳型から分離することができる。2本の鎖は当技術分野において公知の技法によって互いから分離することができる。例えば、プライマーオリゴヌクレオチドにビオチン残基を共有結合により修飾し、アビジンまたはストレプトアビジンコーティング面に結合することによって得られたビオチン化核酸を分離することができる。
【0011】
本発明の別の態様において、標識または未標識1本鎖核酸分子を1種以上のエキソヌクレアーゼで消化することができる。開示されている方法はエキソヌクレアーゼ自体に限定されるのではなく、核酸の少なくとも一方の末端からヌクレオチドを逐次的に除去することができる任意の酵素または他の試薬を使用することができることを当業者は理解している。本発明のある態様において、標識または未標識ヌクレオチドは核酸の3'末端から逐次的に放出される。核酸から分離されると、ヌクレオチドはラマン検出装置によって検出される。逐次的に検出されるヌクレオチドの情報を使用して、核酸の配列を蓄積する。核酸の3'末端から放出されるヌクレオチドは、マイクロ流体チャネルを介して輸送され、ラマン検出装置を通過することができる。特定の態様において、検出装置は、標識または未標識ヌクレオチドを1分子レベルで検出することができる。ラマン検出装置によるヌクレオチドの検出順序は、ヌクレオチドが核酸の3'末端から放出される順序と同じである。従って、核酸の配列は、放出されるヌクレオチドが検出される順序によって決定されうる。相補鎖が配列である場合には、鋳型鎖は標準的なワトソン-クリックの水素結合による塩基対形成により配列が相補的である(すなわち、DNAまたはRNAのどちらが配列決定されるかに応じて、A-TおよびG-CまたはA-UおよびG-C)。
【0012】
ある別の態様において、標識分子を検出装置の上流の反応チャンバーまたは流動通路に添加することができる。標識分子は、ヌクレオチドが核酸分子から放出されると遊離のヌクレオチドに結合して、標識する。この放出後標識化は、核酸分子のヌクレオチドが溶液中に放出される前に標識される場合に遭遇する問題を回避する。核酸分子に組み込まれる各ヌクレオチドがエキソヌクレアーゼ処理の前に標識されると、かさ高いラマン標識分子の使用が立体障害となることがあり、効率を低下し、配列決定反応に必要な時間を延長することがある。
【0013】
本発明のある態様において、4つの種類のヌクレオチドの各々を識別可能なラマン標識に結合することができる。本発明の他の態様において、プリンヌクレオチド(シトシンおよび/またはチミンおよび/またはウラシル)だけを標識することができる。例示的な一態様において、標識ヌクレオチドはビオチン-標識デオキシシチジン-5'-チオホスフェート(ビオチン-dCTP)およびジゴキシゲニン-標識デオキシウリジン-5'-チオホスフェオート(ジゴキシゲニン-dUTP)を含んでもよい。別の態様において、ヌクレオチドを標識せず、未標識ヌクレオチドがラマン分光法によって同定される。
【0014】
本発明の特定の態様において、ラマン信号は、ナノ粒子にヌクレオチドを共有結合することによって増強されうる。ナノ粒子は以下に考察するように調製することができ、公知の方法を使用して反応性の高い基、例えば、エポキシド基を結合することによって活性化することができる。例えば、ナノ粒子に3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GOP)をコーティングすることができる。GOPは反応性の高い末端エポキシド基を有する。エポキシドなどの反応性の高い基の使用は、ナノ粒子とヌクレオチドの間の迅速な共有結合の形成を可能にする。いくつかの態様において、エキソヌクレアーゼ活性によってヌクレオチドを核酸から放出し、次いでナノ粒子と反応させて共有結合の形成を可能にすることができる。種々の方法を使用して、ナノ粒子-ヌクレオチド複合体の前に共有結合が形成されるのに十分な時間を取ることができる。例えば、放出されたヌクレオチドおよび活性化されたナノ粒子を含有する溶液をマイクロ流体によって比較的長い流動通路に沿って輸送し、ヌクレオチド-ナノ粒子複合体がラマン検出装置を通過する前に、共有結合の形成を生じさせるのに十分な時間を取ることができる。流速は、粘度の高い流体、例えば、グリセロール液を使用することによってさらに低下することができる。粘度の高い液をマイクロ流体する方法は当技術分野において公知である。
【0015】
または、ナノ粒子を最初に核酸の3'末端に結合させる循環プロセスを使用することができる。ナノ粒子および結合したヌクレオチドは、エキソヌクレアーゼ活性または化学処理によって核酸の3'末端から放出されうる。例えば、末端ヌクレオチドを核酸に結合するホスホジエステル結合は酸または塩基による処理によって切断することができる。結合しているナノ粒子の電子-求引性により末端のホスホジエステル結合は特に切断を受けやすくなり、1回に1つのヌクレオチドの除去を可能にすることができる。放出後、別のナノ粒子が核酸の3'末端と反応し、プロセスは周期的に反復される。または、3'エキソヌクレアーゼを使用して、ヌクレオチド-ナノ粒子複合体を放出することができる。ナノ粒子とエキソヌクレアーゼ活性による立体障害は、反応性基(例えば、エポキシド)をナノ粒子に結合するためのリンカーアームを使用することによって回避することができる。末端ヌクレオチドの放出の前にナノ粒子が結合すると、共有結合形成のための十分な時間を取ることができると思われる。本発明の他の別の態様において、エキソヌクレアーゼ活性の反応速度を調節して、ヌクレオチドの放出速度およびナノ粒子への共有結合速度を対等にし得る。例えば、核酸およびエキソヌクレアーゼを含有する反応チャンバーは、0℃〜室温の低温に制御された温度であってもよい。適当な温度が決定されたら、エキソヌクレアーゼ活性によって放出されるヌクレオチドは流体通路に流入し、室温〜100℃の高温で反応性ナノ粒子と混合される。高温はヌクレオチドとナノ粒子の反応速度を増加すると思われる。種々の態様において、温度は約0℃〜5℃、5℃〜10℃、10℃〜15℃の範囲である。エキソヌクレアーゼ活性を調節するために15℃〜20℃または20℃〜25℃を使用することができる。ある態様において、温度は約20℃〜25℃、25℃〜30℃、30℃〜35℃であってもよい。ナノ粒子とヌクレオチドの共有結合形成速度を調節するために、35℃〜40℃、40℃〜45℃、45℃〜50℃、50℃〜55℃、55℃〜60℃、60℃〜65℃、65℃〜70℃、70℃〜75℃、75℃〜80℃または80℃〜95℃を使用することができる。エキソヌクレアーゼ活性の速度およびヌクレオチド-ナノ粒子架橋速度を調節するために反応速度を温度の関数としてアッセイし、適当な温度範囲を選択することは当技術分野における通常の技術範囲内である。
【0016】
本発明のいくつかの態様において、ナノ粒子は銀または金であるが、表面増強ラマン信号を提供することが公知の他の種類のナノ粒子も企図される。ナノ粒子は1つのナノ粒子であっても、ナノ粒子の凝集体であっても、または1つのナノ粒子と凝集したナノ粒子のいくつかの混合物であってもよい。ある態様において、リンカー化合物は、ヌクレオチドをナノ粒子に結合するために使用することができる。リンカー化合物は、長さが1〜100ナノメーター(nm)、2〜90 nm、3〜80 nm、4〜70 nm、5〜60 nm、10〜50 nm、15〜40 nmまたは20〜30 nmであってもよい。ある態様において、リンカー化合物は、長さが1〜50、1〜5、2〜10、10〜20 nm、または約5 nmであってもよい。他の態様において、リンカー化合物を使用して2つ以上のナノ粒子を一体として結合することができる。
【0017】
ナノ粒子-ヌクレオチド複合体は、フロー-スルーセルを通過して、ラマン検出装置を使用してSERS、SERRSおよび/またはCARSによって検出される。本発明のいくつかの別の態様において、ヌクレオチドは未修飾であってもよいが、他の別の態様において、ヌクレオチドは1つまたは複数のラマン標識で修飾されてもよい。ある態様において、各種類のヌクレオチドを識別可能なラマン標識に結合することができる。他の態様において、ピリミジンだけを標識することができる。
【0018】
定義
本明細書において使用する「a」または「an」は1つまたは複数の品目を意味することができる。
【0019】
本明細書において使用する「機能的に接続している」は、2つ以上の装置の間に機能的な相互作用があることを意味する。例えば、ヌクレオチドなどの分析物がフロー-スルーセルを通過するとき、検出装置がそれらを検出することができるように配置されている場合には、検出装置はフロー-スルーセルに「機能的に接続している」。
【0020】
「核酸」は、DNA、RNA、それらの1本鎖、2本鎖または3本鎖および任意の化学的修飾を含む。核酸の実質的に任意の修飾が企図される。本明細書において使用する1本鎖核酸は、接頭辞「ss」によって示すことができ、2本鎖核酸は接頭辞「ds」によって示すことができ、3本鎖核酸は「ts」によって示すことができる。「核酸」は、長さ10、20、30、40、50、60、75、100、150、200、250、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、6000、7000、8000、9000、10,000、15,000、20,000、30,000、40,000、50,000、75,000、100,000、150,000、200,000、500,000、1,000,000、1,500,000、2,000,000、5,000,000または場合によってはそれ以上長い塩基から完全長の染色体DNA分子までのほとんど任意の長さであってもよい。
【0021】
「ヌクレオチド」は、プリンまたははピリミジン塩基(アデニン-「A」、シトシン-「C」、グアニン-「G」、チミン-「T」またはウラシル-「U」)を含む分子、またはデオキシリボース、リボースまたは糖ペントースの誘導体もしくはアナログなどの糖ペントースに共有結合している任意の化学的修飾または構造的アナログである。
【0022】
「ヌクレオチド」は、糖ペントースに共有結合している少なくとも1つのリン酸基をさらに含むヌクレオシドをいう。本発明のいくつかの態様において、ヌクレオチドはリボヌクレオシド一リン酸またはデオキシリボヌクレオシド一リン酸であるが、ヌクレオシド二リン酸または三リン酸が生成されて検出されてもよいことが予想される。本発明の他の態様において、ヌクレオシドは核酸分子から放出されうる。種々の置換または修飾は、ポリメラーゼ活性によって核酸に組み込まれ、エキソヌクレアーゼまたは等価な試薬によって放出されうる限り、ヌクレオチドの構造に加えられてもよいことが企図される。1種または複数種のヌクレオチドに結合している1つまたは複数の標識に関係する本発明の態様において、標識は、塩基、糖もしくはリン酸基またはそれらのアナログなどのヌクレオチドの任意の部分に結合してもよい。「ヌクレオチド」および「標識ヌクレオチド」という用語は、ヌクレオチド-ナノ粒子複合体およびヌクレオチド-標識複合体などの全ての非-天然ヌクレオチド複合体を含むが、それに限定されるわけではない。
【0023】
「ラマン標識」は、合成分子、染料、フィコエリトリンなどの天然の顔料、C60、バッキーボールおよびカーボンナノチューブなどの有機ナノ構造物、金もしくは銀ナノ粒子などの金属ナノ構造物または量子ドットなどのナノプリズムおよびナノ-スケール半導体を含むが、それに限定されるわけではない検出可能なラマン信号を生ずることができる任意の有機または無機分子、原子、錯体または構造であってもよい。ラマン標識の数多くの例を以下に開示する。このような例は限定するものではないこと、および「ラマン標識」はラマン分光法によって検出することができる当技術分野において公知の任意の有機または無機原子、分子、化合物または構造物を含むことを当業者は理解している。
【0024】
核酸
配列決定される核酸は当技術分野において公知の任意の技法によって調製することができる。本発明のある態様において、核酸は天然のDNAまたはRNA分子である。染色体、ミトコンドリア、および葉緑体DNA、ならびにリボソーム、トランスファー、ヘテロ核、およびメッセンジャーRNA(mRNA)を含むが、それらに限定されるわけではない実質的に任意の天然の核酸を開示されている方法によって調製され、検出することができる。種々の形態の核酸を調製し単離する方法は公知である。(例えば、Guide to Molecular Cloning Techniques、BergerおよびKimmel編、Academic Press、New York、NY、1987;Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Sambrook、FritschおよびManiatis編、Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harbor、NY、1989年を参照されたい)。引用した参照文献に開示されている方法は例示的にすぎず、当技術分野において公知の任意の形態を使用することができる。1本鎖DNA(ssDNA)を配列決定することが予定されている場合には、ssDNAは任意の公知の方法によって2本鎖DNA(dsDNA)から調製することができる。このような方法は、dsDNAを加熱する段階および鎖を分離させる段階を含んでも、または別の方法として、M13へのクローニングなどの公知の増幅もしくは複製方法によってdsDNAからssDNAを調製する段階を含んでもよい。このような任意の公知の方法を使用してssDNAまたはssRNAを調製することができる。上記に考察するように、公知の技法を使用するビオチン標識およびアビジンまたはストレプトアビジンへの結合によって、2本鎖DNAの2本の鎖の一方を分離することができる。
【0025】
本発明のある態様は天然の核酸の調製に関するが、エキソヌクレアーゼまたは等価な試薬の基質として作用することができる、実質的に任意の種類の核酸が配列決定され得る。例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR(商標))増幅などの種々の増幅技法によって調製される核酸が配列決定され得る。(米国特許第4,683,195号、同第4,683,202号および同第4,800,159号を参照されたい)。または、配列決定する核酸を、プラスミド、コスミド、BAC(細菌人工染色体)またはYAC(酵母人工染色体)などの標準的なベクターにクローニングしてもよい。(例えば、BergerおよびKimmel, 1987;Sambrook et al., 1989を参照されたい)。核酸挿入物は、例えば、適当な制限エンドヌクレアーゼで切断し、次にアガロースゲル電気泳動によってベクターDNAから単離することができる。核酸挿入物を単離する方法は周知である。
【0026】
一核酸分子の単離
本発明のある態様において、配列決定される核酸分子は一分子のssDNAまたはssRNAである。例えば、流体力学的集束(hydrodynamic focusing)、ミクロマニュプレーターカップリング、光トラッピングまたはこれらの方法および同様の方法の組み合わせのような一核酸分子の種々の選択および操作方法を使用することができる。(例えば、Goodwin et al., 1996, Acc. Chem. Res. 29: 607-619;米国特許第4,962,037号;同第5,405,747号;同第5,776,674号;同第6,136,543号;同第6,225,068号を参照されたい)。
【0027】
本発明のある態様において、マイクロ流体光学またはナノ流体光学を使用して核酸分子を選別し、単離することができる。流体力学を使用して、マイクロチャネル、マイクロキャピラリーまたはマイクロポアへの核酸の移動を操作することができる。本発明の一態様において、流体力学的な力を使用して、核酸分子を移動させてくし状構造物を通過させ、一核酸分子を分離することができる。核酸分子が分離されたら、流体力学的集束を使用して分子を反応チャンバー内に位置決めすることができる。熱または電気ポテンシャル、圧力または真空を使用しても、核酸の操作のための推進力を提供することができる。本発明の例示的な態様において、配列決定するための核酸の操作は、微細加工チャネルを組み込んだチャネルブロックデザインおよび一体型ゲル材料の使用を含んでもよい(米国特許第5,867,266号および同第6,214,246号)。
【0028】
本発明の別の態様において、核酸を含有する試料は、固定表面に結合する前に希釈されてもよい。本発明の例示的な態様において、固定表面は、磁気もしくは非-磁気ビーズまたは他の別個の構造単位の形態であってもよい。適当な希釈において、各ビーズは0または1つの核酸分子を結合する統計的確率を有する。結合している核酸分子が1つのビーズは、例えば、蛍光染料およびフローサイトメーターによる選別または磁気的選別を使用して同定することができる。ビーズおよび核酸の相対的サイズおよび均一性に応じて、磁気フィルターおよび質量分離を使用して、結合している核酸分子が1つを含むビーズを分離することが可能となりうる。本発明の他の態様において、1つのビーズまたは他の固定表面に結合している多数の核酸を配列決定することができる。
【0029】
本発明の別の態様において、コーティングしたファイバーチップを使用して、配列決定するための核酸1分子を生成することができる(例えば、米国特許第6,225,068号)。他の別の態様において、固定表面は1分子のアビジンまたは他の架橋剤を含有するように調製することができる。このような表面は、配列決定するビオチン化核酸分子を1分子結合すると思われる。この態様はアビジン-ビオチン結合システムに限定されるのではなく、任意の公知のカップリングシステムに適合することができる。
【0030】
本発明の他の別の態様において、光トラップを、配列決定するための核酸部分子1分子の操作に使用することができる。(例えば、米国特許第5,776,674号)。例示的な光トラッピングシステムはCell Robotics, Inc. (Albuquerque, NM)、S+L GmbH(Heidelberg, Germany)およびP. A. L. M. Gmbh(Wolfratshausen, Germany)から購入可能である。
【0031】
ラマン標識
本発明のある態様は、検出装置による測定を容易にするためにヌクレオチドに標識を結合することを含んでもよい。ラマン分光法に使用することができると思われる標識の非限定的な例には、TRIT(テトラメチルローダミンイソチオール)、NBD(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール)、テキサスレッド染料、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、クレシルバイオレット、クレシルブルーバイオレット、ブリリアントクレシルブルー、パラ-アミノ安息香酸、エリスロシン、ビオチン、ジゴキシゲニン、5-カルボキシ-4',5'-ジクロロ-2',7'-ジメトキシフルオレセイン、5-カルボキシ2',4',5',7'-テトラクロロフルオレセイン、5-カルボキシフルオレセイン、5-カルボキシローダミン、6-カルボキシローダミン、6-カルボキシテトラメチルアミノフタロシアニン、アゾメチン、シアニン、キサンチン、スクシニルフルオレセインおよびアミノアクリジンが挙げられる。これらおよび他のラマン標識は商業的供給源(例えば、Molecular Probes, Eugene, OR)から入手することができる。
【0032】
当技術分野において公知であるように、多環式芳香族化合物はラマン標識として機能することができる。本発明の特定の態様に有用となりうる他の標識には、シアニド、チオール、塩素、臭素、メチル、リンおよび硫黄が挙げられる。本発明のある態様において、カーボンナノチューブはラマン標識として有用となりうる。ラマン分光法における標識の使用は公知である(例えば、米国特許第5,306,403号および同第6,174,677号)。使用するラマン標識は識別可能なラマンスペクトルを形成するはずであり、異なる種類のヌクレオチドに特異的に結合または関連することができることを当業者は理解している。
【0033】
標識はヌクレオチドに直接結合してもまたは種々のリンカー化合物を介して結合されてもよい。開示されている方法に有用な架橋試薬およびリンカー化合物を以下にさらに記載する。または、ラマン標識に共有結合されているヌクレオチドが標準的な商業的供給源から入手可能である(例えば、Roche Molecular Biochemicals、Indianapolis、IN;Promega Corp.、Madison、WI;Ambion, Inc.、Austin、TX;Amersham Pharmacia Biotech、Piscataway、NJ)。ヌクレオチドなどの他の分子に共有結合により反応するように設計されている反応性基を含有するラマン標識は購入可能である(例えば、Molecular Probes、Eugene、OR)。標識ヌクレオチドを調製し、核酸にそれらを組み込む方法は公知である(例えば、米国特許第4,962,037号;同第5,405,747号;同第6,136,543号;同第6,210,896号)。
【0034】
ナノ粒子
本発明のある態様は、ヌクレオチドから得られるラマン信号を増強するためにナノ粒子を使用することを含む。本発明のいくつかの態様において、ナノ粒子は銀または金ナノ粒子であるが、表面増強ラマン分光法(SERS)信号を提供することができる任意のナノ粒子を使用することができる。本発明の別の態様において、ナノ粒子はナノプリズムであってもよい(Jin et al., Science 294: 1902-3, 2001)。本発明の種々の態様において、径1 nm〜2マイクロメートル(μm)のナノ粒子を使用することができる。本発明の別の態様において、径2 nm〜1μm、5 nm〜500 nm、5 nm〜200 nm、10 nm〜200 nm、20 nm〜100 nm、30 nm〜80 nm、40 nm〜70 nmまたは50〜60 nmのナノ粒子が企図されている。本発明のある態様において、10〜50 nm、50〜100 nmまたは約100 nmの平均径のナノ粒子が企図されている。ナノ粒子は形状がほぼ球形、棒状、とげ状、切子面状、またはとんがり状であってもよいが、任意の形状または不規則な形状のナノ粒子を使用することができる。ナノ粒子を製造する方法は公知である(例えば、米国特許第6,054,495号;同第6,127,120号;同第6,149,868号;Lee and Meisel, J. Phys. Chem. 86: 3391-3395, 1982;Jin et al., 2001)。ナノ粒子は商業的供給源(例えば、Nanoprobes Inc.、Yaphank、NY;Polysciences, Inc.、Warrington、PA)からも入手することができる。
【0035】
本発明のある態様において、ナノ粒子は1つのナノ粒子および/またはナノ粒子のランダム凝集物(コロイドナノ粒子)であってもよい。本発明の他の態様において、ナノ粒子は架橋されて、ダイマー、トリマー、テトラマーまたは他の凝集物などのナノ粒子の特定の凝集物を形成することができる。別のある態様は異なるサイズの凝集物の不均一な混合物を使用することができるが、別の他の態様は均質な集団のナノ粒子を使用することができる。ある態様において、選択した数のナノ粒子(ダイマー、トリマー等)を含有する凝集物を、スクロース溶液中での超遠心分離法などの公知の技法によって濃縮または精製することができる。本発明の種々の態様において、サイズが約100、200、300、400、500、600、700、800、900〜1000 nmまたはそれより大きいナノ粒子凝集物が企図されている。
【0036】
ナノ粒子を架橋する方法は公知である(例えば、Feldheim、「Assembly of metal nanoparticles arrays using molecular bridges」、The Electrochemical Society Interface、2001年秋、22〜25ページ)。例えば、末端チオールまたはスルフヒドリル基を有する二官能性リンカー化合物を使用して、金ナノ粒子を架橋することができる。金ナノ粒子と反応すると、リンカーは、リンカーの長さによって分離されるナノ粒子ダイマーを形成する。本発明の他の態様において、3、4、またはそれ以上のチオール基を有するリンカーを使用して、多数のナノ粒子に同時に結合することができる(Feldheim, 2001)。リンカー化合物に対して過剰量のナノ粒子を使用すると、多重架橋の形成およびナノ粒子の沈降が防止される。銀ナノ粒子の凝集物は、当技術分野において公知の標準的な合成方法によって形成することができる。
【0037】
本発明の別の態様において、ナノ粒子がリンカー化合物に結合する前に、種々の反応性基を含有するようにナノ粒子を修飾することができる。Nanoprobes, Inc.(Yaphank, NY)社製のNanogold(登録商標)ナノ粒子などの修飾ナノ粒子は購入可能である。ナノ粒子あたり1つまたは多数のマレイミド、アミンまたは他の基が結合されているNanogold(登録商標)ナノ粒子を入手することができる。Nanogold(登録商標)ナノ粒子はまた正または負に荷電した形態でも入手可能である。このような修飾ナノ粒子を種々の公知のリンカー化合物に結合して、ナノ粒子のダイマー、トリマーまたは他の凝集物を提供することができる。
【0038】
溶液中で沈降しないナノ粒子の小さい凝集物を形成する限り、使用されるリンカー化合物の種類は限定されない。本発明のいくつかの態様において、リンカー基はフェニルアセチレンポリマーを含んでもよい(Feldheim, 2001)。または、リンカー基は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルピロリドン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアクリルアミド、ポリエチレンまたは他の公知のポリマーを含んでもよい。有用なリンカー化合物はポリマーに限定されるのではなく、シラン、アルカン、シラン誘導体またはアルカン誘導体などの他の種類の分子も含んでもよい。
【0039】
本発明の種々の態様において、ナノ粒子はヌクレオチドに共有結合されうる。本発明の別の態様において、ヌクレオチドはナノ粒子に直接結合されても、またはナノ粒子に共有結合もしくは非-共有結合により結合されているリンカー化合物に結合されてもよい。本発明のこのような態様では、2つ以上のナノ粒子を一体として架橋するのではなく、リンカー化合物を使用して、ヌクレオチドをナノ粒子またはナノ粒子凝集物に結合することができる。本発明の特定の態様において、ナノ粒子にシラン誘導体をコーティングすることができる。標準的な方法を使用して、このような修飾シランをヌクレオチドに共有結合により結合することができる。以下に考察する表面に核酸を架橋するために公知の種々の方法を使用しても、ナノ粒子にヌクレオチドを結合することができる。ヌクレオチドを結合するために使用されるリンカー化合物は、約0.05、0.1、0.2、0.5、0.75、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、27、30、35、40、45、50、55、60、65、60、80、90から100 nmの範囲のほとんど任意の長さ、またはさらに長い長さであってもよいことが企図されている。本発明のある態様は種々の長さのリンカーを使用することができる。
【0040】
本発明の他の態様において、ヌクレオチドをナノ粒子の表面に吸着してもまたはナノ粒子に近接近させてもよい(約0.2〜1.0 nm)。ナノ粒子へのヌクレオチドの共有結合は、SERS、SERRSまたはCARSによる増強ラマン信号を形成するために必要ないことを当業者は理解している。
【0041】
本発明のいくつかの態様において、ヌクレオチドは、マイクロ流体チャネルを移動するときナノ粒子に結合してヌクレオチド-ナノ粒子複合体を形成することができる。本発明のある態様において、架橋反応が生じるために利用可能な時間の長さを制限することができる。このような態様は、エポキシド基、アジド基、アリールアジド基、トリアジン基またはジアゾ基などの反応速度が迅速な反応性の高い架橋基を使用することができる。本発明のある態様において、レーザーなどの強烈な光線に曝露することによって架橋基を光活性化することができる。例えば、ジアゾまたはアジド化合物の光活性化により、それぞれ、反応性の高いカルベンおよびニトレン部分が形成される。ある態様において、反応性基は、ナノ粒子を互いに架橋するのではなく、ナノ粒子をヌクレオチドに結合することだけを可能にするように選択することができる。ヌクレオチドに結合することができる反応性架橋基の選択および調製は当技術分野において公知である。本発明の別の態様において、ヌクレオチド自体が、例えば、金ナノ粒子に結合することができるスルフヒドリル基で共有結合により修飾されてもよい。
【0042】
本発明のある態様において、ナノ粒子は、マイクロ流体工学、ナノ流体工学、流体力学的集束または電気-浸透などの当技術分野において公知の任意の方法によってマイクロ流体チャネルに操作されうる。いくつかの態様において、荷電リンカー化合物または荷電ナノ粒子を使用すると、電気勾配の使用によるナノ粒子の相互作用を容易にすることができる。
【0043】
核酸の固定
本発明のある態様において、1つまたは複数の核酸分子を、機能化ガラス、シリコン、ケイ酸塩、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、銀または他の金属コーティング表面、石英、プラスチック、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PVP(ポリビニルピロリドン)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアクリルアミド、ラテックス、ナイロン、ニトロセルロース、ガラスビーズ、磁気ビーズ、核酸分子と共有結合を形成することができるニトレン、カルベンおよびケチル基などの光反応性種を含有するフォトポリマー(米国特許第5,405,766号および同第5,986,076号を参照されたい)、または表面に組み込まれているアミノ、カルボキシル、チオール、ヒドロキシルなどの官能基もしくはディールス-アルダー反応体を有することができる当技術分野において公知の他の任意の物質などの表面に結合することができる。
【0044】
本発明のいくつかの態様において、表面の官能基は、核酸分子およびエキソヌクレアーゼおよび/またはポリメラーゼ間の結合相互作用が立体障害を伴わないで生じうるように架橋化合物に共有結合により結合することができる。典型的な架橋基にはエチレングリコールオリゴマーおよびジアミンが挙げられる。結合は共有結合または非-共有結合によってもよい。表面に核酸分子を結合する種々の方法が当技術分野において公知であり、使用することができる。本発明のある態様において、核酸分子を適所に固定し、放出されるヌクレオチドを輸送して検出装置を通過させる流動通路および/またはマイクロ流体チャネルのマイクロ流体に沈める。非限定的な例において、マイクロ流体は、流動通路および/またはマイクロ流体チャネルを通過する溶媒の大規模な流動によって生じうる。
【0045】
本発明の別の態様において、大容量媒体はゆっくりとしか移動しないかまたは全く移動しないが、(負に荷電したヌクレオチドなどの)溶液内の荷電種が、外部から適用される電場に応答して流動通路および/またはマイクロ流体チャネルを移動する。
【0046】
核酸分子の固定は種々の公知の方法によって実施することができる。本発明の例示的な態様において、固定は表面にストレプトアビジンまたはアビジンをコーティングし、その後ビオチン化した核酸を結合することによって実施することができる(Holmstrom et al., Anal. Biochem. 209: 278-283, 1993)。固定はまた、シリコン、ガラスまたは他の表面にポリ-L-Lys(リジン)またはポリ-L-Lys, Phe(フェニルアラニン)をコーティングし、次に二官能性架橋試薬を使用してアミノ-またはスルフヒドリル-修飾核酸を共有結合することによっても実施することができる(Running et al., BioTechniques 8: 276:-277, 1990;Newton et al., Nucleic Acids Res. 21: 1155-62, 1993)。アミノシランを使用することによってアミン残基を表面にコーティングすることができる。
【0047】
固定は、化学的に修飾された表面に5'-リン酸化核酸を直接共有結合することによって実施することができる(Rasmussen et al., Anal. Biochem. 198: 138-142, 1991)。核酸と表面の間の共有結合は水溶性カルボジイミドとの縮合によって形成することができる。この方法は、主に、5'-リン酸塩を介する核酸の5'-結合を促進する。
【0048】
DNAは、通常、最初にガラス表面をシラン処理し、次いでカルボジイミドまたはグルタルアルデヒドで活性化することによってガラスに結合される。別の手法は、分子の3'または5'末端に組み込まれているアミノリンカーを介してDNAが結合される3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GOP)またはアミノプロピルトリメトキシシラン(APTS)などの試薬を使用することができる。DNAは、紫外線照射を使用して膜表面に直接結合することができる。核酸の固定技法の非限定的な他の例は米国特許第5,610,287号、同第5,776,674号および同第6,225,068号に開示されている。
【0049】
二官能性架橋試薬は、核酸分子を表面に結合するなどの本発明の種々の態様において有用となりうる。二官能性架橋試薬は、アミノ、グアニジノ、インドールまたはカルボキシル特定基のような官能基の特異性により分類することができる。分子を架橋する例示的な方法は米国特許第5,603,872号および同第5,401,511号に開示されている。架橋試薬には、グルタルアルデヒド(GAD)、二官能性オキシラン(OXR)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDE)および1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)などのカルボジイミドが挙げられる。
【0050】
核酸合成
ポリメラーゼ
本発明のある態様は、プライマー分子にDNAポリメラーゼなどの合成試薬を結合する段階およびプライマーの3'末端にラマン標識したヌクレオチドを付加する段階を含む。ポリメラーゼの非限定的な例には、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素およびRNA-依存性RNAポリメラーゼが挙げられる。「プルーフリーディング」活性ならびにプライマーおよびプロモーター配列の必要性の有無に関するこれらのポリメラーゼ間の差は当技術分野において公知である。RNAポリメラーゼがポリメラーゼとして使用される場合、配列決定される鋳型分子は2本鎖DNAであってもよい。ポリメラーゼの非限定的な例には、テルモトガ マリチマ(Thermatoga maritima)DNAポリメラーゼ、AmplitaqFS(商標)DNAポリメラーゼ、Taquenase(商標)DNAポリメラーゼ、ThermoSequenase(商標)、Taq DNAポリメラーゼ、Qbeta(商標)レプリカーゼ、T4 DNAポリメラーゼ、高度高熱菌 DNAポリメラーゼ、RNA-依存性RNAポリメラーゼおよびSP6 RNAポリメラーゼが挙げられる。
【0051】
Pwo DNAポリメラーゼ(Boehringer Mannheim Biochemicals, Indianapolis, IN);Bst ポリメラーゼ(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA);IsoTherm(商標)DNAポリメラーゼ(Epicentre Technologies, Madison, WI);モロニーマウス白血病ウイルス逆転写酵素、Pfu DNAポリメラーゼ、トリ骨髄芽球症逆転写酵素、テルムス フラブス(Thermus flavus)(Tfl) DNAポリメラーゼおよびテルモコッカス リトラリス(Thermococcus litoralis)(Tli) DNAポリメラーゼ(Promega Corp., Madison, WI);RAV2逆転写酵素、HIV-1逆転写酵素、T7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ、SP6 RNAポリメラーゼ、大腸菌(E. coli) RNAポリメラーゼ、テルムス アクアティカス(Thermus aquaticus) DNAポリメラーゼ、T7 DNAポリメラーゼ+/-3'→5'エキソヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼIのクレノー断片、テルムス 「ユビキトウス」(Thermus 「ubiquitous」)DNAポリメラーゼおよびDNAポリメラーゼI(Amersham Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ)を含む、数多くのポリメラーゼが購入可能である。標識ヌクレオチドの鋳型依存的重合を行うことができる当技術分野において公知の任意のポリメラーゼを使用することができる(例えば、Goodman and Tippin, Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 1(2): 101-9, 2000;米国特許第6,090,589号を参照されたい)。標識ヌクレオチドから核酸を合成するためにポリメラーゼを使用する方法は公知である(例えば、米国特許第4,962,037号;同第5,405,747号;同第6,136,543号;同第6,210,896号)。
【0052】
プライマー
一般に、プライマーは長さが10〜20塩基であるが、さらに長いプライマーも使用することができる。本発明のある態様において、プライマーは、配列が鋳型核酸分子の公知の部分に相補的であるように設計されている。例えば、公知の一定の染色体配列に隣接する配列変異を同定するためにプライマーが選択される場合、公知の核酸配列が公知の配列のベクターに挿入される場合、または未変性の核酸が部分的に配列決定されている場合には、公知のプライマー配列を使用することができる。任意の配列のプライマーの合成方法は公知である。本発明の他の態様は、公知のプライマー-結合部位が存在しない場合に核酸を配列決定する段階を含む。このような場合には、重合を開始するためにランダムヘキサマーまたはランダムオリゴマーなどのランダムプライマーを使用することが可能となりうる。
【0053】
核酸消化
本発明のある態様において、核酸を配列決定する方法は、核酸分子の遊離末端にエキソヌクレアーゼまたは等価な試薬を結合する段階およびヌクレオチドを1回に1つ除去する段階を含む。有用であると思われる核酸消化酵素の非限定的な例には、大腸菌 エキソヌクレアーゼI、III、V、またはVII、Bal 31エキソヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼ、S1ヌクレアーゼ、大腸菌 DNAポリメラーゼIホロ酵素またはクレノー断片、RecJ、エキソヌクレアーゼT、T4またはT7 DNAポリメラーゼ、Taqポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼT7遺伝子6、ヘビ毒ホスホジエステラーゼ、脾臓ホスホジエステラーゼ、サーモコッカスリトラリス(Thermococcus litoralis) DNAポリメラーゼ、パイロコッカス種 GB-D DNAポリメラーゼ、ラムダエキソヌクレアーゼ、黄色ブドウ球菌 ミクロコッカスヌクレアーゼ、DNase I、リボヌクレアーゼA、T1ミクロコッカスヌクレアーゼ、または当技術分野において公知の他のエキソヌクレアーゼが挙げられる。エキソヌクレアーゼは、New England Biolabs(Beverly, MA)、Amersham Pharmacia Biotech(Piscataway, NJ)、Promega(Madison, WI)、Sigma Chemicals(St. Louis, MO)またはBoehringer Mannheim(Indianapolis, IN)などの商業的供給源から入手可能である。
【0054】
エキソヌクレアーゼ活性を有する酵素は、核酸分子の5'末端、3'末端またはどちらかの末端からヌクレオチドを除去することができることを当業者は理解している。それらはRNA、DNA、またはRNAおよびDNAの両方に対する特異性を示し得る。それらの活性は1本鎖または2本鎖核酸の使用に依存しうる。それらは、塩濃度、温度、pHまたは2価陽イオンによって影響が異なることがある。エキソヌクレアーゼのこれらの特性および他の特性は当技術分野において公知である。本発明のある態様において、検出装置によるヌクレオチド分析の最適な速度に一致するように、エキソヌクレアーゼ活性の速度を操作することができる。反応チャンバー内の温度、圧力、pH、塩または2価陽イオン濃度の調節を含む、種々の方法が、エキソヌクレアーゼ活性の速度を調節するために公知である。
【0055】
ヌクレオシド一リン酸は、一般に、エキソヌクレアーゼ活性によって核酸から放出されるが、本発明の態様は遊離のヌクレオチドまたはヌクレオシドの任意の特定の形態の検出に限定されるのではなく、核酸から放出されうる任意のモノマーを含む。
【0056】
反応チャンバーおよび集積チップ
本発明のいくつかの態様は、水性環境に固定表面、核酸分子、エキソヌクレアーゼおよびヌクレオチドを含有するように設計されている反応チャンバーを含む装置に関する。本発明のいくつかの態様において、反応チャンバーは、例えば、ペルティエ素子を組み込むことによってまたは当技術分野において公知の他の方法によって温度制御することができる。低容積の液体の温度を制御する方法は公知である。(例えば、米国特許第5,038,853号、同第5,919,622号、同第6,054,263号および同第6,180,372号を参照されたい)。
【0057】
本発明のある態様において、反応チャンバーおよび廃棄ポート、核酸ロード用ポート、ナノ粒子容器、エキソヌクレアーゼ供給源または他の流体コンパートメントに接続を提供する関連する任意の流体チャネル、例えば、流動通路、マイクロ流体チャネルまたはチャネルは、コンピュータチップ製造および/またはマイクロキャピラリーチップ製造分野において公知のバッチ製造工程において製造される。本発明のいくつかの態様において、反応チャンバーおよび流動通路および/またはマイクロ流体チャネルなどの装置の他の要素は1つの一体型チップとして製造することができる。このようなチップは、フォトリトグラフィーおよびエッチングなどの当技術分野において公知の方法によって製造することができる。しかし、製造方法は限定されるものではなく、レーザー切断、射出成形、鋳造、分子線エピタキシャル、ディップ-ペンナノリトグラフィー、化学的蒸着(CVD)製造、電子ビームもしくは集束イオンビーム技術またはインプリンティング技法などの当技術分野において公知の他の方法を使用することができる。ナノエレクトロメカニカルシステムを製造する方法を本発明のある態様に使用することができる。(例えば、Craighead, Science 290: 1532-36, 2000を参照されたい)。マイクロ加工チップは、例えば、Caliper Technologies Inc.(Mountain View, CA)およびACLARA BioSciences Inc. (Mountain View, CA)から購入可能である。
【0058】
検出装置によるヌクレオチドの検出を容易にするために、物質を含む流動通路またはフロー-スルーセルは、検出装置に使用される励起および発光周波数の電磁放射線に対して透明であるように選択することができる。一般に、ラマン分光法に使用される波長において透明であるガラス、シリコンおよび他の任意の材料を使用することができる。本発明のいくつかの態様において、検出装置の反対側の流動通路またはフロー-スルーセルの表面は、検出装置に対して相対的に不透明である銀、金、白金、銅、アルミニウムまたは他の材料がコーティングされていてもよい。その位置では、不透明な材料は、例えば、SERSによるラマン信号を増強するが、検出装置の機能を妨害しないように利用可能である。または、流動通路またはフロー-スルーセルは、メッシュを含む銀、金、白金、銅、アルミニウムまたはラマン信号増強作用のある他の金属を含有してもよい。本発明の他の別の態様において、流動通路またはフローサイトメトリーは金属ナノ粒子を含有してもよい。
【0059】
流動通路およびマイクロ流体チャネル
本発明のある態様において、核酸から放出されるヌクレオチドは流動通路および/またはマイクロ流体チャネルへ移動され検出装置を通過する。ヌクレオチドを輸送するための技法の非限定的な例にはマイクロ流体技法が挙げられる。流動通路および/またはマイクロ流体チャネルはマイクロキャピラリー(例えば、ACLARA BioSciences Inc., Mountain View, CA社製)または液体集積回路(例えば、Caliper Technologies Inc., Mountain View, CA)を含んでもよい。マイクロチャネル流動通路は径約5〜200μm、約5、10、15、20、25、30、40、45、50、55、60、65、70、75、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190または200μmの径であってもよい。
【0060】
本発明のある態様において、検出されるヌクレオチドは、溶媒のまとまった流動によって流動通路および/またはマイクロ流体チャネルを移動する。本発明の他の態様において、マイクロキャピラリー電気泳動を使用して、ヌクレオチドを流動通路および/またはマイクロ流体チャネルに沿って輸送することができる。マイクロキャピラリー電気泳動は、一般に、特定の分離媒体が充填されていてもよい、細いキャピラリーまたはチャネルの使用を含む。負に荷電したヌクレオチドなど適当に荷電した分子種の電気泳動は、装置の反応チャンバー側が負および検出装置側が正に印加されている電場に応答して生じる。電気泳動は、マイクロキャピラリーに同時に添加される成分の混合物のサイズ分離に使用されることが多いが、核酸から逐次的に放出されるサイズがほぼ同じヌクレオチドを輸送するためにも使用することができる。プリンヌクレオチド(A、G)はピリミジンヌクレオチド(C、T、U)より大きく、移動が遅いと思われるので、流動通路および/またはマイクロ流体チャネルの長さおよび検出装置の対応する通過時間は、識別的な移動に核酸から放出されるヌクレオチドの順序の混同を生じないよう最小に維持することができる。または、流動通路および/またはマイクロ流体チャネルを通過するプリンおよびピリミジンヌクレオチドの移動速度がほぼ同じか、または同じになるように、マイクロキャピラリーに充填する媒体を選択することができる。マイクロキャピラリー電気泳動方法は、例えば、WoolleyおよびMathies (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 11348-352, 1994)によって開示されている。
【0061】
本発明のある態様において、流動通路および/またはマイクロ流体チャネルは、グリセロール溶液などの比較的粘度の高い水溶液を含有してもよい。このような粘度の高い溶液は、流動速度を遅くして、例えば、ヌクレオチドをナノ粒子に架橋するのに利用可能な反応時間を長くする働きをし得る。
【0062】
マイクロキャピラリー電気泳動装置を含むマイクロ流体装置のマイクロ加工は、例えば、Jacobsen et al.(Anal. Biochem, 209:278-283, 1994);Effenhauser et al. (Anal. Chem. 66: 2949-2953, 1994);Harrison et al. (Science 261: 895-897, 1993)および米国特許第5,904,824号に開示されている。これらの方法は、シリカ、シリコン、または他の結晶基板、またはチップへのミクロンスケールチャネルの標準的なフォトリトグラフィー、または集束イオンビーム技法、またはフォトリトグラフィーエッチングを使用して製造されるシリコンマスターを用いるマイクロ成形技法を含んでもよい。このような技法は開示されている方法および装置に使用するために容易に適合させることができる。本発明のいくつかの態様において、マイクロキャピラリーは、当技術分野において公知の技法を使用して、反応チャンバーを製造するために使用されるものと同じ材料から製造することができる。
【0063】
検出装置
本発明の種々の態様において、検出装置は、ラマン分光法によりヌクレオチドを検出し、定量するように設計されている。ラマン分光法によりマイクロモル濃度のヌクレオチドを検出する方法は当技術分野において公知である。(例えば、米国特許第5,306,403号;同第6,002,471号;同第6,174,677号を参照されたい)。1分子レベルでヌクレオチドを検出する例示的な方法は以下の実施例に開示されている。表面増強ラマン分光法(SERS)、表面増強共鳴ラマン分光法(SERRS)およびコヒーレント反ストークスラマン分光法(CARS)の変形物が開示されている。ラマン検出感度は、銀、金、白金、銅またはアルミニウム表面などの粗面金属表面に隣接する分子では106程度以上増強される。
【0064】
ラマン検出装置の非限定的な例は米国特許第6,002,471号に開示されている。励起ビームは、波長532 nmのNd:YAGダブル周波数レーザーまたは波長365 nmのTi:サファイアダブル周波数レーザーによって形成される。励起ビームは共焦点光学系および顕微鏡の対物レンズを通過して、流動通路および/またはフロー-スルーセルに集束される。ヌクレオチドからのラマン発光は顕微鏡の対物レンズおよび共焦点光学系によって回収されて、スペクトル分離のためのモノクロメーターに接続される。共焦点光学系は、バックグラウンド信号を低くするために、干渉フィルター、バリヤーフィルター、共焦点ピンホール、レンズおよびミラーの組み合わせを含む。標準的な全視野光学系ならびに共焦点光学系を使用することができる。ラマン発光信号は、信号の計数およびデジタル化のためにコンピュータにインターフェースで接続されている、アバランシェフォトダイオードを含むラマン検出装置によって検出される。
【0065】
単一光子計数モードで作動するガリウム-ヒ化物光電子増倍管(RCA Model C31034またはBurle Industries Model C3103402)を有するSpex Model 1403ダブル-グレーティング分光光度計を含む、ラマン検出装置の別の例は米国特許第5,306,403号に開示されている。励起源は、SpectraPhysics、Model 166社製の514.5 nmラインのアルゴン-イオンレーザーおよび647.1 nmラインのクリプトン-イオンレーザー(Innova 70、Coherent)を含む。
【0066】
別の励起源には、337 nmの窒素レーザー(Laser Science Inc.)および325 nmのヘリウム-カドミウムレーザー(Liconox)(米国特許第6,174,677号)、光発光ダイオード、Nd:YLFレーザーおよび/または種々のイオンレーザーおよび/または色素レーザーが挙げられる。励起ビームはバンドパスフィルター(Corion)を用いてスペクトル的に精製することができ、6×対物レンズ(Newport、Model L6X)を使用して流動通路および/またはフロー-スルーセルに集束することができる。ホログラフィックビームスプリッター(Kaiser Optical Systems, Inc., Model HB 647-26N18)を使用して、励起ビームと放射されるラマン信号の直角の幾何学を形成することによって、対物レンズを使用して、ヌクレオチドの励起およびラマン信号の回収の両方を実施することができる。ホログラフィックノッチフィルター(Kaiser Optical Systems, Inc.)を使用してレイリー散乱放射を少なくすることができる。別のラマン検出装置には、赤色-増強強化電荷結合素子(RE-ICCD)検出システム(Princeton Instruments)が装備されているISA HR-320分光器が挙げられる。フーリエ変換分光器(Michaelson干渉計に基づいている)、電荷注入素子、フォトダイオードアレイ、InGaAs検出装置、電子増倍形CCD、強化CCDおよび/またはフォトトランジスターアレイなどの他の種類の検出装置を使用することができる。
【0067】
通常のラマン散乱、共鳴ラマン散乱、表面増強ラマン散乱、表面増強共鳴ラマン散乱、コヒーレント反ストークスラマン分光法(CARS)、誘導ラマン散乱、逆ラマン分光法、誘導ラマン利得分光法、ハイパー-ラマン散乱、モレキュラーオプティカルレーザーエグザミナー(molecular optical laser examiner)(MOLE)またはラマンマイクロプローブまたはラマン顕微鏡または共焦点ラマンマイクロ分光法、三次元または走査型ラマン、ラマン飽和分光法、時間分解共鳴ラマン、ラマンデカップリング分光法またはUV-ラマン分光法を含むが、それに限定されるわけではない、任意の好適な形態または構成のラマン分光計または当技術分野において公知の関連の技法をヌクレオチドの検出に使用することができる。
【0068】
情報処理および制御システムおよびデータ解析
本発明のある態様において、核酸配列決定装置は情報処理システムを含み得る。開示されている方法および装置は、使用される種類の情報処理システムに限定されるわけではない。例示的な情報処理システムは、情報を通信するためのバスおよび情報を処理するためのプロセッサーを含むコンピュータを組み込むことができる。本発明の一態様において、プロセッサーは、Intel Corp. (Santa Clara, CA)社製のPentium(登録商標)IIファミリー、Pentium(登録商標)IIIファミリーおよびPentium(登録商標)4ファミリーのプロセッサーを含むが、それらに限定されるわけではないPentium(登録商標)ファミリーから選択される。本発明の代替的な態様において、プロセッサーはCeleron(登録商標)、Itanium(登録商標)、またはPentium Xeron(登録商標)プロセッサー(Intel Corp., Santa Clara, CA)であってもよい。本発明の種々の他の態様において、プロセッサーは、Intel(登録商標)IA-32またはIntel(登録商標)IA-64アーキテクチャなどのIntel(登録商標)アーキテクチャに基づいてもよい。または、他のプロセッサーを使用してもよい。情報処理および制御システムは、メモリー、ディスプレイ、キーボードおよび/または他の装置などの、当技術分野において公知の任意の周辺装置をさらに含み得る。
【0069】
本発明の特定の態様において、検出装置は情報処理システムに機能的に接続され得る。検出装置からのデータはプロセッサーによって処理され、データをメモリーに保存することができる。標準的なヌクレオチドの発光プロファイルのデータもメモリーに保存することができる。プロセッサーは、流動通路および/またはフロー-スルーセルのヌクレオチドの発光スペクトルを比較して、核酸分子から放出されるヌクレオチドの種類を同定することができる。メモリーは、核酸分子から放出されるヌクレオチドの配列も保存することができる。プロセッサーは検出装置からのデータを解析して、核酸の配列を決定することができる。情報処理システムはまた、バックグラウンド信号の差し引きおよび重複信号が検出される場合の「塩基-コール」決定などの標準的な手法を実施することもできる。
【0070】
開示されている方法はプログラムされたプロセッサーの制御下で実施することができるが、本発明の別の態様において、本発明の方法は、Field Programmable Gate Arrays(FPGA)、TTLロジックまたはApplication Specific Integrated Circuit(ASIC)などの任意のプログラム式またはハードコード式ロジックによって全てまたは部分的に実行することができる。さらに、開示されている方法はプログラム式汎用コンピュータ要素および/または特注ハードウェア要素の任意の組み合わせによって実施することができる。
【0071】
データ収集演算後、データは典型的にはデータ演算に報告される。解析演算を容易にするために、検出装置によって入手されるデータは、典型的には、上記に記載するものなどのデジタルコンピュータを使用して解析される。典型的には、コンピュータは、検出装置からのデータの受容および保存ならびに収集されたデータの解析および報告のために適当にプログラムされる。
【0072】
本発明のある態様において、特注設計されたソフトウェアパッケージを使用して、検出装置から入手されるデータを解析することができる。本発明の別の態様において、データ解析は、情報処理システムおよび入手可能な公開ソフトウェアパッケージを使用して実施することができる。DNA配列決定解析の入手可能なソフトウェアの非限定的な例には、PRISM(商標)DNA配列決定解析ソフトウェア(Applied Biosystems、Foster City、CA)、Sequencher(商標)パッケージ(Gene Codes、Ann Arbor、MI)およびウェブサイトwww.nbif.org/links/1.4.1.php においてNational Biotechnology Infomation Facilityから入手可能な種々のソフトウェアパッケージが挙げられる。
【0073】
実施例1:ヌクレオチドのラマン検出
方法と装置
非限定的な例において、ラマン検出装置の励起ビームは、近赤外波長(750〜950 nm)のチタン:サファイアレーザー(CoherentによるMira)または785 nmもしくは830 nmのガリウムアルミニウムヒ素ダイオードレーザー(Process InstrumentsによるPI-ECLシリーズ)によって発生させた。パルスレーザービームまたは連続ビームを使用した。励起ビームはダイクロイックミラー(Kaiser OpticalによるホログラフィックノッチフィルターまたはChromaもしくはOmega Opticalによる二色性干渉フィルター)によって反射され、回収されるビームと共線幾何学を形成することができる。反射したビームは顕微鏡対物(Nikon LUシリーズ)を通過し、標的分析物(ヌクレオチドまたはプリンもしくはピリミジン塩基)が位置するラマンアクティブな基板に集束した。
【0074】
分析物からのラマン散乱光線は同じ顕微鏡対物によって収集され、ダイクロイックミラーを通過してラマン検出器に達した。ラマン検出器は、集束レンズ、スペクトログラフおよびアレイ検出器を備えた。集束レンズは、スペクトログラフの入射スリットを介してラマン散乱光線を集束した。スペクトログラフ(Acton Research)は、波長によって光線を分散させるグレーティングを備えた。分散された光線はアレイ検出器 (RoperScientificによる背面照射型で、厚い空乏型のCCDカメラ) に画像を形成した。アレイ検出器は、データ転送および検出器機能の制御のためにコンピュータに接続されているコントローラ回路に接続した。
【0075】
表面増強ラマン分光法(SERS)では、ラマンアクティブ基板は、金属ナノ粒子または金属をコーティングしたナノ構造物からなった。LeeおよびMeisel(J. Phys. Chem., 86: 3391, 1982)の方法によってサイズが5〜200 nmの範囲の銀ナノ粒子を製造した。または、試料を顕微鏡対物の下方のアルミニウム基板に置いた。以下で考察の図面はアルミニウム基板上の固定試料内で収集した。検出される分子数は照射した試料の光学的な収集ボリュームによって決定された。
【0076】
SERSによって単一ヌクレオチドを検出する能力は、100 μmまたは200 μmのマイクロ流体チャネルを使用して確認することができる。本発明の種々の態様において、マイクロ流体チャネル(幅約5〜200μm)を介してヌクレオチドをラマンアクティブ基板に送達することができる。マイクロ流体チャネルは、Andersonら(「Fabrication of topologically complex three-dimensional microfluidic systems in PDMS by rapid prototyping」、Anal. Chem. 72: 3158-3164, 2000)に開示されている技法を使用して、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を成形することによって製造することができる。
【0077】
銀ナノ粒子の存在下においてSERSを実施する場合には、ヌクレオチド、プリンまたはピリミジン分析物をLiCl(最終濃度90μM)およびナノ粒子(最終濃度0.25 Mの銀原子)と混合した。室温の分析物溶液を使用してSERSデータを収集した。
【0078】
結果
上記に開示するシステムを使用して、ヌクレオシド一リン酸、プリン塩基およびピリミジン塩基をSERSによって分析した。表1は、関心対象の種々の分析物の現在の検出限界を示す。
【0079】
(表1)ヌクレオシド一リン酸、プリン、およびピリミジンのSERS検出
【0080】
条件はアデニンヌクレオチドのみに最適化した。LiCL(最終濃度90μM)は、アデニンヌクレオチドの最適なSERS検出を提供することが測定された。他のヌクレオチドの検出は、NaCl、KCl、RbClまたはCsClなどの他のアルカリ金属のハロゲン化物塩を使用することによって促進することができる。特許請求の範囲に記載されている方法は使用した電解質溶液に限定されず、MgCl、CaCl、NaF、KBr、LiI等などの他の種類の電解質溶液も有用となりうることが企図される。強いラマン信号を示さない電解質溶液はヌクレオチドのSERS検出ではわずかな干渉しか提供しないことを当業者は理解している。上記に開示されているラマン検出システムおよび方法は1分子のヌクレオチドおよびプリン塩基を検出し、同定することができたことを結果は実証している。これは、シングルヌクレオチドレベルにおける未標識ヌクレオチドのラマン検出の最初の報告である。
【0081】
実施例2:ヌクレオチド、プリンおよびピリミジンのラマン放射スペクトル
実施例1のプロトコールを、示した改良を加えて使用して関心対象の種々の分析物のラマン放射スペクトルを得た。図4は、表面増強が存在せず、ラマン標識を使用しない場合の4つのヌクレオシド一リン酸の各々の100 mM溶液のラマン放射スペクトルを示す。LiClは溶液に添加しなかった。100ミリ秒(msec)のデータ収集時間を使用した。低濃度のヌクレオチドは、収集時間を長くして検出することができる。励起は514 nmにおいて生じた。以下の図の各々は、785 nmの励起波長を使用した。図4に示すように、未増強ラマンスペクトルは、4つの未標識ヌクレオシド一リン酸の各々の特徴的な放射ピークを示した。
【0082】
図5は、LiClおよび銀ナノ粒子が存在する場合の1 nmのグアニン溶液のSERSスペクトルを示す。グアニンは、Nucleic Acid Chemistry、パート1、L. B. TownsendおよびR. S. Tipson(編)、Wiley-Interscience、New York、1978、に考察されているように、酸処理によってdGMPから得た。SERSスペクトルは、100ミリ秒のデータ収集時間を使用して得た。
【0083】
図6は、酸加水分解によってdCMPから得た10 nMのシトシン溶液のSERSスペクトルを示す。1秒の収集時間を使用してデータを収集した。
【0084】
図7は、dTMPの酸加水分解によって得た100 nMのチミン溶液のSERSスペクトルを示す。100ミリ秒の収集時間を使用してデータを収集した。
【0085】
図8は、dAMPの酸加水分解によって得た100 pMのアデニン溶液のSERSスペクトルを示す、データは1秒で収集した。
【0086】
図9は、dATP(下のトレース)およびフルオレセイン標識dATP(上のトレース)の500 nM溶液のSERSスペクトルを示す。dATP-フルオレセインは、Roche Applied Science(Indianapolis、IN)から購入した。図は、フルオレセイン標識によるSERS信号の強力な増加を示す。
【0087】
実施例3:ヌクレオチドおよび増幅産物のSERS検出
銀ナノ粒子形成
SERS検出に使用する銀ナノ粒子はLeeおよびMeisel(1982年)により製造した。18ミリグラムのAgNO3を100 mL(ミリリットル)の蒸留水に溶解し、加熱して煮沸した。10 mLの1%クエン酸ナトリウム溶液を10分かけてAgNO3溶液に滴加した。さらに1時間溶液を煮沸した。得られた銀コロイド溶液を冷却し、保存した。
【0088】
アデニンのSERS検出
ラマン検出システムは実施例1に開示するとおりとした。1 mLの銀コロイド溶液を2 mLの蒸留水で希釈した。希釈した銀コロイド溶液(160μL)(マイクロリットル)を、アルミニウムトレイ上で20μLの10 nM(ナノモル)アデニン溶液および40μLのLiCl(0.5モル)と混合した。LiClはアデニンのラマン増強剤として作用した。試料中のアデニンの最終濃度は、約100〜150フェムトリットルの検出容量において0.9 nMであり、推定60分子のアデニンを含有した。ラマン発光スペクトルは、785 nmの励起の励起源を使用して、収集時間100ミリ秒で収集した。図10に示すように、この手法は60分子のアデニンの検出を証明しており、強力な発光ピークが約833 nmおよび877 nmにおいて検出された。実施例1に考察するように、アデニンの1分子検出は開示されている方法および装置を使用して示された。
【0089】
ローリングサークル増幅
1ピコモル(pmol)のローリングサークル増幅(RCA)プライマーを0.1 pmolの環状1本鎖M13 DNA鋳型に添加した。混合物を1×T7ポリメラーゼ160緩衝液(20 mM(ミリモル)Tris-HCl、pH 7.5、10 mM MgCl2、1 mM ジチオスレイトール)、0.5 mM dNTPおよび2.5単位のT7 DNAポリメラーゼと共に37℃において2時間インキュベーションし、RCA産物を形成させた。DNAポリメラーゼを加えないで、同じ試薬を混合し、インキュベーションすることによって陰性対照を調製した。
【0090】
RCA産物のSERS検出
1μLのRCA産物および1μLの陰性対照試料をアルミニウムトレイに別個にスポットし、空気乾燥した。各スポットを5μLの1×PBS(リン酸緩衝生理食塩液)で洗浄した。洗浄を3回繰り返し、最後の洗浄後アルミニウムトレイを空気乾燥した。
【0091】
上記のように調製した1ミリリットルの銀コロイド溶液を2 mLの蒸留水で希釈した。希釈した銀コロイド溶液の8マイクロリットルを2μLの0.5 M LiClと混合し、アルミニウムトレイのRCA産物スポットに添加した。同じ溶液を陰性対照スポットに添加した。上記に開示するように、ラマン信号を収集した。図11に証明するように、RCA産物は、約833および877 nmの発光ピークでSERSによって検出可能であった。LiCl増強剤を用いるこのプロトコールの条件下において、アデニンの信号強度はグアニン、シトシンおよびチミンの信号強度より強い。陰性対照(示していない)は、増幅がない場合には信号が観察されなかったので、ラマン信号はRCA産物に特異的であることを示した。
【0092】
実施例4:核酸のエキソヌクレアーゼ消化
Sauer et al. (J. Biotech. 86: 181-201, 2001)によりエキソヌクレアーゼ処理を実施した。5'-ビオチン化オリゴヌクレオチドプライマーを使用して、5'末端がビオチンで標識されている1核酸分子を調製した。円錐形の3μmのシングル-モード光ファイバー(SMC-A0630B、Laser Components GmbH、Olching、Germany)を調製した。グラスファイバーをHFで化学的にエッチングして鋭い先端を形成する。3-メルカプトプロピルトリメトキシシランをコーティング後、先端をγ-マレインイミド酪酸N-ヒドロキシスクシンアミド(GMBS)で処理する。ファイバーの先端をストレプトアビジンで活性化して、ビオチン化DNAを結合させる。未結合のDNAを洗浄して除去する。
【0093】
1分子の結合DNAを含有する線維を、5μmのマイクロチャネルに取り付けられているPDMS反応チャンバーに挿入する。エキソヌクレアーゼIを反応チャンバーに添加して、ssDNAの切断を開始する。光トラッピングを使用することによって、エキソヌクレアーゼを反応チャンバーに限定する(例えば、Walker et al., FEBS Lett. 459: 39-42, 1999;Bennink et al., Cytometry 36: 200-208, 1999;Mehta et al., Science 283: 1689-95, 1999;Smith et al., Am. J. Phys. 67: 26-35, 1999)。光トラッピング装置はCell Robotics, Inc. (Albuquerque, NM)、S+L GmbH(Heidelberg, Germany)およびP. A. L. M. GmbH(Wolfratshausen, Germany)社製である。ヌクレオシド一リン酸は、エキソヌクレアーゼ消化によって放出され、実施例1に開示するように、マイクロ流体によって輸送させてラマン検出装置を通過する。90μM濃度のLiClを検出混合物に添加し、検出装置近くのマイクロ流体チャネルに、LeeおよびMeisel(1982年)により調製した銀ナノ粒子を充填する。銀ナノ粒子はラマン検出装置を通過して流動するとき検出されて、核酸配列決定を可能にする。
【0094】
実施例5:ラマン標識ヌクレオチドを使用する核酸配列決定
本発明のある態様は図1に例示されている。図1は、反応チャンバー11の固定表面14に結合され、分解反応において分解される個々の1本鎖核酸分子13を配列決定するための方法および装置10を例示する。本発明のこのような態様において、反応チャンバー11は、核酸分子13の未結合末端17から一度に1つのヌクレオチド16を逐次的に除去する1つまたは複数のエキソヌクレアーゼ15を含有する。
【0095】
ヌクレオチド16が放出されると、それらは流動通路12を移動して検出装置18を通過する。検出装置18は、励起ビーム20を放射するレーザーなどの励起源19を含む。励起ビーム20は、電子がより高いエネルギー状態に励起されるように放出されたヌクレオチド16と相互作用する。電子が低いエネルギー状態に戻ることによって生ずるラマン発光スペクトルを、スペクトロメーター、モノクロメーターまたはCCDカメラなどの電荷結合素子(CCD)などのラマンスペクトル検出装置21によって検出する。
【0096】
反応チャンバーおよび流動通路の調製
Blofloatガラスウェハー(Precision Glass & Optics、Santa Ana、CA)を濃HF(フッ化水素酸)中で短期間プレ-エッチングし、プラズマ励起化学的気相成長法(PECVD)システム(PEII-A、Technics West、のSan Jose、CA)でアモルファスシリコン犠牲層を蒸着する前に洗浄する。ウェハーをヘキサメチルジシラザン(HMDS)でプライミングし、フォトレジスト(Shipley 1818、Marlborough、MA)でスピン-コーティング、ソフト-ベーキングする。コンタクトマスクアライナー(Quintel Corp. San Jose、CA)を使用して、1つまたは複数のマスクデザインを有するフォトレジスト層を露出させ、露出されたフォトレジストをMicroposit現像液濃縮液(Shipley)と水の混合物を使用して除去した。現像したウェハーをハード-ベーキングし、露出したアモルファスシリコンを、PECVDリアクター内でCF4(四フッ化炭素)を使用して除去した。ウェハーを濃HFで化学的にエッチングして、反応チャンバー11および流動通路12を作製する。残りのフォトレジストを剥離し、アモルファスシリコンを除去する。これらの方法を使用して、約50〜100μmのマイクロチャネルを作製することができる。同様の径のチャネルは、マイクロチャネルの内側をコーティングして径を細くする、またはナノリトグラフィー、集束電子ビーム、集束イオンビームもしくは集束原子レーザー技法を使用するなどの公知の方法によって調製することができる。PDMSマイクロチャネルを作製する方法は上記に考察されている。
【0097】
ダイヤモンドドリルビット(Crystalite、Westerville、OH)を用いてアクセスホールをエッチングしたウェハーにあける。プログラム式真空炉において、エッチングし、穴をあけた2つの相補的なプレートを熱で接着することによって最終チップを調製する。反応チャンバー11および流動通路12を組み込んだチップを製造する別の例示的な方法は、米国特許第5,867,266号および同第6,214,246号に開示されている。本発明のある態様において、分子量カットオフ2,500のナイロンフィルターを反応チャンバー11と流動通路12の間に挿入して、エキソヌクレアーゼ15が反応チャンバー11から出ないようにする。
【0098】
Sambrook et al. (1989年)によりヒト染色体DNAを精製する。Bam H1による消化後、ゲノムDNA断片をpBluescript(登録商標)IIファージミドベクター(Stratagene, Inc.、La Jolla、CA)のマルチプルクローニングサイトに挿入して、大腸菌中で増殖させる。アンピシリン-含有アガロースプレートで平板培養後、単一コロニーを選択し、配列決定用に増殖する。ゲノムDNA挿入物の1本鎖DNAコピーをヘルパーファージの重感染によって取り出す。プロテイナーゼK:ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の溶液中で消化した後、DNAをフェノール抽出し、次いで酢酸ナトリウム(pH 6.5、約0.3 M)および0.8容量の2-プロパノールを添加して沈殿させる。DNAを含有するペレットをTris-EDTA緩衝液に再懸濁し、使用時まで-20℃で保存する。アガロースゲル電気泳動は精製DNAの単一のバンドを示す。
【0099】
ゲノムDNA挿入物の隣に配置されている公知のpBluescript(登録商標)配列に相補的なM13順方向プライマーをMidland Certified Reagent Company(Midland、TX)から購入する。オリゴヌクレオチドの5'末端に結合しているビオチン部分を含有するように、共有結合によりプライマー修飾する。(CH2)6スペーサーを介して、ビオチン基をプライマーの5'-リン酸塩に共有結合する。pBluescript(登録商標)ベクターから調製したssDNA鋳型分子にビオチン-標識プライマーをハイブリダイゼーションさせる。次いで、Dorre et al. (Bioimaging 5: 139-152, 1997)により、プライマー-鋳型複合体をストレプトアビジン-コーティングビーズ14に結合する。適当なDNA希釈倍率で、1つのプライマー-鋳型複合体を1つのビーズ14に結合する。1つのプライマー-鋳型複合体を含有するビーズ14を、配列決定装置10の反応チャンバー11に挿入する。
【0100】
プライマー-鋳型を修飾T7 DNAポリメラーゼ(United States Biochemical Corp.、Cleveland、OH)と共にインキュベーションする。反応混合物は、未標識デオキシアデノシン-5'-三リン酸(dATP)およびデオキシグアノシン-5'-三リン酸(dGTP)、ジゴキシゲニン-標識デオキシウリジン-5'-三リン酸(ジゴキシゲニン-dUTP)およびローダミン-標識デオキシシチジン-5'-三リン酸(ローダミン-dCTP)を含有する。37℃において2時間重合反応を進行させる。ジゴキシゲニンおよびローダミン標識核酸13の合成後、鋳型鎖を標識核酸13から分離し、鋳型鎖、DNAポリメラーゼおよび組み込まれていないヌクレオチドを洗浄して反応チャンバー11から除去する。
【0101】
エキソヌクレアーゼIII 15を反応チャンバー11に添加して、エキソヌクレアーゼ15活性を開始する。反応混合物はpH 8.0および37℃で維持する。ヌクレオチド16が核酸13の3'末端17から放出されると、それらはマイクロ流体によって流動通路12を輸送されて検出装置18を通過する。
【0102】
実施例6:ナノ粒子との共有結合を使用する核酸配列決定
本発明の別の例示的な態様を図2に開示する。ヌクレオチド130は、上記に考察するように、エキソヌクレアーゼ活性によって核酸から放出される。本発明のある態様において、ヌクレオチド130は未標識である。任意の器官、組織および/または細胞試料から直接精製されるか、または公知のクローニング方法によって入手される未標識核酸はエキソヌクレアーゼ処理を使用して配列決定することができる。放出されたヌクレオチド130はマイクロ流体チャネル110を移動する。
【0103】
放出されたヌクレオチド130を、LeeおよびMeisel (J. Phys. Chem. 86: 3391-3395, 1982)により調製した銀ナノ粒子と混合する。ナノ粒子はサイズ5〜200 nmである。ヌクレオチド130と接触させる前に、表面-修飾ナノ粒子140に、反応性リンカー化合物である3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GOP)などのシランをコーティングする。GOPは反応性の高い末端エポキシド基を含有する。シラン化したナノ粒子140をヌクレオチド130と混合し、ヌクレオチド130との共有結合による架橋を形成させる。ヌクレオチド-ナノ粒子複合体150はフロー-スルーセル170を通過し、ラマン検出装置180を使用してSERS、SERRSおよび/またはCARSによって同定される。ヌクレオチド130はナノ粒子140にかなり接近しているので、ラマン信号はかなり増強されて、フロー-スルーセル170を通過する1つのヌクレオチド130の検出を可能にする。
【0104】
実施例7:核酸配列決定装置
図3は本発明の別の例示的な態様を示す。DNA配列決定装置210は、流入チャネル230および流出チャネル240と流体内で連絡している反応チャンバー220を含む。流体の移動は、1つまたは複数の弁250を使用することによって制御することができる。マイクロ流体チャネル260も反応チャンバー220と流体内で連絡している。エキソヌクレアーゼ活性によって1つまたは複数の核酸から放出されるヌクレオチドは、マイクロ流体チャネル260を通過して反応チャンバー220を流出する。ヌクレオチドは、マイクロ流体チャネル260と流体内で連絡しているナノ粒子チャネル270を移動するナノ粒子と混合される。ヌクレオチドとナノ粒子の共有結合が結合チャネル280内で生じる。共有結合したヌクレオチド-ナノ粒子複合体はフロー-スルーセル290を通過して、ヌクレオチドがラマン検出装置300によって同定される。検出装置300はレーザー320およびラマン検出装置310を含む。レーザーは、フロー-スルーセル290内でヌクレオチドを励起する励起ビーム330を放射する。励起されたヌクレオチドは、ラマン信号を放射し、ラマン検出装置310によって検出される。
【0105】
本発明のある態様において、ナノ粒子はリサイクルチャンバー340で回収することができる。ナノ粒子は、例えば、酸溶液で化学的に処理し、洗浄して、結合ヌクレオチド、リンカー化合物、および任意の他の結合または吸着分子を除去することができる。ナノ粒子は、リサイクルチャネル360を介してナノ粒子容器370にリサイクルすることができる。本発明のいくつかの態様において、リサイクルチャネル360および/またはナノ粒子容器370内でGOPなどのリンカー化合物をナノ粒子にコーティングすることができる。廃液は、廃棄チャネル350を介してリサイクルチャンバー340から除去される。
【0106】
本明細書に開示され、主張されている全ての方法および装置は、本開示に鑑みて不用な実験を行わないで実施および実行することができる。主張されている主題の概念、精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載されている方法および装置に変更を適用することができることは当業者に明らかである。さらに具体的には、化学的および生理学的に関連のある特定の物質を本明細書に記載されている物質と交換することができるが、同じまたは同様の結果が得られるであろうことが明らかである。当業者に明らかなこのような同様の交換および改良は全て主張されている主題の精神、範囲および概念の範囲内であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
以下の図面は本願の一部を形成し、開示されている本発明の態様のある局面をさらに証明するために含まれている。本発明の態様は、これらの図面の1つまたは複数を、本明細書に提供する本発明の特定の態様の詳細な説明と合わせて参照することによってより良く理解することができる。
【図1】ラマン標識に共有結合されているヌクレオチド16を使用する例示的な装置10(実物大ではない)および核酸13配列決定方法を例示する。
【図2】放出されたヌクレオチド130が、表面増強ラマン分光法(SERS)180により検出される前に、ナノ粒子140に共有結合される例示的な装置100(実物大ではない)および核酸13配列決定方法を例示する。
【図3】核酸13配列決定のための別の例示的な装置210(実物大ではない)を例示する。
【図4】100ミリ秒のデータ収集時間を使用する、100 mM濃度の4つのデオキシヌクレオシド一リン酸(dNTP)全てのラマンスペクトルを示す。異なる種類のヌクレオチド各々の特徴的なラマン発光ピークを示している。データは表面増強またはヌクレオチドの標識を行わないで収集された。
【図5】Nucleic Acid Chemistry、Part 1、L. B. TownsendおよびR. S. Tipson(編)、Wiley-Interscience、New York、1978年により酸処理することによってdGMPから得られた1 nMグアニンのSERS検出を示す。
【図6】酸処理によってdCMPから得られた10 nMシトシンのSERS検出を示す。
【図7】酸処理によってdTMPから得られた100 nMチミンのSERS検出を示す。
【図8】酸処理によってdAMPから得られた100 pMアデニンのSERS検出を示す。
【図9】フルオレセインが共有結合しているデオキシアデノシン三リン酸(上のトレース)および未標識のdATP(下のトレース)の500 nM溶液のSERSスペクトルの比較を示す。dATP-フルオレセインはRoche Applied Science(Indianapolis、IN)から入手した。SERS信号の大きな増加がフルオレセイン標識dATPにおいて検出された。
【図10】アデニンの0.9 nM(ナノモル)溶液のSERS検出を示す。検出容量は100〜150フェムトリットルであり、推定60分子のアデニンを含有した。
【図11】1本鎖環状M13 DNA鋳型を使用するローリングサークル型増幅産物のSERS検出を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む方法:
a)エキソヌクレアーゼを使用して、1つまたは複数の核酸分子の一方の末端から未標識ヌクレオチドを放出する段階;
b)エキソヌクレアーゼおよび1つまたは複数の核酸分子からヌクレオチドを分離する段階;
c)ラマン分光法によって未標識ヌクレオチドを同定する段階;および
d)同定したヌクレオチドから核酸の配列を決定する段階。
【請求項2】
未標識ヌクレオチドの1つの分子がラマン分光法によって同定される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
1つの核酸分子が配列決定される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
多数の核酸分子が同時に配列決定される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
1つまたは複数の核酸分子が表面に結合される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ヌクレオチドが表面増強ラマン分光法(SERS)、表面増強共鳴ラマン分光法(SERRS)および/またはコヒーレント反ストークスラマン分光法(CARS)によって同定される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
以下をを含む方法:
a)1つまたは複数の核酸分子の一方の末端からヌクレオチドを逐次的に除去する段階;
b)少なくとも1つのナノ粒子に各ヌクレオチドを結合する段階;
c)ラマン分光法によってヌクレオチドを同定する段階;および
d)核酸の配列を決定する段階。
【請求項8】
ヌクレオチドの1つの分子がラマン分光法によって同定される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
1つの核酸分子が配列決定される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
ヌクレオチドが未標識である、請求項7記載の方法。
【請求項11】
ナノ粒子が1つまたは複数のリンカー化合物で修飾されている、請求項7記載の方法。
【請求項12】
ヌクレオチドがリンカー化合物に共有結合している、請求項11記載の方法。
【請求項13】
リンカー化合物が3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GOP)である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
ヌクレオチドが核酸から除去された後、ナノ粒子に結合される、請求項7記載の方法。
【請求項15】
ヌクレオチドが核酸から除去される前に、ナノ粒子に結合される、請求項7記載の方法。
【請求項16】
ナノ粒子が核酸の3'末端に結合される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
ヌクレオチドが表面増強ラマン分光法(SERS)、表面増強共鳴ラマン分光法(SERRS)および/またはコヒーレント反ストークスラマン分光法(CARS)によって同定される、請求項7記載の方法。
【請求項18】
1つまたは複数の核酸分子からヌクレオチドを分離する段階をさらに含む、請求項7記載の方法。
【請求項19】
エキソヌクレアーゼを使用して、ヌクレオチドを核酸から除去する、請求項7記載の方法。
【請求項20】
ヌクレオチドを酸加水分解によって除去する、請求項16記載の方法。
【請求項21】
加水分解を使用して、プリンまたはピリミジン塩基をヌクレオチドから除去する段階をさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
以下を含む方法:
a)ラマン標識に結合されているヌクレオチドを入手する段階;
b)標識ヌクレオチドを含む核酸を合成する段階;
c)核酸の一方の末端からヌクレオチドを除去する段階;
d)ラマン分光法によってヌクレオチドを同定する段階;および
e)核酸の配列を決定する段階。
【請求項23】
1つのヌクレオチド分子をラマン分光法によって同定する、請求項22記載の方法。
【請求項24】
各種類のヌクレオチドが識別可能なラマン標識で標識されている、請求項22記載の方法。
【請求項25】
ピリミジンヌクレオチドだけがラマン標識で標識されている、請求項22記載の方法。
【請求項26】
以下の段階をさらに含む、請求項22記載の方法:
(i)少なくとも1つの鋳型核酸分子を入手する段階;
(ii)鋳型核酸分子をプライマーにハイブリダイゼーションする段階;および
(iii)DNAポリメラーゼを添加して、核酸を合成する段階。
【請求項27】
以下を含む装置:
a)反応チャンバー;
b)反応チャンバーと流体内で連絡しているマイクロ流体チャネル;
c)マイクロ流体チャネルと流体内で連絡しているフロー-スルーセル;および
d)フロー-スルーセルに機能的に接続しているラマン検出単位。
【請求項28】
ラマン検出器がヌクレオチドの1つの分子を検出することができる、請求項27記載の装置。
【請求項29】
ヌクレオチドが未標識である、請求項28記載の装置。
【請求項30】
フロー-スルーセルにナノ粒子をさらに含む、請求項27記載の装置。
【請求項1】
以下を含む方法:
a)エキソヌクレアーゼを使用して、1つまたは複数の核酸分子の一方の末端から未標識ヌクレオチドを放出する段階;
b)エキソヌクレアーゼおよび1つまたは複数の核酸分子からヌクレオチドを分離する段階;
c)ラマン分光法によって未標識ヌクレオチドを同定する段階;および
d)同定したヌクレオチドから核酸の配列を決定する段階。
【請求項2】
未標識ヌクレオチドの1つの分子がラマン分光法によって同定される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
1つの核酸分子が配列決定される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
多数の核酸分子が同時に配列決定される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
1つまたは複数の核酸分子が表面に結合される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ヌクレオチドが表面増強ラマン分光法(SERS)、表面増強共鳴ラマン分光法(SERRS)および/またはコヒーレント反ストークスラマン分光法(CARS)によって同定される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
以下をを含む方法:
a)1つまたは複数の核酸分子の一方の末端からヌクレオチドを逐次的に除去する段階;
b)少なくとも1つのナノ粒子に各ヌクレオチドを結合する段階;
c)ラマン分光法によってヌクレオチドを同定する段階;および
d)核酸の配列を決定する段階。
【請求項8】
ヌクレオチドの1つの分子がラマン分光法によって同定される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
1つの核酸分子が配列決定される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
ヌクレオチドが未標識である、請求項7記載の方法。
【請求項11】
ナノ粒子が1つまたは複数のリンカー化合物で修飾されている、請求項7記載の方法。
【請求項12】
ヌクレオチドがリンカー化合物に共有結合している、請求項11記載の方法。
【請求項13】
リンカー化合物が3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GOP)である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
ヌクレオチドが核酸から除去された後、ナノ粒子に結合される、請求項7記載の方法。
【請求項15】
ヌクレオチドが核酸から除去される前に、ナノ粒子に結合される、請求項7記載の方法。
【請求項16】
ナノ粒子が核酸の3'末端に結合される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
ヌクレオチドが表面増強ラマン分光法(SERS)、表面増強共鳴ラマン分光法(SERRS)および/またはコヒーレント反ストークスラマン分光法(CARS)によって同定される、請求項7記載の方法。
【請求項18】
1つまたは複数の核酸分子からヌクレオチドを分離する段階をさらに含む、請求項7記載の方法。
【請求項19】
エキソヌクレアーゼを使用して、ヌクレオチドを核酸から除去する、請求項7記載の方法。
【請求項20】
ヌクレオチドを酸加水分解によって除去する、請求項16記載の方法。
【請求項21】
加水分解を使用して、プリンまたはピリミジン塩基をヌクレオチドから除去する段階をさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
以下を含む方法:
a)ラマン標識に結合されているヌクレオチドを入手する段階;
b)標識ヌクレオチドを含む核酸を合成する段階;
c)核酸の一方の末端からヌクレオチドを除去する段階;
d)ラマン分光法によってヌクレオチドを同定する段階;および
e)核酸の配列を決定する段階。
【請求項23】
1つのヌクレオチド分子をラマン分光法によって同定する、請求項22記載の方法。
【請求項24】
各種類のヌクレオチドが識別可能なラマン標識で標識されている、請求項22記載の方法。
【請求項25】
ピリミジンヌクレオチドだけがラマン標識で標識されている、請求項22記載の方法。
【請求項26】
以下の段階をさらに含む、請求項22記載の方法:
(i)少なくとも1つの鋳型核酸分子を入手する段階;
(ii)鋳型核酸分子をプライマーにハイブリダイゼーションする段階;および
(iii)DNAポリメラーゼを添加して、核酸を合成する段階。
【請求項27】
以下を含む装置:
a)反応チャンバー;
b)反応チャンバーと流体内で連絡しているマイクロ流体チャネル;
c)マイクロ流体チャネルと流体内で連絡しているフロー-スルーセル;および
d)フロー-スルーセルに機能的に接続しているラマン検出単位。
【請求項28】
ラマン検出器がヌクレオチドの1つの分子を検出することができる、請求項27記載の装置。
【請求項29】
ヌクレオチドが未標識である、請求項28記載の装置。
【請求項30】
フロー-スルーセルにナノ粒子をさらに含む、請求項27記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2007−534291(P2007−534291A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−509535(P2005−509535)
【出願日】平成15年9月15日(2003.9.15)
【国際出願番号】PCT/US2003/029365
【国際公開番号】WO2005/035791
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(591003943)インテル・コーポレーション (1,101)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年9月15日(2003.9.15)
【国際出願番号】PCT/US2003/029365
【国際公開番号】WO2005/035791
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(591003943)インテル・コーポレーション (1,101)
【Fターム(参考)】
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