説明

ラミネート装置用真空ポンプシステム及びその真空ポンプシステムを用いたラミネート装置

【課題】本発明は、ラミネート装置用の真空ポンプシステムにおいて、オイル交換の周期が長く、そのメンテナンス周期が長く、しかも安価な真空ポンプを使用したラミネート装置用の真空ポンプシステムを提供することを目的としている。
【解決手段】ラミネート装置用の真空ポンプシステムを、上チャンバと下チャンバを真空引きする真空ポンプとして水封式真空ポンプおよび油回転式ポンプを配置し、真空引きの工程を2段階に分け、一段目の真空引きにおいては水封式真空ポンプを使用し、二段目の真空引きの工程は油気回転式真空ポンプを使用する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱板上に太陽電池モジュール等の被加工物を配置し、熱板により加熱した被加工物を熱板と押圧部材とで挟圧してラミネートするラミネート装置に使用される真空ポンプシステム及びその真空ポンプシステムを用いたラミネート装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールを製造するためのラミネート装置としては、特許文献1(特開平9−141743)が知られている。これは、下方に向かって膨張自在なダイヤフラムを備える上チャンバと、ヒータ盤を備えた下チャンバとを有するものである。搬送ベルトで搬送された被加工物をヒータ盤の上に載せ、上チャンバを下チャンバに重ね合わせて密閉し、上下のチャンバ内を真空ポンプで減圧する。また、ヒータ盤を加熱し、搬送ベルトを通して被加工物を加熱する。上下のチャンバ内が所定の真空度に達したら、上チャンバ内に大気を導入する。すると、ダイヤフラムは下方に膨らみ、被加工物をヒータ盤に強く押しつける。被加工物はヒータ盤により加熱され、被加工物内の充填材が溶融して架橋反応を起こし、透明になって硬化する。
【0003】
上下のチャンバ内を真空にするには、一般的に真空ポンプが使用され、この真空ポンプによって、ラミネート装置の上下のチャンバ内の空気を吸引する。被加工物内の充填材としては、EVAが使用されるが、EVAは加熱されることによって、有機化酸化物、シランカップリング剤等の添加薬品が揮発する。この揮発した添加薬品が真空ポンプ内に入り、オイルと化学反応を起こし、オイルを酸化させる。オイルは酸化すると、粘性が低くなる。あるいは充填材から揮発した添加薬品が真空ポンプ内にこびりつく。これにより、真空度が上がらなくなったり、真空ポンプの騒音が増大したり、故障を起こしたりする原因となっていた。
【0004】
そのため、従来は、頻繁にオーバーホールを行ったり、1、2週間に1回ごとにオイルを交換していたが、これではメンテナンスとオイル代に手間と費用が掛かり、ラミネート装置の稼働率も低下してしまう。
【0005】
そこで、このようなことから、真空ポンプのオイルタンクに吸着装置を設け、オイルタンク内のオイルをこの吸着装置に通して不純物を除去したり、真空ポンプの吸気側に不織布などによる吸着装置を設けて不純物を除去するなどの方法が使用されてきた。
【0006】
しかし、吸着装置では固形の不純物が付着するため真空に対する抵抗となり、またオイルは酸化するため、根本的な解決にはならなかった。
【0007】
そこで、この問題に対し、特許文献2(特開2003−65269)では、オイルに比重の大きい不活性オイルを使用することを提案している。不活性オイルなので、EVAから揮発する有機過酸化物、シランカップリング剤等のガスが混入しても酸化することがない。
【0008】
しかし、不活性オイルは通常のオイルに比べて数倍の価格となり、非常に高価である。また、EVAもしくは液化したものがオイルに混入した後、冷却されて固化するが、固化した接着剤が徐々に増加し、ベアリングなどに混入するなどして、内部の摺動を阻害し、しいては真空度の劣化およびポンプの破損につながる。不活性オイルによる改善は、メンテナンス期間やオイル交換頻度の改善の効果は見られるものの、根本的な対策とはならなかった。
【0009】
オイルを使用しないドライタイプの真空ポンプを使用する方法もある。しかし、このドライタイプの真空ポンプは、油回転式真空ポンプの何倍も高価なものである。これについてもポンプ内で固化した接着剤により上記と同様な問題が発生し、例えば半年程度でオーバーホールが必要になるなど、費用対効果という点では、満足のいくものとはなっていない。
【特許文献1】特開平9−141743
【特許文献2】特開2003−65269
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事実から考えられたもので、ラミネート装置用の真空ポンプシステムにおいて、オイル交換の周期が長く、そのメンテナンス周期が長く、しかも安価な真空ポンプを使用したラミネート装置用の真空ポンプシステム及びその真空ポンプシステムを用いたラミネート装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために第1発明のラミネート装置用の真空ポンプシステムは、ダイヤフラムにより仕切られた上チャンバと下チャンバとを有し、その下チャンバに設けられた熱板上に被加工物を配置し、前記熱板により加熱した前記被加工物を、前記下チャンバを真空とし前記上チャンバに大気を導入し前記熱板と前記押圧部材とで挟圧してラミネートするラミネート装置用の真空ポンプシステムであって、上チャンバと下チャンバを真空引きする真空ポンプとして、水封式真空ポンプと油回転式真空ポンプを配置し、常圧からある減圧値まで真空引きする一次真空引き工程においては水封式真空ポンプを使用し、その後の最終減圧値まで真空引きする二次真空引き工程においては油回転式真空ポンプを使用することを特徴としている。
【0012】
第2発明のラミネート装置用の真空ポンプシステムは、第1発明において、前記一次真空引き工程における前記減圧値が2300Paから3000Paとしたことを特徴としている。
【0013】
第3発明のラミネート装置用の真空ポンプシステムは、第1発明または第2発明において、前記二次真空引き工程における前記最終減圧値が400Pa以下であることを特徴としている。
【0014】
第4発明のラミネート装置用の真空ポンプシステムは、第1発明から第3発明のいずれかにおいて、通気性の冷却手段と、通気性で多孔性の素材からなる吸着装置と、ガス吸着素材からなる吸着装置との3つから3つ全てまたは任意の2つを空気の流れに沿って並べて配置した真空ポンプ用吸着装置を、前記水封式真空ポンプの前に設けたことを特徴としている。
【0015】
第5発明のラミネート装置用の真空ポンプシステムは、第1発明から第3発明のいずれかにおいて、通気性の冷却手段と、通気性で多孔性の素材からなる吸着装置と、ガス吸着素材からなる吸着装置との3つから3つ全てまたは任意の2つを空気の流れに沿って並べて配置した真空ポンプ用吸着装置を、前記油回転式真空ポンプの前に設けたことを特徴としている。
【0016】
第6発明のラミネート装置は、第1発明から第5発明のいずれかのラミネート装置用の真空ポンプシステムを使用することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
第1発明のラミネート装置用の真空ポンプシステムによれば、上チャンバと下チャンバを真空引きする真空ポンプとして、一次真空引き工程においては水封式真空ポンプを使用し、二次真空引き工程においては油回転式ポンプを使用している。これによりラミネート加工中に充填材(EVA)から発生する架橋剤である有機過酸化物、接着剤であるシランカップリング剤は水封式真空ポンプ内の水に吸収されるが油回転式真空ポンプに比べてその交換周期は格段に長くすることができる。したがってラミネート装置の生産効率を格段に向上させることができる。
【0018】
第2発明のラミネート装置用の真空ポンプシステムは、前記一次真空引き工程における前記減圧値が2300Paから3000Paとしている。これにより水封式真空ポンプのコストを安価なものとすることができる。
【0019】
第3発明のラミネート装置用の真空ポンプシステムは、前記二次真空引き工程における前記最終減圧値が400Pa以下である。これにより安価な真空ポンプシステムを使用してラミネート加工した太陽電池モジュールの品質を確保することができる。
【0020】
第4発明のラミネート装置用の真空ポンプシステムは、通気性の冷却手段と、通気性で多孔性の素材からなる吸着装置と、ガス吸着素材からなる吸着装置との3つから3つ全てまたは任意の2つを空気の流れに沿って並べて配置した真空ポンプ用吸着装置を、前記水封式真空ポンプの前に設けている。これにより確実に固形状の不純物が真空ポンプに到達する前に除去できるので、真空ポンプの寿命を格段に向上させることができる。
【0021】
第5発明のラミネート装置用の真空ポンプシステムは、通気性の冷却手段と、通気性で多孔性の素材からなる吸着装置と、ガス吸着素材からなる吸着装置との3つから3つ全てまたは任意の2つを空気の流れに沿って並べて配置した真空ポンプ用吸着装置を、前記油回転式真空ポンプの前に設けている。これにより第4発明と同様の効果が発現する。
【0022】
第6発明のラミネート装置は、第1発明から第5発明の真空ポンプシステムを使用しているので、真空ポンプの寿命が向上し、太陽電池モジュールの生産効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】被加工物としての太陽電池モジュールの構成を示す断面図である。
【図2】ラミネート装置の全体の構成を示す図である。
【図3】ラミネート装置のラミネート部の側断面図である。
【図4】ラミネート装置のラミネート加工時におけるラミネート部の側断面図である。
【図5】水封式真空ポンプの構成を説明するための図である。
【図6】実施形態1の真空ポンプシステムのブロック図である。
【図7】実施形態2の真空ポンプシステムのブロック図である。
【図8】実施形態3の真空ポンプシステムのブロック図である。
【図9】実施形態2及び3の真空ポンプシステムにて使用する吸着装置の断面図である。
【図10】図9の吸着装置における冷却板の図で、(a)は図9の左側面から見た図、(b)は図9と同じ方向から見た図である。
【図11】比較例真空ポンプシステムのブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0025】
ここでは、まず、ラミネート装置でラミネートされる被加工物10について説明する。
【0026】
図1は、被加工物10として結晶系セルを使用した太陽電池モジュールの構成を示す断面図である。太陽電池モジュール10は、図示のように、透明なカバーガラス11と裏面材12との間に、充填材13、14を介してストリング15を挟み込んだ構成を有する。裏面材12にはポリエチレン樹脂等の材料が使用される。また、充填材13、14にはEVA(エチレンビニルアセテート)樹脂等が使用される。ストリング15は、電極16、17の間に結晶系セルとしての太陽電池セル18をリード線19を介して接続した構成である。
【0027】
また、被加工物10としては、上述した太陽電池モジュールだけではなく、一般に薄膜式と呼ばれる太陽電池モジュールを対象とすることもできる。この薄膜式太陽電池モジュールの代表的な構造例では、透明なカバーガラスに、予め、透明電極、半導体、裏面電極からなる発電素子が蒸着してある。このような薄膜式太陽電池モジュールは、カバーガラスを下向きに配置し、カバーガラス上の発電素子の上に充填材を被せる。更に、充填材の上に裏面材を被せた構造になっている。このような状態で真空加熱ラミネートすることにより薄膜式太陽電池モジュールの構成部材が接着される。すなわち、薄膜式太陽電池モジュールは、上述した太陽電池モジュールの結晶系セルが蒸着された発電素子に変わるだけである。薄膜式太陽電池モジュールの基本的な封止構造は上述した太陽電池モジュールと同じである。
【0028】
図2は、本実施形態に係るラミネート装置100の全体の構成を示す図である。ラミネート装置100は、上ケース110と、下ケース120と、被加工物10を搬送するための搬送ベルト130とを有する。搬送ベルト130は、被加工物10を上ケース110と下ケース120との間に搬送する。ラミネート装置100には、ラミネート前の被加工物10をラミネート装置100に搬送するための搬入コンベア200が設けられている。また、ラミネート装置100には、ラミネート後の被加工物10をラミネート装置100から搬出するための搬出コンベア300が設けられている。搬入コンベア200と搬出コンベア300とは、ラミネート装置に連設されている。被加工物10は、搬入コンベア200から搬送ベルト130に受け渡され、搬送ベルト130から搬出コンベア300に受け渡される。
【0029】
ラミネート装置100には、シリンダ及びピストンロッド等で構成される図示しない昇降装置が設けられている。昇降装置は、上ケース110を水平状態に維持したまま下ケース120に対して昇降させることができる。昇降装置が上ケース110を下降させることで、上ケース110と下ケース120との内部空間を密閉させることができる。
【0030】
次に、本実施形態に係るラミネート装置100のラミネート部101の構成についてより具体的に説明する。図3は、ラミネート装置100において被加工物10をラミネート加工する前のラミネート部101の側断面図である。図4は、ラミネート加工時におけるラミネート部101の側断面図である。
【0031】
上ケース110には、下方向に開口された空間が形成されている。この空間には、空間を水平に仕切るようにダイヤフラム112が設けられている。ダイヤフラム112は、シリコーン系のゴム等の耐熱性のあるゴムにより成形されている。後述するように、ダイヤフラム112は、被加工物10を押圧する押圧部材として機能し、ラミネートを行う。上ケース110内には、ダイヤフラム112によって仕切られた空間(上チャンバ113)が形成される。
【0032】
また、上ケース110の上面には、上チャンバ113と連通する吸排気口114が設けられている。上チャンバ113では、吸排気口114を介して、上チャンバ113内を真空ポンプにより真空引きして真空状態にしたり、上チャンバ113内に大気を導入したりすることができる。
【0033】
下ケース120には、上方向に開口された空間(下チャンバ121)が形成されている。この空間には、熱板122(パネル状のヒータ)が設けられている。熱板122は、下ケース120の底面に立設された支持部材によって、水平状態を保つように支持されている。この場合に、熱板122は、その表面が下チャンバ121の開口面とほぼ同一高さになるように支持される。
【0034】
また、下ケース120の下面には、下チャンバ121と連通する吸排気口123が設けられている。下チャンバ121では、吸排気口123を介して、下チャンバ121内を真真空ポンプにより空引きして真空状態にしたり、下チャンバ121内に大気を導入したりすることができる。
【0035】
上ケース110と下ケース120との間であって、熱板122の上方には、搬送ベルト130が移動自在に設けられている。搬送ベルト130は、図2の搬入コンベア200からラミネート前の被加工物10を受け取ってラミネート部101の中央位置、すなわち熱板122の中央部に正確に搬送する。また、搬送ベルト130は、ラミネート後の被加工物10を図2の搬出コンベア300に受け渡す。
【0036】
また、上ケース110と下ケース120との間であって、搬送ベルト130の上方には、剥離シート140が設けられている。剥離シート140は、被加工物10の充填材13、14(図1参照)が溶融したときに、充填材13、14がダイヤフラム112に付着するのを防止する。
【0037】
次に、本実施形態に係るラミネート装置100によるラミネート工程についてより具体的に説明する。まず、図3に示すように、搬送ベルト130は、被加工物10をラミネート部101の中央位置に搬送する。なお、このとき、下チャンバ121や熱板122に配設された上下動可能な図示しない保持ピン等を上昇させることで、被加工物10を熱板122上から離間した位置に保持しておいてもよい。
【0038】
次に、昇降装置は、上ケース110を下降させる。上ケース110を下降させることにより、図4に示すように、上ケース110と下ケース120との内部空間は、密閉される。すなわち、上ケース110と下ケース120との内部にて上チャンバ113及び下チャンバ121は、それぞれ密閉状態に保つことができる。
【0039】
次に、ラミネート装置100は、上ケース110の吸排気口114を介して、上チャンバ113内を真空ポンプにより真空引きを行う。同様に、ラミネート装置100は、下ケース120の吸排気口123を介して、下チャンバ121内を真空ポンプにより真空引きを行う(真空工程)。下チャンバ121の真空引きにより、被加工物10内に含まれている気泡は、被加工物10外に送出される。なお、上下動可能な図示しない保持ピンにより被加工物10を、熱板122上から離間した位置に保持していた場合は、真空工程の略後半から、保持ピンを下降して被加工物10を熱板122上に載置する。
被加工物10は、後述する温度制御装置の温度制御により加熱された熱板122によって加熱されるので、被加工物10の内部に含まれる充填材13、14も加熱される。
【0040】
次に、ラミネート装置100は、下チャンバ121の真空状態を保ったまま、上ケース110の吸排気口114を介して、上チャンバ113に大気を導入する。これにより、上チャンバ113と下チャンバ121との間に気圧差が生じることで、ダイヤフラム112が膨張する。従って、ダイヤフラム112は、図4に示すように下方に押し出される(加圧工程)。被加工物10は、下方に押し出されたダイヤフラム112と、熱板122とで挟圧され、加熱により溶融された充填材13、14によって各構成部材が接着される。
【0041】
このようにラミネート工程が終了した後、ラミネート装置100は、下ケース120の吸排気口123を介して、下チャンバ121に大気を導入する。このとき、昇降装置は、上ケース110を上昇させる。上ケース110を上昇させることにより、図3に示すように、搬送ベルト130を移動させることができるようになる。搬送ベルト130は、ラミネート後の被加工物10を搬出コンベア300に受け渡す。
【0042】
ラミネート加工は、上記のように行われるが、充填材(EVA)が加熱され溶融し内部から有機過酸化物及びシランカップリング剤を含んだガスが発生し真空工程で真空ポンプ内に吸引される。その結果、従来から使用されている油回転式真空ポンプ内のオイルに有機過酸化物が侵入し固体化しオイルが劣化し、さらに真空ポンプの性能低下の原因になる。
【0043】
ラミネート加工の際の真空引きの工程で使用する本発明の真空ポンプシステムの実施形態について説明する。
【0044】
まず本発明の真空ポンプシステムにおいて使用される水封式真空ポンプについて図5により説明する。図5は、水封式真空ポンプ200の構成を説明する断面図である。水封式真空ポンプ200は、円形のケーシング211と羽根車212より本体を構成し、羽根車はケーシングと偏心した位置に取り付けされている。ケーシング内には適当量の封水が封入されている。この状態で羽根車を回転させると図5のように質量の大きい封水は、遠心力によって、ケーシングの内壁に沿って同心のリング状になる。羽根車が回転することにより、この封水リング213の内壁と羽根車の羽根によって囲まれた空間の容積が変化することを利用して、側壁または羽根車の内壁に設けられた吸・排気口を通して、吸入・圧縮・排気の作用を連続的に行う。高速回転により高効率な排気を行うことができる。また封水は吸気された気体が必ず排気されるようシールの役目を果たしている。
【0045】
水封式真空ポンプをラミネート加工の真空引きの工程で使用しているので太陽電池素材の充填材であるEVAが溶融する際に発生する有機過酸化物及びシランカップリング剤を含んだガスが真空ポンプ内に吸入される。吸入されるガスに含まれた有機過酸化物は、図5の水封式真空ポンプ内の封水リング213に吸着される。真空ポンプ内には油ではなく水であり有機過酸化物を吸収しても特に問題はない。有機過酸化物を含んだ封水は一定期間後に交換すれば良い。その交換周期は、油回転式真空ポンプのオイルの交換周期よりも格段に長い。
【0046】
<真空ポンプシステムの実施形態1>
図5の構成の水封式真空ポンプのみでは、到達できる真空度の限界値が高く、太陽電池モジュールのラミネ−ト加工に必要な真空度を達成することが難しい。
実施形態1においては、図6に示すように水封式真空ポンプと油回転式真空ポンプを配置している。予め設定した最終の真空度(減圧値)に到達するまでの真空引きの工程を2段階とする。1段目の真空引き工程は、水封式真空ポンプを用い、その後の2段目の真空引き工程は、真空引きの回路を切り替えて、油回転式真空ポンプを用い、予め設定した最終真空度(減圧値)例えば400Pa以下に到達するまで真空引きを行う。
【0047】
これにより一段目の真空引き工程においてラミネート加工中に充填材(EVA)から発生するガスに含まれる有機過酸化物は、水封式真空ポンプ内の水に吸収される。さらに二段目の真空引き工程においては、油回転式真空ポンプにより最終的な真空度を確保することができる。二段目の真空引き工程においては、すでに有機過酸化物を含んだガスは一段目の真空引き工程において水封式真空ポンプ内の水にて吸収されており、油回転式真空ポンプへの有機過酸化物を含んだガスによる影響はほとんど無い。
【0048】
本実施形態において、1段目の真空引き工程におけるその到達真空度(減圧値)は2300Pa〜3000Paに設定することが好ましい。
1段目の真空引き工程にて、水封式真空ポンプ到達真空度(減圧値)が2300Pa未満では、真空度が水温の影響を受け到達しない虞があり、3000Paを超えると油回転式ポンプにEVAガスが入り込む虞がある。
また本実施形態において、二段目真空引き工程における到達真空度(減圧値)は400Pa以下とすることが好ましい。二段目真空引き工程における到達真空度(減圧値)が400Paを超えるとモジュール内に気泡残留の虞がある。
【0049】
<真空ポンプシステムの実施形態2>
本実施形態は、図7に示すように、水封式真空ポンプおよび油回転式真空ポンプを用いた実施形態1において、図7のように水封式真空ポンプの前に吸着装置を設けた形態である。このような構成とすることにより一次真空引きの工程にて使用する水封式真空ポンプの前に吸着装置があるので、一次真空引きの工程にて水封式真空ポンプ内にEVAから発生する有機過酸化物やシランカップリング剤などが侵入することなく水封式真空ポンプの寿命やメンテナンスのインターバルを格段に長くすることができる。
【0050】
<真空ポンプシステムの実施形態3>
本実施形態は、図8に示すように、吸着装置を油回転式真空ポンプの前に吸着装置を設けた構成としている。このような構成とすることにより二段目の真空引きの工程において油回転式真空ポンプにて真空引きする際に有機過酸化物を含むEVAから発生する有機過酸化物やシランカップリング剤などを吸着装置にて除去できるので油回転式真空ポンプの寿命やメンテナンスのインターバルを格段に長くすることができる。
【0051】
以下実施形態2および3にて使用する吸着装置の一例の構成について説明する。
【0052】
図9は、本発明のラミネート装置の使用する真空ポンプ用吸着装置の縦断面図である。真空ポンプ用吸着装置300は、中空の箱型で、直方体の本体311の一方にラミネート装置のチャンバ側と接続する入口312があり、他方には真空ポンプと接続する出口313を備えている。
【0053】
本体311の入口312近くに、冷却ブロック321を介してペルチェクーラー314を設けている。本体311内には、L型のアルミニウム製の冷却板315を設け、その短辺を冷却ブロック321にネジなどで固定している。ペルチェクーラー314が冷えると、冷却ブロック321が冷却されて冷却板315の熱が奪われ、冷却板315の温度が低下する。
【0054】
本体311内には、さらに、中央に通気性で多孔性の素材からなるフィルター316を設けて、出口側には、ガス吸着素材からなるフィルター317を設けている。この実施例では、通気性で多孔性の素材からなるフィルター316としては、不織布を使用しており、ガス吸着素材からなるフィルター317には活性炭が混入した不織布を使用している。
【0055】
これらのフィルター316、フィルター317は、本体311に形成された上下のホルダー318の溝内に取り付けられている。本体311の上部の天井には、冷却板315、フィルター316、フィルター317のそれぞれと対応する位置に窓311aがあり、この上に透明素材からなる蓋体319がボルト320等で取外し可能に取り付けられている。すなわち、ボルト320を外して蓋体319を取り去ると、窓311aから手を入れてフィルター316、フィルター317を直接掴み取り外すことができ、新しいものと交換することができる。また、通常は、透明な蓋体319と窓311aから冷却板315やフィルター316、317を見ることができるようになっている。
なお、蓋319は、本実施例においては一体構造となっているが、冷却板315、フィルター316、フィルター317に対応する窓311aを個別に蓋をする構成とすることもできる。
【0056】
図10は、冷却板315の図で、(a)は図9の入口12側から見た図で(b)は図9と同じ方向から見た図である。冷却板315はアルミニウム板の多孔板で、多くの孔が空けられているが、中央の孔315aと周囲の孔315bとを比較すると、周囲の孔315bの方が径が小さくなっている。
【0057】
次ぎに、本発明の真空ポンプ用吸着装置300の作用を説明する。
【0058】
ラミネート装置から吸引された空気は、100℃程度の温度になっており、EVAから揮発した有機過酸化物及びシランカップリング剤を含んでいる。この空気が、真空ポンプ用吸着装置300の入口312から入り、冷却板315を通過するとき冷やされ、シランカップリング剤が縮合してできた固形物が析出する。固形物は一部が冷却板315に付着し、残りは冷却板315を通過して次の不織布からなるフィルター316で捕捉される。捕捉後はEVAから発生する有機過酸化物、シランカップリング剤が殆どなくなっているので、真空ポンプのオイルを劣化させることが殆どない。そのため、オイルの交換周期を伸ばすことができる。
る。
【0059】
本発明のラミネート装置に使用する真空ポンプ用吸着装置300は、使用時間の経過とともに、フィルター316が目詰まりを起こし、フィルター317の吸着力も低下していく。そこで、窓311aで冷却板315、フィルター316、フィルター317の汚れ状態を見て、必要に応じて冷却板315を洗浄したり、フィルター316、フィルター317を交換する。吸着装置が安価な材料からできていることと、吸着装置の交換が短時間で可能であること、オイル交換の周期が延びること等で、トータルとして大幅なコストダウンが可能となる。
【0060】
本発明では、冷却手段としてペルチェクーラー314を使用したが、これに限定されるものではなく、例えば冷却ブロック321に冷媒を流すなど、他の冷却手段を使用することができる。ただし、ペルチェクーラー314にすることで、構成を小型で単純化することができる。
【0061】
また、真空ポンプ用吸着装置300は、冷却手段としての冷却板315、通気で多孔性の素材からなるフィルター316、ガス吸着素材からなるフィルター317の全てが揃わなくてもよく、これら3つの中からいずれか2つを選んで、空気の流れに沿って配置してもよい。ただし、冷却板315を使用する場合は、これを上流側に配置することが望ましい。
【0062】
また、本発明のラミネート装置に使用される真空ポンプ用吸着装置は、上記形態に限定されない。太陽電池モジュールをラミネート装置にてラミネート加工する際に発生するガスに含まれる有機過酸化物を吸着する機能を有する吸着装置であれば良い。
【0063】
<本発明真空ポンプシステムの効果の確認>
本発明の真空ポンプシステムの効果について、実施例および比較例により更に説明する。
【0064】
[実施例1]
実施例1は、実施形態1の真空ポンプシステム(図6)を日清紡メカトロニクス社製ラミネート装置Lam1537に使用した。水封式真空ポンプから油回転式真空ポンプへの切り替えの真空度(減圧値)は、3000Paとし、油回転式真空ポンプによる最終到達する真空度を130Paとした。ラミネート加工中の真空引きの工程を上記のようにし、充填材としてEVAを使用した図1の形態の太陽電池モジュールの素材を熱板上に載置し、加熱温度を150℃、ラミネート時間を20分間として、ラミネート加工を行った。その後、被加工物(太陽電池モジュール)内の気泡の状態および、さらに真空ポンプがメンテナンスを必要とするまでの被加工物の加工数を確認した。真空ポンプメンテナンスが必要となる場合の定義は、下チャンバー真空度が真空引き10分後に200Pa以上になった時、油回転式ポンプの寿命に達したと定義する。
また油回転式ポンプ前に有機過酸化物、シランカップリング剤を吸着可能な吸着シートを備えたフィルター(以下トラップという)を設け、EVAシートから揮発する有機過酸化物、シランカップリング剤を吸着させ、官能試験として臭気により評価した。官能試験の結果は3段階として次に定義する。

臭気レベル1 無臭
臭気レベル2 やや臭気がする
臭気レベル3 強い臭気がする

【0065】
[比較例1]
比較例1は、図11の比較例真空ポンプシステムを日清紡メカトロニクス社製ラミネート装置Lam1537に使用した。油回転式真空ポンプによる最終到達する真空度を130Paとした。ラミネート加工中の真空引きの工程を上記のようにし、充填材としてEVAを使用した図1の形態の太陽電池モジュールの素材を熱板上に載置し、加熱温度を150℃、ラミネート時間を20分間として、ラミネート加工を行った。その後、被加工物(太陽電池モジュール)内の気泡の状態および、さらに真空ポンプがメンテナンスを必要とするまでの被加工物の加工数を確認した。真空ポンプメンテナンスが必要となる場合の定義は、[実施例1]と同様、下チャンバー真空度が真空引き10分後に200Pa以上になった時、油回転式ポンプの寿命に達したと定義する。
また油回転式ポンプ前にトラップを設け、EVAシートから揮発する有機過酸化物、シランカップリング剤を吸着させ、官能試験として臭気により評価した。官能試験の結果は3段階として次に定義する。

臭気レベル1 無臭
臭気レベル2 やや臭気がする
臭気レベル3 強い臭気がする

【0066】
実施例1,比較例1の結果を表1に示す。
【表1】

表1において油回転式真空ポンプの寿命は、下チャンバーの真空引き10分後の真空度が200Paa以上になった時と定義する。
【0067】
表1の実施例1について説明する。油回転式真空ポンプの寿命は、実施例1で太陽電池モジュールを2500枚加工した時点でメンテンスが必要になった。実施例1は、水封式真空ポンプと油回転式真空ポンプを並列して配置し、真空度(減圧値)を3000Paで水封式真空ポンプから油回転式真空ポンプに切り替えしているのでラミネート加工中にEVAから発生する有機過酸化物、シランカップリング剤を含むガスは、一段目の水封式真空ポンプの封水リング内に吸収され、二段目の油回転式真空ポンプにはほとんど侵入しない。したがってメンテナンスが必要になるまでの太陽電池モジュールのラミネート加工数は、比較例に比べ格段に向上している。
なお実施例1の真空ポンプシステムを使用してラミネート加工した後の太陽電池モジュール内には気泡はまったく無かった。
また水封式ポンプの封水リング内に、EVAから発生する有機過酸化物、シランカップリング剤を含むガスが吸収したことを証明する為、ラミネーターと油回転式ポンプの間にトラップを設け、トラップ内の吸着シートの官能試験として臭気で評価した。吸着シートには有機過酸化物、シランカップリング剤を飛ばしたEVAシートを用いた。モジュールを2500枚加工後も吸着シートは無臭であり、有機過酸化物、シランカップリング剤を含むガスが水封式ポンプの封水リング内に吸収したと考えられる。
【0068】
一方表1の比較例1について説明する。比較例1では、太陽電池モジュールを400枚加工した時点で油回転式真空ポンプのメンテナンスが必要となった。
比較例1では、油回転式真空ポンプだけが配置されており、油回転式真空ポンプ内にラミネート加工中にEVAから発生する有機過酸化物を含むガスなどが油回転式真空ポンプ内に侵入しラミネート加工枚数が少ない時点でメンテナンスが必要となる。EVAから発生する有機過酸化物、シランカップリング剤を含むガスが油回転ポンプに吸われている事を証明する為、ラミネーターと油回転式ポンプの間にトラップを設け、トラップ内の吸着シートの官能試験として臭気で評価した。吸着シートには有機過酸化物、シランカップリング剤を飛ばしたEVAシートを用いた。モジュールを400枚加工後でのトラップ内の吸着シートには強い臭気があり、有機過酸化物、シランカップリング剤を含むガスが油回転式真空ポンプ内に混入したと考えられる。
【0069】
以上より本発明のラミネート装置用の真空ポンプシステムは、油回転式真空ポンプの寿命またはメンテナンスするまでの期間を、従来の真空ポンプシステムよりも格段に長くすることができる。
【符号の説明】
【0070】
10 被加工物(太陽電池モジュール)
11 カバーガラス
12 裏面材
13、14 充填材
100 ラミネート装置
101 ラミネート部
110 上ケース
112 ダイヤフラム
113 上チャンバ
120 下ケース
121 下チャンバ
122 熱板
200 水封式真空ポンプ
211 ケーシング
212 羽根車
213 封水リング
300 真空ポンプ用吸着装置
311 本体
311a 窓
312 入口
313 出口
314 ペルチェクーラー
315 冷却板
315a 中央の孔
315b 周囲の孔
316 フィルター(通気性で多孔性の素材からなる)
317 フィルター(ガス吸着素材からなる)
318 ホルダー
319 蓋体
320 ボルト
321 冷却ブロック


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤフラムにより仕切られた上チャンバと下チャンバとを有し、その下チャンバに設けられた熱板上に被加工物を配置し、前記熱板により加熱した前記被加工物を、前記下チャンバを真空とし前記上チャンバに大気を導入し前記熱板と前記押圧部材とで挟圧してラミネートするラミネート装置用の真空ポンプシステムであって、
上チャンバと下チャンバを真空引きする真空ポンプとして、水封式真空ポンプと油回転式真空ポンプを配置し、常圧からある減圧値まで真空引きする一次真空引き工程においては水封式真空ポンプを使用し、その後の最終減圧値まで真空引きする二次真空引き工程においては油回転式真空ポンプを使用することを特徴とするラミネート装置用の真空ポンプシステム。
【請求項2】
前記一次真空引き工程における前記減圧値が2300Paから3000Paとしたことを特徴とする請求項1に記載のラミネート装置用の真空ポンプシステム。
【請求項3】
前記二次真空引き工程における前記最終減圧値が400Pa以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のラミネート装置用の真空ポンプシステム。
【請求項4】
通気性の冷却手段と、通気性で多孔性の素材からなる吸着装置と、ガス吸着素材からなる吸着装置との3つから3つ全てまたは任意の2つを空気の流れに沿って並べて配置した真空ポンプ用吸着装置を前記水封式真空ポンプの前に設けたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のラミネート装置用の真空ポンプシステム。
【請求項5】
通気性の冷却手段と、通気性で多孔性の素材からなる吸着装置と、ガス吸着素材からなる吸着装置との3つから3つ全てまたは任意の2つを空気の流れに沿って並べて配置した真空ポンプ用吸着装置を前記油回転式真空ポンプの前に設けたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のラミネート装置用の真空ポンプシステム。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のラミネート装置用の真空ポンプシステムを使用したことを特徴とするラミネート装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−187735(P2012−187735A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51106(P2011−51106)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(709002303)日清紡メカトロニクス株式会社 (43)
【Fターム(参考)】