説明

リザーバタンクおよびこれを用いたブレーキ装置

【課題】車両の傾動時に作動液貯留室内の作動液の移動を効果的に抑制することができるとともに、外部からの作動液の液面の視認性を向上する。
【解決手段】上半体9と下半体8との溶着部5aが車両前方側から後方側に向かって低くなるように傾斜し、かつ作動液貯留室13の上方の天井部9b1天井面の9b2がこの溶着部5aと平行またはほぼ平行に設定される。これにより、作動液貯留室13内の作動液の液面と作動液貯留室13における天井面9b2との間に空隙が生じても、この空隙は比較
的小さい。また、溶着部5aの高さ位置とLIS点灯ライン9b3の高さ位置とが比較的
大きく離間する作動液貯留室13の車両前方側の領域に、作動液貯留室13内の作動液の液面が視認可能な液面視認空間部5cが設けられる。これにより、作動液貯留室13内の液面の視認性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧等の液圧を利用した液圧ブレーキ装置や液圧クラッチ装置に用いられ、作動液を貯留するリザーバタンクの技術分野およびこれを用いたブレーキ装置の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両においては、液圧を利用した液圧ブレーキ装置や液圧クラッチ装置を採用した車両がある。これらの液圧ブレーキ装置や液圧クラッチ装置には、液圧を発生させるマスタシリンダおよびこのマスタシリンダに供給する作動液を貯留するリザーバタンクが用いられている。
【0003】
従来のリザーバタンクとして、タンデムマスタシリンダの一方の液圧室に接続する第1貯留室、作動液の液量を検出する液量検出部である第2貯留室、タンデムマスタシリンダの他方の液圧室に接続する第3貯留室、および作動液注入口がこれらの順で車両後方から前方に向けて配置された車両前後方向に比較的長いリザーバタンクが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1に記載のリザーバタンクは、上半体の下縁と下半体の上縁とを接合することで容器状に形成されている。その場合、上半体と下半体との接合部は突部に形成されるとともに、この接合部は車両前方から後方に向けて低くなるように所定の傾斜角で傾斜している。そして、各貯留室の底面も、この突部に平行またはほぼ平行に車両前方から後方に向けて低くなるように所定の傾斜角で傾斜している。
【0005】
また、リザーバタンク内の作動液の許容最大量(MAX)ラインの高さ位置は前述の突部の車両前方側の端とほぼ同じ高さ位置に設定されているとともに、許容最少量(MIN)ラインの高さ位置は前述の突部の車両前方側部より低くかつ突部の車両後方側部より高い高さ位置に設定されている。
【0006】
更に、液量検出部は、リザーバタンク内の作動液の液面の上下動に応じて上下動するフロートと、このフロートに設けられたマグネットと、このマグネットによりオン、オフされるリードスイッチとを備えている。そして、リザーバタンク内の作動液の液面の高さ位置が低下してMINラインより若干上方位置に設定されるリードスイッチオンラインの高さ位置になると、フロートおよびマグネットの各高さ位置もこの作動液の液面の高さ位置に対応した位置となる。これにより、マグネットはリードスイッチをオンし、警告灯が点灯する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−34849号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、車両の前方側が低くなるように車両が傾動したとき、各貯留室内に貯留される作動液が車両前方側の作動液注入口の方へ移動する。このため、各貯留室内に貯留される作動液の液面がリードスイッチオンラインより若干高い位置にある場合、この作動液の移動により、液量検出部での液面の高さ位置がリードスイッチオンライン以下となってリードスイッチが誤作動してしまうおそれがあるという問題が考えられる。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のリザーバタンクでは、各貯留室の底面が前述のように傾斜している一方、各貯留室の天井面が水平またはほぼ水平となっている。このため、作動液が各貯留室内にMAXラインまで貯留された状態であっても、各貯留室内の作動液の液面上方には、比較的大きな空間が存在している。このように、各貯留室内の作動液の液面上方に大きな空間が存在すると、前述の車両傾動時に各貯留室内の作動液は移動し易い。したがって、特許文献1に記載のリザーバタンクでは、前述の問題を解決することは難しい。
【0010】
一方、リザーバタンクには液量検出部が設けられることが道路運送車両の保安基準で義務づけられているが、車両のユーザー等により、液量検出部のリードスイッチがオンする前の状態であっても作動液の液量をリザーバタンクの外部から視認できるようにすることが求められている。このように作動液の液面を視認可能にすることで、作動液の液面がリードスイッチオンラインに接近していることを知ることができる。このようなことから、従来一般にリザーバタンクを半透明の樹脂で形成される場合が多い。そこで、特許文献1に記載のリザーバタンクを半透明の樹脂で形成して液面の視認可能にすることが考えられる。
【0011】
ところで、リザーバタンクは一般にエンジンルーム内に配設されるが,このエンジンルーム内は比較的狭いばかりでなく、エンジンや変速機等の車両の他の多くの部品も配設されている。このため、リザーバタンクの設置スペースが制限されるばかりでなく、リザーバタンクの車両後方側の大部分が他の部品に隠蔽され、ボンネットの開放時にリザーバタンクの作動液注入口のある車両前方側部分のみが外部から視認可能になっている場合が多い。特に、特許文献1に記載のリザーバタンクのように車両前後方向に長いリザーバタンクでは、このような場合が多くなる。
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載のリザーバタンクでは、第1ないし第3貯留室の車両前後方向のほぼ中心位置で、前述の接合部とリードスイッチオンラインとが交差していることから、外部から視認可能なリザーバタンクの車両前方側部分では、接合部の高さ位置とリードスイッチオンラインおよびMINラインの各高さ位置とが近接している。このため、液面がリードスイッチオンラインおよびMINラインの各高さ位置に接近している状態では、作動液の液面が接合部によって遮られる。このとき、リザーバタンクは半透明樹脂で形成されているが、接合部の部分は厚肉となっているため、リザーバタンクの透明度が低下して、液面視認空間部での作動液の液面の視認が困難になる。したがって、特許文献1に記載のリザーバタンクでは、半透明の樹脂で形成しても外部からの液面の視認性が良好でないという問題がある。特に、リザーバタンクの内壁では表面張力により作動液の液面が盛り上がるため、この液面を明確に視認が更に難しくなる。
【0013】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、車両の傾動時に作動液貯留室内の作動液の移動を効果的に抑制することができるとともに、外部からの作動液の液面の視認性を向上することのできるリザーバタンクおよびこれを用いたブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述の課題を解決するために、本発明のリザーバタンクは、上半体と下半体とを接合し、内部に作動液を貯留する作動液貯留室と、前記作動液貯留室に前記作動液を供給する作動液注入口と、前記作動液貯留室内に貯留される前記作動液の液面が低下してリードスイッチオンラインになったときオンするリードスイッチとを少なくとも有し、前記作動液注入口が車両前方側に配置されるとともに前記作動液貯留室が車両後方側に配置されるようにして車体に取り付けられるリザーバタンクにおいて、前記車体への取付状態でかつ前記
車両の水平状態で、前記上半体と前記下半体との接合部が車両前方側から後方側に向かって低くなるようにされているとともに、前記作動液貯留室の上方の前記上半体の天井面が前記接合部と平行またはほぼ平行にされており、前記リードスイッチオンラインの車両後方側端または前記リードスイッチオンラインより所定量低い位置に設定された許容最少量(MIN)ラインの車両後方側端が、前記作動液貯留室の車両後方側における前記天井面と交差する位置に設定されていることを特徴としている。
【0015】
また、本発明のリザーバタンクは、前記作動液貯留室の車両前方側部分に、外部から前記作動液貯留室内の前記作動液の液面が視認可能な液面視認空間部が設けられていることを特徴としている。
【0016】
更に、本発明のブレーキ装置は、作動液を貯留するリザーバタンクと、前記リザーバタンク内の作動液が供給されるとともに作動時にブレーキ圧を発生するマスタシリンダと、前記マスタシリンダからの液圧で作動するブレーキシリンダとを少なくとも備え、
前記リザーバタンクが前述の本発明のリザーバタンクのいずれか1つであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
このように構成された本発明のリザーバタンクによれば、上半体と下半体との接合部が車両前方側から後方側に向かって低くなるように傾斜しているとともに、作動液貯留室の上方の天井面がこの接合部と平行またはほぼ平行に設定される。また、リードスイッチオンラインの車両後方側端またはMINラインの車両後方側端が作動液貯留室の車両後方側における天井面と交差する位置に設定される。したがって、作動液貯留室における天井面を特許文献1に記載の従来のリザーバタンクに比べて効果的に低くすることができる。これにより、作動液貯留室内の作動液の液面と作動液貯留室における天井面との間に空隙が生じても、この空隙を比較的小さすることが可能となる。その結果、車両傾動時にリザーバタンクの前方側が低くなるようにリザーバタンクが傾動しても、作動液貯留室内の作動液の車両前方側への移動を抑制することができる。
【0018】
特に、リードスイッチオンラインおよびMINラインが前述のように設定されることで、リザーバタンク内に通常の量の作動液が貯留されているときは、作動液貯留室内に貯留される作動液は、作動液貯留室における天井面のすべてに当接可能となる。つまり、作動液貯留室内に作動液をほぼ充満させることが可能となる。したがって、前述のようにリザーバタンクが傾動しても、作動液貯留室内の作動液の車両前方側への移動をより効果的に抑制することが可能となる。また、リザーバタンク内の作動液の液量が減少することで液面がリードスイッチオンラインの近くまで低下して、作動液貯留室内の作動液の液面と作動液貯留室における天井面との間に空隙が生じても、この空隙を更に一層小さくすることが可能となる。したがって、前述と同様にリザーバタンクが傾動しても、作動液の車両前方への移動を更に効果的に抑制することができる。
【0019】
また、作動液貯留室の車両前方側部分に、外部から作動液貯留室内の作動液の液面が視認可能な液面視認空間部が設けられる。この液面視認空間部が設けられる位置は、作動液貯留室の車両前方側の領域で接合部の高さ位置とリードスイッチオンラインおよびMINラインとの高さ位置とが比較的大きく離間する位置である。したがって、作動液貯留室内の作動液の液面を作動液の表面張力により盛り上がった位置で液面視認空間部において容易に視認可能となる。これにより、作動液貯留室内の液面の視認性を向上することができるとともに、液面視認空間部の設置スペースを効率よく設定することが可能となる。
【0020】
一方、本発明のリザーバタンクを用いたブレーキ装置によれば、車両傾動時にリザーバタンク内の作動液の移動を抑制することができるので、ブレーキ作動をより確実に行うこ
とができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るリザーバタンクの実施の形態の一例を備えるブレーキ装置を、模式的に示す図である。
【図2】図1に示す例のリザーバタンクの長手方向の縦断面図である。
【図3】(a)は液面視認空間部における視認性が良好である場合の説明図、(b)は液面視認空間部における視認性が良好でない場合の説明図である。
【図4】(a)はフィルタが設けられる上半体首部を示す部分断面図、(b)は脱落防止部の一例を示す図である。
【図5】本発明のリザーバタンクの実施の形態の他の例を示し、(a)は図2と同様の断面図、(b)は下半体の上面図である。
【図6】(a)はフィルタが設けられる上半体首部の他の例を示す部分断面図、(b)は脱落防止部の他の例を示す図である。
【図7】(a)はエア移動通路を有するリザーバタンクの断面図、(b)はエア移動通路の車両前後方向と直交する方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。
図1は本発明に係るリザーバタンクの実施の形態の一例を備えるブレーキ装置を、模式的に示す図である。
【0023】
図1に示すように、この例の液圧ブレーキ装置1は、基本的には従来公知の一般的な2系統の液圧ブレーキ装置と同じである。すなわち、液圧ブレーキ装置1は、ブレーキペダル2、倍力装置3、タンデムマスタシリンダ4、リザーバタンク5、およびブレーキシリンダ6を備えている。リザーバタンク5は、車体に固定されたタンデムマスタシリンダ4に取り付けられる。その場合、リザーバタンク5は、その長手方向が車両の前後方向またはほぼ車両前後方向となるように取り付けられる。
【0024】
そして、運転者がブレーキペダル2を踏み込むと、倍力装置3が作動してペダル踏力を所定のサーボ比で倍力して出力する。この倍力装置3の出力でタンデムマスタシリンダ4のプライマリピストン4aが作動してプライマリ作動液室4bの作動液を一方の系統のブレーキシリンダ6に送給するとともに、セカンダリピストン4cが作動してセカンダリ作動液室4dの作動液を他方の系統のブレーキシリンダ6に送給する。各ブレーキ系統のロスストロークが消滅すると、タンデムマスタシリンダ4が液圧を発生する。このタンデムマスタシリンダ4の液圧が各ブレーキシリンダ6に伝達され、各ブレーキシリンダ6がブレーキ力を発生して、各車輪7にブレーキがかけられる。
【0025】
図2は、この例のリザーバタンクの長手方向の縦断面図である。なお、以下の説明において、各部位の底の高さの高低は、リザーバタンクが車体に取り付けられかつ車両が水平にされた状態での高低をいう。
図2に示すように、この例のブレーキ装置1に用いられているリザーバタンク5は、タンデムマスタシリンダ4へ送給する作動液を貯留しかつ上方に開口した容器状の下半体8と、この下半体8に溶着されて下半体8の上端開口部を閉塞する上半体9とを有している。その場合、下半体8および上半体9は、ともに透明または半透明の同じ樹脂で形成されている。上半体9には作動液注入口10が設けられているとともに、この作動液注入口10を開閉するキャップ11が設けられている。
【0026】
この例の下半体8は、作動液供給部12と、この作動液供給部12に連通する作動液貯留室13とを有している。
作動液貯留室13は、液量検出室14、プライマリ作動液貯留室15、セカンダリ作動液貯留室16を有している。そして、リザーバタンク5がタンデムマスタシリンダ4を介して車体に取り付けられた状態では、作動液注入口10、作動液供給部12、液量検出室14、セカンダリ作動液貯留室16、およびプライマリ作動液貯留室15は、車両前方(図2において左方)から車両後方(図2において右方)に向かってこれらの順に配設されている。液量検出室14、セカンダリ作動液貯留室16、およびプライマリ作動液貯留室15は、それぞれ仕切壁17によって仕切られている。
【0027】
作動液供給部12の底面12aは、車両前方から車両後方に向かって(つまり、作動液注入口10側から液量検出室14側に向かって)低くなるように傾斜した勾配を有している。また、作動液供給部12と作動液貯留室13(具体的には、液量検出室14)との境界部には段差18が設けられ、作動液供給部12の底面12a全体が液量検出室14の底面14aより高くなっている。液量検出室14の底面14aは水平に形成されている。そして、作動液供給部12と液量検出室14とは常時連通されている。したがって、作動液は上半体9の作動液注入口10を通して作動液供給部12に供給されるとともに、作動液供給部12に供給された作動液は更に作動液貯留室13に流入するようになる。
【0028】
液量検出室14には液量検出部19が設けられている。この液量検出部19はリザーバタンク5の前後方向のほぼ中心に設けられて、リザーバタンク5内に貯留される作動液の液量を検出するものである。液量検出部19は、鉛直方向に延びる一対の切欠部19a1
(図2には一方の切欠部19a1のみ図示)を有する円筒状隔壁19aと、この円筒状隔
壁19a内のフロート室19bに配設されかつマグネット19cを有するフロート19dと、液量検出部19の真下に設けられてマグネット19cで作動されるリードスイッチ(LIS)19eとを備えている。フロート室19bは切欠部19a1により円筒状隔壁1
9aの外周の液量検出室14と常時連通していて、フロート室19b内にも作動液が浸入するようになっている。その場合、リザーバタンク5が車体に取り付けられた通常状態でフロート室19b内の作動液の液面の高さと液量検出室14内の作動液の液面の高さが常時同じになっている。
【0029】
そして、フロート室19b内の作動液の液面の高さに応じて、フロート19dがフロート室19b内を上下動し、液量検出室14内の作動液が少なくなって作動液の液面の高さが予め規定された最小限のMINライン位置より若干上方のLIS点灯ライン(LISオンライン)9b3になると、フロート19dがこの液面の高さに対応した高さ位置となる
。そして、フロート19dのこの高さ位置でマグネット19cがリードスイッチ19eをオンして警告灯が点灯する。
【0030】
液量検出室14は仕切壁17の上方でセカンダリ作動液貯留室16に常時連通しているとともに、セカンダリ作動液貯留室16は仕切壁17の上方でプライマリ作動液貯留室15に常時連通している。プライマリ作動液貯留室15およびセカンダリ作動液貯留室16の各底面は車両前方から車両後方に向かって低くなるように傾斜した傾斜面とされている。その場合、プライマリ作動液貯留室15およびセカンダリ作動液貯留室16の各底面は液量検出室14の底面14aより低くなっている。そして、プライマリ作動液貯留室15およびセカンダリ作動液貯留室16内の作動液の液面が低下すると、液量検出室14内の作動液の液面も低下する。プライマリ作動液貯留室15およびセカンダリ作動液貯留室16内の作動液の液面がLIS点灯ライン9b3になると、前述のようにフロート19dの
マグネット19cがリードスイッチ19eを作動させて警告灯が点灯する。
【0031】
プライマリ作動液貯留室15およびセカンダリ作動液貯留室16の各底面には、それぞれ、プライマリ作動液供給口20およびセカンダリ作動液供給口21が設けられている。プライマリ作動液供給口20はタンデムマスタシリンダ4のプライマリ作動液室4bに接
続されているとともに、セカンダリ作動液供給口21はタンデムマスタシリンダ4のセカンダリ作動液室4dに接続されている。
また、リザーバタンク5の車体への取付状態でかつ車体が水平状態で、下半体8の上縁は、車両前方から後方に向かって低くなるように水平に対する傾斜角θで傾斜している。
【0032】
上半体9は、作動液注入口10を構成する円筒状の上半体首部9aと、下半体8の上面に固定される箱状の上半体胴体部9bとを有している。上半体首部9aは、上半体胴体部9bの前端部(図2において左端部)に設けられている。その場合、この上半体首部9aは、上半体胴体部9bの前端部から斜め前上方に延設されている。リザーバタンク5の車体への取付状態でかつ車体が水平状態で、上半体胴体部9bの天井部9b1の内側の天井
面9b2および上半体9の下縁は、いずれも、車両前方から車両後方に向かって(つまり
、上半体首部9a側から上半体9の後端側に向かって)低くなるように水平に対する傾斜角が下半体8の上縁と同じ傾斜角θまたはほぼ同じ傾斜角で傾斜している。したがって、上半体9の下縁と下半体8の上縁とが整合されて溶着されて形成される突部状の溶着部5a(本発明の接合部に相当)も、リザーバタンク5の車体への取付状態でかつ車体が水平状態で車両前方から車両後方に向かって低くなるように水平に対する同じ傾斜角θまたはほぼ同じ傾斜角で傾斜している。
【0033】
しかも、溶着部5aは、図2に示すようにLIS点灯ライン9b3に対応する位置に位
置するフロート19dの上面19d1が液量検出部19に対応する位置での溶着部5aよ
り下方に(具体的には、二点鎖線で示す上半体9の下縁と下半体8の上縁との合わせ面より下方に)位置するように設けられる。また、天井面9b2は上半体9の下縁に可能な限
り近接されて設けられる。つまり、天井面9b2は上半体9と下半体8との溶着部5aに
可能な限り近接されて設けられる。
【0034】
このように天井部9b1の天井面9b2が傾斜角θで傾斜することにより、リザーバタンク5内に作動液を最大のMAX値まで供給した時、作動液貯留室13内のエアが作動液注入口10の方へ容易に移動するようになる。これにより、リザーバタンク5内の作動液中にエアが残留しないようになっている。
【0035】
ところで、この例のリザーバタンク5は車両のエンジンルーム以内に配設されるが、図2に二点鎖線で示すようにリザーバタンク5の後半部は、例えばトーボード等の車体部材で隠蔽されるようになっている。したがって、図2に二点鎖線で示すようにボンネットの開放時に、リザーバタンク5の視認可能な領域は、ほぼ液量検出部19より車両前方側で作動液注入口10を含むリザーバタンク5の前部5bである。
【0036】
また、この例のリザーバタンク5では、作動液の液面視認空間部5cが視認可能な領域のリザーバタンク5の前部5bの液量検出室14に対応する領域(段差18と液量検出部19の円筒状隔壁19aとの間の車両前方側の液量検出室14)に設けられている。リザーバタンク5が透明または半透明の樹脂で形成されることから、この液面視認空間部5c内の作動液の液面、つまりリザーバタンク5内の作動液の液面がリザーバタンク5の外部から視認可能とされている。
【0037】
そして、LIS点灯ライン9b3がプライマリ作動液貯留室15における天井部9b1の天井面9b2の前後方向のほぼ中心の位置αとなる液面の高さ位置に設定されている。す
なわち、LIS点灯ライン9b3は作動液貯留室13の最も車両後方側に位置するプライ
マリ作動液貯留室15の上方の天井面9b3と位置αで交差している。したがって、天井
面9b2は、その車両後方側の一部分がLIS点灯ライン9b3より低い位置となるとともに、その他の部分がLIS点灯ライン9b3より高い位置となる。同様に、溶着部5aも
、その車両前方側部分がLIS点灯ライン9b3より高い位置となるとともに、その車両
後方側部分がLIS点灯ライン9b3より低い位置となる。このとき、溶着部5aとLI
S点灯ライン9b3とは、作動液貯留室13の車両前後方向の中心位置より後方側のセカ
ンダリ貯留室16の交差位置βで交差する。なお、溶着部5aおよび天井面9b2は、そ
れらの車両前方側部分がMINラインより高い位置となるとともに、それらの車両後方側部分がMINラインより低い位置となるようにすることもできる。この場合には、溶着部5aとMINラインとは、溶着部5aとLIS点灯ライン9b3との交差位置βより更に
若干車両後方側に位置する。
【0038】
また、上半体9と下半体8との溶着部5aは、同様にその車両前方側部分がLIS点灯ライン9b3より高い位置となるとともに、その車両後方側部分がLIS点灯ライン9b3より低い位置となる。したがって、このLIS点灯ライン9b3は、液面視認空間部5c
ではMINライン位置と上半体9および下半体8の溶着部5aとの間に位置するようにされている。その場合、前述のように下半体8と上半体9との溶着部5aが傾斜角θで傾斜しかつ溶着部5aとLIS点灯ライン9b3との交差位置βが作動液貯留室13の車両前
後方向の中心より車両後方側に位置している。すなわち、図3(a)に示すように液面視認空間部5cでは溶着部5aとLIS点灯ラインおよびMINラインとの高さ位置とが比較的大きく離間している。したがって、作動液貯留室13内の作動液の液面が作動液の表面張力により盛り上がった位置で液面視認空間部5cにおいて容易に視認可能となるとともに、液面視認空間部5cの設置スペースが効率よく設定されるようになる。
【0039】
これに対して、図3(b)に示すように液面視認空間部5cでLIS点灯ライン位置およびMINライン位置と上半体9および下半体8の溶着部5aの位置とがかなり接近していると、作動液の液面が溶着部5aによって遮られる。このとき、リザーバタンク5は半透明樹脂で形成されているが、溶着部5aの部分は厚肉となっているため、リザーバタンク5の透明度が低下して、液面視認空間部5cでの作動液の液面の視認が困難になる。特に、リザーバタンク5の内壁では表面張力により作動液の液面が盛り上がるため、この液面を明確に視認することが難しい。
【0040】
更に、LIS点灯ラインおよびMINラインが前述のように設定されることで、リザーバタンク5内に通常の量の作動液が貯留されているときは、作動液貯留室13内に貯留される作動液は、作動液貯留室13における天井面9b2のすべてに当接している。つまり
、作動液貯留室13内は作動液がほぼ充満している。したがって、車両傾動時にリザーバタンク5の前方側が低くなるように傾動しても、作動液貯留室13内の作動液の車両前方側への移動が抑制される。また、リザーバタンク5内の作動液の液量が減少することで液面がLIS点灯ライン9b3の近くまで低下して、作動液貯留室13内の作動液の液面と
作動液貯留室13における天井面9b2との間に空隙が生じても、この空隙は比較的小さ
い。したがって、前述と同様にリザーバタンク5が傾動しても、作動液の車両前方への移動が抑制される。
【0041】
図4(a)に示すように、上半体首部9a内にはフィルタ22が配設されている。このフィルタ22は、上半体首部9a内に取り付けられたフィルタ支持部材23に支持されている。このフィルタ支持部材23は、上枠23a、下枠23b、およびこれらの上枠23aと下枠23bとを連結する所定数の連結柱23cとを有している。また、上半体首部9a内には、フィルタ22が脱落するのを防止する脱落防止部9cが上半体首部9aと一体に設けられている。
【0042】
図4(b)に示すように、脱落防止部9cは、上半体首部9aである横断面が円弧状側壁部9c1と上半体首部9aである横断面が台形状側壁部9c2とから筒状に形成される上半体首部9aの部分と、円弧状側壁部9c1に一体に直径方向に形成された十字形状のリ
ブ9c3とを有している。十字形状のリブ9c3は、フィルタ22を支持するフィルタ支持
部材23が下方に脱落するのを防止している。
【0043】
このように構成されたこの例のリザーバタンク5によれば、上半体9と下半体8との溶着部5aが、車両前方側から後方側に向かって低くなるように傾斜しているとともに、溶着部5aとLIS点灯ライン9b3との交差位置βが作動液貯留室13の車両前後方向の
中心より車両後方側に位置している。上半体9と下半体8との溶着部5aが車両前方側から後方側に向かって低くなるように傾斜しているとともに、作動液貯留室13の上方の天井部9b1天井面の9b2がこの溶着部5aと平行またはほぼ平行に設定される。また、LIS点灯ライン9b3の車両後方側端またはMINラインの車両後方側端が作動液貯留室
13の最も車両後方側であるプライマリ作動液貯留室15における天井面9b2と交差す
る位置に設定される。したがって、作動液貯留室13における天井面9b2を特許文献1
に記載のリザーバタンクに比べて効果的に低くすることができる。これにより、作動液貯留室13内の作動液の液面と作動液貯留室13における天井面9b2との間に空隙が生じ
ても、この空隙を比較的小さすることが可能となる。その結果、車両傾動時にリザーバタンク5の前方側が低くなるように傾動しても、作動液貯留室13内の作動液の車両前方側への移動を抑制することができる。
【0044】
特に、LIS点灯ライン9b3およびMINラインが前述のように設定されることで、
リザーバタンク5内に通常の量の作動液が貯留されているときは、作動液貯留室13内に貯留される作動液は、作動液貯留室13における天井面9b2のすべてに当接可能となる
。つまり、作動液貯留室13内に作動液をほぼ充満させることが可能となる。したがって、前述のようにリザーバタンク5が傾動しても、作動液貯留室13内の作動液の車両前方側への移動をより効果的に抑制することが可能となる。また、リザーバタンク5内の作動液の液量が減少することで液面がLIS点灯ライン9b3の近くまで低下して、作動液貯
留室13内の作動液の液面と作動液貯留室13における天井面9b2との間に空隙が生じ
ても、この空隙を更に一層小さくすることが可能となる。したがって、前述と同様にリザーバタンク5が傾動しても、作動液の車両前方への移動を更に効果的に抑制することができる。
【0045】
また、作動液貯留室13の車両前方側の領域で溶着部5aの高さ位置とLIS点灯ライン9b3の高さ位置およびMINラインの高さ位置とが比較的大きく離間する。そして、
この領域に液面視認空間部5cが設けられる。したがって、作動液貯留室13内の作動液の液面を液面視認空間部5cにおいて外部から作動液の表面張力により盛り上がった位置で容易に視認可能となる。これにより、作動液貯留室13内の液面の視認性を向上することができるとともに、液面視認空間部5cの設置スペースを効率よく設定することが可能となる。
【0046】
一方、この例のリザーバタンク5を用いた液圧ブレーキ装置1によれば、車両傾動時にリザーバタンク5内の作動液の移動を抑制することができるので、ブレーキ作動をより確実に行うことができる。
【0047】
図5は、本発明のリザーバタンクの実施の形態の他の例を示し、(a)は図2と同様の断面図、(b)は下半体の上面図である。
前述の図2に示す例では、液面視認空間部5cが段差18と液量検出部19の円筒状隔壁19aとの間の車両前方側の液量検出室14に設けられているが、図5(a)および(b)に示すように、この例のリザーバタンク5では、液量検出部19の円筒状隔壁19aの車両前方側部分が段差18と交差している。したがって、この例のリザーバタンク5は前述の例のリザーバタンクに比べて車両前後方向に短くコンパクトに形成されている。そして、この例のリザーバタンク5では、液面視認空間部5cは、液量検出部19の円筒状隔壁19aの一対の切欠部19a1に対応する液量検出室14に設けられている。
この例のリザーバタンクの他の構成、および作用効果は、前述の図2に示す例のリザーバタンク5と実質的に同じである。
【0048】
図6は、本発明のリザーバタンクの実施の形態の更に他の例を示し、(a)は図4(a)と同様の部分断面図、(b)はこの例のフィルタ支持部材の図4(b)と同様の上面図である。
前述の図4(a)および(b)に示す例では、脱落防止部9cが、上半体首部9aである横断面が円弧状側壁部9c1と上半体首部9aである横断面が台形状側壁部9c2とから筒状に形成される上半体首部9aの部分とを有しているが、図6(a)および(b)に示すように、この例のリザーバタンク5では、上半体首部9a内にほぼ円筒状の側壁部9dが上半体首部9aと一体に形成されているとともに、この側壁部9dに所定数の切欠部9eが形成されている。そして、十字形状のリブ9c3がこのほぼ円筒状の側壁部9dに一
体に形成されている。
この例のリザーバタンクの他の構成、および作用効果は、前述の図2に示す例のリザーバタンク5と実質的に同じである。
【0049】
図7は、本発明のリザーバタンクの実施の形態の更に他の例を示し、(a)は図5(a)と同様の断面図、(b)は(a)におけるVIIB−VIIB線に沿う断面図である。
前述の各例のリザーバタンク5では、作動液貯留室13における天井面9b2が低くで
きることから、作動液貯留室13内の作動液の液面上方のエアが移動し難くなる可能性が考えられる。
【0050】
そこで、図7(a)に示すようにこの例のリザーバタンク5では、上半体9の天井部9b1に車両前後方向に延びる溝からなるエア移動通路24が設けられている。このエア移
動通路24の溝としては、例えば図7(b)の(b1)に示す上方に突出する横断面矩形状の凹溝24a、同(b2)に示す上方に突出する横断面台形状の凹溝24b、同(b3)に示す上方に突出する横断面V字状の凹溝24c、および同(b4)に示す上方に突出する横断面円弧状の凹溝24d等がある。もちろん、エア移動通路24の溝は他の横断面形状の溝に形成することもできる。
【0051】
この例のリザーバタンク5によれば、上半体9の天井部9b1に溝状のエア移動通路2
4を設けているので、リザーバタンク5内に作動液を最大のMAX値まで供給した時、作動液貯留室13内のエアが作動液注入口10の方へ更に一層容易に移動させることが可能となる。これにより、リザーバタンク5内の作動液中にエアが残留するのを抑制できる。
【0052】
また、エア移動通路24を溝状に形成することで、作動液貯留室13内の作動液の液面の上方の空隙の容積が増大するが、エア移動通路24の溝は天井部b1に部分的に設けら
れるので、この容積増を最小限の容積増に抑えることができる。したがって、天井面9b2を低くすることで作動液の移動を抑制する作用効果を実質的に損なうことなく、作動液
移動抑制性能に変化をほとんど生じさせない。
更に、溝状のエア移動通路24により、上半体9の天井部9b1の強度を増大すること
ができる。これにより、リザーバタンク5の耐圧変形強度を向上することができる。
【0053】
なお、本発明は、前述の例に限定されることはなく、特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で、種々の設計変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係るリザーバタンクは、油圧等の液圧を利用した液圧ブレーキ装置や液圧クラッチ装置に用いられて、作動液を貯留するリザーバタンクに好適に利用することができる。
また、本発明に係るブレーキ装置は、リザーバタンクに貯留された作動液を用いて車輪にブレーキをかけるブレーキ装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1…液圧ブレーキ装置、2…ブレーキペダル、3…倍力装置、4…タンデムマスタシリンダ、5…リザーバタンク、5a…溶着部、5b…前部、5c…液面視認空間部、6…ブレーキシリンダ、8…下半体、9…上半体、9a…上半体首部、9b…上半体胴体部、9b1…天井部、9b2…天井面、9b3…LIS点灯ライン、9c…脱落防止部、19d1…上面、10…作動液注入口、12…作動液供給部、13…作動液貯留室、14…液量検出室、15…プライマリ作動液貯留室、16…セカンダリ作動液貯留室、18…段差、19…液量検出部、19…円筒状隔壁、19a1…切欠部、19b…フロート室、19c…マグ
ネット、19d…フロート、19e…リードスイッチ(LIS)、22…フィルタ、23…フィルタ支持部材、24…エア移動通路、24a,24b,24c,24d…凹溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上半体と下半体とを接合し、内部に作動液を貯留する作動液貯留室と、前記作動液貯留室に前記作動液を供給する作動液注入口と、前記作動液貯留室内に貯留される前記作動液の液面が低下してリードスイッチオンラインになったときオンするリードスイッチとを少なくとも有し、前記作動液注入口が車両前方側に配置されるとともに前記作動液貯留室が車両後方側に配置されるようにして車体に取り付けられるリザーバタンクにおいて、
前記車体への取付状態でかつ前記車両の水平状態で、前記上半体と前記下半体との接合部が車両前方側から後方側に向かって低くなるようにされているとともに、前記作動液貯留室の上方の前記上半体の天井面が前記接合部と平行またはほぼ平行にされており、
前記リードスイッチオンラインの車両後方側端または前記リードスイッチオンラインより所定量低い位置に設定された許容最少量(MIN)ラインの車両後方側端が、前記作動液貯留室の車両後方側における前記天井面と交差する位置に設定されていることを特徴とするリザーバタンク。
【請求項2】
前記作動液貯留室の車両前方側部分に、外部から前記作動液貯留室内の前記作動液の液面が視認可能な液面視認空間部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のリザーバタンク。
【請求項3】
作動液を貯留するリザーバタンクと、前記リザーバタンク内の作動液が供給されるとともに作動時にブレーキ圧を発生するマスタシリンダと、前記マスタシリンダからの液圧で作動するブレーキシリンダとを少なくとも備え、
前記リザーバタンクが請求項1または2に記載のリザーバタンクであることを特徴とするブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−143736(P2011−143736A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3708(P2010−3708)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】