説明

リチウムイオン二次電池用電極及びその製造方法、並びにリチウムイオン二次電池及びその製造方法

【課題】集電体と電極合剤層との優れた密着性と導電性を兼ね備えたリチウムイオン二次電池用電極とその製造方法、及び優れたサイクル特性を備えたリチウムイオン電池とその製造方法を提供する。
【解決手段】銅等の集電体13と、該集電体13の片面もしくは両面に形成され、活物質11とバインダとを含む電極合剤層14と、を備えると共に、集電体13と電極合剤層14との界面に、所定の間隔を置いてドット状又はストライプ状に電極合剤層14よりも相対的にバインダ濃度の高いバインダリッチ層12を備え、集電体13の表面上にバインダの濃度勾配を有する。所定の間隔を置いてバインダリッチ層12を配置することで、アンカー効果によって集電体13と電極合剤層14との密着性を向上させると共に、集電体13と電極合剤層14との導電性を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用電極及びその製造方法、並びにそれを用いたリチウムイオン二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、出力が大きく且つエネルギー密度が高いことから、電気自動車用や電力貯蔵用として注目されている。電気自動車用としては、たとえば、エンジンを搭載しないゼロエミッション電気自動車やエンジンと二次電池の双方を搭載したハイブリッド電気自動車、系統電源から直接充電するプラグインハイブリッド電気自動車等への適用が進められている。また、電力貯蔵用としては、たとえば通常の電力系統が遮断された非常時に、予め貯蔵した電力を所望の箇所に供給する定置式電力貯蔵システムへの適用が期待されている。
【0003】
ところで、上記するような電気自動車等に二次電池を適用する場合、出力やエネルギー密度等の出力特性と共に寿命特性が当該分野における重要な課題の一つとなっている。具体的には、リチウムイオン二次電池は、長期に亘って充放電を繰り返すことにより当該電池の容量が劣化してしまうことが問題となっている。その要因の一つとしては、例えば充放電反応に伴う活物質の体積膨張及び収縮によって合剤層が集電体から剥離すること、すなわち集電体と合剤層(活物質層)との密着力が低いことが挙げられている。
【0004】
上記する問題を回避するために集電体と合剤層との間に接着層や導電性中間層を配置した従来技術が特許文献1〜3に開示されている。
【0005】
特許文献1に開示されている電池用電極は、特に正極において電極合剤層と集電体との密着性を向上させるために、集電体表面にドット状、ストライプ状又は格子状に有機チタン化合物及びシランカップリング剤の少なくとも一方からなる接着層を形成したものである。
【0006】
また、特許文献2に開示されているリチウムイオン二次電池用負極は、集電体と活物質との導電性と密着性を向上させるために、ケイ素及び/又はケイ素合金を含む活物質粒子とバインダとを含む合剤層と、金属箔集電体との間に、導電性粒子と第2のバインダとを含む導電性中間層を配置したものである。
【0007】
また、特許文献3に開示されているリチウムイオン二次電池用電極は、膨潤による電解液浸透の妨げを回避して二次電池の高率放電特性(高出力特性)を向上させるために、集電体上に結着剤(バインダ成分)の添加量の多い第1の合剤層を形成し、該第1の合剤層上に結着剤の添加量を少なくした第2の合剤層を積層し、前記合剤層の表面に溝を設けることで、合剤層中のバインダ濃度をその表面側よりも集電体側で高くしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−73947号公報
【特許文献2】特開2004−288520号公報
【特許文献3】特開2008−27633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1に開示されている電池用電極においては、有機チタン化合物及びシランカップリング剤の少なくとも一方を接着剤として使用することで、合剤層と集電体の密着力を高めることができるものの、これらの反応時に生成される水分を当該電極から排除することが非常に困難であるため、集電体表面が酸化して電池の抵抗が増加するといった問題がある。
【0010】
また、特許文献2に開示されているリチウムイオン二次電池用負極においては、導電性粒子と第2のバインダとを含む導電性中間層を合剤層と金属箔集電体の間に配置することで、金属箔集電体と合剤層との導電性と密着性の両立を図ることができるものの、金属箔集電体と合剤層との密着力は集電体表面の凹凸に寄与しており、合剤層と集電体との密着力を高めるために予め集電体表面の表面処理を行う必要となる。
【0011】
また、特許文献3に開示されているリチウムイオン二次電池用電極においては、集電体上に結着剤(バインダ成分)の添加量の多い第1合剤層を形成することで集電体と合剤層との密着力を高めることができるものの、集電体全面が結着剤の添加量の多い合剤層で被覆されるため、合剤層(活物質)と集電体との導電性が低下するといった問題がある。
【0012】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、集電体と合剤層の密着性と導電性に優れたリチウムイオン二次電池用電極及びその製造方法、並びに前記リチウムイオン二次電池用電極を用いることによってサイクル特性・寿命特性に優れたリチウムイオン二次電池及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記する課題を解決するために、本発明にかかるリチウムイオン二次電池用電極は、集電体と、該集電体の片面もしくは両面に形成され、活物質とバインダとを含む合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用電極であって、前記電極は、前記集電体と前記合剤層との界面に所定の間隔を置いて前記合剤層よりも相対的にバインダ濃度の高いバインダリッチ層を備えるものである。
【0014】
また、前記バインダリッチ層は、所定の間隔を置いてドット状又はストライプ状に形成されたものである。
【0015】
また、本発明にかかるリチウムイオン二次電池用電極の製造方法は、集電体と、該集電体の片面もしくは両面に形成され、活物質とバインダとを含む合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用電極の製造方法であって、前記集電体の表面の一部を露出するように、該集電体上に所定の間隔を置いて前記合剤層よりも相対的にバインダ濃度の高いバインダリッチ層を形成する第1の工程と、前記バインダリッチ層が形成された前記集電体上に前記合剤層を形成する第2の工程と、からなるものである。
【発明の効果】
【0016】
以上の説明から理解できるように、本発明によれば、集電体と合剤層との密着性と導電性に優れたリチウムイオン二次電池用の正極及び負極と、寿命特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0017】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るリチウムイオン二次電池用電極が適用される二次電池の一実施の形態の全体構成を示す片側縦断面図。
【図2】本発明に係るリチウムイオン二次電池用電極の一実施の形態の基本構成を示す縦断面図。
【図3】図2に示すリチウムイオン二次電池用電極の変形形態を示す縦断面図。
【図4】実施例1のリチウムイオン二次電池用負極を模式的に示す斜視図。
【図5】実施例6のリチウムイオン二次電池用負極を模式的に示す斜視図。
【図6】実施例8の捲回型リチウムイオン二次電池を示す片側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るリチウムイオン二次電池用電極及びその製造方法、並びにリチウムイオン二次電池及びその製造方法の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
図1は、本発明に係るリチウムイオン二次電池用電極が適用される二次電池の一実施の形態の全体構成を示したものである。
【0021】
二次電池1000は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵放出する電極100の正極100Aと負極100Bと、正極100A及び負極100Bとの間に介装配置されたセパレータ200と、リチウムイオンを含む電解質を溶解させた有機電解液500と、から大略構成されている。ここで、正極100Aは、正極集電体13Aとその両面に配置された正極合剤層14Aとから大略構成され、正極100Aの集電をとるために正極リード110Aの一端は正極集電体13Aに溶接されている。また、負極100Bは、負極集電体13Bとその両面に配置された負極合剤層14Bとから大略構成され、負極100Bの集電をとるために負極リード110Bの一端は負極集電体13Bに溶接されている。
【0022】
次に、本発明に係るリチウムイオン二次電池用電極の実施の形態について、図2及び図3を参照して説明する。図2は、本発明に係るリチウムイオン二次電池用電極の一実施の形態の基本構成を示したものであり、図3は、図2に示すリチウムイオン二次電池用電極の変形形態を示したものである。なお、図2及び図3に示すリチウムイオン二次電池用電極100は、集電体の片面に電極合剤層(合剤層)を備え、集電体と電極合剤層との界面に相対的にバインダ濃度の高いバインダリッチ層を配置したものであるが、図1に示すように集電体の両面に電極合剤層を設け、その集電体の両面もしくは片面にバインダリッチ層を配置することができる。また、図2及び図3に示すリチウムイオン二次電池用電極100の構成は、リチウムイオン二次電池の正極100A及び負極100Bの双方に適用することができる。
【0023】
図2に示すリチウムイオン二次電池用の電極100は、集電体13と、該集電体13の片面に形成された電極合剤層14とを備え、集電体13と電極合剤層14との界面に所定の間隔を置いて配置されたバインダリッチ層12を備えている。ここで、電極合剤層14は、主として第1のバインダと活物質11とから構成され、バインダリッチ層12は主として第2のバインダ12Cから構成されており、バインダリッチ層12に含まれる第2のバインダ12Cのバインダ濃度は、電極合剤層14に含まれる第1のバインダのバインダ濃度よりも相対的に高い。したがって、図示するように相対的にバインダ濃度の高いバインダリッチ層12を集電体13上に所定の間隔を置いて配置することで、たとえば電極100の捲回方向や捲回方向と直交する方向(電極100の幅方向)等、集電体13の表面上にバインダの濃度勾配を形成することができる。
【0024】
上記リチウムイオン二次電池用の電極100の製造方法としては、まず、集電体13上にバインダリッチ層12を形成する(第1の工程)。ここで、集電体13上に形成されるバインダリッチ層12は、集電体13の表面が部分的に露出されるように所定の間隔を置いて形成されればよく、例えばドット状、ストライプ状、又は格子状に形成することができる。また、例えばストライプ状に形成する場合には、電極100の捲回方向や捲回方向と直交する方向に所定の間隔を置いて形成することができる。
【0025】
次いで、バインダリッチ層12が形成された集電体13上に、第1のバインダと活物質11とを含むスラリーを塗布して電極合剤層14を形成する(第2の工程)。
【0026】
上記するように、第1の工程においてバインダ濃度の高いバインダリッチ層12を集電体13上に形成することで、水分などの不純物の発生を抑制しながら、従来技術において知られているように集電体13とバインダリッチ層12との密着力を高めることができる。また、集電体13の表面の一部が露出するように集電体13上に所定の間隔を置いて前記バインダリッチ層12を形成することで、密着性に優れたバインダリッチ層12と活物質11のアンカー(錨)効果によって、集電体13と第2の工程において集電体13上に形成される電極合剤層14中の活物質11との結びつきを一層高めることができ、集電体13と電極合剤層14との密着力を効果的に高めることができる。
【0027】
また、第2の工程において塗布された電極合剤層14とバインダ濃度の高いバインダリッチ層12とが結着することで、活物質11同士及び電極合剤層14と集電体13との結着がより一層強固なものとなると共に、バインダリッチ層12が集電体13の表面の一部を露出させるように所定の間隔を置いて形成されることで、電極合剤層14中のバインダを直接的に集電体13と密着させることができる。これにより、電極合剤層14を集電体13とバインダリッチ層12の双方と密着させることができ、電極合剤層14中のバインダを集電体13との密着性向上に直接寄与させることができるため、集電体13と電極合剤層14との密着性をより一層向上させることができる。
【0028】
次に、集電体13上に形成されるバインダリッチ層12の具体的な構成について説明する。
【0029】
図2に示すバインダリッチ層12の幅L2は、以下の式(1)で示すように、活物質11の平均粒径D以上、且つ電極合剤層14の厚さd以下である。
【0030】
【数1】

【0031】
バインダリッチ層12の幅L2が活物質11の平均粒径D以上であることで、少なくとも1個以上の活物質11をバインダ濃度の高いバインダリッチ層12と接触させることができ、電極合剤層14と集電体13の密着力を効果的に高めることができる。また、バインダリッチ層12の幅L2が電極合剤層14の厚さd以下であることで、集電体13の露出面から電極合剤層14の表面までの距離(合剤層14の厚さdに相当する)と、集電体13の露出面からバインダリッチ層12上方の電極合剤層14の表面までの距離との差を抑制することができ、電極合剤層14の抵抗を電極全体に亘って略均一に保持することができる。
【0032】
また、バインダリッチ層12のピッチ(間隔)L1は、以下の式(2)で示すように、活物質11の平均粒径D以上である。
【0033】
【数2】

【0034】
バインダリッチ層12のピッチL1が活物質11の平均粒径D以上であることで、所定の間隔を置いて形成されたバインダリッチ層12同士の隙間(集電体13の露出面)に活物質11を存在させることができ、集電体13と電極合剤層14との導電性を確保することができる。
【0035】
さらに、バインダリッチ層12の厚さtは、以下の式(3)で示すように、活物質11の平均粒径Dの半分よりも小さい。
【0036】
【数3】

【0037】
たとえば、図3に示すように、活物質11'の一部がバインダリッチ層12'に埋め込まれた際、仮にバインダリッチ層12'の厚さtが活物質11'の平均粒径Dの半分(D/2)以上であると、活物質11'の半分以上がバインダリッチ層12'に埋め込まれ、バインダリッチ層12'に埋め込まれた活物質11'と、電極合剤層14'中の他の活物質11'との接触面積が減少して密着性や導電性が低下する可能性がある。それに対して、図3に示すようにバインダリッチ層12'の厚さtが、活物質11'の平均粒径Dの半分以下であることで、活物質11'の一部がバインダリッチ層12'に埋め込まれた際にも、活物質11'の大部分を電極合剤層14'中の他の活物質11'と接触させることができ、その活物質11'と電極合剤層14'中の他の活物質11'との接触面積を確保して集電体13'と電極合剤層14'との密着性や導電性を確保することができる。なお、バインダリッチ層12'の厚さtが、活物質11'の平均粒径Dの半分(D/2)以下であっても、上記するようなアンカー効果によって集電体13'に対する電極合剤層14'の横方向のズレを確実に防止することができる。
【0038】
なお、上記バインダリッチ層は、電極構造に応じて正極及び/又は負極の両面に形成することができる。上記バインダリッチ層が集電体の両面に形成されることにより、集電体と電極合剤層との密着性と導電性を一層向上させることができる。その際、バインダリッチ層は、集電体の両面において対称となる位置で配置してもよいし、非対称となる位置で配置してもよい。特に、集電体の両面において電極の捲回方向に交互にずれた位置で配置することで、電池の製造時における電極の厚みを抑制して均一化することができ、電極の捲回率を高めてより高い容量を備えた筒型あるいは捲回型二次電池を製造することができる。
【0039】
また、上記するバインダリッチ層の形成方法としては、インクジェット法や印刷法等の方法を適用することができ、このような形成方法によれば、所望の形状やサイズ、間隔のバインダリッチ層を集電体上に容易に形成することができる。
【0040】
ここで、バインダリッチ層や電極合剤層に含まれるバインダの種類としては、特に限定されるものではなく、一般にリチウムイオン二次電池の正極や負極の製造に用いられるポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルピリジン等の高分子材料を使用することができる。また、バインダリッチ層と電極合剤層とで同種のバインダを使用することにより製造コストを抑制することができる。
【0041】
また、電極合剤層に含まれる第1のバインダは、バインダの種類によって最適な組成が異なるものの、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)に代表される水系バインダの場合、仮にバインダ濃度が0.8重量%より小さいと、活物質同士の結着力が低下して電極の作製に悪影響が生じる可能性があり、バインダ濃度が2.0重量%より大きいと電極間の抵抗が増大してしまうため、バインダ濃度は0.8〜2.0重量%であることが望ましい。
【0042】
また、本実施の形態において使用可能な負極活物質としては、リチウムと合金化するアルミニウム、シリコン、スズ等を挙げることができ、更にグラフェン構造を有する炭素材料、すなわち、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な天然黒鉛、人造黒鉛、メソフェ−ズ炭素、膨張黒鉛、炭素繊維、気相成長法炭素繊維、ピッチ系炭素質材料、ニードルコークス、石油コークス、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、カーボンブラック等の炭素質材料、あるいは5員環または6員環の環式炭化水素または環式含酸素有機化合物を熱分解によって合成した非晶質炭素材料等を利用することができる。
【0043】
また、正極活物質としては、LiCoO、LiNiO、LiMnを一般に使用することができ、その他、LiMnO、LiMn、LiMnO、LiMn12、LiMn2−x(ただし、M=Co、Ni、Fe、Cr、Zn、Taであって、x=0.01〜0.2)、LiMnMO(ただし、M=Fe、Co、Ni、Cu、Zn)、Li1−xMn(ただし、A=Mg、B、Al、Fe、Co、Ni、Cr、Zn、Caであって、x=0.01〜0.1)、LiNi1−x(ただし、M=Co、Fe、Gaであって、x=0.01〜0.2)、LiFeO、Fe(SO)、LiCo1−x(ただし、M=Ni、Fe、Mnであって、x=0.01〜0.2)、LiNi1−x(ただし、M=Mn、Fe、Co、Al、Ga、Ca、Mgであって、x=0.01〜0.2)、Fe(MoO)、FeF、LiFePO、LiMnPOなどを使用することができる。
【0044】
[バインダリッチ層を備えた電極の密着性と導電性に関する検証とその結果]
次に、本発明者等は、バインダリッチ層の寸法や形態の異なる複数のリチウムイオン二次電池用電極を製造し、これらのリチウムイオン二次電池用電極の密着性や導電性等を検証した。
【0045】
[実施例1〜5、比較例1〜4]
まず、本発明者等は、集電体と負極合剤層との界面に所定の間隔を置いてドット状にバインダリッチ層を設けた実施例1〜5及び比較例1〜4の負極を製造し、これらの負極の密着性や導電性を検証した。
【0046】
図4は、実施例1のリチウムイオン二次電池用の負極を示したものである。
【0047】
図示する実施例1のリチウムイオン二次電池用の負極の製造方法を概説すると、まず、負極用集電体の銅箔33上にインクジェット法を用いてドット状のバインダリッチ層32を形成した。ここで、バインダリッチ層32としては、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)からなるバインダを使用し、バインダリッチ層32の直径L2は30μm、厚みtは10μm、ドット間の間隔L1は50μmであった。このドット状のバインダリッチ層32を形成した後、100℃の雰囲気下で該バインダリッチ層32を乾燥した。
【0048】
次に、ドット状のバインダリッチ層32を形成した集電体33上に負極合剤層34を形成した。具体的には、負極活物質として平均粒径20μmの天然黒鉛、バインダとしてバインダリッチ層32で使用したのと同じスチレン−ブタジエンゴム(SBR)を使用し、粘度調整剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)をSBRと等量分使用した。そして、黒鉛とバインダとを97.6:2.4の混合比で混合し、粘度調整用に水を加えて負極合剤スラリーを作製した。次いで、この負極合剤スラリーを、ドット状のバインダリッチ層32を形成した銅箔集電体33上に塗布し、100℃で温風乾燥した後、ロール圧延によるプレスを行い、負極合剤層34の膜厚dが50μmとなるように調整して負極300を製造した。
【0049】
次に、本発明者等は、主として実施例1の負極に対してバインダリッチ層で使用するバインダを変更した実施例2の負極を製造した。具体的には、バインダリッチ層で使用するバインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を使用し、負極合剤層で使用するバインダとして、実施例1の負極と同じスチレン−ブタジエンゴム(SBR)を使用した。
【0050】
この実施例2の負極の製造方法を概説すると、実施例1と同様、負極集電体の銅箔上にインクジェット法を用いてバインダリッチ層をドット状に形成した。ここでバインダリッチ層としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなるバインダを使用し、バインダリッチ層の直径は30μm、厚みは15μm、ドット間の間隔は50μmであった。このドット状のバインダリッチ層を形成した後、120℃の雰囲気下で該バインダリッチ層を乾燥した。
【0051】
次に、ドット状のバインダリッチ層を形成した集電体上に負極合剤層を形成した。具体的には、負極活物質として平均粒径25μmの天然黒鉛、バインダとしてSBRを使用し、粘度調整剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)をSBRと等量分使用した。そして、黒鉛とバインダとを98:2の混合比で混合し、粘度調整用に水を加えて負極合剤スラリーを作製した。次いで、この負極合剤スラリーを、ドット状のバインダリッチ層を形成した銅箔集電体上に塗布し、100℃で温風乾燥した後、ロール圧延によるプレスを行い、負極合剤層の膜厚が50μmとなるように調整して実施例2の負極を製造した。
【0052】
また、本発明者等は、主として実施例1の負極に対して負極合剤層で使用するバインダを変更した実施例3の負極を製造した。具体的には、バインダリッチ層で使用するバインダとして、実施例1の負極と同じスチレン−ブタジエンゴム(SBR)を使用し、負極合剤層で使用するバインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を使用した。
【0053】
この実施例3の負極の製造方法を概説すると、実施例1と同様、負極集電体の銅箔上にインクジェット法を用いてバインダリッチ層をドット状に形成した。ここでバインダリッチ層としては実施例1のバインダリッチ層で使用したのと同じスチレン−ブタジエンゴム(SBR)からなるバインダを使用し、バインダリッチ層の直径は30μm、厚みは5μm、ドット間の間隔は50μmであった。このドット状のバインダリッチ層を形成した後、100℃の雰囲気下で該バインダリッチ層を乾燥した。
【0054】
次に、ドット状のバインダリッチ層を形成した集電体上に負極合剤層を形成した。具体的には、負極活物質として平均粒径15μmの天然黒鉛、バインダとしてPVDF/1−メチル−2−ピロリドン(NMP)を使用した。そして、黒鉛とバインダとを重量単位で97:3の混合比で混合し、粘度調整用にNMPを加えて負極合剤スラリーを作製した。次いで、この負極合剤スラリーを、ドット状のバインダリッチ層を形成した銅箔集電体上に塗布し、120℃で温風乾燥した後、ロール圧延によるプレスを行い、負極合剤層の膜厚が50μmとなるように調整して実施例2の負極を製造した。
【0055】
また、本発明者等は、主として実施例1の負極に対してバインダリッチ層に導電性の微粒子を添加した実施例4,5の負極を製造した。具体的には、実施例4の負極のバインダリッチ層のバインダに対して銅の微粒子を添加し、実施例5の負極のバインダリッチ層のバインダに対してニッケルの微粒子を添加した。
【0056】
この実施例4の負極の製造方法を概説すると、負極集電体の銅箔上にインクジェット法を用いてバインダリッチ層をドット状に形成した。ここでバインダリッチ層としては、銅の微粒子を添加したスチレン−ブタジエンゴム(SBR)からなるバインダを使用し、バインダリッチ層の直径は30μm、厚みは10μm、ドット間の間隔は50μmであった。このドット状のバインダリッチ層を形成した後、100℃の雰囲気下で該バインダリッチ層を乾燥した。
【0057】
次に、実施例1の負極と同様に、ドット状のバインダリッチ層を形成した集電体上に負極合剤層を形成した。具体的には、負極活物質として平均粒径20μmの天然黒鉛、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)を使用し、粘度調整剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)をSBRと等量分使用した。そして、黒鉛とバインダとを97:3の混合比で混合し、粘度調整用に水を加えて負極合剤スラリーを作製した。次いで、この負極合剤スラリーを、ドット状のバインダリッチ層を形成した銅箔集電体上に塗布し、100℃で温風乾燥した後、ロール圧延によるプレスを行い、負極合剤層の膜厚が50μmとなるように調整して実施例4の負極を製造した。
【0058】
また、実施例5の負極の製造方法としては、バインダリッチ層としてニッケルの微粒子を添加したスチレン−ブタジエンゴム(SBR)からなるバインダを使用し、負極集電体の銅箔上にインクジェット法を用いてドット状にバインダリッチ層を形成した。なお、バインダリッチ層の直径は30μm、厚みは9μm、ドット間の間隔は50μmであった。そして、実施例1の負極と同様に、ドット状のバインダリッチ層を形成した集電体上に負極合剤層を形成した。具体的には、負極活物質として平均粒径20μmの天然黒鉛、バインダとしてSBRを使用し、粘度調整剤としてCMCをSBRと等量分使用した。そして、黒鉛とバインダとを97:3の混合比で混合し、粘度調整用に水を加えて負極合剤スラリーを作製した。次いで、この負極合剤スラリーを、ドット状のバインダリッチ層を形成した銅箔集電体上に塗布し、100℃で温風乾燥した後、ロール圧延によるプレスを行い、負極合剤層の膜厚が60μmとなるように調整して実施例5の負極を製造した。
【0059】
次に、本発明者等は、バインダリッチ層の寸法の違いによる密着性や導電性の変化を検証するために、実施例1の負極に対してバインダリッチ層の寸法を変更した比較例1〜4の負極を製造した。
【0060】
比較例1の負極は、実施例1の負極に対してバインダリッチ層の直径を10μmに変更したものである。すなわち、バインダリッチ層の直径(幅)を負極活物質の平均粒径(20μm)よりも小さくしたものである。なお、比較例1の負極の作製方法は、上記以外の構成については実施例1と同じである。
【0061】
また、比較例2の負極は、実施例1の負極に対してバインダリッチ層の直径を60μmに変更したものである。すなわち、バインダリッチ層の直径(幅)を負極合剤層の厚さ(50μm)よりも大きくしたものである。なお、比較例2の負極の作製方法は、上記以外の構成については実施例1と同じである。
【0062】
また、比較例3の負極は、実施例1の負極に対してバインダリッチ層のドット間の間隔を15μmに変更したものである。すなわち、バインダリッチ層のドット間の間隔を活物質の平均粒径(20μm)よりも小さくしたものである。なお、比較例3の負極の作製方法は、上記以外の構成については実施例1と同じである。
【0063】
また、比較例4の負極は、実施例1の負極に対してバインダリッチ層の厚みを22μmに変更したものである。すなわち、バインダリッチ層の厚さを活物質の平均粒径(20μm)よりも大きくしたものである。なお、比較例4の負極の作製方法は、上記以外の構成については実施例1と同じである。
【0064】
上記する製造方法により製造されたドット状のバインダリッチ層を備えた実施例1〜5及び比較例1〜4の負極について、負極合剤層と負極集電体との密着性と導電性を検証した。
【0065】
以下に示す表1は、上記するドット状のバインダリッチ層を備えた実施例1〜5及び比較例1〜4の負極の、バインダリッチ層及び負極合剤層で使用するバインダの種類とバインダリッチ層の寸法、及び密着性や導電性の結果を示したものである。
【0066】
【表1】

【0067】
負極合剤層と負極集電体との密着性と導電性の評価方法について具体的に説明すると、まず、実施例1、2の負極について負極合剤層と集電体との密着性を評価した。評価方法としてはピール試験を用いた。なお、このピール試験を行うために、各実施例の負極から50mm×10mmの評価用サンプルを切り出して使用した。
【0068】
上記ピール試験の結果、実施例1、2の負極のピール強度は、表1に示すようにそれぞれ0.50N/cm、0.53N/cmであった。したがって、実施例1、2の負極は、バインダリッチ層を備えていない従来の負極と比較して優れた密着性を備えていることが実証された。
【0069】
次に、実施例1、2の負極の電池特性を、コインセルで評価した。
【0070】
その結果、実施例1、2の負極の容量密度はそれぞれ350mAh/gであり、バインダリッチ層を備えていない従来の負極の容量密度(343mAh/g)と同等であることが確認された。
【0071】
したがって、実施例1、2の負極は、バインダリッチ層による負極合剤層と集電体との優れた密着性を備えると共に、バインダリッチ層を備えていない負極と同等の導電性を備えていることが実証された。
【0072】
なお、上記する実施例1〜5の負極の製造に当たり、集電体上に形成したバインダリッチ層を例えば100℃等の高温で乾燥させたが、たとえばバインダリッチ層を室温(25℃)で乾燥させることもできる。このようにバインダリッチ層を自然乾燥によって乾燥させたとしても、集電体と負極合剤層の界面付近にバインダの濃度の高い箇所と低い箇所、すなわちバインダの濃度勾配を存在させることができ、より簡単な製造工程で集電体と電極合剤層との密着性と導電性を高めることができる。
【0073】
次に、実施例3の負極について負極合剤層と集電体との密着性を評価した。評価方法としてはサイカス(SAICAS:Surface And Interfacial Cutting Analysis System)試験を用いた。なお、このサイカス試験を行うために、実施例3の負極から50mm×10mmの評価用サンプルを切り出して使用した。
【0074】
上記サイカス試験の結果、実施例3の負極は、バインダリッチ層を備えていない従来の負極と比較して約20%高い剥離強度を備えることが実証された。なお、実施例3の負極の電池特性をコインセルで評価した結果、その容量密度は400mAh/gであった。
【0075】
次に、バインダリッチ層に導電性の微粒子を添加した実施例4、5の負極について負極合剤層と集電体との密着性を評価した。評価方法としては、実施例1、2の負極の評価方法と同様、ピール試験を用いた。なお、このピール試験を行うために、実施例4、5の負極から50mm×10mmの評価用サンプルを切り出して使用した。
【0076】
上記ピール試験の結果、実施例4、5の負極のピール強度はそれぞれ0.55N/cm、0.47N/cmであった。したがって、実施例1、2の負極と同様に、実施例4、5の負極は、バインダリッチ層を備えていない従来の負極と比較して優れた密着性を備えていることが実証された。
【0077】
次に、実施例4、5の負極の導電性を貫通抵抗測定法で評価した。
【0078】
その結果、実施例4、5の負極の抵抗値はそれぞれ約80mΩ、約85mΩであり、バインダリッチ層を備えていない従来の負極と比較して電極の抵抗値が低いことが確認された。なお、実施例4、5の負極の電池特性をコインセルで評価した結果、その容量密度はそれぞれ360mAh/g、365mAh/gであった。
【0079】
したがって、銅やニッケル等の導電性を有する微粒子をバインダリッチ層のバインダに添加することで、電極の抵抗を減少させることができることが実証された。
【0080】
なお、実施例4の負極においては、銅の微粒子を添加した導電性のバインダを使用したが、銅の微粒子に代えて導電性カーボン等の微粒子を使用することができる。また、実施例5の負極においては、ニッケルの微粒子を添加した導電性のバインダを使用したが、ニッケルの微粒子に代えて、鉄、チタン、コバルト等の金属、もしくはこれらの組み合せからなる合金又は混合物の微粒子を使用することができる。
【0081】
次に、比較例1の負極について、実施例1の評価方法と同様の方法(ピール試験)により、負極合剤層と集電体との密着性を評価した。その結果、比較例1の負極のピール強度は、実施例1の負極のピール強度に対して約30%低下していることが確認された。すなわち、バインダリッチ層のドットの直径が30μmから10μmに変更されたことで、負極合剤層と集電体との間で十分な密着力を確保することができなくなったことが実証された。
【0082】
また、比較例2の負極について、貫通抵抗測定法で負極合剤層と集電体との導電性を評価した。その結果、比較例2の負極は、実施例1の負極の約2倍の抵抗を有することが確認された。すなわち、バインダリッチ層のドットの直径が30μmから60μmに変更されたことで、その直径に比例して抵抗値が増加し、負極合剤層と集電体との導電性が大きく低下したことが実証された。
【0083】
また、比較例3の負極について、貫通抵抗測定法で負極合剤層と集電体との導電性を評価した。その結果、比較例3の負極は、比較例2の負極と同様、実施例1の負極に対して抵抗が増加したことが確認された。すなわち、バインダリッチ層のドットの間隔が50μmから15μmに変更されたことで、集電体と負極合剤層との界面にバインダリッチ層が密に配置され、負極合剤層と集電体との導電性が大きく低下したことが実証された。
【0084】
また、比較例4の負極について、実施例1の評価方法と同様の方法(ピール試験)により、負極合剤層と集電体との密着性を評価した。その結果、比較例4の負極のピール強度は、実施例1の負極のピール強度よりも低下したことが確認された。これは、バインダリッチ層の厚みが10μmから22μmに変更されたことで、バインダリッチ層中に埋め込まれた活物質と負極合剤層中の活物質との接触面積が減少し、負極合剤層と集電体との結び付きが低下したためであると考えられる。
【0085】
ところで、集電体と電極合剤層との界面にバインダリッチ層を形成した場合、バインダリッチ層のバインダ濃度が電極合剤層のバインダ濃度よりも高いことから、電極全体の剛性が増加し、筒型もしくは捲回型のリチウムイオン二次電池を製造する際、その生産性が低下することが考えられる。
【0086】
そこで、本発明者等は、上記する実施例1〜5とはバインダリッチ層の形態が異なる実施例6の負極を製造し、その負極の柔軟性を検証した。
【0087】
[実施例6]
図5は、実施例6のリチウムイオン二次電池用の負極を示したものであり、集電体上にストライプ状のバインダリッチ層を備えた負極を示したものである。
【0088】
図示する実施例6のリチウムイオン二次電池用の負極の製造方法を概説すると、まず、負極集電体の銅箔43上に転写印刷法を用いてストライプ状のバインダリッチ層42を形成した。ここで、バインダリッチ層42としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなるバインダを使用し、バインダリッチ層42のライン幅L2は15μm、厚みtは5μm、ストライプ間の間隔L1は10μmであった。このストライプ状のバインダリッチ層42を形成した後、120℃の雰囲気下で該バインダリッチ層42を乾燥した。
【0089】
次に、ストライプ状のバインダリッチ層42を形成した集電体43上に負極合剤層44を形成した。具体的には、負極活物質として平均粒径10μmの非晶質炭素である擬似異方性炭素を使用し、これに導電助剤としてカーボンブラック(CB2)、バインダとしてPVDFを、それぞれ乾燥時の固形分重量比が擬似異方性炭素:CB2:PVDF=90:5:5となるように配合し、溶媒としてN−メチルピロリドン(NMP)を加えて負極合剤スラリーを作製した。次いで、この負極合剤スラリーを、ストライ状のバインダリッチ層42を形成した負極集電体43上に塗布し、120℃で乾燥した後、加圧ローラーでプレスを行い、負極合剤層44の膜厚を調整して負極400を製造した。
【0090】
上記製造方法により製造した実施例6の負極400について折り曲げ試験を行い、その柔軟性を評価した。その試験方法としては、実施例6の負極から30mm×10mmの評価用サンプルを切り出し、バインダリッチ層の長手方向に延びる所定の軸線を折り曲げ中心として当該サンプルを180°に折り曲げ、その後再び0°(元の状態)まで広げて、その際のサンプル上のひび割れの有無を確認した。
【0091】
その結果、本実施例6の負極400においてはひび割れが発生することなく、バインダリッチ層を備えていない従来の負極と同等の柔軟性を有することが実証された。
【0092】
[実施例7]
次に、本発明者等は、ドット状のバインダリッチ層をリチウムイオン二次電池用正極に適用した実施例7を製造し、この実施例7のリチウムイオン二次電池用の正極について、集電体と電極合剤層との密着性を検証した。
【0093】
実施例7のリチウムイオン二次電池用の正極の製造方法を概説すると、まず、正極用集電体のアルミニウム箔上にインクジェット法を用いてドット状にバインダリッチ層を形成した。ここで、バインダリッチ層としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなるバインダを使用し、バインダリッチ層の直径は25μm、厚みは7μm、ドット間の間隔は50μmであった。このドット状のバインダリッチ層を形成した後、120℃の雰囲気下で該バインダリッチ層を乾燥した。
【0094】
次に、ドット状のバインダリッチ層を形成した集電体上に正極合剤層を形成した。具体的には、正極活物質として平均粒径15μmのLiMn1/3Ni1/3Co1/32、電子導電性材料としてカーボンブラック(CB1)と黒鉛(GF2)、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を使用し、乾燥時の固形分重量比が、LiMn1/3Ni1/3Co1/32:CB1:GF2:PVDF=86:9:2:3となるように配合し、溶剤としてN−メチルピロリドン(NMP)を加えて正極合剤スラリー(ペースト)を作製した。次いで、この正極合剤スラリー(ペースト)を、ドット状のバインダリッチ層を形成した正極集電体となるアルミ箔上に塗布し、120℃で乾燥した後、加圧ローラーでプレスを行い、更に120℃で乾燥して実施例7の正極を製造した。
【0095】
上記製造方法により製造した実施例7の正極について碁盤目テープ試験(JIS K-5400)を行い、その密着性を評価した。
【0096】
碁盤目テープ試験の結果、本実施例7の正極はテープによる正極合剤層の剥がれが極めて少なく、碁盤目テープ試験の評価基準における「4点」であることが確認された。この試験結果から、バインダリッチ層を正極に適用した場合にも、集電体と電極合剤層との密着性が向上することが実証された。
【0097】
[バインダリッチ層を備えた負極を用いたリチウムイオン二次電池のサイクル特性に関する検証とその結果]
次に、本発明者等は、バインダリッチ層の寸法の異なる負極を用いた複数のリチウムイオン二次電池を製造し、これらのリチウムイオン二次電池のサイクル特性を検証した。
【0098】
[実施例8、比較例5〜7]
具体的には、上記する製造方法によって製造した実施例1〜7の電極のうち、実施例1の負極と同様の構成を備えた負極を用いて実施例8の捲回型リチウムイオン二次電池を製造した。また、比較例1〜4の負極のうち、比較例1、3、4の負極と同様の構成を備えた負極を用いて比較例5〜7の捲回型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0099】
図6は、実施例8の捲回型リチウムイオン二次電池を示した側面図であって、内部を視認できるように図中左側を切り欠いて示したものである。図示するように、実施例8の二次電池6000は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵放出する正極66と負極63と、リチウムイオンを含む電解質を溶解させた有機電解液と、これらを収容する電池缶613を備え、該電池缶613の内部で正極66と負極63がセパレータ67を介して配置されている。
【0100】
実施例8のリチウムイオン二次電池の製造方法を概説すると、まず、正極活物質としてLiMn1/3Ni1/3Co1/32、電子導電性材料としてカーボンブラック(CB1)と黒鉛(GF2)、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を使用し、これらの乾燥時の固形分重量比がLiMn1/3Ni1/3Co1/32:CB1:GF2:PVDF=86:9:2:3となるように配合し、溶剤としてN−メチルピロリドン(NMP)を加えて正極合剤スラリー(ペースト)を作製した。次いで、この正極合剤スラリー(ペースト)をアルミ箔からなる正極集電体64の両面に塗布し、80℃で乾燥した後、加圧ローラーでプレスを行い、更に120℃で乾燥して当該正極集電体64上に正極合剤層65を形成し、正極66を製造した。
【0101】
次に、実施例1の負極の製造方法と同様の製造方法によって、銅箔からなる負極集電体61の両面にドット状のバインダリッチ層を形成し、更にその両面に負極合剤層62を形成して負極63を製造した。
【0102】
また、エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネート(VC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)を用意し、溶媒としてその容積組成比がEC:VC:DMC:EMC=19.8:0.2:40:40となるように混合したものを使用し、溶質となるリチウム塩としてLiPF6を用いて1M溶解して電解液(有機電解液)615を作製した。
【0103】
上記製造方法により製造した正極66と負極63との間にセパレータ67を挟み込み、捲回群を形成して電池缶613に挿入した。そして、負極63の集電をとるためにニッケル(Ni)製の負極リード69の一端を負極集電体61に溶接すると共に、他端を電池缶613に溶接した。また、正極66の集電をとるためにアルミニウム(Al)製の正極リード68の一端を正極集電体64に溶接すると共に、他端を電流遮断溶接し、さらに電流遮断弁(不図示)を介して正極電池蓋612と電気的に接続した。そして、電池缶613の内部に上記電解液615を注液し、正極66と負極63とセパレータ67とを電解液615に浸漬させ、かしめ機等によって電池缶613の開放口をかしめることで捲回型二次電池6000を製造した。なお、図6において、610は正極絶縁材、611は負極絶縁材、614はガスケットである。
【0104】
また、本発明者等は、上記実施例8の二次電池の製造方法と同様の製造方法によって、実施例8の二次電池の負極63のバインダリッチ層の形態を、比較例1、3、4の負極のバインダリッチ層の形態のものに変更した比較例5〜7の捲回型リチウムイオン二次電池を作製した。具体的には、比較例5の二次電池は、実施例8の二次電池の負極のドット状のバインダリッチ層の直径を10μmとしたものであり、比較例6の二次電池は、実施例8の二次電池の負極のドット状のバインダリッチ層のドット間の間隔を15μmとしたものであり、実施例7の二次電池は、実施例8の二次電池の負極のドット状のバインダリッチ層の厚みを22μmとしたものである。
【0105】
そして、上記製造方法によって製造した実施例8及び比較例5〜7の捲回型リチウムイオン二次電池について、サイクル試験を用いてサイクル特性(寿命特性)を評価した。サイクル試験の条件としては、二次電池を定電流1.4Aで4.1Vまで充電し、定電圧で4.2Vまで充電して15分間運転を休止した後、定電流1.4Aで3.0Vまで放電し、15分間運転を休止した。この充放電を500サイクル行い、サイクル試験の前後における二次電池の容量変化を検証した。
【0106】
表2は、実施例8及び比較例5〜7の捲回型リチウムイオン二次電池の、バインダリッチ層の形態とサイクル試験の結果を示したものである。
【0107】
【表2】

【0108】
表2に示すように、上記サイクル試験の結果、実施例8の二次電池における500サイクル経過後の容量維持率は93%であった。また、比較例5〜7の二次電池における500サイクル経過後の容量維持率は、それぞれ比較例5が55%、比較例6が63%、比較例7が57%であった。
【0109】
以上の結果から、実施例8のリチウムイオン二次電池においては、適切な形態のバインダリッチ層を負極集電体61の両面に形成することにより、負極集電体61の両面に形成された負極合剤層62と該負極集電体61との密着性が向上し、その結果二次電池のサイクル後の容量維持率が大幅に改善されたことが実証された。
【0110】
なお、本発明は上記した実施例1〜8に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例1〜8は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例1〜8の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0111】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0112】
11…活物質
12、32、42…バインダリッチ層
13、33、43…集電体
14、34、44…電極合剤層
61…負極集電体
62…負極合剤層
63…負極
64…正極集電体
65…正極合剤層
66…正極
67…セパレータ
68…正極リード
69…負極リード
100…電極
200…セパレータ
300、400…負極
500…電解液
610…正極絶縁材
611…負極絶縁材
612…正極電池蓋
613…電池缶
614…ガスケット
615…電解液
1000、6000…リチウムイオン二次電池
d…電極合剤層の厚さ
D…活物質の平均粒径
L1…バインダリッチ層のピッチ(間隔)
L2…バインダリッチ層の幅(直径)
t…バインダリッチ層の厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、該集電体の片面もしくは両面に形成され、活物質とバインダとを含む合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用電極であって、
前記電極は、前記集電体と前記合剤層との界面に所定の間隔を置いて前記合剤層よりも相対的にバインダ濃度の高いバインダリッチ層を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項2】
前記電極は、前記集電体の少なくとも片面に前記バインダリッチ層を備えることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項3】
前記バインダリッチ層は、所定の間隔を置いてドット状又はストライプ状に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項4】
前記バインダリッチ層は、前記電極の捲回方向及び/又は捲回方向に直交する方向に所定の間隔を置いてストライプ状に配置されていることを特徴とする請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項5】
前記バインダリッチ層中のバインダと前記合剤層中のバインダとは、同一又は異なることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項6】
前記バインダリッチ層は導電性を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項7】
前記バインダリッチ層は、銅又は導電性カーボンの微粒子を添加したものであることを特徴とする請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項8】
前記バインダリッチ層は、ニッケル、鉄、チタン、又はコバルトの金属、もしくはこれらの組み合せからなる合金又は混合物の微粒子を添加したものであることを特徴とする請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項9】
前記バインダリッチ層の幅は、前記合剤層中の前記活物質の平均粒径以上かつ前記合剤層の厚さ以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項10】
前記バインダリッチ層の間隔は、前記合剤層中の前記活物質の平均粒径以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項11】
前記バインダリッチ層の厚さは、前記合剤層中の前記活物質の平均粒径の半分以下であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項12】
集電体と、該集電体の片面もしくは両面に形成され、活物質とバインダとを含む合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用電極の製造方法であって、
前記集電体の表面の一部を露出するように、該集電体上に所定の間隔を置いて前記合剤層よりも相対的にバインダ濃度の高いバインダリッチ層を形成する第1の工程と、
前記バインダリッチ層が形成された前記集電体上に前記合剤層を形成する第2の工程と、からなることを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【請求項13】
前記第1の工程において、前記バインダリッチ層を所定の間隔を置いてドット状又はストライプ状に形成することを特徴とする請求項12に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【請求項14】
前記第1の工程において、前記バインダリッチ層を前記電極の捲回方向及び/又は捲回方向に直交する方向に所定の間隔を置いてストライプ状に形成することを特徴とする請求項13に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【請求項15】
前記第1の工程において、前記バインダリッチ層をインクジェット法又は印刷法を用いて形成することを特徴とする請求項12〜14のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【請求項16】
前記バインダリッチ層に導電性の微粒子を添加することを特徴とする請求項12〜15のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【請求項17】
正極及び/又は負極が請求項1〜11のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電極から構成され、リチウムイオンを可逆的に吸蔵放出する正極と負極と、
前記正極と負極との間に介装配置されるセパレータと、
前記リチウムイオンを含む電解質を溶解させ、前記正極と負極とセパレータとを浸漬させる有機電解液と、を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項18】
請求項12〜16のいずれか一項に記載の製造方法によって製造された電極を正極及び/又は負極として用い、リチウムイオンを可逆的に吸蔵放出する正極と負極とを用意する工程と、
前記正極と負極をセパレータを介して配置する工程と、
前記リチウムイオンを含む電解質を溶解させた有機電解液に前記正極と負極とセパレータとを浸漬させる工程と、からなることを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−12393(P2013−12393A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144311(P2011−144311)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】