説明

リチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法

【課題】化学的にも安定で、リチウムイオンの伝道を阻害するような空孔が無く、高いリチウムイオン伝導性を示すガラスセラミックスを高い歩留まりで安定して取得することができる製造方法を提供すること。
【解決手段】ガラスを熱処理し結晶化するリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法であって、結晶化を行なう熱処理において、結晶化開始温度の昇温速度を5℃/h〜50℃/hとするリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン伝導率が高く、化学的にも安定なリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のリチウムイオン電池は有機電解液の使用に起因する危険性が指摘されており、この問題を解決するために、無機固体からなるリチウムイオン伝導性固体電解質が研究されている。このような固体電解質材料として、特許文献1および特許文献2に開示されるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスが公知である。
【0003】
リチウムイオン伝導性ガラスセラミックスは特定組成の原ガラスを熱処理することによってガラスの内部に結晶を析出させて得られるため、粉体を焼結して作製されるセラミックスなどと比較して、内部に空孔がほぼ存在せず、空孔がイオン伝導を阻害するということがないので、リチウムイオン伝導性の酸化物セラミックスと比較してイオン伝導性に優れているという特徴を有している。
このガラスセラミックスのイオン伝導性や緻密性は、ガラスの組成や均質性に影響されるが、原ガラスの結晶化を行なう熱処理条件によっても大きく影響される。特に一般的な結晶化ガラスと比較して、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックスについては原ガラスと原ガラスから析出する結晶の比重や熱膨張の差が大きい場合、結晶化の際には大きな歪が生じてしまい割れてしまうことが多くあった。また、原ガラスの組成が同じであっても、結晶化後の状態を観察するとセラミックスなどと比較すれば非常に少ないものの、理想的に作製されたガラスセラミックスよりも空孔が多く生成されてしまい、結晶そのものが有するイオン伝導度よりも低いリチウムイオン伝導度を示すことも多くあった。
このように、高いリチウムイオン伝導性を示すガラスセラミックスを高い歩留まりで安定して取得することは困難であった。
【0004】
【特許文献1】特開平11−157872号公報
【特許文献2】特開2000−34134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は化学的にも安定で、高いリチウムイオン伝導性を示すガラスセラミックスを高い歩留まりで安定して取得することができる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、結晶化のための熱処理条件を特定にすることによって、化学的にも安定で、高いリチウムイオン伝導性を示すガラスセラミックスを高い歩留まりで安定して取得することができる製造方法を見いだし、この発明を完成したものであり、その具体的な構成は以下の通りである。
【0007】
(構成1)
ガラスを熱処理し結晶化するリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法であって、結晶化を行なう熱処理において、結晶化開始温度の昇温速度が5℃/h〜50℃/hであることを特徴とするリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。
(構成2)
結晶化を行なう熱処理の最高温度は、800〜1,000℃であることを特徴とする構成1に記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。
(構成3)
前記ガラスは、厚み10mm以下であることを特徴とする構成1または2に記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。
(構成4)
前記ガラスは平板状であり、その主表面の面積をS、厚みをtとするとき、S1/2・t−1の値を10以上500未満とする構成1から3のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。
(構成5)
前記結晶化を行う熱処理において、前記ガラスをセラミックス製のセッターに挟んで結晶化の熱処理を行なうことを特徴とする構成1から4のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。
(構成6)
前記結晶化を行う熱処理において、前記ガラスを熱処理する炉内の温度の分布の幅を熱処理時の最高温度にて、20℃以内とする構成1から5のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。
(構成7)
前記ガラスは酸化物基準の質量%で、ZrO成分を0.5%〜2.5%含有する構成1から6のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。
(構成8)
前記ガラスは結晶化をおこなう熱処理においてLi1+X+Z(Ge1−YTi2−X3−ZSi12(0<X≦0.6,0.2≦Y<0.8,0≦Z≦0.5、M=Al、Ga)の結晶相を析出する構成1から7のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。
(構成9)
前記ガラスは酸化物基準の質量%で、
LiO 3.5%〜5.0%
50%〜55%、
GeO 10%〜30%
TiO 8%〜22%、
5%〜12%、但し、M=Al,Gaの中から選ばれる1種または2種
の各成分を含有する構成1から8のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。
(構成10)
前記ガラスは酸化物基準の質量%で、
SiO 0%〜2.5%、
の成分を含有する構成1から9のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。
(構成11)
構成1から10のいずれに記載の製造方法で得られたリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを研削する工程と研磨する工程とを有するリチウム電池用固体電解質の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、結晶化による割れが無く、化学的にも安定で、空孔等がなく緻密であり、高いリチウムイオン伝導性を示すガラスセラミックスを高い歩留まりで安定して取得することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者は研究の結果以下に記述する事項を見いだした。
まず、結晶化開始温度の昇温速度が50℃/hよりも速い場合は、結晶の析出が激しく起こり、また結晶の成長も速くなってしまうため、ガラス内に大きな歪が生じてしまい、これが結晶化工程中の割れの原因となっている。
次に、結晶化開始温度の昇温速度が5℃/hよりも遅い場合、結晶核の生成が多く、小さな微細結晶が多く析出する。その後徐々に結晶が成長するため、原ガラス内には歪が入りにくく、熱処理中に割れることは昇温速度が速い場合と比較して少ない。しかし、原ガラスの大部分が結晶核となり、残留するガラス分が少ない状態でこの結晶核が成長すると、成長する際に必要なガラスマトリックスが不足してしまうため、結果として成長した結晶粒界に空孔が生成し、結晶化ガラスの緻密性を低下させている。
以上の知見から、本発明は作製したリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの原ガラスを熱処理することにより結晶化する工程において、結晶化開始温度の昇温速度を5℃/h〜50℃/hとする。
原ガラス内の大きな歪みの生成の抑制効果をより得やすくするためには前記昇温速度の上限を45℃/h以下とすることがより好ましく、40℃/h以下とすることが最も好ましい。 また、結晶化ガラスの緻密性を高める効果を得やすくするためには前記昇温速度の下限を7℃/h以上とすることがより好ましく、10℃/h以上とすることが最も好ましい。
【0010】
本発明において、「結晶化開始温度」とは、熱分析装置を用い、一定の速度でガラスを昇温して示差熱測定を行ない、結晶化に伴う発熱ピークの開始温度を計算することで得られる温度である。熱分析装置は例えばNETSZCH製のSTA−409を用いればよい。
結晶化開始温度(Tx)を測定する際には、ガラスを約0.5mm程度のサイズに砕いてサンプルとする。熱分析装置を用いて、昇温速度10℃/minで室温から1000℃まで示差熱測定を行なうことで、ガラス転移に伴う吸発熱や結晶化に伴う発熱が測定できる。結晶化に伴う発熱開始温度を求めることで、ガラスの結晶化開始温度(Tx)が測定できる。発熱開始温度は、図1に示すように、ベースラインとピーク曲線の接線同士の交点の温度とする。
【0011】
結晶化を行なう熱処理の最高温度が800℃に満たないとリチウムイオンの伝導に寄与する結晶が十分に成長しないためリチウムイオン伝導性が低くなりやすく、高いリチウムイオン伝導性を得やすくするためには、前記温度は800℃以上が好ましく、840℃以上がより好ましく、860℃以上が最も好ましい。また、結晶化を行なう熱処理の最高温度が1000℃を超えるとリチウムイオンの伝導に寄与する結晶相が分解されてしまいリチウムイオン伝導性が低くなりやすく、高いリチウムイオン伝導性を得やすくするためには、前記温度は1000℃以下が好ましく、960℃以下がより好ましく、920℃以上が最も好ましい。
【0012】
結晶化を行う前の原ガラスは、析出する結晶との熱膨張係数の差が大きいために、ガラスが厚いと結晶化の熱処理中にガラスの内部と表面付近に熱履歴の差が生じ、ガラス内に大きな歪が生じやすく、割れやすくなってしまうため、割れずにクラックの無いガラスセラミックスを得るためには、原ガラスの厚みを10mm以下にすることが好ましい。割れずにクラックの無いガラスセラミックスをより得やすくするためには、原ガラスの厚みは5mm以下がより好ましく、2mm以下が最も好ましい。また、成形のしやすさ、機械的強度の観点から原ガラスの厚みは0・4mm以上であることが好ましい。
【0013】
結晶化を行う際の伝熱を均一にするため、また結晶化後にリチウム電池用途として使用しうる形状に加工する場合の加工性を良好にするために、原ガラスは平板状であることが好ましい。そして、割れずにクラックの無いガラスセラミックスを得るために、原ガラスの主表面の面積をS、厚みをtとするとき、S1/2・t−1の値を10以上とすることが好ましく、15以上とすることが好ましく、20以上とすることが最も好ましい。また、結晶化の熱処理時のたわみを減らすために、前記S1/2・t−1の値を500未満とすることが好ましく、400以下とすることがより好ましく、250以下とすることが最も好ましい。
【0014】
原ガラスの結晶化を行う熱処理においては、結晶化の熱処理前後の形状を保つ為に前記原ガラスをセラミックス製のセッターに挟んで結晶化の熱処理を行なうことが好ましい。
前記セッターとしては石英、アルミナ、ジルコニア、サファイア、窒化ホウ素等が好ましい。
【0015】
結晶化のための熱処理時の割れや変形を防ぎやすくするために、原ガラスの結晶化を行う熱処理時の最高温度に達した時点において、前記原ガラスを熱処理する炉内の温度の分布の幅を20℃以内とすることが好ましい。より変形やイオン伝導性の均一性の効果を得やすくするためには15℃以内がより好ましく、10℃以内が最も好ましい。
炉内の温度分布の幅は、JFCC(財団法人ファインセラミックスセンター)の標準物質である共通熱履歴センサー(リファサーモL1)を有効体積内に100mm間隔で3次元的に配置し、熱処理を行なう事で測定する。リファサーモのユーザーズマニュアルに指定されている加熱処理評価条件に従い、大気中、昇温速度200℃/h、保持時間2h、降温速度300℃/hにて測定対象の炉を稼動し、室温まで冷却されたリファサーモの指定された長さをマイクロメーターにて測定し、ロット毎に管理されている長さ−温度対照表により、リファサーモを置いた箇所の温度を算出する。炉の有効体積内に配置した全てのリファサーモの指示した最高温度から最低温度を差し引いた温度を温度分布の幅とする。
【0016】
[原ガラス]
次に原ガラスについて説明する。熱処理をすることでリチウムイオン伝導性の結晶が析出しリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスとなるガラスは、LiS、P等から製造される硫化物系ガラスや、酸化物系ガラスを用いることができる。酸化物系ガラスは大気中でも安定で扱いが容易であることから有利であり、特にLi1+X+Z(Ge1−YTi2−X3−ZSi12(0<X≦0.6,0.2≦Y<0.8,0≦Z≦0.5、M=Al、Ga)の結晶相を析出するガラスは結晶化後に高いリチウムイオン伝導性を有するので好ましい。
【0017】
Li1+X+Z(Ge1−YTi2−X3−ZSi12(0<X≦0.6,0.2≦Y<0.8,0≦Z≦0.5、M=Al、Ga)の結晶相を析出するガラスの組成について説明する。このガラスの組成は、酸化物基準の質量%で表示し得る。ここで、「酸化物基準」とは、ガラスの構成成分の原料として使用される酸化物、硝酸塩等が溶融時にすべて分解され酸化物へ変化すると仮定して、ガラス中に含有される各成分の組成を表記する方法であり、「酸化物基準の質量%」とは、この生成酸化物の質量の総和を100質量%として、結晶化ガラス中に含有される各成分の量を表記することをいう。
【0018】
上記ガラスにおいて、ZrO成分の範囲を0.5%〜2.5%に特に限定することにより、原ガラスの安定性を高くすることが可能となり、かつ高いリチウムイオン伝導度を得ることが可能となる。ZrO成分が0.5%未満である場合、結晶化の核が減少してしまうため、高いイオン伝導度を得るために必要な結晶化温度が高くなってしまう。結晶化温度を上げることによりイオン伝導度を高くすることは可能であるが、同時に結晶成長が進み過ぎてしまうため、クラックや内部の気孔の発生につながってしまう。2.5%を超える場合にガラスが溶けにくくなってしまい、より高い溶解温度が必要となる。また失透性が高く、ガラス化しにくくなってしまうため安定なガラス製造ができなくなってしまう。ZrO成分の下限は緻密で高いイオン伝導性を得るために、0.7%とすることがより好ましく、0.9%とすることが最も好ましい。また、上限値は失透性が高くなってしまうため、2.1%とすることがより好ましく、2%とすることが最も好ましい。
一般的にガラスの熱的な安定性の評価はTx[℃](ガラスの結晶化温度)とTg[℃](ガラスの転移温度)との差であるTx−Tgの値で評価され、この値が大きいほどガラスの熱的な安定性が良好となる。上記の構成により本発明のガラスセラミックスは原ガラスの熱的安定性が大幅に向上し、Tx−Tgの値が70℃以上であり、リチウムイオン伝導性は若干劣るものの最大で160℃の値を得ることができる。リチウムイオン伝導度なども考慮した総合的により好ましい態様においても72℃以上、最も好ましい態様においては74℃以上の値を得ることができる。
【0019】
LiO成分はLiイオンキャリアを提供し,リチウムイオン伝導性をもたらすのに有用な成分である。LiO成分の下限は良好なリチウムイオン伝導度を得るために、3.5%以上であることが好ましく、3.7%であることがより好ましく、3.9%であることが最も好ましい。またLiO成分の上限は失透性が高くなってしまうため、5.0%以下であることが好ましく、4.8%以下であることがより好ましく、4.6%以下であることが最も好ましい。
【0020】
成分はガラスの形成に有用な成分であり,また上記結晶相の構成成分でもある。この成分の含有量が50%未満の場合には、ガラスの溶解温度が高くなってしまい、結果としてガラス化しにくくなってしまう。ガラス化しにくくなると熱間でのガラスの成形が難しく、特に大きなバルク状(例えば 200cm以上)のガラスを得る事が困難となりやすい。そのため含有量の下限値は50%以上であることが好ましく、50.5%以上であることがより好ましく、51%以上であることが最も好ましい。また、含有量が55%を越えると、熱処理(結晶化)において前記の結晶相がガラスから析出しにくく、所望の特性が得られにくくなるので、含有量の上限値は55%以下が好ましく、54.5%以下がより好ましく、54%以下が最も好ましい。
また、ガラスフォーマーであるP成分の量に対して、ZrO成分の量が少ないと結晶化時の核生成が良好に生じず、微細な結晶ではなく大きな結晶となってしまい、イオン伝導度も緻密性も低くなってしまう。そのため、P成分とZrO成分の質量%の比P/ZrOの値は、25以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましく、35以上であることが最も好ましい。
成分の量に対して、ZrO成分の量が多すぎると、ガラスの融点が上がり、かつガラス成形時に失透が生じやすくなってしまう。そのため、P成分とZrO成分の質量%の比P/ZrOの値は、100以下であることが好ましく、90以下であることがより好ましく、75以下であることが最も好ましい。
【0021】
GeO成分はガラスの形成に有用な成分であり、またリチウムイオン伝導性の結晶相の構成成分になりうる成分である。この成分の含有量が10%未満の場合にはガラス化しにくくなり、上記の結晶相が析出しにくくなり高いリチウムイオン伝導性を得にくくなるため、含有量の下限値は10%以上であることが好ましく、11%以上であることがより好ましく、11.5%以上であることが最も好ましい。また、含有量が30%を超えるとイオン伝導性と耐久性が低くなってのため、含有量の上限値は30%以下が好ましく、28%以下がより好ましく、26%以下が最も好ましい。
【0022】
TiO成分はガラスの形成に有用な成分であり、またリチウムイオン伝導性の結晶相の構成成分になりうる成分である。この成分の含有量が8%未満の場合にはガラス化しにくくなり、上記の結晶相が析出しにくくなり高いリチムイオン伝導性を得にくくなるため、含有量の下限値は8%以上であることが好ましく、9%以上であることがより好ましく、10%以上であることが最も好ましい。また、含有量が22%を超えると失透性が高くなってのため、含有量の上限値は22%以下が好ましく、21%以下がより好ましく、20%以下が最も好ましい。
【0023】
成分(但し、M=Al,Gaの中から選ばれる1種または2種)は、原ガラスの熱的な安定をより高めることができると同時に、Al3+および/またはGa3+イオンが前記結晶相に固溶し、リチウムイオン伝導率向上にも効果があるため、含有量の下限値は5%以上であることが好ましく、6%以上であることがより好ましく、7%以上であることが最も好ましい。しかしその量が12%を超えると、かえってガラスの熱的な安定性が悪くなりガラスセラミックスのリチウムイオン伝導率も低下してしまうため、含有量の上限値は12%以下にすることが好ましく、11%以下がより好ましく、10%以下が最も好ましい。
【0024】
SiO成分は、原ガラスの溶融性および熱的な安定性を高めることができると同時に、Si4+イオンが前記結晶相に固溶し、リチウムイオン伝導率の向上にも寄与するので任意に含有させることができる。しかしその量が2.5%を超えると、結晶化時にクラックが入り易くなってしまうため、リチウムイオン伝導率が低下してしまう。そのため、リチウムイオン伝導性を良好に維持するためには2.5%以下にすることが好ましく、2.2%以下にすることがより好ましく、2%以下にすることは最も好ましい。
【0025】
M’成分は(但し、M’はIn,Fe,Cr,Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luの中から選ばれる1種または2種以上)ガラスの溶融性および熱的な安定性を高める効果があるので合計で5%まで含有させることができるが、これらの成分は市場で流通する原料の価格が非常に高価であるので、実質的に含有させないことが好ましい。
【0026】
また、ガラスの溶融性を更に向上するためにB,As,Sb,Ta,CdO,PbO,MgO,CaO,SrO,BaO,ZnO等を添加することも可能であるが、それらの量は3%以下に制限すべきである。これらを3%を越えて添加すると、伝導率が添加量に伴って著しく低下してしまう。
【0027】
前記原ガラスは、以下の方法により製造することができる。すなわち、各出発原料を所定量秤量し、均一に混合した後、白金るつぼに入れて電気炉で加熱溶解する。1200〜1400℃に温度を上げ、その温度で2時間以上保持し溶解する。その後、溶融ガラスを鉄板上にキャストし、板状のガラスを作製する。また、必要に応じて切断、研削、研磨などの加工を施しても良い。
【0028】
本発明の製造方法で得られたリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスのリチウムイオン伝導度は5.0×10−5S・cm−1以上であり、より好ましくは8.0×10−5S・cm−1以上、最も好ましくは1.0×10−4S・cm−1以上の値を得ることができる。
【0029】
また、上記の方法で得られたガラスセラミックスを、リチウムイオン二次電池やリチウム一次電池等のリチウム電池用固体電解質として使用するためには、作製する電池の大きさに合わせて加工すれば良い。形状としては薄板状に加工することが好ましく、通常ガラスやガラスセラミックスで使用される公知の研削方法、研磨方法を用いればよい。例えば両面加工機を用い、#1000程度のペレットで研削加工をし、その後、研磨液を供給しながらウレタン研磨パッドを用いて研磨加工をすればよい。
【0030】
リチウム電池用の固体電解質として使用する場合、加工後のガラスセラミックスの厚みの下限値は電池用途として必要な機械的強度を得るために0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、5μm以上が最も好ましい。また、厚みの上限値はリチウムイオン伝導性を良好にするために1000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましく、300μm以下が最も好ましい。
【0031】
上記のリチウム電池用の固体電解質の両側に正極材料及び負極材料を配置し、さらに公知の集電体を配置し、公知の方法でパッケージングすることにより、リチウム一次電池またはリチウムイオン二次電池等の電池を得る事ができる。
【0032】
リチウム一次電池の正極材料には、リチウムの吸蔵が可能な遷移金属化合物や炭素材料を用いることができる。例えば、マンガン,コバルト,ニッケル,バナジウム,ニオブ、モリブデン、チタンから選ばれる少なくとも1種を含む遷移金属酸化物等や、グラファイトやカーボン等を使用することができる。
【0033】
リチウム一次電池の負極材料には、金属リチウムや、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−インジウム合金などリチウムの放出が可能な合金等を使用することができる。
【0034】
リチウム二次電池の正極材料に使用する活物質としては、リチウムの吸蔵,放出が可能な遷移金属化合物を用いることができ、例えば、マンガン,コバルト,ニッケル,バナジウム,ニオブ、モリブデン、チタンから選ばれる少なくとも1種を含む遷移金属酸化物等を使用することができる。
【0035】
リチウム二次電池において、その負極材料に使用する活物質としては、金属リチウムやリチウム−アルミニウム合金、リチウム−インジウム合金などリチウムの吸蔵、放出が可能な合金、チタンやバナジウムなどの遷移金属酸化物及び黒鉛などのカーボン系の材料を使用することが好ましい。
【0036】
正極および負極には、固体電解質に含有されるガラスセラミックスと同じものを添加するとイオン伝導が付与されるため、より好ましい。これらが同じものであると電解質と電極材に含まれるイオン移動機構が統一されるため、電解質―電極間のイオン移動がスムーズに行え、より高出力・高容量の電池が提供できる。
【0037】
また、本発明の製造方法で得られたリチウム電池用固体電解質はリチウム−空気電池の電解質として好適に用いることが出来る。例えば、負極をリチウム金属とし、本発明の固体電解質を配し、多孔質の炭素系材料を正極とすることでリチウム−空気電池を得る事ができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明に係るリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法ついて、具体的な実施例を挙げて説明する。なお、本発明は下記の実施例に示したものに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0039】
原料として日本化学工業株式会社製のHPO、Al(PO、LiCO、株式会社ニッチツ製のSiO、堺化学工業株式会社製のTiO、住友金属鉱山製のGeO、日本電工製のZrOを使用した。これらを酸化物換算のmol%で、表1の組成になるように秤量して均一に混合した後に、白金ポットに入れ、電気炉中1350℃の温度で撹拌しながら3時間加熱・溶解してガラス融液を得た。
【0040】
その後、ガラス融液をポットに取り付けた白金製のパイプから加熱しながら、300℃に加熱したINCONEL600製(INCONELは登録商標)の金属の型に流し込んだ。その後ガラスの表面温度が600℃以下になるまで放冷し、その後550℃に加熱した電気炉中に入れ、室温まで徐冷することにより、熱的な歪を取り除いたガラスブロックを作製した。
【0041】
得られたガラスを、約0.5mm程度まで砕き、NETSZCH製の熱分析装置STA−409を用いて、昇温速度10℃/minで室温から1000℃まで示差熱測定を行なうことで、結晶化に伴う発熱開始温度の算出を行なった。この値をそのガラスの結晶化開始温度(Tx)とした。
作製したガラスの組成と測定された結晶化開始温度(Tx)を表1に示した。
【0042】
【表1】

【0043】
得られたガラスブロックを切断し、Φ25.7mm、厚み1mmのディスク状、一辺51.5mm、厚み1mmの正方形状などに加工し、アルミナ製のセッターに挟み、結晶化開始温度の昇温速度を変えて、890℃まで加熱し、12時間熱処理を行ない、結晶化処理を行なった。X線回折分析により結晶化後のガラスセラミックスはLi1+X+Z(Ge1−YTi2−X3−ZSi12(0<X≦0.6,0.2≦Y<0.8,0≦Z≦0.5、M=Al、Ga)の結晶相を有することが確認された。
【0044】
結晶化後のガラスセラミックスについて、両面を研削研磨して、イオン伝導度および微構造観察用のサンプルを作製した。
【0045】
サンユー電子製のクイックコーターを用い、金をターゲットとしてガラスセラミックスの両面にスパッタを行ない、金電極を取り付けた。ソーラートロン社製のインピーダンスアナライザーSI−1260を用い交流二端子法による複素インピーダンス測定により25℃におけるリチウムイオン伝導度を算出した。
結晶化処理において割れてしまったサンプルについては、Φ10mm以上の欠片が取得できたサンプルのみ、上記と同様にリチウムイオン伝導度を算出した。
【0046】
日立製作所製の電子顕微鏡S−3000Nを用いて、研磨面の微構造観察を行ない、0.1μm以上の空孔が存在するかどうかを測定した。
表2に実施例と比較例の結晶化開始温度と、結晶化開始温度の昇温速度(表中では単に昇温速度と表記)、結晶化を行う熱処理の最高温度(表中では単に結晶化最高温度と表記)結晶化後の割れの有無、25℃でのイオン伝導度、微構造観察による空孔の有無を示す。結晶化後の割れは10枚中何枚割れやクラックが存在したかを百分率で表した。またイオン伝導度に関してはそれぞれn=10のサンプルを測定し、平均の伝導度を算出した。
【0047】
【表2】

※Φは円形の直径、□は正方形の1辺の長さを表わす。
【0048】
実施例1、2では、割れおよび空孔の発生は無く、歩留まり良くガラスセラミックスの作製が可能であった。結晶化開始温度の昇温速度が遅い場合、速い場合は比較例1、2のように割れおよび空孔が発生しやすく、特に昇温速度が速い比較例では、10個全てのサンプルに割れが確認された。
【0049】
実施例1、2で作製した組成No.1、2のガラスについて、3種類の炉(ノリタケカンパニーリミテッド社製、中外炉・ナーバー製、ヤマト科学製)を用いて結晶化を行なった。これら3種類の炉内の結晶化最高温度付近の温度分布測定を行なったところ、それぞれ10℃、15℃、30℃であった。これらの炉を用いて結晶化を行なったガラスセラミックスについて、イオン伝導度測定および空孔の有無を観察し、表3に示した。
【0050】
【表3】

※Φは円形の直径、□は正方形の辺の長さを表わす。
【0051】
結晶化時の温度分布の幅が10〜15℃である実施例3、4では、結晶化処理により割れることも、空孔が存在することも無く、ガラスセラミックスが得られたが、温度分布の幅が35℃と大きな温度分布を有する場合、サイズの大きな比較例3では、割れおよび空孔が確認された。また、比較例4では、割れは観測されなかったが、ガラスセラミックスの結晶成長が部分的に進んでしまったとみられる空孔が部分的に確認された。
【0052】
以上のように、結晶化開始温度の昇温速度および温度分布を制御することにより、歩留まり良くガラスセラミックスの製造が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】示唆熱分析測定の結果から、結晶化開始温度(Tx)の決定を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスを熱処理し結晶化するリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法であって、結晶化を行なう熱処理において、結晶化開始温度の昇温速度が5℃/h〜50℃/hであることを特徴とするリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。
【請求項2】
結晶化を行なう熱処理の最高温度は、800〜1,000℃であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。
【請求項3】
前記ガラスは、厚み10mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。
【請求項4】
前記ガラスは平板状であり、その主表面の面積をS、厚みをtとするとき、S1/2・t−1の値を10以上500未満とする請求項1から3のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。
【請求項5】
前記結晶化を行う熱処理において、前記ガラスをセラミックス製のセッターに挟んで結晶化の熱処理を行なうことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。
【請求項6】
前記結晶化を行う熱処理において、前記ガラスを熱処理する炉内の温度の分布の幅を熱処理時の最高温度にて、20℃以内とする請求項1から5のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。
【請求項7】
前記ガラスは酸化物基準の質量%で、ZrO成分を0.5%〜2.5%含有する請求項1から6のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。
【請求項8】
前記ガラスは結晶化をおこなう熱処理においてLi1+X+Z(Ge1−YTi2−X3−ZSi12(0<X≦0.6,0.2≦Y<0.8,0≦Z≦0.5、M=Al、Ga)の結晶相を析出する請求項1から7のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。
【請求項9】
前記ガラスは酸化物基準の質量%で、
LiO 3.5%〜5.0%
50%〜55%、
GeO 10%〜30%
TiO 8%〜22%、
5%〜12%、但し、M=Al,Gaの中から選ばれる1種または2種の各成分を含有する請求項1から8のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。
【請求項10】
前記ガラスは酸化物基準の質量%で、
SiO 0%〜2.5%、
の成分を含有する請求項1から9のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれに記載の製造方法で得られたリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを研削する工程と研磨する工程とを有するリチウム電池用固体電解質の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−30840(P2010−30840A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195444(P2008−195444)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】