説明

リチウム含有複合酸化物の製造方法

【課題】安全性が高く、充放電サイクル耐久性、及び充放電レート特性に優れたリチウム二次電池正極用のリチウム含有複合酸化物の製造方法を提供する。
【解決手段】Ni、Co及びMnからなる群から選ばれる少なくとも2種の元素と、Mg、Al、Ga、In、Zn、Ti及びZrからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であるM元素とを含有する混合元素水溶液と、Ni、Co及びMnを含有する化合物粉末とを混合して、得られた前駆体原料粉末とリチウム原料粉末とを混合して焼成し、一般式Li〔Li(NiCoMn1−x〕O2−y(但し、−0.02<x<0.05、0.42<a<0.62、0.05<b<0.25、0.15<c<0.35、0<d<0.1、0≦y≦0.02、a+b+c+d=1)で表されるリチウム含有複合酸化物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体積容量密度が大きく、安全性が高く、サイクル特性及び充放電レート特性に優れた、リチウム二次電池正極用のリチウム含有複合酸化物の製造方法、製造されたリチウム含有複合酸化物を含むリチウム二次電池用正極の製造方法及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機器のポータブル化、コードレス化が進むにつれ、小型、軽量でかつ高エネルギー密度を有するリチウム二次電池などの非水電解液二次電池に対する要求がますます高まっている。かかる非水電解液二次電池用の正極活物質には、LiCoO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNiO、LiNi0.8Co0.2、LiMn、LiMnOなどのリチウムと遷移金属等との複合酸化物(本明細書において、リチウム含有複合酸化物ともいう。)が知られている。
なかでも、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)を含むLiNi1/3Co1/3Mn1/3などの三成分系材料を正極活物質として用いて、リチウム合金、又はグラファイト若しくはカーボンファイバーなどのカーボンを負極として用いたリチウム二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高エネルギー密度を有し、安全性が高く、希少金属であるコバルトの含有量が少ない安価な電池として広く使用されている。
【0003】
しかしながら、三成分系材料を正極活物質として用いた非水系二次電池の場合、LiCoOに比べて、安全性は高いものの、充放電レート特性が低下するという問題があった。
【0004】
これらの課題を解決するために、従来、下記のように、種々の検討がなされている。
例えば、三成分系リチウム含有複合酸化物の比表面積、粒径及びタップ密度を制御してサイクル特性や充放電レート特性を改良することが提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、三成分系共沈前駆体粉末にリチウム原料粉末及びタングステン原料粉末又はニオブ原料粉末を混合した混合物を焼成して得られる、タングステン(W)又はニオブ(Nb)を含む三成分系リチウム含有複合酸化物を用いることによって出力特性やガス発生を制御する方法が提案されている(特許文献2)。
さらに、三成分系前駆体粉末と、マグネシウム(Mg)及びジルコニウム(Zr)などのドープ元素を溶解した水溶液とを混合・乾燥して乾燥粉末を得て、その乾燥粉末にリチウム原料粉末を加えて焼成して、ドープ元素を含む三成分系リチウム含有複合酸化物を得ることで、サイクル特性を改良する方法が提案されている(特許文献3)。
【0006】
また、サイクル特性、放電容量、充放電効率又は安全性などの電池特性を向上させるために、リチウム原料粉末、ニッケル原料粉末、コバルト原料粉末又はマンガン原料粉末などの原料が溶解している溶液にシュウ酸、マレイン酸、乳酸又はクエン酸などの酸を加えて、元素が均一に溶解した溶液を用いることで得られるリチウム含有複合酸化物が提案されている(特許文献4及び5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−205893号公報
【特許文献2】特開2009−140787号公報
【特許文献3】国際公開第2005/112152号
【特許文献4】特開2000−128546号公報
【特許文献5】特開2006−93067号公報
【特許文献6】特開2007−12629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、比表面積を大きくすることで充放電レート特性の改善が見られたが、一方では比表面積を大きくすることにより安全性が低下したり、ニッケル、コバルト及びマンガンの電解液への溶出によりサイクル特性が低下したりする問題があった。
【0009】
また特許文献2では、三成分系共沈前駆体粉末にリチウム原料粉末及びW原料粉末又はNb原料粉末を混合した混合物を焼成するため、W又はNbが粒子内部に均一にドープできずに、結晶構造が不安定で安全性及びサイクル特性が低いという問題があった。
【0010】
特許文献3では、Mg及びZrなどのドープ元素を溶解した水溶液を原料に用いることで、粒子内にドープ元素が均一に分散して結晶構造が安定化されているが、ドープ元素の添加量に応じてNi、Co及びMnの含有比率が元の組成比に比例して減少するため、Ni、Co、Mn及びドープ元素の組成比を精密に制御できないという問題があった。例えば、Ni:Co:Mn=50:20:30の前駆体粉末に対してAlが1mol%含まれるようにAl水溶液を混合した場合の組成は、Ni:Co:Mn:Al=49.5:19.8:29.7:1となる。このように、前駆体の組成とドープ元素量によって、最終的に得られる組成は決まってしまうので、Ni:Co:Mn:Al=49:20:30:1のように制御することができない。
【0011】
特許文献4で得られるリチウム含有複合酸化物は、リチウム原料粉末及びニッケル原料粉末などの原料を溶解した水溶液にシュウ酸を添加して得られる析出物を濾別しており、元素により溶解度に差があるために組成を正確に制御できず、安全性及びサイクル特性などの電池特性が低いという問題があった。
【0012】
また特許文献5で得られるリチウム含有複合酸化物は、リチウム原料粉末、ニッケル原料粉末、コバルト原料粉末及びマンガン原料粉末などの原料粉末を全て溶解させて水溶液とする方法では組成の精密な制御が可能であるが、Ni原料粉末、Co原料粉末及びMn原料粉末などの原料を全て溶解させるために多量の有機酸を使用する必要があり、かつ焼成時に多量の二酸化炭素を排出するためコスト的にも環境に対しても負荷が大きく、工業プロセスとしては課題が多いという問題があった。
上記のように、リチウム含有複合酸化物からなるリチウム二次電池用正極に要求される各電池特性は、トレードオフの関係にあるので、高い放電容量、高い充填性、高い安全性及び優れた充放電レート特性を有するリチウム含有複合酸化物を得るのは非常に困難であった。また、精密に組成を制御できるリチウム含有複合酸化物の安価な製造方法がなかった。
【0013】
そこで、本発明は、リチウム二次電池用正極として使用した場合に、体積容量密度が大きく、安全性が高く、サイクル特性に優れ、更には、充放電レート特性に優れたリチウム含有複合酸化物の安価な製造方法、製造されたリチウム含有複合酸化物を含む、リチウム二次電池用正極の製造方法、及びリチウム二次電池の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意研究を続けたところ、下記を要旨とする発明により、上記の課題が良好に達成されることを見出した。
(1)Ni、Co及びMnからなる群から選ばれる少なくとも2種の元素と、Mg、Al、Ga、In、Zn、Ti及びZrからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であるM元素とを含有する混合元素水溶液と、Ni、Co及びMnを含有する化合物粉末とを混合して、得られた前駆体原料粉末とリチウム原料粉末とを混合して焼成し、一般式Li〔Li(NiCoMn1−x〕O2−y(但し、−0.02<x<0.05、0.42<a<0.62、0.05<b<0.25、0.15<c<0.35、0<d<0.1、0≦y≦0.02、a+b+c+d=1)で表されるリチウム含有複合酸化物を得ることを特徴とするリチウム含有複合酸化物の製造方法。
(2)前記M元素において、Mgの価数が+2、Alの価数が+3、Gaの価数が+3、Inの価数が+3、Znの価数が+2、Tiの価数が+4及びZrの価数が+4であり、Liの価数が+1、Coの価数が+3、Mnの価数が+4、Oの価数が−2及びFの価数が−1であるときのNiの酸化数が2.0より大きく2.4未満である上記(1)に記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
(3)Li、Ni2+、Ni3+、Co3+、Mn4+、Mg2+、Al3+、Ga3+、In3+、Zn2+、Ti4+及びZr4+のイオン半径がそれぞれ、0.76Å、0.690Å、0.56Å、0.545Å、0.530Å、0.720Å、0.535Å、0.620Å、0.800Å、0.740Å、0.605Å及び0.72Åであるとき、〔Li(NiCoMn1−x〕のイオン半径の加重平均が0.586〜0.60Åである上記(1)又は(2)に記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
(4)前記混合水溶液のpHが2〜6である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
(5)前記混合水溶液が、クエン酸、マレイン酸、乳酸及び酒石酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸を含む上記(1)〜(4)のいずれかに記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
(6)前記M元素がAl、Ga及びZrからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である上記(1)〜(5)のいずれかに記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
(7)Ni、Co及びMnを含有する化合物粉末が、ニッケル−コバルト−マンガン共沈体粉末である上記(1)〜(6)のいずれかに記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
(8)一般式Li〔Li(NiCoMn1−x〕O2−yにおいて、1.5<a/c<1.7である上記(1)〜(7)のいずれかに記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の製造方法により製造されたリチウム含有複合酸化物。
(10)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の製造方法により得られたリチウム含有複合酸化物、バインダー、導電材及び溶媒を混合して、得られるスラリーを金属箔に塗布した後、加熱して、溶媒を除去することで得られるリチウム二次電池用正極の製造方法。
(11)上記(10)に記載の製造方法で得られる正極に、セパレータ、および負極を積層して、これを電池ケースに収納した後、電解液を注入することを特徴とするリチウム二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、リチウム二次電池用正極として使用した場合に、体積容量密度が大きく、安全性が高く、サイクル特性に優れ、更には、充放電レート特性に優れたリチウム含有複合酸化物の製造方法、製造されたリチウム含有複合酸化物を含むリチウム二次電池用正極の製造方法、及びリチウム二次電池の製造方法が提供される。
【0016】
本発明により提供されるリチウム含有複合酸化物が、何故に上記のごとき、リチウム二次電池用正極として優れた特性を発揮するかについては必ずしも明らかではないが、ほぼ次のように考えられる。
【0017】
リチウムコバルト複合酸化物などのリチウム含有複合酸化物からなる正極を使用するリチウム二次電池では、電池の充電状態で加熱された場合に起こる熱暴走の抑制(本発明において安全性ということがある)を向上させるために、リチウムコバルト複合酸化物におけるコバルトの一部をニッケル又はマンガンで置換することが提案されている。しかし、マンガンの割合を増やすほど安全性は向上するが、放電容量と充放電レート特性が低下する。一方、ニッケルの割合を増やすほど放電容量は大きくなるが、安全性及び充放電レート特性が低下する。そのため、ニッケル、コバルト及びマンガンを所定の範囲で含有する三成分系組成が提案されているが、コバルト単独とした組成に比べると、充放電レート特性がなお不十分である。
【0018】
すなわち、これまで、Ni、Co及びMnを含有するリチウム含有複合酸化物粉末の製造は、Ni、Co及びMnを含有する原料化合物粉末として、Ni、Co及びMnを含有する共沈体粉末が良好な特性を有するものとして知られている。この共沈体粉末は、ニッケル、コバルト及びマンガンを溶解した水溶液に、アルカリ化合物を添加して、析出させて合成される。しかし、水溶液中のそれぞれの金属イオンとアルカリイオンの濃度を精密に制御するのが困難であり、合成ロットごとにニッケル、コバルト及びマンガンの比率がずれてしまう。
【0019】
さらに、リチウム二次電池用正極の特性を向上させるための、通常、Mg、Al、Ga、In、Zn、Ti及びZrなどのドープ元素と呼ばれる元素がリチウム含有複合酸化物に添加されるが、上記Ni、Co及びMnを含有する共沈体粉末の合成時に、ドープ元素を加える場合、ドープ元素により析出させるpHや温度などの晶析条件が異なるため、共沈体粉末のニッケル、コバルト及びマンガンの比率の制御がさらに難しく、ドープ元素を均一に分散させた共沈体粉末は得られない。
【0020】
しかしながら、本発明の製造方法では、Ni、Co及びMnからなる群から選ばれる少なくとも2種の元素と、前記M元素とを含有する混合元素水溶液と、Ni、Co及びMnを含有する化合物粉末とを混合することにより、得られる前駆体原料粉末中のNi、Co及びMnの割合を調節するので、前駆体原料粉末のNi、Co及びMnの割合を正確に制御できる。
【0021】
例えば、本発明では、Ni、Co及びMnを含有する化合物粉末の組成比を分析して、ドープ元素の添加量とNi、Co及びMnの組成比を補正することができるので、より精密かつ簡易に前駆体原料粉末の組成比を制御できる。すなわち、Ni、Co及びMnを含有する共沈体粉末のロットごとにNi−Co−Mnの組成比が異なっていても、共沈体粉末を分析して組成比を求めた後に、目標の組成比となるように、Ni、Co及びMnからなる群から選ばれる少なくとも2種の元素と、前記M元素とを含有する混合元素水溶液を合成し、共沈体粉末と混合することで、目標組成比を有し、かつ、均一性高くドープ元素が分布した前駆体原料粉末を得ることができる。
例えば、Ni:Co:Mn=50:21:29という組成比の共沈体粉末にAl−Ni−Mnを含有する水溶液を添加することで、Ni:Co:Mn:Al=49:20:30:1という組成比に精密に制御することができる。
【0022】
そして、本発明の製造方法によれば、ドープ元素、Ni、Co及びMnの組成比を適切に調節することにより、Ni及びCoの価数を変化させ、その結果、Li[Me]IIIの[Me]IIIに含まれる元素の平均イオン半径として、所定の範囲を有するNi、Co及びMnを含有するリチウム含有複合酸化物を製造することができ、これにより、リチウムイオンの脱挿入を容易であり、充放電レート特性が優れたリチウム二次電池用正極活物質が得られる。
【0023】
特に、リチウム(Li)の価数が+1で、酸素(O)の価数が−2であり、Li[Me]IIIの[Me]IIIは+3価になり、また、Ni、Co及びMnの最も安定な価数はそれぞれ+2、+3及び+4なので、Ni/Mn=1付近にすることでNi、Co及びMnを安定価数である+2、+3及び+4にすることが提案されている(特許文献6)が、従来、Ni/Mn=1付近から外れる組成比ではNi、Co又はMnが安定価数を取ることができなかったが、本発明の製造方法によれば、Ni/Mn比に係らず、Ni、Co及びMnを安定価数により近づけることができるため、高い容量、高い安全性、高い充放電レート特性を有する正極活物質が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明において、ドープ元素とは、Ni、Co及びMnを含有するリチウム含有複合酸化物の特性を向上させるための、Mg、Al、Ga、In、Zn、Ti及びZrからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であるM元素を意味するものとする。
本発明において、「混合元素水溶液」とは、Ni、Co及びMnからなる群から選ばれる少なくとも2種の元素と、Mg、Al、Ga、In、Zn、Ti及びZrからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であるM元素とを含有する水溶液を意味するものとする。
【0025】
本発明で提供されるリチウム含有複合酸化物は、一般式Li〔Li(NiCoMn1−x〕O2−yで表される。かかる一般式における、x、a、b、c、d及びyは上記に定義される。なかでも、x、a、b、c、d及びyはそれぞれ独立して下記が好ましい。−0.01<x<0.03、0.45<a<0.60、0.10<b<0.21、0.20<c<0.31、0.01<d<0.05、0≦y<0.001。ここで、yが0より大きいときには、酸素原子の一部がフッ素原子で置換された複合酸化物になるが、この場合には、得られた正極活物質の安全性が向上する。またyが0である場合、放電容量の減少が抑制される傾向が見られて好ましい場合がある。この場合は、p、x、y、z及びaはそれぞれ独立して下記が好ましい。0≦x<0.01、0.5<a<0.55、0.15<b<0.2、0.25<c<0.3、0.02≦d≦0.03、y=0。
【0026】
本発明で提供されるリチウム含有複合酸化物は、Mgの価数が+2、Alの価数が+3、Gaの価数が+3、Inの価数が+3、Znの価数が+2、Tiの価数が+4及びZrの価数が+4であり、Liの価数が+1、Coの価数が+3、Mnの価数が+4、Oの価数が−2及びFの価数が−1であるときのNiの酸化数が2.0より大きく2.4未満の範囲にあるのが好ましい。
酸化数とは化合物のトータル電荷が0になるように価数変化可能な元素の価数で補償した場合の計算上の価数をいう。
【0027】
リチウム含有複合酸化物の組成式が、例えばLiNi0.49Co0.2Mn0.3Mg0.01である場合のNiの酸化数は、[+1+0.49×Ni+0.2×(+3)+0.3×(+4)+0.01×(+2)+2×(−2)=0]によって算出され、Niの酸化数は2.408となる。
通常Niの取り得る安定価数がNi2+とNi3+なので、Ni2+とNi3+の割合がそれぞれ、pと(1−p)としたとき(ただし、pは0〜1の範囲の値である。)、
[Niの酸化数=2×p+3(1−p)=3−p]
で表される式よりNi2+とNi3+の割合を算出できる。
Niの酸化数が2.408の場合は、Ni2+/Ni3+の割合は0.592/0.408となる。
サイクル特性を向上させるためにはNiの酸化数を2に近づけるのが好ましい。
Niの酸化数が2より大きい場合は、Ni又はCo元素を置換することでNi+2/Ni+3比率を大きくできる+3価以上の価数を有するAl、Ga及びZrからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素がさらに好ましい。また、Ni+2の0.69Å付近のイオン半径を持つGa又はZrが特に好ましい。サイクル特性を向上させるためにはNi2+/Ni3+比率を大きくしてNiの酸化数を2に近づけることが好ましい。
【0028】
さらに一般式Li〔Li(NiCoMn1−x〕O2−yで表されるリチウム含有複合酸化物において、Li、Ni2+、Ni3+、Co3+、Mn4+、Mg2+、Al3+、Ga3+、In3+、Zn2+、Ti4+及びZr4+のイオン半径がそれぞれ、0.76Å、0.690Å、0.56Å、0.545Å、0.530Å、0.720Å、0.535Å、0.620Å、0.800Å、0.740Å、0.605Å及び0.72Åであるとき、リチウム含有複合酸化物のMeサイトに含まれるLi、Ni、Co、Mn及びM元素のイオン半径を加重平均した平均イオン半径は、安定な価数であるMn4+とNi2+のイオン半径の間である0.53〜0.69Åが好ましく、0.586〜0.60Åがより好ましい。上記したLi、Ni2+、Ni3+、Co3+、Mn4+、Mg2+、Al3+、Ga3+、In3+、Zn2+、Ti4+及びZr4+のイオン半径は、Shannonイオン半径を用いることが好ましい。なお、本発明において、一般式Li〔Li(NiCoMn1−x〕O2−yで表されるリチウム含有複合酸化物は、R−3mの結晶構造を持つ層状岩塩型LiMeO構造を有している。Meサイトとは、一般式Li〔Li(NiCoMn1−x〕O2−yにおいては、LiMeOのMeすなわち〔Li(NiCoMn1−x〕に含まれるLi、Ni、Co、Mn及びM元素をいう。よって、リチウム含有複合酸化物のMeサイトに含まれるLi、Ni、Co、Mn及びM元素のイオン半径を加重平均した平均イオン半径とは、一般式Li〔Li(NiCoMn1−x〕O2−yで表されるリチウム含有複合酸化物の〔Li(NiCoMn1−x〕の各元素のイオン半径において加重平均したイオン半径をいう。また、本明細書において、リチウム含有複合酸化物のMeサイトに含まれるLi、Ni、Co、Mn及びM元素のイオン半径を加重平均した平均イオン半径を単にMeサイトの平均イオン半径ということがある。
【0029】
例えば、リチウム含有複合酸化物の組成式がLiNi0.49Co0.2Mn0.3Mg0.01である、すなわちLi〔Li0.00(Ni0.49Co0.2Mn0.3Mg0.011.00である場合のMeサイトの平均イオン半径は、2価のNi(Ni2+)と3価のNi(Ni3+)との割合はNi2+/Ni3+=0.592/0.408であるので、Liのイオン半径×0.00+1.00×[0.49×(Ni2+のイオン半径×Ni2+の割合+Ni3+のイオン半径×Ni3+の割合)+Co3+のイオン半径×0.2+Mn4+のイオン半径×0.3+Mg2+のイオン半径×0.01]=0.76×0+1.00×[0.49×(0.690×0.592+0.56×0.408)+0.545×0.2+0.530×0.3+0.720×0.01]=0.5873となる。
【0030】
さらにPaulingの法則より、安定な6配位八面体を取り得るRMe/R(RMe:中心元素のイオン半径の加重平均、R:配位する酸素イオン半径=1.40Å)の範囲は0.41〜0.73が好ましい。Ro=1.40Åであるので、中心元素のイオン半径の加重平均RMeは、0.41〜0.73に1.40をかけた範囲、具体的には0.41×1.40〜0.73×1.40となる範囲、すなわち0.57〜1.02Åとなる範囲が好ましい。またNi2+のイオン半径より大幅に大きくなると、よりイオン半径の小さなCo3+、Mn4+が不安定になるので、なかでも中心元素のイオン半径の加重平均RMeは、Ni2+のイオン半径以下である0.59〜0.6Åの範囲が好ましい。
【0031】
本発明は、Ni/Mn=1付近以外の三成分系組成においてサイクル特性及び充放電レート特性を向上させる効果がある。一般式Li〔Li(NiCoMn1−x〕O2−yにおいて、1.5<a/c<1.7が好ましく、1.65<a/c<1.69がより好ましい。
本発明のリチウム含有複合酸化物は種々の方法で製造することができる。具体的には次のようにして製造することができる。
本発明において使用される混合元素水溶液は、混合元素水溶液中に、M元素を有する固体微粒子を含んでもよい。懸濁水溶液又はコロイド形態の水溶液であってもよい。なかでもM元素を均一に分散できることから、M元素が完全に溶解した混合元素水溶液であることがより好ましい。
【0032】
本発明で用いる混合元素水溶液は、カルボン酸又はカルボン酸の塩を含む水溶液であることが好ましい。該カルボン酸としては、分子中にNi、Co、Mn及びM元素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む化合物が好ましい。また、分子中にNi、Co及びMnからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む化合物とM元素を含むカルボン酸を溶解した混合元素水溶液を使用することもできる。上記したカルボン酸としては、カルボキシル基を2つ以上有する、又はカルボキシル基と水酸基若しくはカルボニル基とを合計で2つ以上有するカルボン酸及びカルボン酸の塩は溶解度が高く、水溶液中での混合元素の濃度を高くできるので好ましい。2〜4個のカルボキシル基を有して、かつ1〜4個の水酸基を有するカルボン酸又はその塩は、溶解度をさらに高くできるのでより好ましい。なかでも、上記のカルボン酸又はその塩は、炭素数が2〜8の脂肪族カルボン酸が好ましく、炭素数が2〜6の脂肪族カルボン酸がより好ましい。炭素数が9以上であると溶解度が低下するので好ましくない。
【0033】
炭素数が2〜8の脂肪族カルボン酸としては、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、リンゴ酸、葡萄酸、乳酸及びグリオキシル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸が好ましく、なかでもクエン酸、マレイン酸、乳酸及び酒石酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸は、溶解度を高くでき、比較的安価であるのでより好ましい。
酸性度の高いカルボン酸を用いるときは、該カルボン酸とM元素とを含む混合元素水溶液のpHが2未満であると、Ni、Co及びMnを含有する化合物粉末が溶解することがある。よって、混合元素水溶液のpHは、アンモニア等の塩基を添加して、2〜12にすることが好ましく、2〜6がより好ましい。pHが12を超えるとNi、Co及びMnを含有する化合物粉末が溶解することがあり好ましくない。
【0034】
上記の混合元素水溶液に溶解させるM元素原料としては、カルボン酸水溶液に均一に溶解又は分散するものがより好ましい。例えば、酸化物、水酸化物、炭酸塩若しくは硝酸塩等の無機塩、又は酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩等の有機塩、有機金属キレート錯体若しくは金属アルコキシドをキレート等で安定化した化合物でもよい。なかでも、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、水溶性の炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩及びクエン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物がより好ましい。特に、クエン酸塩は溶解度が大きく好ましい。またNi、Co及びMnを含有する化合物粉末とを混合する工程で、粒子表面からNi、Co又はMnが水溶液中へと溶出することがある。かかる場合には、カルボン酸にアンモニアを添加して、pHを2〜12の範囲にすることが好ましく、2〜6の範囲にすることがより好ましい。
【0035】
M元素原料としては、M元素がAlの場合には、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩基性乳酸アルミニウム及びマレイン酸アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましい。なかでも、乳酸アルミニウム、塩基性乳酸アルミニウム又はマレイン酸アルミニウムが好ましく、これらを用いて得られる混合元素水溶液は、水溶液中のAl濃度を高くできる。また、M元素がZrである場合は、炭酸ジルコニウムアンモニウム又はハロゲン化ジルコニウムアンモニウムが好ましい。M元素がMgの場合は、水酸化マグネシウム又は炭酸マグネシウムが好ましい。Gaの場合は、酸化ガリウム又はクエン酸ガリウムが好ましい。M元素がInの場合は、酸化インジウム又は酢酸インジウムが好ましい。M元素がZnの場合は、クエン酸亜鉛又は酒石酸亜鉛が好ましい。M元素がTiである場合は、酢酸チタン又は乳酸チタンが好ましく、乳酸チタンがより好ましい。
【0036】
本発明において混合元素水溶液に使用されるNi原料粉末としては、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル又は塩基性炭酸ニッケルが好ましく、水酸化ニッケルがより好ましい。混合元素水溶液に使用されるCo原料粉末としては、水酸化コバルト又はオキシ水酸化コバルトが好ましく、水酸化コバルトがより好ましい。混合元素水溶液に使用されるMn原料粉末としては、炭酸マンガン、炭酸マンガン水和物又は塩基性炭酸マンガンが好ましく、炭酸マンガン水和物がより好ましい。水酸化ニッケル、水酸化コバルト及び炭酸マンガン水和物は、有機酸に溶解し易いので好ましい。
また混合元素水溶液を調製する際に、加温することが好ましい。加温温度は40℃〜80℃が好ましく、50℃〜70℃がより好ましい。加温することでM元素原料の溶解が容易に進み、M元素原料を短時間に安定して溶解することができる。
【0037】
本発明で使用される上記混合元素水溶液中の混合元素を含む化合物の合計濃度は、後の工程で乾燥により水媒体を除去する必要がある点から高濃度の方が好ましい。しかし、高濃度過ぎると粘度が高くなり、正極活物質を形成する他の元素の原料粉末との均一混合性が低下し、またNi、Co及びMnを含有する化合物粉末に溶液が浸透しにくくなるので、好ましくは1〜30重量%、特には4〜20重量%が好ましい。
【0038】
上記混合元素水溶液には、メタノール、エタノールなどのアルコールや、錯体を形成させる効果のあるポリオールなどを含有させることができる。ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ブタンジオール、グリセリン等が例示される。その場合の含有量としては、好ましくは1〜20重量%である。
【0039】
本発明で使用されるNi、Co及びMnを含有する化合物粉末としては、これらの元素を含む化合物の粉末であれば特に限定されないが、具体的には、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、酸化物及び硫酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、水酸化物又はオキシ水酸化物がより好ましい。Ni、Co及びMnを含有する化合物粉末としては、Ni化合物、Co化合物及びMn化合物からなる3種の単独化合物の微粉末の混合物粉末、該微粉末が二次凝集してなる粉末、又はニッケル−コバルト−マンガン共沈体粉末が好ましく、ニッケル−コバルト−マンガン共沈体粉末がより好ましい。このニッケル−コバルト−マンガン共沈体は、ニッケル、コバルト及びマンガンが溶解した水溶液に塩基を加えて、析出させることで得ることができる。
【0040】
本発明で使用されるリチウム原料粉末としては、特に限定されないが、炭酸リチウム又は水酸化リチウムが好ましく、炭酸リチウムが安価であるためより好ましい。リチウム原料粉末の平均粒径D50は2〜25μmが好ましい。フッ素原料粉末としては、特に限定されないが、LiF若しくはMgFなどの金属フッ化物又はフッ化ジルコニウムアンモニウム((NHZrF)が使用できる。
フッ素を含むリチウム含有複合酸化物を得る場合、フッ素原料粉末を加える方法は特に限定されないが、具体的には、フッ素原料粉末を、Co、及びMnを含有する化合物と同時に若しくは別個に前記混合元素水溶液に溶解又は分散させて加える方法、フッ素原料粉末をリチウム原料粉末と同時に若しくは別個に前記前駆体原料粉末に加える方法などが例示される。
【0041】
本発明において、リチウム含有複合酸化物がフッ素原子を含む場合は、フッ素原子がリチウム含有複合酸化物の粒子表面に存在していることが好ましい。フッ素原子が表面に存在することにより、少量の添加で電池性能の低下させることなく、安全性、充放電サイクル特性等の重要な電池特性を改良できる。これらの元素が表面に存在することは、粒子をXPS分析(X線光電子分光法分析)で分析することにより判断できる。
【0042】
混合元素水溶液と、Ni、Co及びMnを含有する化合物粉末とを混合する工程においては、Ni、Co及びMnを含有する化合物粉末に混合元素水溶液をスプレー噴霧して含浸させる方法、又は容器に収納されたNi、Co及びMnを含有する化合物粉末に、混合元素水溶液中を投入して攪拌して含浸させる方法が好ましい。更には、混合元素水溶液と、Ni、Co及びMnを含有する化合物粉末とを混合する工程において、2軸スクリューニーダー、アキシアルミキサー、パドルミキサー又はタービュライザーを使用することが好ましい。混合元素水溶液と、Ni、Co及びMnを含有する化合物粉末とを混合して、混合物が得られる。この混合物はスラリーであると好ましく、そのスラリーの固形分濃度は、均一に混合される限り高い濃度の方が好ましく、固体/液体比の重量比は30/70〜90/10が好ましく、50/50〜80/20がより好ましい。また、上記スラリーの状態で減圧処理を行うと、各成分粉末に溶液がより浸透し好ましい。
【0043】
混合元素水溶液とNi、Co及びMnを含有する化合物粉末との混合物からの水媒体を除く場合、該混合物を、好ましくは50〜200℃、特に好ましくは80〜120℃にて、0.1〜10時間乾燥することが好ましい。混合物中の水媒体は後の焼成工程で除去されるために、この段階で必ずしも完全に除去する必要はないが、焼成工程で水分を気化させるのに多量のエネルギーが必要になるので、できる限り除去しておくのが好ましい。
【0044】
本発明では、上記混合物を乾燥すると同時に、粒子を造粒することが好ましい。乾燥と同時に粒子を造粒する方法としては、スプレードライヤー、フラシュドライヤー、ベルトドライヤー、レーディゲミキサー又は2軸スクリュードライヤーを使用するのが好ましい。なかでも2軸スクリュードライヤーとしては、サーモプロセッサー又はパドルドライヤーが好ましい。造粒する方法としては、生産性が向上するため、なかでもスプレードライヤーがより好ましい。またスプレードライヤーを用いる場合、噴霧形式、加圧気体供給速度、スラリー供給速度又は乾燥温度を調節することにより、得られる造粒体の平均粒径を制御できる。なお得られる造粒体は粉末であり、粒子は二次粒子である。
なお、本発明において、粒子に含まれるM元素の量はICP分析(高周波誘導結合プラズマ発光分析)装置などで分析することができる。
【0045】
本発明では、前駆体原料粉末の粒径が、本発明で最終的に得られるリチウム含有複合酸化物の粒径にほぼ反映される。本発明で平均粒径D50とは、体積基準で粒度分布を求め、全体積を100%とした累積カーブにおいて、その累積カーブが50%となる点の粒径である、体積基準累積50%径(D50)を意味する。なお本発明において単にD50ということがある。またD10とは体積基準累積10%径を、D90とは体積基準累積90%径を意味する。粒度分布は、レーザー散乱粒度分布測定装置で測定した頻度分布及び累積体積分布曲線で求められる。粒径の測定は、粒子を水媒体中に超音波処理などで充分に分散させて粒度分布を測定する(例えば、日機装社製マイクロトラックHRA(X−100)などを用いる)ことにより行なわれる。
上記のようにして得られた混合元素水溶液と、Ni、Co及びMnを含有する化合物粉末とを混合して得られる混合物、又は該混合物を造粒して得られる造粒体を、リチウム原料粉末と混合するための前駆体原料粉末として使用する。
【0046】
本発明の前駆体原料粉末とリチウム原料粉末とを混合して焼成する工程において、焼成条件は、酸素含有雰囲気が好ましく、また700〜1100℃で焼成することが好ましい。かかる焼成温度が、700℃より低い場合には原料が未反応のままで不純物として残存することがあり、また1100℃を超える場合にはサイクル特性や放電容量が低下する傾向が見られる。なかでも、焼成温度は850〜1050℃がより好ましい。
【0047】
本発明の方法で製造されるリチウム含有複合酸化物は、平均粒径D50が好ましくは2〜25μm、特に好ましくは8〜20μm、比表面積が好ましくは0.1〜0.7m/g、特に好ましくは0.15〜0.5m/gである。また、CuKαを線源とするX線回折により測定される2θ=66.5±1°の(110)面回折ピーク半値幅は好ましくは0.08〜0.14°、特に好ましくは0.08〜0.12°、かつプレス密度は、好ましくは2.8〜3.4g/cm、特に好ましくは3.0〜3.2g/cmである。本発明において、プレス密度とはリチウム複合酸化物粉末を0.33トン/cmの圧力でプレスしたときの粉末の見かけ密度を意味する。
【0048】
リチウム含有複合酸化物粒子の平均粒径D50とは、一次粒子が相互に凝集、焼結してなる二次粒径についての体積平均粒径であり、粒子が一次粒子のみからなる場合は、一次粒子についての体積平均粒径を意味する。
かかるリチウム含有複合酸化物から本発明のリチウム二次電池用の正極を製造する場合には、かかる複合酸化物の粉末に、アセチレンブラック、黒鉛、ケッチェンブラックなどのカーボン系導電材と結合材を混合することにより形成される。上記結合材には、好ましくは、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミド、カルボキシメチルセルロース、アクリル樹脂等が用いられる。本発明のリチウム含有複合酸化物の粉末、導電材及び結合材を溶媒又は分散媒を使用し、スラリー又は混練物とされる。これをアルミニウム箔、ステンレス箔などの正極集電体に塗布などにより担持せしめて本発明のリチウム二次電池用の正極が製造される。
【0049】
本発明の、リチウム含有複合酸化物を正極活物質に用いるリチウム二次電池において、セパレータとしては、多孔質ポリエチレン、多孔質ポリプロピレンのフィルムなどが使用される。また、電池の電解質溶液の溶媒としては、種々の溶媒が使用できるが、なかでも炭酸エステルが好ましい。炭酸エステルは環状、鎖状いずれも使用できる。環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート(EC)などが例示される。鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネートなどが例示される。
【0050】
本発明の上記リチウム二次電池では、上記炭酸エステルを単独で又は2種以上を混合して使用できる。また、他の溶媒と混合して使用してもよい。また、負極活物質の材料によっては、鎖状炭酸エステルと環状炭酸エステルを併用すると、放電容量、サイクル特性、充放電効率が改良できる場合がある。
【0051】
また、本発明の、リチウム含有複合酸化物を正極活物質に用いるリチウム二次電池においては、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(例えばアトケム社製:商品名カイナー)あるいはフッ化ビニリデン−パーフルオロプロピルビニルエーテル共重合体を含むゲルポリマー電解質としてもよい。上記の電解質溶媒又はポリマー電解質に添加される溶質としては、ClO、CFSO、BF、PF、AsF、SbF、CFCO、(CFSOなどをアニオンとするリチウム塩のいずれか1種以上が好ましく使用される。上記リチウム塩は、電解質溶媒又はゲルポリマーに対して、0.2〜2.0mol/l(リットル)の濃度で添加するのが好ましい。この範囲を逸脱すると、イオン伝導度が低下し、電解質の電気伝導度が低下する。なかでも、0.5〜1.5mol/lが特に好ましい。
【0052】
本発明の、リチウム含有複合酸化物を正極活物質に用いるリチウム二次電池において、負極活物質には、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な材料が用いられる。この負極活物質を形成する材料は特に限定されないが、例えばリチウム金属、リチウム合金、炭素材料、周期表14、又は15族の金属を主体とした酸化物、炭素化合物、炭化ケイ素化合物、酸化ケイ素化合物、硫化チタン、炭化ホウ素化合物などが挙げられる。炭素材料としては、種々の熱分解条件で有機物を熱分解したものや人造黒鉛、天然黒鉛、土壌黒鉛、膨張黒鉛、鱗片状黒鉛などを使用できる。また、酸化物としては、酸化スズを主体とする化合物が使用できる。負極集電体としては、銅箔、ニッケル箔などが用いられる。かかる負極は、好ましくは上記活物質を有機溶媒と混練してスラリーとし、該スラリーを金属箔集電体に塗布、乾燥、プレスして得ることにより製造される。
【0053】
本発明の、リチウム含有複合酸化物を正極活物質に用いるリチウム二次電池の形状には特に制約はない。シート状、フィルム状、折り畳み状、巻回型有底円筒形、ボタン形などが用途に応じて選択される。
【実施例】
【0054】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されないことはもちろんである。
[例1]実施例
硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンをイオン交換水に溶解して得た溶液を濾過して、2.5mol/Lの硫酸ニッケルと1.0mol/Lの硫酸コバルトと1.5mol/Lの硫酸マンガンを含有するニッケル−コバルト−マンガン含有硫酸塩水溶液を調製した。次いで、反応槽にイオン交換水500gを入れ、窒素ガスでバブリングしながら50℃に保持しつつ400rpmで攪拌した。このイオン交換水中に、上記のニッケル−コバルト−マンガン含有硫酸塩水溶液を1.2L/hrで、かつアンモニア水溶液を0.03L/hrで同時に連続的に供給しつつ、18mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液にて反応槽内のpHが11を保つように供給した。フィルターを通した吸引濾過により反応系内の液量を調節し、50℃で24時間熟成した後、共沈体スラリーを濾過し、次いで水洗し、さらに70℃で乾燥することによりニッケル−コバルト−マンガン含有複合オキシ水酸化物の共沈体粉末を得た。得られた共沈体粉末の組成はNi0.547Co0.182Mn0.271OOHであり、D50が11μm、Ni−Co−Mn含量が10.74mol/kgであった。
【0055】
次に、Co含量10.62mol/kgの水酸化コバルト4.17g、Mn含量8.10mol/kgの水酸化マンガン水和物8.38g、Al含量1.69mol/kgの塩基性乳酸アルミニウム水溶液22.22g、及びマレイン酸7.37gからなる混合物に水57.85gを加え、80℃に加熱して、かつ攪拌してCo−Mn−Al水溶液からなる混合元素水溶液を得た。該混合元素水溶液のpHは3.2であった。
【0056】
上記の共沈体粉末100gに対して、上記のCo−Mn−Al水溶液を全量加えて、混合しながら80℃にて乾燥してNi−Co−Mn−Al前駆体原料粉末を得た。この前駆体原料粉末に、Li含量26.93mol/kgの炭酸リチウム粉末44.50gを加えて混合し、大気雰囲気下にて、550℃で10時間仮焼した後、950℃で10時間焼成して、仕込み組成でLi[Ni0.49Co0.20Mn0.30Al0.01]Oのリチウム含有複合酸化物粒子を得た。この粉末をICPで組成分析した結果、Li−Ni−Co−Mn−Al比は仕込み組成と同じであり、組成から計算したNiの酸化数は2.39であり、Meサイトの平均イオン半径は0.587Åであった。
【0057】
得られたリチウム含有複合酸化物粉末の粒度分布をレーザー散乱式粒度分布測定装置を用いて水溶媒中にて測定した結果、D50が11.0μm、D10が4.4μm、D90が19.5μmであり、比表面積が0.44m/gの略球状粒子であった。
このリチウム含有複合酸化物粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°の(110)面の回折ピーク半値幅は0.115°であった。この粉末のプレス密度は2.88g/cmであった。
【0058】
上記のリチウム含有複合酸化物粉末である正極活物質粉末と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデン粉末とを90/5/5の重量比で混合し、N−メチルピロリドンを添加してスラリーを調製し、厚さ20μmのアルミニウム箔にドクターブレードを用いて片面塗工した。乾燥し、ロールプレス圧延を5回行うことによりリチウム電池用の正極体シートを作製した。
【0059】
そして、上記正極体シートを打ち抜いたものを正極に用い、厚さ500μmの金属リチウム箔を負極に用い、負極集電体に厚さ20μmのニッケル箔を使用し、セパレータには厚さ25μmの多孔質ポリプロピレンを用い、更に電解液には、濃度1MのLiPF/EC+DEC(1:1)溶液(LiPFを溶質とするECとDECとの重量比(1:1)の混合溶液を意味する。後記する溶媒もこれに準じる。)を用いてステンレス製簡易密閉セル型リチウム電池をアルゴングローブボックス内で2個組み立てた。
【0060】
上記1個の電池については、25℃にて正極活物質1gにつき75mAの負荷電流で4.3Vまで充電し、正極活物質1gにつき75mAの負荷電流にて2.5Vまで放電して1回目の充放電時の重量容量密度(本明細書において、初期重量容量密度ということがある)を求めた。次に75mAの負荷電流で4.3Vまで充電し、113mAの負荷電流にて2.5Vまで放電したときの放電容量を求めた。また、この電池について、引き続き充放電サイクル試験を30回行った際の放電容量を求めた。その結果、25℃、2.5〜4.3Vにおける正極活物質の初期重量容量密度は、170mAh/gであった。また充放電レート特性の指標である、113mAの高負荷で放電したときの放電容量から求めた高負荷容量維持率は89.9%であった。また30回充放電サイクル後の容量維持率は97.3%であった。
【0061】
また、他方の電池については、4.3Vで10時間充電し、アルゴングローブボックス内で解体し、充電後の正極体シートを取り出し、その正極体シートを洗浄後、直径3mmに打ち抜き、ECとともにアルミニウム製カプセルに密閉し、示差走査熱量計にて5℃/分の速度で昇温して発熱開始温度を測定した。その結果、4.3V充電品の発熱曲線における発熱開始温度は187℃であった。
【0062】
[例2]比較例
Al含量1.69mol/kgの塩基性乳酸アルミニウム水溶液6.43gに水93.57gを加えて攪拌することでAl水溶液を得た。該Al水溶液のpHは6.8であった。次いで例1に記載の方法と同様にして得られた、組成がNi0.547Co0.182Mn0.271OOHであり、D50が11μm、Ni−Co−Mn含量が10.74mol/kgの共沈体粉末100gに対して、上記で得られたAl水溶液を全量加えて、混合しながら80℃にて乾燥してNi−Co−Mn−Al前駆体原料粉末を得た。この前駆体原料粉末に、Li含量26.93mol/kgの炭酸リチウム粉末40.29gを加えて加えて混合し、大気雰囲気下にて、550℃で10時間仮焼した後、950℃で10時間焼成して、仕込み組成でLi[Ni0.542Co0.180Mn0.268Al0.01]Oのリチウム含有複合酸化物粒子を得た。この粉末をICPで組成分析した結果、Li−Ni−Co−Mn比は仕込み組成と同じであり、組成から計算したNiの酸化数は2.51であり、Meサイトの平均イオン半径は0.584Åであった。
例1と同様にして、得られたリチウム含有複合酸化物粉末の粒度分布を測定した結果、D50が10.8μm、D10が4.1μm、D90が19.9μmであり、比表面積が0.41m/gの略球状粒子であった。
このリチウム含有複合酸化物粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°の(110)面の回折ピーク半値幅は0.109°であった。この粉末のプレス密度は2.85g/cmであった。
【0063】
次いで、例1と同様にして、上記で得られたリチウム含有複合酸化物粉末の電池特性を評価した結果、2.5〜4.3Vにおける正極活物質の初期重量容量密度は、168mAh/gであった。また充放電レート特性の指標である、113mAの高負荷で放電したときの放電容量から求めた高負荷容量維持率は81.5%であった。また30回充放電サイクル後の容量維持率は90.2%であった。また、4.3V充電品の発熱曲線における発熱開始温度は174℃であった。
【0064】
[例3]実施例
Co含量10.62mol/kgの水酸化コバルト5.11g、Mn含量8.10mol/kgの水酸化マンガン水和物10.32g、及びマレイン酸9.05gからなる混合物にAl含量1.69mol/kgの塩基性乳酸アルミニウム水溶液76.45gを加え、80℃に加熱、攪拌してCo−Mn−Al水溶液からなる混合元素水溶液を得た。該混合元素水溶液のpHは3.0であった。
【0065】
例1に記載の方法と同様にして得られた組成がNi0.547Co0.182Mn0.271OOHであり、D50が11μm、Ni−Co−Mn含量が10.74mol/kgの共沈体粉末100gに対して、上記Co−Mn−Al水溶液を全量加えて、混合しながら80℃にて乾燥してNi−Co−Mn−Al前駆体原料粉末を得た。この前駆体原料粉末に、Li含量26.93mol/kgの炭酸リチウム粉末46.40gを加えて混合し、大気雰囲気下にて、550℃で10時間仮焼した後、950℃で10時間焼成して、仕込み組成でLi[Ni0.47Co0.20Mn0.30Al0.03]Oのリチウム含有複合酸化物粒子を得た。この粉末をICPで組成分析した結果、Li−Ni−Co−Mn−Al比は仕込み組成と同じであり、組成から計算したNiの酸化数は2.36であり、Meサイトの平均イオン半径は0.586Åであった。
例1と同様にして、得られたリチウム含有複合酸化物粉末の粒度分布を測定した結果、D50が11.2μm、D10が4.5μm、D90が20.1μmであり、比表面積が0.43m/gの略球状粒子であった。
【0066】
このリチウム含有複合酸化物粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°の(110)面の回折ピーク半値幅は0.112°であった。この粉末のプレス密度は2.90g/cmであった。
【0067】
次いで、例1と同様にして、上記で得られたリチウム含有複合酸化物粉末の電池特性を評価した結果、2.5〜4.3Vにおける正極活物質の初期重量容量密度は、168mAh/gであった。また充放電レート特性の指標である、113mAの高負荷で放電したときの放電容量から求めた高負荷容量維持率は88.3%であった。また30回充放電サイクル後の容量維持率は96.1%であった。また、4.3V充電品の発熱曲線における発熱開始温度は192℃であった。
【0068】
[例4]比較例
Al含量1.69mol/kgの塩基性乳酸アルミニウム水溶液19.69gに水80.31gを加え、攪拌してAl水溶液を得た。該Al水溶液のpHは6.8であった。
例1に記載の方法と同様にして得られた組成がNi0.547Co0.182Mn0.271OOHであり、D50が11μm、Ni−Co−Mn含量が10.74mol/kgの共沈体粉末100gに対して、上記Al水溶液を全量加えて、混合しながら80℃にて乾燥してNi−Co−Mn−Al前駆体原料粉末を得た。この前駆体原料粉末に、Li含量26.93mol/kgの炭酸リチウム粉末41.12gを加えて混合し、大気雰囲気下にて、550℃で10時間仮焼した後、950℃で10時間焼成して、仕込み組成でLi[Ni0.531Co0.176Mn0.263Al0.03]Oのリチウム含有複合酸化物粒子を得た。この粉末をICPで組成分析した結果、Li−Ni−Co−Mn−Al比は仕込み組成と同じであり、組成から計算したNiの酸化数は2.51であり、Meサイトの平均イオン半径は0.583Åであった。
例1と同様にして、得られたリチウム含有複合酸化物粉末の粒度分布を測定した結果、D50が12.2μm、D10が4.5μm、D90が20.7μmであり、比表面積が0.45m/gの略球状粒子であった。
【0069】
このリチウム含有複合酸化物粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°の(110)面の回折ピーク半値幅は0.121°であった。この粉末のプレス密度は2.85g/cmであった。
【0070】
次いで、例1と同様にして、上記で得られたリチウム含有複合酸化物粉末の電池特性を評価した結果、2.5〜4.3Vにおける正極活物質の初期重量容量密度は、169mAh/gであった。また充放電レート特性の指標である、113mAの高負荷で放電したときの放電容量から求めた高負荷容量維持率は82.2%であった。また30回充放電サイクル後の容量維持率は91.7%であった。また、4.3V充電品の発熱曲線における発熱開始温度は181℃であった。
【0071】
[例5]実施例
Co含量10.62mol/kgの水酸化コバルト4.62g、Mn含量8.10mol/kgの水酸化マンガン水和物9.36g、Mg含量が17.13mol/kgの水酸化マグネシウム4.68g、及びマレイン酸17.49gからなる混合物に水63.85gを加えて80℃に加熱、攪拌してCo−Mn−Mg水溶液からなる混合元素水溶液を得た。該混合元素水溶液のpHは3.5であった。
【0072】
例1に記載の方法と同様にして得られた組成がNi0.547Co0.182Mn0.271OOHであり、D50が11μm、Ni−Co−Mn含量が10.74mol/kgの共沈体粉末100gに対して、上記Co−Mn−Mg水溶液を全量加えて、混合しながら80℃にて乾燥してNi−Co−Mn−Mg前駆体原料粉末を得た。この前駆体原料粉末に、Li含量26.93mol/kgの炭酸リチウム粉末44.53gを加えて混合し、大気雰囲気下にて、550℃で10時間仮焼した後、950℃で10時間焼成して、仕込み組成でLi0.99[Ni0.48Co0.20Mn0.30Mg0.021.01のリチウム含有複合酸化物粒子を得た。この粉末をICPで組成分析した結果、Li−Ni−Co−Mn−Mg比は仕込み組成と同じであり、組成から計算したNiの酸化数は2.38であり、Meサイトの平均イオン半径は0.589Åであった。
例1と同様にして、得られたリチウム含有複合酸化物粉末の粒度分布を測定した結果、D50が11.8μm、D10が4.3μm、D90が20.2μmであり、比表面積が0.54m/gの略球状粒子であった。
【0073】
このリチウム含有複合酸化物粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°の(110)面の回折ピーク半値幅は0.125°であった。この粉末のプレス密度は2.85g/cmであった。
【0074】
次いで、例1と同様にして、上記で得られたリチウム含有複合酸化物粉末の電池特性を評価した結果、2.5〜4.3Vにおける正極活物質の初期重量容量密度は、173mAh/gであった。また充放電レート特性の指標である、113mAの高負荷で放電したときの放電容量から求めた高負荷容量維持率は91.4%であった。また30回充放電サイクル後の容量維持率は96.5%であった。また、4.3V充電品の発熱曲線における発熱開始温度は184℃であった。
【0075】
[例6]比較例
Mg含量17.13mol/kgの水酸化マグネシウム1.28g、及びマレイン酸2.55gからなる混合物に水96.17gを加えて80℃に加熱、攪拌してMg水溶液を得た。該Mg水溶液のpHは2.7であった。
例1に記載の方法と同様にして得られた組成がNi0.547Co0.182Mn0.271OOHであり、D50が11μm、Ni−Co−Mn含量が10.74mol/kgの共沈体粉末100gに対して、上記Mg水溶液を全量加えて、混合しながら80℃にて乾燥してNi−Co−Mn−Mg前駆体原料粉末を得た。この前駆体原料粉末に、Li含量26.93mol/kgの炭酸リチウム粉末39.10gを加えて混合し、大気雰囲気下にて、550℃で10時間仮焼した後、950℃で10時間焼成して、仕込み組成でLi0.99[Ni0.536Co0.178Mn0.266Mg0.02]1.01のリチウム含有複合酸化物粒子を得た。この粉末をICPで組成分析した結果、Li−Ni−Co−Mn−Mg比は仕込み組成と同じであり、組成から計算したNiの酸化数は2.52であり、Meサイトの平均イオン半径は0.584Åであった。
例1と同様にして、得られたリチウム含有複合酸化物粉末の粒度分布を測定した結果、D50が12.5μm、D10が4.8μm、D90が20.9μmであり、比表面積が0.53m/gの略球状粒子であった。
【0076】
このリチウム含有複合酸化物粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°の(110)面の回折ピーク半値幅は0.127°であった。この粉末のプレス密度は2.82g/cmであった。
次いで、例1と同様にして、上記で得られたリチウム含有複合酸化物粉末の電池特性を評価した結果、2.5〜4.3Vにおける正極活物質の初期重量容量密度は、165mAh/gであった。また充放電レート特性の指標である、113mAの高負荷で放電したときの放電容量から求めた高負荷容量維持率は84.5%であった。また30回充放電サイクル後の容量維持率は84.7%であった。また、4.3V充電品の発熱曲線における発熱開始温度は175℃であった。
【0077】
[例7]実施例
Co含量10.62mol/kgの水酸化コバルト5.62g、Mn含量8.10mol/kgの水酸化マンガン水和物11.33g、Ga含量が3.34mol/kgのクエン酸ガリウム16.11g、及びマレイン酸12.64gからなる混合物に水63.85gを加えて、Zr含量が1.54mol/kgの炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液30.08gを加え、80℃に加熱、攪拌してCo−Mn−Ga−Zr水溶液からなる混合元素水溶液を得た。該混合元素水溶液のpHは2.9であった。
【0078】
例1に記載の方法と同様にして得られた組成がNi0.547Co0.182Mn0.271OOHであり、D50が11μm、Ni−Co−Mn含量が10.74mol/kgの共沈体粉末100gに対して、上記Co−Mn−Ga−Zr水溶液を全量加えて、混合しながら80℃にて乾燥してNi−Co−Mn−Ga−Zr前駆体原料粉末を得た。この前駆体原料粉末に、Li含量26.93mol/kgの炭酸リチウム粉末48.37gを加えて混合し、大気雰囲気下にて、550℃で10時間仮焼した後、950℃で10時間焼成して、仕込み組成でLi1.01[Ni0.46Co0.20Mn0.30Ga0.03Zr0.010.99のリチウム含有複合酸化物粒子を得た。この粉末をICPで組成分析した結果、Li−Ni−Co−Mn−Ga−Zr比は仕込み組成と同じであり、組成から計算したNiの酸化数は2.37であり、Meサイトの平均イオン半径は0.591Åであった。
例1と同様にして、得られたリチウム含有複合酸化物粉末の粒度分布を測定した結果、D50が4.8μm、D10が12.4μm、D90が21.1μmであり、比表面積が0.38m/gの略球状粒子であった。
【0079】
このリチウム含有複合酸化物粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°の(110)面の回折ピーク半値幅は0.118°であった。この粉末のプレス密度は2.79g/cmであった。
【0080】
次いで、例1と同様にして、上記で得られたリチウム含有複合酸化物粉末の電池特性を評価した結果、2.5〜4.3Vにおける正極活物質の初期重量容量密度は、162mAh/gであった。また充放電レート特性の指標である、113mAの高負荷で放電したときの放電容量から求めた高負荷容量維持率は87.1%であった。また30回充放電サイクル後の容量維持率は93.6%であった。また、4.3V充電品の発熱曲線における発熱開始温度は190℃であった。
【0081】
[例8]比較例
Ga含量3.34mol/kgのクエン酸ガリウム9.95g、及びマレイン酸1.26gからなる混合物に水81.75gを加えて80℃に加熱・攪拌して、Zr含量1.54mol/kgの炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液7.04gを加えて攪拌してGa−Zr水溶液を得た。Ga−Zr水溶液のpHは2.4であった。
例1に記載の方法と同様にして得られた組成がNi0.547Co0.182Mn0.271OOHであり、D50が11μm、Ni−Co−Mn含量が10.74mol/kgの共沈体粉末100gに対して、上記Ga−Zr水溶液を全量加えて、混合しながら80℃にて乾燥してNi−Co−Mn−Ga−Zr前駆体原料粉末を得た。この前駆体原料粉末に、Li含量26.93mol/kgの炭酸リチウム粉末41.55gを加えて混合し、大気雰囲気下にて、550℃で10時間仮焼した後、950℃で10時間焼成して、仕込み組成でLi1.01[Ni0.5251Co0.1747Mn0.2602Ga0.03Zr0.01]0.99のリチウム含有複合酸化物粒子を得た。この粉末をICPで組成分析した結果、Li−Ni−Co−Ga−Zr比は仕込み組成と同じであり、組成から計算したNiの酸化数は2.52であり、Meサイトの平均イオン半径は0.587Åであった。
例1と同様にして、得られたリチウム含有複合酸化物粉末の粒度分布を測定した結果、D50が12.1μm、D10が4.5μm、D90が20.4μmであり、比表面積が0.36m/gの略球状粒子であった。
【0082】
このリチウム含有複合酸化物粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°の(110)面の回折ピーク半値幅は0.122°であった。この粉末のプレス密度は2.78g/cmであった。
次いで、例1と同様にして、上記で得られたリチウム含有複合酸化物粉末の電池特性を評価した結果、2.5〜4.3Vにおける正極活物質の初期重量容量密度は、157mAh/gであった。また充放電レート特性の指標である、113mAの高負荷で放電したときの放電容量から求めた高負荷容量維持率は80.9%であった。また30回充放電サイクル後の容量維持率は85.1%であった。また、4.3V充電品の発熱曲線における発熱開始温度は183℃であった。
【0083】
[例9]実施例
Co含量10.62mol/kgの水酸化コバルト5.11g、Mn含量8.10mol/kgの水酸化マンガン水和物10.32g、マレイン酸9.05g及びフッ化ジルコニウムアンモニウム((NHZrF)2.62gからなる混合物を72.9gの水に加え、80℃に加熱、攪拌してCo−Mn−Zr−F水溶液からなる混合元素水溶液を得た。該混合元素水溶液のpHは2.3であった。
例1に記載の方法と同様にして得られた組成がNi0.547Co0.182Mn0.271OOHであり、D50が11μm、Ni−Co−Mn含量が10.74mol/kgの共沈体粉末100gに対して、上記Co−Mn−Zr−F水溶液を全量加えて、混合しながら80℃にて乾燥してNi−Co−Mn−Zr−F前駆体原料粉末を得た。この前駆体原料粉末に、Li含量26.93mol/kgの炭酸リチウム粉末46.40gを加えて混合し、大気雰囲気下にて、550℃で10時間仮焼した後、950℃で10時間焼成して、仕込み組成でLi[Ni0.49Co0.20Mn0.30Zr0.01]O1.9950.005のリチウム含有複合酸化物粒子を得た。この粉末をICPで組成分析した結果、Li−Ni−Co−Mn−Zr比は仕込み組成と同じであり、F含有量は0.5mol%であった。この組成から計算したNiの酸化数は2.36であり、Meサイトの平均イオン半径は0.590Åであった。
例1と同様にして、得られたリチウム含有複合酸化物粉末の粒度分布を測定した結果、D50が13.1μm、D10が4.9μm、D90が21.7μmであり、比表面積が0.33m/gの略球状粒子であった。
【0084】
このリチウム含有複合酸化物粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°の(110)面の回折ピーク半値幅は0.108°であった。この粉末のプレス密度は2.90g/cmであった。
次いで、例1と同様にして、上記で得られたリチウム含有複合酸化物粉末の電池特性を評価した結果、2.5〜4.3Vにおける正極活物質の初期重量容量密度は、169mAh/gであった。また充放電レート特性の指標である、113mAの高負荷で放電したときの放電容量から求めた高負荷容量維持率は84.3%であった。また30回充放電サイクル後の容量維持率は95.7%であった。また、4.3V充電品の発熱曲線における発熱開始温度は201℃であった。
【0085】
[例10]比較例
フッ化ジルコニウムアンモニウム((NHZrF)2.62gに水97.38gを加え、攪拌してpH2.6のZr−F水溶液を得た。
例1に記載の方法と同様にして得られた組成がNi0.547Co0.182Mn0.271OOHであり、D50が11μm、Ni−Co−Mn含量が10.74mol/kgの共沈体粉末100gに対して、上記Zr−F水溶液を全量加えて、混合しながら80℃にて乾燥してNi−Co−Mn−Zr−F前駆体原料粉末を得た。この前駆体原料粉末に、Li含量26.93mol/kgの炭酸リチウム粉末41.12gを加えて混合し、大気雰囲気下にて、550℃で10時間仮焼した後、950℃で10時間焼成して、仕込み組成でLi[Ni0.542Co0.180Mn0.268Zr0.01]O1.9950.005のリチウム含有複合酸化物粒子を得た。この粉末をICPで組成分析した結果、Li−Ni−Co−Mn−Zr比は仕込み組成と同じであり、F含有量は0.5mol%であった。この組成から計算したNiの酸化数は2.48であり、Meサイトの平均イオン半径は0.590Åであった。
例1と同様にして、得られたリチウム含有複合酸化物粉末の粒度分布を測定した結果、D50が12.4μm、D10が4.4μm、D90が21.1μmであり、比表面積が0.35m/gの略球状粒子であった。
このリチウム含有複合酸化物粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°の(110)面の回折ピーク半値幅は0.105°であった。この粉末のプレス密度は2.92g/cmであった。
【0086】
次いで、例1と同様にして、上記で得られたリチウム含有複合酸化物粉末の電池特性を評価した結果、2.5〜4.3Vにおける正極活物質の初期重量容量密度は、165mAh/gであった。また充放電レート特性の指標である、113mAの高負荷で放電したときの放電容量から求めた高負荷容量維持率は85.2%であった。また30回充放電サイクル後の容量維持率は92.1%であった。また、4.3V充電品の発熱曲線における発熱開始温度は196℃であった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の製造方法によって得られるリチウム含有複合酸化物は、安全性が高く、サイクル特性に優れ、更には、充放電レート特性に優れた特性を有するリチウム二次電池用正極の材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni、Co及びMnからなる群から選ばれる少なくとも2種の元素と、Mg、Al、Ga、In、Zn、Ti及びZrからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であるM元素とを含有する混合元素水溶液と、Ni、Co及びMnを含有する化合物粉末とを混合して、得られた前駆体原料粉末とリチウム原料粉末とを混合して焼成し、一般式Li〔Li(NiCoMn1−x〕O2−y(但し、−0.02<x<0.05、0.42<a<0.62、0.05<b<0.25、0.15<c<0.35、0<d<0.1、0≦y≦0.02、a+b+c+d=1)で表されるリチウム含有複合酸化物を得ることを特徴とするリチウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記M元素において、Mgの価数が+2、Alの価数が+3、Gaの価数が+3、Inの価数が+3、Znの価数が+2、Tiの価数が+4及びZrの価数が+4であり、Liの価数が+1、Coの価数が+3、Mnの価数が+4、Oの価数が−2及びFの価数が−1であるときのNiの酸化数が2.0より大きく2.4未満である請求項1に記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
Li、Ni2+、Ni3+、Co3+、Mn4+、Mg2+、Al3+、Ga3+、In3+、Zn2+、Ti4+及びZr4+のイオン半径がそれぞれ、0.76Å、0.690Å、0.56Å、0.545Å、0.530Å、0.720Å、0.535Å、0.620Å、0.800Å、0.740Å、0.605Å及び0.72Åであるとき、〔Li(NiCoMn1−x〕のイオン半径の加重平均として0.586〜0.60Åを有する請求項1又は2に記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記混合元素水溶液のpHが2〜6である請求項1〜3のいずれかに記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記混合元素水溶液が、クエン酸、マレイン酸、乳酸及び酒石酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸を含む請求項1〜4のいずれかに記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記M元素がAl、Ga及びZrからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である請求項1〜5のいずれかに記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項7】
Ni、Co及びMnを含有する化合物粉末が、ニッケル−コバルト−マンガン共沈体粉末である請求項1〜6のいずれかに記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項8】
一般式Li〔Li(NiCoMn1−x〕O2−yにおいて、1.5<a/c<1.7である請求項1〜7のいずれかに記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法により製造されたリチウム含有複合酸化物。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法により得られたリチウム含有複合酸化物、バインダー、導電材及び溶媒を混合して、得られるスラリーを金属箔に塗布した後、加熱して、溶媒を除去することで得られるリチウム二次電池用正極の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の製造方法で得られる正極に、セパレータ、および負極を積層して、これを電池ケースに収納した後、電解液を注入することを特徴とするリチウム二次電池の製造方法。

【公開番号】特開2012−201539(P2012−201539A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66447(P2011−66447)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000108030)AGCセイミケミカル株式会社 (130)
【Fターム(参考)】