説明

リニアアクチュエータおよび中ぐり加工装置

【課題】 物体の押圧又は牽引を精密に行うことができるリニアアクチュエータおよび当該リニアアクチュエータを備える中ぐり加工装置を提供する。
【解決手段】 本体ケース2内に配置された直線状に延びるスライダ3と、スライダ3の軸方向に沿って当該スライダ3に固定された複数の磁石6と、磁石6が固定されたスライダ3の周囲を囲むように本体ケース2に支持された複数のコイル4と、を備え、通電時のコイル4と磁石6との相互作用により本体ケース2に対してスライダ3が軸方向に相対移動するリニアアクチュエータ1であって、スライダ3の軸方向の一端部および他端部をそれぞれ支持する複数の板バネ7を備え、各板バネ7は、スライダ3の軸方向の移動に対して弾性変形するリニアアクチュエータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体を押圧又は牽引するリニアアクチュエータ、および、リニアアクチュエータを備える中ぐり加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、リニアアクチュエータとして例えば図9に示す構成が知られている(特許文献1参照)。図9に示すように、このリニアアクチュエータ100は、本体ケース101内に配置された直線状に延びるスライダ102と、スライダ102に固定された複数の磁石103と、磁石103が固定されたスライダ102の周囲を囲むように本体ケース101に支持された複数のコイル104と、を備えている。また、このリニアアクチュエータ100は、スライダ102の軸方向の一端部および他端部をそれぞれ支持する一対の軸受105を備えている。そして、このような構成のリニアアクチュエータ100によれば、コイル104に通電することにより、通電時のコイル104と磁石103との相互作用により本体ケース101に対してスライダ102が軸方向に相対移動する。その結果、軸方向にスライドしたスライダ102により、スライダ102に接続された物体を押圧又は牽引することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−89382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のようなリニアアクチュエータ100では、スライダ102が軸受105によって支持されているものの、スライダ102が軸方向に移動するときに、移動中のスライダ102にガタツキやブレが生じることがあった。その結果、スライダ102により物体を押圧又は牽引するときに、その精度が損なわれることがあった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、物体の押圧又は牽引を精密に行うことができるリニアアクチュエータおよび当該リニアアクチュエータを備える中ぐり加工装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためのリニアアクチュエータであり、本体ケース内に配置された直線状に延びるスライダと、前記スライダの軸方向に沿って当該スライダに固定された少なくとも1つの磁石と、前記磁石が固定された前記スライダの周囲を囲むように前記本体ケースに支持された少なくとも1つのコイルと、を備え、通電時の前記コイルと前記磁石との相互作用により前記本体ケースに対して前記スライダが軸方向に相対移動するリニアアクチュエータであって、前記スライダの軸方向の一端部および他端部をそれぞれ支持する弾性体を備え、前記弾性体は、前記スライダの軸方向の移動に対して弾性変形するように構成されている。
【0007】
このような構成によれば、弾性体によってスライダが支持されており、スライダが軸方向にスライドするとそれに対して弾性体が弾性変形しながらスライダを支持するので、スライダが弾性支持されながら移動することにより、移動中のスライダを安定させることができる。これにより、スライダのガタツキやブレを抑制することができ、スライダに接続された物体を精密に押圧または牽引することができる。
【0008】
また、上記のリニアアクチュエータにおいて、前記弾性体は複数の板バネで構成されており、当該複数の板バネは、前記スライダの軸方向前端部を支持する少なくとも1つの前方板バネと、軸方向後端部を支持する少なくとも1つの後方板バネとを備え、前記少なくとも1つの前方板バネの剛性の合計は、前記少なくとも1つの後方板バネの剛性の合計よりも大きいことが好ましい。
【0009】
また、本発明は、上記課題を解決するための中ぐり加工装置であって、軸線方向に沿った中空部を有する回転可能な主軸と、前記主軸を前記軸線回りに回転駆動する主軸駆動手段と、前記主軸の一端部に接続され、前記主軸と共に回転可能、かつ、前記軸線に対して傾動可能な工具ホルダーと、前記工具ホルダーに保持された工具と、前記主軸の軸線方向に沿ってスライド可能なように前記中空部に挿入されたドローバーであって、前記工具ホルダに連結され、スライドすることにより前記工具ホルダを傾動させるドローバーと、前記ドローバーを前記軸線方向にスライドさせるドローバー駆動手段と、を備えることができる。そして、前記ドローバー駆動手段は、請求項1又は2に記載のリニアアクチュエータを備えており、前記ドローバーは、前記スライダに連結されているように構成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリニアアクチュエータによれば、物体の押圧又は牽引を精密に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係るリニアアクチュエータの横断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】リニアアクチュエータの内部を示す斜視図である。
【図4】リニアアクチュエータの作動を模式的に示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る中ぐり加工装置の縦断面図である。
【図6】中ぐり加工装置の要部を示す断面図である。
【図7】中ぐり加工装置の要部を示す断面図である。
【図8】図7を左方から見た図である。
【図9】従来のリニアアクチュエータの断面図である。
【図10】他の実施形態に係るリニアアクチュエータの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るリニアアクチュエータの横断面図であり、図2は、図1のA−A断面図である。また、図3は、このリニアアクチュエータの内部を示す斜視図である。なお、以下の説明では、図1及び図2の左方を「前」とし、右方を「後」として説明する。
【0013】
図1〜図3に示すように、このリニアアクチュエータ1は、水平に配置された本体ケース2と、本体ケース2の内部に配置された板状のスライダ3と、スライダ3の左右両面(図1の上下両面)に固定された複数の磁石6,6・・と、を備えている。また、リニアアクチュエータ1は、磁石6が固定されたスライダ3を囲むようにスライダ3の左右両側(図1の上側及び下側)にそれぞれ配置された一対のコイルケース5、5と、各コイルケース5の内部に配置された複数のコイル4,4・・とを備えている。また、リニアアクチュエータ1は、更に、スライダ3の前端部及び後端部をそれぞれ支持する複数の弾性体を備えており、本実施例では、この弾性体として板バネ7,7・・を用いている。
【0014】
本体ケース2は、上記のスライダ3、板バネ7、コイルケース5などを内部に収容可能であればその構成は特に限定されないが、本実施形態では、金属板を複数組み合わせて矩形状に形成されている。また、本体ケース2の前方壁には、開口部11が形成されている。
【0015】
また、本体ケース2の前方壁及び後方壁には、それぞれ、板バネ7を固定するための複数の前方固定部材10a及び後方固定部材10bが、本体ケース2の内部に突出するように設置されている。前方固定部材10a及び後方固定部材10bは、スライダ3の右方及び左方(図1の上方及び下方)において、本体ケース2に固定され、スライダ3の軸方向と平行に延びている。前方固定部材10a及び後方固定部材10bの固定方法は特に限定されないが、例えば、ボルトや溶接により本体ケース2に固定することができる。
【0016】
スライダ3は、金属の板状部材によって形成されており、前後方向(図の左右方向)に直線状に延びている。また、スライダ3は、本体ケース2内の中央部に配置され、本体ケース2内を前後方向に往復動できるように配置されている。また、スライダ3は、本体ケース2内において開口部11に向かうように延びており、スライダ3の前端部には、従動メンバを連結するための連結部材12が固定されている。連結部材12の固定方法は特に限定されないが、例えば、ボルトや溶接により固定することができる。
【0017】
連結部材12は、開口部11にわずかな隙間をあけて挿入されており、開口部11内を前後方向(図の左右方向)に往復動できるように配置されている。この連結部材12は、屈曲した金属部材から形成されており、その前端部にはベアリング15が固定されている。このベアリング15には、従動メンバとしての後述する中ぐり加工装置のドローバー16が回転可能に固定されており、連結部材12の往復動をドローバー16に伝達することができる。これにより、リニアアクチュエータ1のスライダ3の往復動を、連結部材12及びベアリング15を介して、中ぐり加工装置のドローバー16に伝達することができる。
【0018】
スライダ3の左右両面に固定された複数の磁石6は、スライダ3の軸方向(前後方向)に沿って並べて配置されて、右側の磁石6の列と左側の磁石6の列とでスライダ3を挟むように配置されている。また、各磁石6は、その着磁方向がスライダ3の軸方向と平行になるように配置されており、同極が全て同方向を向くように配置されている。本実施形態では各磁石6のS極が前方を向き、N極が後方を向くように配置されている。
【0019】
スライダ3の周囲の各コイルケース5は、プラスチック製の中空の箱型に形成されており、内部にコイル4を収容している。また、コイルケース5は、コイルケース5と本体ケース2との間に配置されたウォータージャケット8を介して本体ケース2に固定されており、これにより、コイルケース5が本体ケース2に支持されている。また、コイルケース5は、磁石6と隙間をあけた状態で磁石6と対向するように配置されており、一対のコイルケース5の間で、磁石6が固定されたスライダ3が前後にスライドできるように構成されている。
【0020】
コイルケース5内の各コイル4は、導線をらせん状に巻いた構成であり、通電ライン14を介して図示しない電源に接続されており、通電により磁場を発生させることができる。このコイル4への通電は、図示しない制御装置により制御可能である。複数のコイル4は間隔をあけて並べて配置されており、その軸方向が磁石6の着磁方向(スライダ3の軸方向)と直交するように配置されている。本実施形態ではコイル4の軸方向が左右方向を向くように配置されている。また、複数のコイル4は、磁石6が固定されたスライダ3を取り囲むように磁石6の右方および左方に配置されており、通電時にコイル4により発生する磁力と磁石6の磁力との相互作用により磁石6がその軸方向(着磁方向)に移動し、それに伴ってスライダ3が軸方向に移動するように構成されている。このように、コイル4と磁石6が磁力の相互作用によって相対移動することにより、スライダ3が本体ケース6に対して相対移動するように構成されている。このとき、コイル4の巻線方向は、スライダ3が軸方向に移動するように適宜変更可能であり、本実施形態では、隣接するコイル4同士の巻線方向が互いに逆方向になるように配置されている。
【0021】
ウォータージャケット8は、本体ケース2及びコイルケース5に固定されており、両者を結合している。ウォータージャケット8の固定方法は特に限定されないが、例えば、ボルトや溶接により固定することや、固定板を介して固定することができる。このウォータージャケット8の内部には冷却用の液体が流通しており、この液体の冷却作用によりウォータージャケット8に固定されたコイルケース5内のコイル4を冷却することができる。
【0022】
スライダ3を支持する板バネ7は、ばね鋼鋼材などの金属の薄い平板から形成されており、弾性変形可能であり、その剛性は適宜設計変更可能である。また、複数の板バネ7はそれぞれ、スライダ3が中立位置にある状態(スライダ3が前後方向にスライドしていない状態)で、スライダ3に直交するように配置されている。また、複数の板バネ7は、前方固定部材10aに固定された前方板バネ7aと、後方固定部材10bに固定された後方板バネ7bとに分けられる。本実施形態では、複数の板バネ7は、4個の前方板バネ7aと、1個の後方板バネ7bとを備えている。
【0023】
前方板バネ7aは、スライダ3の右方及び左方にそれぞれ2個ずつ配置されている。各前方板バネ7aは、前方固定部材10a及び連結部材12にボルト及びナットにより固定されており、前方固定部材10a及び連結部材12を介して本体ケース2及びスライダ3の前端部にそれぞれ連結されている。これにより、前方板バネ7aは、本体ケース2に固定されると共に、スライダ3の前端部を支持している。なお、前方板バネ7aの固定方法は特に限定されるものではなく、溶接などによって固定してもよい。
【0024】
後方板バネ7bは、左右両端部において後方固定部材10bに固定されており、中央部においてスライダ3の後端部に固定されている。本実施形態では、後方板バネ7bは、ボルト及びナットにより後方固定部材10b及びスライダ3に固定されているが、固定方法は特に限定されるものではなく、溶接などによって固定してもよい。これにより、後方板バネ7bは、本体ケース2に固定されると共に、スライダ3の後端部を支持している。
【0025】
また、前方板バネ7a及び後方板バネ7bのバネ剛性は特に限定されるものではないが、前方板バネ7aの剛性が後方板バネ7bの剛性より大きいことが好ましい。また、前方板バネ7aの剛性の合計が後方板バネ7bの剛性の合計より大きいことが好ましい。本実施形態では、4個の前方板バネ7aの剛性の合計が1個の後方板バネ7bの剛性の合計より大きい。
【0026】
また、本体ケース2の内部にはリニアエンコーダ17がスライダ3に隣接するように配置されており、このリニアエンコーダ17によりスライダ3の軸方向への移動量を検出できる。そして、リニアエンコーダ17による検出に基づいて、図示しない制御装置によりコイル4の通電量を制御することができる。
【0027】
次に、以上のような構成を備えるリニアアクチュエータ1の作動について説明する。図4は、リニアアクチュエータの作動を模式的に示す図である。
【0028】
まず、図示しない電源から複数のコイル4に通電すると、これらコイル4に磁場が発生する。コイル4に磁場が発生すると、この磁力と磁石6の磁力との相互作用により、磁石6に前方(図面左方)へ移動する力が作用する。これにより、図4(a)、(b)に示すように、磁石6が固定されたスライダ3が軸方向前方(図面左方)へ移動する。そして、スライダ3の移動により、スライダ3の前方の連結部材12を介して連結されたドローバー16を軸方向へ押圧することができる。また、ドローバー16を牽引する場合は、コイル4への通電方向を逆方向にすることにより、スライダ3を軸方向後方(図面右方)へ移動させることができる。
【0029】
スライダ3が軸方向前方または後方へ移動すると、それに伴い、スライダ3に連結された前方板バネ7a及び後方板バネ7bに対して、スライダ3の軸方向への力が作用する。これにより前方板バネ7a及び後方板バネ7bが弾性変形する。このように、スライダ3が移動した状態でも前方板バネ7a及び後方板バネ7bが弾性変形してスライダ3を支持する。
【0030】
上記のようなリニアアクチュエータによれば、板バネ7によってスライダ3が支持されており、スライダ3が軸方向にスライドするとそれに対して板バネ7が弾性変形しながらスライダ3を支持するので、移動中のスライダ3を安定させることができる。これにより、スライダ3のガタツキやブレを抑制することができ、スライダ3に接続されたドローバー16を精密に押圧または牽引することができる。
【0031】
また、スライダ3の移動量はリニアエンコーダ17により検出されており、この検出に基づいて図示しない制御装置がコイル4への通電を制御することにより、スライダ3の移動量を制御することができる。また、ウォータージャケット8によりコイル4を冷却し、コイル4の過熱を防ぐことができる。
【0032】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の具体的な態様は上記実施形態に限定されるものではない。
【0033】
例えば、上記実施形態では、コイル4がコイルケース5内に配置されている構成であったが、コイル4の支持方法は特に限定されるものではなく、本体ケース2に固定された別途の支持部材にコイル4が固定されている構成でもよい。このような構成によっても、コイル4を支持することができ、コイル4と磁石6との相互作用によりスライダ3をスライドさせることができる。
【0034】
また、上記実施形態では、前方板バネ7aは連結部材12に固定されることにより間接的にスライダ3を支持していたが、スライダ3を支持可能であればその構成は特に限定されるものではなく、スライダ3に直接固定されていてもよい。また、上記実施形態では、板バネ7(前方板バネ7a及び後方板バネ7b)は前方固定部材10a及び後方固定部材10bを介して本体ケース2に固定されていたが、前方固定部材10a及び後方固定部材10bを省略して板バネ7を直接本体ケース2に固定してもよい。
【0035】
また、上記実施形態では、スライダ3は板状の構成であったが、この構成に限定されず、円柱状などの種々の形状を採用することができる。
【0036】
また、コイル4と磁石6との配置関係は上記実施形態に限定されるものではなく、磁石6が固定されたスライダ3をコイル4が囲んでおり、コイル4と磁石6との相互作用によりスライダ3が軸方向に移動できる構成であれば配置は適宜変更可能である。例えば、上記実施形態では、磁石6はスライダ3の左右面のみに配置されていたが、スライダ3の上下面に配置することもできる。また、それに応じてコイル4をスライダ3の上下面の磁石6に対向するように配置することができる。その他、コイル4と磁石6との配置関係としては、公知のリニアアクチュエータにおいて採用されている配置関係を適宜用いることができる。
【0037】
また、上記実施形態では、スライダ3によりドローバー16を押圧または牽引しているが、押圧または牽引する対象の物体はこれに限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0038】
また、上記のようなリニアアクチュエータは、中ぐり加工装置に適用することができる。以下、本発明の一実施形態に係る中ぐり加工装置について添付図面を参照して説明する。図5は、本発明の一実施形態に係る中ぐり加工装置の縦断面図であり、図6及び図7は、この中ぐり加工装置の要部を示す断面図である。また、図8は、図7を左方から見た図である。なお、以下の説明では、図の左方を「前」とし、右方を「後」として説明する。また、図5において、図2と同様の構成部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0039】
本実施形態に係る中ぐり加工装置21は、被加工物wを中ぐり加工する装置であって、図5及び図6に示すように、軸線X方向(図1の左右方向)に延びる回転可能な主軸22と、この主軸22を軸線X回りに回転駆動する主軸駆動手段23とを備えている。また、中ぐり加工装置21は、主軸22の一端部(前端部)に傾動ユニット26を介して連結された工具ホルダー24と、工具ホルダー24に保持された工具25とを備えている。また、中ぐり加工装置21は、軸線X方向に沿ってスライド可能なドローバー16と、このドローバー16を軸線X方向にスライドさせるドローバー駆動手段28とを備えている。
【0040】
被加工物wは例えばエンジンのピストン等であり、中ぐり加工装置21により被加工物wに中ぐり穴を形成することができる。この被加工物wは、図示しない被加工物保持手段により保持されている。
【0041】
主軸22は、軸線X方向(図1の左右方向)に延びる金属部材から構成されており、内部を直線状にくり貫くことにより形成された中空部29を有している。この中空部29は、軸線X方向に沿って主軸22の一端部(前端部)から他端部(後端部)まで延びており、主軸22を貫通している。これにより主軸22は、ほぼ円筒状に形成されている。
【0042】
主軸駆動手段23は、主軸22を軸線X回りに回転駆動できる構成であれば特に限定されるものではないが、本実施形態では、ケーシング内の軸を回転させることができるビルトイン形式の公知のモーターを用いている。また、主軸駆動手段23は前後方向(図1の左右方向)に移動可能なテーブル31上に設置されており、テーブル31を軸線X方向に沿って前後に移動させることにより、主軸駆動手段23および主軸22を軸線X方向に沿って前後に移動させることができるように構成されている。テーブル31の構成は特に限定されるものではないが、本実施形態では、基台32上の図示しないレールの上に配置することにより、レールに沿って前後に移動させることができる。また、テーブル31の移動量は、アクチュエータ33の作動により適宜調整可能である。
【0043】
工具ホルダー24は、平板状のホルダー連結部40と、ホルダー連結部40から軸線X方向に延びる軸部41とを備えている。ホルダー連結部40は、主軸22の前方において、ボルトにより傾動ユニット26に固定されている。また、軸部41は、ホルダー連結部40の中央部分から軸線Xに沿って前方に向かって棒状に延びており、その先端部には工具25が固定されている。このような工具ホルダー24は、傾動ユニット26によって主軸22に固定されており、主軸22の回転と共に回転する。
【0044】
工具25は、工具ホルダー24の回転により被加工物wを中ぐり加工できるものであれば特に限定されないが、例えば、先鋭な金属からなる強固な刃物を用いることができる。この工具25は、工具ホルダー24の軸部41の前端部に着脱可能に取り付けられており、軸線Xに対して傾斜した状態で軸部41から突出するように設置されている。
【0045】
ドローバー16は、軸線X方向に延びる棒状部材から構成されており、軸線Xに沿って往復動可能、かつ、軸線X回りに回転可能なように主軸22の中空部29に挿入されている。また、ドローバー16は、先端部に押圧部70を備えており、押圧部70の前端面が主軸22の前端に一致するように配置されている。この押圧部70は、焼入鋼から形成されており、ドローバー16が前方に移動することにより、先端の押圧部70が主軸22の前端(中空部29の前端)から主軸22の前方へ突出し、傾動ユニット26を押圧するように構成されている。また、ドローバー16の後端部は、主軸22の後端(中空部29の後端)から主軸22の後方へ突出しており、ドローバー駆動手段28に接続されている。
【0046】
ドローバー駆動手段28としては、上述したリニアアクチュエータ1を用いており、ドローバー16の後端部がリニアアクチュエータ1のベアリング15に回転可能に固定されている。これにより、スライダ5の往復動を、ベアリング15を介してドローバー16に伝達することができる。
【0047】
次に、傾動ユニットについて添付図面を参照して詳細に説明する。図6〜図8に示すように、傾動ユニット26は、工具ホルダー24に固定された基部60と、主軸22の前端部に固定された固定部61と、基部60の一端部と固定部61とを連結する連結部62とを備えている。また、傾動ユニット26は、基部60の他端部に固定されたバランス部材63を備えている。
【0048】
基部60は、工具ホルダー24のホルダー連結部40の後端面に当接しており、このホルダー連結部40にボルトによって固定されている。また、基部60は、その後端部にドローバー16の押圧部70が当接する球面部を含む当接部66を備えており、ドローバー16により前方へ押圧されるように構成されている。基部60と主軸22の前端部との間には隙間tが設けられており、隙間tにはOリングなどの弾性材が配置されている。
【0049】
固定部61は、軸線Xから離間した位置において、主軸22の前端から前方へ突出するように主軸22に固定されている。本実施形態では、固定部61は、主軸22が回転していない状態で、軸線Xから上方へ離間した位置に配置され、主軸22の上端部にボルトにより固定されている。また、連結部62は、板状に形成され、基部60の上端部と固定部61の前端部とを連結している。
【0050】
固定部61および連結部62は、金属から形成されており、弾性変形可能となっている。これにより、基部60がドローバー16によって前方へ押圧されると、固定部61および連結部62が弾性変形により屈曲する。これにより、図7に点線Yで示すように、基部60が連結部62付近を回動中心として傾動し、これに伴って工具ホルダー24も傾動する。その結果、工具25が軸線Xから偏心し加工位置を変化させることができる。
【0051】
また、バランス部材63は、固定部61とは相反する方向において、軸線Xから離間した位置で基部60に固定されている。本実施形態では、バランス部材63は、主軸22が回転していない状態で、軸線Xから下方へ離間した位置に配置され、基部60の下端部にボルトにより固定されている。このバランス部材63は、基部60に対する重りとなる構成であれば特に限定されないが、本実施形態では金属により形成されている。このバランス部材63の重量は適宜変更可能である。
【0052】
続いて、以上のような構成を備える中ぐり加工装置21により被加工物wを中ぐり加工する方法について説明する。
【0053】
被加工物wを中ぐり加工するときは、まず、被加工物wと中ぐり加工装置21との位置を調節し、被加工物wに工具25を接触させた状態で、主軸駆動手段23を作動させることにより主軸22を回転させ、主軸22に連結された工具ホルダー24を回転させる。これにより、工具ホルダー24に固定された工具25を回転させ、工具25の回転により被加工物wを中ぐり加工する。その結果、所定の口径の中ぐり穴が被加工物wに形成される。
【0054】
次に、被加工物wの中ぐり穴の口径を補正したいときは、ドローバー駆動手段28(リニアアクチュエータ1)を作動させることにより、ドローバー16を軸線X方向に沿って前方へスライドさせ、このドローバー16により工具ホルダー24の基部60を前方へ押圧する。基部60が押圧されると、工具ホルダー24の固定部61および連結部62が弾性変形し、この弾性変形に伴って基部60が連結部62近傍を回動中心として傾動する。その結果、基部60に固定された工具ホルダー24が傾動し、工具ホルダー24の先端に固定された工具25が軸線Xから矢示Y方向に偏心する。このようにして工具25の加工位置が補正される。この状態で、上述と同様に主軸駆動手段23を作動させることにより主軸22を回転させ、主軸22に連結された工具ホルダー24を回転させと、工具25が回転し、工具25の回転により被加工物wが中ぐり加工される。その結果、工具25の位置が補正された状態で被加工物wが中ぐり加工されるので、中ぐり穴の口径が補正され、所望の口径の中ぐり穴を有する被加工物wが得られる。また、工具25が一回転する過程で、工具25の傾動角度を調整すると非円径の穴を加工できる。また、テーブル31を軸線X方向へ前進又は後進させると共に、工具25の傾動角度を調整すると末広がり(又は、末狭まり)の穴を形成できる。
【0055】
中ぐり加工終了後、ドローバー駆動手段28(リニアアクチュエータ1)を逆方向に作動させ、ドローバー16を後方へ牽引する。これにより基部60の押圧が解除され、その結果、工具25が元の位置に戻る。
【0056】
以上、本発明の一実施形態に係る中ぐり加工装置について説明したが、本発明の具体的な態様は上記実施形態に限定されるものではない。
【0057】
例えば、上記実施形態では、ドローバー16のスライドにより、基部60及び基部60に固定された工具ホルダー24を押圧する構成であったが、この構成に限定されるものではなく、工具ホルダー24を牽引する構成であってもよい。この場合は、ドローバー16の前端部と基部60とが図示しない連結部材により連結されており、スライダ3の移動によりドローバー16が後方にスライドすると、そのスライドにより基部60及び基部60に固定された工具ホルダー24を牽引することができる。
【0058】
また、上記実施形態では、主軸駆動手段23は、ビルトイン形式の公知のモーターを用いていたが、外部のモーターからギアやベルトを介して主軸22に回転動力を伝達する構成であってもよい。このような構成によっても、主軸22を軸線X回りに回転させることができ、被加工物wを中ぐり加工することができる。
【0059】
また、上記実施形態では、固定部61および連結部62の両者が弾性変形する構成であったが、これに限定されず、固定部61または連結部62のいずれか一方が弾性変形する構成であってもよい。このような構成によっても、基部60を回動させることができる。
【0060】
また、上記実施形態において、中ぐり加工装置21と被加工物wとの軸方向(前後方向)の相対位置を調節するときは、テーブル31を移動させて調節することもできるが、被加工物wを保持する被加工物保持手段を移動させて調節することもできる。
【0061】
また、上記実施形態では、リニアアクチュエータ1における前方板バネ7a及び後方板バネ7bがそれぞれ前方固定部材10a及び後方固定部材10bに固定されている構成であったが、この構成に限定されるものではない。図10は、他の実施形態に係るリニアアクチュエータの横断面図である。この図10においては、リニアアクチュエータの一部を省略して示している。また、図10において、図1と同様の構成部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。この図10に示すように、他の実施形態に係るリニアアクチュエータでは、前方板バネ7a及び後方板バネ7bがそれぞれ、前方皿バネ13a及び後方皿バネ13bを介して、前方固定部材10a及び後方固定部材10bに固定されている。前方皿バネ13a及び後方皿バネ13bは、円盤状の弾性体からなる公知のダイヤフラムスプリングである。このような構成によっても、弾性体(板バネ7及び皿バネ13)によってスライダ3を支持することができる。また、スライダ3を弾性体で支持できればこの構成に限定されず、上記の皿バネ13に代えてコイルスプリングを用いることもできる。
【符号の説明】
【0062】
1 リニアアクチュエータ
2 本体ケース
3 スライダ
4 コイル
5 コイルケース
6 磁石
7 板バネ
7a 前方板バネ
7b 後方板バネ
8 ウォータージャケット
10a 前方固定部材
10b 後方固定部材
11 開口部
21 中ぐり加工装置
22 主軸
23 主軸駆動手段
24 工具ホルダー
25 工具
26 傾動ユニット
28 ドローバー駆動手段
29 中空部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体ケース内に配置された直線状に延びるスライダと、
前記スライダの軸方向に沿って当該スライダに固定された少なくとも1つの磁石と、
前記磁石が固定された前記スライダの周囲を囲むように前記本体ケースに支持された少なくとも1つのコイルと、を備え、
通電時の前記コイルと前記磁石との相互作用により前記本体ケースに対して前記スライダが軸方向に相対移動するリニアアクチュエータであって、
前記スライダの軸方向の一端部および他端部をそれぞれ支持する弾性体を備え、
前記弾性体は、前記スライダの軸方向の移動に対して弾性変形するリニアアクチュエータ。
【請求項2】
前記弾性体は複数の板バネで構成されており、当該複数の板バネは、前記スライダの軸方向前端部を支持する少なくとも1つの前方板バネと、軸方向後端部を支持する少なくとも1つの後方板バネとを備え、
前記少なくとも1つの前方板バネの剛性の合計は、前記少なくとも1つの後方板バネの剛性の合計よりも大きい請求項1に記載のリニアアクチュエータ。
【請求項3】
軸線方向に沿った中空部を有する回転可能な主軸と、
前記主軸を前記軸線回りに回転駆動する主軸駆動手段と、
前記主軸の一端部に接続され、前記主軸と共に回転可能、かつ、前記軸線に対して傾動可能な工具ホルダーと、
前記工具ホルダーに保持された工具と、
前記主軸の軸線方向に沿ってスライド可能なように前記中空部に挿入されたドローバーであって、前記工具ホルダに連結され、スライドすることにより前記工具ホルダを傾動させるドローバーと、
前記ドローバーを前記軸線方向にスライドさせるドローバー駆動手段と、を備え、
前記ドローバー駆動手段は、請求項1又は2に記載のリニアアクチュエータを備えており、
前記ドローバーは、前記スライダに連結されている、中ぐり加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−22666(P2013−22666A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158233(P2011−158233)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000125853)株式会社 神崎高級工機製作所 (210)
【Fターム(参考)】