リニアアクチュエータ
【課題】インナスペーサが不要な構造のリニアアクチュエータを提供する。
【解決手段】スラスト方向の前面及び後面が平面状であるインナコア20を有する固定子2と、当該固定子2の周囲に配置され、アウタコア30を有する可動子3と、前記インナコア20及びアウタコア30のスラスト方向前側及び後側に配置され、固定子2及び可動子3を同一の軸心となるよう支持し且つ固定子2に対して可動子3をスラスト方向に往復動可能に弾性支持する平板状の板バネ41とを備えるリニアアクチュエータにおいて、前記板バネ41は、前記インナコア20に固定される固定部412aと、当該固定部412aから周囲方向に延び、前記可動子3の往復動に伴って、スラスト方向に弾性変形して撓むアーム部412eとを有し、前記インナコア20には、スラスト方向の前面及び後面に、前記アーム部412eの撓みを許容する空間を有する退避部205が設けられている。
【解決手段】スラスト方向の前面及び後面が平面状であるインナコア20を有する固定子2と、当該固定子2の周囲に配置され、アウタコア30を有する可動子3と、前記インナコア20及びアウタコア30のスラスト方向前側及び後側に配置され、固定子2及び可動子3を同一の軸心となるよう支持し且つ固定子2に対して可動子3をスラスト方向に往復動可能に弾性支持する平板状の板バネ41とを備えるリニアアクチュエータにおいて、前記板バネ41は、前記インナコア20に固定される固定部412aと、当該固定部412aから周囲方向に延び、前記可動子3の往復動に伴って、スラスト方向に弾性変形して撓むアーム部412eとを有し、前記インナコア20には、スラスト方向の前面及び後面に、前記アーム部412eの撓みを許容する空間を有する退避部205が設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子及び可動子を同一の軸心となるよう支持し且つ固定子に対して可動子をスラスト方向に往復動可能に弾性支持する板バネを備えたリニアアクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示すリニアアクチュエータが提案されている。このリニアアクチュエータは、例えば自動車制振装置に用いられるものであって、図11に示すように、固定子510の構成部品であるインナコア511(ボビン512に内挿)が外周にコイル513を備え、当該インナコア511の各端部に永久磁石514,514が配設される。また、可動子520の構成部品であるアウタコア521は、その一部を内側に膨出させた部分(磁極部522,522)を有する。そして、この磁極部522と前記の永久磁石514とは、ラジアル方向にて所定の隙間を有して対向配置される。
【0003】
さらに、このリニアアクチュエータ500は、固定子510の構成部品であり、インナコア511を挿通するシャフト515をアウタコア521と同軸同心に支持し且つシャフト515に対してアウタコア521をスラスト方向に往復動させるよう弾性支持する一対の板バネ530,530を備えている。
【0004】
この板バネ530は、アウタコア521に重ねられて固定される枠部531と、枠部の内側に設けられた可撓部532とから一体的に形成されている。可撓部532は、シャフト515の軸方向から見ると、「8」の字形状に形成される。そして、「8」の字の中央の線が交差する部分に形成された環状の中心部533には挿通孔534が形成されており、ここにシャフト515が挿通される。
【0005】
インナコア511と板バネ530との間にはインナスペーサ540が設けられている。このインナスペーサ540は図示のようにリング状のもので、インナコア511と板バネ530の中心部533とに挟持される。このインナスペーサ540により、インナコア511と板バネ530との間は離されており、板バネ530の「8」の字の中央周りに空間が存在する。一方、リニアアクチュエータ500の駆動時には、可動子520(アウタコア521)の前記スラスト方向の往復動に伴い、板バネ530は、シャフト515が挿通された挿通孔534を中心として可撓部532がスラスト方向に撓むことになる。しかしながら、前記のようにインナコア511と板バネ530との間に空間が存在しているため、前記のように撓んだ板バネ530とインナコア511とが干渉することはなく、可動子520の往復動に係るストロークが確保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−233299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、リニアアクチュエータも他の工業製品と同様、製造コストの低減が常に要請されている。特に、自動車制振装置に用いられるリニアアクチュエータにあっては、自動車を軽量化する目的で小型化が要請されている。これらの要請に応じ、本願の発明者もリニアアクチュエータの改良につき、日々研究を行っている。
【0008】
そこで、本願の発明者は、構成部品数を減少させて製造コストの低減をはかるため、前記インナスペーサ540を省略することを試みた。しかし、インナスペーサ540を省略すると、インナコア511と板バネ530(特に可撓部532)とが密着してしまい、可撓部532のスラスト方向への撓みが規制される。そのため、可動子520(アウタコア521)の往復動に係るストロークが小さくなり、制振性能が低下する等、機能が損なわれるという問題がある。
【0009】
そこで本発明は、機能を確保しながらもインナスペーサを不要とすることで、製造コストを低減し、小型化が可能なリニアアクチュエータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のリニアアクチュエータは、スラスト方向の前面及び後面が平面状であり、スラスト方向に一体とされたインナコアを有する固定子と、当該固定子の周囲に配置され、アウタコアを有する可動子と、前記インナコア及びアウタコアのスラスト方向前側及び後側に配置され、固定子及び可動子を同一の軸心となるよう支持し且つ固定子に対して可動子をスラスト方向に往復動可能に弾性支持する平板状の板バネとを備えるリニアアクチュエータにおいて、前記板バネは、前記インナコアに固定される固定部と、当該固定部から周囲方向に延び、前記可動子の往復動に伴って、スラスト方向に弾性変形して撓むアーム部とを有し、前記インナコアは、スラスト方向の前面及び後面に、前記アーム部の撓みを許容する空間を有する退避部が設けられたことを特徴としている。
【0011】
前記構成によると、インナコアに退避部が設けられたことから、インナスペーサを設けることなく、リニアアクチュエータの駆動時に板バネとインナコアとが干渉しないようにできる。よって、構成部品点数を削減でき、リニアアクチュエータのスラスト方向(前後方向)寸法を小さくできる。
【0012】
そして、前記インナコアは、磁性材料からなる板がスラスト方向に複数積層されて構成され、前記磁性材料からなる板のうち、前記退避部が設けられる、インナコアの前側及び後側に配置される板と、同中央側に配置される板とは異なる形状であることが好ましい。
【0013】
前記好ましい構成によると、異なる形状の板を積層してインナコアを構成することで、退避部を有するインナコアを容易に製造できる。
【0014】
また、前記インナコアには、幅方向に張り出した膨出部が形成され、当該膨出部は、前記退避部と、当該退避部の上下に形成された補強部とを有し、前記インナコアの外部には、磁界を生じさせるコイルを巻回するボビンが設けられ、前記ボビンは、前記膨出部が露出し、前記アーム部の撓みを許容する開口部を有し、前記退避部は、前記インナコアの平面状である前面及び後面に対してスラスト方向に凹んで形成され、前記補強部は、前記インナコアの平面状である前面及び後面と同一面を有し、前記ボビンに当接することで、コイルを巻回する際の当該ボビンの変形を抑制することが好ましい。
【0015】
前記好ましい構成によると、インナコアに補強部を設けることにより、膨出部に板バネの往復動を許容する空間を有する退避部が形成されていても、ボビンの変形を抑制するためのインナコアの強度が低下することを抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、構成部品点数を削減でき、リニアアクチュエータのスラスト方向(前後方向)寸法を小さくできることから、機能を確保しながらもインナスペーサを不要とすることで、製造コストを低減し、小型化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るリニアアクチュエータの一実施形態の全体を示す、前面視における斜視図である。
【図2】同実施形態の全体を示す、前面視における、シャフト軸心を通る縦断面斜視図である。
【図3】同実施形態において、前面側の一部構成部品を除去した状態の斜視図である。
【図4】同実施形態のインナコアの斜視図である。
【図5】同実施形態において、インナコアの形状を説明するための前面視における図である。
【図6】同実施形態のインナコアを構成する一枚の板を示し、(A)はインナコアの中央部分を構成する板の斜視図、(B)はインナコアの前後部分を構成する板の斜視図である。
【図7】同実施形態の板バネの斜視図である。
【図8】同実施形態において、インナコアと板バネとの位置関係を示す、前面視における図である。
【図9】同実施形態を構成するアウタコアとインナコアの材料取りの要領を示す平面視の概略図である。
【図10】同実施形態を構成するアウタコアとインナコアの材料取りの要領を示す縦断面視の概略図である。
【図11】従来のリニアアクチュエータの一例を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るリニアアクチュエータの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。尚、便宜上、図1に示した状態の左側を前側、右側を後側として説明する。また、上下方向については、図1に示した方向を基準として説明する。そして、左右方向については、図1に示した状態の前面視における左右方向を基準として説明する。
【0019】
図1〜図3に示すように、本実施形態のリニアアクチュエータ1は、固定子2と、可動子3と、板バネ41,41とを備える。固定子2は、可動子3の内側に配置される。また、可動子3は、固定子2に対して前後方向(スラスト方向)に往復動可能に支持される。
【0020】
固定子2は、インナコア20が内挿されたボビン21と、永久磁石22と、シャフト23とを備える。インナコア20は、磁性材料の一例であるケイ素鋼板を複数、スラスト方向(前後方向)で、かしめ等によって各板を密着するよう積層した、スラスト方向に一体で一定厚さを有する積層体とされる。積層枚数は、リニアアクチュエータ1の性能に応じて定められる。ボビン21は、インナコア20を覆うように、前後に分割されたボビンユニット210,210が組み合わされる。なお、図3に示すように、ボビン21の上下方向中央における前面及び後面(図示せず)には開口部212が形成されており、ボビン21に内挿されたインナコア20の板バネ固定部202(後述)及び膨出部204(同)における前後部がボビン21から露出している。また、ボビン21は、その上端部及び下端部に磁界を生じさせるコイル211が巻回されたコイル巻回部を有する。さらに、ボビン21の上下側端面は、径外方向に凸となる円弧状に形成される。永久磁石22は、第一の永久磁石22aと第二の永久磁石22bとからなり、インナコア20の上下両端面に固着される。また、永久磁石22の外面及び内面は、径外方向に凸となる円弧状に形成される。
【0021】
シャフト23は、図2に示すように、その軸方向(スラスト方向)の前方寄り部分における径寸法が拡大された拡大部231が形成されると共に、拡大部231よりも後部にこの拡大部231よりも小径の挿通部232が形成され、拡大部231よりも前部に外部との締結のための雄ねじ部233が形成される。そして、シャフト23は、挿通部232側からボビン21の中央部に形成された貫通孔(図示せず)に挿入され、インナコア20に設けられた貫通孔201(図4参照)を貫通する。挿通部232とボビン21の後面との間には、拡大部231と外径の等しい、筒状の後部スリーブ234が挿通される。
【0022】
次に、インナコア20は、図4に示すように、スラスト方向(前後方向)から見て、上下左右及び前後で対称の形状とされている。インナコア20の前面及び後面は、ラジアル方向に沿う平面に形成されている。そして、インナコア20の側面は、スラスト方向に沿う平面に形成されている。インナコア20の上端面及び下端面は、それぞれ上方および下方に向けて凸となる湾曲面(例えば円弧面)に形成されている。この上端面及び下端面に永久磁石22(22a,22b)が固着される。
【0023】
図示のように、インナコア20は、貫通孔201、板バネ固定部202、コイル巻回部203(203a,203b)、膨出部204を備える。そして、膨出部204は、退避部205、補強部206を有している。板バネ固定部202、コイル巻回部203(203a,203b)、補強部206の各々における前面及び後面は、同一の平面を構成している。
【0024】
貫通孔201はインナコア20を前後方向に貫通する孔であって、ここにシャフト23の挿通部232が挿通される。板バネ固定部202は、インナコア20の前後面における、貫通孔201の周囲に設けられた環状の部分であって、ボビン21の開口部212から前後方向に露出している。この板バネ固定部202に、板バネ41の固定部412a(後述)が密着する。なお、この密着状態は、リニアアクチュエータ1の駆動時も維持される。
【0025】
コイル巻回部203(203a,203b)は、インナコア20の軸心周囲部分(貫通孔201の周囲部分)のうち、上下位置に設けられており、このコイル巻回部203の外周に、ボビン21を介してコイル211が巻回される。
【0026】
膨出部204は、インナコア20の軸心周囲部分のうち、左右位置、つまり、前記コイル巻回部203と直交する位置に幅方向(左右方向)に張り出して設けられている。この膨出部204は、前記コイル巻回部203よりも幅寸法が大きく形成されている。そして、膨出部204の前面及び後面に、左右端から左右方向中心側へ向かうように切り欠かれた形状である退避部205が形成されている。つまり、退避部205は、インナコア20の平面状である前面及び後面に対してスラスト方向に凹んで形成された凹部である。そして、前記膨出部204の前後面(退避部205を含む)は、ボビン21の開口部212から前後方向に露出している。つまり、ボビン21の開口部212は、インナコア20の退避部205と共に、板バネ41のアーム部412e(後述)の撓みを許容する。
【0027】
退避部205は、リニアアクチュエータ1の駆動時に、スラスト方向に撓む板バネ41の可撓部412のうち、スラスト方向から見て膨出部204に重なり合う部分であるアーム部412e(後述)の撓みを許容する空間を有するように、このアーム部412eが膨出部204の前後面と干渉しないような寸法に形成されている(図8参照)。本実施形態の退避部205は、スラスト方向において一定厚さであるインナコア20の膨出部204が軸心の左右位置で1箇所ずつ切り欠かれたように形成されている。また、本実施形態の退避部205は、膨出部204の前面と後面とが別個に切り欠かれたように形成されているが、膨出部204の前面から後面まで貫通するように形成されていても良い。
【0028】
図5に示すように、退避部205の左右方向における内側縁部205aは板バネ固定部202により規定され、上側縁部205bは板バネ41の可撓部412(後述)のうち、軸心より上側部分の更に上方の位置にて規定され、下側縁部205cは板バネ41の可撓部412のうち、軸心より下側部分の更に下方の位置にて規定されている。内側縁部205aの上下端部、上側縁部205b及び下側縁部205cの左右方向中心側の端部は、コイル巻回部203の幅寸法ライン203Zよりも左右方向中心側に位置している。また、退避部205のスラスト方向の底面は、インナコア20における中央部分20X(後述)の前面及び後面にて規定されている(図4参照)。
【0029】
そして、膨出部204のうち退避部205を挟んだ上下部分(つまり、膨出部204の前後面のうち、板バネ固定部202と退避部205とが設けられていない部分)が補強部206とされている。言い換えれば、この補強部206は、膨出部204におけるコイル巻回部203寄りの側部を残し、この膨出部204の前後面を左右端から左右方向中心側へと切り欠くように形成されたものである(切り欠いた部分が即ち退避部205である)。その結果、この補強部206は、インナコア20の平面状である前面及び後面と同一面を有し、板バネ固定部202と一体に形成される。そして、この補強部206が存在することにより、インナコア20の強度が低下することを抑制できる。そして、この補強部206は、ボビン21に当接することで、コイル211を巻回する際のボビン21の変形を抑制することができる。
【0030】
インナコア20は、磁性材料からなる板(本実施形態では板厚0.5mmのケイ素鋼板)を複数、前後方向に積層した積層体とされていることは既に述べた通りである。前記磁性材料からなる板は、退避部205が設けられる、インナコア20の中央側に配置される板20Xaと、同前側及び後側に配置される板20Yaとは異なる形状とされている。
【0031】
個々の板の形状を図6(A)(B)に示す。図6(A)に示す第一形状板20Xaは、軸心に貫通孔201Xが形成され、軸心周囲に幅広の膨出部204Xが形成され、この膨出部204Xの上下に幅狭のコイル巻回部203Xが形成されている。この第一形状板20Xaを厚み方向に積層することにより、図4に示すインナコア20の中央部分20Xが形成される。
【0032】
そして、図6(B)に示す第二形状板20Yaは、軸心に貫通孔201Yが形成され、軸心周囲に環状部202Yが形成され、この環状部202Yの上下に、幅寸法が前記第一形状板20Xaの膨出部204Xと同一である突出部206Yが形成されている。なお、環状部201Yと突出部206Yとにより切欠部205Yが規定される。そして、突出部206Yの上下に突出部206Yよりも幅狭のコイル巻回部203Yが形成されている。この第二形状板20Yaを厚み方向に積層することにより、図4に示すインナコア20の前後部分20Yが形成される。
【0033】
インナコア20における中央部分20Xを前後から挟むように前後部分20Yが設けられたことにより、第一形状板20Xaの膨出部204Xのうち外部に露出する前後面の一部と、複数の第二形状板20Yaの切欠部205Y…205Yとによって退避部205が形成される。また、第二形状板20Yaの突出部206Yが、積層によってインナコア20の補強部206となる。このように、異なる形状の板20Xa,20Yaを積層してインナコア20を構成することで、退避部205を有するインナコア20を容易に製造できる。
【0034】
次に、可動子3について述べる。この可動子3は、図1〜図3に示すように、角筒状のアウタコア30とフランジ部材31と端部部材32とを備える。アウタコア30は、前記インナコア20と同じく、磁性材料の一例であるケイ素鋼板を複数、スラスト方向(前後方向)で密着するよう積層した積層体とされる。このアウタコア30は、前後寸法がインナコア20と同一とされている。アウタコア30の内面には、膨出する磁極部301が一体的に設けられる。アウタコア30の内面のうち、上端側には、下端側に向けて膨出する第一の磁極部301aが一体的に設けられる。また、アウタコア30の内面のうち、下端側には、上端側に向けて膨出する第二の磁極部301bが一体的に設けられる。
【0035】
そして、第一の磁極部301aの対向面は、第一の永久磁石22aの外面と、ラジアル方向において所定幅の隙間を介して対向配置される。この場合のラジアル方向は、軸心(つまりボビン21の中心)を始点とする径方向である。一方、第二の磁極部301bの対向面は、第二の永久磁石22bの外面と、ラジアル方向において所定幅の隙間を介して対向配置される。この場合のラジアル方向は、軸心(つまりボビン21の中心)を始点とする径方向である。各磁極部301a,301bの前記隙間は等しく設定される。
【0036】
アウタコア30の上端部の前面及び後面と下端部の前面及び後面とには、それぞれ左右方向中心部に、保持軸体302(302a,302b)が前後方向に突設される。より詳しくは、アウタコア30の上端部及び下端部であって、それぞれ左右方向中心部に、前後方向に沿って貫通孔が形成され、上端部の貫通孔に第一の保持軸体302aが挿通されると共に、下端部の貫通孔に第二の保持軸体302bが挿通される。そして、保持軸体302は、アウタコア30の前後方向における厚さ寸法よりも長く形成されているため、アウタコア30の上端部の前面及び後面と、下端部の前面及び後面とであって、それぞれ左右方向中心部から、保持軸体302の端部が前後方向に突出する。
【0037】
また、前側のフランジ部材31は、アウタコア30に前方側から板バネ41を介して重ねられる。一方、後側のフランジ部材31は、アウタコア30に後方側から板バネ41を介して重ねられる。また、前側のフランジ部材31の前側、及び後側のフランジ部材31の後側にはそれぞれ端部部材32が重ねられる。
【0038】
板バネ41は平板状であり、アウタコア30とフランジ部材31との間に介装される。この板バネ41は、図7に示すようなもので、均一な厚さの金属板を打ち抜き加工することで形成される。そして、この板バネ41は、アウタコア30に重ねられる枠部411と、枠部411の内側の可撓部412とから一体的に形成される。
【0039】
板バネ41の構成部のうち、枠部411がフランジ部材31とアウタコア30とで前後方向に挟持される。そして、枠部411の四隅には、ボルト挿通孔411aが形成される。また、枠部411の上下部における左右方向中心部には、保持軸体302の端部を挿通する切欠411bがU字状に形成される。
【0040】
可撓部412は、板バネ41の正面視にて略「8」の字状に形成される。そして、「8」の字の中央の線が交差する部分に形成された略環状の固定部412aには、シャフト23を挿通する挿通孔412bが形成される。
【0041】
ここで、インナコア20と板バネ41との位置関係を図8に示す。可撓部412のうち、固定部412aから周囲方向に延び、スラスト方向から見て膨出部204に重なり合う部分(斜線で図示した部分)がアーム部412eである。そして、固定部412aとアーム部412eの境界部分(破線で図示した部分)が接続部412fである。この接続部412fの直径は、インナコア20における板バネ固定部202の直径よりもやや大きく形成されており、可動子3の往復動に伴うアーム部412eの撓みを阻害しないようにされている。
【0042】
また、「8」の字の環状部の内側に相当する箇所には、ボビン21のコイル巻回部及びコイル211を内側に通すことが充分に可能な大きさの挿通開口部412cがそれぞれ形成される。
【0043】
可撓部412は、弾性変形による可撓性を確保しつつも、切欠411b、ボルト挿通孔411a、固定部412a(挿通孔412b)は強度を確保する必要がある。即ち、可撓部412は、上述したように、略「8」の字状を呈しており、上下にそれぞれ挿通開口部412cを有する。この挿通開口部412cは、可撓部412全体が撓みやすいように、例えば、上下方向の距離が小さく、左右方向の距離が大きくなっている。正面視すると、丸みを帯びた樽形状に等しい形状を呈している。
【0044】
また、可撓部412は、その終端部が切欠411bの近傍に位置しており、しかも、この切欠411bの近傍部位は、切欠411bに向かって延びるように幅広に形成される。この理由としては、可撓部412が切欠411bの近傍部位を支点にして前後方向に撓むようになっているので、この部位を補強するためである。
【0045】
また、可撓部412のうち固定部412aは、可動子3の往復動に伴う応力が大きくかかる部位であるため、左右の両側に、中心に向かって円弧状のくびれ412dが形成されるが、例えば、固定部412aをできる限り表面積を大きくすることにより、往復動に対する強度も確保される。
【0046】
図2に示すように、板バネ41の固定部412aは、シャフト23の拡大部231とインナコア20の板バネ固定部202との間に挟持される。一方、後側の板バネ41の固定部412aは、シャフト23に取り付けられる後部スリーブ234とインナコア20の板バネ固定部202との間に挟持される。これにより、固定部412aは固定子2(インナコア20)に固定され、アーム部412eは可動子3の往復動に伴って、スラスト方向に弾性変形して撓む。
【0047】
そして、可動子3の四隅に形成された挿通孔には、ボルトBが前後方向に挿通され、これらボルトBの先端にナット(図示せず)が締結されて、アウタコア30、板バネ41,42、フランジ部材31、端部部材32が一体化される。
【0048】
以上の構成からなるリニアアクチュエータ1は、コイル211に通電していない状態では、永久磁石22(22a,22b)から生じる磁力により、シャフト23が可動子3(アウタコア30)に対して所定位置に保持される。そして、コイル211に通電すると、コイル211に流れる電流により生じる磁界と永久磁石22から生じている磁界の向きとに基づき、可動子3がシャフト23に沿って前後方向に往復動する。
【0049】
そして、インナコア20に退避部205が設けられているため、板バネ41とインナコア20との間において、板バネ41の可撓部412のうちアーム部412eの撓みを許容する空間が存在している。そのため、リニアアクチュエータ1の駆動時に板バネ41の可撓部412がスラスト方向に撓んでも、この可撓部412は退避部205の有する空間内で往復動し、膨出部204の前後面に対して干渉しない。よって、従来、インナコアと板バネとの間に設けられていたインナスペーサを省略しても、可動子3(アウタコア30)の往復動に支障をきたすことがない。これにより、構成部品点数を削減でき(製造コスト低減)、リニアアクチュエータ1のスラスト方向(前後方向)寸法を小さくできる(コンパクト化)。
【0050】
次に、インナコア20及びアウタコア30を製造する際の材料取りについて述べる。図9に示すように、インナコア20を構成するための第一形状板20Xaまたは第二形状板20Yaは、アウタコア30を構成するための板30Xの内側に配置させるようにして、同時に鋼板から切り出す(共取りをする)ことにより、無駄になる材料を最小限にしてインナコア20及びアウタコア30を製造することができる。
【0051】
そして、前記のように、インナスペーサを省略した分、アウタコア30の前後寸法を小さくできるため、前記材料取りをより効率良くできる。インナスペーサを設けていた場合では、図10に示すように、アウタコアの前後寸法をインナコアとインナスペーサを合わせた前後寸法に一致させており、インナスペーサに相当する前後寸法差の分(図示破線部分)、鋼板の共取りができずに無駄になっていた。一方、本実施形態ではアウタコア30の前後寸法がインナコア20の前後寸法と一致しているため図示斜線部分が不要になって、鋼板の共取りを有効にでき、材料が無駄にならない。
【0052】
以上、本発明につき一実施形態を取り上げて説明してきたが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0053】
例えば、退避部205の形状を、本実施形態のように軸心の左右位置に1箇所ずつ設けたものとせず、板バネ41の可撓部412に合わせ、軸心の左右位置に2箇所ずつ溝状に設けたものであっても良く、種々の形状とすることができる。
【符号の説明】
【0054】
1 リニアアクチュエータ
2 固定子
20 インナコア
20Xa 磁性材料からなる板(インナコア)
20Ya 磁性材料からなる板(インナコア)
203 コイル巻回部
204 膨出部
205 退避部
206 補強部
21 ボビン
211 コイル
212 開口部
22 永久磁石
3 可動子
41 板バネ
412a 固定部
412e アーム部
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子及び可動子を同一の軸心となるよう支持し且つ固定子に対して可動子をスラスト方向に往復動可能に弾性支持する板バネを備えたリニアアクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示すリニアアクチュエータが提案されている。このリニアアクチュエータは、例えば自動車制振装置に用いられるものであって、図11に示すように、固定子510の構成部品であるインナコア511(ボビン512に内挿)が外周にコイル513を備え、当該インナコア511の各端部に永久磁石514,514が配設される。また、可動子520の構成部品であるアウタコア521は、その一部を内側に膨出させた部分(磁極部522,522)を有する。そして、この磁極部522と前記の永久磁石514とは、ラジアル方向にて所定の隙間を有して対向配置される。
【0003】
さらに、このリニアアクチュエータ500は、固定子510の構成部品であり、インナコア511を挿通するシャフト515をアウタコア521と同軸同心に支持し且つシャフト515に対してアウタコア521をスラスト方向に往復動させるよう弾性支持する一対の板バネ530,530を備えている。
【0004】
この板バネ530は、アウタコア521に重ねられて固定される枠部531と、枠部の内側に設けられた可撓部532とから一体的に形成されている。可撓部532は、シャフト515の軸方向から見ると、「8」の字形状に形成される。そして、「8」の字の中央の線が交差する部分に形成された環状の中心部533には挿通孔534が形成されており、ここにシャフト515が挿通される。
【0005】
インナコア511と板バネ530との間にはインナスペーサ540が設けられている。このインナスペーサ540は図示のようにリング状のもので、インナコア511と板バネ530の中心部533とに挟持される。このインナスペーサ540により、インナコア511と板バネ530との間は離されており、板バネ530の「8」の字の中央周りに空間が存在する。一方、リニアアクチュエータ500の駆動時には、可動子520(アウタコア521)の前記スラスト方向の往復動に伴い、板バネ530は、シャフト515が挿通された挿通孔534を中心として可撓部532がスラスト方向に撓むことになる。しかしながら、前記のようにインナコア511と板バネ530との間に空間が存在しているため、前記のように撓んだ板バネ530とインナコア511とが干渉することはなく、可動子520の往復動に係るストロークが確保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−233299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、リニアアクチュエータも他の工業製品と同様、製造コストの低減が常に要請されている。特に、自動車制振装置に用いられるリニアアクチュエータにあっては、自動車を軽量化する目的で小型化が要請されている。これらの要請に応じ、本願の発明者もリニアアクチュエータの改良につき、日々研究を行っている。
【0008】
そこで、本願の発明者は、構成部品数を減少させて製造コストの低減をはかるため、前記インナスペーサ540を省略することを試みた。しかし、インナスペーサ540を省略すると、インナコア511と板バネ530(特に可撓部532)とが密着してしまい、可撓部532のスラスト方向への撓みが規制される。そのため、可動子520(アウタコア521)の往復動に係るストロークが小さくなり、制振性能が低下する等、機能が損なわれるという問題がある。
【0009】
そこで本発明は、機能を確保しながらもインナスペーサを不要とすることで、製造コストを低減し、小型化が可能なリニアアクチュエータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のリニアアクチュエータは、スラスト方向の前面及び後面が平面状であり、スラスト方向に一体とされたインナコアを有する固定子と、当該固定子の周囲に配置され、アウタコアを有する可動子と、前記インナコア及びアウタコアのスラスト方向前側及び後側に配置され、固定子及び可動子を同一の軸心となるよう支持し且つ固定子に対して可動子をスラスト方向に往復動可能に弾性支持する平板状の板バネとを備えるリニアアクチュエータにおいて、前記板バネは、前記インナコアに固定される固定部と、当該固定部から周囲方向に延び、前記可動子の往復動に伴って、スラスト方向に弾性変形して撓むアーム部とを有し、前記インナコアは、スラスト方向の前面及び後面に、前記アーム部の撓みを許容する空間を有する退避部が設けられたことを特徴としている。
【0011】
前記構成によると、インナコアに退避部が設けられたことから、インナスペーサを設けることなく、リニアアクチュエータの駆動時に板バネとインナコアとが干渉しないようにできる。よって、構成部品点数を削減でき、リニアアクチュエータのスラスト方向(前後方向)寸法を小さくできる。
【0012】
そして、前記インナコアは、磁性材料からなる板がスラスト方向に複数積層されて構成され、前記磁性材料からなる板のうち、前記退避部が設けられる、インナコアの前側及び後側に配置される板と、同中央側に配置される板とは異なる形状であることが好ましい。
【0013】
前記好ましい構成によると、異なる形状の板を積層してインナコアを構成することで、退避部を有するインナコアを容易に製造できる。
【0014】
また、前記インナコアには、幅方向に張り出した膨出部が形成され、当該膨出部は、前記退避部と、当該退避部の上下に形成された補強部とを有し、前記インナコアの外部には、磁界を生じさせるコイルを巻回するボビンが設けられ、前記ボビンは、前記膨出部が露出し、前記アーム部の撓みを許容する開口部を有し、前記退避部は、前記インナコアの平面状である前面及び後面に対してスラスト方向に凹んで形成され、前記補強部は、前記インナコアの平面状である前面及び後面と同一面を有し、前記ボビンに当接することで、コイルを巻回する際の当該ボビンの変形を抑制することが好ましい。
【0015】
前記好ましい構成によると、インナコアに補強部を設けることにより、膨出部に板バネの往復動を許容する空間を有する退避部が形成されていても、ボビンの変形を抑制するためのインナコアの強度が低下することを抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、構成部品点数を削減でき、リニアアクチュエータのスラスト方向(前後方向)寸法を小さくできることから、機能を確保しながらもインナスペーサを不要とすることで、製造コストを低減し、小型化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るリニアアクチュエータの一実施形態の全体を示す、前面視における斜視図である。
【図2】同実施形態の全体を示す、前面視における、シャフト軸心を通る縦断面斜視図である。
【図3】同実施形態において、前面側の一部構成部品を除去した状態の斜視図である。
【図4】同実施形態のインナコアの斜視図である。
【図5】同実施形態において、インナコアの形状を説明するための前面視における図である。
【図6】同実施形態のインナコアを構成する一枚の板を示し、(A)はインナコアの中央部分を構成する板の斜視図、(B)はインナコアの前後部分を構成する板の斜視図である。
【図7】同実施形態の板バネの斜視図である。
【図8】同実施形態において、インナコアと板バネとの位置関係を示す、前面視における図である。
【図9】同実施形態を構成するアウタコアとインナコアの材料取りの要領を示す平面視の概略図である。
【図10】同実施形態を構成するアウタコアとインナコアの材料取りの要領を示す縦断面視の概略図である。
【図11】従来のリニアアクチュエータの一例を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るリニアアクチュエータの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。尚、便宜上、図1に示した状態の左側を前側、右側を後側として説明する。また、上下方向については、図1に示した方向を基準として説明する。そして、左右方向については、図1に示した状態の前面視における左右方向を基準として説明する。
【0019】
図1〜図3に示すように、本実施形態のリニアアクチュエータ1は、固定子2と、可動子3と、板バネ41,41とを備える。固定子2は、可動子3の内側に配置される。また、可動子3は、固定子2に対して前後方向(スラスト方向)に往復動可能に支持される。
【0020】
固定子2は、インナコア20が内挿されたボビン21と、永久磁石22と、シャフト23とを備える。インナコア20は、磁性材料の一例であるケイ素鋼板を複数、スラスト方向(前後方向)で、かしめ等によって各板を密着するよう積層した、スラスト方向に一体で一定厚さを有する積層体とされる。積層枚数は、リニアアクチュエータ1の性能に応じて定められる。ボビン21は、インナコア20を覆うように、前後に分割されたボビンユニット210,210が組み合わされる。なお、図3に示すように、ボビン21の上下方向中央における前面及び後面(図示せず)には開口部212が形成されており、ボビン21に内挿されたインナコア20の板バネ固定部202(後述)及び膨出部204(同)における前後部がボビン21から露出している。また、ボビン21は、その上端部及び下端部に磁界を生じさせるコイル211が巻回されたコイル巻回部を有する。さらに、ボビン21の上下側端面は、径外方向に凸となる円弧状に形成される。永久磁石22は、第一の永久磁石22aと第二の永久磁石22bとからなり、インナコア20の上下両端面に固着される。また、永久磁石22の外面及び内面は、径外方向に凸となる円弧状に形成される。
【0021】
シャフト23は、図2に示すように、その軸方向(スラスト方向)の前方寄り部分における径寸法が拡大された拡大部231が形成されると共に、拡大部231よりも後部にこの拡大部231よりも小径の挿通部232が形成され、拡大部231よりも前部に外部との締結のための雄ねじ部233が形成される。そして、シャフト23は、挿通部232側からボビン21の中央部に形成された貫通孔(図示せず)に挿入され、インナコア20に設けられた貫通孔201(図4参照)を貫通する。挿通部232とボビン21の後面との間には、拡大部231と外径の等しい、筒状の後部スリーブ234が挿通される。
【0022】
次に、インナコア20は、図4に示すように、スラスト方向(前後方向)から見て、上下左右及び前後で対称の形状とされている。インナコア20の前面及び後面は、ラジアル方向に沿う平面に形成されている。そして、インナコア20の側面は、スラスト方向に沿う平面に形成されている。インナコア20の上端面及び下端面は、それぞれ上方および下方に向けて凸となる湾曲面(例えば円弧面)に形成されている。この上端面及び下端面に永久磁石22(22a,22b)が固着される。
【0023】
図示のように、インナコア20は、貫通孔201、板バネ固定部202、コイル巻回部203(203a,203b)、膨出部204を備える。そして、膨出部204は、退避部205、補強部206を有している。板バネ固定部202、コイル巻回部203(203a,203b)、補強部206の各々における前面及び後面は、同一の平面を構成している。
【0024】
貫通孔201はインナコア20を前後方向に貫通する孔であって、ここにシャフト23の挿通部232が挿通される。板バネ固定部202は、インナコア20の前後面における、貫通孔201の周囲に設けられた環状の部分であって、ボビン21の開口部212から前後方向に露出している。この板バネ固定部202に、板バネ41の固定部412a(後述)が密着する。なお、この密着状態は、リニアアクチュエータ1の駆動時も維持される。
【0025】
コイル巻回部203(203a,203b)は、インナコア20の軸心周囲部分(貫通孔201の周囲部分)のうち、上下位置に設けられており、このコイル巻回部203の外周に、ボビン21を介してコイル211が巻回される。
【0026】
膨出部204は、インナコア20の軸心周囲部分のうち、左右位置、つまり、前記コイル巻回部203と直交する位置に幅方向(左右方向)に張り出して設けられている。この膨出部204は、前記コイル巻回部203よりも幅寸法が大きく形成されている。そして、膨出部204の前面及び後面に、左右端から左右方向中心側へ向かうように切り欠かれた形状である退避部205が形成されている。つまり、退避部205は、インナコア20の平面状である前面及び後面に対してスラスト方向に凹んで形成された凹部である。そして、前記膨出部204の前後面(退避部205を含む)は、ボビン21の開口部212から前後方向に露出している。つまり、ボビン21の開口部212は、インナコア20の退避部205と共に、板バネ41のアーム部412e(後述)の撓みを許容する。
【0027】
退避部205は、リニアアクチュエータ1の駆動時に、スラスト方向に撓む板バネ41の可撓部412のうち、スラスト方向から見て膨出部204に重なり合う部分であるアーム部412e(後述)の撓みを許容する空間を有するように、このアーム部412eが膨出部204の前後面と干渉しないような寸法に形成されている(図8参照)。本実施形態の退避部205は、スラスト方向において一定厚さであるインナコア20の膨出部204が軸心の左右位置で1箇所ずつ切り欠かれたように形成されている。また、本実施形態の退避部205は、膨出部204の前面と後面とが別個に切り欠かれたように形成されているが、膨出部204の前面から後面まで貫通するように形成されていても良い。
【0028】
図5に示すように、退避部205の左右方向における内側縁部205aは板バネ固定部202により規定され、上側縁部205bは板バネ41の可撓部412(後述)のうち、軸心より上側部分の更に上方の位置にて規定され、下側縁部205cは板バネ41の可撓部412のうち、軸心より下側部分の更に下方の位置にて規定されている。内側縁部205aの上下端部、上側縁部205b及び下側縁部205cの左右方向中心側の端部は、コイル巻回部203の幅寸法ライン203Zよりも左右方向中心側に位置している。また、退避部205のスラスト方向の底面は、インナコア20における中央部分20X(後述)の前面及び後面にて規定されている(図4参照)。
【0029】
そして、膨出部204のうち退避部205を挟んだ上下部分(つまり、膨出部204の前後面のうち、板バネ固定部202と退避部205とが設けられていない部分)が補強部206とされている。言い換えれば、この補強部206は、膨出部204におけるコイル巻回部203寄りの側部を残し、この膨出部204の前後面を左右端から左右方向中心側へと切り欠くように形成されたものである(切り欠いた部分が即ち退避部205である)。その結果、この補強部206は、インナコア20の平面状である前面及び後面と同一面を有し、板バネ固定部202と一体に形成される。そして、この補強部206が存在することにより、インナコア20の強度が低下することを抑制できる。そして、この補強部206は、ボビン21に当接することで、コイル211を巻回する際のボビン21の変形を抑制することができる。
【0030】
インナコア20は、磁性材料からなる板(本実施形態では板厚0.5mmのケイ素鋼板)を複数、前後方向に積層した積層体とされていることは既に述べた通りである。前記磁性材料からなる板は、退避部205が設けられる、インナコア20の中央側に配置される板20Xaと、同前側及び後側に配置される板20Yaとは異なる形状とされている。
【0031】
個々の板の形状を図6(A)(B)に示す。図6(A)に示す第一形状板20Xaは、軸心に貫通孔201Xが形成され、軸心周囲に幅広の膨出部204Xが形成され、この膨出部204Xの上下に幅狭のコイル巻回部203Xが形成されている。この第一形状板20Xaを厚み方向に積層することにより、図4に示すインナコア20の中央部分20Xが形成される。
【0032】
そして、図6(B)に示す第二形状板20Yaは、軸心に貫通孔201Yが形成され、軸心周囲に環状部202Yが形成され、この環状部202Yの上下に、幅寸法が前記第一形状板20Xaの膨出部204Xと同一である突出部206Yが形成されている。なお、環状部201Yと突出部206Yとにより切欠部205Yが規定される。そして、突出部206Yの上下に突出部206Yよりも幅狭のコイル巻回部203Yが形成されている。この第二形状板20Yaを厚み方向に積層することにより、図4に示すインナコア20の前後部分20Yが形成される。
【0033】
インナコア20における中央部分20Xを前後から挟むように前後部分20Yが設けられたことにより、第一形状板20Xaの膨出部204Xのうち外部に露出する前後面の一部と、複数の第二形状板20Yaの切欠部205Y…205Yとによって退避部205が形成される。また、第二形状板20Yaの突出部206Yが、積層によってインナコア20の補強部206となる。このように、異なる形状の板20Xa,20Yaを積層してインナコア20を構成することで、退避部205を有するインナコア20を容易に製造できる。
【0034】
次に、可動子3について述べる。この可動子3は、図1〜図3に示すように、角筒状のアウタコア30とフランジ部材31と端部部材32とを備える。アウタコア30は、前記インナコア20と同じく、磁性材料の一例であるケイ素鋼板を複数、スラスト方向(前後方向)で密着するよう積層した積層体とされる。このアウタコア30は、前後寸法がインナコア20と同一とされている。アウタコア30の内面には、膨出する磁極部301が一体的に設けられる。アウタコア30の内面のうち、上端側には、下端側に向けて膨出する第一の磁極部301aが一体的に設けられる。また、アウタコア30の内面のうち、下端側には、上端側に向けて膨出する第二の磁極部301bが一体的に設けられる。
【0035】
そして、第一の磁極部301aの対向面は、第一の永久磁石22aの外面と、ラジアル方向において所定幅の隙間を介して対向配置される。この場合のラジアル方向は、軸心(つまりボビン21の中心)を始点とする径方向である。一方、第二の磁極部301bの対向面は、第二の永久磁石22bの外面と、ラジアル方向において所定幅の隙間を介して対向配置される。この場合のラジアル方向は、軸心(つまりボビン21の中心)を始点とする径方向である。各磁極部301a,301bの前記隙間は等しく設定される。
【0036】
アウタコア30の上端部の前面及び後面と下端部の前面及び後面とには、それぞれ左右方向中心部に、保持軸体302(302a,302b)が前後方向に突設される。より詳しくは、アウタコア30の上端部及び下端部であって、それぞれ左右方向中心部に、前後方向に沿って貫通孔が形成され、上端部の貫通孔に第一の保持軸体302aが挿通されると共に、下端部の貫通孔に第二の保持軸体302bが挿通される。そして、保持軸体302は、アウタコア30の前後方向における厚さ寸法よりも長く形成されているため、アウタコア30の上端部の前面及び後面と、下端部の前面及び後面とであって、それぞれ左右方向中心部から、保持軸体302の端部が前後方向に突出する。
【0037】
また、前側のフランジ部材31は、アウタコア30に前方側から板バネ41を介して重ねられる。一方、後側のフランジ部材31は、アウタコア30に後方側から板バネ41を介して重ねられる。また、前側のフランジ部材31の前側、及び後側のフランジ部材31の後側にはそれぞれ端部部材32が重ねられる。
【0038】
板バネ41は平板状であり、アウタコア30とフランジ部材31との間に介装される。この板バネ41は、図7に示すようなもので、均一な厚さの金属板を打ち抜き加工することで形成される。そして、この板バネ41は、アウタコア30に重ねられる枠部411と、枠部411の内側の可撓部412とから一体的に形成される。
【0039】
板バネ41の構成部のうち、枠部411がフランジ部材31とアウタコア30とで前後方向に挟持される。そして、枠部411の四隅には、ボルト挿通孔411aが形成される。また、枠部411の上下部における左右方向中心部には、保持軸体302の端部を挿通する切欠411bがU字状に形成される。
【0040】
可撓部412は、板バネ41の正面視にて略「8」の字状に形成される。そして、「8」の字の中央の線が交差する部分に形成された略環状の固定部412aには、シャフト23を挿通する挿通孔412bが形成される。
【0041】
ここで、インナコア20と板バネ41との位置関係を図8に示す。可撓部412のうち、固定部412aから周囲方向に延び、スラスト方向から見て膨出部204に重なり合う部分(斜線で図示した部分)がアーム部412eである。そして、固定部412aとアーム部412eの境界部分(破線で図示した部分)が接続部412fである。この接続部412fの直径は、インナコア20における板バネ固定部202の直径よりもやや大きく形成されており、可動子3の往復動に伴うアーム部412eの撓みを阻害しないようにされている。
【0042】
また、「8」の字の環状部の内側に相当する箇所には、ボビン21のコイル巻回部及びコイル211を内側に通すことが充分に可能な大きさの挿通開口部412cがそれぞれ形成される。
【0043】
可撓部412は、弾性変形による可撓性を確保しつつも、切欠411b、ボルト挿通孔411a、固定部412a(挿通孔412b)は強度を確保する必要がある。即ち、可撓部412は、上述したように、略「8」の字状を呈しており、上下にそれぞれ挿通開口部412cを有する。この挿通開口部412cは、可撓部412全体が撓みやすいように、例えば、上下方向の距離が小さく、左右方向の距離が大きくなっている。正面視すると、丸みを帯びた樽形状に等しい形状を呈している。
【0044】
また、可撓部412は、その終端部が切欠411bの近傍に位置しており、しかも、この切欠411bの近傍部位は、切欠411bに向かって延びるように幅広に形成される。この理由としては、可撓部412が切欠411bの近傍部位を支点にして前後方向に撓むようになっているので、この部位を補強するためである。
【0045】
また、可撓部412のうち固定部412aは、可動子3の往復動に伴う応力が大きくかかる部位であるため、左右の両側に、中心に向かって円弧状のくびれ412dが形成されるが、例えば、固定部412aをできる限り表面積を大きくすることにより、往復動に対する強度も確保される。
【0046】
図2に示すように、板バネ41の固定部412aは、シャフト23の拡大部231とインナコア20の板バネ固定部202との間に挟持される。一方、後側の板バネ41の固定部412aは、シャフト23に取り付けられる後部スリーブ234とインナコア20の板バネ固定部202との間に挟持される。これにより、固定部412aは固定子2(インナコア20)に固定され、アーム部412eは可動子3の往復動に伴って、スラスト方向に弾性変形して撓む。
【0047】
そして、可動子3の四隅に形成された挿通孔には、ボルトBが前後方向に挿通され、これらボルトBの先端にナット(図示せず)が締結されて、アウタコア30、板バネ41,42、フランジ部材31、端部部材32が一体化される。
【0048】
以上の構成からなるリニアアクチュエータ1は、コイル211に通電していない状態では、永久磁石22(22a,22b)から生じる磁力により、シャフト23が可動子3(アウタコア30)に対して所定位置に保持される。そして、コイル211に通電すると、コイル211に流れる電流により生じる磁界と永久磁石22から生じている磁界の向きとに基づき、可動子3がシャフト23に沿って前後方向に往復動する。
【0049】
そして、インナコア20に退避部205が設けられているため、板バネ41とインナコア20との間において、板バネ41の可撓部412のうちアーム部412eの撓みを許容する空間が存在している。そのため、リニアアクチュエータ1の駆動時に板バネ41の可撓部412がスラスト方向に撓んでも、この可撓部412は退避部205の有する空間内で往復動し、膨出部204の前後面に対して干渉しない。よって、従来、インナコアと板バネとの間に設けられていたインナスペーサを省略しても、可動子3(アウタコア30)の往復動に支障をきたすことがない。これにより、構成部品点数を削減でき(製造コスト低減)、リニアアクチュエータ1のスラスト方向(前後方向)寸法を小さくできる(コンパクト化)。
【0050】
次に、インナコア20及びアウタコア30を製造する際の材料取りについて述べる。図9に示すように、インナコア20を構成するための第一形状板20Xaまたは第二形状板20Yaは、アウタコア30を構成するための板30Xの内側に配置させるようにして、同時に鋼板から切り出す(共取りをする)ことにより、無駄になる材料を最小限にしてインナコア20及びアウタコア30を製造することができる。
【0051】
そして、前記のように、インナスペーサを省略した分、アウタコア30の前後寸法を小さくできるため、前記材料取りをより効率良くできる。インナスペーサを設けていた場合では、図10に示すように、アウタコアの前後寸法をインナコアとインナスペーサを合わせた前後寸法に一致させており、インナスペーサに相当する前後寸法差の分(図示破線部分)、鋼板の共取りができずに無駄になっていた。一方、本実施形態ではアウタコア30の前後寸法がインナコア20の前後寸法と一致しているため図示斜線部分が不要になって、鋼板の共取りを有効にでき、材料が無駄にならない。
【0052】
以上、本発明につき一実施形態を取り上げて説明してきたが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0053】
例えば、退避部205の形状を、本実施形態のように軸心の左右位置に1箇所ずつ設けたものとせず、板バネ41の可撓部412に合わせ、軸心の左右位置に2箇所ずつ溝状に設けたものであっても良く、種々の形状とすることができる。
【符号の説明】
【0054】
1 リニアアクチュエータ
2 固定子
20 インナコア
20Xa 磁性材料からなる板(インナコア)
20Ya 磁性材料からなる板(インナコア)
203 コイル巻回部
204 膨出部
205 退避部
206 補強部
21 ボビン
211 コイル
212 開口部
22 永久磁石
3 可動子
41 板バネ
412a 固定部
412e アーム部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラスト方向の前面及び後面が平面状であり、スラスト方向に一体とされたインナコアを有する固定子と、当該固定子の周囲に配置され、アウタコアを有する可動子と、前記インナコア及びアウタコアのスラスト方向前側及び後側に配置され、固定子及び可動子を同一の軸心となるよう支持し且つ固定子に対して可動子をスラスト方向に往復動可能に弾性支持する平板状の板バネとを備えるリニアアクチュエータにおいて、
前記板バネは、前記インナコアに固定される固定部と、当該固定部から周囲方向に延び、前記可動子の往復動に伴って、スラスト方向に弾性変形して撓むアーム部とを有し、
前記インナコアは、スラスト方向の前面及び後面に、前記アーム部の撓みを許容する空間を有する退避部が設けられたことを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項2】
前記インナコアは、磁性材料からなる板がスラスト方向に複数積層されて構成され、
前記磁性材料からなる板のうち、前記退避部が設けられる、インナコアの前側及び後側に配置される板と、同中央側に配置される板とは異なる形状であることを特徴とする請求項1に記載のリニアアクチュエータ。
【請求項3】
前記インナコアには、幅方向に張り出した膨出部が形成され、当該膨出部は、前記退避部と、当該退避部の上下に形成された補強部とを有し、
前記インナコアの外部には、磁界を生じさせるコイルを巻回するボビンが設けられ、
前記ボビンは、前記膨出部が露出し、前記アーム部の撓みを許容する開口部を有し、
前記退避部は、前記インナコアの平面状である前面及び後面に対してスラスト方向に凹んで形成され、
前記補強部は、前記インナコアの平面状である前面及び後面と同一面を有し、前記ボビンに当接することで、コイルを巻回する際の当該ボビンの変形を抑制することを特徴とする請求項1又は2に記載のリニアアクチュエータ。
【請求項1】
スラスト方向の前面及び後面が平面状であり、スラスト方向に一体とされたインナコアを有する固定子と、当該固定子の周囲に配置され、アウタコアを有する可動子と、前記インナコア及びアウタコアのスラスト方向前側及び後側に配置され、固定子及び可動子を同一の軸心となるよう支持し且つ固定子に対して可動子をスラスト方向に往復動可能に弾性支持する平板状の板バネとを備えるリニアアクチュエータにおいて、
前記板バネは、前記インナコアに固定される固定部と、当該固定部から周囲方向に延び、前記可動子の往復動に伴って、スラスト方向に弾性変形して撓むアーム部とを有し、
前記インナコアは、スラスト方向の前面及び後面に、前記アーム部の撓みを許容する空間を有する退避部が設けられたことを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項2】
前記インナコアは、磁性材料からなる板がスラスト方向に複数積層されて構成され、
前記磁性材料からなる板のうち、前記退避部が設けられる、インナコアの前側及び後側に配置される板と、同中央側に配置される板とは異なる形状であることを特徴とする請求項1に記載のリニアアクチュエータ。
【請求項3】
前記インナコアには、幅方向に張り出した膨出部が形成され、当該膨出部は、前記退避部と、当該退避部の上下に形成された補強部とを有し、
前記インナコアの外部には、磁界を生じさせるコイルを巻回するボビンが設けられ、
前記ボビンは、前記膨出部が露出し、前記アーム部の撓みを許容する開口部を有し、
前記退避部は、前記インナコアの平面状である前面及び後面に対してスラスト方向に凹んで形成され、
前記補強部は、前記インナコアの平面状である前面及び後面と同一面を有し、前記ボビンに当接することで、コイルを巻回する際の当該ボビンの変形を抑制することを特徴とする請求項1又は2に記載のリニアアクチュエータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−21832(P2013−21832A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153902(P2011−153902)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】
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