説明

リニアガイド装置

【課題】低下した密封性の回復が容易なリニアガイド装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のリニアガイド装置は、積層体15のシール層16の摩耗や破損により、案内レール1との隙間が生じた場合でも、一番外側に位置するシール層16を剥離することにより、外側から二番目に位置するシール層16が案内レール1とシール層16との間に形成された隙間を埋めることができるため、密封性が保たれる。したがって、シール装置を交換することなく、低下した密封性を容易に回復することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール装置を備えたリニアガイド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、工作機械等で使用されているリニアガイド装置は、軸方向に延びる転動体転動溝を外面に有する案内レールと、案内レールの転動体転動溝に対向して形成された転動体転動溝を有し、案内レールに相対移動可能に跨架されるスライダと、スライダの軸方向における前後に装着されたシール装置とを備えている。
スライダは、スライダ本体と、スライダ本体の相対移動方向(軸方向)両端面に接合されたエンドキャップとを備えており、エンドキャップのスライダ本体と反対側の面には、シール装置が取り付けられている。案内レールとスライダとの間に形成される空隙部にごみ、粉塵、切粉、切屑等の異物が入り込み、転動体転動溝に付着すると、転動体の円滑な転動が妨げられる。このことから、このシール装置が、空隙部への異物の侵入を防ぐために、案内レールの表面に接触し空隙部の開口部分を封止している。これにより、リニアガイド装置の良好な作動性が保持されている。
【0003】
これらシール装置には一般的にゴム組成物であるシール層が用いられているが、元来、ゴム組成物は一般的に他の部材との接触において摩擦抵抗が大きく、摺動による摩擦に対する耐久性が乏しい。そのため、案内レールとの接触部であるシール層のリップ部に摩耗や欠損が生じやすく、それにより、案内レールとシール層との間に隙間が生じ、密封性が損なわれるおそれがある。そこで、シール層のリップ部に摩耗や欠損が生じたシール装置の交換を容易とし、低下した密封性を回復する技術が提案されている。
例えば、特許文献1に記載のリニアガイド装置は、摩耗や欠損が生じた場合、スライダが案内レール上に跨架された状態でシール装置を取り外すことができるため、シール装置の交換が容易となる。また、特許文献1には、シール層を複数枚重ねることも可能である旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−42284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般的にリニアガイド装置は、それが用いられる装置内において手の届きにくい位置に配置されていることが多いため、実際にはシール装置の取り外しは困難となる。また、同様に新たなシール装置を取り付ける場合にも作業が困難となる。
さらに、シール層を積層しても、単に積層するだけであればそれらのリップ部の摩耗は同時に進行してしまう。そのため、外側に位置するシール層に摩耗や欠損が生じた場合に、内側に位置するシール層も同様に摩耗や欠損を生じている可能性があり、積層された全てのシール層を同時期に交換しなくてはならないおそれがある。
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、低下した密封性の回復が容易なリニアガイド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、本発明の一態様に係るリニアガイド装置は、軸方向に延びる転動体転動溝を外面に有する案内レールと、前記案内レールの転動体転動溝に対向して形成された転動体転動溝を有し、前記案内レールに相対移動可能に跨架されるスライダと、前記案内レールと前記スライダとの間に形成された空隙部を封止するように前記スライダの軸方向における前後少なくとも何れかに装着された接触型シール装置とを備え、前記接触型シール装置は、案内レールに接する部分にリップ部を備えた複数のシール層が前記軸方向に沿って積層され、各シール層が前記スライダから遠い側の端部のシール層から順次前記スライダに近づく方向のシール層の順で1枚ごとに取り外し可能に積層されてなり、且つ前記スライダから遠い側の端部のシール層から順次前記スライダに近づく側のシール層の順で各リップ部が前記案内レールの表面から遠ざかる位置に形成されていて、これら複数のシール層が前記案内レールの表面に向けて押圧部材により押圧付勢されたことを特徴とする。
【0007】
また、上記リニアガイド装置においては、前記スライダの少なくとも前後いずれかにシールケースを取り付け、このシールケースに、積層した複数のシール層を案内レール表面に向けて移動可能に支持させるとともに、前記複数のシール層のうち少なくとも前記スライダに最も近いシール層を前記シールケース内で前記押圧部材により前記案内レールに向けて押圧付勢した構成とすることもできる。
【0008】
さらに、上記リニアガイド装置においては、前記シール層には、当該シール層を他のシール層から取り外して前記案内レールから撤去するために引っ張る凸部を、前記案内レールの軸方向に交差する方向のいずれかに形成することもできる。
また、上記リニアガイド装置においては、前記シール層は、前記案内レールへの跨架のための開口部を設けたコ字状をなすものであって、同様に略コ字状をなす芯材に弾性体を被覆してなり、前記芯材には、前記凸部を引っ張ることにより前記シール層の開口部が開くように、中間部に脆弱部を設けることもできる。
さらに、積層される複数の各シール層を同一形状にするとよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のリニアガイド装置に備えられたシール装置は、複数のシール層が積層されていると共に、1枚ごとに取り外し可能に積層されているため、シール装置のリップ部に摩耗や欠損が生じても、スライダから遠い側の端部のシール層を剥離することにより、新たなシール層に変えることができる。また、スライダから遠い側の端部のシール層から順次スライダに近づく側のシール層の順で、積層された複数のシール層の各リップ部が案内レールの表面から遠ざかる位置に形成されており、これら複数のシール層が案内レールに向けて押圧付勢されている。このため、初めに摩耗や欠損が生じるのはスライダから遠いシール層であるから、そのシール層を剥離することにより、初めて、該剥離されたシール層の次に積層された新たなシール層が案内レールに接触することとなる。このため、積層された複数のシール層が同時に案内レールに接触して摩耗や欠損が生じるといったことがない。したがって、本発明のリニアガイド装置は、低下した密封性を回復することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るリニアガイド装置を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】図1のB−B線に沿う断面図である。
【図4】外側のシール層が摩耗した状態を示す図3と同位置の図である。
【図5】摩耗した外側のシール層を剥離した状態を示す図3と同位置の図である。
【図6】図1のC−C線に沿う断面図である。
【図7】図4の状態を示す図6と同位置の図である。
【図8】図5の状態を示す図6と同位置の図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係るリニアガイド装置の図6同様の断面図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係るリニアガイド装置に用いられるシール層の断面図である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係るリニアガイド装置に用いられるシール層の断面図である。
【図12】本発明の第4の実施形態に係るリニアガイド装置の図3と同位置の図である。
【図13】図12のシール層を剥離した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るリニアガイド装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
本発明の第1の実施形態について、以下に説明する。
図1は、本発明に係るリニアガイド装置の第1の実施形態を示す斜視図であり、図2は、図1のA−A線に沿う断面図である。図2中の破線は、ボルト孔を示したものである。なお、これ以降の各図においては、同一又は相当する部分には、同一の符号を付してある。
【0012】
軸方向に延びる断面形状略四角形の案内レール1に、断面形状略コ字状のスライダ2が軸方向に沿う前後に相対移動可能に跨架されている。なお、これらの断面とは、軸方向に直交する平面で切断した断面である。スライダ2は、背部7の両側から袖部6,6が同方向に延びてなり、背部7と両袖部6,6とは直角をなしているため、スライダ2の断面形状は略コ字状をなしている。また、スライダ2は、スライダ本体2Aと、その軸方向両端部に着脱可能に取り付けられたエンドキャップ2B,2Bとで構成されている。
【0013】
本発明においては、スライダ2の背部7と対向する案内レール1の面を上面1bとし、袖部6と対向する面を案内レール1の側面1aとし、案内レール1の周囲4面のうち残りの1面を下面とする。また、本発明においては、リニアガイド装置を軸方向端部側から見た場合に、案内レール1の中心軸線を対称中心とした両側を左右とする。よって断面略コ字状のスライダ2は、案内レール1の上面から左右側面にかけて跨るように架設されている。なお、用途に応じて案内レール1及びスライダ2などの向きが変わることは勿論である。
【0014】
案内レール1には、軸方向に延びる合計4本の転動体転動溝10が形成されている。さらに、スライダ本体2Aの左右両袖部6,6の内側面6a,6aには、案内レール1の各転動体転動溝10に対向する転動体転動溝11が形成されている。そして、案内レール1の転動体転動溝10とスライダ2の転動体転動溝11によって転動体転動路13が形成されている。なお、案内レール1及びスライダ2が備える転動体転動溝10,11の数は図2のように片側二列に限らず、例えば片側一列又は三列以上などであってもよい。また、転動体転動溝10,11の断面形状は円弧状でもよいし、ゴシックアーク形状でもよい。
【0015】
この転動体転動路13内には、多数の転動体3が転動自在に装填されていて、これらの転動体3の転動を介してスライダ2が案内レール1に沿って軸方向に相対移動するようになっている。なお、転動体の種類はボールに限定されるものではなく、転動体としてころも使用可能である。また、転動体3の間にスペーサーを介装してもよい。
さらに、スライダ2は、スライダ本体2Aの左右両袖部6,6の肉厚部分の上部及び下部に、転動体転動路13と平行して軸方向に貫通し且つ同転動体転動路13と対をなす断面ほぼ円形の貫通孔からなる直線状路14を備えている。
【0016】
一方、エンドキャップ2B,2Bは、例えば樹脂材料の射出成形品からなり、断面形状がスライダ本体2Aに合わせて略コ字状に形成されている。また、エンドキャップ2B,2Bの裏面(スライダ本体2Aとの当接面)の左右両側には、断面ほぼ円形の半ドーナツ状の湾曲路(図示せず)が上下二段に形成されている。このエンドキャップ2B,2Bをスライダ本体2Aに取り付けると、湾曲路によって転動体転動路13と直線状路14とが連通される。これら直線状路14と両端の湾曲路とで、転動体3を転動体転動路13の終点から始点へ送る転動体戻し路が構成され、転動体転動路13と前記転動体戻し路とで、略環状の転動体循環路が案内レール1を挟んで左右両側に形成される。
上記のスライダ2の軸方向両端には、シール装置5を備えている。このシール装置5
は、複数のシール層16を1枚ごとに取り外し可能に積層した積層体15と、積層体15を支持し、スライダ2の軸方向両端部(各エンドキャップ2Bの外端面)に装着するシールケース18を備える。
【0017】
積層体15を構成するシール層16は、図6〜8に示すように、前記スライダ2と同様、略コ字状をなしており、また前記略コ字状をなす内側は案内レール1の表面の断面形状に沿った形状をなしている。具体的には、シール層16には、案内レール1の上面1bと左右両側面1a,1aとが交差する角部に形成された転動体転動溝10,10に対応する位置に、その溝10に対応する形状の突起部19,19が形成される。また、案内レール1の左右両側面1a,1aに対向する端部の上下方向の中間位置に形成された転動体転動溝10,10に対応する位置にも、断面ほぼ半円形の突起部19,19が形成されている。また、シール層16を積層した積層体15も、シール層16と同様にその形状は略コ字状をなしており、案内レール1の表面の断面形状に沿った形状をなしている。
【0018】
積層体15は、案内レール1の表面(上面1b及び両側面1a,1a)に接するリップ部17を有するシール層16を、案内レール1の軸方向に沿って多段状に積層することにより形成されている。シール層16は、スライダ2の端面から遠い側の端部のシール層から順次スライダ2の端面に近づく方向のシール層の順で1枚ごとに取り外し可能に積層されている。また、シール層16は、図3に示すように、スライダ2の端面から遠い側(外側)からスライダ2の端面側(内側)になるにつれて、各シール層16の各リップ部17が、案内レール1の表面(上面1b及び両側面1a,1a)から遠ざかる位置になるよう積層されている。
【0019】
また、積層された各シール層16のうち、対向する相互間は図3に示すように凹凸係合するようになっている。つまり、外側のシール層16の内側の面には、リップ部17に近い端部に係合凸部16bが設けられている。これは必要によってはさらに他の部位にも設けて複数とすることもできる。また、外側から2番目のシール層16の外側の面には、リップ部17に近い端部に前記係合凸部16bが係合する係合凹部16dが設けられている。外側から2番目と3番目のシール層16についても同様である。これらの係合凸部16b及び係合凹部16dが嵌合されることで、各シール層16が1枚ごとに取り外し可能に係止されて積層されている。なお、各シール層16は取り外し可能に積層されていればよく、図示のように凹凸によって係止されていることに限定されない。例えば、シール層16を粘着剤等により接着させることにより、取り外し可能に積層させてもよい。
【0020】
さらに、図3〜5に示すように、係合凸部16b及び係合凹部16dはアンダーカット形状を有していて、係合凸部16bの先端下部が「あり」のように下方へ広がって下向きの面が斜面16baをなし、係合凹部16dの奥側下部が「ありみぞ」のように下方に広がって上向きの面が斜面16daをなしている。なお、係合凸部16bの上向き面と係合凹部16dの下向きの面はいずれも水平をなしている。
なお、シール層16はゴム状の弾性体であり、その材料は特に限定されるものではないが、ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の合成ゴム、熱可塑性エラストマや樹脂等があげられる。さらに、シール層16は、ゴムや樹脂等のみで構成されていてもよいが、金属等からなる芯材を備えていてもよい。
【0021】
シールケース18は、エンドキャップ2Bの表面に固着されていて、その内側で積層体15を、案内レール1の表面(上面1b及び両側面1a,1a)に向けて押圧付勢して移動可能に支持している。図3〜5に示すように、シールケース18は、エンドキャップ2B,2Bの表面(スライダ本体2Aの当接面と反対側の面)に固定される固定背部18aと、案内レール1側に開口して積層体15を外側から抱き込む断面コ字状部18bとを備える。このシールケース18のコ字状部18bは、積層体15を外側から保持する保持部18cを案内レール1に向けて進退可能に保持し、且つ、前記保持部18cを介して積層体15を案内レール1の表面(上面1b及び両側面1a,1a)に向けて押圧付勢する押圧部材18dを備える。ここで、押圧部材18dには圧縮コイルバネが用いられる。
【0022】
固定背部18aは、エンドキャップ2Bの表面に慣用の手段で固定されている。また、コ字状部18bは、固定背部18aのエンドキャップ2Bと当接する面と反対側の面に、左右両側及び上側の縁の形状に沿って形成されている。また、保持部18cは、積層体15の外面形状に沿うように配置され、接着その他の手段により積層体15を支持している。保持部18cは、積層体15を支持した状態で、左右両側及び上側の縁の形状に沿って形成されたコ字状部18bの内側に配されている。
【0023】
押圧部材18dは、コ字状部18bにおける、案内レール1側を向いた開口部分に保持されており、保持部18cを介して積層体15を案内レール1の表面に向けて押圧付勢している。押圧部材18dとしては、本実施形態においてはコイルバネを用いているが、押圧できるものなら特に限定されるものではなく、例えばゴム状の弾性体、板バネ状の弾性体等があげられる。
【0024】
押圧部材18dは、積層体15全体を均一に押圧できるものであることが望ましい。具体的には、例えば押圧部材としてコイルバネを用いた場合には、図6〜8に示すように、左右両側の縁に形成されたコ字状部18bの開口部の中間部付近に各1つずつ、上側の縁に形成されたコ字状部18bの開口部に均等に2つ配置するように、積層体15全体を均一に押圧できる数及び配置であることが望ましい。
【0025】
案内レール1に取り付けられたスライダ2が案内レール1に沿って軸方向に相対移動すると、転動体転動路13内に装填されている転動体3は、転動体転動路13内を転動しつつ案内レール1に対してスライダ2と同方向に移動する。そして、転動体3が転動体転動路13の終点に達すると、転動体転動路13からすくい上げられ湾曲路へ送られる。湾曲路に入った転動体3はUターンして直線状路14に導入され、直線状路14を通って反対側の湾曲路に至る。ここで再びUターンして転動体転動路13の始点に戻り、このような転動体循環路内の循環を無限に繰り返す。転動体3のこの動きにより、スライダ2の前記移動の円滑性が確保されている。
【0026】
この時、シール装置5の積層体15は、図3及び図6に示すように案内レール1の表面に向けて押圧部材18により押圧付勢されてシールケース18に保持されている。なお、本実施形態においては、積層体15を構成するシール層16は3枚として説明する。積層体15は、押圧付勢されているため、その一番外側に位置するシール層16のリップ部17は案内レール1の表面(上面1b及び両側面1a,1a)に接触し、押圧部材18dの押圧力とリップ部17の反力がバランスしている。このため2番目、3番目のシール層16は浮いた状態にある。
【0027】
この状態でスライダ2が、案内レール1に対して相対移動をすると、リップ部17が面1bに滑り接触した状態にあって、スライダ2の内外間をシールしている。この時、シール層16は、外側から内側になるにつれて、各シール層16の各リップ部17が、案内レール1の表面から遠ざかる位置になるよう積層されているため、積層体15の外側から二番目及び三番目に位置するシール層16のリップ部が案内レール1の表面に接触することはない。このように積層体15のシール層16が、案内レール1とスライダ2との間に形成された空隙部を外部から封止するため、密封性が保たれる。
【0028】
図4及び図7は、案内レール1の表面に滑り接触したことにより摩耗及び欠損が生じたリップ部17を示している。摩耗により、案内レール1と積層体15の一番外側に位置するシール層16との間に隙間が生じてしまい、密封性が保たれていないことが分かる。これら摩耗や欠損の発生具合はリップ部17の先端縁に沿う位置において均一でなく、隙間のある箇所とない箇所が発生する。したがって、積層体15は案内レール1の表面に向けて押圧付勢されてはいるものの、隙間を完全に埋めることができず、密封性が低下することになる。
【0029】
図5及び図8は、摩耗した積層体15の一番外側に位置するシール層16を剥離したシール装置5を示している。積層体15は案内レール1の表面に向けて押圧付勢されるため、一番外側に位置するシール層16が剥離されたことにより、二番目に積層されたシール層16が押圧部材18dにより押圧される、これにより、該シール層16のリップ部17が案内レール1の表面との隙間を埋めて、摺動可能に接触することになる。前述したように、この時、積層体15の外側から三番目に位置するシール層16のリップ部17が案内レール1の表面に接触することはない。このように一番外側のシール層16に摩耗や欠損が発生しても、該シール層16を剥離することにより、案内レール1とシール層16との間に形成された隙間を埋めることができるため、密封性が保たれる。
【0030】
このように、本実施形態のリニアガイド装置は、積層体15のシール層16の摩耗や破損により、案内レール1との隙間が生じた場合でも、一番外側に位置するシール層16を剥離することにより、外側から二番目に位置するシール層16によって新たに案内レール1とシール層16との間に形成された隙間を埋めることができるため、密封性が保たれる。したがって、シール装置を交換することなく、低下した密封性を容易に回復することができる。
【0031】
また、前記シール層16の積層及び剥離について説明すると、まず、シール層16の軸方向への移動に対して、シール層16どうしが押される場合には、シール層どうしの間に押し合いが生じるほか係合凸部16bの先端面と係合凹部16dの底面とが押し合う形態になる。また、シール層16どうしが相互に引かれる場合には、係合凸部16bの斜面16baと係合凹部16dの斜面16daとが押し合う形態となるため、これによって2枚のシール層16の係合が維持されて、シール層16が案内レール1の表面を摺動することで、軸方向と水平に外力が生じた場合においても、該シール層16がはがれにくくなっている。
【0032】
さらに、シール層16の係合凸部16bと係合凹部16dの両斜面16ba、16daが前記のようにスライダ2の軸方向外側に向かって上り勾配になっているから、外側のシール層16を外側の斜め上方へ強く引っ張れば、前記の対向する斜面16ba,16daに沿う方向に係合凸部16bが移動するから、凸部16bと凹部16dの少しの変形を伴って凹凸係合を比較的容易に外すことができて、図5に示したシール層16の取り外し操作が楽になる。
【0033】
〔第2実施形態〕
図9は、第2の実施形態に係るリニアガイド装置の断面図であり、第1の実施形態の図6に対応する断面図である。
本実施形態のシール装置5は、積層体15を構成するシール層16に、他のシール層16から剥離して、案内レール1から取り外すために引っ張る取り外し凸部20が、案内レール1の軸方向に交差する方向のいずれかに形成されている。この取り外し凸部20を、工具を用いてつまんで引っ張ることにより、シール層16の係合凸部16b及び係合凹部16dの嵌め込みが取れて、係止が解除され、シール層16を他のシール層16から剥離することができる。なお、本実施形態においては、押圧部材18dとして板バネを用いている。また、本実施形態の凸部20が、本発明の凸部に対応している。
【0034】
このような構成により、本実施形態のリニアガイド装置は、リニアガイド装置が用いられる装置内において手の届きにくい位置に配置された場合であっても、摩耗や欠損が生じたシール層16を剥離することができる。これにより、第1の実施形態のリニアガイド装置に比して、低下した密封性をより容易に回復することができる。なお、他の部位の構造と作用は前記第1の実施形態と同一である。
【0035】
〔第3実施形態〕
図10は、第3の本実施形態に係るリニアガイド装置に用いられるシール層16を示した図であり、図11は、図10におけるシール層16を矢印方向に引っ張った時のシール装置16の動きを示したものである。
本実施形態のシール層16は、形状は第2の実施形態におけるシール層16と同様に取り外し凸部を備えているが、ここでは芯材21を備えており、芯材21にゴム状弾性体22を被覆することにより第1及び第2の実施形態に示したように一体成型されている。また、芯材21の材料は特に限定されるものではないが、例えば金属等があげられる。
【0036】
芯材21は、シール層16を前記被覆の分だけひと回り小さくした大きさの略コ字状をなしており、左右方向における中間部に脆弱部23が設けられている。脆弱部23は、シール層16を構成する部分の中でその強度が脆弱に作られていればよく、例えば、シール層16の左右方向における中間部付近に芯材21を形成しない、或いは芯材21の断面積を小さくすることにより、脆弱部23を形成することができる。
【0037】
シール層16は、取り外し凸部20を図10における矢印方向に引っ張ると、全体において矢印方向に負荷がかかる。このとき、シール層16は案内レール1に跨架されて突起部19が案内レール1の転動体転動溝11に係合しているから、シール層16の図10における右半部には左半部に対して反時計方向に開く力が作用する。このため、脆弱部23が形成された中間部付近は、芯材21が形成されている部分に比して強度が弱いため、脆弱部23が窪みの中心になるようにシール層16が前記の開く力によって2つに折れ曲がる形となり、開口部が左右に開く形となる。
このような構成により、本実施形態のリニアガイド装置は、第1及び第2の実施形態のリニアガイド装置に比して、より容易に低下した密封性を回復することができる。なお、他の構造と作用は、第1及び第2の実施形態と同じである。
【0038】
〔第4実施形態〕
図12、図13は、本発明の第4実施形態を示す図である。
この実施形態における各シール層16は、いずれも同一の形状と寸法からなっている。但し、エンドキャップ2Bに近いシール層16については係合凸部16bを切除してある。このため、各シール層16はエンドキャップ2Bから遠いシール層16からエンドキャップ2Bに近いシール層16までが、段階的に順次案内レール1から離れるように積層されている。
【0039】
したがって各シール層16のリップ部17が同様に順次案内レール1から離れ、且つ各シール層16の前記リップ部17から遠い側にある外周部も同様に段階的に外側に位置づけられている。このため、シール層16を保持する保持部18cも、シール層16が接する内側が階段状に形成されている。
なお、エンドキャップ2Bに近いシール層16についても係合凸部16bを形成したままにしておき、シールケース18の板状固定部18aに、シール層16の係合凹部16dと同様の凹部を形成して、これに前記係合凸部16bを係合してもよい。この場合には、板状固定部18aの厚みを前記凹部の形成が可能な寸法に設定しておくものとする。
【0040】
この実施形態では、全てのシール層16が同一形状をしているため、エンドキャップ2Bから最も遠い側(外側)にあるシール層16にも係合凹部16dが形成されている。このため、外側のシール層16のリップ部17に、使用による摩耗や欠損が生じたときには、治具24を用いて当該シール層16を取り外すことができる。
すなわち、治具24の先端をシール層16の係合凸部16bと同一の形状にしておき、これを取り外すシール層16の係合凹部16dに係合して当該シール層16を次のシール層16から剥離させるものである。こうして治具24を人の手に持ち、或いは治具24を工具に支持させることにより、これをシール層16に係合して当該シール層16を剥離させて、次のシール層16により新たにシールすることができる。
【0041】
こうしてシール層16を剥離させることができれば、前記第2実施形態の凸部20をつまんで引っ張る必要がないから、前記凸部20を省略することもできる。なお、この第4実施形態のように治具24を用いるようにした場合でも、第2実施形態の凸部20を備えていて両者を選択的に併用することも可能である。
また、以上の各本実施形態は本発明の夫々の例を示したものであって、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。例えば、積層体15を構成するシール層16の枚数を3枚としたが、4枚以上としてもよく、また、2枚としてもよい。さらに、押圧部材18dとしてスポンジ等を用いてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 案内レール
2 スライダ
5 シール装置
10,11 転動体転動溝
16 シール層
17 リップ部
18 シールケース
18d 押圧部材
20 取り外し凸部
21 芯材
22 弾性体
23 脆弱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延びる転動体転動溝を外面に有する案内レールと、前記案内レールの転動体転動溝に対向して形成された転動体転動溝を有し、前記案内レールに相対移動可能に跨架されるスライダと、前記案内レールと前記スライダとの間に形成された空隙部を封止するように前記スライダの軸方向における前後少なくとも何れかに装着された接触型シール装置とを備えたリニアガイド装置において、
前記接触型シール装置は、案内レールに接する部分にリップ部を備えた複数のシール層が前記軸方向に沿って積層され、各シール層が前記スライダから遠い側の端部のシール層から順次前記スライダに近づく方向のシール層の順で1枚ごとに取り外し可能に積層されてなり、且つ前記スライダから遠い側の端部のシール層から順次前記スライダに近づく側のシール層の順で各リップ部が前記案内レールの表面から遠ざかる位置に形成されていて、これら複数のシール層が前記案内レールの表面に向けて押圧部材により押圧付勢されたことを特徴とするリニアガイド装置。
【請求項2】
前記スライダの少なくとも前後いずれかにシールケースを取り付け、このシールケースに、積層した複数のシール層を案内レール表面に向けて移動可能に支持させるとともに、前記複数のシール層のうち少なくとも前記スライダに最も近いシール層を前記シールケース内で前記押圧部材により前記案内レールに向けて押圧付勢したことを特徴とする請求項1に記載のリニアガイド装置。
【請求項3】
前記シール層には、当該シール層を他のシール層から取り外して前記案内レールから撤去するために引っ張る凸部が、前記案内レールの軸方向に交差する方向のいずれかに形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のリニアガイド装置。
【請求項4】
前記シール層は、前記案内レールへの跨架のための開口部を設けたコ字状をなすものであって、同様に略コ字状をなす芯材に弾性体を被覆してなり、前記芯材には、前記凸部を引っ張ることにより前記シール層の開口部が開くように、中間部に脆弱部を設けたことを特徴とする請求項3に記載のリニアガイド装置。
【請求項5】
積層される複数の各シール層を同一形状にしたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のリニアガイド装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2013−64497(P2013−64497A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−187018(P2012−187018)
【出願日】平成24年8月27日(2012.8.27)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】