説明

リニアモータの制御装置

【課題】磁気センサが出力する信号に周期的な変動成分が含まれる場合においても、リニアモータを安定して制御する。
【解決手段】リニアモータを制御する制御装置は、外部より入力された単位時間当たりに可動子を移動させる距離を示す位置指令に基づいて、可動子を等速にて移動させる等速制御と、可動子の速度を加速させる加速度制御とのいずれか一方を選択し、等速制御を選択した場合、可動子の速度に対する平均である平均速度と、速度指令とに基づいて、リニアモータに印加する電流値を示す電流指令を算出し、加速度制御を選択した場合、可動子の速度と、速度指令とに基づいて、電流指令を算出し、算出した電流指令に基づいてリニアモータに電流を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアモータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リニアモータの制御は、例えば、可動子の現在の位置と、可動子を移動させる目標位置との距離に基づいて行われている。リニアモータの可動子の位置を検出するために、例えば、駆動用磁石が生じさせている磁界を検出する磁気センサが用いられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−327189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、磁気センサは、その特性上、出力する信号に周期的な変動成分が含まれることがある。周期的な変動成分は、例えば、磁気センサに対向する磁極がN極の場合と、S極の場合とにおいて、出力する信号のレベルなどが異なるために生じてしまう。
この場合、磁気センサが出力する信号に基づいて可動子の位置検出を行うと、信号に含まれる周期的な変動成分の影響を受けて、得られる位置の情報に周期的な変動成分が含まれてしまう。
このような場合、磁気センサが出力する信号に基づいて位置検出を行い、検出した位置を示す信号を用いてリニアモータの制御を行うと、位置を示す信号に含まれる周期的な変動成分の影響により、リニアモータの制御が乱れてしまうという問題がある。
【0005】
図9は、リニアモータを駆動した際における可動子の移動速度と、リニアモータに印加する電流の電流値との一例を示す模式図である。同図において、横軸は時間を示し、縦軸は可動子が移動する速度及びリニアモータに流れる電流値を示している。
【0006】
同図には、一般的なリニアモータの駆動パターンが示されている。時刻T1から時刻T2までは、可動子を加速させて駆動する期間である。時刻T2から時刻T3までは、可動子を一定の速度にて駆動させる期間である。時刻T3から時刻T4までは、可動子を減速させて駆動する期間であり、時刻T4において可動子を所望の位置に停止させる。
【0007】
時刻T2から時刻T3の等速域において、破線により表されている波形は、磁気センサの出力に周期的な変動成分が含まれていない場合の電流値を示し、実線により表されている波形は、磁気センサの出力に周期的な変動成分が含まれている場合の電流値を示している。
【0008】
リニアモータにおいて、可動子を等速で駆動する場合、一般に、可動子と固定子との間に生じる摩擦力に相当する力を可動子に加える必要がある。そのために、図において破線により示されている波形のように、可動子に対する推力と、摩擦力とがつりあう一定の電流をリニアモータに流す。
【0009】
しかし、磁気センサが出力する信号に周期的な変動成分が含まれていると、当該信号に基づいて検出された速度が周期的に変動してしまう。このとき、リニアモータを制御する装置は、検出される速度を一定に保とうとして、加速と減速とを繰り返す制御をしてしまう。このため、図9に示すようにリニアモータに流す電流が周期的に変化することになり、制御が安定せずに乱れてしまうことがある。
【0010】
すなわち、可動子の位置を検出するための磁気センサから出力される信号に基づいてリニアモータの制御を行っている場合、磁気センサの出力に周期的な変動成分が含まれると、周期的な変動成分の影響により、リニアモータの制御が安定せずに乱れてしまうという問題がある。
【0011】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は、磁気センサが出力する信号に周期的な変動成分が含まれる場合においても、リニアモータを安定して制御できるリニアモータの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題を解決するために、本発明は、N極とS極とが交互に等間隔に配列された複数の駆動用磁石を備える駆動用磁石部と、複数のコイルを備える電機子とを具備し、前記電機子又は前記駆動用磁石部のいずれか一方が可動子であり、前記電機子に備えられている複数のコイルに電流を流して生じる磁界と、前記駆動用磁石が生じさせる磁界とにより前記駆動用磁石の配列された配列方向に前記可動子を直線運動させるリニアモータの制御装置であって、前記電機子に備えられている磁気センサであって前記駆動用磁石が生じさせている磁界の方向に応じた信号を出力する磁気センサと、前記磁気センサが出力する信号に基づいて前記可動子が移動する速度を検出する速度検出部と、前記速度検出部が検出した前記可動子の平均速度と、外部より単位時間ごとに入力される位置指令であって単位時間当たりに前記可動子を移動させる距離を示す位置指令から算出される速度指令との差分から前記複数のコイルに流す電流値を示す第1の電流指令を算出する速度制御部と、前記速度制御部が算出した第1の電流指令に基づいて前記複数のコイルに電流を印加する電力変換部とを備えることを特徴とするリニアモータの制御装置である。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、磁気センサが出力する信号に周期的な変動成分が含まれる場合においても、リニアモータを安定して制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態におけるリニアモータ装置の構成を示す概略図である。
【図2】本実施形態におけるMRセンサの原理を示す斜視図である。
【図3】本実施形態におけるリニアモータの斜視図(テーブルの断面を含む)である。
【図4】本実施形態におけるリニアモータの正面図である。
【図5】本実施形態における可動子の移動方向に沿った断面図を示す図である。
【図6】本実施形態におけるMRセンサ及びコイルと、駆動用磁石との相対的な位置との相対的な位置を示す模式図である。
【図7】本実施形態における制御装置10の構成を示す概略ブロック図である。
【図8】本実施形態における制御モード選択器の動作を示すフローチャートである。
【図9】リニアモータを駆動した際における可動子の移動速度と、リニアモータに印加する電流の電流値との一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態におけるリニアモータの制御装置を説明する。
図1は、本発明の実施形態におけるリニアモータ装置1の構成を示す概略図である。
同図に示すように、リニアモータ装置1は、制御装置10と、リニアモータ20とを具備している。制御装置10は、リニアモータ20を駆動させる制御をする装置である。リニアモータ20は、長尺の固定子21と、固定子21上を移動する可動子25と、固定子21及び可動子25を組み付ける一対の案内装置22、22を備えている。
【0016】
案内装置22は、例えば、ボールを介して組みつけられた軌道レール23及びスライドブロック26から構成されている。案内装置22の軌道レール23は、固定子21が有するベース54に固定され、案内装置22のスライドブロック26は、可動子25に固定されている。これにより、可動子25は、固定子21上を軌道レール23に沿って自在に案内されるようになっている。
【0017】
また、固定子21は、一対の軌道レール23、23の間に並べられた複数の駆動用磁石24を備えている。複数の駆動用磁石24は、可動子25が移動する方向(以下、移動方向という)において、N極及びS極の磁極が交互になるように並べられている。また、各駆動用磁石24は、移動方向において、同じ長さを有しており、可動子25の位置に関わらず一定の推力が得られるようになっている。
【0018】
可動子25は、複数のコイルを有する電機子60と、移動対象を取り付けるテーブル53と、MR(Magnetoresitive Elements;磁気抵抗素子)センサ27とを備えている。
MRセンサ27は、磁気センサの一種であり、固定子21に配列されている駆動用磁石24が生じさせる磁界の磁束線の方向に応じた信号を制御装置10に出力する。
【0019】
図2は、本実施形態におけるMRセンサ27の原理を示す斜視図である。同図に示すように、シリコン(Si)又はガラス基板271と、その上に形成されたニッケル(Ni)、鉄(Fe)などの強磁性金属を主成分とする合金の強磁性薄膜金属で形成される磁気抵抗素子272とを有する。磁気抵抗素子272は、電流の流れる方向(Y軸方向)に対して、磁気抵抗素子272を通過する磁束の方向がなす角度に応じて、抵抗値が変化する。
【0020】
MRセンサ27は、複数の磁気抵抗素子272を組み合わせて、2つのフルブリッジ回路を構成し、2つのフルブリッジ回路が45°の位相差を有する信号を出力するように配置されている。このように、特定の磁界方向で抵抗値が変化する素子を、AMR(Anisotropic Magneto-Resistance;異方性磁気抵抗素子)センサという(参考文献:「垂直タイプMRセンサ技術資料」、[online]、2005年10月1日、浜松光電株式会社、「2010年5月6日検索」、インターネット<URL;http://www.hkd.co.jp/technique/img/amr-note1.pdf>)。
【0021】
図1に戻って、制御装置10は、MRセンサ27が出力する信号に基づいて、固定子21上における可動子25の位置及び移動する速度を算出する。また、制御装置10は、算出した可動子25の位置及び速度と、上位の制御装置より入力される位置指令とに応じて、電機子60が有している複数のコイルに電流を流す。
これにより、複数のコイルに生じる磁界と、固定子21に配置されている駆動用磁石24により生じる磁界との作用により、可動子25を軌道レール23に沿って駆動させる。
【0022】
図3、図4を用いて、本実施形態におけるリニアモータ20の構成を説明する。
図3は、本実施形態におけるリニアモータ20の斜視図(テーブル53の断面を含む)である。図4は、本実施形態におけるリニアモータ20の正面図である。
【0023】
リニアモータ20は、上述のように、固定子21が、N極又はS極が着磁されている面を可動子25に向けて配列されている複数の板状の駆動用磁石24を備え、可動子25が、固定子21に対して相対的に直線運動をするフラットタイプのリニアモータである。可動子25に備えられている電機子60は、駆動用磁石24とすきまgを介して対向している。
【0024】
固定子21が有する細長く伸びているベース54上には、上述の複数の駆動用磁石24が、移動方向に一列に配列されている。ベース54は、底壁部54aと、底壁部54aの幅方向の両側に設けられている一対の側壁部54bとから構成されている。底壁部54aには、上述の複数の駆動用磁石24が取り付けられている。
【0025】
各駆動用磁石24には、移動方向と直交する方向(図4において上下方向)の両端面にN極及びS極が形成されている。複数の駆動用磁石24は、それぞれが隣接する一対の駆動用磁石24に対して磁極を反転させた状態で並べられている。
これにより、可動子25に取り付けられているMRセンサ27に対し、可動子25が移動した際に、駆動用磁石24のN極とS極との磁極が交互に対向するようになっている。
【0026】
ベース54の側壁部54bの上面には、案内装置22の軌道レール23が取り付けられている。軌道レール23には、上述したように、スライドブロック26がスライド可能に組み付けられている。軌道レール23と、スライドブロック26との間には、転がり運動可能に複数のボールが介在されている(図示せず)。
【0027】
スライドブロック26には、複数のボールを循環させるためのトラック状のボール循環経路が設けられている。軌道レール23に対して、スライドブロック26がスライドすると、複数のボールがこれらの間を転がり運動し、また複数のボールがボール循環経路を循環する。これにより、スライドブロック26の円滑な直線運動が可能になる。
【0028】
案内装置22のスライドブロック26の上面には、可動子25のテーブル53が取り付けられている。テーブル53は、例えば、アルミニウムなどの非磁性素材からなり、移動対象が取り付けられる。テーブル53の下面には、電機子60が吊り下げられている。図4の正面図に示されるように、駆動用磁石24と電機子60との間には、すきまgが設けられている。案内装置22は、電機子60が駆動用磁石24に対して相対的に移動するときも、このすきまgを一定に維持する。
【0029】
図5は、本実施形態における可動子25の移動方向に沿った断面図を示す図である。
テーブル53の下面には、断熱材63を介して電機子60が取り付けられている。電機子60は、珪素鋼などの磁性素材からなるコア64と、上述した複数のコイルであり、コア64の突極64u、64v、64wに巻かれるコイル28u、28v、28wとを有している。
【0030】
コイル28u、28v、28wそれぞれには、位相差を有する三相交流が制御装置10から供給される。突極64u、64v、64wに3つのコイル28u、28v、28wを巻いた後、3つのコイル28u、28v、28wは、樹脂封止される。
また、テーブル53の下面には、電機子60を挟んで一対の補助コア67が取り付けられている。補助コア67は、リニアモータ20に発生するコギングを低減するために設けられている。
【0031】
図6は、本実施形態におけるMRセンサ27及びコイル28u、28v、28wと、駆動用磁石24との相対的な位置との相対的な位置を示す模式図である。
固定子21には、上述したように、ベース54の底壁部54a上に、駆動用磁石24が配列されている。より詳細には、MRセンサ27に対しN極を向けて配置されている駆動用磁石24Nと、MRセンサ27に対しS極を向けて配置されている駆動用磁石24Sとが、移動方向に交互に配列されている。
【0032】
可動子25において、コイル28u、28v、28wは、固定子21に配置された駆動用磁石24の中心を通過し、移動方向に対し平行な直線上を通過に配列されている。また、MRセンサ27は、コイル28u、28v、28wと同様に、各駆動用磁石24の中心を通過し、移動方向に対し平行な直線上を通過する位置に取り付けられている。これにより、MRセンサ27を駆動用磁石24が生じさせる磁界の最も強い位置を通過させることができる。
【0033】
図7は、本実施形態における制御装置10の構成を示す概略ブロック図である。
同図に示すように、制御装置10は、位置制御器101、微分器102、105、スイッチ103、107、113、速度制御器104、加速度制御器106、電流制御器108、電力変換器109、変流器110、パルス生成器111、速度検出器112、平均化器114、位置検出器115、及び制御モード選択器116を備えている。
【0034】
位置制御器101は、位置検出器115から入力されるリニアモータ20の可動子25の位置を示す信号と、上位の制御装置から入力される位置指令とに基づいて、リニアモータ20の可動子25を位置指令により示される位置に移動させるための第1の速度指令を算出する。
ここで、上位の制御装置は、可動子25を移動させる目標位置までの距離に応じて、単位時間当たりに可動子25を移動させる距離の示す信号列を生成する。例えば、上位の制御装置は、可動子25を移動させる目標位置までの距離に応じた駆動パターン(図9に示した加速域、等速域、減速域それぞれにおける期間の長さと、等速域における速度との組み合わせ)を生成し、生成した駆動パターンから毎単位時間における可動子25を移動させる距離を算出して、位置指令として単位時間ごとに位置制御器101に入力する。
【0035】
第1の速度指令は、位置指令により示される距離に対する可動子25が単位時間内に移動した距離の偏差(差分)に、可動子25を移動させる際の摩擦抵抗などのリニアモータ20が有する特性を考慮して予め設定された係数を乗じて算出される値である。また、第1の速度指令を算出するための係数は、シミュレーションや測定の結果などに基づいて定められる値である。
なお、第1の速度指令は、位置指令により示される距離に対する可動子25の位置の偏差を用いたPI演算又はPID演算などにより算出するようにしてもよい。
【0036】
微分器102は、外部から入力される位置指令により示される距離の変化量に基づいて第2の速度指令を算出する。具体的には、微分器102は、単位時間ごとに入力される位置指令の差分を第2の速度指令として算出する。
【0037】
速度制御器104には、位置制御器101が算出した第1の速度指令、及び微分器102が算出した第2の速度指令のうちスイッチ103により選択されるいずれか一方の速度指令が入力される。また、速度制御器104には、速度検出器112が検出した可動子25が移動する速度、あるいは、当該速度の平均値(平均速度)のいずれかがスイッチ113により選択されて入力される。
【0038】
また、速度制御器104は、入力される速度指令に対する可動子25が移動する速度の偏差、又は入力される速度指令に対する速度の平均値の偏差のいずれかを用いたPI演算又はPID演算により第1の電流指令を算出する。ここで、第1の電流指令は、速度指令により示される可動子25が移動する際の速度を得るためにコイル28u、28v、28wに印加する電流値を示す信号である。
【0039】
微分器105は、微分器102が算出する第2の速度指令の変化量に基づいて加速度指令を算出する。加速度指令は、可動子25に与える加速度を示す信号である。例えば、微分器105は、単位時間ごとに入力される第2の速度指令の差分を加速度指令として算出する。
【0040】
加速度制御器106は、微分器105が算出する加速度指令により示される加速度を得るための電流値である第2の電流指令を算出する。第2の電流指令は、加速度指令により示される加速度に対して、可動子25を移動させる際の摩擦抵抗などのリニアモータ20が有する特性を考慮して予め設定された係数を乗じて、あるいはPI演算又はPID演算により算出される電流値を示す信号である。
【0041】
電流制御器108には、スイッチ107により選択される、速度制御器104が算出する第1の電流指令、及び加速度制御器106が算出する第2の電流指令のいずれか一方の電流指令と、変流器110により検出されるリニアモータ20に流れる電流値とが入力される。また、電流制御器108は、PI制御又はPID制御などにより、リニアモータ20に流れる電流値が、電流指令により示される値になるように電力変換器109を制御する電圧指令を算出する。
【0042】
電力変換器109は、リニアモータ20のコイルの数に応じて設けられ、スイッチング素子を有する上アーム及び下アームを有しているインバータ回路である。また、電力変換器109は、電流制御器108より入力される電圧指令に応じて、スイッチング素子のオン・オフを切り替えるPWM制御により、スイッチング素子を介して電機子60に備えられているコイル28u、28v、28wに電力を供給して、可動子25を駆動する。スイッチング素子は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor;絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)などの半導体素子が用いられる。
【0043】
変流器110は、電力変換器109と、リニアモータ20との間に設けられており、電力変換器109からリニアモータ20に流される電流の電流値を検出し、検出した電流値を示す信号を電流制御器108に出力する。
パルス生成器111は、MRセンサ27から出力される信号から、可動子25が移動する距離及び方向を示すパルス信号を出力する。
【0044】
速度検出器112は、パルス生成器111から入力されるパルス信号と、固定子21に配列されている駆動用磁石24の磁極ピッチとに基づいて、可動子25が固定子21に対して移動する速度を算出し、算出した速度を示す信号を出力する。
平均化器114は、スイッチ113を介して速度検出器112から入力される可動子25の速度を示すパルス信号から可動子25の速度の平均値を算出し、算出した平均値を示す信号を速度制御器104に出力する。
【0045】
位置検出器115は、パルス生成器111から入力されるパルス信号と、固定子21に配列されている駆動用磁石24の磁極ピッチとに基づいて、予め定めた基準位置から可動子25までの駆動用磁石24が配列されている配列方向における距離を算出する。換言すると、位置検出器115は、固定子21に備えられている軌道レール23上における可動子25の位置を算出し、算出した位置を示す信号を位置制御器101に出力する。
【0046】
例えば、位置検出器115は、入力されるパルス信号のパルスの数をカウントして、可動子25の位置を算出する。また、基準位置には、例えば、可動子25の軌道レール23上の可動範囲におけるいずれか一点が選択される。
上述したように、MRセンサ27、パルス生成器111、及び位置検出器115は、可動子25の位置の検出を行うリニアエンコーダを実現している。なお、位置検出器115は、リニアモータ装置1の起動時において、検出する位置の基準位置となる原点の検出を行う。
【0047】
制御モード選択器116には、外部から位置指令と、微分器105から加速度指令とが入力される。制御モード選択器116は、入力される位置指令及び加速度指令に基づいて、スイッチ103、107、113それぞれを切り替えることにより、停止制御、加速度制御、及び速度制御のうちいずれかの制御方法を選択してリニアモータ20に電流を印加する。
【0048】
停止制御は、スイッチ103が端子S1を選択し、スイッチ107が端子S5を選択し、スイッチ113が端子S3を選択することにより行われる制御である。
停止制御では、位置制御器101、速度制御器104、電流制御器108、電力変換器109、パルス生成器111、位置検出器115による制御のループと、速度制御器104、電流制御器108、電力変換器109、パルス生成器111、速度検出器112による制御のループとが形成される。また、停止制御では、位置検出器115が検出する可動子25の位置を示す信号に基づいて、可動子25が動かないように電流が印加される。
【0049】
加速度制御は、スイッチ107が端子S6を選択することにより行われる制御である。
加速度制御では、位置指令に基づいたオープンループ制御が行われる。
【0050】
速度制御は、スイッチ103が端子S2を選択し、スイッチ107が端子S5を選択し、スイッチ113が端子S4を選択することにより行われる制御である。
速度制御では、位置制御器101、速度制御器104、電流制御器108、電力変換器109、パルス生成器111、位置検出器115による制御のループと、速度制御器104、電流制御器108、電力変換器109、パルス生成器111、速度検出器112、平均化器114による制御のループとが形成される。
【0051】
図8は、本実施形態における制御モード選択器116の動作を示すフローチャートである。
制御装置10において、リニアモータ20の制御が開始されると、制御モード選択器116は、入力される位置指令により示される距離が0であるか否かを判定する(ステップS101)。
【0052】
入力される位置指令により示される距離が0である場合(ステップS101:YES)、制御モード選択器116は、スイッチ103、107、113を切り替えて停止制御を選択し(ステップS102)、ステップS101に戻る。
一方、入力される位置指令により示される距離が0でない場合(ステップS101:NO)、制御モード選択器116は、入力される加速度指令により示される値が0であるか否かを判定する(ステップS103)。
【0053】
加速度指令により示される値が0でない場合(ステップS103:NO)、制御モード選択器116は、スイッチ103、107、113を切り替えて加速度制御を選択し(ステップS104)、ステップS101に戻る。
一方、加速度指令により示される値が0である場合(ステップS103:YES)、制御モード選択器116は、スイッチ103、107、113を切り替えて速度制御を選択し(ステップS105)、ステップS101に戻る。
【0054】
上述のように、本実施形態における制御装置10は、制御モード選択器116が、加速度指令により示される値が0である場合、速度制御を選択するようにした。すなわち、可動子25を一定の速度で駆動する場合、速度制御器104は、位置制御器101が算出した第1の速度指令と、平均化器114により算出された速度の平均値との差分から、固定子25の速度が第1の速度指令により示される速度になるように、リニアモータ20の電機子60に備えられている複数のコイル28u、28v、28wに流す電流値を示す第1の電流指令を算出する。そして、電流制御器108は、速度制御器104が算出した第1の電流指令に応じて、コイル28u、28v、28wに電流を流す制御を行う。
【0055】
これにより、MRセンサ27が出力する信号に周期的な変動成分が含まれる場合においても、検出した速度を平均化して制御に用いるので、検出した速度に含まれる周期的な変動成分を抑圧することができ、リニアモータ20を安定して制御することができる。
また、リニアモータ20の可動子25を等速にて移動させる場合、可動子25の平均速度に基づいて第1の電流指令を算出するので、速度に含まれる周期的な変動性分が平均化により抑圧され、第1の電流指令を安定させることができる。その結果、コイル28u、28v、28wに印加する電流を安定させることができ、電流値の変化に伴うコイル28u、28v、28wの過剰な発熱を抑えることができる。また、コイル28u、28v、28wに流れる電流値が安定させることができ、消費電力が増加することを防ぐことができる。
更に、コイル28u、28v、28wの過剰な発熱を抑えることができるので、コイル28u、28v、28wの発熱によるリニアモータ20の劣化を抑えることができる。
また、制御装置10における制御方法の切り替えは、制御装置10に設けられる制御用のマイコンなどのプログラム変更により容易に実現できる。そのため、周期的な変動成分が出力する信号に含まれないようにする対策が施された高価なMRセンサを用いる場合に比べ、製造コストを増加させることなく、安定したリニアモータ20の制御を実現することができる。
【0056】
また、制御装置10は、制御モード選択器116が、加速度指令により示される値が0でない場合、加速度制御を選択するようにした。すなわち、可動子25を加速(減速)させて駆動する場合、電力変換器109は、加速度制御器106が算出した第2の電流指令に基づいて、コイル28u、28v、28wに電流を流す制御を行う。
これにより、制御装置10は、可動子25を加速(減速)させて駆動する場合、入力される位置指令に基づいたオープンループ制御をするので、MRセンサ27が出力する信号に含まれる周期的な変動成分の影響を受けることなく、リニアモータ20の制御をするので、リニアモータ20を安定して制御することができる。また、可動子25を加速(減速)させて駆動する場合、MRセンサ27の影響により速度が変化しているようにみえているのか、可動子25が加速しているので速度が変化しているのかを区別する複雑な判定を用いる必要がないので、制御装置10の構成が複雑になることを防ぐことができる。
【0057】
制御モード選択器116は、微分器105が算出する加速度指令が0(ゼロ)を示す場合、速度制御を選択し、前記加速度指令が0(ゼロ)を示さない場合、加速度制御を選択するようにした。
これにより、加速度制御のために算出する加速度指令を流用して、リニアモータ20の制御方法を選択するので、制御モード選択器116が行う演算を容易にすることができる。
【0058】
また、制御装置10において、平均化器114は、スイッチ113が端子S4を選択してから入力される速度の平均値を算出するようにした。すなわち、平均化器114は、速度制御が選択されてから現在までの間に、速度検出器112が検出した速度の平均値を算出するようにした。
これにより、速度検出器112が検出した速度を示す情報の全てを用いて平均を算出するので、平均値(平均速度)に含まれる周期的な変動成分を十分に抑圧することができ、可動子25を等速で移動させる場合により安定した制御を行うことができる。
【0059】
なお、上記の実施形態において、平均化器114は、速度制御が選択されてから現在までの可動子25の速度の平均値を算出する構成を説明したが、これに限らず、制御モード選択器116が速度制御を選択している場合、駆動用磁石24の磁極ピッチを整数倍した距離により定められる区間ごとに、速度検出器112が検出した速度の平均値を算出し、算出した平均値のうち最も新しい平均値を速度制御器104に出力するようにしてもよい。
これにより、平均化器114において、速度の平均値を算出するための演算量を削減して応答性を改善することができ、可動子25を高速で移動させる場合にも安定して制御を行うことができる。これは、MRセンサ27が出力する信号に含まれる周期的な変動成分が、駆動用磁石24の磁極ピッチに応じて変化するような場合などに特に有効である。
【0060】
なお、上記の実施形態において、電機子60を備えた可動子25が、駆動用磁石24を備えた固定子21に対して、相対的に直線運動をするフラットタイプのリニアモータ20を制御する構成を説明した。しかし、これに限らず、ロッドタイプの駆動用磁石を備えた可動子が、電機子(コイル)を備えた固定子に対して相対的に直線運動をするロッドタイプのリニアモータに適用するようにしてもよい。
【0061】
なお、上記の実施形態において、速度の平均値は、平均化器114が入力される速度の平均を算出する構成を説明したが、速度制御が選択されている間に移動した距離を、当該距離の移動に要した時間で除算して算出するようにしてもよい。
【0062】
上述のリニアモータ20の制御装置10は、内部にコンピュータシステムを有していてもよい。その場合、上述した制御装置10に備えられている各機能部が行う処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記の処理が行われることになる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【符号の説明】
【0063】
1…リニアモータ装置、10…制御装置、20…リニアモータ、21…固定子、25…可動子、27…MRセンサ、101…位置制御器、102…微分器、103…スイッチ、104…速度制御器、105…微分器(加速度算出部)、106…加速度制御器、107…スイッチ、108…電流制御器、109…電力変換器、110…変流器、111…パルス生成器、112…速度検出器、113…スイッチ、114…平均化器、115…位置検出器、116…制御モード選択器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N極とS極とが交互に等間隔に配列された複数の駆動用磁石を備える駆動用磁石部と、複数のコイルを備える電機子とを具備し、前記電機子又は前記駆動用磁石部のいずれか一方が可動子であり、前記電機子に備えられている複数のコイルに電流を流して生じる磁界と、前記駆動用磁石が生じさせる磁界とにより前記駆動用磁石の配列された配列方向に前記可動子を直線運動させるリニアモータの制御装置であって、
前記電機子に備えられている磁気センサであって前記駆動用磁石が生じさせている磁界の方向に応じた信号を出力する磁気センサと、
前記磁気センサが出力する信号に基づいて前記可動子が移動する速度を検出する速度検出部と、
前記速度検出部が検出した前記可動子の平均速度と、外部より単位時間ごとに入力される位置指令であって単位時間当たりに前記可動子を移動させる距離を示す位置指令から算出される速度指令との差分から前記複数のコイルに流す電流値を示す第1の電流指令を算出する速度制御部と、
前記速度制御部が算出した第1の電流指令に基づいて前記複数のコイルに電流を印加する電力変換部と
を備えることを特徴とするリニアモータの制御装置。
【請求項2】
前記速度制御部は、前記可動子を等速にて移動させる等速制御を行う場合、前記速度検出部が検出した前記可動子の平均速度と、前記速度指令との差分から前記第1の電流指令を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のリニアモータの制御装置。
【請求項3】
前記位置指令に基づいて、前記可動子の速度を加速させる加速度制御と、前記等速制御とのいずれか一方を選択する制御モード選択部を更に備え、
前記速度制御部は、前記制御モード選択部が前記等速制御を選択した場合、前記速度検出部が検出した前記可動子の平均速度と、前記速度指令との差分から前記第1の電流指令を算出し、前記制御モード選択部が前記加速度制御を選択した場合、前記速度検出部が検出した現在の前記可動子の速度と、前記速度指令との差分から前記第1の電流指令を算出する
ことを特徴とする請求項2に記載のリニアモータの制御装置。
【請求項4】
前記位置指令から前記可動子に与える加速度を示す加速度指令を算出する加速度算出部と、
前記加速度算出部が算出する加速度指令に基づいて前記複数のコイルに流す電流値を示す第2の電流指令を算出する加速度制御部と、
前記電力変換部は、前記可動子を加速させて駆動する場合、前記加速度制御部が算出する第2の電流指令に基づいて前記複数のコイルに電流を印加する
ことを特徴とする請求項3に記載のリニアモータの制御装置。
【請求項5】
前記制御モード選択部は、
前記加速度算出部が算出する加速度指令が0(ゼロ)を示す場合、等速制御を選択し、前記加速度指令が0(ゼロ)を示さない場合、加速度制御を選択する
ことを特徴とする請求項3又は請求項4のいずれかに記載のリニアモータの制御装置。
【請求項6】
前記速度制御部は、
前記制御モード選択部が等速制御を選択してから現在までの間に、前記速度検出部が検出した速度の平均値を前記平均速度として用いる
ことを特徴とする請求項3から請求項5のいずれか一項に記載のリニアモータの制御装置。
【請求項7】
前記速度制御部は、
前記制御モード選択部が等速制御を選択している場合、
前記複数の駆動用磁石において隣り合う駆動用磁石の磁極間の距離を整数倍した距離により定められる区間ごとに、前記速度検出部が検出した速度の平均値を算出し、算出した平均値のうち最も新しい平均値を前記平均速度として用いる
ことを特徴とする請求項3から請求項5のいずれか一項に記載のリニアモータの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−5258(P2012−5258A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138419(P2010−138419)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】