説明

リパーゼ阻害剤

【課題】従来にない優れたリパーゼ阻害活性を有する組成物及び当該組成物を含むリパーゼ阻害剤、並びに飲食品を提供する。
【解決手段】組成物に少なくともテアフラビン類及びカテキン類を含む茶ポリフェノール類を含有せしめ、茶ポリフェノール類の含有量を80質量%以上とし、テアフラビン類の含有量をカテキン類の含有量よりも多くすることにより、当該組成物が優れたリパーゼ阻害活性を発揮し得る。また、上記組成物をリパーゼ阻害剤に含有せしめ、上記組成物又は上記リパーゼ阻害剤を飲食品に配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然由来成分を含有するリパーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本人の食生活の高カロリー化が進み、脂肪の摂取割合が高くなっていることが問題視されている。脂肪の過剰摂取は、肥満ばかりでなく、糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞等の疾病を引き起こすおそれもある。
【0003】
食事に含まれる脂肪(トリグリセリド、中性脂肪等)は、そのままでは消化管から吸収されず、消化酵素の一つであるリパーゼ(膵リパーゼ)によって2−モノアシルグリセロールと脂肪酸とに分解されて初めて消化管から吸収される。吸収された2−モノアシルグリセロールは、小腸細胞内でトリグリセリドに再合成され、血中に放出される。血中に放出されたトリグリセリドは、リポタンパクリパーゼによって脂肪酸とグリセリンとに分解され、脂肪組織に取り込まれ、トリグリセリドに再合成される。一方、ホルモン感受性リパーゼは、脂肪組織中のトリグリセリドを分解して血中に脂肪酸を放出させる。
【0004】
肥満、糖尿病等を予防するためには、このような脂肪の消化吸収酵素であるリパーゼの活性を阻害することが有効であると考えられる。なぜならば、脂肪の消化吸収酵素の働きを阻害することで、脂肪の分解吸収が妨げられるため、摂取された脂肪は体内に吸収されることなく排泄されることになるからである。
【0005】
このような観点から、従来、リパーゼの活性を阻害する作用を有する成分の開発が盛んになされている。特に、安全で摂取しやすいという観点から、天然物由来の当該成分の開発が盛んになされており、天然物(天然植物等)に由来する成分を含むリパーゼ阻害剤が多数知られている。このような天然植物由来成分の中でも、茶葉の抽出物、特にカテキン類やテアフラビン類が、優れた脂質の消化吸収抑制作用を有することが知られており、リパーゼ阻害作用を有することについても知られている(特許文献1〜3等参照)。
【特許文献1】特開2005−247747号公報
【特許文献2】特開2005−336117号公報
【特許文献3】国際公開2006/004114号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1〜3に記載の茶葉由来成分は、リパーゼ阻害活性を有するものの、さらに優れたリパーゼ阻害活性を有する天然由来成分が望まれている。
【0007】
このような観点から、本発明は、従来にない優れたリパーゼ阻害活性を有する組成物及び当該組成物を含むリパーゼ阻害剤、並びに飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一に本発明は、少なくともテアフラビン類及びカテキン類を含む茶ポリフェノール類を含有し、前記茶ポリフェノール類の含有量が、80質量%以上であり、前記テアフラビン類の含有量が、前記カテキン類の含有量よりも多いことを特徴とする組成物を提供する(請求項1)。
【0009】
上記発明(請求項1)のように茶ポリフェノール類の含有量を80質量%以上とし、かつカテキン類よりもテアフラビンを多く含有することで、優れたリパーゼ阻害活性を有する組成物とすることができる。
【0010】
本発明において「テアフラビン類」には、テアフラビン(非ガレート型テアフラビン)の他、テアフラビン−3−モノガレート、テアフラビン−3’−モノガレート及びテアフラビン−3,3’−ジガレート等のガレート基を有するエステル型テアフラビン(ガレート型テアフラビン類)が含まれる。また、「カテキン類」には、カテキン、ガロカテキン、エピカテキン及びエピガロカテキン(非ガレート型カテキン類)の他、カテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピカテキンガレート及びエピガロカテキンガレート等のガレート基を有するエステル型カテキン類(ガレート型カテキン類)が含まれる。
【0011】
上記発明(請求項1)においては、前記カテキン類として少なくともエピガロカテキンガレートを含み、前記エピガロカテキンガレートの含有量に対する前記テアフラビン類の含有量の比率が、1〜50であるのが好ましい(請求項2)。
【0012】
上記発明(請求項2)のようにテアフラビン類の含有量を多くするとともに、カテキン類のうち特にエピガロカテキンガレートの含有量を少なくすることで、より優れたリパーゼ阻害活性を有する組成物とすることができる。
【0013】
上記発明(請求項1,2)においては、前記テアフラビン類の含有量が、20質量%以上であるのが好ましい(請求項3)。かかる発明(請求項3)のようにテアフラビン類の含有量を上記範囲とすることで、より優れたリパーゼ阻害活性を有する組成物とすることができる。
【0014】
上記発明(請求項1〜3)においては、前記茶ポリフェノール中におけるガレート型テアフラビン類の総含有量が、10〜50質量%であるのが好ましい(請求項4)。
【0015】
上記発明(請求項4)のように茶ポリフェノール中におけるガレート型テアフラビン類の総含有量が上記範囲内であることで、より優れたリパーゼ阻害活性を有する組成物とすることができる。
【0016】
上記発明(請求項1〜4)においては、前記テアフラビン類中におけるガレート型テアフラビン類の含有比率が、75〜95質量%であるのが好ましい(請求項5)。かかる発明(請求項5)のようにテアフラビン類中におけるガレート型テアフラビン類の含有率(ガレート体率)を高くすることで、より優れたリパーゼ阻害活性を有する組成物とすることができる。
【0017】
上記発明(請求項1〜5)においては、カフェインの含有量が、10質量%以下であるのが好ましい(請求項6)。カフェインは、摂取量や個人差によってはカフェインのもつ強い生理活性作用により、めまい、不眠、心悸亢進、悪心等の症状が起こるおそれがあるが、かかる発明(請求項6)によれば、組成物中のカフェインの含量を少なくすることができるため、カフェインのもつ生理活性による様々な好ましくない症状が起こるのを抑制しつつ、優れたリパーゼ阻害活性を有する組成物とすることができる。
【0018】
第二に本発明は、上記発明(請求項1〜6)に係る組成物を有効成分として含有することを特徴とするリパーゼ阻害剤を提供する(請求項7)。かかる発明(請求項7)によれば、優れたリパーゼ阻害活性を有するリパーゼ阻害剤とすることができる。
【0019】
第三に本発明は、上記発明(請求項1〜6)に係る組成物又は上記発明(請求項7)に係るリパーゼ阻害剤を配合したことを特徴とする飲食品を提供する(請求項8)。かかる発明(請求項8)によれば、上記組成物又は上記リパーゼ阻害剤を、摂取し易い形態である飲食品として提供することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来にない優れたリパーゼ阻害活性を有する組成物及び当該組成物を含むリパーゼ阻害剤、並びに飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔組成物〕
本実施形態に係る組成物は、少なくともテアフラビン類とカテキン類とを含む茶ポリフェノールを含有し、テアフラビン類の含有量が、カテキン類の含有量よりも多いものである。
【0022】
本発明の組成物における茶ポリフェノールは、少なくともテアフラビン類とカテキン類とを含むものであればよいが、これら以外にも、茶に含まれるテアシネンシン類、テアルビジン類、プロアントシアニジン類及びその他加水分解型タンニン類等を含むものであってもよい。
【0023】
本発明の組成物における茶ポリフェノールの含有量は、80質量%以上であり、好ましくは80〜90質量%である。茶ポリフェノールの含有量が80質量%未満であると、十分なリパーゼ阻害活性を発揮できないおそれがある。
【0024】
本発明の組成物においては、テアフラビン類の含有量を多くするとともに、カテキン類、特にエピガロカテキンガレートの含有量を少なくする。テアフラビン類及びカテキン類(特に、エピガロカテキンガレート)は、それぞれリパーゼ阻害活性を有することが知られているが、このようにテアフラビン類の含有量を多くし、カテキン類の含有量を少なくすることで、組成物の有するリパーゼ阻害活性をより優れたものとすることができる。
【0025】
具体的には、エピガロカテキンガレートの含有量に対するテアフラビン類の含有量の比率が、1〜50であるのが好ましく、3〜50であるのがさらに好ましく、9〜50であるのが特に好ましい。当該比率が上記範囲内であれば、本発明の組成物が優れたリパーゼ阻害活性を発揮することができる。
【0026】
さらに、上記組成物中におけるテアフラビン類の含有量は、20質量%以上であるのが好ましく、特に20〜30質量%であるのが好ましい。このように、上記組成物中においてテアフラビン類を20質量%以上と多く含有することで、本発明の組成物が優れたリパーゼ阻害活性を発揮することができる。
【0027】
茶ポリフェノール中におけるガレート型テアフラビン類の総含有量は、10〜50質量%であるのが好ましく、特に15〜50質量%であるのが好ましく、さらに20〜50質量%であるのが好ましい。ガレート型テアフラビン類は、非ガレート型テアフラビンに比して優れた生理活性(リパーゼ阻害活性)を有することから、茶ポリフェノール中におけるガレート型テアフラビン類の総含有量を上記範囲内とすることで、より優れたリパーゼ阻害活性を発揮することができる。
【0028】
特に、テアフラビン類中におけるガレート型テアフラビン類の比率は、75〜95質量%であるのが好ましい。テアフラビン類のうち、より生理活性(リパーゼ阻害活性)の強いガレート型テアフラビン類の当該比率が上記範囲内であることで、より優れたリパーゼ阻害活性を発揮することができる。
【0029】
このような組成物において、カフェインの含有量が少ないのが好ましく、具体的には10質量%以下であるのが好ましく、1質量%以下であるのが特に好ましい。カフェインは、その摂取量や個人差によってはカフェインのもつ強い生理活性作用により、めまい、不眠、心悸亢進、悪心等の症状を起こしてしまうおそれもあるが、本発明の組成物によれば、カフェインの含有量を低減させることができるため、カフェインのもつ生理活性による各種症状を抑制することができる。
【0030】
以下に、上記組成物の製造方法の一例を説明する。
上記組成物を製造するにあたっては、まず、紅茶抽出液を製造する。
本発明において使用する抽出原料は、茶(学名:Camellia sinensis)の葉部、茎部を完全に発酵させて得られる紅茶(紅茶葉)である。紅茶の茶種としては、特に限定されるものではなく、例えば、ダージリン、アッサム、ニルギ、シッキム、ウバ、ヌワラエリア、ディンブラ、ウダプセラワ、キャンディ、ルフナ、キーモン、ラプサンスーチョン、雲南種、ケニア種、ジャワ種、スマトラ種、ネパール種、トルコ種、バングラディシュ種等が挙げられる。
【0031】
上記紅茶抽出液を得るためには、特殊な抽出方法を用いることなく、植物の一般的な抽出方法を用いればよい。例えば、紅茶葉を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用い粉砕して溶媒抽出による抽出に供することにより、紅茶抽出液を得ることができる。紅茶葉の乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。
【0032】
抽出溶媒としては、含水有機溶媒を、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用するのが好ましい。抽出溶媒として含水有機溶媒を用いることで、得られる紅茶抽出液中のテアフラビン類の含有量を増大させることができる。
【0033】
含水有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等の低級脂肪族アルコール;アセトン等の低級脂肪族ケトン等のうちの1種又は2種以上の有機溶媒と水との混合溶媒を用いることができ、特にエタノール水溶液を用いるのが好ましい。エタノールは食品添加物として認められているものであることから、抽出溶媒としてエタノール水溶液を用いることで、人体等への安全性の高い紅茶抽出液を得ることができる。
【0034】
抽出溶媒としての含水有機溶媒の有機溶媒濃度は、少なくとも紅茶葉からテアフラビン類を抽出させ得る限り特に限定されるものではなく、例えば、5〜90容量%であればよい。
【0035】
抽出処理は、抽出原料としての紅茶葉に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、紅茶葉の1〜30倍量(質量比)、好ましくは1〜10倍量(質量比)の抽出溶媒に、紅茶葉を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより紅茶抽出液を得ることができる。
【0036】
次に、上記のようにして得られた紅茶抽出液を精製する。これにより、本発明の組成物が得られる。
紅茶抽出液の精製工程においては、まず、紅茶抽出液をそのまま合成吸着剤を充填したカラムに通液し、紅茶抽出液中の各成分(特に、テアフラビン類、カテキン類、カフェイン等)を合成吸着剤に吸着させる。本製造方法においては、上記紅茶抽出液をそのままカラムに通液することができるため、紅茶抽出液の精製工程の前処理としての紅茶抽出液を希釈したり、濃縮したりする工程を省略することができ、精製紅茶抽出物の製造を簡易化することができる。
【0037】
なお、本製造方法においては、上記紅茶抽出液の希釈物をカラムに通液してもよいし、上記紅茶抽出液の濃縮物又は乾燥物等を、所定の溶媒(例えば、エタノール水溶液等)に溶解させた紅茶抽出物溶液をカラムに通液してもよい。なお、抽出溶媒としてエタノール水溶液以外の含水有機溶媒(例えば、メタノール水溶液、アセトン水溶液等)を用いた場合、紅茶抽出液から抽出溶媒を留去し、所望により乾燥させて得られた紅茶抽出物(濃縮物、乾燥物等)を、エタノール水溶液に溶解させて、カラムに通液することで、より人体等への安全性の高い組成物を製造することができる。
【0038】
カラムに充填される吸着剤としては、少なくとも紅茶抽出液中に含有されるガレート型テアフラビン類を吸着し得るものであればよく、例えば、活性炭(例えば、ZN−50(味の素ファインテクノ社製));親水性ビニルポリマー(例えば、トヨパールHW40EC(東ソー社製))、ヒドロキシプロピル化デキストラン(例えば、Sephadex LH-20(GEヘルスケアバイオサイエンス社製))、スチレン−ジビニルベンゼン重合体(例えば、ダイヤイオンHP−20(三菱化学社製)、アンバーライトXAD−2(オルガノ社製))、メタアクリル酸エステル重合体(例えば、ダイヤイオンHP2MG(三菱化学社製)、アンバーライトXAD−7HP(オルガノ社製))等を母体とするゲル型合成吸着剤等が挙げられる。特に好適な例としては、親水性ビニルポリマー又はメタアクリル酸エステル重合体を母体とするゲル型合成吸着剤が挙げられる。
【0039】
紅茶抽出液のカラムへの通液速度は、空間速度として0.5〜10h−1であり、好ましくは1〜5h−1である。当該通液速度が0.5h−1未満であると生産性の点で好ましくない。10h−1を超えると、吸着が不充分又は不安定となるおそれがある。
【0040】
紅茶抽出液のカラムへの通液量は、カラムに充填された吸着剤の体積量に対して0.1〜1.0倍量であり、好ましくは0.1〜0.5倍量である。当該通液量が1.0倍量を超えると、吸着が不充分又は不安定となるおそれがある
【0041】
次に、紅茶抽出液が注入されたカラムに、展開溶媒としてエタノール濃度20〜100容量%、好ましくは40〜80容量%のエタノール水溶液を、合成吸着剤のカラム充填体積量に対して0.5〜10倍量、好ましくは2〜5倍量通液し、クロマトグラフ法による分離処理を行う。このように、エタノール濃度(有機溶媒濃度)の高い(40〜80容量%)エタノール水溶液を展開溶媒として用いても、本実施形態に係る方法によれば、カフェイン及び非ガレート型テアフラビン類と、ガレート型テアフラビン類とをほぼ分離することができる。
【0042】
展開溶媒としてのエタノール水溶液のエタノール濃度が20容量%未満であると、カフェイン及び非ガレート型テアフラビン類と、ガレート型テアフラビン類との分離が不充分又は不安定となるおそれがあり、40〜80容量%であると、カフェイン及び非ガレート型テアフラビン類と、ガレート型テアフラビン類とを十分にかつ安定的に分離することができる。
【0043】
また、展開溶媒としてのエタノール水溶液の通液量が0.5倍量未満であると、カフェイン及び非ガレート型テアフラビン類と、ガレート型テアフラビン類との分離が不充分又は不安定となるおそれがあり、10倍量を超えると、ガレート型テアフラビン類の回収率は上がるものの、多量の溶出液を要するため、エタノールを回収する際の蒸留操作が煩雑になるおそれがある。
【0044】
展開溶媒としてのエタノール水溶液をカラムに通液後、初期通過液(例えば、吸着剤として親水性ビニルポリマー等を母体とするゲル型合成吸着剤を用いた場合、カラムへのエタノール水溶液の通液量のうちの40容量%程度)を廃棄する。当該初期通過液には、ガレート型テアフラビン類よりも吸着剤への吸着力の弱いカフェイン、非ガレート型テアフラビン類、カテキン類が溶出するため、カフェイン、非ガレート型テアフラビン類、カテキン類等のほとんどを紅茶抽出液から除去することができる。
【0045】
上記初期通過液を廃棄した後、ガレート型テアフラビン類の画分(組成物の画分)を回収する。そして、得られた画分から、必要に応じて溶媒(エタノール水溶液)を留去し、乾燥することで、上記組成物を得ることができる。
【0046】
なお、抽出原料としての紅茶葉の茶種、発酵条件等によっては、上述のようにして得られた組成物中のテアフラビン類含有量よりもカテキン類含有量の方が多くなる場合も考えられる。この場合、上述のようにして得られた組成物を、さらに従来公知の方法による精製処理に供し、組成物中のテアフラビン類含有量が、カテキン類含有量よりも多くなるようにしてもよいし、他の茶種の紅茶葉から得られた組成物と混合する等により、組成物中のテアフラビン類含有量が、カテキン類含有量よりも多くなるように設計してもよい。
【0047】
〔リパーゼ阻害剤〕
上述のようにして得られる組成物は、後述する実施例において示すように優れたリパーゼ阻害活性を有するため、リパーゼ阻害剤の有効成分として用いることができる。この場合において、本発明のリパーゼ阻害剤は、上記組成物のみからなるものであってもよいし、上記組成物を製剤化したものであってもよい。
【0048】
上記組成物は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。
【0049】
なお、本発明のリパーゼ阻害剤は、必要に応じて、リパーゼ阻害作用を有する他の天然由来成分(例えば、天然抽出物等)を配合して有効成分として用いたものであってもよい。
【0050】
本発明のリパーゼ阻害剤の投与方法としては、特に限定されるものではなく、一般に経口投与による投与方法が挙げられるが、適用疾患等の種類等に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本発明のリパーゼ阻害剤の投与量も、適用疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0051】
本発明のリパーゼ阻害剤は、上記組成物が有するリパーゼ阻害作用を通じて、脂肪の消化吸収酵素であるリパーゼの活性を阻害し、脂肪の吸収を抑制することができる。これにより、本発明のリパーゼ阻害剤は、肥満やそれに伴う各種疾患(例えば、糖尿病、高脂血症、心筋梗塞、動脈硬化、脳梗塞等)を予防又は治療することができる。
【0052】
〔飲食品〕
上述のようにして得られる組成物は、優れたリパーゼ阻害作用を有しており、体内にほとんど吸収されないと推察されており、安全性にも優れているため、飲食品に配合するのに好適である。この場合において、上記組成物をそのまま飲食品に配合してもよいし、上記組成物から製剤化された上記リパーゼ阻害剤を飲食品に配合してもよい。
【0053】
このような飲食品は、健康食品、健康飲料、特定保健用食品、機能性食品等として提供することができる。その場合、それぞれの飲食品を製造するために通常配合される食品素材に本発明の組成物又はリパーゼ阻害剤を配合することにより、当該飲食品を調製することができる。また、当該飲食品が特定保健用食品等の認定を受けた場合には、これらの飲食品は、上記組成物を含有し、リパーゼの活性を阻害するために用いられるものである旨の表示を付した食品又は飲料として販売することもできる。
【0054】
上記組成物又はリパーゼ阻害剤を飲食品に配合する場合、それらにおける有効成分の配合量は、使用目的、症状、性別等を考慮して適宜変更することができるが、添加対象飲食品の一般的な摂取量を考慮して、成人1日あたりの上記組成物摂取量が約200〜500mg、好ましくは約250〜400mgになるようにするのが好ましい。
【0055】
上記組成物又はリパーゼ阻害剤を配合し得る飲食品は特に限定されないが、その具体例としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;スープ、シチュー、サラダ、惣菜、漬物;その他種々の形態の健康・栄養補助食品;錠剤、カプセル剤、ドリンク剤などが挙げられ、これらの飲食品に上記組成物又はリパーゼ阻害剤を配合するときに、通常用いられる補助的な原料や添加物を併用することができる。
【0056】
なお、本発明の組成物、リパーゼ阻害剤又は飲食品は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
〔実施例1〜3〕
20メッシュのナイロン網を備えた抽出網に投入され、上部が平坦になるように揃えた紅茶葉(中国湖南省産,CTC製法)100kgを、抽出槽に供給された60容量%エタノール水溶液450L中に90分間浸漬させた。このとき、15分ごとに抽出網を上下に移動させて、抽出槽中のエタノール水溶液を攪拌した。
【0059】
浸漬処理後、得られた抽出液を抽出槽から抜き出して、80メッシュのナイロン網を用いてろ過し、次いで53μmのフィルタでろ過することで、紅茶抽出液を回収した。
【0060】
ステンレスカラムに充填した合成吸着剤(トヨパールHW40EC,東ソー社製)90Lを、予め60容量%エタノール水溶液90Lにより平衡化し、上記のようにして得られた紅茶抽出液45L(合成吸着剤のカラム充填体積量に対して0.5倍量)をSV(空間速度)=4(h−1)の通液速度でステンレスカラムに注入した。
【0061】
次いで、展開溶媒として60容量%エタノール水溶液450LをSV=4(h−1)の通液速度でステンレスカラムに通液し、初期通過液180Lを廃棄した後に、後半の通過液(テアフラビン類画分)270Lを回収した。
【0062】
上記と同様のクロマトグラフィー分離処理を合計7回行い、テアフラビン分画物1890Lを得た。得られたテアフラビン分画物を濃縮し、噴霧乾燥することで、紅茶抽出物4.6kg(実施例1)を得た。
【0063】
別ロットの紅茶葉を用いて、上記と同様にして紅茶抽出物6.0kg(実施例2)を得た。また、上記と同様の操作を1/500スケールで行い、紅茶抽出物10g(実施例3)を得た。
【0064】
〔比較例1〕
上記実施例1において用いた紅茶葉500gに熱水5Lを加え、15分間抽出処理を行った。得られた抽出液を回収した後、残渣にさらに熱水3.5Lを加え、10分間抽出処理を行った。得られた抽出液を回収し、両抽出液を混合した後、濃縮及び乾燥し、紅茶熱水抽出物100gを得た(比較例1)。
【0065】
〔比較例2,3〕
紅茶葉としてヌワラエリア(比較例2)又はダージリン(比較例3)を使用した以外は、上記実施例1と同様の操作を1/10000スケールで行い、紅茶抽出物約150mgをそれぞれ得た。
【0066】
上述のようにして得られた実施例1〜3の紅茶抽出物、比較例1の紅茶熱水抽出物、及び比較例2,3の紅茶抽出物の組成(ポリフェノール、テアフラビン類、カテキン類、カフェイン等の含量)を、表1及び2に示す。なお、比較例4として、緑茶抽出物(商品名:テアフラン90S,伊藤園社製)の組成も併せて示す。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
〔試験例1〕リパーゼ阻害作用試験
上述のようにして得られた紅茶抽出物(実施例1〜3,比較例1〜3)及び緑茶抽出物(商品名:テアフラン90S,伊藤園社製,比較例4)を用いて、以下のようにしてリパーゼ阻害活性を試験した。
【0070】
L−K Hanらの報告(International Journal of Obesity, 1999, Vol.23, p.98-105)に準じ、表3に示す組成を有する脂質エマルジョン100μLに膵リパーゼ溶液50μL(終濃度:5units/tube)と、紅茶抽出物(実施例1〜3,比較例1〜3)及び緑茶抽出物(比較例4)のそれぞれを添加して(終濃度:0,0.25,0.5,1.0mg/mL)、遊離した脂肪酸量を定量することにより膵リパーゼ阻害活性を試験した。
【0071】
結果を、図1、図2及び表4に示す。なお、表4は、上記試験結果に基づいて算出された膵リパーゼの活性を50%阻害する濃度(IC50,mg/mL)を示したものである。
【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【0074】
図1に示すように、実施例1のテアフラビン類を多く含有する紅茶抽出物の精製物(本発明の組成物)は、比較例1の紅茶熱水抽出物(テアフラビン類低含量)に比して、優れたリパーゼ阻害作用を有することが確認された。このことから、組成物中にテアフラビン類を多く含有せしめることで、優れたリパーゼ阻害活性を発揮させることができると推察される。
【0075】
また、図2及び表4に示すように、実施例1〜3のカテキン類(エピガロカテキンガレート)含有量よりもテアフラビン類含有量が多い紅茶抽出物の精製物は、比較例2及び3のテアフラビン類含有量よりもカテキン類含有量が多い紅茶抽出物に比して、優れたリパーゼ阻害作用を有することが確認された。このように、従来、リパーゼ阻害作用を有することが知られているカテキン類、特にリパーゼ阻害作用の強いエピガロカテキンガレートの含有量を少なくするとともに、テアフラビン類の含有量を多くすることで、より優れたリパーゼ阻害活性を発揮し得ることが確認された。
【0076】
さらに、図2及び表4に示すように、実施例1〜3の紅茶抽出物の精製物は、比較例4の緑茶抽出物よりも優れたリパーゼ阻害作用を有することが確認された。このことから、従来、強いリパーゼ阻害活性を有するものとして知られているエピガロカテキンガレートを多く含む緑茶抽出物(比較例4)よりも、テアフラビン類の含有量が多く、エピガロカテキンガレートの含有量が少ない紅茶抽出物の精製物(実施例1〜3)の方が、より優れたリパーゼ阻害活性を発揮し得るものと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の組成物、リパーゼ阻害剤及び飲食品は、肥満やそれに伴う各種疾患(糖尿病、高脂血症、心筋梗塞、動脈硬化、脳梗塞等)の予防、治療又は改善に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】リパーゼ阻害作用試験の結果を示すグラフである(実施例1,比較例1)。
【図2】リパーゼ阻害作用試験の結果を示すグラフである(実施例1〜3,比較例2〜4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともテアフラビン類及びカテキン類を含む茶ポリフェノール類を含有し、
前記茶ポリフェノール類の含有量が、80質量%以上であり、
前記テアフラビン類の含有量が、前記カテキン類の含有量よりも多いことを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記カテキン類として少なくともエピガロカテキンガレートを含み、
前記エピガロカテキンガレートの含有量に対する前記テアフラビン類の含有量の比率が、1〜50であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記テアフラビン類の含有量が、20質量%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記茶ポリフェノール中におけるガレート型テアフラビン類の総含有量が、10〜50質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記テアフラビン類中におけるガレート型テアフラビン類の含有比率が、75〜95質量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
カフェインの含有量が、10質量%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を有効成分として含有することを特徴とするリパーゼ阻害剤。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物又は請求項7に記載のリパーゼ阻害剤を配合したことを特徴とする飲食品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−95477(P2010−95477A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268206(P2008−268206)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】