リフティング係数変換方法およびリフティング係数変換装置
【課題】チェス盤歪みなどを回避し得る整数型リフティング係数を比較的低いビット精度で高精度に算出すること。
【解決手段】リフティング係数変換装置90は、画像圧縮のための離散ウェーブレット変換および圧縮画像の復号のための離散逆ウェーブレット変換を実現する分解側フィルタおよび合成側フィルタの各リフティング構成で使用するリフティング係数を、実数型の係数から分数で表現される整数型リフティング係数へ変換する。次数決定手段91は、変換先の整数型リフティング係数N/2M(N,M:1以上の整数)の分母の次数Mを決定する。探索範囲決定手段92で決定された探索範囲において、前記整数型リフティング係数で構成される前記合成側フィルタのフィルタ係数のうち、偶数番目の係数の総和の絶対値と奇数番目の係数の総和の絶対値との差分絶対値を最小とするように、前記整数型リフティング係数の分子Nが探索される。
【解決手段】リフティング係数変換装置90は、画像圧縮のための離散ウェーブレット変換および圧縮画像の復号のための離散逆ウェーブレット変換を実現する分解側フィルタおよび合成側フィルタの各リフティング構成で使用するリフティング係数を、実数型の係数から分数で表現される整数型リフティング係数へ変換する。次数決定手段91は、変換先の整数型リフティング係数N/2M(N,M:1以上の整数)の分母の次数Mを決定する。探索範囲決定手段92で決定された探索範囲において、前記整数型リフティング係数で構成される前記合成側フィルタのフィルタ係数のうち、偶数番目の係数の総和の絶対値と奇数番目の係数の総和の絶対値との差分絶対値を最小とするように、前記整数型リフティング係数の分子Nが探索される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーブレット(wavelet)変換、特に離散ウェーブレット変換を用いた画像の圧縮伸長技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
画像データの高能率符号化方式の一つとして、離散ウェーブレット変換(DWT;Discrete wavelet transform)を用いた画像符号化方法およびその復号化方法が採用されている。このDWTに基づいた符号化方式は、従来の離散コサイン変換(Discrete Cosine Transform;DCT)に基づく方式に代替するものとして、ISO(国際標準化機構)が策定するJPEG2000(Joint Photographic Experts Group 2000)方式で採用されるものである。DWTは、DCTと比べて、(1)DCTの変換基底の両端が収束しないため復号化画像に出現するブロック状の雑音(ブロック歪み)を回避できること、(2)画像信号の高帯域成分の量子化に起因して復号化画像の輪郭部分などに出現するノイズ(モスキート雑音)を回避できること、(3)高圧縮率に対して高画質の復元画像を得られること、などの多くの優れた利点を有している。
【0003】
図20は、そのJPEG2000方式に基づいた画像符号化装置100の概略構成を示す機能ブロック図である。以下、この図20を参照しつつ画像圧縮変換(順変換)の手順について概説する。先ず、画像符号化装置100に入力する画像信号は、DCレベルシフト部102で、各信号値からダイナミックレンジの半分を減算するレベルシフト演算を施される。尚、このレベルシフト演算は、入力信号がRGB信号のような正の整数からなる場合に実行されるが、その値がYCbCr信号における色差信号(Cb,Cr)のような符号付き整数からなる場合には省略される。
【0004】
次に、カラー変換部103は、DCレベルシフト部102からの入力データの色空間を、例えば、RGB色空間からYCbCr色空間などへ変換する色空間変換処理を実行する。その色空間変換処理を施された画像データはタイリング部104に出力され、各フレームが複数の矩形状のブロック領域に分割される。分割後の各ブロック領域は「タイル」と呼ばれている。DWT部105は、タイリング部104から入力する画像データに対して各タイル単位でDWTを実行し、そのウェーブレット変換係数を量子化部106に出力する。尚、本例では、DWTがタイル単位で実行されるブロックベースの変換を採用しているが、その代わりに、入力データを複数ライン分バッファリングして垂直方向のフィルタリングを行い、その結果得られたデータ列に対して水平方向のフィルタリングを行うというラインベースのDWTを採用してもよい。一般に、変換効率と画質を向上させる観点からはブロックベースDWTの方が好ましく、メモリ使用量低減の観点からはラインベースDWTの方が好ましい。
【0005】
量子化部106は、入力するウェーブレット変換係数に対してスカラー量子化を実行し、その結果得られる量子化係数をエントロピー符号化器101に出力する。尚、ロスレス(可逆)符号化を行う場合にはスカラー量子化は行われず、後述するポスト量子化が採用される。また、量子化部106は、ROI部107によって指定された特定領域(ROI;Region Of Interest)を選択し、当該ROIに対する量子化処理を他の領域のそれと相違させ、特定領域の画質を選択的に向上させる機能を有する。
【0006】
次に、エントロピー符号化器101は、入力する量子化係数の符号化順序の決定や情報源符号化などを行い、その結果得られる符号化データを出力する機能ブロックを有する。図20には、EBCOT(Embedded Block Coding with Optimized Truncation)と称するブロックベースのビットプレーン符号化を行う機能ブロックが示されている。すなわち、エントロピー符号化器101に入力する量子化係数は、係数ビットモデリング部108において後段の算術符号化部109での処理に適したビットモデルに変換され、算術符号化部109では算術符号化を施され、その後、ビット切り捨て部110でポスト量子化(truncation)を施される。
【0007】
そして、ビットストリーム生成部111は、エントロピー符号化器101から入力する符号化データと付加情報(ヘッダ情報、レイヤー構成、スケーラビリティ、量子化テーブルなど)とを多重化したビットストリームを生成し、圧縮画像として出力する。
【0008】
次に、図21を参照しつつ上記圧縮画像の復号化手順について概説する。図21は、圧縮画像を復号化する画像復号化装置120の概略構成を示す機能ブロック図である。ビットストリーム抽出部121は、入力する圧縮画像から、上記付加情報と符号化データとを分離し、抽出した符号化データをエントロピー復号化器122に出力する。エントロピー復号化器122において、算術復号化部123は入力データに対して送信側の算術復号化を行い、また、係数ビットモデリング部124は、入力データのビットモデルを元に戻して得られる量子化係数を出力する。次いで、逆量子化部125は、入力する量子化係数に対して逆量子化を施し、その結果得られるウェーブレット変換係数を出力する。
【0009】
逆量子化部125が出力したウェーブレット変換係数は、IDWT部127でタイル単位の逆離散ウェーブレット変換(IDWT;Inverse DWT)を施され、タイル合成部128で1フレームに合成され、カラー変換部129で元の色空間に変換される。DCレベルシフト部130は、カラー変換部129から入力する各信号値にダイナミックレンジの半分を加算するレベルシフト演算を実行し、その結果得られる復号化画像を出力する。
【0010】
上記DWTを実現する具体的手段としては、(1)画像信号を高域成分と低域成分とに2分割する2分割フィルタバンクを繰り返し使用して低域成分を再帰的に2分割する方法と、(2)ポリフェーズ表現に基づくリフティング構成(Lifting Scheme)を利用する方法と、が公知である。以下、2分割フィルタバンクを使用したDWTの実現方法を説明し、リフティング構成を用いたDWTとIDWTの実現方法については後述する。
【0011】
図22は、1次元DWT(順変換)を実現する2分割フィルタバンク群の構成例を示す模式図である。2分割フィルタバンクは、低域成分を通過させるローパスフィルタH0(z)と、高域成分を通過させるハイパスフィルタH1(z)と、ダウンサンプラ140L,…,142L,140H,…,または142Hとで構成される。1次元DWTは、この2分割フィルタバンクを繰り返し用いることで構成される。尚、ダウンサンプラ140L〜142L,140H〜142Hは入力信号を一つおきに間引き、信号長を半分にして出力するものである。入力画像は、分解レベル(decomposition level)1において高域成分(H)と低域成分(L)とに分解され、次の分解レベル2において当該低域成分(L)が更に高域成分(LH)と低域成分(LL)とに分解され、次の分解レベル3において当該低域成分(LL)が更に高域成分(LLH)と低域成分(LLL)とに分解される。このように低域成分を再帰的に帯域分割することで、最終的に4つの帯域成分(LLL,LLH,LH,H)が得られる。
【0012】
一方、図23は、1次元IDWT(逆変換)を実現する2分割フィルタバンク群の構成例を示す模式図である。2分割フィルタバンクは、低域成分を通過させるローパスフィルタG0(z)と、高域成分を通過させるハイパスフィルタG1(z)と、アップサンプラ150L,…,154L,150H,…,または154Hと、加算器151,153または155とで構成される。1次元IDWTは、この2分割フィルタバンクを繰り返し適用することで構成される。尚、アップサンプラ150L〜154L,150H〜154Hは、各信号値間にゼロ値を一つ挿入して信号長を倍に増すものである。この2分割フィルタバンク群には、上記の4つの帯域成分(LLL,LLH,LH,H)が入力している。
【0013】
合成レベル1では、第1成分(LLL)はアップサンプラ150LとローパスフィルタG0(z)を経て加算器151に入力し、第2成分(LLH)はアップサンプラ150HとハイパスフィルタG1(z)を経て前記加算器151に入力する。加算器151は、各フィルタG0(z),G1(z)から入力する成分を合成して帯域成分(LL)を生成する。次の合成レベル2では、前記加算器151が出力した帯域成分(LL)はアップサンプラ152LとローパスフィルタG0(z)を経て加算器153に入力し、帯域成分(LH)はアップサンプラ152HとハイパスフィルタG1(z)を経て前記加算器153に入力する。加算器153は、各フィルタG0(z),G1(z)から入力する成分を合成して帯域成分(L)を生成する。そして、合成レベル3では、前記加算器153が出力した帯域成分(L)はアップサンプラ154LとローパスフィルタG0(z)を経て加算器155に入力し、帯域成分(H)はアップサンプラ154HとハイパスフィルタG1(z)を経て前記加算器155に入力する。最終的に、加算器155は、各フィルタG0(z),G1(z)から入力する成分を合成して復号化画像を生成し出力する。
【0014】
2次元画像に2次元DWTを施す場合は、各分解レベルにおいて、図22に示した2分割フィルタバンクを水平方向と垂直方向とに適用することで、入力画像は垂直方向、水平方向の順でそれぞれ帯域分割を施される。図24は、2次元DWTを施された画像データ160を模式的に示す図である。同図中の帯域成分HH1は、入力画像の水平方向の高域成分(H)と垂直方向の高域成分(H)とを含むもの、帯域成分HL1は、その水平方向の高域成分(H)と垂直方向の低域成分(L)とを含むもの、帯域成分LH1は、水平方向の低域成分(L)と垂直方向の高域成分(H)とを含むものである。水平方向と垂直方向の双方向の低域成分を含む帯域成分LL1(図示せず)は、更に分解レベル2において、4つの帯域成分HH2,HL2,LH2,LL2に分解され、次の分解レベル3において、その帯域成分LL2は、4つの帯域成分HH3,HL3,LH3,LL3に分解される。図24では、3次の分解レベルの例が示されているが、JPEG2000方式では、一般に、3次〜8次程度以上の分解レベルが採用されている。
【0015】
なお、リフティング構成については例えば非特許文献1に既述されている。
【0016】
【非特許文献1】W.Sweldens, I. Daubechies, "Factoring Wavelet Transforms into Lifting Steps", J. Fourier Anal., Vol.4, No.3, pp.247-269, 1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記DWTとしては、ウェーブレット変換係数が実数で構成される実数型DWTと、ウェーブレット変換係数が整数で構成される整数型DWTとに大別される。実数型DWTは、ウェーブレット変換係数を浮動小数点演算で算出し、整数型DWTと比べると復号化画像の画質が良いという利点をもつ。
【0018】
一方、整数型DWTでは、実数型DWTと比べると、ロスレス圧縮(可逆圧縮)が可能である。また整数型DWTでは、ウェーブレット変換係数を固定小数点演算で算出できるため、ソフトウェアやハードウェアで効率的な処理が可能である。具体的には、入出力ピンの数が少なく、回路構成が小規模な低価格の固定小数点プロセッサを実現できるという利点がある。一般に、図22,図23に示すデジタル・フィルタH0(z),H1(z),G0(z),G1(z)には、整数型DWTの場合は5×3タップのフィルタ、実数型DWTの場合は9×7タップのフィルタが採用される。
【0019】
実数型DWTを高効率で行う一手法として、実数型のフィルタ係数を整数型のフィルタ係数に丸め込んで固定小数点演算を行う方法がある。この方法では、浮動小数点で表現されたフィルタ係数は2進表現のフィルタ係数に変換される(丸め込まれる)。しかしながら、実数型のフィルタ係数を、単に、当該フィルタ係数に最も近い2進表現の値に丸め込むと、当該値の精度が低い場合は、復号化画像にチェス盤歪み(checkerboard distortion)と称する碁盤目状の歪みが現れるという問題がある。かかる問題を避けるには、非常に高いビット精度で丸め込み処理を実行しなければならない。
【0020】
DWTを実現するフィルタバンクは後述するリフティング構成で表現することも可能である。フィルタ係数は、後述するリフティング係数α,β,γ,δ,κ,1/κで構成することができる。リフティング構成のDWTを固定小数点演算で行う場合、リフティング係数値を実数型の値から整数型の値へ変換しなければならないため、前述と同様の問題が発生する。
【0021】
以上の問題などに鑑みて本発明が目的とするところは、チェス盤歪みなどを回避し得る整数型リフティング係数を、比較的低いビット精度で高精度に算出することが可能なリフティング係数変換方法およびリフティング係数変換装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本願請求項1にかかる発明は、画像圧縮のための離散ウェーブレット変換および圧縮画像の復号のための離散逆ウェーブレット変換を実現する分解側フィルタおよび合成側フィルタの各リフティング構成で使用するリフティング係数を、実数型の係数から分数で表現される整数型リフティング係数へ変換するリフティング係数変換方法である。そして(a)変換先の整数型リフティング係数N/2M(N,M:1以上の整数)の分母の次数Mを決定する工程と、(b)前記整数型リフティング係数で構成される前記合成側フィルタのフィルタ係数のうち、偶数番目の係数の総和の絶対値と奇数番目の係数の総和の絶対値との差分絶対値が最小となるように、前記整数型リフティング係数の分子Nを探索する工程と、を備える。
【0023】
本願請求項2にかかる発明は、請求項1記載のリフティング係数変換方法であって、前記リフティング構成は、9×7タップのドビシス(Daubechies)フィルタのリフティング構成である。
【0024】
本願請求項3にかかる発明は、画像圧縮のための離散ウェーブレット変換および圧縮画像の復号のための離散逆ウェーブレット変換を実現する分解側フィルタおよび合成側フィルタの各リフティング構成で使用するリフティング係数を、実数型の係数から分数で表現される整数型リフティング係数へ変換するリフティング係数変換装置である。そして変換先の整数型リフティング係数N/2M(N,M:1以上の整数)の分母の次数Mを決定する次数決定手段と、前記整数型リフティング係数で構成される前記合成側フィルタのフィルタ係数のうち、偶数番目の係数の総和の絶対値と奇数番目の係数の総和の絶対値との差分絶対値を最小とするように、前記整数型リフティング係数の分子Nを探索する手段と、を備える。
【0025】
本願請求項4にかかる発明は、請求項3記載のリフティング係数変換装置であって、前記リフティング構成は、9×7タップのドビシス(Daubechies)フィルタのリフティング構成である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の請求項1に係るリフティング係数変換方法および請求項13に係るリフティング係数変換装置によれば、合成側フィルタを構成する各ポリフェーズフィルタのインパルス応答の総和の絶対値が一致するようにリフティング係数が算出されるため(工程(b))、チェス盤歪みを回避し得るような、比較的低いビット精度で高精度の整数型フィルタ係数を算出することが可能となる。従って、請求項1の効果と同様に、ソフトウェアまたはハードウェアで、DWTとIDWTとを固定小数点演算で効率良く実行することが可能となる。特に、固定小数点演算を行うハードウェアを採用する場合は、全ての整数型リフティング係数の分母が共通の2の巾乗をもつことから、除算処理を効率の良いビットシフト演算で行うことができる。従って、入出力ピンの数が少ない小規模な回路構成を実現することが可能である。
【0027】
本発明の請求項2に係るリフティング係数変換方法および請求項4に係るリフティング係数変換装置によれば、FIR型のドビシスフィルタと同じ働きをするリフティング構成を形成する整数型リフティング係数を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の種々の実施の形態について説明する。
【0029】
第1の実施の形態.
上述した通り、DWTとIDWTを実現する具体的手段としては、図22,図23に示した2分割フィルタバンクを使用する方法と、リフティング構成を使用する方法とがある。本実施の形態に係るフィルタ係数変換方法とその装置は、2分割フィルタバンクを使用したDWTおよびIDWTに適用される方法と装置である。
【0030】
以下、図22に示した分解側フィルタH0(z),H1(z)と、図23に示した合成側フィルタG0(z),G1(z)とは、共に、有限長インパルス応答(FIR)型フィルタで構成されており、9×7タップの実数型のフィルタ係数をもつものとする。
【0031】
FIR型フィルタの構成.
先ず、DWTを実現するFIR型フィルタについて説明する。図22に示す分解側フィルタバンクにおいて、一方のダウンサンプラ140L〜142Lは、各ローパスフィルタH0(z)から出力されるデータ列のうち、偶数番目のサンプルだけを保持し、奇数番目のサンプルを破棄するという間引き処理を実行し、他方のダウンサンプラ140H〜142Hは、各ハイパスフィルタH1(z)から出力されるデータ列のうち、奇数番目のサンプルだけを保持し、偶数番目のサンプルを破棄するという間引き処理を実行する。このように、各フィルタH0(z),H1(z)から出力されたデータは、偶数と奇数という2つのフェーズ(ポリフェーズ)に分離されて間引き処理を施される。しかし、このようにフィルタH0(z),H1(z)が、偶数番目と奇数番目とに関係無く全ての入力データに関してフィルタ処理を行うのは効率的では無い。本実施の形態では、ローパスフィルタH0(z)は偶数番目のデータ列についてのみフィルタ処理を実行し、ハイパスフィルタH1(z)は奇数番目のデータ列についてのみフィルタ処理を実行し、その結果、各フィルタH0(z)、H1(z)は、各フェーズ毎にフィルタ処理と間引き処理とを同時並行に実行することとする。
【0032】
図1は、分解側のFIR型ローパスフィルタH0(z)の構成を示す模式図、図2は、分解側のFIR型ハイパスフィルタH1(z)の構成を示す模式図である。入力画像10は、入力データ列…,X(2n−4),X(2n−3),…,X(2n),…,X(2n+4),…(n:整数)で構成されている。図1に示す通り、ローパスフィルタH0(z)は、9タップに対応したフィルタ係数h0(−4),h0(−3),…,h0(3),h0(4)を有し、入力データ列とフィルタ係数h0(−4)〜h0(4)とを畳み込み演算する乗算器111〜119および加算器12を有している。このローパスフィルタH0(z)は、次式(1)に従って、偶数番目のデータX(2n)に関して選択的に畳み込み演算を実行し、データY(2n)を出力する。
【0033】
【数1】
【0034】
また、図2に示す通り、ハイパスフィルタH1(z)は、7タップに対応したフィルタ係数h1(−4),h1(−3),…,h1(1),h1(2)を有し、入力データ列とフィルタ係数h1(−4)〜h1(2)とを畳み込み演算する乗算器131〜137および加算器14を有している。このハイパスフィルタH1(z)は、次式(2)に従って、奇数番目のデータX(2n+1)に関して選択的に畳み込み演算を実行し、データY(2n+1)を出力する。
【0035】
【数2】
【0036】
次に、IDWTを実現するFIR型フィルタについて説明する。図23に示した合成側のローパスフィルタG0(z)と、ハイパスフィルタG1(z)とをそれぞれz変換を用いて表現すると、次式(3),(4)のようになる。
【0037】
【数3】
【0038】
上式(3),(4)中、フィルタ係数g0(k)(k=−3〜3)とg1(k)(k=−3〜5)とはインパルス応答を示し、また、z-kはk次の遅延を示している。
【0039】
図23に示した合成側のフィルタバンクは、以下に説明するポリフェーズ分解により変形されることができる。図3に、アップサンプラ30とフィルタG(z)との組み合わせを模式的に示す。フィルタG(z)は、フィルタ係数h(k)(k:整数)を有するFIR型フィルタである。アップサンプラ30は、入力信号y(n)の各値の間にゼロ値を挿入するアップサンプリング処理を行い、フィルタG(z)は、そのアップサンプラ30からの出力データを補間した信号x(n)を出力する。フィルタG(z)は、z変換を用いた伝達関数で、G(z)=R0(z2)z-1+R1(z2)の形に変形され得る。このような表現は「タイプ2のポリフェーズ分解」と呼ばれている。2フェーズに分解された各フィルタR0(z2),R1(z2)は、「ポリフェーズフィルタ」と呼ばれる。
【0040】
以上のフィルタのポリフェーズ表現に基づくと、FIR型フィルタG(z)は、図4に示すように、2つのポリフェーズフィルタR0(z2),R1(z2)と遅延素子32と加算器33とで表現される。すなわち、第1のポリフェーズフィルタR0(z2)の出力信号は、遅延素子32で1周期遅延した後に、加算器33において第2のポリフェーズフィルタR1(z2)の出力信号と加算される。更に、図4のフィルタ構成は、図5に示すフィルタ構成と等価である。従って、出力信号x(n)は、各フィルタR0(z),R1(z)の出力信号を交互に出力したものといえる。
【0041】
ところで、図23に示した合成側のローパスフィルタG0(z)とハイパスフィルタG1(z)とは、z変換を用いた伝達関数で次式(3A),(4A)のように変形され得る。
【0042】
【数4】
【0043】
上式(3A)中、R0(z2),R1(z2)は、合成側ローパスフィルタG0(z)を構成するポリフェーズフィルタを示し、上式(4A)中、K0(z2),K1(z2)は、合成側ハイパスフィルタG1(z)を構成するポリフェーズフィルタを示している。
【0044】
よって、前述のポリフェーズ表現に基づくと、図6に示す合成側のフィルタバンクは、図7に示すフィルタ構成に変形され得る。図6,図7において、符号34,35,34A,34B,35A,35Bはアップサンプラを示しており、符号36,38,40は加算器、37,39は遅延素子を示している。
【0045】
従って、ローパスフィルタ側の加算器38の出力信号x0(n)は、各ポリフェーズフィルタR0(z),R1(z)の出力信号r0,r1を交互に出力したものとなり、ハイパスフィルタ側の加算器40の出力信号x1(n)は、各ポリフェーズフィルタK0(z),K1(z)の出力信号k0,k1を交互に出力したものとなる。この結果、加算器36の出力信号x(n)のうち、偶数番目の出力信号x(2k)は、各ポリフェーズフィルタR0(z),K0(z)の出力信号の和r0+k0とし、奇数番目の出力信号x(2k+1)は、各ポリフェーズフィルタR1(z),K1(z)の出力信号の和r1+k1とすることができる。
【0046】
以上のポリフェーズ表現に従って、合成側のフィルタバンクを実現するFIR型フィルタを構成できる。図8および図9は、合成側のFIR型フィルタの構成を示す模式図である。これらFIR型フィルタは、フィルタ処理とアップサンプリング処理とを同時並行に実行する。また、これらFIR型フィルタには、圧縮画像20を構成するデータ列…,Y(2n−3),Y(2n−2),…,Y(2n+4),Y(2n+5),…が入力している。
【0047】
図8に示す7タップのFIR型フィルタは、上記各ポリフェーズフィルタR0(z2),K0(z2)のフィルタ係数g0(−2),g0(0),g0(2),g1(−2),g1(0),g1(2),g1(4)を使用し、これらフィルタ係数と入力データ列とを畳み込み演算する乗算器210,211,…,216および加減算器22を有している。このFIR型フィルタは、次式(5)に従って畳み込み演算を実行して偶数番目のデータX(2n)を合成する。
【0048】
【数5】
【0049】
また、図9に示す9タップのFIR型フィルタは、上記各ポリフェーズフィルタR1(z2),K1(z2)のフィルタ係数g0(−3),g0(−1),g0(1),g0(3),g1(−3),g1(−1),g1(1),g1(3),g1(5)を使用し、これらフィルタ係数と入力データ列とを畳み込み演算する乗算器231,…,239および加算器24を有している。このFIR型フィルタは、次式(6)に従って畳み込み演算を実行して奇数番目のデータX(2n+1)を合成する。
【0050】
【数6】
【0051】
チェス盤歪みの回避条件.
次に、上記チェス盤歪みの回避条件について説明する。図3において、フィルタへの入力信号y(n)として単位ステップ信号が印加されるとき、出力信号x(n)は、フィルタG(z)のインパルス応答h(k)の総和であり、この総和は時間経過と共に一定値に収束することが望ましい。一方、図5において、入力信号y(n)に対応する出力信号x(n)は、各ポリフェーズフィルタR0(z),R1(z)の出力信号を交互に出力したものに等しい。入力信号y(n)として単位ステップ信号が印加されるとき、各ポリフェーズフィルタR0(z),R1(z)のインパルス応答の総和が交互に出力される。従って、各ポリフェーズフィルタR0(z),R1(z)のインパルス応答の総和が相違する場合は、nの値に応じて交互に異なる値が出力され、一定値に収束しないという現象が起きる。チェス盤歪みはこの種の現象を表していると考えられる。
【0052】
従って、チェス盤歪みの回避条件は、少なくとも、各ポリフェーズフィルタのR0(z),R1(z)のインパルス応答の総和が一致することである。
【0053】
フィルタ係数変換処理.
次に、本発明の第1の実施の形態に係るフィルタ係数変換方法とその装置について説明する。図10は、本実施の形態に係るフィルタ係数変換装置1の概略構成を示す機能ブロック図である。このフィルタ係数変換装置1は、外部から入力する実数型フィルタ係数5を分数に丸め込み表現した値(=N/2M;N,Mは1以上の整数)の分母(=2M)の次数Mを決定する次数決定手段2と、その分子Nの整数値を選択して分解側の整数型のフィルタ係数(丸め込み値)6を出力する丸め込み値選択手段3と、合成側の整数型フィルタ係数を算出する係数算出手段3Aと、入力する分解側および合成側の整数型フィルタ係数が所定条件を満たすか否かを判定する条件判定手段4と、を備えて構成されている。尚、実数型フィルタ係数5を丸め込み表現した値(=N/2M)は10進表現の値であり、実際の処理では、当該値はデジタル値で表現される。
【0054】
以上の構成を有するフィルタ係数変換装置1を用いた分解側フィルタ係数の変換処理を、図11のフローチャートを参照しつつ以下に詳説する。この変換処理では、分解側ローパスフィルタH0(z)のフィルタ係数が整数型の値に変換される。変換元の実数型フィルタとしては、9×7タップのドビシス(Daubechies)フィルタを採用することができる。以下の表1,表2に、ドビシスフィルタのフィルタ係数<h0(n)>,<h1(n)>,<g0(n)>,<g1(n)>を示す。<h>は、フィルタ係数hが実数型係数であることを表す記号である。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
ステップST1では、このフィルタ係数変換装置1に、実数型フィルタ係数<h0(n)>が入力する。入力したフィルタ係数<h0(n)>は、次数決定手段2と丸め込み値選択手段3とにそれぞれ伝達する。続くステップST2では、次数決定手段2は、入力した実数型フィルタ係数<h0(n)>を丸め込み表現した値(=N0(n)/2M=h0(n))の分母(=2M)の次数Mを決定し、その値Mを丸め込み値選択手段3に出力する。
【0058】
丸め込み値選択手段3は、n番目の丸め込み値(=N0(n)/2M)の番号nがゼロ値の場合は、ステップST3,ST4の処理を実行し、番号nがゼロ値以外の場合は、ステップST5,ST6の処理を実行する。ステップST3では、整数型フィルタ係数の系列のうち中央位置の丸め込み値h0(0)に着目し、この丸め込み値h0(0)の分子N0(0)が偶数であり、且つ、丸め込み値h0(0)と当該実数型フィルタ係数<h0(0)>との差分絶対値が最小となるという条件を満たす整数値N0(0)を選択する。続くステップST4では、選択した分子N0(0)を当該分母2Mで除算した丸め込み値h0(0)が算出される。
【0059】
一方、ステップST5では、整数型フィルタ係数の系列のうち中央位置の丸め込み値h0(n)(n:ゼロ以外の整数)に着目し、この丸め込み値h0(n)と当該実数型フィルタ係数<h0(n)>との差分絶対値が最小となるという条件を満たす整数値N0(n)を選択する。整数値N0(n)は必ずしも偶数である必要はない。続くステップST6では、選択した分子N0(n)を当該分母2Mで除算した丸め込み値h0(n)が算出される。
【0060】
以上のようにステップST4,ST6において、丸め込み値選択手段3が整数型フィルタ係数h0(n)を条件判定手段4に出力した後、条件判定手段4は、ステップST7以後の処理を実行する。ステップST7では、分解側ローパスフィルタH0(z)のインパルス応答h0(n)の総和の絶対値を示すDC成分GDCを算出し、当該DC成分GDCが所定値に一致するという規格化条件が成立するか否かが判定される。JPEG2000方式を採用する場合、DC成分GDCの値は「1」に一致しなければならない。DC成分GDCの算出式は、次式(7)の通りである。
【0061】
【数7】
【0062】
前記ステップST7で規格化条件が満たされていた場合は、ステップST8に処理が移行し、規格化条件が満たされていなかった場合は、ステップST9で規格化条件を満たすように規格化が行われた後に、ステップST8に処理が移行する。
【0063】
次のステップST8では、係数算出手段3Aは、分解側フィルタと合成側フィルタとが双直交性を満たすという双直交条件を用いて、合成側のハイパスフィルタG1(z)の整数型フィルタ係数g1(n)を算出し、条件判定手段4に出力する。その双直交条件は次式(8)の通りである。
【0064】
【数8】
【0065】
ステップST10では、条件判定手段4において、前記ステップST8で算出された合成側フィルタ係数g1(n)を用いて、合成側のハイパスフィルタG1(z)を構成する各ポリフェーズフィルタK0(z2),K1(z2)のインパルス応答の総和の絶対値が一致するという束縛条件が成立するか否かが判定される。この束縛条件は、ハイパスフィルタG1(z)の偶数番目のフィルタ係数の総和の絶対値と奇数番目のフィルタ係数の総和の絶対値とが一致することと同じである。JPEG2000方式を採用した場合は、当該束縛条件に、更に、その総和の絶対値が1/2になる条件が付加される。JPEG2000方式を採用した場合の束縛条件は次式(9)の通りである。
【0066】
【数9】
【0067】
前記ステップST10で束縛条件が成立していなかった場合は、条件判定手段4は、当該整数型フィルタ係数h0(n),g1(n)の算出に失敗したとみなし、本フィルタ係数変換処理は終了する。他方、前記ステップST10で束縛条件が成立していた場合は、次のステップST11に処理が移行し、条件判定手段4は、整数型フィルタ係数h0(n),g1(n)を確定して出力する。
【0068】
以上のフィルタ係数変換処理により、9×7タップのドビシスフィルタのフィルタ係数を変換した係数値h0(n),g1(n)を、それぞれ以下の表3,表4に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
次に、分解側ハイパスフィルタH1(z)のフィルタ係数の変換処理を、図12のフローチャートを参照しつつ以下に詳説する。先ず、ステップST20では、上記フィルタ係数変換装置1に、実数型フィルタ係数<h1(n)>が入力する。入力したフィルタ係数<h1(n)>は、次数決定手段2と丸め込み値選択手段3とにそれぞれ伝達する。続くステップST21では、次数決定手段2は、入力した実数型フィルタ係数<h1(n)>を丸め込み表現した値(=N1(n)/2M=h1(n))の分母(=2M)の次数Mを決定し、その値Mを丸め込み値選択手段3に出力する。
【0072】
丸め込み値選択手段3は、n番目の丸め込み値(=N1(n)/2M)の番号nがゼロ値の場合は、ステップST22,ST23の処理を実行し、番号nがゼロ値以外の場合は、ステップST24,ST25の処理を実行する。ステップST22では、丸め込み値h1(n)の分子N1(−1)が偶数であり、且つ、丸め込み値h1(−1)と当該実数型フィルタ係数<h1(−1)>との差分絶対値が最小となるという条件を満たす整数値N1(−1)を選択する。続くステップST23では、選択した分子N1(−1)を当該分母2Mで除算した丸め込み値h1(−1)が算出される。
【0073】
一方、ステップST24では、丸め込み値h1(n)(n:−1以外の整数)と当該実数型フィルタ係数<h1(n)>との差分絶対値が最小となるという条件を満たす整数値N1(n)を選択する。その整数値N1(n)は必ずしも偶数である必要はない。続くステップST25では、選択した分子N1(n)を当該分母2Mで除算した丸め込み値h1(n)が算出される。
【0074】
以上のようにステップST23,ST25において、丸め込み値選択手段3が整数型フィルタ係数h1(n)を条件判定手段4に出力した後、条件判定手段4は、ステップST26以後の処理を実行する。ステップST26では、プラスマイナス1の値を交互にとる交番信号が印加された場合の分解側ハイパスフィルタH1(z)の応答の総和の絶対値(以下、ナイキスト成分DNyquistと呼ぶ。)を算出し、当該ナイキスト成分DNyquistが所定値に一致するという規格化条件が成立するか否かが判定される。JPEG2000方式を採用する場合は、ナイキスト成分DNyquistの値は「2」に一致しなければならない。このナイキスト成分DNyquistの算出式は、次式(10)の通りである。
【0075】
【数10】
【0076】
前記ステップST26で規格化条件が満たされていた場合は、ステップST27に処理が移行し、規格化条件が満たされていなかった場合は、ステップST28で規格化条件を満たすように規格化が行われた後に、ステップST27に処理が移行する。
【0077】
次のステップST27では、分解側フィルタと合成側フィルタとが双直交性を満たすという双直交条件(上式(8))を用いて、合成側のローパスフィルタG0(z)の整数型フィルタ係数g0(n)が算出される。
【0078】
次のステップST29では、前記ステップST27で算出された合成側フィルタ係数g0(n)を用いて、合成側のローパスフィルタG0(z)を構成する各ポリフェーズフィルタR0(z2),R1(z2)のインパルス応答の総和が一致するという束縛条件が成立するか否かが判定される。JPEG2000方式を採用した場合は、当該束縛条件に、更に、その総和が「1」になる条件が付加される。JPEG2000方式を採用した場合の束縛条件は次式(11)の通りである。
【0079】
【数11】
【0080】
この束縛条件が成立するとき、各ポリフェーズフィルタのインパルス応答の総和が一致するため、上述した通り、復号化画像中のチェス盤歪みを回避することが可能となる。
【0081】
前記ステップST29で束縛条件が成立していなかった場合は、条件判定手段4は、当該整数型フィルタ係数h1(n),g0(n)の算出に失敗したとみなし、本フィルタ係数変換処理は終了する。他方、前記ステップST29で束縛条件が成立していた場合は、次のステップST30に処理が移行し、条件判定手段4は、整数型フィルタ係数h1(n),g0(n)を確定して出力する。
【0082】
以上のフィルタ係数変換処理に従って、9×7タップのドビシスフィルタのフィルタ係数を変換し、その結果得られた整数型の係数値h1(n),g0(n)を以下の表5,表6に示す。
【0083】
【表5】
【0084】
【表6】
【0085】
以上の通り、この第1の実施の形態では、上記ステップST29(図12)で、ローパスフィルタを構成する各ポリフェーズフィルタのインパルス応答の総和が一致するという条件が成立するか否かの判定処理を行っている。このため、IDWTで低域成分を合成する際に当該低域成分にチェス盤歪みが混入しないように、比較的低いビット精度で、高精度の整数型フィルタ係数を算出できる。
【0086】
また、上記ステップST10(図11)では、ハイパスフィルタを構成する各ポリフェーズフィルタのインパルス応答の総和の絶対値が一致するという条件が成立するか否かの判定処理が行われている。このため、分解側と合成側の各フィルタの構成要件を満たしつつ、チェス盤歪みを回避できるように高精度の整数型フィルタ係数を算出できる。
【0087】
更に、上記ステップST3(図11)とステップST22(図12)とでは、整数型フィルタ係数の系列のうち、中央の値に相当するh0(0),h1(−1)の分子が共に偶数に選択される。このため、整数型フィルタ係数をより高い精度で算出できる。
【0088】
従って、ソフトウェアまたはハードウェアにおいて、上記整数型フィルタ係数を用いて固定小数点演算でDWTとIDWTとを効率良く実行することが可能となる。特にハードウェアを採用する場合は、全ての整数型フィルタ係数の分母が共通の2の巾乗をもつことから、除算処理をビットシフト演算で効率良く行うことができる。従って、入出力ピンの数が少ない小回路規模のハードウェア構成を実現することが可能である。
【0089】
第2の実施の形態.
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態に係るリフティング係数変換方法とその装置は、リフティング構成を使用したDWTおよびIDWTに適用される方法と装置である。最初に、リフティング構成を概説した後に、本実施の形態に係るリフティング係数変換処理を説明する。
【0090】
リフティング構成.
図13は、1ステージのみ(1次の分解レベルのみ)のDWTとIDWTとを実現するフィルタ構成を示す図である。このような構成によるDWTはポリフェーズDWTと呼ばれている。図13中、符号41,46は遅延素子、42,43はダウンサンプラ、44,45はアップサンプラを示している。また、図中のPc(z),P(z)-1はポリフェーズ行列と称されている。
【0091】
順変換においては、入力データX(k)(k:整数)は、分岐してダウンサンプラ42と遅延素子41とに伝達し、ダウンサンプラ42は偶数番目のデータX(2n+4)(n:整数)を出力し、一方、遅延素子41の出力信号をダウンサンプリングするダウンサンプラ43は、奇数番目のデータX(2n+3)を出力する。すなわち、入力データX(k)は、偶数番目のデータX(2n+4)と奇数番目のデータX(2n+3)とに分離されて、ポリフェーズ行列Pc(z)に入力することになる。このポリフェーズ行列Pc(z)からは、低域成分(LP)Y(2n)と高域成分(HP)Y(2n+1)とが出力される。
【0092】
他方、逆変換においては、ポリフェーズ行列P(z)-1は、入力データY(2n),Y(2n+1)に対して、ポリフェーズ行列P(z)の逆変換を実行し、データX(2n−2),X(2n−3)を復元して出力する。偶数番目のデータX(2n−2)はアップサンプラ44と遅延素子46とを経て加算器47に伝達し、奇数番目のデータX(2n−3)はアップサンプラ45を経て加算器47に伝達し、加算器47は元のデータX(k)を合成する。
【0093】
順変換のポリフェーズ行列Pc(z)と逆変換のポリフェーズ行列P(z)-1は、リフティング構成と称する手法で構築できる。
【0094】
順変換は図14に示すリフティング構成で実現され、逆変換は図15に示すリフティング構成で実現される。図14中、符号51,53,58,59はz変換形式の伝達関数で表される2タップのFIR型フィルタを示しており、符号54,56,60は遅延素子、62は入力信号に係数1/κを乗算して出力する乗算器、63は入力信号に係数κを乗算して出力する乗算器、52,55,57は加算器、を示している。
【0095】
また、図15中、符号72,75,78,81はz変換形式の伝達関数で表される2タップのFIR型フィルタを示しており、符号70は入力信号に係数κを乗算して出力する乗算器、71は入力信号に係数1/κを乗算して出力する乗算器、74,77,80は遅延素子、73,76,79,82は減算器、を示している。
【0096】
図14と図15に現れる係数α,β,γ,δ,κは、リフティング係数と呼ばれており、9×7タップのドビシスフィルタのリフティング構成では実数型の値をもつ。
【0097】
また、図14に示す分解側リフティング構成により、入力データX(k)は、奇数番目のデータX(2n+3)と偶数番目のデータX(2n+4)とに分解される。また、中間データY’(2n+3),Y’’(2n+2),Y’’’(2n+1),Y’’’’(2n)が次々と生成されて、最終的にデータY(2n),Y(2n+1)が出力される。この分解側リフティング構成は、図16に示すように、データを示す黒点と、各黒点間を結ぶ線分とからなるツリー図で表現することができる。各黒点近傍には、当該黒点を示すデータが表示されている。例えば、左端の各黒点に対応して、それぞれ、入力データ列X(2n),X(2n+1),…,X(2n+4)が表示されている。また、各黒点間を結ぶ線分の近傍には係数が表示されている。例えば、データX(2n)を示す黒点とデータY’(2n+1)を示す黒点との間の線分近傍には係数αが表示されている。
【0098】
図16に示す分解側リフティング構成は、次の規則(A),(B),(C)に基づいて解釈されるものである。(A)黒点を示すデータは、左方から右方へ延びる線分に沿って伝達する。(B)黒点間を結ぶ線分は、当該線分を伝達するデータに当該係数を乗算する。(C)黒点は、各線分に沿って左方から入力するデータを加算して右方へ延びる線分に出力する。従って、その分解側リフティング構成は次式(12)と等価である。
【0099】
【数12】
【0100】
また、図15に示す合成側リフティング構成により、入力データ列Y(2n+4),Y(2n+5)に対して、中間データX’’’(2n+4),X’’(2n+5),…が次々と生成されて、最終的に合成データX(k)が出力される。この合成側リフティング構成も、図17に示す黒点と線分とからなるツリー図で表現することが可能であり、次式(13)と等価である。
【0101】
【数13】
【0102】
9×7タップのドビシスフィルタのリフティング構成を採用した場合のリフティング係数α,β,γ,δ,κの正確な値を次式(14)に示す。
【0103】
【数14】
【0104】
また、以下の表7に、ドビシスフィルタの分解側フィルタ係数h0(n),h1(n)をリフティング係数α,β,γ,δ,κ,1/κで構成したものを示し、以下の表8に、ドビシスフィルタの合成側フィルタ係数g0(n),g1(n)をリフティング係数α,β,γ,δ,κ,1/κで構成したものを示す。
【0105】
【表7】
【0106】
【表8】
【0107】
リフティング係数変換処理.
次に、本発明の第2の実施の形態に係るリフティング係数変換方法とその装置について説明する。図18は、本実施の形態に係るリフティング係数変換装置90の概略構成を示す機能ブロック図である。このリフティング係数変換装置90は、外部から入力する実数型リフティング係数を分数に丸め込み表現した値(=N/2M;N,Mは1以上の整数)の分母(=2M)の次数Mを決定する次数決定手段91と、後述する評価式に基づいてその分子Nの整数値を探索する係数評価手段93と、この係数評価手段93に対して探索範囲を指示する探索範囲決定手段92と、係数評価手段93から出力された整数型リフティング係数を抽出する係数抽出手段94と、を備えて構成されている。
【0108】
以上の構成を有するリフティング係数変換装置90を用いたリフティング係数の変換処理を、図19のフローチャートを参照しつつ以下に詳説する。最初のステップST1では、変換元の実数型リフティング係数がリフティング係数変換装置90に入力する。次数決定手段91は、実数型リフティング係数α,β,γ,δ,κ,1/κの各々について丸め込み表現した値(=N/2M)の分母(=2M)の次数Mを決定し、その値Mを係数評価手段93に出力する。併行して、探索範囲決定手段92は、各実数型リフティング係数の探索範囲を決定して係数評価手段93に出力する。
【0109】
次のステップST41A以後において、係数評価手段93は、指定された探索範囲内で、後述する評価式の値(以下、評価値と呼ぶ。)と、この値に対応する整数型リフティング係数とを算出する。すなわち、ステップST41A〜ST46Aと、ステップST41B〜46Bとの間でループを形成し、指定された探索範囲で整数型リフティング係数α,β,γ,δ,κ,1/κの分子を小刻みに順次変化させる。そして、ステップST47では、そのループにおいて変化させた整数型リフティング係数の全ての組み合わせについて、以下に説明する評価値が算出される。
【0110】
上記の表8,表9によれば、上式(9)は次式(15)のように表される。
【0111】
【数15】
【0112】
また、上式(11)は次式(16)のように表される。
【0113】
【数16】
【0114】
前記評価式は、上式(15)の中辺の値と右辺の値との差分絶対値の和と,(16)の中辺の値と右辺の値との差分絶対値の和とを加算したものであり、次式(17)で表現される。
【0115】
【数17】
【0116】
次のステップST48では、係数抽出手段94は、前記係数評価手段93から入力する評価値の組み合わせのうち、最小の評価値をとる整数型リフティング係数の組み合わせ(α,β,γ,δ,κ,1/κ)を確定して出力する。ここで、上記したDC成分GDCおよびナイキスト成分DNyquistがそれぞれ所定値をとるという条件が成立するか否かを判定してもよい。
【0117】
以上のリフティング係数変換処理の計算結果の例を、以下の表9,表10,表11に示す。表9および表11の中の「範囲」は、上記探索範囲の変動幅の上下限値を示している。すなわち、上記探索範囲は、実数型リフティング係数から下限値を引いた値から、同実数型リフティング係数に上限値を足した値までの範囲である。例えば、表9に示す次数M=5に対応する変動幅の上下限値は「±1」であるから、係数αの探索範囲は、<α>−1から<α>+1、となる(但し、<α>は実数型リフティング係数)。本例では、各分母の次数Mの値に応じて、全ての整数型リフティング係数に共通の探索範囲が設定されている。表9と表10は分離して表示されているが、各次数Mに対応する探索範囲は同じである。また、表11中の「評価式」の値は上記評価値を意味している。
【0118】
【表9】
【0119】
【表10】
【0120】
【表11】
【0121】
以上の通り、この第2の実施の形態では、評価値がゼロ値に近くなるように整数型フィルタ係数が選択されることで、比較的低いビット精度で、チェス盤歪みを低減し得る高精度の整数型フィルタ係数を算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る分解側のFIR型ローパスフィルタの構成を示す模式図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る分解側のFIR型ハイパスフィルタの構成を示す模式図である。
【図3】アップサンプラとフィルタとの組み合わせを示す模式図である。
【図4】図3に示すフィルタ構成のポリフェーズ表現を示す模式図である。
【図5】図3に示すフィルタ構成の他のポリフェーズ表現を示す模式図である。
【図6】合成側のフィルタバンクを示す模式図である。
【図7】図6に示すフィルタバンクのポリフェーズ表現を示す模式図である。
【図8】合成側のFIR型フィルタの構成を示す模式図である。
【図9】合成側のFIR型フィルタの構成を示す模式図である。
【図10】第1の実施の形態に係るフィルタ係数変換装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図11】第1の実施の形態に係るフィルタ係数変換方法を示すフローチャートである。
【図12】第1の実施の形態に係るフィルタ係数変換方法を示すフローチャートである。
【図13】1ステージのDWTとIDWTとを実現するフィルタ構成を示す図である。
【図14】分解側フィルタバンクのリフティング構成を示す模式図である。
【図15】合成側フィルタバンクのリフティング構成を示す模式図である。
【図16】分解側リフティング構成を示すツリー図である。
【図17】合成側リフティング構成を示すツリー図である。
【図18】本発明の第2の実施の形態に係るリフティング係数変換装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図19】第2の実施の形態に係るリフティング係数変換方法を示すフローチャートである。
【図20】JPEG2000方式に基づいた画像符号化装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図21】JPEG2000方式に基づいた画像復号化装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図22】1次元DWTを実現する2分割フィルタバンク群の構成例を示す模式図である。
【図23】1次元IDWTを実現する2分割フィルタバンク群の構成例を示す模式図である。
【図24】2次元DWTを施された画像データを模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0123】
1 フィルタ係数変換装置
2 次数決定手段
3 丸め込み値選択手段
4 条件判定手段
90 リフティング係数変換装置
91 次数決定手段
92 探索範囲決定手段
93 係数評価手段
94 係数抽出手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーブレット(wavelet)変換、特に離散ウェーブレット変換を用いた画像の圧縮伸長技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
画像データの高能率符号化方式の一つとして、離散ウェーブレット変換(DWT;Discrete wavelet transform)を用いた画像符号化方法およびその復号化方法が採用されている。このDWTに基づいた符号化方式は、従来の離散コサイン変換(Discrete Cosine Transform;DCT)に基づく方式に代替するものとして、ISO(国際標準化機構)が策定するJPEG2000(Joint Photographic Experts Group 2000)方式で採用されるものである。DWTは、DCTと比べて、(1)DCTの変換基底の両端が収束しないため復号化画像に出現するブロック状の雑音(ブロック歪み)を回避できること、(2)画像信号の高帯域成分の量子化に起因して復号化画像の輪郭部分などに出現するノイズ(モスキート雑音)を回避できること、(3)高圧縮率に対して高画質の復元画像を得られること、などの多くの優れた利点を有している。
【0003】
図20は、そのJPEG2000方式に基づいた画像符号化装置100の概略構成を示す機能ブロック図である。以下、この図20を参照しつつ画像圧縮変換(順変換)の手順について概説する。先ず、画像符号化装置100に入力する画像信号は、DCレベルシフト部102で、各信号値からダイナミックレンジの半分を減算するレベルシフト演算を施される。尚、このレベルシフト演算は、入力信号がRGB信号のような正の整数からなる場合に実行されるが、その値がYCbCr信号における色差信号(Cb,Cr)のような符号付き整数からなる場合には省略される。
【0004】
次に、カラー変換部103は、DCレベルシフト部102からの入力データの色空間を、例えば、RGB色空間からYCbCr色空間などへ変換する色空間変換処理を実行する。その色空間変換処理を施された画像データはタイリング部104に出力され、各フレームが複数の矩形状のブロック領域に分割される。分割後の各ブロック領域は「タイル」と呼ばれている。DWT部105は、タイリング部104から入力する画像データに対して各タイル単位でDWTを実行し、そのウェーブレット変換係数を量子化部106に出力する。尚、本例では、DWTがタイル単位で実行されるブロックベースの変換を採用しているが、その代わりに、入力データを複数ライン分バッファリングして垂直方向のフィルタリングを行い、その結果得られたデータ列に対して水平方向のフィルタリングを行うというラインベースのDWTを採用してもよい。一般に、変換効率と画質を向上させる観点からはブロックベースDWTの方が好ましく、メモリ使用量低減の観点からはラインベースDWTの方が好ましい。
【0005】
量子化部106は、入力するウェーブレット変換係数に対してスカラー量子化を実行し、その結果得られる量子化係数をエントロピー符号化器101に出力する。尚、ロスレス(可逆)符号化を行う場合にはスカラー量子化は行われず、後述するポスト量子化が採用される。また、量子化部106は、ROI部107によって指定された特定領域(ROI;Region Of Interest)を選択し、当該ROIに対する量子化処理を他の領域のそれと相違させ、特定領域の画質を選択的に向上させる機能を有する。
【0006】
次に、エントロピー符号化器101は、入力する量子化係数の符号化順序の決定や情報源符号化などを行い、その結果得られる符号化データを出力する機能ブロックを有する。図20には、EBCOT(Embedded Block Coding with Optimized Truncation)と称するブロックベースのビットプレーン符号化を行う機能ブロックが示されている。すなわち、エントロピー符号化器101に入力する量子化係数は、係数ビットモデリング部108において後段の算術符号化部109での処理に適したビットモデルに変換され、算術符号化部109では算術符号化を施され、その後、ビット切り捨て部110でポスト量子化(truncation)を施される。
【0007】
そして、ビットストリーム生成部111は、エントロピー符号化器101から入力する符号化データと付加情報(ヘッダ情報、レイヤー構成、スケーラビリティ、量子化テーブルなど)とを多重化したビットストリームを生成し、圧縮画像として出力する。
【0008】
次に、図21を参照しつつ上記圧縮画像の復号化手順について概説する。図21は、圧縮画像を復号化する画像復号化装置120の概略構成を示す機能ブロック図である。ビットストリーム抽出部121は、入力する圧縮画像から、上記付加情報と符号化データとを分離し、抽出した符号化データをエントロピー復号化器122に出力する。エントロピー復号化器122において、算術復号化部123は入力データに対して送信側の算術復号化を行い、また、係数ビットモデリング部124は、入力データのビットモデルを元に戻して得られる量子化係数を出力する。次いで、逆量子化部125は、入力する量子化係数に対して逆量子化を施し、その結果得られるウェーブレット変換係数を出力する。
【0009】
逆量子化部125が出力したウェーブレット変換係数は、IDWT部127でタイル単位の逆離散ウェーブレット変換(IDWT;Inverse DWT)を施され、タイル合成部128で1フレームに合成され、カラー変換部129で元の色空間に変換される。DCレベルシフト部130は、カラー変換部129から入力する各信号値にダイナミックレンジの半分を加算するレベルシフト演算を実行し、その結果得られる復号化画像を出力する。
【0010】
上記DWTを実現する具体的手段としては、(1)画像信号を高域成分と低域成分とに2分割する2分割フィルタバンクを繰り返し使用して低域成分を再帰的に2分割する方法と、(2)ポリフェーズ表現に基づくリフティング構成(Lifting Scheme)を利用する方法と、が公知である。以下、2分割フィルタバンクを使用したDWTの実現方法を説明し、リフティング構成を用いたDWTとIDWTの実現方法については後述する。
【0011】
図22は、1次元DWT(順変換)を実現する2分割フィルタバンク群の構成例を示す模式図である。2分割フィルタバンクは、低域成分を通過させるローパスフィルタH0(z)と、高域成分を通過させるハイパスフィルタH1(z)と、ダウンサンプラ140L,…,142L,140H,…,または142Hとで構成される。1次元DWTは、この2分割フィルタバンクを繰り返し用いることで構成される。尚、ダウンサンプラ140L〜142L,140H〜142Hは入力信号を一つおきに間引き、信号長を半分にして出力するものである。入力画像は、分解レベル(decomposition level)1において高域成分(H)と低域成分(L)とに分解され、次の分解レベル2において当該低域成分(L)が更に高域成分(LH)と低域成分(LL)とに分解され、次の分解レベル3において当該低域成分(LL)が更に高域成分(LLH)と低域成分(LLL)とに分解される。このように低域成分を再帰的に帯域分割することで、最終的に4つの帯域成分(LLL,LLH,LH,H)が得られる。
【0012】
一方、図23は、1次元IDWT(逆変換)を実現する2分割フィルタバンク群の構成例を示す模式図である。2分割フィルタバンクは、低域成分を通過させるローパスフィルタG0(z)と、高域成分を通過させるハイパスフィルタG1(z)と、アップサンプラ150L,…,154L,150H,…,または154Hと、加算器151,153または155とで構成される。1次元IDWTは、この2分割フィルタバンクを繰り返し適用することで構成される。尚、アップサンプラ150L〜154L,150H〜154Hは、各信号値間にゼロ値を一つ挿入して信号長を倍に増すものである。この2分割フィルタバンク群には、上記の4つの帯域成分(LLL,LLH,LH,H)が入力している。
【0013】
合成レベル1では、第1成分(LLL)はアップサンプラ150LとローパスフィルタG0(z)を経て加算器151に入力し、第2成分(LLH)はアップサンプラ150HとハイパスフィルタG1(z)を経て前記加算器151に入力する。加算器151は、各フィルタG0(z),G1(z)から入力する成分を合成して帯域成分(LL)を生成する。次の合成レベル2では、前記加算器151が出力した帯域成分(LL)はアップサンプラ152LとローパスフィルタG0(z)を経て加算器153に入力し、帯域成分(LH)はアップサンプラ152HとハイパスフィルタG1(z)を経て前記加算器153に入力する。加算器153は、各フィルタG0(z),G1(z)から入力する成分を合成して帯域成分(L)を生成する。そして、合成レベル3では、前記加算器153が出力した帯域成分(L)はアップサンプラ154LとローパスフィルタG0(z)を経て加算器155に入力し、帯域成分(H)はアップサンプラ154HとハイパスフィルタG1(z)を経て前記加算器155に入力する。最終的に、加算器155は、各フィルタG0(z),G1(z)から入力する成分を合成して復号化画像を生成し出力する。
【0014】
2次元画像に2次元DWTを施す場合は、各分解レベルにおいて、図22に示した2分割フィルタバンクを水平方向と垂直方向とに適用することで、入力画像は垂直方向、水平方向の順でそれぞれ帯域分割を施される。図24は、2次元DWTを施された画像データ160を模式的に示す図である。同図中の帯域成分HH1は、入力画像の水平方向の高域成分(H)と垂直方向の高域成分(H)とを含むもの、帯域成分HL1は、その水平方向の高域成分(H)と垂直方向の低域成分(L)とを含むもの、帯域成分LH1は、水平方向の低域成分(L)と垂直方向の高域成分(H)とを含むものである。水平方向と垂直方向の双方向の低域成分を含む帯域成分LL1(図示せず)は、更に分解レベル2において、4つの帯域成分HH2,HL2,LH2,LL2に分解され、次の分解レベル3において、その帯域成分LL2は、4つの帯域成分HH3,HL3,LH3,LL3に分解される。図24では、3次の分解レベルの例が示されているが、JPEG2000方式では、一般に、3次〜8次程度以上の分解レベルが採用されている。
【0015】
なお、リフティング構成については例えば非特許文献1に既述されている。
【0016】
【非特許文献1】W.Sweldens, I. Daubechies, "Factoring Wavelet Transforms into Lifting Steps", J. Fourier Anal., Vol.4, No.3, pp.247-269, 1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記DWTとしては、ウェーブレット変換係数が実数で構成される実数型DWTと、ウェーブレット変換係数が整数で構成される整数型DWTとに大別される。実数型DWTは、ウェーブレット変換係数を浮動小数点演算で算出し、整数型DWTと比べると復号化画像の画質が良いという利点をもつ。
【0018】
一方、整数型DWTでは、実数型DWTと比べると、ロスレス圧縮(可逆圧縮)が可能である。また整数型DWTでは、ウェーブレット変換係数を固定小数点演算で算出できるため、ソフトウェアやハードウェアで効率的な処理が可能である。具体的には、入出力ピンの数が少なく、回路構成が小規模な低価格の固定小数点プロセッサを実現できるという利点がある。一般に、図22,図23に示すデジタル・フィルタH0(z),H1(z),G0(z),G1(z)には、整数型DWTの場合は5×3タップのフィルタ、実数型DWTの場合は9×7タップのフィルタが採用される。
【0019】
実数型DWTを高効率で行う一手法として、実数型のフィルタ係数を整数型のフィルタ係数に丸め込んで固定小数点演算を行う方法がある。この方法では、浮動小数点で表現されたフィルタ係数は2進表現のフィルタ係数に変換される(丸め込まれる)。しかしながら、実数型のフィルタ係数を、単に、当該フィルタ係数に最も近い2進表現の値に丸め込むと、当該値の精度が低い場合は、復号化画像にチェス盤歪み(checkerboard distortion)と称する碁盤目状の歪みが現れるという問題がある。かかる問題を避けるには、非常に高いビット精度で丸め込み処理を実行しなければならない。
【0020】
DWTを実現するフィルタバンクは後述するリフティング構成で表現することも可能である。フィルタ係数は、後述するリフティング係数α,β,γ,δ,κ,1/κで構成することができる。リフティング構成のDWTを固定小数点演算で行う場合、リフティング係数値を実数型の値から整数型の値へ変換しなければならないため、前述と同様の問題が発生する。
【0021】
以上の問題などに鑑みて本発明が目的とするところは、チェス盤歪みなどを回避し得る整数型リフティング係数を、比較的低いビット精度で高精度に算出することが可能なリフティング係数変換方法およびリフティング係数変換装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本願請求項1にかかる発明は、画像圧縮のための離散ウェーブレット変換および圧縮画像の復号のための離散逆ウェーブレット変換を実現する分解側フィルタおよび合成側フィルタの各リフティング構成で使用するリフティング係数を、実数型の係数から分数で表現される整数型リフティング係数へ変換するリフティング係数変換方法である。そして(a)変換先の整数型リフティング係数N/2M(N,M:1以上の整数)の分母の次数Mを決定する工程と、(b)前記整数型リフティング係数で構成される前記合成側フィルタのフィルタ係数のうち、偶数番目の係数の総和の絶対値と奇数番目の係数の総和の絶対値との差分絶対値が最小となるように、前記整数型リフティング係数の分子Nを探索する工程と、を備える。
【0023】
本願請求項2にかかる発明は、請求項1記載のリフティング係数変換方法であって、前記リフティング構成は、9×7タップのドビシス(Daubechies)フィルタのリフティング構成である。
【0024】
本願請求項3にかかる発明は、画像圧縮のための離散ウェーブレット変換および圧縮画像の復号のための離散逆ウェーブレット変換を実現する分解側フィルタおよび合成側フィルタの各リフティング構成で使用するリフティング係数を、実数型の係数から分数で表現される整数型リフティング係数へ変換するリフティング係数変換装置である。そして変換先の整数型リフティング係数N/2M(N,M:1以上の整数)の分母の次数Mを決定する次数決定手段と、前記整数型リフティング係数で構成される前記合成側フィルタのフィルタ係数のうち、偶数番目の係数の総和の絶対値と奇数番目の係数の総和の絶対値との差分絶対値を最小とするように、前記整数型リフティング係数の分子Nを探索する手段と、を備える。
【0025】
本願請求項4にかかる発明は、請求項3記載のリフティング係数変換装置であって、前記リフティング構成は、9×7タップのドビシス(Daubechies)フィルタのリフティング構成である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の請求項1に係るリフティング係数変換方法および請求項13に係るリフティング係数変換装置によれば、合成側フィルタを構成する各ポリフェーズフィルタのインパルス応答の総和の絶対値が一致するようにリフティング係数が算出されるため(工程(b))、チェス盤歪みを回避し得るような、比較的低いビット精度で高精度の整数型フィルタ係数を算出することが可能となる。従って、請求項1の効果と同様に、ソフトウェアまたはハードウェアで、DWTとIDWTとを固定小数点演算で効率良く実行することが可能となる。特に、固定小数点演算を行うハードウェアを採用する場合は、全ての整数型リフティング係数の分母が共通の2の巾乗をもつことから、除算処理を効率の良いビットシフト演算で行うことができる。従って、入出力ピンの数が少ない小規模な回路構成を実現することが可能である。
【0027】
本発明の請求項2に係るリフティング係数変換方法および請求項4に係るリフティング係数変換装置によれば、FIR型のドビシスフィルタと同じ働きをするリフティング構成を形成する整数型リフティング係数を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の種々の実施の形態について説明する。
【0029】
第1の実施の形態.
上述した通り、DWTとIDWTを実現する具体的手段としては、図22,図23に示した2分割フィルタバンクを使用する方法と、リフティング構成を使用する方法とがある。本実施の形態に係るフィルタ係数変換方法とその装置は、2分割フィルタバンクを使用したDWTおよびIDWTに適用される方法と装置である。
【0030】
以下、図22に示した分解側フィルタH0(z),H1(z)と、図23に示した合成側フィルタG0(z),G1(z)とは、共に、有限長インパルス応答(FIR)型フィルタで構成されており、9×7タップの実数型のフィルタ係数をもつものとする。
【0031】
FIR型フィルタの構成.
先ず、DWTを実現するFIR型フィルタについて説明する。図22に示す分解側フィルタバンクにおいて、一方のダウンサンプラ140L〜142Lは、各ローパスフィルタH0(z)から出力されるデータ列のうち、偶数番目のサンプルだけを保持し、奇数番目のサンプルを破棄するという間引き処理を実行し、他方のダウンサンプラ140H〜142Hは、各ハイパスフィルタH1(z)から出力されるデータ列のうち、奇数番目のサンプルだけを保持し、偶数番目のサンプルを破棄するという間引き処理を実行する。このように、各フィルタH0(z),H1(z)から出力されたデータは、偶数と奇数という2つのフェーズ(ポリフェーズ)に分離されて間引き処理を施される。しかし、このようにフィルタH0(z),H1(z)が、偶数番目と奇数番目とに関係無く全ての入力データに関してフィルタ処理を行うのは効率的では無い。本実施の形態では、ローパスフィルタH0(z)は偶数番目のデータ列についてのみフィルタ処理を実行し、ハイパスフィルタH1(z)は奇数番目のデータ列についてのみフィルタ処理を実行し、その結果、各フィルタH0(z)、H1(z)は、各フェーズ毎にフィルタ処理と間引き処理とを同時並行に実行することとする。
【0032】
図1は、分解側のFIR型ローパスフィルタH0(z)の構成を示す模式図、図2は、分解側のFIR型ハイパスフィルタH1(z)の構成を示す模式図である。入力画像10は、入力データ列…,X(2n−4),X(2n−3),…,X(2n),…,X(2n+4),…(n:整数)で構成されている。図1に示す通り、ローパスフィルタH0(z)は、9タップに対応したフィルタ係数h0(−4),h0(−3),…,h0(3),h0(4)を有し、入力データ列とフィルタ係数h0(−4)〜h0(4)とを畳み込み演算する乗算器111〜119および加算器12を有している。このローパスフィルタH0(z)は、次式(1)に従って、偶数番目のデータX(2n)に関して選択的に畳み込み演算を実行し、データY(2n)を出力する。
【0033】
【数1】
【0034】
また、図2に示す通り、ハイパスフィルタH1(z)は、7タップに対応したフィルタ係数h1(−4),h1(−3),…,h1(1),h1(2)を有し、入力データ列とフィルタ係数h1(−4)〜h1(2)とを畳み込み演算する乗算器131〜137および加算器14を有している。このハイパスフィルタH1(z)は、次式(2)に従って、奇数番目のデータX(2n+1)に関して選択的に畳み込み演算を実行し、データY(2n+1)を出力する。
【0035】
【数2】
【0036】
次に、IDWTを実現するFIR型フィルタについて説明する。図23に示した合成側のローパスフィルタG0(z)と、ハイパスフィルタG1(z)とをそれぞれz変換を用いて表現すると、次式(3),(4)のようになる。
【0037】
【数3】
【0038】
上式(3),(4)中、フィルタ係数g0(k)(k=−3〜3)とg1(k)(k=−3〜5)とはインパルス応答を示し、また、z-kはk次の遅延を示している。
【0039】
図23に示した合成側のフィルタバンクは、以下に説明するポリフェーズ分解により変形されることができる。図3に、アップサンプラ30とフィルタG(z)との組み合わせを模式的に示す。フィルタG(z)は、フィルタ係数h(k)(k:整数)を有するFIR型フィルタである。アップサンプラ30は、入力信号y(n)の各値の間にゼロ値を挿入するアップサンプリング処理を行い、フィルタG(z)は、そのアップサンプラ30からの出力データを補間した信号x(n)を出力する。フィルタG(z)は、z変換を用いた伝達関数で、G(z)=R0(z2)z-1+R1(z2)の形に変形され得る。このような表現は「タイプ2のポリフェーズ分解」と呼ばれている。2フェーズに分解された各フィルタR0(z2),R1(z2)は、「ポリフェーズフィルタ」と呼ばれる。
【0040】
以上のフィルタのポリフェーズ表現に基づくと、FIR型フィルタG(z)は、図4に示すように、2つのポリフェーズフィルタR0(z2),R1(z2)と遅延素子32と加算器33とで表現される。すなわち、第1のポリフェーズフィルタR0(z2)の出力信号は、遅延素子32で1周期遅延した後に、加算器33において第2のポリフェーズフィルタR1(z2)の出力信号と加算される。更に、図4のフィルタ構成は、図5に示すフィルタ構成と等価である。従って、出力信号x(n)は、各フィルタR0(z),R1(z)の出力信号を交互に出力したものといえる。
【0041】
ところで、図23に示した合成側のローパスフィルタG0(z)とハイパスフィルタG1(z)とは、z変換を用いた伝達関数で次式(3A),(4A)のように変形され得る。
【0042】
【数4】
【0043】
上式(3A)中、R0(z2),R1(z2)は、合成側ローパスフィルタG0(z)を構成するポリフェーズフィルタを示し、上式(4A)中、K0(z2),K1(z2)は、合成側ハイパスフィルタG1(z)を構成するポリフェーズフィルタを示している。
【0044】
よって、前述のポリフェーズ表現に基づくと、図6に示す合成側のフィルタバンクは、図7に示すフィルタ構成に変形され得る。図6,図7において、符号34,35,34A,34B,35A,35Bはアップサンプラを示しており、符号36,38,40は加算器、37,39は遅延素子を示している。
【0045】
従って、ローパスフィルタ側の加算器38の出力信号x0(n)は、各ポリフェーズフィルタR0(z),R1(z)の出力信号r0,r1を交互に出力したものとなり、ハイパスフィルタ側の加算器40の出力信号x1(n)は、各ポリフェーズフィルタK0(z),K1(z)の出力信号k0,k1を交互に出力したものとなる。この結果、加算器36の出力信号x(n)のうち、偶数番目の出力信号x(2k)は、各ポリフェーズフィルタR0(z),K0(z)の出力信号の和r0+k0とし、奇数番目の出力信号x(2k+1)は、各ポリフェーズフィルタR1(z),K1(z)の出力信号の和r1+k1とすることができる。
【0046】
以上のポリフェーズ表現に従って、合成側のフィルタバンクを実現するFIR型フィルタを構成できる。図8および図9は、合成側のFIR型フィルタの構成を示す模式図である。これらFIR型フィルタは、フィルタ処理とアップサンプリング処理とを同時並行に実行する。また、これらFIR型フィルタには、圧縮画像20を構成するデータ列…,Y(2n−3),Y(2n−2),…,Y(2n+4),Y(2n+5),…が入力している。
【0047】
図8に示す7タップのFIR型フィルタは、上記各ポリフェーズフィルタR0(z2),K0(z2)のフィルタ係数g0(−2),g0(0),g0(2),g1(−2),g1(0),g1(2),g1(4)を使用し、これらフィルタ係数と入力データ列とを畳み込み演算する乗算器210,211,…,216および加減算器22を有している。このFIR型フィルタは、次式(5)に従って畳み込み演算を実行して偶数番目のデータX(2n)を合成する。
【0048】
【数5】
【0049】
また、図9に示す9タップのFIR型フィルタは、上記各ポリフェーズフィルタR1(z2),K1(z2)のフィルタ係数g0(−3),g0(−1),g0(1),g0(3),g1(−3),g1(−1),g1(1),g1(3),g1(5)を使用し、これらフィルタ係数と入力データ列とを畳み込み演算する乗算器231,…,239および加算器24を有している。このFIR型フィルタは、次式(6)に従って畳み込み演算を実行して奇数番目のデータX(2n+1)を合成する。
【0050】
【数6】
【0051】
チェス盤歪みの回避条件.
次に、上記チェス盤歪みの回避条件について説明する。図3において、フィルタへの入力信号y(n)として単位ステップ信号が印加されるとき、出力信号x(n)は、フィルタG(z)のインパルス応答h(k)の総和であり、この総和は時間経過と共に一定値に収束することが望ましい。一方、図5において、入力信号y(n)に対応する出力信号x(n)は、各ポリフェーズフィルタR0(z),R1(z)の出力信号を交互に出力したものに等しい。入力信号y(n)として単位ステップ信号が印加されるとき、各ポリフェーズフィルタR0(z),R1(z)のインパルス応答の総和が交互に出力される。従って、各ポリフェーズフィルタR0(z),R1(z)のインパルス応答の総和が相違する場合は、nの値に応じて交互に異なる値が出力され、一定値に収束しないという現象が起きる。チェス盤歪みはこの種の現象を表していると考えられる。
【0052】
従って、チェス盤歪みの回避条件は、少なくとも、各ポリフェーズフィルタのR0(z),R1(z)のインパルス応答の総和が一致することである。
【0053】
フィルタ係数変換処理.
次に、本発明の第1の実施の形態に係るフィルタ係数変換方法とその装置について説明する。図10は、本実施の形態に係るフィルタ係数変換装置1の概略構成を示す機能ブロック図である。このフィルタ係数変換装置1は、外部から入力する実数型フィルタ係数5を分数に丸め込み表現した値(=N/2M;N,Mは1以上の整数)の分母(=2M)の次数Mを決定する次数決定手段2と、その分子Nの整数値を選択して分解側の整数型のフィルタ係数(丸め込み値)6を出力する丸め込み値選択手段3と、合成側の整数型フィルタ係数を算出する係数算出手段3Aと、入力する分解側および合成側の整数型フィルタ係数が所定条件を満たすか否かを判定する条件判定手段4と、を備えて構成されている。尚、実数型フィルタ係数5を丸め込み表現した値(=N/2M)は10進表現の値であり、実際の処理では、当該値はデジタル値で表現される。
【0054】
以上の構成を有するフィルタ係数変換装置1を用いた分解側フィルタ係数の変換処理を、図11のフローチャートを参照しつつ以下に詳説する。この変換処理では、分解側ローパスフィルタH0(z)のフィルタ係数が整数型の値に変換される。変換元の実数型フィルタとしては、9×7タップのドビシス(Daubechies)フィルタを採用することができる。以下の表1,表2に、ドビシスフィルタのフィルタ係数<h0(n)>,<h1(n)>,<g0(n)>,<g1(n)>を示す。<h>は、フィルタ係数hが実数型係数であることを表す記号である。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
ステップST1では、このフィルタ係数変換装置1に、実数型フィルタ係数<h0(n)>が入力する。入力したフィルタ係数<h0(n)>は、次数決定手段2と丸め込み値選択手段3とにそれぞれ伝達する。続くステップST2では、次数決定手段2は、入力した実数型フィルタ係数<h0(n)>を丸め込み表現した値(=N0(n)/2M=h0(n))の分母(=2M)の次数Mを決定し、その値Mを丸め込み値選択手段3に出力する。
【0058】
丸め込み値選択手段3は、n番目の丸め込み値(=N0(n)/2M)の番号nがゼロ値の場合は、ステップST3,ST4の処理を実行し、番号nがゼロ値以外の場合は、ステップST5,ST6の処理を実行する。ステップST3では、整数型フィルタ係数の系列のうち中央位置の丸め込み値h0(0)に着目し、この丸め込み値h0(0)の分子N0(0)が偶数であり、且つ、丸め込み値h0(0)と当該実数型フィルタ係数<h0(0)>との差分絶対値が最小となるという条件を満たす整数値N0(0)を選択する。続くステップST4では、選択した分子N0(0)を当該分母2Mで除算した丸め込み値h0(0)が算出される。
【0059】
一方、ステップST5では、整数型フィルタ係数の系列のうち中央位置の丸め込み値h0(n)(n:ゼロ以外の整数)に着目し、この丸め込み値h0(n)と当該実数型フィルタ係数<h0(n)>との差分絶対値が最小となるという条件を満たす整数値N0(n)を選択する。整数値N0(n)は必ずしも偶数である必要はない。続くステップST6では、選択した分子N0(n)を当該分母2Mで除算した丸め込み値h0(n)が算出される。
【0060】
以上のようにステップST4,ST6において、丸め込み値選択手段3が整数型フィルタ係数h0(n)を条件判定手段4に出力した後、条件判定手段4は、ステップST7以後の処理を実行する。ステップST7では、分解側ローパスフィルタH0(z)のインパルス応答h0(n)の総和の絶対値を示すDC成分GDCを算出し、当該DC成分GDCが所定値に一致するという規格化条件が成立するか否かが判定される。JPEG2000方式を採用する場合、DC成分GDCの値は「1」に一致しなければならない。DC成分GDCの算出式は、次式(7)の通りである。
【0061】
【数7】
【0062】
前記ステップST7で規格化条件が満たされていた場合は、ステップST8に処理が移行し、規格化条件が満たされていなかった場合は、ステップST9で規格化条件を満たすように規格化が行われた後に、ステップST8に処理が移行する。
【0063】
次のステップST8では、係数算出手段3Aは、分解側フィルタと合成側フィルタとが双直交性を満たすという双直交条件を用いて、合成側のハイパスフィルタG1(z)の整数型フィルタ係数g1(n)を算出し、条件判定手段4に出力する。その双直交条件は次式(8)の通りである。
【0064】
【数8】
【0065】
ステップST10では、条件判定手段4において、前記ステップST8で算出された合成側フィルタ係数g1(n)を用いて、合成側のハイパスフィルタG1(z)を構成する各ポリフェーズフィルタK0(z2),K1(z2)のインパルス応答の総和の絶対値が一致するという束縛条件が成立するか否かが判定される。この束縛条件は、ハイパスフィルタG1(z)の偶数番目のフィルタ係数の総和の絶対値と奇数番目のフィルタ係数の総和の絶対値とが一致することと同じである。JPEG2000方式を採用した場合は、当該束縛条件に、更に、その総和の絶対値が1/2になる条件が付加される。JPEG2000方式を採用した場合の束縛条件は次式(9)の通りである。
【0066】
【数9】
【0067】
前記ステップST10で束縛条件が成立していなかった場合は、条件判定手段4は、当該整数型フィルタ係数h0(n),g1(n)の算出に失敗したとみなし、本フィルタ係数変換処理は終了する。他方、前記ステップST10で束縛条件が成立していた場合は、次のステップST11に処理が移行し、条件判定手段4は、整数型フィルタ係数h0(n),g1(n)を確定して出力する。
【0068】
以上のフィルタ係数変換処理により、9×7タップのドビシスフィルタのフィルタ係数を変換した係数値h0(n),g1(n)を、それぞれ以下の表3,表4に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
次に、分解側ハイパスフィルタH1(z)のフィルタ係数の変換処理を、図12のフローチャートを参照しつつ以下に詳説する。先ず、ステップST20では、上記フィルタ係数変換装置1に、実数型フィルタ係数<h1(n)>が入力する。入力したフィルタ係数<h1(n)>は、次数決定手段2と丸め込み値選択手段3とにそれぞれ伝達する。続くステップST21では、次数決定手段2は、入力した実数型フィルタ係数<h1(n)>を丸め込み表現した値(=N1(n)/2M=h1(n))の分母(=2M)の次数Mを決定し、その値Mを丸め込み値選択手段3に出力する。
【0072】
丸め込み値選択手段3は、n番目の丸め込み値(=N1(n)/2M)の番号nがゼロ値の場合は、ステップST22,ST23の処理を実行し、番号nがゼロ値以外の場合は、ステップST24,ST25の処理を実行する。ステップST22では、丸め込み値h1(n)の分子N1(−1)が偶数であり、且つ、丸め込み値h1(−1)と当該実数型フィルタ係数<h1(−1)>との差分絶対値が最小となるという条件を満たす整数値N1(−1)を選択する。続くステップST23では、選択した分子N1(−1)を当該分母2Mで除算した丸め込み値h1(−1)が算出される。
【0073】
一方、ステップST24では、丸め込み値h1(n)(n:−1以外の整数)と当該実数型フィルタ係数<h1(n)>との差分絶対値が最小となるという条件を満たす整数値N1(n)を選択する。その整数値N1(n)は必ずしも偶数である必要はない。続くステップST25では、選択した分子N1(n)を当該分母2Mで除算した丸め込み値h1(n)が算出される。
【0074】
以上のようにステップST23,ST25において、丸め込み値選択手段3が整数型フィルタ係数h1(n)を条件判定手段4に出力した後、条件判定手段4は、ステップST26以後の処理を実行する。ステップST26では、プラスマイナス1の値を交互にとる交番信号が印加された場合の分解側ハイパスフィルタH1(z)の応答の総和の絶対値(以下、ナイキスト成分DNyquistと呼ぶ。)を算出し、当該ナイキスト成分DNyquistが所定値に一致するという規格化条件が成立するか否かが判定される。JPEG2000方式を採用する場合は、ナイキスト成分DNyquistの値は「2」に一致しなければならない。このナイキスト成分DNyquistの算出式は、次式(10)の通りである。
【0075】
【数10】
【0076】
前記ステップST26で規格化条件が満たされていた場合は、ステップST27に処理が移行し、規格化条件が満たされていなかった場合は、ステップST28で規格化条件を満たすように規格化が行われた後に、ステップST27に処理が移行する。
【0077】
次のステップST27では、分解側フィルタと合成側フィルタとが双直交性を満たすという双直交条件(上式(8))を用いて、合成側のローパスフィルタG0(z)の整数型フィルタ係数g0(n)が算出される。
【0078】
次のステップST29では、前記ステップST27で算出された合成側フィルタ係数g0(n)を用いて、合成側のローパスフィルタG0(z)を構成する各ポリフェーズフィルタR0(z2),R1(z2)のインパルス応答の総和が一致するという束縛条件が成立するか否かが判定される。JPEG2000方式を採用した場合は、当該束縛条件に、更に、その総和が「1」になる条件が付加される。JPEG2000方式を採用した場合の束縛条件は次式(11)の通りである。
【0079】
【数11】
【0080】
この束縛条件が成立するとき、各ポリフェーズフィルタのインパルス応答の総和が一致するため、上述した通り、復号化画像中のチェス盤歪みを回避することが可能となる。
【0081】
前記ステップST29で束縛条件が成立していなかった場合は、条件判定手段4は、当該整数型フィルタ係数h1(n),g0(n)の算出に失敗したとみなし、本フィルタ係数変換処理は終了する。他方、前記ステップST29で束縛条件が成立していた場合は、次のステップST30に処理が移行し、条件判定手段4は、整数型フィルタ係数h1(n),g0(n)を確定して出力する。
【0082】
以上のフィルタ係数変換処理に従って、9×7タップのドビシスフィルタのフィルタ係数を変換し、その結果得られた整数型の係数値h1(n),g0(n)を以下の表5,表6に示す。
【0083】
【表5】
【0084】
【表6】
【0085】
以上の通り、この第1の実施の形態では、上記ステップST29(図12)で、ローパスフィルタを構成する各ポリフェーズフィルタのインパルス応答の総和が一致するという条件が成立するか否かの判定処理を行っている。このため、IDWTで低域成分を合成する際に当該低域成分にチェス盤歪みが混入しないように、比較的低いビット精度で、高精度の整数型フィルタ係数を算出できる。
【0086】
また、上記ステップST10(図11)では、ハイパスフィルタを構成する各ポリフェーズフィルタのインパルス応答の総和の絶対値が一致するという条件が成立するか否かの判定処理が行われている。このため、分解側と合成側の各フィルタの構成要件を満たしつつ、チェス盤歪みを回避できるように高精度の整数型フィルタ係数を算出できる。
【0087】
更に、上記ステップST3(図11)とステップST22(図12)とでは、整数型フィルタ係数の系列のうち、中央の値に相当するh0(0),h1(−1)の分子が共に偶数に選択される。このため、整数型フィルタ係数をより高い精度で算出できる。
【0088】
従って、ソフトウェアまたはハードウェアにおいて、上記整数型フィルタ係数を用いて固定小数点演算でDWTとIDWTとを効率良く実行することが可能となる。特にハードウェアを採用する場合は、全ての整数型フィルタ係数の分母が共通の2の巾乗をもつことから、除算処理をビットシフト演算で効率良く行うことができる。従って、入出力ピンの数が少ない小回路規模のハードウェア構成を実現することが可能である。
【0089】
第2の実施の形態.
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態に係るリフティング係数変換方法とその装置は、リフティング構成を使用したDWTおよびIDWTに適用される方法と装置である。最初に、リフティング構成を概説した後に、本実施の形態に係るリフティング係数変換処理を説明する。
【0090】
リフティング構成.
図13は、1ステージのみ(1次の分解レベルのみ)のDWTとIDWTとを実現するフィルタ構成を示す図である。このような構成によるDWTはポリフェーズDWTと呼ばれている。図13中、符号41,46は遅延素子、42,43はダウンサンプラ、44,45はアップサンプラを示している。また、図中のPc(z),P(z)-1はポリフェーズ行列と称されている。
【0091】
順変換においては、入力データX(k)(k:整数)は、分岐してダウンサンプラ42と遅延素子41とに伝達し、ダウンサンプラ42は偶数番目のデータX(2n+4)(n:整数)を出力し、一方、遅延素子41の出力信号をダウンサンプリングするダウンサンプラ43は、奇数番目のデータX(2n+3)を出力する。すなわち、入力データX(k)は、偶数番目のデータX(2n+4)と奇数番目のデータX(2n+3)とに分離されて、ポリフェーズ行列Pc(z)に入力することになる。このポリフェーズ行列Pc(z)からは、低域成分(LP)Y(2n)と高域成分(HP)Y(2n+1)とが出力される。
【0092】
他方、逆変換においては、ポリフェーズ行列P(z)-1は、入力データY(2n),Y(2n+1)に対して、ポリフェーズ行列P(z)の逆変換を実行し、データX(2n−2),X(2n−3)を復元して出力する。偶数番目のデータX(2n−2)はアップサンプラ44と遅延素子46とを経て加算器47に伝達し、奇数番目のデータX(2n−3)はアップサンプラ45を経て加算器47に伝達し、加算器47は元のデータX(k)を合成する。
【0093】
順変換のポリフェーズ行列Pc(z)と逆変換のポリフェーズ行列P(z)-1は、リフティング構成と称する手法で構築できる。
【0094】
順変換は図14に示すリフティング構成で実現され、逆変換は図15に示すリフティング構成で実現される。図14中、符号51,53,58,59はz変換形式の伝達関数で表される2タップのFIR型フィルタを示しており、符号54,56,60は遅延素子、62は入力信号に係数1/κを乗算して出力する乗算器、63は入力信号に係数κを乗算して出力する乗算器、52,55,57は加算器、を示している。
【0095】
また、図15中、符号72,75,78,81はz変換形式の伝達関数で表される2タップのFIR型フィルタを示しており、符号70は入力信号に係数κを乗算して出力する乗算器、71は入力信号に係数1/κを乗算して出力する乗算器、74,77,80は遅延素子、73,76,79,82は減算器、を示している。
【0096】
図14と図15に現れる係数α,β,γ,δ,κは、リフティング係数と呼ばれており、9×7タップのドビシスフィルタのリフティング構成では実数型の値をもつ。
【0097】
また、図14に示す分解側リフティング構成により、入力データX(k)は、奇数番目のデータX(2n+3)と偶数番目のデータX(2n+4)とに分解される。また、中間データY’(2n+3),Y’’(2n+2),Y’’’(2n+1),Y’’’’(2n)が次々と生成されて、最終的にデータY(2n),Y(2n+1)が出力される。この分解側リフティング構成は、図16に示すように、データを示す黒点と、各黒点間を結ぶ線分とからなるツリー図で表現することができる。各黒点近傍には、当該黒点を示すデータが表示されている。例えば、左端の各黒点に対応して、それぞれ、入力データ列X(2n),X(2n+1),…,X(2n+4)が表示されている。また、各黒点間を結ぶ線分の近傍には係数が表示されている。例えば、データX(2n)を示す黒点とデータY’(2n+1)を示す黒点との間の線分近傍には係数αが表示されている。
【0098】
図16に示す分解側リフティング構成は、次の規則(A),(B),(C)に基づいて解釈されるものである。(A)黒点を示すデータは、左方から右方へ延びる線分に沿って伝達する。(B)黒点間を結ぶ線分は、当該線分を伝達するデータに当該係数を乗算する。(C)黒点は、各線分に沿って左方から入力するデータを加算して右方へ延びる線分に出力する。従って、その分解側リフティング構成は次式(12)と等価である。
【0099】
【数12】
【0100】
また、図15に示す合成側リフティング構成により、入力データ列Y(2n+4),Y(2n+5)に対して、中間データX’’’(2n+4),X’’(2n+5),…が次々と生成されて、最終的に合成データX(k)が出力される。この合成側リフティング構成も、図17に示す黒点と線分とからなるツリー図で表現することが可能であり、次式(13)と等価である。
【0101】
【数13】
【0102】
9×7タップのドビシスフィルタのリフティング構成を採用した場合のリフティング係数α,β,γ,δ,κの正確な値を次式(14)に示す。
【0103】
【数14】
【0104】
また、以下の表7に、ドビシスフィルタの分解側フィルタ係数h0(n),h1(n)をリフティング係数α,β,γ,δ,κ,1/κで構成したものを示し、以下の表8に、ドビシスフィルタの合成側フィルタ係数g0(n),g1(n)をリフティング係数α,β,γ,δ,κ,1/κで構成したものを示す。
【0105】
【表7】
【0106】
【表8】
【0107】
リフティング係数変換処理.
次に、本発明の第2の実施の形態に係るリフティング係数変換方法とその装置について説明する。図18は、本実施の形態に係るリフティング係数変換装置90の概略構成を示す機能ブロック図である。このリフティング係数変換装置90は、外部から入力する実数型リフティング係数を分数に丸め込み表現した値(=N/2M;N,Mは1以上の整数)の分母(=2M)の次数Mを決定する次数決定手段91と、後述する評価式に基づいてその分子Nの整数値を探索する係数評価手段93と、この係数評価手段93に対して探索範囲を指示する探索範囲決定手段92と、係数評価手段93から出力された整数型リフティング係数を抽出する係数抽出手段94と、を備えて構成されている。
【0108】
以上の構成を有するリフティング係数変換装置90を用いたリフティング係数の変換処理を、図19のフローチャートを参照しつつ以下に詳説する。最初のステップST1では、変換元の実数型リフティング係数がリフティング係数変換装置90に入力する。次数決定手段91は、実数型リフティング係数α,β,γ,δ,κ,1/κの各々について丸め込み表現した値(=N/2M)の分母(=2M)の次数Mを決定し、その値Mを係数評価手段93に出力する。併行して、探索範囲決定手段92は、各実数型リフティング係数の探索範囲を決定して係数評価手段93に出力する。
【0109】
次のステップST41A以後において、係数評価手段93は、指定された探索範囲内で、後述する評価式の値(以下、評価値と呼ぶ。)と、この値に対応する整数型リフティング係数とを算出する。すなわち、ステップST41A〜ST46Aと、ステップST41B〜46Bとの間でループを形成し、指定された探索範囲で整数型リフティング係数α,β,γ,δ,κ,1/κの分子を小刻みに順次変化させる。そして、ステップST47では、そのループにおいて変化させた整数型リフティング係数の全ての組み合わせについて、以下に説明する評価値が算出される。
【0110】
上記の表8,表9によれば、上式(9)は次式(15)のように表される。
【0111】
【数15】
【0112】
また、上式(11)は次式(16)のように表される。
【0113】
【数16】
【0114】
前記評価式は、上式(15)の中辺の値と右辺の値との差分絶対値の和と,(16)の中辺の値と右辺の値との差分絶対値の和とを加算したものであり、次式(17)で表現される。
【0115】
【数17】
【0116】
次のステップST48では、係数抽出手段94は、前記係数評価手段93から入力する評価値の組み合わせのうち、最小の評価値をとる整数型リフティング係数の組み合わせ(α,β,γ,δ,κ,1/κ)を確定して出力する。ここで、上記したDC成分GDCおよびナイキスト成分DNyquistがそれぞれ所定値をとるという条件が成立するか否かを判定してもよい。
【0117】
以上のリフティング係数変換処理の計算結果の例を、以下の表9,表10,表11に示す。表9および表11の中の「範囲」は、上記探索範囲の変動幅の上下限値を示している。すなわち、上記探索範囲は、実数型リフティング係数から下限値を引いた値から、同実数型リフティング係数に上限値を足した値までの範囲である。例えば、表9に示す次数M=5に対応する変動幅の上下限値は「±1」であるから、係数αの探索範囲は、<α>−1から<α>+1、となる(但し、<α>は実数型リフティング係数)。本例では、各分母の次数Mの値に応じて、全ての整数型リフティング係数に共通の探索範囲が設定されている。表9と表10は分離して表示されているが、各次数Mに対応する探索範囲は同じである。また、表11中の「評価式」の値は上記評価値を意味している。
【0118】
【表9】
【0119】
【表10】
【0120】
【表11】
【0121】
以上の通り、この第2の実施の形態では、評価値がゼロ値に近くなるように整数型フィルタ係数が選択されることで、比較的低いビット精度で、チェス盤歪みを低減し得る高精度の整数型フィルタ係数を算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る分解側のFIR型ローパスフィルタの構成を示す模式図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る分解側のFIR型ハイパスフィルタの構成を示す模式図である。
【図3】アップサンプラとフィルタとの組み合わせを示す模式図である。
【図4】図3に示すフィルタ構成のポリフェーズ表現を示す模式図である。
【図5】図3に示すフィルタ構成の他のポリフェーズ表現を示す模式図である。
【図6】合成側のフィルタバンクを示す模式図である。
【図7】図6に示すフィルタバンクのポリフェーズ表現を示す模式図である。
【図8】合成側のFIR型フィルタの構成を示す模式図である。
【図9】合成側のFIR型フィルタの構成を示す模式図である。
【図10】第1の実施の形態に係るフィルタ係数変換装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図11】第1の実施の形態に係るフィルタ係数変換方法を示すフローチャートである。
【図12】第1の実施の形態に係るフィルタ係数変換方法を示すフローチャートである。
【図13】1ステージのDWTとIDWTとを実現するフィルタ構成を示す図である。
【図14】分解側フィルタバンクのリフティング構成を示す模式図である。
【図15】合成側フィルタバンクのリフティング構成を示す模式図である。
【図16】分解側リフティング構成を示すツリー図である。
【図17】合成側リフティング構成を示すツリー図である。
【図18】本発明の第2の実施の形態に係るリフティング係数変換装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図19】第2の実施の形態に係るリフティング係数変換方法を示すフローチャートである。
【図20】JPEG2000方式に基づいた画像符号化装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図21】JPEG2000方式に基づいた画像復号化装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図22】1次元DWTを実現する2分割フィルタバンク群の構成例を示す模式図である。
【図23】1次元IDWTを実現する2分割フィルタバンク群の構成例を示す模式図である。
【図24】2次元DWTを施された画像データを模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0123】
1 フィルタ係数変換装置
2 次数決定手段
3 丸め込み値選択手段
4 条件判定手段
90 リフティング係数変換装置
91 次数決定手段
92 探索範囲決定手段
93 係数評価手段
94 係数抽出手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像圧縮のための離散ウェーブレット変換および圧縮画像の復号のための離散逆ウェーブレット変換を実現する分解側フィルタおよび合成側フィルタの各リフティング構成で使用するリフティング係数を、実数型の係数から分数で表現される整数型リフティング係数へ変換するリフティング係数変換方法であって、
(a)変換先の整数型リフティング係数N/2M(N,M:1以上の整数)の分母の次数Mを決定する工程と、
(b)前記整数型リフティング係数で構成される前記合成側フィルタのフィルタ係数のうち、偶数番目の係数の総和の絶対値と奇数番目の係数の総和の絶対値との差分絶対値が最小となるように、前記整数型リフティング係数の分子Nを探索する工程と、
を備えることを特徴とするリフティング係数変換方法。
【請求項2】
請求項1記載のリフティング係数変換方法であって、前記リフティング構成は、9×7タップのドビシス(Daubechies)フィルタのリフティング構成である、リフティング係数変換方法。
【請求項3】
画像圧縮のための離散ウェーブレット変換および圧縮画像の復号のための離散逆ウェーブレット変換を実現する分解側フィルタおよび合成側フィルタの各リフティング構成で使用するリフティング係数を、実数型の係数から分数で表現される整数型リフティング係数へ変換するリフティング係数変換装置であって、
変換先の整数型リフティング係数N/2M(N,M:1以上の整数)の分母の次数Mを決定する次数決定手段と、
前記整数型リフティング係数で構成される前記合成側フィルタのフィルタ係数のうち、偶数番目の係数の総和の絶対値と奇数番目の係数の総和の絶対値との差分絶対値を最小とするように、前記整数型リフティング係数の分子Nを探索する手段と、
を備えることを特徴とするリフティング係数変換装置。
【請求項4】
請求項3記載のリフティング係数変換装置であって、前記リフティング構成は、9×7タップのドビシス(Daubechies)フィルタのリフティング構成である、リフティング係数変換装置。
【請求項1】
画像圧縮のための離散ウェーブレット変換および圧縮画像の復号のための離散逆ウェーブレット変換を実現する分解側フィルタおよび合成側フィルタの各リフティング構成で使用するリフティング係数を、実数型の係数から分数で表現される整数型リフティング係数へ変換するリフティング係数変換方法であって、
(a)変換先の整数型リフティング係数N/2M(N,M:1以上の整数)の分母の次数Mを決定する工程と、
(b)前記整数型リフティング係数で構成される前記合成側フィルタのフィルタ係数のうち、偶数番目の係数の総和の絶対値と奇数番目の係数の総和の絶対値との差分絶対値が最小となるように、前記整数型リフティング係数の分子Nを探索する工程と、
を備えることを特徴とするリフティング係数変換方法。
【請求項2】
請求項1記載のリフティング係数変換方法であって、前記リフティング構成は、9×7タップのドビシス(Daubechies)フィルタのリフティング構成である、リフティング係数変換方法。
【請求項3】
画像圧縮のための離散ウェーブレット変換および圧縮画像の復号のための離散逆ウェーブレット変換を実現する分解側フィルタおよび合成側フィルタの各リフティング構成で使用するリフティング係数を、実数型の係数から分数で表現される整数型リフティング係数へ変換するリフティング係数変換装置であって、
変換先の整数型リフティング係数N/2M(N,M:1以上の整数)の分母の次数Mを決定する次数決定手段と、
前記整数型リフティング係数で構成される前記合成側フィルタのフィルタ係数のうち、偶数番目の係数の総和の絶対値と奇数番目の係数の総和の絶対値との差分絶対値を最小とするように、前記整数型リフティング係数の分子Nを探索する手段と、
を備えることを特徴とするリフティング係数変換装置。
【請求項4】
請求項3記載のリフティング係数変換装置であって、前記リフティング構成は、9×7タップのドビシス(Daubechies)フィルタのリフティング構成である、リフティング係数変換装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2007−166645(P2007−166645A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−387(P2007−387)
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【分割の表示】特願2002−49760(P2002−49760)の分割
【原出願日】平成14年2月26日(2002.2.26)
【出願人】(591128453)株式会社メガチップス (322)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【分割の表示】特願2002−49760(P2002−49760)の分割
【原出願日】平成14年2月26日(2002.2.26)
【出願人】(591128453)株式会社メガチップス (322)
【Fターム(参考)】
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