説明

リヤサスペンション

【課題】 より簡略化された構造のリアサスペンションで、左右後輪が同相で上下動したときの左右後輪のトー角又はキャンバ角の変化を抑制する。
【解決手段】 車両横方向に延設されたスライド部材40の左右には、棒状のロッド50R,50Lが連結されている。棒状のロッド50R,50Lは、ホイールキャリア10R,10Lに連結されている。左右後輪が車体に対して同相で上昇(又は下降)すると、スライド部材40は左右のロッド50R,50Lから同程度の押圧力(又は引っ張り力)を受けるため、スライド部材40は車両横方向に移動しない。よって、左右のロッド50R,50Lからホイールキャリア10R,10Lに付与される反力により、左右後輪のトー角変化、キャンバ角変化が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の後輪側に装備されるリアサスペンションに関し、特に、車両走行時に車両の操縦性・安定性を向上する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の後輪側に装備されたリアサスペンションは、車輪を支持するホイールキャリアと車体の間に複数のアームを配設し、これらを連結して構成されている。このようにリアサスペンションを構成することで、後輪を車体に対して相対的に上下動可能とし、さらには、後輪の上下動に際して後輪のトー角及びキャンバ角が好適に変化するように設定している。一般的なリアサスペンションは、後輪が車体に対して上昇(バウンド)したときにはトー角がトーイン方向に変化し、後輪が車体に対して下降(リバウンド)したときにはトー角がトーアウト方向に変化するように設定されている。また、リアサスペンションは、後輪が車体に対して上昇したときにキャンバ角がネガティブ方向に変化し、後輪がリバウンドしたときにキャンバ角がポジティブ方向に変化するように設定されている。このようにリアサスペンションを設定することで、車両旋回時の車両の操縦性・安定性が向上されている。
【0003】
上記のリアサスペンションの設定は、車両がカーブ路を旋回して左右の後輪が逆相で上下動したときには車両の操縦性・安定性が向上されて有効である。しかし、車両が直進路において横方向に延在する凸部などを乗り越えるなどして、左右の後輪が同相で上下動したときにも左右後輪のトー角及びキャンバ角は変化してしまい、車両の操縦性、安定性が悪化して問題となる。このようなリアサスペンションの設定に関する問題に対処するために、下記の特許文献1に記載された技術が既に提案されている。この文献のリアサスペンションでは、左右の後輪が同相で上下動したときのステア角変化を抑制し、逆相で上下動したときのステア角変化を許容するように複数のリンク部材とアーム部材を連結することで、車両の直進時及び旋回時の操縦性、安定性の両立を図っている。
【特許文献1】特開平11−48730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたリアサスペンションは、複数のリンク部材とアーム部材を組み合わせた複雑な構成であるため、部品点数が多くなってしまい、製造工程も複雑である。また、このためコスト的にも不利である。そこで、本発明は、より簡略化された構造のリアサスペンションで、左右後輪が同相で上下動したときの車輪のトー角又はキャンバ角の変化を抑制し、左右後輪が逆相で上下動したときのトー角又はキャンバ角の変化を許容することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、左右後輪をそれぞれ支持する車輪支持部材にアームを連結し、車体に対して前記左右後輪を揺動可能とするリヤサスペンションにおいて、車両横方向に延設され、前記車体に対して車両横方向に移動可能に支持されたスライド部材と、一端が前記スライド部材の左端に連結され、他端が前記左後輪を支持する車輪支持部材に連結された第一ロッドと、一端が前記スライド部材の右端に連結され、他端が前記右後輪を支持する車輪支持部材に連結された第二ロッドと、を備え、前記各ロッドは、前記車体に対する前記各車輪の上昇に応じて押圧力又は引っ張り力を前記スライド部材に付与し、前記車体に対する前記各車輪の下降に応じて引っ張り力又は押圧力を前記スライド部材に付与することを特徴とする。
【0006】
この構成によれば、左右後輪が同相で上下動すると車輪支持部材から同じ大きさの押圧力又は引っ張り力が第一、第二のロッドに作用し、スライド部材が第一、第二のロッドから受ける押圧力又は引っ張り力はつり合うので、スライド部材が車体に対して車両横方向に移動することがない。よって、左右の車輪支持部材は第一、第二のロッドから大きな反力を受けるため、車輪が上下動したときのアームの回動によるトー角変化及びキャンバ角変化は抑制される。一方、左右後輪が逆相で上下動すると、スライド部材が第一、第二のロッドから受ける力は逆方向に作用するため、スライド部材は車体に対して車両横方向に移動する。よって、左右の車輪支持部材は第一、第二のロッドからほとんど反力を受けないため、車輪が上下動したときのアームの回動によるトー角変化及びキャンバ角変化は許容される。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のリアサスペンションにおいて、前記第一ロッド及び第二ロッドは、前記車輪支持部材においてトー角変化に関して支配的な第一アームの連結位置近傍に連結されたことを特徴とする。ここで、「トー角変化に関して支配的な第一アーム」とは、後輪が上下動した際に、後輪にトー角変化を生じさせるように配置されるアームのことである。即ち、車輪支持部材において当該アームの連結位置近傍は、車輪の上下動に応じた車両横方向の移動距離が比較的に大きい。よって、第一ロッド及び第二ロッドを当該アームの連結位置近傍に連結することにより、当該アームの連結位置近傍の車両横方向の移動を抑制し、左右後輪が同相で上下動したときのトー角変化を抑制する。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載のリアサスペンションにおいて、前記第一ロッド及び第二ロッドは、前記車輪支持部材においてキャンバ角変化に関して支配的な第二アームの連結位置近傍に連結されたことを特徴とする。ここで、「キャンバ角変化に関して支配的な第二アーム」とは、車輪が上下動した際に、車輪にキャンバ角変化を生じさせるように配置されるアームのことである。即ち、車輪支持部材において当該アームの連結位置近傍は、車輪の上下動に応じた車両横方向の移動距離が比較的に大きい。よって、第一ロッド及び第二ロッドを当該アームの連結位置近傍に連結することにより、当該アームの連結位置近傍の車両横方向の移動を抑制し、左右後輪が同相で上下動したときのキャンバ角変化を抑制する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡略化された構造のリアサスペンションで、左右後輪が同相で上下動したときの車輪のトー角又はキャンバ角の変化を抑制し、左右後輪が逆相で上下動したときのトー角又はキャンバ角の変化を許容することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の第一実施形態について説明する。図1には、車両の後輪側に配置されるリアサスペンション1が示されている。また、図2には、同リアサスペンション1を構成する各部材の配置関係が示されている。図1及び図2に示されるリアサスペンション1は、いわゆるダブルウィッシュボーン式のサスペンションである。図1及び図2を参照しつつ、リアサスペンション1を構成する各部材について説明する。
【0011】
リアサスペンション1は、車両横方向の中心位置に沿って延びる車両中心軸に対して、車両前方から見て概ね左右対称に構成されている。リアサスペンション1の左右両端には、左右後輪を支持するための一対のホイールキャリア(車輪支持部材)10R,10Lが設けられている。各ホイールキャリア10R,10Lは、車体にアームを介して連結される固定部12R,12Lと、固定部12R,12Lに回転可能に取り付けられた回転部14R,14Lと、で構成されている。なお、左側の固定部12Lは、図1中に図示されていないが、右側の固定部12Rと対称となるように左側の回転部14Lの内側に設けられている。車両完成時には、左右後輪は回転部14R,14Lに固定され、車体に対して回転可能となる。
【0012】
左右のホイールキャリア固定部12R,12Lの下部には、ロワーアーム20R,20Lが接続されている。ロワーアーム20R,20Lは、ホイールキャリア固定部12R,12Lの下部の側方にある中心部21から一端22を前方に延出し、他端23を車両中心軸に向けて延出した形状となっている。ロワーアーム20R,20Lの中心部21には、前後方向に離間して2つの取付部24,25が設けられている。ロワーアーム20R,20Lは当該取付部24,25を介してホイールキャリア固定部12R,12Lに連結されることにより、ホイールキャリア10R,10Lは取付部24,25を結ぶ線分L1を中心としてロワーアーム20R,20Lに対して回動可能となっている。なお、取付部24,25は、ゴムブッシュを有した部材である。
【0013】
ロワーアーム20R,20Lの前方に延出した一端22は、フロントゴムブッシュ26を介して揺動可能に車体に連結されている。また、ロワーアーム20R,20Lの車両中心軸方向に延出した他端23は、リアゴムブッシュ27を介して揺動可能に車体に連結されている。ロワーアーム20R,20Lは、フロントゴムブッシュ26及びリアゴムブッシュ27を介して車体に連結されることにより、フロントゴムブッシュ26及びリアゴムブッシュ27を結ぶ線分L2を中心として車体に対して回動可能となっている。
【0014】
左右のホイールキャリア固定部12R,12Lの上部には、アッパーアーム30R,30Lが連結されている。各アッパーアーム30R,30Lは、V字形状に屈曲した棒状の部材であり、長手方向を車両横方向に向けて延設されている。アッパーアーム30R,30Lの車両中心側の一端は、車体に固定されたサスペンションメンバ38の一部にゴムブッシュ32を介して回動可能に連結されている。アッパーアーム30R,30Lの車両外側の他端は、ホイールキャリア固定部12R,12Lの上部にゴムブッシュ31を介して回動可能に連結されている。
【0015】
左右後輪がバウンド又はリバウンドして、ホイールキャリア10R,10Lが車体に対して上昇又は下降したときには、ロワーアーム20R,20Lは線分L2を中心として回動し、アッパーアーム30R,30Lはサスペンションメンバ38側のゴムブッシュ32を中心として回動する。このように左右後輪がバウンド又はリバウンドしたときには、ロワーアーム20R,20Lの2つの取付部24,25の位置は、ロワーアーム20R,20Lの回動角に応じて変化する。また、アッパーアーム30R,30Lのホイールキャリア10R,10L側のゴムブッシュ32の位置は、アッパーアーム30R,30Lの回動角に応じて変化する。
【0016】
左右後輪の姿勢は取付部24,25及びゴムブッシュ32の位置により規定されるため、ロワーアーム20R,20L及びアッパーアーム30R,30Lの回動に応じて左右後輪のトー角、キャンバ角は変化することとなる。ここで、左右後輪のトー角は、ロワーアーム20R,20Lの回動による影響を強く受ける。すなわち、ロワーアーム20R,20Lが回動して取付部24,25の位置が変化すると、車両を上方から見て取付部24と取付部25の車両横方向の位置差分は大きく変化し、左右後輪のトー角も大きく変化することとなる。よって、ロワーアーム20R,20Lは左右後輪が上下動した際のトー角変化に関して支配的なアームであると言える。
【0017】
また、左右後輪のキャンバ角は、アッパーアーム30R,30Lの回動による影響を強く受ける。すなわち、アッパーアーム30R,30Lが回動してゴムブッシュ32の位置が変化すると、車両前方から見て取付部24,25に対するゴムブッシュ32の車両横方向の位置は大きく変化する。キャンバ角は取付部24,25に対するゴムブッシュ32の相対位置で規定されるため、アッパーアーム30R,30Lの回動に応じてキャンバ角も大きく変化することとなる。よって、アッパーアーム30R,30Lは左右後輪が上下動した際のキャンバ角変化に関して支配的なアームであると言える。
【0018】
また、リアサスペンション1には、左右後輪の上下動に応じて左右後輪の姿勢を微調整する調節機構が設けられている。調整機構は、大別して、車両横方向に延設された棒状のスライド部材40と、スライド部材40の左右両端に連結された2本のロッド50R,50Lと、で構成されている。スライド部材40は2つのゴムブッシュ42を介して車体に接続されている。ゴムブッシュ42は弾性変形するため、スライド部材40は車体に対して車両横方向に移動可能に車体に支持されている。
【0019】
スライド部材40の両端に設けられた連結部41R,41Lにはそれぞれ、左右に配置された棒状のロッド50R,50Lの一端が連結されている。左右のロッド50R,50Lはボールジョイントを介して連結部41R,41Lに連結されており、左右のロッド50R,50Lはスライド部材40に対して揺動可能となっている。また、各ロッド50R,50Lの他端はホイールキャリア固定部12R,12Lの一部に連結されている。各ロッド50R,50Lはボールジョイントを介してホイールキャリア固定部12R,12Lに連結されているため、各ロッド50R,50Lはホイールキャリア固定部12R,12Lに対して揺動可能となっている。各ロッド50R,50Lがホイールキャリア固定部12R,12Lに連結される位置は、ホイールキャリア固定部12R,12Lにおいて前側取付部24の近傍である。
【0020】
次に、図3及び図4を参照して、左右後輪2RL,2RRが車体3に対して上下動したときの調節機構の動作について説明する。図3及び図4には、後方から見た車両の模式図が示されている。図3(a)に示されるように左右後輪2RL,2RRが車体3に対して同相で上昇したときには、左右の両ロッド50R,50Lはホイールキャリア固定部12R,12Lから押圧力を受け、両ロッド50R,50Lはこの押圧力をスライド部材40に伝達する。左右後輪2RL,2RRが同相で同程度の変位を上昇したときには、左右の両ロッド50R,50Lがスライド部材40に付与する押圧力はほぼ等しいので、スライド部材40は車体に対して車両横方向に移動しない。よって、各ホイールキャリア固定部12R,12Lが各ロッド50R,50Lに付与する押圧力の反力として、各ロッド50R,50Lはホイールキャリア固定部12R,12Lに同じ大きさの押圧力を付与する。
【0021】
ここで、リアサスペンション1に調整機構が設けられていない場合のトー角変化について考察すると、左右後輪2RL,2RRが車体3に対して上昇すると、前側取付部24は後側取付部25に対して車両中心方向に相対的に移動し、取付部24と取付部25の車両横方向の位置差分は小さくなり、左右後輪2RL,2RRのトー角はトーイン方向に変化する。これに対し、本実施形態のようにリアサスペンション1に調整機構が設けられた場合には、左右後輪2RL,2RRが車体3に対して同相で上昇しても、ロッド50R,50Lからホイールキャリア固定部12R,12Lに付与される押圧力により前側取付部24が後側取付部25に対して車両中心方向に相対的に移動するのが抑制され、取付部24と取付部25の車両横方向の位置差分が小さくなるのが抑制される。よって、左右後輪2RL,2RRのトー角がトーイン方向に変化するのが抑制される。なお、上記のようにアーム20R,20L,30R,30Lとロッド50R,50Lが同時に回動するのを可能とし、ロッド50R,50Lからホイールキャリア固定部12R,12Lに押圧力を付与するのを可能とするためには、前側取付部24のゴムブッシュとして弾性変形の許容量が大きなものを選択し、ロッド50R,50Lの押圧力により前側取付部24のゴムブッシュを大きく弾性変形させればよい。
【0022】
また、図3(b)に示されるように左右後輪2RL,2RRが車体3に対して同相で下降したときには、左右の両ロッド50R,50Lはホイールキャリア固定部12R,12Lから引っ張り力を受け、両ロッド50R,50Lはこの引っ張り力をスライド部材40に伝達する。左右後輪2RL,2RRが同相で同程度の変位を下降したときには、左右の両ロッド50R,50Lがスライド部材40に付与する引っ張り力はほぼ等しいので、スライド部材40は車体3に対して車両横方向に移動しない。よって、各ホイールキャリア固定部12R,12Lが各ロッド50R,50Lに付与する引っ張り力の反力として、各ロッド50R,50Lはホイールキャリア固定部12R,12Lに同じ大きさの引っ張り力を付与する。
【0023】
ここで、リアサスペンション1に調整機構が設けられていない場合のトー角変化について考察すると、左右後輪2RL,2RRが車体3に対して下降すると、前側取付部24は後側取付部25に対して車両外側方向に相対的に移動し、取付部24と取付部25の車両横方向の位置差分は大きくなり、左右後輪2RL,2RRのトー角はトーアウト方向に変化する。これに対し、本実施形態のようにリアサスペンション1に調整機構が設けられた場合には、左右後輪2RL,2RRが車体3に対して同相で下降しても、ロワーアーム20R,20Lからホイールキャリア固定部12R,12Lに付与される引っ張り力により前側取付部24が後側取付部25に対して車両外側方向に相対的に移動するのが抑制され、取付部24と取付部25の車両横方向の位置差分が大きくなるのが抑制される。よって、左右後輪2RL,2RRのトー角がトーアウト方向に変化するのが抑制される。
【0024】
上述したように、左右後輪2RL,2RRが同相で上下動したときには、スライド部材40は車両横方向に移動せず、各ロッド50R,50Lからホイールキャリア固定部12R,12Lに押圧力又は引っ張り力が付与されるため、左右後輪2RL,2RRのトー角変化は抑制される。よって、車両が直進している時に、路面の段差やうねりなどにより左右後輪2RL,2RRが同相で上下動するときのトー角変化を少なくすることができ、車両の操縦性・安定性を向上することができる。このように左右後輪2RL,2RRのトー角変化が優先的に抑制されるのは、各ロッド50R,50Lがホイールキャリア固定部12R,12Lに接続される位置を、左右後輪2RL,2RRが上下動した際のトー角変化に関して支配的なロワーアーム20R,20Lの接続位置24,25の近傍としたためである。
【0025】
一方、図4には、車両が左方向に旋回し、左右後輪2RL,2RRが逆相で上下動したときの様子が示されている。車体3は右方向に作用する遠心力を受け、旋回外輪である右後輪2RRは車体3に対して相対的に上昇し、旋回内輪である左後輪2RLは車体3に対して相対的に下降する。このとき、右側のロッド50Rは右後輪2RRから押圧力を受け、右側のロッド50Rはこの押圧力をスライド部材40に伝達する。また、左側のロッド50Lは左後輪2RLから引っ張り力を受け、左側のロッド50Lはこの引っ張り力をスライド部材40に伝達する。よって、スライド部材40は各ロッド50R,50Lから左方向に作用する押圧力及び引っ張り力を受けるので、スライド部材40は車体3に対して左方向に移動する。このようにスライド部材40が車体3に対して車両横方向に移動することにより、左右の両ロッド50R,50Lからスライド部材40に作用する押圧力及び引っ張り力は逃がされるので、各ロッド50R,50Lから各ホイールキャリア固定部12R,12Lに付与される反力は小さい。
【0026】
上述したように各ロッド50R,50Lから各ホイールキャリア10R,10Lに付与される反力は小さいため、当該反力による左右後輪2RL,2RRのトー角変化はほとんど無い。よって、左右後輪2RL,2RRが逆相で上下動したときには、左右後輪2RL,2RRのトー角及びキャンバ角は、ロワーアーム20R,20L及びアッパーアーム30R,30Lのサスペンションジオメトリーに従って変化する。即ち、車体3に対して下降した左後輪2RLのトー角はトーイン方向に変化し、キャンバ角はネガティブ方向に変化する。また、車体3に対して上昇した右後輪2RRのトー角はトーアウト方向に変化し、キャンバ角はポジティブ方向に変化する。このように左右後輪2RL,2RRが逆相で上下動したときには、スライド部材40と両ロッド50R,50Lでなる調節機構はほとんど機能せず、左右後輪2RL,2RRのトー角及びキャンバ角はサスペンションジオメトリーに従って好適に変化するため、車両の操縦性・安定性は向上された状態を維持することができる。なお、図4では、車両が左方向に旋回する状況について説明したが、車両が右方向に旋回する場合も同様に、調節機構はほとんど機能せず、左右後輪2RL,2RRのトー角及びキャンバ角はサスペンションジオメトリーに従って好適に変化するため、車両の操縦性・安定性が向上された状態を維持することができる。
【0027】
再び、図1に戻り、リアサスペンション1の他の構成について説明する。リアサスペンション1には、左右後輪2RL,2RRの逆相で上下動するのを抑制するためのスタビライザー91や、左右後輪が路面から受ける衝撃を緩和するためのコイルスプリング92及びショックアブソーバ93などが設けられている。但し、本発明に係るリアサスペンション1は、これらの構成を有するものに限定されることはない。例えば、本発明は、ダブルウィッシュボーン式のサスペンションに限らず、マルチリンク式のサスペンションなどの他の形式のサスペンションにも適用可能である。
【0028】
なお、上述した実施形態では、スライド部材40は、左右の各ロッド50R,50Lが連結された前側取付部24よりも高い位置に配設されているため、左右後輪2RL,2RRが車体3に対して上昇すると、左右の各ロッド50R,50Lはホイールキャリア固定部12R,12Lに押圧力を付与し、左右後輪2RL,2RRが車体3に対して下降すると、左右の各ロッド50R,50Lはホイールキャリア固定部12R,12Lに引っ張り力を付与する。但し、スライド部材40を、左右の各ロッド50R,50Lが連結された前側取付部24よりも低い位置に配設し、左右後輪2RL,2RRが車体3に対して上昇すると、左右の各ロッド50R,50Lがホイールキャリア固定部12R,12Lに引っ張り力を付与し、左右後輪2RL,2RRが車体3に対して下降すると、左右の各ロッド50R,50Lがホイールキャリア固定部12R,12Lに押圧力を付与するように構成してもよい。
【0029】
次に、本発明の第二実施形態について説明する。図5には、第二実施形態に係るリアサスペンション70を構成する各部材の配置関係が示されている。第二実施形態のリアサスペンション70は、第一実施形態と概略同じ構成であるが、左右のロッド50R,50Lがホイールキャリア固定部12R,12Lに連結される位置が第一実施形態と相違している。詳しくは、各ロッド50R,50Lは、ホイールキャリア固定部12R,12Lにおいてアッパーアーム30R,30Lの接続位置31の近傍に連結されている。また、当該接続位置31のゴムブッシュとして弾性変形の許容量の大きなものが選択されている。
【0030】
第二実施形態では、スライド部材40及び左右のロッド50R,50Lは、第一実施形態と類似した動作を行う。即ち、左右後輪2RL,2RRが同相で上昇したときには、スライド部材40は車両横方向に移動せず、各ロッド50R,50Lからホイールキャリア固定部12R,12Lに押圧力が付与されるため、左右後輪2RL,2RRのキャンバ角変化は抑制される。同様に、左右後輪2RL,2RRが同相で下降したときには、スライド部材40は車両横方向に移動せず、各ロッド50R,50Lからホイールキャリア固定部12R,12Lに引っ張り力が付与されるため、左右後輪2RL,2RRのキャンバ角変化は抑制される。
【0031】
したがって、車両が直進している時に、路面の段差やうねりなどにより左右後輪2RL,2RRが同相で上下動するときのキャンバ角変化を少なくすることができ、車両の操縦性・安定性を向上することができる。このように左右後輪2RL,2RRのキャンバ角変化が優先的に抑制されるのは、各ロッド50R,50Lがホイールキャリア固定部12R,12Lに接続される位置を、左右後輪2RL,2RRが上下動した際のキャンバ角変化に関して支配的なアッパーアーム30R,30Lの接続位置24,25の近傍としているためである。
【0032】
一方、車両が左方向又は右方向に旋回し、左右後輪2RL,2RRが逆相で上下動したときには、スライド部材40は車両横方向に移動し、各ロッド50R,50Lからホイールキャリア固定部12R,12Lに反力がほとんど付与されないため、当該反力による左右後輪2RL,2RRのキャンバ角変化はほとんど無い。よって、左右後輪2RL,2RRが逆相で上下動したときには、左右後輪2RL,2RRのトー角及びキャンバ角は、サスペンションジオメトリーに従って好適に変化するため、車両の操縦性・安定性が向上された状態を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第一実施形態に係るリアサスペンションの斜視図である。
【図2】第一実施形態に係るリアサスペンションの配置関係を示す模式図である。
【図3】リアサスペンションの変化を示す模式図である。
【図4】リアサスペンションの変化を示す模式図である。
【図5】第二実施形態に係るリアサスペンションの配置関係を示す模式図である。
【符号の説明】
【0034】
1…リアサスペンション、2RL…左後輪、2RR…右後輪、3…車体、10R,10L…ホイールキャリア、12R,12L…固定部、14…回転部、20R,20L…ロワーアーム、30R,30L…アッパーアーム、40…スライド部材、50R,50L…ロッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右後輪をそれぞれ支持する車輪支持部材にアームを連結し、車体に対して前記左右後輪を揺動可能とするリヤサスペンションにおいて、
車両横方向に延設され、前記車体に対して車両横方向に移動可能に支持されたスライド部材と、
一端が前記スライド部材の左端に連結され、他端が前記左後輪を支持する車輪支持部材に連結された第一ロッドと、
一端が前記スライド部材の右端に連結され、他端が前記右後輪を支持する車輪支持部材に連結された第二ロッドと、
を備え、
前記各ロッドは、前記車体に対する前記各車輪の上昇に応じて押圧力又は引っ張り力を前記スライド部材に付与し、前記車体に対する前記各車輪の下降に応じて引っ張り力又は押圧力を前記スライド部材に付与することを特徴とするリヤサスペンション。
【請求項2】
前記第一ロッド及び第二ロッドは、前記車輪支持部材においてトー角変化に関して支配的な第一アームの連結位置近傍に連結されたことを特徴とする請求項1に記載のリアサスペンション。
【請求項3】
前記第一ロッド及び第二ロッドは、前記車輪支持部材においてキャンバ角変化に関して支配的な第二アームの連結位置近傍に連結されたことを特徴とする請求項1に記載のリアサスペンション。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−199243(P2006−199243A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−15840(P2005−15840)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】