説明

リンク式ストローク特性可変エンジン

【課題】エキセントリックシャフトの軸方向に大型化することなく、バイアストルクをエキセントリックシャフトに付与し、シャフトを駆動するのに必要な両回転方向のトルクを適正化可能な、設計自由度が高いストローク特性可変エンジンを提供する。
【解決手段】クランクシャフト6のクランクピン9に回転自在に軸支されたロアリンク5と、ロアリンク5とピストン3とを連結するアッパリンク4と、エンジン1本体に支持されたエキセントリックシャフト12とロアリンク5とを連結するコントロールリンク11とを有し、エキセントリックシャフト12を回動させることでピストンストロークを変化させるストローク特性可変エンジンにおいて、エキセントリックシャフト12から延設されたウェブ連結部18と、エンジン1本体側に形成された本体側連結部20との間に、圧縮コイルスプリング装置21を介装させた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストローク特性可変エンジンに関し、特に、コントロールシャフトにバイアストルクを付与して、ストローク特性を変更する際の駆動力を低減する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レシプロ式内燃機関では、運転状態に応じて圧縮比を変化させて最適な圧縮比でエンジンを駆動することが望ましい。これを実現するために、エンジンのピストンに回動可能に取り付けられたアッパリンクと、このアッパリンクとクランクシャフトのクランクピンとおを連結するロアリンクと、気筒列方向に延びるエキセントリックシャフト(コントロールシャフト)と、このエキセントリックシャフトに偏心して設けられた制御カムと、この制御カムとアッパリンクまたはロアリンクとを連結するコントロールリンクと、エキセントリックシャフトを回転駆動する回転駆動手段とを有する構成をした可変圧縮比エンジンが多く提案されている。
【0003】
このような構成をした可変圧縮比エンジンでは、エンジンの燃焼工程においてピストンを押し下げる力が大きく作用し、リンク機構を介してその分力がエキセントリックシャフトに伝達されるため、エキセントリックシャフトには一定方向への大きな力が加わった状態となる。したがって、エキセントリックシャフトを当該方向に回転駆動する際には小さな駆動力で駆動することができるが、当該方向と反対方向に回転駆動する際には、ピストンから伝達される分力に抗してリンク機構を駆動する大きな駆動力が必要となる。
【0004】
そこで、上記構成をした可変圧縮比エンジンにおいて、エキセントリックシャフトから回転駆動手段に作用する負荷荷重を低減するとともに、エキセントリックシャフトの望まれない回転を抑制するために、エキセントリックシャフトにスライダ機構を介して油圧ピストンを設けた可変圧縮比エンジンが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、上記構成をした可変圧縮比エンジンにおいて、エンジンの圧縮比を高圧縮比から低圧縮比に移行する際の迅速性を高めるために、エキセントリックシャフトの端部とシリンダブロックとの間に渦巻ばねを介在させて、エキセントリックシャフトを低圧縮比側に回転駆動する付勢力を与えた可変圧縮比エンジンが提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−322036号公報
【特許文献2】特開2004−150353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の従来の可変圧縮比エンジンでは、油圧ポンプや油圧アクチュエータ、さらに制御弁等を含む油圧回路等を設けなくてならず、装備が重装になって製造が煩雑となるとともに、エンジンが大型化・重量化されて望ましくない。
【0007】
また、特許文献2記載の従来の可変圧縮比エンジンでは、エキセントリックシャフトの端部に渦巻ばねを使用しているため、エンジンがエキセントリックシャフトの軸方向に大型化する他、大きなトルクが必要な場合には、素線の径を大きくする必要があるために渦巻ばね自体の径が大きくなってエンジンに搭載できなくなってしまう。密着巻きにして径を小さくしても、素線同士の摩擦によってヒステリシスが発生して適切なトルクを与えることができない。
【0008】
さらに、同様の配置でねじりコイルばねを用いたとしても、ばねの倒れによるヒステリシスが発生する虞がある。また、所定のトルクを確保するために素線の径を大きくし、且つ所定の回転角を得るために巻数を増やせば、エキセントリックシャフトの軸方向に長くなってエンジンへの搭載が困難となる。さらに、渦巻ばねおよびねじりコイルばねでは、いずれもばね定数を変更することができないため、そのトルク特性はリニアなものに限定されてしまう。
【0009】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、エンジンをエキセントリックシャフトの軸方向に大型化することなく、バイアストルクをエキセントリックシャフトに付与し、シャフトを駆動するのに必要な両回転方向のトルクを適正化することが可能な、付勢力の設計自由度が高いストローク特性可変エンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、クランクシャフトのクランクピンに回転自在に軸支されたロアリンクと、前記ロアリンクとピストンとを連結するアッパリンクと、エンジン本体に支持されたコントロールシャフトと前記ロアリンクとを連結するコントロールリンクとを有し、前記コントロールシャフトを移動させることでピストンストロークを変化させるストローク特性可変エンジンであって、前記コントロールシャフトに所定方向の移動力を付与すべく、当該コントロールシャフト側に設けられた連結部と、前記エンジン本体側に形成された連結部との間に、付勢手段を介装させたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に係る発明は、請求項1のストローク特性可変エンジンにおいて、前記コントロールシャフトの中央部に当該コントロールシャフトを移動駆動するアクチュエータが接続され、前記付勢手段は、前記コントロールシャフトにおける前記アクチュエータの接続部の軸方向両側に設置されたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2のストローク特性可変エンジンにおいて、前記コントロールシャフトが複数の偏心ピンを有し、前記付勢手段は一対単位で設置され、当該一対の付勢手段は前記偏心ピンを挟むかたちで設置されたことを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれかのストローク特性可変エンジンにおいて、前記付勢手段は、一方が他方の中に収容されるかたちで同軸に配置された複数本のコイルスプリングを有することを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれかのストローク特性可変エンジンにおいて、前記付勢手段は、前記コントロールシャフト側の連結部にピンを介して連結される連結ピースを備え、前記連結ピースの上面には、前記ピンとの潤滑部にエンジンオイルを導入させるための給油孔が穿設されたことを特徴とする。
【0015】
また、請求項6に係る発明は、請求項1から請求項5のいずれかのストローク特性可変エンジンにおいて、前記付勢手段は、前記コントロールシャフト側の連結部に第1のピンを介して連結され、前記エンジン本体側の連結部に第2のピンを介して連結され、前記第1のピンと前記第2のピンとが、前記付勢手段を構成する圧縮コイルスプリングの軸心上に位置することを特徴とする。
【0016】
また、請求項7に係る発明は、請求項1から請求項6のいずれかのストローク特性可変エンジンにおいて、前記付勢手段は、スリーブを備えた第1の連結ピースと、前記スリーブに内挿されるロッドを備えた第2の連結ピースとを備え、前記第1の連結ピースには、前記スリーブ内の前記ロッドとの摺動部にエンジンオイルを導入させるための給油孔が穿設されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の発明によれば、エンジンをコントロールシャフトの軸方向に大型化することなく、付勢力の設計自由度が高く、且つヒステリシスの少ないバイアストルクをシャフトに付与してコントロールシャフトを両方向へ駆動するのに必要なトルクを適正化することが可能である。また、請求項2に記載の発明によれば、アクチュエータの両側に付勢手段を設置することにより、コントロールシャフトに作用するねじれを低減するとともにジャーナルが受ける径方向の荷重を低減することができる。また、請求項3に記載の発明によれば、偏心ピンにはピストンから伝達する分力が作用するが、この偏心ピンを挟むように付勢手段を配置することにより、ジャーナル部の剛性低下を抑制することができる。
【0018】
コントロールシャフトに大きなトルクが必要な場合には、シャフトから延設された腕の長さを長くしてもよいが、その場合ストロークが長くなるためばねの長さも長くする必要があり、付勢手段が大型化してスペース効率が悪くなる。しかし、請求項4に記載の発明によれば、所定のストロークを確保しつつばね荷重を増大することが可能である。さらに、特性の異なる複数のばねを組み合わせることによって、設計自由度をさらに高めることができる。
【0019】
また、請求項5に記載の発明によれば、連結ピースとピンとが接触する摺動部に潤滑油が供給され、かじりの発生を防止してコントロールシャフトの駆動をより円滑に行うことができる。また、請求項6に記載の発明によれば、作用点となるピンがばね荷重の作用線上に位置することによって、連結ピースに倒れが生じて付勢手段を伸縮する際に摩擦力が発生することを抑制することができる。さらに、請求項7に記載の発明によれば、スリーブ内のロッドとの摺動部に潤滑油が供給されるので、コントロールシャフトの駆動を一層円滑に行うことができるとともに、連結ピースの軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。図1はストローク特性可変エンジンを示す横断面図である。図2はエキセントリックシャフトを示す斜視図である。図3は圧縮コイルスプリング装置の分解斜視図である。図4は図1中のIV−IV断面図である。
【0021】
≪実施形態の構成≫
図1に示すエンジン1は、直列4気筒エンジンであって、4つのシリンダのうち1つの中心を通る横断面が図示されている。シリンダ2にはピストン3が摺合されており、アッパリンク4及びロアリンク5の2つのリンクを介してクランクシャフト6に連結されている。
【0022】
クランクシャフト6は、基本的に通常の定ストロークエンジンと同様の構成であり、クランクケース7に支持されたクランクジャーナル8(クランクシャフトの回転中心)から偏心したクランクピン9により、シーソー式に揺動するロアリンク5の中間部を支持している。そしてロアリンク5の一端5aに、ピストンピン10に小端部4aが連結されたアッパリンク4の大端部4bが連結されている。
【0023】
ロアリンク5の他端5bには、通常のエンジンにおけるピストンとクランクシャフトとを連結するコネクティングロッドと同一構成のコントロールリンク11の小端部11aがピン結合されている。そしてコントロールリンク11の大端部11bは、クランクケース7に回動自在に支持されたエキセントリックシャフト12(コントロールシャフト)の偏心ピン13に、2つ割の軸受け14をもって連結されている。
【0024】
エキセントリックシャフト12の中央部にはドリブンギヤ16が形成され、エキセントリックシャフト12を回転駆動するベーン式の油圧アクチュエータ40には、ドリブンギヤ16と噛み合うドライブギヤ41が設けられており(図2参照)、エンジン1の運転状態に応じてその回動角が連続的に制御され、且つ任意の角度で保持されるようになっている。具体的には、油圧アクチュエータ40内部のジャーナル部分は、その外周に複数枚のベーンが突設されてロータを構成しており、各ベーンについてハウジングによって油圧室が形成されている。油圧室はベーンによって第1油圧室と第2油圧室とに仕切られており、第1および第2油圧室に対して作動油を給排することによってロータが回転・保持される。
【0025】
このエンジン1によると、エキセントリックシャフト12を回動させることにより、コントロールリンク11の大端部11bの位置が、図1に示した位置からエキセントリックシャフト12の静止軸心12aを中心にして上下方向に回転移動することによって変化し、クランクシャフト6の回転に伴うロアリンク5の揺動角度が変化する。このロアリンク5の揺動角度の変化に応じてシリンダ2内でのピストン3のストローク範囲、即ち、ピストン3の上死点位置及び下死点位置が、連続的に変化することとなる。これにより、圧縮比及び排気量の少なくともいずれか一方を連続的に変化させるストローク特性可変機能がもたらされる。
【0026】
エキセントリックシャフト12を構成するウェブ17には、エキセントリックシャフト12の静止軸心12aに対して偏心ピン13と反対側に延設されるようにウェブ連結部18が形成されている。クランクケース7の内面には、本体側連結部20が形成された本体側連結部材19が取り付けられており、本体側連結部20とウェブ連結部18との間には圧縮コイルスプリング装置21(付勢手段)が介装されている。
【0027】
圧縮コイルスプリング装置21は、上端に上部連結ピース22(第1の連結ピース)を、下端に下部連結ピース23(第2の連結ピース)を備え、それぞれがピン24(第1のピン),25(第2のピン)を介してウェブ連結部18および本体側連結部20に軸着されている。上部連結ピース22と下部連結ピース23との間には2本の圧縮コイルスプリング26,27が介装されており、圧縮コイルスプリング27は圧縮コイルスプリング26の内部に収容されるかたちで同軸に配置されている。ピン24,25はこれら圧縮コイルスプリング26,27の同軸線上にくるような配置となっている。
【0028】
図2に示すように、エキセントリックシャフト12は一端から他端へ向けて、順に、第1ジャーナル15a、第2ジャーナル15b、第3ジャーナル15c、第4ジャーナル15d、第5ジャーナル15eと、5つのジャーナル15を構成要素として備えている。各ジャーナルの間には、偏心ピン13がウェブ17に挟まれるかたちで介在されており、第1ジャーナル15aと第2ジャーナル15bとの間には第1偏心ピン13aが、第2ジャーナル15bと第3ジャーナル15cとの間には第2偏心ピン13bが、というように、4つの偏心ピン13a〜13dが5つのジャーナル15と交互に同軸上に配置されている。
【0029】
各ジャーナル15と各偏心ピン13とは、ウェブ17によって連結されており、第1ジャーナル15aと第1偏心ピン13aとの間にはウェブ17aが配置され、第1ジャーナル15から第5ジャーナル15eへ向けて、順に8つのウェブ17a〜17hが配置されている。なお、図2においては、コントロールリンク11の大端部11bが第1偏心ピン13aに連結されているためが、他の偏心ピン13b〜13dについては、実際にはコントロールリンク11等からなるリンク機構がそれぞれに連結されるが、理解を容易にするため省略して示している。
【0030】
各ジャーナル15a〜15eは、クランクケース内に形成された軸受け(図示せず)によって軸支されるが、エキセントリックシャフト12の中央部となる第3ジャーナル15c部分には油圧アクチュエータ40により駆動されるドリブンギヤ16が設置されている。
【0031】
第1偏心ピン13aを挟むウェブ17a,17b、および第4偏心ピン13dを挟むウェブ17g,17hには、ウェブ連結部18a,18b,18g,18hが、エキセントリックシャフト12の静止軸心12aに対して偏心ピン13と反対側に延設されるように形成されている。また、クランクケース7(図示せず)の内面には2つの本体側連結部材19a,19gが取り付けられ、それぞれ2つの連結部20a,20bおよび20g,20hを備えている。
【0032】
各ウェブ連結部18a,18b,18g,18hと各本体側連結部20a,20b,20g,20hとの間には、4体の圧縮コイルスプリング装置21a,21b,21g,21hがそれぞれ介装されている。4体の圧縮コイルスプリング装置21は、油圧アクチュエータ40を中心にエキセントリックシャフト12の軸方向について対称に一対ずつ、計4体が配置されている。各圧縮コイルスプリング装置21の上部連結ピース22a,22b,22g,22hを軸支するピン24a,24b,24g,24hが同軸上に配置されるように、ウェブ連結部18a,18b,18g,18hが形成されている。同様に、下部連結ピース23a,23b,23g,23hを軸支するピン25a,25b,25g,25hについても、全てが同軸となるように本体側連結部材19a,19gが取り付けられている。
【0033】
図3に示すように、圧縮コイルスプリング装置21は、スリーブ28が形成された上部連結ピース22と、ロッド29が形成された下部連結ピース23と、2つの圧縮コイルスプリング26,27とから構成される。ロッド29はスリーブ28に内挿され、摺動可能とされている。圧縮コイルスプリング27の内径はスリーブ28の外径よりも大きく、スリーブ28が圧縮コイルスプリング27内に挿入可能とされている。また、圧縮コイルスプリング26の内径は圧縮コイルスプリング27の外径よりも大きく、圧縮コイルスプリング27が圧縮コイルスプリング26内に挿入可能とされている。
【0034】
圧縮コイルスプリング26,27は等ピッチの円筒コイルばねであって、コイル径の小さな圧縮コイルスプリング27は、コイル径の大きな圧縮コイルスプリングよりも、素線の径およびピッチが小さく、有効巻数は多くされている。各圧縮コイルスプリング26,27の両端部はクローズドエンドとされており、端部コイルの略全周に渡って均一に荷重を受けるようにされ、座巻部が軸線と略直交するために座りが良く、座屈が発生し難いようにされている。また、圧縮コイルスプリング26とその内側に収容された圧縮コイルスプリング27との素線同士が接触した場合に互いに引っ掛かることを避けるために、両圧縮コイルスプリング26,27の巻方向は逆にされている。
【0035】
さらに、上部連結ピース22および下部連結ピース23の圧縮コイルスプリング26,27支持面には、2つの径の異なる圧縮コイルスプリング26,27の内径に合わせて、スプリングの位置を固定する台座部38,39がそれぞれ2段ずつ形成されている。上部連結ピース22はウェブ連結部18(図2参照)を挟むようにU字形状を呈しており、各U字アーム部分22A,22Bにはピン24が内挿されるピン挿入孔30a,30bが形成されている。U字アーム部分22A,22Bの上端には、ピン24との摺動部分にエンジンオイルを導入するための給油孔32a,32bがそれぞれ穿設され、さらにU字アーム部分22A,22Bの間には、スリーブ28に連通してスリーブ28とロッド29との摺動部分にエンジンオイルを導入するための給油孔42が穿設されている。下部連結ピース23は本体側連結部20によって挟装される平坦部分23Aを有しており、この平坦部分23Aにはピン25が内挿されるピン挿入孔31が形成されている。
【0036】
図4に示すように、下部連結ピース23に形成されたロッド29は、上部連結ピース22に形成されたスリーブ28に内挿され、ピン24とピン25との距離を変更できるように摺動可能とされている。スリーブ28とロッド29との長さは略同一であって、エキセントリックシャフトを所定角度に回動させるのに必要なストロークを確保できるように設定される。スリーブ28の先端は、内側の圧縮コイルスプリング27と接触したときに素線に引っ掛からないようにするために面取りされ、その断面は尖形形状または曲線形状とされている。またロッド29の先端部分も面取りがされている。
【0037】
ウェブ連結部18に形成されたピン挿入孔34と上部連結ピース22のピン挿入孔30a,30bとにピン24が挿入されて、上部連結ピース22がウェブ連結部18に連結されている。ピン挿入孔30a,30bの内周面には溝が形成されており、この溝にC形留め輪36a,36bを嵌装することによって、ピン24の脱落が防止されている。同様に、本体側連結部20に形成されたピン挿入孔35a,35bと下部連結ピース23のピン挿入孔31とにピン25が挿入されて、下部連結ピース23が本体側連結部20に連結されており、ぴん25の軸方向両側にはC形留め輪37a,37bが嵌装されている。
【0038】
前述した、上部連結ピース22のU字アーム部分22A,22Bの上端にそれぞれ穿設された給油孔32a,32bは、ピン挿入孔30a,30bまでそれぞれ達しており、クランクケース内の飛沫オイルをピン24との摺動部分に導入する。給油孔32a,32bの上端は飛沫オイルを捕集し易いように皿穴状とされている。同様に、下部連結ピース23を軸支する本体側連結部20の上面にも、ピン挿入孔35a,35bへ達する給油孔33a,33bが穿設されており、その上端部は皿穴状とされている。なお、給油孔33a,33bが設けられている位置は、平面視において下部連結ピース23と重ならない位置、すなわち、その上方に飛沫オイルの捕集を妨げる障害物がこない位置とされている。給油孔42もまた、その上端部が皿穴状とされている。
【0039】
≪実施形態の作用・効果≫
図1を参照して、エキセントリックシャフト12に作用する力について説明する。エンジン1の燃焼工程によって、ピストン3は非常に大きな力でシリンダ2内を下方へ押し下げられる。ピストン3が受けた燃焼圧力はアッパリンク4およびロアリンク5を介してクランクピン9に伝達されてクランクシャフト6を回転させるが、ロアリンク5の一端5aの軸心は、ピストンピン10の中心とクランクピン9の中心とを結んだ直線から外れているため、ロアリンク5をクランクピン9を中心にして反時計回りに自転させる分力、すなわちロアリンク5の他端5bを上方に押し上げる力が発生する。4つの各気筒が順次燃焼工程を経るため、コントロールリンク11を上に引き上げる力が常時加わった状態となる。
【0040】
このような状態で、エキセントリックシャフト12を回転駆動させる場合、エキセントリックシャフト12を時計回りに回動させて偏心ピン13を上に移動させることは小さな力で行いうるが、エキセントリックシャフト12を反時計回りに回動させて偏心ピン13を下に移動させるためには、前述のコントロールリンク11を上に引き上げる力に抗してこれよりも大きな力が必要となる。
【0041】
エキセントリックシャフト12から延設されたウェブ連結部18と本体側連結部20との間に圧縮コイルスプリング装置21を介装したことによって、エキセントリックシャフト12に反時計回りに回動させるバイアストルクが付与され、時計回りおよび反時計回りに回動させるのに必要な力が均等化される。したがって、エキセントリックシャフト12を回転駆動するためのアクチュエータの最大出力を小さくでき、アクチュエータを小型化することができる。
【0042】
また、圧縮コイルスプリング装置21は、クランクケース7内のエキセントリックシャフト12の側方若しくは下方に設置可能であるため、エキセントリックシャフト12の静止軸心12a方向についてエンジン1が大型化することを回避することができる。また、複数個の装置を設置することもできるため、一体当たりの装置の大きさを小型化することも可能である。さらに、本体側連結部材19がクランクケース7内に設けられているので、連結部の構造が複雑になることもない。
【0043】
圧縮コイルスプリング装置21をウェブ連結部18および本体側連結部20に連結するために、ピン24,25を用いたリンク機構として連結することによって、圧縮コイルスプリング26,27に倒れや座屈を発生させずに荷重作用線を一定に保ち、所定のばね特性が発揮されるようにされている。このように、バイアストルクの付勢手段としてリンク機構を備えた圧縮コイルスプリングを用いるため、倒れや摩擦によるヒステリシスが抑制されるとともに、ばね荷重やストロークを変更したり、非線形特性のものを用いることなどが可能となって設計自由度が向上される。したがって、様々なエンジンに容易に対応することが可能となる。
【0044】
図2に示すように、エキセントリックシャフト12の中央部となる第3ジャーナル15cの位置に油圧アクチュエータ40を備え付け、エキセントリックシャフト12における油圧アクチュエータ40の軸方向両側に圧縮コイルスプリング装置21を配置することによって、エキセントリックシャフト12に作用するねじれを低減するとともに、各ジャーナル15a〜15eが受ける径方向の荷重が低減されている。また、各一対の圧縮コイルスプリング装置21を油圧アクチュエータ40について対称となるように配置することによって、エキセントリックシャフト12における油圧アクチュエータ40の両側に作用する応力を略均一にしてシャフトの負担が軽減される。また、一対の圧縮コイルスプリング装置21を偏心ピン13を挟むかたちで設置、すなわち、コントロールリンク11を挟むように配置することによって、ジャーナル15部の剛性低下が抑制されている。
【0045】
圧縮コイルスプリング装置21によって大きなトルクを付加する必要がある場合には、エキセントリックシャフト12から延設されたウェブ連結部18までの腕の長さを長くしてもよいが、この場合長いストロークが必要となるため、ばねの長さも長くする必要があって圧縮コイルスプリング装置21が大型化してスペース効率が悪くなる。しかし図3に示すように、圧縮コイルスプリング27が圧縮コイルスプリング26に収容されるかたちで両スプリングを同軸に配置することによって、所定のストロークを確保しつつばね荷重を増大することが可能になっている。これにより、より大きなトルクをエキセントリックシャフト12に付加することが可能となり、さらに複数の圧縮コイルスプリング26,27を組み合わせることにより、より複雑なトルク特性を圧縮コイルスプリング装置21に与えることができ、設計自由度がさらに高まる。
【0046】
図1および図4に示すように、ピン24,25が圧縮コイルスプリング26,27の同心軸上に配置されることにより、圧縮コイルスプリング26,27の荷重作用線上に作用点が配置される。これにより、スリーブ28とロッド29とが摺動する際に倒れによる摩擦力が発生することが抑制されている。
【0047】
また、図4に示すように、ピン24,25の摺動部にエンジンオイルを導入する給油孔32,33が設けられていることにより、圧縮コイルスプリング装置21の回動がより潤滑的に行われる。また、各給油孔32a,32b,33a,33bの上端が皿穴状とされ、本体側連結部20に設けられる給油孔33a,33bは下部連結ピース23と重ならない位置に配置されていることにより、クランクシャフト7内の飛沫オイルが効果的に捕集されて潤滑が促進されている。したがって、圧縮コイルスプリング26,27が所定の荷重特性を発揮して、より正確なトルクをエキセントリックシャフト12に付与することができる。さらにこれら各給油孔32a,32b,33a,33bによって各部材の軽量化が図られている。
【0048】
上部連結ピース22にスリーブ28内に連通する給油孔42が穿設されていることにより、スリーブ28内のロッド29との摺動部に潤滑油が供給されるので、エキセントリックシャフト12の駆動を一層円滑に行うことができるとともに、上部連結ピース22の軽量化が図られている。さらにこの給油孔42は、スリーブ28とロッド29とが摺動した際にスリーブ28内の空気を給排する空気孔としての機能も果たすため、一層円滑な摺動を可能としている。
【0049】
以上で具体的実施形態についての説明を終えるが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態では直列4気筒エンジンを例に説明をしているが、並列エンジンやV型エンジン、6気筒エンジンや8気筒エンジンなど、様々なエンジンに適用することができる。また、本実施形態ではコントロールシャフトとしてエキセントリックシャフト12を用いているが、コントロールシャフトはコントロールリンク11の支点を移動できるものであればよく、油圧シリンダなどによってコントロールリンク11の支点を直線移動させるコントロール部材であってもよい。
【0050】
油圧アクチュエータ40はエキセントリックシャフト12の中央部で接続されているが、エキセントリックシャフト12の一端や両端で接続されていたり、エキセントリックシャフト12の中央部でない中間部で接続されていてもよい。また、本実施形態では付勢手段として圧縮コイルスプリングを用いているが、これに代えて、引張スプリングや、空気ばね、油圧シリンダなどを用いてもよい。エキセントリックシャフト12には付勢手段として圧縮コイルスプリング装置21を4体備え付けているが、1体や2体であってもよく、または6体や8体、或いは5体や7体などの奇数体であってもよい。さらに、圧縮コイルスプリング装置21を取り付ける位置についても、設計の都合などによってはエキセントリックシャフト12の中心に対して対称とならないような配置とすることも可能であり、本体側連結部材19が設けられる位置もクランクケース7の内面に限らず、エンジン1本体側であれば他の部材であってもよい。
【0051】
また、付勢手段として1つの装置に対して2つの圧縮コイルスプリング26,27を用いているが、1つのスプリングだけを用いたり、3つ以上のスプリングを用いてもよい。また、圧縮コイルスプリングには、等ピッチの円筒コイルばねだけではなく、不等ピッチコイルばねを用いたり、円錐コイルばねやつづみ形コイルばね、たる形コイルばね等を用いてもよく、また、素線の径が変化するテーパーコイルばねや、素線の断面が矩形や楕円形、卵形などの形状をしたばねや、これらを組み合わせたようなばねを用いてもよい。例えば、不等ピッチコイルばねを用いることにより、非線形の荷重特性を得ることができる。
【0052】
さらに、ピン24,25は、必ずしも圧縮コイルスプリング26,27の同軸線上に配置する必要はなく、圧縮コイルスプリング26,27の同軸線からオフセットした位置に配置するような形態としてもよい。このような形態とすることにより、ロッド29の延長を長くして上部連結ピース22に貫通させ、ロッド29がスリーブ28に内挿される長さをより長くとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】ストローク特性可変エンジンを示す横断面図である。
【図2】エキセントリックシャフトを示す斜視図である。
【図3】圧縮コイルスプリング装置の分解斜視図である。
【図4】図1中のIV−IV断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 エンジン
3 ピストン
4 アッパリンク
5 ロアリンク
6 クランクシャフト
7 クランクケース
9 クランクピン
11 コントロールリンク
12 エキセントリックシャフト(コントロールシャフト)
13 偏心ピン
15 ジャーナル
16 ドリブンギヤ
17 ウェブ
18 ウェブ連結部
19 本体側連結部材
20 本体側連結部
21 圧縮コイルスプリング装置(付勢手段)
22 上部連結ピース(第1の連結ピース)
23 下部連結ピース(第2の連結ピース)
24 ピン(第1のピン)
25 ピン(第2のピン)
26,27 圧縮コイルスプリング
28 スリーブ
29 ロッド
32,33 給油孔
40 油圧アクチュエータ
41 ドリブンギヤ
42 給油孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトのクランクピンに回転自在に軸支されたロアリンクと、前記ロアリンクとピストンとを連結するアッパリンクと、エンジン本体に支持されたコントロールシャフトと前記ロアリンクとを連結するコントロールリンクとを有し、前記コントロールシャフトを移動させることでピストンストロークを変化させるストローク特性可変エンジンであって、
前記コントロールシャフトに所定方向の移動力を付与すべく、当該コントロールシャフト側に設けられた連結部と、前記エンジン本体側に形成された連結部との間に、付勢手段を介装させたことを特徴とするストローク特性可変エンジン。
【請求項2】
前記コントロールシャフトの中央部に当該コントロールシャフトを移動駆動するアクチュエータが接続され、
前記付勢手段は、前記コントロールシャフトにおける前記アクチュエータの接続部の軸方向両側に設置されたことを特徴とする、請求項1に記載のストローク特性可変エンジン。
【請求項3】
前記コントロールシャフトが複数の偏心ピンを有し、
前記付勢手段は一対単位で設置され、当該一対の付勢手段は前記偏心ピンを挟むかたちで設置されたことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のストローク特性可変エンジン。
【請求項4】
前記付勢手段は、一方が他方の中に収容されるかたちで同軸に配置された複数本のコイルスプリングを有することを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のストローク特性可変エンジン。
【請求項5】
前記付勢手段は、前記コントロールシャフト側の連結部にピンを介して連結される連結ピースを備え、
前記連結ピースの上面には、前記ピンとの潤滑部にエンジンオイルを導入させるための給油孔が穿設されたことを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のストローク特性可変エンジン。
【請求項6】
前記付勢手段は、前記コントロールシャフト側の連結部に第1のピンを介して連結され、前記エンジン本体側の連結部に第2のピンを介して連結され、
前記第1のピンと前記第2のピンとが、前記付勢手段を構成する圧縮コイルスプリングの軸心上に位置することを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のストローク特性可変エンジン。
【請求項7】
前記付勢手段は、スリーブを備えた第1の連結ピースと、前記スリーブに内挿されるロッドを備えた第2の連結ピースとを備え、
前記第1の連結ピースには、前記スリーブ内の前記ロッドとの摺動部にエンジンオイルを導入させるための給油孔が穿設されたことを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載のストローク特性可変エンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−69744(P2008−69744A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250946(P2006−250946)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】