説明

リング状磁石の製造方法

【課題】周方向及び軸方向における配向度及びBrの均一性に優れた長尺なリング状磁石を得ることができ、しかも、生産効率及び経済性を格段に向上させることができるリング状磁石の製造方法等を提供する。
【解決手段】円筒状キャビティが画成された金型20に収容された磁性粉Mを磁場配向する磁化工程において、まず、6個の磁極部6a〜6fのうち、互いに隣接する磁極部6b,6cを同一極性の一方極とし、且つ、それらに180°対向配置された磁極部6e,6fを反対極性の他方極として磁場配向を行う。次に、一方極及び他方極の各々の磁極部の組み合わせを変化させ、具体的には、磁極部6d,6eから一方極を構成し、且つ、磁極部6a,6bから他方極を構成して磁場配向を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リング状磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁性粉をラジアル方向(リング状磁石の半径方向)に磁場配向させてラジアル異方性リング状磁石を製造する代表的な方法としては、(1)磁性粉がリング状に収容される円筒状キャビティを軸方向に貫通する軟磁性コアに垂直方向磁場を印加し、軟磁性コアの外周に配置した軟磁性ダイを通る磁束を発生させて、キャビティ内の磁性粉をラジアル方向に配向させた状態でプレス成形する方法(例えば、特許文献1及び2参照)や、(2)磁性粉がリング状に収容された円筒状キャビティに直線的な水平横磁場のみを印加し、その磁場方向を90°回転させながらプレス成形することにより、概ねラジアル方向に配向されたリング状磁石を得る方法(例えば、特許文献3及び4参照)が提案されている。
【特許文献1】特開2001−192705号公報
【特許文献2】特開平10−55929号公報
【特許文献3】国際公開WO2005/124800号パンフレット
【特許文献4】国際公開WO2005/124796号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来(1)の方法では、リング状磁石の(円)周方向に亘って均等なラジアル磁場を発生させ易いものの、例えば特許文献2における従来技術の説明においても言及されているとおり、強い磁場によるラジアル配向が可能な軸方向長さ(高さ)の範囲は、軟磁性コアの飽和磁化に起因して狭い範囲に制限されてしまうため、ある程度長尺なリング状(筒状)磁石を得るには、磁場印加とプレス成形を繰り返すことにより、短尺のリング状成形体を多段に重ねて円筒状磁石とする必要がある。こうなると、工程数及び工程時間が増大してしまい、生産効率の低下及び製造コストの増大を招いてしまう。また、軸方向(高さ方向)に隣接する短尺のリング状成形体の境界部において、不可避的に磁場の不連続部分が生じてしまうので、軸方向(高さ方向)における磁気特性の均一性が損なわれてしまう傾向にある。
【0004】
また、多段階的にプレス成形を行なう必要があるので、各プレス工程において磁性粉の密度を調整したとしても、例えば、最初にプレス成形された部位と最後にプレス成形された部位において、成形体の密度ひいては表面残留磁束密度(Br)の有意な差異が生じ得るおそれがあり、この場合にも、軸方向(高さ方向)の磁気特性の均一性が悪化してしまう可能性がある。また、プレス成形によって圧力が印加される回数が比較的多くなる部位(最初の方でプレス成形された部位)においては、一旦配向した磁性粉が動いてしまう可能性が比較的高まるので、得られるリング状磁石のラジアル方向における配向度及びBrの均一性も損なわれてしまう懸念がある。
【0005】
一方、上記従来(2)の方法では、円筒軸方向に比較的長尺なリング状磁石を得ることが可能となるが、配向度及びBrが、円周方向において90°周期で顕著に増減してしまう傾向にある。こうなると、リング状磁石を表面永久磁石型同期モータ(SPMSM)等に用いた場合、トルクリプルやコギングトルク等が発生し易くなり、それに起因して周期的なトルク変動が増大してしまうおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、周方向及び軸方向(高さ方向)における配向度及び表面残留磁束密度(Br)の均一性に優れた比較的長尺なリング状磁石を得ることができ、しかも、生産効率及び経済性を格段に向上させることができるリング状磁石の製造方法及びそのリング状磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明によるリング状磁石の製造方法は、筒状をなすキャビティ内を軸方向に貫通する軟磁性材料からなるコア部と、そのキャビティの外周に沿って(周方向に)所定角度間隔で配置された3個以上の磁極部とを備える電磁石を準備する準備工程と、キャビティ内に磁性粉を収容する収容工程と、3個以上の磁極部のうち互いに隣接する少なくとも2個の磁極部を同一の極性(N極又はS極)として一方極を構成し、且つ、3個以上の磁極部のうち一方極と対向する少なくとも1個の磁極部を反対の極性として他方極を構成し、キャビティに収容された磁性粉に、その一方極と他方極で形成される磁場を印加する磁化工程と、キャビティに収容された磁性粉を加圧成形する成形工程とを有しており、磁化工程においては、キャビティに収容された磁性粉の周方向全体に亘ってラジアル方向又は略ラジアル方向の磁場が印加されるように、一方極及び他方極の各々を構成する磁極部の組み合わせを経時的に変化させながら(選択する磁極部の組み合わせを順次変えながら)、磁性粉に磁場を印加する方法である。なお、本発明において「リング状」とは、短尺な環状体のみならず、一定の軸方向長さ(高さ)を有する筒状の環状体を含み、真円状又は略真円状であることが望ましい。
【0008】
このような製造方法では、まず、準備工程において、リング状磁石の原料である磁性粉を磁化するための装置部材、すなわち、上記の如く磁性粉が収容される筒状のキャビティの内部を軸方向に貫通するコア部、及び、キャビティの外周に沿って所定角度間隔で配置された3個以上の磁極部を備える電磁石が用意される。磁極部は、単独で又は複合的に、磁性粉に磁場を印加するための磁極として機能するものであり、本発明に用いる3個以上の各磁極部は、それぞれ独立して極性が制御され得るものである。次に、電磁石によって磁場が印加される位置に設置されたキャビティ内に磁性粉を必要量収容する。それから、この状態で磁化工程を実施し、3個以上の磁極部のうち互いに隣接する少なくとも2個の磁極部が同一の極性を有するように、且つ、それらの磁極部に対向する少なくとも1個の磁極部が反対の極性を有するように、電磁石に電力を供給する。
【0009】
これにより、選択された少なくとも2個以上の磁極部は、全体として1つの一方極として機能し、それらに対向する磁極部、例えば、磁極部が偶数個配置されていれば、キャビティの周方向において対称位置(180°対向する位置)に配置された少なくとも2個以上の磁極部、或いは、磁極部が奇数個配置されていれば、キャビティの周方向において対称位置に近い少なくとも2個以上の磁極部が、全体として1つの他方極(反対極)として機能し、その結果、キャビティに収容された磁性粉に、一方極と他方極で形成された磁場が印加される。この磁場は、前記従来(2)の方法の如く180°方向に配置された異なる磁極部間を単に横断するような直線方向の磁場ではなく、磁力線が、キャビティの壁面に対して直交するようにつまりラジアル方向に入射し、コア部を略直線的に通過して、反対側のキャビティの壁面に対して直交するようにつまりラジアル方向に出射するような曲線的な磁束を有する。
【0010】
このように、互いに隣接する少なくとも2個の磁極部が同一の極性であれば、キャビティ内の磁性粉の周方向の少なくとも一部がラジアル配向される。この際、キャビティの外周において、上記一方極と他方極(反対極)との間に相当する位置に印加磁場が小さい領域が生じ得るが、この場合、経時的に、一方極及び他方極の各々を構成する同一極性の磁極部の組み合わせを、その印加磁場が小さい領域にラジアル方向の磁場が印加されるような組み合わせに随時変化させながら(換言すれば、磁性粉に対して磁場を経時的に回転させながら)、磁場印加を言わば段階的且つ連続的又は断続的に実施することにより、磁性粉の周方向全体に亘って均等なラジアル方向又は略ラジアル方向の磁場を印加することができる。
【0011】
そして、本発明によるリング状磁石の製造方法は、上記従来(1)の方法の如くコアに垂直方向の磁場を印加することによってラジアル方向の磁場を生じせしめる方法ではないので、ラジアル配向が可能な軸方向長さ(高さ)に制限がない。よって、磁極部の高さを、目的とするリング状磁石の軸方向長さに応じた値とすることにより、短尺のリング状成形体の磁化及び成形を複数回繰り返してそれらを積層することなく、所望長の長尺なリング状磁石が簡易に得られる。すなわち、キャビティ内の磁性粉が均等なラジアル磁化状態となった後、一度の成形工程によってその磁性粉を加圧成形し、その他適宜必要な工程を施すことにより、ラジアル異方性を有する所望長のリング状磁石が得られる。
【0012】
また、電磁石として、磁極部を偶数個備えるものを用いることが好ましい。ここで、磁極部を奇数個備える場合、一方極として機能する磁極部と他方極として機能する磁極部の数が異なるため、一方極を構成する磁極部と他方極を構成する磁極部とに印加される磁場強度に差異が生じてしまい、或いは、磁場の対称性が損なわれ磁場のバイパス効果によって磁場強度が低下し易くなることがある。そのため、ラジアル方向の磁化の均一性を高めるには、同一極性の磁極部の組み合わせを、キャビティの全周に亘って印加される磁場強度が平均化されるように経時的に変化させるといった制御を行なうことが望ましい。これに対し、磁極部を偶数個備える電磁石を用いることにより、そのような磁極部が奇数個の場合の制御が不要となり、また、後記のとおり、磁極部を6個以上備える場合には、少なくとも1対の対向配置された磁極部に磁場を印加しないことにより、一方極が寄与する磁場と他方極が寄与する磁場を打ち消すといった制御が可能となる、より強力なラジアル方向磁場を生起させ易くなる。
【0013】
より具体的には、電磁石としてキャビティの外周に沿って90°又は略90°間隔で配置された4個の磁極部を備えるものを用いると有用である。この場合、磁化工程において一方極及び他方極の各々を構成する磁極部の組み合わせを経時的に変化させる手順としては、4個の磁極部のうち隣接する2個の磁極部を同一の極性として一方極を構成し、その一方極の2個の磁極部と(180°)対向する2個の磁極部を反対の極性として他方極を構成した状態で磁性粉に磁場を印加した後、一方極及び他方極の各々の2個の磁極部の組み合わせを、周方向に磁極部1個分変化(変位、シフト)させた状態、すなわち、一方極と他方極とで形成される磁場を90°回転させた状態で磁性粉に磁場を印加すると好ましい。
【0014】
こうすれば、最初の磁場印加において、一方極の2個の磁極部から他方極の2個の磁極部へ向かって、キャビティの周壁に対して磁力線が垂直に入出射するようなラジアル方向の磁場が形成され、磁性粉の周方向において、一方極を構成する2個の磁極部間に相当する部位がラジアル方向に磁化(配向)される。その際、一方極の磁極部と他方極の磁極部間に相当する領域では、ラジアル方向の磁化が不十分となるが、その後、磁場方向が90°回転するように、具体的には、初回の磁場印加における一方極の磁極部の1個と他方極の磁極部の1個が同一極性となるように、磁場を印加することにより、初回の磁場印加においてラジアル配向が不十分であった磁性粉の部位にラジアル方向の磁場が印加され、磁性粉の周方向全体に亘って均等なラジアル配向が達成される。
【0015】
或いは、電磁石として、キャビティの外周に沿って60°又は略60°間隔で配置された6個の前記磁極部を有するものを用いるとより好適である。この場合、磁化工程において一方極及び他方極の各々を構成する磁極部の組み合わせを経時的に変化させる手順としては、6個の磁極部のうち隣接する2個の磁極部を同一の極性として一方極を構成し、隣その一方極の2個の磁極部と(180°)対向する2個の磁極部を反対の極性として他方極を構成した状態で磁性粉に磁場を印加した後、その一方極及び他方極の各々の磁極部の組み合わせを、周方向に磁極部1個分又は2個分変化させた状態、すなわち、一方極と他方極とで形成される磁場を60°又は120°回転させた状態で磁性粉に磁場を印加することが好ましい。なお、磁場を60°回転させた状態での磁場印加と120°変化させた状態での磁場印加の両方を経時的に実施しても構わず、この場合、順序を問わずいずれを先に実施してもよい。
【0016】
このようにすれば、最初の磁場印加において、60°間隔で配置された2個の磁極部で構成される一方極から、対称配置された2個の磁極部で構成される他方極へ向かい、キャビティの周壁に対して磁力線が垂直に入出射するようなラジアル方向の磁場が形成され、磁性粉の周方向において、一方極を構成する2個の磁極部間に相当する部位と、他方極を構成する2個の磁極部間に相当する部位の両方の広い範囲がラジアル方向に磁化される。
【0017】
このとき、6個の磁極部のうち4個の磁極部が磁場を形成する磁極として機能する一方で、一方極と他方極との間に180°対向配置された一対の磁極部は磁極として機能せず、この一対の磁極部には実質的に磁場が印加されない。その結果、その一対の磁極部において、一方極によって形成される磁場と他方極によって形成される磁場が打ち消し合うことにより、磁性粉の周方向において、その一対の磁極部の先端部に相当する部位以外に強力なラジアル方向の磁場が形成される。すなわち、磁性粉の周方向において、一方極を構成する2個の磁極部間に相当する部位と、他方極を構成する2個の磁極部間に相当する部位のラジアル方向磁場の強度が顕著に高められる。
【0018】
このように、電磁石として、少なくとも6個以上の磁極部を有するものを用い、且つ、磁化工程においては、一方極と他方極との間に対向配置された少なくとも1対の磁極部に電力を供給せず(具体的には、例えばその一対の磁極部のコイルに通電せず)、これにより実質的に磁場を印加しないことが好ましい。
【0019】
またさらに、電磁石として、キャビティの外周に沿って45°又は略45°間隔で配置された8個の磁極部を備えるものを用いても有用である。この場合、磁化工程において一方極及び他方極の各々を構成する磁極部の組み合わせを経時的に変化させる手順としては、8個の磁極部のうち隣接する2個又は3個の磁極部を同一の極性として一方極を構成し、その一方極を構成する2個又は3個の磁極部と(180°)対向する2個又は3個の磁極部を反対の極性として他方極を構成した状態で磁性粉に磁場を印加した後、一方極及び他方極の各々の2個又は3個の磁極部の組み合わせを、周方向に磁極部1個分、2個分、又は3個分変化させた状態、すなわち、一方極と他方極とで形成される磁場を45°、90°、又は135°回転させた状態で磁性粉に磁場を印加することが好ましい。なお、磁場を45°回転させた状態での磁場印加、90°回転させた状態での磁場印加、及び135°変化させた状態での磁場印加の一部又は全部を経時的に実施しても構わず、この場合、順序を問わずいずれを先に実施してもよい。
【0020】
このようにしても、最初の磁場印加において、45°間隔で配置された2個又は3個の磁極部で構成される一方極から、対称配置された2個又は3個の磁極部で構成される他方極へ向かい、キャビティの周壁に対して磁力線が垂直に入出射するようなラジアル方向の磁場が形成され、磁性粉の周方向において、一方極に相当する部位と、他方極に相当する部位の広い範囲がラジアル方向に磁化され、上述のように磁場を回転させて順次磁場印加を実施することにより、磁性粉の周方向全体がラジアル方向に磁化される。なお、この磁化工程においては、最終的に8個の磁極部の全てがいずれかの磁場配向に関与するように、一方極及び他方極の各々の磁極部の組み合わせを経時的に変化させることが望ましい。
【0021】
さらに、電磁石として、キャビティの外周において、一方極及び/又は他方極の両縁端、換言すれば、一方極及び/又は他方極を構成する少なくとも2個の磁極部の最外に位置する磁極部の両縁端(最外端同士)のなす角度が略120°のものを用いると好適である。このようにすれば、同一極性の磁極部の範囲に相当する(つまり、同一極性の磁極でカバーされる)磁性粉の周弧の長さが、キャビティの直径に略等しくなる。逆に、同一の極性とされた少なくとも2個の磁極部の両縁端のなす角度が略120°を超えると、同一極性の磁極部の範囲に相当する磁性粉の周弧の長さが、キャビティの直径を上回り、こうなると、コア内の磁束密度が飽和し易くなり、言わば磁束の一部がコアの外部へ漏出するように、磁束の方向が直線方向に偏向してしまう。その結果、ラジアル配向の程度が減弱されてしまう。よって、同一の極性とされた少なくとも2個の磁極部の両縁端のなす角度が略120°のものを用いれば、磁性粉の周方向における広い範囲でラジアル方向の配向度及びその均一性が高められる。
【0022】
また、本発明によるリング状磁石は、本発明のリング状磁石の製造方法を用いて有効に製造されるものであり、軸方向長さ(高さ)Lが内径riの1/2よりも大きく且つ一体成形されたリング状をなし、磁性粉の原料の形態や性状、キャビティへの充填状態等に依存するものの、周方向の配向度の変動率が、例えば、好ましくは5%未満、より好ましくは3%未満であり、且つ、軸方向(高さ方向)の配向度の変動率が、例えば、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満のものである。なお、本発明における「周方向の配向度の変動率」とは、リング状磁石の軸方向長さ中心において、X線回折装置を用いてリング状磁石の周方向の全周(360°)に亘って所定角度間隔(10°〜20°程度)で配向度を測定し、得られた数値データの標準偏差(1σ)を平均値で除した値の百分率を示す。また、本発明における「周方向の配向度の変動率」とは、リング状磁石の周方向の任意位置において、X線回折装置を用いてリング状磁石の軸方向の全長に亘って所定寸法間隔(軸方向長さの5%程度)で配向度を測定し、得られた数値データの標準偏差(1σ)を平均値で除した百分率を示す。
【発明の効果】
【0023】
本発明のリング状磁石の製造方法によれば、磁化工程において、3個以上の磁極部のうち互いに隣接する少なくとも2個の磁極部を同一の極性として一方極を構成し、且つ、その一方極と対向する少なくとも1個の磁極部を反対の極性として他方極を構成し、それら一方極及び他方極の各々を構成する磁極部の組み合わせを経時的に変化させながら、キャビティに収容された磁性粉に磁場を印加するので、磁性粉の周方向全体をラジアル方向又は略ラジアル方向に配向させることできる。よって、円周方向における配向度及びBrの均一性に優れたリング状磁石を得ることができる。また、コアに垂直ではなく水平な磁場を用いた磁場配向を行なうので、長尺なリング状磁石を得るのに、複数の成形体を積層する必要がない。よって、軸方向(高さ方向)における配向度及びBrの均一性にも優れたリング状磁石を得ることができる。
【0024】
さらに、同一極性の少なくとも2個の磁極部の組み合わせを経時的に変化させて磁場を回転させるために、磁極部及びキャビティを移動させる駆動部が必要なく、また、上述の如く、長尺のリング状磁石を得るのに、複数の成形体を積層する必要がなく一度の成形で足りるので、装置構成及び工程を簡略化でき、且つ、工程時間を短縮できる。よって、生産効率を高めることができ、製造コスト及び製品コストを低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。また、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではない。
【0026】
図1は、本発明によるリング状磁石の製造方法を実施するための好適なリング状磁石成形装置の一例の構成を概略的に示す水平断面図(一部ブロック図、一部上面図)であり、図2は、図1におけるII−II線に沿う垂直断面図である。
【0027】
リング状磁石成形装置100は、架台10上に、金型20が設置される電磁石ユニット30、及びプレス成形ユニット40が設けられたものである。金型20は、磁性粉Mが収容されるキャビティ(内部空間)が画成された中空筒状をなしており、電磁石ユニット30の中央部に設置される。電磁石ユニット30は、金型20のキャビティ内を軸方向に貫通するコア31と、6個の磁極部6a〜6fとを備えている。コア31の材質としては、特に制限されないが、例えばFe−Co合金からなる軟磁性材料が挙げられる。
【0028】
磁極部6a〜6fは、それぞれ、金型20が載置される筒状のダイス33の外周から60°間隔で放射状に延びるヨーク35a〜35fの基幹部に、コイル37a〜37fが設けられたものである。コイル37a〜37fは、それぞれ個別に、制御部50を介して電源60に接続されており、電力(電流)の供給・停止、電力量の調整等が、制御部50の自動又は手動運転により独立して制御可能とされている。なお、ヨーク35a〜35fは、互いに導通している。また、磁極部6a〜6fは、非磁性部材によって架台10上に保持されている。
【0029】
また、プレス成形ユニット40は、金型20のキャビティ内に収容された磁性粉Mの上面に当接するように金型20の図示上部に配置された上部パンチ41と、金型20のキャビティ内の磁性粉Mの下面を当接支持するように配置された下部パンチ43とを有している。上部パンチ41は、図示しないアクチュエータ等の駆動機構に接続されており、また、下部パンチ43は、固定又は図示しないアクチュエータ等の駆動機構に接続されており、これらにより、金型20内で磁性粉Mが図示垂直方向にプレスされるようになっている。
【0030】
[第1実施形態]
このように構成されたリング状磁石成形装置100を用いて本発明によるリング状磁石を製造する方法の第1実施形態について、以下に説明する。
【0031】
(準備工程)
まず、図1及び図2に示すリング状磁石成形装置100を準備し、図2に示す如く、必要量の磁性粉Mを含むスラリー又は磁性粉Mの顆粒がキャビティ内に収容された金型20を、ヨーク35a〜35fの先端に設置されたダイス33に設置し、コア31、上部パンチ41、下部パンチ43等の周辺部材を適宜配置する。
【0032】
ここで、磁性粉Mの材料としては、例えば、R−B−T系(R:希土類元素の1種以上、T:Fe、B:ホウ素)の希土類焼結磁石、特に、Nd−Fe−B系の希土類焼結磁石が好適に用いられ、より具体的には、希土類元素と、希土類元素以外の遷移元素とを組み合わせた組成を有するものが好適である。具体的には、希土類元素Rとして、Nd、Pr及びDyのうちの少なくとも1種を含み、Bを必須元素として1〜12原子%含み、且つ残部がFeであるR−Fe−B系の組成を有するものが好ましい。このような希土類磁石は、必要に応じて、Co、Ni、Mn、Al、Nb、Zr、Ti、W、Mo、V、Ga、Zn、Si等の他の元素を更に含む組成を有していてもよい。なお、希土類磁石は、SmとCoとを含むSm−Co系の組成を有するものであってもよい。
【0033】
磁性粉Mは、所望の組成を有する希土類磁石が得られるような合金、例えば、希土類磁石の組成に対応する金属等の元素を含む単体、合金や化合物等を、真空又はアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で溶解した後、これを用いて鋳造法やストリップキャスト法等の合金製造プロセスを行って作製し、これを粉砕することによって得ることができる。
【0034】
合金の粉砕は、例えば、ジョークラッシャー、ブラウンミル、スタンプミル等の粗粉砕機を用いるか、または、合金に水素を吸蔵させた後、異なる相間の水素吸蔵量の相違に基づく自己崩壊的な粉砕を生じさせる(水素吸蔵粉砕)ことによって粗粉砕して、数百μm程度の粒径を有する粒子(粗粉体)とした後、その粗粉体に対し、粉砕時間等の条件を適宜調整しながら、ジェットミル、ボールミル、振動ミル、湿式アトライター等の微粉砕機を用いて微粉砕を行い、例えば、10μm以下、より好ましくは1〜10μmの粒径を有する磁性粉Mが得られる。このとき、粉砕性、分散時の分散性並びに成形時の配向性及び潤滑性を向上させるため、潤滑剤或いは分散剤等の粉砕助剤を添加し攪拌しておいてもよい。ここで用いられる粉砕助剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、脂肪酸又は脂肪酸の誘導体、炭化水素等を挙げることができる。粉砕助剤の添加量は、特に限定されるものではなく、粗粉体の好ましくは0.01〜0.03質量%程度とされる。
【0035】
さらに、微粉砕された磁性粉Mに適宜の溶媒を添加して混練し、例えば固形分濃度が60〜90質量%程度のスラリーを調製する。かかる溶媒としては、磁石の湿式成形におけるスラリーに用いられる溶媒を特に制限なく適用でき、例えば、鉱物油、合成油、植物油等の油や、アセトン、アルコールといった有機溶媒等が挙げられる。これらのなかでは、磁性粉末の酸化を防ぐために油を用いることが好ましい。或いは、スラリーとせずに公知の手法によって粒径50〜500μm程度の顆粒を作成してもよい。
【0036】
(磁化工程)
次に、金型20のキャビティ内に収容した磁性粉Mを含むスラリー又は顆粒(以下、単に「磁性粉M」という)の磁場配向(磁化)処理を行う。図3(A)〜(C)は、第1実施形態において、磁性粉Mの磁場配向処理を行っている状態を模式的に示す透過平面図であり、図1における金型20の周辺の要部を示す図である。この磁化工程では、制御部50を運転して、まず、6個の磁極部6a〜6fのうち、互いに隣接する磁極部6b,6cが同一の極性となるように、且つ、それら磁極部6b,6cに対してそれぞれ180°対向する磁極部6e,6fが反対の極性となるように、それぞれに備わるコイル37b,37c,37e,37fに所定の電流(例えば、全て同じ電流)を所定時間通電する。これにより、磁極部6b,6cが一方極として、また、磁極部6e,6fが他方極として機能し、図示実線矢印で模式的に示すような磁束方向を有する磁場が形成される。なお、図示白丸付き矢印及び黒丸付き矢印は、それぞれ一方極及び他方極を構成する各々の磁極部であることを示す(他図において同様とする。)。
【0037】
ここで、電磁石ユニット30によって印加する磁場の大きさとしては、例えば、12〜20kOe(960〜1600kA/m)程度が挙げられ、さらに、印加する磁場は静磁場に限定されず、パルス状の磁場とすることもでき、静磁場とパルス状磁場を併用することも可能である。
【0038】
また、このとき、一方極を構成する磁極部6b,6cと他方極を構成する磁極部6e,6fの間に位置する一対の磁極部6a,6dには、電力を供給せず、つまり、磁極として機能させない。これにより、一方極(磁極部6b,6c)によって形成される磁場と、他方極(磁極部6e,6f)によって形成される磁場が、磁極部6a,6dにおいて打ち消し合うので、これら磁極部6a,6dのヨーク先端付近の部位以外の部位に、非常に強力なラジアル方向の磁場が形成される。よって、磁性粉Mの周方向における領域R1,R2(磁極部6a,6dのヨーク先端付近の部位以外に相当する範囲)が十分にラジアル配向される。ここで、図9Aは、図3(A)に示す運転モードで形成される磁場をシミュレーションによって可視化した結果を示す図である。また、図9Bは、同じ結果(原本はカラー図面)を色彩及び濃淡を変えて示した図である。これらより、図3(A)に示す磁極部6b,6cから磁極部6e,6fへ向かって、金型20の周壁に対して磁力線が垂直に入出射するような曲線状の強いラジアル方向の磁場(図9Aにおける矢印)が形成されることが確認された。
【0039】
また、図3(A)に示す磁場配向処理では、磁極部6a,6dのヨーク先端付近の部位の磁場強度は小さく、且つ、磁性粉Mに対してラジアル方向の磁場が形成されないので、磁性粉Mの周方向における図示領域R3,R4のラジアル配向を行なうべく、図3(A)に示す運転モードによる磁場印加を所定時間実施した後、一方極及び他方極を構成する磁極部の組み合わせを変更して、再度、磁性粉Mの磁場配向処理を行う。具体的には、図3(B)に示す如く、一方極及び他方極を構成する磁極部の組み合わせを、図3(A)に示す状態から、図示時計回りに磁極部2個分ずらすように、すなわち、磁極部6d,6eから一方極を構成し、且つ、磁極部6a,6bから他方極を構成するように、それぞれのコイル37d,37e,37a,37bに、例えば、前回と同電流を同時間通電する。言い換えると、図3(A)に示す運転モードにおける一方極と他方極とで形成される磁場を、時計回りに120°回転させる。
【0040】
このとき、図3(A)に示す運転モードと同様に、一方極を構成する磁極部6d,6eと他方極を構成する磁極部6a,6bの間に位置する一対の磁極部6c,6fには、電力を供給せず、磁極として機能させない。これにより、一方極(磁極部6d,6e)によって形成される磁場と、他方極(磁極部6a,6b)によって形成される磁場が、磁極部6c,6fにおいて打ち消し合うので、これら磁極部6c,6fのヨーク先端付近の部位以外の部位に、非常に強力なラジアル方向の磁場が形成される。これにより、図3(B)に実線矢印で示す如く、前回の磁場印加でラジカル配向されなかった磁性粉Mの周方向における領域R3,R4に、ラジアル方向の強い磁場が印加される。これらの結果、磁性粉Mの周方向全体に亘って均等なラジアル配向が達成される。
【0041】
ここで、図9Cは、図3(B)に示す運転モードで形成される磁場をシミュレーションによって可視化した結果を示す図である。これより、図3(B)に示す磁極部6d,6eから磁極部6a,6bへ向かって、金型20の周壁に対して磁力線が垂直に入出射するような曲線状の強いラジアル方向の磁場(図9Cにおける矢印)が形成されることが確認された。
【0042】
また、図3(B)に示す磁極部の組み合わせに代えて、或いは、追加して、図3(C)に示す磁極部の組み合わせを用いて、磁性粉Mに対する磁場印加処理を行ってもよい。この運転モードでは、一方極及び他方極を構成する磁極部の組み合わせを、図3(A)に示す状態から、図示時計回りに磁極部1個分ずらすように、すなわち、磁極部6c,6dから一方極を構成し、且つ、磁極部6f,6aから他方極を構成するように、それぞれのコイル37c,37d,37f,37aに、例えば、前回と同電流を同時間通電する。換言すれば、図3(A)に示す運転モードにおける一方極と他方極とで形成される磁場を、時計回りに60°回転させる。
【0043】
(成形工程)
成形工程は、磁化工程を実施するときに同時に実施することが好ましい。ただし、磁化工程を実施している全時間中実施してもよいし、間欠的に実施しても構わない。この成形工程においては、プレス成形ユニット40を運転し、図示しないアクチュエータ等の駆動装置を駆動して、上部パンチ41及び下部パンチ43間の磁性粉Mに所定の圧力を印加して成形する。このときの成形圧力としては、例えば、0.3〜3ton/cm3(30〜300MPa)が挙げられ、成形開始から終了まで一定であってもよく、漸増又は漸減してもよく、或いは不規則(ランダム)に変化してもよい。成形圧力が低いほど配向度は良好となるが、成形圧力が低すぎると得られる成形体の強度が不足してハンドリング性が低下する傾向にあるので、この点を考慮して上記圧力範囲から成形圧力を適宜選択することができる。
【0044】
(焼結工程)
さらに、加圧成形された成形体を、金型20から取り出し、公知の焼結機を用い、真空又は不活性ガス雰囲気中で焼結する。焼結条件は、磁性粉の組成、原料合金の粉砕方法、磁性粉の平均粒径及び粒度分布の相違等、諸条件を考慮して適宜調整され、例えば、1000〜1200℃で1〜10時間程度の焼結が挙げられる。焼結温度が1200℃を超えると結晶粒が異常成長し保持力が低下することがあり、1000℃未満であると焼結体の残留表面磁束密度(Br)が不都合な程度に低下してしまう傾向にある。
【0045】
(時効処理工程)
それから、得られた焼結体に時効処理を施す。この時効処理は、保磁力(HcJ)を制御する重要な工程であり、常法にしたがって、焼結体を真空又は不活性ガス雰囲気中で熱処理する。時効処理は、2段時効処理とすることが好ましい。2段に分けて行う場合、800℃近傍、600℃近傍での所定時間の保持が有効である。例えば、1段目の時効処理工程では、焼結体を700〜900℃で1〜3時間保持し、その後室温〜200℃の範囲内にまで急冷する第1急冷工程を設けることが好ましい。また、2段目の時効処理工程では、焼結体を500〜700℃で1〜3時間保持し、その後室温まで急冷する第2急冷工程を設けることが好ましい。600℃近傍の熱処理で保磁力が大きく増加するので、時効処理を1段で行なう場合には、600℃近傍の時効処理を施すと好適である。また、R−T−B系焼結磁石を、低R合金と高R合金とを用いる混合法にて作製する場合は、800℃近傍での熱処理を焼結後に行うと、保磁力が増大するので、特に有効である。
【0046】
以上のようなリング状磁石の製造方法によれば、磁極部6a〜6fのうち隣接する2個の磁極部から一方極を構成し、それらに対向する磁極部から他方極を構成することにより、磁性粉Mの周方向に対してラジアル方向の磁場を印加することができ、それら一方極及び他方極を構成する磁極部の組み合わせを経時的に変化させながら磁場印加を繰り返すことにより、磁性粉Mの周方向全体に亘って均一なラジアル配向を実現することができる。かかる磁性粉Mの周方向全体に亘る均一なラジアル配向は、従来の直線的な水平横磁場の印加処理によって達成することは極めて困難であった。
【0047】
ここで、図10A及び図10Bは、それぞれ、円筒状キャビティに収容した磁性粉に対し、4個の磁極部を備える電磁石により従来の直線的な水平横磁場を用いて磁化処理を行ったときに形成される磁場の状態をシミュレーションによって可視化した結果を示す図であり、図10Aは、対向する一対の磁極部を磁極として用い、それらに異なる極性を有する非対向磁場を印加した一例であり、図10Bは、4個の磁極部を全て磁極として用い、磁極対毎に対向磁場を印加した一例である。
【0048】
図10Aより、磁極が2つの場合には、図示中央部に示す磁性粉の周囲において、励磁方向(図示左の磁極から右の磁極へ向かう矢印)に対して垂直方向に非常に磁場が弱い部分が生じてしまう。この場合、図示左右の磁極対の正面に相対する部位の磁性粉は強く磁化されるが、その他の部位の磁化は極めて弱くなることが理解される。それから、この励磁方向を90°回転させて図示上下の磁極対を励磁すると、同様にその上下の磁極対の正面に相対する部位の磁性粉が強く磁化される。そうすると、磁極部間に位置する磁性粉の部位は印加磁場が弱いままであり、リング状磁石の残留磁化は周方向に90°間隔で大きく変動してしまう。
【0049】
一方、図10Bのように4個の磁極を用いて対向磁場を印加すると、磁場を回転させなくても、磁性粉の周方向にある程度の磁化が可能となるが、周方向全体に亘る均等なラジアル配向を達成することは極めて困難であり、また、磁極部間に印加磁場の弱い部分が生じてしまうことを十分に抑制できず、リング状磁石の残留磁化が周方向に90°間隔で大きく変動してしまう傾向が十分に改善できないことが理解される。
【0050】
また、図10A及び図10Bにおいて、磁性粉が収容されたキャビティと電磁石との相対角度配置を45°回転させることにより、上述したリング状磁石の残留磁化における90°間隔の変動が幾分緩和されると推定されるものの、電磁石を回転させたり、キャビティをプレス成形装置等と共に回転させたりするには、装置規模の複雑化及び大型化を招くばかりか、その回転に時間を要する分、生産性が低下してしまう。
【0051】
これに対し、上述した本発明によるリング状磁石の製造方法によれば、電磁石ユニット30や金型20を移動させることなく、しかも、周方向のラジアル配向均一性及びBrの均一性に極めて優れたリング状磁石を得ることができる。また、コアに垂直方向磁場を印加する方式ではないため、リング状磁石の軸方向長さ(高さ)に大きな制約がないので、従来の垂直方向磁場方式を用いた場合に必要であった短尺リング状成形体の成形・積層を行なうことなく、長尺のリング状磁石を一度のプレス成形で製造することができる。よって、リング状磁石の軸方向の配向度及びBrの均一性をも格段に向上させることができ、しかも、生産工程を格別に簡略化することができるので、生産効率及び製造コストを一層低減することができる。
【0052】
ここで、図8は、本発明のリング状磁石の製造方法によって好適に得られるリング状磁石の一実施形態を示す斜視図である。リング状磁石200は、断面略真円の長尺筒状体であり、軸方向長さLが内径riの1/2よりも大きく且つ一体でプレス成形されたラジアル異方性磁石である。
【0053】
このような軸方向長さを有するリング状磁石200は、従来の垂直磁場印加を用いる方法では、短尺成形体を多段に積層しなければ得難いものである。すなわち、図8において、垂直磁場印加によってラジアル方向に十分な強度の磁場を印加できる条件は、下記式(1)で表されるコアの断面積S(≒リング状磁石の内側断面積)と、下記式(2)で表されるリング状磁石200の周壁面積S’とが等しいときであり、このときの軸方向長さLが、垂直磁場印加による1回の磁化によって得られるリング状磁石の軸方向長さの最大値Lmaxとなるので、下記式(3)で表される関係が得られる。下記式中、rOはリング状磁石200の外径を示し、riはリング状磁石200の内径を示す。
【0054】
【数1】

【0055】
【数2】

【0056】
【数3】

【0057】
このように、軸方向長さLが内径riの1/2よりも大きく且つ一体でプレス成形されたリング状磁石200は、従来の垂直磁場印加による製造方法では得ることができないものである。
【0058】
また、前記のとおり、本発明によるリング状磁石は、磁性粉Mの原料の形態や性状、キャビティへの充填状態等の影響を受けるものの、周方向の配向度の変動率が、例えば、好ましくは5%未満、より好ましくは3%未満(磁性粉Mを顆粒として用いた場合等)であり、且つ、軸方向(高さ方向)の配向度の変動率が、例えば、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満のものであって、周方向及び軸方向のいずれの配向度も極めて均一性に優れたものである。すなわち、磁性粉Mの原料形態や性状が同じものを使用した場合、前記従来(1)の方法及び同従来(2)の方法のいずれを用いても、そのように配向度の均一性に優れたリング状磁石200を実現することはできなかった。
【0059】
また、図3(A)に戻り、本実施形態のリング状磁石の製造方法によれば、図示の如く、金型20の外周において、一方極及び他方極の各々を構成する2個の磁極部(例えば、磁極部6b,6cの両縁端がなす角度θが、略120°とされているので、これら2個の磁極部6b,6cがカバーする磁性粉Mの周弧の長さが、金型20のキャビティの直径に略等しい。よって、コア31内における磁束密度の飽和を抑止してラジアル配向磁場を大きくできるので、磁性粉Mの周方向における広い範囲で均一性の高いラジアル配向を平易に実現することができる。
【0060】
[第2実施形態]
本実施形態では、図1及び図2に示す磁極部6a〜6fに替えて、図4(A)〜(C)に示す120°間隔で離間配置された3個の磁極部3a〜3cを備える電磁石ユニット30を用いること以外は、上述した第1実施形態と同様にしてリング状磁石を製造する。よって、重複する説明を避けるため、磁化工程以外の工程について、ここでの説明は省略する(他の実施形態において同様とする。)。
【0061】
(磁化工程)
図4(A)〜(C)は、第2実施形態において、磁性粉Mの磁場配向処理を行っている状態を模式的に示す透過平面図であり、図1における金型20の周辺の要部を示す図である。この磁化工程では、まず、3個の磁極部3a〜3cのうち、互いに隣接する磁極部3a,3bが同一の極性となるように、且つ、それら磁極部3a,3bに対向する残りの磁極部3cが反対の極性となるように、それぞれに備わるコイルに所定の電流(例えば、全て同じ電流)を所定時間通電する。
【0062】
これにより、磁極部3a,3bが一方極として機能し、磁極部3cが他方極として機能し、一方極を構成する磁極部3a,3bから、他方極としての磁極部3cへ向かう図示実線矢印で模式的に示すような磁束方向、すなわち、磁性粉Mの周壁に対して略ラジアル方向となる磁場が形成される。このとき、他方極が1個の磁極部3cで構成されるので、磁極部3cには、他の2個の磁極部3a,3bに比して強い磁場が形成され、これにより、磁極部3cの正面部位に相当する磁性粉Mの部位が比較的強く磁化される。ここで、図11は、図4(A)に示す運転モードで形成される磁場をシミュレーションによって可視化した結果を示す図である。これより、図4(A)に示す磁極部3a,3bから磁極部3cへ向かって、金型20の周壁に対して磁力線が垂直に入出射するような曲線状をなすラジアル方向の磁場(図11における矢印)が形成されることが確認された。
【0063】
次に、図4(b)及び図4(c)に示すように、一方極及び他方極を構成する磁極部の組み合わせを、順に磁極部1個分ずつ変化させる、すなわち、形成される磁場を順に120°ずつ回転させることにより、3通りの運転モードでの磁場配向処理を実行する。これにより、磁性粉Mの周方向の磁化が平均化され、全体として均等なラジアル配向が実現される。
【0064】
[第3実施形態]
本実施形態では、図1及び図2に示す磁極部6a〜6fに替えて、図5(A)〜(C)に示す90°おきに等間隔で離間配置された4個の磁極部4a〜4dを備える電磁石ユニット30を用いること以外は、上述した第1実施形態と同様にしてリング状磁石を製造する。
【0065】
(磁化工程)
図5(A)〜(C)は、第3実施形態において、磁性粉Mの磁場配向処理を行っている状態を模式的に示す透過平面図であり、図1における金型20の周辺の要部を示す図である。この磁化工程では、まず、4個の磁極部4a〜4dのうち、互いに隣接する磁極部4a,4bが同一の極性となるように、且つ、それら磁極部4a,4bに180°対向配置された残りの磁極部4c,4dが反対の極性となるように、それぞれに備わるコイルに所定の電流(例えば、全て同じ電流)を所定時間通電する。
【0066】
これにより、磁極部4a,4bが一方極として、また、磁極部4c,4dが他方極として機能し、一方極を構成する磁極部4a,4bから、他方極を構成する磁極部4c,4dへ向かう図示実線矢印で模式的に示すような磁束方向、すなわち、磁性粉Mの周壁に対して略ラジアル方向となる磁場が形成される。よって、同極性の磁極部4a,4b間及び磁極部4c,4d間に相当する磁性粉Mの周方向における領域R5,R6が主にラジアル配向される。ここで、図12Aは、図5(A)に示す運転モードで形成される磁場をシミュレーションによって可視化した結果を示す図である。これより、図5(A)に示す磁極部4a,4bから磁極部4c,4dへ向かって、金型20の周壁に対して磁力線が垂直に入出射するような曲線状をなすラジアル方向の磁場(図12Aにおける矢印)が形成されることが確認された。
【0067】
一方、磁極部4a,4d間及び磁極部4b,4c間に相当する部位の磁場強度は小さく、且つ、磁性粉Mに対してラジアル方向の磁場が形成されないので、磁性粉Mの周方向における図示領域R7,R8のラジアル配向を行なうべく、図5(A)に示す運転モードによる磁場印加を所定時間実施した後、一方極及び他方極を構成する磁極部の組み合わせを変更して、再度、磁性粉Mの磁場配向処理を行う。具体的には、図5(B)に示す如く、一方極及び他方極を構成する磁極部の組み合わせを、図5(A)に示す状態から、図示時計回りに磁極部1個分ずらすように、すなわち、磁極部4b,4cから一方極を構成し、且つ、磁極部4d,4aから他方極を構成するように、それぞれのコイルに、例えば、前回と同電流を同時間通電する。つまり、図5(A)に示す運転モードにおける一方極と他方極とで形成される磁場を、時計回りに90°回転させる。これにより、図5(B)に実線矢印で示す如く、前回の磁場印加でラジカル配向されなかった磁性粉Mの周方向における領域R7,R8に、ラジアル方向の磁場が印加される。これらの結果、磁性粉Mの周方向全体に亘って均等なラジアル配向が達成される。
【0068】
ここで、図12Bは、図5(B)に示す運転モードで形成される磁場をシミュレーションによって可視化した結果を示す図である。これより、図5(B)に示す磁極部4b,4cから磁極部4d,4aへ向かって、金型20の周壁に対して磁力線が垂直に入出射するような曲線状をなすラジアル方向の磁場(図12Bにおける矢印)が形成されることが確認された。
【0069】
また、図5(B)に示す磁極部の組み合わせに代えて、或いは、追加して、図5(C)に示す磁極部の組み合わせを用いて、磁性粉Mに対する磁場配向処理を行ってもよい。この運転モードでは、一方極及び他方極を構成する磁極部の組み合わせを、図5(A)に示す状態から、図示反時計回りに磁極部1個分ずらすように、すなわち、磁極部4a,4dから一方極を構成し、且つ、磁極部4b,4cから他方極を構成するように、それぞれのコイルに、例えば、前回と同電流を同時間通電する。換言すれば、この運転モードは、図5(A)に示す運転モードにおける一方極と他方極とで形成される磁場を、図示反時計回りに90°回転させたものであり、図5(B)に示す運転モードにおける励磁方向を180°反転させた磁場配向処理に相当する。
【0070】
[第4実施形態]
本実施形態では、図1及び図2に示す磁極部6a〜6fに替えて、図6(A)及び(B)に示す45°間隔で離間配置された8個の磁極部8a〜8hを備える電磁石ユニット30を用い、これらの磁極部8a〜8hのうち隣接する3個の磁極部から一方極及び他方極を構成したこと以外は、上述した第1実施形態と同様にしてリング状磁石を製造する。
【0071】
(磁化工程)
図6(A)及び(B)は、第4実施形態において、磁性粉Mの磁場配向処理を行っている状態を模式的に示す透過平面図であり、図1における金型20の周辺の要部を示す図である。この磁化工程では、まず、8個の磁極部8a〜8hのうち、互いに隣接する3個の磁極部8f〜8hが同一の極性となるように、且つ、それら磁極部8f〜8hに対してそれぞれ180°対向する磁極部8b〜8dが反対の極性となるように、それぞれに備わるコイルに所定の電流(例えば、連接する3個のうち中央の磁極部8c,8gに通電する電流を両側の磁極部よりも大きくする)を所定時間通電する。これにより、磁極部8f〜8hが一方極として、また、磁極部8b〜8dが他方極として機能し、図示実線矢印で模式的に示すような磁束方向を有する磁場が形成される。
【0072】
また、このとき、一方極を構成する磁極部8f〜8hと他方極を構成する磁極部8b〜8dの間に位置する一対の磁極部8a,8eには、電力を供給せず、磁極として機能させない。これにより、一方極(磁極部8f〜8h)によって形成される磁場と、他方極(磁極部8b〜8d)によって形成される磁場が、磁極部8a,8eにおいて打ち消し合うので、これら磁極部8a,8eのヨーク先端付近の部位以外の部位に、強力なラジアル方向の磁場が形成される。よって、磁性粉Mの周方向における領域R9,R10(磁極部8a,8eのヨーク先端付近の部位以外に相当する範囲)がラジアル配向される。ここで、図13Aは、図6(A)に示す運転モードで形成される磁場をシミュレーションによって可視化した結果を示す図である。これより、図6(A)に示す磁極部8f〜8hから磁極部8b〜8dへ向かって、金型20の周壁に対して磁力線が垂直に入出射するような曲線状の強いラジアル方向の磁場(図13Aにおける矢印)が形成されることが確認された。
【0073】
また、図6(A)に示す磁場配向処理では、磁極部8a,8eのヨーク先端付近の部位の磁場強度は小さく、且つ、磁性粉Mに対してラジアル方向の磁場が形成されないので、磁性粉Mの周方向における図示領域R11,R12のラジアル配向を行なうべく、図6(A)に示す運転モードによる磁場印加を所定時間実施した後、一方極及び他方極を構成する磁極部の組み合わせを変更して、再度、磁性粉Mの磁場配向処理を行う。具体的には、図6(B)に示す如く、一方極及び他方極を構成する磁極部の組み合わせを、図6(A)に示す状態から、図示時計回りに磁極部2個分ずらすように、すなわち、磁極部8h,8a,8bから一方極を構成し、且つ、磁極部8d〜8fから他方極を構成するように、それぞれのコイルに、例えば、前回と同電流を同時間通電する。言い換えると、図6(A)に示す運転モードにおける一方極と他方極とで形成される磁場を、時計回りに90°回転させる。
【0074】
このとき、図6(A)に示す運転モードと同様に、一方極を構成する磁極部8h,8a,8bと他方極を構成する磁極部8d〜8fの間に位置する一対の磁極部8c,8gには、電力を供給せず、磁極として機能させない。これにより、一方極(磁極部8h,8a,8b)によって形成される磁場と、他方極(磁極部8d〜8f)によって形成される磁場が、磁極部8c,8gにおいて打ち消し合うので、これら磁極部8c,8gのヨーク先端付近の部位以外の部位に、ラジアル方向の磁場が形成される。これにより、図6(B)に実線矢印で示す如く、前回の磁場印加でラジカル配向されなかった磁性粉Mの周方向における領域R11,R12に、ラジアル方向の磁場が印加される。これらの結果、磁性粉Mの周方向全体に亘って均等なラジアル配向が達成される。
【0075】
ここで、図13Bは、図6(B)に示す運転モードで形成される磁場をシミュレーションによって可視化した結果を示す図である。これより、図6(B)に示す磁極部8h,8a,8bから磁極部8d〜8fへ向かって、金型20の周壁に対して磁力線が垂直に入出射するような曲線状をなすラジアル方向の磁場(図13Bにおける矢印)が形成されることが確認された。なお、磁極部を8個有する本実施形態の製法では、磁極部を6個有する上記実施形態の製法に比して、隣接する磁極部に磁束が漏出してしまう可能性がやや高まる傾向にあり、この点において、磁極部を6個有する上記実施形態の製法がより好適であう。
【0076】
[第5実施形態]
本実施形態では、図1及び図2に示す磁極部6a〜6fに替えて、図7(A)及び(B)に示す45°間隔で離間配置された8個の磁極部8a〜8hを備える電磁石ユニット30を用いたこと以外は、上述した第1実施形態と同様にしてリング状磁石を製造する。
【0077】
(磁化工程)
図7(A)及び(B)は、第5実施形態において、磁性粉Mの磁場配向処理を行っている状態を模式的に示す透過平面図であり、図1における金型20の周辺の要部を示す図である。この磁化工程では、まず、8個の磁極部8a〜8hのうち、互いに隣接する2個の磁極部8f,8gが同一の極性となるように、且つ、それら磁極部8f,8gに対してそれぞれ180°対向する磁極部8b,8cが反対の極性となるように、それぞれに備わるコイルに所定の電流(例えば、同電流)を所定時間通電する。これにより、磁極部8f,8gが一方極として、また、磁極部8b,8cが他方極として機能し、図示実線矢印で模式的に示すような磁束方向を有する磁場が形成される。
【0078】
また、このとき、一方極を構成する磁極部8f,8gと他方極を構成する磁極部8b,8cとの間に位置する二対の磁極部8a,8e及び磁極部8h,8dには、電力を供給せず、磁極として機能させない。この場合、通電しない磁極部が2個隣り合う状態となるので、それらの磁極部8a,8d,8e,8hには弱いながらも磁束が通っており磁場印加効率が若干低下するものの、磁極部8a,8d,8e,8hのヨーク先端付近の部位以外の部位に、ラジアル方向の磁場が形成される。よって、磁性粉Mの周方向における領域R13,R14(磁極部8a,8d,8e,8hのヨーク先端付近の部位以外に相当する範囲)がラジアル配向される。ここで、図14Aは、図7(A)に示す運転モードで形成される磁場をシミュレーションによって可視化した結果を示す図である。これより、図7(A)に示す磁極部8f,8gから磁極部8b,8cへ向かって、金型20の周壁に対して磁力線が垂直に入出射するような曲線状をなすラジアル方向の磁場(図14Aにおける矢印)が形成されることが確認された。
【0079】
また、図7(A)に示す磁場配向処理では、磁極部8a,8d,8e,8hのヨーク先端付近の部位の磁場強度は小さく、且つ、磁性粉Mに対してラジアル方向の磁場が形成されないので、磁性粉Mの周方向における図示領域R15,R16のラジアル配向を行なうべく、図7(A)に示す運転モードによる磁場印加を所定時間実施した後、一方極及び他方極を構成する磁極部の組み合わせを変更して、再度、磁性粉Mの磁場配向処理を行う。具体的には、図7(B)に示す如く、一方極及び他方極を構成する磁極部の組み合わせを、図7(A)に示す状態から、図示反時計回りに磁極部2個分ずらすように、すなわち、磁極部8d,8eから一方極を構成し、且つ、磁極部8h,8aから他方極を構成するように、それぞれのコイルに、例えば、前回と同電流を同時間通電する。言い換えると、図7(A)に示す運転モードにおける一方極と他方極とで形成される磁場を、反時計回りに90°回転させる。
【0080】
このとき、図7(A)に示す運転モードと同様に、一方極を構成する磁極部8d,8eと他方極を構成する磁極部8h,8aとの間に位置する二対の磁極部8b,8f及び磁極部8c,8gには、電力を供給せず、磁極として機能させない。この場合も、通電しない磁極部が2個隣り合う状態となるので、それらの磁極部8b,8f,8c,8gには弱いながらも磁束が通っており磁場印加効率が若干低下するものの、磁極部8b,8f,8c,8gのヨーク先端付近の部位以外の部位に、ラジアル方向の磁場が形成される。これにより、図7(B)に実線矢印で示す如く、前回の磁場印加でラジカル配向されなかった磁性粉Mの周方向における領域R15,R16に、ラジアル方向の磁場が印加される。これらの結果、磁性粉Mの周方向全体に亘って均等なラジアル配向が達成される。
【0081】
ここで、図14Bは、図7(B)に示す運転モードで形成される磁場をシミュレーションによって可視化した結果を示す図である。これより、図7(B)に示す磁極部8d,8eから磁極部8h,8aへ向かって、金型20の周壁に対して磁力線が垂直に入出射するような曲線状をなすラジアル方向の磁場(図14Bにおける矢印)が形成されることが確認された。
【0082】
なお、上述したとおり、本発明は、上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更を加えることが可能である。例えば、各実施形態における一方極と他方極とを入れ替えて励磁方向を反転させてもよい。また、磁化工程においては、一方極及び他方極の各々の磁極部の組み合わせを変化させた各磁場配向処理を交互に複数回繰り返し実施してもよい。さらに、電磁石ユニット30に備わる磁極部の数は、3個以上であれば各実施形態に記載された数に限定されないが、磁性粉Mの周方向全体のラジアル配向の均一性及び磁場強度を最も高め易い観点から、図3(A)〜(C)に示す如く、形状構成の6個の磁極部6a〜6fを備えたリング状磁石成形装置100における運転方法が望ましい。
【実施例】
【0083】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0084】
〈実施例1〉
3個の磁極部を有する電磁石ユニットを備えるリング状磁石成形装置100を用い、第2実施形態におけるリング状磁石の製造方法と同様(磁性粉Mとして顆粒を用いた)にして、内径ri=34mm、外径ro=40mm、軸方向長さL=40mmのリング状磁石200を作製した。
【0085】
〈実施例2〉
4個の磁極部を有する電磁石ユニットを備えるリング状磁石成形装置100を用い、第3実施形態におけるリング状磁石の製造方法と同様にしたこと以外は、実施例1と同様にしてリング状磁石200を作製した。
【0086】
〈実施例3〉
6個の磁極部を有する電磁石ユニットを備えるリング状磁石成形装置100を用い、第1実施形態におけるリング状磁石の製造方法と同様にしたこと以外は、実施例1と同様にしてリング状磁石200を作製した。
【0087】
〈実施例4〉
8個の磁極部を有する電磁石ユニットを備えるリング状磁石成形装置100を用い、第4実施形態におけるリング状磁石の製造方法と同様にしたこと以外は、実施例1と同様にしてリング状磁石200を作製した。
【0088】
〈比較例1〉
実施例1の磁化工程に替えて、2個の磁極部を備える電磁石ユニットにより従来の直線的な水平横磁場を用い、励磁方向が90°異なる2種類の磁化処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にしてリング状磁石を作製した。
【0089】
〈比較例2〉
磁性粉がリング状に収容される円筒状キャビティを軸方向に貫通する軟磁性コアに垂直方向磁場を印加し、軟磁性コアの外周に配置した軟磁性ダイを通る磁束を発生させて、キャビティ内の磁性粉をラジアル方向に配向させた状態でプレス成形する上記従来(1)方法を用い、短尺のリング状成形体を3層積層プレスすることにより、実施例1と同組成及び同形状のリング状磁石を作製した。
【0090】
〈物性評価〉
(周方向の配向度測定)
上記各実施例及び各比較例で作製した各リング状磁石の軸方向長さ中心において、X線回折装置(株式会社リガク製;製品名 RINT2000;スリット幅0.1mm)を用いて周方向における配向度分布を全周に亘って測定した。図15に、実施例1〜4及び比較例1,2で作製した各リング状磁石の周方向における配向度分布(15°毎の配向度の測定値)のグラフを示す。同図中、実線は各実施例及び各比較例のリング状磁石の周方向における配向度測定値をプロットしたシンボルを結ぶ平滑化した目安線であり、実線E1〜E4、及び実線C1,C2は、それぞれ、実施例1〜4及び比較例1,2のリング状磁石の配向度分布を示す。また、表1に、それらの測定値から求めた配向度(%)に関する統計量(標準偏差、平均値、変動率)をまとめて示す。
【0091】
【表1】

【0092】
これらの結果より、実施例1〜4のリング状磁石では、周方向の配向度の変動率がいずれも3%未満であり、配向度の周方向の角度ばらつきが非常に小さく、しかも、比較例に比してラジアル方向の配向度が高いことが判明した。特に、実施例3のリング状磁石(6個の磁極部で磁場配向したもの)の優位性が理解される。これに対し、比較例1のリング状磁石は、90°周期で配向度が大きく変動することが確認された。
【0093】
(軸方向の配向度測定)
上記各実施例及び各比較例で作製した各リング状磁石の周方向の任意位置において、上記と同じX線回折装置を用いて軸方向における配向度分布を全長に亘って測定した。図16に、実施例3及び比較例1,2で作製した各リング状磁石の軸方向における配向度分布(2mm毎の配向度の測定値)のグラフを示す。同図中、実線は実施例3及び比較例1,2のリング状磁石の軸方向における配向度測定値をプロットしたシンボルを結ぶ平滑化した目安線であり、実線E3及び実線C1,C2は、それぞれ、実施例1及び比較例1,2のリング状磁石の配向度分布を示す。また、表2に、それらの測定値から求めた配向度(%)に関する統計量(標準偏差、平均値、変動率)をまとめて示す。
【0094】
【表2】

【0095】
これらの結果より、実施例3のリング状磁石(6個の磁極部で磁場配向したもの)は、軸方向の配向度の乱れも少なく、その変動率は1%未満であることが確認された。これに対し、比較例2のリング状磁石は、積層界面における配向度の変動が有意に大きいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0096】
以上説明した通り、本発明のリング状磁石及びその製造方法によれば、円周方向及び軸方向における配向度及びBrの均一性を共に向上させることができ、これによりモータに用いたときのトルクリプル及びコギングトルクの発生を十分に防止できるとともに、生産効率及び経済性を高めることができ量産性に資することが可能であるので、リング状の永久磁石用途一般、及びこれを備えるSPMモータ等のモータ一般、並びにそれらを備える各種機器、設備、システム等に広く且つ有効に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明によるリング状磁石の製造方法を実施するための好適なリング状磁石成形装置の一例の構成を概略的に示す水平断面図(一部ブロック図)である。
【図2】図1におけるII−II線に沿う垂直断面図である。
【図3】(A)〜(C)は、第1実施形態において、磁性粉Mの磁場配向処理を行っている状態を模式的に示す透過平面図である。
【図4】第2実施形態において、磁性粉Mの磁場配向処理を行っている状態を模式的に示す透過平面図である。
【図5】(A)〜(C)は、第3実施形態において、磁性粉Mの磁場配向処理を行っている状態を模式的に示す透過平面図である。
【図6】(A)及び(B)は、第4実施形態において、磁性粉Mの磁場配向処理を行っている状態を模式的に示す透過平面図である。
【図7】(A)及び(B)は、第5実施形態において、磁性粉Mの磁場配向処理を行っている状態を模式的に示す透過平面図である。
【図8】本発明のリング状磁石の製造方法によって好適に得られるリング状磁石の一実施形態を示す斜視図である。
【図9A】図3(A)に示す運転モードで形成される磁場をシミュレーションによって可視化した結果を示す図である。
【図9B】図3(A)に示す運転モードで形成される磁場をシミュレーションによって可視化した結果を示す図である。
【図9C】図3(B)に示す運転モードで形成される磁場をシミュレーションによって可視化した結果を示す図である。
【図10A】円筒状キャビティに収容した磁性粉に対し、4個の磁極部を備える電磁石により従来の直線的な水平横磁場を用いて磁化処理を行ったときに形成される磁場の状態をシミュレーションによって可視化した結果を示す図である。
【図10B】円筒状キャビティに収容した磁性粉に対し、4個の磁極部を備える電磁石により従来の直線的な水平横磁場を用いて磁化処理を行ったときに形成される磁場の状態をシミュレーションによって可視化した結果を示す図である。
【図11】図4(A)に示す運転モードで形成される磁場をシミュレーションによって可視化した結果を示す図である。
【図12A】図5(A)に示す運転モードで形成される磁場をシミュレーションによって可視化した結果を示す図である。
【図12B】図5(B)に示す運転モードで形成される磁場をシミュレーションによって可視化した結果を示す図である。
【図13A】図6(A)に示す運転モードで形成される磁場をシミュレーションによって可視化した結果を示す図である。
【図13B】図6(B)に示す運転モードで形成される磁場をシミュレーションによって可視化した結果を示す図である。
【図14A】図7(A)に示す運転モードで形成される磁場をシミュレーションによって可視化した結果を示す図である。
【図14B】図7(B)に示す運転モードで形成される磁場をシミュレーションによって可視化した結果を示す図である。
【図15】実施例1〜4及び比較例1,2で作製した各リング状磁石の周方向における配向度分布を示すグラフである。
【図16】実施例3及び比較例1,2で作製した各リング状磁石の軸方向における配向度分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0098】
3a〜3c、4a〜4d、6a〜6f、8a〜8h…磁極部、10…架台、20…金型、30…電磁石ユニット、31…コア、33…ダイス、35a〜35f…ヨーク、37a〜37f…コイル、40…プレス成形ユニット、41…上部パンチ、43…下部パンチ、50…制御部、60…電源、100…リング状磁石成形装置、200…リング状磁石、L…軸方向長さ、M…磁性粉、R1〜R16…領域、ri…内径、ro…外径、θ…角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状をなすキャビティ内を軸方向に貫通する軟磁性材料からなるコア部と、該キャビティの外周に沿って所定角度間隔で配置された3個以上の磁極部とを備える電磁石を準備する準備工程と、
前記3個以上の磁極部のうち互いに隣接する少なくとも2個の磁極部を同一の極性として一方極を構成し、前記3個以上の磁極部のうち該一方極と対向する少なくとも1個の磁極部を反対の極性として他方極を構成し、且つ、前記キャビティに収容された前記磁性粉の周方向全体に亘ってラジアル方向又は略ラジアル方向の磁場が印加されるように、前記一方極及び前記他方極の各々を構成する磁極部の組み合わせを経時的に変化させながら、前記キャビティに収容された磁性粉に磁場を印加する磁化工程と、
前記キャビティに収容された前記磁性粉を加圧成形する成形工程と、
を有するリング状磁石の製造方法。
【請求項2】
前記電磁石として、前記磁極部を偶数個備えるものを用いる、
請求項1記載のリング状磁石の製造方法。
【請求項3】
前記電磁石として前記キャビティの外周に沿って90°又は略90°間隔で配置された4個の前記磁極部を備えるものを用い、
前記磁化工程においては、前記4個の磁極部のうち隣接する2個の磁極部を同一の極性として前記一方極を構成し、且つ、該一方極の2個の磁極部と対向する2個の磁極部を反対の極性として前記他方極を構成した状態で、前記磁性粉に磁場を印加した後、該一方極及び該他方極の各々の2個の磁極部の組み合わせを周方向に磁極部1個分変化させた状態で、前記磁性粉に磁場を印加する、
請求項2記載のリング状磁石の製造方法。
【請求項4】
前記電磁石として、前記キャビティの外周に沿って60°又は略60°間隔で配置された6個の前記磁極部を備えるものを用い、
前記磁化工程においては、前記6個の磁極部のうち隣接する2個の磁極部を同一の極性として前記一方極を構成し、且つ、該一方極の2個の磁極部と対向する2個の磁極部を反対の極性として前記他方極を構成した状態で、前記磁性粉に磁場を印加した後、該一方極及び該他方極の各々の2個の磁極部の組み合わせを周方向に磁極部1個分又は2個分変化させた状態で、前記磁性粉に磁場を印加する、
請求項2記載のリング状磁石の製造方法。
【請求項5】
前記電磁石として、前記キャビティの外周に沿って45°又は略45°間隔で配置された8個の前記磁極部を備えるものを用い、
前記磁化工程においては、前記8個の磁極部のうち隣接する2個又は3個の磁極部を同一の極性として前記一方極を構成し、且つ、該一方極の2個又は3個の磁極部と対向する2個又は3個の磁極部を反対の極性として前記他方極を構成した状態で、前記磁性粉に磁場を印加した後、該一方極及び他方極の各々の2個又は3個の磁極部の組み合わせを周方向に磁極部1個分、2個分、又は3個分変化させた状態で、前記磁性粉に磁場を印加する、
請求項2記載のリング状磁石の製造方法。
【請求項6】
前記電磁石として、前記磁極部を少なくとも6個以上備えるものを用い、
前記磁化工程においては、前記一方極と前記他方極との間に対向配置された少なくとも1対の磁極部に電力を供給しない、
請求項2記載のリング状磁石の製造方法。
【請求項7】
前記電磁石として、前記キャビティの外周において、前記一方極及び/又は前記他方極の両縁端のなす角度が略120°のものを用いる、
請求項1〜6のいずれか1項記載のリング状磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図15】
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【図16】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14A】
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【図14B】
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【公開番号】特開2008−282909(P2008−282909A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124355(P2007−124355)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】