説明

リンゴ二次残渣物又はチシマザサを原料とするチロシナーゼ阻害活性剤の抽出方法及びそのチロシナーゼ阻害活性剤

【課題】安価で大量に供給可能な天然物であるリンゴやチシマザサを原料とするチロシナーゼ阻害剤の抽出方法の提供。
【解決手段】リンゴ二次残渣物やチシマザサを高圧圧搾を施すことにより得られる抽出液からチロシナーゼ阻害活性剤を得ることによるチロシナーゼ阻害剤の抽出方法。特に、リンゴ二次残渣物とチシマザサを粉砕して高圧圧搾を施して得られる長繊維とを混合して常温で高圧圧搾を施し、得られた果汁を50〜60℃、減圧下で濃縮して得られた果汁からチロシナーゼ阻害活性剤を得る抽出方法、あるいは、チシマザサ単独で葉・枝・稈部を長さ1mm〜50mm程度に粉砕して非加熱で高圧圧搾し、緑色の圧搾液を得、得られた圧搾液を90〜100℃で2〜4分程度加熱して凝固部分を取り除き、加熱後の液体を60〜80℃、減圧下で濃縮した無色透明の液体の溜出液からチロシナーゼ阻害活性剤を得る抽出方法であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンゴ二次残渣物又はチシマザサから抽出したチロシナーゼ阻害活性剤の抽出方法及びそのチロシナーゼ阻害活性剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化粧品に求められる作用の中でも、メラニンが皮膚組織に定着することにより肌に生じる色素沈着、シミ、ソバカスなどを予防する美白作用に対する需要は一段と高まっている。
【0003】
これに関し、アミノ酸の一種であるチロシンを、肌の色素沈着、シミ、ソバカスなどの発生因子であるメラニンに変化させる酵素の一つとしてチロシナーゼが知られている。
【0004】
このチロシナーゼの活性を抑制し、それによって皮膚の美白効果があるとして化粧品に用いられているチロシナーゼ阻害活性物質は、例えば、特開平8−231343公報(特許文献2)、特開平9−315928号公報(特許文献3)に示されているように広く知られている。
【0005】
しかしながら、チロシナーゼ阻害活性物質を合成物質から生成した場合には、これによる化学物質アレルギー反応を起こす人も少なくなく、そのために、アレルギーを回避した安全性の高い天然物由来の原料から美白剤を求める声は急速に拡大しているのが実情である。
【0006】
その斯界の要請に応えて、例えば、特開2000−319192公報(特許文献4)、特開2001−335498公報(特許文献5)に示すように、チロシナーゼ阻害活性物質を天然物由来の原料から製造するものが提案されている。前者は、茸類の根茎部、殊にマイタケの根茎部を原料として用いるものであり、後者は、通常、白樺の樹皮から抽出した白樺エキスを使用するものである。
【0007】
このような茸類の根茎部は収量が少なく高価であり、また、白樺の樹皮は入手経路が特定され(特開2001−335498公報〔0008〕を参照)、原料入手の容易性に欠ける難点がある。そのために、これら何れについてもチロシナーゼ阻害活性物質の原材料の安定した供給に欠ける難点がある。
【0008】
これらの条件を克服したものとして、特開平6−305978公報(特許文献1)に示すものが提案されている。それは、グアバまたはエリカの抽出物を有効成分とするチロシナーゼ阻害剤である。
【0009】
以上の他に、天然物由来の原料から製造されるものとして、焼酎粕抽出残渣又は焼酎粕抽出物を有効成分として含有する特開2006−199618公報(特許文献6)、テンニンカからの抽出物を有効成分として含有する特開2006−199678公報(特許文献7)、西洋わさび抽出物を含む特開2006−232806公報(特許文献8)、野菜のホソバワダン(ニガナ)又はホソバワダンからの有効成分の抽出物を含有する特開2007−70228公報(特許文献9)、焼成栗皮抽出物を含有する特開2007−126406公報(特許文献10)、褐藻類のコンブ目チガイソ科Alaria属海藻抽出物を含有する特開2007−204369公報(特許文献11)、ローズヒップのような素材を原料とした特開2007−261987公報(特許文献12)がある。
【特許文献1】特開平6−305978公報
【特許文献2】特開平8−231343公報
【特許文献3】特開平9−315928号公報
【特許文献4】特開2000−319192公報
【特許文献5】特開2001−335498公報
【特許文献6】特開2006−199618公報
【特許文献7】特開2006−199678公報
【特許文献8】特開2006−232806公報
【特許文献9】特開2007−070228公報
【特許文献10】特開2007−126406公報
【特許文献11】特開2007−204369公報
【特許文献12】特開2007−261987公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、チロシナーゼ阻害活性剤を、特開平6−305978公報で原料として採用されているグアバやエリカの他に、安価で大量に供給可能な天然物素材であるリンゴ二次残渣物(リンゴジュースを搾る際に発生するしぼりかす)又はチシマザサから抽出できるようにした、リンゴ又はチシマザサを原料とするチロシナーゼ阻害活性剤の抽出方法及びそのチロシナーゼ阻害活性剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の如き観点に鑑みてなされたものであって、リンゴ二次残渣物やチシマザサを高圧圧搾を施すことにより抽出される抽出液からチロシナーゼ阻害活性剤を得るものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に使用される原料のチシマザサは日本中の山野に自生しており、その成長や再生スピードが早く栽培の手間も不要なために資源として確保するのに容易である。又、リンゴは概ねその種類を問わず、リンゴジュースの搾汁の際に生じる残渣が産業廃棄物としてこれまで大量に処理されているが、本発明に使用されるリンゴ二次残渣物は、その産業廃棄物として処理する外に利用する方途がなかった残渣物であるから、その量の確保も容易である一方、その利用は産業廃棄物の削減にもつながるものであり、かつ又、資源の有効利用や悪臭防止等の公害対策の面からも公害防止技術として極めて有意義なものである。
【0013】
また、チシマザサやリンゴ二次残渣物は、いずれも合成品ではない天然物素材であり、それに加えて、上記諸点からも明らかなように、大量供給が可能であるため、従来のチロシナーゼ阻害活性剤にあった合成品への懸念や供給量の不安は解消される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(実施例1)
リンゴ抽出物とチシマザサ抽出物によるチロシナーゼ阻害活性試験
1.試料
1)高圧圧搾リンゴ果汁
リンゴ二次原料(通常のリンゴジュースを製造した際に排出される残渣)20kgとチシマザサの葉・枝・稈部を1mm〜50mm程度に粉砕し、220kg/cm2程度の高圧圧搾を施した後の長繊維10kgを混合して常温で220kg/cm2程度の高圧圧搾を施した。そうすることによりリンゴ二次原料の絞られた果汁は流出せずに高圧圧搾して混合された長繊維のチシマザサの繊維間に表面張力で保水される。得られた果汁10Lを50℃〜60℃、好ましくは55℃で76mmHg程度の減圧下でBrix40.0±1.0まで濃縮して2Lの濃縮果汁を得た。この濃縮果汁をAH-3とし、試料として用いた。
【0015】
(実施例2)
2)チシマザサの非加熱圧搾液
青森県内に自生するチシマザサの葉・枝・稈部150kgを全て粉砕機により長さ1mm〜50mm程度に粉砕して非加熱で220kg/cm2程度の高圧圧搾を施し、緑色の圧搾液35Lを得た。得られた圧搾液を90℃〜100℃、好ましくは95℃で2分から4分、好ましくは3分加熱して凝固部分を取り除き、加熱後の液体を60℃〜80℃、好ましくは70℃、76mmHg程度の減圧下でBrixが約40になるまで濃縮した。得られた溜出液25LをK-2(無色透明、液体)、濃縮液を24時間程度静置し二層に分離して得られた上層部1.5LをK-3(黒褐色、液体)、下層部150gをK-4(茶褐色、泥状)とした。
【0016】
また、圧搾後のチシマザサの残渣を乾燥させたもの10kgに水130Lを加えて170℃〜180℃、好ましくは175℃、20分〜40分、好ましくは30分で熱水抽出し、黄褐色の液体110Lを得た。この抽出液をBrixが約40になるまで60℃〜80℃、好ましくは70℃、76mmHg程度の減圧蒸留し、得られた溜出液85LをNK-2(無色透明、液体)、濃縮液を24時間程度静置し沈殿物を分離した液体5LをNK-3(黒褐色、液体)とした。
【0017】
このK-2からK-4までとNK-2、NK-3までの5種のフラクションをそれぞれ試料とした。
【0018】
3)各溶液の調製
チロシナーゼ(Tyrosinase Mushroom, SIGMA Co. Ltd.)はpH 6.80の0.1Mリン酸緩衝液(pHを一定に保つ溶液)に溶解して93μg/ml酵素溶液とした。基質はL-DOPA(3,4-Dihydroxy
- L-phenylalanine, SIGMA Co. Ltd.)を用い、0.1Mリン酸緩衝液に溶解して2mMの基質溶液とした。阻害剤としてAH-3、K-3、K-4、NK-3は0.1Mリン酸緩衝液で希釈し、K-2、NK-2はそのまま用いた。また、陽性対照としてアルブチン(Arbutin, SIGMA Co. Ltd.)を用いた。
【0019】
2. 方法1)
96穴のマイクロプレート(多種の試料を一斉に処理、測定できるプラスチック製容器)に2mM基質溶液50μlと阻害剤50μlを加えたものを2列作り、プレートを37℃で5分間プレインキュベート(前保温)した。プレインキュベート後、一方の列に93μg/ml 酵素溶液50μlを、もう一方に0.1M リン酸緩衝液50μlを加えた。プレートを37℃で15分間インキュベート(保温)した後、プレートリーダー(マイクロプレート測定用分光光度計)を用いて波長450nmにおける吸光度を測定し、一列の平均を測定値とした。
【0020】
3. 結果
チロシナーゼ阻害活性を持たないリン酸緩衝液中で処理した(チロシナーゼの活性が阻害されていない)ものの吸光度をA、各阻害剤を添加しチロシナーゼの活性を阻害させたものの吸光度をBとおき、チロシナーゼ阻害率を 阻害率(%) = {(A−B)/A}×100 として計算した。各阻害剤の濃度と阻害率を表1と表2にまとめた。
【0021】
表1 各阻害剤の濃度と阻害率

【0022】
表2 各阻害剤の濃度と阻害率の関係を示すグラフ

【0023】
表3 表2に示す各阻害剤の阻害率の近似式


4. 考察
【0024】
[表1の説明]
表1は各実施例に示す各阻害剤がチロシナーゼの活性をどの程度阻害しているか(阻害率)を表している。「阻害率が高い」ことは「美白効果が強い」ことを示し、又、「濃度が低くても阻害率が高い」ものは「使用量が少なくても美白効果が強い」と言える。本実験では全ての阻害剤がチロシナーゼ阻害活性を示した。特にK−3、K−4の効果は強く、濃度が約66mg/ml でそれぞれ約77%、94%という高い阻害率を示した。
【0025】
[表2の説明]
表2は、表1をグラフに表したものである。直線の傾きが急な(直線が縦になっている)ほど低濃度でも阻害率が高いため、美白効果が強いと言える。K−3、K−4が特に強く、次いでNK−3、AH−3がやや強い。K−2、NK−2はやや弱いが効果があることを示している。
【0026】
表3の各阻害剤の阻害率の近似式(y=ax+b)は、表2におけるそれぞれの一次関数(直線)の方程式であって、1つの阻害剤につき数パターンの濃度の場合を測定しており、その数点の測定結果から導き出した数式である。そして、各阻害剤のRの二乗の値は、1つの阻害剤における全測定データが上記の数式の直線上にあるか否かの相関関係を示す指標となる値である。R二乗の値が1に近ければ各測定データが直線状に並んでいることになり、逆にR二乗の値が0に近ければ各測定データがばらついていることになり、相関関係が小さいことを示す。本願の場合は、R二乗の値が1に近いほど相関関係があり、信頼性が高いことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0027】
以上の説明により明らかなように、本発明によれば、原材料が天然物素材を中心としており、安全性に優れたチシロナーゼ活性阻害剤、美白剤を提供することができる。また、適度な笹の伐採はブナ林等の自然保護に役立つことから環境保護に大きく貢献することが期待される。さらに、産業廃棄物として大量に処分されているリンゴ搾汁残渣を利用することからも環境保護に大きく貢献することが期待されると同時に従来産業廃棄物とされたリンゴ搾汁残47渣に由来する公害対策、自然の有効利用にも大いに寄与するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンゴ二次残渣物やチシマザサを高圧圧搾を施すことにより得られる抽出液からチロシナーゼ阻害活性剤を得ることを特徴とするリンゴ又はチシマザサを原料とするチロシナーゼ阻害活性剤の抽出方法。
【請求項2】
リンゴ二次残渣物と、チシマザサを粉砕して高圧圧搾を施して得られる長繊維とを混合して常温で220kg/cn2程度の高圧圧搾を施し、得られた果汁を50℃から60℃で76mmHg程度の減圧下でBrix 40.0±1.0まで濃縮して得られた果汁からチロシナーゼ阻害活性剤を得ることを特徴とするリンゴを原料とするチロシナーゼ阻害活性剤の抽出方法。
【請求項3】
チシマザサの葉・枝・稈部を長さ1mm〜50mm程度に粉砕して非加熱で高圧圧搾し、緑色の圧搾液を得、得られた圧搾液を90℃から100℃で2分〜4分程度加熱して凝固部分を取り除き、加熱後の液体を60℃〜80℃、76mmHg程度の減圧下でBrixが約40になるまで濃縮した無色透明の液体の溜出液からチロシナーゼ阻害活性剤を得ることを特徴とするチシマザサを原料とするチロシナーゼ阻害活性剤の抽出方法。
【請求項4】
チシマザサの葉・枝・稈部を長さ1mm〜50mm程度に粉砕して非加熱で高圧圧搾し、緑色の圧搾液を得、得られた圧搾液を90℃から100℃で2分〜4分程度加熱して凝固部分を取り除き、加熱後の液体を60℃〜80℃、76mmHg程度の減圧下でBrixが約40になるまで濃縮した残留液を24時間程度静置し、二層に分離した上層部の黒褐色の液体からチロシナーゼ阻害活性剤を得ることを特徴とするチシマザサを原料とするチロシナーゼ阻害活性剤の抽出方法。
【請求項5】
チシマザサの葉・枝・稈部を長さ1mm〜50mm程度に粉砕して非加熱で高圧圧搾し、緑色の圧搾液を得、得られた圧搾液を90℃から100℃で2分〜4分程度加熱して凝固部分を取り除き、加熱後の液体を60℃〜80℃、76mmHg程度の減圧下でBrixが約40になるまで濃縮した残留液を24時間程度静置し、二層に分離した下層部の茶褐色で泥状の物質からチロシナーゼ阻害活性剤を得ることを特徴とするチシマザサを原料とするチロシナーゼ阻害活性剤の抽出方法。
【請求項6】
チシマザサの葉・枝・稈部を長さ1mm〜50mm程度に粉砕して非加熱で高圧圧搾し、圧搾後の残渣を乾燥後170℃〜180℃、20分〜40分程度で熱水抽出し、黄褐色の液体を得、この抽出液をBrixが約40になるまで60℃〜80℃、76mmHg程度の減圧蒸留した無色透明の液体の溜出液からチロシナーゼ阻害活性剤を得ることを特徴とするチシマザサを原料とするチロシナーゼ阻害活性剤の抽出方法。
【請求項7】
チシマザサの葉・枝・稈部を長さ1mm〜50mm程度に粉砕して非加熱で高圧圧搾し、圧搾後の残渣を乾燥後170℃〜180℃、20分〜40分程度で熱水抽出し、黄褐色の液体を得、この抽出液をBrixが約40になるまで60℃〜80℃、76mmHg程度の減圧蒸留した残留液を24時間程度静置し、その沈殿物を分離した黒褐色の液体からチロシナーゼ阻害活性剤を得ることを特徴とするチシマザサを原料とするチロシナーゼ阻害活性剤の抽出方法。
【請求項8】
リンゴ二次残渣物やチシマザサを高圧圧搾を施すことにより得られる抽出液からチロシナーゼ阻害活性剤を得ることを特徴とするリンゴ又はチシマザサを原料とするチロシナーゼ阻害活性剤。

【公開番号】特開2010−18530(P2010−18530A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179075(P2008−179075)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(302069310)日本ハルマ株式会社 (2)
【出願人】(309015019)地方独立行政法人青森県産業技術センター (52)
【Fターム(参考)】