説明

リンス剤及びハードディスク基板の製造方法

【課題】基板表面に砥粒の残留がなく凹み欠陥も存在しないハードディスク基板を製造するためのリンス剤、及び該リンス剤を使用したハードディスク基板の製造方法を得ること。
【解決手段】本発明のリンス剤は、砥粒としてコロイダルシリカを含有するリンス液であり、コロイダルシリカ砥粒の濃度をC、コロイダルシリカ砥粒の平均粒径をRとしたときに(C、Rはそれぞれ重量%、nmで表される)、コロイダルシリカ砥粒の濃度Cと平均粒径Rの関係が下記の式(1)を満足する構成を有している。
R≧2.2C+18.2・・・・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク基板用のリンス剤及び該リンス剤を使用したハードディスク基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ等の磁気ディスク記憶装置に組み込まれるハードディスクは、年々小型化、高容量化の一途をたどっており、ハードディスク基板には極めて高い精度の品質が要求されている。したがって、従来からハードディスク基板の基板表面を平滑化する研磨が行われており、例えば、アルミナ砥粒による粗研磨工程と、コロイダルシリカ砥粒による仕上げ研磨工程が採用されている。
【0003】
しかし、粗研磨工程において使用したアルミナ砥粒が基板表面に残留して仕上げ研磨工程でも取り除くことができなかった場合に、ハードディスク基板のメディア特性低下を引き起こすおそれがある。
【0004】
そこで、粗研磨工程と仕上げ研磨工程との間にリンス工程を設けて、コロイダルシリカ砥粒によるリンス液でハードディスク基板のリンス(すすぎ洗い)を行い、基板表面のアルミナの残留を低減させる方法が公知である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−208869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のリンス剤では、リンス工程において深さが数十nm単位の凹み欠陥が基板表面に発生するおそれがあることを発明者らは見出した。したがって、基板表面に凹み欠陥を発生させることなく、基板表面のアルミナ砥粒を十分に取り除くことができる優れたリンス剤が求められている。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、基板表面に砥粒の残留がなく凹み欠陥も存在しないハードディスク基板を製造するためのリンス剤、及び該リンス剤を使用したハードディスク基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明のリンス剤は、コロイダルシリカ砥粒を含有するリンス剤であって、コロイダルシリカ砥粒の濃度をC、コロイダルシリカ砥粒の平均粒径をRとしたときに(C、Rはそれぞれ重量%、nmで表される)、コロイダルシリカ砥粒の濃度Cと平均粒径Rの関係が下記の式(1)を満足することを特徴としている。
【0009】
R≧2.2C+18.2・・・・・(1)
【0010】
本発明のリンス剤は、コロイダルシリカ砥粒の濃度Cが、0.8〜8.0重量%であることが好ましく、また、コロイダルシリカ砥粒の平均粒径Rが、20〜80nmであることが好ましい。
【0011】
本発明のハードディスク基板の製造方法は、コロイダルシリカ砥粒の濃度Cと平均粒径Rの関係が上記式(1)を満足するリンス剤を用いてハードディスク基板をリンスするリンス工程を有することを特徴としている。このリンス工程は、アルミナ砥粒を含有する研磨液を用いてハードディスク基板を粗研磨する粗研磨工程と、コロイダルシリカ砥粒を含有する研磨液を用いてハードディスク基板を仕上げ研磨する仕上げ研磨工程との間に行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のハードディスク基板用のリンス剤及び該リンス剤を使用したハードディスク基板の製造方法によれば、該リンス剤を用いてハードディスク基板の基板表面をリンス(すすぎ洗い)することによって、ハードディスク基板の基板表面に存在するアルミナ砥粒の量を低減することができ、リンス工程において深さが数十nm単位の凹み欠陥が基板表面に発生するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】表1の結果をグラフに示した図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[ハードディスク基板の製造方法]
本発明のリンス剤を用いたハードディスク基板の製造方法は、アルミブランク材を研磨して基板を形成する工程、基板にNi−Pめっきを施して基板表面にNi−P層を形成する工程、アルミナ砥粒を含有する研磨液を用いて基板表面を粗研磨する粗研磨工程、粗研磨された基板をリンスするリンス工程、コロイダルシリカ砥粒を含有する研磨液を用いて仕上げ研磨する仕上げ研磨工程を有する。
【0015】
[アルミブランク材の研磨工程]
アルミニウム合金製のブランク材の内外径端面を旋盤加工し、グラインダー工程により表面を研磨する。
【0016】
[Ni−Pめっき工程]
基板に対して、エッチング、ジンケート処理、Ni−Pめっき、純水洗浄、乾燥、ベーキングの一連の処理を順次行う。
【0017】
[粗研磨工程]
加熱処理された基板のNi−Pめっきされた基板表面を粗研磨する。粗研磨は、有機高分子系の研磨布を貼付した定盤を用いて、アルミナ砥粒を含有する研磨液を供給しながら行う。本工程において使用される研磨液は、特に限定されない一般的なエッチャント成分として過酸化水素水、有機酸、無機酸、界面活性剤を含有するものが好ましい。
【0018】
アルミナ砥粒の平均粒径は、アルミナ残留、またはうねりの低減の観点から1μm以下が好ましく、より好ましくは0.7μm以下である。また、アルミナ砥粒の濃度は、研磨速度向上、経済性の観点から好ましくは10重量%以下、より好ましくは7重量%以下である。
【0019】
[リンス工程]
リンスでは、有機高分子系の研磨布を貼付した定盤を用いて、リンス液を供給しながらハードディスク基板の基板表面のアルミナ砥粒を低減する。
【0020】
リンス工程に使用される本発明のリンス剤は、砥粒としてコロイダルシリカを含有するリンス液であり、コロイダルシリカ砥粒の濃度をC、コロイダルシリカ砥粒の平均粒径をRとしたときに(C、Rはそれぞれ重量%、nmで表される)、コロイダルシリカ砥粒の濃度Cと平均粒径Rの関係が下記の式(1)を満足する構成を有している。
【0021】
R≧2.2C+18.2・・・・・(1)
【0022】
上記式(1)において、コロイダルシリカ砥粒の濃度Cは、0.8〜8.0重量%の範囲にあることが好ましく、コロイダルシリカ砥粒の平均粒径Rは、20〜80nmの範囲にあることが好ましい。
【0023】
リンス工程後の洗浄は、イオン交換水または超純水を使用した一般的なスクラブ洗浄を用いることができる。また、アルミナ残留低減の観点から、洗剤を併用したり、超音波DiPを併用しても良い。なお、平均粒径は、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡で観察して画像解析を行い、粒径を測定することにより求めることができる。
【0024】
[仕上げ研磨工程]
仕上げ研磨は、有機高分子系の研磨布を貼付した定盤を用い、コロイダルシリカ砥粒を含有する研磨液を供給しながら行う。
【0025】
本工程において使用される研磨液は、特に限定されない一般的なエッチャント成分として過酸化水素水、有機酸、無機酸、界面活性剤を含有するものが好ましい。
【0026】
コロイダルシリカ砥粒の平均粒径は、5〜100nmが好ましく、表面粗度、うねり低減、経済性の観点から、30nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましい。また、コロイダルシリカ砥粒の濃度は、研磨速度向上、スクラッチ低減、うねり低減、経済性の観点から20重量%以下が好ましく、2〜10重量%がより好ましい。
【0027】
仕上げ研磨工程後の洗浄は、イオン交換水または超純水を使用した一般的なスクラブ洗浄を用いることができる。また、アルミナ残留やコロイダルシリカ残留低減の観点から、洗剤を併用したり、超音波DiPを併用しても良い。
【0028】
なお、コロイダルシリカ砥粒を含有する研磨液を供給しながらハードディスク基板の基板表面のアルミナ砥粒を低減することはリンス工程と仕上げ研磨工程で共通するが、仕上げ研磨工程でのハードディスク基板の基板表面のアルミナ砥粒はリンス工程で低減されているので、深さが数十nm単位の凹み欠陥が基板表面に発生する確率はほとんどない。
【0029】
[本製造方法による効果]
本発明のリンス剤を用いて、ハードディスク基板のリンスを行うことにより、ハードディスク基板の基板表面に残留するアルミナ砥粒の量を低減することができ、リンス工程において深さが数十nm単位の凹み欠陥が基板表面に発生するのを抑制するという効果を得ることができる。
【0030】
その理由は、コロイダルシリカ砥粒の濃度Cと平均粒径Rの関係が上記の式(1)の範囲を外れたリンス剤は、リンス剤中のコロイダルシリカ砥粒が凝集して、その凝集した粒子が原因となって、基板表面に深さが数十nm単位の凹み欠陥を発生させると考えられる。
【0031】
[その他]
本発明のリンス剤は、Ni−P層を有するハードディスク基板のリンスに好適である。Ni−P層を有するハードディスク基板としては、公知のもので特に限定されることはなく、Ni−P層の基板材料としては、アルミニウム合金基板、ガラス基板、カーボン基板を使用することができるが、一般的にはアルミニウム合金製の基板が好適である。
【実施例】
【0032】
コロイダルシリカ砥粒の平均粒径Rと濃度Cが、表1に示す関係を有するリンス剤を得た(実施例1〜7及び比較例1〜6)。
【0033】
なお、平均粒径Rは、透過型電子顕微鏡(日本電子製、透過型電子顕微鏡 JEM2000FX(200kV))を用いて倍率10万倍の視野の写真を撮影し、この写真を解析ソフト(マウンテック製、Mac-View Ver.4.0)を用いて解析して測定した。
【0034】
そして、直径95mm、内径25mm、厚み1.27mmのNi−Pめっきされたアルミニウム合金からなる基板の基板表面に対して、粗研磨工程、表1に示すリンス剤によるリンス工程、仕上げ研磨工程、洗浄工程の順に加工を実施し、ハードディスク基板として用いられるNi−Pめっきされたアルミニウム合金基板を得た。
【0035】
研磨条件を下記に示す。
<粗研磨工程の設定条件>
研磨試験機: システム精工株式会社 9B両面研磨機
研磨パッド: 株式会社 FILWEL製 P1用研磨パッド
スラリー供給量: 12ml/min/pc
研磨時間: 粗研磨 150〜300sec
加工圧力: 100g/cm2
基板投入枚数: 10枚
定盤回転数: 12rpm〜14rpm
粗研磨用研磨液組成物: アルミナ砥粒粒径0.6μm、濃度3.9重量%、添加剤として過酸化水素水、有機酸、硫酸、界面活性剤を含む。
【0036】
<リンス工程の設定条件>
研磨試験機: システム精工株式会社 9B両面研磨機
研磨パッド: 株式会社 FILWEL製 P1用研磨パッド
リンス時間: 60sec
基板投入枚数: 10枚
定盤回転数: 12rpm〜14rpm
リンス剤: コロイダルシリカ砥粒の粒径R及び濃度Cを表1に示す範囲で調整し、さらに過酸化水素水、硫酸、界面活性剤を添加した。
【0037】
<仕上げ研磨工程の設定条件>
研磨試験機: システム精工株式会社 9B両面研磨機
研磨パッド: 株式会社 FILWEL製 P2用研磨パッド
スラリー供給量: 12ml/min/pc
研磨時間: 150〜300sec
加工圧: 100g/cm2
基板投入枚数: 10枚
定盤回転数 : 13〜20rpm
【0038】
<仕上げ研磨工程後の洗浄>
イオン交換水によるスクラブ洗浄を行い、遠心乾燥を行った。
【0039】
[凹み欠陥の評価]
乾燥後の基板表面を光学系表面測定装置OPTIFLATにて観察し、深さが数十nm単位の凹み欠陥の有無を確認した。
○・・・凹み欠陥無し
×・・・凹み欠陥有り
【0040】
[アルミナ砥粒の残留状態の評価]
リンス工程後の基板をイオン交換水によるスクラブ洗浄を行い、遠心乾燥した。その後、基板表面の白点を日立製作所製S−4800 SEMを使用して50,000倍にて観察し、白点をカウントすることにより、基板表面におけるアルミナ砥粒の残留状態を評価した。
【0041】
表1の結果により、基板表面の凹み欠陥は、コロイダルシリカ砥粒の平均粒径Rと濃度Cとの関係に応じて、発生する条件と発生しない条件があることがわかる。また、粗研磨工程後にコロイダルシリカ砥粒を含有するリンス剤によりリンスすることにより、アルミナ砥粒の残留量(個/μm)も低減できることがわかる。これらのことから、リンス剤に含有されるコロイダルシリカ砥粒の粒径Rと濃度Cの関係が上記式(1)を満足するようにリンス剤の組成物を設定することで、アルミナ残留低減と凹み欠陥抑制の両立が可能になった。
【0042】
【表1】

【0043】
図1は、上記した表1の結果をグラフに示したものである。図1において、実施例1の値(実1)と実施例6の値(実6)の2点を結ぶ直線よりも上方の領域S1では、基板表面の凹み欠陥は発生していない(実施例1〜7)。基板表面の凹み欠陥は、実施例1の値(実1)と実施例6の値(実6)の2点を結ぶ直線よりも下方の領域で発生していることがわかる(比較例1〜5)。領域S1は、上記式(1)によって示される。
【0044】
そして、実施例1〜7におけるコロイダルシリカ砥粒の濃度Cの最小値(実1)及び最大値(実6、7)と、実施例1〜7におけるコロイダルシリカ砥粒の平均粒径Rの最小値(実1)及び最大値(実5)によって、図1に示す領域S2が規定される。領域S2は、コロイダルシリカ砥粒の濃度Cが0.8〜8.0重量%の範囲となり、コロイダルシリカ砥粒の平均粒径Rが20〜80nmの範囲となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカ砥粒を含有するリンス剤であって、
前記コロイダルシリカ砥粒の濃度をC、該コロイダルシリカ砥粒の平均粒径をRとしたときに(C、Rはそれぞれ重量%、nmで表される)、前記コロイダルシリカ砥粒の平均粒径Rと濃度Cの関係が下記の式(1)を満足することを特徴とするリンス剤。
R≧2.2C+18.2・・・・・(1)
【請求項2】
前記コロイダルシリカ砥粒の濃度Cが、0.8〜8.0重量%であることを特徴とする請求項1に記載のリンス剤。
【請求項3】
前記コロイダルシリカ砥粒の平均粒径Rが、20〜80nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のリンス剤。
【請求項4】
前記請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のリンス剤を用いてハードディスク基板をリンスするリンス工程を有することを特徴とするハードディスク基板の製造方法。
【請求項5】
前記リンス工程は、アルミナ砥粒を含有する研磨液を用いてハードディスク基板を粗研磨する粗研磨工程と、コロイダルシリカ砥粒を含有する研磨液を用いてハードディスク基板を仕上げ研磨する仕上げ研磨工程との間に行われることを特徴とする請求項4に記載のハードディスク基板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−24888(P2012−24888A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166840(P2010−166840)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【出願人】(000168551)鋼鈑工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】