説明

リンパ球分化または増殖調節剤、およびそのスクリーニング方法

【課題】リンパ球の分化または増殖調節薬開発等のための新たなターゲット分子を提供し、これを標的とする新たな機序のリンパ球の分化または増殖調節薬や、そのスクリーニング方法等を提供すること。
【解決手段】リンパ球の分化または増殖調節薬開発等のための新たなターゲット分子としてBTS遺伝子が提供される。また、本発明は、BTS遺伝子の発現を調節する物質を含有してなる、リンパ球の分化または増殖調節剤、被験物質がBTS遺伝子の発現を調節し得るか否かを評価することを含む、リンパ球の分化または増殖を調節し得る物質のスクリーニング方法等を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンパ球分化または増殖調節剤、リンパ球分化または増殖を調節し得る物質のスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
防御免疫反応として、免疫系は病原体や抗原の感染を認識してT・B両リンパ球の抗原特異的クローンを充実させる。反応の終結と過度の反応を低減させるため、該リンパ球クローンは増殖阻害や細胞死により減少する。このような免疫反応に伴う大胆な調節機構は、適切な免疫において重要である。抗原受容体、共刺激受容体、細胞死受容体は、リンパ球のクローンサイズ調節において中心的な役割を果たすことが知られている。さらに、複数の異なる分子が細胞増殖および細胞死の調節に関与している。四回膜貫通を有する分子(tetra-spanning molecule)もまた、このような調節機構に関与している。
【0003】
多数のtetra-spanning moleculeが同定され、二つのグループに分類されている。トランスメンブレン4スーパーファミリー(TM4SF)またはテトラスパニン(tetraspanin)(Maeckerら、FASEB J.、vol.11、p428-442、(1997)、Tarrantら、TRENDS in Immunol.、vol.24、p610-617、(2003))、そして4領域membrane-spanningサブファミリーA(MS4A)(Ishibashiら、Gene、vol.264、p87-93、(2001)、Liangら、Genomics、vol.72、p119-127、(2001))である。これら二つのグループは、構造的および配列相同性で分類されている。前者のグループは、CD9、CD37、CD53、CD63、CD81、CD82を含む約20のタンパク質のメンバーを有し、膜ミクロドメインと離れて細胞膜に集まることにより、テトラスパンミクロ領域を構成すると考えられている(Vogtら、Immunol. Rev.、vol.189、p136-151、(2002))。テトラスパンミクロ領域に、制限されたペプチドレパートリーをのせたMHCクラスII分子を濃縮し、抗原呈示を促進する(Kropshoferら、Nat. Immunol.、vol.3、p61-68、(2002))。
【0004】
CD19と関連してCD81は、B細胞においてB細胞受容体(BCR)を介し、細胞活性の閾値を低下させることが示唆されている。CD81−欠損マウスはB1aリンパ球サブセットの発達の低下(基礎免疫グロブリンのレベル低下)、細胞表面CD19の発現の減少、T細胞依存的抗体応答の低下を示した(Levyら、Annu. Rev. Immunol.、vol.16、p89-109、(1998)、Maeckerら、J. Exp. Med.、vol.185、p1505-1510、(1997))。同様に、T細胞依存的抗体応答はまたCD37−欠損マウスで低下した(Knobelochら、Mol. Cell Biol.、vol.20、p5363-5369、(2000))。TM4SFファミリーの分子はインテグリンやFcRsなどの広範囲にわたる細胞表面受容体に関連することが示されており、このような関連は細胞内のシグナル活性化や機能調節を誘発する(Kajiら、J. Immunol.、vol.166、p3256-3265、(2001))。
【0005】
一方、MS4Aファミリーは、CD20、HTm4、FcεRIβや未同定の分子を含む。FcεRIβは、IgE受容体を構成するITAMを構成要素として有することがよく知られており、マスト細胞やマクロファージで活性化シグナルの調節/増幅機能を示す(Maurerら、J. Exp. Med.、vol.179、p745-750、(1994)、Reth、Nature、vol.338、p383-384、(1989))。CD20はB細胞の細胞死を調節しており、また、最近ではカルシウムチャネルとして機能することが示唆されている(Liら、J. Biol. Chem.、vol.278、p42427-42434、(2003)、Kanzakiら、J. Biol. Chem.、vol.272、p4964-4969、(1997))。特に、抗-CD20モノクローナル抗体、リツキサン(rituximab)は、B細胞リンパ腫治療に適応されている(Glennieら、Immunol. Today、vol.21、p403-410、(2000)、Maloneyら、Semin. Oncol.、vol.29、p2-9、(2002))。細胞死を誘発するメカニズムはいまだ未知であるが、CDC(compliment-dependent cytotoxicity)(Bannerjiら、Blood、vol.96、p164a、(2000)、Manchesら、Blood、vol.101、p949-954、(2003))、ADCC(Ab-dependent cell-mediated cytotoxicity)(Clynesら、Nat. Med.、vol.6、p443-446、(2000)、Cartonら、Blood、vol.99、p754-758、(2002))、アポトーシス(Chanら、Cancer Research、vol.63、p5480-5489、(2003)、Shanら、Blood、vol.91、p1644-1652、(1998))を介して調節していると考えられている。HTm4は、細胞周期調節に含まれることが報告されている(Donatoら、J. Clin. Invest.、vol.109、p51-58、(2002))。非リンパ組織においても多数のtetra-spanning moleculeがクローン化されているにもかかわらず、それらの機能のほとんどはいまだ未知である。
【0006】
細胞増殖は始めの細胞サイズの増加に続くことが知られている。細胞サイズは栄養と代謝により調節されることが示されており、哺乳類のラパマイシン標的タンパク質(mTOR)は、細胞のエネルギー(Dennisら、Science、vol.294、p1102-1105、(2001))、栄養(Edingerら、Oncogene、vol.23、p5654-5663、(2004))、成長因子(Schemelzleら、Cell、vol.103、p253-262、(2000)、Rathmellら、J. Immunol.、vol.167、p6869-6876、(2001))に反応してこの細胞サイズ、細胞周期(Schemelzleら、Cell、vol.103、p253-262、(2000))、細胞分化(Sugataniら、J. Biol. Chem.、published online ahead of print December 7, 2004、Sarkerら、Oncogene、vol.23、p6064-6070、(2004))の調節に重要であることが示されている。B細胞では、mTOR経路はBCR刺激によるアルファ4/PP2Aによって調節されることが示されている(非特許文献1)。
【非特許文献1】イヌイら(Inui et al.)、インターナショナル・イムノロジー(Int. Immunol.)、(英国)、第14巻、p.177−187、(2002年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、リンパ球分化または増殖調節薬開発等のための新たなターゲット分子を提供し、これを標的とする新たな機序のリンパ球分化または増殖調節薬や、そのスクリーニング方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、B細胞に特異的に発現している、4回膜貫通型の分子BTS(B cell-specific tetra-spanning molecule)を、未熟B細胞に過剰発現させると、その細胞の分化および増殖が著しく阻害されたこと等から、BTSがB細胞の分化または増殖を制御し得る分子であり、リンパ球分化または増殖調節薬開発等のための新たなターゲット分子として有用であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明は、以下のものを提供する:
(1)BTS遺伝子の発現を調節する物質を含有してなる、リンパ球分化または増殖調節剤、
(2)該リンパ球がB細胞またはリンパ球系前駆細胞である、上記(1)記載の剤、
(3)該BTS遺伝子の発現を調節する物質がBTS遺伝子の発現を促進する物質である、上記(1)記載の剤、
(4)BTS遺伝子の発現を促進する物質が、以下の(i)または(ii)である、上記(3)記載の剤:
(i)BTSポリペプチド若しくはその塩;
(ii)BTSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する核酸、
(5)リンパ腫、白血病、自己免疫疾患、膠原病、自己免疫性糸球体腎炎の予防・治療剤である、上記(3)記載の剤、
(6)該BTS遺伝子の発現を調節する物質がBTS遺伝子の発現を抑制する物質である、上記(1)記載の剤、
(7)BTS遺伝子の発現を抑制する物質が、BTSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列またはその一部を有する核酸である、上記(6)記載の剤、
(8)悪性腫瘍、心不全、尿毒症、免疫不全症候群、感染症の予防・治療剤である、上記(6)記載の剤、
(9)被験物質がBTS遺伝子の発現を調節し得るか否かを評価することを含む、リンパ球分化および増殖を調節し得る物質のスクリーニング方法、
(10)以下の工程を含む、上記(9)記載の方法:
(a)被験物質がBTS遺伝子の発現を促進し得るか否かを評価する工程;
(b)BTS遺伝子の発現を促進し得る物質を、リンパ球分化または増殖を低下し得る物質として選択する工程、
(11)以下の工程を含む、上記(9)記載の方法:
(a)被験物質がBTS遺伝子の発現を抑制し得るか否かを評価する工程;
(b)BTS遺伝子の発現を抑制し得る物質を、リンパ球分化または増殖を亢進し得る物質として選択する工程、
(12)BTS遺伝子の特定の多型がリンパ球分化または増殖に変化をもたらすか否かを解析する工程を含む、リンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患をもたらすBTS遺伝子多型の同定方法、
(13)生体試料におけるBTS遺伝子の発現量を測定することを含む、リンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の発症リスクの判定方法、
(14)BTS遺伝子の発現量の測定用試薬を含む、リンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の発症リスクの診断薬、
(15)BTSポリペプチドのN末端細胞内領域のアミノ酸配列、またはその部分配列からなるポリペプチド、または該ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列からなる核酸。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリンパ球分化または増殖調節剤は、BTS遺伝子の発現を調節し、新たなメカニズムのリンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患予防・治療剤などとして有用である。また、本発明のスクリーニング方法を用いれば、新たなメカニズムでリンパ球分化または増殖を調節し得る物質を得ることができるので、リンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患予防・治療剤等の医薬品の開発や免疫学の研究などに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
BTS(B cell-specific tetra-spanning molecule)とは、B細胞に特異的に発現している4回膜貫通分子であり、そのアミノ酸配列、核酸配列は公知である。BTSは既知のモチーフを有さないが、後述の実施例から明らかなように、BTSを過剰発現させた未熟B細胞等において分化および増殖が著しく阻害されたこと等から、BTSがB細胞の分化または増殖を制御し得る分子であること等に基づき、以下に記載された発明が提供される。
【0012】
(1.リンパ球分化または増殖調節剤)
本発明はBTS遺伝子の発現を調節する物質を含有してなる、リンパ球分化または増殖調節剤を提供する。
【0013】
BTS遺伝子の発現とは、BTS遺伝子からの翻訳産物(即ち、ポリペプチド)が産生され且つ機能的な状態でその作用部位に局在することをいう。
【0014】
本発明において、分化または増殖調節の対象となるリンパ球としては、B細胞、T細胞、NKT細胞、またはリンパ球系前駆細胞等が挙げられ、例えば、B細胞、リンパ球系前駆細胞が好ましい。B細胞としては、例えば、pro-B細胞、pre-B細胞、未熟(immature)B細胞、成熟(mature)B細胞、GC(germinal center)B細胞、メモリーB細胞、形質(plasma)細胞等が挙げられる。
【0015】
一実施態様では、BTS遺伝子の発現を調節する物質は、BTS遺伝子の発現を促進する物質であり得る。
【0016】
BTS遺伝子の発現を促進する物質は、BTS遺伝子の転写、転写後調節、翻訳、翻訳後修飾、局在化及び蛋白質フォールディング等の、いかなる段階で作用するものであってもよい。なお、本明細書で使用される場合、BTS遺伝子の発現の促進としては、BTSポリペプチド自体の補充をも含むものとする。
【0017】
BTS遺伝子の発現を促進する物質としては、例えば以下の(i)、(ii)等を挙げることが出来る。
(i)BTSポリペプチド若しくはその塩;
(ii)BTSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する核酸。
【0018】
本発明において、BTSポリペプチドとしては、任意の哺乳動物のBTSポリペプチドを用いることが出来る。
【0019】
哺乳動物としては、ヒト及びヒトを除く哺乳動物を挙げることが出来る。ヒトを除く哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、サル、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類を挙げることが出来る。
【0020】
哺乳動物のBTSポリペプチドとしては野生型のポリペプチドが好ましく、例えばヒト野生型BTSポリペプチド(例えば、配列番号2(GenBankアクセッション番号:AAH32672)で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド)、マウス野生型BTSポリペプチド(例えば配列番号4(GenBankアクセッション番号:AAH21548)で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド)等が挙げられる。また、野生型BTSポリペプチドと実質的に同一のアミノ酸配列からなるポリペプチドも本発明の範囲内である。「実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質」としては、野生型BTSポリペプチドのアミノ酸配列と約90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは約98%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、野生型BTSポリペプチドと実質的に同質の活性を有するポリペプチドなどが挙げられる。ここで「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換はポリペプチドの表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science, 247: 1306-1310 (1990)を参照)。
【0021】
アミノ酸配列の相同性を決定するためのアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLASTおよびXBLASTプログラム(version 2.0)に組み込まれている(Altschulら, Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402 (1997))]、Needlemanら, J. Mol. Biol., 48: 444-453 (1970)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、MyersおよびMiller, CABIOS, 4: 11-17 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version 2.0)に組み込まれている]、Pearsonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられるが、それらに限定されない。
【0022】
「実質的に同質の活性」とは、例えば、BTSポリペプチドの機能(活性)が性質的に野生型BTSポリペプチドと同質であることを示す。したがって、BTSポリペプチドの機能(活性)が野生型BTSポリペプチドと同等(例えば、約0.5〜約2倍)であることが好ましいが、活性の程度や蛋白質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。ここにいうBTSポリペプチドの機能(活性)としては、後述の実施例において、BTSポリペプチド強制発現B細胞では増殖阻害が見られたことより、リンパ球の分化および増殖抑制等が挙げられる。該機能の測定は、例えば、B細胞にBTSポリペプチドを強制発現させ、該細胞の分化または増殖の抑制の程度を測定することにより行うことができる。
【0023】
また、本発明においてBTSポリペプチドは、野生型BTSポリペプチドのアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含み、野生型BTSポリペプチドと実質的に同質の活性を有するポリペプチドをも含む。該ポリペプチドとしては、野生型BTSポリペプチドのアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列に、更に1または2個以上(例えば1〜500個、好ましくは1〜250個程度、より好ましくは1〜100個程度)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列からなり、野生型BTSと実質的に同質の活性を有するポリペプチドが挙げられる。付加されるアミノ酸配列は特に限定されないが、例えばポリペプチドの検出や精製等を容易にならしめるためのタグや、ポリペプチドの細胞内への導入を容易にならしめるためのProtein Transduction Domain(PTD)等のアミノ酸配列を挙げることが出来る。より具体的には、タグとしては、Flagタグ、ヒスチジンタグ、c-Mycタグ、HAタグ、AU1タグ、GSTタグ、MBPタグ、蛍光タンパク質タグ(例えばGFP、YFP、RFP、CFP、BFP等)、イムノグロブリンFcタグ等を挙げることが出来る。また、PTDとしては、ANTENNAPEDIA、HIV/TAT、HSV/VP-22等の細胞通過ドメイン、7〜11個のポリアルギニン等を挙げることが出来る。アミノ酸が付加される位置は、当該ポリペプチドの活性を損なわない限り特に限定されないが、好ましくは、野生型BTSポリペプチドのアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列の末端(N末端又はC末端)である。
【0024】
BTSポリペプチドは修飾されていてもよい。該修飾としては、リン酸化(セリン残基、スレオニン残基、チロシン残基等におけるリン酸化)、アセチル化、糖鎖の付加(Nグリコシル化、Oグリコシル化)等を挙げることが出来る。
【0025】
BTSポリペプチドの塩としては、生理学的に許容される酸(例:無機酸、有機酸)や塩基(例:アルカリ金属塩)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが挙げられる。
【0026】
BTSポリペプチド又はその塩は、該BTSポリペプチドを発現する哺乳動物の細胞又は組織から自体公知のタンパク質の精製方法によって調製することができる。BTSポリペプチドを発現する細胞としては、T細胞、B細胞、NK細胞等のリンパ球(リンパ球由来の細胞株(WEHI231、CH31等)を含む)等を挙げることが出来るが、特に限定されない。具体的には、該哺乳動物の細胞又は組織をホモジナイズした後、酸などで抽出を行い、該抽出液を逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーを組み合わせることにより精製単離することができる。
【0027】
BTSポリペプチド又はその塩は、公知のペプチド合成法に従って製造することもできる。ペプチド合成法は、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。BTSポリペプチドを構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合し、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的とするポリペプチドを製造することができる。
【0028】
BTSポリペプチド又はその塩は、該ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する核酸を含有する発現ベクターが導入された形質転換体を培養してBTSポリペプチドを生成せしめ、得られる培養物から該ポリペプチドを分離・精製することによって製造することもできる。BTSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列としては、BTSポリペプチドをコードするcDNA、mRNA、染色体DNAのヌクレオチド配列が含まれ、より具体的には、例えばヒト野生型BTSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列(例えば配列番号1(GenBankアクセッション番号:BC032672))、マウス野生型BTSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列(例えば配列番号3(GenBankアクセッション番号:BC021548))等を挙げることが出来る。BTSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する核酸は、DNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNA又はDNA:RNAのハイブリッドでもよい。BTSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する核酸は、該ヌクレオチド配列の一部分を有する合成プライマーと、該ヌクレオチド配列を有する染色体DNA、mRNA、cDNA等を含む鋳型を用い、Polymerase Chain Reaction(以下、「PCR法」と略称する)又はReverse Transcriptase-PCR(以下、「RT-PCR法」と略称する)により増幅することにより得ることが出来る。
【0029】
BTSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する核酸を含有する発現ベクターは、クローン化された該核酸を、適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に機能的に連結することにより製造することができる。発現ベクターとしては、用いる宿主に応じて適切なベクター(プラスミドベクター、ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、バキュロウイルスベクター等)を選択することが出来る。また、プロモーターも、用いる宿主に対応して、適切なものを選択することが出来る。
【0030】
宿主としては、例えば、エシェリヒア属菌(エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等)、バチルス属菌(バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)等)、酵母(サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等)、昆虫細胞(夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)等)、昆虫(カイコの幼虫等)、哺乳動物細胞(サル細胞(COS-7等)、チャイニーズハムスター細胞(CHO細胞等)等)などが用いられる。
【0031】
BTSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する核酸を含有する発現ベクターを、自体公知の方法に従って宿主へ導入することにより、BTSポリペプチドを発現可能な形質転換体を製造することが出来る。
【0032】
形質転換体の培養は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができ、形質転換体の細胞内又は細胞外にBTSポリペプチドを生成させることができる。更に、前記形質転換体を培養して得られる培養物から、BTSポリペプチドを自体公知の方法に従って分離精製することができる。
【0033】
BTS遺伝子の発現又は機能を促進する物質としてBTSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する核酸を用いる場合、該核酸としては上述と同様のものを用いることが出来る。
【0034】
BTSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する核酸は、適切な発現ベクターに含まれた態様で用いられることが好ましい。即ち、該核酸は適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に機能的に連結され得る。
【0035】
また、リンパ球分化または増殖を効果的に調節するため、該発現ベクターは適用対象である哺乳動物の細胞(リンパ球等)内で機能可能なものが用いられる。該発現ベクターとしては、プラスミドベクター、ウイルスベクター等が挙げられるが、ヒト等の哺乳動物のリンパ球への適用に好適なベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、エプスタイン・バー・ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
【0036】
使用されるプロモーターとしては、適用対象である哺乳動物の細胞(リンパ球等)内でプロモーター活性を発揮し得る限り特に限定されず、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター;β−アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーター;CD19プロモーター等のB細胞特異的プロモーター等が挙げられる。
【0037】
該発現ベクターは、好ましくはBTSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子、蛍光タンパク質をコードする遺伝子等)をさらに含有することもできる。
【0038】
一実施態様では、BTS遺伝子の発現を調節する物質は、BTS遺伝子の発現を抑制する物質であり得る。BTS遺伝子の発現を抑制する物質は、BTS遺伝子の転写、転写後調節、翻訳、翻訳後修飾、局在化及び蛋白質フォールディング等の、いかなる段階で作用するものであってもよい。
【0039】
BTS遺伝子の発現を抑制する物質としては、例えばBTSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又はその一部を有する核酸等を挙げることが出来る。
【0040】
目的核酸の標的領域と相補的なヌクレオチド配列を有する核酸、即ち、目的核酸とハイブリダイズすることができる核酸は、該目的核酸に対して「アンチセンス」であるということができる。ここで「相補的である」とは、ヌクレオチド配列間で約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、更に好ましくは約95%以上、最も好ましくは100%の相補性を有することをいう。
【0041】
BTSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又はその一部を有する核酸(以下、「アンチセンスBTS」ともいう)は、クローン化された、あるいは決定されたBTSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列情報に基づき設計し、合成しうる。そうした核酸は、BTS遺伝子の複製または発現を阻害することができる。即ち、アンチセンスBTSは、BTSポリペプチドをコードする遺伝子から転写されるRNAとハイブリダイズすることができ、mRNAの合成(プロセッシング)または機能(タンパク質への翻訳)を阻害することができる。
【0042】
アンチセンスBTSの標的領域は、アンチセンス核酸がハイブリダイズすることにより、結果としてBTSポリペプチドへの翻訳が阻害されるものであればその長さに特に制限はなく、該ポリペプチドをコードするmRNAまたは初期転写産物の全配列であっても部分配列であってもよく、短いもので約15塩基程度、長いものでmRNAまたは初期転写産物の全配列が挙げられる。合成の容易さや抗原性の問題を考慮すれば、約15〜約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが好ましいがそれに限定されない。具体的には、例えば、BTSをコードする核酸(例えばmRNA又は初期転写産物)の5’端ヘアピンループ、5’端6−ベースペア・リピート、5’端非翻訳領域、翻訳開始コドン、タンパク質コード領域、翻訳終止コドン、3’端非翻訳領域、3’端パリンドローム領域、および3’端ヘアピンループが標的領域として選択されうるが、BTSをコードする遺伝子内の如何なる領域も標的として選択しうる。例えば、BTS遺伝子のイントロン部分を標的領域とすることもまた好ましい。
【0043】
さらに、アンチセンスBTSは、BTSポリペプチドをコードするmRNAもしくは初期転写産物とハイブリダイズしてポリペプチドへの翻訳を阻害するだけでなく、BTSポリペプチドをコードする二本鎖DNAと結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、RNAの転写を阻害し得るものであってもよい。
【0044】
アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。また、天然型のアンチセンス核酸は、細胞中に存在する核酸分解酵素によってそのリン酸ジエステル結合が容易に分解されるので、アンチセンス核酸は、分解酵素に安定なチオリン酸型(リン酸結合のP=OをP=Sに置換)や2’-O-メチル型等の修飾ヌクレオチドを用いて合成もできる。アンチセンス核酸の設計に重要な他の要素として、水溶性及び細胞膜透過性を高めること等が挙げられるが、これらはリポソームやマイクロスフェアを使用するなどの剤形の工夫によっても克服できる。
【0045】
BTSをコードするmRNAもしくは初期転写産物を、コード領域の内部(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)で特異的に切断し得るリボザイムもまた、アンチセンスBTSに包含され得る。「リボザイム」とは核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、最近では当該酵素活性部位のヌクレオチド配列を有するオリゴDNAも同様に核酸切断活性を有することが明らかになっているので、本明細書では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いるものとする。リボザイムとして最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーヘッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。さらに、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、転写産物の細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res., 29(13): 2780-2788 (2001)]。
【0046】
BTSをコードするmRNAもしくは初期転写産物のコード領域内の部分配列(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)に相補的なヌクレオチド配列を有する二本鎖オリゴRNA(siRNA)もまた、アンチセンスBTSに包含され得る。短い二本鎖RNAを細胞内に導入するとそのRNAの一方の鎖に相補的なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、この現象が哺乳動物細胞でも起こることが確認されて以来[Nature, 411(6836): 494-498 (2001)]、リボザイムの代替技術として広く利用されている。siRNAの大きさは、RNAiを誘導し得る限り特に限定されないが、例えば、15bp以上、好ましくは20bp以上であり得る。RNAi活性を有するsiRNAは、センス鎖及びアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中で、例えば、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製することができる。
【0047】
上述のBTSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又はその一部を有する核酸を発現し得る発現ベクターも、BTS遺伝子の発現を抑制する物質として好ましい。該発現ベクターは、適用対象である哺乳動物の細胞(リンパ球等)内で機能可能な発現ベクターであることが好ましく、該ベクター中の適切なプロモーター(例えば適用対象である哺乳動物の細胞(リンパ球等)内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーター)の下流に、BTSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又はその一部を有する核酸が機能的に連結された態様で提供され得る。
【0048】
本発明の剤は、BTS遺伝子の発現を調節する物質に加え、任意の担体、例えば医薬上許容され得る担体を含むことができる。
【0049】
医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0050】
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水のような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤または錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である。
【0051】
非経口的な投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0052】
BTS遺伝子の発現を調節する物質が核酸である場合、該核酸の細胞内への導入を促進するために、本発明の剤は更に核酸導入用試薬を含むことができる。該核酸がウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターに組み込まれている場合には、遺伝子導入試薬としてはレトロネクチン、ファイブロネクチン、ポリブレン等を用いることができる。また、該核酸がプラスミドベクターに組み込まれている場合は、リポフェクチン、リプフェクタミン(lipfectamine)、DOGS(トランスフェクタム;ジオクトアデシルアミドグリシルスペルミン)、DOPE(1,2-ジオールエオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン)、DOTAP(1,2-ジオールエオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン)、DDAB(ジメチルジオクトアデシルアンモニウム臭化物)、DHDEAB(N,N-ジ-n-ヘキサアデシル-N,N-ジヒドロキシエチルアンモニウム臭化物)、HDEAB(N-n-ヘキサアデシル-N,N-ジヒドロキシエチルアンモニウム臭化物)、ポリブレン、あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)等の陽イオン性脂質を用いることが出来る。
【0053】
また、BTS遺伝子の発現を調節する物質がポリペプチドである場合、該ポリペプチドの細胞内への導入効率を高めるために、本発明の剤は更にポリペプチド導入用試薬を含むことができる。該試薬としては、プロフェクト(ナカライテスク社製)、プロベクチン(IMGENEX社製)等を用いることが出来る。
【0054】
本発明の剤の適用量は、有効成分の活性や種類、病気の重篤度、適用対象となる動物種、適用対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.0001〜約5000mg/kgである。
【0055】
本発明の剤は、例えば、医薬または研究用試薬として有用である。例えば、本発明の剤が医薬である場合、リンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の予防・治療剤として使用され得る。
【0056】
詳細には、本発明の医薬が、BTS遺伝子の発現を亢進する物質を含有する場合、該物質は、リンパ球分化または増殖を低下し得るので、例えば、リンパ球分化または増殖の亢進に伴う疾患の予防・治療に使用され得る。リンパ球分化または増殖の亢進に伴う疾患としては、例えば、リンパ腫(B細胞リンパ腫等)、白血病(B細胞性等)、自己免疫疾患(慢性関節リウマチ・多発性硬化症・多発性筋炎・重症筋無力症・ギランバレー症候群等)、膠原病(橋本病・全身性エリテマトーデス等)、自己免疫性糸球体腎炎等が挙げられる。
【0057】
また、本発明の医薬が、BTS遺伝子の発現を抑制する物質を含有する場合、該物質は、リンパ球分化または増殖を亢進し得るので、例えば、リンパ球分化または増殖の低下に伴う疾患の予防・治療に使用され得る。リンパ球分化または増殖の低下に伴う疾患としては、例えば、悪性腫瘍、心不全、尿毒症、免疫不全症候群(エイズ等)、多くの感染症(難治性感染症等)等が挙げられる。
【0058】
さらに、本発明の剤が研究用試薬である場合、例えば、実験動物におけるリンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の誘発剤として使用され得る。詳細には、本発明の研究用試薬が、BTS遺伝子の発現を促進する物質を含有する場合、例えば、リンパ球分化または増殖の亢進に伴う疾患の誘発に使用され得る。本発明の研究用試薬が、BTS遺伝子の発現を抑制する物質を含有する場合、例えば、リンパ球分化または増殖の低下に伴う疾患の誘発に使用され得る。リンパ球分化または増殖の亢進に伴う疾患及びリンパ球分化または増殖の低下に伴う疾患は、それぞれ上述と同様である。
【0059】
(2.リンパ球分化または増殖を調節し得る物質のスクリーニング方法)
上述のように、BTS遺伝子の発現を調節し得る物質は、リンパ球分化または増殖を調節し得る。従って、本発明は、被験物質がBTS遺伝子の発現を調節し得るか否かを評価することを含む、リンパ球分化または増殖を調節し得る物質のスクリーニング方法、当該スクリーニング方法により得られる物質、及び当該物質を含有してなるリンパ球分化または増殖調節剤を提供する。
【0060】
スクリーニング方法に供される被験物質は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
【0061】
一実施形態では、本発明のスクリーニング方法は、以下の工程(a)〜(c)を含む:
(a)被験物質がBTS遺伝子の発現を調節(促進又は抑制)し得るかを評価する工程;
(b)BTS遺伝子の発現を調節(促進又は抑制)し得る物質を選択する工程;
(c)BTS遺伝子の発現を促進し得る物質を、リンパ球分化または増殖を低下し得る物質として得、或いはBTS遺伝子の発現を抑制し得る物質を、リンパ球分化または増殖を亢進し得る物質として得る工程。
【0062】
上記において、BTS遺伝子の発現を調節し得る物質を選択する場合、例えば工程(a)において、被験物質とBTS遺伝子の発現を測定可能な細胞とを接触させ、被験物質を接触させた細胞におけるBTS遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるBTS遺伝子の発現量と比較する。
BTS遺伝子の発現を測定可能な細胞とは、BTS遺伝子の産物、例えば、転写産物、翻訳産物の発現レベルを直接的又は間接的に評価可能な細胞をいう。BTS遺伝子の産物の発現レベルを直接的に評価可能な細胞は、BTS遺伝子を天然で発現可能な細胞であり得、一方、BTS遺伝子の産物の発現レベルを間接的に評価可能な細胞は、BTS遺伝子転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞であり得る。BTS遺伝子の発現を測定可能な細胞は、動物細胞、好ましくは上述の哺乳動物の細胞であり得る。
【0063】
BTS遺伝子を天然で発現可能な細胞は、BTS遺伝子を潜在的に発現するものである限り特に限定されない。かかる細胞は、当業者であれば容易に同定でき、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株などを使用できる。BTS遺伝子を天然で発現可能な細胞としては、T細胞、B細胞、NK細胞等のリンパ球(リンパ球由来の細胞株(WEHI231、CH31等)を含む)等を挙げることが出来るが、特に限定されない。
【0064】
BTS遺伝子転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、BTS遺伝子転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子を含む細胞である。BTS遺伝子転写調節領域、レポーター遺伝子は、発現ベクター中に挿入され得る。BTS遺伝子転写調節領域は、BTS遺伝子の発現を制御し得る領域である限り特に限定されないが、例えば、転写開始点から上流約2kbpまでの領域、あるいは該領域の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つBTS遺伝子の転写を制御する能力を有する領域などが挙げられる。レポーター遺伝子は、検出可能な蛋白質又は検出可能な物質を生成する酵素をコードする遺伝子であればよく、例えばGFP(緑色蛍光蛋白質)遺伝子、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、LUC(ルシフェラーゼ)遺伝子、CAT(クロラムフェニコルアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子等が挙げられる。
【0065】
BTS遺伝子転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子が導入される細胞は、BTS遺伝子転写調節機能を評価できる限り、即ち、該レポーター遺伝子の発現量が定量的に解析可能である限り特に限定されない。しかしながら、BTS遺伝子に対する生理的な転写調節因子を発現し、BTS遺伝子の発現調節の評価により適切であると考えられることから、該導入される細胞としては、BTS遺伝子を天然で発現可能な細胞が好ましい。また、リンパ球分化または増殖を調節し得る物質を得るという目的より、リンパ球(リンパ球由来の細胞株(WEHI231、CH31等)を含む)を用いることがより好ましい。
【0066】
BTS遺伝子の発現を測定可能な細胞に対する被験物質の接触は、適切な培養培地中で行われ得る。当該培養培地は、用いられる細胞の種類などに応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件もまた、用いられる細胞の種類などに応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
【0067】
次に先ず、被験物質を接触させた細胞におけるBTS遺伝子の発現量が測定される。発現量の測定は、用いた細胞の種類などを考慮し、自体公知の方法により行われ得る。例えば、BTS遺伝子の発現を測定可能な細胞として、BTS遺伝子を天然で発現可能な細胞を用いた場合、発現量は、BTS遺伝子の産物、例えば、転写産物(mRNA)又は翻訳産物(ポリペプチド)を対象として自体公知の方法により測定できる。例えば、転写産物の発現量は、細胞からtotal RNAを調製し、RT-PCR、ノザンブロッティング等により測定され得る。また、翻訳産物の発現量は、細胞から抽出液を調製し、免疫学的手法により測定され得る。免疫学的手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、蛍光抗体法、ウェスタンブロッティング法などが使用できる。一方、BTS遺伝子の発現を測定可能な細胞として、BTS遺伝子転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞を用いた場合、発現量は、レポーターのシグナル強度に基づき測定され得る。
【0068】
次いで、被験物質を接触させた細胞におけるBTS遺伝子の発現量が、被験物質を接触させない対照細胞におけるBTS遺伝子の発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質を接触させない対照細胞におけるBTS遺伝子の発現量は、被験物質を接触させた細胞におけるBTS遺伝子の発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
【0069】
上記方法の工程(b)では、(a)の結果に基づき、BTS遺伝子の発現を調節(促進又は抑制)し得る被験物質が選択される。
【0070】
工程(c)では、工程(b)で選択されたBTS遺伝子の発現を促進し得る物質がリンパ球分化または増殖を低下し得る物質として、或いはBTS遺伝子の発現を抑制し得る物質がリンパ球分化または増殖を亢進し得る物質として獲得される。
【0071】
更に工程(b)と(c)の間に、工程(b´)として工程(b)で選択された物質がリンパ球分化または増殖を調節し得るか確認し、該効果が確認された物質を工程(c)においてリンパ球分化または増殖を調節し得る物質として得ることも出来る。これにより、より高い効率で目的とする物質を獲得することが出来る。
【0072】
工程(b´)においては、例えば、工程(b)で選択された物質(候補物質)とリンパ球(リンパ球由来の細胞株を含む)とを接触させ、候補物質を接触させたリンパ球における分化または増殖を測定し、該機能を候補物質を接触させない対照リンパ球における分化または増殖と比較する。
【0073】
リンパ球に対する候補物質の接触は、上述と同様に適切な培養培地(例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地)中で行われ得る。培養条件は、限定されないが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約1分間〜約72時間である。このとき、リンパ球は抗原や抗原ミミックにより適宜刺激され得る。
【0074】
リンパ球分化または増殖の測定は、自体公知の方法により行うことが可能である。例えば、リンパ球分化(例えばリンパ球前駆細胞の成熟リンパ球への分化)は、後述の実施例のような骨髄キメラ動物の解析や、細胞表面または細胞質分子の発現・消失等の測定(例えば抗IgD抗体を用いた染色等)等により、リンパ球増殖はH−サイミジンの取り込み等により、遺伝子発現の変化はRT-PCRやフローサイトメトリー等により、それぞれ測定することが出来る。
【0075】
次いで、候補物質を接触させたリンパ球における分化または増殖が、候補物質を接触させない対照リンパ球における分化または増殖と比較される。リンパ球分化または増殖の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。候補物質を接触させない対照リンパ球における分化または増殖は、候補物質を接触させたリンパ球における分化または増殖の測定に対し、事前に測定したものであっても、同時に測定したものであってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定したものであることが好ましい。比較結果に基づき、候補物質によるリンパ球分化または増殖の調節作用が確認される。
【0076】
本発明のスクリーニング方法はまた、被験物質の動物への投与により行われ得る。該動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サル等の哺乳動物が挙げられる。動物を用いて本発明のスクリーニング方法が行われる場合、例えば、BTS遺伝子の発現量を調節する被験物質が選択され得る。
【0077】
BTS遺伝子の発現を促進し得る物質はリンパ球分化または増殖を低下し得るので、リンパ球分化または増殖の亢進に伴う疾患の予防・治療薬となり得る。また、BTS遺伝子の発現を抑制し得る物質はリンパ球分化または増殖を亢進し得るので、リンパ球分化または増殖の低下に伴う疾患の予防・治療薬となり得る。従って、BTS遺伝子の発現を指標として、種々の免疫疾患の予防・治療剤等の医薬、又は研究用試薬のための候補物質を選択することが可能となる。
【0078】
(3.リンパ球分化または増殖の異常をもたらすBTS遺伝子多型の同定方法)
本発明はまた、BTS遺伝子の特定の多型がリンパ球分化または増殖の異常をもたらすか否かを解析する工程を含む、リンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患をもたらすBTS遺伝子多型の同定方法、当該方法により同定されるリンパ球分化または増殖の異常をもたらすBTS遺伝子多型を含むポリペプチド・核酸分子を提供する。
【0079】
BTS遺伝子の多型とは、ある母集団において、BTS遺伝子を含むゲノムDNAに一定頻度で見出されるヌクレオチド配列の変異を意味し、BTS遺伝子を含むゲノムDNAにおける1以上のDNAの置換、欠失、付加(例えば、SNP、ハプロタイプ)、並びに該ゲノムDNA中の部分領域の反復、逆位、転座などであり得る。本発明の方法により同定されるBTS遺伝子の多型のタイプは、BTS遺伝子における全てのタイプの多型のうち、リンパ球分化または増殖に異常(亢進又は低下)を有する動物と異常を有していない動物との間で頻度が異なるヌクレオチド配列の変異、又はリンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患に罹患した動物と罹患していない動物との間で頻度が異なるヌクレオチド配列の変異であり、例えば、BTS遺伝子の発現の変化をもたらすものであり得る。なお、BTS遺伝子多型の解析対象となる動物は上述の哺乳動物が好ましく、ヒトがより好ましい。
【0080】
解析工程は、連鎖解析等の自体公知の方法により行われ得る。リンパ球分化または増殖の異常、又はリンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の有無により特定の遺伝子多型の保有頻度に有意差が認められたとき、そのタイプの遺伝子多型を保有する対象は、保有しない対象よりもリンパ球分化または増殖に異常を有するリスク、又はリンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の発症リスクが相対的に高い又は低いと判定される。
【0081】
本発明の同定方法は、哺乳動物由来の生体試料から調製されたDNAサンプルをシークエンシング (sequencing) に供し、BTS多型の新たなタイプを決定する工程をさらに含むこともできる。生体試料は、BTS遺伝子の発現組織又は細胞(例えば、リンパ球)を含む試料(例えば、血液)のみならず、毛髪、爪、皮膚、粘膜等のゲノムDNAを含む任意の組織も使用できる。入手の容易性、人体への負担等を考慮すれば、生体試料は、毛髪、爪、皮膚、粘膜、血液、血漿、血清、唾液などが好ましい。遺伝子多型の決定は、由来が異なる生体試料に含まれるゲノム又は転写産物のヌクレオチド配列を多数解析し、決定されたヌクレオチド配列中に一定頻度で見出される変異を同定することで行われ得る。
【0082】
更に、見出された変異が実際にBTS遺伝子の発現に変化をもたらし得るか、確認してもよい。例えば、該変異を有するBTS遺伝子を、BTS遺伝子の機能的欠損を有するリンパ球(又はその細胞株)へ導入し、該リンパ球における該BTS遺伝子の発現を、該変異を有さないBTS遺伝子(野生型BTS遺伝子等)の発現と比較することが出来る。或いは該変異を有するBTS遺伝子が導入されたリンパ球における分化または増殖を、該変異を有さないBTS遺伝子が導入されたリンパ球におけるものと比較してもよい。BTS遺伝子の発現、リンパ球分化または増殖の測定は、上述と同様に行うことが出来る。
【0083】
見出されたBTS遺伝子の変異がリンパ球分化または増殖の低下をもたらすものである場合、該変異はリンパ球分化または増殖の低下に伴う疾患をもたらし得るものであるとすることができる。また、見出されたBTS遺伝子の変異がリンパ球分化または増殖の亢進をもたらすものである場合、該変異はリンパ球分化または増殖の亢進に伴う疾患をもたらし得るものであるとすることが出来る。
【0084】
本発明の同定方法および当該方法により決定されたリンパ球分化または増殖の異常をもたらすBTS遺伝子多型は、リンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の発症リスクの判定に有用である。
【0085】
(4.リンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の発症または発症リスクの判定方法)
(4−1.発現量の測定に基づく判定方法および診断薬)
上述の様に、BTSポリペプチドはリンパ球分化または増殖を調節している。従って、本発明は、動物由来の生体試料におけるBTS遺伝子の発現量を測定することを含む、リンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の発症リスクの判定方法を提供する。
【0086】
一実施形態では、本発明の判定方法は、以下の工程(a)、(b)を含む:
(a)動物由来の生体試料におけるBTS遺伝子の発現量を測定する工程;
(b)BTS遺伝子の発現量に基づきリンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の発症リスクを評価する工程。
【0087】
上記方法の工程(a)では、生体試料におけるBTS遺伝子の発現量が測定される。生体試料はリンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の発症リスクを評価することが所望される動物、好ましくは哺乳動物由来である。ヒト由来の試料が最も好ましい。生体試料は、BTS遺伝子を発現している組織又は細胞(例えば、リンパ球)を含む試料(例えば、血液)、あるいは該試料から分離された細胞であり得るが、リンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の発症リスクを判定する目的より、生体試料は、リンパ球またはそれを含む試料が好ましい。また、BTS遺伝子の発現量の測定は、上述と同様に行われ得る。
【0088】
上記方法の工程(b)では、BTS遺伝子の発現量に基づき、生体試料が由来する動物がリンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患に罹患しているか否か、あるいは将来的に罹患する可能性が高いか低いかが評価される。
【0089】
詳細には、先ず、測定されたBTS遺伝子の発現量が、リンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患に罹患していない動物(例えば、正常動物)由来の生体試料におけるBTS遺伝子の発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行われる。
【0090】
次いで、BTS遺伝子の発現量の比較結果より、生体試料が由来する動物がリンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患に罹患している可能性があるか否か、あるいは将来的に罹患する可能性が高いか低いかが判断される。特定の疾患を発症した動物では、当該疾患に関連する遺伝子の発現の変化がしばしば観察されることが知られている。また、特定の疾患の発症前に、特定の遺伝子の発現の変化がしばしば観察されることが知られている。従って、BTS遺伝子の発現が低下している場合には、リンパ球分化または増殖の低下に伴う疾患に罹患している可能性、又は将来的に罹患する可能性が相対的に高いと考えられる。また、本明細書中に開示された知見より、BTS遺伝子の発現が促進している場合には、リンパ球分化または増殖の低下に伴う疾患に罹患している可能性、又は将来的に罹患する可能性が相対的に高いと考えられる。
【0091】
本発明はまた、BTS遺伝子の発現量の測定用試薬を含む、リンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の発症リスクの診断薬を提供する。本発明の診断薬を用いれば、上記判定方法により、リンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の発症リスクを容易に判定することが出来る。
【0092】
BTS遺伝子の発現量の測定用試薬は、BTS遺伝子の発現を定量可能である限り特に限定されないが、例えば、BTSポリペプチドを特異的に認識する抗体、BTS遺伝子転写産物に対する核酸プローブ、またはBTS遺伝子転写産物を増幅可能な複数のプライマーを含むものであり得る。これらは、標識用物質で標識されていても標識されていなくともよい。標識用物質で標識されていない場合、本発明の診断薬は、該標識用物質をさらに含むこともできる。標識用物質としては、例えば、FITC、FAM等の蛍光物質、ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン等の発光物質、3H、14C、32P、35S、125I等の放射性同位体、ビオチン、ストレプトアビジン等の親和性物質などが挙げられる。
【0093】
BTS遺伝子転写産物に対する核酸プローブは、DNA、RNAのいずれでもよいが、安定性等を考慮するとDNAが好ましい。また、該プローブは、1本鎖又は2本鎖のいずれであってもよい。該プローブのサイズは、BTS遺伝子の転写産物を検出可能である限り特に限定されないが、好ましくは約15〜1000bp、より好ましくは約50〜500bpである。該プローブは、マイクロアレイのように基板上に固定された形態で提供されてもよい。
【0094】
BTS遺伝子を増幅可能な複数のプライマー(例えば、プライマー対)は、検出可能なサイズのヌクレオチド断片が増幅されるように選択される。検出可能なサイズのヌクレオチド断片は、例えば約100bp以上、好ましくは約200bp以上、より好ましくは約400bp以上の長さを有し得る。プライマーのサイズは、BTS遺伝子を増幅可能な限り特に限定されないが、好ましくは約15〜100bp、より好ましくは約18〜50bp、さらにより好ましくは約20〜30bpであり得る。BTS遺伝子転写産物を定量可能な試薬がプライマーである場合、本発明の診断薬は、逆転写酵素をさらに含むことができる。
【0095】
本発明の上記判定方法及び診断薬は、リンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の有無、あるいは該疾患に罹患する可能性の判定を可能とする。従って、本発明は、例えば、リンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の容易且つ早期の発見などに有用である。
【0096】
(4−2.多型の測定に基づく判定方法および診断薬)
本発明は、動物の生体試料を用いてBTS遺伝子の多型を測定することを含む、動物におけるリンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の発症リスクの判定方法を提供する。
【0097】
一実施形態では、本発明の判定方法は、以下の工程(a)、(b)を含む:
(a)動物から採取した生体試料においてBTS遺伝子の多型を測定する工程;
(b)多型のタイプに基づきリンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の発症可能性を評価する工程。
【0098】
上記方法の工程(a)では、動物から採取された生体試料においてBTS遺伝子の多型のタイプが測定される。動物としては、上述の哺乳動物が好ましく、ヒトが特に好ましい。生体試料は、本発明の多型の同定方法で使用し得るものと同様である。
【0099】
多型のタイプの測定は、自体公知の方法により行われ得る。例えば、RFLP(制限酵素切断断片長多型)法、PCR-SSCP(一本鎖DNA高次構造多型解析)法、ASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法、ダイレクトシークエンス法、ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法、変性濃度勾配ゲル電気泳動(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis)法、RNAseA切断法、DOL(Dye-labeled Oligonucleotide Ligation)法、TaqMan PCR法、インベーダー法などが使用できる。
【0100】
上記方法の工程(b)では、多型のタイプに基づき、動物がリンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患に罹患する可能性が高いか低いかが評価される。特定の疾患を発症しやすい動物では、当該疾患に関連する遺伝子に特定のタイプの多型をしばしば有することが知られている。従って、BTS遺伝子の機能を低下させるような多型を含む動物は、リンパ球分化または増殖の亢進に伴う疾患を発症する可能性が相対的に高いと考えられる。同様に、BTS遺伝子の機能を促進するような多型を含む動物は、リンパ球分化または増殖の低下に伴う疾患を発症する可能性が相対的に高いと考えられる。従って、BTS遺伝子の多型の解析より、リンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の発症可能性を判断することが可能である。なお、本工程で測定対象となる多型のタイプは、例えば、本発明の同定方法により得られたものであり得る。
【0101】
本発明はまた、BTS遺伝子の多型の測定用試薬を含む、リンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の発症リスクの診断薬を提供する。
【0102】
BTS遺伝子の多型の測定用試薬は、BTS遺伝子の多型を決定可能である限り特に限定されない。該試薬は、標識用物質で標識されていてもよい。また、該試薬が標識用物質で標識されていない場合、本キットは、該標識用物質をさらに含むこともできる。
【0103】
詳細には、BTS遺伝子の多型の測定用試薬は、特定のタイプの多型を有するBTS遺伝子を特異的に測定可能である核酸プローブ、あるいは特定のタイプの多型を有するBTS遺伝子を特異的に増幅可能である複数のプライマーを含むものであり得る。核酸プローブ、プライマーは、BTS遺伝子を含むゲノムDNAまたはBTS遺伝子転写産物に対するものであり得る。核酸プローブ、プライマーは、転写産物またはゲノムDNAの抽出用試薬とともに提供されてもよい。
【0104】
特定のタイプの多型を有するBTS遺伝子を特異的に測定可能である核酸プローブは、特定のタイプの多型を有するBTS遺伝子を選別可能である限り特に限定されない。該プローブはDNA、RNAのいずれでもよいが、安定性等を考慮するとDNAが好ましい。また、該プローブは、1本鎖又は2本鎖のいずれであってもよい。該プローブのサイズは、特定のタイプの多型を有するBTS遺伝子を選別可能とするため短ければ短いほどよく、例えば、約15〜30bpのサイズであり得る。該プローブは、マイクロアレイのように基板上に固定された形態で提供されてもよい。該プローブにより、例えばASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法が可能となる。
【0105】
特定のタイプの多型を有するBTS遺伝子を特異的に増幅可能である複数のプライマー(例えば、プライマー対)は、測定可能なサイズのヌクレオチド断片が増幅されるように選択される。このような複数のプライマーは、例えば、いずれか一方のプライマーの3’末端に多型部位を含むように設計される。測定可能なサイズのヌクレオチド断片は、例えば約100bp以上、好ましくは約200bp以上、より好ましくは約400bp以上の長さを有し得る。プライマーのサイズは、BTS遺伝子を増幅可能な限り特に限定されないが、好ましくは約15〜100bp、より好ましくは約18〜50bp、さらにより好ましくは約20〜30bpであり得る。BTS遺伝子の多型を測定し得る手段がBTS遺伝子転写産物に対するプライマー対である場合、判定キットは、逆転写酵素をさらに含むことができる。
【0106】
また、BTS遺伝子の多型の測定用試薬として、特定のタイプの多型部位を認識する制限酵素を含むものを挙げることもできる。このような試薬によれば、RFLPによる多型解析が可能となる。
【0107】
本発明の上記判定方法及び診断薬は、リンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の発症リスクの判定を可能とする。従って、本発明の判定方法及び診断薬は、リンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の予防を目的とする生活習慣改善の契機などを提供するため有用である。
【0108】
(5.BTSポリペプチドのN末端細胞内領域のアミノ酸配列または部分配列からなるポリペプチドおよび該ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列からなる核酸)
(5−1.BTSポリペプチドのN末端細胞内領域のアミノ酸配列、または部分配列からなるポリペプチド)
後述の実施例から明らかなように、BTSポリペプチドのN末端細胞内領域を欠失させると、BTSによるリンパ球増殖抑制作用が減少することから、BTSポリペプチドのN末端細胞内領域はリンパ球分化または増殖の調節に大きく関与していることが理解される。したがって、本発明はまた、BTSポリペプチドのN末端細胞内領域のアミノ酸配列または部分配列からなるポリペプチドを提供する。
【0109】
BTSポリペプチドのN末端細胞内領域は、例えば、該ポリペプチドの推定アミノ酸配列の疎水性解析等により特定することができる。例えばマウスでは、N末端側から98〜118アミノ酸が膜貫通領域であるため、マウスにおけるBTSポリペプチドのN末端細胞内領域はN末端側から1〜97アミノ酸の領域(配列番号6)であるといえる。また、ヒトでは、N末端側から102〜122アミノ酸が膜貫通領域であるため、ヒトにおけるBTSポリペプチドのN末端細胞内領域はN末端側から1〜101アミノ酸の領域(配列番号8)であるといえる。なお、該ポリペプチドは、上述のBTSポリペプチドと同様の方法にて得ることができる。
【0110】
また、BTSポリペプチドのN末端細胞内領域のアミノ酸配列の部分配列(少なくとも8アミノ酸以上、好ましくは20アミノ酸以上、より好ましくは43アミノ酸以上)からなるポリペプチドは特に制限されないが、後述の実施例において、N末端から53アミノ酸を欠失させたマウスBTSポリペプチドではBTSによる増殖阻害作用に変化がなかったのに対し、N末端から81アミノ酸を欠失させたマウスBTSポリペプチドではBTSによる増殖阻害作用に変化が見られたことより、例えばマウスでは、N末端側から53〜98アミノ酸の領域を含むことが好ましい。
【0111】
BTSポリペプチドのN末端細胞内領域のアミノ酸配列または部分配列からなるポリペプチド等は、以下に示すリンパ球分化および増殖を調節し得る物質のスクリーニング方法に使用することができるので有用である。
【0112】
(5−2.BTSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列からなる核酸)
本発明はまた、BTSポリペプチドのN末端細胞内領域のアミノ酸配列、または部分配列からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列からなる核酸も提供する。該核酸は、DNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNA又はDNA:RNAのハイブリッドでもよい。BTSポリペプチドのN末端細胞内領域のアミノ酸配列、または部分配列からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する核酸は、上述のように、該ヌクレオチド配列の一部分を有する合成プライマーと、該ヌクレオチド配列を有する染色体DNA、mRNA、cDNA等を含む鋳型を用い、Polymerase Chain Reaction(以下、「PCR法」と略称する)又はReverse Transcriptase-PCR(以下、「RT-PCR法」と略称する)により増幅することにより得ることが出来る。なお、該核酸としては、例えば、配列番号5又は配列番号7で表されるヌクレオチド配列等が挙げられる。
【0113】
(6.リンパ球分化および増殖を調節し得る物質のスクリーニング方法)
BTSポリペプチドのN末端細胞内領域は、リンパ球の分化および増殖の調節に大きく関わり得ることから、当該領域に相互作用しうる物質はリンパ球分化および増殖を調節し得る。したがって、本発明はまた、被験物質がBTSポリペプチドのN末端細胞内領域のアミノ酸配列、または部分配列からなるポリペプチドと相互作用し得るか否かを評価することを含む、リンパ球分化および増殖を調節し得る物質のスクリーニング方法を提供する。
【0114】
スクリーニング方法に供される被験物質としては、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
【0115】
本発明のスクリーニング方法は、下記の工程(a)〜(c)を含む:
(a)被験物質をBTSポリペプチドのN末端細胞内領域のアミノ酸配列または部分配列からなるポリペプチドに接触させる工程;
(b)被験物質の該ポリペプチドに対する結合能を測定する工程;
(c)上記(b)の結果に基づいて、BTSポリペプチドのN末端細胞内領域のアミノ酸配列または部分配列からなるポリペプチドに結合能を有する被験物質を選択する工程。
【0116】
上記方法の工程(a)では、被験物質が該ポリペプチドと接触条件下におかれる。被験物質の該ポリペプチドに対する接触は、溶液中での被験物質と該ポリペプチドとの混合により行われ得る。
【0117】
該ポリペプチドは自体公知の方法により調製できる。例えば、上述のBTSポリペプチドと同様の方法にて得ることができる。
【0118】
上記方法の工程(b)では、該ポリペプチドに対する被験物質の結合能が測定される。結合能の測定は、自体公知の方法、例えば、バインディングアッセイ、表面プラズモン共鳴を利用する方法(例えば、Biacore(登録商標)の使用)により行われ得る。
【0119】
また一つの態様として、被験物質はBTSを天然で発現している細胞中で存在する分子(ポリペプチド等)であり得る。この場合、BTSポリペプチドのN末端細胞内領域のアミノ酸配列または部分配列からなるポリペプチドを当該細胞に発現させ、該ポリペプチドを免疫沈降し、該ポリペプチドと共に沈殿する分子を同定することにより、該ペプチドと相互作用し得る分子を得ることができる。
【0120】
上記方法の工程(c)では、該ポリペプチドに結合能を有する被験物質が選択される。BTSポリペプチドのN末端細胞内領域はリンパ球分化または増殖の調節に大きく関与しているので、該ポリペプチドに結合能を有する物質は、リンパ球分化および増殖を調節し得る。また、被験物質がBTSを天然で発現している細胞中で存在する分子(ポリペプチド等)の場合、該ポリペプチドと相互作用する物質は、リンパ球分化および増殖に関与する分子であり得る。
【実施例】
【0121】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はいかなる意味においてもこれらに限定されない。
【0122】
〔1〕実験方法
(マウス)
C57BL/6マウスは日本SLC(静岡、日本)より購入した。
【0123】
(試薬および抗体)
N-Benzyloxycarbonyl-Val-Ala-Asp-(O-Me)fluoromethyl ketone(Z-VAD-FMK)はSigma(St Louis、MO)より購入した。PE結合抗IgM、CD43、CD45.1、CD21、CD4、CD3抗体、APC結合抗CD25、B220、CD3、CD8抗体、ビオチン結合抗IgD、CD23、CD45.1、CD45.2抗体、PerCP結合抗B220抗体、PerCp−Cy5.5結合ストレプトアビジンはBD Pharmingenより購入した。抗IgM F(ab’)はICN(Costa Mesa、CA)より購入した。
【0124】
(全長BTSのクローニング)
全長BTSは、NCBI(National Center for Biotechnology Information)データベースに基づき、脾臓のcDNAからクローン化した。BTSのcDNAは、プライマー(5’プライマー、AAAATGACTTCCCATGACCC:配列番号9;3’プライマー、GCTGCAAGCGTAGGGCGTGGAC:配列番号10)を用いてPCRにより増幅した。
【0125】
(定量的リアルタイムPCR)
定量的リアルタイムPCRはQuantiTectTMSYBRGreen PCR試薬(QIAGEN、UK)とプライマー(5’プライマー、TGGACTTCAGGAGCCGACT:配列番号11;3’プライマー、AACTCTAAGCGGAAGACGAA:配列番号12)とともに、Bio−Rad iCycler(Hercules、CA)を用いて行った。
【0126】
(生化学的解析)
細胞表面ビオチン化、免疫沈降、SDS/PAGEおよびウエスタンブロッティングは既知の方法(Okazakiら、J. Bio. Chem.、vol.275:p35751-35758、(2000))にて行った。使用した抗体は抗Flag M2(Sigma、St Louis、MO)であった。
【0127】
(遺伝子導入)
BTSのcDNAをpMX−IRES−GFP(東京大学T.Kitamura博士提供)にサブクローニングし、Lipofectamine Plus(Invitrogen、Carlsbad、CA)を用いてPhoenix−E細胞に遺伝子導入した。レトロウィルスを介した遺伝子導入は既知の方法(Yokosukaら、J. Exp. Med.、vol.195:p991-1001、(2002))にて行った。
【0128】
(細胞培養)
WEHI231細胞はT.Tsubata博士(東京医科歯科大学)により、70z3、CH31,WEHI279細胞はO-Wang J博士(RIKEN)により提供された。未熟胸腺ダブルネガティブ細胞株SCIDは、Wiest博士(Fox Chase Institute、Philadelphia)により提供された。全ての細胞は10%ウシ胎児血清、2mMグルタミン、100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン、50μM2−メルカプトエタノール含有RPMI1640培地で、37℃、5%COにて培養した。
【0129】
(顕微解析)
細胞はポリ−L−リジン(Sigma、St Louis、MO)コートしたカバースリップ上で培養し、遺伝子導入した。遺伝子導入48時間後、細胞は4%パラフォルムアルデヒドで固定し、PBSで二回洗い、0.3%サポニン(Saponin)で膜透過性化した。その後抗−Flag M2ビオチン(Sigma、St Louis、MO)とストレプトアビジン−PE(BD Pharmingen)で染色した。画像はライカ共焦点顕微鏡にて解析した。
【0130】
(細胞周期とアポトーシスの解析)
細胞周期解析は既知の方法(Hataら、J. Immunol.、vol.173(4):p2453-61、(2004))にて行った。つまり、ろ過の前に細胞を集め、PBSで洗い、0.2%TritonX−100PBS液で、または氷上にて70%エタノールで膜透過性化し、そしてDNAを50μg/mlヨウ化プロピヂウム(PI)、50μg/mlRNase(Roche、Germany)で染色した。細胞周期プロファイルは、FACScaliburとCell Quest ソフトウェア(BD Bioscience、San Jose、CA)を用いて解析した。アポトーシス細胞は、FACScaliburで解析する前に、in situ細胞死同定キット、TMRレッド(Roche、Germany)を用い、terminal deoxynucleotidyltransferase-mediated dUTP nick end labeling(TUNEL)で算定した。
【0131】
(細胞増殖解析)
細胞増殖解析は既知の方法(Kohnoら、Blood、vol.105(5):p2059-65、(2005))にて行った。つまり、1×10細胞を24ウェルプレート(FALCON、Lincoln Park、NJ)で培養し、表示時間にヨウ化プロピヂウムで染色し、生細胞(PIネガティブ細胞)をFACScalibur(BD Bioscience、San Jose、CA)でカウントした。
【0132】
(骨髄(BM)キメラの産出)
Ly5.1C57BL/6マウス(三共、東京、日本)に5−フルオロウラシル(Sigma、St Louis、MO)を腹腔内投与した(150mg/kg)。4日後、BM細胞を抗ScaI MicroBeads(Miltenyi Biotec、Germany)で染色し、続けて磁気細胞分離(MACS、Miltenyi Biotec、Germany)した。細胞は、サイトカイン混合物[20ng/mlマウスIL−3(Peprotech、UK)、100ng/mlマウスSCF(Peprotech、UK)、100ng/mlヒトIL−6]を含む培地で、IRES−GFPの形態でレトロウィルス構成物を含むウィルス上清と10μg/mlポリブレン(polybrene;Sigma、St Louis、MO)と共に3日間培養した。GFP細胞はFACSAria(BD Bioscience、San Jose、CA)で、97%以上の精度で分離した。計6×10GFP細胞を致死的な放射線を浴びたレピシエントLy5.2 C57BL/6マウス(日本チャーリスリバー、横浜、日本)に注入した。マウスはPBC解析し、最終的には移植6週間後に解剖した。
【0133】
〔2〕結果
(B細胞特異的membrane tetra-spanning分子、BTSのクローニング)
本願発明者らは以前、CD8−キメラcDNAライブラリーを用いて、細胞活性を誘発する遺伝子をクローン化する機能的cDNAクローニングシステムを開発した(Ohtsukaら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA.、vol.101:p8126-8131、(2004))。このシステムによりクローン化されたcDNAのひとつは、BTSと命名された(B細胞特異的Tetra-Spanning)(GenBank accession no.BC021548:配列番号1)。全長マウスおよびヒトBTSのcDNAはクローン化され(GenBank accession no.BC009731)、推定アミノ酸配列を図1に示した。マウスおよびヒトBTSはそれぞれ269、274アミノ酸をコード化し、既知のどのようなモチーフも有していない。疎水性解析により、BTSはTM3とTM4の間に明確な細胞外領域を有さない、4つの膜貫通領域を有することが示された。BTSはシグナルペプチドを有さないという事実と共に、BTSは4TM含有分子でN、C両末端が細胞内にある構造を有する。
【0134】
様々なB細胞サブセットと異なる発育段階でのBTS発現を解析した。様々な組織でのBTSの発現は、RT−PCR(図2)とノザンブロット(データ未掲載)で解析した。BTSは主に脾臓で発現しており、他の組織では、あったとしても非常に低レベルで発現していた(図2A)。脾臓では、B細胞は主にBTSを発現していた(図2B)。BTSはpre−B細胞段階以降に発現し、その発現レベルはBMの発達段階に従い上昇した(図2C)。脾臓のサブ集団の中で、濾胞期のB細胞において、新生B細胞や辺縁層B細胞と比べてBTSの高い発現が見られた(図2D)。
【0135】
(BTSの細胞内および細胞表面局在)
BTSの局在性を検証するために、BTS−GFP融合タンパクと同様に、BTSのアミノ(N)またはカルボキシル(C)末端にFlagタグのついたBTSを用意した。これらの改変BTSは、マウスT細胞ハイブリドーマ2B4やヒト繊維芽細胞株Phoenix−Eと同様、マウス未熟B細胞株WEHI231でも発現した。一方、これらのN、C末端FlagタグBTSを発現している細胞は、細胞表面が抗Flagで染色されず、細胞内が明らかに染色された。このことは、BTSは主に細胞内で発現していることを示している(図3B)。しかしながら、導入体が表面ビオチン化や抗Flagで免疫沈降したとき、ビオチン化BTSが約30kDaタンパクとして同定された(図3A)。このことは、BTSは細胞表面でも低レベルで発現していることを示している。これらのデータと一致し、BTSは共焦点顕微鏡解析により主に細胞内顆粒で検出された(図3C)。Mito−trackerと抗lgp85抗体で、BTS導入体は共染色されなかったことから、BTSを含む顆粒はミトコンドリアやリソソームではないということが示された(データ未掲載)。
【0136】
(BTSのB細胞株増殖阻害誘発)
B細胞におけるBTSの機能を解析するために、BTSをpMX−BTS−IRES−GFPまたはpMX−IRES−GFPレトロウィルスベクターを用いてWEHI231細胞に導入した(Kitamuraら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA.、vol.92:p9146-9150、(1995))。GFP発現はウィルス感染から48時間後にフローサイトメトリーにより観察した。GFPのみを導入した集団のGFP細胞の比率は感染後144時間にいたるまで一定であった。対照的に、BTS−IRES−GFPを導入した集団のGFP細胞の数は時間経過と共に減少し、BTS発現がWEHI231細胞の増殖阻害を誘導したことを示した(図4)。観察された増殖阻害が他の細胞でも誘導されるかどうかを検証するため、BTSを、pre−B細胞リンパ球70z3、未熟B細胞リンパ球CH31、成熟B細胞株WEHI279とIIA1.6、プラズマ細胞株J558、T細胞ハイブリドーマ2B4、未熟T細胞株SCIDを含む様々なタイプの細胞に、同様に導入した。GFP集団の減少は未熟B細胞株(70z3、CH31,WEHI231)でのみ観察され、成熟B細胞株(WEHI279,IIA1.6)やプラズマ細胞株(J558)やT細胞株(2B4)では観察されなかった。
【0137】
BTS誘導増殖阻害を確認するために、感染後、GFPおよびGFP細胞の細胞数を観察した。図5Aに示すように、GFP細胞は時間経過と共に増殖遅延を示し、最終的に増殖阻害を示した。GFPBTS導入体の減少は、BTSの過剰発現によるアポトーシスの誘導によるものと思われた。この可能性を検証するため、BTS導入体にパンカスパーゼ(pan-caspase)阻害剤であるz−VADを添加し、フローサイトメトリーで観察した。GFP集団の減少はz−VADの添加により変化しなかった(図5B)。一方、同量のz−VADは抗IgMによるアポトーシスを阻害した(データ未掲載)。さらに、WEHI231導入体を、TUNEL解析を用いてアポトーシス細胞を検出することにより、この結果を確認した。BTS導入によりTUNEL陽性細胞の明らかな誘導は観察されなかった(図5C)。これらの結果より、未熟B細胞株において、BTSの過剰発現は増殖阻害を誘導するが、それは主にアポトーシスではないということが示唆された。
【0138】
(BTSの細胞周期進行・細胞分裂の阻害)
次に、BTSによる増殖阻害が細胞分裂の阻害によるものかどうかについて解析した。WEHI231細胞は抗CD2染色で導入体を分離するために、BTS−IRES−ratCD2構成物またはただのIRES−ratCD2を用いて遺伝子導入し、CFSEでラベルした。ラットCD2発現細胞は、抗ラットCD2染色と磁気ビーズで分離した。感染24時間後のCFSE染色解析により、BTS導入体による細胞分裂の阻害が観察された(データ未掲載)。それから、血清飢餓状態において、ヨウ化プロピヂウム(PI)染色で細胞周期の進行状況を解析した。分離したラットCD2導入体は、血清にさらされるか、FCS含有培地飢餓で11時間培養した。PI染色によりBTS導入体は明らかにG2/M期への細胞周期の進行を阻害し、一方、血清飢餓後の細胞の状況は、同レベルのG0/G1アレストを誘導した(図6A)。これらのデータは、BTSが細胞周期の進行を阻害することを示している。BTSの細胞周期進行阻害活性に付け加えて、BTS導入体の細胞サイズは、同じ細胞培養物のGFP細胞や擬似導入体のものに比べて明らかに小さかった。このことは、BTSは細胞サイズの調節に関与することを示唆している(図6B)。
【0139】
(BTSのN末端による細胞増殖阻害機能)
BTSのどの部分が、観察された細胞分裂と増殖の阻害的機能に関与するかを調べるために、図7Aに示すようなNまたはC末端のどちらかが欠損したBTS変異体を用意した。これらの変異BTSをWEHI231細胞に導入し、細胞増殖における阻害活性を解析した。図7Bに示されるようにC末端欠損導入体は阻害作用に変化がなかったのに対し(右のパネル)、BTSのN末端を欠失させるにしたがって、GFP集団減少は徐々に弱化していった(左のパネル)。このことはBTSのN末端がB細胞増殖の阻害作用に関連するということを明示している。
【0140】
(BCR刺激におけるBTSの減少)
B細胞における内因性BTSの機能を解析するために、抗IgM F(ab’)によるBCR刺激下での、WEHI231におけるBTS発現を解析した。mRNA発現はBCR刺激数時間以内に減少した(図7C)。この結果は、BTSは定常状態で阻害的機能を示しており、BCR刺激によるBTSの減少はB細胞の増殖/生存を増加させるということを示唆しているかもしれない。しかしながら、BTS導入WEHI231は、BCR刺激による細胞死に対し、擬似導入体と比べて抵抗性がある(データ未掲載)。
【0141】
(BTS発現キメラマウスにおけるIn vivo機能)
BTSの生理的機能を、BTSを発現している骨髄(BM)キメラを産出することにより検証した。このようなキメラマウスを産出するため、Ly5.1C57BL/6マウス由来Sca−IBM幹細胞を細胞分離により質を高め、BTS−IRES−GFPまたはコントロールGFPのみを含むレトロウィルスを感染させ、致死的な量の放射線を浴びたLy5.2マウスに導入した。GFP細胞は末梢血リンパ球(PBL)、胸腺、脾臓、BM、リンパ節(LN)で観察され、6週間後に解析した。図8Aに示すように、擬似キメラ由来のものと比べ、BTSキメラマウス由来のPBL、脾臓、BMにおけるB220、B220両集団のGFP細胞は際立って減少していた。この状態で全ての集団においてドナーの起源細胞(Ly5.1)の割合は80%以上であり、導入したGFP細胞の純度はSca−1の質を高めた集団で97%以上であったことより、これらの結果はBTSの過剰発現はB細胞系細胞だけでなく未熟リンパ球系前駆細胞でも増殖阻害を引き起こすということを示している。さらにBTSキメラマウスで、特定のB細胞の発達段階が強い効果を有するかどうかを解析した。しかしながら、BMの集団(pro−、pre−、未熟、循環B細胞)の多くは同様の阻害を示し、同様に脾臓の全ての集団(新生、濾胞期、辺縁層B細胞)は同様の発達の機能的障害を示した(図8B)。GFP細胞の形態は、全てのB細胞のサブセットにかかわらず、BTSと擬似キメラマウスでほぼ同じであった。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明のリンパ球分化または増殖調節剤、リンパ球分化または増殖を調節し得る物質のスクリーニング方法は、リンパ球分化または増殖調節薬等の医薬品の開発や免疫学の研究などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】BTSの構造を示す図である。 マウスおよびヒトBTSのアミノ酸配列である。下線は4回膜貫通領域を示している。
【図2】BTSの発現を示す図である。(A)−(D)様々な組織(A)、脾臓の様々な細胞タイプ(B)、BMのB細胞サブ集団(C)、脾臓のB細胞サブ集団(D)におけるBTSmRNA発現の定量的リアルタイムPCR解析である。BMと脾臓のB細胞サブ集団は以下のように定義した:pro−B細胞、B220CD43;pre−B細胞、B220CD25;BM未熟B細胞、B220midIgMIgD;循環B細胞、B220highIgMIgD:新生B細胞、B220CD21CD23:濾胞期B細胞、B220CD21CD23;辺縁層B細胞、B220CD21highCD23。データは3個の平均±SDを示している。
【図3】BTSの局在とトポロジーを示す図である。(A)BTS導入細胞の細胞表面におけるBTSの発現。NおよびC末端にFlagタグを付したBTSの発現しているT細胞ハイブリドーマは、表面をビオチン化し、細胞溶解物を抗Flagと免疫沈降(IP)し(上図)、SDS−PAGEで解析した。同じメンブレンを抗FlagM2m抗体で再ブロットした(下図)。(B)導入体におけるBTSの細胞表面および細胞内染色。擬似(影)、N末端(細線)およびC末端(太線)にFlagタグしたBTSを導入したPhoenix細胞を、細胞表面染色として抗FlagM2で染色した(左図)。細胞内染色として(右図)、細胞を固定し0.5%TritonX−100で膜透過性化し、その後抗FlagM2で染色した。(C)導入体におけるBTSの細胞内局在。擬似(左図)、N末端(中央図)およびC末端(右図)にFlagタグしたBTSを導入したPhoenix細胞をカバーガラス上に培養し、固定し、0.3%サポニンで膜透過性化し、抗FlagM2−ビオチンおよびストレプトアビジン−PEで染色した(×100)。
【図4】BTSの過剰発現がB細胞株において増殖阻害を誘導する図である。成熟B細胞やT細胞ではなく、未熟B細胞株においてBTS導入による増殖阻害がみられた。未熟B細胞株(WEHI231、CH31、70z3)、成熟B細胞株(WEHI279、IIA1.6)、プラズマ細胞株(J558)、T細胞株(SCID、2B4)に、レトロウィルス感染によりBTS−IRES−GFP(白四角)またはIRES−GFP(黒菱形)を導入し、GFP細胞をフローサイトメトリーで解析した。感染後の表示時間におけるGFP細胞と感染48時間後におけるGFP細胞のパーセンテージ比率をプロットした。
【図5】BTSの過剰発現がB細胞株において増殖阻害を誘導する図である。(A)BTS導入WEHI231細胞の増殖遅延である。レトロウィルス感染によりBTS−IRES−GFPまたはIRES−GFPを導入したWEHI231を、フローサイトメトリーにて解析した。BTS導入細胞におけるGFP(黒四角)およびGFP(白四角)細胞の比率を感染48時間後のGFPおよびGFP細胞数の比率に対する割合として示した。(B)BTSによる増殖阻害はカスパーゼ依存性アポトーシスによるものではない。z−VADまたはコントロールのDMSOを、BTS−IRES−GRPまたはIRES−GFPを導入したWEHI231に、感染48時間後に添加した。z−VAD添加後の表示時間におけるGFP細胞と時間0におけるGFP細胞のパーセンテージ比率をプロットした。記号;白菱形:添加なしのBTS導入体、白四角:DMSO添加BTS導入体、星印:z−VAD添加BTS導入体、黒菱形:添加なし擬似導入体、黒四角:DMSO添加擬似導入体、バツ印:z−VAD添加擬似導入体。(C)BTS導入WEHI231細胞のTUNEL解析。WEHI231にBTS−IRES−GFP(BTS)(右図)またはIRES−GFP(擬似)(中央図)を導入した。感染36時間後に死細胞を除去した後、細胞を固定し、膜透過性化し、製造元のマニュアルに従ってTdT活性を染色した。DNase I処理した擬似導入体をポジティブコントロールとした(左図)。
【図6】細胞周期進行と細胞サイズ成長におけるBTSの阻害的機能を示す図である。(A)BTS導入WEHI231細胞の細胞周期解析。BTS導入体は、血清枯渇後11時間(左図)または継続してFCS含有培地で11時間(右図)のどちらかで培養した。細胞は抗ラットCD2と磁気ビーズで分離し、PI染色した。数字はG0/G1期(左)とS/G2/M期(右)の集団の割合を示している。擬似およびBTS導入細胞をそれぞれ上図、下図に示している。(B)BTS発現は細胞サイズを小さく戻す。レトロウィルス感染によりBTS−IRES−GFP(下図)または擬似−IRES−GFP(上図)を導入したWEHI231は、フローサイトメトリーにより前方散乱を用いて細胞サイズを計測した。細線はGFPの集団を、太線はGFPの集団を示している。右の表はそれぞれの集団における平均蛍光強度を示している。
【図7】BTSの構造−機能相関関係を示す図である。(A)4回膜貫通領域を有するBTSの予想トポロジーである。それぞれの数字は膜貫通領域の両端のアミノ酸残基を示している。矢印のついた数字はBTS欠失変異の位置を示している。N:N末端からの欠失、C:C末端からの欠失。(B)BTSのN末端細胞内領域はB細胞増殖阻害に関与する。レトロウィルス感染によりBTSの全長またはN末端欠失変異(左図)またはC末端欠失変異(右図)を導入したWEHI231を、フローサイトメトリーにより解析した。感染後の表示時間におけるGFP細胞と感染48時間後におけるGFP細胞のパーセンテージ比率をプロットした。それぞれの記号は凡例に示されているそれぞれの欠失変異を示す。(C)BCR刺激によるBTSmRNA発現の減少。WEHI231細胞を抗IgMFab(10μg/ml)で表示時間刺激した。各時間におけるBTSの相対的mRNA発現を、0時間におけるBTSの相対的mRNA発現との比率で示している。
【図8】BMキメラマウスにおけるBTSのインビボ解析を示す図である。(A)BTSキメラマウスのPBL,脾臓、BM由来のB細胞および非B細胞の発達。GFP細胞とGFP細胞の比率を測定した。データはB220細胞(黒棒)とB220細胞(白棒)の平均±SDを示している。(B)BTS変換キメラマウスと擬似変換キメラマウス由来のBMおよび脾臓細胞を、サブ集団に分けるために染色した。それぞれのサブ集団は図1に示すように染色した。GFP+/−B220+/−のパーセンテージを示す(上図)。それぞれのマウスのGFPまたはGFP集団中で、それぞれ表示したサブ集団のパーセンテージを示す。BMおよび脾臓のサブ集団は表示した通り中央図および下図に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BTS遺伝子の発現を調節する物質を含有してなる、リンパ球分化または増殖調節剤。
【請求項2】
該リンパ球がB細胞またはリンパ球系前駆細胞である、請求項1記載の剤。
【請求項3】
該BTS遺伝子の発現を調節する物質がBTS遺伝子の発現を促進する物質である、請求項1記載の剤。
【請求項4】
BTS遺伝子の発現を促進する物質が、以下の(i)または(ii)である、請求項3記載の剤:
(i)BTSポリペプチド若しくはその塩;
(ii)BTSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する核酸。
【請求項5】
リンパ腫、白血病、自己免疫疾患、膠原病、自己免疫性糸球体腎炎の予防・治療剤である、請求項3記載の剤。
【請求項6】
該BTS遺伝子の発現を調節する物質がBTS遺伝子の発現を抑制する物質である、請求項1記載の剤。
【請求項7】
BTS遺伝子の発現を抑制する物質が、BTSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列またはその一部を有する核酸である、請求項6記載の剤。
【請求項8】
悪性腫瘍、心不全、尿毒症、免疫不全症候群、感染症の予防・治療剤である、請求項6記載の剤。
【請求項9】
被験物質がBTS遺伝子の発現を調節し得るか否かを評価することを含む、リンパ球分化および増殖を調節し得る物質のスクリーニング方法。
【請求項10】
以下の工程を含む、請求項9記載の方法:
(a)被験物質がBTS遺伝子の発現を促進し得るか否かを評価する工程;
(b)BTS遺伝子の発現を促進し得る物質を、リンパ球分化または増殖を低下し得る物質として選択する工程。
【請求項11】
以下の工程を含む、請求項9記載の方法:
(a)被験物質がBTS遺伝子の発現を抑制し得るか否かを評価する工程;
(b)BTS遺伝子の発現を抑制し得る物質を、リンパ球分化または増殖を亢進し得る物質として選択する工程。
【請求項12】
BTS遺伝子の特定の多型がリンパ球分化または増殖に変化をもたらすか否かを解析する工程を含む、リンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患をもたらすBTS遺伝子多型の同定方法。
【請求項13】
生体試料におけるBTS遺伝子の発現量を測定することを含む、リンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の発症リスクの判定方法。
【請求項14】
BTS遺伝子の発現量の測定用試薬を含む、リンパ球分化または増殖の異常に伴う疾患の発症リスクの診断薬。
【請求項15】
BTSポリペプチドのN末端細胞内領域のアミノ酸配列、またはその部分配列からなるポリペプチド、または該ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列からなる核酸。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−298848(P2006−298848A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−124273(P2005−124273)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年11月5日 日本免疫学会発行の「日本免疫学会総会・学術集会記録 第34巻」に発表
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】