説明

リン含有廃水の処理装置

【課題】有機性固形物が存在する条件下でリン酸塩の結晶物を生成させて、純度の高いリンを含む固体或いは液体を得るリン含有廃水の処理装置を提供する。
【解決手段】有機汚泥とリン酸態リンを含む廃水に、カルシウム化合物及び高分子凝集剤を添加してリン酸塩を含むペレットを形成させる、上向流で通水する手段と機械的な攪拌装置とを備えたペレット形成槽Aと、該Aのペレットを流入させて濃縮する濃縮部と処理水の流出管とを備えた高速造粒沈殿装置Bと、該Bで濃縮したペレットをリン酸塩を含む脱水ケーキと脱水ろ液に分離する脱水機Cと、該脱水ケーキを加熱して有機物及び水分を除去する熱処理装置Dとを備え、前記Aには、前記廃水の導入管にカルシウム化合物及び高分子凝集剤の注入管を接続し、高分子凝集剤の注入管はカルシウム化合物の注入管よりも前記廃水の流れ方向の後の位置に接続する処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性固形物と溶解性のリンを含む廃水からリンを主体とした固体或いは液体を得る処理装置に係り、特に、有機性固形物を前処理することなく、有機性固形物を含む状態でリン酸塩を生成させた後、後段で熱処理することで有機性固形物を除去し、純度の高いリン化合物を得る処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、下水処理においては、有機汚濁物の処理のほかに窒素、リンの高度処理の必要性が高まっている。この中で、下水処理場から発生する余剰汚泥、初沈汚泥等の汚泥を、濃縮、消化、脱水等の汚泥処理工程により処理して排出される返流水は、流入下水に付加され、有機物汚濁負荷、窒素負荷及びリン負荷を増加させるため、処理水水質の悪化の原因となる。特に、複数の下水処理場から発生する余剰汚泥、初沈汚泥、消化汚泥等の汚泥を移送し、一ヵ所の汚泥処理基地に移送後、汚泥処理を行う汚泥の集約処理において、濃縮、脱水等の汚泥処理工程より排出される返流水を、近在の下水処理場に直接戻し処理する場合は、有機物負荷量、窒素負荷量及びリン負荷量の極端な増加を生じるため、流入下水と混合する前に返流水処理を行う必要がある。
【0003】
このため、以下のような技術が出てきている。その大半は、返流水を活性汚泥処理する技術であり、この技術は処理能力(硝化速度、脱窒速度等)が低いため、反応槽は大規模化する傾向にあり、敷地の制約のある汚泥集約処理の場合は特に問題となっている。
その改善策として、(1)汚泥返流水に鉄系やアルミ系の凝集剤を添加して凝集沈殿処理し、次いで、(2)その処理水を脱窒、硝化処理する技術(特許第2704109号明細書)が提案されている。この技術においても、生物処理の前段の凝集沈殿処理でSS、BOD、リンの処理を行い、後段の生物処理の負荷を軽減しているが、前段の凝集沈殿では、凝集汚泥の沈降濃縮性が良くないため、コンパクトな処理設備にならず、後段の生物処理においても、基本的には活性汚泥処理を行うため、コンパクトな返流水処理を行う解決策には至っていない。
【0004】
これらの課題を解決するために、特許第4007639号明細書に開示されている技術を利用することで、下水返流水処理に濃縮槽付き高速造粒沈殿処理装置と浮上性ろ材を用いた生物膜処理を組み合わせることによって、従来法(凝集沈殿+循環式活性汚泥法)で処理するより高速な処理が可能となった。
【0005】
上記のように、リンは放流先水域に流出すると、富栄養化が進行してしまうために、除去する必要がある。従来は、鉄塩やアルミ塩を用いて無機汚泥としてリンを除去するケースが圧倒的に多く、これらの無機汚泥は有効利用が出来ずに、焼却処分や埋め立て処分されていた。しかしながら、リンは有限な資源であり、とりわけ日本はリン資源に恵まれずに、国内消費のほとんどを、肥料や食料、リン鉱石、化学原料として輸入しているので、除去したリンのリサイクル技術が要望されている。
【0006】
上記のような観点で、廃水中のリンを晶析法を用いて除去、回収する技術が提案されている。例えば、特公平1−30554号公報によると、リン酸カルシウムを含有する脱リン材を流動せしめた層にリン含有排水を通液して、カルシウムイオンの存在下で液中のリンを除去する方法が示されている。また、特公昭57−34032号公報では、リン酸カルシウムを含有するリン酸塩鉱物の充填塔に被処理水を、そのpHを6.0以上としてカルシウム剤を添加して通液することにより液中に存在するリン酸塩類を除去する方法が開示されている。
【0007】
これらの方法は、リンをリン酸カルシウムの形態で除去するものであり、リンを有効利用可能な状態で回収可能となる。ところで、回収したリン酸カルシウムの純度を高めるためには、前処理を行い、前段で有機性固形物を除去したり、炭酸塩の影響を低減するために、脱炭酸工程を設ける必要があり、操作が煩雑であった。また、種晶を別途準備する必要があり、ランニングコストの増加となっていた。
【特許文献1】特許第2704109号明細書
【特許文献2】特許第4007639号明細書
【特許文献3】特公平1−30554号公報
【特許文献4】特公昭57−34032号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の従来技術の問題点を解決して、コンパクトな処理設備で、前処理として有機性固形物を除去する必要がなく、更に種晶の添加の必要がなく、有機性固形物が存在する条件下でリン酸塩の結晶物を生成させて、純度の高いリンを含む固体を得るリン含有廃水の処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、有機汚泥とリン酸態リンを含む廃水に、カルシウム化合物及び高分子凝集剤を添加してリン酸塩を含むペレットを形成させる、上向流で通水する手段と機械的な攪拌装置とを備えたペレット形成槽Aと、該ペレット形成槽Aのペレットを流入させてペレットを濃縮する濃縮部と処理水の流出管とを備えた高速造粒沈殿装置Bと、該高速造粒沈殿装置Bで濃縮したペレットを流入させてリン酸塩を含む脱水ケーキと脱水ろ液に分離する脱水機Cと、該脱水ケーキを加熱して有機物及び水分を除去する熱処理装置Dとを備え、ペレット形成槽Aには、有機性汚泥及びリン酸態リンを含む廃水を導入する配管が接続され、該配管には、にカルシウム化合物及び高分子凝集剤の注入管を接続すると共に、該高分子凝集剤の注入管は、前記カルシウム化合物の注入管よりも前記廃水の流れ方向の後の位置に接続したことを特徴とするリン含有廃水の処理装置としたものである。
【0010】
前記処理装置において、ペレット形成槽Aに流入する廃水は、有機汚泥濃度(SS)とリン酸態リン濃度(P)の比率SS/p比が50以下であるのがよく、また、前記熱処理装置Dは、熱処理温度を200℃以上とするのがよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特に、有機性固形物を前処理することなく、汚泥発生量の低減、薬品のコスト低減、装置容量の小型化が可能となり、更に純度の高いリン化合物を得る処理装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を図面を参照しながら詳細に説明する。本発明では、図1に示すように、有機性固形物(以下、有機汚泥ともいう)及びリン酸態リン含有廃水を、ペレット形成槽A、高速造粒沈殿装置Bの順に導入する。高速造粒沈殿装置Bでは処理水を得ると共に、リン酸塩を含む濃縮したペレット(以下、リン含有ペレットという)を得る。リン含有ペレットは、脱水機C、熱処理装置Dの順に導入される。
本発明で処理できる有機汚泥及びリン含有廃水は、下水処理場から発生する余剰汚泥、初沈汚泥等の汚泥、又は、それらの汚泥を、濃縮、消化、脱水等の汚泥処理工程により処理して排出される返流水や、食品廃棄物を濃縮、消化、脱水等の固形性廃棄物処理工程より処理して排出される廃水などがある。その他、下水分野や食品分野に限定することなく、有機性汚泥(固形物ともいう)と溶解性のリンを含んだ廃水が対象となる。
【0013】
ペレット形成槽Aは、被処理水を導入すると共に、カルシウム化合物と高分子凝集剤を添加して、リン酸カルシウムと有機汚泥のペレットを滞留させつつ、新たなリン酸カルシウムを形成させる槽である。カルシウム化合物には、スラリー状及び/又は固体のカルシウム化合物として、水酸化カルシウム、石膏、炭酸カルシウム、酸化カルシウムなどを用いる。いわゆる難溶性のカルシウム化合物であり、市水や鉱酸などで一部は溶解したスラリー状態及び/又は固体の状態で供給する。無論、塩化カルシウムなどの易溶解性のものを用いても良い。リン酸カルシウムは、リン酸とカルシウムからなる結晶性化合物の総称であり、リン酸1カルシウムやリン酸3カルシウム、ヒドロキシアパタイト(HAP)などを示す。
【0014】
高分子凝集剤は、上記のリン酸カルシウムを選択的に凝集させるアニオン基をもつ有機高分子が好ましい(以下アニオンポリマーという)。アニオン基を有する高分子凝集剤は、例えば、アニオン性ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、アルギン酸ソーダ、α化澱粉等がある。また、アニオンポリマーとノニオンや両性ポリマーなど任意のものを組み合わせて選択することが出来る。ペレット形成槽Aでは、リン酸カルシウムを選択的に凝集させる高分子凝集剤を使用しているので、リン酸カルシウムのペレットとペレットに取り込まれなかった微細な有機物が生成する。リン酸カルシウムを主体としたペレットには、他に炭酸カルシウムや比較的凝集しやすい固形性の有機物などが含まれる。微細な有機物は、前記のポリマーにおいても凝集にくい固形性の有機物であり、小粒径なので沈降速度が遅い。
【0015】
原水は、上向流で通水すると共に、カルシウム化合物と高分子凝集剤も、原水供給管に供給する。ペレット形成槽A内は、攪拌機が設置されており、形成したペレットが撹拌翼に接触することで、ペレット内の水分が外に追い出され、やがて緻密なペレットが形成される。また、緻密なペレットを形成させるためには、液の上昇流速も適切に設定する必要があり、概ねペレットの沈降速度の5〜95%の速度で通水する。このとき、原水の供給量のみでは、これらの上昇流速度を出せない場合には、処理水の一部を循環してもよい。通常、液の上昇流速としては、5〜50m/hrで運転される。
【0016】
カルシウム化合物と高分子凝集剤の注入管の接続方法の好ましい形態は、有機性汚泥及びリン酸態リンを含む廃水をペレット形成槽Aに導入する配管に、カルシウム化合物及び高分子凝集剤の注入管を接続し、その際、高分子凝集剤の注入管は、カルシウム化合物の注入管よりも前記廃水の流れ方向の後の位置に接続するとよい。また、より最良の形態として、高分子凝集剤の注入位置は、前記廃水の線速度に対して3秒以上経た位置に接続するとよい。すなわち、有機性汚泥及びリン酸態リンを含む廃水が、ペレット形成槽Aに流入する導入配管内を2m/sで流れていれば、高分子凝集剤の注入管は、カルシウム化合物の注入管を接続した位置から3秒経た6mの位置に接続するとよい。なお、高分子凝集剤を注入してからカルシウム化合物を添加した場合や、カルシウム化合物として消石灰を添加してから3秒以内に高分子凝集剤を添加した場合は、図4に示すように、ペレット形成槽A内で粒径が大きく緻密で良好なペレットが生成されず、また良好な処理水質を得ることができない。なお、図4で注入位置0(ゼロ)は、消石灰とポリマーを同時に注入したことを示す。
【0017】
ペレット形成槽Aは、液中に溶解しているリンをリン酸カルシウムとして除去するが、このときの反応条件は、pH7〜10が好ましく、更に好ましくは8.5〜9.0がよい。7以下であると溶解性のリンが多く残留し、10以上であるとリン酸カルシウムではなく、水酸化カルシウムが析出しやすくなる。また、pHが9.0以上では、液中に存在している炭酸源とカルシウムが反応し炭酸カルシウムが生成しやすくなる。カルシウム化合物の添加比は、廃水中のリンに対して、重量比で2.2〜6.6が好ましい。高分子凝集剤の添加量は、生成するリン酸カルシウムや廃水由来の有機汚泥濃度によるが、通常0.5〜20mg/Lとなるように添加するのが好ましい。
ペレット形成槽Aは、攪拌機が設置され、所定の攪拌速度で攪拌されている。攪拌速度は、ペレットが形成しやすい条件を設定するが、目安として周速が10〜40m/s、好ましくは20〜30m/sとする。
ペレット形成槽Aで所望のpHが得られない場合には、ペレット形成槽AにpH計を設置して、pH計で得られた指示値に応じて、pH調整剤を供給する機構を備えるとよい。pH調整剤には硫酸、塩酸、苛性ソーダなどを用いることができる。
【0018】
上記のように、原水の通水が上向流でペレットの上下運動があること、機械的な攪拌によりペレットの円周方向の運動があることで、ペレット同士の衝突や攪拌機の衝突により、高分子凝集剤で凝集したペレットの内部の水分がペレット外部に押し出されて、より含水率の低下したペレットが生成する。
被処理水に汚泥が1000mg/L〜数%含まれているような場合には、ペレット形成槽Aの前段で、汚泥(有機汚泥、固形物、SSともいう)を除去し、汚泥が1000mg/L以下、好ましくは500mg/Lにするのがよい。前処理の方法としては、カチオン性の高分子凝集剤を添加した後固液分離して、上澄み液を得て、これをペレット形成槽Aの原水とする。
特に、ペレット形成槽Aの原水のSSとリン酸態リン濃度の比率(以下SS/P比という)は、ペレット形成槽A、高速造粒沈殿装置B、脱水機C、熱処理装置Dの効率を変化させる重要な因子であり、SS/P比が50以下、好ましくは25以下、もっと好ましくは5以下となるようにSSを除去するのがよい。
ちなみに、SS/P比が50以上の場合は、高速造粒沈殿装置Bの上部に設置された流出管から、リンを含むペレットが流出しやすいのでリン回収率が低下し、熱処理装置Dで有機物が残留し、回収したリン酸カルシウムの純度が低下する。
【0019】
高速造粒沈殿装置Bは、下部に濃縮部が備えられ、上部に処理水の流出管が備えられている。更に、濃縮したリン含有ペレットをかき寄せるレーキが備えられている。濃縮部は、ペレット形成槽で生成した緻密なペレットを沈降させると共に、更にペレットを濃縮する槽である。また、濃縮部の上部からは、有機汚泥とリンが除去された処理水が排出される。レーキは、沈降したリン含有ペレットをかき寄せると共に、濃縮する。この濃縮部ではリン含有ペレット濃度を2〜10%まで濃縮するため、直接脱水工程に投入することができる。
ペレット形成槽Aでは、リン酸カルシウムを選択的に凝集させる高分子凝集剤を使用しているので、リン酸カルシウムのペレットとペレットに取り込まれなかった微細な有機物が生成している関係で、前記のペレットは、粒径数mmで沈降速度は0.1〜5m/minであり、また、微細な有機物は、数μmで沈降速度は10mm/min以下なので、両者の沈降速度は圧倒的な差が生じている。このため、高速造粒沈殿装置Bでは、沈降速度が速いペレットが沈降する水面積負荷を設定することで、微細な有機物は処理水と共に系外に排出することができる。
【0020】
図1に示す例では、ペレット形成槽Aと高速造粒沈殿装置Bは配管で接続された形態であるが、ペレット形成槽Aと高速造粒沈殿装置Bは一体型を成している装置でもよい。たとえば、図2に示すように、ペレット形成槽A と高速造粒沈殿装置Bが上下に一体化している装置や、図3に示すように、ペレット形成槽Aのペレットを形成している部分からペレットを抜き出し、高速造粒沈殿装置Bに導入する導入管を接続した装置でもよい。
【0021】
脱水機Cは、任意の脱水機を採用することができ、自然脱水、脱水篩分、真空ろ過、加圧ろ過、遠心脱水など、任意の装置を採用することができる。脱水機Cは、後段の熱処理装置に持ち込む水分を低減するために行う。脱水機Cに投入される濃縮リン含有ペレット濃度は、2〜10%であり、含水率は90〜98%あるが、脱水機出口では、50〜80%まで低減される。ここでは、無機凝集剤と高分子凝集剤を添加して脱水してもよいし、高分子凝集剤のみでもよい。ペレット形成槽Aで高分子凝集剤を添加して良好なペレットを生成しているため、特に薬品の添加を行わなくても良い。
【0022】
熱処理装置Dでは、有機物の大部分を燃焼させて水蒸気と二酸化炭素とすること、リン酸カルシウム、特にヒドロキシアパタイトの結晶性を増加させると共に、純度のよいリン酸化合物を得る。その他、含水率低下や、衛生的に無害な状態とする意味合いもある。熱処理装置Dは、任意の装置を採用することができ、乾燥装置や焼却装置を用いることができる。乾燥装置としては、攪拌機付熱風回転乾燥機、高速攪拌溝型乾燥機、気流乾燥機、熱風回転乾燥機、通気バンド乾燥機などを用いることができる。また、焼却装置を用いる場合は、回転燃焼炉、流動層焼却炉、サイクロン燃焼炉、気流燃焼炉などを採用することができる。有機物除去と臭気成分の除去という観点からも、熱処理の温度は200℃以上で行う。ここでいう熱処理の温度とは、熱処理装置内の気体部分の温度を示し、燃焼温度ともいう。燃焼温度は、水分などに影響されるが、補助燃料の使用や過剰空気率の加減によっても制御しうるものである。低温で処理するならば、燃焼速度が低く非能率である上、水分の多いスラッジでは着火温度の維持が不安定になる。逆に、高温で処理するならば、熱効率が不利となり、焼却灰の溶融も起こる。通常は有機物が除去できて、安定した処理が可能な400〜900℃で運転するのが好ましい。更に、この温度範囲では、炭酸カルシウムからの一部の炭酸ガスも除去できるのでなお一層好ましい。
燃焼温度は任意の時間を取ることができるが、概ね1〜4時間とする。
【0023】
熱処理装置Dで回収したリン酸カルシウムは、析出反応を促進させる種晶として前記ペレット形成槽Aに返送することもできる。緻密な種晶をペレット形成槽Aに添加することで、種晶がペレットに含有され、ペレットの沈降速度が増加するので、固液分離性能が上昇する。また、ペレット形成槽A内の結晶の表面積が増加するので、リン酸カルシウムの結晶反応が促進され、より低濃度まで処理水のリン濃度を低下させることができる。
種晶をペレット形成槽に返送する際に、ある一定の粒径を得るために、粉砕工程や分級工程、洗浄工程を設けるとなお一層好ましい。
【0024】
このようにして、有機物が除去できた後の残さは、リン酸カルシウム、特にヒドロキシアパタイトを主体とした回収物であり、有機汚泥とリン酸態リンを含む廃水からリン化合物を得ることができる。また、有機物が除去できたので純度の高いヒドロキシアパタイトを得ることができる。
また、熱処理装置Dでは、高速造粒沈殿装置Bで、沈降速度が速いペレットが沈降する水面積負荷を設定することで、微細な有機物は処理水と共に系外に排出している関係で、比較的有機物が少ないリン含有ペレットを熱処理するので、純度の高いHAPを得ることができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例により、具体的に説明する。
実施例1
図1に示す処理フローを用いて、下水濃縮分離水を対象とした処理を行った。処理量は10m/dとした。原水は、ペレット形成槽Aの底部より上向流で通水すると共に、消石灰、アニオンポリマーを原水の導入管に注入した。アニオンポリマーの注入位置は、消石灰注入位置よりペレット形成槽側に接続し、両注入管の間隔は、原水の線速度に対して5秒離れた位置とした。消石灰の添加量は270mg/L、ポリマーの添加量は3mg/Lとした。ペレット形成槽A内は、機械的な攪拌を行った。なお、ペレット形成槽Aの有効容積は35Lとした。ペレット形成槽Aでは、約3cmの緻密なペレットが生成した。ペレットとリン濃度が低下した液は、沈殿槽を用いた高速造粒沈殿装置Bに流入し、ペレットは沈降し、処理水は上部より流出した。なお、沈殿槽Bの水面積負荷は150m/dであった。沈殿槽で濃縮したペレットは、脱水機Cで脱水された後、乾燥装置を用いた熱処理装置Dで600℃に熱して、残った残留物を回収した。残留物は、リン酸カルシウムの一種であるヒドロキシアパタイトであった。
原水のpH6.5、SSが800mg/L、PO−Pが40mg/L、SS/P比が20、T−Pが50mg/Lに対して、処理水のpHは8.8、SSが300mg/L、PO−Pは5mg/L、T−Pは8mg/Lであった。また、回収したリン酸カルシウムの純度は80%であり、リン鉱石と同等の品質を得ることができた。
【0026】
実施例2
実施例2は、原水性状が実施例1と異なり、原水のSS濃度が2000mg/L、PO−Pが40mg/L、SS/P比が50の例である。その他の条件は実施例1と同様である。
原水のpH6.5、SSが2000mg/L、PO−Pが40mg/L、T−Pが60mg/Lに対して、処理水のpHは8.8、SSが800mg/L、PO−Pは5mg/L、T−Pは15mg/Lであった。また、熱処理装置から回収したリン酸カルシウムの純度は78%であり、実施例1同等の品質を得ることができた。
【0027】
実施例3
実施例3は、原水性状が実施例1と異なり、原水のSS濃度が200mg/L、PO−Pが40mg/L、SS/P比が5の例である。その他の条件は実施例1と同様である。
原水のpH6.5、SSが200mg/L、PO−Pが40mg/L、T−Pが60mg/Lに対して、処理水のpHは8.8、SSが20mg/L、PO−Pは5mg/L、T−Pは6mg/Lであった。また、熱処理装置から回収したリン酸カルシウムの純度は83%であり、実施例1同等の品質を得ることができた。
【0028】
実施例4
実施例4は、熱処理装置Dの温度が実施例1と異なり、200℃で処理した例である。その他の条件は実施例1と同じとした。
熱処理から回収したリン酸カルシウムの純度は75%であり、実施例1と概ね同等の品質を得ることができた。
【0029】
実施例5
実施例5は、熱処理装置Dの温度が実施例1と異なり、400℃で処理した例である。その他の条件は実施例1と同じとした。
熱処理から回収したリン酸カルシウムの純度は78%であり、実施例1と概ね同等の品質を得ることができた。
【0030】
実施例6
実施例6は、熱処理装置Dの温度が実施例1と異なり、900℃で処理した例である。その他の条件は実施例1と同じとした。
熱処理から回収したリン酸カルシウムの純度は82%であり、実施例1と概ね同等の品質を得ることができた。
【0031】
比較例1
実施例1に対して熱処理温度を100℃で行った場合の回収したリン酸カルシウムの純度は30%であった。100℃では有機物が除去されず純度の向上は確認できなかった。
【0032】
比較例2
実施例1におけるペレット形成槽Aが、原水を上部から添加する完全混合型のリアクタで、更に高速造粒沈殿槽Bの水面積負荷を、実施例1に比べて10倍にして通水を行った。熱処理装置Dの熱処理温度は実施例1同様に600℃とした。ペレット形成槽Aでは、凝集はするものの実施例1に見られたような緻密なペレットは生成せず、ふわふわしたフロックが得られた。また、高速造粒沈殿槽Bでは、ふわふわした沈降速度の遅いフロックを沈降させる関係で、水面積負荷を低く設定せざるを得ないが、微細な有機物も同時に沈降した。
原水のpH6.5、SSが800mg/L、PO−Pが40mg/L、T−Pが50mg/Lに対して、処理水のpHは8.8、SSが50mg/L、PO−Pは5mg/L、T−Pは7mg/L、回収したリン酸カルシウムの純度は70%であった。実施例1に比べ、熱処理装置の熱処理温度が同じにも関わらず純度は10%低下した。低下した理由は、ペレット形成槽の違いであり、実施例1では緻密なペレットを生成した結果、比較的有機性固形物濃度が低い回収物が得られたのに対して、比較例2では有機性固形物濃度が高い回収物であったためと考えられる。
【0033】
比較例3
比較例3は、実施例1の比較例である。処理フローを図5に示す。処理フローは、SS除去のための前凝集沈殿槽、晶析槽からなる。
原水は、実施例1の原水と同じである。前凝集沈殿槽では、カチオンポリマーを20mg/Lとなるように添加して処理を行った。晶析槽ではリン鉱石を充填し、消石灰を270mg/Lとなるように添加した。なお、晶析槽の有効容積は400Lとした。
原水のpH6.5、SSが800mg/L、PO−Pが40mg/L、T−Pが50mg/Lに対して、前凝集沈殿槽流出水のSSは100mg/L、PO−Pは40mg/L、晶析槽の流出水のpHは8.8、PO−Pは6mg/L、T−Pは15mg/Lであった。実施例1に比べて、高分子凝集剤の使用量が約6倍、反応槽容積が11倍と、ランニングコストが高く、装置容量も大きいにもかかわらず、リン回収率は低下した。
【0034】
比較例4
比較例4は、実施例1の比較例である。実施例1との違いは、消石灰とアニオンポリマーの注入位置のみであり、比較例4は両者を同時に原水導入管に注入した。
実施例1ではペレット形成槽Aで緻密なペレットが生成されたが、比較例4では緻密なペレットは生成されず、ふわふわした凝集フロックであった。原水のpH6.5、SSが800mg/L、PO−Pが40mg/L、T−Pが50mg/Lに対して、処理水のpHは8.8、SSが400mg/L、PO−Pは10mg/L、T−Pは25mg/Lであり、実施例1にくらべ処理水質が悪化した。
【0035】
比較例5
比較例5は、実施例1、実施例2の比較例である。実施例1との違いは、原水のSS濃度が3000mg/Lと高く、SS/P比が、実施例1の20、実施例2の50に対して、75と高い点で相違する。
原水のpH6.5、SSが3000mg/L、PO−Pが40mg/L、T−Pが78mg/Lに対して、処理水のpHは8.8、SSが1500mg/L、PO−Pは5mg/L、T−Pは40mg/Lであり、実施例1のリン回収率84%にくらべリンの回収率が35ポイント低下し49%となった。更に、熱処理装置から回収したリン酸カルシウムの純度は60%であり、実施例1に比べて20ポイント、実施例2に比べて18ポイントも低下した。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の装置の一例を示す処理フロー図。
【図2】本発明のペレット形成槽Aと高速造粒沈殿槽Bの形態の一例を示す構成図。
【図3】本発明のペレット形成槽Aと高速造粒沈殿槽Bの形態の他の例を示す構成図。
【図4】高分子凝集剤の添加位置での影響を示すグラフで、(a)はペレット粒経との関係、(b)は処理水PO−Pとの関係。
【図5】比較例3で用いた装置の処理フロー図。
【符号の説明】
【0037】
A:ペレット形成槽、B:高速造粒沈殿装置、C:脱水機、D:熱処理装置、G:再反応槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機汚泥及びリン酸態リンを含む廃水に、カルシウム化合物及び高分子凝集剤を添加してリン酸塩を含むペレットを形成させる、上向流で通水する手段と機械的な攪拌装置とを備えたペレット形成槽Aと、該ペレット形成槽Aのペレットを流入させてペレットを濃縮する濃縮部と処理水の流出管とを備えた高速造粒沈殿装置Bと、該高速造粒沈殿装置Bで濃縮したペレットを流入させてリン酸塩を含む脱水ケーキと脱水ろ液に分離する脱水機Cと、該脱水ケーキを加熱して有機物及び水分を除去する熱処理装置Dとを備え、前記ペレット形成槽Aには、有機性汚泥及びリン酸態リンを含む廃水を導入する配管が接続され、該配管には、カルシウム化合物及び高分子凝集剤の注入管を接続すると共に、該高分子凝集剤の注入管は、前記カルシウム化合物の注入管よりも前記廃水の流れ方向の後の位置に接続したことを特徴とするリン含有廃水の処理装置。
【請求項2】
前記ペレット形成槽Aに流入する廃水は、有機汚泥濃度(SS)と、リン酸態リン濃度(P)の比率SS/p比が50以下であることを特徴とする請求項1記載のリン含有廃水の処理装置。
【請求項3】
前記熱処理装置Dは、熱処理温度が200℃以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のリン含有廃水の処理装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−83657(P2011−83657A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236069(P2009−236069)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(591030651)荏原エンジニアリングサービス株式会社 (94)
【出願人】(592239394)川崎市 (4)
【Fターム(参考)】