説明

リン酸エステル基含有オルガノポリシロキサン及びその製造方法

【課題】シリコーンオイルを始め各種溶剤に優れた溶解性を有し、且つ塗料添加剤、離形剤、剥離剤、繊維処理剤等として各種分野で有用なリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンを提供すること、及び、反応時間を短縮し、副生成物の生成を抑制しつつ効率よくリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンを製造するための製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】下記一般式(I)
【化1】


(Z=3)で表されるリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種溶剤、特にはシリコーンオイル(ポリシロキサン)に優れた溶解性を有し、且つ塗料添加剤、離形剤、剥離剤、繊維処理剤等として各種分野で有用なリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサン及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりシリコーンの耐熱性や耐候性、離形成や潤滑性、撥水性等の特性は、電気電子、自動車、繊維、パルプを始めさまざまな分野で利用されている。
【0003】
これらの用途に対応させるため、ポリエーテル変性、カルボン酸変性、アミノ変性を始め、メルカプト変性、アルコール変性、アルキル変性及びアルコキシ変性等様々な官能基を導入した変性オルガノポリシロキサンが研究、開発されている。
【0004】
特にリン酸エステル変性に関しては、リン酸基に起因する優れた特性から、幅広い分野での利用が期待できる。しかし、例えば特許文献1には、リン酸エステル変性オルガノポリシロキサンが開示されているが、これはトリエステル変性の割合が低いアニオン性界面活性剤としての利用のみを目的とするものであり、このように実際は、特定の分野のみを想定して用いられていた。
【0005】
特許文献2にも、リン酸エステル変性オルガノポリシロキサンは開示されているが、これは不安定なものであり、特許文献3には、リン酸トリエステル変性オルガノポリシロキサンも開示されているが、これはリン酸の間に長鎖有機基をスペーサーとして導入する必要があることから、シリコーンとの相溶性に劣り、同様に幅広い分野で応用展開するには充分とは言い難いものであった。
【0006】
また、上記のようなリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンの製造方法としては、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、末端不飽和基含有リン酸エステルを反応させる方法(例えば特許文献1、特許文献3)、もしくはカルビノール変性オルガノポリシロキサンとオキシハロゲン化リンを反応させる方法(例えば特許文献4、特許文献5)等が挙げられる。
【0007】
しかし、前者の方法では、スペーサーとして長鎖アルキル基又はアルコキシ基等を導入しないと付加反応が進行せず、また、後者の方法では、副生する酸の中和剤として共存させる3級アミンがオキシハロゲン化リンと反応し、ポリリン酸が副生する場合がある等、技術的に充分な方法とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2674431号
【特許文献2】特開平9−48855号公報
【特許文献3】特開平9−157397号公報
【特許文献4】特許第3485939号
【特許文献5】特許第2923722号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、シリコーンオイルを始め各種溶剤に優れた溶解性を有し、且つ塗料添加剤、離形剤、剥離剤、繊維処理剤等として各種分野で有用なリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンを提供すること、及び、反応時間を短縮し、副生成物の生成を抑制しつつ、効率よくリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンを製造するための製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、下記一般式(I)
【化1】

(式中、Rは全て同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜30のハロゲン置換又は非置換の一価炭化水素基、Rは炭素数1〜8の直鎖又は分岐を含むアルキレン基、Rは炭素数2〜12の直鎖又は分岐を含むアルキレン基である。bは1〜50の整数であり、Zは3である。R11は下記一般式(II)で表される有機基である。
【化2】

(式中、Rは前述と同様である。Rは炭素数1〜30のハロゲン置換又は非置換の一価炭化水素基であり、aは1〜1000の整数である。))
で表されるリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンを提供する。
【0011】
このような本発明のリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンは、シリコーンオイルを始めとする各種溶剤に対して優れた溶解性を有するので、各種分野で有効に活用することができる。
【0012】
この場合、前記一般式(I)及び(II)のRがメチル基であることが好ましい。
このように、Rがメチル基のものであれば、撥水性、離型性等により優れるほか、原料の入手が容易で工業的に製造し易いものとなる。
【0013】
また、前記一般式(I)において、Rが炭素数2〜4の直鎖又は分岐を含むアルキレン基であることが好ましい。
このように、Rが炭素数2〜4の直鎖又は分岐を含むアルキレン基であれば、シリコーンオイルとの相溶性により優れるほか、工業的にも製造し易いものとなる。
【0014】
また、前記リン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンの純度が75モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましい。
このように、純度が75モル%以上のものであれば、各種溶剤に対して好ましく用いることができ、各種特性にも優れ、保存安定性も良好なものとなる。
【0015】
更に、本発明は、下記一般式(III)
【化3】

(式中、bは1〜50の整数である。R12は全て同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜30のハロゲン置換もしくは非置換の一価炭化水素基、又は下記一般式(IV)で表される有機基であり、
【化4】

(式中、Rは全て同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜30のハロゲン置換又は非置換の一価炭化水素基、Rは炭素数1〜30のハロゲン置換又は非置換の一価炭化水素基であり、aは1〜1000の整数である。)
は炭素数1〜8の直鎖又は分岐を含むアルキレン基、Rは炭素数2〜12の直鎖又は分岐を含むアルキレン基である。)
で表されるカルビノ−ル変性シリコーンを、求核試薬共存下、下記一般式(V)
POX (V)
(式中、Xはハロゲン原子である。)
で表される化合物1モルに対して3モル以上反応させることにより、下記一般式(VI)
【化5】

(式中、R12、R、R、bは前述と同様である。Zは3である。)
で表されるリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンを製造することを特徴とするリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンの製造方法を提供する。
【0016】
このような本発明の製造方法を用いれば、各種分野に有用なリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンを容易に製造することができる。
【0017】
この場合、前記求核試薬として、有機リチウム化合物を用いることが好ましい。
このように、カルビノール変性シリコーンとオキシハロゲン化リンを反応させる際、有機リチウム化合物を求核試薬として用いれば、有機リチウム化合物の高い反応性により、反応をより容易に行うことができる。
【0018】
また、前記一般式(V)で表される化合物1モルに対し、前記一般式(III)で表されるカルビノール変性シリコーンを3〜12モル反応させることが好ましい。
【0019】
このモル比で反応させることにより、前記一般式(VI)で表されるリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンをより高収率で得ることができる。
このように、本発明の製造方法は、前記一般式(VI)で表されるリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンを高収率で得ることができ、ポリリン酸の副生もない。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明のリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンは、シリコーンオイルを始め各種溶剤に優れた溶解性を有し、塗料添加剤、離形剤、剥離剤、繊維処理剤等として各種分野で有用であり、また、本発明の製造方法によれば、副生成物の生成を抑制しつつ、反応時間も短縮でき、効率よく容易に上記のようなリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
上述のように、従来のリン酸エステル変性シリコーンは、特定の分野での利用を目的として用いられていたため、幅広い分野で用いることができるものがなく、また、その製造に際しても、長時間を要したり、不要な副生成物が生成してしまうという問題があった。
【0022】
そこで本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、下記一般式(I)で表されるリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンであれば、上記課題を達成できることを見出し、各種溶剤に優れた溶解性を有し、幅広い分野で好適に用いることのできるリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンを完成させるに至った。
【0023】
即ち、本発明のリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンは、下記一般式(I)
【化6】

(式中、Rは全て同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜30のハロゲン置換又は非置換の一価炭化水素基、Rは炭素数1〜8の直鎖又は分岐を含むアルキレン基、Rは炭素数2〜12の直鎖又は分岐を含むアルキレン基である。bは1〜50の整数であり、Zは3である。R11は下記一般式(II)で表される有機基である。
【化7】

(式中、Rは前述と同様である。Rは炭素数1〜30のハロゲン置換又は非置換の一価炭化水素基であり、aは1〜1000の整数である。))
で表されるものである。
【0024】
前記一般式(I)において、Rで示される炭素数1〜30のハロゲン置換又は非置換の一価炭化水素基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、テトラデシル、オクタデシル、ドコシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基等のアリール基;ベンジル等のアラルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;クロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等の炭化水素基等が例示され、全て同一でも異なっていても良い。これらの中で炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。Rの50%以上、特に80%以上がメチル基であることが最も好ましい。
【0025】
で示される炭素数1〜8の直鎖又は分岐を含むアルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレンが挙げられるが、好ましくは炭素数2〜6、より好ましくは炭素数2〜4、特に好ましくは炭素数3のプロピレン基である。Rで示される炭素数2〜12の直鎖又は分岐を含むアルキレン基としては、Rで示したアルキレン基の他に、ノナメチレン、デカメチレン、ウンデカメチレン、ドデカメチレン基等が挙げられ、最も好ましいのはエチレン基である。
【0026】
前記一般式(II)において、RはRと同様な基が例示され、好ましくは非置換のアルキル基であり、より好ましくは炭素数2〜10のアルキル基、更に好ましくは2〜6のアルキル基、特に好ましいのはブチル基である。
【0027】
前記一般式(II)において、aは1〜1000の整数であるが、リン酸基の特性を有効に活用するためには、2〜300、特に2〜100であることが好ましい。
前記一般式(I)において、bは1〜50の整数であるが、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜3である。
【0028】
このような本発明のリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンは、以下に説明する、本発明方法により製造することができる。
本発明は、下記一般式(III)
【化8】

(式中、bは1〜50の整数である。R12は全て同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜30のハロゲン置換もしくは非置換の一価炭化水素基、又は下記一般式(IV)で表される有機基であり、
【化9】

(式中、Rは全て同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜30のハロゲン置換又は非置換の一価炭化水素基、Rは炭素数1〜30のハロゲン置換又は非置換の一価炭化水素基であり、aは1〜1000の整数である。)
は炭素数1〜8の直鎖又は分岐を含むアルキレン基、Rは炭素数2〜12の直鎖又は分岐を含むアルキレン基である。)
で表されるカルビノ−ル変性シリコーンを、求核試薬共存下、下記一般式(V)
POX (V)
(式中、Xはハロゲン原子である。)
で表される化合物1モルに対して3モル以上反応させることにより、下記一般式(VI)
【化10】

(式中、R12、R、R、bは前述と同様である。Zは3である。)
で表されるリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンを製造することを特徴とするリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンの製造方法を提供する。
【0029】
このような本発明の製造方法を用いれば、上述した本発明のリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサン等、所望のリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンを、副生成物の生成を抑制しつつ、短時間で効率よく容易に得ることができる。
【0030】
前記一般式(III)において、R12で示される炭素数1〜30のハロゲン置換又は非置換の一価炭化水素基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、テトラデシル、オクタデシル、ドコシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基等のアリール基;ベンジル等のアラルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;クロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等の炭化水素基等が例示される。
【0031】
また、R12が前記一般式(IV)で表される有機基である場合、Rとしては前記一般式(I)中のRと同様のものが、Rとしては前記一般式(II)中のRと同様のものが好ましく挙げられる。
【0032】
また、前記一般式(III)、(IV)、(VI)中のR、R、a、bとしては、前記一般式(I)、(II)中のR、R、a、bと同様のものが好ましく挙げられる。
【0033】
尚、例えば前記一般式(I)において、Z=3であるので、Rで示される基も3つ存在することになるが、その場合、3つのRは、全て同一でも異なっていても良い。
このことは、他のRで表される基、a、及びbについても同様である。
【0034】
反応に使用するカルビノール変性オルガノポリシロキサンは、公知の方法(例えば特許第3812647号、特開昭62−195389号公報等)に記載の方法を利用して製造するか、オルガノハイドロジェンポリシロキサンにアリルアルコール、2−アリルオキシエチルアルコール等を反応させても得ることができる。オルガノポリシロキサンの形状は、環状、分岐、直鎖状の何れでも良いが、反応が円滑に進むのは直鎖状であり、カルビノール変性部位が末端に位置するもの、特に片末端に位置する場合は反応率が最も良い。
【0035】
もう1つの原料である、前記一般式(V)で表される化合物、即ちオキシハロゲン化リンとしては、例えば、オキシ塩化リン、オキシ臭化リン、オキシヨウ化リン等が挙げられ、特に好ましいのはオキシ塩化リンである。
【0036】
本発明で用いる求核試薬とは、グリニャール試薬や有機リチウム化合物を代表とする有機金属試薬であり、特に有機リチウム化合物が好ましく、例えばn−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、フェニルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)及び、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド(LiHMDS)等を挙げることができる。これらの中でもn−ブチルリチウムが特に好ましい。また、求核試薬は、前記一般式(III)で表されるカルビノール変性オルガノポリシロキサン1モルに対し1〜5モル、好ましくは1〜2モルである。
【0037】
原料のカルビノール変性オルガノポリシロキサンと、前記一般式(V)で表されるオキシハロゲン化リンの反応比は、前記一般式(V)で表されるオキシハロゲン化リン1モルに対し、前記一般式(III)で表されるカルビノール変性シリコーンを3モル以上(即ち、前記一般式(V)で表されるオキシハロゲン化リンのハロゲン原子1個に対して1モル以上)、好ましくは3〜12モル、より好ましくは3〜6モル、特に好ましくは3〜4.5モルである。
【0038】
上記反応は、有機溶剤中で行っても良い。有機溶剤としては、原料のカルビノール変性オルガノポリシロキサンとオキシハロゲン化リンの両成分及び求核試薬と相溶性があり、反応を妨げない有機溶剤であればよく、例えば、トルエン、キシレン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒が挙げられる。溶剤量は、特に限定しないが、カルビノール変性シリコーンに対して10倍量以下が好ましく、等量以下でも可能である。
【0039】
反応条件の一例としては、以下のものが挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
最初に低温下、好ましくは−80〜20℃、より好ましくは−40〜10℃、特に好ましくは−10〜5℃で、カルビノール変性オルガノポリシロキサンと求核試薬を0.1〜5時間程度反応させたあと、オキシハロゲン化リンを加えて0.5〜6時間程度反応させる。反応は、低温下で進めることが好ましいが、0〜40℃にて0.5〜10時間程度熟成させるとより好ましい。反応を終了させる方法としては、水やメタノール、エタノール等のアルコール系溶剤の添加が挙げられるが、このとき発熱する場合もあるので、低温下、特に10℃以下で行うことが好ましい。
【0040】
反応終了後、水やメタノールやエタノール、2−プロパノール等のアルコール系溶剤を加えて、攪拌又は振盪し分離させることで、生成した塩や副生成物を除去することができる。目的化合物が、水相と分層し難いとき、あるいは乳化してしまう場合は、解乳化性のあるアルコール系溶剤を用いると良い。また、水と混和し難い溶剤、例えばクロロホルムやトルエン、ブタノール等を加えても良い。反応終了後、又は抽出洗浄後、残存する溶剤を留去し、塩が析出した場合はそれらを濾別しても良い。
【0041】
尚、本発明の製造方法により製造されるリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンには、その特性を妨げない範囲で、それぞれの用途に応じて、色素、可塑剤、繊維、防腐剤、酸化防止剤その他相溶化剤等を混合することもできる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び参考例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例等に制限されるものではない。
[実施例1〜4、参考例1〜2]
(実施例1)
[式2]265g(0.18mol)、テトラヒドロフラン136gを混合し−40℃に冷却した。リチウムジイソプロピルアミド(LDA)(1mol/lTHF溶液)200ml(0.20mol)を滴下し90分反応させた後、オキシ塩化リン[式1]7.8g(0.05mol)を添加し1時間反応させた。25℃まで温度を上げさらに2時間熟成させた後、濃塩酸42gを加え反応を終了させた。メタノールで洗浄し溶剤を留去することによって粘度48mm/s、屈折率1.4115の下記[式3]を得た。
【化11】

【0043】
得られた組成物の置換率(Z´=1、2、3)は、31P−NMRにて決定した。
ケミカルシフトは、Z´=1、2、3の順に、3.0〜2.0ppm、2.0〜0.5ppm、0.5〜−0.5ppmとなるため、その積分比より置換率を求めることができる。
[式3]の置換率は、Z´=3のもの(本発明の化合物)が99モル%、Z´=2のものが1モル%であった。
【0044】
(実施例2)
下記[式4]224g(0.07mol)、テトラヒドロフラン72gを混合し−40℃に冷却した。リチウムジイソプロピルアミド(LDA)(1mol/lTHF溶液)120ml(0.12mol)を滴下し90分反応させた後、オキシ塩化リン[式1]3.1g(0.02mol)を添加し3時間反応させた。濃塩酸21gを加え反応を終了させた後、メタノールで洗浄し、溶剤を留去することによって粘度60mm/s、屈折率1.4080の下記[式5]を得た。また、31P−NMRより求めた置換率は、Z´=3のもの(本発明の化合物)が93モル%、Z´=2のものが7モル%であった。
【化12】

【0045】
(実施例3)
下記[式6]302g(0.12mol)、テトラヒドロフラン151gを混合し−40℃に冷却した。n−ブチルリチウム(1.6mol/lヘキサン溶液)74ml(0.12mol)を滴下し90分反応させた後、オキシ塩化リン[式1]5.4g(0.035mol)を添加し1時間反応させた。温度を25℃まで上げてさらに2時間熟成させた後、水5gを加え反応を終了させた。メタノールで洗浄し、溶剤を留去することによって粘度65mm/s、屈折率1.4082の下記[式7]を得た。また、31P−NMRより求めた置換率は、Z´=3のもの(本発明の化合物)が83モル%、Z´=2のものが17モル%であった。
【化13】

【0046】
(実施例4)
上記[式6]225g(0.09mol)、テトラヒドロフラン131gを混合し−5℃に冷却した。n−ブチルリチウム(1.6mol/lヘキサン溶液)56ml(0.09mol)を滴下し90分反応させた後、オキシ塩化リン[式1]3.8g(0.025mol)を添加し1時間反応させた。温度を25℃まで上げてさらに2時間熟成させた後、水4.9gを加え反応を終了させた。メタノールで洗浄し、溶剤を留去することによって粘度75mm/s、屈折率1.4085の下記[式8]を得た。また、31P−NMRより求めた置換率は、Z´=3のもの(本発明の化合物)が95モル%、Z´=2のものが5モル%であった。
【化14】

【0047】
(参考例1)
上記[式2]290g(0.20mol)、テトラヒドロフラン120g、トリエチルアミン20g(0.20mol)を混合し−40℃に冷却した。オキシ塩化リン[式1]8.6g(0.056mol)を添加し6時間反応させた。温度を25℃まで上げてさらに12時間熟成させ反応を終了させた。メタノールで洗浄し、溶剤を留去することによって粘度36.3mm/s、屈折率1.4096の下記[式9]を得た。また、31P−NMRより求めた置換率は、Z´=3のものが69モル%、Z´=2のものが31モル%で、[式3]と比べて低いものであった。
【化15】

【0048】
(参考例2)
上記[式6]300g(1.20mol)、テトラヒドロフラン120g、トリエチルアミン11g(0.11mol)を混合し−40℃に冷却した。オキシ塩化リン[式1]5.1g(0.033mol)を添加し6時間反応させた。温度を25℃まで上げてさらに12時間熟成させ反応を終了させた。メタノールで洗浄し、溶剤を留去することによって粘度76mm/s、屈折率1.4075の下記[式10]を得た。また、31P−NMRより求めた置換率は、Z´=3のものが57モル%、Z´=2のものが42モル%、Z´=1のものが1モル%で、[式8]と比べて低いものであった。
【化16】

【0049】
上記のように、実施例1〜4では、所望のリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンを、短時間で得ることができた。また、実施例1〜4のいずれにおいても、副生成物の生成は見られなかった。
一方、参考例1〜2では、リン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンを得るための反応に18時間と、実施例1〜4の6倍もの時間がかかってしまった。また、トリエチルアミンがオキシ塩化リンと反応し、副生成物が生成した。
【0050】
[参考例3〜6]
実施例1で得られたリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンを用いたものを参考例3、更に[式3]と同じ長さでZ´=3の割合が異なるリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンを用いたものを参考例4〜6として、各種溶剤に対する溶解性のテストを行った。
Z´=3の割合、用いた溶剤、及び溶解性のテストの結果を表1に示す。
尚、表中、◎=溶解、○=微濁、△=白濁である。
【表1】

【0051】
表1に示されるように、Z´=3の割合が多くなる程、各種溶剤に対して優れた溶解性を有することがわかる。
特に、純度が75モル%以上のものであれば、各種溶剤に対しての溶解性が格段に高くなり、80モル%以上のものであれば、各種溶剤に対しての溶解性が更に高くなることが確認できた。
【0052】
以上のことから、本発明のリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンは、シリコーンオイルを始め各種溶剤に優れた溶解性を有しており、塗料添加剤、離形剤、剥離剤、繊維処理剤等として各種分野で好適に用いることができることが実証された。
また、本発明の製造方法によれば、副生成物の生成を抑制しつつ、反応時間も短縮でき、効率よく容易に上記のようなリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンを得ることができることも実証された。
【0053】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

(式中、Rは全て同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜30のハロゲン置換又は非置換の一価炭化水素基、Rは炭素数1〜8の直鎖又は分岐を含むアルキレン基、Rは炭素数2〜12の直鎖又は分岐を含むアルキレン基である。bは1〜50の整数であり、Zは3である。R11は下記一般式(II)で表される有機基である。
【化2】

(式中、Rは前述と同様である。Rは炭素数1〜30のハロゲン置換又は非置換の一価炭化水素基であり、aは1〜1000の整数である。))
で表されるリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサン。
【請求項2】
前記一般式(I)及び(II)のRがメチル基であることを特徴とする請求項1に記載のリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサン。
【請求項3】
前記一般式(I)において、Rが炭素数2〜4の直鎖又は分岐を含むアルキレン基であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサン。
【請求項4】
純度が75モル%以上である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサン。
【請求項5】
下記一般式(III)
【化3】

(式中、bは1〜50の整数である。R12は全て同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜30のハロゲン置換もしくは非置換の一価炭化水素基、又は下記一般式(IV)で表される有機基であり、
【化4】

(式中、Rは全て同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜30のハロゲン置換又は非置換の一価炭化水素基、Rは炭素数1〜30のハロゲン置換又は非置換の一価炭化水素基であり、aは1〜1000の整数である。)
は炭素数1〜8の直鎖又は分岐を含むアルキレン基、Rは炭素数2〜12の直鎖又は分岐を含むアルキレン基である。)
で表されるカルビノ−ル変性シリコーンを、求核試薬共存下、下記一般式(V)
POX (V)
(式中、Xはハロゲン原子である。)
で表される化合物1モルに対して3モル以上反応させることにより、下記一般式(VI)
【化5】

(式中、R12、R、R、bは前述と同様である。Zは3である。)
で表されるリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンを製造することを特徴とするリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項6】
前記求核試薬として、有機リチウム化合物を用いることを特徴とする請求項5に記載のリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項7】
前記一般式(V)で表される化合物1モルに対し、前記一般式(III)で表されるカルビノール変性シリコーンを3〜12モル反応させることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のリン酸エステル基含有オルガノポリシロキサンの製造方法。

【公開番号】特開2011−173999(P2011−173999A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39567(P2010−39567)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】