説明

リーフスプリング支持構造

【課題】車軸を車体にリーフスプリングを介して懸架する車両において、車乗り心地を改善できるとともに、耐久性に優れ、しかも簡単な構造で製造コストを低減すること。
【解決手段】車体の一部を構成するとともに車体の前後方向Hに延設された車体フレーム20と、車体フレーム20に締結され、リーフスプリング30の前端部31及び後端部32を車両の上下方向への移動を規制するとともに、前後方向Hに摺動させて支持する支持部45を有するブラケット部材40とを具備し、ブラケット部材40は、前後方向Hに交差する断面が車体フレーム20との組み合わせで閉断面に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車軸を車体に懸架するリーフスプリングを車体に支持するためのリーフスプリング支持構造に関し、特に部品点数を削減し、低コスト化を実現できるものに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車軸をリーフスプリングを介して車体フレームに懸架するようにしたリーフサスペンション装置が広く用いられている。リーフサスペンション装置は、構造が簡単で、しかも大きな荷重に耐え、さらに耐久性に優れているために、トラック等の車両に広く用いられている。
【0003】
リーフスプリングを車体に支持するためのリーフスプリング支持構造として、図5に示すものが知られている(例えば、特許文献1参照)。図5において、101は車体フレーム、102は開口を下に向けたコ字状の第1ブラケット、103は補強用の第2ブラケット、104はピンを示している。ピン104には、リーフスプリング105の端部105aが係合している。端部105aは、丸め加工されており、リーフスプリング105が回動自在に支持されている。なお、第1ブラケット102と第2ブラケット103とは溶接されている。
【0004】
図6は、別のリーフスプリング支持構造を示す側面図である。図6において、110は車体フレーム、111はフロントアクスル(車軸)、112はショックアブソーバ、113はリーフスプリングを示している。車体フレーム110には、スプリングブラケット114を介してスプリングシャックル115が取り付けられ、このスプリングシャックル115にリーフスプリング113の端部が回動自在に取り付けられている。
【0005】
スプリングシャックル115は、図7,図8に示すように、一対の板材116,116と、これら板材116,116を連結するピン117,117と、これらピン117,117の外周に配置されたゴムブッシュ118と、ピン117,117を固定するナット119及びワッシャ120を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭58−54979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したリーフスプリング支持構造では、次のような問題があった。すなわち、スプリングシャックル構造は、リーフスプリング113の端部を支持するシャックル部にゴムブッシュ118が用いられているため、抵抗力及び摩擦力が大きくなり、乗り心地が悪くなるという問題があった。また、ゴムブッシュの寿命が問題であった。一方、構造が複雑であり、部品点数が多く、しかも剛性の高いリーフスプリング113の端部を丸め加工しなければならないため、製造コストが高くなるという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、乗り心地を改善できるとともに、耐久性に優れ、しかも簡単な構造で製造コストを低減できるリーフスプリング支持構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決し目的を達成するために、本発明のリーフスプリング支持構造は次のように構成されている。
【0010】
(1)車軸を車体に懸架するリーフスプリングを車体に支持するためのリーフスプリング支持構造において、前記車体の一部を構成するとともに車体の前後方向に延設された車体フレームと、この車体フレームに締結され、前記リーフスプリングの前端部及び後端部を前記車両の上下方向への移動を規制するとともに、前記前後方向に摺動させて支持する支持部を有するブラケット部材とを具備し、前記ブラケット部材は、前記前後方向に交差する断面が前記車体フレームとの組み合わせで閉断面に形成されている。
【0011】
(2)(1)に記載のリーフスプリング支持構造において、前記ブラケット部材は自動車用圧延鋼板である。
【0012】
(3)(1)に記載のリーフスプリング支持構造において、前記車体フレームは、垂直メンバと水平メンバを有する部材から形成され、前記ブラケット部材は、前記垂直メンバと前記水平メンバにそれぞれ固定されている部位を有する。
【0013】
(4)(1)に記載のリーフスプリング支持構造において、前記リーフスプリングと接する部位に炭素鋼鋳鋼のスプリングシートが設けられている。
【0014】
(5)(4)に記載のリーフスプリング支持構造において、前記スプリングシートは、予め金型内にインサートし、前記ブラケット部材と溶融接合させるよう鋳造されている。
【発明の効果】
【0015】
(1)に記載されたリーフスプリング支持構造によれば、構造が単純であるため、耐久性に優れ、しかも簡単な構造で製造コストを低減できる。また、リーフスプリングが摺動することで支持されているので、乗り心地も改善できる。
【0016】
(2)に記載されたリーフスプリング支持構造によれば、耐久性が向上する。
【0017】
(3)に記載されたリーフスプリング支持構造によれば、上下方向の移動を規制するため、乗り心地をさらに改善できる。
【0018】
(4)に記載されたリーフスプリング支持構造によれば、耐摩耗性の高い材料を用いることで、耐久性を向上させることができる。
【0019】
(5)に記載されたリーフスプリング支持構造によれば、溶接工程が不要となり、製造コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るリーフスプリング支持構造を示す縦断面図。
【図2】同リーフスプリング支持構造を一部切欠して示す側面図。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係るリーフスプリング支持構造を示す縦断面図。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係るリーフスプリング支持構造を示す縦断面図。
【図5】従来のリーフスプリング支持構造の一例を示す縦断面図。
【図6】従来のリーフスプリング支持構造の別の例を示す側面図。
【図7】同リーフスプリング支持構造の要部を示す縦断面図。
【図8】同リーフスプリング支持構造の要部を示す分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るリーフスプリング支持構造10を示す縦断面図、図2はリーフスプリング支持構造10を一部切欠して示す側面図である。なお、図中矢印Hは前後方向、Vは上下方向を示している。
【0022】
リーフスプリング支持構造10は、車軸を車体に懸架するリーフスプリングを車体に支持する構造である。リーフスプリング支持構造10は、車体の一部を構成するとともに車体の前後方向Hに延設された車体フレーム20と、車体フレーム20に締結され、リーフスプリング30の前端部31及び後端部32を車両の上下方向Vへの移動を規制するとともに、前後方向Hに摺動させて支持する支持部45を有するブラケット部材40とを備えている。
【0023】
車体フレーム20は、垂直メンバ21と水平メンバ22を有する部材が一体に形成されている。
【0024】
ブラケット部材40は、自動車用圧延鋼板(例えば、SAPH440、SAPH等)から形成された2枚の板材41,42から構成されている。板材41は、上部に開口した箱型に折曲され、その一端41aは、車体フレーム20の垂直メンバ21にリベットRにより固定され、他端41bは、車体フレーム20の水平メンバ22にボルトBにより締結されている。なお、開口部分は車体フレーム20の水平メンバ22により閉塞されている。このため、前後方向Hに交差する断面(図2中X−X線で示す)が、ブラケット部材40の板材41と車体フレーム20の水平メンバ22との組み合わせで閉断面に形成されている。
【0025】
板材42は、閉断面内を水平方向に仕切って配置され、板材41に溶接されて固定されている。また、板材42の下側の矩形状の空間Sは、リーフスプリング30の端部を摺動可能に支持する支持部45が形成されている。
【0026】
支持部45には、耐摩耗性に優れた炭素鋼鋳鋼(例えば、SC450等)のスプリングシート70が配置され、板材41,42に溶接されている。
【0027】
なお、この支持部45には、リーフスプリング30の前端部31又は後端部32が挿入される。このとき、前端部31又は後端部32は、上方へ僅かに湾曲させるために曲げ加工が行われている。曲げ加工が行われていると、大きくリーフスプリング30が移動した場合であっても、前端部31又は後端部32が支持部45から抜け出すことを防止できる。
【0028】
このように構成されたリーフスプリング支持構造10を用いた車両では、構造が単純なブラケット部材40を用いてリーフスプリング30の前端部31又は後端部32を支持するとともに、リーフスプリング30の前端部31又は後端部32に特殊な加工を施す必要が無いので、製造コストを低減できる。また、ブラケット部材40の材料として自動車用圧延鋼板を用いているので、耐久性に優れている。
【0029】
一方、ブラケット部材40と車体フレーム20の水平メンバ22により閉断面が形成されており、剛性が高くなり、乗り心地が改善される。さらに、支持部45にリーフスプリング30が摺動することで支持されているので、上下方向の振動が滑らかに前後方向の変位に転換され、乗り心地が改善される。
【0030】
また、スプリングシート70は、炭素鋼鋳鋼であり耐磨耗性が優れているため、交換頻度を軽減できる。
【0031】
上述したように、リーフスプリング支持構造10によれば、乗り心地を改善できるとともに、耐久性に優れ、しかも簡単な構造で製造コストを低減できる。
【0032】
なお、図2中破線Qで示すようにリーフスプリング30の端部を湾曲させる加工を行わなくてもよい。リーフスプリング30の長さが十分にあれば、リーフスプリング30の前端部31又は後端部32が支持部45から抜け落ちる可能性が無いからである。なお、丸め加工の工程を省略できることになり、さらに製造コストを低減できる。
【0033】
図3は、本発明の第2の実施の形態に係るリーフスプリング支持構造10Aを示す縦断面図である。なお、図3において、図1,2と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0034】
本実施の形態では、上述したブラケット部材40の代わりに、ブラケット部材50を用いている。ブラケット部材50は、自動車用圧延鋼板から形成された3枚の板材51,52,53,54から構成されている。板材51は、上下方向に配置され、その一端51aは、車体フレーム20の垂直メンバ21にリベットRにより固定され、他端51bは、下方に向けられている。板材52は、上下方向に配置され、その一端52aは水平方向に折曲され、車体フレーム20の水平メンバ22にボルトBにより締結され、他端52bは、下方に向けられている。板材53は、板材51の他端51bと板材52の他端52bとの間に亘って水平方向に配置され、それぞれ溶接により接合されている。なお、開口部分は車体フレーム20の水平メンバ22により閉塞されている。このため、前後方向Hに交差する断面が、ブラケット部材50の板材51〜53と車体フレーム20の水平メンバ22との組み合わせで閉断面に形成されている。
【0035】
板材54は、閉断面内を水平方向に仕切って配置され、板材51,52に溶接されて固定されている。また、板材53と板材54との間の矩形状の空間Sは、リーフスプリング30の端部を摺動可能に支持する支持部55が形成されている。
【0036】
支持部55には、耐摩耗性に優れた炭素鋼鋳鋼のスプリングシート70が配置され、板材51〜54に溶接されている。
【0037】
なお、この支持部55には、リーフスプリング30の前端部31又は後端部32が挿入される。
【0038】
このように構成されたリーフスプリング支持構造10Aを用いた車両では、上述したリーフスプリング支持構造10と同様の効果を得ることができる。なお、ブラケット部材50はブラケット部材40に比べ、部材点数は増えるが、折曲工程が少なくなるというメリットがある。
【0039】
図4は、本発明の第3の実施の形態に係るリーフスプリング支持構造10Bを示す縦断面図である。なお、図4において、図1〜3と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0040】
本実施の形態では、上述したブラケット部材40の代わりに、ブラケット部材60を用いている。ブラケット部材60は、球状黒鉛鋳鉄(例えば、FCD500等)から形成され、大きく分けて、4つの部位61,62,63,64から構成されている。部位61は、上下方向に配置され、その一端61aは、車体フレーム20の垂直メンバ21にリベットRにより固定され、他端61bは、下方に向けられている。板材62は、上下方向に配置され、その一端62aは水平方向に折曲され、車体フレーム20の水平メンバ22にボルトBにより締結され、他端62bは、下方に向けられている。部位63は、部位61の他端61bと部位62の他端62bとの間に亘って水平方向に配置されている。なお、開口部分は車体フレーム20の水平メンバ22により閉塞されている。このため、前後方向Hに交差する断面が、ブラケット部材60の部位61〜63と車体フレーム20の水平メンバ22との組み合わせで閉断面に形成されている。
【0041】
部位64は、閉断面内を水平方向に仕切って配置されている。また、部位63と部位64との間の矩形状の空間Sは、リーフスプリング30の端部を摺動可能に支持する支持部65が形成されている。
【0042】
支持部65には、耐摩耗性に優れた炭素鋼鋳鉄製のスプリングシート70が配置されている。スプリングシート70は、予め金型内にインサートし、ブラケット部材60を鋳造される際に一体に形成される。
【0043】
このように構成されたリーフスプリング支持構造10Bを用いた車両では、上述したリーフスプリング支持構造10と同様の効果を得ることができる。なお、ブラケット部材60は溶接工程が不要となり、製造コストを低減できるというメリットがある。
【0044】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能であるのは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、車軸を車体にリーフスプリングを介して懸架する車両において、車乗り心地を改善できるとともに、耐久性に優れ、しかも簡単な構造で製造コストを低減できるリーフスプリング支持構造を提供できる。
【符号の説明】
【0046】
10,10A,10B…リーフスプリング支持構造、20…車体フレーム、21…垂直メンバ、22…水平メンバ、30…リーフスプリング、40,50,60…ブラケット部材、45…支持部、70…スプリングシート、H…前後方向、V…上下方向、R…リベット、B…ボルト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸を車体に懸架するリーフスプリングを車体に支持するためのリーフスプリング支持構造において、
前記車体の一部を構成するとともに車体の前後方向に延設された車体フレームと、
この車体フレームに締結され、前記リーフスプリングの前端部及び後端部を前記車両の上下方向への移動を規制するとともに、前記前後方向に摺動させて支持する支持部を有するブラケット部材とを具備し、
前記ブラケット部材は、前記前後方向に交差する断面が前記車体フレームとの組み合わせで閉断面に形成されていることを特徴とするリーフスプリング支持構造。
【請求項2】
前記ブラケット部材は自動車用圧延鋼板であることを特徴とする請求項1に記載のリーフスプリング支持構造。
【請求項3】
前記車体フレームは、垂直メンバと水平メンバを有する部材から形成され、前記ブラケット部材は、前記垂直メンバと前記水平メンバにそれぞれ固定されている部位を有することを特徴とする請求項1に記載のリーフスプリング支持構造。
【請求項4】
前記リーフスプリングと接する部位に炭素鋼鋳鋼のスプリングシートが設けられていることを特徴とする請求項1に記載のリーフスプリング支持構造。
【請求項5】
前記スプリングシートは、予め金型内にインサートし、前記ブラケット部材と溶融接合させるよう鋳造することを特徴とする請求項4に記載のリーフスプリング支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−73625(P2011−73625A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228403(P2009−228403)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】