説明

ルツボ保持部材

【課題】充分な強度を確保しつつ、周方向に強い張力が働いたときにも形状の安定した容器保持部材を提供する。
【解決手段】シリコン融液を収容する石英ルツボを保持するものであり、複数の炭素繊維からなるストランド22を、中心軸Lに対して斜めに配向するように織り合せて形成した、有底カゴ状のメッシュ体20と、炭素繊維間に充填されたマトリックスとで構成されている。メッシュ体20は、メッシュ体20の中心軸Lに対して所定の傾斜角度θで配向するストランド22A,22B、及び、メッシュ体20の中心軸Lと同一面内に配向する縦ストランド22Cを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶引上げに使用する石英ルツボを保持するためのルツボ保持部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン単結晶引上げ装置には、耐熱性が高い、熱衝撃性が高い、シリコンを汚染しにくいといった理由から、カーボン材料が多用されている。特に等方性黒鉛材は高密度であるため装置内で発生するSiO等の反応性ガスと反応しにくく、シリコン融液を収容する石英ルツボの材料であるSiOとの反応速度が遅いといった特徴があることから、石英ルツボの周囲を保持する黒鉛ルツボに使用されている。
【0003】
近年、シリコンウエハーは歩留まり向上、生産性改善のため大径化が進み、300mmウエハーが主流になりつつある。更なる大口径化ウエハーの開発も進められており、400mmを超えるウエハーも開発が進められている。このため、ウエハーの大口径化に伴い、シリコン単結晶引上げ装置は大型化が進んでおり、装置に使用する黒鉛ルツボの重量が非常に大きくなり、装置へのセッティング等の取り扱いが困難になってきている。
また、等方性黒鉛材の製造工程では静水圧でのプレス工程が必要であり、黒鉛製品の直径の1.5倍程度のCIP(COLD ISOSTATIC PRESS)装置を必要とする。大型の黒鉛ルツボに等方性黒鉛材を使用するには、従来のCIP装置では直径が足りず、より大きな装置が必要となる。
【0004】
CIP装置を使用せずに大型の黒鉛ルツボを製造し得る技術としては、フィラメントワインディング法により炭素繊維をルツボ形状に成形した後、これにマトリックスとして樹脂やピッチを含浸させ、焼成して炭素/炭素繊維複合材(以下、「C/C複合材」という)製のルツボを製造する技術(例えば、特許文献1及び2参照。)や、成形型に炭素繊維からなるクロスを貼り付け、成形硬化させて炭素繊維強化プラスチックを得た後、これを含浸焼成してC/C複合材製のルツボを製造する技術(例えば、特許文献3参照。)等がある。
【特許文献1】特開平10−152391号公報
【特許文献2】特開平11−60373号公報
【特許文献3】特開平10−245275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、シリコン単結晶引き上げ装置では、シリコンを溶融させながら単結晶インゴットを製作するため、装置内はシリコンの融点(1420℃)以上に熱する必要がある。シリコンを溶融させると、黒鉛ルツボと内挿される石英ルツボが軟化し、互いに密着する。
【0006】
石英ガラスの熱膨張係数は0.6×10−6/℃であり、C/C複合材は一般に同程度であるため、単結晶インゴットの引き上げ終了後、シリコン融液がほぼなくなってから装置を冷却する際には、両者は互いに強く拘束することなく冷却される。
しかしながら、引き上げを開始した直後に停電等のトラブルによりシリコン融液が凝固すると、シリコンは凝固に伴い膨張する(約9.6%の体積膨張)性質があるため、石英ルツボ及び黒鉛ルツボを押し広げる作用が働く。
【0007】
小口径の単結晶インゴットを引き上げる装置であれば、このようなトラブルが発生しても、短時間で冷却される上、漏れ出す凝固していない融液の量は少量であるが、大口径の単結晶インゴットの引上げ装置では、このようなトラブルの発生時には冷却に時間がかかり、ひとたび漏れ出すと大量の融液が装置底部に流出し多大なるダメージを与える。
【0008】
上記特許文献1及び2のようにフィラメントワインディング法を用いて製作されたC/C複合材製のルツボは、周方向に平行な方向に巻かれる繊維が多数存在するため、非常に強度が高く大型の黒鉛ルツボに適している。しかしながら、上記のようなトラブルが発生すると、シリコン融液の凝固時に膨張するため、周方向に配向する炭素繊維を破断させようとする作用が働き、炭素繊維の破断によるC/C複合材製のルツボの割れが発生するおそれがある。
また、特許文献3のように、炭素繊維クロスを貼り付けて製作されたルツボにおいても、周方向の繊維が多数存在する。このため、上記と同様に周方向にかかる張力によるC/C複合材製のルツボの割れが発生する恐れがある。
【0009】
さらに、上記特許文献1〜3に記載のC/C複合材製のルツボの製造段階において、成形型に炭素繊維を巻き付けたり炭素繊維クロスを貼り付けたりして成形し、炭素繊維や、炭素繊維クロスの内部に樹脂等のマトリックス前駆体を含浸し、成形型とともに加熱硬化、焼成炭化した後に、成形型から離型する。これらの工程の中でも、成形型とC/C複合材製のルツボとの熱膨張率の違いによって、炭素繊維に強い張力がかかり、炭素繊維が破断することがある。
【0010】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、シリコン単結晶引上げ装置に用いる石英ルツボを保持するためのルツボ保持部材であって、充分な強度を確保しつつ、周方向に強い張力が働いたときにも形状の安定したルツボ保持部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るルツボ保持部材は、シリコン融液を収容する石英ルツボを保持するルツボ保持部材であって、前記ルツボ保持部材が、複数の炭素繊維からなるストランドを織り合せて形成したメッシュ体と、前記炭素繊維間に充填されたマトリックスとで構成され、前記メッシュ体が、前記メッシュ体の中心軸と同一面内に配向する縦ストランドと、前記メッシュ体の中心軸に対して所定の傾斜角度で配向する第一ストランドと、前記第一ストランドと同角度で逆方向に配向する第二ストランドとからなる3軸織り構造を有する。言い換えると、前記ルツボ保持部材は、複数の炭素繊維からなるストランドを3軸織りで織り合せて形成されたものであり、炭素繊維間にマトリックスが充填されている。
前記メッシュ体は、周方向に平行に配向するストランドを有しないことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るルツボ保持部材は、中心軸と同一面内に配向する縦ストランドと、中心軸に対して斜めに配向するストランドとからなる3軸織り構造を有しているので、非常に高い強度を確保できる。また、ルツボ保持部材に対して周方向に膨張するような力が作用した場合であっても、3軸織りの格子が歪むことによって周方向に広がって周方向の膨張を吸収することができるので、ルツボ保持部材の全体の形状が大きく崩れることがない。従って、高い強度を確保しつつ、形状安定性に優れたルツボ保持部材を提供することができる。
また、本発明に係るルツボ保持部材は、斜めに配向するストランドの傾斜角度を変更することで各部位の周方向の剛性を変更したり、用途に応じて周方向の剛性を変更することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係るルツボ保持部材の好適な実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本実施形態に係るシリコン単結晶引上げ装置10を示している。図1に示すシリコン単結晶引上げ装置10は、サポート15上に、シリコン融液12を収容する石英ルツボ14と、石英ルツボ14の外周面を外側から取り囲むような状態で保持するルツボ保持部材16とが載置されている。ルツボ保持部材16の外周にはヒータ18が配置されており、ヒータ18により石英ルツボ14及びルツボ保持部材16を介してシリコン融液12を加熱し、インゴット13を引き上げながらシリコン単結晶を作製する。
【0014】
ルツボ保持部材16は、炭素繊維で形成されたメッシュ体と、メッシュ体の炭素繊維間に充填されたマトリックスとで構成されている。本実施形態に係るメッシュ体を図2(A)及び(B)に示す。図2(A)及び(B)に示すメッシュ体20は、略円筒形状の胴部20Aとボウル状の底部20Bとからなる、有底略カゴ形状を有している。このメッシュ体20は、複数の炭素繊維を束ねてリボン状としたストランド22を組み糸として3軸織りに織り合わせて形成されている。すなわち、メッシュ体20は、図2(B)に示すように、メッシュ体20の中心軸Lに対して+θ度方向(0<θ<90)に傾斜配向する第一ストランド22Aと、−θ度方向に傾斜配向する第二ストランド22Bと、中心軸Lと同一面内に配向する縦ストランド22Cとから構成される3軸織り構造を有する。
【0015】
このメッシュ体20は、第一ストランド22A、第二ストランド22B及び縦ストランド22Cを組紐状に織り合わせ、3軸織り構造を形成しているので、高い強度を確保することができる。そのため、本実施形態に係るルツボ保持部材は、重量の大きい石英ルツボでもしっかりと保持することができ、大型のシリコン単結晶引上げ装置に適したルツボ保持部材とすることができる。
しかも、第一ストランド22A及び第二ストランド22Bがメッシュ体20の中心軸Lに対して傾斜しており、中心軸に直行する方向(すなわち、メッシュ体20の周方向)に配向していないので、周方向の剛性が低い構造となっている。このため、前述のような原因でルツボ保持部材16に幅方向に膨張するような力が作用した場合であっても、3軸織りの格子が歪むことによって幅方向に広がるように変形し、幅方向での膨張を吸収することができる。従って、炭素繊維の破断等が発生し難く、形状が大きく崩れることがないため、形状安定性に優れている。
【0016】
さらに、メッシュ体20は、ルツボ保持部材16の各部位に必要とされる剛性に応じて、第一ストランド22A及び第二ストランド22Bの中心軸Lに対する傾斜角度θを適宜変更することができる。傾斜角度θを変更することでメッシュ体20の周方向の剛性を調整することができるので、用途に応じて周方向の剛性を変更したり、メッシュ体20の各部位によって幅方向の剛性を変更することができる。
【0017】
例えば、ルツボ保持部材16の上部側は、シリコン融液12による荷重のかかり具合が少なく、引上げ開始直後にシリコン融液が凝固した時、シリコン融液12の体積膨張を直接受けるため、剛性を低くするために傾斜角度θを小さくすることが好ましい。一方、シリコン融液による荷重のかかり具合が大きいが、引上げ開始にシリコン融液が凝固した時であっても、石英ルツボの底部が丸みを帯びているため、シリコン融液12の体積膨張を直接受けにくいルツボ保持部材16の下部側は、剛性を大きくするよう傾斜角度θを大きくすることが好ましい。
傾斜角度θを小さくした場合、シリコン融液12の膨張が起こり横方向(周方向)に伸びても、横方向の伸びに対する縦方向(高さ方向)の収縮率が小さいため、横方向の伸びに容易に追随することができるが、傾斜角度θを大きくした場合、シリコン融液12の膨張が起こり横方向に伸びても、横方向の伸びに対する縦方向の収縮率が大きくなるため、横方向の伸びに容易に追随することができず、各ストランド22に強い力がかかり、第一ストランド22Aあるいは第2ストランド22Bが破断したり、縦ストランド22Cが座屈しやすくなる。
【0018】
ストランド22は、数万本程度の炭素繊維を束ねて形成する。ストランド22を構成する炭素繊維としては、ピッチ系の炭素繊維、PAN系の炭素繊維等を用いることができる。第一ストランド22A、第二ストランド22B、及び縦ストランド22Cを構成する炭素繊維は、それぞれ同一素材でもよいし、別素材でもよい。
ストランド22の形状はリボン状のほかに棒状等でもよい。また、ストランド22として、エポキシ樹脂等を含浸してサイジング処理したものを用いると、適度な弾力性が得られ、手作業で織り合わせる場合にも均等な周期で織り合わせやすい。
【0019】
シリコン単結晶引上げ装置10が大口径インゴットを製造できる大型のものである場合は、シリコン融液12の対流を抑えるために、シリコン融液12内で上部の温度が高く、下部の温度が低くなるように温度の傾斜がつけられるようルツボ保持部材16は特に上下方向の熱伝導率が低いものであることが好ましい。シリコン単結晶引上げ装置10が大型のものである場合は、引き上げにかかる時間も比較的長いものとなり、石英ルツボ14の中にシリコン融液12を長時間収容することになる。石英ルツボ14にシリコン融液12を長時間入れておくと石英ルツボ14からシリコン融液12中に酸素が混入しやすくなるが、シリコン融液12の対流を極力抑えることによって、酸素の混入を防止できる。
熱伝導率の低いストランドを形成する炭素繊維としては、例えば一般的な炭素質の炭素繊維(黒鉛質の炭素繊維に対して)等が挙げられる。
【0020】
ストランドを構成する炭素繊維を充填するためのマトリックス前駆体としては、焼成により炭素質や黒鉛質のマトリックスを形成できるものであれば、どのようなものであってもかまわない。焼成することにより炭素化又は黒鉛化するマトリックス前駆体としては、コプナ樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂等の炭化収率の高い熱硬化性樹脂のほか、石油系、石炭系等から得られるピッチ等を用いることができる。また、熱分解炭素やSiC等の化学気相含浸(CVI)によってマトリックスを形成することもできる。
【0021】
なお、ルツボ保持部材16の網目が小さい場合、ルツボ保持部材16に内挿した石英ルツボ14が軟化し、網目の空隙部分に食い込み、取り外しが困難になることがある。これを防止するため、ルツボ保持部材16と石英ルツボ14との間に膨張黒鉛シートや、炭素繊維の抄造シート等の炭素質あるいは黒鉛質のシートを介在させることが望ましい。
また、このような炭素質あるいは黒鉛質のシートを介在させた場合は、石英ルツボ14とルツボ保持部材16が直接触れないため、石英ルツボ14との反応によるルツボ保持部材16の劣化が起こりにくく、炭素質あるいは黒鉛質のシートのみを交換することによって、繰り返し使用することができるというメリットがある。
【0022】
以下に、図3を参照しながら、本実施形態に係るルツボ保持部材の製造方法の一例を示す。本実施形態に係るルツボ保持部材は、主に次の5工程、即ち、製織工程S1と、含浸工程S2と、硬化工程S3と、炭素化工程S4と、高純度化工程S5によって製造することができる。
【0023】
A)製織工程S1
まず、3軸織りのメッシュ体20(図2)を形成するための椀形状の成形型を用意する。成形型の材質は、特に限定されないが、後の炭素化工程等において浸炭しないよう黒鉛製の成形型を用いることが好ましい。大型のメッシュ体を形成する場合は、複数の黒鉛材片を接着剤で等の方法で組み合わせて大型の成形型を形成してもよい。この場合、接着剤はCOPNA樹脂を使用することが好ましい。COPNA樹脂を使用すると、炭素化工程を経ても接着力が保持できるからである。また、中空の成形型を使用すれば軽量であり、取り扱いが容易である。
【0024】
離型を行い易くするために、あらかじめ成形型の周囲に液体不浸透でかつ耐熱性のある離型フィルムを巻いておくことが望ましい。フィルムの材質は、液体不浸透でかつ硬化温度程度の耐熱性があれば特に材質は限定されないが、たとえばポリエチレンテレフタレート、シリコーン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、セロハン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。離型フィルムを巻いておくと、硬化するまでに分解することなく、炭素化までに分解あるいは炭化し、離型しやすくなるからである。
【0025】
複数本の炭素繊維を束ねてリボン状のストランドを形成し、3次元ブレイディング法により成形型の外周に沿ってストランドを織り合わせて、メッシュ体を形成することができる。なお、3次元ブレイディング法によるメッシュ体の形成は、公知の方法に従って行うことができる。
ストランドの製織には、市販の自動織機(例えば、豊和工業社製、TWM−32C、TRI−AX)を利用することができる。自動織機が入手困難な場合は、組紐と同じ要領で手作業でメッシュ体を形成することができる。
また、ストランドを平面状に織り合せた3軸織物を作製し、これを成形型の周囲に沿って円筒形状に丸めて接着剤等で接合することによってメッシュ体の円筒形部分を形成し、さらに、これに3次元ブレイディング法で作製した底部分を接着することによって、メッシュ体を作製してもよい。
【0026】
エポキシ樹脂等を多量に使用してサイジング処理されたストランドを用いてメッシュ体を作製し、次工程のマトリックス前駆体である樹脂の含浸が行いにくい場合には、エポキシ樹脂等のサイジング材を除去するため、メッシュ体形成後に脱脂処理を行ってもよい。脱脂処理は、通常、非酸化性雰囲気下で150〜400℃程度に加熱することによって行う。なお、この脱脂処理は多量のエポキシ樹脂等を用いてサイジング処理を施したストランドを使用した場合にのみ実施することが望ましい。
【0027】
B)含浸工程S2
製織工程S1で形成されたメッシュ体を、樹脂組成物等からなる未硬化のマトリックス前駆体中に浸して、メッシュ体にマトリックス前駆体を含浸させた原材を得る。
含浸は常圧で実施しても、加圧して実施してもよい。炭素繊維が細く、含浸するマトリックス前駆体との濡れ性が悪い場合には加圧含浸が有効である。また、マトリックス前駆体が炭素繊維に対して濡れやすいものであれば、塗布や吹き付けるだけであっても十分にストランド中に含浸することができる。
なお、含浸前に真空引きを実施すると、ストランドの内部に気孔が残りにくく、均質な原材を得ることができる。
【0028】
C)硬化工程S3
次に、マトリックス前駆体を含浸させたメッシュ体(原材)を加熱して硬化させる。硬化温度は、マトリックス前駆体の種類等によって適宜設定することができるが、硬化に伴うゲル化反応が激しく発生する温度(概ね100〜150℃前後)に設定する。ガスの拡散が十分にできるように、設定温度付近では昇温速度を落として発生ガスを十分に抜くことが重要である。
【0029】
D)炭素化工程S4
硬化工程S3で得られた原材に含まれる有機物を炭素化し、主に炭素からなるルツボ保持部材を得る。炭素化工程における処理温度としては、少なくとも600℃程度(有機ガスの放出が収まり始める温度)であることが望ましく、900℃(寸法収縮、ガスの発生が収まる温度)以上であることが特に望ましい。
離型は炭素化後に行うのが好ましい。成形型と共に炭素化すれば型崩れが少なく、形状を整えるための後加工が不要となる。後加工を省略できれば、炭素繊維が切断されることなく、ささくれのないルツボ保持部材を提供することができる。前工程で十分に硬化したものであれば炭素化工程前に離型してもよい。
この工程は、成型型を離型せずに実施する場合には、前記硬化工程S3に引き続き、(温度を下げることなく)実施することができる。すなわち、硬化工程S3を、炭素化工程S4に含めて行うことができる。
【0030】
E)高純度化工程S5
炭素化工程S4の方法で得られたルツボ保持部材を、高純度化処理して不純物を除去する。高純度化処理は公知の方法によって行うことができる。具体的には、ハロゲンガス、ハロゲン化炭化水素等の雰囲気ガス中で1500〜3000℃、1時間以上での熱処理によって行うことができる。
【0031】
なお、上記製造例ではメッシュ体を作製した後マトリックス前駆体に含浸させているが、先にストランドにマトリックス前駆体を含浸させ、このマトリックス前駆体が含浸したストランドを用いてメッシュ体を製織することもできる。すなわち含浸工程S2、製織工程S1、硬化工程S3、炭素化工程S4、高純度化工程S5の順に製作することもできる。いずれの順序においても、含浸工程S2、製織工程S1の後に硬化工程S3を実施することが望ましい。ストランドの表面に付着したマトリックスがストランド間の接着剤として機能するからである。
【0032】
また、製造効率を向上のために、図4に示す方法によって製造してもよい。図4に示す方法では、椀形の成形型31を2つ用意して開口面側で合わせ(a)、この周囲に3軸織りによって略円筒形状の3軸織物32を作製する(b)。さらにマトリックス材の含浸工程から炭素化した後(c)、中心部で2つに切断した後離型し、同時に2個の容器保持部材33を作製することができる(d)。このように作製すれば、効率的に容器保持部材を製造できる。また、開口部を小さく絞ることが出来るのでマトリックスの含浸から炭化させる間に、開口部のほつれが生じにくい。
【0033】
また、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施し得るものである。
上記実施形態においては略カゴ形状のルツボ保持部材16を示したが、本発明に係るルツボ保持部材はカゴ形状に限定されず、図5に示す略円筒形状のメッシュ体50から構成することができる。メッシュ体50が略円筒形状であることで、このため織り始めから、織り終わりまで外形の変化が小さく、織機の外径に対して織られている部分の外径の比の変化は小さく、織機には外形の変化に追随する機構が不要であるという利点がある。
その他、ルツボ保持部材16は、テーパー形状の円錐台形や、円筒形状の底部を絞った形状であってもよい。なお、円筒形の場合には、縦ストランドは中心軸と平行Lであるが、テーパー形状の円錐台形、円筒形状の底部を絞った形状の場合には、略平行となる。いずれの場合においても、中心軸と、個々の縦ストランドとは、同一面内に存在する。
また、上記実施形態においては、斜め方向に1本ずつ配向した3軸織りの形態を示したが、図6に示すように、斜め方向に2本以上のストランド62を配向させた3軸織り構造であってもよい。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例によって本発明に係るルツボ保持部材のより具体的な構成およびその製造方法を示す。なお、本発明は、これらの製造方法には限定されず、本発明に係るルツボ保持部材が得られるのであれば、どのような方法を用いて製造してもよい。
【0035】
<実施例1>
まず、メッシュ体を作製するための成形型を作製する。黒鉛製の側面板(幅600mm、長さ850mm、厚さ200mm)を6枚用意し、それぞれコーナー部の角度が60°になるよう面取りし、黒鉛材用接着剤(COPNA樹脂)を用いて張り合わせ、中空六角柱を形成する。次に黒鉛製の底板(幅736mm、長さ1700mm、厚さ200mm)を2枚用意し、中空六角柱の端面に黒鉛材用接着剤(COPNA樹脂)を用いて張り合わせ、粗成形型を形成する。そして、この粗成形型の胴部外周面を円筒形状に、底部外周面を椀形状になるように研削加工して成形型(直径1400mm、高さ600mm)を作製する。
次に、24000本の炭素繊維フィラメント(東レ 社製、商品名:T800S24K)をからなるリボン状のストランド(第一、第二、縦)をそれぞれ140本用いて成形型の外周面に手作業で3軸織りのメッシュ体を形成する。
【0036】
上記で作製したメッシュ体に、マトリックス前駆体としてフェノール樹脂形成材料(旭有機材工業(株)社製、KL−4000)に含浸した後、排気装置を備えた乾燥機中で、2℃/時間の昇温速度で200℃まで昇温し、そのまま3時間置いて硬化させる。
次に、非酸化性雰囲気下で、1000℃まで10℃/時間で炭素化した後、成形型から離型し、さらに2000℃で 4時間塩素ガスで高純度化処理を行い、直径約1300mm、高さ550mmの容器保持部材を得る。
【0037】
<実施例2>
上記実施例1の成形型の代わりに、円筒形の成形型を用いてメッシュ体を作製する。円筒形の成形型は、まず、黒鉛製の側面板(幅600mm、長さ850mm、厚さ200mm)を6枚用意し、それぞれコーナー部の角度が60°になるよう面取りし、黒鉛材用接着剤(COPNA樹脂)を用いて張り合わせ、中空六角柱形状の粗成形型を形成する。そして、この粗成形型の外周面を円筒面状に研削加工して成形型(直径1400mm、高さ600mm)を作製する。
次に、24000本の炭素繊維フィラメント(東レ 社製、商品名:T800S24K)をからなるリボン状のストランド(第一、第二、縦)をそれぞれ140本用いて成形型の外周面に手作業で3軸織りのメッシュ体を形成する。
これ以後は実施例1と同様の手順とし、円筒形のルツボ保持部材を得る。
【0038】
<比較例1>
実施例1と同様に成形型を作製し、その上を、上記実施例1と同様のストランドを用いて形成した平織のクロスで覆う。その際、ストランドが縦方向及び周方向に配向するように配置する。さらに、実施例1と同様にフェノール樹脂形成材料を含浸、硬化、炭素化、高純度化処理を行う。こうして得られるルツボ保持部材は、上記実施例1にはある斜め方向に配向するストランドがなく、横方向のストランド(以下、横ストランドという)が存在する。
【0039】
<試験例1>
上記実施例1のようにして得られる3軸織の容器保持部材の胴部に対して、周方向に歪を加えたときの応力分布状態をSolid works corporation社製Solid Works 2007(登録商標)にてモデリングし、Structural Research & Analsis Corporation社製Cosmos Works(登録商標)にて、静解析を実施した。なお、ストランドは、幅10mm、厚さ2mmとし、3軸織の重なり部分は、φ3mmのピンで固定されているものとして3軸織の最小の要素1単位をモデリングした。横方向の歪み量は0.3%、ストランドの弾性率は400GPa、ポアッソン比は0.2とした。
以上の条件にて、解析した応力の結果を図7に示す。横方向にかかった歪が、斜めの第一ストランド72A及び第二ストランド72Bで縦ストランド72Cにも伝達し、全体として応力は均等にかかっていることがわかる。
なお、実施例2のルツボ保持部材も同様の結果が得られた。
【0040】
<試験例2>
上記比較例1のようにして得られる平織り状の縦ストランド(高さ方向)と横ストランド(周方向)のメッシュ体からなる容器保持部材の胴部に対して周方向に歪を加えたときの応力分布状態について、試験例1と同様に静解析を実施した。なお、ストランドは、幅10mm、厚さ2mmとし、3軸織の重なり部分は、φ3mmのピンで固定されているものとして3軸織の最小の要素1単位をモデリングした。横方向の歪み量は0.3%、ストランドの弾性率は400GPa、ポアッソン比は0.2とした。
以上の条件にて、解析した応力の結果を図8に示す。横方向にかかった歪は、横ストランド82Aのみにかかり、縦ストランド82Cにはほとんど伝達していないことがわかる。このため横ストランド82Aには大きな(応力)張力がかかり、破損しやすいと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施形態に係るルツボ保持部材を用いたシリコン単結晶引上げ装置を示す断面図である。
【図2】(A)、(B)はそれぞれ本発明の実施形態に係る3軸織りのメッシュ体を示す斜視図及び平面図である。
【図3】実施形態に係るルツボ保持部材の製造工程を示すフロ−チャートである。
【図4】実施形態に係るルツボ保持部材の製造方法の一例を示す模式図である。
【図5】本発明に係るメッシュ体の他の実施形態を示す平面図である。
【図6】本発明に係るメッシュ体の他の実施形態を示す平面図である。
【図7】実施例1に係るルツボ保持部材の応力分布の解析結果を示す。
【図8】比較例1に係るルツボ保持部材の応力分布の解析結果を示す。
【符号の説明】
【0042】
10 シリコン単結晶引上げ装置
14 石英ルツボ
16 ルツボ保持部材
20 メッシュ体
22 ストランド
22A 第一ストランド
22B 第二ストランド
22C 縦ストランド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン融液を収容する石英ルツボを保持するルツボ保持部材であって、
前記ルツボ保持部材が、複数の炭素繊維からなるストランドを織り合せて形成したメッシュ体と、前記炭素繊維間に充填されたマトリックスとで構成され、
前記メッシュ体が、前記メッシュ体の中心軸と同一面内に配向する縦ストランドと、前記メッシュ体の中心軸に対して所定の傾斜角度で配向する第一ストランドと、前記第一ストランドと同角度で逆方向に配向する第二ストランドとからなる3軸織り構造を有することを特徴とするルツボ保持部材。
【請求項2】
前記メッシュ体は、前記メッシュ体の中心軸に対して垂直な方向に配向するストランドを有しないことを特徴とする請求項1に記載のルツボ保持部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−203093(P2009−203093A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44673(P2008−44673)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】