説明

レジスト剥離液

【課題】 モリブデン酸化物を腐食させることなく、レジスト除去ができる剥離液を提供する。
【解決手段】 N−(2−ヒドロキシエチル)モルホリンと有機溶媒をを含んでなる成分の組合せによるレジスト剥離液はモリブデン酸化物を腐食させることなく用いることができる。剥離液全体に対して、N−(2−ヒドロキシエチル)モルホリンが1〜80重量%の範囲、有機溶媒が20〜99重量%の範囲であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポジ型フォトレジストの剥離液に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイやプリント配線板の製造法として一般的にリソグラフィー法が用いられている。リソグラフィー法によって製造する場合、基板上に酸化膜等を形成した後、その表面にフォトレジストを均一に塗布し、これを選択的露光する。ポジ型フォトレジストの場合は、塩基性物質で現像処理してレジストパターンを形成する。次いで、このレジストパターンをマスクとして下層部の薄膜を選択的にエッチングし、パターンを形成した後、基板上のレジストをレジスト剥離液で完全に除去するという一連の工程が行われる。
【0003】
従来知られているレジスト剥離液には、例えば、水酸化物イオンとアンモニウムイオンからなる液(例えば、特許文献1参照)、モノエタノールアミンのようなアルカノールアミンと有機溶剤からなる剥離液(例えば、特許文献2参照)、四級アンモニウム塩を用いた剥離液(例えば、特許文献3参照)等がある。
【0004】
ところで、モリブデン酸化物は、有機ELディスプレイの製造において、正孔注入材料として有用な物質として知られているが(例えば、特許文献4参照)、このモリブデン酸化物は水酸化物、モノエタノールアミン、四級アンモニウム塩の様な強塩基を含有する液には非常に溶解しやすいため、上記のような液でレジストを除去しようとすると、モリブデン酸化物がダメージを受け、その膜厚が減損したり、表面状態が粗くなる等の問題が生じていた。そのため、モリブデン酸化物を材料とする有機ELディスプレイの製造において有用なレジスト剥離液が求められているが、未だ有用な剥離液は開発されていない。
【0005】
一方、弱塩基であるモルホリンや、モルホリン誘導体をレジスト剥離液として使用する方法が提案されている(例えば、特許文献5、特許文献6参照)。しかしながら、モルホリン、モルホリン誘導体は、アルミニウムにダメージのない剥離液として開発されているに過ぎず、モリブデン酸化物を材料とする有機ELディスプレイの製造に有用な剥離液は未だ開発されていない。
【0006】
【特許文献1】特表2002−505448号公報
【特許文献2】特開昭62−234373号公報
【特許文献3】米国特許第5185235号
【特許文献4】特開平9−63771号公報
【特許文献5】特開昭58−80638号公報
【特許文献6】特開昭63−110454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、モリブデン酸化物にダメージを与えることなく、フォトレジストパターン形成後のポジ型フォトレジストを除去するための剥離液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、モリブデン酸化物が露出した基板上、又はモリブデン酸化物上にフォトレジストパターンが形成された基板上のポジ型フォトレジストを除去するための剥離液について鋭意検討した結果、特定のアミンを含む液がモリブデン酸化物を腐食することなく、当該レジストを除去できることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、モリブデン酸化物上のポジ型フォトレジストを除去するための組成物であって、N−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン及び有機溶媒を含むポジ型フォトレジスト用剥離液、及びそれを用いたポジ型フォトレジストの剥離方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のレジスト剥離液は、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイの製造において、モリブデン酸化物を腐食させることなく、レジストパターン形成後のポジ型フォトレジストを洗浄除去できるため、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のレジスト剥離液の必須成分は、N−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン及び有機溶媒である。
【0012】
本発明のレジスト剥離液において、使用されるN−(2−ヒドロキシエチル)モルホリンには特に制限はなく、一般に流通しているものを使用することができるが、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイの製造においては、金属イオン含有量が少ないものを使用するのが好ましい。
【0013】
本発明のレジスト剥離液において、使用される有機溶媒に特に制限はなく、一般に流通しているものを使用することができる。しかしながら、レジスト剥離能力が高い溶媒をあえて例示すれば、アルコール系溶媒として、メチルアルコール、エチルアルコール、1−プロピルアルコール、2−プロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,6−ヘキサンジオール、エーテル系溶媒として、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、アミド系溶媒として、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、含硫黄系溶媒として、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、イミダゾリジノン系溶媒として、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、及びラクトン系溶媒として、γ−ブチロラクトンが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で又は二種以上を混合して使用しても一向に差し支えない。
【0014】
本発明のレジスト剥離液には、さらに水を添加することができる。水を添加することで、レジスト剥離液の取り扱いを容易にすることができる。水の添加で融点の高い有機溶媒の融点を下げることができ、また引火点を上げることができる。
【0015】
本発明のレジスト剥離液には、さらにカルボン酸を添加することができる。カルボン酸を添加することで、レジスト剥離液の塩基性を調整し、モリブデン酸化物の溶解を抑制するとともに、レジスト剥離能力を高めることができる。
【0016】
本発明のレジスト剥離液に添加できるカルボン酸には特に制限はないが、あえて例示すれば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、クエン酸、グルタル酸等が挙げられる。これらの酸は単独で又は二種以上を混合して使用しても一向に差し支えない。なお、これらの酸はレジスト剥離液への溶解性が高いため、好適に使用することができるが、例え、これ以外の酸であってもレジスト剥離液へ溶解するなら、使用に差し支えない。
【0017】
本発明のレジスト剥離液は、その酸性度、塩基性度により、レジスト剥離性とモリブデン酸化物へのダメージ量が変化する。例えば、塩基性度が強すぎるとモリブデン酸化物へのダメージが増大し、酸性度が強すぎるとレジスト剥離性が低下するとともに、モリブデン酸化物以外の材料へのダメージが増大する。好ましい酸性度、塩基性度は、本発明のレジスト剥離液を水で10倍に希釈した時のpHで、4〜11の範囲、更に好ましくは、4.5〜10.5の範囲である。
【0018】
本発明のレジスト剥離液は、剥離液全体に対し、N−(2−ヒドロキシエチル)モルホリンが1〜80重量%の範囲、有機溶媒が99〜20重量%の範囲であることが好ましく、N−(2−ヒドロキシエチル)モルホリンが5〜70重量%の範囲、有機溶媒が95〜30重量%の範囲であることが更に好ましい。N−(2−ヒドロキシエチル)モルホリンを1重量%以上とすることで、レジスト剥離性が向上し、N−(2−ヒドロキシエチル)モルホリンを80重量%以下とすることで、レジスト剥離液を水洗する際に剥離液が基板表面に残存し難くなる。また有機溶媒を99重量%以下、20重量%以上とすることで、レジスト剥離性が向上する。
【0019】
本発明のレジスト剥離液に水及び/又はカルボン酸を添加する場合は、剥離液全体に対し、水が0〜80重量%の範囲、カルボン酸が0〜20重量%の範囲であることが好ましく、水が0〜70重量%の範囲、カルボン酸が0〜10重量%の範囲であることが更に好ましい。水が80重量%を超えても、カルボン酸が20重量%を超えても、レジスト剥性は低下するおそれがある。
【0020】
本発明のレジスト剥離液は、例えば、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイの製造工程において、レジストパターン形成後のモリブデン酸化物上のポジ型フォトレジストを除去する剥離液として使用される。
【0021】
本発明のレジスト剥離液により除去されるポジ型フォトレジストとしては、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイの製造工程において一般的に使用されるものであればよく、特に限定するものではないが、例えば、ノボラック樹脂やポリイミド樹脂をベースとするもの等が挙げられる。
【0022】
本発明のレジスト剥離液はモリブデン酸化物にダメージを与えることないので、モリブデン酸化物が露出した基板上、又はモリブデン酸化物上にフォトレジストパターンが形成された基板上の不要となったポジ型フォトレジストを除去する際に、優れた剥離能を発揮することができる。
【0023】
本発明のレジスト剥離液は、レジスト剥離性が非常に高いので、低温でも十分使用することができるが、使用温度としては、0〜100℃の範囲が好ましい。0℃未満では、洗浄速度が現実的でないほど遅くなり、100℃を超える温度では、有機溶媒、水の蒸散、蒸発が激しくなるため、実用的ではない。
【0024】
本発明のレジスト剥離液は、バッチ式、枚葉式いずれの洗浄方法においても問題なく使用することができ、また、スプレー噴霧による洗浄やその他の方法を使用しても差し支えない。さらに、必要に応じて超音波を併用することができる。被処理物上のポジ型フォトレジストを除去した後のリンスとしては、アルコールのような有機溶剤を使用する必要はなく、水でリンスするだけで十分である。
【実施例】
【0025】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、表記を簡潔にするため、以下の略記号を使用した。
【0026】
HEM:N−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン
MO:モリブデン酸化物
MEA:モノエタノールアミン
DMSO:ジメチルスルホキシド
NMP:N−メチルピロリドン
γ−BL:γ−ブチロラクトン
BEE:ブトキシエトキシエタノール
TMAH:水酸化テトラメチルアンモニウム
EGEE:エチレングリコールモノエチルエーテル
DEGEE:ジエチレングリコールモノエチルエーテル
DB:1,2−ジクロロベンゼン
DMF:N,N’−ジメチルホルムアミド
MOR:モルホリン
CA:クエン酸
OA:シュウ酸
AA:酢酸
実施例1〜12、比較例1〜3:
(洗浄評価)
現像、エッチング後、不要となったノボラック系フォトレジスト層を有する基板を表1、表2に記載の剥離液に、室温で5分浸漬した。これを水洗乾燥し、洗浄度を確認した。洗浄できたものは「○」、洗浄できなかったものは「×」と評価した。それらの結果を表1、表2にあわせて示す。
【0027】
(MOのダメージ)
ガラス基板上に0.1μmの厚さでMOを成膜した。この基板を表1、表2に記載の洗浄液に、室温で5分浸漬した。これを水洗乾燥し、SEMで表面を観察した。処理前に比べ表面状態が変化したものを「×」、変化しなかったものは「○」と評価した。それらの結果を表1、表2にあわせて示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン酸化物上のポジ型フォトレジストを除去するための組成物であって、N−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン及び有機溶媒を含むポジ型フォトレジスト用剥離液。
【請求項2】
有機溶媒が、アルコール系溶媒として、メチルアルコール、エチルアルコール、1−プロピルアルコール、2−プロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,6−ヘキサンジオール、エーテル系溶媒として、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、アミド系溶媒として、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、含硫黄系溶媒として、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、イミダゾリジノン系溶媒として、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、及びラクトン系溶媒として、γ−ブチロラクトンからなる群より選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項1に記載の剥離液。
【請求項3】
さらに水を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の剥離液。
【請求項4】
さらにカルボン酸を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の剥離液。
【請求項5】
カルボン酸が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、クエン酸、及びグルタル酸からなる群より選ばれる少なくとも一種又は二種以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の剥離液。
【請求項6】
水で10倍に希釈したときのpHが4〜11の範囲であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の剥離液。
【請求項7】
剥離液全体に対し、N−(2−ヒドロキシエチル)モルホリンが1〜80重量%の範囲、及び有機溶媒が99〜20重量%の範囲であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の剥離液。
【請求項8】
モリブデン酸化物が露出した基板上、又はモリブデン酸化物上にフォトレジストパターンが形成された基板上のポジ型フォトレジストを、請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の剥離液により除去することを特徴とするポジ型フォトレジストの剥離方法。