説明

レチノイド安定化組成物並びにその組成物を配合した皮膚外用剤及び化粧料

【課題】水系で不安定なレチノイドを安定化した水系安定化組成物と、その安定化組成物を配合した皮膚外用剤及び化粧料に関し、シワ、ハリ、肌荒れの改善など、皮膚に対する効能作用に有効であるが、水系で非常に不安定な生理活性成分のレチノイドを安定化した安定化組成物と、そのような安定化組成物を配合した、レチノイド保存安定性の良好な皮膚外用剤及び化粧料を提供することを課題とする。
【解決手段】水素添加リン脂質からなる脂質二分子膜中に、少なくともレチノイドと疎水性抗酸化剤とを内包するレチノイド内包粒子を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系で不安定なレチノイドを安定化した水系安定化組成物と、その安定化組成物を配合した皮膚外用剤及び化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚保護機能を有するビタミンA類であるレチノイドには、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、リノール酸レチノール、レチナール、レチノイン酸、レチノイン酸トコフェリルなどがある。中でも、レチノールは活性型ビタミンAとして種々の生理効果を有し、生体内にも存在することから、レチノイン酸と比較して安全性も高い。
【0003】
例えば、レチノールは皮膚に対して、細胞分化抑制により角化を抑制することが報告され、特に連用により、表皮においてはその肥厚、角層構造の接着緻密化、真皮においては線維芽細胞の活性化、細胞数増加、真皮層におけるコラーゲンの増加等が見られることが示されている(日本香粧品科学会誌 16 (3) 172-174 (1992) 等)。また、レチノールにはニキビの治癒効果、光老化の防止、及び日焼けに損傷した皮膚の治癒効果も有するため、皮膚外用剤への応用化に努力が試みられている。
【0004】
しかし、レチノールは酸素により容易に酸化されることから、溶存酸素の多い水を多く含む水性製剤(ローション、エッセンス、水性クリーム、水性ジェル、シートマスク、スプレーなど)への安定性は極めて低く、レチノールを安定化した水性製剤の開発は困難であった。そのため、溶存酸素の多い水の含有量が少ない油性クリームや油分の多いO/W型クリームでの提供に限定されているのが現状であった。これらの製剤は、ベタツキや伸びの悪さが生じるため、主に部分用クリームに限定されているのが現状であり、全顔使用が可能な水性製剤の開発は困難であるため、化粧料への使用が極めて制限されてきた。
【0005】
安定化を目的として脂肪酸エステル化などの手法も試みられているが、エステル化は安定化には効果があるものの皮膚への作用という面ではレチノールより劣ることとなっていた。さらに、レチノールとともにポリエチレングリコールを配合し、そのポリエチレングリコール系に共存させることにより、レチノールの安定性を高めることを特徴とする下記特許文献1のような特許出願もなされているが、水を多く含有する水性製剤にレチノールを安定に含有させる技術は今後の課題とされている。
【0006】
【特許文献1】特許第3545429号公報
【0007】
そのため、溶存酸素の多い水の含有量が少ない油性クリームや油分の多いO/W型クリームでの提供に限定されているのが現状である。これらの製剤は、ベタツキや伸びの悪さが生じるため、主に部分用クリームに限定されているのが現状であり、全顔使用が可能な水性製剤の開発は困難であるため、化粧料への使用が極めて制限されてきた。
【0008】
一方、レチノイドを安定に配合するため油性製剤や油分の多い製剤が利用されているが、使用感上の問題から顔全体に使用し難い。また油分が多い製剤はニキビ肌や脂性肌では安全性及び使用感上、使用できないなどの問題がある。そこで、べたつきのないみずみずしい感触を有するレチノイドを配合した水系製剤が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、シワ、ハリ、肌荒れの改善など、皮膚に対する効能作用に有効であるが、水系で非常に不安定な生理活性成分のレチノイドを安定化した安定化組成物と、そのような安定化組成物を配合した、レチノイド保存安定性の良好な皮膚外用剤及び化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、水素添加リン脂質からなる脂質二分子膜中にレチノイドを内包し、さらに疎水性抗酸化剤を共存させ、水系製剤に分散または乳化させることにより、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、水素添加リン脂質からなる脂質二分子膜中に、少なくともレチノイドと疎水性抗酸化剤とを内包するレチノイド内包粒子を含有することを特徴とするレチノイド安定化組成物を提供するものである。不安定な有効成分であるレチノイドがリン脂質二重膜の内部に、疎水性抗酸化剤と共に内密に取り込まれることにより、リン脂質二重膜内に内包されているレチノイドの安定性を高めることができる。
【0012】
本発明のレチノイド安定化組成物は、皮膚に作用すると、皮膚親和性に優れるリポソーム形態を有することから、皮膚内に浸透しながら、安定に内包されていたレチノイドが放出され、効能を発揮する。また、徐放性を有するため、レチノイドによる刺激炎症因子の放出を抑えるため安全性に優れる利点もある。
【0013】
好ましくは、抗酸化能を有する両親媒性のアスコルビン酸誘導体や両親媒性のキトサン誘導体がリン脂質二重膜の表面を被覆することにより、リン脂質二重膜に侵入する溶存酸素によるレチノイドの劣化を抑制することにより、レチノイドの安定性を更に高めることができる。
【0014】
疎水性抗酸化剤としては、主として油溶性の抗酸化剤が用いられ、その油溶性の抗酸化剤としては、ビタミンE誘導体が用いられる。そのビタミンE誘導体としては、たとえばδ−トコフェロール、トコトリエノール、α−トコフェロール、β−トコフェロール、天然ビタミンE、α−トコフェリルキノンから選ばれる1種又は2種以上が用いられる。またビタミンE誘導体以外にケイ皮酸誘導体を用いることも可能であり、そのケイ皮酸誘導体として、たとえばテトラジブチルヒドロケイ皮酸ペンタエリスリチルのようなものを用いることもできる。
【0015】
さらに本発明は、上記のようなレチノイド安定化組成物を配合したことを特徴とする皮膚外用剤および化粧料を提供するものである。レチノイド安定化組成物以外に、アルブチンや抱水性油剤を配合することも可能である。レチノイド安定化組成物は水系において多層型のリポソームを形成し、リン脂質二重膜の外側にアルブチンや抱水性油剤を共存させることにより、レチノイドの安定性を更に高めることができる。これら皮膚外用剤、化粧料の製剤中の全体重量に対し、水が50.0〜95.0重量%含有されている水性製剤であることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のレチノイド安定化組成物は、優れた経時安定性を有し、べたつかず、みずみずしい感触を有する水系製剤を提供することできる。したがって、肌質を問わず顔全体に使用可能なレチノイド水系製剤が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のレチノイド安定化組成物は、上述のように、水素添加リン脂質からなる脂質二分子膜中に、少なくともレチノイドと疎水性抗酸化剤とを内包するレチノイド内包粒子を含有するものである。より詳しくは、水素添加リン脂質からなる脂質二分子膜中にレチノイドを内包し、水系製剤に乳化または可溶化させ、さらに疎水性の抗酸化剤を共存させるものである。レチノイドの安定性を高めるため、レチノイドと疎水性抗酸化剤がリン脂質二重膜中に内包されることが必要である。疎水性抗酸化剤としては、主として油溶性抗酸化剤が用いられる。ここで、「レチノイド内包粒子を含有する」とは、本発明のレチノイド安定化組成物がレチノイド内包粒子のみからなるものであってもよく、またレチノイド内包粒子以外の含有成分を含有していてもよいことを意味する。さらに、「レチノイド内包粒子を含有する」とは、レチノイド安定化組成物中のレチノイド内包粒子以外の含有成分が、レチノイド内包粒子のリン脂質二重膜の表面を被覆しているような状態も含むものである。
レチノイド内包粒子以外の含有成分としては、たとえばアスコルビン酸誘導体やキトサン誘導体が例示される。抗酸化能を有する両親媒性のアスコルビン酸誘導体や両親媒性のキトサン誘導体がリン脂質二重膜の表面を被覆することにより、リン脂質二重膜に侵入する溶存酸素によるレチノイドの劣化を抑制することにより、レチノイドの安定性を更に高めることができる。
【0018】
本発明のレチノイド安定化組成物の各成分についてより具体的に説明すると、本発明に用いられるレチノイドとは、ビタミンA(レチノール)の一般構造を有するものおよび生理活性がレチノールと類似している構造変異体および化学構造がレチノールと類似している誘導体を意味する。具体的には、ビタミンA油、β−カロチン、レチノール、レチナール、レチノイン酸、パルミチン酸レチノール、酢酸レチノール、レチノイン酸トコフェリルおよびリノール酸レチノール等が挙げられる。尚、当該製剤中のレチノイドの量は、約0.001〜約1重量%、より好ましくは約0.01〜約0.2重量%である。
【0019】
本発明に用いられる水素添加リン脂質としては、大豆由来レシチン、卵黄由来レシチン等の天然レシチンの水素添加物等が挙げられる。また、これらの天然レシチン以外に、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン等の水素添加物等を使用することも可能である。水素添加リン脂質の純度は特に限定されないが、リン脂質純度が70%〜100%のものが望ましく、水に分散させるとラメラ型の多層構造を示すリン脂質二重膜を形成することが重要となる。更に、多層型のリポソームを形成することが望ましい。これらの条件を有する水素添加リン脂質として、例えば、Presomeシリーズ(日本精化株式会社)が挙げられる。
尚、本発明の水素添加リン脂質には、いわゆる狭義の水素添加リン脂質のみならず、そのような狭義の水素添加リン脂質の他に少量のステロールのようなものを含む複合物、すなわち、後述の実施例記載の水素添加リン脂質の複合物のようなものも含むことを意味する。このような水素添加リン脂質に少量のステロールのようなものを含む複合物自体も、一般には「水素添加リン脂質」と認識されているが、疑義や混同を生じないように、後述の実施例ではカッコ書き等によって区別している。
ステロールの例としては、動物由来のコレステロールや植物由来のフィトステロール等が挙げられる。
【0020】
本発明の疎水性抗酸化剤としては、上述のように主として油溶性抗酸化剤が用いられ、その油溶性抗酸化剤とは、通常化粧料に汎用されているものであれば特に限定されないが、具体的には、ビタミンE及びその誘導体やケイ皮酸誘導体等が挙げられる。これらは、一種または二種以上を適宜選択して組み合わせることができる。ビタミンE及びその誘導体、並びにケイ皮酸誘導体としては、たとえば、δ−トコフェロール、トコトリエノール、α−トコフェロール、β−トコフェロール、天然ビタミンE、α−トコフェリルキノン、テトラジブチルヒドロケイ皮酸ペンタエリスリチルなどが挙げられる。これらは、一種または二種以上を適宜選択して組み合わせることができる。上記の油溶性抗酸化剤を配合する場合、いずれも全配合に対する濃度は、好ましくは0.0001〜2.0重量%であり、より好ましくは0.001〜0.2重量%である。
【0021】
本発明で用いられるアスコルビン酸誘導体としては、通常、医薬品、医薬部外品または化粧品用に用いられるものであれば特に限定されない。例えば、ステアリン酸アスコルビル、パルミチン酸アスコルビル、イソパルミチン酸アスコルビル、ジパルミチン酸アスコルビル、トリステアリン酸アスコルビル、トリパルミチン酸L−アスコルビル、テトラヘキシルデカン酸アスコルビル、テトラステアリン酸アスコルビル、テトラパルミチン酸アスコルビル、テトライソパルミチン酸アスコルビル等のアスコルビン酸アルキルエステル、アスコルビルリン酸塩、アスコルビルジリン酸塩等のアスコルビン酸リン酸エステル、アスコルビン酸硫酸エステル、パルミチン酸アスコルビルリン酸塩、アスコルビン酸グルコシドなどが挙げられる。
【0022】
これらのうちでも、両親媒性のアスコルビン酸誘導体が良好であり、パルミチン酸アスコルビルリン酸塩(商品名:アプレシエ、昭和電工株式会社)がより好ましく、全配合に対する濃度は0.001〜1重量%、好ましくは0.01〜0.5重量%である。
【0023】
本発明に用いられるキトサン誘導体としては、特に限定されないが、イオン性であること、及び分子中に疎水基と親水基とを有するキトサン誘導体(以下、イオン性両親媒性キトサン誘導体という)を用いるのが望ましい。該イオン性両親媒性キトサン誘導体は、天然多糖であるキチンの脱アセチル化物であり、脱アセチル化度が40〜100%を示すキトサンや、それを出発物質としたイオン性キトサン誘導体を合成し(Int.J.Biol.Macromol,9,233−237(1987)等)、さらにアシル基やアルキル基等の疎水基を導入することにより調製される。
【0024】
なかでも、キトサン塩、四級塩化キトサン、カルボキシメチルキトサン及びリン酸化キトサン等のイオン性キトサン誘導体に、炭素数8〜20のアシル基を、導入率0.1〜50.0%導入したものが好ましい。ここで、アシル基の導入率(%)とは、キトサンの構成単糖であるヘキソサミン1残基当りの導入率を示し、例えばアシル基導入率15.0%の部分アシル化カルボキシメチルキトサンとは、構成単糖であるカルボキシメチルグルコサミン100残基にアシル基が15個導入されていることを示している。
【0025】
イオン性両親媒性キトサン誘導体として、部分アシル化カルボキシメチルキトサン、部分アシル化キトサン及びその塩が挙げられる。より具体的には、部分ミリストイル化カルボキシメチルキトサン、部分ミリストイル化キトサン及びその塩が挙げられる。
【0026】
さらに、本発明の皮膚外用剤および化粧料は、上記のようなレチノイド安定化組成物を配合したものである。本発明の皮膚外用剤および化粧料には、上記のようなレチノイド安定化組成物以外に、アルブチンや抱水性油剤を配合することも可能である。レチノイド安定化組成物は水系において多層型のリポソームを形成し、リン脂質二重膜の外側にアルブチンや抱水性油剤を共存させることにより、レチノイドの安定性を更に高めることができ、水中の酸素によるレチノイドの酸化分解を最小限に抑制することができる。
本発明で用いられるアルブチンとしては、β型又はα型のいずれを用いることも可能である。全配合におけるアルブチンの含有量は0.01〜10重量%で、好ましくは0.2〜4.0重量%である。
【0027】
本発明で用いられる抱水性油剤としては、ラノリン、液状ラノリン、(アジピン酸・2−エチルヘキサン酸・ステアリン酸)グリセリルオリゴエステル、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(フィトステリル・オクチルドデシル)、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(コレステリル・オクチルドデシル)、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(コレステリル・ベヘニル・オクチルドデシル)、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(フィトステリル・ベヘニル・オクチルドデシル)、(12−ヒドロキシステアリン酸・イソステアリン酸)ジペンタエリスリトール、ダイマージリノール酸ジ(イソステアリル/フィトステリル)、ダイマージリノール酸水添ヒマシ油、ダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/ベヘニル)、デカ(エルカ酸/イソステアリン酸/リシノレイン酸)ポリグリセリル−8等が挙げられる。これらは1種または2種以上を適宜選択して組み合わせて用いることができる。全配合における抱水性油剤の含有量は0.1〜20重量%で、好ましくは0.5〜5重量%である。
【0028】
本発明のレチノイド安定化組成物は、従来では困難であった水系での安定化が可能となることから、水分の多い製剤に広く利用できる。例えば、O/W型の乳液、クリーム、親水軟膏、ローション、ジェル、エッセンス、パック、マスク、スプレー等の剤型とすることができる。これらの剤型には、目的に応じて、保湿剤、紫外線吸収剤、抗炎症剤、色素、香料、顔料等が含まれていてもよい。本発明は、皮膚に適用する医薬品、外用剤、医薬部外品、化粧料等に広く適用することが可能である。その他、外用剤や化粧料で一般的に用いられる成分を本発明のレチノイド安定化組成物の効果や機能性を阻害しない範囲で広く配合できる。
【0029】
例えば、セタノール、ベヘニルアルコール等の高級アルコール類、流動パラフィン、スクワラン等の非極性油剤類、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル等のエステル系油剤類、小麦胚芽油やオリーブ油等の植物油類、トリメチルシロキシケイ酸、メチルフェニルポリシロキサン等のシリコン化合物類、パーフルオロポリエーテル等のフッ素化合物類が挙げられる。界面活性剤として、脂肪酸モノグリセリド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の非イオン系界面活性剤、塩化ベンザルコニウム等のカチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、アニオン界面活性剤がある。また、保湿柔軟化剤、抗酸化剤、収斂剤、美白剤、抗菌剤、抗炎症剤、殺菌剤、抗アレルギー剤、ステロイド剤、紫外線吸収剤類、紫外線散乱剤、ビタミン類、酵素等の医薬部外品原料規格、化粧品種別配合成分規格、化粧品原料基準、日本薬局方、食品添加物公定書規格等の成分等が挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0031】
(実施例1)
純度90%を示す水素添加リン脂質90重量%とコレステロール10重量%から形成される水素添加リン脂質(複合物)10gに15重量%レチノール含有トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル(レチノール15D、BASF社)1.2gとビタミンE誘導体であるα−トコフェリルキノン0.2gを均一に分散させ、精製水を徐々に添加後、ホモミキサー(10000rpm、60℃、1分処理)により、水素添加リン脂質から形成される脂質二重膜中にレチノールを内包させた。水素添加リン脂質(複合物)としては、Presome C-II(日本精化株式会社)を用いた。この水分散液を−20℃で
凍結後、凍結乾燥器で乾燥させることにより、薄黄色を呈する粉末状の組成物11.7gを得た。
【0032】
(実施例2)
純度90%を示す水素添加リン脂質90重量%とコレステロール10重量%から形成される水素添加リン脂質(複合物)10gに15重量%レチノール含有トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル(レチノール15D、BASF社)1.2gとビタミンE誘導体であるα−トコフェリルキノン0.2gとケイ皮酸誘導体であるテトラジブチルヒドロケイ皮酸ペンタエリスリチル0.03gを均一に分散させ、精製水を徐々に添加後、ホモミキサー(10000rpm、60℃、1分処理)により、水素添加リン脂質から形成される脂質二重膜中にレチノールを内包させた。水素添加リン脂質(複合物)としては、PresomeC-II(日本精化株式会社)を用いた。この水分散液を−20℃で凍結後、凍結
乾燥器で乾燥させることにより、薄黄色を呈する粉末状の組成物11.9gを得た。
【0033】
(実施例3)
純度90%を示す水素添加リン脂質90重量%とコレステロール10重量%から形成される水素添加リン脂質(複合物)10gに15重量%レチノール含有トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル(レチノール15D、BASF社)1.2gとビタミンE誘導体であるα−トコフェリルキノン0.2gとケイ皮酸誘導体であるテトラジブチルヒドロケイ皮酸ペンタエリスリチル0.03gを均一に分散させ、精製水を徐々に添加後、ホモミキサー(10000rpm、60℃、1分処理)により、水素添加リン脂質から形成される脂質二重膜中にレチノールを内包させた。水素添加リン脂質(複合物)としては、PresomeC-II(日本精化株式会社)を用いた。この水分散液にアスコルビン酸誘導体で
あるパルミチン酸アスコルビルリン酸塩(アプレシエ、昭和電工株式会社)1gを添加し、ホモミキサー(10000rpm、30℃、1分処理)で均一処理により得た分散液を−20℃で凍結後、凍結乾燥器で乾燥させることにより、薄黄色を呈する粉末状の組成物12.8gを得た。
【0034】
(実施例4)
純度90%を示す水素添加リン脂質90重量%とコレステロール10重量%から形成される水素添加リン脂質(複合物)10gに15重量%レチノール含有トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル(レチノール15D、BASF社)1.2gとビタミンE誘導体であるα−トコフェリルキノン0.2gとケイ皮酸誘導体であるテトラジブチルヒドロケイ皮酸ペンタエリスリチル0.03gを均一に分散させ、精製水を徐々に添加後、ホモミキサー(10000rpm、60℃、1分処理)により、水素添加リン脂質から形成される脂質二重膜中にレチノールを内包させた。水素添加リン脂質(複合物)としては、PresomeC-II(日本精化株式会社)を用いた。この水分散液にアスコルビン酸誘導体で
あるパルミチン酸アスコルビルリン酸塩(アプレシエ、昭和電工株式会社)1gとイオン性の両親媒性キトサン誘導体である部分ミリストイル化カルボキシメチルキトサン0.5gを添加し、ホモミキサー(10000rpm、30℃、1分処理)で均一処理した。−20℃で凍結後、凍結乾燥器で乾燥させることにより、薄黄色を呈する粉末状の組成物13.7gを得た。
【0035】
(比較例1)
ノニオン系界面活性剤であるPOEモノステアリン酸ソルビタン5gに15重量%レチノール含有トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル(レチノール15D、BASF社)1.2gを均一に分散させ、精製水を徐々に添加後、ホモミキサー(10000rpm、60℃、1分処理)により、ノニオン系界面活性剤から形成されるエマルション粒子にレチノールを内包させた。この水分散液を−20℃で凍結後、凍結乾燥器で乾燥させることにより、薄黄色を呈するペースト状の組成物7.8gを得た。
【0036】
(比較例2)
アニオン系界面活性剤であるN−ヤシ油脂肪酸アシル−グルタミン酸ナトリウム10gに15重量%レチノール含有トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル(レチノール15D、BASF社)1.2gを均一に分散させ、精製水を徐々に添加後、ホモミキサー(10000rpm、60℃、1分処理)により、アニオン系界面活性剤から形成されるエマルション粒子にレチノールを内包させた。この水分散液を−20℃で凍結後、凍結乾燥器で乾燥させることにより、薄黄色を呈するペースト状の組成物11.1gを得た。
【0037】
(比較例3)
純度50%を示す水素添加リン脂質90重量%とコレステロール10重量%から形成される水素添加リン脂質(複合物)10gに15重量%レチノール含有トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル(レチノール15D、BASF社)1.2gを均一に分散させ、精製水を徐々に添加後、ホモミキサー(10000rpm、60℃、1分処理)により処理を行った。水素添加リン脂質(複合物)は、Composite PC(日本精化株式会社)を用いた。この水分散液を−20℃で凍結後、凍結乾燥器で乾燥させることにより、薄黄色を呈する粉末状の組成物11.5gを得た。
【0038】
(比較例4)
純度90%を示す水素添加リン脂質90重量%とコレステロール10重量%から形成される水素添加リン脂質(複合物)10gに15重量%レチノール含有トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル(レチノール15D、BASF社)1.2gを均一に分散させ、精製水を徐々に添加後、ホモミキサー(10000rpm、60℃、1分処理)により、水素添加リン脂質から形成される脂質二重膜中にレチノールを内包させた。水素添加リン脂質(複合物)としては、Presome C-II(日本精化株式会社
)を用いた。この水分散液を−20℃で凍結後、凍結乾燥機器で乾燥させることにより、薄黄色を呈する粉末状の組成物11.6gを得た。
【0039】
(試験例1)
レチノール含量が0.02重量%になるように、精製水に実施例1〜4の組成物と比較例1〜4の組成物をホモミキサー(3000rpm、30℃)処理しながら徐々に添加し、水系のレチノール分散液を得た。調製直後のレチノール量と45℃に1ヶ月間放置した後のレチノール量をHPLCから定量した。加速試験後のレチノール残存率から、水系での分散液におけるレチノール安定性を評価した。
【0040】
レチノール分散液を超遠心分離により20000rpm、60分処理で得られた上清液には、レチノールが存在しないことから、レチノールがほぼ完全に内包されていることが分かった。実施例1〜4の組成物を精製水に分散させた場合、偏光顕微鏡の観察から、ラメラ型の液晶が多く観察され、リン脂質二重膜を形成していることが確認された。また、実施例1の組成物を精製水に分散させた場合、図1の電子顕微鏡写真像に示すように、多層構造を有するリン脂質二重膜を有するリポソーム状の形態を有することが確認された。 尚、レチノールの残存率(%)は表1のとおりであった。
【0041】
【表1】

【0042】
表1の結果からも明らかなように、実施例1から4では、比較例1から4に比べて、レチノールの残存率が著しく向上することが確認できた。
【0043】
(試験例2)
実施例1において、ビタミンE誘導体を代えることで、レチノールの残存率(%)がどのように変化するかを、上記試験例1と同様に試験した。試験結果は次表2のとおりである。表2の結果からも明らかなように、実施例1と実施例2に示したα−トコフェリルキノンとテトラジブチルヒドロケイ皮酸ペンタエリスリチル以外に、δ−トコフェロール、トコトリエノール、α−トコフェロール、天然ビタミンE、β−トコフェロールにもレチノールの安定性を高めるのに有効であることが確認できた。
【0044】
【表2】

【0045】
(試験例3)
レチノール以外のレチノイドを用いて、残存率(%)がどのように変わるかを、上記試験例1と同様に試験した。試験結果は次表3のとおりである。表3の結果からも明らかなように、レチノール以外のレチノイドであるレチノイン酸、パルミチン酸レチノールの安定性も著しく向上することが確認できた。
【0046】
【表3】

【0047】
(試験例4)
本試験例は、ヒト皮膚モデルを利用したレチノールの皮膚浸透性を評価する試験である。レチノールの皮膚浸透性は以下の方法で求めた。
【0048】
比較例1のレチノール組成物と実施例3の粉末状のレチノール安定化組成物を精製水に分散させ、レチノール含量が0.05重量%であるサンプル液を調製した。このサンプル液100μlを3次元ヒト皮膚モデル(東洋紡製、製品名;TESTSKIN、LSE003High)の皮膚表面に添加して、37℃、5%容量CO2下で8時間処理を行った。処理後、皮膚表面を20容量%メタノール含有リン酸緩衝液で5回洗浄後、未浸透のレチノールを除去した。バイオプシンで皮膚切片を調製し、レチノール抽出液であるメタノール5mlを添加して、氷冷下で超音波処理後、遠心分離することにより皮膚中のレチノールを抽出した。レチノール量をHPLCにて定量することにより、レチノールの皮膚浸透率を求めた。皮膚中から抽出されたレチノール量/サンプル100μl中に含まれるレチノール量×100(%)をレチノールの皮膚浸透率とした。その結果を次表4に示す。
【0049】
表4の結果からも明らかなように、実施例1及び3では、比較例1及び3に比べて、皮膚中に存在するレチノールの皮膚への浸透性が高いことが確認できた。
【0050】
【表4】

【0051】
(試験例5)
本試験例においては、上記試験例4のヒト皮膚モデル試験において、培地中に含まれる刺激炎症性サイトカインであるIL−1α量をELISA法で測定して求めた。
【0052】
サイトカインの一種であるIL−1αは表皮細胞に存在し、皮膚刺激が起こるとIL−1α産生量が促進されることが知られている。本試験例はこの原理を利用したもので、IL−1α量のELISA法での測定は、ELISAキット(アマシャム社製)を用いて行った。試験結果を次表5に示す。
【0053】
【表5】

【0054】
表5の結果からも明らかなように、IL−1αの産生量は実施例1及び3では比較例1及び3に比べて低いことから、レチノールの刺激性を抑制することから皮膚への安全性も高まることが確認できた。
【0055】
(処方例1)
本処方例は、一例としての水系ジェルの処方例であり、組成および配合比は次のとおりである。
組成 配合比(重量%)
ポリメチルシロキサン 3.0
スクワラン 3.0
カルボキシビニルポリマー 0.2
部分ミリストイル化カルボキシメチルキトサン 0.1
グリセリン 12.5
プロピレングリコール 5.5
水酸化ナトリウム 0.02
メチルパラベン 0.3
実施例3の組成物 2.0
精製水 残量(73.38)
【0056】
水系ジェルの調製は次のようにして行った。油相であるポリメチルシロキサン、スクワランを70℃で加熱溶解後、カーボポールやグリセリン等から構成される水相のゲル相に徐々に添加させ、ホモミキサー(5000rpm、2分処理)で均一に分散させた。脱気下で30℃まで冷却し、実施例3の組成物を添加し、ホモミキサー(3000rpm、2分処理)で均一に分散させた。脱気、濾過することにより、白濁の水系ジェルを得た。本処方例の製剤の45℃、1ヶ月後のレチノール残存率は71.2%を示した。
【0057】
(処方例2)
本処方例は、一例としての水系ジェルの処方例であり、組成および配合比は次のとおりである。
組成 配合比(重量%)
ポリメチルシロキサン 3.0
スクワラン 3.0
カルボキシビニルポリマー 0.2
部分ミリストイル化カルボキシメチルキトサン 0.1
β−アルブチン 1.5
グリセリン 12.5
プロピレングリコール 5.5
水酸化ナトリウム 0.02
メチルパラベン 0.3
実施例3の組成物 2.0
精製水 残量(71.88)
【0058】
水系ジェルの調製は上記処方例1とほぼ同様に行ったが、本処方例では、上記処方例1の水相にβ−アルブチンを共存させた。本処方例の製剤の45℃、1ヶ月後のレチノール残存率は処方例1の71.2%から82.9%に上昇した。
【0059】
(処方例3)
組成 配合比(重量%)
ポリメチルシロキサン 3.0
スクワラン 3.0
ダイマージリノール酸ジ(イソステアリル/フィトステリル)2.0
カルボキシビニルポリマー 0.2
部分ミリストイル化カルボキシメチルキトサン 0.1
β−アルブチン 1.5
グリセリン 12.5
プロピレングリコール 5.5
水酸化ナトリウム 0.02
メチルパラベン 0.3
実施例3の組成物 2.0
精製水 残量(69.88)
【0060】
水系ジェルの調製は上記処方例1とほぼ同様に行ったが、本処方例では、上記処方例1の水相にβ−アルブチンを共存させ、更に油相に抱水性油剤であるダイマージリノール酸ジ(イソステアリル/フィトステリル)を共存させた。本処方例の製剤の45℃、1ヶ月後のレチノール残存率は処方例1の71.2%から91.3%に上昇した。
【0061】
(処方例4)
組成 配合比(重量%)
ポリメチルシロキサン 3.0
スクワラン 3.0
ダイマージリノール酸ジ(イソステアリル/フィトステリル) 2.0
ダイマージリノール酸水添ヒマシ油 1.0
ダイマージリノール酸
(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/ベヘニル)1.5
カルボキシビニルポリマー 0.2
部分ミリストイル化カルボキシメチルキトサン 0.1
β−アルブチン 1.5
α−アルブチン 1.0
グリセリン 12.5
プロピレングリコール 5.5
水酸化ナトリウム 0.02
メチルパラベン 0.3
実施例3の組成物 2.0
精製水 残量(67.38)
【0062】
水系ジェルの調製は上記処方例1とほぼ同様に行ったが、本処方例では、上記処方例1の水相にβ−アルブチンとα−アルブチンを共存させ、更に油相に抱水性油剤であるダイマージリノール酸ジ(イソステアリル/フィトステリル)とダイマージリノール酸水添ヒマシ油とダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/ベヘニル)を共存させた。本処方例の製剤の45℃、1ヶ月後のレチノール残存率は処方例1の71.2%から95.8%に上昇した。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例1の組成物を精製水に分散させた状態を示す電子顕微鏡写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素添加リン脂質からなる脂質二分子膜中に、少なくともレチノイドと疎水性抗酸化剤とを内包するレチノイド内包粒子を含有することを特徴とするレチノイド安定化組成物。
【請求項2】
疎水性抗酸化剤が、ビタミンE若しくはその誘導体またはケイ皮酸誘導体の少なくともいずれかである請求項1記載のレチノイド安定化組成物
【請求項3】
疎水性抗酸化剤が、δ−トコフェロール、トコトリエノール、α−トコフェロール、β−トコフェロール、天然ビタミンE、α−トコフェリルキノン、トコトリエノール、テトラジブチルヒドロケイ皮酸ペンタエリスリチルから選ばれる1種又は2種以上である請求項1記載のレチノイド安定化組成物。
【請求項4】
レチノイド内包粒子とともに、アスコルビン酸誘導体が含有されている請求項1乃至3のいずれかに記載のレチノイド安定化組成物。
【請求項5】
アスコルビン酸誘導体がパルミチン酸アスコルビルリン酸塩である請求項4記載のレチノイド安定化組成物。
【請求項6】
レチノイド内包粒子とともに、キトサン誘導体が含有されている請求項1乃至5のいずれかに記載のレチノイド安定化組成物。
【請求項7】
多層構造の脂質二分子膜を有するリポソーム形態を形成する請求項1乃至6のいずれかに記載のレチノイド安定化組成物。
【請求項8】
レチノイドがレチノールである請求項1乃至7のいずれかに記載のレチノイド安定化組成物。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載のレチノイド安定化組成物を配合したことを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項10】
さらにアルブチンを配合してなる請求項9記載の皮膚外用剤。
【請求項11】
さらに抱水性油剤を配合してなる請求項9又は10記載の皮膚外用剤。
【請求項12】
製剤中の全体重量に対し、水が50.0〜95.0重量%含有されている水性製剤である請求項9乃至11のいずれかに記載の皮膚外用剤。
【請求項13】
請求項1乃至8のいずれかに記載のレチノイド安定化組成物を配合したことを特徴とする化粧料。
【請求項14】
さらにアルブチンを配合してなる請求項13記載の化粧料。
【請求項15】
さらに抱水性油剤を配合してなる請求項13又は14記載の化粧料。
【請求項16】
製剤中の全体重量に対し、水が50.0〜95.0重量%含有されている水性製剤である請求項13乃至15のいずれかに記載の化粧料。

【図1】
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【公開番号】特開2009−256268(P2009−256268A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109137(P2008−109137)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(000112266)ピアス株式会社 (49)
【Fターム(参考)】