説明

レンジプレート及びその製造方法

【課題】フェライト(二次加工混合フェライト)を生地に塗布して使用した場合でも、不要な昇温、温度ムラをなくすあるいは抑制することができるレンジプレートを提供する。
【解決手段】粘土,長石,珪石を成分として含んだ生地土によって形成され、マイクロ波が透過可能な生地と、フェライトを含み、生地の表面に塗布されてマイクロ波によって発熱する発熱層と、前記粘土,長石,珪石を成分として含んだ釉薬によって形成され、前記発熱層の表面に塗布された釉薬層と、を備え、発熱層は、生地土と釉薬とに含まれる粘土,長石,珪石以外の成分であって焼成によりフェライトと反応して電子レンジでの使用時に発熱層の昇温を抑制する昇温抑制成分を含む前記生地土と、フェライトとが混合された二次加工混合フェライトによって構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジのマイクロ波で発熱して調理を行うことができるレンジプレート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子レンジは、マイクロ波によって食品を加熱する。周波数が水分子の固有振動数と同じ2.45GHzのマイクロ波を食品に照射し、食品中の水分子を振動させて食品を直接加熱する。普通、食品を載せる電子レンジ用の調理容器は、陶器、ガラス等によって形成されていて、マイクロ波によっては加熱されない。これらの料理容器が熱くなるのは、マイクロ波によって加熱された食品の熱が調理容器に伝達されるからである。
【0003】
近時、電子レンジ用の調理容器として、マイクロ波によって直接加熱されるものが市販されて調理に利用されている(例えば、(有)東彼セラミックス製「ドリームキッチン」)。これらは、調理容器自体が、周波数2.45GHzのマイクロ波を吸収して加熱されるようになっている。これにより、例えば、ガスコンロ等での調理と比較して、食品を短時間で調理することが可能となり、また、ガスコンロ等と同様、魚等に焼き目や焦げ目を付けたりすることができる。
【0004】
ところで、これら調理容器は、食材や料理に応じて、あらかじめその食材や調理に最適な時間が設定されている。したがって、電子レンジでの調理の開始時に、その時間を設定して調理を行うことにより、その調理に最適な時間で電子レンジが切れる。
【0005】
ところが、例えば、電子レンジの設定時間を誤って、最適な時間よりも長い時間に設定してしまった場合には、食材及び調理容器が、最適な温度よりもさらに高い温度に昇温してしまうおそれがある。
【0006】
このような不具合を防止するための技術が、例えば、特許文献1で提案されている。このものは、「マイクロ波吸収発熱体用MgCu系フェライト粉」であり、このフェライト粉について、適正な粒径を選定し、板状成形体を作製して、実験をしたところ、優れた発熱性能、及び200〜300度程度の所定の温度を超えたら昇温を抑制(停止)させることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−6617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のものは、上述のように、適正な粒径のフェライト粉を選定して、フェライト単体で焼成して試験片を作製した場合、その試験片については、200〜300程度の所定の温度を超えたら昇温は抑制されるものの、このフェライト粉を生地に塗布して同様の実験をしたところ、必ずしも同様の結果を得られるとは限らないことが判明した。つまり、昇温が抑制されない場合があることが判明した。
<テスト1>
【0009】
以下、この点について図3,図4を参照して説明する。このうち、図3は、テスト1の結果、すなわち、昇温テストの結果を示す表であり、図4はこの結果を折れ線グラフで示したものである。図3の横欄には、0秒から50秒まで10秒間隔で記載している。縦欄は、比較例1から比較例6まで記載している。
【0010】
ここで、比較例1〜比較例6は、いずれも40mm×40mmの板状に形成されたテストピースであり、いずれも1200℃で焼成されている。また、比較例2〜比較例5の「フェライト」及び比較例6の「MgCuZnフェライト」は、特許文献1の発明品であるフェライト粉である。
以下にテスト1で使用した比較例1〜比較例6の違いを示す。
【0011】
比較例1:生地
比較例2:生地+(フェライト70%+生地土30%)
比較例3:生地+(フェライト70%+生地土30%)
+(生地土90%+ジルコン10%)
比較例4:生地+(フェライト70%+生地土30%)
+(生地土90%+ジルコン10%)+透明釉薬
比較例5:生地+(フェライト70%+生地土30%)+透明釉薬
比較例6:MgCuZnフェライト焼結板
【0012】
比較例1は、生地(素地)をそのまま焼成したものである。比較例2は、生地に(フェライト70%+生地土30%)を塗布して焼成したものである。比較例3は、生地に比較例2と同様に(フェライト70%+生地土30%)を塗布し、さらに(生地土90%+ジルコン10%)塗布して焼成したものである。比較例4は、生地に比較例3と同様に(フェライト70%+生地土30%)及び(生地土90%+ジルコン10%)塗布し、さらに、透明釉薬を塗布して焼成したものである。比較例5は、生地に比較例2と同様に(フェライト70%+生地土30%)を塗布し、さらに、透明釉薬と塗布したものである。比較例6は、発明品のフェライト単体を板状に形成した焼成したものである。
以上の比較例1〜比較例6のテストピースの温度を以下の測定方法で測定した。
【0013】
測定方法
・使用電子レンジ:ナショナル製NE−W300、フラットタイプ
・出力 :500W
・置き方 :電子レンジの床面中央に、磁性皿を置き、試料片を設置。
・温度測定 :マイクロ波を所定時間照射した直後に、輻射温度計で表面温度
を測定。
【0014】
図3の表に、以上の測定結果を示す。なお、同表中の※1(比較例3の40秒の「487」℃については、30秒過ぎから一部に赤熱が発生した。※2(比較例4の30秒の「472」℃については、25秒過ぎから一部に茶色の変色が見られた。
図4に図3の結果をグラフ化したものである。
図3,図4から次のことが判る。
【0015】
・比較例1(生地のみ)は、ほとんど発熱しない。若干、温度が上昇するのは、電子レンジ床面の温度上昇の影響が出たものと推測される。
【0016】
・比較例2は、120℃近傍まで上昇し、50秒までは異常昇温見られない。比較例6と比較して、到達温度が低いのは、発熱体としてのフェライトの含有量が少ない、あるいは、フェライトが生地と反応した影響が出たためと推測される。
【0017】
・比較例3〜比較例5は、フェライト層(フェライト70%+生地土30%)の表面に、ジルコン層(生地90%+ジルコン10%)と釉薬層(透明釉薬)とのうちの一方又は双方を設けたものであるが、いずれも20秒以降に異常昇温が見られた。
【0018】
・比較例6は、20秒で300℃近傍まで温度が急激に上昇し、それ以降の温度上昇は抑制される、といった所望の性能が得られた。
【0019】
以上より、特許文献1の発明品のフェライト粉は、単体でテストピースを形成した場合には、短時間で所定の温度まで急速に加熱され、その後は、昇温が抑制されるといった目的の性能を達成できるものの、このフェライト粉を生地に塗布した使用態様では、異常昇温が発生することが確認された。
【0020】
<テスト2>
次に、特許文献1の発明品のフェライト粉をはじめ、他のフェライトについても同様のテスト2を行った。その結果を図5に示す。
テスト2に使用したフェライトA〜Dは、以下の通りである。
【0021】
・フェライトA:JFE MgCuZnフェライト(特許文献1の発明品のフェライト)
・フェライトB:戸田工業 MA−951(SrBaフェライト)
・フェライトC:JFE NiZnフェライトKNI−106
・フェライトD:LFE MnZnフェライトLD−M04001
【0022】
テスト2の測定方法は、以下の通りである。
試験方法
【0023】
・生地土(モザイク生地土)とA〜Dの各フェライトを湿式混合し、モザイクタイルに施釉。施釉量は、約0.2g/cm3含水(水分約40%)。なお、フェライトBについては施釉が困難なため、水分量を次のように変更した。図5中のB−100%は水分60%、B−70%は水分60%、B−50%は水分55%とした。
・上記タイルを1230℃−1HrKeepにて焼成してテストピースを作製した。
【0024】
・テストピースを電子レンジにて加熱し、表面温度を測定した。
使用電子レンジは、以下の通りである。
使用電子レンジ
・NEC製 MC−E2型 1997年製
・定格電圧 100V
・定格周波数 60Hz
・定格消費電力 960W
・定格高周波出力 500W
【0025】
以上のテスト2の結果を図5の表中に示す。
【0026】
ここで、図5の表の横欄は、照射時間、1min、5minを示す。また、縦欄の比較例7−1,7−2,7−3は、この順に、フェライトAが100%、70%、50%であることを示す。比較例8−1〜8−3、比較例9−1〜9−3、比較例10−1〜10−3についても同様である。なお、同表の右側の「10min、215、177」は、比較例8−2,8−3の10min後の温度を表し、比較例8−2は215℃、比較例8−3は177℃であることを示す。また、その下の、「1min、104」「5min、233」「10min、375」は、焼成前の比較例8−3(B−50%)と同様のものに、さらに、釉掛け(モザイク透明釉)を塗布して焼成したテストピースのテスト結果を示すものである。なお、図5の表中の温度の数値の後に「※」を付したものは、テストピースの中心部が赤熱状態となったものを示している。
【0027】
図5からは、次のことが判る。
【0028】
フェライトA,C,Dについては、生地土の混合割合が増加するほど(フェライトの混合割合が減少するほど)、発熱が進む傾向があり、一方、フェライトBについては、生地土を混合することにより、発熱が著しく低下する傾向にあることが判る。
【0029】
さらに、いずれのサンプルA〜Dについても、フェライトに、単に生地土を混合させただけのものは、所望の効果、すなわち、速やかに昇温して、所定の温度で昇温が停止される(又は昇温が抑制される)という傾向は見られなかった。
【0030】
以上のテスト1,テスト2からは、以下のことが言える。
・特許文献1の発明品のフェライト(フェライト粉)は、単体でテストピースを作製した場合には(比較例6)、所望の性能、すなわち、短時間で所定の温度に達し、それ以降は昇温が抑制される、といった性能を発揮できるものの、このフェライトを生地に塗布して使用した場合には、短時間で所定の温度に達しなかったり(比較例2)、他にジルコンや透明釉薬を塗布した場合には、比較的短時間に異常昇温が発生して(比較例3〜比較例5)、所望の性能を得ることができない。
【0031】
・特許文献1の発明品のフェライト(比較例7−1〜7−3)、及び他のフェライト(比較例8−1〜8−3、比較例9−1〜9−3、比較例10−1〜10−3)について、フェライトの混合割合を100%、70%、50%に変化させて、これらのフェライトを生地に塗布した場合も、著しく昇温が低下したり、異常昇温が発生したりして、所望の性能を得ることができない。
【0032】
本発明は、上述事情に鑑みてなされたものであり、フェライトを生地に塗布して使用した場合でも、不要な昇温、温度ムラをなくすあるいは抑制することができるレンジプレート、及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0033】
請求項1に係る発明は、焼成により製造され、電子レンジのマイクロ波によって発熱するレンジプレートにおいて、粘土,長石,珪石を成分として含んだ生地土によって形成され、前記マイクロ波が透過可能な生地と、フェライトを含み、前記生地の表面に塗布されて前記マイクロ波によって発熱する発熱層と、前記粘土,長石,珪石を成分として含んだ釉薬によって形成され、前記発熱層の表面に塗布された釉薬層と、を備え、前記発熱層は、前記生地土と前記釉薬とに含まれる前記粘土,長石,珪石以外の成分であって前記焼成により前記フェライトと反応して前記電子レンジでの使用時に前記発熱層の昇温を抑制する昇温抑制成分を含む前記生地土と、前記フェライトとが混合された二次加工混合フェライトによって構成されている、ことを特徴とする。
【0034】
請求項2に係る発明は、請求項1に係るレンジプレートにおいて、前記昇温抑制成分がペタライトである、ことを特徴とする。
【0035】
請求項3に係る発明は、請求項2に係るレンジプレートにおいて、前記二次加工混合フェライトは、60〜80重量%の前記フェライトと、残りの重量%の前記生地土とを混合することにより構成されている、ことを特徴とする。
【0036】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に係るレンジプレートにおいて、前記発熱層と前記釉薬層との間に、前記二次加工混合フェライトの収縮率と前記釉薬の収縮率との中間の収縮率を有する収縮率調整層を備えた、ことを特徴とする。
【0037】
請求項5に係る発明は、粘土、長石、珪石を含む生地土及び釉薬によってそれぞれ形成された生地層及び釉薬層を有するレンジプレートの製造方法において、前記生地土と前記釉薬とに含まれる前記粘土、長石、珪石以外の成分であって前記焼成により前記フェライトと反応して前記電子レンジでの使用時に前記レンジプレートの昇温を抑制する昇温抑制成分を含む前記生地土と、フェライトとを混合して二次加工混合フェライトを構成する混合工程と、前記生地の表面に前記二次加工混合フェライトを塗布して発熱層を形成する第1塗布工程と、前記発熱層の表面に前記釉薬を塗布して前記釉薬層を形成する第2塗布工程と、前記生地土と前記二次加工混合フェライトと前記釉薬層とを焼成する焼成工程と、を有する、ことを特徴とする。
【0038】
請求項6に係る発明は、請求項5に係るレンジプレートの製造方法において、前記昇温抑制成分がペタライトである、ことを特徴とする。
【0039】
請求項7に係る発明は、請求項6に係るレンジプレートにおいて、前記二次加工混合フェライトは、60〜80重量%の前記フェライトと、残りの重量%の前記生地土とを混合することにより構成されている、ことを特徴とする。
【0040】
請求項8に係る発明は、請求項5ないし7のいずれか1項に係るレンジプレートの製造方法において、前記第1塗布工程と前記第2塗布工程との間に、前記二次加工混合フェライトの収縮率と前記釉薬の収縮率との中間の収縮率を有する収縮率調整層を塗布する調整層塗布工程を設けた、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0041】
本発明(請求項1〜8に係る発明)によれば、フェライト(二次加工混合フェライト)を生地に塗布して使用した場合でも、所望の性能、すなわち、比較的短時間で所定の温度に達し、それ以降は昇温が抑制される。さらに、例えば、特許文献1の発明品のフェライト(フェライト粉)を単体又は高い純度で使用してレンジプレートを作製する場合と比較して、安価に作製することができる。
【0042】
また、請求項4,8の発明によれば、収縮率調整層は、二次加工混合フェライトの収縮率と、釉薬の収縮率との中間の収縮率を有する原料によって形成されているので、仮焼成を行うことなく、本焼成を行った場合でも、釉薬の貫入(ひび割れ)を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施形態1に係るレンジプレートについてのテスト3の結果を示す図(表)である。
【図2】テスト3の追加テストの結果を示す図(表)である。
【図3】テスト1の結果を示す図(表)である。
【図4】テスト1の結果を示す図(グラフ)である。
【図5】テスト2の結果を示す図(表)である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明を適用した実施形態を、図面に基づいて詳述する。なお、各図面において、同じ符号を付した部材等は、同一又は類似の構成のものであり、これらについての重複説明は適宜省略するものとする。また、各図面においては、説明に不要な部材等は適宜、図示を省略している。
<実施形態1>
【0045】
図1〜図2を参照して本発明を適用した実施形態1に係るレンジプレートについて説明する。ここで、図1は、実施形態1に係るレンジプレートについてのテスト3の結果を示す図(表)である。また、図2は、テスト3の追加テストの結果を示す図(表)である。
本実施形態に係るレンジプレートは、一般的な焼成によって製造することができる。このレンジプレートは、
(1)焼成により製造され、電子レンジのマイクロ波によって発熱するレンジプレートにおいて、
(2)粘土,長石,珪石を成分として含んだ生地土によって形成され、前記マイクロ波が透過可能な生地と、
(3)フェライトを含み、生地の表面に塗布されてマイクロ波によって発熱する発熱層と、
(4)粘土,長石,珪石を成分として含んだ釉薬によって形成され、発熱層の表面に塗布された釉薬層と、を備え、
(5)発熱層は、生地土と釉薬とに含まれる粘土,長石,珪石以外の成分であって焼成によりフェライトと反応して電子レンジでの使用時に発熱層の昇温を抑制する昇温抑制成分を含む生地土と、フェライトとが混合された二次加工混合フェライトによって構成されている、
【0046】
さらに、昇温抑制成分としては、ペタライト及びこれと同等な物理的性質を有する成分があげられる。
【0047】
ペタライトは、化学式がLiOAl2O3・8SiO2で、「葉長石」という和名で呼ばれているが、長石の仲間ではない。ペタライトは、急熱急冷の耐性を左右する熱膨張率の低い原料であり、主に直火に掛ける土鍋等に使用されるものである。ペタライトの熱膨張率は、金属の熱膨張率を20程度とすると、粘土の膨張率が5程度であるのに対して、1程度とかなり低い。
【0048】
本実施形態のレンジプレートは、このような物理的性質を有するペタライトを、生地を構成する生地土、及び釉薬層を構成する釉薬に混ぜ、生地と釉薬層との間に発熱層を設けて構成されている。この発熱層は、ペタライトを含む生地土とフェライトとを混合させて形成した二次加工混合フェライトによって構成されている。
【0049】
上述のように、特許文献1の発明品のフェライト(フェライト粉)を、生地に塗布して焼成して作製したテストピースでは、電子レンジで使用した場合に、短時間で所定の温度まで昇温しなかったり(比較例2参照)、異常昇温が発生したりした(比較例3〜比較例5参照)。このような異常発熱は、特許文献1の発明品のフェライトに限らず、他のフェライトについても、またフェライトの混合比率を変化させた場合でも同様な傾向がみられた(比較例8−1〜8−3、比較例9−1〜9−3、比較例10−1〜10−3参照)。
【0050】
この原因は、生地にフェライトを塗布し、さらに釉薬を塗布して焼成した場合に、フェライトのうちの生地及び釉薬に接している部分が生地及び釉薬の成分と化学反応を起こして組成変化し、この組成変化を起こした部分(以下、変性部という。)と、それ以外の組成変化を起こさない部分(以下、非変性部という。)とで発熱速度が異なるために、温度ムラが大きくなり、局部的な異常発熱が発生したためであると考えられる。
【0051】
本願出願人は、このような異常昇温を防止するために、生地及び釉薬にペタライトを含め、さらに、フェライトに、ペタライトを含んだ生地を混合して、二次加工混合フェライトとし、この二次加工混合フェライトを生地に塗布し、この二次加工混合フェライトに釉薬を塗布することが有効であることを見出した。
【0052】
理由は以下の通りである。フェライトに接する生地及び釉薬に含まれるペタライトが、焼成時にフェライトと反応して、フェライトの一部を変性部に代えるため、フェライトには、変性部と非変性部とができて局所的に異常昇温を起こす。そこで、フェライトにあらかじめ、ペタライトを含んだ生地を均一に混合(湿式混合)させておく。これにより、二次加工混合フェライトによって形成された発熱層には、ペタライトが万遍なく混合されていることになるので、発熱層の、局部的ではなく、全体にわたって、むらなく変性部が構成される。これによって、局部的な異常昇温を防止できるものと考えられる。したがって、二次加工混合フェライトを形成する際に、これに含有されるペタライトの重量、すなわち、フェライトに混合される、ペタライトを含んだ生地の重量を変化させることで、変性部の均一化の度合いが変化するものと考えられ、これに応じて、レンジプレートの温度特性が変化するものと考えられる。
【0053】
以下、3種類の異なるフェライトを使用し、これらと、ペタライトを含む生地との混合時の重量%を変化させて、テスト3を行った。
【0054】
<テスト3>
図1,図2にテスト結果を示す。
ここで、図1は、実施形態1に係るレンジプレートについてのテスト3の結果を示す図(表)である。また、図2は、テスト3の追加テストの結果を示す図(表)である。
【0055】
テスト3に使用したフェライトE〜Gは、以下の通りである。
フェライトE:戸田工業 MA−951(フェライトBと同じ)
フェライトF:JFE NiZnフェライト(フェライトAとは別の特許文献1の発明品のフェライト)
フェライトG:戸田工業 BNS−714
試験方法
・上記各フェライトE〜Gに、ペタライトを含んだ生地土を湿式混合し、これを生地でできた皿破片に施釉し、乾燥後、下記の釉薬を上掛けし、1230℃−1HrKeepにて焼成して、テストピースを作製した。
【0056】
上掛け釉薬
#200 ペタライト 68%
釜戸長石 10%
石灰石 7%
亜鉛華 5%
炭酸バリウム 2%
ドロマイト 3%
蛙目粘度 5%
Zn−52亜鉛黒 3%(着色原料)
【0057】
使用電子レンジは、テスト2と同じ。
【0058】
以上のテスト3の結果を図1の表中に示す。
【0059】
ここで、図1の表の横欄は、照射時間、1min、5min,10minを示す。また、縦欄の実施例1−1,1−2,1−3は、この順に、二次加工混合フェライトにおけるフェライトAの重量%が50%、40%、30%であることを示す。したがって、二次加工混合フェライトにおける生地土の重量%は、この順に、50%(=100%−50)、60%(=100%−40%)、70%(=100%−30%)となる。実施例2−1〜2−4、実施例3−1〜3−3についても同様である。なお、図1の表中の温度の数値の後に「※」を付したものは、テストピースの中心部が赤熱状態となったものを示している。また、電子レンジ内のテーブル温度は、5min以降、130〜150℃であった。
【0060】
図1からは次のことが判る。
【0061】
なお、実験結果の良否の判定は、短時間で所定の温度に昇温し、それ以降は温度上昇が抑制され、また、電子レンジの実用的な使用を考慮して、5minの温度が300℃を超えない範囲を「良」とした。
【0062】
実施例2−2以外の実施例においては、いずれも、1min当たりの温度の上昇率が、0〜1minよりも、1min〜5minの方が低く、さらに、1min〜5minよりも5min〜10minの方が低くなった。つまり、昇温不足や、異常昇温は見られなかった。
【0063】
ここで、実験結果の良否の判定について、短時間で所定の温度に昇温し、それ以降は温度上昇が抑制され、また、電子レンジの実用的な使用を考慮して、5minの温度が300℃を超えない範囲を「良」とすると、図1から、実施例2−1の5minにおける「389」は「否」となる。
【0064】
この結果、フェライトの混合割合は、20〜40%が好適であり、したがって、二次加工混合フェライトにおけるフェライトの残部に相当する生地土の重量%は、60〜80%が好適であることが判る。
【0065】
図2の表は、上述の上掛け釉薬に、フェライトEを入れて湿式混合し、これを生地に施釉し、1230℃−1HrKeepにて焼成して、テストピースを作製した。
【0066】
同図から、実施例4−1では、5minで416℃となって赤熱が発生したが、実施例4−2〜4−4のフェライトH(フェライトEと同じ)の40〜20%については、10min後でも、調理に好適な250℃前後を超えることなく、図1よりもさらに良好な結果が得られた。
【0067】
以上説明した実施形態1では、二次加工混合フェライトに含まれるペタライトの重量%を直接決定するのではなく、フェライトと混合される、ペタライトを含む生地土の重量%で規定している。これは、以下の理由による。
【0068】
上述のように、ペタライトは、生地に含めることにより、急熱急冷の耐性を左右する熱膨張率の低い原料であるため、生地に含まれる重量%が、レンジプレートの使用形態によって決まる。そして、二次加工混合フェライトを作製する際には、フェライトにペタライトを混合するよりも、フェライトに生地を混合する方が、少なくとも生地と二次加工混合フェライトの接触部分において焼成時の変性部のムラを低減できるものと考える。このような理由で、ペタライトの重量%を直接ではなく、フェライトに混合する生地土の重量%として規定した。
【0069】
本実施形態に係るレンジプレートは、フェライト(二次加工混合フェライト)を生地に塗布して使用した場合でも、所望の性能、すなわち、比較的短時間で所定の温度に達し、それ以降は昇温が抑制される。さらに、例えば、特許文献1の発明品のフェライト(フェライト粉)を単体又は高い純度で使用してレンジプレートを作製する場合と比較して、安価に作製することができる。
<実施形態2>
【0070】
実施形態1で説明した、二次加工混合フェライトは、その収縮率が、フェライト単体よりも大きいために、仮焼成を行うことなしに、生地に塗布して本焼成することが可能である。つまり、「生地→二次加工混合フェライト→釉薬→本焼成」の工程でレンジプレートを作製することが可能である。
【0071】
しかしながら、「生地→二次加工混合フェライト→釉薬→本焼成」で焼成した場合には、二次加工混合フェライトと釉薬との収縮率が大きく異なるため、釉薬にひび割れ(貫入)が発生するおそれがある。
そこで、本実施形態では、フェライト面の釉薬に発生する貫入を防止するために、二次加工混合フェライトと釉薬との間に、これらの中間的な収縮率の原料を塗布して収縮率調整層を設けた。すなわち、「生地→二次加工混合フェライト→収縮率調整層→釉薬→本焼成」とした。
【0072】
このように収縮率調整層を設けることにより、仮焼成を省略することが可能となり、さらに、仮焼成を省略することによって発生しがちな、釉薬の貫入を防止することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成により製造され、電子レンジのマイクロ波によって発熱するレンジプレートにおいて、
粘土,長石,珪石を成分として含んだ生地土によって形成され、前記マイクロ波が透過可能な生地と、
フェライトを含み、前記生地の表面に塗布されて前記マイクロ波によって発熱する発熱層と、
前記粘土,長石,珪石を成分として含んだ釉薬によって形成され、前記発熱層の表面に塗布された釉薬層と、を備え、
前記発熱層は、前記生地土と前記釉薬とに含まれる前記粘土,長石,珪石以外の成分であって前記焼成により前記フェライトと反応して前記電子レンジでの使用時に前記発熱層の昇温を抑制する昇温抑制成分を含む前記生地土と、前記フェライトとが混合された二次加工混合フェライトによって構成されている、
ことを特徴とするレンジプレート。
【請求項2】
前記昇温抑制成分がペタライトである、
ことを特徴とする請求項1に記載のレンジプレート。
【請求項3】
前記二次加工混合フェライトは、60〜80重量%の前記フェライトと、残りの重量%の前記生地土とを混合することにより構成されている、
ことを特徴とする請求項2に記載のレンジプレート。
【請求項4】
前記発熱層と前記釉薬層との間に、前記二次加工混合フェライトの収縮率と前記釉薬の収縮率との中間の収縮率を有する収縮率調整層を備えた、
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のレンジプレート。
【請求項5】
粘土、長石、珪石を含む生地土及び釉薬によってそれぞれ形成された生地層及び釉薬層を有するレンジプレートの製造方法において、
前記生地土と前記釉薬とに含まれる前記粘土、長石、珪石以外の成分であって前記焼成により前記フェライトと反応して前記電子レンジでの使用時に前記レンジプレートの昇温を抑制する昇温抑制成分を含む前記生地土と、フェライトとを混合して二次加工混合フェライトを構成する混合工程と、
前記生地の表面に前記二次加工混合フェライトを塗布して発熱層を形成する第1塗布工程と、
前記発熱層の表面に前記釉薬を塗布して前記釉薬層を形成する第2塗布工程と、
前記生地土と前記二次加工混合フェライトと前記釉薬層とを焼成する焼成工程と、を有する、
ことを特徴とするレンジプレートの製造方法。
【請求項6】
前記昇温抑制成分がペタライトである、
ことを特徴とする請求項5に記載のレンジプレートの製造方法。
【請求項7】
前記二次加工混合フェライトは、60〜80重量%の前記フェライトと、残りの重量%の前記生地土とを混合することにより構成されている、
ことを特徴とする請求項6に記載のレンジプレート。
【請求項8】
前記第1塗布工程と前記第2塗布工程との間に、前記二次加工混合フェライトの収縮率と前記釉薬の収縮率との中間の収縮率を有する収縮率調整層を塗布する調整層塗布工程を設けた、
ことを特徴とする請求項5ないし7のいずれか1項に記載のレンジプレートの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−15285(P2013−15285A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149148(P2011−149148)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(511019719)株式会社梅屋 (1)
【Fターム(参考)】