説明

レーザーマーキング方法

【課題】 携帯電話のケース等の成形品をターゲットとして画像および/または文字を刻印するレーザーマーキング方法であって、多色に刻印することが出来、意匠性を一層高めることが出来るレーザーマーキング方法を提供する。
【解決手段】 レーザーマーキング方法は、レーザーマーキング装置によってターゲットに画像および/または文字を刻印するにあたり、ターゲットとして、多発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物、すなわち、[A]熱可塑性重合体と、[B]有彩色着色剤と、[C]カーボンブラック、チタンブラック及び黒色酸化鉄から選ばれる少なくとも1種の黒色物質とを含有し、かつ、有彩色着色剤[B]及び黒色物質[C]の含有量が特定の割合の樹脂組成物から成る成形品を使用する。そして、エネルギーの異なる2種以上のレーザー光をターゲットの異なる位置に照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーマーキング方法に関するものであり、詳しくは、レーザーマーキング用の熱可塑性樹脂組成物から成る成形品、例えば携帯電話のケースをターゲットとしてレーザーマーキング装置によって画像および/または文字を多色で刻印することにより、携帯電話などの意匠性を一層高める様にしたレーザーマーキング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザーマーキングは、例えば樹脂材料から成るターゲットにレーザーマーキング装置によりレーザー光を照射し、ターゲットに吸収されたレーザー光のエネルギーを熱に変換するか又はレーザー光によって光化学反応を生起し、樹脂を分解、蒸発させたり、炭化または変色させたり、あるいは、発泡させることにより、ターゲット表面に文字や符号を刻印する技術である。上記のレーザーマーキングは、装身具に絵柄を書き込んだり、OA機器のキーボード等に文字を刻印するのに多く利用されている。
【特許文献1】特開昭52−58196号公報
【特許文献2】特開平11−27362号公報
【0003】
また、上記のレーザーマーキングにおいては、刻印する色を多様化させるための熱可塑性樹脂組成物およびレーザーマーキング方法が提案されている。上記の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂などの樹脂とを含み、有色の着色剤として、レーザー光の影響を受けにくい有機顔料・染料を含む。
【特許文献3】特開平6−297828号公報
【0004】
更に、黒色または暗色系の地色に隠蔽された着色剤に由来する有彩色の色を刻印するための熱可塑性樹脂組成物が提案されている。斯かる樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン系樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂などの樹脂と、レーザーの作用によって分解しない着色剤としての有機系の顔料・染料とを含む。
【特許文献4】特開平8−127175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、急速に普及している例えば携帯電話は、ケースのカラーリングや意匠デザインによって意匠性を高める工夫がなされているが、そもそも量産製品であるため、意匠的に個々の携帯電話を差別化するのは所詮困難である。一方、上記の様な携帯電話についても、レーザーマーキング技術を利用し且つ上記の様な樹脂組成物を利用し、レタリングや図柄を刻印することにより、ある程度は個々に特徴付けることが出来る。しかしながら、上記の様なレーザーマーキング用樹脂組成物においては、黒色または暗色系の地色に対して1色でしか刻印できないため、さほど意匠性を高めることは出来ない。
【0006】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、その目的は、携帯電話のケース等の成形品をターゲットとしてレーザーマーキング装置によって画像および/または文字を刻印するレーザーマーキング方法であって、多色に刻印することが出来、携帯電話などの意匠性を一層高めることが出来るレーザーマーキング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は、レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物から成る成形品をターゲットとしてレーザーマーキング装置により画像および/または文字を刻印するにあたり、制御用コンピュータに画像および/または文字のデータを取り込み、制御用コンピュータからレーザー走査ユニットに制御信号を出力してターゲットに刻印すると共に、エネルギーの異なる2種以上のレーザー光をターゲットの異なる位置に照射することにより、白色と有彩色を含む2以上の異なる色調に刻印する様にした。
【0008】
また、本発明は、レーザーマーキングによって画像および/または文字を刻印するターゲットとして、特有の多発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物、すなわち、[A]熱可塑性重合体と、[B]有彩色着色剤と、[C]カーボンブラック、チタンブラック及び黒色酸化鉄から選ばれる少なくとも1種の黒色物質とを含有し、有彩色着色剤[B]の含有量が、熱可塑性重合体[A]を100質量部とした場合に0.001〜3質量部であり、黒色物質[C]の含有量が、熱可塑性重合体[A]を100質量部とした場合に0.01〜2質量部である樹脂組成物から成る成形品を使用し、そして、エネルギーの異なる2種以上のレーザー光をターゲットの異なる位置に照射することにより、2以上の異なる色調に刻印する様にした。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るレーザーマーキング方法によれば、エネルギーの異なる2種以上のレーザー光をターゲットの異なる位置に照射することにより、白色と有彩色を含む2以上の異なる色調に刻印できるため、個々のターゲットに対して独自の特徴的な画像を刻印でき、携帯電話などのターゲットの意匠性を一層高めることが出来る。
【0010】
また、本発明に係るレーザーマーキング方法によれば、上記の特有の多発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物から成る成形品をターゲットとして使用し、エネルギーの異なる2種以上のレーザー光をターゲットの異なる位置に照射することにより、有彩色着色剤[B]に由来する有彩色(着色剤そのものの色、濃度変化の度合いが小さい色、または、変色により色調が異なる色)を含む2以上の異なる色調で画像および/または文字を刻印できるため、個々のターゲットに対して独自の特徴的な画像を刻印でき、携帯電話などのターゲットの意匠性を一層高めることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係るレーザーマーキング方法の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明に係るレーザーマーキング方法の概要を示す説明図である。本発明のレーザーマーキング方法は、図1に示す様に、レーザーマーキング装置(2)を使用し、ターゲットとしての成形品(図においては携帯電話(4)のケースを例示)に2以上の異なる色調で画像および/または文字を刻印することにより、ターゲットの意匠性を一層高める様にしたものである。本発明のレーザーマーキング方法の説明に先立ち、先ず、本発明に適用されるレーザーマーキング装置(2)について説明する。なお、本発明においては、レーザーマーキングによってターゲットに文字、画像などを描写することを刻印と言い、刻印された部位をマーキング部と言う。
【0012】
上記のレーザーマーキング装置(2)は、レーザー光のエネルギーによりターゲット表面に図形を含む画像や文字を直接刻印する装置であり、斯かるレーザーマーキング装置(2)としては、スキャン方式、マスク方式の何れでもよいが、画像などをより精密に形成するため、通常は、コンピュータによって走査ビームを制御するスキャン方式のレーザーマーキング装置が使用される。スキャン方式のレーザーマーキング装置(2)は、より細い線画を高速で描写でき、また、描写する画像などのデータをコンピュータで管理するため、ターゲット毎に異なる文字や画像を描写するのに好適である。
【0013】
詳細な図示は省略するが、スキャン方式のレーザーマーキング装置(2)は、照射領域(S)のターゲットに向けてレーザーを照射するレーザー走査ユニット(ヘッダーユニット)(22)と、当該レーザー走査ユニットを冷却する冷却ユニット(23)と、レーザー走査ユニット(22)に制御信号を出力する制御用コンピュータ(コントロールユニット)(21)とを備えている。レーザー走査ユニット(22)は、電源回路、発振回路を含むレーザー発信器、パルス変調するレーザー変調器、ビームエキスパンダー、X軸方向の走査とY軸方向の走査を行う2つの反射鏡から成るガルバノスキャナー、および、集光レンズ(Fθレンズ)から主に構成され、制御用コンピュータ(21)から入力された制御信号に基づき、レーザー発信器やガルバノスキャナーの作動を制御する様になされている。
【0014】
本発明においては、後述する様に、エネルギーの異なる2種以上のレーザー光、具体的には波長の異なる複数のレーザー光を照射するため、例えば、レーザーマーキング装置(2)として、レーザー走査ユニット(22)に複数の発振回路が設けられたものが使用される。勿論、複数のレーザー走査ユニット(22)が配置された装置を使用してもよい。2波長のレーザーマーキングの可能なレーザーマーキング装置としては、例えば、ロフィン・バーゼル社製レーザーマーキングシステム「RSM50D型」(商品名)、「RSM30D型」(商品名)等が挙げられる。
【0015】
レーザーマーキング装置(2)に適用されるレーザーの種類としては、後述する様に100〜2000nmの波長のレーザーであれば、気体、固体、半導体、色素、エキシマー及び自由電子の何れでもよい。例えば、気体レーザーとしては、ヘリウム・ネオンレーザー、希ガスイオンレーザー、ヘリウム・カドミウムレーザー、金属蒸気レーザー、炭酸ガスレーザー等が挙げられ、固体レーザーとしては、ルビーレーザー、ネオジウムレーザー、波長可変固体レーザーが挙げられる。また、半導体レーザーとしては、無機でも有機でもよく、無機の半導体レーザーとしては、GaAs/GaAlAs系、InGaAs系、InP系などが挙げられる。上記の様なレーザーは1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することが出来る。特に、後述する樹脂組成物から成るターゲットに対して高速度で且つ精密な刻印を行うには、Nd:YAG、Nd:YVO4、Nd:YLF等の半導体レーザー励起固体レーザーが好ましく、レーザーマーキング装置(2)としては、LD励起方式、いわゆるダイオードポンプ方式のレーザーマーキング装置が好適である。
【0016】
上記の制御用コンピュータ(21)としては、画像および/または文字のデータを取り込んだ後、斯かるデータに対して所定のデータ変換処理を施し、そして、変換されたデータをレーザー走査ユニット(22)に対する制御信号として出力する機能を備えたものが使用される。すなわち、上記の制御コンピュータ(21)においては、取り込んだデータを所定の解像度、例えば150〜300万画素のグレースケールのデータや二値化されたデータに変換する機能を備えたソフトウエアが使用される。
【0017】
制御用コンピュータ(2)において上記の様なデータ変換処理を施す理由は次の通りである。すなわち、必要以上に高い解像度の画像データをそのまま制御信号の一部としてレーザー走査ユニット(22)に出力し、レーザーマーキングを行うと、レーザーのスポットの大きさとドット数の関係から、ターゲット上に形成される画質の向上に比べ、加工時間が長くなる。一方、レーザー走査ユニット(22)に出力するデータの解像度を低くし過ぎると、繊細な画像が形成できない。また、上記のソフトウエアには、取り込んだ画像などのデータを表示パネル上で編集する編集機能が備えられていてもよい。
【0018】
次に、本発明に適用されるターゲットについて説明する。本発明において、画像および/または文字を刻印するターゲットとしては、有彩色を発色可能な種々のレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物から成る成形品、特に、後述する様な多発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物(以下、多発色樹脂組成物と言う。)から成る種々の成形品が挙げられる。
【0019】
上記の成形品としては、具体的には、携帯電話のケースやボタン、ペットボトル等の容器のキャップ、容器や容器の外装フィルム、自動車のダッシュボード等に配置された計器類やスイッチ類、自動車のエンジンルーム内の各種カバー類、タイヤのホイールキャップ、自動販売機の表示灯やスイッチ類、テレビ等の家電機器のリモートコントローラのケースやボタン、薄型テレビの外装部、時計や定規などの目盛付き成形品、腕時計のベルト、サニタリー用品、ボールペン等の筆記用具、IC部品、クレジットカード、ICカード、ICタグ、パスポート、IDカード等のカード類などが挙げられる。
【0020】
上記の成形品のうち、ターゲットとしては、例えば、規格化され且つ量産された携帯電話(4)が好適である。具体的には、携帯電話(4)のケース、すなわち、文字盤および表示部以外の携帯電話(4)のケースの盤面(文字盤と反対側のケースの盤面または表示部と反対側のケースの盤面)が好ましい。特に、携帯電話(4)のケースをターゲットとする場合は、電池パックの蓋(41)がより好ましい。電池パックの蓋(41)は、これを複数個準備し且つそれぞれに異なる画像や文字を刻印することにより、趣向に応じて取り換えることが出来る。
【0021】
本発明において、ターゲットとしての成形品を構成する多発色樹脂組成物は、[A]熱可塑性重合体と、[B]有彩色着色剤と、[C]カーボンブラック、チタンブラック及び黒色酸化鉄から選ばれる少なくとも1種の黒色物質とを含有する樹脂組成物である。しかも、上記の有彩色着色剤[B]の含有量は、熱可塑性重合体[A]を100質量部とした場合に0.001〜3質量部であり、上記の黒色物質[C]の含有量は、熱可塑性重合体[A]を100質量部とした場合に0.01〜2質量部である。
【0022】
上記の熱可塑性重合体[A]としては、樹脂、アロイ及びエラストマーの何れをも使用することが出来る。具体的には、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体、メタクリル酸メチル単量体単位を30質量%以上含むメタクリル酸メチル・スチレン共重合体などのスチレン系樹脂;ゴム強化熱可塑性樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、環状オレフィン共重合体、塩素化ポリエチレン等のオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、エチレン・塩化ビニル重合体、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、メタクリル酸メチル単量体単位を30質量%以上含む共重合体などのアクリル系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,12等のポリアミド系樹脂(PA);ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリアセタール樹脂(POM);ポリカーボネート樹脂(PC);ポリアリレート樹脂;ポリフェニレンエーテル;ポリフェニレンサルファイド;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂;液晶ポリマー;ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のイミド系樹脂;ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等のケトン系樹脂;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のスルホン系樹脂、更に、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、感光性樹脂、生分解性プラスチック等が挙げられる。
【0023】
熱可塑性のアロイとしては、PA/ゴム強化熱可塑性樹脂、PC/ゴム強化熱可塑性樹脂、PBT/ゴム強化熱可塑性樹脂、PC/PMMA等が挙げられる。また、熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系エラストマー;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体などのスチレン系エラストマー;ポリエステル系エラストマー;ウレタン系エラストマー;塩ビ系エラストマー;ポリアミド系エラストマー;フッ素ゴム系エラストマー等が挙げられる。
【0024】
本発明において、熱可塑性重合体[A]としては、レーザー光の照射により発泡しやすいものが好ましく、ポリアセタール樹脂、単量体成分としてメタクリル酸メチルを使用したスチレン系樹脂、単量体成分としてメタクリル酸メチルを使用したゴム強化熱可塑性樹脂などの熱可塑性樹脂が好ましい。
【0025】
本発明の好ましい態様において、ゴム強化熱可塑性樹脂は、ゴム質重合体(a)の存在下に、ビニル系単量体を重合して得られるゴム強化共重合樹脂(A1)、または、当該ゴム強化共重合樹脂(A1)とビニル系単量体の(共)重合体(A2)との混合物から成る。そして、上記のゴム強化共重合樹脂(A1)又は混合物中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位量は、ゴム質重合体(a)以外の成分中、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位量が上記の範囲にあると、発色性に優れている。上記のゴム強化共重合樹脂(A1)及びビニル系単量体の(共)重合体(A2)の混合物において、(メタ)アクリル酸エステルは、ゴム強化共重合樹脂(A1)及びビニル系単量体の(共)重合体(A2)の何れか一方または両方に使用されることが好ましい。この(メタ)アクリル酸エステルとしては、好ましくはメタクリル酸メチルである。なお、ゴム質重合体(a)の存在下に、ビニル系単量体を重合すると、通常、ビニル系単量体がゴム質重合体にグラフト重合しているグラフト重合体成分と、ビニル系単量体の(共)重合体成分との混合物が得られる。
【0026】
上記のゴム質重合体(a)としては、ポリブタジエン、ブタジエン・スチレン共重合体、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、イソブチレン・イソプレン共重合体などの重合体、これら重合体の水素化物、ブチルゴム、エチレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体、シリコーン系ゴム、アクリル系ゴム等が挙げられる。これらの重合体は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することが出来る。
【0027】
上記のゴム強化共重合樹脂(A1)及びビニル系単量体の(共)重合体(A2)の形成に使用されるビニル系単量体としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル、マレイミド系化合物などが挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することが出来る。また、必要に応じて、エポキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、オキサゾリン基などの官能基を有するビニル系化合物を使用することが出来る。
【0028】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、メチル−α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノメチルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルピリジン、モノクロルスチレン、ジクロロスチレン等の塩素化スチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレンなどの臭素化スチレン、モノフルオロスチレン等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することが出来る。また、これらのうち、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンが好ましい。
【0029】
シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することが出来る。また、これらのうち、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが好ましい。
【0030】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸エステルや、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸エステルが挙げられる。これらの化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することが出来る。上記の化合物のうち、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0031】
マレイミド系化合物としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、α,β−不飽和ジカルボン酸のイミド化合物などが挙げられる。これらの化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することが出来る。なお、マレイミド系化合物から成る単位を重合体中に導入する他の方法としては、例えば、無水マレイン酸を共重合し、その後イミド化する方法などがある。
【0032】
上記の官能基を有するビニル系単量体としては、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸、メタクリル酸、N,N−ジメチルアミノメチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノメチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリルアミド、ビニルオキサゾリン等が挙げられる。これらの化合物は、官能基ごとに1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することが出来る。
【0033】
上記のゴム強化共重合樹脂(A1)及びビニル系単量体の(共)重合体(A2)の形成に使用されるビニル系単量体の使用量は次の通りである。(1)芳香族ビニル化合物を使用する場合のその使用量は、全ビニル系単量体に対して、好ましくは5〜100質量%、より好ましくは10〜80質量%、更に好ましくは20〜80質量%である。(2)シアン化ビニル化合物を使用する場合のその使用量は、全ビニル系単量体に対して、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは3〜40質量%、更に好ましくは5〜35質量%である。(3)(メタ)アクリル酸エステルを使用する場合のその使用量は、全ビニル系単量体に対して、好ましくは1〜100質量%、より好ましくは5〜95質量%、更に好ましくは5〜90質量%である。(4)マレイミド系化合物を使用する場合のその使用量は、全ビニル系単量体に対して、好ましくは1〜70質量%、より好ましくは5〜60質量%、更に好ましくは5〜55質量%である。(5)官能基を有するビニル系単量体を使用する場合のその使用量は、全ビニル系単量体に対して、好ましくは0.1〜30質量%、より好ましくは0.5〜25質量%、更に好ましくは1〜25質量%である。ビニル系単量体の各使用量が上記の範囲にあると、使用する単量体の効果が十分に発揮されるので好ましい。
【0034】
上記のゴム強化共重合樹脂(A1)は、ゴム質重合体(a)の存在下に、ビニル系単量体(b)を乳化重合、溶液重合、塊状重合などさせて製造することが出来る。これらのうち、乳化重合が好ましい。乳化重合により製造する場合には、重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤、水などが使用される。上記のゴム質重合体(a)の存在下に、ビニル系単量体(b)を重合させる際の、ビニル系単量体(b)の使用方法は、反応系において、ゴム質重合体(a)全量の存在下に、ビニル系単量体(b)を全量一括して添加してもよいし、分割または連続添加してもよい。また、ゴム質重合体(a)の全量または一部を、重合の途中で添加してもよい。
【0035】
上記の重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド等で代表される有機ハイドロパーオキサイド類と含糖ピロリン酸処方、スルホキシレート処方などで代表される還元剤との組み合わせによるレドックス系、あるいは、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシラウレイト、t−ブチルパーオキシモノカーボネート等の過酸化物などが挙げられ、これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することが出来る。更に、上記の重合開始剤は、反応系に一括または連続的に添加することが出来る。また、上記の重合開始剤の使用量は、上記のビニル系単量体(b)の全量に対し、通常、0.1〜1.5質量%、好ましくは0.2〜0.7質量%である。
【0036】
上記の連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、t−テトラデシルメルカプタン等のメルカプタン類、ターピノーレン、α−メチルスチレンのダイマー等が挙げられ、これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することが出来る。上記の連鎖移動剤の使用量は、上記のビニル系単量体(b)の全量に対して、通常、0.05〜2.0質量%である。
【0037】
乳化重合の場合に使用する乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族スルホン酸塩、高級脂肪族カルボン酸塩、ロジン酸塩などのアニオン性界面活性剤、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルエーテル型などのノニオン系界面活性剤などが挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することが出来る。上記の乳化剤の使用量は、通常、上記のビニル系単量体(b)の全量に対して、0.3〜5.0質量%である。
【0038】
乳化重合により得られたラテックスは、通常、凝固剤により凝固させ、重合体成分を粉末状とし、その後、これを水洗、乾燥することによって精製される。この凝固剤としては、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム等の無機塩、硫酸、塩酸などの無機酸、酢酸、乳酸などの有機酸などが使用される。溶液重合、塊状重合による製造方法は、公知の方法を適用することが出来る。
【0039】
上記のゴム強化共重合樹脂(A1)に含まれるグラフト重合体のグラフト率(ゴム質重合体へグラフトしたビニル系単量体の質量割合)は、好ましくは10〜200%、更に好ましくは15〜150%、特に好ましくは20〜100%である。上記のグラフト重合体のグラフト率が10%未満では、本組成物を使用して得られる成形品の外観不良、衝撃強度の低下を招くことがある。一方、200%を超えると、加工性が劣る。なお、グラフト率(%)とは、上記のゴム強化共重合樹脂(A1)1g中のゴム成分をxg、上記のゴム強化共重合樹脂(A1)1gをアセトン(但し、アクリルゴム強化共重合樹脂の場合はアセトニトリルを使用。)に溶解させた際の不溶分をygとしたときに、次式により求められる値である。斯かるグラフト率(%)は、上記のゴム強化共重合樹脂(A1)を製造するときの、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、溶剤などの種類や量、更には重合時間、重合温度などを変えることにより、容易に制御することが出来る。
【0040】
【数1】

【0041】
上記の(共)重合体(A2)は、例えば、バルク重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合などにより得ることが出来る。上記の(共)重合体(A2)のアセトン可溶分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、好ましくは0.1〜1.0dl/g、より好ましくは0.15〜0.7dl/gである。極限粘度[η]が上記の範囲内であると、成形加工性と耐衝撃性の物性バランスに優れている。なお、極限粘度[η]は、上記のゴム強化共重合樹脂(A1)と同様、製造方法の調整により制御することが出来る。
【0042】
上記のゴム強化熱可塑性樹脂のアセトン可溶分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、好ましくは0.1〜0.8dl/g、より好ましくは0.15〜0.7dl/gである。極限粘度[η]が上記の範囲内であると、成形加工性と耐衝撃性の物性バランスに優れている。
【0043】
好ましい態様における上記のゴム強化熱可塑性樹脂は次の(1)〜(6)に示すものである。(1)ゴム質重合体の存在下、メタクリル酸メチルを含む単量体を重合して得られたゴム強化共重合樹脂。(2)上記の(1)と、メタクリル酸メチルを含む単量体から成る(共)重合体とを組み合わせたゴム強化熱可塑性樹脂。(3)上記の(1)と、芳香族ビニル化合物およびシアン化ビニル化合物を含む単量体から成る(共)重合体とを組み合わせたゴム強化熱可塑性樹脂。(4)ゴム質重合体の存在下、メタクリル酸メチルを用いず、芳香族ビニル化合物と、シアン化ビニル化合物とを含む単量体を重合して得られたゴム強化共重合樹脂と、メタクリル酸メチルを含む単量体から成る(共)重合体とを組み合わせたゴム強化熱可塑性樹脂。
【0044】
上記のゴム強化熱可塑性樹脂は、熱可塑性重合体[A]としてそのまま使用してもよいし、他の熱可塑性樹脂成分と組み合わせて使用してもよい。他の熱可塑性樹脂成分としては、ポリメタクリル酸メチル、スチレン・アクリロニトリル・メタクリル酸メチル共重合体、スチレン・メタクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することが出来る。
【0045】
なお、上記の熱可塑性重合体[A]として、上記のゴム強化熱可塑性樹脂を主として含む場合、本組成物中のゴム質重合体(a)の含有量は、好ましくは1〜40質量%、より好ましくは3〜40質量%、更に好ましくは3〜35質量%、特に好ましくは5〜35質量%である。上記のゴム質重合体(a)の含有量が少なすぎると、本組成物を使用して得られる成形品の耐衝撃性が劣る傾向にあり、多すぎると、硬度、剛性が劣る傾向にある。
【0046】
上記のポリアセタール樹脂としては、オキシメチレン基(−CHO−)を主な構成単位とする高分子化合物であれば特に限定されない。このポリアセタール樹脂は、ポリオキシメチレンホモポリマー、オキシメチレン基以外に他の構成単位を含有するコポリマー(ブロックコポリマーを含む)及びターポリマーの何れであってもよい。また、分子構造は、線状のみならず分岐、架橋構造を有するものであってもよい。更に、上記のポリアセタール樹脂は、カルボキシル基、ヒドロキシル基などの官能基を有してもよい。上記のポリアセタール樹脂は、構造あるいは分子量の異なるものを、それぞれ、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することが出来る。
【0047】
本発明において、有彩色着色剤[B]としては、黒色および白色以外であれば、赤色系、黄色系、青色系、紫色系、緑色系などのあらゆる色の着色剤を使用することが出来る。好ましい有彩色着色剤[B]は、示差熱分析により、360℃以上590℃以下の範囲に発熱ピークを有するものであり、より好ましくは380℃以上585℃以下の範囲に発熱ピークを有するもの、更に好ましくは400℃以上585℃以下の範囲に発熱ピークを有するものである。発熱ピークを示す温度が低すぎると、低エネルギーのレーザー光を照射した場合に有彩色のマーキングが不良となる傾向にある。一方、温度が高すぎると、高エネルギーのレーザー光を照射した場合に白色またはこの有彩色着色剤に由来する色の濃度が低下した色のマーキングが不良となる傾向にある。なお、示差熱分析による測定条件は、後述の実施例に記載の通りである。
【0048】
上記の有彩色着色剤[B]は、顔料でもよいし、染料でもよい。また、発熱ピークを示す温度が上記の好ましい温度範囲にあれば、2種以上の有彩色着色剤を組み合わせて使用することも出来る。発熱ピークを示す温度が上記の範囲にある有彩色着色剤[B]としては、例えば、フタロシアニン骨格を有する顔料または染料(青〜緑色)、ジケトピロロピロール骨格を有する顔料または染料(橙〜赤色)、ジオキサジン骨格を有する顔料または染料(紫色)、キナクリドン骨格を有する顔料または染料(橙〜紫色)、キノフタロン骨格を有する顔料または染料(黄〜赤色)、アンスラキノン骨格を有する顔料または染料(黄〜青色)、ペリレン骨格を有する顔料または染料(赤〜紫色)、ペリノン骨格を有する顔料または染料(橙〜赤色)、インダンスロン系顔料(青〜緑色)、トリアリルカルボニウム系顔料(青色)、モノアゾ系顔料(黄〜緑色)、ジスアゾ系顔料(黄〜緑色)、Ni錯体系顔料(黄〜紫色)、イソインドリノン系顔料(黄〜紫色)、チオインジゴ系顔料(赤〜紫色)、アンスラピリドン系染料(黄色)が挙げられる。なお、上記の括弧内の色は着色剤の色を示す。上記の着色剤うち、好ましい有彩色着色剤[B]は、フタロシアニン骨格、ジケトピロロピロール骨格、ジオキサジン骨格、キナクリドン骨格、キノフタロン骨格、アンスラキノン骨格、ペリレン骨格などの骨格を有する着色剤、Ni錯体系顔料などの金属錯体系の着色剤であり、以下に具体的に例示する。
【0049】
上記のフタロシアニン骨格を有する着色剤としては、以下の一般式(I)で表される化合物が挙げられ、斯かる化合物は、顔料であってもよいし、染料であってもよい。
【0050】
【化1】

【0051】
上記の一般式(I)において、Mは、配位可能な金属原子または2つの水素原子を表し、R〜R16は、任意の置換基を表す。このフタロシアニン骨格を有する好ましい着色剤は、Mが銅(Cu)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)及びスズ(Sn)から選ばれる金属原子または2つの水素原子であり、R〜R16は、それぞれ、独立して水素原子、ハロゲン原子、−SONHR(スルホン酸アミド基)及び−SO・NH(但し、Rは、炭素数1〜20のアルキル基である。)から選ばれるものであり、互いに連結して環を形成してもよい。
【0052】
上記のフタロシアニン骨格を有する着色剤としてより好ましいものを列挙すると次の通りである。(a)上記の一般式(I)におけるMがCuであり、かつ、R〜R16が水素原子であり、結晶形がα型あるいはβ型である銅フタロシアニン顔料。結晶形がβ型である銅フタロシアニン顔料の平均粒径は、一般的に20〜30μmであるが、本発明においては、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下である。なお、この平均粒径は、レーザー散乱法粒径分布測定装置などにより測定することが出来る。(b)上記の一般式(I)におけるMがCuであり、かつ、R〜R16の何れか又はすべてが塩素原子または臭素原子であるハロゲン含有銅フタロシアニン顔料。(c)上記の一般式(I)におけるMがCuであり、R〜R16のうちの4〜8個が−SO・RNH又はスルホン酸アミド基−SONHR(但し、Rは、炭素数1〜20のアルキル基である。)である溶剤可溶型銅フタロシアニン染料。(d)上記の一般式(I)におけるMがAl−OH又はAl−Clであり、かつ、R〜R16が水素原子であるアルミニウムフタロシアニン顔料。
【0053】
上記のジケトピロロピロール骨格を有する着色剤としては、以下の一般式(II)で表される化合物が挙げられる。この着色剤は、通常、顔料である。
【0054】
【化2】

【0055】
上記の一般式(II)において、Ar及びAr’は、それぞれ、独立してフェニル基、ナフチル基またはヘテロアリール基であり、これらの基は、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アミノ基、−NHCOR、−COR及び−COOR(但し、Rは、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリール基またはヘテロアリール基である。)の1種以上を置換基として有していてもよい。
【0056】
上記のジオキサジン骨格を有する着色剤としては、以下の一般式(III)で表される化合物が挙げられる。この着色剤は、通常、顔料である。
【0057】
【化3】

【0058】
上記の一般式(III)において、R17及びR18は、それぞれ、独立してハロゲン原子または−NHCOR(但し、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、アリール基またはヘテロアリール基である。)であり、R19〜R22は、それぞれ、独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、−NHCOR(但し、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、アリール基またはヘテロアリール基である。)から選ばれ、互いに連結して環を形成してもよく、カルバゾール等であってもよい。
【0059】
上記のキナクリドン骨格を有する着色剤としては、以下の一般式(IV)で表される化合物が挙げられる。この着色剤は、通常、顔料である。
【0060】
【化4】

【0061】
上記の一般式(IV)において、R23〜R26は、それぞれ、独立して水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜12のアルキル基である。
【0062】
上記のキノフタロン骨格を有する着色剤としては、以下の一般式(V)及び(VI)で表される化合物が挙げられる。以下の一般式(V)で表される着色剤は、通常、顔料であり、一般式(VI)で表される着色剤は、通常、染料である。
【0063】
【化5】

【0064】
上記の一般式(V)において、X〜Xは、それぞれ、独立して水素原子またはハロゲン原子である。
【0065】
【化6】

【0066】
上記の一般式(VI)において、R27は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数1〜12のアルコキシル基であり、R28は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルコキシル基、炭素数5〜12のアリールオキシ基、炭素数1〜12のヘテロアリールオキシ基、炭素数1〜12のアルキルチオ基、炭素数5〜12のアリールチオ基または炭素数1〜12のヘテロアリールチオ基である。また、R29は、水素原子またはヒドロキシル基であり、R30〜R33は、それぞれ、独立して水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、−COOR及び−CONR(但し、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、アリール基またはヘテロアリール基である。)から選ばれ、互いに連結して環を形成してもよい。
【0067】
上記のアンスラキノン骨格を有する着色剤としては、以下の一般式(VII)及び構造式(VIII)で表される化合物が挙げられる。以下の一般式(VII)で表される着色剤は、通常、青色の顔料であり、また、構造式(VIII)で表される着色剤は、青色の顔料である。
【0068】
【化7】

【0069】
上記の一般式(VII)において、R34及びR35は、それぞれ、独立して水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のアリール基、炭素数1〜12のヘテロアリール基、炭素数5〜12のヘテロアリール基、炭素数2〜13のアルキルカルボニル基、炭素数6〜13のアリールカルボニル基および炭素数2〜13のヘテロアリールカルボニル基から選ばれる。
【0070】
【化8】

【0071】
上記の構造式(VIII)で表される化合物は、ハロゲン原子などの置換基を有してもよい。
【0072】
また、上記のアンスラキノン骨格を有する着色剤としては、以下の一般式(IX)で表される化合物を使用することも出来る。この化合物は、黄〜青色の染料である。
【0073】
【化9】

【0074】
上記の一般式(IX)において、R36〜R43は、それぞれ、独立して水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシル基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、炭素数5〜12のアリール基、炭素数1〜12のヘテロアリール基、−NHR、−NR、−OR、−SR、−COOR及び−NHCOR(但し、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、アリール基またはヘテロアリール基である。)から選ばれる。
【0075】
上記のペリレン骨格を有する着色剤としては、以下の一般式(X)で表される化合物が挙げられる。この着色剤は、通常、顔料である。
【0076】
【化10】

【0077】
上記の一般式(X)において、R44及びR45は、それぞれ、独立して水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のアリール基、炭素数1〜12のヘテロアリール基、−COR及び−COOR(但し、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、アリール基またはヘテロアリール基である。)から選ばれる。
【0078】
上記の有彩色着色剤[B]の含有量は、上記の熱可塑性重合体[A]を100質量部とした場合に0.001〜3質量部であり、好ましくは0.002〜1質量部、より好ましくは0.005〜0.8質量部である。この有彩色着色剤[B]の含有量が多すぎると、532nm等の短波長のレーザー光の照射による白色マーキングが得られない場合があり、一方、少なすぎると、1064nm等の長波長のレーザー光の照射により上記の有彩色着色剤[B]に由来する色のマーキングが得られない場合がある。
【0079】
本発明において、黒色物質[C]としては、カーボンブラック、チタンブラック、黒色酸化鉄などが挙げられる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック等が挙げられる。斯かるカーボンブラックの平均粒径は、好ましくは0.1〜1000nm、より好ましくは1〜500nm、更に好ましくは5〜100nm、特に好ましくは10〜80nmである。また、上記のカーボンブラックの窒素吸着比表面積は、好ましくは1〜10000m/g、より好ましくは5〜5000m/g、更に好ましくは10〜2000m/g、特に好ましくは20〜1500m/gである。
【0080】
チタンブラックは、一般に、二酸化チタンが還元されたものである。斯かるチタンブラックの平均粒径は、好ましくは0.01〜2μm、より好ましくは0.05〜1.5μm、更に好ましくは0.1〜1.0μm、特に好ましくは0.1〜0.8μmである。また、黒色酸化鉄は、一般に、Fe又はFeO・Feで表される鉄の酸化物である。この黒色酸化鉄の平均粒径は、好ましくは0.01〜2μm、より好ましくは0.05〜1.5μm、更に好ましくは0.1〜1.0μm、特に好ましくは0.3〜0.8μmである。
【0081】
上記の黒色物質[C]の含有量は、上記の熱可塑性重合体[A]を100質量部とした場合に0.01〜2質量部であり、好ましくは0.03〜1質量部、より好ましくは0.05〜0.8質量部である。この黒色物質[C]の含有量が多すぎると、レーザー光の照射により上記の有彩色着色剤[B]に由来する色が鮮明でなく、黒ずんだ色となる場合があり、一方、少なすぎると、上記の有彩色着色剤[B]に由来する色、白色、および、上記の有彩色着色剤[B]に由来する色の濃度が低下した色の何れをも得られない場合がある。
【0082】
本発明において、上記の多発色樹脂組成物は、熱可塑性重合体[A]、有彩色着色剤[B]及び黒色物質[C]を所定量ずつ含有するものであるが、この組み合わせによる組成物および成形品の地色は、黒色または暗色系の色を呈する。本発明においては、これらの色の明度を調節するため、白色物質を更に含有させることが出来る。斯かる白色物質としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸バリウム等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することが出来る。
【0083】
上記の白色物質の平均粒径は特に限定されないが、通常、0.1〜3.0μm、好ましくは0.1〜2.0μm、より好ましくは0.1〜1.0μmである。上記の白色物質の含有量は、上記の熱可塑性重合体[A]を100質量部とした場合に、好ましくは0.001〜1質量部であり、より好ましくは0.001〜0.5質量部、更に好ましくは0.001〜0.1質量部である。この白色物質の含有量が多すぎると、コントラストの良好なマーキングが得られない場合があり、一方、少なすぎると、成形品の地色の自由度が制限される場合がある。
【0084】
本発明において、多発色樹脂組成物は、目的、用途に応じて、淡色系着色剤、難燃剤、充填材、酸化防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、抗菌などの添加剤を含有してもよい。上記の多発色樹脂組成物は、各原料成分を、各種押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等に投入し、混練りすることによって得ることが出来る。混練方法としては、各成分を一括添加してもよいし、多段添加方式で混練りしてもよい。このようにして得られた組成物は、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形、シート押出、真空成形、発泡成形、ブロー成形などによって所定形状を有する成形品を製造することが出来る。斯かる成形品は、熱可塑性重合体[A]をマトリックスとして有彩色着色剤[B]、黒色物質[C]等が分散しているため、通常、黒色または暗色系の地色を呈する。
【0085】
上記の多発色樹脂組成物は、波長532nmのレーザー光を照射して得られる白色マーキング部のLab値と、上記の有彩色着色剤[B]を含有しない組成物(本発明に適用されない他のレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物であって、[A]熱可塑性重合体と、[C]カーボンブラック、チタンブラック及び黒色酸化鉄から選ばれる少なくとも1種の黒色物質を含有する樹脂組成物)に、波長1064nmのレーザー光を照射して得られる白色マーキング部のLab値と、から算出されるΔE1を、好ましくは3以下、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2〜0とすることが出来る。なお、Lab値は、明度(L)、赤色度(a)、黄色度(b)の高さを示す指標であり、後述の実施例に記載の測定装置によって測定可能な値であり、また、ΔE1は、白色度の程度を示す指標であり、後述の実施例に記載の方法で求めることが出来る。
【0086】
また、上記の多発色樹脂組成物は、波長532nmのレーザー光を照射して得られる白色系マーキング部のLab値と、本組成物に、波長1064nmのレーザー光を照射して得られる有彩色のマーキング部のLab値と、から算出されるΔE2を、好ましくは3以上、より好ましくは3.5以上、更に好ましくは4〜50とすることが出来る。なお、ΔE2は、有彩色の鮮明性を示す指標であり、実施例に記載の方法で求めることが出来る。
【0087】
次に、本発明のレーザーマーキング方法について説明する。本発明のレーザーマーキング方法においては、先ず、刻印したい所望の画像および/または文字のデータを制御用コンピュータ(21)に取り込む。その場合、例えば、制御用コンピュータ(21)に取り込むデータとして、カメラ(例えばデジタルカメラ)(1)によって撮影された写真の画像データを使用する。撮影された写真画像をデータとして取り込むことにより、ターゲットに対して固有の画像を刻印することが出来る。
【0088】
写真の画像データとしては、例えば、JPEG、TIF、BMP等の各種形式のデータを取り込むことが可能である。また、制御用コンピュータ(21)に画像を取り込むにあたり、カメラ(1)を直結し、制御用コンピュータ(21)に画像データを直接入力するすることも出来るが、操作性の観点からは、カード又はスティック形式の情報記録媒体(11)を使用して画像データを取り込むのが便利である。
【0089】
制御用コンピュータ(21)に例えば写真の画像データを取り込んだ後は、制御用コンピュータ(21)において、上記のソフトウエアの編集機能を使用し、取り込んだ画像データを表示パネル上で編集する。例えば、画像が人物写真の場合、予め準備された背景を選択してもよい。また、名前などの文字を挿入してもよい。上記の様に画像を編集した後は、上記のソフトウエアを使用し、編集した画像データに変換処理を施して所定の解像度の画像データに変換する。すなわち、取り込んだ画像は、一定の解像度のグレースケール画像または二値化画像に変換する。
【0090】
また、ターゲットに画像などを描く際にターゲット上での画像の位置決めを行うため、制御コンピュータ(21)における処理では、例えば、ターゲットの中心に相当する基準点に対する画像の縦横へのずれを調節する。更に、ターゲットの表面に正確にレーザースポットを形成するために焦点合わせを行う。斯かる画像の位置決めや焦点合わせは、表示パネル上での操作により行う。上記の変換処理によって画像の解像度を所定値に設定することにより、鮮明な画像を効率的にターゲット上に描くことが出来る。
【0091】
続いて、レーザーマーキング装置(2)のレーザー走査ユニット(22)のレーザー照射領域(S)に対し、適当な支持台(3)を使用してターゲットである例えば携帯電話(4)の電池パックの蓋(41)を配置する。そして、制御用コンピュータ(21)を操作することにより、変換された画像などのデータを含む制御信号を制御用コンピュータ(21)からレーザー走査ユニット(22)に出力し、レーザー走査ユニット(22)によってターゲットに画像などを刻印する。
【0092】
本発明においては、レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物から構成されたターゲットである例えば電池パックの蓋(41)(成形品)の異なる位置に対し、エネルギーの異なる2種以上のレーザー光を照射することにより、白色と有彩色を含む2以上の異なる色調に刻印する。特に、白色は、レーザー光の照射による樹脂の発泡に由来して発色させるのが好ましい。上記の様に、白色と有彩色を含む2以上の異なる色調に刻印することにより、個々のターゲットに対して独自の特徴的な画像を刻印でき、携帯電話などのターゲットの意匠性を一層高めることが出来る。
【0093】
また、本発明においては、上記の特定の多発色樹脂組成物から構成されたターゲットである例えば電池パックの蓋(41)(成形品)の異なる位置に対し、エネルギーの異なる2種以上のレーザー光を照射することにより、2以上の異なる色調に刻印する。エネルギーの異なるレーザー光を使用する簡便な方法は、異なる波長のレーザー光を照射することである。本発明においては、λ及びλという2の異なる波長(但し、λ>λとする。)のレーザー光を異なる位置に照射した場合、波長λのレーザー光の照射により上記の有彩色着色剤[B]に由来する色のマーキング部を形成でき、そして、波長λのレーザー光の照射により白色または上記の有彩色着色剤[B]に由来する色の濃度が低下した色のマーキングを形成できる。
【0094】
上記の波長λ及びλは特に限定されないが、通常、100〜2000nmの範囲である。また、これらの差|λ−λ|は、好ましくは100nm以上、より好ましくは200nm以上、更に好ましくは200〜1500nmである。本発明においては、上記の有彩色着色剤[B]が360℃以上590℃以下の範囲に発熱ピークを有することにより、波長1064nmのレーザー光を照射した場合に上記の有彩色着色剤[B]に由来する色のマーキングを鮮明に形成でき、波長532nmのレーザー光を照射した場合に白色または上記の有彩色着色剤[B]に由来する色の濃度が低下した色のマーキングを鮮明に形成できる。
【0095】
すなわち、本発明においては、異なる波長のレーザー光を発するレーザーを選択し、異なる波長の2つのレーザー光をターゲットである例えば電池パックの蓋(41)(成形品)の異なる位置に照射することにより、長波長のレーザー光の照射によって上記の有彩色着色剤[B]に由来する色のマーキングを刻印し、そして、短波長のレーザー光の照射によって白色または有彩色着色剤[B]に由来する色であって濃度が低下した色のマーキングを刻印できる。レーザー光の波長は、ターゲットに含まれる有彩色着色剤[B]等に応じて選択されるが、好ましくは、長波長のレーザー光の波長は1064nmであり、短波長のレーザー光の波長は532nmである。また、波長の異なるレーザー光を照射する場合、各波長ごとにレーザー光を照射してもよいし、2以上の波長を同時に照射してもよい。本発明においては、効率的に刻印するため、2以上の波長を同時に照射するのが好ましい。
【0096】
本発明においては、ターゲットである成形品が上記の多発色樹脂組成物で構成されており、黒色物質[C]としてカーボンブラックを含んでいるため、ターゲットにある種のレーザー光が照射されると、照射部位に存在するカーボンブラックがレーザー光を吸収して気化し、照射部位における黒色または暗色の度合いが小さくなるか、あるいは、照射部位がほぼ無色となる。また、有色の有彩色着色剤[B]が含まれているため、ある種のレーザー光が照射された部位は、その着色剤に由来する色(着色剤そのものの色、濃度変化の度合いが小さい色、または、変色により色調が異なる色)、あるいは、着色剤の分解、飛散などによって白色またはその着色剤に由来する色の濃度が低下した色となる。そして、エネルギーの異なる複数のレーザー光、例えばの波長の異なるレーザー光を照射した場合には、より低いエネルギーのレーザー光によってカーボンブラックを気化させ、上記の有彩色着色剤[B]に由来する色のマーキングを形成し、また、より高いエネルギーのレーザー光によって白色またはその有彩色着色剤[B]に由来する色であって濃度が低下した色のマーキングを形成できる。
【0097】
上記の様に、エネルギーの異なる例えば2種のレーザー光を照射することにより多色に発色する理由は次の様に考えられる。すなわち、レーザー光のエネルギーをそれぞれE1及びE2(但し、E1<E2)とし、かつ、E1がカーボンブラックを気化させる程度のエネルギーとすると、E1及びE2の2種のレーザー光を照射すると、エネルギーE1のレーザー光が照射された部位は、カーボンブラックが気化するだけであるため、有彩色着色剤[B]に由来する色に刻印され、また、エネルギーE2のレーザー光が照射された部位は、カーボンブラックが気化し、更に、その有彩色着色剤[B]の一部または全部が分解、飛散などするため、本来の有彩色着色剤[B]の色とは異なる色、例えば、白色、その有彩色着色剤[B]に由来する色であって濃度が低下した色、または、変色してその有彩色着色剤[B]と全く異なる色に刻印される。
【0098】
また、ターゲットを構成する上記の多発色樹脂組成物に黒色物質[C]としてチタンブラックが含まれていることにより、レーザー光が照射されると、ターゲットの照射部位に存在するチタンブラックが白色の二酸化チタンに変化し、照射部位における黒色の度合いが小さくなるか、あるいは、照射部位が無色となる。従って、上記の黒色物質[C]としてチタンブラックが含まれ且つ有彩色着色剤[B]が含まれていることにより、カーボンブラックが含まれている場合と同様に、マーキングを形成することが出来る。そして、エネルギーの異なる2種以上のレーザー光を照射することにより、カーボンブラックの場合と同様に、異なる色調のマーキングを形成することが出来る。
【0099】
上記の様に、有彩色着色剤[B]は、2種以上を組み合わせることが出来るため、異なる色調の有彩色着色剤[B]を複数含有する多発色樹脂組成物によってターゲットを構成し、波長の異なるレーザー光をそれぞれ照射し、異なる色調のマーキングと、白色または有彩色着色剤[B]に由来する色であって濃度が低下した色のマーキングとを形成することも出来る。この様に、複数の有彩色着色剤[B]を使用した場合、例えば、赤色着色剤と青色着色剤とを使用した場合は、異なるエネルギーE1、E2及びE3(但し、E1<E2<E3とする。)のレーザー光を照射することにより、次の様な多色のマーキングを得ることが出来る。
【0100】
すなわち、エネルギーE1のレーザー光により、黒色(又は暗色)がなくなって赤色と青色の混合色である紫色のマーキングが形成され、エネルギーE2のレーザー光により、一方の有彩色着色剤[B]、例えば赤色着色剤のみが分解、飛散などして主として青色着色剤に由来する色のマーキングが形成される。更に、エネルギーE3のレーザー光により、青色着色剤が分解、飛散などして白色または上記の有彩色着色剤[B]に由来する色であって濃度が低下した色のマーキングが形成される。
【0101】
上記の有彩色着色剤[B]は、360℃以上590℃以下という所定の温度範囲に発熱ピークを有していることにより、カーボンブラック等の黒色物質との共存下においてレーザー光が照射されると、上記のような波長(1064nm、532nm等)を有するレーザー光のパルスエネルギーに依存して反応(分解など)するため、ターゲット表面においては、異なる色調のマーキングが鮮明に形成される。
【0102】
上記の様に、本発明のレーザーマーキング方法によれば、特有の多発色樹脂組成物から成る成形品をターゲットとして使用し、エネルギーの異なる2種以上のレーザー光をターゲットの異なる位置に照射することにより、有彩色着色剤[B]に由来する有彩色(着色剤そのものの色、濃度変化の度合いが小さい色、または、変色により色調が異なる色)を含む2以上の異なる色調で画像および/または文字を刻印できるため、個々のターゲットに対して独自の特徴的な画像を刻印でき、ターゲットの意匠性を一層高めることが出来る。
【0103】
また、カメラ(1)によって撮影された写真の画像データを制御用コンピュータ(21)に取り込むことにより、個々のターゲットごとに独自の特徴的な画像を刻印できるため、携帯電話(4)のケース等のターゲットの意匠性を一層高めることが出来る。特に、携帯電話(4)のケースをターゲットとした場合、携帯電話(4)のケースに所有者独自の画像を描写できるため、機種ごとに画一化された携帯電話(4)に対し、意匠性を一層高めることが出来、また、識別性を付与することが出来る。
【0104】
なお、本発明においては、エネルギーの異なる2種以上のレーザー光を使用するにあたり、通常は波長の異なる2種以上のレーザー光が使用されるが、同じ波長のレーザー光を使用し、照射条件(時間、パルス出力、パルス幅など)を変化させてもよい。
【実施例】
【0105】
以下の通り、多発色樹脂組成物を製造し、当該多発色樹脂組成物によってターゲットとしての試験片を成形した後、当該試験片にレーザーマーキングによって画像を刻印した。なお、以下の説明中、「%」及び「部」は、特に断らない限り質量基準である。
【0106】
1.多発色樹脂組成物の原料成分
1−1.熱可塑性樹脂
(1)ゴム強化熱可塑性樹脂:
還流冷却機、温度計および撹拌機を備えたセパラブルフラスコに、初期重合成分としてポリブタジエンゴムラテックスを固形分換算で40部、イオン交換水65部、ロジン酸石鹸0.35部、スチレン15部およびアクリロニトリル5部を投入し、その後、ピロリン酸ナトリウム0.2部、硫酸第1鉄7水和物0.01部およびブドウ糖0.4部をイオン交換水20部に溶解した溶液を加えた。次いで、クメンハイドロパーオキサイド0.07部を加えて重合を開始し、1時間重合を行った。その後、インクレメント成分としてイオン交換水45部、ロジン酸石鹸0.7部、スチレン30部、アクリロニトリル10部およびクメンハイドロパーオキサイド0.01部を2時間かけて連続的に添加し、更に1時間かけて重合反応を完結させ、共重合体ラテックスを得た。この共重合体ラテックスに硫酸を加えて重合体成分を凝固させ、水洗、乾燥してゴム強化共重合樹脂(A1)を得た。
【0107】
一方、還流冷却器、温度計および撹拌機を備えたセパラブルフラスコに、イオン交換水250部、ロジン酸カリウム3.0部、スチレン40部、アクリロニトリル15部、メタクリル酸メチル45部およびt ドデシルメルカプタン0.1部を投入し、その後、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.05部、硫酸第1鉄7水和物0.002部およびナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.1部をイオン交換水8部に溶解した溶液を加えた。次いで、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド0.1部を加えて重合を開始し、約1時間重合させて反応を完結した。得られた共重合体ラテックスに硫酸を加えて重合体成分を凝固させ、水洗、乾燥して重合体(A2)を得た。
【0108】
上記のゴム強化共重合樹脂(A1)40%と、重合体(A2)60%とを混合し、50mmφ押出機でシリンダー設定温度180〜220℃で溶融混練押出してゴム強化熱可塑性樹脂をペレットとして得た。
【0109】
(2)ポリアセタール樹脂(POM樹脂):
三菱エンジニアリングプラスチックス社製の「ユピタールF20−03N」(商品名)を使用した。
【0110】
(3)ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA樹脂):
三菱レイヨン社製の「VH001」(商品名)を使用した。
【0111】
(4)ポリアミド樹脂(PA樹脂):
三菱エンジニアリングプラスチックス社製の「NOVAMID1010」(商品名)を使用した。
【0112】
1−2.有彩色着色剤:
以下に示す着色剤を使用した。なお、示差熱分析により測定された発熱ピーク温度を併記した。測定装置は、セイコー電子社製「TG−DTA320型」であり、試料量を1〜10mg、昇温速度を10℃/分として空気中で測定した。
【0113】
(1)着色剤(a):
以下の構造を有するジオキサジン系顔料(紫色)を使用した。発熱ピーク温度は402℃である。
【0114】
【化11】

【0115】
(2)着色剤(b):
以下の構造を有するジケトロロピロール系顔料(赤色)を使用した。発熱ピーク温度は550℃である。
【0116】
【化12】

【0117】
(3)着色剤(c):
以下の構造を有するアルミニウムフタロシアニン顔料(緑色)を使用した。発熱ピーク温度は581℃である。
【0118】
【化13】

【0119】
(4)着色剤(d):
以下の構造を有するペリノン系染料(赤色)を使用した。発熱ピーク温度はなかった。
【0120】
【化14】

【0121】
(5)着色剤(e):
以下の構造を有するアンスラキノン系染料(青色)を使用した。発熱ピーク温度はなかった。
【0122】
【化15】

【0123】
1−3.黒色物質:
三菱化学社製のカーボンブラック「三菱カーボン#45」(商品名)又はデグサ社製のカーボンブラック「デグサAG FW 2V」(商品名)を使用した。
【0124】
1−4.白色物質:
石原産業社製の二酸化チタン「CR−60−2」(商品名)を使用した。
【0125】
2.多発色樹脂組成物の調製および評価(実施例1〜12及び比較例1〜6):
上記の原料成分を使用し、表1及び表2に記載の配合処方に従って、各熱可塑性樹脂組成物を調製した。すなわち、各原料成分をミキサーにより5分間混合した後、50mmφ押出機でシリンダー設定温度180〜220℃で溶融混練押出し、ペレットを得た。得られたペレットを十分に乾燥し、射出成形機(型名「EC−60」、東芝機械社製)により評価用の試験片(縦80mm、横55mm、厚さ2.5mm)を得た。
【0126】
レーザーマーキングにおいては、レーザーマーキング装置(2)として、ロフィン・バーゼル社製の「ロフィンパワーラインE/SHG型」(商品名)及び同社製の「レーザーマーカーRSM30D型」(商品名)として各入手可能な装置を使用した。これらの装置は、LD励起方式のNd:YAGレーザーを装備した装置であり、制御用コンピュータ(21)には、画像処理用のソフトウエア「Visual Laser Marker」(商品名)を搭載した。
【0127】
制御用コンピュータ(21)に取り込むデータとしては、カメラ(1)(カシオ社製のデジタルカメラ「ExiLim EX−Z3」(商品名))で撮影した解像度1600×1200dpiのカラー画像を使用した。画像データの取り込みにおいては、スティック状の情報記録媒体(11)を使用した。制御用コンピュータ(21)に取り込んだ画像データは、ソフトウエアの機能により、BMPデータに変換した。
【0128】
上記の各装置においては、画像データの白色部分および黒色部分に対応させてレーザー光の波長をそれぞれ532nm及び1064nmに設定し、表1及び表2に示す各照射条件に従い、レーザー走査ユニット(22)に制御信号を出力し、試験片表面の異なる部位に前記波長のレーザー光をそれぞれ照射した。そして、照射部位の色を観察したところ、表1及び表2に示す様な結果を得た。
【0129】
次に、上記の試験片に対して波長532nmのレーザー光を照射した際に形成された白色マーキング部と、上記の着色剤を含まない配合で形成した試験片に対して波長1064nmのレーザー光を照射した際に形成された白色マーキング部との間で、各Lab値(L;明度、a;赤色度、b;黄色度)を測定し、以下の式に従い、ΔE1を算出したところ、表1及び表2に示す結果を得た。なお、Labの測定装置には、Gretag Macbeth社製、「Clor−Eye 7000A」を使用した。
【0130】
【数2】

【0131】
上記の式において、L、a及びbは、波長532nmのレーザー光を照射した際に形成された白色マーキング部の値であり、L、a及びbは、上記の着色剤を含まない配合で成形した試験片に対して波長1064nmのレーザー光を照射した際に形成された白色マーキング部の値である。上記のΔE1は、小さい方がより白色度が高い。
【0132】
また、上記の試験片に対して波長532nmのレーザー光を照射した際に形成された白色マーキング部と、同じ試験片の異なる位置に対して波長1064nmmのレーザー光を照射した際に形成された有彩色マーキング部との間で、各Lab値を測定し、上記の式と同様にしてΔE2を算出したところ、表1及び表2に示す結果を得た。斯かるΔE2は、大きいほど色調差が明瞭である。
【0133】
【表1】

【0134】
【表2】

【0135】
表1及び表2において、比較例1及び4は、有彩色着色剤を含有しない組成物を使用した例であり、白色のマーキングのみしか得られなかった。比較例2、3、5及び6は、示差熱分析による発熱ピークを有していない着色剤を使用した例であり、レーザー光を照射しても、各着色剤に由来する色しか得られず、また、ΔE1が3よりも大きく、ΔE2が3未満であった。一方、実施例1〜12は、ΔE1が3以下且つΔE2が3以上であり、何れもレーザー光の照射によるマーキングが鮮明であった。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明に係るレーザーマーキング方法の概要を示す説明図である。
【符号の説明】
【0137】
1 :カメラ
11:情報記録媒体
2 :レーザーマーキング装置
21:制御用コンピュータ
22:レーザー走査ユニット
23:冷却ユニット
3 :支持台
4 :携帯電話
41:電池パックの蓋(ターゲット)
S :照射領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザーマーキング装置によってターゲットに画像および/または文字を刻印するレーザーマーキング方法であって、制御用コンピュータに画像および/または文字のデータを取り込み、前記制御用コンピュータからレーザー走査ユニットに制御信号を出力してターゲットに画像および/または文字を刻印するにあたり、前記ターゲットとして、レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物から成る成形品を使用し、かつ、エネルギーの異なる2種以上のレーザー光をターゲットの異なる位置に照射することにより、白色と有彩色を含む2以上の異なる色調に刻印することを特徴とするレーザーマーキング方法。
【請求項2】
レーザーマーキング装置によってターゲットに画像および/または文字を刻印するレーザーマーキング方法であって、制御用コンピュータに画像および/または文字のデータを取り込み、前記制御用コンピュータからレーザー走査ユニットに制御信号を出力してターゲットに画像および/または文字を刻印するにあたり、前記ターゲットとして、以下の(1)に記載の多発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物から成る成形品を使用し、かつ、エネルギーの異なる2種以上のレーザー光をターゲットの異なる位置に照射することにより、2以上の異なる色調に刻印することを特徴とするレーザーマーキング方法。
(1)多発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物は、[A]熱可塑性重合体と、[B]有彩色着色剤と、[C]カーボンブラック、チタンブラック及び黒色酸化鉄から選ばれる少なくとも1種の黒色物質とを含有し、有彩色着色剤[B]の含有量が、熱可塑性重合体[A]を100質量部とした場合に0.001〜3質量部であり、黒色物質[C]の含有量が、熱可塑性重合体[A]を100質量部とした場合に0.01〜2質量部である。
【請求項3】
有彩色着色剤[B]は、示差熱分析において、360℃以上590℃以下の範囲に発熱ピークを有する請求項2に記載のレーザーマーキング方法。
【請求項4】
多発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物が、長波長のレーザー光の照射により有彩色着色剤[B]に由来する色に刻印され、短波長のレーザー光の照射により白色または有彩色着色剤[B]に由来する色であって濃度が低下した色に刻印される組成物である請求項2又は3に記載のレーザーマーキング方法。
【請求項5】
多発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物が、波長1064nmのレーザー光の照射により有彩色着色剤[B]に由来する色に刻印され、波長532nmのレーザー光の照射により白色または有彩色着色剤[B]に由来する色であって濃度が低下した色に刻印される組成物である請求項2〜4の何れかに記載のレーザーマーキング方法。
【請求項6】
多発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物は、波長532nmのレーザー光を照射して得られる白色マーキング部のLab値と、有彩色着色剤[B]を含有しない組成物に対して波長1064nmのレーザー光を照射して得られる白色マーキング部のLab値とから算出されるΔE1が3以下の組成物である請求項2〜5の何れかに記載のレーザーマーキング方法。
【請求項7】
多発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物は、波長532nmのレーザー光を照射して得られる白色系マーキング部のLab値と、波長1064nmのレーザー光を照射して得られる有彩色のマーキング部のLab値とから算出されるΔE2が3以上の組成物である請求項2〜6の何れかに記載のレーザーマーキング方法。
【請求項8】
熱可塑性重合体[A]が、ゴム質重合体(a)の存在下に、シアン化ビニル化合物、芳香族ビニル化合物および(メタ)アクリル酸エステルを含むビニル系単量体(b)を重合して得られるゴム強化共重合樹脂(A1)、または、当該ゴム強化共重合樹脂(A1)とビニル系単量体の(共)重合体(A2)との混合物から成るゴム強化熱可塑性樹脂を含有する請求項2〜7の何れかに記載のレーザーマーキング方法。
【請求項9】
ゴム質重合体(a)の含有量が、熱可塑性重合体[A]に対して0.5〜60質量%である請求項8に記載のレーザーマーキング方法。
【請求項10】
多発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物は、更に、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛および硫酸バリウムから選ばれる少なくとも1種の白色物質を含有し、かつ、当該白色物質の含有量が、熱可塑性重合体[A]を100質量部とした場合に0.01〜1質量部の組成物である請求項2〜9の何れかに記載のレーザーマーキング方法。
【請求項11】
長波長のレーザー光の照射により有彩色着色剤[B]に由来する色を刻印し、短波長のレーザー光の照射により白色または有彩色着色剤[B]に由来する色であって濃度が低下した色を刻印する請求項2〜10の何れかに記載のレーザーマーキング方法。
【請求項12】
レーザー光の波長が、1064nm及び532nmである請求項11に記載のレーザーマーキング方法。
【請求項13】
長波長および短波長のレーザー光の照射を同時に行う請求項11又は12の何れかに記載のレーザーマーキング方法。
【請求項14】
制御用コンピュータに取り込むデータとして、カメラによって撮影された写真の画像データを使用する請求項2〜13の何れかに記載のレーザーマーキング方法。
【請求項15】
制御用コンピュータにおいて取り込んだ画像データを所定の解像度の画像データに変換する請求項14に記載のレーザーマーキング方法。
【請求項16】
情報記録媒体を使用し、制御用コンピュータに画像データを取り込む請求項14又は15に記載のレーザーマーキング方法。
【請求項17】
ターゲットが携帯電話のケースである請求項2〜16の何れかに記載のレーザーマーキング方法。
【請求項18】
ターゲットが携帯電話の電池パックの蓋である請求項2〜16の何れかに記載の何れかに記載のレーザーマーキング方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−82301(P2006−82301A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−267458(P2004−267458)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【出願人】(591258587)日本カラリング株式会社 (36)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】