説明

レーザー光溶着方法及び装置

【課題】ハウジングとカバーとのレーザー光溶着の際に、ハウジングに対して殆ど同じ形状・構造に形成されているコネクタ部を利用して、簡単な構造の治具によってハウジングを保持することができる収納ケースのレーザー光溶着方法及び装置を提供する。
【解決手段】殆ど同じ形状・構造に形成されているコネクタ部7を治具20に備わる孔部22に挿入することで、ハウジング1は治具20に対して位置決めされる。吸引機構50によって孔部22を通じてハウジング1を吸引することで、ハウジング1は治具20に吸引支持される。治具20は収納ケースの形状や大きさが異なっても共通して用いられる。カバー2は、治具20によって保持されたハウジング1の開口部5に対して、レーザー光Lによって確実に溶着される。ハウジング1に形成した通気孔9を通じてカバー2をハウジング1に吸引保持させ、引き続いて溶着部の負圧漏れチェックをすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂製のハウジングとその開口部を閉じる樹脂製のカバーとを備えた収納ケースについて、レーザー光を用いてハウジングとカバーとを溶着するレーザー光溶着方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂の溶着方法としては、超音波溶着、高周波溶着、熱溶着、レーザー溶着などが知られている。これらの中で、レーザー溶着方法は、バリの発生量が少ない、振動や騒音の程度が低い、局所的な加熱が可能である等、溶着時の作業性が良い、また溶着後の外観に優れるなどの有利な特徴を備えており、近年、注目されている溶着方法である。
【0003】
レーザー溶着法は、当接する樹脂同士の界面にレーザー光を照射して界面で吸収されるエネルギーにより相互に熱溶融して溶着する方法である。レーザー光のエネルギーを吸収する必要があることから、レーザー溶着法は、光透過性樹脂材料と光吸収性樹脂材料との組合せが必要であり、従来から種々の提案がなされている。例えば、所定のレーザー光を当接面に照射させながら、これら当接面が溶融状態となったところで、直ちに所定の圧着手段にて両者を圧接したものなどがある。レーザー溶着法では、半導体レーザーやYAGレーザー等の780〜1200nmの波長が使用されている。
【0004】
レーザー溶着法の適用例として、樹脂製部材同士、例えば内部に加速度計のようなセンサや電子回路のような回路基板等を収容する熱可塑性樹脂製のハウジングと当該ハウジングの開口部を閉塞する樹脂製のカバーとの溶着がある。
【0005】
図3は、レーザー光によるハウジングとカバーとの従来の溶着方法の一例を示す図であって、(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。ハウジング71は、内部にセンサや回路基板等を収容する空間が形成された収納部73を備えたボックス状の部材である。この収納部73は一方向に開いており、ハウジング71の内部空間は、開口部75を覆うカバー72をハウジング71に溶着することによって閉鎖されている。ハウジング71はレーザーヘッド(図示せず)から照射される所定波長のレーザー光Lに対して吸収特性を有する熱可塑性樹脂によって形成されており、カバー72はレーザー光Lに対して透過特性を有する熱可塑性樹脂によって形成されている。
【0006】
カバー72をハウジング71に溶着する際には、ハウジング71の開口部75の側壁端部74とカバー72とを互いに接触させた状態で、透過特性を有するカバー72の側からレーザー光Lが照射される。カバー72の周縁部78を透過したレーザー光Lは側壁端部74側の接触面を加熱して当該側壁端部74を溶融し、固化する際に開口部75の側壁端部74とカバー72の周縁部78とが溶着される。レーザーヘッドが、レーザー光Lを照射しつつ、カバー72の周縁部78に沿ってカバー72の上方を一巡し、当該一周するレーザー光照射によって、ハウジング71とカバー72とを開口部の全周に渡って溶着することができる。
【0007】
レーザー溶接を行う際には、溶着しようとする部分に荷重を掛けることが必要である。荷重の掛け方には従来、二つの方法がある。一つの方法はガラス板で押える方法である。ガラス板で押える方法によれば、図4に示すように、カバー72側をガラス板80で押えながら、ハウジング71がエアシリンダ等のアクチュエータ81によってガラス板80側に向かって加圧される。レーザー照射の際のハウジング71の位置決めは、ハウジング71を包むように形成された外形部83を備える治具82によって行われている。治具82には、コネクタ部79が十分な余裕を以ては入り込む孔部84が設けられている。アクチュエータ81の加圧力は治具82を介してハウジング71に伝達される。レーザー光源85から発射されたレーザー光線Lがガラス板80を通して溶着部となる開口部75の側壁端部74に照射される。この方法では、汚れに対するなどガラス板80の管理が必要であり、管理を怠ると溶着が上手くできずに溶着不良を多発する可能性がある。また、ガラス板80を通すことでレーザー光線Lのパワーの減衰が避けられず、タクトタイムへの影響が出る可能性がある。
【0008】
溶着予定部分に荷重を掛ける他の方法は、突起を設けて当該突起部分をクランプする方法である。この方法は、突起が樹脂製のハウジングの外周に形成されるという複雑な構造となるため、寸法制限によっては不利となる。突起構造であるため、工具などが引っ掛かり、溶着部へ大きなダメージを与える可能性がある。また、クランプするための高精度な治具が必要になる。
【0009】
溶着予定の部分に荷重を掛ける上記のいずれの方法の場合も、ハウジングをセットする治具については、センサや回路を収容するケース製品によって形状が異なるハウジングに合わせて製作する必要があり、一品一様で対応せざるを得ず、コスト低減を妨げる要因の一つになっている。また、溶着が施されたケース製品において、溶着部の密着性を検査する工程は別工程となっており、このことも、コスト低減を妨げる要因になっている。
【0010】
検査工程で用いられる装置の一例が図5に示されている。図5(a)は検査装置の概略を示す横断面図であり、図5(b)は装置の斜視図である。真空引き91に通じる吸引孔92が形成されている壁面90には、シリコンシート93がアルミプレート94によって密着する態様で取り付けられている。シリコンシート93には、吸引孔92に通じる孔95,95が形成されている。検査においては、収納ケースのコネクタ部79をシリコンシート93に押し当てて、真空引き91からの負圧をコネクタ部79を通じて収納部73に及ばせる。圧力センサ96によって負圧の値の変化を見ることによって、レーザー光溶着部の密封性を検査することができる。
【0011】
中空体を形成する熱可塑性剛性樹脂部材をレーザー光線によって溶接する装置であって、真空ポンプと結合し、且つ一側が開放した真空室を備えており、真空室が中空体と協働して真空可能な閉止室を形成した真空ホルダが提案されている(特許文献1参照)。この
真空ホルダは、照明装置を製造する際のように、反射体としての中空体の開口部に照明板をレーザー光線で溶接するときに用いられ、当該中空体を真空室に対して真空保持する装置である。具体的には、真空室に環状のパッキン板を載置し、このパッキン板に中空体を載せ、開口部に照明板を継ぎ合わせ、真空室を負圧に維持する。負圧はパッキン板の環状孔を通して中空体の内部に通じ、照明板を開口部に吸引保持する。この状態でレーザー光線を継目に沿って照射することで、照明板が中空体の開口部に溶接される。負圧を暫く維持することで、溶接継目が密に形成されたか否かを検査することができる。しかしながら、真空室の真空漏れを防止するためにパッキン板やOリングのようなシール部材が必要であり、しかも、これらのシール部材は、使用回数が増えるとともに劣化が避けられず、頻繁な交換を強いられるという問題がある。
【0012】
また、本出願人は、セラミック接着剤層を介してシリコンセンサチップのリム部をセラミック基板に接着し、或いはフィラー含有ゴム接着剤を用い樹脂基板又は金属基板に接着し、接着の際、マス部の下方にスペーサーを設け、接着後このスペーサーを除去することで、熱ヒステリシス特性を改善し歩留りを向上させることを図った半導体加速度センサ及びその製造方法を提案している(特許文献2参照)。
【0013】
更に、本出願人は、樹脂部材であるカバーに形成した覗き用の目視部を通して、レーザー光吸収性樹脂部材から成るハウジングとレーザー光透過性樹脂部材であるカバーとの接合面からレーザー光の照射によって流れ出た光吸収性樹脂部材の溶融樹脂がバリとして現れているのを目視にて確認することができるようにした、レーザー光を用いた樹脂部材の溶着方法及びそれを用いて得られたレーザー光溶着体を提案している(特願2008−83808)。この発明によれば、レーザー光によって接合面から溶融した樹脂が一部流れ出ているのをチェックすることによって、両樹脂の溶着部で樹脂が溶けて両樹脂部材を溶着しており、溶着の良否を目視にて簡単に確認することができる。
【特許文献1】特開2003−11228号公報
【特許文献2】特開平7−20146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ハウジングとカバーとを備え内部にセンサや電子回路を収容する樹脂製の収納ケースにおいては、内部のセンサや電子回路への接続のため、ハウジングにはコネクタ部が一体的に突出成形するなどして設けられていることがある。コネクタ部は、接続ピンの配列が規格化されているなどの理由から、殆ど同じ形状・構造に形成されている。そこで、こうしたコネクタ部を有するハウジングの構造上の特徴を利用して、ハウジングに対するカバーのレーザー溶着の際に、収納ケースの種類に関わらずハウジングを治具に保持可能にする点で解決すべき課題がある。また、レーザー光溶着に合わせて、溶着部の密着性を確認する検査を合わせて行うことで工程及び装置を簡素化する点で解決すべき課題がある。
【0015】
この発明の目的は、樹脂製の収納ケースに見られるように、ハウジングとカバーとのレーザー光溶着の際に、ハウジングに対して殆ど同じ形状・構造に形成されているコネクタ部を利用して、簡単な構造の治具によってハウジングを保持することができる収納ケースのレーザー光溶着方法及び装置を提供することである。また、レーザー光溶着工程に合わせて、レーザー光溶着部の密着性を確認する検査工程も合わせて行うことができる収納ケースのレーザー光溶着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するため、この発明による収納ケースのレーザー光溶着方法は、センサや電子回路が収容される収納部、当該収納部の一側に設けられた開口部、及び前記収納部から突出すると共に前記センサや電子回路に接続される接続端子を有するコネクタ部を備えたハウジングと、前記開口部を閉じるカバーとを備え、前記ハウジングと前記カバーとはそれぞれレーザー光吸収性樹脂部材とレーザー光透過性樹脂部材のうち互いに異なる樹脂部材から成る収納ケースについて、前記レーザー光透過性樹脂部材から成る前記カバー又は前記ハウジングを透過させたレーザー光を前記レーザー光吸収性樹脂部材から成る前記ハウジング又は前記カバーに照射し、前記レーザー光が照射されて溶融した前記レーザー光吸収性樹脂部材を前記レーザー光透過性樹脂部材に溶着させることにより前記カバーを前記ハウジングの前記開口部に溶着させる収納ケースのレーザー光溶着方法において、孔部が設けられた治具に、前記コネクタを当該孔部に挿入して前記ハウジングを位置決めし前記孔部を通じて吸引して前記ハウジングを吸引支持した状態で、前記カバーを前記ハウジングの前記開口部に対してレーザー光溶着することを特徴としている。
【0017】
また、この発明による収納ケースのレーザー光溶着装置は、センサや電子回路が収容される収納部、当該収納部の一側に設けられた開口部、及び前記収納部から突出すると共に前記センサや電子回路に接続される接続端子を有するコネクタ部を備えたハウジングと、前記開口部を閉じるカバーとを備え、前記ハウジングと前記カバーとはそれぞれレーザー光吸収性樹脂部材とレーザー光透過性樹脂部材のうち互いに異なる樹脂部材から成る収納ケースについて、前記収納ケースを載置する治具と、当該治具に載置された前記収納ケースの前記レーザー光透過性樹脂部材から成る前記カバー又は前記ハウジングを透過してレーザー光を前記レーザー光吸収性樹脂部材から成る前記ハウジング又は前記カバーに照射し、前記カバーを前記ハウジングの前記開口部に溶着させるために前記レーザー光吸収性樹脂部材を溶融させるレーザー光源とを備えており、前記治具は、前記収納ケースを支持する支持台と、前記支持台に前記コネクタ部を挿入可能に設けられており前記コネクタ部の挿入状態で前記支持台上での前記収納ケースの位置決めをする孔部とを備えており、前記孔部に接続されており、レーザー光溶着の際に前記コネクタ部を吸引して前記ハウジングを前記支持台上に吸引支持する吸引機構が設けられていることを特徴としている。
【0018】
このレーザー光溶着方法及び装置によれば、殆ど同じ形状・構造に形成されているコネクタ部を治具に備わる孔部に挿入することで、治具に対するハウジングの位置決めが行われる。その状態で孔部を通じてハウジングを吸引することで、ハウジングを支持台に吸引支持することができる。治具の孔部は、殆ど同じ形状・構造に形成されているコネクタ部が挿入可能なように一つの形態のものでよく、収納ケースの形状や大きさが異なっても共通して用いることができる。また支持台は収納ケースを載置するだけであるので、ケースの種類に応じて形状・大きさが異なるハウジングでも、区別なく支持することができる。また、その状態ではハウジングは治具に確実に保持されるので、治具に対して安定して保持されるハウジングの開口部に対して、カバーをレーザー光によって確実に溶着させることができる。
【0019】
また、この発明によるレーザー光溶着方法及び装置において、前記収納部と前記コネクタ部とは通気孔を通じて連通構成とされており、レーザー光溶着の際に、前記カバーを前記ハウジングの前記開口部に吸引保持することができる。即ち、ハウジングの収納部とコネクタ部とを通気孔を通じて連通構成とすることで、ハウジングを支持台に吸引保持するときには、その負圧が収納部にも及び、カバーをハウジングに対して吸引保持することができる。
【0020】
また、この発明によるレーザー光溶着方法及び装置において、前記レーザー光溶着の実施後において前記治具の前記孔部を通じて負圧低下の有無を検出することにより、前記レーザー光溶着部分の負圧漏れの検査を行うことができる。即ち、吸引機構に関連して吸引負圧を検出する圧力センサを備え、圧力センサの検出値をチェックすることでレーザー光溶着部分の負圧漏れの検査を行うことができる。ハウジングに対するカバーのレーザー光溶着に漏れがあれば、孔部を通じた吸引の後、不完全な溶着部を通じて外気が流入するので、負圧の低下が生じる。逆に、負圧の低下が無く所定の負圧が維持されれば、レーザー光溶着が密着して施されたことを確認することができる。
【0021】
このレーザー光溶着方法及び装置において、前記コネクタ部の先端部分に密着当接するとともに前記孔部に通じる吸引孔が形成されているラバー部材を設けることができる。即ち、孔部に設けられているラバー部材をコネクタ部の先端部分に密着当接させることで、ラバー部材に形成されている吸引孔を通じて吸引機構の負圧を孔部に及ぶようにすることができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明によるレーザー光溶着方法及び装置は、上記のように構成されているので、形状・大きさが異なるハウジングであっても、ハウジングに対するカバーのレーザー溶着の際に、治具に同様の形態でハウジングを吸引支持することができる。したがって、ハウジングを治具に安定して確実に吸引保持してレーザー光溶着を確実に行うことができるとともに、治具については、従来のハウジングを包むような形状とするときのように、ハウジング毎に製作する必要もなく、またハウジングの種類毎に支持台を用意しておく必要もなく、支持台の製造等についてその金型等を含めた関連コストを大幅に低減することができる。
【0023】
また、この発明によるレーザー光溶着方法及び装置において、ハウジングの収納部とコネクタ部とを通気孔を通じて連通構成とするときには、カバーをハウジングに対して吸引保持することができ、カバーのレーザー光溶着を確実に安定して行うことができる。この場合、更にレーザー光溶着の実施後における負圧をチェックするときには、レーザー光溶着部分の負圧漏れの検査をレーザー光溶着工程後にそのまま行うことができ、従来のように独立した検査工程を備える場合と比較して、全体の装置を簡素化するとともに、工程数を削減して、樹脂製の収納ケースの製造コストを更に低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付した図面に基づいて、この発明によるレーザー光溶着方法及び装置の実施例を説明する。図1は、この発明によるレーザー光溶着装置の一実施例を示す断面概略図であり、図2は図1に示すレーザー光溶着装置の下面図である。
【0025】
図1及び図2を参照すると、センサや電子回路(基板)を収容する収納ケースは、レーザー光吸収性の樹脂材料で形成されているハウジング1と、レーザー光透過性の樹脂材料で形成されているカバー2とをレーザー光溶着によって溶着して製造される。樹脂材料はPP(ポリプロピレン)、PC(ポリカーボネイト)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンポリマ)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等とし、カーボンブラック等の補助材料を添加することでレーザー光吸収性を備えることができる。
【0026】
図1に示すように、ハウジング1の開口部5をカバー2で覆う状態で、内部にセンサや電子回路を収容する収納部3が形成される。ハウジング1の開口部5とカバー2の周縁部6とは互いに嵌まり合う凹凸嵌合構造となっている。ハウジング1の開口部5とは反対側、即ち、収納部3の底部となる側には、ハウジング1と一体にされているコネクタ部7が外側に向かって突出成形されている。コネクタ部7は、ハウジング1から筒状に突出しており、筒状内部にはコネクタ用の端子(図示しない)が現れている。コネクタ用の端子については規格化がされているので、コネクタ部7は、規模が同等の収納ケースであれば、殆ど同じ形状・構造に形成されている。なお、凹凸嵌合構造とレーザー光の照射の向きとの組合せによって、ハウジング1をレーザー光透過性樹脂材料で形成し、カバー2をレーザー光吸収性の樹脂材料で形成することができる。
【0027】
レーザー光源10が、カバー2の周縁部6に沿って一巡するときに、レーザー光源10からカバー2を透過してハウジング1の開口部5の先端面4に向けてレーザー光Lが照射され、当該先端面4のレーザー光吸収性の樹脂が溶かされて、溶けた樹脂が冷却固化するときに、開口部5がカバー2の周縁部6の内面側に溶着される。ケースについてのその他の構造は、図3に示すものと同等であるので、再度の説明を省略する。
【0028】
レーザー光溶着を行う装置として、収納ケース(ハウジング1)を載置し、レーザー光源10と協働する治具20が設けられる。治具20には、収納ケースを支持する支持台21と、支持台21にコネクタ部7を挿入可能な孔部22とが設けられている。孔部22の孔形状は、コネクタ部7が規格化されていることに応じて、そうしたコネクタ部7が挿入可能なように一つの形態で済み、それゆえ収納ケースの形状や大きさが異なっても共通して用いることができる。孔部22の内側形状はコネクタ部7の外側形状に倣って形成されている。その結果、孔部22は、コネクタ部7が嵌め込まれた状態では、支持台21上でのハウジング1の位置決めをする機能を備えている。
【0029】
治具20の上面23は平坦に形成されており、コネクタ部7を孔部22に挿入させたハウジング1の平坦な底面と当接してハウジング1を支えている。また支持台21はハウジング1を載置するだけであるので、ケースの種類に応じて形状・大きさが異なるハウジング1でも、区別なく支持することができる。また、その状態ではハウジング1は治具20に確実に保持される状態となり、治具20に対して安定して保持されるハウジング1の開口部5に対して、カバー2をレーザー光Lによって確実に溶着させることができる。
【0030】
孔部22の外側(下側)は拡大孔部24に形成されており、拡大孔部24には、ラバー部材としてのシリコンラバー30が装着されている。シリコンラバー30は、拡大孔部24に嵌まり合う形状に形成されており、中央には、孔部22(孔部22に嵌め込まれたコネクタ部7の筒状内部)に連通する吸引孔31,31が形成されている。ハウジング1を孔部22に挿入した状態では、コネクタ部7の環状の先端部分8はシリコンラバー30の面に密着状態に当接することになる。
【0031】
治具20は、載置台40に載せられて使用される。使用時には、治具20の底面及びシリコンラバー30の底側面が載置台40の載置面41に当接した状態となる。載置台40には吸引通路42が形成されており、治具20が載置台40に載せられたときには、吸引通路42はシリコンラバー30の吸引孔31と連通する。吸引通路42にはポンプのような吸引機構50が接続されている。したがって、吸引機構50は、吸引通路42、吸引孔31を通じてコネクタ部7の内部を吸引することができる。また、ポンプの吸引側である吸引通路42及びそれに接続される通路には、吸引通路42内の圧力を検出するための圧力センサ(プレッシャゲージ)51と通路を閉鎖可能なバルブ52とが設けられている。圧力センサ51はバルブ52よりも吸引先(収納部3)側に設けられており、バルブ52を閉じた後で、収納部3側の負圧低下の有無をチェックすることができる。レーザー光溶着の際には、吸引機構50によって発生された負圧はコネクタ部7を吸引してハウジング1を支持台20上に吸引支持する。
【0032】
上記の構成によれば、コネクタ部7を治具20に設けられている孔部22に挿入することで、ハウジング1は治具に位置決めされ、更に吸引機構50によって孔部22を通じてコネクタ部1を吸引することで、ハウジング1は治具20に対して安定支持された状態となる。このとき、コネクタ部7とシリコンラバー30との間、及びシリコンラバー30と載置台40との間には、シリコンラバー30の弾性によって密着性が得られるので、吸引機構50による負圧は、吸引漏れが生じることなく、孔部22又は孔部22内に嵌め込まれているコネクタ部7に損失なく作用することができる。
【0033】
図1に示す実施例においては、ハウジング1において、収納部3とコネクタ部7とは通気孔9を通じて連通構成とされている。この連通構成によって、吸引機構50からの負圧吸引は、コネクタ部7の内部から通気孔9を通じて収納部3内に及び、カバー2の内面に作用する。この吸引作用によって、カバー2は、外気圧力との差圧によってハウジング1の開口部5に対して押さえ付けられた状態となる。このように、レーザー光溶着の際には、カバー2は吸引機構50からの負圧吸引の作用によってハウジング1の開口部5に対して安定した吸引保持状態となり、カバー2をハウジング1の開口部5に対してレーザー光Lによってより一層確実に溶着させることができる。
【0034】
本実施例においては、レーザー光溶着の実施後にバルブ52を閉じ治具20の孔部22を通じた負圧低下の有無を検出することにより、レーザー光溶着部分の空気漏れの検査を行うことができる。即ち、吸引機構50に関連して吸引通路42に吸引負圧を検出する圧力センサ51を備え、バルブ52封印後の圧力センサ51の検出値をチェックすることでレーザー光溶着部分の負圧漏れの検査を行うことができる。ハウジング1に対するカバー2のレーザー光溶着が不完全で負圧漏れがあれば、孔部22を通じた吸引の後、不完全な溶着部を通じて外気が収納部3に流入するので、負圧が低下する。逆に、カバー2のレーザー光溶着が完全であれば、負圧低下は生じず所定の負圧が維持されることになる。このように、レーザー光溶着とは別の検査装置を以て別工程において行っていた溶着部分の密着性(負圧漏れ)の検査を、レーザー光溶着の工程において同時に行うことができ、工程数の削減と装置の簡素化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明によるレーザー光溶着装置の一実施例を示す断面概略図である。
【図2】図1に示すレーザー光溶着装置の下面図である。
【図3】従来のレーザー光溶着の一例を示す断面図である。
【図4】従来のレーザー光溶着を示す図である。
【図5】従来の溶着部検査の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0036】
1 ハウジング 2 カバー
3 収納部 4 先端面
5 開口部 6 周縁部
7 コネクタ部 8 先端部分
9 通気孔 10 レーザー光源
20 治具 21 支持台
22 孔部 23 上面
24 拡大孔部
30 シリコンラバー 31 吸引孔
40 載置台 41 載置面
42 吸引通路
50 吸引機構 51 圧力センサ
52 バルブ
L レーザー光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサや電子回路が収容される収納部、当該収納部の一側に設けられた開口部、及び前記収納部から突出すると共に前記センサや電子回路に接続される接続端子を有するコネクタ部を備えたハウジングと、前記開口部を閉じるカバーとを備え、前記ハウジングと前記カバーとはそれぞれレーザー光吸収性樹脂部材とレーザー光透過性樹脂部材のうち互いに異なる樹脂部材から成る収納ケースについて、前記レーザー光透過性樹脂部材から成る前記カバー又は前記ハウジングを透過させたレーザー光を前記レーザー光吸収性樹脂部材から成る前記ハウジング又は前記カバーに照射し、前記レーザー光が照射されて溶融した前記レーザー光吸収性樹脂部材を前記レーザー光透過性樹脂部材に溶着させることにより前記カバーを前記ハウジングの前記開口部に溶着させる収納ケースのレーザー光溶着方法において、
孔部が設けられた治具に、前記コネクタを当該孔部に挿入して前記ハウジングを位置決めし前記孔部を通じて吸引して前記ハウジングを吸引支持した状態で、前記カバーを前記ハウジングの前記開口部に対してレーザー光溶着すること
を特徴とする収納ケースのレーザー光溶着方法。
【請求項2】
前記収納部と前記コネクタ部とは通気孔を通じて連通構成とされており、レーザー光溶着の際に、前記カバーを前記ハウジングの前記開口部に吸引保持することを特徴とする請求項1に記載の収納ケースのレーザー光溶着方法。
【請求項3】
前記レーザー光溶着の実施後において負圧低下の有無を検出することにより、前記レーザー光溶着部分の負圧漏れの検査を行うことを特徴とする請求項2に記載の収納ケースのレーザー光溶着方法。
【請求項4】
前記孔部に設けられているラバー部材が前記コネクタ部の先端部分に密着当接するとともに、前記ラバー部材に形成されている吸引孔を通じて前記孔部への吸引が及ぶことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の収納ケースのレーザー光溶着方法。
【請求項5】
センサや電子回路が収容される収納部、当該収納部の一側に設けられた開口部、及び前記収納部から突出すると共に前記センサや電子回路に接続される接続端子を有するコネクタ部を備えたハウジングと、前記開口部を閉じるカバーとを備え、前記ハウジングと前記カバーとはそれぞれレーザー光吸収性樹脂部材とレーザー光透過性樹脂部材のうち互いに異なる樹脂部材から成る収納ケースについて、
前記収納ケースを載置する治具と、当該治具に載置された前記収納ケースの前記レーザー光透過性樹脂部材から成る前記カバー又は前記ハウジングを透過してレーザー光を前記レーザー光吸収性樹脂部材から成る前記ハウジング又は前記カバーに照射し、前記カバーを前記ハウジングの前記開口部に溶着させるために前記レーザー光吸収性樹脂部材を溶融させるレーザー光源とを備えており、
前記治具は、前記収納ケースを支持する支持台と、前記支持台に前記コネクタ部を挿入可能に設けられており前記コネクタ部の挿入状態で前記支持台上での前記収納ケースの位置決めをする孔部とを備えており、
前記孔部に接続されており、レーザー光溶着の際に前記コネクタ部を吸引して前記ハウジングを前記支持台上に吸引支持する吸引機構が設けられていること
を特徴とする収納ケースのレーザー光溶着装置。
【請求項6】
前記収納部と前記コネクタ部とは通気孔を通じて連通構成とされており、前記レーザー光溶着の際に、前記吸引機構による負圧が前記通気孔を通じて前記収納部に及ぶことで前記カバーを前記ハウジングの前記開口部に吸引保持することを特徴とする請求項5に記載の収納ケースのレーザー光溶着装置。
【請求項7】
前記吸引機構による吸引後に、負圧低下の有無を圧力センサで検出することにより、前記レーザー光溶着の実施後における前記レーザー光溶着部分の負圧漏れの検査を行うことを特徴とする請求項6に記載の収納ケースのレーザー光溶着装置。
【請求項8】
前記孔部には、前記コネクタ部の先端部分に密着当接するとともに前記孔部に通じる吸引孔が形成されているラバー部材が設けられていることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の収納ケースのレーザー光溶着装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−5913(P2010−5913A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167595(P2008−167595)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】